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遺伝子検査|Genetic Testing


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last update:20160726

*日本経済研究奨励財団の研究助成金を得て、1999年までこのファイルは作成されました。記して感謝します。

https://en.wikipedia.org/wiki/Genetic_testing

■目次

生存学関係者の成果  ◇論文等  ◇関連項目  ◇最近のニュース  ◇シンポジウム  ◇ニュース・スクラップ  ◇リンク


■生存学関係者の成果

松原 洋子 2005/04/01 「かがく対話」『京都新聞』朝刊

◆「生命の科学・技術と社会:覚え書き」「未知による連帯の限界――遺伝子検査と保険」を収録した立岩『弱くある自由へ』刊行。 ホームページから注文できます。 文献表
立岩 真也 20001023 『弱くある自由へ』,青土社 357+25p.  ISBN-10: 4791758528 ISBN-13: 978-4791758524 2800円+税  [amazon][kinokuniya]
『弱くある自由へ』
 この中のいくつかをコピーしたもの(A3×約300枚)を実費(送料込み)=5000円でお送りします。 御注文はTAE01303@nifty.ne.jp立岩まで。 上記『弱くある自由へ』といっしょですと、送料込み7400円になります。(他にもお送りできる本があります。)

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■論文等

◆山野 嘉朗(愛知学院大学法学部教授) 2000/12/05 「保険と危険選択と遺伝情報――保険理論・法政策」『賠償科学』25:22-38(日本賠償科学会)
武藤 香織 2000/11/15 「論壇:遺伝性難病の療養不安解消を」『朝日新聞』
◆武藤 香織 2000 「逆選択の防止と「知らないでいる権利」の確保――イギリスでのハンチントン病遺伝子検査結果の商業利用を手がかりに」 『バイオエシックス・ニューズレター』
◆中島 孝子(流通科学大学サービス産業学部講師)「遺伝子検査と保険」『ひょうご経済』70
 http://www.heri.or.jp/hyokei/hyokei70/70idensi.htm

蔵田 伸雄 1998 遺伝情報のプライバシーに関する文献のリストとコメント
◆立岩 真也 1998/09/01 「未知による連帯の限界――遺伝子検査と保険」『現代思想』26-9(1998-9)(特集:遺伝子操作)
1 保険会社が遺伝子情報を求めることの是非
1 かまわないではないかという主張/2 そんなことはない
2 しかし逆選択がおこりうる
1 保険金が入ることがわかってしまう/2 検査する前に加入してもらう
3 未知ゆえの連帯の限界
 →『弱くある自由へ』に収録
 ◇このときに作ったメモ

立岩 真也 199709 『私的所有論』からの抜粋
◆Reilly, Philip R. et al. 1997  「遺伝研究における倫理的問題:情報開示とインフォームドコンセント」からの抜粋

◆蔵田 伸雄 1996 「遺伝情報のプライバシー――特に遺伝的雇用差別の問題について」 日本生命倫理学会『生命倫理』6-1(7)pp.35-39.
◆遺伝子研究会 編 19960625 『遺伝子検査と生命保険――遺伝子研究会報告書』遺伝子研究会,83p.
アメリカ臨床腫瘍学会1996

◆Biesecker et al. 1993  「乳がん・子宮がんの易罹患性をもつ家族への遺伝カウンセリング」からの抜粋

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■関連項目

遺伝子 ◇遺伝相談 ◇遺伝子治療 ◇差別  ◇ハンチントン病 ◇フェニルケトン尿症

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■最近のニュース

◆2016/07/25 「解説:遺伝子検査ビジネス、科学的根拠ない判定も… 厚労省が根拠明確化要請へ」『読売新聞』
 厚生労働省は今年度にも、病気のかかりやすさや太りやすさなどを判定する遺伝子検査ビジネスのルール作りを始めることを決めた。
 科学的な根拠の明確化や、判定結果のとらえ方を専門家に相談できる体制作りなどを業者に求める。政府の有識者会議が22日にまとめた報告書案に盛り込まれた。
 同ビジネスは、病気予防や健康作りに生かせると期待される。その一方、判定が科学的根拠に基づいていない業者もある。
 厚労省は、判定方法や結果の伝え方を実態調査した上で、科学的根拠に基づく検査の仕方や、利用者がカウンセラーに検査結果の受け止め方を相談できるルールを定める。
 業界団体は一定の基準を満たした業者を認定しているが、厚労省は悪質な業者を減らす対策も進める。
 遺伝情報が業者間で使い回され、就職活動や保険契約、結婚などで差別や不当な扱いを受ける恐れもある。 このため厚労省は、遺伝情報が社会に広がることについての国民の意識を調べ、必要に応じて差別などを禁じる方策も検討する。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160725-OYTET50009/

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■シンポジウム

2000/10/28 平成12年度日本保険学会大会・総会
1999/12/04 法政大学・生命政治論第5回公開シンポジウム「遺伝子診断のいま、そしてこれから〜問われる生命の質〜」

 
◆平成12年度日本保険学会大会・総会プログラム
シンポジウム「遺伝子診断と保険事業」

●日 時 2000年10月28日(土)13:40−16:50
●会 場 駒沢大学駒沢キャンパス
     地下鉄新玉川線「駒沢大学」徒歩10分
●参加費 資料代(1000円)程度
●シンポジウム 総合司会 小林 三世治(第一生命保険相互会社)
13:40-13:45 司会の言葉
13:45-14:05 「遺伝子診断とは」武部 啓(近畿大学)
14:05-14:25 「民間生命保険の仕組み」村田 富生(三井生命保険相互会社)
14:25-14:45 「生命保険の危険選択」佐々木 光信(千代田生命保険相互会社)
14:45-15:15 「遺伝子診断と保険業の法的交錯」岡田 豊基(神戸学院大学)
15:15-15:35 「遺伝的多様性をどう理解するか」武部 啓(近畿大学)
15:35-15:45 休憩
15:45-16:45 質疑応答
16:45-16:50 まとめ 小林 三世治(第一生命保険相互会社)

●学会事務局
財団法人損害保険事業総合研究所内
tel:03-3255-5512
fax:03-3255-1449

◇9/2日経BP「日本保険学会、10月28、29日の総会でシンポジウム「遺伝子診断と保険事業」を開催。

 日本保険学会は、10月28日、29日に大会・総会を開催する。 総会第1日目のシンポジウムには、「遺伝子診断と保険事業」を予定しており、生命保険会社が遺伝子診断をどう考えているかなどの話が展開されそうだ。
 シンポジウム「遺伝子診断と保険事業」は、10月28日の13:40〜16:50に開催される。 「遺伝子診断とは」、「民間生命保険の仕組み」、「生命保険の危険選択」、「遺伝子診断と保険業の法的交錯」、 「遺伝子多様性をどう理解するか」などの発表が予定されている。
 日本保険学会大会・総会は、駒澤大学駒澤キャンパスで開催される。 日本保険学会の連絡先は、千代田区神田淡路町2-9(損保会館)損害保険事業総合研究所内、TEL03-3255-5512、FAX03-3255-1449。


 
 研究会のお知らせです。

法政大学・生命政治論第5回公開シンポジウム「遺伝子診断のいま、そしてこれから〜問われる生命の質〜」

 近年遺伝子研究とそれを応用した医療技術の発展は目覚しく、様々な恩恵と問題を私たちに投げかけています。 その中で、私たちに最も身近な関わりを持つことといえば遺伝子診断でしょう。 いま遺伝子診断はどこまで進んでいるのか、今後どのような診断が可能となるのか、利用者は何を考えなければならないのか、法・政策・制度の面では何が求められているのか。 私たちはこれらの問題を専門家や一般の市民の方々と共に考えていきたいと思い、このシンポジウムを企画しました。みなさんのご参加をお待ちしております。

■日時:1999年12月4日(土曜日)13:00〜17:00
■会場:法政大学富士見校舎 867番教室
■講師
1. 遺伝子診断の現状・将来性と問題点
     奈良 信雄 氏(東京医科歯科大学医学部教授)
2. 遺伝カウンセリングの現状と課題
     玉井 真理子 氏(信州大学医療技術短期大学部助教授)
3. 遺伝子技術をめぐる生命倫理と法
     保木本 一郎 氏(国学院大学法学部教授)

* 入場料:学生無料 / 一般500円(資料代等含む)
* 共催:法政大学法学部・生命政治論ゼミ / 法政大学学生部
* 企画責任者:菊地美里(法政大学法学部政治学科3年)
TEL/FAX:047-445-2761
* 顧問:成澤光(法政大学法学部教授)
TEL:03-5228-0575(研究室) FAX:03-5228-0555(大学院事務室)
E‐mail:narusawa@i.hosei.ac.jp

