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羽幌病院事件
◆2005/04/27
◇「延命治療中止で患者死亡、殺人の疑いで医師書類送検へ」
『日本経済新聞』北海道朝刊 (社会面), 38ページ 226文字
「道立羽幌病院の女性医師(33)が昨年二月、入院していた患者(当時90)の人工呼吸器のスイッチを切り、死亡させた問題で、道警は二十六日、殺人の疑いで五月にも女性医師を書類送検する方針を固めた。
道警などによると、延命治療の中止だけで殺人容疑で書類送検するのは全国初。
調べでは、女性医師は食事をのどに詰まらせ心肺停止の状態で昨年二月十四日に道立羽幌病院に搬送された男性患者に対し、翌十五日午前十時四十分ごろ、人工呼吸器のスイッチを切り、死亡させた疑い。」
◇「道立羽幌病院の呼吸器外し:殺人容疑で書類送検へ 医師の殺意、立証可能−−道警判断」
『毎日新聞』北海道夕刊, 7ページ 516文字
「留萌管内羽幌町の道立羽幌病院で04年2月、無呼吸状態の男性患者(当時90歳)が人工呼吸器を外されて死亡した問題で、道警捜査1課と羽幌署などは27日までに、同病院の当時の女性医師(33)を殺人容疑で書類送検する方針を固めた。延命治療の中止を理由とした殺人容疑の立件は極めて異例だ。
[略]
女性医師は調べに対し、「家族の負担も考えて(呼吸器外しを)相談した。合意は得ていた」と供述したという。
道警は、神奈川県の東海大医学部付属病院事件の横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件などを基に、今回のケースが違法性を問われない「安楽死」に当たるかどうか、慎重に検討した。
この結果、女性医師が他の医師の意見を聞かず、独断で人工呼吸器を外した▽本人の意思を確認せず、家族への病状の説明も不十分だった――などの点を重視し、殺意を立証できると判断した。【内藤陽、遠藤拓】」
◇「延命治療停止 羽幌病院医師、殺人容疑で書類送検へ 安楽死要件欠く=北海道」
『東京読売新聞』夕刊, 1ページ 795文字
「◇消極的安楽死 初の立件
北海道羽幌町の道立羽幌病院(佐藤卓院長)で2004年2月、当時勤務していた女性医師(33)が男性患者(当時90歳)の人工呼吸器を取り外して死亡させた問題で、道警は27日、女性医師を殺人容疑で5月にも旭川地検に書類送検する方針を固めた。回復見込みのない患者の苦痛緩和などを目的に患者の死期を早める「安楽死」をめぐっては、筋弛緩(しかん)剤などを投与した医師が殺人容疑で逮捕された例はあるが、「消極的安楽死」といわれる延命措置の停止だけで立件されるのは初めて。
〈関連記事13面〉
[略]
男性はこの前日の14日昼、心肺停止状態で同病院に運ばれ、人工呼吸器を装着されたが、その後、医師が男性の家族に「脳死状態なので、このまま延命措置を続けるかどうか検討してほしい」と説明、家族が医師に治療停止の要望を伝えていた。
安楽死をめぐっては、1991年に東海大付属病院(神奈川県伊勢原市)で、末期がん患者に塩化カリウムを注射して死亡させたとして殺人容疑で逮捕された医師の有罪が95年に確定。判決で、横浜地裁は延命治療の停止による安楽死が許容される要件として〈1〉回復の見込みがない〈2〉本人または家族の意思に基づく〈3〉自然な死を迎えさせる目的――の3要件を示したが、道警は女性医師の行為がこれらを満たしていないと判断した。
また、98年には、川崎協同病院(川崎市)で、患者の気管内チューブを抜き、筋弛緩剤を投与したとして医師が殺人容疑で逮捕、起訴され、横浜地裁は3月、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した(医師は控訴)。同月には、広島県福山市の民間病院でも院長が患者の人工呼吸器を外して死亡させていたことが明らかになっている。」
◇「延命治療停止 医師書類送検へ 「明確な基準作りを」=北海道」
『東京読売新聞』夕刊, 13ページ 1056文字
「◇医療現場、混乱懸念の声も
