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安楽死・尊厳死:オランダ


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◆立岩 真也・有馬 斉 2012/10/31 『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院,241p. ISBN-10: 4865000003 ISBN-13: 978-4865000009 [amazon][kinokuniya] ※ et. et-2012.

 第W章 「ブックガイド・医療と社会」より 立岩 真也
  オランダ 2001/01 [連載05]
  ※註でその後に出たものを紹介しています(↓)。

児玉 真美 2016/05/25 「オランダでは、安楽死要件外の高齢者向けに「自殺ピル」の実験開始?」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/65181171.html

児玉 真美 2015/09/12 「オランダのNVVE、高校で安楽死教育をスタート」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/64818083.html

児玉 真美 2015/08/11 「JAMAにベルギーとオランダの安楽死実態調査、カプランがコメンタリーで「すべり坂」用心」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/64769616.html
 →安楽死・尊厳死:ベルギー

児玉 真美 2015/02/20 「オランダの医師の3割が認知症、精神障害、「もう生きてたくない」への安楽死に容認姿勢&機動安楽死チームへの要望は急増中」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/64503802.html

児玉 真美 2014/10/11 「2013年のオランダの安楽死者、前年から15%増」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/64310605.html

児玉 真美 2014/02/20 「オランダ安楽死運動のパイオニア精神科医が「ここ2年で安楽死法は脱線してしまった」」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/63889845.html

児玉 真美 2014/02/05 「オランダの安楽死クリニックで精神障害者9人に安楽死(2013) 」
 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara2/63864139.html

◆2014/01/15 「安楽死は「納得して迎える死」 オランダの現状を本に」
 朝日新聞デジタル [文]北野隆一  [掲載]2014年01月15日
 http://book.asahi.com/booknews/update/2014012200015.html?iref=comtop_list_cul_b01

 写真:オランダの安楽死と在宅ケアの現状について語るシャボットあかねさん(左)とヤープ・シュールマンズ医師=11日、台東区花川戸
 表紙画像:著者:シャボットあかね  出版社:日本評論社 価格:¥ 1,995

 オランダで認められている経口薬や注射による「安楽死」について、同国在住の通訳シャボットあかねさん(66)が、都内や川崎市で講演した。シャボットさんは今月、「安楽死を選ぶ オランダ・『よき死』の探検家たち」(日本評論社)を出版。同国の現状や具体的な事例を、安楽死の処置に携わることの多い家庭医とともに語った。
 シャボットさんによると、同国の「安楽死法」は2002年に施行された。患者からの要請▽絶望的で耐え難い苦しみがある▽他に合理的解決策がない▽独立した医師によるセカンド・オピニオン――など6要件を満たせば、緩和ケアの一環として、医師が処置できる。薬を投与したり、注射したりする方法で患者の生命を終わらせるが、刑法の自殺幇助(ほうじょ)罪や嘱託殺人罪に問われない。
 安楽死が認められた背景として、シャボットさんは、個人の自己決定の尊重や、関係者が納得できるまで対話を尽くす国民性を挙げる。
 安楽死の是非を判断し、処置を担う医師の多くは、家庭医と呼ばれるかかりつけの医師だ。患者の心身の状態や病歴、家族環境、生活環境など全体像をつかんだうえで判断する。
 12年度に同国で報告された安楽死は4188人。このうち家庭医が処置をしたのは3777人に及ぶ。安楽死を求めた人のうち、3251人が末期がんなどの患者。ただ、末期の重病以外でも、「絶望的で耐え難い苦しみ」と医師に理解されれば、安楽死が認められる場合も少数だがあるという。
 11日の台東区での講演会では、オランダ人家庭医のヤープ・シュールマンズさん(52)も経験を語った。昨年は30人をみとり、うち1人は安楽死だった。
 乳がんが骨に転移し余命が長くないと知った女性は「死ぬまで待たず、自分で終わらせたい」と希望。別の医師のセカンド・オピニオンでも認められ、意思表明の5日後に安楽死の処置をした。シュールマンズさんは「有効な治療法がない場合、治療よりも生活の質を保つことが大切な場合もある」と述べた。
 シャボットさんも、自身が要件を満たす状況になったら、安楽死を選びたいと家庭医に文書で伝えた。「安楽死のほとんどは、自宅で家族や愛する人たちに囲まれて納得して迎える死。自己責任の名のもと、孤独のまま死を選ぶ自殺とは対極にある」と強調する。」

◆2014/01/10 市民から見た“望む”看取り〜安楽死を選ぶオランダ〜
 平成26年1月10日(金)午後7時〜9時 くにたち市民芸術小ホール

第1部 基調講演「よき死を探検するオランダ人」
シャボットあかねさん オランダ在住 通訳 コーディネイト 執筆業
新刊『安楽死を選ぶ― オランダ「よき死」の探検家たち」(日本評論社)。『自ら死を選ぶ権利ーオランダ安楽死のすべて』(徳間書店)

第2部「市民から見た“望む”看取り」
シャボットあかね・藤原瑠美(ホスピタリティ☆プラネット)
山本秀子(在宅ケアを考える会代表)

オブザーバー秋山正子(白十字訪問看護ステーション統括所長・
新田國夫(医療法人社団つくし会理事長)

コーディネーター山路憲夫(白梅学園大学教授)

申し込み:国立市在宅療養推進連絡協議会 事務局 042-569-6213

cf.立岩真也・有馬斉 2012/10/31 『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院,241p. ISBN-10: 4865000003 ISBN-13: 978-4865000009 [電子書籍]/[amazon][kinokuniya] ※ et. et-2012.

