HOME >

高等教育機関の聴覚障害学生支援

聴覚障害/ろう(聾) 障害学生支援(障害者と高等教育・大学)



○生存学HP内関連ファイル

■事項

聴覚障害・ろう(聾)

○目次

■概説
■関連する事項・人物・著作・組織
■報道・ニュース等
■文献



■概要

浦部・岩田(2011)によると、平成21年度(2009年度)現在、日本の高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生は1482名が在籍しており、その数は年々増えている。聴覚障害学生支援は、高等教育機関に入学する聴覚障害学生の増加とともに,徐々に発展してきた。聴覚障害学生の支援方法としてパソコンノートテイカーが講師の話を聞き、パソコンに入力して聴覚障害学生に見せる方法が一般的である。また、遠隔通信技術を活用したパソコンノートテイクや音声認識技術を活用した通訳システムなども開発されつつある(金澤ら,2010 etc)など、講義の場面における情報アクセスの支援は進んでいる。

◇音声認識を活用した情報保障
音声認識は、人間の音声を文字に自動変換する技術である。

三好(2008)によると、手書きノートテイクやパソコンノートテイクでは、それぞれ話者の音声情報の20%、40〜80%程度文字化されるが、音声認識では要約からほぼ全文までの文字化が可能である。
但し、音声を100%正確に認識しているわけではなく、誤認識が多少生じている。

そこで、筑波技術大学(三好ら,2007)や群馬大学(菊池ら,2004)では、音声認識の問題について以下のように取り組んでいる。

@復唱者が事前トレーニング(エンロール)と復唱のトレーニングの両方を行うことで認識の精度を向上させる

A数名の修正者をおいて復唱者の音声入力で生じた誤認識を修正する

訓練を受けた復唱者に同時復唱させることで、認識精度は90%程度文字化されたが、これに修正者4名が同時修正を行うことで、話者の音声情報発信から平均11秒後に、97.2%の精度で表示することができたという報告がある(黒木・井野・中野・加藤・渡邉・堀・伊福部,2003)。

以上から、松崎・藤島(2008)は、音声認識を活用した通訳には、復唱・修正の作業を組み合わせて行う必要があり、支援者は、音声認識技術の特徴と限界を理解し、この限界を補って精度を高めるために復唱・修正作業の技術を習得していくことが求められると述べている。

◇2011/08/04 聴覚障がい学生の講義への参加感を高めるノートテイク支援システムを開発
早稲田大学人間科学学術院が大日本印刷(株)と共同で
[外部リンク]http://www.waseda.jp/jp/news11/110804_ant.html
(上のサイトより引用)
早稲田大学人間科学学術院(学術院長:谷川章雄)は大日本印刷株式会社と共同で、聴覚障がいがある学生を対象とした新しい情報保障のための支援技術(アシスティブ・テクノロジー)を開発しました。この支援技術には、スウェーデンで開発されたアノトペンと呼ばれるデジタルペン技術と、大日本印刷株式会社が開発したプレゼンテーションシステム(OpenSTAGER)が使われています。
 既存の技術をうまく組合せることで、聴覚に障がいがある学生が大学の講義やゼミにおいて情報保障を受ける際の不便を解消し、より積極的に講義やゼミに参加できるようになります。
 なお、本システムは8月6日(土)、7日(日)のオープンキャンパス に合わせ、早稲田キャンパス14号館 407教室で開催される支援技術体験コーナで実物展示いたします。さらに大阪市中央公会堂で開催される第26回リハビリテーション工学カンファレンス のインタラクティブセッション(8月24日(水)12:30-14:30)でも展示発表の予定です。
※ OpenSTAGEは、大日本印刷株式会社の登録商標です。
概要
1. 開発の背景
 現在、早稲田大学には聴覚に障がいがある学生が13名在籍しています(2011年7月末時点)。早稲田大学障がい学生支援室が中心となって聴覚障がい学生に代わってノートをとる支援学生(ノートテイカー)を養成し、1名の学生に対して2名のノートテイカーを派遣して、講義やゼミでの情報保障を行っています。
 一般的に、聴覚に障がいがある学生は講義室の一番前の座席に座り、その両側にノートテイカーを配置します。聴覚障がいがある学生はノートに書きとられた内容に目をやり講義を受けますが、視線が机上のノートに釘付けになり、講師の表情やしぐさ、黒板に板書された内容に目が行きにくい状況におかれます。また、支援者の腕でノートに書かれた情報が隠されてしまうなどの問題がありました。
 支援技術開発のきっかけは、昨年4月に早稲田大学人間科学部健康福祉科学科の畠山ゼミに一人の聴覚に障がいがある学生が入ったことです。学生とともに改善すべき点を整理し、早稲田大学障がい学生支援室 、大日本印刷(株)と連携をとりながら、後述する支援技術開発に漕ぎ着けました。

