尊厳死を巡る現状と課題を考える「『尊厳死法制化』北陸フォーラム 終末期医療の明日を考える」が19日、金沢市内で開かれ、医療関係者らが法制
化の是非や問題点について意見を交わした。延命拒否を書面で宣言する「リビング・ウイル」の登録事業を行う「日本尊厳死協会」が主催。
パネルディスカッションで同協会の井形昭弘理事長は、富山県射水市での延命措置中止問題を挙げ、「終末期医療について公的なルールがない中で、患者は自然な死が迎えられず、医師も患者の苦痛にいかに対処すべきか悩んでいる」と、法制化の実現を訴えた。
日本医師会の宝住与一副会長は、「生死については個人の問題で、法律で決めることではないという議論もある」とし、「延命治療の中止に関して医師
の免責が担保されれば法制化は必要ない。しかし、現状で担保は難しいため法制化が必要になってくる」との見方を示した。済生会金沢病院の喜多正樹医師は、
「患者が治療の効果を事前にすべて理解することは難しく、いつでもリビング・ウイルの内容を変更可能にしておくことが大切」と話した。
◆2007/05/20 「【社説】週のはじめに考える 高瀬舟の昔からの課題」
東京新聞 2007年5月20日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2007052002017529.html
「苦から救ってやろうと思って命を絶った。それが罪であろうか」−森鴎外の短編「高瀬舟」のテーマは安楽死・尊厳死。ますます今日的問題となってきました。
「妻が体のことを心配してくれるのはいい。いつまでも働いてもらいたいのだろうが、自分の最期ぐらいは自分で決めたい」。団塊世代の友人たちか
ら、そんな切ない願望が聞こえるようになってきました。自分の最期をどのように迎えるのか、そんな決断をしなければならない時代になってきたともいえま
す。
臨終は病院になった
死をめぐる最大の変化といえば、自宅から病院・診療所へと、臨終場所の変化でしょう。かつては近所の開業医に看取(みと)られながら自宅で死を迎える人が八割を超えましたが、一九七六年を境に逆転、現在では病院・診療所で臨終を迎える人が八割を超えるようになりました。
厚生労働省の調査だと、今なお六割を超える人が自宅での死を願望していますが、希望を叶(かな)えることができるのはそのうちの一割、ほとんどの人が家族への気兼ねから病院での死を選ぶようになっています。
亡くなる人が全国で百万人を突破したのは二〇〇三年、団塊世代の高齢化などによって毎年増え続け、三八年に百七十万人のピークに達すると見込まれています。
臨終場所が治療施設が整った病院になったことで、いつ、どんな形で最期を迎えるべきか考えておくことは現代人にとって必須要件になったといえ、安楽死や尊厳死も身近な問題として浮上してきました。
現
代の延命医療は、意識を失い植物状態になったとしても、呼吸器の装着や栄養補給によって、半永久的に体は生きつづけさせることができます。そこまでして生
かされたくないという自らの尊厳への思いや家族の心理的経済的負担を取り除くために、延命治療は望まないという人は少なくなく、生前に意思表示(リビング
ウイル)しておく人も増えました。
日本尊厳死協会の会員も毎年二千−三千人ずつ増え、現在は十二万人。(1)無意味な延命措置を拒否する(2)苦痛を最大限に和らげる治療を(3)植物状態に陥った場合、生命維持措置をとりやめる−の生前の遺言書を発行しているとのことです。
安楽死も尊厳死も医学的に助かる見込みのない状況下で延命治療の中止などで人為的に死を迎えさせることは同じですが、安楽死は患者本人に意識があり、尊厳死は患者本人の意識が失われたケースです。
死は安らかとはいえない
安楽死・尊厳死問題が深刻な事態になるのは、現実の死がしばしば家族の思いを裏切るからだそうです。家族の願いとは裏腹に、死は必ずしも安らかでなく、家族たちの覚悟も吹き飛ばしてしまうことがあるようです。
妻で作家の津村節子さんが明らかにした昨年七月三十一日未明の作家吉村昭氏の死の内容は衝撃でした。
膵
臓(すいぞう)がんで闘病中。点滴の管やカテーテルを自ら引き抜き延命治療を拒否した吉村氏の死は壮絶でしたが、津村さんは「自分の死を自分で決めること
ができたのは、彼にとっては良かったかもしれない」。その一方で「あまりにも勝手な人」の言葉を残しました。死は容易に受け入れられるものでなく歳月をか
けて納得させていくべきものなのかもしれません。
「高瀬舟」の京都町奉行配下の同心・羽田庄兵衛が「それが罪だろうか」と疑問を起こしたように医師が刑事責任を問われるケースも出てきまし
た。昨年三月、入院患者七人の死亡が発覚した富山県・射水市民病院の事件では、担当医師の治療中止行為が殺人罪に問えるか、捜査が続けられています。
羽田庄兵衛が「自分より上のものに判断を任す外ない」「オオトリエテ(権威)に従う外ない」と判断基準を求めたように、事件を契機に、国や日本救急医学会などによって終末期医療に関するガイドラインづくりが試みられています。
東京高裁は、ことし二月の川崎協同病院事件の判決で「尊厳死の問題を抜本的に解決するには法律の制定かこれに代わるガイドラインの策定が必要」と呼びかけました。
刑事責任追及に委縮する医師や医療現場を叱咤(しった)する意味もあったようです。
究極は医師の勇気と判断
森鴎外が高瀬舟を雑誌に発表してからほぼ九十年。安楽死・尊厳と終末期医療についての指針づくりは、時代と社会の要請になりました。医師は刑事責任を問われることなく、患者、家族は安心して医師に任せられるガイドラインづくりです。
しかし、指針はあくまで参考でしかないはずです。人それぞれに生と死があり、どんな治療がベストか決めるのは究極のところは医師の勇気ある判断でしょう。
それに委ねることができる人間的にも信頼できる医師であってもらいたい。「喜助」の頭からゴウ光がさしたように。
※森鴎外の鴎は旧字体
◆2007/05/22 「和歌山県立医大 呼吸器外し患者死亡」
読売新聞 2007年5月22日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070522ik0e.htm
和歌山県立医科大付属病院紀北(きほく)分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が、50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが22日、わかった。