北海道立羽幌病院で「消極的安楽死」問題が発覚して約1年。人工呼吸器を外した女性医師(33)が殺人容疑で書類送検される見通しになったことで、医療関係者に改めて衝撃が広がった。延命治療の停止は明確な基準がないまま多くの医療現場で行われてきたのが実態。「現場が動揺するのでは」と不安視する見方があがっているが、一方で、「立件を機に、明確なルール作りを」と期待する声も出ている。〈本文記事1面〉
女性医師の殺人容疑での立件方針が固まったことについて、札幌市内のある医師は「羽幌病院のケースでは家族の同意で呼吸器を外したと聞く。従来、延命治療は家族の同意があれば停止してもいいとされてきたが、今後は認められないこともあるのだろうか」と戸惑いをみせる。
羽幌病院の問題が発覚して以来、この医師の周辺では、安楽死問題が議論になる機会が増えたという。特に、寝たきりの高齢者を受け入れる病院の勤務医や、救急医療に携わる医師の間では、今回、書類送検されることになった女性医師に同情的な声が強いという。
大学医局でホスピスでの実態調査に携わったことがあるという30歳代の医師は「全国各地のホスピスで、同じように治療停止が行われている実態が報告されている。いつ治療をやめるか現実的な指針がない中、各現場でそれぞれの医師が判断しているのが現実だ。こうした刑事事件として立件されると、現場は委縮する」と懸念する。
別の医師は、「殺人罪に問われる可能性があるので、自分ならしない」と話すが、「女性医師には気の毒だが、今回の立件が、具体的な治療停止の基準を作るきっかけになってくれれば、と期待する声は医療関係者に多い」と打ち明ける。
安楽死や尊厳死については、1993年に横浜地裁で示された「東海大安楽死事件」での判決が、許容されるか否かの判断基準とされてきた。 [略]
しかし、要件があまりに具体性に欠け、医療の実態に即していないとの声も強く、厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」は昨年6月、羽幌などのケースを踏まえ、延命治療を中止する際のルール作りが必要とする報告を打ち出している。」
◇「消極的安楽死」立件へ 呼吸器外した女性医師を殺人容疑で/北海道警
『東京読売新聞』夕刊, 14ページ 764文字
[略]
安楽死をめぐっては、1991年に東海大付属病院(神奈川県伊勢原市)で、末期がん患者に塩化カリウムを注射して死亡させたとして殺人罪に問われた医師の有罪が95年に確定。判決で、横浜地裁は延命治療の停止による安楽死が許容される要件として〈1〉回復の見込みがない〈2〉本人または家族の意思に基づく〈3〉自然な死を迎えさせる目的――の3要件を示したが、道警は女性医師の行為がこれらを満たしていないと判断した。
[略]
一方、延命治療の停止をめぐっては、厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」が昨年6月、羽幌などのケースをふまえ、延命治療を中止する際のルール作りが必要との報告を打ち出している。
◇「道立羽幌病院呼吸器外し*医師、殺人容疑で書類送検*道警方針*「安楽死」該当せず」
『北海道新聞』朝刊全道, 1ページ, , 629文字
[略]
筋弛緩(しかん)剤の投与など「積極的安楽死」ではなく、延命治療中止だけの行為で、殺人容疑で書類送検するのは全国で初めてという。
[略]
道などによると、女性医師は患者の長男ら親族に「脳死状態で、このまま意識は戻らず、治る見込みはない。(家族の)負担になる」と説明。長男ら親族は治療停止を了承し、女性医師が人工呼吸器を外したという。
道警などは、女性医師には患者の死亡につながるとの認識がありながら人工呼吸器を外した上、一連の行為が、東海大病院事件の一九九五年の横浜地裁判決で示された「延命治療中止」の《1》回復の見込みがなく、死期が迫っている《2》治療行為の中止を求める患者の意思表示か、患者の意思を十分に推定できる家族の意思《3》「自然の死」を迎えさせる目的に沿った決定−の要件を満たしておらず、正当な医療行為には当たらないと判断したとみられる。
◆『毎日新聞』2004年05月14日
道立羽幌病院、呼吸器外し死なす 殺人容疑、医師ら聴取
[略]
