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遺伝子研究会 編『遺伝子検査と生命保険――遺伝子研究会報告書』




■遺伝子研究会 編 19960625
 『遺伝子検査と生命保険――遺伝子研究会報告書』
 遺伝子研究会,83p.

渡辺 桂子 19960625 「遺伝子検査とは」
 遺伝子研究会編[1996:01-24]
村田 哲雄 19960625 「遺伝子検査の対象疾患」
 遺伝子研究会編[1996:25-30]
高松 俊彰 19960625 「現行検査と遺伝子検査との差異」
 遺伝子研究会編[1996:31-36]
堀 三郎 19960625 「遺伝子検査の有用性・費用効率」
 遺伝子研究会編[1996:37-47]
佐野 智英・辻 泰二 19960625 「社会的側面から見た危険選択手段としての遺伝子検査」
 遺伝子研究会編[1996:48-53]
黒岩 明彦 19960625 「米国における,遺伝子検査,遺伝子治療に対する国民の反応と保険会社の対応」
 遺伝子研究会編[1996:61-77]
牧野 弘志 19960625 「ヨーロッパ諸国における保険と遺伝子検査との関わり合い」
 遺伝子研究会編[1996:78-83]

◆小林三世治「はじめに」

「本報告書でわれわれが主張したいことは次の点である。
 遺伝子検査が将来どのように進展していくのか速断できない現在,遺伝子検査に
関しても,商法や判例で示されている生命保険の危険選択の基本に則り,生命保険
契約の締結にあたっては,「危険選択上告知すべき事項について,保険申込者が知
っているならば,保険会社も知る権利がある。また,日常診療で通常行なわれる検
査になったならば,保険審査においても,危険測定の資料を得る目的として,保険
会社はその検査を採用することができる」という立場を保険会社は保持すべきであ
ろう。
 いずれにしても,疾病の早期発見と予防・治療の改善が期待される,遺伝子検査
を含む遺伝子医学の進歩は,長い目でみれば,人類の健康・福祉に貢献し,ひいて
は生命保険事業の健全な発展に寄与するものと思われる。」(「はじめに」)

 ※生命保険と遺伝子検査はそんなに仲がよいのか?

◆佐野 智英・辻 泰二 19960625
 「社会的側面から見た危険選択手段としての遺伝子検査」
 遺伝子研究会編[1996:48-53]

「ヒトゲノムの全解析も済んでおらず,遺伝子検査の結果の解析も完璧ではない。
遺伝子検査はその検査法自体,最先端の技術であり,どこの医療機関でもできるも
のではない。その様な検査を,今すぐ生命保険業界が危険選択手段として採用する
ことはない。しかし、診断精度が上がり,費用効果の面でも改善され,一般的検査
法の一つとして遺伝子検査が数えられる様になり,この検査結果から逆選択が多発
したり,逆に今まで加入謝絶となっていた例が無条件加入が認められるなど,死亡
率推定に大きな影響を及ぼすことが判明するならば,その時点で生命保険業界は遺
伝子検査を危険選択手段として採用することになるであろう。」(p.49)

「生命保険に加入しようとする保険申込者が信頼のおける検査によってある結果を
得た場合,その結果によって保険申込者本人の死亡率が健康人に比し極めて高いと
推定されるのに,その情報を保険申込時に隠蔽したとしたら,生命保険の公平性の
大原則が脅かされることになる。生命保険業界はこれを未然に防がねばならない。」
(p.51)

◆黒岩 明彦 19960625
 「米国における,遺伝子検査,遺伝子治療に対する国民の反応と保険会社の対応」
 遺伝子研究会編[1996:61-77]

1.目的

2.方法

3.遺伝子検査,治療の歴史と現状
 1)ヒト・ゲノム解析計画の歴史と現状
 2)遺伝子検査の現状と問題点

4.マスメディア,一般国民の反応
 1)世論調査
 2)マスメディアの対応
  (1)否定的立場
   a.遺伝子検査の神話
    a)単一遺伝子疾患モデルの落とし穴
    b)果たして遺伝子検査は本当に有用なのか
   b.遺伝的決定論の神話
   c.遺伝的差別
   d.「保険上の公正さ」についての疑惑
   e.優生学的民主主義
  (2)肯定的立場
「このように,遺伝子検査,遺伝子治療に対する激しい批判がある一方,有力メデ
ィアは最新の検査,治療について,決して批判的でない調子で,冷静,客観的かつ
正確,詳細な医学的情報を報じている。」(p.64)

