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遺伝学・歴史




駒井 卓 19630920 『遺伝学に基づく生物の進化』
 培風館,526p. 2000
 信州大学469.Ko57i

 「日本その他の諸国で、国民の平均寿命の延びたのは、おもに乳幼児、また青少年時代の死亡率の低下による。これは医療技術の進歩により、また有効な薬剤の発見使用によるもので、それ自身喜ぶべき傾向である。しかしこの死亡者の中には、偶然の不幸などによるものがあるが、遺伝的性質の劣っていることによるものも少なくない。むしろこのほうが多いのである(12章H.a.)…。進んだ医術は、こういう人々の生命を延ばし、かつ生殖を許して、その劣った遺伝素質の子孫を残すことを助ける。一方に、受胎調節とか家族計画とかを多く実行するものは、どこの国でも知能的にすぐれた層であるが、この傾向は必然的に民族の遺伝的組織を低下させる結果になる。このことを憂えたのがダーウィンのいとこのF.Galtonで、彼は1883年初めて優生学Eugenicsを提唱した。その後この説に共鳴して,いわゆる優生法規を設け,劣った遺伝素質をもつもの,これを子孫に伝える,おそれの(p.486)あるものは,自ら進んで手術を受けることができ,場合によっては強制的に受けさせることもできるようにした国も少なくない。日本もその一つである。しかし12章H.d.にも指摘したとおり,理論上から見ると,このような法規の実効の度は,すこぶるわずかのもので,一方の劣悪素質のものを助けるほうの力と対抗のできるようなものではない。ことにこのような法規を悪用すると,ナチ時代のドイツのような残虐非道の政策の弁護にも使われる危険もある。
 次に,遺伝学者の近ごろとくに関心をもつのは,放射線の利用の普及による有害遺伝子の増加である。X線,ラジウム,同位元素が多く診断や治療に使われるほか,原子力の工業への利用も盛んになろうとしているし,原水爆実験を行われる。これらの放射線は生体内部に深く浸透するが,生殖腺において遺伝子の突然変異を起こし,子孫の病的素質も増すことになる。それで近ごろでは,今から遠い子孫のために”精子銀行”を設けて,優秀で病的遺伝子に汚されない精子を保存すべきであるという説を,マラーMuller(1961)が発表したくらいである。
 ただし,上の劣悪素質の増加の危険にしても,また放射線による遺伝的障害にしても,今のところだいたい理論の範囲を出ず,十分に実証されていないことを認めなければならぬ。どちらの問題にも,実際上は,さまざまの複雑な要素が加わって,理論どおりにならないことがありうるのである。とにかく,どちらも数百ないし数千代以後のことがおもに問題になるのであるから,それまでに予測しがたいどんな状態が人類に起こるかわからない。ことに人類の進化について考えるときには,生物学的進化よりも文化的進化の方が,程度においても,速さにおいても,はるかにまさっているから,なおさら問題はむずかしくなるのである。」
(駒井卓[1963:486-487])

 上記に引かれているマラーの論文は
 Muller, H. J. 1961 "Human Evolution by Voluntary Choice of Germ Plasm",
 Science 134:643-648

 