終末期医療を巡っては国や医学界の明確なルールがなく、患者7人が死亡した富山県・射水(いみず)市民病院のケースでは結論が出せないまま1年以上捜査が続いている。和歌山の事例は、判断が揺れる医療と捜査の現場に新たな一石を投じそうだ。
昨年 2月脳内出血、家族依頼
調べによると、男性医師は脳神経外科が専門で、県立医大の助教授だった2006年2月27日、脳内出
血で同分院に運ばれてきた女性患者の緊急手術をした。しかし、患者は術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「かわいそうなので呼吸器を外し
てほしい」と依頼。医師は2度にわたって断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。
医師は3月1日に紀北分院に報告。分院では射水市民病院での問題が発覚した直後の同年3月末、和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定で
は、呼吸器を外さなくても女性患者は2〜3時間で死亡したとみられるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。
飯塚忠史・紀北分院副分院長は「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えて県警へ届け出た」と話している。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝している」と話しているという。
呼吸器取り外しを巡っては、北海道立羽幌(はぼろ)病院の女性医師が05年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回の書類送検が2例目。羽幌病院の問題では、女医が呼吸器を外した行為と、患者の死との因果関係が立証できずに証拠不十分で不起訴となった。
一方、射水市民病院の問題については、現在も、富山県警が殺人容疑で捜査している。県警の依頼を受けた専門医からは、死亡した7人のうち一部の患者について呼吸器を外した行為と死との因果関係があるとする鑑定結果が出ている。
し
かし、問題発覚後、呼吸器の取り外しは医療の現場では一般的に行われている可能性があることなどが判明。これを契機に、国や医学界が延命措置中止に関する
ルールを明確にしようと指針作りに乗り出したこともあり、富山県警は、慎重に捜査を進めている。分院の医師が書類送検されたことで、富山県警の捜査関係者
からは「同様の事件で死亡者数はこちらの方が多いのに、書類送検しないという選択肢があるのかは微妙な問題だ」との声も出ている。
[解説]免責基準作りが急務
和歌山県立医科大付属病院紀北分院の延命措置中止問題は、病院内で十分な議論がないまま医師により呼吸器が外されていた可能性が高い。
羽幌病院や射水市民病院の問題でも、やはり病院内で十分な議論が行われていたとは言い難い。こうしたことが繰り返される背景には、延命措置中止に関するルール作りが遅れ、長年、現場の医師の判断に任されてきたという現実がある。
厚
生労働省は4月に指針をまとめ、延命措置中止の過程を示した。この中で、治療中止について、患者の意思を尊重するのを基本とし、本人の意思が確認できない
場合は家族と話し合った上で、医療チームとして慎重に判断するとされた。ただ、医師が刑事訴追されない免責基準については、検討課題として残された。
明確なルールがない中で捜査当局も頭を痛める。紀北分院の問題では、和歌山県警は呼吸器を外した行為と死との因果関係があるとして書類送検した。射水市民病院の問題では、一部の患者について因果関係があると鑑定が出たが、富山県警は立件に慎重だ。
両県警の捜査方針の違いは、現場の混乱を反映したものと言え、免責基準を含めたより明確なルール作りが急がれる。(地方部 小泉公平、富山支局 増田剛士)
◇和歌山県立医科大付属病院紀北分院 和歌山県北部に位置する中規模の総合病院。脳神経外科のほかに内科、外科、小児科など10科の診療部門を抱えベッド数は194床。
◆2007/05/22 「和歌山県立医大の医師、呼吸器外し80代女性死亡」
読売新聞 2007年5月22日
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20070522p102.htm
◇家族の要請、医師を殺人容疑で書類送検
和歌山県立医科大付属病院紀北分院(和歌山県かつらぎ町妙寺)の50歳代の男性医師が、延
命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外し、死亡させたとして、和歌山県警が医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことがわ
かった。終末期医療を巡っては、厚生労働省が4月に指針を出したものの、延命治療を中止した医師の刑事責任の基準や、具体的な治療中止項目などについて国
や医学界の明確なルールはなく、患者7人が死亡した富山県・射水(いみず)市民病院のケースでは、医師の刑事責任について結論が出せないまま1年以上、捜
査が続いている。和歌山の事例は医療と捜査の現場に新たな一石を投じそうだ。
調べによると、男性医師は脳神経外科が専門で、県立医大の助教授だった2006年2月27日、脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者を緊急手術。術後の経過が悪く、女性患者は脳死状態になっていた。
男性医師は翌28日、女性患者に付けていた呼吸器を外し、死亡させた疑い。
呼
吸器については、28日未明になって女性患者の家族から「きょうだいが来るまで延命させたいので、呼吸器を付けてほしい」との依頼で、医師が装着した。し
かし、きょうだいが到着後の同日午後8時ごろ、家族から「最期のお別れができた。これ以上しのびないので呼吸器を外してほしい」と要望された。医師はいっ
たん断ったが、懇願されたため、医師個人の判断で受け入れ、3月1日に分院長に報告したという。
射水市民病院で患者7人の死亡が発覚した直後の同年3月末、分院が和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定では、呼吸器を外さなくても女