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■ニュース・スクラップ

*以下、「引用」の仕方に問題があるのかもしれません。ただ、報道のされ方も記録されておいてよいと思いますので、さしあたってこういうふうにいたします。

◆2002/11/13 「生命倫理と科学のあり方考えるシンポジウム 日本未来学会」NHKニュース
◆2002/10/03 「遺伝情報めぐり検討会議の設置提言 人類遺伝学会など」朝日新聞・他
◆2002/09/**  石原全「生命保険契約と遺伝子検査」『法学セミナー』573
◆2002/08/26 「生保の遺伝情報利用歯止め 学会が要請」読売新聞
◆2002/06/21 「リスク判断の材料に(焦点!どうする遺伝情報と保険)」『朝日新聞』:13
◆2002/05/09 「無断遺伝子検査で28億円 米鉄道会社が労働者側に支払い」共同通信
◆2002/04/30 「遺伝情報と保険」NHK「あすを読む」
◆2002/04/23 「遺伝差別問題に取り組みへ=簡保などで加入拒否−日本医師会」時事通信・他
◆2002/04/19 「簡易保険への加入容認を要請へ 加入拒否問題で厚労相」朝日新聞
◆2002/04/18 「<保険拒否>先天性の病気持つ子供に郵便局が」毎日新聞
◆2002/04/09 「先天性疾患理由に保険加入拒否 旭川医科大教授らが調査」共同通信

◆2001/08/25 「羅針盤はヒトの手に 会社が勝手に遺伝子を検査した……革新が生む摩擦。どう創る新しい世界」『日本経済新聞』
◆2001/10/05 「先天性疾患理由に新生児の保険加入や解約で「差別」『読売新聞』
◆2001/11/02 「遺伝子診断、新たな差別に」([新・神への挑戦]第5部・倫理を考える/4)『毎日新聞』

◆2000/10/13 英国 遺伝子情報を保険会社が判断基準に使用を認可の決定
◆2000/07/  遺伝病理由に保険支払い拒否され提訴
◆2000/04/30 NHKスペシャル「世紀を越えて」『遺伝子診断新しい予知医療の光と影』
◆2000/02/08 クリントン大統領 遺伝子を理由に保険加入を断られるのを防ぐ法律の制定も急ぐよう求める。
 →遺伝子

 

2003

◆2003/10/15 「遺伝子差別の禁止法案可決、米上院 就職などで国民保護」『朝日新聞』
 米上院は14日、健康保険への加入や就職・解雇の際、保険会社や雇用主が個人の遺伝情報を判断材料として使うことを禁止する法案を95対0(棄権5)で可決した。 連邦レベルの規制がない現状では遺伝子の違いで差別するケースがあり、それを恐れるあまり必要な検査を受けない人も少なくない。 法案が成立すれば、病気の早期治療や遺伝子研究の進展につながると期待されている。
 法案は、保険会社に対し、加入希望者の遺伝情報を事前に調べることを禁じた。 遺伝情報をもとに加入を拒否することはもちろん、保険料割引などで加入者を「区別」することも認められない。
 一般企業については、社員や家族の遺伝情報を調べることを原則として禁止した。採用や解雇のほか、配置や異動の際に遺伝情報を参考にすることもできない。
 ホワイトハウスは「遺伝情報の不当な利用から守られていると、国民に安心してもらう必要がある。 差別があると病気の予防法や治療法の開発に役立つ遺伝子研究が遅れる」と法案を支持する声明を発表。下院でも可決されれば、立法化される可能性が強い。
 米国では州レベルで遺伝情報の利用規制はあるが、ある調査では、病気の遺伝子がある人の1割超が採用時に遺伝情報を問われたり、 遺伝情報によって解雇されたりした経験があったという。
 一方、保険会社の業界団体などは「すでに消費者を保護する法規制は存在する」として法案に反対している。

◆2003/10/15 「遺伝子差別禁止の法案可決 診断技術進歩受け米上院」『共同通信』
 【ワシントン14日共同】米上院は十四日、遺伝子診断などから得た情報を基に、就職や保険加入の際に差別することを禁じる法案を全会一致で可決した。
 遺伝子診断技術の進歩で、個人が病気にかかりやすいかどうかなどが分かるようになり、差別を受ける危険性が高まったことを受けた措置。
 法案発効には下院での可決が必要だが、ブッシュ大統領も採決を歓迎する姿勢を示しており、今後、個人の遺伝情報利用規制の動きが強まりそうだ。
 法案は、病気などに関連する遺伝情報を、法的に守られた個人情報として扱うことを明示。企業が従業員やその家族の遺伝情報を集めたり、 得た情報を採用や解雇、配置転換などの際に利用したりすることを禁止した。
 保険会社にも、遺伝子情報に基づく特別扱いや、加入の拒否、保険金の増額などを行うことを禁じた。
 米国では、がんや糖尿病などの遺伝子診断が広がる一方で、診断結果がさまざまな差別を招いていることが指摘されている。

 

◆2003/08/12 「遺伝子検査業に国が規制、個人情報の流出防止へ」『読売新聞』
 究極のプライバシーとされる個人の遺伝子情報が、「遺伝子検査ビジネス」を通じて流出したり、本人の意に反して利用されるのを防ぐため、 国がこうしたビジネスの規制に初めて乗り出すことになった。
 経済産業省は、産業構造審議会に小委員会を設け、今秋から本格的な検討に入る。  5月に個人情報保護法が施行されたが、関連政令などは2005年の全面施行までに検討するとされた。
 経産省の規制方針も、この検討作業の一環。 小委員会は生命倫理の専門家や法律家がメンバーで、規制は新たな法律によるのか、指針になるのか、また、事業を行う際の許可・登録制や罰則規定の必要性などを幅広く議論する。 厚生労働省、医学研究の文部科学省とも情報交換を進める。
 個人情報保護法では、個人情報を取り扱う事業者(企業など)に守秘義務を課し、罰則規定も設け、遺伝子情報も含む「情報保護」の大枠はできた。 ただ、法律の対象は5000件以上の情報を持つ事業者に限る見込み。 検査業者にも大小さまざまな規模があり、法規制を受けずに、遺伝子情報の保護が不十分な業者によるトラブルも懸念されている。

 

2002


◆2002/11/13 「生命倫理と科学のあり方考えるシンポジウム 日本未来学会」NHKニュース
 ヒトの遺伝情報の解読や受精卵を使った研究などが急速に進むなかで、生命倫理と科学のあり方について考えるシンポジウムが、きょう東京で開かれました。 このシンポジウムは、国連大学の高等研究所と未来の人間社会と科学のあり方を考えるために研究者らでつくっている日本未来学会が開きました。 東京・青山の会場には大学や民間の研究者が集まり、東京大学の木村廣道(きむら・ひろみち)教授が難病の患者の遺伝情報が新薬の開発に利用され、 患者と企業の間に情報の権利を巡るトラブルが起きているといった問題を指摘しました。
 また、遺伝子の診断によって将来、病気になる確率がわかるようになり、保険に加入する際に差別が起きる恐れがあるという問題や、 リスクの高い臨床試験が途上国に集中するようになっているという問題などが報告されました。 日本未来学会では今後もシンポジウムを開催し、提言などを行っていきたいとしています。

 

◆2002/10/03 「<生命保険>先天性疾患の子供の加入拒否で提言 遺伝子学会」『毎日新聞』
 先天性の病気の子供らが、学資保険や生命保険への加入を断られるケースが相次いでいる問題で、 日本人類遺伝子学会(松田一郎理事長)など4学会は、3日、国や保険会社などに対し 「保険契約の際に個人の遺伝情報を使用することを、人権上の観点から一時保留すること」などを求めた提言を発表した。
 日本先天代謝異常学会、日本マススクリーニング学会、日本小児内分泌学会と共同で提言した。
 提言は、遺伝子研究の進展で生活習慣病などの発症前予知や予防が可能になるが、それによって保険加入、雇用、結婚などで差別があってはならないと主張。 国や業界団体などで遺伝情報をどう保護し、利用するかの社会的ルールを策定すべきだとしている。
 この問題は、郵政事業庁や民間保険会社が、出生直後の血液検査で見つかる先天性甲状腺機能低下症やフェニルケトン尿症の子供の保険加入を拒否していたことで表面化した。 だが、投薬や食事療法でほぼ完全に発症を抑えられ、健常児と同様の生活ができるため、松田理事長らは「保険加入を拒否する医学的根拠はない」と話している。
 郵政事業庁簡易保険部業務課は「本当に健常児と同じ扱いにしてよいのか、専門家などから情報収集している段階で、出来るだけ早く検討して結論を出したい」と話している。 【江口一】

◆2002/10/03 「遺伝情報めぐり検討会議の設置提言 人類遺伝学会など」『朝日新聞』
 先天性の病気を持つ子どもが簡易保険などへの加入を拒否された問題を受け日本人類遺伝学会など4学会は、3日、保険契約で遺伝的な病気の情報を使用することを一時保留し、 遺伝情報の保護、利用についての検討会議の設置を国に求める提言を発表した。 将来、生活習慣病などの遺伝子診断が進めば保険加入や雇用での差別が広がりかねないことから、社会的なルールづくりを求めている。
 先天性の病気をめぐっては、 病気の早期発見・治療を目的とした新生児検査で見つかるフェニルケトン尿症、先天性甲状腺機能低下症の子どもが郵政事業庁の学資保険などへの加入を拒否されたことが問題化した。 2つの病気は薬などで病気のない子どもと変わらない生活ができることから4学会は「保険加入を拒否する医学的根拠はない」としている。
 4学会は、ほかの病気についても、検査データや家族の病歴、遺伝子診断などの情報が、将来、雇用や保険での差別に使われることを懸念。 保険会社など様々な立場の意見も聞いて検討する場が必要としている。

