ブリタニーさんの独白は全米に衝撃を与えた(YouTubeより)
現在、彼女は愛する夫と母親と共に、オレゴン州ポートランドに住んでいます。そして彼女が自ら自分自身についての"重大な決意"をウェブ上で公にしたため、メディアでも大きく取り上げられ、いまや全米で彼女自身の尊厳死の権利について大論争が沸き起こっています。
ただし、ここでまず注意していただきたいのは、米国で議論になっている「尊厳死(death with dignity)」は、「医師による自殺幇助」を意味します。しかし、日本で言われている尊厳死(必要以上の延命行為なしで死を迎えること)は、米国では「自然死」を意味しています。この米国での「自然死」については、リビングウィル(生前の意思表示)に基づき、「患者の人権」として、現在ほとんどの州において法律で許容されています。目下、米国で合法化の是非が議論になっている「尊厳死」は、日本で言われている「安楽死」を意味します。このあたりの違いについては、フォーサイトでの拙稿「『合法化』へと向かう米欧『安楽死』の現場」(2014年9月1日)をご参照ください。
胸が張り裂けんばかりの決断
10月14日、ブリタニーさん自身が書いたコラム「My right to death with dignity at 29」が『CNN.com』に掲載され、約6000件のコメントが寄せられました。以後、彼女のYouTubeは840万回以上も再生され、尊厳死の権利に関する全米での大論争のキッカケとなりました。
そのコラムによると、彼女が重大な決断をするに至った経緯はこういうことでした。
結婚して約1年が過ぎ、夫と家族を作ることを考えていたとき。彼女は数カ月間の頭痛による衰弱に苦しんだ後、今年の元旦に、脳に腫瘍があることを知らされました。そして、 腫瘍の増殖を抑えるために、部分的な開頭術による脳の側頭葉の部分切除を行いました。
ところが4月、脳腫瘍の再発だけでなく、腫瘍がもっと急速に進行していることを知りました。そして医師から、もはやその進行は止められない状態であり、このままだと余命がわずか6カ月以内であるという残酷な事実を告げられました。多くの脳腫瘍治療には放射線照射が必要ですが、医師は、彼女の脳腫瘍が非常に大きいため、「全脳照射」という治療を推奨しましたが、彼女は、それによって脱毛、皮膚炎、さらに通常の日常生活が送れなくなるなどの深刻な副作用があることを知りました。
その後彼女はいくつもの病院、医師の診察を受け、数カ月かけて自らの病状と治療方法について出来うる限りの情報を集めました。その結果、病気が治癒することはないこと、医師が推奨した治療は自分に残された時間を破壊することになると知ります。さらに、仮に自宅のあるサンフランシスコ湾岸地域のホスピスケアで緩和治療をしても、そのうちにモルヒネでもコントロールできない激痛、それに伴う人格の変化、そして身体を動かすこともままならないどころか会話もできず、愛する夫や家族、友人などを認識することすらできなくなる苦しみに陥ることも......。しかも、そんな見るに忍びない自分に何もしてやれず、ただじっと見守ることしかできない家族のことを考えました。
そうした苦悶の日々を重ねた挙げ句、最終的にブリタニーさんと家族は、胸が張り裂けんばかりの思いで、究極の結論である「尊厳死」に至りました。ブリットニーさん自身が医師に要求し、致死量の薬剤の処方箋を受け取り、肉体的かつ精神的なあらゆる苦痛に耐えられなくなったときに自分で摂取して、「生きる」プロセスに終止符を打つ――。つまり、「医師による自殺幇助」です。
ブリタニーさんは、最終的に「尊厳死」が自分と家族のための最良の選択肢であると判断しました。そのために、尊厳死が合法化されているオレゴン州に移住したのです。
◆香川[2006]第13章「治療停止の政治学:有能力者、ベビー・ドゥ規則、クルーザン事件」2「ベビー・ドゥ規則:新生児の治療停止と中絶の問題」
「障害者団体の懸念 一九八三年にブーヴィアの訴えを退けた第一ブーヴィア判決について、ペンスは「発達障害者擁護会(Advocates for the Devlopmantally Disabled)の主張が影響を与えていたことを指摘している(PENCE, 64[1,94])。判決が訴えを退ける理由とした第三者の利益とは、主に身体障害者の利益を指していた。「発達障害者擁護会」のメンバーは、事件が報道されると、ブーヴィアの入院していた都総合病院の外に集まり、ブーヴィアが決心を変えるように求めて、夜を徹して集会を開いていた。そのグループの弁護士は、「こうした障害をもつ人は誰でも、自殺を考えることがあるものです。会のひとびとが恐れているのは、もしエリザベスが自殺すれば、多くの障害者が、《なんてこっか、わたしも戦うのをやめよう》、といい出しはしまいかということなのです」と語っていた。新聞には身体的な困難があるからといって、人生が生きるに値しないとする考え方には「大量虐殺の含み」があるとする障害者の声が寄せられ、「障害者擁護法律協会(Law Institute for the Disabled)」の弁護士は、ブーヴィア事件を社会貢献のできないとされた障害者の「社会問題」と呼び、ブーヴィアが必要としているのは、尊厳をもって生きることができるための手助けなのだ」と論評した(HUMPHRY, 151)。他方、ブーヴィアの弁護士は、そうした介入はプライバシーの権利と結社の自由に対する明らかな侵害だと批判した。[…]
たしかに、ブーヴィアの請求が障害者団体の人たちにとって脅威であったことは、想像に難くない。判決が本人の意思を無視して強制栄養を要求し、病院を恐ろしい拷問室と化すものだと強く批判したアナスでさえ、ブーヴィアは決心を変えて、経口栄養を続けるべきだと述べている(ANNAS8,21)。しかし、三年後に、ブーヴィアの訴えは認められた。ペンスがいうように、ブーヴィアは「判断能力のある成人の患者が、死ぬために医療処置を拒否するという憲法上の権利をもつという最初の明確な言明……を引き出した」(PENCE, 69[1,101])。その背景には、カリフォルニア州自然死法の成立時と同じ事情が指摘できる。クインラン事件以降、世論は治療停止の権利を肯定する方向に大きく傾き、その流れはもはら抗しがたいまでになっていた。」(香川[2006:304])
◆立山 龍彦 1998 『自己決定権と死ぬ権利』,東海大学出版会、153p.、2200
◆星野 一正 19971130 「オレゴン州尊厳死法の住民投票による容認」 『時の法令』1558:62
◆星野 一正 19970730 「自殺幇助を禁ずる州法は合憲と米国最高裁判所」,『時の法令』1550:60
◆星野 一正 19970530 「米国議会にて自殺幇助医療費制限法制定」,『時の法令』1546:55
◆星野 一正 19960630 「緩和ケアをめぐる問題――裁判における医師による自殺幇助容認の傾向」,『時の法令』1524:62
◆大野 和基 19910613 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか」,『週刊文春』33-22:191-196 ※COPY
◆――――― 19910620 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか・2」,『週刊文春』33-23:179-184 ※COPY
◆――――― 19910627 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか・3」,『週刊文春』33-24:186-195 ※COPY