性患者は2〜3時間で死亡したとみられるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝
している」と話しているという。
呼吸器取り外しを巡っては、北海道立羽幌(はぼろ)病院の女性医師が05年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回が2例目。羽幌病院では、女医が呼吸器を外した行為と、患者の死との因果関係が立証できず、証拠不十分で不起訴となった。
一方、射水市民病院の問題では、富山県警の依頼を受けた専門医が一部の患者について呼吸器を外した行為と死との因果関係があるとする鑑定結果をまとめ、同県警が殺人容疑で捜査している。
この問題が発覚後、呼吸器の取り外しは、医療の現場では一般的に行われている可能性があることなどが判明。これを契機に、国や医学界が延命措置中止に関するルールを明確にしようと指針作りを進めている。
飯塚忠史・和歌山県立医科大付属病院紀北分院副分院長の話「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えた」
◆2007/05/24 「終末期医療 あなたならどうするか」
信濃毎日新聞 2007年5月24日
http://www.shinmai.co.jp/news/20070524/KT070523ETI090004000022.htm
人工呼吸器の取り外しをめぐり、あらたな事例が明らかになった。和歌山県の病院で家族の希望を受けて患者の呼吸器を外した医師が、殺人容疑で書類送検されていた。
延命中止はどこまで刑事責任を問われるか、医療現場を悩ませる問題だ。国が4月にまとめた終末期医療に関する指針は、肝心な点を避けたとの批判がある。
生死にかかわる問題で一律に線引きするのは難しい。一方で、医療上の問題を司法判断にゆだねるだけでは、いい結果を生まない。終末期医療をどうするか、幅広く論議して合意点を見いだす努力を急ぎたい。
今回のケースでは、人工呼吸器の取り外しを家族が望んでいた。患者は88歳の女性。脳死状態となったところ、親族が来るまで延命してほしいと求められ、呼吸器を装着。面会できた後に、外してほしいと医師に頼んでいた。
問題は、取り外しを医師1人で決めたことだ。家族の依頼をいったん断ったが、懇願された。脳死判定のために呼吸器を外した後、再び装着しなかった。女性は約30分後に亡くなっている。
厚生労働省の指針は、延命治療の中止などの判断は本人の意思決定を最重要とし、医学的な判断は複数のメンバーによるチームでするよう定めている。これまでの呼吸器外しも、大半が1人の判断で行われている。「独断」がはらむ危険性に医師はもっと敏感であるべきだ。
終末期医療のあり方については、国と日本救急医学会が検討を続けている。末期や不治の状態になるほど患者の意思確認は難しい。死生観も絡む複雑な問題である。
ただ、回復の可能性がないのにもかかわらず延命を続けている状況が、必ずしもいいとは思えない。どこまでが許されるのかのコンセンサスを深めるには、医師と患者の信頼関係を築く取り組みが欠かせない。医療不信の中では、死にかかわる問題は解決しない。
万が一の時にどうするか、意思決定の過程を透明にすることが第一だ。本人の意思の確認や医療チームと家族の話し合いなどについてルールを作りたい。
医療事故などで患者が死亡した場合、原因究明に当たる第三者機関の創設も急ぐべきだ。民事訴訟が増え続け、警察が頻繁に医療現場に介入するようで
は、医師が委縮する心配がある。中立・専門的な判断ができれば、医療側、患者側、双方にプラスになる。終末期医療に対する懸念も薄らぐはずだ。
自分なら、家族ならどうするか。かねてから考えておきたい。
◆2007/05/24 「延命治療中止 現場の混乱招かぬ指針に」
山陽新聞 2007年5月24日
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2007/05/24/2007052408311020001.html
和歌山県立医大病院紀北分院で五十代の男性医師が、八十八歳の女性患者の延命措置を中止するため人工呼吸器を外し死亡させたとして今年一月、県警から殺人容疑で書類送検されていたことが分かった。
調べや分院の話によると、男性医師は昨年二月に脳内出血で運ばれた女性患者を緊急手術したが、脳死状態に陥った。家族から「近親者が来るまで延命
を」と頼まれ呼吸器を装着、親族の到着後に家族から「かわいそうだから」と外すよう要請された。一度は断ったが懇願され、手術の翌日、脳死を調べる自発呼
吸の有無を確認するためとして個人の判断で外したという。
分院から届けを受けた県警は、自発呼吸を調べた後に呼吸器を再装着せず患者を死なせた点を重視する一方で、女性の余命が短く、家族の要請もあったことなどから「悪質性は低い」として重い刑事処分を求めない意見書を付けて書類送検した。
回復の見込みがなく死が避けられない終末期患者に対する安楽死をめぐっては、薬剤を投与する積極的な行為では有罪判決が出されるケースがある。これに対し、呼吸器外しのような消極的な行為ではまだ起訴された例はない。
昨年三月に患者七人が人工呼吸器を外され死亡したことが発覚して大きな社会問題となった富山県・射水市民病院のケースも県警が慎重に捜査している。そうした中での今回の書類送検は医療現場の戸惑いをさらに広げそうだ。
問題は延命治療の中止と刑事責任の関係が明確になっていない点にある。四月には射水市民病院の問題をきっかけに厚生労働省が進めていた国の初の統
一基準となる延命治療の開始・中止などの手順を定めた終末期医療指針がまとまった。患者本人の意思決定を基本として終末期医療を進めることが最も重要な原
則とした。その上で医師の独断を排除するため延命治療を開始するか否かや変更、中止などはチームで対応するとしている。意思が分からない場合は、家族と話
し合い、患者にとって最善の治療方針をとることも盛り込んだ。
だが、終末期の定義や延命治療の中止はどんな要件が満たされれば刑事責任を問われないかなどについて棚上げされたまま。これでは例え患者の意思であっても刑事訴追を恐れて医師は治療を続けることにもなりそうだ。
