>HOME
電気けいれん療法/電気ショック
electroconvulsive therapy (ECT)


◆『ウィキペディア(Wikipedia)』
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E3%81%91%E3%81%84%E3%82%8C%E3%82%93%E7%99%82%E6%B3%95

◆浜田 晋 19940506 『心をたがやす』,岩波書店,シリーズ生きる,257p. ISBN-10: 4000038117 ISBN-13: 978-4000038119 2446 [amazon][kinokuniya] ※ m.

 「学生時代から、漠然と、精神科へある種の魅力を感じていた。フロイトの無意識の世界など、なんとなくうさんくさく魅力的であった。戦後の混乱期、闇屋をやりながらの学生時代の中、そんなうす暗がりの世界へあこがれていたのであろう。志望に「何科?」と問われると、いつしか「精神科」といつも答えるようになっていった。
 そのロマンを一瞬にして破壊してくれたのが、インターン時代のあの娘の叫びであり、つづく一週間の体験であった。私はうちのめされた。<0082<
 「鍵の中の世界」はほとんど地獄であった。あの臭気、患者たちの悲惨なくらし、そして「医師」の無法さ―― 広い廊下の真中に医師が坐る。電気ショック治療の開始である。屈強の男がいやがる患者を次々とひきずって来て、頭に一〇〇ボルトの電流を数秒ながす。全身の痙攣発作をおこし、無意識になった患者は次々と畳の病室にねかされて行く。「今日は誰が電気をかけられるのか」、大多数の患者は恐怖におののき、遠まきにそれを見ているのである。
 そしてひと仕事終って、通された応接室には、豪華なジュウタン、家具調度品、そしてコーヒー(当時はまだ高価でとても口にできない)などが運ばれて来る。後めたさの中でも、そのコーヒーのうまさは忘れられなかった。
 すでに最新のロボトミーも行なわれていた。[…]」(浜田[1994:82-83])

◆加賀 乙彦 1954頃

 「十二人の新入局員が交替でつとめ、二週間に一回のわりでまわってくる電撃療掛りというのがある。現今の精神医療ではほとんど姿を消したこの療法はおれが入局した一九五四年の春にはまだ盛んにおこなわれていた。フランスで開発された前述のクロールプロマジンをはじめ、今ではひろく用いられている向精神薬はまだごく少量が輸入してされて試用され始めたにすぎず、病原菌がわかっていて、それに対する治療法も開発されていた梅毒系の病気をのぞくと精神病の治療といえば電<0030<撃療法、インシュリン療法、持続睡眠療法うの三つと限られていた。
 電撃療法室というのは外来の端にあり、窓側に土間を残して一面に畳が敷きつめられていた。医師は土間に立ち、畳の上に寝かされた患者の頭に受話器型の電極を当て百ヴォルトの電流を数秒痛言するのだ。患者は瞬時にして意識を失い、典型的なテンカンの大発作をおこす。この大発作が精神分裂病に効くとされていた。ここで治療法の効<<0035<<果を云々する余裕はないが、問題なのは午前中の限られた時間に一人で四、五十人に電気をかけねばならないことである。一人一人呼びいれていたのでは到底まにあわぬ。
 そこで四人の患者を一度に呼びこむ。頭を土間に向けて寝かし、手拭いで目を蓋い、やおら端の患者から電気をかけていき、四人に一せいに大発作をおこさせる。発作中に舌を噛んだりすると大事だから看護婦一人が二人の顎をおさえ、医師自身もほかの二人を受持つ。むつかしいのは患者が好奇心をおこし、隣の患者が何をされているかを横目で見てしまう場合だ。それを防ぐための目の上の手拭なのだが、ずり落ちたりはねのけたりして見てしまう。テンカンの大発作は、テンカン者であるドストエフスキーが正確に書いているように、見る者に強烈な畏怖の念をおこさせる。隣の患者の様子を見た患者は恐慌のあまり逃げだそうとする。実際、時々患者が廊下に逃げ出して、ほかの者の治療を中止して追いかけたり、戻ってみると全部の患者がいないというてテイタラクになる。
 断っておくが、おれはこの電撃療法がいやで仕方がなかった。しかし、ほかによい治療法がない<0031<場合、患者を病気より救うやむをえざる治療法と思い、つまり医師の義務としてやっていた。そしてやっているうちに技術だけは向上し、手早く支障なく四人へかけるコツも覚えた。」(加賀[1976:30-31→1993:35-36]*)

*加賀 乙彦 19760520 『頭医者事始』,毎日新聞社,221p. ISBN-10: 462010048X ISBN-13: 978-4620100487 850 [amazon][kinokuniya] ※→197812 講談社文庫,232p. ISBN-10: 4061315250 ISBN-13: 978-4061315259 [amazon][kinokuniya] ※ m.

