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Leslie Burke 裁判



堀田 義太郎有馬 斉安部 彰的場 和子 2009/02/25 「英国レスリー・バーグ裁判から学べること――生命・医療倫理の諸原則の再検討」,『生存学』1:131-164

■「安楽死・尊厳死:イギリス」の年表より(裁判以外の事項含む)
■研究
■バーク裁判第二審
■Guardian 新聞記事 Leslie Burke 裁判 【記事抜粋・メモ】

 バーク氏の疾患:脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Ataxia : SCA)= Spinocerebellar degeneration:SCDとも言う。
 神経系の難病の1つ。日本でも特定疾患に指定されている。運動失調を主症状とし、小脳、脊髄に病変の主座をもつ原因不明の変性疾患の総称。パーキンソン病様の症状を伴う場合もある(日本では全SCDの約35%を占めており、一番多い)。


■「安楽死・尊厳死:イギリス」の年表より(裁判以外の事項含む)

20030819 バーク氏訴状を提出
20031023 訴状の受理

20040108 Joffe 卿P(AD)法案を修正してADTI 法案として提出
20040226,27 バーク裁判ヒアリング
20040309 ECHR Glass事件(重度障害者に母の同意なしにリスクの高い鎮痛剤投与)で英国政府に賠償命令
20040310 ADTI法案 特別委員会に付託 
20040617 MCA下院提出(第一読会)
20040731 バーク裁判高等裁判院判決(Munby 裁判官)
200408 Munby 判決に対しGMC控訴 
200411 ADTI法案継続して議会審議を確認

20050404 ADTI法案特別委員会報告書発行
20050407 MCA成立(2007年4月1日施行)
20050516,17,18 バーク裁判控訴審ヒアリング
20050728 バーク裁判控訴審判決(Phillip裁判官)Munby判決の廃棄
200510 貴族院 バーク氏の控訴を棄却(英国での司法判断の決定)
20051010 貴族院でADTI法案報告書に関する討議
20051109 Joffe卿、修正ADTI法案再提出

200601 CNK結成/VES名称をDeath with Dignity に変更
200605 バーク氏ECHRへ訴状を提出
20060512 Joffe Bill 上院で討論の末、採決されず審議延期。(Joffe卿は再提出を示唆)
200608   ECHR バーク氏の訴えの棄却の決定


 
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■研究

的場 和子藤原 信行堀田 義太郎 2007/05/19 「英国における尊厳死法案をめぐる攻防1――2003−2006」
 日本保健医療社会学会第33回大会 於:新潟県医療福祉大学
堀田 義太郎的場 和子 2007/05/19 「英国における尊厳死法案をめぐる攻防3――英国Leslie Burke裁判Munby判決の再評価」
 日本保健医療社会学会第33回大会 於:新潟県医療福祉大学
堀田 義太郎有馬 斉安部 彰的場 和子 2009/02/25 「英国レスリー・バーグ裁判から学べること――生命・医療倫理の諸原則の再検討」,『生存学』1:131-164


 
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■バーク裁判第二審

 翻訳・紹介・分析:堀田義太郎

※ 前提
 バーク氏の疾患:脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Ataxia : SCA)= Spinocerebellar degeneration:SCDとも言う。
 神経系の難病の1つ。日本でも特定疾患に指定されている。運動失調を主症状とし、小脳、脊髄に病変の主座をもつ原因不明の変性疾患の総称。パーキンソン病様の症状を伴う場合もある(日本では全SCDの約35%を占めており、一番多い)。

