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射水市民病院での人工呼吸器取り外し・4月

射水市民病院での人工呼吸器取り外し


■新聞報道・他

◆「富山・射水の呼吸器外し:尊厳死の法制化を要望−−日本尊厳死協会」
『毎日新聞』 2006年4月1日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060401ddm041040084000c.html
◆「外科部長と病院、食い違う主張 呼吸器取り外し問題」
『朝日新聞』2006年04月02日08時40分
http://www.asahi.com/national/update/0402/TKY200604010538.html
◆「尊厳死・安楽死:「国の指針必要」52% 「法制化」は意見二分−−毎日新聞調査」
『毎日新聞』 2006年4月2日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060402ddm001040040000c.html
◆「呼吸器外し事件1週間 「本人同意」で許されるのか」(連載・折れない葦)
 『京都新聞』朝刊3面 2006年04月02日
◆「[1]臨終の時 「自然な死 迎えさせたい」 事実発覚 衝撃走る (連載:いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された)
『北日本新聞』2006年4月2日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「[2]謎 装着は「救命だった」 なぜ末期がん患者に」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月3日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「延命中止、別の医師も…60代患者の家族が依頼」
『読売新聞』2006年4月3日14時37分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060403ic05.htm
◆「呼吸器外しは悪いのか 家族・医師580人調査」
『AERA』2006年4月10日号 20-23pp.(朝日新聞社,2006年4月3日発売)
http://opendoors.asahi.com/data/detail/7311.shtml
◆「富山・延命中止に見る医者と家族の“あうん”」
『読売ウィークリー』2006年4月10日号 (読売新聞社,2006年4月3日発売)
http://info.yomiuri.co.jp/mag/yw/
◆「富山・射水の呼吸器外し:残る1件、同僚医師が関与認める 「外科部長も認識」
『毎日新聞』 2006年4月4日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060404ddm041040022000c.html
◆「[3]平行線 「いのちが大事」は同じ 医師に死生観の違い」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月4日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「決断に揺れる家族 終末期医療の現場」
『朝日新聞』マイ・タウン富山 2006年04月04日
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000604040001
◆「延命中止「外科部長が7件とも把握」…部下の医師証言」
『読売新聞』2006年4月4日13時15分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060404i103.htm
◆「「尊厳死」法制化の是非、問題は何か」
『TBS News i』2006年04月04日 21:15
http://news.tbs.co.jp/
◆「人工呼吸器外しの射水市民病院 終末期医療委員会を設置」
『朝日新聞』 2006年04月04日22時20分
http://www.asahi.com/national/update/0404/TKY200604040427.html
◆「部長スイッチ切り看護師が管外した…患者の家族証言」
『読売新聞』2006年4月5日3時2分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060405i201.htm
◆「射水市民病院 家族が「呼吸器外して」と外科部長に依頼」
『朝日新聞』 2006年04月05日08時19分
http://www.asahi.com/national/update/0405/TKY200604040487.html
◆「終末期医療、広く議論」
『朝日新聞』マイタウン・富山 2006年04月05日
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000604050001
◆「[4]パンドラの箱 「開業医の集まりだった」 診療科ごとに厚い壁」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月5日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「死の認識、重い問い 呼吸器外し」(編集委員・山内雅弥)
『中国新聞』地域ニュース 2006年04月05日 
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200604050007.html
◆「延命中止、「部長判断は倫理上問題」と医師ら供述」
『読売新聞』2006年4月6日3時1分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060406i301.htm
◆「[5]同意 信頼関係だけで十分か 必要な第三者の意見」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月6日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「呼吸器外し、富山県が県内の病院を調査」
『TBS News i』2006年04月06日16:00
http://news.tbs.co.jp/ *
◆「富山発・7人が死亡 患者不在の内紛は、人命をネタにしてエスカレートしていった 外科部長父【伊藤雅之・50歳】「院長【麻野井英次】!どっちが殺人者なのか」
『週刊現代』2006年4月15日号 34-37pp.(講談社,2006年4月6日発売)
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/article/060406/top_01_01.html
◆「呼吸器外し「全く知らなかった」…外科医2人」
『読売新聞』2006年4月7日3時13分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060407ic01.htm
◆呼吸器外しで起訴困難 羽幌病院事件で旭川地検
『北海道新聞』 2006年04年07日 07:38
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060407&j=0030&k=200604077907 ◆「[6]定義 尊厳死とは、安楽死とは 医療現場さえ認識に差」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月7日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆富山・射水の呼吸器外し:「悪く言う人いない」 外科部長に同情の声
『毎日新聞』 2006年4月7日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20060407dde041040038000c.html
◆「[7]論議 「身近な問題」反響続々 意見反映する仕組みを」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月8日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「論点:尊厳死を考える(主題 提言 討論の広場)」
『毎日新聞』2006年4月8日朝刊7面
 ◇「法的ルールが不可欠」井形昭弘――日本尊厳死協会理事長
  本人の意思が前提,「命の軽視」は誤解 延命措置が患者に苦しみ強いる場面も」
 ◇「患者の心が議論の軸」山崎章郎――日本ホスピス緩和ケア協会会長
  死ぬ間際の目に見える形だけ論じるな 一般の医療現場にも緩和ケアの普及を」
 ◇「何より「生」の尊重を」川口有美子――日本ALS協会理事
  安楽死との境界があいまいな治療停止 緊急時の阻むリビングウィル」
  ../2000/0604ky.htm
◆私の視点・ウィークエンド
『朝日新聞』2006年4月8日朝刊
 ◇「尊厳ある死は自分で決定 ・延命措置」【加賀乙彦/作家・精神科医】
 ◇「リハビリ中止は死の宣告 ・診療報酬改定」【多田富雄/東京大名誉教授】
◆「最後のレッスン  キューブラー・ロスかく死せり」『BSドキュメンタリー』
 NHK BS-1 2006年4月8日午後10:10〜11:00
 NHK BS-1 2006年4月15日午後12:10〜13:00(再放送)
◆外科部長の方針通りに診療、病院ナンバー2医師が証言
『読売新聞』2006年4月9日3時5分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060409i301.htm
◆「[8]空白 病院としての検証は 議論の積み上げ必要」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「取り外し知らなかった 射水市民病院の外科医」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/09backno.html
◆「複数医での判断を否定 射水市民病院幹部」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/09backno.html
◆「[9]基準 動き出した医療現場 議論尽くすことから」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月11日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/
◆「終末期医療で指針策定 黒部市民病院」
『北日本新聞』2006年4月11日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/11backno.html
◆「呼吸器外しは心肺停止後 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月12日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/12backno.html
◆「期限決めて方針決定を 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月12日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/12backno.html
◆「「法・指針必要」8割超 終末期医療・病院調査」
『北日本新聞』2006年4月13日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/13backno.html
◆ 国の指針づくり期待 法整備の動向見極め
『北日本新聞』2006年4月13日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/13backno.html
◆尊厳死:登録急増、昨年比2.7倍 1日100人超−−富山・射水の呼吸器外し受け
『毎日新聞』 2006年4月14日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20060414dde041040030000c.html
◆「 揺れる医療現場 延命治療中止の波紋」『ナビゲーション』
 NHK富山放送局』2006年4月14日 午後7:30〜7:55 デジタル総合・総合
            2006年4月16日 午前8:00〜8:25(再放送)
◆「終末期医療 協議が加速 県内」
『北日本新聞』2006年4月15日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/15backno.html
◆「終末期医療で国に指針整備要請へ 石井知事」
『北日本新聞』2006年4月15日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/15backno.html
◆「[3]尊厳 ただ、生かしておくような… 一人一人に人生の物語」(連載・いのちの回廊 第5部 高齢者もう一つの終末期」
『北日本新聞』2006年4月16日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no05/index.html
◆ 「本人の意思あくまで尊重 日本尊厳死協会理事長」
『北日本新聞』2006年4月16日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/16backno.html
◆「延命治療中止『家族の意思で可能に』 本人意思不明な場合」
『東京新聞』2006年4月16日
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060416/mng_____sya_____008.shtml
◆「尊厳死の法制化は必要か」【福本博文】
『文藝春秋 日本の論点PLUS』2006.04.20 更新
http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/enquete/060420.html
◆「記者の目:射水市の呼吸器外し」
『毎日新聞』 2006年4月21日 0時24分 【根本毅(大阪科学環境部)】
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060421k0000m090165000c.html
◆「三者三論 延命医療をどう見る」
『朝日新聞』2006年4月21日朝刊オピニオンのページ
 ◇「呼吸器は外せないのか」 【谷田憲俊氏・アジア生命倫理学会副会長】
 ◇「生き延びるのは悪くない」【立岩真也氏・社会学者】
  ../ts/2006065.htm
 ◇「患者や家族の心は揺れる」【山崎章郎氏・日本ホスピス緩和ケア協会会長】
◆「尊厳死フォーラム:約300人が参加−−東京」
『毎日新聞』2006年4月23日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060423ddm041040040000c.html
◆「生死,出ぬ結論 家族の決断(「延命,あなたなら 上,読者一万人の声」)」
『朝日新聞』2006年4月23日 朝刊生活欄
◆「ルール作って 現場の苦悩(「延命,あなたなら 下,読者一万人の声」)」
『朝日新聞』2006年4月24日 朝刊生活欄
◆「呼吸器外し、発覚から1カ月 同意の有無、焦点に捜査」
『朝日新聞』2006年04月23日11時24分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604220258.html
◆「呼吸器外し発覚から1カ月 「延命」論議が活発化」
『北日本新聞』2006年4月25日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/25backno.html
◆「「尊厳死」法制化を問う」
『新宗教新聞』2006年4月25日
◇「人権や優生思想からの問題点」【光石忠敬・弁護士】
◇「国家が政策で「死に方」を推奨」【小松美彦・東京海洋大学教授(生命倫理学)】
◇「尊厳生」の検討が必要 新宗教連,議員連盟に意見書」
 http://www.shinshukyo.com/webup/back06/backframe03.31.htm
◆「呼吸器を「稼働中止せず」 かみいち総合病院」
『北日本新聞』2006年4月26日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/26backno.html
◆「外科医を1人補充へ 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月26日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/26backno.html
◆「延命治療 続く模索 「人工呼吸器外し」から1カ月」
『朝日新聞』2006年4月28日朝刊生活欄
◆「記者の目:在宅ホスピスの現場から考える=福田隆(おおさか支局)」
『毎日新聞』2006年4月28日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20060428ddm004070142000c.html
◆「延命治療中止の外科部長、射水市の福祉保健部参事に」
『朝日新聞』2006年04月28日19時08分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604280300.html
◆衆議院厚生労働委員会で村井宗昭(民主)「射水市民病院問題の背景」質問,川崎二郎厚生労働大臣等答弁
http://www.shugiintv.go.jp/jp/video_lib3.cfm?deli_id=30434&media_type=wb
◆「ICU延命治療「控えた」9割 回復見込めない患者に」
『朝日新聞』2006年04月29日21時08分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604290186.html


 
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■記事引用等

◆「富山・射水の呼吸器外し:尊厳死の法制化を要望−−日本尊厳死協会」
『毎日新聞』 2006年4月1日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060401ddm041040084000c.html

 日本尊厳死協会(井形昭弘理事長)は31日、尊厳死の法制化を求める要望書を、川崎二郎厚生労働相あてに提出した。富山県射水(いみず)市の病院で、末期患者が医師によって人工呼吸器を外され死亡した問題を受けた。「延命の責務と患者の苦しみの間で第一線の医師は悩む」として、延命治療のあり方について具体的な基準を法制化するよう求めている。


◆「外科部長と病院、食い違う主張 呼吸器取り外し問題」
『朝日新聞』2006年04月02日08時40分
http://www.asahi.com/national/update/0402/TKY200604010538.html

 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が人工呼吸器を外され、死亡した問題は、1日で発覚から1週間がたった。呼吸器の取り外しに関与した外科部長(50)と病院側は、それぞれ記者会見を重ねるなどして見解を示しているが、主張にはかみ合わない点が多く、むしろ対立点が鮮明になってきた。

図 人工呼吸器取り外し問題をめぐる経緯(略)

 ●7人と6人
 呼吸器を取り外した後に死亡した7人は、00年〜昨年に外科で治療を受けた50〜90代の男性4人と女性3人。
 外科部長はうち6人について「自分が呼吸器を取り外した」と認めているが、残る1人は「主治医は他の医師で、自分は関与していない」と主張している。
 同病院の外科医は部長を入れて計4人。部長の説明が正しければ、他の3人の外科医か過去に在籍した外科医の誰かが、部長とは別に呼吸器の取り外しを判断・実行したことになる。
 この点について麻野井(あさのい)英次院長は「外科のトップは外科部長であり、責任を取る立場にある」とし、7件すべてに職務上の責任があるとの考えを示した。

 ●独断か
 「延命治療の中止」が刑事責任を問われるのはどのような場合か。司法の判断が示された例はなく、95年3月の横浜地裁判決が違法性を問われないための要件を示しているだけだ。
 今回の問題もこの判決を踏まえて(1)患者の容体などについての判断は適切だったか(2)患者の意思表示か家族による患者の意思の推定があったか――が焦点になる。
 (1)について外科部長は、関与した6件のうち5件で「他の医師と相談した。取り外しの際には医師2人、看護師2人以上で家族とともに最期をみとった」とし、問題はないとの考えを示している。残る1件は別の医師がたまたま不在だったため、1人で判断し、取り外したという。
 だが、麻野井院長は「外科部長はスタッフに命令する立場。別の医師が対等に意見を言い、反論できる状況にはなかった」と話した。部下の医師が外科部長に異論を述べる余地はなく、たとえ複数の医師が居合わせたとしても、事実上の独断だったという見解だ。

 ●同意は
 (2)はどうか。外科部長は「いずれも呼吸器を外すことに患者の家族が同意した」と説明している。カルテにはそのことが記載されているというが、家族とのやりとりはすべて口頭でなされ、同意書は一通も交わしていなかった。
 「家族との間で信頼関係があった。あうんの呼吸で家族の意向を最大限くみ取った」と外科部長は話している。
 7人とは別の患者で、呼吸器の取り外しが昨年10月に病院内で発覚するきっかけになった患者の家族は、今回の問題が明らかになった後に「取り外しには同意していない」と話したが、その2日後に一転、実際には外科部長に同意していたことを認めた。
 富山県警は遺族や病院関係者らから事情聴取を進めている。患者一人ひとりの病状などを確認したうえで、刑事責任が問えるかどうか、慎重に判断するとみられる。」


◆「尊厳死・安楽死:「国の指針必要」52% 「法制化」は意見二分−−毎日新聞調査」
『毎日新聞』 2006年4月2日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060402ddm001040040000c.html

 「◇全国医師会・本紙調査
 尊厳死や安楽死に関する国の指針が必要だと考える都道府県医師会が5割を超える一方、法制化を望むのは3割に満たないことが毎日新聞の調査で分かった。医療現場での混乱が指針を求める背景にあるが、法制化については議論の必要性を指摘する意見が多かった。富山県射水(いみず)市民病院での人工呼吸器取り外し問題で終末医療のあり方が再び浮上したが、国は厚生労働省の研究班が取り組む程度。今回の調査で、より広範な議論の必要性が浮き彫りになった。
 調査は、同市民病院の問題が発覚した直後から、47都道府県医師会と都道府県担当課の計94機関を対象に実施。青森、和歌山、宮崎各県医師会を除く91機関が回答した。
 調査結果によると、国の指針が必要とした都道府県医師会は、23医師会(52・3%)だった。理由として、「ルールがなく、医療現場は非常に困っている」(徳島)、「高齢化社会では今後も(射水市民病院と)同様の問題が起こりうる」(千葉)、「自己判断は間違いがつきもの」(北海道)などの意見があった。
 一方、「不必要」は4医師会(9・1%)にとどまった。「宗教も死に対する考え方も多様なため無理」(島根)などを理由に挙げた。また、都道府県では「必要」が28道府県(59・6%)に達し、「不必要」はなかった。
 法制化について、医師会では「必要」と「不必要」が共に12医師会(27・3%)で意見が割れた。「どちらとも言えない」などと答えたのは15医師会(34・1%)で、「国民の広範囲な議論と合意形成が必要」(大阪)など、議論を求める声が目立った。都道府県では、「必要」と回答したのが15府県(31・9%)だったのに対し、「不必要」は2県(4・3%)だけだった。【まとめ・河内敏康】」