 「[…]オランダ安楽死関連本情報。以下ざっと並べていく。それにどれだけ意味があるか正直わからない。だが、意外にも多くの本がここ数年の間に出され、そしてそのほとんどが今は買えないということを知っていただいてよいようにも思う。
 まず、ジャネット・あかね・シャボット『自ら死を選ぶ権利――オランダ安楽死のすべて』(シャボット[1995])。著者は日本生まれのオランダ在住の人で、実際にそこに住んで時間をかけて取材をして書かれた本である。病気でなく肉体的な苦痛はなく精神的苦痛だけを理由に自殺幇助を求め、精神科の医師で、著者の親戚でもあるシャボットの幇助を得て死んだ人――これは、少なくとも社会に知られたケースとしては最初だった――の死に至る経緯についての詳しい記述もある。
 『安楽死――生と死をみつめる』(NHK人体プロジェクト編[1996])にも現地取材にもとづいたかなり詳しい紹介がある。「自分では何もできなくなり、すべてを他人に頼らなければならないという状態で……屈辱感に耐えられないという患者」([133])が安楽死を選ぶという部分が私は気になって、『私的所有論』の注でこの前後を含め引用したことがある([1997:168]第四章注12★)。
 生井の本にもそんな部分がある。長くなるが引用する。[…]」

◆2014/01/02
 http://www.nrc.nl/nieuws/2014/01/02/in-the-netherlands-nine-psychiatric-patients-received-euthanasia/
 「In 2013, the end-of-life clinic in The Netherlands, where patients can request euthanasia when they have run out of options, helped nine psychiatric patients end their lives or commit assisted suicide. These were all people of sound body. The clinic, which was founded at the beginning of 2012, received approximately 286 euthanasia requests from psychiatric patients last year. This is approximately one third of the total number of requests.」

◆2014/01/01 「オランダで「安楽死専門クリニック」が話題 「日本」でも開業の日は近い?」  BLOGOS 記事 弁護士ドットコム 2014年01月01日 13:45
 http://blogos.com/article/77102/
 「医師による「安楽死」が合法とされているオランダで、「安楽死専門のクリニック」が話題になっている。クリニックは行政の中心都市デン・ハーグにあり、患者の自宅に医師を派遣して、投薬による「安楽死処置」をするサービスを行っているという。
 同国でも、安楽死処置を行った医師が刑事罰を免れるためには、「患者の苦痛が永続的で、耐えがたい」など、様々な条件をクリアする必要がある。それでも、あるレポートによれば、2005年から2010年にかけて死亡した患者のうち、安楽死を要請した人の割合は4.8%から6.7%に増え、安楽死を容認する医師の割合も37%から45%となった、と報告されている。
 日本でも「いかに死ぬか」への意識は高まりつつある。安楽死を望む声も時折聞かれるが、こうした「安楽死専門クリニック」が日本で開業される可能性はあるのだろうか。金子玄弁護士に話を聞いた。

○積極的安楽死は、形式的には「殺人」になる
 「わが国では、現行法上、安楽死専門クリニックの開業は困難でしょう」
 どうしてだろうか?
 「『安楽死』には、『間接的安楽死』、『消極的安楽死』、『積極的安楽死』の3類型があります。投薬による安楽死処置は、このうち積極的安楽死にあたります。
この積極的安楽死は、直接的に患者の生命を短縮することから、形式的には殺人罪(刑法199条)ないし嘱託・承諾殺人罪(刑法202条後段)に該当します。
 このため、現行法上で合法的に積極的安楽死を行うためには、何らかの理由によって『違法性がない(違法性が阻却される)』と認定される必要があります」

○裁判で「違法性がない」と判断される基準は?
 積極的安楽死について、「違法性がないと判断されるための基準」はあるのだろうか?
 「名古屋高裁・昭和37年12月22日判決は、以下に挙げる6つの要件があれば『違法性が阻却される』と判断しました。この裁判例は以後、基準として機能しています。
(1)病者が現代医学の知識と技術から見て不治の病におかされ、しかもその死が目前に迫っていること
(2)病者の苦痛が甚だしく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものとなること
(3)もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと
(4)病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託・承諾のあること
(5)医師の手によることを原則とし、医師により得ない場合には特別の事情があること
(6)その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものであること」
ずいぶん古い判決だが、基準はいまでも変わらないのだろうか?
「比較的新しいものでは、横浜地裁・平成7年3月28日判決が、次の4要件により、違法性阻却要件を判断しています。
(a)患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること(b)患者の死期が迫っていること
(c)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がないこと
(d)生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること」
日本にも安楽死についての基準は存在するものの、あくまで、こうした条件が全て満たされたごく例外的な場合にのみ、問題がなくなるという判断のようだ。実際に医師が処置を行うためには、安楽死が社会的に容認されたうえで、法律やガイドラインが整備されるなど、超えるべき様々なハードルがあるということだろう。