◆ バーク裁判で問題になったガイダンスの部分 13、16、32、42、81節

13 自分で決定できる成人患者
理解力のある成人患者は、どんな治療に対してもその利益、負荷、危険性にどの程度の重きをおくのかということ、および全般的な治療の容認について決断する権利を有している。患者は拒否すると自らに害を及ぼしうるような場合、さらには自らの死を招くことがある場合でも治療を拒否する権利がある。医師は法律上、その意思を尊重する義務を負っている。理解力のある成人患者は、これから起こりうる治療に関して自らの意思を事前指示で表明することができる。
13. Adult competent 3 patients have the right to decide how much weight to attach to the benefits, burdens, risks, and the overall acceptability of any treatment. They have the right to refuse 4 treatment even where refusal may result in harm to themselves or in their own death, and doctors are legally bound to respect their decision 5. Adult patients who have the capacity to make their own decision can express their wishes about future treatment in an advance statement.
Adult patients who cannot decide for themselves

16
これらの原則を適用してゆくと、当然患者の見込める利益や負荷、リスク評価およびこれらのどれに重きを置くか、優先順位をつけるかということは患者ひとりひとりが異なる価値観、信念、優先事項をもっているため、事例ごとに異なる結果が導き出される。医師は治療を提供するとき、患者の選好というものに配慮しなければならない。とはいえ、患者が、医師の考える視点から臨床的に相応しくないような治療を受けたいと希望するとき、医師はその治療を提供する倫理的法的義務を全く負わない。
16. Applying these principles may result in different decisions in each case, since patients' assessments of the likely benefits and burdens or risks, and what weight or priority to give to these, will differ according to patients' different values, beliefs and priorities. Doctors must take account of patients' preferences when providing treatment. However, where a patient wishes to have a treatment that - in the doctor's considered view - is not clinically indicated, there is no ethical or legal obligation on the doctor to provide it. Where requested, patients' right to a second opinion should be respected.

32
患者のケアの責任者であるコンサルタントもしくはかかりつけ医(GP)であるならば、段落41-48、53-57に説明されているように、患者自身、あるいは患者に近しい人の観点を斟酌しながら、延命治療を中止すべきか、または差し控えるべきかを決断する責任を負う。救急の場合は例外で、上位の臨床医とその時点で接 触できない場合、適切な経験を有する病院研修医、またはかかりつけ医代理の場合であってもこの責任を負わざるを得ない場合がありうる。しかしこの場合は、できる限り早急に上位医師と話し合う必要がある。
32. If you are the consultant or general practitioner in charge of a patient's care, it is your responsibility to make the decision about whether to withhold or withdraw a life-prolonging treatment, taking account of the views of the patient or those close to the patient as set out in paragraphs 41-48 and 53-57. Exceptionally, in an emergency where the senior clinician cannot be contacted in time, if you are an appropriately experienced junior hospital doctor or deputising general practitioner you may take responsibility for making the decision, but it must be discussed with the senior clinician as soon as possible.

42
 たとえその決定が患者自身の死を導く決定を含意していたとしても、大人の患者が決定能力を持った状態での治療拒否を尊重しなければならないということを銘記すべきである。たとえ特別な治療を要求され、あなたの見解でそれが臨床的に不適切だった場合には、あなたは法的あるいは倫理的にそれを提供しなくてもよい。しかし、あなたは患者に、その見解を理由をもって明確に説明し、患者がセカンドオピニオンを要求するならばそれを尊重すべきである。
42. You should bear in mind that you are bound to respect an adult patient's competently made refusal of treatment even where complying with the decision will lead to the patient's death. If a specific treatment is requested which, in your considered view is clinically inappropriate, you are not legally or ethically bound to provide it. However, you should give the patient a clear explanation of the reasons for your view, and respect their request to have a second opinion.