「21章 優生学と優生法規

A.優生学の主張
 ……
 ……この学問で主張するところにしたがって、悪い遺伝性素質をもつものの生殖を阻止する法規が施行されているところも、世界の諸国にある。日本もその1つである。(p.223)
 日本でははじめ昭和16年に優生学に基づいた国民優生法がつくられたが,昭和23年にこれが廃止されて優生保護法が代わって施行され……
 ゴールトンが指摘したような優良者が滅ぼされ、劣悪者が救われるといういわゆる逆淘汰dysgenicsの傾向は今もある。ことに比較的高い教育を受け、生活にも余裕のある階級に子が少なく、逆に教育程度低く、知識も生活も劣った階級が、いわゆるプロレタリアであることは、昔と変わらず、国内ばかりか、国際的にも当てはまる通則である。また知識高く気概に富むものが受難する恐れが高いことは、とくに政情不安の国では、今日も通常のことで(p.224)ある。
 一方、医学・医術の進歩と社会保障制度の普及は、かつては、ほとんど快癒の見込みのてかった病人や奇形者の生命を救い、生活の道を与え、結婚して子を残すことをえさせ、その劣った遺伝的素質を後代に伝えることを助ける。こうして遺伝性の病気や欠陥は、全体として減ずるどころか増加する傾向にさえなっている。この事実を具体的数量的に正しく現わすことがなされたら、おそらく、かなり警告すべき状態として見られると思われる。
 ……
B.優生手段の実効
 上にあげた事実は、80余年前にゴールトンの鳴らした警鐘のひびきに、今の人も耳を傾けなければならぬことを教えるものである。けっきょくは、人類の福祉厚生のために行ってきたこと、また現に行ないつつあることは、しばしば優生の目的には添わないで、むしろそれに逆行するものだからである。…」
(駒井[1966:223-225])

 C.実効可能の手段     228
22章 ”優秀家系”と”天才” 232
 A.優秀家系        232
 B.天才          234

「骨形成不全症 Ostogenesis imperfecta(ヴァン・デル・ヘーベ症候群 Van der Hoeve syndrome):全身の化骨不十分で,よく骨折や脱臼をおこし,また骨が曲がったまま成長する。多くの場合,眼のきょう膜が青い(Blue sclea 青色きょう膜)。難聴,歯の不全などを伴うこともある…。これに3つ型があり,以上の程度が違う。もっとも重いのは胎内で死ぬらしい。これも日本のところどころに大きな家がある。」(駒井[1966:248-249])

 

◆駒井 卓 19660830 『人類の遺伝学』
 培風館,284p. 950
 信州大学469.Ko57a

 

◆湯浅 明* 1967 『遺伝学入門――メンデリズムから分子遺伝学へ』
 有信堂

 昭和7年東京大学理学部植物学科卒業。細胞学、遺伝学専攻、東京大学教養学部教授、昭和13年理学博士、昭和28年日本遺伝学会賞を受く。
(「著者略歴」より)

VII.遺伝の実態
2.人の遺伝
……
頭のはたらき
 才能 遺伝的であり、科学者、音楽家、芸術家などのすぐれた人々の相ついで出ている家系もたくさん知られている。しかし関係する遺伝子も多く、分析はたやすくはない。
 性格 ホルモン、その他、内外の影響をうけるが、遺(p.216)伝的である。
 天才 遺伝的のものと考えられる。
……
頭のはたらき 頭のはたらきの悪い方の遺伝について、述べてみよう。
 てんかん ときどき発作をおこして、筋肉が不調和にはげしく収縮し、いわゆるひきつけをおこし、意識を失うもので劣性遺伝をする。
 精神分裂病 早発性ちほう(痴呆)ともいい劣性の遺伝である(p.221)らしい。いちぢるしく常軌を失した行動をするもので、いわゆる狂人である。
 そううつ(躁鬱)症 いちじるしい興奮状態と沈静状態とが、交互におこるもので、男より女に多いようである。
 ハッチントン氏舞踏病 中年以降におこり、頭や手足をしきりに動かしおどっているようなようすをし、精神状態も病的になるもので、優性に遺伝する。
 黒内障性ちほう(痴呆) 黒内障にともなっておこり、低能状態になるもので、劣性遺伝子による。
 小頭 頭がないくらい小さいもので、骨の発達が充分でない中に、骨がゆ着してしまい、脳の発達を害するためにおこるもので、血族結婚などによってでてくる。劣性。
 低能というものの中には、いろいろの精神病がふくまれており、遺伝的の場合が多い。
 失調 正しくは小脳性失調といい、30才ごろから発病して、歩行がよろよろし、数年後に死亡する。優性。
 偏頭痛 頭の半分ずつがいたむもので、遺伝的である。
 ヒステリー性 ヒステリーをおこしやすい性格は遺伝的のもので、優性と考えられる。
 神経衰弱病 神経衰弱になりやすい性格で、遺伝的のものであり、優性のようである。


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