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電子書籍 2010

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■2010年国民読書年に障害者・高齢者の読書バリアフリーを実現する会
http://yomitai.exblog.jp/

■総務省|デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/shuppan/index.html

■出版社向けiPadアプリ制作サービス
http://www.souki.co.jp/ipad/



■HPからの関連ニュースなど



『読売新聞』2010.01.07
グーグルが携帯電話参戦 画面大きく軽量に 独走アップルと対決 
東京朝刊
 米グーグルは5日、初めて独自開発した携帯電話「ネクサス・ワン」を発売した。高機能携帯電話(スマートフォン)市場で独走する米アップルの「アイフォーン」の有力なライバルになると見られている。両社はこれまで市場をすみわけていたが、急成長が続く携帯電話市場では全面対決することになった。(ラスベガスで 池松洋)
 グーグルのアンディー・ルービン副社長は5日の声明で、「我々はネクサス・ワンを『スーパーフォン』と呼んでいる」と述べ、アイフォーンなど既存のスマートフォンを上回る性能を持つと強調した。
 ネクサス・ワンは、周波数1ギガ・ヘルツの高性能の中央演算処理装置(CPU)を搭載し、3?4年前のノート型パソコンに匹敵する性能を持つという。アイフォーンより画面は大きいが全体の重量は軽く、音声操作も可能で、「打倒アイフォーン」に向けて研究した跡がうかがえる。
 一方、アップルは6日、自社サイトで配布されているアイフォーン向けと姉妹機アイポッド・タッチ向けソフトのダウンロード件数が累計30億本を突破したと発表し、「ソフトの豊富さ」をアピールした。電子書籍などが楽しめる新たなタブレット型情報端末を今月末に発表する、とも報じられている。
 グーグルはこれまでネット事業に特化し、アップルはパソコンや携帯音楽プレーヤーに強みを持っており、両社の得意分野は異なっていた。さらに、マイクロソフトという共通のライバルの存在もあって、友好関係を築いてきた。
 グーグルは携帯電話向け無償基本ソフト(OS)「アンドロイド」で使える地図検索などのサービスをアイフォーン向けだけに提供しており、同社のエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)は昨夏までアップルの取締役を兼ねていた。
 しかし、グーグルとしては、アンドロイドOSの普及を促し携帯電話向けネットサービスで優位に立つには、自社ブランドの携帯を投入する必要があると判断した。
 ネクサス・ワンは当面、米国、英国、香港、シンガポールの4か国・地域で販売される。日本での販売については「現時点ではコメントできない」(グーグル広報)としているが、アンドロイドは日本語にも対応しており、日本でも販売される可能性は高そうだ。


◆2010/1/12 視覚障害者団体とアリゾナ州立大、Amazon Kindle DX差別訴訟で和解
http://jp.techcrunch.com/archives/20100111nfb-acb-asu-amazon-kindle-dx/

by Robin Wauters on 2010年1月12日 [append.gif。] [20100111nfb-acb-asu-amazon-kindle-dx/。]
Amazon Kindleのテキスト読み上げ機能をめぐって、昨年からちょっとした議論が起きている。米国作家協会(Authors Guild)はこの機能を、オーディオブックの販売を脅かすものであるとしていきり立ち、視覚障害者団体のNational Federation of the Blind (NFB) およびAmerican Council of the Blind (ACB)もまた、Kindleに対して言いたいことがある。
2009年6月、NFBとACBが連名でアリゾナ州立大学(ASU)を相手取り、同大学がAmazonのKindle DXを学生に電子教科書を配布する手段として使用することについて、同機器を視覚障害学生が使えないという理由で、差別訴訟を起こした。わかりにくい話だとお思いだろうが、これから詳しい話を書く。
アリゾナ州立大は、電子教科書と読み上げ機器の教室での利用を評価する試験プロジェクトの一環として、Kindel DXを配布する高等教育機関6校の一つだった。
NFBとACBによる訴訟 ― Arizona Board of Regents(アリゾナ州理事会)にも向けられている ― の主な論点は、Kindle DXにはテキスト読み上げ機能がついてはいるが、書籍の選択や購入のメニューが視覚障害者向けになっていないために、教科書のダウンロードが困難であるということにある。
両視覚障害者団体は、これを連邦法違反であると指摘している。 アリゾナ州理事会および州立大は、違法性について全面的に否定を続けている。いずれにせよ、今日の午前、両者の和解が成立した。
合意に至った理由はいくつかあるとプレスリリースに書かれている。大学側が障害を持つ学生に対してあらゆるプログラムや施設を利用できるよう約束すること、このパイロットプログラムが2010年春に終了するという事実、今後2年以内に同大学が電子ブックリーダーを学生に配布する場合には、視覚障害者が利用可能なものを使用することに努めることなどだ。
興味深いのは、和解契約でAmazon「およびその他」に対しても、電子ブックのアクセシビリティー改善と向上に努めることを要求していることだ。その改善が何であって、いつまでなのかは明確にされていない。


◆2010/1/15 米3大学が「Kindle DX」を奨励せず、障害者差別を懸念
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100115/343247/

 米司法省(DOJ)は米国時間2010年1月13日、米Amazon.comの「Kindle DX」をはじめとする電子書籍リーダーの使用を奨励しないことで3大学がそれぞれ合意したと発表した。全米盲人連合と米国盲人委員会が苦情を申し立てていたもので、障害を理由とした差別を禁じる「障害を持つアメリカ人法(ADA:Americans with Disabilities Act)」に基づいた措置。
 今回合意したのはケースウエスタンリザーブ大学、ペース大学、リードカレッジ。3大学は、Kindle DXなどの電子書籍リーダーが視覚障害者にとって使いやすい機能を完備するまで、購入や推奨を控える。また電子書籍リーダーを使用する場合は、視覚障害を持つ学生が、健常者と同様の教材と情報にアクセスし、交流に参加し、同じサービスを同様の使いやすさで利用できることを保証するとしている。
 Kindle DXの現行モデルにはテキスト読み上げ機能が搭載されているが、メニューやナビゲーションを音声で示す機能は付いていない。そのため、視覚に障害がある学生にとって、ブラウザを立ち上げて読みたい書籍にアクセスするなどの操作はたいへん困難だ。
 司法次官補のThomas E. Perez氏は、「技術の進歩は大学での教育手段を体系的に変えつつある。しかしそれは、障害を持つ学生にも他の学生と同じ機会の提供を保証するものでなければならない。各大学との合意は、すべての人々に完全で平等な教育機会を与えることの重要性をあらためて示している」と述べた。
 Amazon.comは現在、Kindle DXの教室での実用性をテストするパイロット・プロジェクトを実施しており、3校を含む複数の大学が参加している。DOJと各大学との合意はプロジェクトが完了した時点で有効となる。またアリゾナ州立大学も1月11日に同様の合意に応じている(関連記事:視覚障害者擁護団体、電子書籍リーダー「Kindle DX」導入でアリゾナ州立大を提訴)。
(ITpro) [2010/01/15]


『読売新聞』2010.01.26
アップル 10?12月期50%増益 売上高最高 iPhone販売など好調
東京夕刊
 【サンフランシスコ=池松洋】米アップルが25日発表した2009年10?12月期決算は、売上高が前年同期比32%増の156億8300万ドル(約1兆4000億円)、純利益が49・8%増の33億7800万ドルと売上高、純利益とも過去最高を更新した。携帯電話「iPhone(アイフォーン)」と対応ソフトの販売が世界的に好調だった。
 アイフォーンの10?12月期の販売台数は873万7000台と、前年同期(436万3000台)の約2倍に達した。無料ソフトも含むアイフォーン用ソフトの、ダウンロード実績は1月上旬に30億件を突破した。アップルは、楽曲のインターネット販売でも、業界最大の規模となっているが、市場が急拡大している高機能携帯電話(スマートフォン)向けソフトでも強力な基盤を築きつつある。
 アップルは27日に記者会見を開くと発表しており、ここで、電子書籍に対応するタッチパネル型のタブレット端末を発表するとの見方がある。


『読売新聞』2010.01.28
電子書籍に本格参入 iPad発表
東京夕刊
 【サンフランシスコ=池松洋】米アップルは27日、新型の情報端末「iPad(アイパッド)」を発表した。日本など各国で3月下旬から順次発売する。
 B5判の雑誌とほぼ同じ大きさで、9・7型の高精細の液晶を搭載。画面を指で操作するタッチパネルを採用し、電子書籍や動画、ゲーム、電子メールなどの多彩なコンテンツ(情報内容)の閲覧に特化した。アップルは電子書籍の販売サイトも開設し、電子書籍市場に本格参入する。
 日本語にも対応している。米国での価格は499ドル(約4万5000円)から。