○オランダとは社会的背景が違う
安楽死が広がるオランダでの動きを、金子弁護士はどうみているのだろうか?
「オランダでは、1980年代から積極的安楽死を巡る議論・実態調査を踏まえて、2001年4月には安楽死を合法化する刑法改正に至りました。
 ただし、そこに至る社会的背景として、ホームドクター制度の充実、インフォームドコンセントの徹底、医療保険制度の整備等が存在することを見逃してはいけません」
 やはり、社会の前提が違う点が大きいのだろう。日本でも今後、安楽死を巡る議論が進む可能性はあるのだろうか? 金子弁護士は次のように締めくくっていた。
 「社会的背景が異なるわが国では、オランダでの実例をそのまま斟酌することはできませんが、患者の自己決定権の尊重の風潮は年々高まっています。立法化の必要も含め、積極的安楽死を巡る議論の深化が望まれるところです」
 【取材協力弁護士】金子 玄(かねこ・げん)弁護士
第一東京弁護士会成年後見委員会副委員長、日弁連高齢者事業対策本部委員。相続・遺言・後見等の高齢者に関する業務全般には特に力を入れている。医療問題にも明るく、病院・歯科クリニック等の医療関係の顧問先の相談も手掛けている。
事務所名: 慶福法律事務所5」

 ※注記:「医療保険制度の整備等」が具体的に何を指しているのか不明だが、以下のような指摘もある。

◇「[…]オランダの安楽死については他に多数文献があるが略。私のホームページに幾つかを掲載。その中で、オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、費用のかかることを行なわないのが得になる仕組みになっていること、この番組でこうした制度を捉える視点が欠如していることを指摘する伊藤[1996:44]が重要である。」(立岩『ALS』p.427)

『私的所有論 第2版』

 「オランダで行われている安楽死や自殺幇助のほとんどは、がんの末期患者で、自分では何もできなくな<0290り、すべてを他人に頼らなければならないという状態で余命予測の二、三日以内の人で、最長でも二、三週間の屈辱感に耐えられないという患者です」(インタヴューに対するオランダ人の回答――後藤猛[1996:133]に掲載。オランダの安楽死について、この文章所収のNHK人体プロジェクト編[1996]、Chabot[1995]。【その後オランダで安楽死した人による著作としてネーダーコールン[2000] [2001]、ジャーナリストによるものとして三井[2003]、平沢[1996]等。法学者によるものとしてTak/甲斐編訳[2009]立岩・有馬[2012]で紹介した。】
 所謂「ペイン・クリニック」が整備され痛みの制御が十分な水準に達した時(オランダではそうだと言う)、自己決定される死は身体的な苦痛から逃れるためのものでなくなる。この時、その決定の理由は、「屈辱感に耐えられない」といった、より「人間的」なものになる。市野川[1993b][1994a][1996e](cf.小松・市野川[1996]、小俣・市野川[1996])が危惧するのはこのことである(第7章注22・318●頁)。」

◆2013/04/12 「オランダ 安楽死、自分貫きたくて紙面で読む――世界の老後 最期は:中」
 http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201304170665.html?ref=com_fbox_u

 写真:楽死した母親アネカさんの写真を手にするビレミンさん=2月、アムステルダム
 「「気が強くて、厳しい人でした」。オランダ・アムステルダムの自宅で、母アネカ・デネレさんの写真を手に次女ビレミンさん(54)はしみじみと語った。2010年3月、楽死する母をみとった。89歳だった。
 独立心が強く、夫が亡くなってから十数年、一人暮らしを続けた。いったん「やる」と決めれば、絶…」→続きを読む [PDF]

◆「[…]オランダの安楽死については他に多数文献があるが略。私のホームページに幾つかを掲載。その中で、オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、費用のかかることを行なわないのが得になる仕組みになっていること、この番組でこうした制度を捉える視点が欠如していることを指摘する伊藤[1996:44]が重要である。」(立岩『ALS』p.427)

◆立岩 真也 2001/05/25 「死の決定について・2」(医療と社会ブックガイド・5)
 『看護教育』2000-5(医学書院)
清水 昭美 200110 「オランダ安楽死法案可決と安楽死の実態――医療職の倫理とは」
 『Nursing Today』16-11(2001-10):070-073 ※
◆田村 亜子 2000 「「死の権利」の現状について――日本、オランダ、アメリカの比較から」,愛知県立看護大学・卒業論文

◆「射水市民病院事件」から安楽死=尊厳死を考える学習会参加者一同→北日本新聞社 「いのちの回廊」取材班 2006/6/18 「抗議・要請文」
◆2006/06/19 「射水市民病院事件」から安楽死=尊厳死を考える学習会参加者一同 北日本新聞社に対する、6/8付「いのちの回廊」オランダ篇3記事に関しての抗議―話し合い行動  →報告
◆(NPO)文福→北日本新聞社 2006/06/20 「いのちの回廊 生と死の地平 オランダ編6月8日記事について 抗議及び要望書」