5.医学界の反応
 1)American Society of Human Genetics(ASHG)による,保険会社に対する批判
   活動
 2)他の医学専門誌における否定的立場
 3)中立的立場
「しかし,医学専門誌全般を見渡すと,こうした否定的意見はごく少ない。積極的
に容認する論調はないが,医学界がHuman Genome Projectを推進する側あるいは恩
恵を受ける立場であり,遺伝子検査,遺伝子治療については中立ないし肯定的な立
場にあると考えて良いと思われる。」
 4)結論

6.生命保険業界の対応
 1)米国における,遺伝子検査と保険に関する生命保険会社のおもな動き
 2)生命保険会社の立場
  (1)保険契約者間の公平,逆選択の回避のために医学的危険選択手段としての
  遺伝子検査は必要であること。
   a.保険契約者間の公平
   b.逆選択の防止
  (2)遺伝子情報を用いた危険選択は不公平ではない
  (3)遺伝子情報は罹患の確実性を示すものではない
  (4)遺伝子検査はもはや特別な検査ではなく,既に現在用いられている医学的
    検査である
  (5)遺伝子情報は特別の情報ではない
  (6)保険会社は保険申込者を差別する目的を持っていない
  (7)健康保険と生命保険とは別個の問題として考えるべきである
  (8)結論
「以上から,遺伝子情報は他の医学的情報と同様に危険評価の対象であり,また,
今日ほとんどの疾病が遺伝子レベルの異常という意味での遺伝的要素を持っている。
そして,危険選択は民間保険にとって本質的なものであるから,遺伝子情報を含め
た危険選択の禁止は民間保険の本質を揺るがすものであり,保険会社としては受け
入れることは出来ない。」(p.71)

 3)米国保険業界・保険医学会によるAmerican Society of Human Geneticsへ
   の対応

7.州政府の法規制
 1)規制法案
 2)成立している州法

8.私見
 1)米国の現状
 2)遺伝子検査は差別か否か
  (1)賛否両論の対立点
 
「生命保険加入に当っての,遺伝子情報を用いることの是非について,米国では反
対の立場と賛成の立場の議論は必ずしもかみ合っていない。生命保険側は遺伝子情
報を含めて危険評価することが公平であると主張し,反対派は民間保険の構造を考
慮に入れず,単に,「発症が卓嗣つとはいえないにも関わらず遺伝子情報を用いる
こと」自体が差別であ(p.73)るという。
 しかし,議論の本質的な対立点としては,そもそも公平とは何をもって公平とす
るか,差別とは何をもって差別とするかが問題なのであり,両者の主張はここまで
さかのぼった議論はされていない。すなわち,一方は危険評価することが公平なの
だとし(危険に応じた負担をすることが公平であることを当然の前提とする「相対
的平等」の立場),他方は遺伝子情報を用いること自体が差別そのものであるとす
る(違った取り扱いをすること自体を差別とする「絶対的平等」の立場)。
 こうした「相対的平等」の考えと「絶対的平等」の考えは相容れないものである
が,現実には,実質に応じた取り扱いをすることこそが公平であるとする「相対的
平等」の立場が妥当である。「遺伝子検査をすること自体が不公平である」とする
「絶対的平等」の考えは,現実に存在する差異を無視するという意味で逆に不公平
であり,硬直的にすぎるであろう。」(p.74)
  (2)「相対的平等」の立場での問題点
  (3)危険評価と企業秘密
 3)日米の保険制度上の差異
 4)結論
「日本において,生命保険加入における遺伝子検査はいまだ現実の問題とはなり得
ない状況にある。仮に遺伝子検査の是非が現実の問題になったとすれば,それは遺
伝子検査・遺伝子治療が一般国民の身近になった時であろう。しかし,一般国民に
とり身近になったときには,遺伝子検査・遺伝子治療はもはや特別の検査,治療な
どではなく,普通に用いられる医療技術にすぎず,「遺伝的差別「優生学」などの
批判の対象の範疇に入るものではないと思われる。」(pp.73-75)

 ※4)はおかしい。


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