『読売新聞』2010.01.29
IT新市場の開拓狙う「iPad」 電子書籍販売専用サイトも/アップル社
東京朝刊
 【サンフランシスコ=池松洋】米アップルが27日発表した新型情報端末「iPad(アイパッド)」はノートパソコンと高機能携帯電話(スマートフォン)の間に新市場を切り開き、急成長が見込まれる電子書籍やゲーム、動画などのコンテンツ(情報内容)のネット配信を囲い込む狙いだ。携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」、携帯電話「iPhone(アイフォーン)」に続いて情報技術(IT)業界を揺るがす存在になるか注目される。
 アイパッドはタブレット型と呼ばれるタッチパネルを採用した情報端末で、9・7型の高精細の液晶を搭載しながら重さは680グラムにとどめた。価格は499ドル(約4万5000円)から。大型のアイフォーンのような印象だ。
 コンテンツは無線LANや携帯電話回線を通じてアップルのサイトから取り込む。アイフォーン用のソフトがそのまま利用できる。電子書籍販売の専用サイトを作り、大手新聞社や出版社と提携した。タブレット型端末の成功例はないものの、電子書籍の閲覧端末は米国で急速に普及しており、アップルはアイフォーンやパソコン「マック」との連携で市場を開拓できると判断した。
 日本では無線LAN型が3月下旬に発売。携帯電話の回線と接続できる機能を備えたタイプは携帯電話会社との交渉が必要となるため、6月以降になるとみられる。アイパッドとの契約を巡って携帯電話会社間で争奪戦が起きる可能性がある。
 日本の出版社との交渉は今後本格化するとみられ、日本語の電子書籍などのコンテンツをどれだけそろえられるかも普及のカギとなりそうだ。


『読売新聞』2010.01.31
[スキャナー]米の電子書籍急成長 アップル本格参入で 手軽で割安に人気
東京朝刊
 ◇SCANNER
 ◆アップルiPadで本格参入 出版業界は期待と警戒 
 米国で、書籍をデジタル化した電子書籍が急速に普及している。米アップルが27日、情報端末「iPad(アイパッド)」を発表し、電子書籍市場への本格参入を表明したことで、市場がさらに拡大することは確実と見られている。(ニューヨーク 池松洋、関連記事1面)
 ■ハードとネット 
 アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)はアイパッドの発表記者会見で、「我々は(最大手の)アマゾンよりもさらに先を行く」と宣言し、電子書籍市場でも覇権を奪う決意を強調した。
 アップルは、携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」や携帯電話「iPhone(アイフォーン)」で、音楽、通信業界を揺るがしてきた。さらに電子書籍販売サイトを開設し、ハードとネットの両輪で電子書籍市場の攻略を狙う。
 電子書籍ブームに火をつけたのは、2007年11月に発売されたインターネット販売最大手アマゾン・ドットコムの「キンドル」だ。
 通信機能を内蔵し、外出先でもアマゾンのサイトから簡単に電子書籍を購入できる点が人気を呼んだ。これをソニーが追い、米国での端末シェア(占有率)はキンドルが60%、ソニーが35%程度とされる。
 多くの電子書籍の価格が1冊あたり10ドル(約900円)程度と、紙の一般書籍の2分の1?3分の1以下だ。数十冊購入すれば端末代の「元が取れる」割安感と、1000冊分以上の情報を記録できる手軽さがブームを後押ししている。
 米調査会社アイサプライによると、世界の電子書籍端末の2009年の販売台数は520万台と、08年の約5倍に達し、13年には2200万台まで拡大すると予想する。
 ■「紙」しのぐ? 
 電子書籍の業界団体によると、09年7?9月期の米国での電子書籍の販売額は4650万ドルと、前年同期の3倍を超えた。アマゾンのサイトでは、昨年末商戦で電子書籍の売上高が一般書籍の売上高を上回った。「市場全体でも5年以内に電子書籍が主流になる」(ソニー)との見方もある。
 図書館でも蔵書の電子化が進んでいる。米国では各地の図書館が電子書籍データの貸し出しも始めている。昨年11月には全米26か所の大学図書館などを結ぶ世界最大の仮想電子図書館が稼働した。専門書など約500万冊の電子書籍が無料で利用可能だ。
 サンフランシスコの非営利組織(NPO)「インターネット・アーカイブ」は各地の大学図書館などと提携し、歴史的な書籍や著作権切れの書籍を1ページずつ手作業で電子化する作業を進めている。
 ■高額印税 
 米出版社協会のエド・マッコイド・デジタル政策部長は「低迷する出版業界で、電子書籍の成長は救いだ」と話す。
 しかし、流通や価格、著作権交渉の主導権をネット企業に奪われる警戒感は強い。
 アマゾンは20日、電子書籍の低額販売に著者らが合意すれば、キンドル向け電子書籍の売上高の7割を著者らに支払う仕組みを導入すると発表した。著者らは通常の印税よりも高額の報酬を得る仕組みだ。
 大手出版社は、「著者が囲い込まれる」と警戒している。このため、米の大手出版社の一部は、電子書籍の発売時期を、紙の書籍よりも数か月遅らせる対抗策を講じている。
 米大手出版社サイモン・アンド・シュースターのアダム・ロスバーグ副社長は「一部のネット企業が大きなシェアを持つのではなく、端末やネット流通などで健全な競争環境を確保する必要がある」と主張している。
 ◆日本今度こそ普及? 共通規格検討へ 
 アップルは、アイパッドを3月下旬から日本でも順次発売する。アマゾンもキンドルの日本語版の投入を検討しているとみられ、日本にも米国の電子書籍ブームの波が押し寄せそうだ。
 これに備え、出版業界にも結束の動きが出ている。講談社、小学館、角川書店など大手21社は2月にも電子書籍普及のための業界団体を発足させ、電子化の共通規格などの検討を進めるという。
 日本でも2004年にソニーが電子書籍の閲覧端末を投入し、電子書籍の普及が期待された時期があった。
 しかし、出版業界が、既存の流通システムや価格体系を壊されるなどと警戒。ソニーは魅力ある電子書籍をそろえきれず、撤退を余儀なくされた。電車で通勤中に閲覧するには、片手で操作しやすい携帯電話の方が好まれた点もあった。今も、「大型の閲覧端末は日本ではなじまない」(大手出版社)との見方も根強い。
 出版業界には、「市場拡大が期待できるので、アマゾンなどと協力したい」と前向きな意見と、「アップルやアマゾンに、出版の主導権を握られるのは避けたい」と警戒する声が相半ばしている。

 図=米国の主な電子書籍端末の比較
 図=米国の電子書籍売上高の推移


『読売新聞』2010.01.31
新型端末iPadに対応 「SIMカード」を単体販売へ/ドコモ 
東京朝刊
 ◆iPad対応カード 「SIM」単体販売へ
 NTTドコモが、米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」=写真、AP=の日本での発売に合わせ、「SIMカード」単体での販売を検討していることが30日、明らかになった。今後、海外で一般的なように、通信会社と携帯端末を利用者が自由に選ぶことができるきっかけになる可能性もある。〈関連記事3面〉
 国内の大手通信会社がSIMカードを単体で販売するのは初めて。ドコモは、アイパッド利用者の通信需要の取り込みを狙う。
 アイパッドは、電子書籍やゲームなどのコンテンツ(情報内容)を無線LANや携帯電話の通信機能を使って入手する仕組みだ。携帯電話の通信機能を使う機種は「SIMフリー」の仕様で、SIMカードを別途購入する必要がある。ドコモは、この機種が発売される6月以降に合わせてSIMカードを販売する方向だ。
 アイパッド向けSIMカードは、携帯電話用の半分程度の大きさで、携帯電話との互換性はない。だが、米グーグルもSIMカードを利用者が自由に差し替えて通信会社を選択できる携帯電話「ネクサス・ワン」の国内販売を予定している。このためドコモは、携帯電話向けのSIMカードの販売も検討している。今後、外国製の人気端末が普及すれば、端末と通信会社を利用者が自由に選択できるSIMフリーが、日本でも進む可能性がある。
 国内の携帯電話機は、例えば、ドコモの携帯電話機間ではSIMカードの差し替えが可能。しかし、ソフトバンクの電話機とは差し替えて使うことができない。

 〈SIMカード〉 
 携帯電話番号や契約内容を識別する情報が記録された小型ICカード。これを携帯電話に差し込むことで初めて通信可能になる。日本の携帯電話機には、他の通信会社のSIMカードを差しても通信できない「SIMロック」がかけられている。海外の携帯電話機は、こうした制限がないものが一般的だ。複数の通信会社のSIMカードに対応した電話機は「SIMフリー」端末と呼ばれる。