中井 久夫 1957頃

 「医学部に移った私が精神医学に進むことを全然考えていなかったといえば嘘になるが、一九五七年頃、私の友人が抑鬱的になって、その婚約者といっしょに京大病院に連れていった。直ちに電撃療法となって、私は付き添ったが、これは私には耐えられない、私の中の何かが壊れそうだと思った。私は当直医として、主治医の指示でやむなく行った数回のほかは電撃を指示したことも実施したこともない。東大分院も、私が勤めた青木病院も、指導者の意向で原則として電撃を行わない病院であった。昭和四〇年代のことである。京大の精神科に行かなかったのも、その時の暗さの印象が尾を引いてのことかもしれない。」(中井[1994→1996:14]*)
*中井 久夫 1994 「わが精神医学読書事始め」,『学術通信』56,岩崎学術出版社→中井[19960705:13-20]*)
*中井 久夫 19960705 『精神科医がものを書くとき・T』,広英社,349p. ISBN-10: 4906493025 ISBN-13: 978-4906493029 2600+ [amazon][kinokuniya] ※ m.

 「なぜ精神科に入ったかということですが、それまで精神科に入りそびれていたことにはいくつかの原因があります。学生のときに、同級生がデプレッシヴになったので京大病院に連れていったのですが、電気ショックに立ち会ったのです。私は非常に陰惨な暗い感じがしました。そのころは、電気部屋というのがあって、電気ショックの終わった患者さんを寝かせていました。[…]」(石井[1991→1996:●][1991→1996:●]*)
*中井 久夫 1991 「私に影響を与えた人たちのことなど」,『兵庫精神医療』12,兵庫県臨床精神医学研究会→中井[19960705:130-152]*
*中井 久夫 19960705 『精神科医がものを書くとき・T』,広英社,349p. ISBN-10: 4906493025 ISBN-13: 978-4906493029 2600+ [amazon][kinokuniya] ※ m.

◆秋元 波留夫 1858頃?

秋元 波留夫 19760330 『心の病気と現代』,東京大学出版会,305p. ASIN: B000J9WD5C 1260 [amazon] ※ m.

 「東大のように外来患者が殺到するところでは、電気痙攣療法を多数の患者に短時間のうちらに施行するために特別の工夫がこらされ、「電撃治療を終了した患者を次々にレールつきの移動ベッドにのせて、隣の休養室に運びこまれるように工夫されていた」(石川清「秋元波留夫教授と東京大学精神医学教室」、秋元波留夫還暦記念論文集上巻、一九六八年)。
 私は東大の教室に着任早々、この「電気治療室」なるものをみて一驚した。早速、私は”アウシュヴィッツを連想させる”このような装置を廃止することにしたのである。このエピソードは、当時の精神科医療において電気痙攣療法がどんな役割を果たしていたかを 示すものだと思う。
 電気痙攣療法はさらに数年間分裂病治療の主役の座を維持するが、昭和三二年(一九五七年)以降急速に退潮する。しかし、電気痙攣療法はその激しい退潮にもかかわらず、今日まで全く廃絶されることはない。それを必要とする理由がまだ現代の精神科医療に残存しているからだろう。[…]」(秋元[1976:200])

◆風祭 元 20010530 『わが国の精神科医療を考える』,日本評論社,292p. ISBN-10: 4535981906 ISBN-13: 978-4535981904 2920 [amazon][kinokuniya] ※ m.

2・精神医学・医療の回顧
 精神科身体療法の一〇〇年ほか
 「(4)頭部通電療法
 電気けいれん療法(ECT)、電気ショック療法(EST)、電撃療法などとも呼ばれ、現在でも精神科の臨床で広く用いられている。
 一九三四年にカルジアゾールけいれん療法が開始されたことや、動物での電撃けいれんの研究が、精神疾患に対する電気治療の研究に大きな刺激を与えた。一九三八年にECTを最初に精神病患者に行ったのは、イタリアのツェルレッティ(Cerletti, U.)(1)で、精神分裂病の発病初期例の多くが寛解し、また、躁うつ病には、さらに有効であったと報告した。同じ頃、九州帝国大学の安河内五郎、向笠広次(14)が同様の電撃療法を創<0086<始し、以後わが国でも広く用いられるようになった。
 通常行われていた標準法は、伝導子を額の両側にあて、一〇〇ボルト前後、毎秒二〇〇〜三〇〇mAの交流電流を強直けいれんの起こるまで数秒間通電するものである。その後、バルビタール剤で前麻酔する方法や、片側性通電法などが工夫され、最近は、前麻酔のうえで超短期間作用性の筋弛緩剤を静脈注射して通電する、無けいれん療法が行われている。術後一定期間の記銘障害があり、稀にけいれんに起因する骨折などの副作用を起こすが、緊張型分裂病の興奮、不安、焦燥や自殺観念の強い抑うつ気分にきわめて有効であり、現在でも薬物療法の効果が不十分な患者に広く用いられている。」(風祭[2001:86-87])