 ◇日本人類遺伝学会

 

◆2002/08/26 「生保の遺伝情報利用歯止め 学会が要請」『読売新聞』
 国の新生児検査で先天的な遺伝子変異による疾患と診断された子供が、簡易保険などの生命保険に加入できない実態があるとして、 日本人類遺伝学会(理事長=松田一郎・熊本大名誉教授)は、保険加入や雇用の際、遺伝情報をどう取り扱うべきかを検討する会議の設置を国に求めることを決めた。
 来月にも提言を発表する。結論が出るまで保険契約で遺伝情報を利用しないことも呼びかける。
 人の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読で、がんや糖尿病など病気と遺伝子の関係が浮かぶ一方で、遺伝情報の利用を巡る議論が進まない現状を打開したいと期待する。 提言は同学会理事会がまとめ、他の関連学会との共同発表を目指す。
 旭川医大の羽田明教授と東北大の松原洋一教授らの調査がきっかけ。 国が実施する新生児検査で、「先天性甲状腺機能低下症」や「フェニルケトン尿症」とわかった子供が、生命保険や学資保険の加入を拒否された例が相次いでいた。 外資系保険会社は加入を認めていたが、郵政事業庁が扱う簡易保険や日本の保険会社では拒否が目立った。知的発達が遅れる恐れなどがあるこれらの病気は、 早期発見して治療すれば、普通の生活を送ることができる。
 提言案では、これについて、「健康増進を目的として解明された遺伝情報が不適切に利用されており、 将来“ありふれた病気”でも遺伝情報が誤用される可能性を強く示唆している」と危機感を表明。ルール作りを国に求めている。
 この問題では、英国政府が、一部の病気で生命保険加入時の遺伝情報利用を認める方針を示したが、議会などが反発。 行政、保険業界、研究者、患者団体などが参加する検討機関を設置している。
 米国では、一部の州が遺伝情報の利用を禁ずるなど、一定のルールを各国が模索している。

 ◇日本人類遺伝学会

 

◆2002/06/21 「オピニオン:リスク判断の材料に(焦点!どうする遺伝情報と保険)」『朝日新聞』朝刊013
 ぜんそく、肥満、がん、痴呆。さまざまな体の不調に、遺伝子がかかわっていることがはっきりしてきた。 遺伝子診断の技術が進み、遺伝情報を病気の予防や治療に役立てようという動きが活発になる一方で、 保険業界もまた、生命保険に加入する人の病気のリスクを判断する材料として関心を寄せている。 遺伝情報をこうした目的に使ってよいのか。腰を据えた議論が求められている。(社会部・田村建二、及川智洋)

◆病気予見の可能性注目
 日本でいま、保険に入ろうとする人は、自分の健康状態や過去の病歴を用紙に記入する。 この「告知」をもとに、保険会社はその人が病気になったり、死亡したりするリスクを判断する。遺伝子診断を受けるよう求められることはない。
 この状況を大きく変えるかもしれないのが、ヒトの遺伝情報のすべてが解読される「ゲノム時代」の到来だ。病気にかかわる遺伝子の解明も急速に進んでいる。
 10年前、高血圧に関係する遺伝子の存在が報告された。昨年には、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(りゅう)と遺伝子のかかわりも明らかになった。 日本人がもつ遺伝子のタイプによって、動脈瘤のできる危険性に4倍以上もの差があるという。
 遺伝子診断によって、将来かかりそうな病気がわかるかもしれない。 そうすれば予防できるかもしれないし、最適の治療法も選べる。研究者はそんな「ゲノム時代」に期待を寄せる。
 しかし、同時にそれは保険業界にとっても有力な情報となる。 将来、遺伝子診断が広く普及する時代になったら、「加入者が得た診断結果は伝えてほしい」との声が保険業界には強い。 過去の病歴などと同様、加入者の得た情報を教えてもらえなければ、正確な判断ができないからだ。
 この遺伝情報を保険会社が使うのを認めるかどうか。もし、それが認められたら?
 あるいは一律に禁止されたら? 関係者は、近未来のシナリオ(シミュレーション=別項)を描いて心配するが、日本ではまだ、公的な場での議論は皆無に近い。
 遺伝情報は、未解明の部分も多く、最重要の個人情報といわれる。保険に利用されることへの懸念は強い。
 脳動脈瘤と遺伝子の関係を報告した東大医科学研究所の井ノ上逸朗・客員助教授は「病気のリスクが普通の人より高いからといって、必ず発症するという根拠にはならない。 そんな情報を保険に使えるのか」と話す。
 また、遺伝情報は本人だけでなく、血縁者も共有している。遺伝子診断の結果を保険会社が求めるとすれば、どこまでの同意を得るべきか。 流出防止策はとれるのか。本人が死亡しても情報は保護されるのか。
 郵便局で申し込む簡易保険で、遺伝子がかかわるとされる病気の子が、発症予防できるのに加入を拒否されるという問題もすでに起きている。
 遺伝情報の保険への利用には、「遺伝子差別につながる」との懸念もあるが、ほとんどの人がなんらかの病気にかかわる遺伝子を持っている可能性が高く、何が差別にあたるか、 見方も分かれる。専門家の間でさえ具体的な議論が進んでいない。

◆法的整備も先進の欧米
 欧米では、法律を含めたルールづくりが進んでいる=表。
 愛知学院大の山野嘉朗教授(保険法)によると、ベルギーは10年前につくった保険契約法で、遺伝情報の利用を禁止した。
 反対にニュージーランドでは、遺伝子診断を受けるよう要求することはできないが、加入者がすでに知っている診断結果を求めることはできる。
 英国は00年、一部の遺伝性難病を対象に、加入者が過去に受けた診断結果を保険会社が使うことを認めたが、 英国保険協会と政府は昨年10月、「高額の保険などを除き、遺伝情報の利用は5年間凍結する」と表明。検討が続いている。

◆近未来シミュレーション
◇利用が禁じられたら… 「かけこみ加入」増える
 なぜこんなに、高額の保険金の支払いが続くのか。大手生保B社の幹部は頭を痛めていた。
 「遺伝子診断で、重い病気にかかりそうだと分かった人たちが、次々と高額の生命保険に加入しているからではないか」
 あらゆる遺伝情報の保険への利用を禁じる法律が施行されてから遺伝子診断を受ける人が急増、保険加入者も目立って増えた。
 病気になる可能性が高ければ、保険料を高くしたり、加入を断ったりできる。が、生保は今や、リスク判断の材料になる遺伝情報を一切入手できない。
 保険加入時の血液や尿の検査さえ、「事実上の遺伝子診断」として拒否する人が増えてきた。
 このままでは、いずれ発症すると分かった人の「かけこみ加入」も防げない。「保険の仕組みが成り立たなくなる」と、幹部は深刻な面持ちだ。

◆利用が認められたら… 心配し診断受けぬ人も
 30代の会社員Aさんは定期健康診断を前に、迷っていた。希望者は「生活習慣病リスク判定」を受けられることになった。 血液から遺伝子を調べ、糖尿病やある種のがんなどにかかる可能性を診断する。
 父親は糖尿病で、母親は高血圧。ともに遺伝子がかかわる病気だ。因子の有無は知りたいが、引っかかることがあった。
 ちょうど生命保険への加入を考えていた。診断結果は保険会社に伝える決まりだ。もし病気の因子が見つかれば、保険料はきっと高くなるだろう。 加入を断られるかもしれない。
 情報が漏れるのも心配だ。最近、準大手生保が破綻した。あんな時、保険会社に伝えた自分の遺伝情報が第三者に流出する恐れはないのか。
 悩んだ末、診断は受けないことにした。それなら、遺伝情報を保険会社に伝えなくてすむから。

◆近畿大教授(遺伝学)・武部啓さん 使われるべきでない
 遺伝情報をどう扱うかは、基本的人権にかかわる問題だ。
 どんな遺伝子を持っていても、本人には何の責任もない。不利な遺伝情報をもとに保険加入を拒むのは人権侵害だ。遺伝情報は保険に使われるべきではない。
 確かに、病気のリスクに応じて保険料を上げてはいけないのか、難しい面はある。 だが、数千種類もあるとされる遺伝病のうち、どの病気について、どんな医学的根拠で、保険料に差をつけたり加入を拒んだりするのか。 判定しやすい一部の病気だけを対象にするのは納得できない。
 遺伝情報を使わなくても、病気の可能性が高い人が高額の保険に加入する事態を防ぐことはできる。 たとえば、死因に遺伝子が強くかかわっていて、それを承知で加入していた場合には支払いを制限するといったルールを設ければいい。
 どんな情報を保険に利用することが許されるのか。遺伝学や内科学、保険の専門家を交えて、早く議論するべきだ。 生命倫理に関する常設の組織を国レベルでつくることも求めたい。