◆「呼吸器外し事件1週間 「本人同意」で許されるのか」(連載・折れない葦)
 『京都新聞』朝刊3面 2006年04月02日

 「富山県の射水市民病院で医師が入院患者七人の呼吸器を外し、死亡させた事件が明るみに出て以来、尊厳死や安楽死のルールづくりを求める声が出ているが、一方で反対論も強い。終末期医療では「本人の同意」があれば呼吸器を外しても許されるのか。論点をまとめた。(社会報道部 岡本晃明、清原稔也)

末期 あいまいな定義

 事件が明らかになった三月二十五日。東京・品川であった「死の法」研究集会で、日弁連人権擁護委員会の光石忠敬弁護士は「延命措置という言い方は、不要な、医療とは言えない行為だと誤解させる」と批判した。
 終末期の患者はどういう状態をいうのか。過去の「安楽死」訴訟をみると、東海大事件で余命は「一−二日」、川崎協同病院事件判決で「回復の可能性はあり死期は切迫していない」。不起訴だった京北病院事件で京都府警は余命三十分以内と判断した。
 富山の事件では七人の「末期」状態は、明らかになっていない。痛みの緩和医療は進展している。「余命が分かったとして、今しばらくで亡くなる命なら、そのまま見守ればいいではないか」。そういう意見も品川の研究集会ではあった。
 「末期」の定義は揺れている。厚生労働省の二〇〇四年の調査は「痛みを伴い、死期が六カ月程度より短い期間」。超党派の国会議員が昨年十一月に出した尊厳死立法への骨子案は単に「死期が切迫」とした。厚労省は遷延性意識障害についても「持続的な植物状態」という言葉で、終末期医療の検討会で扱っている。しかし交通事故などで遷延性意識障害となり、一年以上たって意思疎通が回復した例も多く報告されている。

同意 自己決定 いつ有効

 「本人の同意があっても、いったん装着した呼吸器は外せない。殺人罪がくっついている」。射水市民病院の院長はそう記者会見で語った。
 日本尊厳死協会はリビング・ウイル(文書による生前の意思表示)を進める。厚労省の終末期医療に関するアンケート(〇三年)によると、リビング・ウイルの法制化に賛成の人は37%。五年前調査から10%減った。
 「同意」はいつなされたものが有効なのか。健康時の自己決定が有効なのか。人生の中途で障害を負ったときや、老いたときに、新たな価値観が芽生えたと多くの人が言う。
 家族からの「死なせてやって」という意向も、多発する介護殺人にみられるように、患者本人の意思に反する場合がある。本人の同意にしても、家族の経済的負担、介護負担を思いやって選択されることがあり得る。

苦痛 医療の充実まず必要

 本人の同意があっても、他の人が命を奪えば自殺ほう助や嘱託殺人の罪にあたると刑法は規定する。看護師や家族が患者の呼吸器を外した例は有罪判決が出ている。患者の意識レベルが低くても「残虐」(湖東病院事件、大津地裁論告)とされ、川崎協同病院事件判決(横浜地裁)では医師が呼吸器を外した後、患者が苦しそうに見えたと認定している。ただ、苦しいのだろうと思うのは、周囲の人にそう見えるだけなのかもしれない。
 今回の富山の事件で呼吸器を外した医師は、患者は「脳死状態だった」と説明している。北海道羽幌病院で昨年、医師が呼吸器を外し、殺人容疑で書類送検された事件でも「脳死状態」と家族に話したといわれる。
 厳密な判定なしで「脳死状態だ」「介護が大変だ」という医師の言葉で、生を断念させられそうになるケースが多い、と重度障害者団体は指摘する。息子が交通事故にあったある女性も、かつて救急医にそう言われた。今、息子は文字盤を使って会話ができるまで回復した。
 厚労省のアンケートで、医師ら医療者は終末期医療の現状について、終末医療設備の不足や緩和医療、在宅医療の態勢が十分でないことを、悩みや疑問に挙げている。難病患者や家族らからは、治療中止のルールづくりよりも、まず終末期医療や福祉の充実が必要という声は強い。

 尊厳死や安楽死について、ご意見、ご感想を「折れない葦」取材班までファクス、または電子メールでお寄せください。ファクス番号は075(252)5454、電子メールのアドレスはashi@mb.kyoto_np.co.jpです。」(全文引用)


◆「[1]臨終の時 「自然な死 迎えさせたい」 事実発覚 衝撃走る (連載:いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された)
『北日本新聞』2006年4月2日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

 「スー、スー、スー…。病室で人工呼吸器が単調なリズムを刻む。そばで心電図のモニターが、心臓の鼓動を波形に描き続ける。射水市民病院外科病棟の一室。ベッドに横たわる患者の意識が戻ることはもうなく、人工呼吸器からチューブを通って肺へ送られる酸素がいのちをつなぐ。
 苦しかった闘病の終着点へと向かう患者は、何人もの人に囲まれている。苦楽を共にしてきた家族たち、看護師、主治医と、たいていはもう一人の医師。病棟の責任者である外科部長(50)は「その時」についてこう話す。
 「部屋の中には非常にたくさんの人が詰めた状態でね、その時を共有するわけですが、みなが同じ気持ちというか、一人の方を送り出すんだっていう、一体感がある空間なんですね」(三月二十九日、自宅前で)
 呼吸器を外して心臓が止まるまで、数分程度の時間がある。「死にいかれるときに、ご家族のかたとの、大切な別れる時間がそこに誕生するわけです。多分に自分の考え方は、あの、情緒的なので、よく人には批判もされますけど」「自然な死を迎えさせてあげたいという方々にとって、貴重な時間なんですよね」(同)
 射水市民病院で相次いで行われた延命中止。呼吸器を外したすべてのケースで「最初から最後まで、家族が患者を見守った」(同)。別れの時に患者のくちびるをしめらせて、看取(みと)った家族もあったという。
 ヘリコプターの爆音が、空気を切り裂いた。三月二十五日、北陸の冬の終わりを告げるような青空が広がった土曜日。ふだんなら静かな週末の病院駐車場は、全国から駆けつけた報道関係者の車、タクシー、テレビの中継車に占領された。
射水市民病院二階の大会議室で百人近くの報道陣を前に、院長の麻野井英次(56)は事実経過を説明した後、深々と頭を下げた。苦渋の表情を浮かべ、質問に答えた。「外科部長の行為が犯罪かどうか分からない。警察が判断する」「倫理的、道義的問題だと思う」
 院内で問題が発覚したのは、この半年前の平成十七年十月十二日。三日前に昏睡(こんすい)状態で搬送された外科の患者が、たまたま内科病棟に入院していた。この日の午前、内科病棟の看護師長は、外科部長から家族の同意で患者の人工呼吸器を取り外す予定だと指示を受けた。不安になった看護師長が副院長に連絡し、これを知った麻野井が中止を命令。当日中に、調査委員会が設けられた。
 過去十年間にわたるカルテ調査で、浮かび上がった事実は衝撃的だった。十二年から十七年にかけ、家族の希望や了承のもとに末期患者の人工呼吸器を取り外した男性四人、女性三人の七例が見つかった。
 調査結果は十七日までに市、県に報告、地元の新湊署(当時)に届けられたが、警察の捜査を優先して公表は先延ばしになっていたのだった。
 ニュースは週末の列島を駆け抜けた。「安楽死」「尊厳死」「延命治療」…。象徴的な言葉が新聞やテレビ、インターネット上に踊った。
 週明けの閣議後の会見で、川崎厚生労働相は延命治療の在り方について「議論を早める必要がある」と述べた。三月三十一日には日本尊厳死協会が「延命の責務と患者の苦しみの間に挟まれた第一線の医師の悩みがある」と指摘。基準作りを求める要望書を、厚労省に提出した。
 こうした動きとは別に衝撃を受けたのは現場の医師たちや、多くの患者だった。いま事実の細部が少しずつ明らかになり始め、一方で新たな疑問点がわき上がっている。ベッド数二百、地方のどこにでもある病院でそれは起きた。(敬称略)

 第4部は射水市民病院延命中止問題が明らかになったため、予定を変更してスタートしました。

【人工呼吸器の取り外しを公表した記者会見=3月25日、射水市朴木(新湊)の射水市民病院大会議室】(写真・略)


◆「[2]謎 装着は「救命だった」 なぜ末期がん患者に」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月3日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【酸素が取り込めない患者に装着する人工呼吸器=県内の公的病院】(写真・略)

 「射水市民病院の延命中止問題が発覚した直後、まず関心が集まったのは、末期患者の人工呼吸器を外すという、外科部長(50)の行為の是非についてだった。「なぜ外したのか」「患者の意思確認は」―。
 一方で、問題を知った現場の医師の多くは、違った点に首をかしげていた。「どうして人工呼吸器を付けたのか」。そもそも付けなければ、外すかどうかで悩む必要もなかったはずだ。
 医師たちの疑問の出発点は、死亡した「七人の患者のうち五人が、がん患者だった」と病院が発表したことにある。
 車輪がついたスタンドに据え付けられた本体からチューブがのびる。メーターやスイッチがいくつも並ぶ機械が「人工呼吸器」だ。電源は通常のコンセント。一定のペースで酸素を送り続け、酸素を送る直径八―九ミリのチューブは口から入れるか、もしくはのど仏の付近に一センチ程度の穴を開けて気管まで届かせる。
 人工呼吸器が使用されるのは例えば、事故で頭部や肺に損傷を受けた、あるいは重い肺炎などで酸素を取り込めなくなったなど、「急性期医療」の現場だ。患者は基本的に治癒が期待できる。いのちの急場を人工呼吸器でつなぎ、回復して呼吸ができるようになれば外す。
 治癒が見込める急性期医療と、回復が困難ながんの終末期医療では、人工呼吸器を使用する意味が違ってくる。
 県内の総合病院に勤めるベテラン内科医は、多くのがん患者を看取(みと)ってきたが、この十年間で人工呼吸器を付けたことはないという。
 内科医は末期がん患者を「死という『がけ』に向かっている人」と例える。「がけに向かうしかない歩みを人工呼吸器で止め、意識もない苦しみの時間を引き延ばすことに意味があるんでしょうか」
 内科医のような考え方は、この十年余りで終末期医療の現場に急速に浸透した。県立中央病院の緩和ケア病棟では、臨死時に人工呼吸器や心臓マッサージなどの延命措置をいっさい行わない。
 一般病棟でも、これに準じた医療を行う。
 「ここ(射水市民病院)に来てから十年ちょっとになりますけど、ま、おそらく五百人のかたがたを、お見送りしているんですね。まあその中で、うーん、二百人ぐらいのかたは、おそらく人工呼吸器を装着したまま亡くなっとられると思うんです」(外科部長、三月二十七日、自宅前)
 五百人のうち、がん患者は果たしてどれだけだったのか、どの時点で人工呼吸器は付けられたのか、患者もしくは家族に対してどのような説明が行われていたのか、現時点では何も明らかになっていない。
 三月三十一日。季節外れの名残雪は、真冬のように辺りを白く染めた。外科部長宅の玄関ドアの横に、紙が張り出された。二枚の便せんに、しっかりとした自筆の文字が並ぶ。
 「救命治療のために人工呼吸器を装着したものであり、救命が不可能で家族の方々のご希望もあったことから取り外したものです。延命治療のために人工呼吸器を装着した患者さんはおられません」
 末期がんでも肺炎などで容態が急変し、人工呼吸器の装着が必要になることは起こりえる。しかし終末期医療における「救命」と「延命」の違いとは、何なのだろうか。(敬称略)


◆「延命中止、別の医師も…60代患者の家族が依頼」
『読売新聞』2006年4月3日14時37分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060403ic05.htm

 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が延命措置の中止で死亡した問題で、2005年4月に同病院で死亡した60歳代の女性患者の家族が3日、外科部長(50)とは別の外科医に依頼し、人工呼吸器を外してもらったと読売新聞の取材に話した。
 外科部長は、自分が担当したのは7人のうち6人だったとしており、外科部長が関与していない患者の家族が取材に応じたのは初めて。
 家族によると、女性は腸閉塞(へいそく)で同病院に入院。手術前の診断でがんが見つかった。手術後、意識不明の状態となり、人工呼吸器が取り付けられた。心停止状態に何度か陥り、病院から「回復の見込みがない」と言われ、手術から3日後、家族の側から医師に「意味のない延命措置は打ち切りたい」と申し出た。
 呼吸器の取り外しは、主治医の外科医本人が行い、その場には家族と看護師がいたが、外科部長らほかの医師は立ち会っていなかったという。」


◆「呼吸器外しは悪いのか 家族・医師580人調査」
『AERA』2006年4月10日号 20-23pp.(2006年4月3日発売)
http://opendoors.asahi.com/data/detail/7311.shtml

「呼吸器外しは悪いのか――体験家族437人の本音」
「富山県の射水市民病院で,医師が末期患者の人工呼吸器を取り外し,7人が死亡した。同様の病床で,家族たちはどのように決断しているのか。」
(以下,小見出し)
 ◇理性的なつもりでも
 ◇医療費に奔走して…
 ◇妻が取り乱し撤回
 ◇「家族」でもめたら
  (以上,編集部 臼井昭仁,伊丹和弘)

「「あうんの呼吸」の終焉――医師150人のジレンマ」
「最期は穏やかに逝かせてあげたい,という願いは医師も同じ。しかし,一歩間違えば殺人罪に問われる現状では,積極的には協力できない。」
(以下,小見出し)
 ◇医師も同様,初めての夜
 ◇信頼関係崩れることも
 ◇あいまいさのよさは?
  (以上,編集部 大岩ゆり,古川雅子)


◆「富山・延命中止に見る医者と家族の“あうん”」
『読売ウィークリー』2006年4月10日号 (読売新聞社,2006年4月3日発売)
http://info.yomiuri.co.jp/mag/yw/

「富山県の病院で、患者7人が人工呼吸器を外されて死亡した。日本人が畳の上で死ねなくなって久しく、終末期の患者は、高度な医療機器にその命を委ねることに。安楽死か尊厳死か、進まぬ法整備。評判の“名医”の行動が、またも私たちに重い課題を突きつけた。」


◆「富山・射水の呼吸器外し:残る1件、同僚医師が関与認める 「外科部長も認識」
『毎日新聞』 2006年4月4日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060404ddm041040022000c.html
 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が人工呼吸器を外されて死亡した問題で、うち6人の取り外しを認めた外科部長(50)=自宅待機中=の同僚医師が3日、毎日新聞の取材に対し、残る1件の呼吸器取り外しへの関与を認めた。この同僚医師が取材に応じたのは初めて。「(外科部長に)反論したくない」として詳細は語らなかったが、「(事案は)すべて報告しており、外科部長も知っていたはずだ」と説明。既に県警にも事情を話したという。同僚医師は、部長を含めて4人で構成している同病院に所属する外科医師の1人。
 外科部長は先月29日、取材に応じ、「6人は家族との信頼関係の中で呼吸器を外した」と説明。しかし、「1人の患者は記憶になく、別の人が主治医だったと思う」と、7件のうち1件については関与を否定していた。
 同僚医師は取材に、外科部長が関与を否定したこの1件について、「(事案は)報告した。あの人は知らないはずはない」と話している。」


◆「終末期医療に指針、週内にも策定委 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月4日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/04backno.html

 「人工呼吸器の取り外し問題を受け、射水市民病院(射水市朴木・新湊)は、終末期医療に関する治療方針などガイドラインを策定するための「ターミナルケア委員会」(仮称)を今週中にも設置する。4日に同病院で開く定例幹部会で、委員会の名称や目的、外部委員も含めたメンバーなどについて具体的に詰める。
 同病院は終末期医療に関する明確なルールやガイドラインなどを定めておらず、呼吸器取り外しなどの判断が個々の医師に任されていた。
 北日本新聞社の県内公的病院に対する調査でも、ガイドラインを持っているのは回答した17病院中、四病院にとどまった。
 射水市民病院のターミナルケア委員会は、既にある倫理委員会の下部組織として設置し、外部委員も入れる予定。麻野井英次院長はこれまで、終末期医療や回復の見込みのない患者への治療方針について、複数の医師により判断するターミナルケア委員会の設置が必要と述べてきた。」