厚労省は新たな検討会を設けるという。延命治療の在り方については個々の死生観がかかわるだけに難しい問題だが、医療現場が混乱をきたさないさらに踏み込んだ判断基準づくりが求められる。
◆2007/05/30 「[解説]療養病床の老健施設転換」
読売新聞 2007年5月30日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kaigo_news/20070530ik04.htm
入所長引けば本末転倒 在宅復帰への支援充実を
削減される療養病床を転換して、新たに作る老人保健施設(老健)について、厚生労働省は医療を充実させるなどの骨格を決めた。看板の掛け替えにとどまってはならない。(社会保障部 小山孝)
高齢者が長期入院する療養病床は35万床あり、患者の平均年齢は82・6歳。手厚い医療は不要だが「家族で介護できない」といった理由で入院を続ける「社会的入院」が多く、患者の生活の質を下げるばかりではなく、医療費の無駄との指摘が根強かった。
このため、厚労省は2011年度末までに、介護保険が適用される療養病床を全廃し、比較的症状の重い患者が入院している、医療保険適用型の療養病床のみを残す方針を打ち出した。
廃止される療養病床は20万床に上る。その主な転換先とされるのが老健だ。計画では、医療の必要性が低い患者を、コストの安い老健や有料老人ホーム、自宅などに移す。
しかし、療養病床を老健に転換するのは容易ではない。老健と療養病床では機能に違いがあるからだ。老健はリハビリで在宅復帰を支援するのが役割で、要介護度の平均は3・17と、療養病床(4・27)に比べて軽く、医師や看護師の配置も手薄だ。
一
方、療養病床の患者は症状が安定していても、管を胃に入れて栄養液を送る経管栄養や、床ずれの処置など、医療関係者にしかできない行為が必要なケースが多
い。また、老健で亡くなる人は2・2%だが、療養病床の場合は27%に上る。このため、「老健では患者の受け入れが難しく、行き場のない介護難民が大量発
生する」などの批判が医療関係者から出ていた。
この問題について、厚労省は今月中旬、「介護施設等の在り方に関する委員会」に、医療面を強化した「転換老健」の基本方針を提示、専門家による議論が始まった。
新しい老健では、看護職員を24時間配置し、終末期の看(み)取りに必要な医療処置ができる体制を整える。常勤医師がいない夜間や休日は緊急呼び出しで対応し、他の医療機関の医師による往診も認める。
国は療養病床再編で、医療・介護の給付費3000億円が減らせるとそろばんをはじいている。削減を確実に進めるには、医療関係者や患者が納得できる転換老健のサービス内容を示し、療養病床からの移行を促す必要がある。
課
題の一つが、医療・看護の体制をどの程度強化するかだ。素案に対し、医療関係者からは、「医師がいない時間があることを家族は納得できるか」「療養病床か
ら移る患者には、医療が必要な人が多く、体制が不十分」などの指摘が相次いだ。適切な医療が提供されなければ、高齢者の命にかかわる反面、手厚くしすぎれ
ば介護報酬が高くなり、危機的な介護保険財政をさらに悪化させる。両者のバランスを慎重に検討すべきだ。
老健本来の機能をどう発揮させるのかも課題だ。転換老健でもリハビリを重視し、在宅復帰を目指す方針だが、要介護度が重い高齢者が多いことから、従来より手厚い支援が必要になる。もし、入所が長引く事態になれば、第二の療養病床になりかねない。
龍谷大学の池田省三教授は、「現在の入院患者のためには転換老健が必要だが、将来の社会的入院の受け皿にするべきではない。在宅復帰だけではなく、診療機能を生かして復帰後の在宅生活を支援するなど、施設内でサービスを自己完結させないことが必要」と指摘する。
療養病床の削減を円滑に進めるためには、転換老健の整備以外の取り組みも求められる。療養病床や転換老健から、地域に戻る高齢者が大量に生まれるからだ。
高
齢化の進展で老老世帯が増えるなど、家庭の介護力は低下しており、住み慣れた地域で暮らし続けるには、24時間対応の在宅医療や訪問看護、ニーズに応じた
きめこまかい在宅介護など、これまで以上にサービスの充実が求められる。また、「自宅」以外で「在宅生活」を送ることができる、有料老人ホームや高齢者専
用賃貸住宅などの「ケア付き住宅」もさらに増やす必要がある。
都道府県は今秋までに地域に必要な医療・介護サービスの将来像をまとめた「地域ケア体制整備構想」を策定する。「地域で暮らす」ための多様な選択肢を充実させる施策が欠かせない。
◆2007/06/03 「延命治療のあり方を論議 熊本で学術集会」
熊本日日新聞 2007年6月3日
http://kumanichi.com/news/local/index.cfm?id=20070602200014&cid=main
「救急医療における終末期」をテーマにした日本脳死・脳蘇生(そせい)学会の学術集会が二日、熊本市手取本町のくまもと県民交流館パレアで開かれ、延命治療の中
止や、患者・家族の意思をどう尊重するかなど、終末期医療のあり方について議論した。
◆2007/06/06 「厚労省 患者意思で延命中止 がん終末期医療に指針案」
埼玉新聞 2007年6月6日
http://www.saitama-np.co.jp/news06/06/05p.html
終末期を「余命三週間以内」と定義し、患者本人の意思を前提に中止できる医療行為の範囲を「人工呼吸器、輸
血、投薬」などと明記する一方、意思確認できない場合は除外するなど慎重な判断を求めている。
◆2007/06/06 「患者の意思あれば延命中止 がん終末期医療に指針案」
共同通信(USFL.COM - New York,NY,USA) 2007年6月6日 13:16米国東部時間
http://www.usfl.com/Daily/News/07/06/0606_006.asp?id=53838
死期が迫ったがん患者の延命治療中止手続きについて、厚生労働省研究班(班長・林謙治国立保健医療科学院次長)がまとめた指針試案が5日、判明し
た。対象となる終末期を「余命3週間以内」と定義し、患者本人の意思を前提に中止できる医療行為の範囲を「人工呼吸器、輸血、投薬」などと明記する一方、
意思確認できない場合は除外するなど慎重な判断を求めている。
終末期医療をめぐっては、厚労省が「患者の意思が最重要」とする国として初の指針を作成し、5月に都道府県などに通知したが、延命中止の具体的