1971 ポストマ医師安楽死事件
1973 王立オランダ医師会(KNMG)の声明
1981 検察長官委員会の設置
1981 オランダ国家安楽死委員会の設置
1984 KNMGの「安楽死に関する公式の見解」
1984 KNMGの「医師へのガイドラインの5要件」
1984 アルクマール事件
1985 ハーグ下級裁判事件
1990 アメロ地裁事件
1990 「安楽死報告届出制度」の確立、施行
1991 レメリンク・レポート
1991 オランダ法務省による安楽死の定義の公表と「安楽死5要件」
1993 オランダの「改正埋葬法」
1994 バウドワイン・シャボット医師事件
1994/11/16TBS「スペースJ」でオランダのドキュメンタリー番組「依頼された死」放映(↓)

……
20001128 下院、「患者の明確な要請がある」などの要件を満たした場合、安楽死を完全に合法とする法案を可決
20001129 ローマ法王庁オランダの刑法改正案を非難


◆安村 勉 19970420 「オランダの安楽死問題 資料解説」
 町野朔他編[1997:071-072]
◆オランダ最高裁判所刑事部 19841127 「オランダ最高裁判所刑事部1984四年11月27日判決(アルクマール事件)」
 町野朔他編[1997:073-076]
◆オランダ最高裁判所刑事部 19861021 「オランダ最高裁判所刑事部1986年10月21日判決(フローニンゲン事件 [第一次上告審])」
 町野朔他編[1997:076-080]
◆オランダ最高裁判所刑事部 19940621 「オランダ最高裁判所刑事部1994年6月21日判決(シャボット事件)」
 町野朔他編[1997:080-083]
◆オランダ 1993 「埋葬法(1993年12月2日の改正法による正文)」
 町野朔他編[1997:083-090]
◆オランダ  「法務大臣/福祉・厚生・文化次官「解説」」(抄)
 町野朔他編[1997:090-091]

◆「オランダで行われている安楽死や自殺幇助のほとんどは、がんの末期患者で、自分では何もできなくなり、すべてを他人に頼らなければならないという状態で余命予測の二、三日以内の人で、最長でも二、三週間の屈辱感に耐えられないという患者です」(インタヴューに対するオランダ人の回答――後藤猛[1996:133]に掲載。オランダの安楽死について、この文章所収のNHK人体プロジェクト編[1996]、Chabot[1995])。所謂「ペイン・クリニック」が整備され痛みの制御が十分な水準に達した時(オランダではそうだと言う)、自己決定される死は身体的な苦痛から逃れるためのものでなくなる。この時、その決定の理由は、「屈辱感に耐えられない」といった、より「人間的」なものになる。
 立岩『私的所有論』第4章注12(p.168)

 
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■「依頼された死」

◆1994/11/16TBS「スペースJ」でオランダのドキュメンタリー番組「依頼された死」放映(↓)
 cf.
 「医師からALSと診断され、治療法もなく、このままでは三年から五年の命と宣告されたケース・ファンウェンデルデヨーテさん(63歳)は、自らの意思で安楽死を選択する。オランダでは精神的、肉体的苦痛から緩和するための安楽死が認められており、彼は合法的とされる安楽死の要件を完全に満たしていると判定を受ける。
 日に日に衰えていく肉体と不安に襲われ、ホームドクターとのたび重なる会話のなかで、安楽死を決行する日取りが決定する。
 自分の誕生日にアムステルダムの自宅で妻が見守る中、ホームドクターの手により、睡眠剤で眠りについた彼に、筋肉弛緩剤が注射される……静かに訪れる死。
 妻はこの間、時折すすり泣き、一度は部屋を出ていくが、終始ベッドのわきにいて彼の手を握り、頬に口づけをする。すべて終わったとき「大丈夫?」とホームドクターが肩を抱き、声をかける。「ええ、これでよかった」と妻は答える。
 安楽死の日取りが決定してから、彼はタイプに向かい、やっと動く手で妻に長い手紙を書く。「この病気になってから、ずっと死のことを考えてきた。これしかない。長い間ありがとう。」(『JALSA』034号(1995/04/01):17,誰による文章であるかは不明)
◆1994/11/15 『朝日新聞』東京朝刊 33 頁 3社面 T941115M33-Z05
 オランダの「安楽死」番組、TBSであす放映

◆1994/11/17 『朝日新聞』東京朝刊 34 頁 2社面 T941117M34--03
 オランダの「安楽死実況」こう見た TBSに反響500件

◆1994/12/22 東京朝刊 4 頁 オピニオン面 T941222M04--01
 安楽死―テレビ放映をみて 黒柳弥寿雄(論壇)

◆1995/02/02 『朝日新聞』に番組の内容に対する異議掲載
 ↓
 1995/02/02 『東京朝刊 29 頁 3社面 T950202M29--01
 難病団体が異議、新番組検討 TBS「安楽死」は一面的(メディア)

◆加賀乙彦「オランダ安楽死ドキュメンタリーへの疑問」
 『婦人公論』1995-02:214-217

星野 一正 19950228 「テレビ放映されたオランダ安楽死に対する異議を質す」(民主化の法理=医療の場合)
 『時の法令』1492:55-60(全文↓)
 http://cellbank.nihs.go.jp/information/ethics/refhoshino/hoshino0018.htm