◆「[3]平行線 「いのちが大事」は同じ 医師に死生観の違い」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月4日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【患者らに迷惑をかけたことをわびる文書が掲示された射水市民病院の受付=射水市朴木(新湊)】(写真・略)

 「平成十七年十月十二日は青空が広がり、汗ばむほどの陽気だった。この日の午前、射水市民病院で、外科部長(50)が内科病棟の看護師長に告げた。家族の要望で、この患者の人工呼吸器を取り外す予定です―。
 「呼吸器の取り外しの話が出ました。これに私たちは同意しました」(家族が自宅前に張り出した文章)
 外科部長の指示に驚いた看護師長は、看護師でもある副院長に連絡。直ちに院長の麻野井英次(56)にも伝わり、外科部長に即座に中止を命じた。
 麻野井は不安になった。外科部長とのやりとりで、人工呼吸器の取り外しについて認識の違いを感じた。「過去にもあったのではないか」。七件の取り外し発覚は、徹夜でカルテを調べた結果だった。
 問題の発覚を受けて開かれた射水市議会全員協議会で、麻野井は当時のやりとりを再現している。取り外しを中止させた二日後の十四日、麻野井と外科部長は、副院長と事務局長も交えて二時間以上も話し合ったが、平行線をたどったという。
 根底には二人の医師としての死生観、人生経験に基づいた考え方の相違があったと想像される。
 麻野井は問題発覚後、取り外しについてこう述べている。
 「自分たち(医師)に人の死ぬ時期を決める権利はない。少しずつ命が消えていく時間は大切。どうして待てないのかと思う。意識がなくても皮膚は温かく、血は流れている。もし自分の子どもだったら、そんなことができますか。この命を慈しむ気持ちは医療従事者には大切だと思う」(三月二十六日、本紙取材)
 「心臓死をもって死とする。そういう死の定義がありますので、われわれ、内科医はやはり、心臓が止まるまではみているというのが実情だと思います」(二十五日、病院での会見)
 麻野井は金沢大医学部を昭和五十年に卒業、富山医薬大(現・富山大)の第二内科に移って助教授まで務め、院長として同病院にきた。心不全の研究と治療を専門にする。
 一方で、外科部長は岐阜大医学部から金沢大第二外科医局に入り、県内外の五つ以上の病院で勤務した後、新湊市民病院(当時)に就職した。消化器疾患を中心に、多くのがん患者もみてきた。
 「不幸にして救命できないと、そういう状況になってきた時にはね、時として無意味な延命措置というふうに思われるかたが、たくさんいる。外してあげたいという切なる思いを抱かれた時には、われわれとしては自然な行為の一つとして、機械が外されている」
 「心臓死が人の死だ、ということを認めている自分もいますし、それから、まあ、消極的な安楽死を、肯定する感情もやっぱり、どうしてもありますのでね」(二十九日、自宅前で)
 二人の医師の言葉は、どちらが正しいというものではない。ある公的病院の医師は言う。「倫理観が医者全員同じということはありえない。対象とする疾患、患者が違えば、ずれてくる。いのちが大事というのはだれでも一緒」
 患者の側もまた、一人一人が自分なりの倫理観と人生観を持つ。終末期医療はこうした人間たちが、いのちの瀬戸際で交わる場でもある。(敬称略)


◆「決断に揺れる家族 終末期医療の現場」
『朝日新聞』マイ・タウン富山 2006年04月04日
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000604040001

 「愛(いと)しい人だから長く生きていてほしい。でも回復の見込みがなくなった中で、生き続けることが幸せなのか。本人は何を望んでいるのか。射水市民病院で明らかになった外科部長らによる末期患者からの人工呼吸器外し問題を通じ、終末期医療の現場で悩む家族の様々な思いを探ってみた。
 「自分は延命治療なんかはいらない」
 県内に住む男性は、2年前に亡くなった父親ががんと分かった後、こんな言葉を残していた、と記憶している。
 治療成績の目安となる「5年生存率」(手術の5年後に存命している割合)は、病院ごとに格差があるものの、患者や家族にとっては気になる。この男性は父親に病名と5年生存率を伝えた。気持ちの整理がつかない父親。手術して約5年後、腹痛で倒れて病院に向かう途中で、「もう5年たったやろう」と漏らした。新湊市民病院(当時)での病室は4人の相部屋だったが、「個室に行くときは、もう、死ぬようなもんや」とベッドの上でつぶやいたという。
 「ホスピスみたいなのは、ここではできないのか」。この男性は苦しむ父親を思い、看護師長に尋ねた。返事は「できません」。父親は2〜3カ月後、息を引き取った。家族らと別れの水杯をした。
 射水市民病院での人工呼吸器取り外し問題が注目を浴びる今、しまってあった写真を取り出した。亡くなる直前に写したと記憶している写真には、付けていた人工呼吸器のような機器は写っていなかった。なぜ……。思い出そうと思っても思い出せない。「死ぬときはそんなことに気付かないんだ」と男性はいう。
 父親の死後、金庫に入っていた2通の「遺言」を見つけた。医師あてと子どもあて。両方の「遺書」には、「人事不省(じん・じ・ふ・せい)になったら機器は全部取り外し、かつ痛まないようにしてくれ」と書いてあった。「いろんなことを自分なりに考えてやってきたけど、結果的にやはり父の望むようにできたと思った」と心の引き出しを整理している。
 「延命治療をしますか」。男性は今、医師が投げかけるこの言葉に違和感を感じる。「医療の定義を話されても、家族はすぐそうしたことを考えられない。警察と、病院と、世間の基準って実は違う」
 
 ■「人工呼吸器よかったか」
 3年前の夏だった。がんの夫を看病する妻は新湊市民病院(当時)の廊下を歩いていて、ナースステーションで緊急を知らせるコールと「奥さん、大変」という声を聴いた。何が起こったか最初はのみ込めなかった。病室の夫はさっきまで元気だったはず。
 数分後に医師も駆けつけた。注射で血圧は少し持ち直したが、医師は夫の胸を一生懸命押しながら心臓マッサージを続ける。何回胸を押したのか。「もうだめですよ」。医師から夫の最期を宣告された。「そうですね。もういいです」。妻のこの一言で、蘇生措置は終わった。静かに人工呼吸器を外した。
 「人工呼吸器を先に外したようなことを言ったかもしれないけど、よく考えてみたら、息が止まってから外したと思う」
 妻の親族には県外に勤める元看護師が2人いた。亡くなる3日前から黒い便が出ているのを見て、家族で「もう長いことはないな」と話していた。
 射水市民病院の外科部長らが人工呼吸器を外す手順に問題があったとして、テレビ、新聞からの情報に毎日接している。
 この妻は今、「私が同じ立場だったら、外してくださいと言ったと思う。あれは見ていてつらい」と思う。
 「たんを吸引すると赤汁が管をつたっていく。ばたばたして苦しがるのを頭をさすりながら、『たんをとらなきゃ、死んじゃうんだから』と言って。のどに人工呼吸器の管を入れる穴を開けるから、話せなくなるんですよ。前日まで普通に話ができたのに……」
 人工呼吸器をつけることが良かったのか、どうか。
 「自然に死ぬのが一番と思うときもある」
 
 ■「倫理を順守し期待に応えて」 射水市民病院、市長訓示
 末期の患者の人工呼吸器を外した7人が死亡したとされる射水市の射水市民病院で3日、分家静男市長による新年度の訓示が行われた。病院内の会議室に集まった麻野井英次院長ら医師、看護師、事務職員約100人を前に、分家市長は「患者の期待に対し、一致協力して応えてください」と話した。
 射水市民病院には、新年度から看護師9人、医師3人が新たに加わった。市長訓示には、これらの新顔看護師も参加した。分家市長は、麻野井院長が昨年4月の就任以来行ってきた病院改革を「患者の増加、経営状態の改善など成果があがってきた」と評価。その上で人工呼吸器問題に触れ、「このような事態を招き、患者や市民、関係者にはご心配をかけました。私の方からもおわびを申し上げます」と謝罪。「我々は市民、患者に信頼される病院をつくらなければならない」と述べた。
 また、終末期医療に関して「国の方にも、ガイドラインや法の整備をしていただきたい」と要望。「倫理を順守して、患者や市民の期待に対し、一致協力して応えてください」と職員らを激励した。」
 
 
◆「延命中止「外科部長が7件とも把握」…部下の医師証言」
『読売新聞』2006年4月4日13時15分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060404i103.htm

 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が延命措置中止により死亡した問題で、外科部長(50)が関与を否定している1人の患者について、部下の医師が「(外科部長は)指示するなり、報告を受けるなりしており、責任を負う立場にあった」と読売新聞の取材に話した。
 県警の事情聴取にも同様の内容を話したという。
 一連の問題で、部下の医師が外科部長の責任に言及したのは初めて。
 この医師によると、昨年10月に病院内で問題発覚後、過去10年間のカルテを調べて患者7人の延命措置中止が分かった。外科部長については「(外科チームの)トップですべての監督、責任を負う。7件すべてを把握している立場で、1件は知らないとは言えない」としている。
 昨年4月に死亡した60歳代の女性の家族がこの医師に依頼して呼吸器を外してもらったと話しているが、これに対し、医師は「カルテには、心臓が止まるまで外してないとある」と反論した。」


◆「「尊厳死」法制化の是非、問題は何か」
『TBS News i』2006年04月04日 21:15
http://news.tbs.co.jp/ *

 「「尊厳死」を巡る論争です。富山県の射水市民病院で患者が人口呼吸器を外されて死亡した問題を契機に、尊厳死の法制化の是非について議論が活発になっています。一体、何が問題となっているのでしょうか。
 東京・練馬区に住む、ALS患者、橋本操さん(53)。ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、全身がだんだん動かなくなっていく原因不明の難病です。人工呼吸器をつけて14年。口元と目元の動きでコミュニケーションを取ります。
 今回、富山県の射水市民病院で起こった問題について、橋本さんは「医師は命を守るのが仕事じゃないの。殺してどうするの」と語りました。
 先月25日、射水市民病院の50歳の外科部長らが、意識不明の患者7人の人工呼吸器を外し、その後、患者が死亡していたことが発覚しました。
 「安楽死」という言葉に明確な定義はありませんが、死の差し迫った患者に対し、苦痛を取り除く目的で死を早める措置を取ることを意味します。安楽死は大きく、「積極的安楽死」と「消極的安楽死」に分かれます。「積極的安楽死」とは、患者に致死量の薬を投与したりすること。「消極的安楽死」とは、延命措置をしないことを言い、「尊厳死」と呼ばれることもあります。
 一旦取り付けた人工呼吸器を外すことは、消極的安楽死のひとつだとも言われています。95年、東海大安楽死事件の判決で、横浜地裁は、延命治療を中止する場合の3つの要件を示しています。そこでは、患者の意思表示が必要だとする一方、家族による推定でもいい、としています。
 射水市民病院の外科部長は、意思表示できない患者に代わり、「家族の要望や同意があった」としています。違法性はないと言えるのでしょうか。 日本には安楽死を認める法律がありません。土本教授は、横浜地裁の判決はひとつの参考にはなるが、安楽死も尊厳死も、今の法律では犯罪行為にあたると指摘します。
 「(日本では)一貫して生命不可侵の原則をベースとして、安楽死行為は違法であると。隠れて行われているものは、恐らく全国の病院で(安楽死行為が)行われているのではないか。客観的には、大変多くの医師が違法な行為をやっているということを意味するということなんです」(筑波大学名誉教授・土本武司氏)
 問題の背景に、法律が整備されていないことがある、と日本尊厳死協会が厚生労働省に要望書を提出しました。協会は、患者自身の意思で治療の拒否や中止が行えるようにしてほしいと、尊厳死の法制化を求める13万8000人の署名を去年、国会に提出。すでに、超党派の国会議員でつくる「尊厳死法制化を考える議員連盟」が具体的な法案作りを検討しています。
 こうした法制化の動きに、反対の声もあがっています。去年6月、「尊厳死・安楽死法制化を阻止する会」が立ち上げられました。ALS患者の橋本操さんも会に参加しています。
 法案では、患者本人が意思を表示できない場合、家族などが延命措置を中止できると盛り込むことも検討されています。
 富山で起きた問題をめぐり、法制化の賛否が分かれています。意識がない患者の尊厳は、いったい誰が決めるものなのでしょうか。」


◆「人工呼吸器外しの射水市民病院 終末期医療委員会を設置」
『朝日新聞』 2006年04月04日22時20分
http://www.asahi.com/national/update/0404/TKY200604040427.html

 「富山県射水市の射水市民病院の外科部長らが末期患者7人から人工呼吸器を外し死亡させたとされる問題で、同病院は4日、終末期医療委員会を設置することを決めた。個々の患者の終末期の治療方針を判断するほか、延命治療中止の手続きなど終末期医療の指針を策定するかどうかを検討する。
 同病院では終末期医療に関する院内基準はなく、各医師が判断していた。昨年10月中旬に外科部長が末期患者から人工呼吸器を外そうとしたことが明らかになったため、常設機関として倫理委員会を設置した。その下部組織として終末期医療委員会を置く。患者の人工呼吸器の着脱なども判断する見通し。メンバーは医師、看護師ら14人。同病院に勤務する職員で構成する。」


◆「部長スイッチ切り看護師が管外した…患者の家族証言」
『読売新聞』2006年4月5日3時2分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060405i201.htm

 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で、患者7人が延命措置中止により死亡した問題で、2005年3月に死亡した50歳代の女性患者の家族が4日、「外科部長(50)が人工呼吸器のスイッチを切り、看護師が管を外した」と具体的な状況を読売新聞の取材に話した。女性は生前から延命措置は望んでおらず、家族から外科部長に呼吸器の取り外しを依頼したという。
 家族によると、女性は胃がんの手術を受けたが、全身に転移し、通院を続けていた。1年前にインフルエンザで容体が急変して入院し、人工呼吸器を付けた。脳神経外科の医師から病状の説明を受け、「回復できない」と伝えられた。
 女性は、以前から家族に延命措置を望まない意向を伝えており、親類で協議して主治医の外科部長に延命措置の中止を申し入れた。」


◆「射水市民病院 家族が「呼吸器外して」と外科部長に依頼」
『朝日新聞』 2006年04月05日08時19分
http://www.asahi.com/national/update/0405/TKY200604040487.html

 「富山県射水市の射水市民病院で患者7人の人工呼吸器が外され死亡したとされる問題で、05年春に死亡した50歳代の女性の家族が4日、朝日新聞社の取材に応じた。脳外科医から回復の見込みがないことを告げられた後、外科部長に人工呼吸器を外すことを家族から依頼したという。7人のうちの1人とみられ、県警の任意の事情聴取にも応じたという。
 家族によると、女性は約3年前に胃がんで同病院に入院し、手術を受けた後は自宅で療養。家族はこの時、女性から「自分がもしがんの末期なら延命治療をしないでくれ」「チューブにつながれたままで生きていたくない」などと言われていたという。
 女性は約1年前、インフルエンザがきっかけで再入院し、容体が急変して人工呼吸器を装着した。その後意識が戻らず、家族らは別室で脳外科医から「回復の見込みはありません」などと説明を受けたという。
 家族らは病室に戻り、主治医だった外科部長に「外してください」と依頼。外科部長が人工呼吸器のスイッチを切り、看護師が挿管されたチューブを抜いた。病院側から外すことを促す発言があったかどうかは記憶にないという。
 同病院が、外科部長の人工呼吸器取り外しの手順に問題があったとしている点について、家族は「ああいう状態では十分なやりとりだった」「入院した時やまだ元気な時に、書類などがあればこのようなトラブルにならなかったのではないか」と話している。」


◆「終末期医療、広く議論」
『朝日新聞』マイタウン・富山 2006年04月05日
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000604050001