図1 従来のノートテイク
図2 今回開発したノートテイク支援システム

2. 今回開発したノートテイク支援システム
 ノートテイカーがデジタルペンで書き込んだ筆跡データが無線で聴覚障がいがある学生の見やすい位置にセットしたノートブックパソコンやiPadなどの携帯端末に送られ、それにより情報保障を受けられるというものです。これにより、講師が提示するスライド、板書、さらに身振りや表情などに目が行きやすくなり、講義やゼミに積極的に参加できる環境が生まれます。複数本のデジタルペンでの同時書きができるため、一人のノートテイカーが講師の話を中心にノートし、もう一人のノートテイカーが補足説明や図を書き込むことが可能です。
 本システムを本年春学期からの授業で試験運用してきました。障がい学生当事者、支援者、早稲田大学障がい学生支援室 、そして開発担当者が一体となって改良や工夫を行い、ほぼ実用レベルに漕ぎ着けることができました。今後も、さらなる改良を重ね、広く実用に供することを目指します。

3. アノト方式デジタルペンについて
アノト方式デジタルペンの仕組み
 細かいドットパターンが印刷された用紙にアノトペンと呼ばれるデジタルペンを用いて書き込みます。デジタルペンの先端に内蔵されたCCDカメラがドットパターンを読み取り、ペン先が動いた奇跡を筆跡データとしてBluetooth無線技術によりパソコンに送り込み、筆跡が画面表示されます。

4. 開発におけるポイント
(1)既存技術を組合せることで開発コストを抑え、短期間で実用化につなげる
(2)システム開発当初からユーザを巻き込み(ユーザ・インボルブド)、ニーズとシーズの乖離を避ける
(3)ノートテイカーの従来からの作業内容を大幅に変更せず、支援者の精神的な負担を減らす
(4)複数のノートテイカーが共同しながら情報支援をすることが出来るようにし、ノートテイカーの1人当たりの負担を軽減できる
(5)デジタルペンの読み取り性能が高く、ノートテイクのような比較的早い手書きにも十分に追従できる

5. ノートテイクに関する関連情報
 聴覚障がい学生の情報支援の方法として、手書きによるノートテイクとパソコンを用いたノートテイクがあります。手書きにくらべてパソコンによるノートテイクは情報量が圧倒的に多いことから、パソコンノートテイクが増加傾向にあります、しかし、数式や図、文字に表情をつけるなど手書きならではの表現を大切にしたいという障がい当事者が少なくありません。将来的には、手書きとパソコンによるノートテイクをミックスした形も含めて検討しています。


■関連する事項・人物・著作・組織



■報道・ニュース等
◇2011/10/15 被災聴覚障害児・学生の状況に関する講演会
[外部リンク]http://www.jfd.or.jp/tohoku-eq2011/kantou-saposen
(上のHPより引用)
関東聴覚障害学生サポートセンターが被災聴覚障害学生への支援事業開始