◆下村健一「テレビ・ジャーナリストの仕事――TBS記者14年の経験から」
 同志社大学社会学会公開講演会
 http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/STUDENT/junior99/junior99-shimomura.html
 日時:1999年7月8日(木)13:00〜14:40
 場所:同志社大学今出川校地
 主催:同志社大学社会学会

 「[…]これは別に、日本のメディアだけが悪いというのではありません。以前『スペースJ』で、医者が注射を打って患者さんが亡くなっていく一部始終を撮影したオランダの安楽死ドキュメンタリーを放送したことがあったのですが、その時も、森監督の場合と同じでした。ドキュメンタリーの中で安楽死を選んだ患者さんの未亡人に、私たちはインタビューをお願いしました。その時、世界中のメディアからその方にアプローチがあったそうですが、OKの返事を得たのは我々だけでした。インタビューの後で、「どうしてうちだけ受けてくれたのですか」と尋ねると、「手紙を書いて申し込んで来たのは貴方たちだけだったから」というお答えでした。他は電話を繰り返しかけたり、いきなりピンポーンとやってくる形だったそうです。誠実なお手紙をいただいたのでお受けしたのですと言われたときにはびっくりしましたが、どうもこういうことは世界共通のようですね。[…]」

 
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■報道:『朝日新聞』

▼90/01/09 東京夕刊 14 頁 2社面 T900109E14--05
オランダで安楽死巡り論争 医師が患者の栄養補給停止
▼90/01/13 東京夕刊 14 頁 2社面 T900113E14--08
15年間こん睡の女性の安楽死認める オランダの地裁
▼90/02/06 東京夕刊 5 頁 みんなの科学面 T900206E05--03
オランダ政府、安楽死の実態調査で委員会 法制化論議へのデータ収集
▼91/06/06 東京夕刊 3 頁 LG面 T910606E03--02
迫りくる死、ビデオに記録 オランダの写真家エルスケン
▼93/02/10 東京朝刊 3 頁 PG3面 T930210M03--01
「積極的安楽死」を容認 オランダ議会、医師不起訴の法案可決
▼93/02/26 東京朝刊 31 頁 SK1面 T930226M31--04
障害持つ赤ちゃんの延命放棄、年数百件 積極的生命中断も オランダ
▼93/03/02 東京朝刊 5 頁 KM面 T930302M05--01
先行する現実「公認」 オランダの安楽死法案
▼93/03/24 東京朝刊 30 頁 SK2面 T930324M30--08
安楽死の希望をハンストで実現 オランダの65歳の女性
▼93/10/02 東京朝刊 29 頁 SK3面 T931002M29--07
健康な女性の安楽死、ほう助の医師に「無罪」 オランダ
▼93/12/01 東京夕刊 1 頁 PG1面 T931201E01--07
安楽死、オランダで公認 世界初の法、年明け発効
▼93/12/20 東京朝刊 5 頁 OP1面 T931220M05--09
安楽死認められたオランダでの生死観の違い(声)
▼94/06/22 東京朝刊 31 頁 SK1面 T940622M31--09
うつ状態患者の自殺手助け、医師罰なし オランダ最高裁
▼94/10/22 東京朝刊 31 頁 1社面 T941022M31--06
安楽死、臨終までTV放映 難病の63歳、すすり泣く妻… オランダ
▼94/11/15 東京朝刊 33 頁 3社面 T941115M33-Z05
オランダの「安楽死」番組、TBSであす放映
▼94/11/17 東京朝刊 34 頁 2社面 T941117M34--03
オランダの「安楽死実況」こう見た TBSに反響500件
▼94/12/22 東京朝刊 4 頁 オピニオン面 T941222M04--01
安楽死―テレビ放映をみて 黒柳弥寿雄(論壇)
▼95/02/01 東京朝刊 16 頁 第2家庭面 T950201M16-T04
安楽死は患者の決断で オランダの状況を通訳のシャボットさんに聞く
▼95/02/02 東京朝刊 29 頁 3社面 T950202M29--01
難病団体が異議、新番組検討 TBS「安楽死」は一面的(メディア)
▼95/02/21 西部朝刊 地方版 福岡2面 S950221MFO2-06
オランダのシャボットさん、自国の尊厳死語る /福岡
▼95/04/12 東京朝刊 31 頁 1社面 T950412M31--10
赤ちゃん安楽死の是非を問い裁判開始 オランダできょう
▼95/04/27 東京夕刊 15 頁 1社面 T950427E15--07
赤ちゃん安楽死も刑免除 殺人「有罪」の医師に オランダ裁判所


◆20000510

◎1年間の安楽死、2565件=オランダが初の報告書を発表
 【ブリュッセル10日時事】医師による安楽死が適切なものだったかどうかを検討するオランダの8つの安楽死地域審査委員会は10日、初の年次報告書を発表、1998−99年度(98年11月−99年12月)に2565件の報告を受けたことを明らかにした。
 同報告は安楽死の対象となった患者の90%以上ががんを患っていたと指摘、全報告例のうち3件を除き、いずれも医師は規則に沿った適切な措置を取ったとしている。各審査委員会は法律家、医師、倫理専門家で構成されている。
 時事通信ニュース速報[時事通信社]
[2000-05-11-01:03]