『読売新聞』2010.02.06
[論点]障害者・高齢者に情報格差 読書をバリアフリー化 宇野和博(寄稿) 
東京朝刊
 2010年は国民読書年である。本は私たちの文化的な生活を支え心を豊かにしてくれるだけでなく、過去からの英知を受け継ぎ、未来へと引き継ぐべき崇高な知的財産と言える。だが、日本には通常の活字図書をそのままでは読むことができない視覚障害者や、読み書きに困難のある学習障害者、低視力の高齢者が数百万人いると推計されている。これは、読みたくても読めないという由々(ゆゆ)しき情報格差だ。そこで求められるのが「読書バリアフリー」である。
 1990年代から主に建物や交通機関を中心に「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という考え方も普及し始めたが、この理念は知的財産や情報にも当てはめるべきだろう。拡大文字や点字、音声といったニーズに応じた読書媒体を選択肢として保障し、障害者や高齢者にも多くの本を「買う」自由と「借りる」という権利を選択肢の両輪として確立することが求められる。
 その鍵を握るのが出版社と図書館だ。今日の読書は従来のように「本屋で本を買って読む」「図書館で借りて読む」といった方法以外にも「電子書籍をインターネットからダウンロードして携帯電話やパソコンで読む」など様々な形態も見られるようになってきた。この電子データが読書困難者を救う試金石となり得るのである。
 電子データが加工しやすく、かつ障害者や高齢者が利用できる状態になっていれば、図書館やボランティアがそれぞれのニーズに合わせて読みやすい媒体に変換することはそれほど大きな負担ではない。もっとも障害者や高齢者がパソコン上で自ら電子データを利用し、文字を大きくしたり、合成音声で聞いたり、点字ディスプレーで読むこともできるため、情報に時差なく自力で利用することも可能になる。
 しかし、現在の国立国会図書館の電子図書館はバリアフリーになっていない。また、全国に約3100ある公共図書館で障害者サービスを行っているのは600程度に過ぎない。知の宝庫である図書館には地域の読書困難者にも利用できるような拡大図書や音訳図書などのバリアフリー媒体を所蔵し、いつでもどこでもだれでも利用できる図書館を目指してほしい。
 我が国も批准を目指している国連障害者権利条約には「障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受するためのすべての適当な措置をとる」と定められている。読書のバリアフリー化は、憲法が定める基本的人権の尊重や障害者権利条約批准のための国内法整備という観点だけでなく、真に障害者の自立と社会参加を促進し、高齢者の文化的生活を保障することでもある。
 さらに、我が国の知的で活力ある文化の形成や力強い経済活動に貢献することにもつながる。このような施策の推進には、障害者や高齢者の読書環境を改善するための具体的な法制度、出版社などの民間活力、著作権者の理解、ボランティア団体との連携などの総合的な体制の整備が必要である。
 そして、国民読書年を契機に、障害の有無や年齢、身体的条件にかかわらず、すべての日本国民が知的で文化的な読書活動に親しめるような政官民一体となった取り組みが望まれる。

 ◇うの・かずひろ 筑波大付属視覚特別支援学校教諭。著書に「拡大教科書がわかる本」など。39歳。


『朝日新聞』2010年02月09日
朝刊
<お知らせ>電子書籍端末キンドルに英文ニュースを配信 朝日新聞社
 朝日新聞社は8日から、米ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムが販売する電子書籍端末Kindle(キンドル)向けに英文ニュースの配信を始めました。
 キンドルは2007年から米国で販売が始まり、昨年10月から世界約100カ国で販売されています。携帯電話回線を通じてインターネットにつながり、電子ブックや世界の新聞・雑誌を購読することができます。朝日新聞社では、世界の読者向けに朝日新聞紙面などから選んだ日本のニュースをキンドル読者にお届けします。ベースとなるアサヒ・コムの英文サイト「Asahi Shimbun English Web Edition」も装いを新たにしました。
 キンドルは、アマゾンの米国のサイト(www.amazon.com)から購入できます。キンドル版朝日新聞(英語)の日本での購読料は、1カ月9.99ドル(899円)、1部売り0.99ドル(89円)。


◆2010/2/12 音声読み上げ機能で聴ける電子書籍のアクセシビリティ - 新しい書籍のカタチ(30)
http://admn.air-nifty.com/web_design/2010/02/file-459---30-8.html

2月12日(金)「音声読み上げ機能で聴ける電子書籍のアクセシビリティ - 新しい書籍のカタチ(30)」14:28/MP3
2010年、第34回目のPodcast(Ustream Live)です。
このシリーズは、「eBook - 電子ブック」カテゴリにまとめています。
参考:
iPad - アクセシビリティ
iPadには、画面読み上げ機能、クローズドキャプション付きコンテンツの再生機能など、すぐに使える革新的なユニバーサルアクセス機能が標準搭載されています。ソフトウェアの追加購入もインストールも必要ありません。このような機能により、視覚、聴覚、身体機能の障がいや学習障がいをもつ方にとってもiPadがさらに使いやすくなります。


『朝日新聞』2010年02月13日
朝刊
国会図書館、「電子納本を義務化」 中川・文科副大臣
 国内の出版社は、出版した書籍を国立国会図書館に納める義務がある。その納本制度をめぐり、文部科学省の中川正春副大臣が、朝日新聞の単独インタビューに応じ、製本過程などで作られる書籍の電子データも納入する「電子納本」を義務づける必要があるとの考えを明らかにした。世界規模で進む本のデジタル化の流れに後れをとらないようにするのが狙いだ。(赤田康和)
 電子納本は、書籍のデジタル化と電子流通を一気に広げる契機になる可能性がある。
 本のデジタル化やネット経由での流通を進めるには、著作権の処理が不可欠だ。これまでも国会図書館の長尾真館長が「デジタル図書館」の構想を掲げ、権利者側の日本文芸家協会や日本書籍出版協会と協議してきた。それに対し著作権法を所管する文化庁は「当事者が契約で解決するべき問題」と静観してきた。
 だが、文化庁を担当する中川副大臣は、米グーグルによる世界中の書籍をデジタル化する動きなどを受けて、このままでは書籍デジタル化の潮流に日本が乗り遅れるという危機感を抱いたという。
 現在、国会図書館は膨大な蔵書のデジタル化を進めており、製本と同時に作られる電子データも図書館に納入すれば、デジタル化の手間がはぶける。さらに、電子納本が進めば、データの利用の仕方も図書館としての公的サービスだけでなく、商業利用も含めて多様に広がっていく可能性がある、と中川副大臣はみる。図書館の館内だけでなくネット経由で自宅で読んだりダウンロードして印刷したり。電子ブックリーダーへの配信もありうる。
 著作権法上はそうした利用にはそれぞれ著作権者の許諾が必要になる。それぞれの利用を認めるか否かを判断し、認める場合は、著作権使用料を利用者や企業から徴収する団体が必要になる。中川副大臣はこれを「制御機関」と呼び、作家らの権利者団体がつくる組織、と位置づける。
 一方、出版社にとって、電子納本は必ずしも歓迎できる制度とは限らない。納入した書籍の電子データが、出版社抜きで、作家とデジタル企業との間で再利用されてしまう可能性があるからだ。中川副大臣は「出版社は色んなノウハウを使い、執筆者と対話をしながら本を作っている。何らかのことはしないといけない」と、出版社の権利確保のため、措置が必要と述べた。
 中川副大臣による、電子納本の義務化や、制御機関の構想は、国会図書館の長尾真館長の構想や、3団体協議の中で検討されている構想とも重なる部分が大きい。
 電子納本の義務化には国立国会図書館法の改正が必要。法改正は衆院の議院運営委員会の委員長が提案するのが通常だ。このため中川副大臣は関係者間の合意を重視する考えだ。政治が積極的な姿勢を示したことで、この問題が前進する可能性が出てきた。


◆2010/2/17 アクセシブルな教科書としての電子書籍
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2010/02/17/ebook_for_accessible_textbook/