な内容や終末期の定義には踏み込まなかった。がんなど病気の特性を踏まえた個別の指針は、厚労省が設置した研究班が担当。試案をまとめたのは初めてで、今
後、医療現場の声を反映させながら内容を詰める。
ただ、全国約1500の病院が回答した同研究班の調査では、がん患者への病名告知率は平均で65.7%、余命告知率は29.9%にとどまり、患者の意思確認が容易でない実情にどう向き合うかが課題となりそうだ。(共同)
◆2007/06/07 「「臨死判定」で尊厳死容認 延命中止法案の要綱案」
中国新聞 2007年6月7日
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200706070249.html
超党派の国会議員でつくる「尊厳死法制化を考える議員連盟」(中山太郎会長)が、法制化に向けた議論のたたき台とする要綱案の概要が七日、判明し
た。死期の迫った末期患者が、文書で延命治療を望まないと意思表示している場合、二人以上の医師が「臨死状態」の判定をすれば、栄養や水分の補給などを含
む延命措置を中止できる―とした内容。
要綱案は日本医師会など関連団体にも既に送付し意見を求めており、議連は七日午後に開く総会で公表し内容を議論する。今後修正を経て、合意できれば近く法案の国会提出を目指す。
関係者によると、要綱案は議連で合意していた骨子案をもとに、衆院法制局がまとめたもので、法案名は「臨死状態における延命措置の中止等に関する法律案」。
延命中止の対象となる「臨死状態」の患者とは「すべての適切な治療を行った場合でも回復の可能性がなく、死期が切迫していると判定された状態」と定義した。
臨死状態かどうかの判定は、担当医以外の経験豊富な二人以上の医師が実施。その判定記録を作成することなど、手続きを定めている。
家族がいる場合は、家族が延命中止を拒まないことも条件とし、患者が意思表示できる年齢は十五歳以上とした。
◆2007/06/08 「尊厳死を認めようと有志議員が法案要綱案を公表」
読売新聞 2007年6月8日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070608ik07.htm
延命治療を希望しない終末期患者の治療を中止する「尊厳死」を認めようと、超党派の有志国会議員で構成する「尊厳死法制化を考える議員連盟」(会長=中山太郎元外相)は7日、
総会を開き、法案要綱案を公表した。
要綱案は、患者本人の自己決定権の尊重と、治療を中止する医師の免責を担保する法制化に向けた議論のたたき台となる。
要綱案によると、法律は、治療による回復の可能性がなく死期が切迫している「臨死状態」に陥った患者を対象とし、延命中止を求める患者の意思を十
分尊重すると明記した。15歳以上の患者が文書で治療の中止の意向を示した上で、担当医以外の2人以上の医師が容体を確認し、臨死状態と判断した時、医師
が治療を中止できるとした。
尊厳死 適切な治療をしても回復する見込みのない末期の患者が、生命を維持する無益な装置や処置を受けず、自然に寿命を迎えて死ぬこと。
致死薬などで死期を早める「積極的安楽死」とは区別される。
◆2007/06/10 「「臨死判定」で尊厳死容認・超党派議連法案要綱案」
日本経済新聞 2007年6月10日
http://rd.nikkei.co.jp/net/news/shakai/headline/u=http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20070607STXKE020007062007.html
超党派の国会議員でつくる「尊厳死法制化を考える議員連盟」(中山太郎会長)が法制化に向けた議論のたたき台とする要綱案の概要が7日、判明し
た。死期が迫った患者が、文書で延命治療を望まないと意思表示している場合、2人以上の医師が「臨死状態」と判定すれば、栄養や水分の補給などを含む延命
措置を中止できる―などとした内容。
尊厳死法制化の要綱案づくりは初めて。要綱案は日本医師会など関連団体にも既に送付し意見を求めており、議連は7日午後開く総会で公表し内容を議論する。
今後修正を経て、合意できれば法案の国会提出を目指すが、今国会に提出できるかは日程上微妙な情勢だ。
関係者によると、要綱案は議連で合意していた骨子案をもとに衆院法制局がまとめたもので、法案名は「臨死状態における延命措置の中止等に関する法
律案」。延命措置の中止を容認する場合の厳格な手続きを定めることで、これを守って中止した医師は刑事責任を問われない形となる。(15:05)
◆2007/06/13 「脳死は、終末期医療のあり方にも密接に関連する。」
山陽新聞(臓器移植取材班) 2007年6月13日
http://www.sanyo.oni.co.jp/kikaku/2007/yureru/5_2.html
5部 足踏み 2 戸惑い 救命と脳死 どう対応
「ピッ、ピッ」
圧、血圧などの異常を告げる電子音。ICU(集中治療室)の十床あるベッドに、意識のない患者がチューブにつながれ横たわる。医師や看護師が二十四時間、ナースセンターのモニターで容体をチェックする。
川崎医科大付属病院(倉敷市松島)の高度救命救急センター。年間約六百人が入院。交通事故による頭部外傷やクモ膜下出血など、大半が頭や全身に障害を負った重症患者だ。
脳死は、毎月一人平均で発生する。医師は脳波の測定などで臨床的脳死と診断すると、もはや助からないことを家族に告げる。
日本臓器移植ネットワークなどは、この時点で脳死からの臓器提供の選択肢(オプション)を提示するのがベストだという。
だが、「救命に万全を尽くすと言っておいて、脳死になったとたんに臓器提供の話なんかとてもできない」と同センターの鈴木幸一郎部長。
「患者家族はまだ『死の受容』ができていない。臓器が目的と誤解されれば、医師との信頼関係は損なわれる。それを一番恐れている」
□ ■
一分一秒を争う救命救急現場の悩みは、救命を最優先してきた患者が、ある段階(脳死)から臓器提供の対象となることだ。気持ちの切り替えに戸惑いを感じる救急医、脳神経外科医は数多い。
同センターは五年前から、入院時に「臓器提供意思表示カード」(ドナーカード)の有無を尋ねる問診票を作成した。カードを所有する患者家族にのみ、脳死になった際に声を掛ける。
臓器移植法施行(一九九七年)以降、十三件あった臓器提供(うち脳死一)の申し出はすべて家族の自発的意思だった。