 
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■文献(発行年順)

◆林 かおり 199412  「オランダ「安楽死法」の成立」
 『レファレンス』527:81-87 ※
◆森下 忠  1995   「オランダにおける末期患者の生命中絶」
 『判例時報』1481 ※
◆森下 忠  1995   「オランダにおける生命中絶の実情」
 『判例時報』1484 ※
◆Chabot, Janette A. Taudin(ジャネット・あかね・シャボット) 19950131 『自ら死を選ぶ権利――オランダ安楽死のすべて』,徳間書店,238p. ISBN-10: 419860231X ISBN-13: 978-4198602314 \1426 [amazon][kinokuniya] ※ d01 et.et-ned.山下 邦也 19950111 「オランダにおける安楽死問題の新局面――オランダ最高裁94年6月21日判決を中心に」
 『判例時報』1510:3-11
星野 一正 19950228 「テレビ放映されたオランダ安楽死に対する異議を質す」(民主化の法理=医療の場合)
 『時の法令』1492:55-60
◆山下 邦也 199609  「オランダ医師会の安楽死に関する新ガイドライン(1995年)」
 『香川法学』16-2:328-301
◆平野 美紀 199609  「オランダにおける安楽死をめぐる諸問題」
 『法学政治学論究』30:321-358
◆平野 美紀 199610  「オランダにおける安楽死の現状とその背景」
 『日蘭学会会誌』21(1):1-22
◆平沢 一郎 19961112 『麻薬・安楽死の最前線――挑戦するオランダ』
 東京書籍,231p. 1553 ISBN:4-487-79291-6 [amazon] ※ b d01 ts2007a
宮野 彬  199705  『オランダ安楽死政策――カナダとの比較』,成文堂,5,000円 ISBN:4-7923-1439-9 ts2007a
◆山下 邦也 199706  「オランダの新聞報道にみる安楽死論議と新政策――とくに地域審査委員会構想との関連で」
 『香川法学』17-1:232-116
◆山下 邦也 199709  「オランダにおける安楽死評価調査と申告手続の改正等をめぐる動向」
 『香川法学』17-2:432-329
◆平野 美紀 199803  「オランダにおける安楽死問題の行方――シャボット事件を中心に」
 『日蘭学会会誌』22(2):19-39
◆山下 邦也 199803  「オランダにおける医師と看護婦のための安楽死ガイドライン(1997年)」
 『香川法学』17(4):800-789
◆山下 邦也 199903  「オランダにおける自殺援助をめぐる諸問題――安楽死論議の関連で(1)」
 『香川法学』18-3・4:603-651
◆山下 邦也 1999   「オランダにおける安楽死申告手続の改正」
 『庭山英雄先生古稀祝賀記念論文集』
◆山下 邦也 1999   「オランダ・第二次コック内閣の安楽死法案」
 『井戸田侃先生古稀祝賀記念論文集』
◆田村 亜子 2000   「「死の権利」の現状について――日本、オランダ、アメリカの比較から」,愛知県立看護大学・卒業論文

◆ネーダーコールン 靖子 20000917 『オランダはみどり』,ながらみ書房,259p. ISBN-10: 4931201318 ISBN-13: 978-4931201316 2625 [amazon] ※ et-ned.
◆ネーダーコールン 靖子/秋岡 史 解説・編 20010730 『美しいままで――オランダで安楽死を選んだ日本女性の「心の日記」』,祥伝社,249p. ASIN: 4396410123 1600 [boople][amazon] ※ et-ned.
◆三井 美奈 20030720 『安楽死のできる国』,新潮社,新潮新書,189p. ISBN: 4106100258 714 ※ [amazon] ※ et-ned.
◆山下 邦也 200603 『オランダの安楽死』,成文堂,267p. ISBN-10: 4792317134 ISBN-13: 978-4792317133 5250 [amazon][kinokuniya] ※ d01.et.et-ned. ◆Tak, Peter J. P./甲斐 克則 編訳 20090725 『オランダ医事刑法の展開――安楽死・妊娠中絶・臓器移殖』,慶應義塾大学出版会,199p. ISBN-10: 4766415566 ISBN-13: 978-4766415568 4000+ [amazon][kinokuniya] ※ be.et.a08.et-ned.ot.

 

◆2000/11/28 朝日
オランダが安楽死を合法化 下院で法案可決、国として初
 オランダ下院は28日、「患者の明確な要請がある」などの要件を満たした場合、安楽死を完全に合法とする法案を可決した。オランダでは安楽死がすでに行われているが、刑法上はまだ犯罪のままだった。上院審議を経て、来年前半にも施行される見通しで、国としては世界で初めて安楽死を認める。欧州の他の国でも法制化の動きが出ており、患者本人が死に方を選ぶ最近の流れに拍車をかけそうだ。
 安楽死事件が社会問題化した1973年以降、オランダでは安楽死をめぐる論議が続けられてきた。93年には、
(1)患者の明確な要請がある
(2)耐え難い苦痛がある
(3)他に救う手段がない
(4)他の医師と協議する、
などの要件を満たし、報告を行えば、医師は刑事訴追を免れることになった。
 だが、刑法上は医師は犯罪者のままで、医学界や患者団体などから改善を求める声が出ており、これを受けて政府が昨年夏に「合法法案」を提出。要件を満たした安楽死を違法としないことを目指していた。
 オランダでは過去4年間に、医師が筋肉弛緩(しかん)剤などを注射する「積極的安楽死」と、患者本人が調合された薬を飲む「自殺ほう助」とを合わせた安楽死の報告例が約6500件にのぼる。そのうち起訴されたのは8件だけだった。
(00:23)