2010年2月17日
posted by ろす (08th Grade Syndrome)
はじめに
この度寄稿することになりました「ろす」と申します。Twitterでは@lost_and_foundというアカウントで呟いています。現在のところ職業は公にしておりませんが、出版業界の人間ではありません。08th Grade Syndrome というブログで、電子書籍に関する記事をネットユーザの視点で掲載しています。また個人的な興味から電子書籍の国際標準規格EPUBの仕様書を日本語訳して公開したりしています。仕様書は本稿の最後にリンクを貼っておきますのでそちらからご利用ください。
今回はそのEPUBに絡めて、アクセシビリティと教育に関するお話をしたいと思います。2010年1月にアップルが発表した電子書籍のオンラインストア iBookStoreの提供フォーマットにEPUBが採用され、この国際標準規格には大きな注目が集まっています。EPUBについてはしばしば「XHTMLとCSSファイルをZIPアーカイブにしたもの」として語られています。これは確かにわかりやすい表現ではありますが、私はこのことに複雑な思いを抱いてしまいます。現在EPUBではXHTMLで書かれた文書だけではなく、DTBookというXMLで書かれた文書も扱うことができるようになっています。私はEPUBがこのDTBookを扱うことができるという事実について、とりわけ我が国ではもっと語られる機会が増えてもよいのではないかと感じています。その理由をこれからお話します。
DAISY 3=最新のアクセシブルなデジタル図書
DAISYという言葉があります。視覚障害やディスクレシア(識字障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)など、印刷された本を読むことが困難な人が利用できるように工夫されたデジタル録音図書を指します。DAISYは国際非営利法人DAISY コンソーシアムによって策定されています。
もともとはCD-ROMによる音声録音メディアという形態で提供されていたDAISY図書ですが、バージョンを重ねる中で音声データのほかにテキストデータや画像データも含むマルチメディアな規格として発展し、現在は健常者が普通の本のように読むこともできる、まさに電子書籍と呼ぶに相応しいものになりました。現在の最新規格はDAISY 3と呼ばれ、米国の標準規格として認証されたためANSI/NISO Z39.86という別名もあります。
DAISYの規格に従って作成された書籍をDTB(Digital Talking Book)と呼びます。DTBは「音声とナビゲーション」「音声とテキストデータ」「テキストデータのみ」などの形態で提供されます。特徴には以下のようなものがあります。
・テキストデータはDTBookで記述されたXMLファイルでありXHTMLから多くのボキャブラリを採用している
・ツリー構造を持つ目次のようなナビゲーションを持ち、読者は所定の箇所にジャンプできる。
・SMIL (Synchronized Maltimedia Integration Language) を利用して音声ファイルとテキストデータを同期させることができる
・ナビゲーションを向上させるために文書の構造が厳密に定められている
・ページ番号を情報として持つことができる(画面や文字のサイズによってレイアウトが変化するタイプの電子書籍では、基本的にページという概念が希薄なのです)
書籍が規則正しい構造を持ち、その構成要素へのナビゲーションが提供されていれば、利用者は目的の箇所に素早くアクセスできます。また、ページ番号があれば目的の情報をDAISY図書の利用者に伝えることも容易になります。
ここで冒頭で述べたEPUBとの関係について触れておきます。EPUBがDAISYから取り入れたものが主に二つあります。一つはナビゲーションの仕組み、もう一つはテキストを記述するためのXMLである DTBookです。つまりEPUBではDTBのテキストデータをほとんどそのまま利用できることになります。
本稿執筆時のDAISY 3の最新の仕様はこちらで見ることができます。また、文書を構造化する方法についてこちらにガイドラインが定められています。IDPFのフォーラムではDTBook EPUB のサンプル(Valentin Hauy ? the father of the education for the blin)をダウンロードすることができます。
このような特徴をもつDAISY 3は特に教育分野で積極的な導入が進められています。EPUBの仕様書でも教育分野や複雑な構造をもつ書籍を作成する際には、XHTMLよりも DTBookで記述することを強く推奨しています。本稿では米国の教育分野での導入事例を紹介してゆきたいと思います。
米国の教育分野での取り組み
2004年に米国ではIndividuals with Disabilities Education Improvement Act of 2004 (個別障害者教育法 / IDEA 2004)という法律が可決されました。この法律は出版社が印刷された教材を販売する際に、その書籍のXMLデータを作成して国の NIMAC(National Instructional Materials Access Center)というレポジトリに登録することを求めるものでした。教育機関はレポジトリに登録されたXMLデータをダウンロードして、音声や点字などを用いたアクセシブルな教科書に変換した上で、障害を持つ児童に提供することができます。
このXMLデータはNIMAS (全国指導教材アクセシビリティー標準規格/National Instructional Materials Accessibility Standard) という規格に適合したものでなければならないのですが、このNIMASが採用しているのがDAISY 3になります。(様々な用語が登場して紛らわしいのですが、DAISY 3、ANSI/NISO Z39.86、NIMASは同じものとして理解して構わないと思います。)
DAISY 3は製作ツールや読み上げ、点訳などのソフトウェアが開発されており、データを作成する出版社にとっても、児童の持つ障害に適した形態にデータを変換しなければならない教育機関にとっても、利用しやすいフォーマットでした。また国の標準規格として規定したことで、一つのデータを全ての州で利用することができるようになりました。それまでは州ごとに異なるフォーマットが規定されていたのですから、これは画期的なことでした。
このようなデジタル教科書の複製・配布が可能となった下地には1996年に行われた著作権法の改正があったことも認識しなければなりません。チェーフィー改正 (the Chafee Amendment) と呼ばれるこの改正では、障害者への利用を目的とする作品の複製・配布を著作者の許可を得ることなく行うことができる、という例外を特定の認可機関に限って認めるものでした。
本稿では米国の例を紹介しましたが、英国、オランダ、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国でもDAISYを利用したアクセシブルな教科書の導入が取り組まれています。
EPUB の普及に寄せる期待
EPUBに取り入れられたDAISYが、障害者が情報にアクセスする手段を提供するための重要な規格であることが理解頂けたと思います。近年EPUB対応を謳う様々な電子書籍端末が発表されています。EPUBをサポートする端末が増えるということは、それだけ DAISYを閲覧できる環境が増えることに繋がります。今後は、読み上げ機能をはじめとした書籍の内容面に留まらず操作面でもナビゲーションも十分に備えた端末が登場することが望まれます。
我が国の現状と課題
最後に視点を国内に向けてみます。我が国でも電子書籍に障害者へのアクセシビリティを付与する取り組みが行われてきました。例えば株式会社ボイジャーでは2006年に .book 形式の書籍を読み上げソフトと連携させる機能を発表しています。ハードウェアの面では、プレクスター株式会社の「プレクストーク」や株式会社アメディアの読書機「読むべえ」などがあります。
一方DAISY図書は図書館やボランティアの方々を中心に普及活動が行われていますが多くはDAISY 2.02のバージョンであり、各国に比べて遅れを見せているのが現状です。また、現在のDAISY 3の電子書籍としての仕様も、縦書きやルビなど、日本語としてサポートされていない部分があり、現時点で日本語の教科書を作成するにはまだまだ不十分なものとなっています。
しかしながら、2010年1月には改正著作権法によって、聴覚障害者等の利用に供する目的での著作物の複製・配布が認められるなど、アクセシブルな電子教科書を提供する上での下地は整いつつあります。今日電子書籍に向けられた期待が、教育や障害者へのアクセシビリティといった分野にも注がれ、大きな前進に繋がってゆくことを期待したいです。
投稿者による追記(2010年6月2日)
1.DAISY、 DTB、DTBookの各用語について誤用があったため、記事を一部修正しました。各用語の定義は以下のとおりです。お詫びして訂正致します。
・DAISY 3 = ANSI/NISO Z39.86:デジタル録音図書の規格
・DTB:DAISY 3に沿って作成された書籍
・DTBook:DTB のテキストデータを記述するためのXMLの語彙
2.本稿執筆時以降の DAISYに関するニュースを幾つか追記しておきます。
・マイクロソフトからWordを利用して DAISY 3の書籍の作成を可能にするDAISY Translator 日本語版と日本語音声合成エンジンの提供が開始されました。
・EPUBの次のバージョンである EPUB 2.1 ではDAISYとの更なる連携の強化を目標に掲げ策定を進めています。
・DAISY コンソーシアムからはオープンソースのDAISY 3の作成ソフトTobiがリリースされました。


◆2010/2/18 図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン
http://www.jla.or.jp/20100218.html 

『朝日新聞』2010年02月25日
朝刊
グーグル、電子書籍販売へ
 【マウンテンビュー(米カリフォルニア州)=赤田康和】インターネット検索大手の米グーグル幹部は23日、朝日新聞のインタビューで、今年夏から秋にかけ、日本を含む10カ国で電子書籍の販売を始めることを明らかにした。パソコンや電子書籍専用端末で本の全文を読める。当初の販売タイトル数は、10カ国を合わせ、最大200万冊規模になるという。
 同社戦略提携担当のディレクター、トム・ターベイ氏が取材に応じた。米、英、フランスなど5カ国では8月ごろ、日本、スペイン、イタリアなど5カ国では9月か10月ごろの販売開始を目指す。すでに、出版社などの許諾を得て本の一部を見せるサービスを世界的に200万冊規模で展開しており、これを全文に拡大するよう出版社と交渉しているという。
 新サービスの名前は「グーグル・エディション」。グーグルのサイトに接続して購入すれば、いつでも電子ブックを読むことができる。日本国内では、「複数の大手出版社が前向きになっている」(同社日本法人の担当者)という。PHP研究所は当初、著者の了解を得た作品1千タイトル程度を提供する予定だ。


『朝日新聞』2010年02月28日
朝刊
(書評)書物の変 グーグルベルグの時代・港千尋著 紙の本が亡びるとき?・前田塁著
 紙の本が亡(ほろ)びるとき? 
 文字を巡る環境の激変を考察
 ブログや電子本、世界規模で物議をかもすグーグルによる書物の電子データ化……文字を巡る環境は今世紀に入って激変し、「グーテンベルグからグーグルへ」などと言い表される。こうした問題を扱う評論集が同時期に2冊刊行された。両書は奇(く)しくも、初めに「紙と電子媒体」の現状を、次に過去の文化との繋(つな)がりを、最後に新世代の作品(アートと文学)を論じる構成だ。
 さて、仏の国立図書館に、バスク語で書かれた稀少(きしょう)な哲学書の手書き本が二百五十年間眠っていた(『書物の変』)。誰も読まなかったろうこの「本」は果たして書かれたと言えるだろうか。物質と記憶の関係を考察する港氏は、それでも「希望を捨てずに何でも書いておくことが大切」とする一方、今のデジタル社会では、書物がじきに「『配信』や『検索』といった機能の……端末にぶらさがる何かへと、縮減していってしまう」と案ずる。紙の本に将来は無いと予見する前田氏はさらにラディカルだ。ウェブ検索から外れた情報は消費価値を失うばかりか、「どんどんデブリ(残骸〈ざんがい〉)化」する。無限に書き換えられるウィキペディア的な言説の海の中で、もはや「本」は知の物理的な結節点として機能しなくなりつつあると言う。港氏は、このように固着性のない電子ブックをモノではなく「『状態』としての本」と表している。
 断片化した知の「雪崩的現象(カスケード)」の中で、古典作もツイッターの呟(つぶや)きも同次元の「データ」と化し、その間に存在した「中間項」は消失する。この中間項を書物の未来形でどう再構築するか。文学だけが今なお担いうるものは何か――そう問う前田氏の言葉には切迫したものがある。とはいえ、港氏が恬澹(てんたん)と述べる通り、千年後に振り返れば、紙の本の時代が石版と電子に挟まれた「例外的な時期」となることもあろう。今、世界各地では美しい活版や活字アートを愛する静かなブームが起きていると言う。活字印刷はやがて書道のように鑑賞すべき「芸術品」や「嗜好(しこう)品」となっていくのだろうか。
 評・鴻巣友季子(翻訳家)
    *
 『書物の変』せりか書房・2520円/みなと・ちひろ▽『紙の本〜』青土社・1995円/まえだ・るい