81(一部)
・死が目前に迫っていない場合は、通常は、人工的水分/栄養の補給を継続することが適切であるだろう。しかし、患者の状態がかなり重篤で予後がかなり悲観的で、さらに人工的水分/栄養の補給が患者にとって苦痛を生じせしめている、または得られる利益に関して重荷でありすぎる、とあなたが判断するような事態も生じるかもしれない。

◆ バーク裁判控訴審【3】に引用された第一審の【48】段落――想定されている状況

「医学的証拠は、彼の最後の日に至るまで、原告はANHによって生存しているとしても、自分自身に対する決定を行う能力を保持していると同時に、おそらくはコンピューター装置を通してならば、その希望をコミュニケートする能力を保持しているだろうということを明確に示している。その最後の日々に至って、彼は、自らを取り巻く状況と苦境を認知し評価する能力を失うのではなく、それ以前に、コミュニケーション能力を失うだろう。彼はその後で、死ぬ直前には半昏睡状態に陥ることになるだろう」

◆ バーク氏の懸念
 「その生命はもはや生きているに値しない、という決定を医師が自分に対して行うことを望まない」

○ ガイダンス:第32節の一部
  患者のケアの責任者であるコンサルタントもしくはかかりつけ医(GP)であるならば、段落41-48、53-57に説明されているように、患者自身、あるいは患者に近しい人の観点を斟酌しながら、延命治療を中止すべきか、または差し控えるべきかを決断する責任を負う

○ ガイダンス:第81節の一部

・死が目前に迫っていない場合は、通常は、人工的水分/栄養の補給を継続することが適切であるだろう。しかし、患者の状態がかなり重篤で予後がかなり悲観的で、さらに人工的水分/栄養の補給が患者にとって苦痛を生じせしめている、または得られる利益に関して重荷でありすぎる、とあなたが判断するような事態も生じるかもしれない。

◆ 控訴審のコメントで直接対応する箇所

第8段落
「患者が終末期疾患の最終段階にある場合、ANHの装着は生命を延長しないだろうし、場合によっては死を速めることさえありうる」

第9段落
「重要なことは、それが生命を短縮するような状況でのANHの停止と、それがもはや生命を維持する効果を持たないがゆえに、停止が生命の短縮にはならないような状況での停止との区別である。この区別は実際にはつねに簡単なものであるわけではない。たとえば、患者は死にゆく過程の一部として、食べたり飲んだりすることを止めるということが明らかである。そうした状況で、ANHを装着することは、ある意味で死にゆく過程を遅らせることになるだろう」

コメント だが、この裁判官の主張は間違いである。区別できる。ここで例に挙げられている「死にゆく過程を遅らせる」こととは、「生命を維持する効果がある」ということである。「生命を維持する効果をもつ処置を止める」ことを、「死にゆく過程を遅らせることをやめる」と表現する必要はない。それは「生命を短縮する」ことである。逆に言えば、たとえば人工透析であれインシュリンの注射であれ、いかなる治療も、「死にゆく過程を遅らせることをやめる」ことであると言おうと思えば、そう言える。だが、わざわざそう言うことに意味はない。ここで採用されている区別があるとすれば、そう言える場合/言えない場合の区別である。問題は、そう言える場合とはどういう場合か、である。

第22段落
・Munby判決は裁判所が行うべき助言・果たすべき役割を超えた主張を行っている。
・またBurke氏の懸念は時期尚早であり、理解し難い。

「われわれは次の事実を見逃すべきではない。つまり、何年か後に、バーク氏が最後の昏睡に陥る直前の短期間、自らの望みを伝達できないが知覚能力を有している時点がありそうだという事実である。その時点でのANHの停止の含意は、彼に意識のある最後の瞬間を安楽にするような効果をANHが有するかどうかに決定的に依存するだろう。」

第33段落
「法は、ANHの装着や他の生命維持治療によって、患者を生かし続けておく義務が絶対的なものではないということを承認してきたのだが、そうした例外は以下のような状況に限られる。(1)決定能力のある患者がANHを拒否している場合、そして(2)患者が決定能力を欠いており、患者を人工的に生かしておくことが、患者の最善の利益にならないと思われる場合。法が最も困難だとみなしてきたのは二番目の例外に関してである。法廷は、極度の苦痛がある場合、患者にとって不快であるかあるいは(or)尊厳を損なう場合、患者が決定能力をもたないけれども感覚を有しており、そして(and)その人が明らかに生かされ続けることを望んでいなかった場合、そうした状況では、医師の患者を生かし続ける積極的な義務は解除されるということを認めてきた。同様に、法廷は持続的植物状態にある患者を生かし続ける義務はないだろうということを、認めてきた。