◆水野 昭夫 20070515 『脳電気ショックの恐怖再び』,現代書館,187p. ISBN-10:4768469507 ISBN-13: 978-4768469507 \2415 [amazon][kinokuniya] ※ m

 「国民健康保険が成立するまでの「精神障害者家族の経済的負担」はかなり大きかったようです。(…)ESのために使用する電流は十円ほどもしませんから経営者としては気楽に使えたということでしょう。  同じ程度の鎮静効果を上げるのに使用する薬物の代金は千円をはるかに超えるのです。すると、「お金持ちには薬物療法、貧乏人にはES」という時代もあったようなのです。「国民健康保険」が成立して、経済的負担が軽くなる」ことはこの問題を解決して、多くの人に薬物療法を提供する幅を広げてくれました。」(水野[2007])

◆西川 薫 20101230 『日本精神障礙者政策史』,考古堂書店,342p. ISBN-10: 4874997570 ISBN-13: 978-4874997574 342p. [amazon][kinokuniya] ※ m. ps. ist.

「(3)電気痙攣療法
 カルジアゾール痙攣療法の成功は、より簡便、確実、安全、安価な痙攣誘発法の開発を研究者に促した。1938年にCerletti & Biniは、電気ショック療法を開発した。註7)以来この方法は、その簡便さのゆえに急速に全世界に普及して、20世紀後半にはいって向精神薬療法が精神病治療の主流となるまで15年以上 註8)の長いあいだ治療法の王座の位置を占めた。126)<0136<
 日本では、安河内・向笠によって開発された50〜60Hz、交流80〜110Vを2〜3秒通電し、痙攣を起こさせる方法(200〜800mAから最高1600mA)がおこなわれた。直径約3cmのガーゼで包んだ電導子を飽和食塩水で湿し両側側頭窩にあてておこなう。通電と同時に意識消失、ついで強直性、間代性痙攣が生じ、睡眠に移行する。睡眠に移行後5〜10分で意識は回復するが、回復後一時的に逆向健忘を生じることが多く、時には痙攣後にもうろう状態や運動不穏のみられることがある。本療法の適応は創始期想定されていた精神分裂病よりもうつ病(うつ状態)に対してであることがわかってきているが、緊張性興奮や昏迷、ヒステリー性の諸症状にも用いられた。127)」(西川[2010:136-137])
126)懸田編、前掲書、7ページ*  *懸田克躬編『現代精神医学体系 第5巻B』中山書店. 1977
127)加藤正明編『新版精神医学事典』弘文堂. 1998.573ページ

註7)1937年、スイスの Münsingerで聞かれた「精神分裂病の最新の治療法」に関する第1回国際会議でインシュリンおよびカルジアゾール療法のさかんな普及ぶりが報告されたなかで、イタリアのローマ大学の Cerletti,U.の意を受けて、共同研究者の Bini,L.が分裂病の治療法として、痙攣を誘発する方法の一つに電気が使えるだろうという予報的な発言をした。電気痙攣療法について学会で言及された初めての機会であったとされている(懸田克躬編『現代精神医学大系 第5巻B』中山書店. 1977.6-7ページ)。

註8)その間、無痙攣電気衝撃、強化電気痙攣、緩和電気痙攣、麻酔電気痙攣、一側電気痙攣、電気麻酔などさまざまな変法が提唱されたが、結局原法に比べて特別にすぐれていて、それにとって代わるというほどのものはなく、主として原法に準じた標準法がおこなわれていた。ただし現在では電気痙攣療法は、当初考えられていた精神分裂病の治療法としてよりは、むしろ躁うつ病、とりわけうつ病の即効的療法としての効果がより高く評価されている(懸田克躬編『現代精神医学大系 第5巻B」中山書店. 1977.6-7ページ)。

■文献  ※は書庫に収蔵

1960's

◆江副 勉 監修 19640415 『新しい精神科看護』,日本看護協会,331p. 600
◆Cooper, David 1967 Psychiatry and Anti- Psychiatry =19810820 野口昌也 橋本雅雄訳 『反精神医学』