 「人工呼吸器取り外し問題を受けて射水市民病院(射水市朴木)は4日設置を決めた終末期医療委員会で、個々の患者の治療方針を判断するほか、院内のガイドライン作成の検討など、終末期医療のあり方を幅広く議論することになった。院内の医師、看護師ら14人で構成し、11日に初会合を開く。
 同病院は4日の定例幹部会議で終末期医療委の設置を決めた。永森宏之・同病院事務局長によると、定例幹部会議には、麻野井英次院長はじめ、副院長、医局長、看護師、事務局職員ら10人が出席した。
 終末期医療委は、院内に設置されている倫理委員会(委員長・麻野井院長、委員9人)の下部組織となる。メンバーは医師7人、看護師5人、医療技術者、事務局各1人の計14人。
 院外委員を入れることも検討したが、倫理委に弁護士ら2人の外部委員が入っていること、緊急に委員会を開く場合も予想されることから、院内職員のみで構成することにした。委員は倫理委メンバーとの重複を避けて人選するという。
 初会合以降、定例会を毎月第2火曜日に開くほか、終末期医療を施す必要がある急患があった場合も随時開く方針。同委の決定は倫理委に報告され、倫理委が最終決定するが、永森事務局長は、「同委の意見と倫理委の意見に大きな違いが出るとは考えにくい」との考えを示した。
 病院で取り組む終末期医療の中身や委員長の人選などについては、同委の初会合で決める予定で、委員には終末期医療に携わる医師以外の医師も含める方針だ。
 永森事務局長は「先進事例なども研究し、初会合で提案したい」と述べた。」
 
 
◆「終末期医療委員会」を設置 射水市民病院
『北日本新聞』2006年4月5日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/05backno.html

 「人工呼吸器を取り外された患者7人が相次いで死亡した問題を受け、射水市民病院(射水市朴木・新湊)は4日、定例幹部会を開き、ターミナルケア全般のあり方などを検討する「終末期医療委員会」の設置を決めた。11日に第1回会合を開き、呼吸器の取り扱いなどに関するガイドライン策定を含め、あるべき終末期医療について幅広く検討する。
 病院倫理委員会(委員長・麻野井英次院長)の下部組織として設置。医師7人、看護師5人、医療技術者、事務職員各1人の計14人で構成し、毎月第二火曜日の午後6時から、同病院で定例会議を開く。
 院長や副院長、事務局長ら倫理委のメンバー9人は加わらない。倫理委は外部委員2人(弁護士と臨床心理士)を含むが、終末期医療委は緊急の開催も想定されるため、院内メンバーだけで構成する。
 具体的な症例での呼吸器使用の適否や倫理問題などについて客観的な立場から検討してもらうため、委員長は終末期医療に直接かかわらない科の医師が就く予定。委員会で出された提言や報告などは倫理委に提出し、病院としての正式な決定に反映させる。
 この日の幹部会には麻野井院長をはじめ副院長、部長以上の医師、看護師、事務局長ら10人が出席。院長が、できるだけ早期に終末期医療に関する委員会を設置したいと提案し、メンバーの人選や倫理委とは切り離した運営の進め方などについて意見を交わした。」

◆「[4]パンドラの箱 「開業医の集まりだった」 診療科ごとに厚い壁」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月5日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【外科部長による人工呼吸器取り外し問題で揺れる射水市民病院=射水市朴木(新湊)】(写真・略)

 「「まるで開業医の集まりのようだった」
 平成十七年四月に新湊市民病院(現・射水市民病院)の院長に着任した麻野井英次(56)は、院内の実態をそう語った。各診療科が努力しているのは分かるが、横の連携がなく、ばらばらに医療を行っていた。
 カルテで確認された最初の人工呼吸器取り外しは平成十二年。外科病棟ではその後、十七年までの六年間に、七人の患者から人工呼吸器が取り外された。複数の医師と看護師が立ち合っていたことも分かっている。
 それでも事実が外科病棟の外に知られることはなく、麻野井が着任する前の院長も「うわさや内部告発のようなかたちでも、聞いたことはなかった」と言う。
 昨年から着手された病院改革が、結果的に「パンドラの箱」を開けることになった。それまでは外科の病床がいっぱいなら、内科に空きがあっても患者は入院できなかった。これを流動的に利用できるようにしたことで、たまたま内科病棟に外科の患者が入った。
 外科部長が人工呼吸器の取り外しを告げたのは、内科の看護師長にだった。外科以外のスタッフにふつうに告げたのは、人工呼吸器を取り外すことが特別な行為だという認識が薄かったことを示している。ところが内科の看護師長にとっては、驚く指示だった。
 日本では医療自体が縦割りの構造を持っている。各病院に医師を供給する大学病院の医局は、外科や内科など診療科ごとに独立性が強く、かつては「隣の医局は外国より遠い」とさえ言われていた。
 ところが現代の医療では、医局間、診療科間の壁は先進的な医療を実践するための障害になる。患者が主役の「チーム医療」では診療科を超えて医師や看護師、薬剤師などの医療スタッフが、同じ立場で専門性を発揮することで医療の質を上げていく。
 がんなどの難しい病気に対して、先進的な医療現場では「集学的治療」が行われる。手術する外科医、放射線医、腫瘍内科医など多くの専門家がチームを組んで病気に立ち向かう。
 こうした流れの中で、診療科ごとの壁が厚かった射水市民病院は、古い体質を残していた。事情を知る県幹部は、外科を「事実上の外科部長の個人病院だった」と評している。閉鎖性の中で、個人の悩みが病院全体の問題として共有されることがなかった。やがて、人工呼吸器取り外しを客観的に見る視点までが、外科病棟の中でぼやけてしまったのではないか。
 麻野井の着任以降、病院では「院長、事務局に文句を言う会」を開き、垣根を越えて話し合うことを始めていた。看護師の募集と教育に力を入れ、九月には病棟の壁を越えて患者が流動的に入院できるシステムを整えた。
 その結果として、就任から約一年後に麻野井は、全国から集まった百人近くの報道陣の前で頭を下げることになった。
 「(発覚は)病院改革の成果。あまりにもショックが大きく、あまりにも皮肉な成果でしたが…」
 四月に入り、「射水市民病院のことで心が痛みます」というメールが、県内の開業医から取材班に届いた。「きちんと押さえるべきはこの事件を、関係した個人の問題に終わらせることなく、終末期医療に関する新たな国民的コンセンサスを築くきっかけにすることです」(敬称略)
 
 
◆死の認識、重い問い 呼吸器外し
『中国新聞』2006年04月05日
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200604050007.html

▽医療現場 広がる波紋
 富山県射水市の病院で、末期患者七人が人工呼吸器を外されて死亡した問題が、波紋を広げている。延命治療中止の指針作りや法的な整備を求める声も強い。だが、外的な基準さえあれば、すべて解決するわけでもあるまい。医療者と患者・家族のコミュニケーションに加え、死に対する私たちの認識が問われているのではないか。(編集委員・山内雅弥)
[以下略]


◆「延命中止、「部長判断は倫理上問題」と医師ら供述」
『読売新聞』2006年4月6日3時1分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060406i301.htm

 「富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が延命措置中止により死亡した問題で、外科部長(50)とともに人工呼吸器取り外しにかかわった外科医や看護師の一部が、県警の事情聴取に対し、「倫理委員会で討議するなどの手続きを踏まず、部長の判断で取り外しが決められていくやり方には倫理上問題があると感じていた」と供述していることが5日、わかった。
 医師らは外科部長の指示に従ったことについて「反論できる状況になかった」と説明。県警は、刑事事件として立件の可否を判断する重要な供述とみている。
 同病院では、患者7人の延命措置が中止された2000〜05年の間、外科の医師はほぼ4人体制。毎年1、2人の入れ替わりがあったため、この間に外科部長を含む計10人以上が在籍していた。
 県警は順次、これらの医師や看護師らから事情聴取を行い、患者から人工呼吸器を取り外した経緯などの解明を進めている。
 その結果、人工呼吸器の取り外しは特定の医師が行うのではなく、多くの場合、たまたまその日の当番だった医師や看護師が、外科部長の指示の下で行っていたことがわかった。その際、医師らは外科部長の指示に対し、「反発を感じていたが、表立っては何も言えずに心の中だけで思っていた」と供述したという。
 外科内の雰囲気について、同病院の麻野井英次院長は会見で「外科部長に反論できる状況になかった」と説明。一方、外科部長は「外科チームは同じ目線で話し合える仲で、呼吸器取り外しはチームで相談した」と反論している。
 
 
◆「[5]同意 信頼関係だけで十分か 必要な第三者の意見」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月6日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【医療現場で使われる同意書。外科部長は人工呼吸器の装着や取り外しには用いなかった】(写真・略)

 「ほぼ一年前の平成十七年三月中旬、射水市民病院外科病棟のベッドに横たわる妻(54)=当時=は意識がなく、人工呼吸器が取り付けられていた。
 全身転移のある胃がんが見つかったのは、その二年前。胃を切除した後、通院して抗がん剤治療を続けた。小康状態を保つ妻を見て、夫は「いつか悪くなる」と思う半面、「その日」はまだ先のような気がしていた。
 ところが妻がインフルエンザにかかって再入院した。呼吸困難になって人工呼吸器を装着。さらに出血が止まらなくなるDIC(播種(はしゅ)性血管内凝固)を併発し、頭の中に血液がたまって容体が悪化した。
 「回復の見込みはありません」。別室で、脳外科医がCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)の画像を見せながら告げた。夫は親せきに集まってもらい、もう一度説明を受けた。医師の言葉は同じだった。
 妻が元気だったころ、テレビで終末期医療の特集を見ながら、言ったことがある。「チューブにつながれてまで、生きたくない」
 実は人工呼吸器を付けるときに、主治医の外科部長(50)に妻の希望を告げたが、「これは救命」と言われた。いま、目の前でチューブにつながれた妻は、ついに望みがなくなったという。夫は外科部長に言った。
 「外してやってください」
 家族が見守る中で、看護師が酸素を送り続けてきたチューブを外した。外科部長が人工呼吸器のスイッチを切った。妻は帰らぬ人になった。
 「寂しかったですよ」
 問題の発覚時、注目されたのは「患者の同意」だった。七件に同意書はなく、カルテに家族または患者の同意があったと書き込まれていた。
 「同意書を取るという、その行為自体がね、非常に場にふさわしくない、そぐわない感じがあります。『同意書いただきます』なんてふうにして差し出すようなことは、私にはちょっとできんかったですけれどね」
 「信頼し合うと、これは形のないものですから、なかなか人に証明することはできない。患者さんや家族との信頼関係ですから」(三月二十九日、自宅前で外科部長)
 夫は振り返る。「ああいう場所では(同意書は)なくても十分だと思います。やむを得ないのではないかと思う」。「(外科部長は)一生懸命やってらっしゃるのに、悪いことしたみたいに言われて、気の毒ですわ」
 いのちが消えようとする間際に、同意書を取る行為がふさわしいはずがない。だが同意書は本来、治療のもっと早い段階で十分なインフォームドコンセント(説明と同意)を踏まえて、患者がサインすることを想定している。
 夫は「もっと冷静な時に、入院した時とかに、書類があったらと思います」とも話す。
 高度な医学知識を持つ医師と、患者や家族が対等に話すことは難しい。医療現場には医師が患者の父親であり、指導者であり、患者は「すべてを委ねる」という雰囲気が根強く残る。主治医の結論へと、患者を導くことも起こりえる。
 だからこそ患者側からの申し出だったとしても、重大な決定には直接患者とかかわることのない医師が加わり、倫理委員会のような組織で検討する必要があった。射水市民病院にはそのとき、検討組織も、終末期医療についてのガイドラインもなかった。


◆「呼吸器外し、富山県が県内の病院を調査」
『TBS News i』2006年04月06日16:00
http://news.tbs.co.jp/ *

 「富山県の射水市民病院の人工呼吸器取り外し問題で、石井隆一知事は、富山県内115の全ての病院を対象に、終末期医療に関する実態調査を進めていることを明らかにしました。
 今月中にも結果を取りまとめ、射水市民病院を含む26の公的病院については、マニュアルの有無など項目を限定し、公表する予定です。


◆「富山発・7人が死亡 患者不在の内紛は、人命をネタにしてエスカレートしていった 外科部長父【伊藤雅之・50歳】「院長【麻野井英次】!どっちが殺人者なのか」
『週刊現代』2006年4月15日号 34-37pp.(講談社,2006年4月6日発売)
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/article/060406/top_01_01.html

「医療の場から外して社会的制裁をした」。富山・射水市民病院の麻野井英次院長は、記者会見で外科部長をこう指弾した。7人が安楽死させられたという内容の発表は衝撃的だったが、本誌が徹底取材すると、これまでの報道とは、まるで違った事件の構図が浮かび上がったのだ。
  (以下,小見出し)
 ◇院長に「人殺し」と言われて
 ◇対立の背景に「学閥」の存在
 ◇なぜか患者が平謝り


◆「呼吸器外し「全く知らなかった」…外科医2人」
『読売新聞』2006年4月7日3時13分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060407ic01.htm

 富山県射水(いみず)市の射水市民病院で患者7人が延命措置中止によって死亡した問題で、外科部長(50)の部下だった外科医2人が読売新聞の取材に対し、患者の人工呼吸器が取り外されていたことを「まったく知らなかった」と話した。
 外科部長はこれまで、呼吸器取り外しについて「チームで相談した」としていたが、外科メンバーによる十分な議論が行われていなかった疑いが出てきた。
 同病院の外科は4人体制。外科医の一人は呼吸器取り外しについて、「新聞を見て初めて知り、驚いた。病院内で話題になったこともなかった」と話す。「この件に関しては、外科全体での議論はなかったと思う」とも述べた。さらに、上司の指示などがあっても、「法的な問題が生じる恐れがあるので、自分としては呼吸器を外す判断は難しい」と話した。
 別の時期に勤務した外科医も「知らなかった」とし、「外科部長はかなりワンマンなところがあるので、自分で決め、自分で外したと思う。たとえ呼吸器を外していても気づかなかった」と述べた。
 一方、外科部長は6日、2005年3月に死亡した50歳代の女性に関し、「責任は私にある」と延命措置を中止したことを認めた。外科部長が、具体的な患者を挙げて自らの関与を認めたのは初めて。


◆「呼吸器外しで起訴困難 羽幌病院事件で旭川地検」
『北海道新聞』 2006年04年07日 07:38
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060407&j=0030&k=200604077907

 「道立羽幌病院で2004年2月、女性医師(34)が男性患者=当時(90)=の人工呼吸器を外し死亡させたとして殺人容疑で書類送検された事件で、複数の医師が「呼吸器を外さなくても数十分後には死亡していた」との鑑定結果を旭川地検に提出していたことが6日、分かった。検察当局は「呼吸器外しと死亡には因果関係が認められない」として、医師を起訴するのは困難と判断したもようだ。
 ただ、終末期医療をめぐり、富山県の射水市民病院で医師が人工呼吸器を取り外し7人が死亡した問題が発覚したため、厚生労働省による延命治療中止に関する指針作りの状況を見ながら最終判断する。」


◆「[6]定義 尊厳死とは、安楽死とは 医療現場さえ認識に差」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月7日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【7人の患者の人工呼吸器が外された射水市民病院の受付=射水市朴木(新湊)】
(写真・略)
 