下線部:The courts have accepted that where life involves an extreme degree of pain, discomfort or indignity to a patient, who is sentient but not competent and who has manifested no wish to be kept alive, these circumstances may absolve the doctors of the positive duty to keep the patient alive. Equally the courts have recognized that there may be no duty to keep alive a patient who is in a persistent vegetative state (‘PVS’).

※ メモ 第33段落最後の二文について

第一文: 最初の「or」は選言だが、その前のコンマ「、」は選言の並列か。また、次の「and」は連言で必要条件を付加する「かつ」の意味か。もし、最初の「or」および「、」が選言の並列であり、次の「and」が必要条件を付加するための連言ではないとすれば、《感覚はあるが決定能力(表明・伝達手段)がなく、尊厳がないと見なされるような状態であれば、患者が事前に生かし続けて欲しいと表明していたとしても、ANH等の停止により死なせることも法的に許容される》ということになる。もし「か」が連言だとすれば、治療停止に対する患者の明白な事前指示がない場合は、上記の様々な条件が重なっていても停止は認められない、ということになる。
第二文: PVSである場合、前文の諸条件はなくなる。この判決は、《PVSと見なされるような状態になった場合、その患者が事前に治療継続を望んでいても、その希望に従う義務は医師にはない》、という主張を許容する。

次段落の第34段落で裁判官は、Burke氏は上述のいずれの状況でもないし、そうなることも想定できない以上その懸念は空回りしている、と述べて訴えを退けている。だが、Burke氏の懸念が、PVS状態と周囲から思われることへの懸念であるとすれば、それには理由があると言えるだろう。

36−37
飢えも乾きも感じなくなった時点(昏睡状態、最終段階)では、もはやBurke氏の意思は消失している(だから、意思に反することも従うこともできない)。そこでANHを中止することについて、現在のBurke氏が懸念する理由はない。

37 「われわれはBurke氏が彼の人生の最終段階に到達したときに、それについて推察し始めることを正当化するようないかなる立場が存在しうるのかに関して考えることはできない」

◆ ここまでのコメント

 以上は、「生かすに値しない状態にある人」が存在する、という議論である。まったく感覚もない状態で「生きている」人を「生かし続ける」ことは《お人形ごっこ》か。この議論に対して、「全く感覚のない状態」を外部から観察できない、と反論することに意味はあるか。全く感覚のないが「生きている」状態、という表現をどのように考えるべきか。全く外部からの刺激に反応しない(感覚を欠いた)状態を外部から観察不可能である、というのは単なる「認識」の限界の問題か。むしろ生命ある存在者を感受することとは、そこに何らかの「内部」が成立しているということの感受ではないか。「全く感覚を欠いた生命」という表現はそこに「内部が成立している」という感覚に反するのではないか、等々。


 
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■Guardian 新聞記事 Leslie Burke 裁判 【記事抜粋・メモ】

 翻訳・紹介・分析:堀田義太郎

【20040227】
Richard Gordon QC(Burkeの法廷代理人)
「法は、彼に死の選択を認めている。「しかし奇妙なことに、GMCガイダンスが示唆しているのは、あるいは少なくとも含意しているのは、彼は生を選択できないということである」」

【20040730】
「GMCの弁護士は、Burke氏が表明している願いに反して、食べ物や水を差し控えるよう医師に認めたり、勧めたりするようなものは、〔ガイドラインのなかには〕何も存在しない、と論じた」