1970's

◆Szasz, Thomas S. 1970 Ideology and Insanity=19750816 石井毅・広田伊蘇夫訳 『狂気の思想――人間性を剥奪する精神医学』 新泉社,300 p.  ASIN: B000JA1LPO
◆谷向 弘・乾 正 19711210 『向精神薬の使い方――診断から処方まで』 ,南江堂,428p. ASIN: B000JA0Q3W \3465 ※
高杉 晋吾 19720229 『差別構造の解体へ――保安処分とファシズム「医」思想』 ,三一書房,284p. ASIN: B000J9OVWA 1000  ※
大熊 一夫  19730220 『ルポ・精神病棟』,朝日新聞社,292p. ASIN: B000J9NFOU [amazon] ※ m→198108 朝日文庫,241p. ISBN-10: 4022602449 ISBN-13: 978-4022602442
小澤 勲 19740501 『反精神医学への道標』,めるくまーる社,312p. ASIN: B000J9VTS4 1300 ※

1980's

◆藤澤敏雄 19821106 『精神医療と社会』精神医療委員会,253 p. 1880
◆吉田 おさみ 19831201 『「精神障害者」の解放と連帯』,新泉社,246p. 1500 ISBN-10: 4787783157 ISBN-13: 978-4787783158
◆Goetz, Christopher G. 1987 Charcot, The Clinician: The Tuesday Lessons,Lippincott-Raven Publishers=19991030 加我 牧子・鈴木 文晴 『シャルコー 神経学講義』,白揚社,276p. ISBN-10:4826900937 ISBN-13:978-4826900935 \4725 [amazon][kinokuniya] ※ n02 epi ect
◆Thomas, Gorden 1988 Journey into Madness: Medical Torture and the Mind Controllers =19910410 吉本 晋一郎 訳 『拷問と医者――人間の心をもてあそぶ人々』,朝日新聞社,538p. ISBN: 4022562447 ISBN-13: 978-4022562449 ¥3058  ※

1990's

◆八木 剛平・田辺 英 19990724  『精神病治療の開発思想史――ネオヒポクラティズムの系譜』,星和書店,271p.  ISBN-10: 4791104005  ISBN-13: 978-4791104000  2940
Mary O'Hagan 1991 Stopovers: On My Way Home from Mars=199910 長野英子訳,『精神医療ユーザーのめざすもの――欧米のセルフヘルプ活動』,解放出版社,245p.  1890 ※

2000's

◆寺園 慎一 20010125 『人体改造――あくなき人類の欲望』(NHKスペシャルセレクション),日本放送出版協会.238p. ISBN-10: 4140805625 ISBN-13: 978-4140805626
◆前進友の会 編 20050619 『懲りない精神医療電パチはあかん!!』,千書房,110p. ISBN-10:4787300423 ISBN-13:978-4787300423 \1260 ※
◆水野 昭夫 20070515 『脳電気ショックの恐怖再び』,現代書館,187p. ISBN-10:4768469507 ISBN-13:978-4768469507 2415 [amazon][kinokuniya] ※ m. ect.
◇西川 薫 20101230 『日本精神障礙者政策史』,考古堂書店,342p. ISBN-10: 4874997570 ISBN-13: 978-4874997574 342p. [amazon][kinokuniya] ※ m. ps. ist.

◆加賀 乙彦 1976 『頭医者事始』,毎日新聞社
◆加賀 乙彦 1980 『頭医者青春期』,毎日新聞社
◆加賀 乙彦 1976 『頭医者留学記』,毎日新聞社
◆加賀 乙彦 19830910 『頭医者』,中公文庫

■論文/学会発表原稿 など

松枝亜希子 20080518 「向精神薬への評価――1960年代から80年代の国内における肯定的評価と批判」 第34回日本保健医療社会学会 大会 一般演題 「精神医療・精神障害」部会

吉村 夕里 「精神医療論争――電気ショックをめぐる攻防」『コア・エシックス』Vol.3: 375-390pp、立命館大学大学院先端総合学術研究科、2007年3月

吉村 夕里「電気ショックの歴史と研究動向」、2007年3月、『Birth ― Journal of Body and Society Studies』立命館大学大学院先端総合学術研究科院生論集、2007年3月、1-11pp.

■言及



*作成: 三野 宏治 UP:20090525 REV:20090804, 20110207, 0627, 0704, 0710, 0806, 10, 0910, 12, 20120402
精神障害/精神医療 

TOP HOME(http://www.arsvi.com)