※治療可能性
「・・・1983年法は、触法の有無を問わずに『精神障害』者を強制入院・強制治療の対象としているのであり、『精神障害』とは、精神病(mental illness)、重度精神遅滞(severe mental impairment)、精神遅滞(mental impairment)、精神病質(psychopathic disorder)、その他の精神障害(any other disorder or disability of mind)に分類されている。但し、人格障害に罹患した患者を強制的に入院させるためには、治療によって病状を軽減するか、病状の悪化が防止できるという『治療可能性(treatablity)』の要件が満たされていなければならない。この要件は、1983年法によって初めて精神保健法に導入された。・・・」64
※「マクノートンルール」
「アメリカにおいて、(中略)長年、強い影響力をもっていたのが、イギリスのマクノートン判決(1843年)に由来する『マクノートン・ルール』であった。これは『精神異常(insanity)の理由による抗弁を成立させるためには、その行為を行った時に、被告人が、精神の疾患のために、自分のしている行為の性質(nature and quality)を知らなかったほど、またはそれを知っていたとしても、自分は邪悪な(wrong)ことをしているということを知らなかったほど、理性の欠けた状態にあったことが明確に証明されなければならない』というものである。日本と同様、混合的方法ではあるものの、正邪の弁別能力という知的要素にのみ着目し、情意の要素である制御能力を考慮していない。」189→「正邪テスト(right and wrong test)」
※「抵抗不能の衝動テスト」(Smith v. United States 1929年)
コロンビア特別区控訴裁判所判決より
「…医学の偉大なる発達に適合する今日的なルールにおいて責任能力があるというためには、正邪を区別することができるだけでなく、抵抗不能の衝動によって当該犯罪行為をなすよう強いられることのない能力をも備えていなければならない。すなわち、それが悪いことであると知ってはいても、意思力(will power)が疾患によって奪われた結果、犯罪行為をなそうとする衝動に抵抗することが不可能になっている場合には、刑事責任を問うことはできないのである。」191
※「ダラムルール」(Durham v. United States 1954年)
コロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判決より
「…/より幅の広いテストが採用されるべきである。『被告人の違法行為が精神の疾患または精神の欠陥の所産(product of mental disease or mental defect)であった場合には刑事責任を負わない』。疾患とは、回復または悪化がありうる状態、欠陥とは、回復または悪化がありえないものであって、遺伝的なものあるいは身体・精神の疾患の後遺症である状態を意味する。…」
「以上のように、ダラム・ルールは、『精神の疾患』『精神の欠陥』『所産』の認定を陪審に求めており、生物学的基礎のみに着目する『生物学的方法』を純化したものといえる。」194
※「模範刑法典ルール」(United States v. Brawner 1972年)
「ダラム・ルールは生物学的方法であったが、このルールは、マクノートン・ルールと同様、混合的方法をとっている。ただ、後者が『正邪の認識』のみを求めたのに対して、『自己の行為を法の要求に従わせる』という制御能力をも規定している点が大きく異なっている。…(中略)…既存のルールを総合した形になっているともいえる。」196
※「制御能力基準をはずした新たな基準」(united States v. Lyons 1984年)
ルイジアナ州第5巡回区連邦控訴裁判所判決より
「…したがって、新しい基準の下で責任無能力とされるのは、『犯罪行為の時に、精神の疾患または欠陥の結果、当該行為の不法性を弁別することができない』場合に限られる。」200
→理由もある
※「メンズ・レア」(States v. Korell 1984年)
「…このように、弁別能力や制御能力の欠如を抗弁とせず、犯罪の要素である精神状態(犯意(mens rea))の証明に関してのみ精神的障害を考慮する方法を『メンズ・レアアプローチ』と呼ぶ。」202