病院によると、男性患者は2月14日午後1時ごろ、自宅で倒れているのを家族が発見し、心肺停止状態で搬送された。医師の蘇生措置で心臓は再び動き出したが、自発呼吸は戻らず、意識不明のまま人工呼吸器を装着された。医師は患者の長男ら家族に「回復の見込みはなく、脳死のような状態。長くはない」との趣旨を伝えた。その14〜15時間後に血圧が低下し、尿が完全に出なくなったため、「搬送時よりも状態が悪くなっている」と説明、親族が相談して治療停止の希望を医師に伝えたという。医師は翌15日午前10時半ごろ、人工呼吸器を外し、患者は間もなく死亡した。
[略]
◇「スイッチを切るべきでなかった」−−佐藤院長
道立羽幌病院の佐藤卓院長は14日午前9時すぎから、同病院で記者会見。「カルテから判断すると余命1〜2時間だったので、その点もきちんと説明すべきだった。家族の気持ちを無視しても、スイッチを切るべきではなかった」と述べた。
男性が死亡した翌日の2月16日朝、医師から事実関係の報告を受けた際にその点を指摘したところ、医師は「ご家族の意思を尊重しました」と述べたという。佐藤院長は一方で「(スイッチを切るまでは)最大限の努力をしたと思う。医師はそれぞれの人生観や哲学を持っている」と苦渋の表情を浮かべた。
………………………………………………………………………………………………………
■ことば
◇脳死判定と安楽死
脳死は(1)深いこん睡(2)瞳孔の散大と固定(3)脳幹反射の消失(4)平たんな脳波が条件とされる。臓器移植を前提とする法的脳死は、以上の4点に加え、自発呼吸の停止を確認し、さらに同じ検査を6時間以上の間隔をおいて実施しなければならない。一方、安楽死として違法性が問われない要件として、神奈川県の東海大医学部付属病院事件の判決で、横浜地裁は(1)耐えがたい苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛を和らげる方法がない(4)患者の明らかな意思表示があることを満たすことが必要とした。
◆『毎日新聞』2004年05月15日
患者の呼吸器外し死なせた医師、遺族にあいまいな説明−−北海道立羽幌病院
道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)で今年2月、勤務していた女性医師(32)が男性患者(90)の人工呼吸器を外して死亡させた問題で、医師は家族に対して、呼吸器を外すことについて明確な表現を用いずに持ち掛けていた可能性のあることが14日、家族などの話で分かった。病院側は会見で「家族の意思を尊重した」と説明しており、食い違いを見せている。医師と家族の間であいまいなやり取りが繰り返され、意思疎通が図られていなかった恐れがある。
家族によると、医師は患者が病院に運び込まれた2月14日午後、搬送から約1時間後に「脳は死んでいます。このままではじいちゃんがかわいそう。(人工呼吸器につながれた)この姿をどう思いますか。相談してください」と、長男らに話しかけたという。翌15日午前10時過ぎに、医師は容体が悪化していることを家族に伝え、延命措置について相談をした。長男ら兄弟3人は医師に「先生に従います」と述べた。
医師は14、15の両日、「脳死状態」と遺族に伝えていた。遺族は「脳死と聞いていなければ、人工呼吸器を外したくなかった」と話している。
また、カルテには「遺族から15日に延命措置を止めてほしいと言われた」といった内容の記載があった。それ以前のやり取りの記載はなく、病院はこの記録から家族の考えを尊重したと、解釈している。病院側は、当日の看護師からも事情を聴いたが、看護師は病室を出入りしていたため詳細なやり取りは聞いていなかった。
◇「親身な人だったが…」
[略]
また、苫前町の主婦(42)は今回の問題について「この家族と同じ立場になったら、延命治療の打ち切りを望むかもしれない」と語り、羽幌町の主婦(65)は「最期は本人や家族が望む方法で人生を終わるのがいい。家族が望んだことなら医師に罪はないが、判断する前に他の医師に相談すべきだったのではないか」と、医師の措置を疑問視する。