■ □
脳死は、終末期医療のあり方にも密接に関連する。
岡山県臓器バンクのコーディネーター、安田和広さん(39)にはこんな体験がある。岡山市内の総合病院でのことだ。
二〇〇一年、三男(24)が交通事故で脳死状態になった女性(60)が、脳死での臓器提供を懇願した。三男には人工呼吸器が装着されていた。ドナーカードは持っていなかったが、母親は「息子のこんな姿を見るのは耐えられない」と、延命中止を求めた。
担当の脳神経外科医は承知せず、母親はいらだちを募らせた。安田さんを交えた話し合いで、医師は徐々に治療レベルを落とすことに同意。八日後、心臓死を迎えた後、腎臓と角膜を提供した。
安田さんは「医師は最後まで人工呼吸器を外すことを拒んだ。移植に際しての終末期医療の難しさを痛感した」と話す。
□ ■
日本救急医学会の終末期医療のあり方特別委員長を務める有賀徹・昭和大医学部教授は「臓器移植はあくまで、より良い終末期医療を実践したその先にあるべきもの」と指摘する。
「あたかも、死体から臓器を摘出するだけのようなアプローチには強い違和感がある」
ただ、臓器提供のオプション提示にはさまざまな意見がある。杏林大の島崎修次教授(救急医学)は「がんの告知と同じ。二十年前は家族以外にはほとんど告知しなかったが、今はほとんど患者にされている」と話す。
「救急医の戸惑いがなくなるかどうかは、国民の理解にかかっているんです」
バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因(2007/6/12)/2 戸惑い 救命と脳死 どう対応(2007/6/13)/3 見えない死 「答え」出すのは家族(2007/6/14)/4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱(2007/6/15)
/5 約束 カードに刻む妻の思い(2007/6/16)/6 グリーフケア ドナー家族に癒やし(2007/6/18)/7 二つの改正案 節目の年 行方見えず(2007/6/19)/8 15歳の壁 難しい脳死判定課題(2007/6/20)
/9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口(2007/6/21)/10 枠組み 専門機関の新設必要(2007/6/22)/11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解(2007/6/24)/12 夢 免疫寛容の謎解明へ(2007/6/25)
/13 宝物 問われる命のリレー(2007/6/26)
第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓(2007/5/25)/2 宿命 リスクと向き合う選択(2007/5/27)/3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化(2007/5/28)/4 リスク ドナー死亡、再入院も(2007/5/30)
/5 重圧 家族に暗黙の強制力(2007/6/1)/6 ドナーの保護 法による規制不可欠(2007/6/2)/7 ケアの要 患者、ドナーに安心を(2007/6/3)/8 現実 緊急避難 今や“主流”(2007/6/4)
第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航(2007/4/17)/2 ジグソーパズル 多臓器(2007/4/18)/3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード(2007/4/21)/4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮(2007/4/22)
/5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ(2007/4/24)/6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用(2007/4/26)/7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大(2007/4/27)/8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関(2007/4/29)
/9 報酬制度 臓器売買懸念の声も(2007/4/30)/10 誇り 生き続ける娘の遺志(2007/5/1)/11 5%ルール 臓器不足に外国人枠(2007/5/2)/12 ジレンマ 患者は増え続けるが…(2007/5/3)
緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分(2007/4/3)/2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る(2007/4/4)/3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」(2007/4/3)
/4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ(2007/4/6)
第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」(2007/3/10)/2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け(2007/3/11)/3 不安 心通わせるケア必要(2007/3/13)/4 高齢化 福祉との谷間であえぐ(2007/3/14)
/5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ(2007/3/15)/6 贈り物 新たな“命”も授かる(2007/3/16)/7 ローカルネット ドナー求め病院巡り(2007/3/19)/8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も(2007/3/20)
