1996年9月10日 風間孝,19960910,「運動と調査の間−同性愛者運動への参与観察から」佐藤健二編『都市の解読力』pp.65-102,勁草書房
T 同性愛者たちの研究を志して−方法の模索
風間はアカーのメンバーの一人であり,原告の一人でもある。風間はそのような立場から,「府中青年の家裁判」がアカーの中にもたらした様々な影響について論じている。具体的には,裁判を通して同性愛者の社会運動や,同性愛者のアイデンティティのことを論じている。
風間は,調査方法について「会の活動に参加しながら,参与観察をし,また時間を見つけてはメンバーの生活史を聞き取り,データとして蓄積していく[風間,1996:69]」と述べている。さらに自分自身の生活史をもフィールドとして捉えている。
U 「府中青年の家裁判」の概要と経過
風間は「府中青年の家裁判」の性格を,三つ指摘している。一つ目は,「日本の法廷ではじめて,同性愛者に対する差別と人権とが争点となった[風間,1996:70]」こと。二つ目は,「公的な空間を管理する論理のなかに潜む常識を問う経過をたどった[風間,1996:70]」こと。三つ目は,「裁判という公共の場にかかわることを通じて,運動主体それ自身もが変容していかなければならない,社会運動としての質をもつこととなった[風間,1996:70]」ことである。
V 運動の展開が明らかにしてくれたものに沿って
1 拒絶の論理と権威
ここでは,青年の家所長の拒絶の論法が,事典や辞典のような「権威」によって強化されていると論じられている。
W 現代都市と同性愛者たちの社会運動
ここでは,都市における同性愛者の集まる繁華街とゲイサークルについて述べられている。大きな都市のゲイユースがサークルを立ち上げたが,それらは大半が繁華街に吸収されていった。
アカーは1986年に5人のゲイユースによって結成された。創設メンバーたちは,日常生活において同性愛者の友人すら見つけることが容易ではなく,グループという場を作ることによってこのような孤立状況を解消しようと考えた[風間,1996:95]。これは他のサークルと変わらない。異なっていたのは,繁華街以外の行き方の模索という方向性を持っていたことと,事務所の存在であると風間は言う。