医師は今月1日付で旭川医大に戻り、同じ医局で指導に当たっている第1内科の菊池健次郎教授は「患者本位の医療をして、真っ正直で包み隠さない一生懸命な性格」と評価し、数日前、「(コンピューターに)慣れるのに苦労している」と少し疲れた様子で話すのを聞いている。
医師は数日前から体調を崩し休んでいるといい、菊池教授は「地域医療を担うため、これからも頑張ってほしい」と語った。【丸山博、佐野優、笈田直樹】
◆『毎日新聞』2004年05月16日
呼吸器外しの女医、前任地でも延命措置停止の提案−−北海道立羽幌病院
◇カルテに家族の同意
道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)で今年2月、男性患者(90)の人工呼吸器を外し死亡させた女性医師(32)が00年1月、当時勤務していた名寄市立総合病院でも40代の女性患者の家族に延命措置の停止を提案し、同意を得ていたとみられることが分かった。患者はこの医師が不在時に容体が悪化して死亡したため、結果として延命措置は停止されなかった。
[略]
◆2005/05/18
「呼吸器外し患者死なす、北海道の女性医師を書類送検」
【読売新聞】 5月18日19時24分更新分
「北海道立羽幌(はぼろ)病院(佐藤卓院長)で2004年2月、女性医師(33)が男性患者(当時90歳)の人工呼吸器を取り外して死亡させた問題で、道警は18日、女性医師を殺人容疑で旭川地検に書類送検した。
[略]
◇「心肺停止の患者 人工呼吸器の取り外し後死亡 医師を殺人で」
NHKニュース速報
「去年二月、北海道北部の羽幌町(ハボロチョウ)にある道立病院で、女性医師が心肺停止の状態だった男性患者の人工呼吸器を外し、その直後に男性が死亡しましたが、警察は法的に認められる、いわゆる安楽死とは言えないとして医師を殺人の疑いで書類送検しました。
[略]
男性の長男は「先生を今でも信頼しています」と話し、安楽死の法律上の問題を研究している早稲田大学の甲斐克則(カイカツノリ)教授は、「安楽死についての明確なガイドラインがなくルール作りを進めないと似たような事案が相次ぐ可能性がある」と話しています。」[2005-05-18-19:35]
◇治療行為の停止、殺人容疑と認定 医師を書類送検
朝日新聞ニュース速報
[略]
神戸生命倫理研究会代表の額田勲医師は「今回のような場面に医師として遭遇することはよくある。生命維持装置を使った延命と、患者個人の尊厳のどちらを重視するかは現代医学最大の難問とも言え、今回の件を一人の医師の問題に矮小(わいしょう)化するべきではない」と話している。」[2005-05-18-20:13]
◆『毎日新聞』2004年05月19日
道立羽幌病院の呼吸器外し医師、深川の病院でも2回−−末期症状患者に
◇00年から2年勤務
道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)で今年2月、男性患者(90)の人工呼吸器を外して死亡させた女性医師(32)が「前任地の病院でも、(人工呼吸器を外す)同様のことをした」と道警の調べに対して供述していたことが、分かった。
[略]
◆『毎日新聞』2004年05月29日
道立羽幌病院・呼吸器外し 「同様事例なし」−−女医の前任地病院が発表
道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)で男性患者(90)の人工呼吸器を外し死亡させた女性医師(32)が、以前に勤務していた深川市立総合病院(武井秀昭院長)でも「同様のことをした」と道警の調べに供述したとされる問題で、同病院は28日、「該当する事例はなかった」との調査結果を発表した。
[略]
武井院長は「病院の信用保持と市民の不安を解消するため、公表した」と話した。道警からは女性医師の勤務ぶりなどを聴かれたが、カルテの提出は求められていないという。【渡部宏人】
◆『毎日新聞』2004年06月04日
道立羽幌病院・呼吸器外し 延命治療、基準なし−−道が道立9病院調査 /北海道
道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)で2月、当時勤務していた女性医師が男性患者の人工呼吸器を外して死亡させた問題に関連して、道が同病院を含む道立病院9病院を対象に調査した結果、延命治療の基準がなかったことが3日までに分かった。