『読売新聞』2010.03.03
電子本普及へルール作り 総務省など 著作権・流通を研究へ
東京朝刊
 総務、経済産業、文部科学の3省は2日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向け、国内での流通や著作権に関するルール作りに乗り出す方針を固めた。出版社や通信会社、著作権団体、国立国会図書館などによる官民合同の研究会を3月中に発足させ、今夏までに具体策をまとめる。
 米国では、2007年に発売されたインターネット小売り最大手アマゾン・ドット・コムの情報端末「キンドル」がヒットし、電子書籍が急速に普及している。日本では出版社や通信会社などの準備が遅れており、アマゾンなどが進出すれば、日本でも主導権を握る可能性が指摘されている。そのため、3省は国内ルールを整備して日本企業によるビジネスを後押しし、中小・零細の出版業者の保護を図る必要があると判断した。
 研究会では、ネット配信する電子書籍のデータ形式の共通化やコピー制限などの著作権管理、書店での「立ち読み」に相当する一時的な無料閲覧に関するルール作りなどを検討する。印刷会社、書店、インターネットの検索サイト運営企業や、著作権団体代表として現役の作家らもメンバーとして参加する予定だ。
 電子書籍では、アマゾンが1月、米国で販売価格の7割を著者に報酬として支払う事業モデルを発表し、印税が約1割にとどまる紙の書籍などのビジネスを脅かしつつある。
〈電子書籍〉
 本や雑誌を携帯電話や専用端末などの画面で読む新たな出版の仕組み。出版物はインターネットで販売する。国内では携帯電話の小さな画面での利用が多く、市場規模も出版全体の約2%に過ぎない。ただ、米アップルが3月下旬にほぼB5サイズで電子書籍に使える「iPad」を日本でも発売予定で、今後の普及が予想されている。


『読売新聞』2010.03.11
電子書籍ルール 研究会発足発表
東京朝刊
 総務、文部科学、経済産業の3省は10日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けて、国内ルールを定める官民合同の研究会を発足させると発表した。17日に初会合を開く。インターネット配信する電子書籍のデータ形式の共通化など電子書籍ビジネスを推進するための流通ルールを検討し、6月をめどに取りまとめる。
 研究会は3省の副大臣、政務官のほか、出版社や通信会社、書店、インターネット企業の関係者などで構成。作家の阿刀田高、楡周平、三田誠広の3氏や漫画家の里中満智子さん、国立国会図書館の長尾真館長、日本新聞協会の内山斉会長(読売新聞グループ本社社長)らもメンバーとなる。


◆2010/3/16 iPadは読み上げ機能搭載、EPUB形式に対応
http://wiredvision.jp/news/201003/2010031620.html

米Apple社は3月12日(米国時間)朝、『iPad』の先行予約を開始したが、このとき同時に、iPadの電子書籍リーダーとしての機能について、新たないくつかの詳細を発表した。
その発表によると、iPadには、音声ディクテーションによる読み上げ機能が搭載されているという。これは昨年、米Amazon社の『Kindle』で問題を引き起こした、異論のある機能だ。さらに、iPadではiBookstore以外の場所からEPUBフォーマットのタイトルをダウンロードし読むことが可能であると、Apple社は示唆している。[EPUBは、米国の電子書籍標準化団体が普及促進するオープンな電子書籍ファイルフォーマット規格]
新しい機能については、Apple社ウェブサイトのiBooksページに記載されている。まず、「あなたの読書習慣を変える」(Change your reading habits)という項目では、視覚障害を持つユーザーのための補助機能『VoiceOver』が、電子書籍のコンテンツを読み上げることにも使えると説明されている。
ただし、この機能は問題になるかもしれない。Amazon社の『Kindle 2』にも読み上げ機能が搭載されているが、同機能については作家団体のAuthors Guildが、[Kindle2発表直後の2009年2月に]、著作権を侵害し、オーディオブックの売上を減少させるものだとして批判したのだ。
[Amazon社側はこれに対し、プレスリリースで,Kindle2の音声読み上げ機能は違法ではないと前置きしつつ、音声読み上げ機能を利用できるかどうかを、著作権者がタイトルごとに決めることができるシステムに修正することを発表した]
Author's GuildがiPadに対しても、同様の動きをとるかどうかはまだわからない。一方、米国の視覚障害者団体であるNational Federation of the Blindは、iPadがVoice Over機能を搭載していることを称賛している。
一方、「iBooksアプリケーションでは、世界でもっとも人気のあるオープンな電子書籍規格EPUBを採用に対応している」と、Apple社サイトには記されている。「これにより出版社は、読者が求める書籍の電子版を作成することが容易になる。さらに、iBookstoreで提供されていないEPUBフォーマットの書籍を『iTunes』に追加し、iPadのiBooksアプリケーションに同期させることも可能だ」という(iBookstoreでは、Apple社が契約した出版社の本が販売される)。
EPUB形式でダウンロードできる、著作権がすでに切れた書籍は多い。例えば有名な『プロジェクト・グーテンベルク』がそうだ。[日本では青空文庫が有名]
ありとあらゆるテキスト・ファイルやPDFファイルをEPUB形式に変換できるソフトもある。
『Calibre』と『Stanza』はどちらも、『OS X』でも『Windows』でも使える電子書籍変換アプリケーションだ。
Stanzaは、同じ名前の『iPhone』用の人気電子書籍リーダーと協力関係にあり、適切な変換を簡単に行なうことができる。
Calibreの方はもっと強力で、複雑な文書をさらにうまく処理できる。電子書籍を『iTunes』形式のライブラリに保存することも可能だ(ただし、実際のiTunesで、その電子書籍が保存される場合もあるだろう)。毎日の新聞を無料でダウンロードすることもできるし、自分で選んで追加した多数のウェブサイトやRSSフィードをダウンロードすることもできる。
[ソニーとGoogle社もePubを採用しており、Google booksでは700万冊以上の書籍の中から選択が可能。Amazon社は、Amazon独自の「.azw」形式を採用している]
{この翻訳は別の英文記事の内容も統合しています}
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/平井真弓]


◆2010/3/15 読み上げソフトで利用できない国会図書館の電子書籍−−障害者が読書のバリアフリー求めて集会
http://mainichi.jp/universalon/report/news/20100325mog00m040057000c.html

活字を読むのが難しい視覚障害者や学習障害者らが書籍の電子化や音声化などを自由にできるようにする読書バリアフリー法の実現を求める集会が24日、東京都内永田町の参議院議員会館で開かれた=写真。集会は、障害当事者や障害者の家族、図書館員らで作る「2010年国民読書年に障害者・高齢者の読書バリアフリーを実現する会」や活字文化議員連盟、文字・活字文化推進機構が主催した。
集会では、読書バリアフリーを実現する会事務局長の宇野和博・筑波大学付属視覚特別支援学校教諭が、出版社による活字図書のアクセシビリティー保障、図書館内のバリアフリー媒体の充実、国立国会図書館の電子図書館アーカイブのアクセシビリティー確保の3点を課題に挙げた。
このうち、国会図書館の電子図書館構想については「本のページをJPEG2000という画像ファイルで表示しているため、視覚障害者が使う音声読み上げソフトでは読み上げられないし、読みやすい書体にも切り替えられない」と訴えた。
手足の筋肉が衰える難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の土居賢真さんは、ALSについて国内に約8千人の患者がいること、人工呼吸器で生きられるが、3〜5年で死亡する人が多いことなどを活字ボードを用いた筆談で紹介。自動ページめくり機や視線による意思伝達装置購入への公的助成制度の導入を訴えた。
最後に、「2010年は国民読書年。障害の有無や年齢にかかわらず、すべての国民が享受できる活字文化の実現のために、拡大文字や電子データによる自由な書籍利用の実現を目指す」ことを参加者全員が採択して集会を締めくくった。【岩下恭士】

動画:読書のバリアフリーを訴える参加者 http://video.mainichi.co.jp/viewvideo.jspx?Movie=48227968/48227968peevee301878.flv
2010年3月25日


『読売新聞』2010.03.18
電子書籍研究会が初会合
東京朝刊
 本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及策について検討する官民合同の研究会の初会合が17日、東京都内で開かれた。研究会の下に、技術と利用・活用の2分野に関する専門の作業部会を設置し、6月をめどに電子書籍ビジネスの推進などについて、ルール作りを行う。


『読売新聞』2010.03.25
電子書籍出版社協会 講談社などが設立
東京朝刊
 講談社、小学館、中央公論新社など出版社31社は24日、電子書籍の統一規格作りなどを目的にした一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」を設立した。
 米国で売り上げを伸ばしているアマゾン・ドット・コムの「キンドル」の日本語版投入がうわさされ、米アップルの「iPad」も来月発売されるなど、電子書籍端末の普及が急速に進むとみられていることに備えたもの。
 都内で同日開かれた設立総会で、代表理事に選ばれた野間省伸(のまよしのぶ)・講談社副社長は活動理念として、〈1〉著作者の利益・権利の確保〈2〉読者の利便性に資する〈3〉紙とデジタルとの連動・共存??の3点を挙げたうえで、「電子書籍に積極的に取り組み、日本の読者に合う市場を構築したい」と語った。同協会は今後、四つの小委員会を設け、著者との契約問題や電子化の規格、端末の研究などを進めていく。〈野間代表理事の「顔」2面〉