 関東聴覚障害学生サポートセンターが、岩手、宮城、福島の各県の小中高に通う難聴児、および大学に通う聴覚障害学生、またその支援者を対象とした活動を開始することになりました。
この活動は、
o被災したことで情報保障を十分に受けられなくなった聴覚障害学生や地域の教育機関に通う難聴児への情報保障支援、情報保障コーディネート、遠隔地通訳の提供
o被災地の聴覚障害学生や支援者の心の支援のためのグループワークの実施
o必要に応じて、学生を対象にした心のケアの専門家の派遣
o聴覚障害学生の被災状況についての実態把握
o長期的支援のための情報保障のニーズのアセスメントと緊急マニュアル作り等を内容とし、日本財団ROADプロジェクト「東北地方太平洋沖地震災害にかかる支援活動助成」により実施します。

なお、準備として支援者の研修会が下記の通り開催されます。

「被災聴覚障害児・学生の状況に関する講演会」

日時:平成23年10月15日(土)9時〜16時
日程:午前9時半〜12時:「サイコロジカルファーストエイド」
      甲斐更紗氏 立命館大学衣笠総合研究機構
   午後13時半〜16時:「被災地の聴覚障害児・学生の情報保障の現状について」
      松崎丈氏 宮城教育大学准教授
会場:日本財団会議室
対象者:被災地での情報保障活動や学生支援に興味を持っている方
参加費:無料

当日の情報保障:手話通訳、パソコン筆記通訳

問い合わせ先:関東聴覚障害学生サポートセンターHPからお問い合わせください
(http://kantou-saposen.main.jp/)
    
協力:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEP-Net Japan)

この事業は日本財団ROAD PROJECTの助成を受けて実施します


■文献
◇金澤 貴之 ・ 三好 茂樹 ・ 中野 聡子 201003 「遠隔通信技術を活用した聴覚障害学生支援システムの実運用に向けた課題」,『群馬大学教育実践研究』(27), 237-244
[外部リンク]群馬大学学術情報リポジトリで全文閲覧可.PDFファイル)
◇菊池 真里 ・ 金澤 貴之 ・ 中野 聡子 ・ 黒木 速人 ・ 井野 秀一 ・ 伊福部 達 ・ 堀 耕太郎 2004 「聴覚障害学生の情報保障手段としての音声認識システムの活用ー聴覚障害学生のニーズに即したシステムの構築ー」,『日本特別ニーズ教育学会第10回記念研究大会発表要旨集』,41−41
◇黒木 速人 ・ 井野 秀一 ・ 中野 聡子 ・ 加藤 士雄 ・ 渡邉 括行 ・ 堀 耕太郎 ・ 伊福部 達 2003 「聴覚障害者の国際会議参加支援のための遠隔型音声字幕化システムー札幌‐横浜間におけるシステム運用とその評価ー」,『ヒューマンイターフェースシンポジウム2003論文集』,729−732
◇松崎 丈 ・ 藤島 省太 2008 「聴覚障害学生支援における音声認識を活用した通訳システムの構築 : 利用者の観点に基づいた字幕呈示の検討」,『宮城教育大学紀要』43,191−203
[外部リンク]CiNiiで全文閲覧可.PDFファイル)
◇三好 茂樹 ・ 黒木 速人 ・ 河野 純太 ・ 白澤 麻弓 ・ 石原 保志 ・ 小林 正幸 2007 「音声認識技術を利用した字幕作成担当者のための支援技術とそのシステム開発」,『筑波技術大学テクノレポート』,14,145-152
◇三好 茂樹 2008 「PEPNet-Japan Tipsheet 音声認識技術を用いた情報保障」,『日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク』
◇浦部 奈津美・岩田 吉生 201102 「日本の高等教育機関における聴覚障害学生の受け入れ状況の現状と課題」,『障害者教育・福祉学研究(愛知教育大学障害児教育講座)』7,17−24
[外部リンク]CiNiiで全文閲覧可.PDFファイル)


REV:20110927,1116,20120201(甲斐 更紗)
聴覚障害・ろう(聾)  ◇情報・コミュニケーション/と障害者
TOP HOME (http://www.arsvi.com)