Burke氏「誰でも私と同じような状況に陥り得るのであり、だからこれ〔ガイドライン〕は途方もない〔甚大な〕影響を持っている。一人の医師が水分補給と栄養を取り止めて、一人の人を事実上、死に至るまで飢えさせることを決定できるのだから」

DRCチェアマン Bert Massie
「いままで医師は、生命維持治療〔life-prolonging treatment〕を拒否するかあるいは取り止める権力を持ち、時には、障害は生活の質がきわめて低いといった前提に基づいて、障害をもつ人の希望を無視する権力を有していた」

【20040731】
「Munby裁判官が述べたところでは、生命維持治療の差し控えと取り止めに関するGMCガイダンスは治療を要求するのではなく拒否することに対する、決定能力のある患者の権利を強調してきた、というBurke氏の議論のなかには「反駁できない力」があった」

【20041009】 Charlotteケース
《Times》20040808
「生命の掟は敗者である。Leslie Burke事案のなかでMunby裁判官によって10週間ほど前に提示された生命優先という強力な法的前提は、いまやそれほど確固としたものではなくなりつつある。Charlotteの苦しみは幸いにも、まもなくなくなるだろう。彼女の短い人生と苦境は、今後も法的にインパクトを与えつづけるだろう」

【20050516】
GMCの法定代理人 Philip Havers QC
「Havers氏は次のように述べた。この〔Munby〕判決は「医師をほとんど不可能な困難な位置に置く。なぜなら、医師は患者に対して、患者が臨床的に適切であるとは思わないような特定の形式の治療を決して提供するべきではない、とされてしまうからである」
「Munby裁判官の判決は、「患者の自律性」を拡張し、医師患者関係の本質を根本的に変えてしまうだろう。」

【20050516】
「高等裁判院判決を出したMunby裁判官は、GMCガイダンスは患者の治療を拒否する権利をあまりに強調しすぎており、患者の治療を要求する権利については十分ではない、と裁定を下した」
「裁判官によれば、このガイドラインは不完全なものでさえあった。なぜなら、それは患者が人工栄養を欲しており意思がそれに反対していた場合、他の医師に交代するまでは、その医師が患者を治療しつづけることを保証し損ねていたからである」

「GMCと保険相は、高等裁判院の判決は、患者にその選択に基づく治療を要求する権利を与え、医師が患者の最善の利益になるとは信じていない治療を提供させるように強いるだろう、と論じる」

「だがDRCは、この解釈は誤っているという見解を堅持している。スポークスマンは次のように述べた。「この判決は臨床的な決定をする医師の権利を指示しており、医師たちは、無駄な治療や全く利益のない治療または有害な治療を提供するように強いられることはないだろう。重要なことは、患者が、自ら何が最善の利益かを決定できる、ということである」

【20050518】
保険相の代理人Patricia Hewitt
「これは、患者に、その医療チームの熟慮の上での判断に抗して、特定の治療を要求する権利を与えているものと解釈できるだろう。それは、患者を、患者自身にとって適切ではない治療を受ける権利を得るように導きうるし、NHSの資源を不効率な(かつ不公正にゆがんだ)かたちで用いる権利を得るようにも導きうる」

「だが、患者は医師に対して、医師の権利から見て臨床的に適切ではないような治療の選択肢や、あるいは〔or〕他の理由で、すなわちNHSのなかの資源の効率的配分を考慮して提供できないような治療の選択肢を与えるように要求できない」

【20050519】
「保険相の弁護士は昨日の控訴審において、もしANHへの権利が確立されたならば、患者はそれ以外の生命維持治療を要求することができるようになるだろうし、それは、NHSの資源の濫用を導くだろう、と述べた。」
⇔ 「DRCの代理人、David Wolfeは今日、治療が、「リソース・インプリケーション」を理由に患者の最善の利益にならない、などと誰も述べることはできないはずだ、と声明した」