◆日本保険医学会会長大手生保会社勤務・小林三世治さん 適正な評価は不可欠
 生命保険は、加入者が病気になったり死亡したりするリスクを適正に評価したうえで保険料を設定し、収支が成り立っている。 例えば30歳と80歳が同額の保険料で、消費者が納得するだろうか。
 リスク評価に欠かせない加入者からの告知や医師の診査内容は、医療技術の進歩とともに変わってきた。 将来、遺伝子検査が血圧測定や尿検査並みに普及した時にその結果を保険会社が知ることができなければ、保険料設定に影響する可能性がある。
 遺伝子検査の保険利用については、保険業とかかわりの深い学者や消費者、患者団体など幅広い分野の人で議論し、社会的合意をつくるべきだ。
 ただし、その議論の前提として、まず遺伝子検査や遺伝情報といった言葉の定義を明確化すべきだ。 一般的にはDNA検査を指すと思うが、新生児がほぼ全員、病気の有無を調べるために受けている「マススクリーニング」や、 成人の健康診断時の血液検査まで遺伝子検査ととらえる考えもある。こうした点を整理しないと、議論が錯綜(さくそう)してしまうのではないか。

■保険への利用をめぐる各国の対応■
 (山野嘉朗教授による)
 ベルギー     法律で禁止
 フランス     法律で禁止
 オーストリア   法律で禁止
 ノルウェー    法律で禁止
 オランダ     一定金額超など条件付きで利用可能
 ニュージーランド 検査受診は要求できないが、既知の診断結果の開示は求められる
 米国       団体医療保険では法律で禁止。生命保険では連邦レベルの法なし
 英国       業界の自主規制で利用を原則凍結

◆2002/05/09 「<無断遺伝子検査> 米大手鉄道会社と従業員が和解」『毎日新聞』
 【ワシントン斗ケ沢秀俊】米雇用機会均等委員会は8日、米テキサス州の大手鉄道会社「バーリントン北部サンタフェ鉄道」による従業員への無断遺伝子検査をめぐる訴訟で、 同社と和解に達したと発表した。
 同委員会によると、同社はアメリカ障害者法違反を否定したが、総額220万ドル(約2億8000万円)の和解金を従業員に払うことを認めた。 同社は提訴された後、この検査を中止しており、従業員に対する遺伝子検査への歯止めになる事例とみられている。
 同社は「手根管症候群」と診断されていた従業員36人に対し、血液検査の名目で遺伝子検査をした。 同症候群は手にしびれや痛みの出る病気で、遺伝要因も指摘されている。 「雇用差別に使う目的の検査ではないか」との従業員の訴えに基づき、同委員会は昨年2月、同社を障害者法に違反したと提訴していた。

◆2002/05/09 「無断遺伝子検査で28億円 米鉄道会社が労働者側に支払い」『共同通信』
 【ワシントン8日共同】米政府機関の雇用機会均等委員会は八日、従業員の同意を得ずに遺伝子の検査を行ったとして、 同委員会が、テキサス州の鉄道会社に対して起こしていた訴訟で、企業側が労働者側に約二千二百万ドル(約二十八億円)を支払うことなどで和解が成立したと発表した。
 同訴訟は、政府機関が、遺伝子検査による職業上の差別を取り上げた初のケースとして注目されていた。
 訴えられていたのは、鉄道大手のバーリントン・ノーザン・サンタフェ。
 訴えによると、同社は、手の指がしびれて痛みが出る手根管症候群という職業病になったと訴えた労働者三十六人について、 同意を得ずに遺伝子検査を実施したか、実施を計画した。
 労働者からの訴えを受けた委員会が昨年二月、障害や病気による職業上の差別を禁じた米障害者法に違反するとして、検査の差し止めなどを求めた。
 声明によると、同社は遺伝子検査の結果を労働者の選別などには利用せず、違法行為はなかったとの主張は変えなかったが、訴訟の早期決着のため、 労働者への支払いや、再発防止対策を取ることなどで、委員会側と和解した。
 委員会は「実際にデータを利用しなくても、無断の遺伝子検査自体が違法行為だ」とした。(了)

 

◆2002/04/23 「簡保加入拒否問題「真正面から取り組む」 医師会」『朝日新聞』
 先天性の病気がある子どもたちの簡易保険への加入を郵政事業庁が一律に拒否していることについて、 日本医師会は23日、常任理事会を開き、この問題について会として積極的に取り組むことを正式に決めた。 「遺伝情報にもとづくあらゆる保険加入拒否は認めない」という観点から、具体的事例への解決策を一歩ずつ探るとしている。
 旭川医科大の羽田明教授らが調査したところ、遺伝子の異常がかかわるとされ、 投薬などで発症をほぼ完全に防げる先天性甲状腺機能低下症やフェニルケトン尿症の子どもたちが簡保加入を拒否されている。 加入できたのは申し込むときに病名を告げていない場合で、出生前に簡保に加入した例はなかった。
 これ以外にもダウン症の子や、体重がふつうの子よりも軽いといった理由だけで簡保への加入を拒否されているという報告や相談が医師会に寄せられているという。
 医師会は、こうした病気の親の会や小児科医と連携しながら、郵政事業庁の担当者からも加入拒否の実情を聞き、現状の見直しを求めていく方針。
 澤倫太郎・常任理事は記者会見で「民間の保険会社での加入拒否をどう考えるか、難しい面もあるが、『遺伝情報によるあらゆる差別はいけない』という立場にたちたい。 この問題に真正面から取り組む」と話した。

◆2002/04/23 「遺伝差別問題に取り組みへ=簡保などで加入拒否――日本医師会」『時事通信』
 遺伝子検査で先天性疾患と診断された子供が保険加入を断られるなど差別を受けている問題で、 日本医師会は23日の常任理事会で、同会としても実態の把握に努め、この問題に積極的に取り組んでいくことを決めた。 患者の親の会が実施しているアンケートの結果なども踏まえ、今後具体的な対応を検討する。
 旭川医大の羽田明教授(公衆衛生学)らの調査で、 マススクリーニングという新生児検査で「先天性甲状腺機能低下症」や「フェニルケトン尿症」と診断された子供が郵政事業庁の簡易保険や民間の保険への加入を拒否されたり、 加入できても告知義務違反で解約されたりしている実態が明らかになった。 これらの病気は薬や食事の調整によって発症を抑えられることが分かっており、加入拒否には医学的根拠がないという。

 

◆2002/04/19 「簡易保険への加入容認を要請へ 加入拒否問題で厚労相」『朝日新聞』
 郵政事業庁が先天性の病気で薬などを飲んでいる子どもの簡易保険への加入を拒否している問題で、 坂口力厚生労働相は19日の閣議後の記者会見で「配慮をお願いしたい」と述べ、片山虎之助総務相に対し、簡保加入を認めるよう促していく考えを示した。
 加入を拒否されているのは、遺伝子の異常がかかわっているとされる「先天性甲状腺機能低下症」や「フェニルケトン尿症」の子どもたち。 これらの病気は、厚労省の指導で実施している「新生児マススクリーニング」での血液検査で見つかっている。

 

◆2002/04/18 「先天性疾患児の簡保加入を一律拒否 郵政事業庁」『朝日新聞』
 先天性の病気で薬などを飲んでいる子どもに対し、郵政事業庁が、郵便局で取り扱っている簡易保険への加入を一律に拒否していることがわかった。 病気の発症をほぼ完全に抑えられるケースも含まれていることから、遺伝学や小児科の専門家からは「医学的な根拠がない」などと批判が出ている。 日本医師会は事態を重視し、調査に乗り出す考えだ。
 人の遺伝情報の解明が進む中で、保険や雇用の場で差別が広がることが懸念されているが、今回の加入拒否は実質的に遺伝情報を利用した差別につながるとの見方もある。
 加入を拒まれているのは、遺伝子の異常がかかわっているとされる「先天性甲状腺機能低下症」や「フェニルケトン尿症」の子どもたち。 旭川医科大の羽田明教授(公衆衛生学)と東北大の松原洋一教授(遺伝病学)らが昨夏、この2つの病気と診断された子ども105例を対象にアンケートをしたところ、 病名を告げて学資保険を含む簡易保険に申し込んだ21例すべてが加入を拒否されていた。
 保険は一般に、契約期間中に死亡するリスクなどを根拠に、加入の可否を判断したり、保険料に差をつけたりする。
 この2つの病気は、厚生労働省の指導で実施されている「新生児マススクリーニング」で、血液を調べることから見つかる。 放置すると知的な発達の障害などが起きる恐れがあるが、専門医は「早期発見し、薬や栄養分を調整したミルクを飲むなどすれば、発症はほぼ完全に防げる」と話す。
 この2つの病気は、先天性の病気の中でも最もコントロールがしやすいとされる。実際に、これらの病気でも一部の外資系や民間保険会社は加入を認めていた。 一方、簡保で加入できたのは、羽田教授らの調査では、病名を告知していなかったり、出生前に加入したりした場合だけだった。
 同庁簡易保険部業務課は「個別の病気の取り扱いについては答えられない」としつつ、 「服薬などの治療が続いている方はお断りしている」と継続的な治療が必要な先天的な病気では、すべて加入を拒否していることを事実上認めている。
 これに対し、日本医師会の澤倫太郎・常任理事は「発症を予防できる子の保険加入を公的機関が排除しているとすれば問題だ。 郵政事業庁に詳しく事情を聴きたい」と話している。
 羽田教授らは、19日から名古屋市で開かれる日本小児科学会で調査結果を報告する。
       ◇
 <新生児マススクリーニング> 早期の発見と治療が有効な病気の有無を見極めるため、厚生省(当時)が77年に始めた。 現在対象となる病気は6つで、生まれて間もない赤ちゃんの血液を採取し、病気を発症する可能性がないかどうか調べる。 事業主体は都道府県と政令指定市で、ほぼ100%の赤ちゃんが受けている。 先天性甲状腺機能低下症はホルモンの分泌の異常、フェニルケトン尿症は特定のアミノ酸が増えすぎることで、知的障害などが起こる。 それぞれ約5000人に1人、8万人に1人の割合で生まれるとされる。