調査では、(1)脳死について独自の取り決めはあるか(2)人工呼吸器の着脱(3)蘇生術――について、病院が基準を設けているかを聴いた。
その結果、9病院はいずれも基準や指針はないと回答した。延命治療の判断は現場の医師に任せられている現状を裏付けたが、道立病院管理室は「医療現場はケースバイケースで、画一的な基準を独自に作ることは難しい」と話している。
[略]
◆『毎日新聞』2005年04月27日
道立羽幌病院の呼吸器外し:殺人容疑で書類送検へ 医師の殺意、立証可能−−道警判断
留萌管内羽幌町の道立羽幌病院で04年2月、無呼吸状態の男性患者(当時90歳)が人工呼吸器を外されて死亡した問題で、道警捜査1課と羽幌署などは27日までに、同病院の当時の女性医師(33)を殺人容疑で書類送検する方針を固めた。延命治療の中止を理由とした殺人容疑の立件は極めて異例だ。
[略]
道警は、神奈川県の東海大医学部付属病院事件の横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件などを基に、今回のケースが違法性を問われない「安楽死」に当たるかどうか、慎重に検討した。
この結果、女性医師が他の医師の意見を聞かず、独断で人工呼吸器を外した▽本人の意思を確認せず、家族への病状の説明も不十分だった――などの点を重視し、殺意を立証できると判断した。【内藤陽、遠藤拓】
◆『毎日新聞』2005年05月19日
北海道・道立羽幌病院の呼吸器外し:「脳死」独断で判定 関係者「医の常識踏み外す」
◇医療関係者「医の常識踏み外す」
道立羽幌病院で男性患者(当時90歳)の人工呼吸器を外し死亡させたとして18日、女性医師(33)が殺人容疑で書類送検された。「脳死」と独断で判定し呼吸器を外した医師の行為に対し、医療現場では「医の常識を踏み外している」との声が支配的で、延命治療を巡る議論と絡めることには否定的な空気が強い。ただ、法律の専門家からはこうした医師の暴走を防止するためにも、公的な指針作りを急ぐべきだとの意見が聞かれる。
【渡部宏人、遠藤拓、丸山博】
臓器移植法(97年施行)で脳死判定は「2人以上の医師の判断の一致」が必要とされ、判定に当たっては瞳孔固定や脳幹反射の消失など5項目の検査を定めている。
[略]
救急治療に携わる旭川市内の医師は「女性医師の行為は殺人と言われても仕方がない。人工呼吸器は自発呼吸を期待して装着した以上、家族から頼まれても心肺停止まで外すべきではない」と言う。延命治療の中止が論議されるのは末期がんなどのケースが大半で、「今回の事件はそれに当たらない」との認識だ。
道北の麻酔科医は「患者の血圧が30〜40に下がったと報道にあったが、事実なら余命は1、2時間。呼吸器を外すのをなぜ急いだのか、理解できない。回復の見込めない患者に昇圧剤を減らして死なせることはあるが、一度着けた呼吸器を外すのは論外」と話した。
[略]
道の高橋則克・道立病院管理室長は「(延命治療の)基準は道が単独で決めるのは難しく、国の結論を待ちたい。(今回のケースは)医師個人の判断で、道の法的責任はない。検察庁の判断が出た時点で対応を決めたい」と話している。
◇「いい先生だった」
死亡した患者の長男の妻(65)は羽幌町の自宅で「とてもいい先生だったのでお気の毒です」と言葉少なに話した。この問題が起きてから心労が重なり、体調を崩したという。羽幌病院の室田忠事務長(59)は18日、「司直の手に委ねられたので何もお話しすることはない」と話した。【岸本悠】
◇公的指針の整備を−−甲斐克則・早稲田大法科大学院教授(刑法・医事法)
延命治療中止を理由とした医師の書類送検は初めてだと思う。安易に脳死をほのめかした点を捜査機関が問題視したのだろう。起訴されれば殺人罪が成立する余地は残る。
今回は医師が病状を医学的に正確、適切な表現で家族に伝えたのかはっきりしない。一方的な見立てで脳死判定もないまま呼吸器外しを持ちかけたならば問題だ。他の医師にも相談し、より慎重に判断すべきだった。
東海大事件判決に照らし、公判になれば、家族が患者の意思をどの程度くんだかも大きな争点となるだろう。より具体的な公的指針の整備を求める医療現場の声は強まるはずだ。