【20050523】 社説コレクション

Daily Telegraph 20050517
「GMCは、医師は、自らが不適切だと考える治療を提供するよう強いられないべきだ、と論じている。だがそれは道理に反するように思われる。つまり医師の医学的判断は、生きる権利という、より強力で自然な前提に対して第二義的なものであるはずだからである」

Herald 20050517
「Burke氏は、……勇気ある根気強い男であるようだ。このことゆえに彼が正しいわけではない。彼に、できる限り死に尊厳を与えることを望んでいる全ての人々に逆行するような効果を与えるやり方で、医師/患者関係のなかのデリケートな道徳的均衡を変える権限を与えるものは何もない。」

【20050728】 敗訴
「今日の控訴審採決の下では、医師は、精神的に決定能力のある末期状態の患者が望むならば、水分と人工栄養補給といった生命維持治療を提供することを要求されるだろう。だが、ひとたび患者がその望みを表出する能力を失いあるいは精神的能力を失ったならば、医師はそうした治療を取り止めることもできるだろう」

「Graeme卿は次のように付け加えている。この判決は医師と患者に、「終末期の諸問題を解決」するためにパートナーシップをもって協働することを要求している。彼は次のように述べた。「われわれのガイダンスが明らかにしようとしているのは、患者は障害に基づいて差別されるべきでは決してない、ということである。そしてわれわれはかねてから、患者を飢餓や渇きから死に導くことは絶対に受け入れられえないことであり、また法によって正当化されない、と言ってきた」

GMCスポークスマン「彼女は、生命維持治療が患者に不必要な痛みや苦悩をもたらすならば、そのときにのみ差し控えられたり取り止められたりしうる、ということを予測していた」

「DRCは、何が患者の「最善の利益」であるかに関する医師の見解は、ひとたび患者が能力を失うと、障害をもつ人々の生活の質に関する差別的なもしくは否定的なステレオタイプの想定に基づいたものになりかねない、と警告した」

「多くの障害をもつ人々は、医師のうちの何人かが、障害者の生活の質について否定的でステレオタイプな想定をしているということを恐れている。この判決は、障害者の多くが抱く恐れを和らげないだろう。もしあなたが決定能力を失うようになれば、誰かが、何があなたの重荷であり、何があなたの最善の利益かを、依然として決定できるのだから」

 □記事から見えるプロセス

Munby判決 ⇒ Charlotteケース〔差し控え=死の代理決定の容認〕 ⇒ 控訴審 ⇒ Munby判決の事実上の却下(Burkeの主張の却下)

 □裁判・再審の過程で明確になったこと

 ○ Munby裁判官の指摘する不均衡―― 患者が決定能力がない[とされる]状態になった場合、事前の決定のなかで、治療停止と差し控え=死の決定は尊重されるが、生の決定は尊重されていない。

 ○ Munby判決が控訴審で覆されるに至るプロセスでのGMC側の主張

 Munby判決は、医師を患者の指示に完全に従属した立場に置き、GMCが評価する「医師-患者関係」を否定する。また、医師の裁量権を無化する。

 □ Munby判決の却下の意味

 GMCの言う医師の「裁量」の中身――「患者の最善の利益」になるか否か(コスト/ベネフィット計算)

@ 患者に決定能力がない〔とされる〕場合、コスト/ベネフィット計算は、他者〔とりわけ医師およびGMC〕に委ねられる。
A 治療停止・差し控えを正当化するのは、患者のベネフィットを上回る「コスト」がある場合。
 ⇒ 計算対象となる「コストの内容」に、NHSの「資源配分」の観点が入り込みうる。

 GMCの主張内容 ―― 患者が不可逆的に意思も感覚も欠いた状態にある[ように見える]場合、第三者にとってのコスト(資源)をも考量に入れてコスト/ベネフィット計算が行われうる、そしてそれに基づいて治療停止も許容されうる。


REV:20070423, 20090323
安楽死・尊厳死:イギリス  ◇安楽死・尊厳死
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