◆2002/04/18 「<保険拒否>先天性の病気持つ子供に郵便局が」『毎日新聞』
 先天性の病気で、薬や食事療法によって発症を抑えている子供が、学資保険や生命保険への加入を断られるケースが相次いでいる。 旭川医科大の羽田明教授(公衆衛生学)らが、19日から名古屋市内で開かれる日本小児科学会で調査結果を発表する。 郵政事業庁が郵便局で扱う簡易保険では、病名を告知した全員が加入を拒否されていた。
 調査は、東北大の松原洋一教授(遺伝病学)らとともに、 「先天性甲状腺機能低下症」(75人)と「フェニルケトン尿症」(30人)にかかっている計105人の子供たちを対象に実施した。
 このうち90人が簡易保険、民間保険への加入を試みたが、43人が断られた。簡易保険加入を断られたのは21人だった。 加入できたのは、病名を告知しなかった36人と、出生前に加入手続きを済ませたり、外資系保険を選んだ人だったという。
 二つの病気は、ほとんどの新生児が出生後すぐに受ける「新生児マススクリーニング」という血液検査で見つかる。 00年度に全国で「先天性甲状腺機能低下症」が見つかった新生児は528人、「フェニルケトン尿症」は11人だった。 治療しないと知能障害などを発症するが、現在は投薬や食事療法でほぼ完全に発症を抑えられるという。
 羽田教授らは「将来、遺伝子診断が可能になったとき、この病気の子供たちのように加入拒否が広がる恐れがある。 早急にルール作りが必要だ」と訴えている。
 郵政事業庁簡易保険部業務課は「無審査で加入できる簡易保険では、病気を告知した人の加入は原則断り、治癒してから加入してもらうシステムになっている」と話す。 また、民間保険会社は、この病気の乳幼児は別の病気にかかるリスクが高いというデータから、加入を断るケースが多いという。【永山悦子】

 

◆2002/04/09 「先天性疾患理由に保険加入拒否 旭川医科大教授らが調査」『共同通信』
 全国の地方自治体が実施している新生児検査(新生児マススクリーニング)で、先天性疾患と診断された患者が、 治療法が確立しているにもかかわらず保険への加入を断られたり、告知義務違反を理由に保険を解約されるなどの差別的扱いを受けている実態が九日、 旭川医科大の羽田明教授らの調査で明らかになった。
 名古屋市で十九日から始まる日本小児科学会で発表する。
 米国や英国など世界各地で、遺伝情報による雇用や保険加入時の差別が問題になっており、論議を呼びそうだ。
 羽田教授らは昨年夏、新生児検査で先天性甲状腺機能低下症やフェニルケトン尿症と診断された子供百五人の家族に、 民間や郵便局の生命保険や学資保険の加入状況をアンケートした。
 その結果、保険に加入しようとした九十人中、病名を告知した四十三人全員が加入を拒否され、加入できた四十七人は病名を告知していなかったり、出生前に加入していた。
 また、三人が別の病気で入院給付金を申請したが、先天性疾患の診断歴があるのに加入時に告知していなかったとして、保険契約を解約されていた。
 羽田教授らは、薬の服用などで完治する先天性甲状腺機能低下症とフェニルケトン尿症の二種類の疾患を調査対象とすることで、 遺伝情報による差別的な扱いを浮き彫りにしようと試みた。
 日本では二○○○年、遺伝子診断を理由に保険金支払いを拒否されたとして、近畿地方の男性が保険会社に支払いを求めて神戸地裁に提訴している。
 羽田教授は「遺伝子情報による差別が生まれてしまう。早急に議論し、一定の社会的ルール作りが必要」と訴えている。

 cf.フェニルケトン尿症



2001


◆2001/11/02 「遺伝子診断、新たな差別に」([新・神への挑戦]第5部・倫理を考える/4)『毎日新聞』
◇保険、雇用めぐり訴訟も
 生命科学の進展が社会に「遺伝子差別」という新しい差別を作り出しつつある。病気によっては、遺伝子を調べれば、いつごろどんな病気にかかりやすいか分かる。 この遺伝情報が遺伝子差別の生みの親だ。
 米国の事例を紹介する。
 米ノースカロライナ州の保険会社で管理職をしていたテリー・サージェントさん(45)は99年4月、呼吸が苦しくなって医師を訪ねた。 遺伝子検査の結果、ある酵素を作る能力が生まれつき低いため、肺の細胞が破壊されていることが分かった。酵素の補充療法を続けることで病気の進行は止まった。
 だが、サージェントさんは8カ月後、会社を突然解雇され、医療保険も解約された。
 医療保険は、会社が従業員から保険料を集め、その中から治療費を支払う「自家保険」だった。従業員は35人しかいない。 サージェントさんの治療費は月約4000ドル(約50万円)。
 「これ以上の負担には耐えられない。解雇以外、選択の余地はない」と雇用主は説明した。
 米国の多くの州は、個人の遺伝情報によって保険加入を拒否したり、保険料を高くすることに法律で歯止めをかけているが、 ノースカロライナ州には自家保険について明確な規定がなかった。
 サージェントさんは「診断後も仕事の量や質は落ちていない。私には、解雇されずに治療を受ける権利があった」として、米雇用機会均等委員会(EEOC)に訴えた。
 EEOCは障害者差別を禁じた「アメリカ障害者法」違反の疑いで調査中だ。
 会社が無断で従業員の遺伝子を検査していた事例も発覚した。 テキサス州の大手鉄道会社が昨年、従業員125人の遺伝子検査を計画し、うち18人については実際に血液を採取して検査会社に調べさせていたのだ。
 125人はレール敷設工事などに従事し、「手根管症候群」と診断されていた。手にしびれや痛みが出る病気で、遺伝要因との関係も指摘されている。
 会社側は「診断結果を基に、従業員の健康に配慮した職場配置をするつもりだった」と説明した。 しかし、労働組合は「病気の原因は仕事ではなく、遺伝子に問題があると言いたかったのだろう」と反発した。
 従業員の訴えで、EEOCは今年2月、同社を障害者法違反で提訴した。結局、同社は全面的に謝罪し、検査を中止した。
 遺伝子研究を患者・家族や社会に生かす活動をしている「ジェネティック・アライアンス」は、2年前から遺伝子差別の実情調査を行っている。 300以上の患者団体、市民団体などが加わった組織である。
 これまで全米各地から保険への加入拒否、解雇、学校への入学拒否など233件の報告があった。 76人には電話で話を聞いたが、プライバシーの侵害を恐れ、提訴を望まない人が多いという。
 「現在600種類ある遺伝子検査は10年後には10倍に増え、より多くの人々が対象になる。 差別を防ぐため、保険会社や雇用主が検査結果を悪用できないようにする対策が必要だ」とアライアンス代表のメアリー・ダビッドソンさんは対策の必要性を訴える。
 日本でも「国民皆保険」の医療保険はともかく、生命保険については米国の事例は対岸の火事ではない。
 毎日新聞が昨年4月、国内の生命保険会社にアンケート調査した結果では、19社のうち15社が遺伝子診断を「将来的に利用する可能性がある」と答えた。
 保険会社は今も加入者に健康診断を行う。心臓疾患などのリスクの高い人からは割り増し保険料をとり、契約を断るケースもある。
 遺伝子診断もそれと変わらないというのが保険会社の言い分だ。
 雇用の場でも「差別」を正当化する理屈がある。労働安全衛生法は雇用者に健康診断の結果を踏まえて従業員の職場配置を決めるよう求めている。
 安全に配慮するという名目で、雇用者が従業員の遺伝子を調べ、結果を利用できるという解釈も成り立つ。
 だが、私たちが持っている3万〜4万個の遺伝子の中には遺伝病に関係するものが必ず五つや六つはあるという。 誰にも遺伝病の子供が生まれる可能性があるし、自分自身が遺伝病になる恐れもある。
 信州大病院の福嶋義光遺伝子診療部長(遺伝医学)は「多様な遺伝子を持っていたから、人類はさまざまな環境に適応して生き延びた。 遺伝子差別は、そんな人間の本質を否定するものだ」と指摘する。
 遺伝子差別は人類にとって、天につばする行為なのかもしれない。
 写真:口の内側の粘膜からこすりとった細胞を使って遺伝子診断ができる=東京 都内のクリニックで



◆2001/10/05 「先天性疾患理由に新生児の保険加入や解約で「差別」」『読売新聞』
 国の新生児検査で先天性の疾患と診断された患者が、治療法が確立しているにもかかわらず、保険への加入を断られたり、 告知義務違反を理由に保険を解約されるなどの差別を受けている実態が、旭川医科大学の羽田明教授らのグループの調査で初めて分かった。 さいたま市で開かれている日本人類遺伝学会で5日発表する。遺伝情報を保険の加入などに利用することの是非は大きな問題となっているが、 今回の例はこれとよく似たケースで、国内のルール作りが急務となる。
 羽田教授らは、新生児検査で先天性の甲状腺機能低下症と診断された66人の家族にアンケート調査した。 生命保険や学資保険に加入しようとした58人の患者のうち、28人は疾患を理由に加入を断られていた。 また、簡保の学資保険などに加入していた3人は、入院給付金の申請をしたところ、加入時に病名を申告しなかったことを理由に保険を解約されていた。 同症の場合、甲状腺ホルモンを内服することで普通に生活することができる。