 「昨年秋、休日に車を運転していた県立中央病院長、小西孝司(63)の携帯電話が鳴った。かけてきたのは、射水市民病院の外科部長(50)。人工呼吸器の取り外しが院内で発覚し、外科部長はその時、自宅待機を命じられていた。ハンドルを握っていた小西は、いったん切ってかけ直してもらった。
 小西も外科部長も同じ金沢大第二外科の出身。外科部長は電話で「これは尊厳死」だと言った。家族の同意があるから、と。小西は振り返る。
 「いくら同意があっても(人工呼吸器を)外すのは『そりゃ死だぞ』と言いました。それは尊厳死とは僕は思わない。本人の同意のないのは『おかしいんじゃないか』って。家族の話が変わることは、いくらでもある。うちの病院で起きたら僕でも警察に報告すると、そんな話をした」
 射水市民病院内で問題が明らかになった後、院長の麻野井英次(56)と外科部長の話し合いで認識のズレは埋まらず、麻野井は外科部長に自宅待機を命じる。
 外科部長は、平行線をたどった話し合いについて述べている。
 「院長先生は確か、積極的な安楽死というふうにして、まあ、今回のことを殺人行為というふうに位置付けられましたので、私はそれに対して、消極的な安楽死ですと、本人の意思のある時には尊厳死です、と…」(三月二十九日、自宅前)
 ところが五カ月後の会見で麻野井は、安楽死でも尊厳死でもなく「延命措置の差し控え、中止」という認識を述べた。
 一方で外科部長は、三月三十一日に張り出した文章で「(私から)尊厳死であると主張したことはありません」と書いた。「尊厳死」という言葉は、院長との話し合いの場で一般的な解釈の中で使ったもので、今回の具体的な例を指したものではなかったという。
 こうした言葉の「揺れ」自体が、終末期医療の難しさを表している。
 射水市民病院の問題を受けて「安楽死」や「尊厳死」がクローズアップされた。「安楽死」は大きく二つに分かれる。患者に薬物を投与して死に導く「積極的安楽死」。一方で射水市民病院のケースは、人工呼吸器などの生命維持装置を外す「消極的安楽死」または「尊厳死」に近い。
 平成三年、医師が苦しむがん患者に塩化カリウムなどを注射、死亡させた東海大医学部付属病院事件。横浜地裁は殺人罪で医師に懲役二年、執行猶予二年を言い渡した。
 この時の判例で、安楽死と認められる条件として「生命短縮を承諾する本人の意思表示」などの項目を示した。だがこれも一判例に過ぎず、条件を満たせば無罪だと、だれも言い切れない。
 県立中央病院の緩和ケア部長、渡辺俊雄(47)は日々、多くの末期がん患者に接し、最期の瞬間を共にする。その渡辺でさえ「尊厳死、安楽死の定義は明確でない。世間一般に通用する概念なのか、ごく一部の人が言っているだけなのか、まずここで混乱がある。医療者だって分かってないから認識の違いが出てくる」と、現状を話す。
 問題発覚後に多くの患者から声が上がった。「医師としても人としてもすばらしい」「納得いくまで説明してくれた」「熱意が伝わってくる」
 「真摯(しんし)な先生」と「殺人容疑者」―。終末期医療の現場では、かけ離れた二つの言葉が簡単に重なり合いかねない。(敬称略)」


◆富山・射水の呼吸器外し:「悪く言う人いない」 外科部長に同情の声
『毎日新聞』 2006年4月7日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20060407dde041040038000c.html

 富山県射水(いみず)市の射水市民病院(麻野井英次院長)で、00年秋から5年間に、末期患者7人が人工呼吸器を外されて死亡した。このうち6件の関与を認めた外科部長(50)=自宅待機=は、取材で医師の信条を問われ、「(患者やその家族への)愛」と答えた。「たとえて言えば、赤ひげ先生」。周辺で聞こえるのは、外科部長に同情する声ばかり。終末医療の現場で何があったのか−−。【富山呼吸器外し取材班】

 ●「丁寧に説明なさる方」
 外科部長の専門は消化器外科。95年4月に射水市民病院の外科医長、97年4月から外科部長になった。連日、午後10時ごろまで勤務。週末も出勤し、患者のために深夜でも病院に駆け付けた。
 市内の開業医は「助けたいと思ったら、12時間でも24時間でも一生懸命手術するタイプ」と話す。通院患者の一人は「悪く言う人はいない。(病状について)年寄りにも分かるように丁寧に説明なさる方だった」と話した。
 福井県中部のJR北陸線今庄駅から車で約30分。今年は豪雪で、4月なのに雪が残る。古くからの実家があり、外科部長も夏祭りなどで里帰りした。「優しい子どもだった」。近くの親族は、遊びに来た時に肩をもんでくれたことを覚えていた。
 外科部長は問題が表面化した後、この農村に住む母親と電話で話し、「元気だよ」と声をかけたという。母親は毎日新聞の取材に「息子が自分の仕事だと思ってやってきたこと。(今も)偉いと思っています」と話した。

 ●病院内部で何が
 射水市民病院は13診療科、200床の、リハビリや人工透析施設を備えた地域の基幹病院だ。昨年4月、麻野井院長が就任して経営面での改革に乗り出し、患者数の増加や閉鎖病棟再開などの成果を上げていたという。
 昨年10月に病院内で問題が発覚した直後、院長は外科部長と3回、話し合った。この内容について、院長は会見で「(外科部長は)『尊厳死』という言葉を繰り返し使った」と説明。しかし、外科部長は「尊厳死とは主張していない」と話しており、食い違っている。
 「後悔していません」。03年に同病院で患者の呼吸器外しを依頼した家族は、点滴を受け呼吸器で息をする姿を前にして、「可哀そうで、いつまで続くかと思うとつらかった」と打ち明けた。05年に外科部長に呼吸器のスイッチを切ってもらった別の患者の家族は、「(外科部長は)悪いことをしたわけでないのに、気の毒」と話す。


◆「[7]論議 「身近な問題」反響続々 意見反映する仕組みを」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月8日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【人工呼吸器取り外し問題をめぐって北日本新聞社に寄せられたはがきや手紙、メールやファクス】(写真・略)

「人工呼吸器が外され、患者七人が死亡」。射水市民病院のニュースは全国を駆け巡り、病院には連日、県内外から電話がかかってきた。病院への激励、外科部長の擁護―。そうした電話はこれまで約百件に上った。
 延命停止、そして「七人」という異様な人数。だれにも訪れる終末期をめぐる問題だけに、衝撃は医療関係者だけでなく、多くの人びとに広がった。
 電話やメール、ファクスは北日本新聞社にも続々と届いた。人工呼吸器取り外しの是非、人の死の在り方、現在の医療について…。だれもが、問題を「自らのこと」としてとらえていた。
 射水市戸破(小杉)に住む団体職員、赤間要(37)は、射水市民病院の人工呼吸器のニュースをインターネットで知った。一週間前に、知人の見舞いに行ったばかりの病院だ。驚くと同時に「難しい問題だ」と直感した。
 十年前、六十六歳で亡くなった母の記憶がよみがえった。実家のある埼玉県所沢市の病院。心臓病で倒れた母は植物状態になってベッドに横たわり、人工呼吸器をつけて半年間、生き延びた。取り外そうとは考えなかった。眠り続ける母の心が分からなかったからだ。
 新聞記事を読んで、メールアドレスが目に入った。まずは自分の考えをまとめてみようと思い、八百字の文章を二時間かけて書き上げた。翌日、すっきりした頭で読み直してから、送信ボタンを押した。
 「議論に欠かせぬ人の心の問題」という見出しで、投稿は北日本新聞に掲載された。「『本当にその死は安楽なの?』『早く死なせるのが、なぜ尊厳なの?』という疑問に、いつもぶちあたります」
 東京・本郷の日本尊厳死協会本部にも問い合わせが殺到した。「尊厳死とは何か」「協会ではどんな活動をしているのか」。資料を希望した人は問題が明らかになってから二千人を超えた。
 協会は「尊厳死の宣言書」(リビング・ウィル)の登録、保管、証明を行う。宣言書には不治かつ末期状態での延命措置の拒否や、苦痛を和らげる治療の希望、長く植物状態になった場合の生命維持措置取り止めなどが明記してあり、自筆で署名する。
 反響の大きさを同事務局次長の白井正夫(67)は「多くの人が射水が特別なのではなく、身近にも起こりうる国民みんなの問題だと思ったのではないか」と話す。
 協会の会員は年々増加し、全国で約十一万人。うち富山県は三百五十人で、男性百二人、女性は二百四十八人だ。
 射水市民病院の延命中止が明らかになる直前の三月十九日、都内で「第二回がん患者大集会」が開かれた。大会アピールでは、厚労省が十月に設立を予定するがん対策情報センターの運営に、患者も加えるよう求めた。
 医療の在り方を、医師と行政担当者だけに任せる時代は終わろうとしている。終末期医療についても、まず一人一人が考え、意見を反映させる仕組みが必要になる。
 いつか終末期を迎えるすべての人間の一人として、赤間は言う。
 「死はだれだって避けて通れないが、暗い話には目を背けたくなる。でも真剣に考えてほしい。自分にとって死とはなにか、延命医療とは、家族はどうあるべきか、経済的な負担までをも含めて、真剣に考えてほしい。そんな思いでメールを書きました」(敬称略)」
 
 
◆「論点:尊厳死を考える(主題 提言 討論の広場)」
『毎日新聞』2006年4月8日朝刊7面

「治療行為中止か殺人か。射水市民病院外科部長の行為が終末医療の現場を揺さぶっている。」

◇「法的ルールが不可欠」井形昭弘――日本尊厳死協会理事長
本人の意思が前提,「命の軽視」は誤解 延命措置が患者に苦しみ強いる場面も」か
 (以下 略)

◇「患者の心が議論の軸」山崎章郎――日本ホスピス緩和ケア協会会長
死ぬ間際の目に見える形だけ論じるな 一般の医療現場にも緩和ケアの普及を
 (以下 略)

◇「何より「生」の尊重を」川口有美子――日本ALS協会理事
  ../2000/0604ky.htm
安楽死との境界があいまいな治療停止 緊急時の阻むリビングウィル
 (以下 略)


◆私の視点・ウィークエンド
『朝日新聞』2006年4月8日朝刊

 ◇「尊厳ある死は自分で決定 ・延命措置」【加賀乙彦/作家・精神科医】
  (以下略)
 
 ◇「リハビリ中止は死の宣告 ・診療報酬改定」【多田富雄/東京大名誉教授】
  (以下略)


◆「最後のレッスン  キューブラー・ロスかく死せり」『BSドキュメンタリー』
 NHK BS-1 2006年4月8日午後10:10〜11:00
 NHK BS-1 2006年4月15日午後12:10〜13:00(再放送)

「死について語ることを恐れるな。自分が恐れていることを知り、それに対峙(たいじ)することができれば、ひとは恐れに対処することができる。」  死にゆく患者の心理を克明に分析した世界的ベストセラー「死ぬ瞬間」で知られる、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの言葉である。「死の専門家」、「ホスピス運動の伝道者」として知られ、雑誌“TIME”でも“20世紀をきりひらいた独創的な100人”として名をあげられた、終末期医療の権威キューブラー・ロス。数千人もの安らかな死を支えた偉大な医師は、9年間もの長く苦しい、みずからの晩年を生ききり、2年前に生涯を終えた。ひとは、命を終える時、何を必要とし、そして、何を学んでいかなくてはならないのか。生前の貴重な独自インタビューの映像を交え、「死の専門家」が最後に身をもって伝えていったことを描く。」

 ※初回放送は『ETV特集』NHK教育TV 2004年12月25日22:00-23:30
  「第77回 最後のレッスン〜キューブラー・ロス 死のまぎわの真実」?
  http://www.nhk.or.jp/etv21c/update/2004/1225.html
  出演:柳田邦男(作家)・山崎章郎(医師)


◆外科部長の方針通りに診療、病院ナンバー2医師が証言
『読売新聞』2006年4月9日3時5分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060409i301.htm

 富山県射水(いみず)市の射水市民病院で、患者7人が延命措置の中止により死亡した問題で、外科チームナンバー2の医師が8日、外科の診療態勢について、「外科部長と議論するのは難しく、部長の方針通りに診療するしかなかった」と、読売新聞の取材に対して語った。
 この発言について、外科部長は同日夜、「外科は一つの家族みたいなもので、チームで診療している」と話したが、ナンバー2の医師の発言だけに、実際は外科部長の一方的な指示で診療が行われていた可能性が強まった。
 同病院では、患者7人の延命措置が中止された2000〜05年の間、外科の医師はほぼ4人で、この医師はずっとナンバー2の立場にいた。
 この医師は、延命措置中止問題については言及を避けたものの、外科の診療態勢全般について、部長が主治医を選任し、指示を出すトップダウン方式で、外科全体で診療方針を議論して決めるようになっていなかったことを明らかにした。外科部長についても、「自分の意見を貫く人。指示、命令に従うしかなかった」と述べた。
 外科内の雰囲気について、同病院の麻野井英次院長も会見で、「外科部長に反論できる状況になかった」と説明。外科部長とともに人工呼吸器の取り外しにかかわった外科医や看護師の一部も、県警の事情聴取に対し、「部長の判断で取り外しが決められていくやり方には倫理上問題があると感じていた」と供述している。


◆「[8]空白 病院としての検証は 議論の積み上げ必要」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

 【延命についての論議の出発点になった射水市民病院=射水市朴木(新湊)】(写真・略)
 
 「私が問題としたのは医療的な倫理であって、犯罪性があるかないかは、警察が判断することだと思います」
 事実を公表した三月二十五日の会見で、院長の麻野井英次(56)はそう述べた。射水市民病院内で人工呼吸器の取り外しが発覚した数日後には、警察に届けられた。結果的に警察の捜査が優先され、取り外しの具体的な概要について、はっきりしない状態が続く。
 「ほとんどは外科部長が責任を持っている。実際にはチーム医療でやっているものですから、どういう人がどれだけ参加をしていたかということに関して、今捜査中ということで、警察の方に捜査を依頼しておりますので、詳しくは申し上げられない」(同日の会見)
 その後「取り外しに外科部長はかかわっていない」という家族の証言も出てきた。
 人間の生と死の在り方について、大きな議論を巻き起こした問題は、実は出発点にある問題の中身自体がまだ、あいまいな空白のままになっている。
 警察が調べるのは「犯罪性」についてだ。ところが人工呼吸器取り外しが大きな議論を巻き起こした本質は、むしろ「犯罪性」を超えた部分にある。
 「事実の公表は病院が事例を詳細に検討し、揺るぎない事実関係のもとにすべきだ。今回は不十分なまま司直に丸投げした感がある。(中略)院長、外科部長を含めた『検討委員会』で冷静な議論を繰り返すべきだった。それによって病院としての方向付けができたようにも思う」(五十二歳の医師からのメール)
 平成十一年一月十一日、横浜市立大医学部付属病院で、患者を取り違えて心臓と肺の手術が逆に行われた。警察の捜査とは別に、横浜市助役を委員長とし、外部委員を加えた事故調査委が立ち上がった。
 調査委は複数の医師や看護師の行動、患者との会話、手術室内での役割や、疑問を抱きながら手術が始まったプロセスなど、事故にいたるまでの全容を詳細に検証。二カ月後に、提言も含めた報告書を公表した。
 射水市民病院の場合は「医療過誤」ではない。家族の同意を得た医師が、結果を認識して行った。しかも七人の死亡という、終末期医療における異様な事例の検証は、単純な医療過誤と違い、警察や司法判断という側面を、大きくはみ出している。
 病院の言葉を借りるなら「医の倫理」の視点から、なぜそれが起きたのかを、これから検証しなければならない。さらに第三者を加えた議論を積み上げなければ、過去の判例だけを頼りにする終末期医療の「グレーゾーン」は、変わることなく残り続ける。
 三十四歳の女性医師が、患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人容疑で書類送検された北海道立羽幌病院。日本海に面した羽幌町にある、百二十床の病院だ。発生時の論議は過去のことになり、検察の判断も下りていない。院長ら当時の病院幹部は別の病院に移ってしまった。
 事件から二年以上が過ぎるが、終末期医療について院内のルールは未整備のまま。病院は「デリケートな問題。道の研究班の動きを見守りたい」と話している。(敬称略)
 
 
◆「取り外し知らなかった 射水市民病院の外科医」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/09backno.html

 「射水市民病院で人工呼吸器が取り外され、患者7人が死亡した問題で、複数の外科医が8日までの北日本新聞社の取材などに対し「取り外しは全く知らなかった」などと証言した。
 6件の関与を認めている外科部長(50)は「取り外しについては別の外科医と相談した」と話し、独断ではなかったと主張している。県警は患者の容体について外科部長がほかの医師と十分に検討したかなど、慎重に捜査を進めている。
 証言したのは取り外しがあった年に外科部長と同病院で一緒に勤務した外科医。「取り外しに立ち会ったことはないし、聞いたこともない」と語った。
 同じ時期に勤務していた別の外科医も関与を否定しているという。
 同病院の外科医は通常4人体制で、異動に伴い毎年1−2人が交代している。
 同病院では、平成12年から17年までの間、50−90代の末期患者7人が人工呼吸器を外された。