◆2000/11/28 「オランダが安楽死を合法化へ」 読売
 「【ハーグ28日=三井美奈】オランダ下院は二十八日、医師による安楽死を認める刑法改正を盛り込んだ安楽死法案を賛成多数で可決した。上院での可決も確実で、年内にも成立する見込み。国家レベルで安楽死が合法化されるのは世界初。
 オランダではすでに安楽死が事実上、広範囲に認められているが、これまでは形式上、医師も嘱託殺人で書類送検されていた。また同法案は十二歳以上の未成年者にも安楽死の権利を認めており、これも世界的に類例がない。同法施行は来年後半とみられるが、今後、安楽死合法化をめぐる国際的論議に影響を与えそうだ。
 オランダの安楽死法案は、〈1〉患者の自発的意思〈2〉耐え難い苦痛〈3〉治癒の見込みがない〈4〉担当医師が第三者の医師と相談――などの条件を満たす安楽死について、医師の刑事訴追免除を刑法で定めるといった内容。また、こん睡状態などで意思表示が出来なくなる事態に備え、患者が事前に安楽死希望を表明すれば、医師は原則として、患者の希望に従わねばならないことも条文化されている。
 また未成年者(オランダでは十八歳から成年)の安楽死についても、十二―十五歳では親の同意が必要、十六歳以上は親の同意がなくても、医師が必要と判断すれば安楽死できるようになる。
 オランダでは九四年施行の改正埋葬法で、今回と同様の条件があれば、安楽死の措置をとった医師に対し、嘱託殺人容疑で書類送検されるものの、刑事責任を問わないことが法的に可能になった。以後、安楽死の社会的な受け入れが進み、年間の全死者のうち3%が安楽死で亡くなっている。今回の安楽死合法化についても、世論調査で92%が支持している。
 ただ現行制度では、安楽死させた医師は形式的とはいえ例外なく容疑者にされるため、医師の反発も強く、無届けでの安楽死も多かった。
 世論の支持があるため、下院での審議での焦点は、改正の是非よりも、「子供や意表明ができない痴ほう老人にも安楽死を許容すべきか否か」に絞られた。
 労働党を中心とする連立与党は当初、「患者の自己決定権」尊重の立場から、十二歳以上の子供も親の同意なしに安楽死できる権利を盛り込んだ。しかし議会に約二万通の反対の投書が殺到したため、十二―十五歳は親の同意を条件に加える修正を行った。
 痴ほうについては、政府は今月初旬、「病気」と診断された場合に限る、との法案解釈を示し、アルツハイマー病患者への安楽死を事実上認める立場をとった。オランダでは九四年、最高裁判決で精神病患者への安楽死が事実上容認され、すでに、強度の痴ほうやアルツハイマー患者を安楽死させた医師が不起訴となるケースも相次いでいる。先月には「もう生きる価値がない」と訴えた健康な高齢者(86)を安楽死させた医師に対し、「刑事責任を問えない」との地裁決定も出ている。
 安楽死合法化は、オーストラリア北部準州(一九九五年)や米国オレゴン州(九七年)の州レベルで成立したことはあるが、いずれも連邦議会が「違法行為」として無効法案を可決している。」
(11月28日23:34)

◆2000/11/29

<安楽死>オランダの刑法改正案を非難 ローマ法王庁
毎日新聞ニュース速報
 【ローマ29日井上卓弥】安楽死を認める刑法改正案がオランダ下院で可決されたことに対し、ローマ法王庁(バチカン)のナバーロ報道官は28日、「医学界で国際的に認められた倫理規定に逆行する」と論評、「人間の尊厳に反する決定であり、悲しむべきことだ」と非難した。
 バチカンは「人間の生命は受胎で始まり、自然死で終わる」と主張。教会法では「高額の医療費と危険を伴う末期患者への延命治療は本人または家族の意思によって中止できる」と規定しているが、オランダで慣例的に認められてきた薬物投与などによる(積極的な)安楽死には反対の立場を貫いている。
[2000-11-29-09:55]


 

◆Hendin, Herbert 1997 Seduced by Death: Doctors, Patients, and Assisted Suicide,Georges Borchardt, Inc.=20000330 大沼安史・小笠原信之訳,『操られる死――<安楽死>がもたらすもの』,時事通信社,323p. 2800

