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「安楽死と医師幇助自殺――EAPC倫理専門委員会の観点から」

Lars Johan Matersvedt, David Clark, John Ellershaw, Reidun Forde, Anne-Marie Boeck Gravgaard, H Christf Muller-Busch, Josep Porta I Sales and Charles-Henri Rapin 2003
“Euthanasia and physician-assisted suiside: a view from an EAPC Ethics Task Force,”
Palliative Medicine 2003; 17: pp. 97-101.


 翻訳・紹介・コメント:堀田義太郎

■背景(省略)

■歴史的潮流と現状(省略)

■概念と定義

  「緩和ケア」に関するWHOおよびEAPCの定義は、「緩和ケア」に内在する何らかの規範と価値を表現しているが、「安楽死」や「医師幇助自殺」はそうではない。「依頼に基づく殺人killing on request」という表現は、安楽死の技術的行為の記述(description)である。

○ 「緩和ケア」のWHOの定義
  「緩和ケアは、生命を脅かす病気に関係のある諸問題に直面した患者およびその家族の生活の質を、痛みやその他の身体的・心理的・スピリチュアルな諸問題を初期段階で同定して完全に評価し、それを処置することで苦悩が生ずるのを防止しまたそれを取り除くことを通して、改善するための一つのアプローチである。」(98)
緩和ケアとは(抜粋)
・痛みや他の悲惨な症候から解放することである。
・生命を肯定し、死ぬことを自然なプロセスとみなす。
・死を早めることも、先延ばしにすることも意図しない。
・患者のケアの心理的・スピリチュアルな側面を統合する。
・死ぬまでの患者の生をできる限り活動的にすることを援助する支援システムを提供する。
・家族が、患者の病気の間およびその死別にうまく対処できるように援助する支援システムを提供する。
  ……

○ 医療化された殺人、無駄な処置の差し控え/中止、「終末期鎮静」
  安楽死は、@無駄な処置の差し控え、A無駄な処置の中止、B終末期鎮静のどれとも異なる。
  また、その人の同意を欠いた医療化された殺人は、それが非自発的(nonvoluntary)であれ反自発的(involuntary)であれ、安楽死ではない。安楽死は自発的なものでしかありえない。
  したがって、「自発的安楽死」という表現は、その論理的含意によって不正確にも、自発的ではない安楽死の形態が存在するということを示唆する以上、破棄されるべきである。また、いわゆる「積極的」と「消極的」という区別も不適切である。われわれの解釈に基づくと、安楽死は定義上積極的なものであり、「消極的」安楽死とは矛盾した用語である――言い換えれば、そのようなものは存在しえない。

  安楽死―― 「依頼に基づく殺人」:患者の自発的かつしかるべき依頼によって、医師が意図的に薬品を投与することによって、患者を殺すこと。
  医師幇助自殺―― 患者の自発的かつしかるべき依頼により、患者が自己投与する薬物を処方することにより、患者が自殺するのを医師が意図的に助けること。

倫理専門委員会の立場(抜粋)

  4) 安楽死と医師幇助自殺に対する要求は、往々にして包括的な緩和ケアの供給に代替される。安楽死や医師幇助自殺を要求する個人は、したがって、緩和ケアの専門家と連絡をとるべきである。
  5) 安楽死と医師幇助自殺を提供することが、緩和ケアの責任の一部になるべきではない。
  7) いかなる社会においても安楽死が合法化されれば、次のような可能性が存在する。(@)傷つきやすい・弱い人々への圧力。(A)緩和ケアの発展不全あるいは低価値化。(B)法的な要請と、医師や他の保健専門職の個人的なそして専門家としての価値観との間の衝突。(C)社会の他の集団を含める方向での診療基準の拡張。(D)非自発的または反自発的な医療化された殺人が起こる確率の増大。(E)殺人が社会で受容されるようになる。
  8) 近代医療システムの中では、患者はその生命が不必要に延長され、耐えられない苦悩のなかで死ぬことを恐れているかも知れない。
  10) 主流の保健システムのなかでの緩和ケアの確立…〔中略〕…という目標を実現することが、安楽死と医師幇助自殺の合法化要求に対するもっとも強力なオルタナティブの一つである。

■ 論点のまとめ

@ 安楽死や医師幇助自殺のオルタナティブとして緩和ケアの充実を位置づけるべきである。
A 「安楽死」の定義から、治療の差し控えと中止といういわゆる「消極的」に生命を終わらせることは除外されるべきである。
B 治療の差し控えや中止による生命の短縮は「緩和ケア」のなかに含まれうる。

■ コメント

  安楽死や医師幇助自殺のオルタナティブとして緩和ケアの充実を位置づける主張は妥当だが、「安楽死」の定義から、治療の差し控えと中止といういわゆる「消極的」に生命を終わらせる決定を完全に排除した上での議論である。緩和ケアを安楽死に対置する議論が治療の差し控えや中止によって生命を終わらせることを排除しない限り、治療の差し控えや中止による生命の短縮は「緩和ケア」のなかに含まれうる。そして、安楽死肯定派の中心的論点の一つが、この消極的/積極的という線引きの否定である。


UP:20070423
安楽死・尊厳死
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