◆「複数医での判断を否定 射水市民病院幹部」
『北日本新聞』2006年4月9日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/09backno.html

 「射水市民病院の外科の幹部医師が8日、取材に対し「自分が主治医を務める患者の治療でも普段から外科部長に報告し、指示や命令を受けていた」と証言し、外科の医療行為は外科部長の判断や主導によって進められていた状況を明かした。
 呼吸器取り外しについて、病院側は「外科部長の独断だった」と説明している。この外科医は、外科部長が非常に強い権限を持っていたとし「外科はチーム医療なので、トップの判断に従う」と説明。複数の医師で取り外しを判断した、との外科部長の主張に反論した。
 外科部長は、7件のうち1件の関与を否定しているが、外科医は「外科部長が知らないはずがない」とあらためて述べた。」


◆「[9]基準 動き出した医療現場 議論尽くすことから」(連載・いのちの回廊 第4部 人工呼吸器は外された」
『北日本新聞』2006年4月11日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no04/

【緊急の職員集会に臨む麻野井射水市民病院長=3月27日(代表撮影)】(写真・略)
 「「救急の場合は、人工呼吸器を付けざるをえない」「末期がん患者が肺炎を起こしたら、どうするんですか」
 四月から黒部市民病院の院長になった新居(あらい)隆(58)の最初の仕事は、予期しない形で現れた。終末期医療における指針作りだ。四日に院長として初めて招集した臨時幹部会。三階の院長室に医師や看護師、事務局員ら十一人が集まり、議論が過熱した。
 出席者の手元に、指針として「(人工呼吸は)原則中止しない」「終末期には使用しない」「中止する場合は家族の同意を得て倫理委員会へ」の三項目の原案を記したペーパーがある。
 ところが医師は内科系と外科系で考えが違い、看護師の見方もある。幅広くとらえれば、終末期の点滴も延命治療だ。予定を過ぎてまとまらず、結論を持ち越した。新居は難しさを語った。
 「可能な限りの衆議を尽くす。これしか、われわれのできるルールはないと思う」
 二回目の幹部会が開かれた十日。約一時間半の話し合いが終わったころ、外はどっぷりと暮れて闇が広がっていた。新居はようやく議論をまとめ上げた。ペーパーには「終末期医療における人工呼吸器使用に関する指針」とある。
 三月二十七日、射水市民病院。週末に問題を公表した後、初めての月曜日は、患者が集まるいつもの光景だった。午後から緊急職員集会が開かれ、医師や看護師ら百七十人が会議室に集まった。院長の麻野井英次(56)は、人工呼吸器の取り扱いについて原則を強調した。
 「回復の見込みのない末期患者に対する医療の中止措置で最も重要な点は、患者本人の意思確認と、独断で決定してはいけないことです」
 昨年十月に取り外しの事実が分かるまで、院内には倫理委員会も終末期医療に関する基準もなかった。十一月に外部の委員二人を含む倫理委員会が発足。下部組織として、ターミナルケア全般の在り方などを検討する「終末期医療委員会」を設け、今月十一日に初会合を開く。
 平成三年に東海大医学部付属病院で起きた安楽死事件。塩化カリウムなどを末期患者に注射した医学部助手に、殺人罪で懲役二年、執行猶予二年の判決が下り、この時の判例が安楽死についての唯一の基準とされる。
 同病院は事件後、医療監視制度を発足させ、教職員や学生、研修医の倫理教育に力を入れた。「複数の人間が多様な視点から同じ問題をとらえることで、社会通念を大きく逸脱しないことが最も大切。チーム医療の推進や監視、サポート体制の充実も重要と考えている」と言う。
 だが難しさは、その「社会通念」が確立されていないことだ。仮に基準を作り、倫理委員会で人工呼吸器の取り外しを協議したとして、それを認めることができるのか。認めることは、倫理委員会自体が違法性を問われる可能性もある。
 尊厳死の大前提の一つは「患者の意思」だが、リビング・ウィル(生前の意思)もまだ法的に認められていない。一方で、多種多様な死生観を基準で画一的に処理することへの疑問―。
 「スー、スー、スー…」。規則正しく時間を刻むように、あちこちの病院でいまも人工呼吸器が患者のいのちをつないでいる。(敬称略)

 ◇  第4部はおわり。第5部「高齢者 もう一つの終末期」を間もなく始めます。射水市民病院の延命中止については今後も随時取り上げます。
(取材担当=社会部・片桐秀夫、村上文美記者)


◆「終末期医療で指針策定 黒部市民病院」
『北日本新聞』2006年4月11日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/11backno.html

 「射水市民病院の延命中止問題を受け、黒部市民病院(黒部市三日市、新居(あらい)隆院長)は10日、終末期医療における人工呼吸器の取り扱いに関する指針を定めた。装着に当たっては患者本人や家族と相談し、原則として途中で取り外さない。同日の幹部会で決定し、11日から徹底させる。終末期医療をめぐっては先月末の北日本新聞社の調査に対し、回答のあった17病院のうち四病院がガイドラインがあるとし、黒部市民病院を含む9病院は策定に前向きと答えていた。
 指針は3項目あり、装着については、緊急の場合を除き、患者本人か家族と相談した上で決定。装着後は、病状が改善したケース以外、原則として中止しない。
 家族の1人からだけでは取り外しは認めず、複数から求められた場合は、必ず倫理委員会に諮った上で、最終的に判断する。倫理委は新居院長を委員長に、外部識者を含め11人で構成する。
 同病院は同日午後5時半から、幹部会を開催。新居院長ら医師、看護師、事務職員ら11人が集まり、具体的な文言などについて意見を交わした。11日、院内のパソコン回線を使って全職員に周知させる。
 同病院は射水市民病院の問題を受け、先月28日にプロジェクトチームで原案を作成。今月4日に臨時幹部会を開いて協議したが、異論が出され、決定は持ち越されていた。
 新居院長は「倫理委員会に諮る点は新しいが、基本的には、これまでの当院の対応をあらためて文章にした。最低限のルールはできた。この問題は医師1人で判断しないことが大切だと思う」と話した。
 この日の幹部会では「終末期医療全体に関するガイドラインが必要」との要望が出た。新居院長は「延命治療とは何か、終末期医療とは何かといった定義を含め今後、議論していきたい」と述べた。


◆「呼吸器外しは心肺停止後 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月12日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/12backno.html

 延命治療中止問題を受け、射水市民病院(射水市朴木・新湊)は11日、延命治療の在り方などを話し合う「終末期医療委員会」の初会合を開きお、人工呼吸器は心肺停止に至るまでは取り外さないことを確認した。終末期医療の基本方針づくりに向けた8つの検討課題を挙げたほか、当面の現場の意思統一を図るための指針を早急に策定することを決めた。基本方針の策定時期は、今後の法整備の動向も踏まえ、未定とした。
 院内の倫理委員会(委員長・麻野井英次院長)の下部組織として設置し、初会合には医師7人、看護師5人、薬剤師、保健師、管理栄養士、事務職員各1人が出席。委員長に放射線科の梅崎実部長を選出した。
 呼吸器装着時のルールも協議し、末期患者に取り付ける場合は、原則として文書で同意を得て、取り外せないことを家族に説明することとした。
 冒頭、麻野井院長は「人命と患者の意思を尊重した終末期医療の新しい医療指針を策定し、世の中に発信したい」とあいさつした。
 委員会内に3つのワーキンググループを設け、検討課題のたたき台を作る。委員は固定せず、幅広く意見を集める。次回は5月9日に開く。

◆「期限決めて方針決定を 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月12日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/12backno.html

 「射水市民病院で、終末期医療に関する基本方針の議論がようやく始まった。最終的な決定は「いつになるか分からない」(梅崎実委員長)とするが、今回の問題の原因の一つが終末期におけるルール不在にあるだけに、ある程度期限を切った上で結論を出すことが求められる。
 延命措置中止で死亡した7人のうち、5人はがんだった。回復が難しい末期がん患者への対応は一概に答えは出せない。梅崎委員長も「正直、難しい。どこから手をつければいいか分からない」と漏らした。だが日本尊厳死協会北陸支部の前身を立ち上げた村上誠一金沢大名誉教授(元医学部麻酔・蘇生科教授)は「緩和ケアがしっかりできず、終末期の統一見解を持たない病院は、末期がん患者を扱うべきではない」とさえ言う。
 県内で終末期医療に関する指針などを持つ病院は多くない。射水市民病院の問題は、各病院が終末期のルールを確認し、明文化するべきという教訓を残した。」


◆「「法・指針必要」8割超 終末期医療・病院調査」
『北日本新聞』2006年4月13日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/13backno.html

 「射水市民病院の人工呼吸器取り外し問題を受け、共同通信社が全国の公立病院など100カ所に対して行った終末期医療についての緊急アンケートで、回答した94病院のうちの8割以上が、延命治療の在り方などに関するガイドラインや法律が必要と考えていることが12日、分かった。独自に何らかのガイドラインを持っている病院は12・8パーセントしかなく、現場の医師らの大半が明確な基準がないまま、治療方針や患者と家族への対応に悩んでいる実態が浮き彫りになった。
 回復の見込みがない患者に対する延命治療については、85・1パーセントの病院が「ガイドラインや法制化が必要」と回答。このうちガイドラインが必要と答えたのは両方必要の13・8パーセントを含めて69・1パーセント。「医師が延命治療の在り方を再認識し、患者や家族への説明に役立てるための大まかな考え方を示してほしい」(奈良市立奈良病院)などを理由に挙げた。
 「法制化が必要」とした病院は、両方必要を含めて29・8パーセントで、「ガイドラインでは現場であいまいな判断が起きる」(東京・武蔵野赤十字病院)などと、延命中止の判断で医師の責任が重すぎることを危惧(きぐ)した。
 一方で、「医療はケース・バイ・ケース。法による規制はなじまない」(山梨県立中央病院)「医者や患者の死生観がそれぞれ違うので法制化は困難」(沖縄県立北部病院)などと、ガイドラインを必要とした病院の中にも法制化に慎重な意見が多く、14・9パーセントは「両方必要ない」とした。
 また、院内に独自のガイドラインがあると答えた病院のうち「終末期患者の人工呼吸器を停止しない」と明文化しているのは新潟県立がんセンター新潟病院だけだった。
 終末期医療の在り方などを話し合う倫理委員会があるのは55・3パーセントで、うち73・1パーセントは弁護士や市民代表など外部委員が参加。倫理委員会と別に「緩和ケアチーム」を設けて、患者や家族の精神的サポートをしている病院もあった。
 射水市民病院の問題を受け、同様事例の有無を調査するなど「何らかの対応を取った」と答えた病院は21・3パーセント。9・6パーセントは同問題が報道された後に、ガイドラインの作成や倫理委員会の設置の検討を始めていた。
 終末期医療をめぐっては、厚生労働省が2004年7月にまとめた「終末期医療に関する調査等検討会報告書」でも、医師の86・0パーセントが「悩みや疑問を感じた」との結果が出ている。
 県内では2病院が回答し、県立中央病院は法制化は必要だが国のガイドラインは必要ないと答えた。富山市民病院は両方とも必要と回答した。

 ◇県内・指針策定の動き加速
 射水市民病院の人工呼吸器取り外し問題を契機に、県内の公的病院で終末期医療の独自のガイドライン策定に向けた動きが加速している。12日は南砺中央病院(南砺市梅野・福光)が「終末期医療ガイドライン作成委員会」を設置した。10日には黒部市民病院が人工呼吸器の取り扱いに関する指針を決めた。終末期医療に対する関心の高まりや、判断のよりどころを求める現場の要望を受け、各病院は対応を急いでいる。
 南砺中央病院の作成委は、打林忠雄院長を委員長に、医師、看護師、薬剤師、社会福祉士、事務職員ら12人。呼吸器の取り扱いを含めたすべての医療方針について検討し、4月中か5月早々の策定を目指し議論を重ねる。打林院長は「院内のコンセンサスを形成するとともに、患者や地域住民に病院の姿勢を示すことが必要と考えた」と話した。
 北日本新聞社の3月末調査では、回答した17病院中ガイドラインを持たないとした13病院のうち、九病院が前向きに検討する方針を示した。
 このうち「平成19年10月の目標を前倒しする」と回答した朝日町立あさひ総合病院は、指針などを定める「倫理委員会」設置について検討する小委員会を近く立ち上げる。また厚生連高岡病院は6月をめどにガイドラインを作成する予定。
 このほか3月末時点で「6月をめどに作成」(南砺市民)、「終末期医療について検討組織は6月までに立ち上げる」(厚生連滑川)などの回答もあり、策定や検討に向けた具体的な動きが今後、さらに広がるとみられる。


◆ 国の指針づくり期待 法整備の動向見極め
『北日本新聞』2006年4月13日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/13backno.html

 射水市民病院の延命中止問題を受け、県内をはじめ全国の病院で終末期医療の在り方を検討する動きが広がっている。延命治療の在り方に関する国の基準づくりに対する要望は高いが、法制化には県内の病院関係者にも疑問の声がある。
 病院独自のガイドライン作成に向けた委員会を12日に立ち上げた南砺中央病院の打林忠雄院長は、国のガイドラインは「望むところ」と策定に期待するが、法制化については「院内の意見は分かれる。法制化されると医療に制限が加わってしまうのでは」と危ぐする。「行政や国との話し合いの場を設けてほしい」と要望する。
 砺波総合病院は来週中にも、終末期医療全般について広く議論する組織を倫理委員会の下に設置する。杉本立甫院長は「病院として方向性を打ち出すことができればいい」と狙いを話す。ただ独自のガイドラインについては「現行の法律の下では難しい」として、現段階では策定の予定はないという。日本では尊厳死も安楽死も認められておらず、仮に倫理委で末期患者の呼吸器取り外しを決めても実行はできない。「国のガイドラインが示されればありがたい。だが法制化までは求めない」と言う。
 永野耐造・金沢大名誉教授(法医学)は「終末期医療の概念を整理する必要がある。医学的、法的、倫理的にきちんと考えるべき」と指摘する。
 10日に人工呼吸器の取り扱いに関する指針を定めた黒部市民病院では、同日の幹部会で「終末期医療全体に関するガイドラインが必要」との意見が出た。新居隆院長は「延命治療とは何か、終末期医療とは何かといった定義を含め、今後議論していきたい」と話している。
 射水市民病院は11日、新設した「終末期医療委員会」の初会合を開き、人工呼吸器は心肺停止に至るまで取り外さないことを確認した上で終末期医療の基本方針づくりに着手した。策定時期については今後の法整備の動向も踏まえるとして、明確にしていない。
 ◇早急な策定働きかけ 分家射水市長が記者会見
 分家射水市長は12日の定例記者会見で、延命治療中止問題を受け射水市民病院で始まった終末期医療の基本方針づくりについて、国に延命治療の在り方などの指針を早急に策定するよう、働き掛ける考えを示した。
 分家市長は、前日の終末期医療委員会で方針の策定時期が決まらなかったのは「国に明確な基準がないため」と指摘。「国として最低限の指針やガイドラインなどが必要」と述べた。上京した際、全国市長会事務局で国に要望する打ち合わせを行ったことも報告した。  終末期医療の現状については「基準を設けている病院もあるが、その通り行っても犯罪に問われることがあり得る。ほかの病院が作った基準が(法的に)正しいかどうかもはっきりしない」と話した。


◆尊厳死:登録急増、昨年比2.7倍 1日100人超−−富山・射水の呼吸器外し受け
『毎日新聞』 2006年4月14日 東京夕刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20060414dde041040030000c.html