『読売新聞』2010.03.25
[顔]日本電子書籍出版社協会の代表理事に就任した 野間省伸さん
東京朝刊
 ◇のま・よしのぶ 41歳
 「黒船”ともじっくり話をしたい
 「キンドル」、「リーダー」……。アメリカで普及し、日本上陸もうわさされる電子書籍端末を、ペリー来航に例える。電子化した大量の書籍を手軽に持ち運べる新しいツールが、紙の本の出版社を脅かすとも言われる変革期。電子書籍のあり方を協議する新団体のかじ取り役に、異例の若さで就任した。
 「『危機感』という後ろ向きな言葉は、使いたくない。積極的に対応して、出版界が発展する方向に持っていきたい」
 講談社の創業家に生まれ、現在副社長。大学生の時に社長だった父・惟道(これみち)さんが急死。その時から「いつかは(講談社に)入ってやっていくと考えていた」。8年間勤めた三菱銀行時代はロンドン駐在を経験、現地の出版事情も調査した。その国際感覚は、マンガや小説が国境を越えて流通する時代に生きている。
 紙とデジタルの共存へ。新たな時代の象徴として、3D映画「アバター」を例に挙げる。「『アバター』が映画館を進化させたように、端末の進化をうながす新たな作品を生み出したい」。本と雑誌の維新を見据える。(文化部 川村律文)


『朝日新聞』2010年03月28日
朝刊
(朝日・大学パートナーズシンポ)100年後に残る本を 大阪芸術大 【大阪】
 朝日・大学パートナーズシンポジウム「書物の現在――21世紀に出版文化は可能か」(大阪芸術大、朝日新聞大阪本社主催)が21日、大阪市北区の大阪国際会議場で開かれた。出版文化の歩みを振り返りつつ、電子書籍の登場で出版が将来どのように変わっていくのかを話し合った。
 ■基調講演 モノとしての本が好き 作家・角田光代さん
 現役作家としては読書経験がおかしい、と何度も指摘されています。高校まで芥川竜之介、夏目漱石、太宰治などなど、教科書で知った作家しか読んでいませんでした。大学に入り、同級生と比べていかに自分が「読んでいない」か思い知りました。
 23歳でいただいた「海燕新人文学賞」の授賞式後、文壇バーでさらにショックを受けました。年上の作家や編集者に「あれは読んだか」と次々尋ねられるのに何一つ読んでいない。「もっと読まないと続けていけないよ」と5人ぐらいに言われた。そんなわけで、書評の依頼は断らないと決めました。好みで選ぶ以外の本にも接する機会ですし。
 28歳で出あった開高健は、一番好きな作家。ベトナムへ一人旅に行く私に、当時の彼から開高の「輝ける闇」を渡されました。読む気はなかったのにハノイ到着後に風邪で寝込んだホテルで読み始めたら、本からズバッと手が出てきて取り込まれるように面白かった。今まで味わったことがない言葉の濃密さ、小説への真摯(しんし)な姿勢を感じました。
 最初の本「幸福な遊戯」ができて本当にうれしかったのに、どの本屋にも置いていなくてがっかり。当時の海燕編集部は、数字には無頓着でした。お陰で「売れるからすごい」とも「売れるように書こう」とも思わなかった。
 電子ブックが話題ですが、私自身は紙でできてさわれるモノとしての本が好き。「紙の本はなくなる」と、20年前から言われていましたが、今もなくなってない。本に対する私たちの意識は変わらないと思います。(講演は対談形式で進められた)
   *
 かくたみつよ 作家。1967年、神奈川県生まれ。早稲田大卒。著書に『幸福な遊戯』(海燕新人文学賞)、『対岸の彼女』(直木賞)など。
 ◇書物の現在――21世紀に出版文化は可能か
 15世紀に西洋で活版印刷が発明され500年余り。パネルディスカッションでは、大阪芸術大教授の長谷川郁夫さんの司会で、電子書籍の登場で変容する書物の未来を、本とかかわる人たちが討論した。
 木版、和とじの書物に代わり背表紙のある本が登場して百数十年。「本とは何だったのか」という検証から始まった。
 作家の中沢けいさんは「1978年に『海を感じる時』で群像新人文学賞をいただいた時、年上の作家の方々に『装丁され、クロス張りされ、しおりがついた良い本を作ってもらえる作家におなりなさい』と言われた。そのモノとしての本がなくなる時代だなんて」と嘆いた。
 本の装丁を手がけるデザイナーの長尾信さんは「上製本は紙以外に、布やしおりなど様々なパーツを使う。その部材を作る職人がどんどん減っている」と厳しい状況を紹介した。
 岩波書店社長の山口昭男さんも「本は内容、表紙、装丁などの要素が組み合わさった物質としての総合パッケージ」という。本の危機は今に始まったことではなく、1973年版の出版年鑑で「活字離れ現象」が取り上げられたと指摘する。でも40年近くたっても本はなくならず、書籍の年間の新刊点数は7万8千点以上。「本を読む人が減ったというより、全部読み切れないことが問題だ」
   *
 パソコンとプリンターを使えば、自宅でも印刷は簡単にできる。「でも、これは本なのか」と中沢さんは問うた。
 山口さんによれば、広辞苑は累計1100万部売れたが、広辞苑搭載の電子辞書も1100万台売れている。
 「紙と電子辞書は使い分けられている。インターネット上の百科事典は脅威かと思ったが、編集が十分でなく、偏りも指摘されている。信頼を生む編集の価値に、我々はもっと自信を持って良い」と言う。
 大阪芸術大教授の山縣熙さんは「私は今もすべて手書き。しかし電子メディアは、軽くて検索機能が抜群。優れた編集者が残るに値する中身を作ってゆかなければ、媒体としての本はなくなるだろう」と指摘した。
 ページをめくって読み進む本の身体性も話題になった。中沢さんは「(電子ブックの)キンドルで本をもらってもうれしくない。本は1冊ずつ全部違う3次元の立体だと思うのに、キンドルだとみな同じ厚さ。大部の本を手にして『今夜は眠れないぞ』と覚悟するような感覚を持てない」と語った。
 長尾さんも「キンドルについて調べようと、広辞苑で『端末』を引いたら、その次の項は『断末魔』。こんな皮肉な驚きを味わえるのは、紙の本ならでは」と言う。
 対して、岡山県立大准教授の瀧本雅志さんは「先日引っ越しをして、重くて場所を取る本を『邪魔だな』と初めて感じた。電子メディアの利便性にこの10年で慣れたからでしょう。一方で昔の本を懐かしく手に取る経験もしたが、今の学生たちにそういう本とのかかわり方は失われている」と言う。
 「紙の手触りや厚み、装丁が凝らされた本づくりのクラフトマンシップは素晴らしいけれども、キンドルの画面が明るい場所でも見やすいように、新しいメディアでもモノとしての工夫はある」
   *
 朝日新聞出版編集者の大槻慎二さんは、間もなく発売の「iPad」のページ送りのシミュレーションをデモテープで見て、その出来栄えに感心したという。「電子メディアは動画と連動するなど新しい展開ができ、新聞や雑誌は形態が変わらざるをえないと思う」
 四半世紀の編集者生活で、媒体が変われば文章が変化することも痛感した。「ワープロの登場で、文体は手書きとは明らかに変わった。文章が長くなり、無駄が多くなったと感じる。新人作家は、しゃべるようにずらずら緩い文章になっている」
 中沢さんは「アニメなども併用した新しい表現は楽しそう」と言いつつ、「文字で表現したい人は、手書きに戻りこつこつ書く方がいいのかもしれない。新しい媒体の普及で、今後は本にすべきものしか本にしてもらえなくなる。私は本にしてもらえる作品を書いてゆきたい」と結んだ。大槻さん、山口さんもそろって「一冊でも多く『100年後に残る本を』という気持ちで努めたい」と発言した。
 山縣さんが「本は一人では作れない。出版にかかわる者は、電子メディアの便利さを生かしつつ、残るに値する本を残す努力を続けたい」と最後に締めくくった。
   ◆
 長尾信(ながおまこと)さん 1947年、東京都生まれ。哲学、思想書の装丁を手がける。東京造形大教授。
   *
 山縣熙(やまがたひろし)さん 1938年、和歌山県生まれ。専攻は美学。大阪芸術大大学院芸術研究科長・教授。
   *
 大槻慎二(おおつきしんじ)さん 1961年、長野県生まれ。福武書店を経て、朝日新聞出版書籍編集部員。
   *
 中沢(なかざわ)けいさん 1959年、神奈川県生まれ。小説家として著書多数。法政大教授。
   *
 山口昭男(やまぐちあきお)さん 1949年、東京都生まれ。雑誌「世界」編集長などを経て岩波書店社長。
   *
 瀧本雅志(たきもとまさし)さん 1963年、北海道生まれ。専攻は表象文化論。岡山県立大准教授。
   *
 長谷川郁夫(はせがわいくお)さん 1947年、神奈川県生まれ。文芸編集者を経て大阪芸術大教授。
 ■大阪芸術大研究者からの報告
 ●モリス、美しい書物に心血 籔亨(やぶとおる)教授
 英ビクトリア朝時代、ウィリアム・モリス(1834〜96)は詩人やデザイナー、思想家と多方面で活躍した。モリスは、大量生産された印刷物は功利主義で美しさがないと悲観。晩年、印刷術の初期に戻り、「美しい書物」の再興に心血を注いだ。自ら活字をデザインし、印刷工房を立ち上げた。活字をぎっしり配置し、インクはくっきり、挿絵は芸術的に調和させ、66冊の書物を出版した。モリスは「すべてに思いやりを持ち、労を惜しまず、共同作業することが美しい書物を手に入れる唯一の方法だ」と言う。この姿勢は、21世紀の書物を考える時に示唆に富んでいる。
  (1943年生まれ。近代デザイン史)
 ●玄対にみる出版の意義 田中敏雄(たなかとしお)教授
 「林麓耆老娯観(りんろくきろうごかん)」は、江戸時代後期の画家で、谷文晁(たにぶんちょう)の師とされる渡辺玄対(1749〜1822)が、古稀(こき)の祝いとして催した宴に参集した知人にかいてもらった書画を収めた版本の書画帖(ちょう)である。大阪芸術大図書館蔵の版本のほか、九州大や東京大の図書館にも同様の版本がある。
 氏名録には儒者、画家、俳人などのほか、与力や地方藩の江戸詰藩士など様々な階層の人の名があり、玄対の顔の広さがわかる。本来は肉筆で書かれた詩歌や絵画を、個人で楽しむための書画帖を私家版とはいえ版本として出版した点に「個」の一般化という出版の意義が感じられる。
 (1942年生まれ。日本美術史)
 ●異彩放った演劇誌、関西に 出口逸平(でぐちいつへい)准教授
 かつて「演劇評論」という雑誌があった。題名や表紙は地味な同人誌で、1953年に始まり27号で終わったが、演劇界のありように一石を投じる役割を果たした。
 毎号長い座談会が掲載され、演劇界の閉鎖的な体質や興行会社への批判に筆が向けられた。一方で、能や歌舞伎といった古典様式を用いた現代劇に積極的な支援をしたことでも知られる。中心になったのは、演出家の武智鉄二。この雑誌の批判がもとで、武智が演出を担ったオペラの歌舞伎座公演が中止されたこともあった。こうしたユニークな雑誌が関西から発信されたことを伝えておきたい。
 (1956年生まれ。日本文学・演劇)
   *
 「朝日・大学パートナーズシンポジウム」は2009年度をもって休止します。05年度の開始から、今回まで特別枠を含め計39件開催し、延べ1万5千人を超す皆様に参加していただきました。ご支援ありがとうございます。朝日新聞社