◆2001/08/25 「羅針盤はヒトの手に会社が勝手に遺伝子を検査した……革新が生む摩擦。どう創る新しい世界」『日本経済新聞』朝刊

 「この血液検査は変よ」。看護婦をしている妻が夫の健康診断の採血量が通常より多いことに不審を抱いた。 それが遺伝子検査をめぐる米連邦政府機関による初訴訟の発端だった。

◆雇用差別と訴え
 大手鉄道会社バーリントン・ノーザン・アンド・サンタフェ。社員約20人の遺伝子を同社が勝手に検査していたことが今年2月、発覚した。 対象になったのは、線路の保守などの作業で手首がしびれる病気になったとして会社に労働災害補償を求めた社員たちだ。
 この病気は遺伝的理由で発症することもあり、検査で発症にかかわる遺伝子が見つかった人は、仕事が病気の原因と主張しにくくなる。 「検査は雇用差別に当たる」と訴えた米雇用機会均等委員会に対し、バーリントン社は「説明が不十分だった」として遺伝子検査を自主的に中止した。
 健康診断で遺伝子検査をする会社が出てきた米国では将来病気になる恐れが大きい人が医療保険の加入や雇用で差別される問題が現実になりつつある。
 ブッシュ米大統領は6月の演説で「人種差別と同様に遺伝子差別をやめるべきだ」と指摘、遺伝子情報の利用を規制する考えを示した。 だが反対論もあって、規制は容易ではない。
 「遺伝子検査が簡単にできるようになると、結果を隠したまま自分に有利な保険を選んで入る人が増えかねない。 そうなれば、保険料は現在の3、4倍に跳ね上がる」。米国の保険数理人学会は、遺伝子情報の利用規制論をけん制する。

◆当局が踏み込む
 「予定通りに行っていない」。 昨年、取材班に「クローン人間第1号を2001年夏にも送り出す」と宣言した新興宗教団体「ラエリアン・ムーブメント」の科学責任者、ブリジット・ボワセリエさん。 その後の経緯を淡々と語り始めた。
 今年6月、極秘にしていた実験室に突然、米食品医薬品局(FDA)の係員が踏み込んできたという。場所は米南部の町にある高校の元校舎とされる。 生後10ヶ月で亡くなった乳児の細胞から核を取り出して卵子に移し、同じ遺伝子をもつ赤ん坊を誕生させる計画を実行に移そうとしていた。
 FDAは「国内で実験をしないとラエリアンに約束させた」としている。だが、ボワセリエさんは「今後は米国外で準備を進める」とまだあきらめていない。
 疾走する技術は時に人々を戸惑わせ、社会との摩擦も生む。それは生命科学分野に限ったことではない。
 「留守番電話にネット攻撃をやめろと苦情が入っていた。だれかが私のパソコンを隠れみのにいやがらせをしたらしい」。 今年上半期、コンピューター緊急対応センター(JPCERT)に届いた不正アクセス報告件数は昨年同期の1.7倍。 自宅から世界の情報に到達できるようになった裏側でパソコン経由の“家宅侵入”被害が急増している。

◆「溝埋める必要」
 技術進歩を促しつつ、弊害を最小限に食い止めるにはどうすればよいのか。 三菱化学生命科学研究所の米本昌平・社会生命科学研究室長は「技術の専門家と普通の人々との溝を埋める環境整備が必要」と言う。
 「本当に検査を受けたいのですね」。張りつめた表情の患者に職員が静かに話しかける。 信州大医学部遺伝子診療部。胎児に先天異常があるかを遺伝子の出生前診断で知りたい夫婦。遺伝子病を受け継いでいるか確認したい人。 遺伝子から病気を予知する技術の進歩とともに相談が増えた。
 ここでは医師だけでなくカウンセラーら複数の職員が患者に対応する。先端医療についてわかりやすく説明し、診察を受ける時も同席。 退院後も連絡を取る。「先端医療技術は患者がよく理解して使わないと、かえって混乱を招く」と同部長の福嶋義光教授は話す。
 技術革新の効用や課題を多くの人が考える機会を持つことも、技術と社会との調和を促すうえで重要だ。
 シャーレの上にバクテリアのDNA(デオキシリボ核酸)の粒が青く浮かぶ。別の微生物の遺伝子が入り込んだあかしだ。 「こんなに簡単に組み換わるとは」。高校生が目を輝かせる。
 「先端バイオ技術を若い世代に実感してほしい」。亀井勇統佐賀大教授が企画した特別実験。 高校生は7月下旬の1週間、大学院生の指導で遺伝子組み換え実験などに取り組んだ。
 科学技術は経済成長、医療や環境の改善など人類の発展を支える半面、使い方を間違えれば悲劇も招く。 その羅針盤を握るのは限られた専門家ではない。われわれ一人ひとりである。



2000


◆2000/07/31 「遺伝子診断での拒否不当 障害保険金支払い求め神戸地裁に提訴」『共同通信』
 契約時には分からなかった遺伝病が判明した男性に障害保険金を支払わないのは不当として、近畿地方に住むこの30代の男性が31日までに、 第一生命保険(東京)を相手に保険金1000万円の支払いを求める訴えを神戸地裁に起こした。
 原告代理人の弁護士によると、男性の病名は遺伝子診断で判明したが、遺伝子診断と生命保険をめぐる訴訟は全国で初めてという。
 第一生命は「男性が遺伝子診断を受けた事実は知らなかった。支払い拒否は契約前からの発病だったからで、病名などを考慮したからではない」としている。
 訴状などによると、男性は1989年11月、重い障害を負った場合には、死亡保険金と同額の保険金を受け取ることができる高度障害保険付きの生命保険契約を第一生命と結んだ。
 男性は当時から原因不明の歩行障害があったが、歩くことは十分可能で、通院先の病院は「症状は固定している」と診断。男性も保険契約の際に、歩行障害を告知していた。
 しかしその後病状が進行。92年には両足がまひし、身体障害者第1級に認定された。 原因が分からず、95年初めに主治医の勧めで遺伝子診断を受診。日本でも数例しか報告されていない遺伝病と分かった。
 99年初めに、男性は保険金の支払いを申請したが、第一生命は「契約前に発病した疾病が原因」として支払いを拒否した。
 男性側は「契約当時は高度障害に陥ることは予見不可能で、遺伝子診断で病名が分かったからといって、保険金を支払わないのは不当だ」と主張している。

◆2000/07/30 「重度障害の保険金支払い請求、遺伝子診断結果で拒否 加入者が生保提訴」『朝日新聞』
 「「遺伝子診断を受けなければ障害保険金がおりたはずなのに、受けたばかりに支払いを拒否されたのは不当」。 関西地方に住む30代の男性が、そんな訴えを今春、神戸地裁に起こした。男性は、原因不明と言われていた病気が、加入後に受けた遺伝子診断で遺伝病とわかった。 病名を伝えたところ、障害保険金の支払いを拒否された。
 生命保険会社は「契約前から発病していた」と主張する。 遺伝子診断と保険をめぐる裁判は初めてというが、遺伝情報の解析が進み、原因不明の病気がわかったり、将来の病気が予測できたりする時代に、 保険のあり方を問うきっかけになりそうだ。
 男性は1989年、第一生命保険の生命保険に加入した。重い障害を負った場合に、死亡保険金と同額の保険金が支払われる高度障害保険がついていた。
 小学生のころから足が悪かったが、日常生活に不便はなかった。契約当時は、まだ歩けた。市立病院に通っていたが、原因はわからない。
 契約にあたって健康状態を自己申告する保険ではなく、あえて保険会社の指定する医師に診断書を書いてもらうタイプを選んだ。
 大学病院に移ったが病名は判明しない。その後、病状は進行した。92年に両足の機能が失われ、身体障害者1級に認定された。
 主治医に遺伝子診断を持ちかけられたのは、95年ごろ。その結果、病名がわかった。日本では数少ない遺伝病で、今のところ治療法はない。
 昨年になって、高度障害保険金を申請するため、障害診断書を提出した。死後、生命保険を残すか、生前に保険金を受け取るか悩んだ結果だ。 しかし、第一生命からの返事は、「支払えません」だった。
 裁判所に提出した答弁書で、第一生命はこう主張する。障害の原因は小児発症の病気であり、発病が契約前なので、 「契約による責任開始期以後の疾病が原因で高度障害状態になった場合」と規定した約款に該当しない。 「責任開始期における予見可能性は問題にする余地はない」ともいう。
 しかし男性は、「医学の進歩が加入者の不利に結びつくのは理不尽だ。遺伝子診断を受けず、原因不明のまま申請していればよかったことになる。 最先端の医療を受けた人間だけが損をしてしまう」と話す。
 遺伝子情報と保険の関係について、米国では、クリントン大統領が「遺伝情報で差別してはならない」などと繰り返し述べている。
 第一生命広報課は「訴訟に影響があるのでコメントは控えたい」としている。