 ◇不治で死期迫る場合の延命お断り/苦痛やわらげる処置は最大限に
 富山県射水(いみず)市の射水市民病院であった人工呼吸器外し問題を受け、「日本尊厳死協会」(東京都文京区)が作成した「尊厳死の宣言書(リビング・ウイル)」に署名・登録する人が急増している。4月に入り新規登録者は1日100人を超え、昨年と比べ約2・7倍ものハイペース。今回、取り外しの責任者だったと認めた外科部長(50)=自宅待機中=は「家族との信頼関係の中で外した」とするが、宣言書や同意書はなく、同協会は「射水市民病院のケースが全国で終末医療に対する関心を呼び起こしたようだ」と分析している。
 「宣言書」は本人の生前の意思表明を前提とした「尊厳死」法制化の運動を進める同協会が、延命治療中止の意思表明のひな型として作成。登録者数は全国で約11万人。
 A4判1枚で、「私の傷病が不治で死期が迫っている場合、延命措置はお断りします」「苦痛をやわらげる処置は最大限に実施してください」などと記され、署名・なつ印して協会に送ると、登録番号を付けて保存され、本人と近親者用にコピー2通が返送される。医師が延命措置の中止に同意しない場合は、協会も医師に働きかける。
 射水市民病院の問題が表面化した3月25日以降、昨年は1日平均88件だった発送依頼が連日300件以上に急増。新規登録も今月に入り1日平均105人で、昨年の39人を上回っている。
 射水市民病院では、末期患者7人が人工呼吸器を外されて死亡した。病院側は「1人は家族の話で本人の意思が確認された」とするが、本人の生前の意思を示す文書はなかった。一方、外科部長は「患者や家族との気持ちのつながりで、自然に行為に及んだ。同意書にサインしてくださいとは申し訳なくて言えなかった。ルールを外し、不用意だった」としている。同協会の高井正文・事務局長は「高齢社会を背景に終末医療への関心が高まっているようだ」と話している。登録(入会)は年会費3000円(夫婦2人で4000円)。問い合わせは同会(03・3818・6563)。


◆「 揺れる医療現場 延命治療中止の波紋」『ナビゲーション』
 NHK富山放送局』2006年4月14日 午後7:30〜7:55 デジタル総合・総合
            2006年4月16日 午前8:00〜8:25(再放送)


◆「終末期医療 協議が加速 県内」
『北日本新聞』2006年4月15日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/15backno.html

 「射水市民病院の延命中止問題を受け、県内の公的病院が相次いで終末期医療に関する意識の徹底や、方針策定に向けた協議を始める動きを加速させている。富山市民病院(泉良平院長)は14日、人工呼吸器の取り外しを基本的に禁止することを確認。高岡市民病院(沢崎邦広院長)も同日、独自のガイドライン策定に取り組む考えを明らかにした。
 富山市民病院は、泉院長が委員長を務める倫理委員会に外部委員を招いた上で「終末期医療検討部会」と「臓器提供検討部会」を設置し、病院独自の指針を策定する。「4月中に部会を立ち上げ、できるだけ早くとりまとめたい」(総務課)としている。
 指針ができるまでの間に混乱がないよう▽終末期医療の方針は医療チームで決定する▽患者や家族に十分な説明を行い、同意は書面を用いる▽人工呼吸器の取り外しは基本的に禁止▽問題が発生した場合は院長、医療局長に報告し、倫理委員会で討議する−などを14日、院内パソコンで全職員に指示した。
 高岡市民病院は同日、市議会民生病院常任委員会で、6月をめどに、病院幹部や院外の識者でつくる倫理委員会で、がん末期患者に対象を絞ってガイドラインをまとめる方針を示した。
 ガイドラインは余命2、3日から1週間程度の臨死期の患者を想定。人工呼吸器の装着を含む延命治療について患者や家族に対する意思確認の方法、スタッフの判断基準などを検討する。既に緩和ケアマニュアルはあったが、延命措置中止について成文化したガイドラインはなかった。沢崎院長は会見し「自然な死を迎えてもらうため、スタッフ同士で議論していきたい」と述べ、人工呼吸器の装着については「これまで終末期に付けたことはない」と説明した。
 問題が明らかになった射水市民病院は今月11日、「終末期医療委員会」の初会合を開いた。黒部市民病院は10日、人工呼吸器の取り扱いに関する指針を定め、12日には南砺中央病院が「終末期医療ガイドライン作成委員会」を発足させている。」


◆「終末期医療で国に指針整備要請へ 石井知事」
『北日本新聞』2006年4月15日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/15backno.html

 「射水市民病院の延命中止問題で、石井知事は17日上京し、川崎厚生労働大臣に終末期医療に関するガイドラインや法令整備に、早期に取り組むよう要請する。同日午前には県内の公的病院長8人と意見交換会を開いて意見をまとめ、県内病院に実施したアンケート調査の結果と合わせ、国に終末期医療に携わる現場の声を訴える。
 終末期医療における延命治療の指針については、平成16年に厚生労働省の検討会が「基準がないために現場の関係者が悩んでいる」と指摘。同省の研究班が本年度中を目標にガイドラインなどを検討するが、具体像の議論はこれからの状態となっている。
 日本尊厳死協会は、15年に15歳以上の尊厳死を認める法律要綱案をまとめ、超党派の国会議員連盟が法制化に向けて議論を始めたが、法案提出のめどは立っていない。
 県はこうした状況を受け、県内の全115病院を対象に実態調査を実施。終末期医療に関する具体的なマニュアル整備状況、倫理委員会など院内協議組織の有無、国への要望事項をアンケート方式で調べた。
 既に県内では、黒部市民病院が人工呼吸器の取り扱い指針を決めたほか、富山市民病院や高岡市民病院が終末期医療のガイドライン作成を決めるなどの動きが加速している。
 17日の公的病院長との意見交換会では、知事がアンケート結果を踏まえ、県立中央病院や富山大付属病院などがん終末期患者への医療を提供する県内八病院の院長から、現場の実態報告を受ける。
 知事は6日の会見で「終末期医療は人の命にかかわる問題。どういう要件を満たせば延命治療を中止していいのかなど、国全体でガイドラインや法令整備をすべき。そうしないと、また(射水市民病院のような)悲劇が繰り返される」と、国に積極的な関与を求める考えを示している。」


◆「[3]尊厳 ただ、生かしておくような… 一人一人に人生の物語」(連載・いのちの回廊 第5部 高齢者もう一つの終末期」
『北日本新聞』2006年4月16日
http://www.kitanippon.co.jp/pub/hensyu/inochi/no05/index.html

 【入院患者を診察する佐藤。「人の尊厳」を考えながら終末期医療に取り組む=砺波サンシャイン病院(写真・略)】
 
 「高齢の患者が自分の口で食べられなくなると、胃に直接栄養を流し込む経管栄養や、点滴によってぎりぎりまで延命を図ることが当然とされる。砺波サンシャイン病院副院長の佐藤伸彦(47)が、この「常識」に疑問を感じるようになったのは十年ほど前からだった。
 当時、佐藤は富山市の療養型病院に勤務していた。受け持った九十代の女性は、点滴による栄養補給でいのちをつないでいた。刺したままの点滴の針を外してしまわないよう、片手はベッド柵に縛ったままだ。「抑制」と言われる措置だが、見るからに痛々しい。
 ある時、見かねた息子が延命の中止を訴えた。「これ以上、ただ生かしておくようなことはしてほしくない。母もそれを望まないと思います」
 佐藤の胸に「息子さんの希望を受け入れることはできないか」という思いがわき上がった。ナースセンターで、看護師にその思いを話してみた。返ってきたのは、強烈な拒否反応だった。
 「先生、それって患者さんを餓死させるってことですか」
 反論できなかった。それから佐藤は、臨床倫理学の本を読みあさるようになった。患者の家族と積極的に話すことも心掛けた。すると、今は話もできずに横たわるだけの患者たちの背後に、さまざまな人生が見えてくる。
 戦前にブラジルに渡って苦労を重ねたこと、戦後はシベリアに抑留されたこと。人生の多彩な歩みを理解することで、患者一人一人の「尊厳」を、実感できるようになった。
 食べられなくなったから、機械的に患者の腹に胃ろうを開けていいのか。まずあらゆる選択肢を患者と家族に示すべきではないのか。「人生の最終章をその人らしく過ごし、最期を迎えてもらうためのサポートをする」。佐藤は高齢者をみる医師の役割を、そう理解するようになった。
 がんの緩和ケア病棟は、終末期を迎えようとする患者たちが自らの意思で入ってくる。化学療法などの積極的な治療から、より安らかで自分らしい時間を取り戻すために、緩和ケアを選ぶ。
 ところが高齢者医療の終末期、意思を主張できる患者はほとんどない。認知症やさまざまな病状が進んで会話もできず、食べることもできない。
 射水市民病院で七人の人工呼吸器取り外しが発覚したとき、まず「安楽死」「尊厳死」という言葉が一気にクローズアップされた。佐藤はそのとき、七人の死亡した患者の人生まで、その言葉の枠に押し込もう、押し込もうとするような“感じ”がした。
 だが人間一人の人生が、一つの言葉の枠に入るはずがない。「自然死」という言葉さえ、佐藤はあまり使おうとしない。「終末期医療は患者ごとに物語があって、それぞれの物語をどういうふうに終わらせるかという問題」。佐藤にとって終末期医療とは、「人の尊厳」について、家族と共に考え続ける行為なのかもしれない。
 川井ミヨ=仮名=に胃ろうを開けるか、開けないか。長男の川井吉郎は思い悩んだ。砺波総合病院でセカンド・オピニオン(主治医以外の意見)も聞いた。だが、とても一人で結論を出せるものではない。
 二人の弟と、母の実家を継ぐいとこに相談した。弟たちは「胃ろうを開けた方がいい」と言った。いとこは、反対した。(敬称略)」


◆ 「本人の意思あくまで尊重 日本尊厳死協会理事長」
『北日本新聞』2006年4月16日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/16backno.html

 「終末期の延命治療中止について、家族らによる意思決定代行を容認する見解をまとめた日本尊厳死協会の井形昭弘理事長は15日までに、北日本新聞社のインタビューに応じ、「あくまで本人の意思が優先する。ただ、本人の意思は家族が最も代弁しやすいということだ」などと話した。(聞き手・朝日裕之社会部記者)

 −射水市民病院の問題をどう見るか。
 「現場の医師は日常的に悩んでいる。射水のケースも、切羽詰まってやってしまったのかと思う。ただ尊厳死協会は人権運動として、本人の意思を明確にし、それに従ってほしいといっている。本人の意思が明確にされていないということは、われわれからみてもルール違反だ」

 −尊厳死法制化の目的は。
 「射水のようなことに直面したときにどうすればいいか。ルールを明確にして、医師もあまり悩まず、社会も納得するということが求められる。そのためには法制化が必要ではないかと考えている」
 −家族の意思をどう考えるのか。
 「あくまで本人の意思が尊重される。協会が方針を転換したわけではない。家族の意思を認めるには、例えば数人で本人の考えを聞いているとか、第三者が納得するとかということが求められるだろう。医療費の負担が大変だから延命治療をやめようと家族だけで決めることは許されない」

 −尊厳死の考え方は日本になじむか。
 「おそらくなじむと思う。協会が進めるリビングウイル(生前の意思の表明)は本人に死の意思確認を急がせるものではない。生きようとしている人をサポートすることは絶対に大事なことだ。脳死論議のときも、認めたら命を軽く見る風潮が生まれるという議論があったが、実際には起きていない。射水の問題をきっかけに、家族で日ごろから話し合うようになればいい」」
 
 
◆「延命治療中止『家族の意思で可能に』 本人意思不明な場合」
『東京新聞』2006年4月16日
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060416/mng_____sya_____008.shtml

 「治る見込みのない病気にかかり、死期が迫った患者の延命治療中止をめぐり、日本尊厳死協会(理事長・井形昭弘名古屋学芸大学長)は十五日までに、患者本人の意思が明確でない場合は「家族らが意思決定を代行できるよう法律で規定するのが望ましい」との見解をまとめた。
 同協会が、尊厳死の意思決定の代行容認を打ち出すのは初めて。超党派の国会議員でつくる「尊厳死法制化を考える議員連盟」(中山太郎会長)に提出した。
 射水市民病院(富山県)の人工呼吸器取り外しなど延命治療中止の是非が社会問題となる中、「本人の意思」を推定した家族らに決定を委ねることを認める見解は論議を呼びそうだ。
 見解は「他人による意思決定は許されない」と従来の原則をあらためて明記した上で、本人の意思が書面などで残されていない場合の対応として(1)意思を推定する十分な資料に基づく司法判断(2)医療機関の倫理委員会などで決定(3)家族、親族、友人による合議(4)配偶者、子供、両親、兄弟姉妹など意思決定を代行できる順位を規定−などの選択肢を提示。(4)の家族らによる意思決定代行が妥当と結論付けた。
 井形理事長は「本人の意思が前提との協会の立場は変わらないが、それが明確でない場合は、日常会話などから家族らが本人の意思を推定して決めるのが適切と考えた。絶対このやり方でなくてはならないというものではなく、さらに議論を重ねたい」としている。
 議連は現在、患者に延命治療を受けるかどうかを決める権利を認め、原則として十五歳以上なら事前に意思表示できるとする骨子案を土台に法案を検討。本人の意思表示が確認できない場合の対応などが検討課題となっている。

 ・メモ <日本尊厳死協会>
 医師や法律家、学者らが1976年に設立。不治の病気で死期が迫った患者が、自分の意思で無意味な延命治療を受けずに「自然な死」を迎える権利の確立を目指して活動。植物状態に陥った場合の生命維持装置の中止も含め、自然な死を求める意思をあらかじめ明示した「尊厳死の宣言書」を発行している。会員は高齢者を中心に約11万人。」


◆「尊厳死の法制化は必要か」【福本博文】
『文藝春秋 日本の論点PLUS』2006.04.20 更新
http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/enquete/060420.html

 「富山県の射水市民病院で七人の末期患者が人工呼吸器を外されて死亡していたことがこの3月に発覚し、医療現場に大きな波紋を投げかけることになった。日本には末期患者の延命治療を定めた法律がない。そればかりかガイドラインさえ示されていないのが現状だ。こうした問題が発覚するたびに、医師たちは殺人などの罪に問われる。
 もはや回復の見込みがないと診断され、激痛に堪えられないときでも、延命治療をつづけるべきか。――呼吸器を外した外科部長は、患者が脳死状態になって呼吸器を外す際に「家族の同意はあった」と語ったが、それを立証する同意書はない。たとえ家族の同意があったとしても、呼吸器を外すことは許されるのだろうか。
 アメリカでは、末期患者が同じような状況に置かれたとき、延命措置の中止を認める法律が各州に設けられている。医師や家族が勝手に人工呼吸器を外すことは許されていない。あくまでも患者の意思が大前提だ。延命措置を中止するには、患者が生前に意思表示する「リビング・ウィル」などの文書に残しておくことが望ましい。
 日本でリビング・ウィルを普及させてきた日本尊厳死協会は、射水市民病院題が発覚した後、「家族が代行できるよう法律で規制するのが望ましい」という見解を、超党派の国会議員でつくる「尊厳死法制化を考える議員連盟」(中山太郎会長)に提出した。本人の意思が文書などに残されていないときの対応として、家族の間で意思決定を代行できる順位を規定しておくことが必要というわけだが、ここでも「本人の意思」が前提になっている。
 しかし、患者本人の肉声を記録したテープや文書がない状態で、どうやって家族が本人の意思を確認しろというのだろうか。同協会理事長の井形昭弘名古屋学芸大学長は、「本人の意思が前提との協会の立場は変わらないが、それが明確でない場合は、日常会話などから家族らが本人の意思を推定して決めるのが適切と考えた」(東京新聞06年4月16日付)と語っている。
 射水市民病院の場合では、「患者のうち1人は家族が本人の意思を確認している」と病院側が説明しているが、それを裏付けるものは何も残されていないのである。
 末期患者の延命治療を中止させる事件は、たいていの場合、家族の強い希望によって起きてしまう。激痛に苦しむ肉親の姿を正視できなくなり、医師に対して「楽にしてほしい」と訴えたりするからだ。こうした現状を考えると、家族が患者の意思を代行することは、新たな混乱を招く恐れがある。家族が殺人罪に問われないためにも、国はいち早くガイドラインを示し、法制化を進めるべきであろう。
(福本博文 ふくもと・ひろふみ=ノンフィクション作家)


◆「記者の目:射水市の呼吸器外し」
『毎日新聞』 2006年4月21日 0時24分 【根本毅(大阪科学環境部)】
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060421k0000m090165000c.html

 ◇「医師が命の線引き」、嫌だ−−延命治療、議論を尽くせ
  (以下 略)