 オランダの死亡者の2%。

 カルビニズムの伝統(p.169-170)
 「カルビニズムの残滓はオランダ人の生活の中になお浸透している。カーロス・ゴウメイスの引用によると、NVVE(オランダ安楽死協会)のウィリアム・ルースはこう語っている。「オランダの人間はだれでもカルビニストです。プロテスタントもカルビニストなら、カトリックもカルビニスト。私のような無神論者でさえ、そうです。この国の共産主義者は最悪のカルビニストでしょう。それは一体、何を意味するのか。それはわれれわが規則好きだということです。しかし、その規則の意味をとやかく言われることは、好きじゃないんです。」(p.177)


 

◆<安楽死>日本では判断、評価定まらず 反応もさまざま
 毎日新聞ニュース速報
 「オランダで10日夜(日本時間11日未明)、一定の条件を満たせば医師による安楽死を合法化する法律案が上院を通過した。専門機関などでの長年の討議を経て下された結論で、法律は今秋発効の予定という。日本でもこれまで医師が関与した「安楽死」事件が幾度となく起こり、社会問題化したが、司法当局の判断も異なるなど、安楽死をめぐる判断、評価は定まっていない。法案成立の知らせを聞いた識者の間でも反応は定まらなかった。
 日本では、1991年4月、神奈川県伊勢原市の東海大医学部付属病院で、悪性リンパ腫(しゅ)で入院中の男性患者(当時56歳)が、主治医に塩化カリウムを投与され死亡した事件で、安楽死の是非が議論を呼んだ。
 「『見ていられない。早く楽にしてください』と家族から何度も懇願された」と主張する主治医。一方遺族は「薬剤が命を絶つと知っていれば注射を断っていた」と反論した。神奈川県警は殺人容疑で主治医を書類送検。横浜地裁は95年3月、主治医に懲役2年、執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。判決では(1)患者が耐えがたい苦痛に苦しんでいる(2)死が避けられず、死期が迫っている(3)肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段がない(4)生命の短縮を承諾する患者の明らかな意思表示がある――と違法とされない新基準を示した。
 死期を早める安楽死と異なり、延命治療を拒否する尊厳死を広めている日本尊厳死協会(東京都文京区)の大図俊朗事務局長は「日本とオランダとでは国情が違うので、日本で直ちに安楽死の方向に進むという状況ではない」と冷静に受け止めた。
 大図事務局長によると、オランダでは高齢者、障害者の一人暮らしが当たり前なほど医療や福祉が充実し、個人主義も浸透している。「すでに医療の現場では、患者の意思を尊重して事実上安楽死が行われており、今回は実態に合わせ法律を整備したのだろう」という。
 同協会で尊厳死の意思を明らかにするリビング・ウィル(宣言書)を持つ会員は4月9日現在9万4434人。大図事務局長は「尊厳死は患者が延命治療を拒否するという自己決定権の問題で、医師の行為によって死を迎える安楽死とは異なる。私たちは、自然な死を望んでいる。安楽死は日本の刑法に触れる犯罪で、直ちに受け入れられるとは思えない。オランダやベルギーで今後どのように安楽死が行われていくか、動向を見守りたい」と話した。
 海外では、米ニュージャージー州最高裁が76年「死ぬ権利」を認めた。87年、世界医師会が「安楽死は本人の要請に基づくものであっても倫理に反する」と宣言。96年には、米サンフランシスコ、ニューヨークで、患者の「死ぬ権利」を認める判決が出された。97年には米オレゴン州の住民投票で、安楽死法案が可決され、同法が施行された。
 一方、オーストラリアでは、96年に施行された北部準州の安楽死法を無効とする連邦法が成立するなど「死ぬ権利」をめぐる判断は揺れている。
 ■合法化の前に論議を 日本緩和医療学会理事長、柏木哲夫・大阪大学大学院(人間科学研究科)教授の話 オランダは患者の性格や家族の事情を知り尽くした家庭医という歴史があるが、安楽死がすべての医療行為が尽くされた上での最終手段かどうか疑問が残る。論議せずに合法化されれば、安易に安楽死を選んだり、患者に死を迫る事態になりかねない。法以前に尽くすべきことはまだあるはずだ。
 ■日本では時期尚早 星野一正・京都大名誉教授(生命倫理)の話 オランダは徹底した個人主義の国で、自分のプライドを維持しQOL(生命、生活の質)を高めることを最大の関心事としている。そのオランダで30年前に安楽死事件が発生したのがきっかけで、安楽死を研究する専門機関ができ、安楽死協会も誕生した。歯止めをかけるべきだという意見もあるが、オランダのこれまでの取り組みを考えると、安易な批判は避けるべきであり、この結論を評価したい。安楽死というのは、個人の責任と同時に社会に果たしている自分の責任を十分考えて成立する。こうした認識が成熟していない日本では安楽死を認めるのは時期尚早だろう。」
[2001-04-11-12:40]


 

◆立岩 真也 2001/05/25 「死の決定について・2」(医療と社会ブックガイド・5),『看護教育』2000-5(医学書院)
◆立岩 真也・有馬 斉 2012/10/31 『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院,241p. ISBN-10: 4865000003 ISBN-13: 978-4865000009 [amazon][kinokuniya] ※ et. et-2012.

 第W章 「ブックガイド・医療と社会」より 立岩 真也
  オランダ 2001/01 [連載05]
  ※註でその後に出たものを紹介しています。


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