《解説》遺伝子診断、差別招く心配も 保険とのルール必要に
 遺伝子検査が増え、将来の疾病の確率を予測したり遺伝病を特定したりする遺伝子診断が進むなかで、最も危ぐされていたことのひとつが生命保険での差別だった。 遺伝子診断の結果、遺伝病と分かった男性が、保険の支払いを拒否され提訴した事例は、こういった差別に直結するケースだ。
 ヒトゲノムの解析と研究が進めば、一人ひとりが特定の病気になる確率がわかるとも言われる。「あなたががんになる確率は60%。 保険料は割高になります」。そんな時代が来るかもしれない。
 今後、多くのがんや高血圧、糖尿病など、複数の遺伝子と環境要因がからんだ病気の原因が明らかになるにつれ、さらに問題は複雑化する。
 この問題について、生命保険協会広報部は「各社の判断なので、協会として検討したことはないし、いまのところ、検討する予定もない」と話す。
 だが、業界内部ではすでに各社の医務担当者が集まって調査研究している。
 1996年に出された「遺伝子検査と生命保険−遺伝子研究会報告書−」と題した冊子がそれだ。 生命保険協会医務委員長の諮問機関として、日本における遺伝子検査の生命保険に与える影響を研究する目的で作られた研究会だ。
 その冒頭。「遺伝子検査の結果は保険会社も知る権利がある」「日常診療で行われるような検査になったら保険診査にも採用できる」などとある。
 参加メンバーの一人は「将来の危険がわかっていながら加入する人が増えるのを防ぐためにも、 保険制度に遺伝子診断を採り入れるべきではないか、という意識だった」と振り返る。
 同協会広報部が「医務委員会を通じて各社の社医を募った私的な集まり。委員会や協会の意見ではない」と釈明するほど、保険業界にとって微妙な問題だ。
 欧米では、遺伝子診断と保険に関する議論は盛んに行われてきた。日本では、まだルール作りの議論は始まっていない。 業界や専門家らを含めた、政府としての対応が必要だ。(くらし編集部・大和久将志)

*上記で言及されている「遺伝子検査と生命保険−遺伝子研究会報告書−」は、 遺伝子研究会 編 19960625 『遺伝子検査と生命保険――遺伝子研究会報告書』

◆2000/07/30 「遺伝病理由に保険支払い拒否され提訴」『読売新聞』
 高度障害保険付きの生命保険に加入した後、遺伝子診断で遺伝病と判明したため、障害保険金の支払いを拒否された三十代の男性が三十日までに、 「契約時には予想できなかった症状」として、第一生命保険(本社・東京)を相手取り、保険金一千万円を求める訴えを神戸地裁に起こした。 遺伝子診断と保険をめぐる訴訟は初めてという。
 訴状によると、男性は一九八九年に第一生命の生命保険に加入した。重い障害を負った場合、保険金を受け取ることができる高度障害保険がついていた。 契約時、足が悪かったものの、歩行は可能で「症状は固定している」と診断されており、同生命にも申告していた。 その後、病状が進み九二年に両足がまひし、身体障害者一級に認定された。
 男性は九五年、遺伝子診断を受け、日本に数人しか患者のいない遺伝性の難病と判明。 昨年、障害保険金を申請したが、第一生命は「契約前に発病したのが悪化したもの」として支払いを拒否していた。

 

◆20000430 NHKスペシャル「世紀を越えて」『遺伝子診断新しい予知医療の光と影』

 ワシントンの遺伝子病支援団体・遺伝子サポート同盟には、遺伝子診断に関する様々な不安が全米から寄せられる。 その多くは診断結果により、保険や雇用の場で差別を受けはしないだろうか、といった種類のものだ。
 44歳のある女性もそうした不安をうち明けた一人。昨年乳ガンの診断を受けたが、保険会社に受診以来をしたことは知らせていない。 よって、高額な費用も全部自前で行った。
 「もし私のガン発症の確率が高ければ、保険会社から医療給付を断られる可能性があります。夫にも息子にも迷惑がかかるかも知れません。 この国では医療保険がないと生きてはいけませんから、保険会社には絶対知られたくないのです」
 そんな人々の不安を連邦議会が受け止め、5年前から遺伝子による差別を禁止する法案がいくつか提出されている。 今年は5つの法案が提出され、特に目玉となっているものが遺伝子情報の内容により保険を解約してはならない、 また、そのような個人情報を得ようとするのも禁止する、というもの。
 ただし全米医療保険業界からは猛反発が起こっている。最初から病気になる確率の高い人間が続々加入してくれば、会社は多大な損害を被ってしまいかねない。 そのため、医療情報と同様、遺伝子情報も同様に扱わねばならないのだ。
 今年2月、そんな対立の中でクリントン大統領が大統領令を発布した。 遺伝子情報は財産や医療情報同様、厳重に保護されなければならない。よって採用や昇進において遺伝子情報で差別することを禁じる、というのがその主な内容だ。 ただし、適用されるのは公務員のみ。民間企業においては、始めから病気になると分かっている人間を重要なポストにおくなどする事はできないため、 まだまだ大きな壁として立ちはだかっているのが現実だ。

 

20001013 イギリス


 cf.◇ハンチントン病

◆2000/10/14「英 遺伝子情報を保険会社が判断基準に使用を認可の決定」NHKニュース
 イギリスではハンチントン舞踏病と呼ばれる遺伝病について、遺伝子診断の信頼性が確認されたとして、 保険会社がこの遺伝病を持つ人との契約を拒否したり、保険料を引き上げたりすることができるようになりましたが、 遺伝子情報を商業目的で利用することは新たな差別につながりかねず大きな論争が起きています。
 これは、イギリス政府が十三日、声明を通じて発表したもので、遺伝病の一つ、ハンチントン舞踏病について、 保険会社は保険加入希望者があらかじめ遺伝子診断を受けていた場合、その結果を知らせるよう求めることができるようになりました。
 この結果、保険会社はこの遺伝病の患者に対して、契約を結ぶことを拒否したり、保険料を引き上げたりすることが認められます。
 今回の決定は、ハンチントン舞踏病に関する遺伝子診断の信頼性が確認されたことを受けたもので、 イギリス政府は今後、アルツハイマー病や遺伝性乳がんなど六つの遺伝病についても、検査対象として認可すべきかどうか検討を進めています。
 遺伝子情報の商業目的での利用を認めたのはイギリス政府が世界で初めてで、遺伝病の患者団体などからは保険を受けられなる人が出るだけでなく、 今後、雇用契約などを結ぶ際にも遺伝子情報を判断基準として使う道を開き、新たな差別につながりかねないと懸念する声が出ていて、大きな論争が起きています。

◆2000/10/14「保険会社に遺伝子診断結果の利用認める=ハンチントン病対象に−英」『時事通信』
 【ロンドン14日時事】英保健省の遺伝子・保険委員会は13日、保険会社が生命保険の保険料を設定する際、 加入者が重い遺伝病であるハンチントン病にかかる危険性を調べるため、遺伝子診断の結果を利用することを認めると発表した。 保険会社による遺伝子診断結果の利用解禁は、世界で初めてとみられる。
 遺伝子診断で陽性となった加入希望者は、保険契約を拒否されたり、高い保険料支払いを求められる可能性がある。 消費者団体などは「遺伝子による差別を生む恐れがある」と反発している。

◆2000/10/14「遺伝子診断の利用認める ハンチントン病の保険加入」『共同通信』
【ロンドン13日共同】英保健省の遺伝子・保険委員会は十三日、保険加入者がハンチントン病にかかる危険性を調べるために保険会社に遺伝子診断を認める、と発表した。
 今回の決定は、遺伝病を持つ人々への保険契約拒否や保険料引き上げにつながる恐れが強くなることを意味しており、 消費者団体などは「遺伝子による差別をつくり出すものだ」と反発している。
 同委員会のジョン・デュラント委員長は「ハンチントン病の遺伝子診断が可能になったこと。 また遺伝子に発病の危険性を持っている人が、保険請求をする可能性が増大することが証明されたため」と、決定の理由を述べた。
 英紙デーリー・メールによると、アルツハイマー病や遺伝性乳がんなど七種類の遺伝病に関しても診断認可を求める動きが出ている。 しかし、英保健省当局者は、今回の決定が自動的に他の遺伝病にも適用されるものでない、と強調した。
 遺伝子診断は保険加入時に強制されないが、診断を受けていた場合、保険会社は加入に当たって提出を求めることができる。
 保険業界は、家族にハンチントン病の人がいても、遺伝子診断で問題がなければ、通常の保険料金で商品を提供できるようにするものだと述べ、理解を求めた。
 ハンチントン病は優性遺伝病で、中年以降に発病する重い神経変性疾患。一九九三年に原因遺伝子が見つかり、遺伝子診断が可能になった。(了)

◆Thursday, 12 October, 2000, 11:28 GMT 12:28 UK BBC news(粗訳・武藤)