◆「三者三論 延命医療をどう見る」
『朝日新聞』2006年4月21日朝刊オピニオンのページ

 「延命医療の是非で医療や介護の現場が揺れている。どんな議論や環境の整備が必要だろうか。
 
 延命医療の是非
 回復の見込みがなく死期が迫ったとき,いつまで医療的な処置を続けるか。延命の是非への問いかけは,古代ギリシャにもあった古くて新しい課題だ。日本では医療機関で最期を迎える人が急増した1970年代以後,機械で呼吸や全身状態を管理することへの疑問が,安楽死,尊厳死への問題として盛んに語られるようになった。富山県の射水市民病院で3月に発覚した人工呼吸器外しで,議論が再燃している。  「東海大学安楽死事件」で横浜地裁は95年,(1)回復の見込がなく死が不可避(2)本人意思か家族による推定同意が明らか(3)医学的に無意味,を延命中止を認めうる要件に挙げた。だが,今も尊厳死・安楽死をめぐる明確なルールは日本にはない。法整備を求める声がある一方で,生から死への連続した過程に一律の線引きは難しいとしてルール化に慎重な声もある。」

 ◇「呼吸器は外せないのか」 【谷田憲俊氏・アジア生命倫理学会副会長】
  (以下 略)
 ◇「生き延びるのは悪くない」 【立岩真也氏・社会学者】
  (以下 略,下記に全文掲載)
  ../ts/2006065.htm
 ◇「患者や家族の心は揺れる」 【山崎章郎氏・日本ホスピス緩和ケア協会会長】
  (以下 略)


◆「尊厳死フォーラム:約300人が参加−−東京」
『毎日新聞』2006年4月23日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/archive/news/2006/04/20060423ddm041040040000c.html

 「尊厳死の法制化について議論するフォーラムを22日、日本尊厳死協会(井形昭弘理事長)が東京都内で開き、約300人が参加した。
 井形理事長は「意味のない延命措置は、かえって患者の尊厳ある生を侵す。本人が望まない時には延命措置を中止しても(医師が)免責される制度が必要だ」などとあいさつし、法制化の必要性を強調した。
 一方、市民団体「患者の権利オンブズマン全国連絡委員会」の池永満代表は「健康回復を目指す通常の医療でも患者の自己決定権が保障されない現状で、死ぬ段階のみの法制化はありえない」と指摘。患者の権利法の制定などが先だと訴えた。


◆「生死,出ぬ結論 家族の決断(「延命,あなたなら 上,読者一万人の声」)」
『朝日新聞』2006年4月23日 朝刊生活欄

 「富山県の射水市民病院の医師が患者の人工呼吸器を外した問題で,「延命治療」(キーワード参照)のあり方に関心が高まっている。朝日新聞の無料会員制サービス「アスパラクラブ」でアンケートをしたところ,読者を中心一万人を超える方から回答が寄せられ,延命治療をめぐって悩む家族の姿が浮かび上がった。延命治療の選択を迫られた家族や医療現場の声を2回に分けて紹介する。(平岡妙子,佐藤陽,蔭西晴子)

 ◇「罪の意識」打ち明けられず――中止
 (以下 略)

 ◇娘に相談せず,母に違和感――拒絶
 (以下 略)

 ◇介護13年,疲れて妻も入院――継続
 (以下 略)

 ◇キーワード延命治療
  一般に,回復の見込みがなく,死期が迫っている終末期の患者への生命維持のための医療行為をいう。人工呼吸器の装着,心臓マッサージや昇圧剤投与による心肺機能の維持,水分や栄養の点滴などがある。ただ,「終末期」の明確な定義はなく「いつまでが救命で,いつからが延命か」という線引きは難しい。」


◆「ルール作って 現場の苦悩(「延命,あなたなら 下,読者一万人の声」)」
『朝日新聞』2006年4月24日 朝刊生活欄

「延命治療をやめたくても,やめられない現実を何とかしてほしい」――。1万件を超えた読者などの声から,患者,家族,医療関係者にほぼ共通する,こんな思いが見えてきた。現行法では,延命治療を中止した医師が「殺人」に問われる可能性がある。現場からはルール作りを求める声も出ている。

 ◇家族 中止,本人も希望 なぜ聞き入れない
 (以下 略)

 ◇救命士 原則,助けるしか 延命との線引きは
 (以下 略)

 ◇看護師 気持ち,変化する 常に意思の疎通を
 (以下 略)

 ◇医師 法整備,早くして 罪に問われぬよう
 (以下 略)


◆「呼吸器外し、発覚から1カ月 同意の有無、焦点に捜査」
『朝日新聞』2006年04月23日11時24分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604220258.html

 「富山県射水市の射水市民病院で末期がんの患者ら7人が人工呼吸器をはずされ死亡した問題で、富山県警は遺族と病院の医師ら関係者から一通りの事情聴取を終えた。今後は殺人容疑を視野に、専門家の意見を聞きながら、立件の可否を検討する。25日で問題発覚から1カ月が経過する。
 県警内では捜査方針について様々な考えがあるが、「呼吸器をはずしたことによって患者の死期が早まったのなら、殺人容疑で送検し、検察庁に判断をゆだねるべきだ」との意見が大勢だ。
 家族同意の有無が注目されているが「同意の有無にかかわらず、捜査としては刑法の殺人罪を機械的に当てはめるしかないのではないか」との考え方だ。このためカルテの分析などを専門家に依頼、呼吸器外しと死亡との因果関係に重点を置いて捜査を進めている。
 呼吸器を外したとされる外科部長(50)は、病院が届けた7件中1件については自身の関与を否定している。他の医師の関与についても調べているが、県警内には「家族の同意を得ていることがはっきりすれば、立件は難しいのではないか」との意見も根強い。
 県警が捜査の参考にしているのが、昨年5月に北海道立羽幌病院の医師が殺人容疑で書類送検された事件だ。地検の判断はまだ出ていない。人工呼吸器をはずして患者を死亡させており、射水のケースと似ている。
 死亡した患者が1人だった羽幌病院事件は発覚から書類送検まで約1年3カ月を要した。富山県警の捜査員は「結論までにはかなりの時間がかかる」と口をそろえる。

◇外科部長「家族のこと考えて」
 病院が県警に届け出たのは7件。昨年10月12日、70歳代男性患者の人工呼吸器を外すよう外科部長から指示された内科病棟の看護師が、不審に思って副院長に報告。麻野井英次院長はすぐに院内調査委員会をつくって2日間でカルテを調べ、00〜05年にこの7件を発見した。
  同16日に県警に届け、カルテなどの書類も任意で提出。その後は「真相解明は警察に委ねる」として医師や看護師などへの独自の調査や聴取はせず、遺族にも接触していない。外科部長に対しても発覚直後に計4時間ほどの聞き取りをした後は警察に任せっきりだ。
 外科部長は10月14日以降、現在も自宅待機命令を受けている。散歩などで外出する際に報道陣との雑談に応じ、医療への思いなどについて話すこともある。「治療に最善を尽くした後、自然な形で永眠できるよう患者と家族のことを考えてやった。罪の意識はない」と、問題発覚当初から姿勢は変わらない。県警の任意聴取にも同様の話をしていると見られる。
 「何度聞き返してもいやな顔をせずに教えてくれた」「夜中2時ごろにすーっと巡回に来て触診してくれた」。患者の間で外科部長の評判はよかった。問題発覚後も「罰さないでほしい」との声が患者や市民には多い。


◆「呼吸器外し発覚から1カ月 「延命」論議が活発化」
『北日本新聞』2006年4月25日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/25backno.html

 「射水市民病院(射水市朴木・新湊、麻野井英次院長)で、末期患者7人が人工呼吸器を取り外され死亡した問題が発覚して25日で1カ月。問題を契機に行政や医療関係者らの間で、終末期医療の在り方をめぐる論議が活発になっている。県警は殺人容疑などで捜査を継続。呼吸器を取り外した外科部長(50)は自宅待機のままだ。
 今回の問題を受け、県内の公的病院で終末期医療の独自指針の策定や検討の動きが進んでいる。黒部市民病院は人工呼吸器の取り扱いに関する指針を定めた。南砺中央や富山市民、高岡市民病院は指針策定方針を決め、あさひ総合病院も策定への組織づくりに動き出した。砺波総合病院は終末期医療全般について考える検討委員会を設置した。射水市民病院は「終末期医療委員会」を設け、基本方針策定に着手した。
 県は県内の全病院を対象に実態を調査し、公的病院長との意見交換を経て石井知事が川崎二郎厚生労働大臣に終末期医療の指針や法整備に早急に取り組むよう要請した。
 死亡したある患者の家族は北日本新聞社の取材に対し「本人は生前、延命治療を望んでおらず、外科部長に依頼して外してもらった」と証言し、「法整備などが進んでいればこんなことにならなかった」と話した。
 一方、北海道立羽幌病院で平成16年、女性医師が患者の呼吸器を外し死亡させたとして殺人容疑で書類送検された事件は、呼吸器外しと死亡との因果関係を否定する鑑定結果が地検に提出され、起訴が見送られる公算が大きくなっている。県警と射水署は、患者ごとに異なる呼吸器取り外しの経緯や家族からの同意の取り方について殺人罪に問えるか慎重に調べを進めている。」


◆「「尊厳死」法制化を問う」
『新宗教新聞』2006年4月25日

◇「死生観に大きく影響 人工的な死,法律で認めるか」
◇「人権や優生思想からの問題点」【光石忠敬・弁護士】
◇「国家が政策で「死に方」を推奨」【小松美彦・東京海洋大学教授(生命倫理学)】
◇「尊厳生」の検討が必要 新宗教連,議員連盟に意見書」
 http://www.shinshukyo.com/webup/back06/backframe03.31.htm
◇《「尊厳死の法制化」に関する意見書》新日本宗教団体連合会


◆「呼吸器を「稼働中止せず」 かみいち総合病院」
『北日本新聞』2006年4月26日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/26backno.html

 「射水市民病院の延命中止問題を受けて、かみいち総合病院(上市町法音寺、重田浩一院長)は25日、管理運営会議を開き、終末期医療における人工呼吸器の使用基準として「装着した場合は稼働を中止しない」などの指針骨子をまとめた。医局会を経て、5月9日の医科長会議で最終確認する方針。
 指針骨子は2項目からなり、「人工呼吸器の装着には緊急の場合を除き、本人や複数の家族と相談する」「装着後は病状の改善に基づく場合を除き、稼働を中止しない」の内容。今後、各科医師や職員による協議を経て、同病院の医師マニュアルに盛り込む案なども検討している。
 同病院では3月末に射水市民病院の問題が表面化後、重田院長をはじめ副院長2人、診療部長、副診療部長、診療技術部長、看護部長、事務局長、事務局次長の9人で構成する管理運営会議や臨時会議で、終末期医療の在り方を継続的に協議してきた。
 終末期医療の人工呼吸器の使用基準について同病院では「取り外さない」との共通認識が強い。国のガイドライン策定が先決との意見もあり、従来は指針として定めていなかったが、改めて使用基準として明文化する方向で協議を重ねていた。


◆「外科医を1人補充へ 射水市民病院」
『北日本新聞』2006年4月26日
http://www.kitanippon.co.jp/backno/200604/26backno.html

 「射水市民病院は、延命中止問題で自宅待機中の外科部長の補充として、5月の連休明けから外科医を1人増やし、3人態勢にする。25日の市議会福祉病院常任委で、市民病院の永森事務局長が明らかにした。
 同病院の外科は通常4人態勢だが現在、外科部長を除く2人で診療している。今後、外来診療や手術などに影響が出る恐れもあり、院内で準備を進めていた。
 補充される医師は30代の県外女性で、臨時職員として勤務する。永森事務局長は「院長が大学などに外科医の派遣を要請し、さらに補充する努力をしている」と述べた。
 委員会では、人工呼吸器について、帯刀毅委員が「本人の同意があっても取り外さないのか」とただしたのに対し、事務局長は「現行法の中では許されない」とあらためて強調。別の委員は「1人の医師によって取り付けと取り外しが行われたことが一番の問題だ」と指摘した。


◆「延命治療 続く模索 「人工呼吸器外し」から1カ月」
『朝日新聞』2006年4月28日朝刊生活欄

 「富山県の射水市民病院の外科部長らが人工呼吸器を外し,7人の末期患者が死亡した問題は,終末期医療のあり方を改めて問いかけている。外科部長ら病院側が本人や家族の意思確認を十分していなかったことが,明らかになってきた。問題発覚から1カ月が過ぎた。がんなどの終末期にかかわる病院などでは,「延命治療」の手順づくりを勧めるなど,模索が続いている。
 (以下,小見出しのみ)
 ◇基準明確化へ尽きぬ悩み
 ◇「あうんの呼吸」に批判も
 ◇ガイドライン策定へ動き」
 
 
◆「記者の目:在宅ホスピスの現場から考える=福田隆(おおさか支局)」
『毎日新聞』2006年4月28日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20060428ddm004070142000c.html

 ◇まず「生死」、自力で語ろう−−法への安易な依存、危険
 富山県の射水(いみず)市民病院の人工呼吸器取り外し問題は、終末医療のあり方を巡り議論を巻き起こしている。その中で、延命措置中止の判断基準づくりを求める声が少なくないが、性急なルールづくりには不安を感じる。責任追及におびえ、患者の希望に沿う前に法や権力に安易に頼ってしまう、と考えるからだ。ルールの前に、生と死についてもっと語ることが必要だと思う。
 (以下,略)


◆「延命治療中止の外科部長、射水市の福祉保健部参事に」
『朝日新聞』2006年04月28日19時08分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604280300.html

 「富山県の射水(いみず)市民病院の延命治療中止問題で、射水市は28日、6人の人工呼吸器を外したことを認めた自宅待機中の外科部長(50)を、5月1日付で市福祉保健部参事(保健担当、部長級)とする人事を発表した。
 殺人容疑を視野にした捜査が続く中、医療現場からはずれる人事異動だが、市によると、外科部長は「しかるべき人に相談してみたい」と話しているという。
 同市の宮川忠男助役は記者会見で「自宅待機を長く続けるべきではない。いろんな選択肢があったと思うが、(この措置が)市民のためにも本人のためにも一番よいのではないか」と述べた。
 同病院が問題を把握した昨年10月、院長は外科部長に自宅待機を命じた。外科部長は今年3月にいったん退職願を出したが、退職直前の同月31日に撤回。改めて分家静男市長が4月1日から1カ月間の自宅待機命令を出していた。」


◆「ICU延命治療「控えた」9割 回復見込めない患者に」
『朝日新聞』2006年04月29日21時08分
http://www.asahi.com/health/news/TKY200604290186.html

 「集中治療室(ICU)の多くで、回復が見込めない患者に対する延命治療が手控えられる場合があることが、日本集中治療医学会の調査で明らかになった。ICU責任者など指導的な立場の医師75人に尋ねたところ、回答した60人中54人(90%)が、過去1年程度の間に「延命治療を控えたことがある」とした。こうした実態調査は珍しく、終末期医療をめぐる議論に波紋を広げそうだ。
 同学会は来年3月までに終末期医療のあり方について指針を作る方針で、今年2月にこの調査をした。手控えた内容は、血圧が急低下しても昇圧剤を使わないなどの「現状維持」が39%、薬などの量を減らす「減量治療」が28%、治療の一部をやめる「部分的中止」が27%、「すべて中止」が4%だった。
 手控えた理由は「家族の希望」(45%)よりも「医師の治療上の判断」(55%)が多かった。また、最終的な決定主体は、担当医グループが45%で最も多く、次いで医長や所属長(28%)、検討会会議(24%)と続いたが、「担当医が単独」も3%あった。70%は治療手控えは法的に問題ない、22%は問題があると考えていた。
 開業医で日本尊厳死協会副理事長の荒川迪生(みちお)さんは「スタッフや委員会で検討し、誰が見ても患者の容体が戻らないと判断した場合に延命措置を中止するのは医学的には問題ないと考えるが、患者の意思を家族から確かめることが重要だ。現場医師の間違いをなくすためにも、基本的な法律を作る必要がある」という。」



製作:大谷いづみ/記事全文引用についての責任:立岩
*このファイルは文部科学省科学研究費補助金を受けてなされている研究(基盤(B)・課題番号16330111 2004.4〜2008.3)のための資料の一部でもあります。
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