『読売新聞』2010.03.29
[月刊ディベート]電子出版元年 
東京朝刊
 アメリカで電子書籍端末の普及が急速に進み、日本での本格普及の可能性が語られている。「電子出版元年」といわれる今年、わが国でもブレークするだろうか。電子書籍が受け入れられた時、出版文化に何が起きるのか。それぞれの立場から語ってもらった。
 ◆人気作家の協力必要 
 ◇編集者 松田哲夫氏 
 「電子書籍元年」とのかけ声は何度目だろう。最初に言われたのは十数年前で、色々な試みが繰り返され、電子化された書籍も積み重なってきた。出版社や著者の理解も深まったと思う。
 ただし、「キンドル」や「リーダー」といった現在の端末を見ても、6年前、パブリッシングリンクという会社で端末「リブリエ」に電子書籍の配信を始めたときと本質的な変化があるとは思えない。本当に使い勝手がいいところまで進化していない。
 電子書籍になっても、売り上げを作るのは書店と同じく『1Q84』のようなベストセラー。専門書などを幅広く売るだけではビジネスにならない。人気作家が揃(そろ)って協力しない限りブレークスルーすることは難しい。
 電子書籍は、印刷製本などのコストがかからない。だから、読者がローコストで書籍を利用することができる。しかし、音楽配信では、配信業者が価格を安く設定した結果、クリエイティブな現場にお金が返ってこない構造になってしまった。新しく魅力的な著作を生み出す活力が削(そ)がれるのでは意味がない。
 ところで、電子書籍になれば、編集抜きでコンテンツが成立すると考えられがちだが、それは危うい。インターネットの時代になって、いいものと悪いものをより分ける編集的なセンスは重要度が増している。また、コミックやライトノベル、実用書、ビジネス書などでは、編集者が方向性を与えたり、メディアミックスを仕掛けたり、というのが出版の主流になりつつある。
 ただ、デジタル化で、出版社がなくても作品を発表できることははっきりした。本当に必要な出版社や編集者なのか、優良なクリエイターであるのか否かが問われる。シビアな時代だ。
 ◆自分流に知を再編成 
 ◇国立国会図書館長 長尾真氏 
 書籍の電子化に対する理解は、深まってきたと感じている。電子出版や電子図書館の将来像がある程度、具体的に見えてきた。日本電子書籍出版社協会も設立された。出版社は電子化のメリットを生かす方向にいくと思う。
 読者にとって、電子書籍の利用は、端末の便利さにかかっている。「キンドル」も日本語版が出れば便利だろうが、2、3年すればもっと軽くていいものが出てくるだろう。さらに、電子書籍の作り方も変わる。本文だけでなく、写真や動画も入れて、紙ではできない魅力的な本が電子世界だからこそ作れる。
 電子出版では検索によって小出版社の本も大手出版社の本と同じように選ばれる可能性がある。内容の勝負になるから、小出版社にもチャンスを与える。電子化を恐れるのではなく、利用して発展していければいい。
 電子図書館という立場でいえば、本を電子化し、自動的に関連づけて提供することで、人間の知識に近い構造が電子図書館の中で実現できるようになる。自分のスタイルにあわせて知を再編成することができるので、紙の本よりも便利になる。
 国会図書館でも書籍のデジタル化を進めているが、電子図書館は日本中の人がネット上で利用できるようにするべきだ。無料で貸し出すのでは本が売れなくなるという懸念があるから、利用者がお金を支払うことで、出版社や著者に利益が入るモデルを提唱した。こうした電子書籍流通のビジネスモデルを作る必要があるし、(総務省、経済産業省、文部科学省の)3省の懇談会でも議論をしてほしい。電子書籍の流通経路を早く整備して、日本の著者や出版社が外国の出版流通企業に囲い込まれないようにする必要がある。
 ◆優れた日本語 身近に 
 ◇作家 水村美苗氏 
 去年の秋に「キンドル」を買った。今ダウンロードできるのは英語の本で、市場で流通しているか、著作権が切れた本である。旅行にさぞや便利だろうと思うが、実際には寝る前に少し使うぐらい。今電子書籍を買うとしたら、紙で買うほどの気はしない話題の本と、再読してみたい本と、両極になるだろう。
 電子書籍自体は、肯定的にとらえている。たとえばルビつきの旧仮名づかいの日本語の本を、昔の形でも、普及させられる。そうすれば、日本語の古典が自然に身近になる。世界の〈叡智(えいち)を求める人〉が英語に集中する中、日本語がたんなる現地語に転落しないために、国家予算をかけてでも、過去に書かれた優れた日本語に誰もが接しやすくすべき。教育現場で子供たちに端末を持たせ、次々といい文章を読ませることもできる。
 作家としても、自分の作品が電子化され、後世の人にとって入手しやすくなるのは、うれしい。紙の出版だけだと、生きているあいだでさえ、絶版の憂き目を見る。望ましいのは、自分の作品が電子本だけでなく紙の本でも流通し続けることだが、ふつう、それは野望であろう。
 ただ、紙の本も流通し続けると思う。レコードがCD、iPodに変わっていったのと違い、紙の本は読む時に機械や電源を必要としない。その意味で、人類が発明した「紙」というものは、のちの技術に対して強い優位性を持っている。また、紙の本は物理的に場所を取るという欠点と同時に、文化財として魅力があるという長所がある。
 作家として大切なのは、「言葉の持つ力」。これは媒体から独立している。「技術進歩なんぞには影響されない」と作家を自覚させるという意味で、技術進歩の意味があるといえよう。

 〈電子書籍端末〉
 アメリカでは、アマゾン・ドット・コムの「キンドル」やソニーの「リーダー」などが好調。アップル社の情報端末「iPad」も日本で4月後半に発売開始予定だ。米調査会社・アイサプライの昨秋の予測では、2008年に110万台だった世界の端末の出荷台数は13年に2200万台まで増える見込み。