 イギリスの保険会社は、遺伝性疾患の人々を区別するために遺伝子検査の結果の利用が可能になる模様。 イギリス政府は、13日(現地時間)にも、致命的な疾患に至る遺伝子をもって生まれた人々に対して、保険会社が加入謝絶したり、 保険料を値上げできるよう遺伝子検査の結果を利用できるようにする、と発表する。この決定により、イギリスは遺伝子技術の商業利用を認めた最初の国となる。
 遺伝学と保険に関する委員会 (Genetics and Insurance Committee)という保健省の諮問機関は、技術面で信頼できるハンチントン病のような病気に関して、 保険会社が遺伝的なリスクを同定するために検査結果の情報を利用できるようにすべきとの結果を出し、保健省へ諮問している。 遺伝性乳がんやアルツハイマー病を含む複数の検査も、条件つきで同様に承認される見通しである。 2年前に、別の諮問機関である人類遺伝学諮問委員会 (Human Genetic Advosory Commission) は、遺伝子検査に基づく情報の利用について、 モラトリアム期間を持つように提案していた。
 しかし、政府はその勧告を受け入れることなく、遺伝学と保険委が検査の技術的信頼性に担保する条件で、保険会社が検査結果の情報を利用する道を開いた。 この発表は、遺伝情報の利用に関する倫理的な議論に火を点けるのは間違いない。ある評論家は、当事者団体がローンの設定や生命保険加入において不利益を受けたり、 高額の保険料をつきつけられるなどの可能性を指摘しているが、保険業界は特にコメントしていない。
 ジョン・デュラン教授(遺伝学と保険委員会の座長)は、BBCの取材に対して、「当事者が、保険会社から遺伝子検査を受けるように勧められることはないだろう。 むしろ当事者は、過去に受けたハンチントン病の遺伝子検査の結果を公表するように求められるはずだ」と述べている。 また「この決定は法的な拘束力を持たないが、保険会社は顧客が仔細を明らかにしない場合、加入謝絶する権利を持つことになるだろう」と語る。 「極めて厳しい施策への第一歩ではない。実際には、保険加入を求める実に多くの人々が利益を受けるはずだ。 ハンチントン病の発症前遺伝子検査を受ける人々は、ハンチントン病の家族歴を持つ人々に限られている。 そのうち、多くの人々は、幸いにして遺伝子を受け継いでいないとの結果を得ている。 現在は加入面での差別を受けているこうした人々が、結果を明かすことによって保険に加入できるのだから」。
 メアリー・フランシス(イギリス保険者協会代表)によれば、保険会社は既に潜在的な顧客に対して、病気の家族歴を確かめたりしているという。 「この決定は、実際に起こっていることの延長に過ぎません」。実際には、多くの人々が実際には支払えないような高額の保険料を要求されている。
 スー・ワトキン(イギリスハンチントン協会代表)も、保険会社は、既に遺伝子検査の結果を保険料の算定や加入謝絶のために利用していると語る。 「私たちの一番の心配は、晩発性の遺伝性疾患の発症リスクにある人々が、一般的なレベルよりも高い保険に入らなければならないという点です。 今のところ、多くの人々が支払い能力を超えた金額の保険料を要求されています」。
 ワトキンは、ハンチントン病を発症するリスクを50%持っている人は、通常の保険金の300%を要求されていること多いと話す。 ワトキンは政府に対して、発症リスクを持つ人々のための保険として利用できる資金を調達するように要求している。
 消費者協議会(National Consumer's Council)によれば、遺伝子検査の結果が、病気の可能性と同時に、 自分の健康管理への影響までも含めて跳ね返ってくることを恐れ、検査受診を延期する人が増えるだろうという。 広報部は、「『もし検査を受ければ、いまはわかっていない情報を知ることになってしまう。知らないでいる方が得だ』と考えるのは当然でしょうね。 もしその情報を知らないでいれば、保険加入時の申込書に検査結果を記入することは無理なわけですから」。
 遺伝子技術の利用に関して提言を行っている、人類遺伝学諮問委員会は、 「この政府決定によって、遺伝情報の利用と保護については、保険加入の問題も含め、すぐに重要な社会問題となるだろう」と指摘する。 だがその案件は、同委が2年前に政府に提案した勧告の結果として生じたものともいえる。

◆2000/10/12『毎日新聞』(一部引用)
 12日付の英大衆紙デーリー・メールによると、英政府は保険会社に対し、保険加入希望者が遺伝病を持っているかどうかを調べる遺伝子診断を認めることを決めた。 13日発表する。この結果、保険会社は、遺伝病を持つ人との契約を拒否したり保険料を引き上げたりすることができることになる。
 遺伝子情報の利用は保険のほか、長期ローンや雇用などの契約の際にも差別を生む可能性が高いとして世界的に論議を呼んでいるが、 英国は遺伝子技術の商業的目的での利用を認める最初の国になる。
 同誌によると、診断が認められる最初の病気はハンチントン舞踏病。 このほかアルツハイマー病や遺伝性乳がんなど7種類の遺伝病の診断認可の動きも進んでいる。

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■リンク

The New Genetics
 by: Emily Kaltenbach and Colette Bina
 ここには以下のファイル※等がリンクされています。
  ※ひとまずこのホームページ内でリンクできますが(タイトルをクリック)
   リンクする(URLをクリック)のがよいでしょう。
◆Shelly Cummings 1996
 Genetic Testing and the Insurance Industry
 http://www.westpub.com/Educate/mathsci/insure.htm
Shelly Cummings briefly outlines issues regarding genetic testing and the insurance industry. She discusses the possibility of underwriting losses and escalating premiums due to genetic testing.(上記 The New Genetics より)
◆Ray Moseley 199610 の紹介
 Scholars Complete Study of Genetics and Insurance
 http://www.geneletter.org/1196/insurance.htm
 The Gene Letter posts this overview of a investigative study and assessment titled ; The Ethical, Legal, and Social Implications of Predictive Genetic Testing for Health, Life and Disability Insurance:Policy Analysis and Recommendations. (上記 The New Genetics より)
◆Thomas H. Murray 199205
 Task Force on Genetics and Insurance
 Human Genome News, May 1992; 4(1)
  http://www.ornl.gov/TechResources/Human_Genome/publicat/hgn/v4n1/06insure.html
 This page examines a meeting set up by NIH-DOE Joint Working Group on Ethical, Legal, and Social Issues. It was established to discuss the impact of scientific and technological advances on the insurance industry's use of genetic information. The page provides both the insurance perspective, a well as concerns about discrimination.(上記 The New Genetics より)
◆Shelly Cummings 1996
 Implementing a Preventive Ethics Strategy in the World of Preventive Medicine
 http://www.westpub.com/Educate/mathsci/02747516.htm
 This essay explores the idea that we must develop a preventative ethics approach in order to understand and prevent harmful effects of genetic testing and research. Do we take personal responsibility for our health and behavior even when it is due to genetics?(上記 The New Genetics より)
◆Human Genome News, July-September 1996; 8:(1)
 Genetic Privacy and Property: Perspectives from Capitol Hill
  http://www.ornl.gov/TechResources/Human_Genome/publicat/hgn/v8n1/03capebi.html
 This site offers the scoop from the national level about privacy law, employment protection, and patenting issues.(上記 The New Genetics より)
◆Human Genome News, Mar.-Apr. 1995; 6(6): 4
 Genetic Privacy Act Introduced
  http://www.ornl.gov/TechResources/Human_Genome/publicat/hgn/v6n6/4genetic.html
 Human Genome News, Mar.-Apr. 1995; 6(6): 4
 Although this was posted in Mar.-Apr. 1995, it is an important piece of a proposal for legislation regarding protection of genetic medical information. The authors hope this will be used as a guideline by professional societies and ultimately by the US Congress.(上記 The New Genetics より)
◆Robert G. Resta 19??
 Genetic Counseling: Coping with the Human Impact of Genetic Disease
 http://www.gene.com/ae/AE/AEC/CC/counseling_background.html
 Access Excellence provides a great overview of the history of genetic counseling and its present role in "new genetics".(上記 The New Genetics より)
◆Darryl R. J. Macer, Ph.D. 1990
 Shaping Genes: Ethics, Law and Science of Using New Genetic Technology in Medicine and Agriculture
 http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~macer/SG1.html

 The revolution has begun! Biotechnology and biomedicine are at the forefront of major advances in medical science and agriculture. Darryl Macer, Ph.D. raises ethical questions in regard to this issue and how the public is responding to the "gene scare".(上記 The New Genetics より)
HHMI's Genetics Program
 http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~macer/SG1.html
 This essay pulls together the importance of the new genetics on biological processes. It explores the relationship between the new genetic's research methodology with common genetic diseases as well as those not commonly thought of as genetic. (上記 The New Genetics より)
◆Genetic Testing and Gene Therapy: What They Mean to You and Your Family
 http://noah.cuny.edu/pregnancy/march_of_dimes/genetics /genetest.html
 New York Online Access to Health (NOAH) is a site designed for the consumer to provide accurate and unbiased health information. This particular page, with help from the March of Dimes, questions the impact of genetic testing and therapy in the context of pregnancy. (上記 The New Genetics より)
◆Science Policy Forum
http://www.edoc.com/aaas/policy/
 This site has several article from science magazine that address issues surrounding both the Human Genome Project and Genetic Discrimination. You can respond directly to this site with your own comments on the articles.(上記 The New Genetics より)

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*増補:北村 健太郎
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