◇患者の意思尊重を−−澤田愛子・山梨大教授(生命倫理学)
報道の通りならば、最大の問題は女性医師がだれとも相談せず、一人で判断したこと。東海大や川崎協同病院の事件とも共通する。患者の生死を握る絶対的権力者が自身の死生観をそのまま現場に持ち込むのは問題がある。
患者本人の意思を重視し、不明ならば人間誰でも生きたい、と想定すべきだ。医師が安楽死の美名の下、患者の生死を判断すれば、精神障害者らを抹殺したナチズムと何ら変わらない。一つの事例を容認することで、他のケースに拡大解釈されるのが恐ろしい。
今回のケースは東海大事件判決が示した安楽死の要件に当てはまらないが、そもそもペインコントロールで苦痛を除去できれば、患者を積極的に死なせること自体が時代遅れとなるだろう。
◆『毎日新聞』2005年05月19日
北海道・道立羽幌病院の呼吸器外し:殺人容疑、医師を書類送検−−道警
[略]
道警は医師が呼吸器を外せば死亡するとの認識を持って患者を故意に死亡させたと判断。東海大安楽死事件判決(95年、横浜地裁)が示した「消極的安楽死」の要件には立ち入らず、行為の違法性のみを検討し「殺人の嫌疑がある」と結論づけた。「訴追するかどうかは検察の判断に委ねたい」(幹部)としている。
医師は「治療を続けても回復は難しかった。家族の負担も考え、同意を得た上で呼吸器を外した」と供述しているという。現在は研修医として旭川医大に勤務している。
旭川地検の葛西敬一次席検事は「男性患者は自然死ではないと判断している。記録を精査し、適正な事件処理をする」とコメントした。地検は東海大安楽死事件判決の安楽死要件に今回の事件が該当するかどうかも慎重に捜査する方針。【渡部宏人】
◆『毎日新聞』2006年06月04日
北海道・道立羽幌病院の呼吸器外し:女性医師不起訴強まる 「死亡との因果関係薄い」
[略] 今年3月には富山・射水市民病院で患者7人が人工呼吸器を外されて死亡した問題が明らかになり、詰めの捜査に入った同地検の判断が注目される。
◇経緯
[略] 道警は05年5月に女性医師を殺人容疑で書類送検。延命治療の中止(消極的安楽死)を巡って、医師が殺人容疑で立件された全国初のケースだった。
◇因果関係
[略] 鑑定結果に基づくと、呼吸器外しで男性患者の死亡時刻がわずかに早まったとしても、呼吸器外しと死亡との因果関係を証明するのは難しい。
◇阻却事由
同地検は女性医師の行為の違法性阻却事由(違法性を否定する理由)についても綿密に検討している。たとえ女性医師の呼吸器外しが殺人罪の構成要件を満たしても、違法性阻却事由があれば罰せられず、不起訴となる。
判断のベースとみられるのは、延命治療の中止が許容される3要件を初めて示した東海大医学部付属病院「安楽死」事件の横浜地裁判決(95年確定)だ。3要件は「患者は死が不可避な末期状態」「患者の意思表示がある」などの内容。ただ、下級審判例で法的拘束力はない。
◇捜査の行方
同地検の捜査が長期化した背景の一つに、延命治療中止の是非を示した公的な指針やルールが存在しないことがある。
厚生労働省は医療現場の混乱を避け、終末期医療への国民的関心の高まりに応えるためにルール作りを進めている。
射水市民病院の呼吸器外し問題が発覚したことで、今回の事件が類似ケースとして注目を集めるようになった。検察幹部は「遺族や国民が納得できる処理をしたい」と話している。
◆2005/05/18 立岩 真也
道立羽幌病院での事件についてのコメント
NHK旭川放送局の取材に
◆2006/06/19 立岩 真也
道立羽幌病院での事件についてのコメント
毎日新聞社の取材に
UP:20050519 REV:0524, 20231122,23
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安楽死・尊厳死 2004
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安楽死・尊厳死 2005
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