/9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差(2007/3/22)/10 選択肢 臓器提供の道伝える(2007/3/25)/11 うそ 新たな命に思い複雑(2007/3/26)
第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために(2007/2/2)/2 原点 どうせ捨てる臓器なら(2007/2/3)/3 迷い 公表「がん」がネック(2007/2/4)/4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら(2007/2/5)
/5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち(2007/2/6)/6 学会 歴史の中で原則築く(2007/2/8)/7 一人の世界 「怖いことやっている」(2007/2/9)/8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意(2007/2/11)
/9 出合い頭 公平の原則どう保つ(2007/2/12)/10 臓器売買 「起こるべくして…」(2007/2/15)/11 うねり 患者の立場から関心を(2007/2/17)/12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩(2007/2/18)
◆2007/06/16 「日本医師会が終末治療で指針案、訴追回避へ患者意思尊重」
読売新聞東京朝刊 2007年6月16日
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20070616i401.htm
日本医師会は15日、回復の見込みがない終末期の患者に対する治療のガイドライン(指針)案をまとめた。
4月に公表された厚生労働省指針を踏まえ、医師の刑事訴追を回避するため、医療チームが患者の意思を基に治療方針を決めることを強調したほか、在宅医療を担う医師を支える体制の必要性をうたった。
指針案を作成したのは日本医師会生命倫理懇談会の作業部会。医師が患者の人工呼吸器を外し、殺人容疑で書類送検されるケースが相次いだため、訴追
回避のルール作りを模索していた。末尾に「指針に沿って延命措置をとりやめた医師の行為が免責されることが強く望まれる」との見解を盛り込んでいる。
◆2007/06/17 「医師不足43%実感 尊厳死法制化は賛成80%」
中日新聞 2007年6月17日
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007061702024762.html
自分の周囲で「医師が足りない」と感じている人が43%に上ることが、本社加盟の日本世論調査会が今月二、三両日に実施した「医療問題」に関する
全国面接世論調査で分かった。病院の診療縮小や閉鎖が相次ぎ、地域医療の危機とも言われる現状を裏付けた形。国や自治体の早急で実効性ある対策が求められ
る。「尊厳死」の法制化には80%が賛成した。
調査結果によると、医師不足を「大いに感じる」が16%、「ある程度感じる」が27%。「大いに感じる」が有権者十万人未満の小都市で27%、郡部で19%と多くなるなど自治体の規模や地域で差があった。
「大いに感じる」と「ある程度感じる」の合計をブロック別にみると、東北が52%で最多。近畿50%、北陸47%、甲信越44%、関東43%、四国42%、東海と九州各39%、北海道38%、中国地方37%の順だった。
不足を感じる理由を二つまで尋ねたところ「待ち時間が長くなるなど不便になった」が47%で最多。「病院や診療所が閉鎖したり、一部の診療科がなくなった」(37%)、「救急対応が遅かったり、たらい回しにされた」(28%)が続いた。
こうした現状に「かかる病院を変えた」(35%)「通院を我慢したり市販薬で済ませた」(18%)などの対応を迫られているが、「特に何もしていない」と、打つ手がない人も42%。
国もさまざまな医師不足対策を打ち出しているものの“特効薬”はないのが現状だ。調査で「急いで取り組んでほしい施策」を二つまで尋ねたところ、
「地域医療に取り組みやすい環境整備」(46%)を求める回答が最多だったが、「国や自治体が医師配置を調整する」(35%)、「新人医師に一定期間へき
地勤務を義務付ける」(21%)など行政の“直接介入”を求める声も目立った。
一方、終末期医療については、回復の見込みがなく延命治療しか残されていない状態になったとき、「人工呼吸器などによる延命治療は望まない」との回答が89%。法律で「尊厳死」を認めるべきだと思う人が80%と、多数派を占めた。
延命治療を中止するには「患者の意思が文書などで確認され、家族も同意」という最も厳しい条件が必要と考える人が全体の50%で最多だった。
▽調査の方法 層化二段無作為抽出法により、1億人余の有権者の縮図となるように全国250地点から20歳以上の男女3000人を調査対象者に選び、調査員が直接面接して1858人から回答を得た。回収率は61・9%で、回答者の内訳は男性48・0%、女性52・0%。
◆2007/06/21 「老人保健施設の医療体制強化、厚労省委が追加措置案」
日本経済新聞 2007年6月21日07:01
http://rd.nikkei.co.jp/net/news/keizai/headline/u=http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070621AT3S2000W20062007.html
厚生労働省の介護施設等のあり方に関する委員会は20日、長期入院する高齢者向けの療養病床の介護施設への転換を支援するための追加措置案をまと
めた。療養病床から転換した老人保健施設(老健)を対象に、休日・夜間の看護体制や終末期の医療を充実させた施設を創設するほか、非営利の医療法人に特別
養護老人ホーム(特養)の運営を解禁するのが柱。2008年度の診療報酬改定などに反映させる。
老健は病院と家庭療養の中間的な存在で、リハビリなどで家庭への復帰を目指すための施設。老健での休日・夜間の医療・看護を強化するうえでは、
他の医療機関の医師の往診や看護職員の配置増加で対応する。終末期も医師や看護職員を手厚く配置できるようにする。そのための介護報酬などについては、今
年度中に具体策を詰める。
◆2007/06/26 「スピリチュアルケア学会発足へ 神戸で9月設立大会」