◆――――― 19910704 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか・4」,『週刊文春』33-25:77-82 ※COPY
◆――――― 19910711 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか・5」,『週刊文春』33-26:47-52 ※COPY
◆――――― 19910718 「ナンシー・クルーザンの「死ぬ権利」――安楽死・尊厳死は許されないのか・最終回」,『週刊文春』33-27:49-54 ※COPY
◆宮野 彬 1986 「アメリカの二〇を超える尊厳死法とわが国における立法の問題」,『年報医事法学』1
◆Sarda, Francois 1975 Le droit de vivre et le droit de mourir, Seuil=19880229 森岡恭彦訳、『生きる権利と死ぬ権利』,みすず書房、345p. 2000
◆日本安楽死協会 編 1979 『アメリカ八州の安楽死法(原文全訳)』,人間の科学社 2000
◆日本安楽死協会 編 19770430 『安楽死とは何か――安楽死国際会議の記録』,三一書房、209 p. 950
◆Hendin, Herbert 1997 Seduced by Death: Doctors, Patients, and Assisted Suicide Georges Borchardt, Inc.=20000330 大沼安史・小笠原信之訳、『操られる死――<安楽死>がもたらすもの』 時事通信社、323p. 2800 ※
◆American Disabled for Attendant Programs Today (ADAPT) - ADAPT advocates for the civil rights of people with disabilities, old and young, to receive long term care services in the community instead of being warehoused in nursing homes and institutions.
◆Association of Programs for Rural Independent Living (APRIL) - APRIL is the national association of centers for independent living, statewide independent living councils, and other organizations working with people with disabilities living in rural areas.
◆Disability Rights Education and Defense Fund (DREDF) - DREDF is the leading force in education and legal enforcement of the ADA and other laws that prohibit discrimination based on disability.
◆Justice For All - Justice For All and its extensive email network were formed to defend and advance disability rights and programs in the U.S. Congress.
◆National Council on Disability - The National Council on Disability (NCD) is an independent federal agency making recommendations to the President and Congress on issues affecting 54 million Americans with Disabilities.
◆National Council on Independent Living - NCIL is the national association of hundreds of consumer-controlled Centers for Independent Living, non-residential grassroots advocacy and service organizations operated by and for people with disabilities.
(全米自立生活協議会)
◆National Spinal Cord Injury Association - The National Spinal Cord Injury Association is an international nonprofit organization for people living with spinal cord injury. Their mission is to enable people with spinal cord injuries to make choices and take actions so that they might achieve their highest level of independence and personal fulfillment.
(全米脊髄損傷協会)
◆Not Dead Yet - NDY is a grassroots disability rights group formed to oppose the movement to legalize assisted suicide and euthanasia.
Not Dead Yet(NDY・「まだ死んでない」)は、幇助された自殺と安楽死を合法化する運動に反対するために作られた、草の根の障害者の権利のためのグループです。
◆TASH - TASH is a civil rights organization for, and of, people with mental retardation, autism, cerebral palsy, physical disabilities and other conditions that make full integration a challenge.
◆World Association of Persons with Disabilities - WAPD advances the interests of persons with disabilities at national, state, local and home levels.
◆World Institute on Disability - WID is an international public policy center dedicated to carrying out cutting-edge research on disability issue and overcoming obstacles to independent living. It was founded by Ed Roberts, the "father" of the independent living movement.