神戸新聞 2007年6月26日
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000414651.shtml
全国の大学教員や宗教家、医療関係者ら多彩なメンバーが、死に直面した人の戸惑いや悲しみを和らげることについて話し合う「日本スピリチュアルケ
ア学会」が、今年九月に神戸で設立大会を開く。異なる分野の会員が持つノウハウを蓄積し、実際に現場でケアする専門家を養成する。学会理事長には、聖路加
国際病院(東京都)の日野原重明名誉院長(95)が就任する見込み。(霍見真一郎)
関係者の話では、設立大会は九月十五日、神戸市中央区の兵庫県民会館で予定し、事務局は高野山大(和歌山県)に置く可能性が高いという。すでに
発起人は八十人を超えており、京都大、大阪大、関西学院大、甲南大などで心理学や倫理学、哲学を研究する教員や、医師や僧侶も加入を希望している。
ケア対象には、病気で死期を間近に控えた本人だけでなく、災害や事故などで親類や親しい友人を亡くした人も入る。学会は研究会や講演会を通じ「自分の存在は何だったのか」「なぜ生きる」-といった存在に関する根源的な問いに向き合っていく方針という。
発起人の一人、高木慶子・聖トマス大客員教授(70)によると、設立の意義は「異分野の人材交流」。学会では、これまで接点が少なかった仏教、神
道、キリスト教の宗教家の意見交換も実現を目指しているという。死に直面した人々を支えた経験談を蓄積した上で、実際に現場でケアに携わる「スピリチュア
ルケア・ワーカー」の養成につなげたい、としている。
一九八八年から終末期医療を受けた百七人の死を見つめてきた高木教授は「生きる意味とは何なのか、死に直面した人々と“共に考える”人材を養成する場にしたい」と話している。
◆2007/06/27 「尊厳死法制化に関係者の合意は?−−日医が土壇場で課題指摘」
歯科医療未来へのアーカイブスX(fd005.exblog.jp) 2007年6月27日
http://www.japan-medicine.com/shiten/shiten1.html
超党派の国会議員で構成する議員連盟が検討を進めてきた「臨死状態における延命措置の中止等に関する法律案」(尊厳死法案)の今国会への提出が微妙な情勢になってきた。
今月20日に行われた同法案要綱に対する日本医師会との意見交換で、日医は医師や医療関係者の免責を規定するという法制化を目指す方向性には賛同したが、国民のコンセンサスを得られていないなどと苦言を呈し、「全面的に賛意を表することはできない」と異論を唱えた。駆け足で法制化を目指してきた議連にとって、日医からの指摘は大きな誤算で、何とか法案要綱案の作成までこぎ着けたものの、会期末の土壇場にきて最後の調整を強いられる格好になった。
◎法案要綱案に3つの課題
日医が意見交換の場で示した問題点は、3つある。まず1つ目は、法制化によって延命措置を中止する手法や過程が明確になればなるほど、それ以外の方法や過程は免責要件から外れてしまうため、かえって延命措置の中止などの妨げになるのではないかという懸念だ。
これまでの終末期医療では、医師や医療関係者が患者の症状や自己決定権、家族の意思など複数の要素から総合的に判断することで最適な終末期医療が提供されてきた。
ただ、要綱案の中で、「延命措置の中止等」や「臨死状態」「延命措置」を定義し、延命措置を中止する手法や過程を明確化することで、それ以外の方法などが免責要件から除外されてしまい、反対に妨げになるのではないかという指摘だ。
2つ目は、患者本人の書面による意思に基づく場合についてのみの延命措置の中止などを法制化する点。臨床現場では、患者本人の署名による同意がないケースが大多数を占めているため、法制化されても法的リスクを引き受ける医師や医療関係者の状況は変わらず、延命措置の中止などへの委縮効果が残り、かえって患者本人の尊厳に反する状況になってしまうことも懸念している。
最後は、臨死状態の判定。要綱案には、臨死判定には2名以上の医師が必要とし、これらの医師には延命措置の中止等を行う医師を除くことが明記された。しかし、延命措置の中止等を行う医師は、現場の慣行からすれば主治医で、患者の経過や病状を最も把握している主治医以外の医師だけで、適切な臨死判定が行えるのかどうかを疑問視する。
◎「生の完遂」が未整備
日医が提出した意見書の最後には、「人の死というものに対する根底には、生に対する尊厳がある。患者がどのような状態であろうとも、節度ある適切な医療を受けて生を全うした後に迎える死こそ、尊厳死であろう」と記している。
医師は、ある一定の時期までは死に対する挑戦を続けるが、ある時点ではその努力を控えることになり、その後はどういう生を実現し終えるかという方向に向かうという。その「生の完遂」ともいうべき部分が、日本の医療では十分に整備されておらず、議論も不足していると主張するが、日医が主張する通り、こうした議論が十分尽くされているとはお世辞にも言える状況にはない。
法案要綱案には、延命措置の中止をはじめとするすべての国民、患者の生死に関する重要な内容が含まれている。終末期医療は、患者や家族に応じたケースバイケースの対応が求められるが、医師や医療関係者の臨機応変な対応によって、これまで終末期医療は支えられてきたことは疑いようもない事実だ。
こうした枠組みが法制化されれば、一番大きな影響を受けるのは医療提供側と患者側で、そうした体制を実現するには両者の理解がなければ、機能するものではない。しかし、現在の議論は永田町内の議論にとどまり、とても国民、医療関係者を巻き込んだ議論には見えない。国会会期末をにらんだ「結論在りき」の議論にならないよう、実際の医療現場を見据えた議論をしてほしいものだ。(加藤 健一)
*このファイルは生存学創成拠点の活動の一環として作成されています(→
計画:T)。
*このファイルは文部科学省科学研究費補助金を受けてなされている研究(基盤(B)・課題番号16330111 2004.4〜2008.3)の成果/のための資料の一部でもあります。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/p1/2004t.htm
UP:200704 REV:20070402,03,05,12,14,22,23.. 20080329
◇
安楽死・尊厳死