『読売新聞』2010.04.04
iPad 米で発売 電子書籍普及に弾み 徹夜の行列も
東京朝刊
 【ニューヨーク=小谷野太郎】米アップルは3日、新型情報端末「iPad(アイパッド)」を米国で発売した。米国では事前購入予約が殺到し、店頭には徹夜の行列も出来るなど人気が高まっている。
 iPadは、アップルの携帯電話「iPhone(アイフォーン)」を大型にしたようなデザインで、電子書籍や動画、ゲームなどを、9・7型のタッチパネル操作で手軽に楽しむことが出来る。米国での販売価格は499ドル(約4万7000円)から。日本では4月下旬に発売予定だ。
 「従来のノートパソコンを脅かす」(米ウォール・ストリート・ジャーナル紙)など、米メディアの前評判も高く、今年の世界販売台数は、700万?1000万台に達するとの予測もある。
 米ニューヨーク・タイムズ紙などの大手メディアや出版社は、iPad向けに順次コンテンツを供給する予定で、電子書籍の普及に弾みがつくと見られる。


◆2010/4/6 DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会、マイクロソフト 電子書籍のバリアフリー化に向けた取り組みで協力
http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3837

2010 年 4 月 6 日 (Japan)
〜 広く利用されている電子書籍フォーマットのMicrosoft(R) Word向け作成ツールを無償提供 〜
 DAISYコンソーシアム(本部:スイス、会長:河村宏)、財団法人日本障害者リハビリテーション協会(本部:東京都新宿区、会長:金田一郎、以下日本障害者リハビリテーション協会)およびマイクロソフト株式会社(本社:東京都渋谷区、代表執行役 社長:樋口泰行、以下マイクロソフト)は、電子書籍のバリアフリー化への取り組みで協力し、多くの電子書籍や学習教材に採用されているファイルフォーマット「DAISY」(デイジー)形式(注1)の文書を、Microsoft(R)Word(以下Word)で作成できるWordのアドインソフトウェア日本語版の無償提供を4月6日から開始しました。
 2010年は「国民読書年」であり、国内外において電子書籍・電子出版に関する動きが活発になっていますが、文書が適切なフォーマットで電子化されることにより、紙媒体の活字図書の読書が難しい方のバリアが軽減されます。DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会およびマイクロソフトは協力して、多くの方が電子媒体による書籍や教材の利点を享受でき、学習や趣味に役立てられるよう取り組みを推進していきます。
 「DAISY」フォーマットで作られた文書は、文章を音声で読み上げたり、読まれている文章をハイライト表示させることができたり、世界中で視覚障碍(しょうがい)や読字障碍のある子どもの学習にも広く利用されています。しかしこれまでは「DAISY」フォーマットの文書を作成するためには専門の知識が必要で、専用の編集ソフトウェアを使用する必要がありました。今回無償提供を開始したアドインソフトウェア「DAISY Translator」(注2)をWordにインストールすることにより、専門知識を必要とせずに、飛躍的に短い作成時間で「DAISY」の文書を作成することができるようになります。このアドインソフトウェアは日本障害者リハビリテーション協会のWebサイト(http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/software/ [外部サイトへリンク。])から無償でダウンロードすることができます。
 これにより、特に視覚障碍や読字障碍のある子どもの教育の現場において、「DAISY」フォーマットの学習教材が容易に作成され、授業や家庭での学習に役立てられることを想定しています。また、今後広く電子書籍が普及する際に、容易に電子書籍を作成するツールとして広く利用されることも想定しています。
 DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会およびマイクロソフトは、このアドインソフトウェアを使っての「DAISY」の学習教材作成の講習会などの普及活動も、協力して行っていきます。
今回の取り組みについて、以下のとおりエンドースコメントをいただいています。(順不同)
国立国会図書館長 長尾 真 様
「国立国会図書館では所蔵図書の電子化を進めており、全ての国民の知る権利が保障される読書のバリアフリー化を重要視しております。DAISYは国際的に開発と普及が進められているアクセシブルな情報フォーマットであり、今回の取り組みにより、多くの方の読書や学習の環境が改善されることを歓迎します。」
日本電子出版協会 会長 関戸 雅男 様 (研究社 代表取締役社長)
「日本電子出版協会(JEPA)はWordのアドインソフトウェア「DAISY Translator」の提供など今回の取り組みを歓迎します。現在JEPAでは、米国の電子書籍標準化団体IDPFと共に、世界標準となりつつあるEPUBの日本語要求仕様案を策定中です。EPUBとDAISYは密接な関係にあり、今後、縦書き、ルビなどのDAISYへの実装も視野に入れ、アジアの国々とも連携して標準化を推進しています。」
ISO/IEC JTC1 SC34/WG4(Office Open XML) 委員長 村田 真 様
「DAISY Translatorの中心となるのは、国際規格ISO/IEC 29500(Office Open XML)に規定された適合性クラスTransitionalからDAISYへの変換です。DAISY自体も、ANSI/NISO Z39.86 という規格になっています。DAISY Translator日本語版を歓迎し、今後とも規格に準拠しつつ発展していくことを期待します。」
社会福祉法人プロップ・ステーション 理事長 竹中 ナミ 様
「プロップ・ステーションは20年にわたり、ICTを駆使してチャレンジド(障碍のある人)のスキルアップと就労を促進する活動を続けてきました。昨年よりは、DAISYの可能性に着目し、発達障碍のチャレンジド学生たちがDAISY図書製作技術を学ぶセミナーの支援活動を行っています。多様な障碍像のチャレンジドたちの社会参画と就労促進のため、DAISYがますます活用されんことを心から願っています。」
シナノケンシ株式会社 代表取締役社長 金子 元昭 様
「シナノケンシは、1990年代のDAISYフォーマット策定段階から、DAISY対応機器をプレクストークのブランド名で開発・商品化を続けており、障碍のある方への読書環境の提供に努めてまいりました。当社は、今回のWordへのDAISY自動作成機能の提供を歓迎します。これにより、DAISYフォーマットによるアクセシブルな情報の制作が容易となるため、DAISY再生機等を用いてより多くの情報が広く利用されることを期待します。」

注1:DAISYフォーマット : DAISYコンソーシアムが策定するアクセシブルな電子書籍フォーマット。視覚障碍者や読字障碍者でも読書が可能なように、文章を音声で読み上げたり、読まれている文章のハイライト表示が可能。米国や欧米の多くの国で障碍者向け電子教科書や電子書籍のフォーマットとして採用されている。米国の標準規格ANSI/NISO Z39.86-2005として無償で公開されている。
注2:DAISY Translator : Microsoft Wordのアドインソフトウェア。インストールすることにより、DAISY形式のファイルがWordで作成可能になる。オープンソースソフトウェアで、日本障害者リハビリテーション協会のWebサイトから無償でダウンロードが可能。Word 2007、2003、XPに対応。


◆2010/4/6 電子書籍をバリアフリーに Word用「DAISY」文書作成アドイン - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1004/06/news046.html

視覚障害者など向けの電子書籍規格「DAISY」(デイジー)に準拠した文書を作れるWordアドイン日本語版の無償提供が始まった。
2010年04月06日 15時53分 更新
 マイクロソフトとDAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会は4月6日、視覚障害者など向けの電子書籍規格「DAISY」(デイジー)に準拠した文書を作れるWordアドインソフト「DAISY Translator」日本語版の無償提供を始めた。障害者リハビリテーション協会のWebサイトで無料でダウンロードできる。
 DAISY(Digital Accessible Information System)は、電子書籍フォーマット「EPUB」を拡張したXMLベースの規格で、国際的な非営利組織「DAISYコンソーシアム」が策定。テキストの音声読み上げや、読み上げている文字のハイライト表示、文字の拡大・縮小、色の反転などが容易にできる。PCや専用再生機器、携帯電話での再生も可能だ。欧米では電子教科書や電子書籍のフォーマットとして採用されている。
 DAISY文書を作るための無償ソフトはこれまでにもあったが、XHTMLの知識や技術が必須でハードルが高かったという。アドインを使えば、Wordで文書を作成した後、DAISY変換メニューを選ぶだけで文書をDAISYフォーマットに変換できる。読み上げに必要な音声合成エンジンも、視聴覚障害者や支援団体向けに、マイクロソフトが別途、無償で提供する。
 アドインはオープンソースソフトとして提供。Windows XP/Vista/7、Word XP/2003/2007に対応した。DAISY文書の再生には別途、対応ソフトが必要。
 マイクロソフトの加治佐俊一CTOは「視覚障害などで印刷物を読めなかったり読むことが難しい人をサポートできるのはうれしい」などとコメント。DAYSYコンソーシアムの河村宏会長は、「出版物が電子化されると同時に、すべての人が書籍にアクセスできるようにしていきたい」と意気込んでいた。


◆2010/4/6 マイクロソフト、電子書籍のバリアフリー化進めるWordプラグインを公開
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20411689,00.htm

2010年4月6日 21時54分
 マイクロソフトは4月6日、多くの電子書籍や学習教材に採用されているバリアフリー指向のファイルフォーマット「DAISY」(デイジー)に対応したWord用アドインソフトウェア「DAISY Translator日本語版」を公開した。対応OSはWindows XP、Vista、7。動作にはWord XP、2003、2007が必要。
 音声入りDAISY図書の作成には別途音声合成エンジンが必要となるほか、DAISY図書の閲覧にもDAISYコンソーシアムが配布する「AMIS」などのDAISY再生ソフトを用意する必要がある。
バリアフリーな電子書籍の普及に大きなインパクト
 DAISYフォーマットは、スイスに本部を置く非営利団体DAISYコンソーシアムが策定し、無償で提供しているXMLベースの電子書籍仕様。読み進めやすいナビゲーションシステムを持つほか、文章を音声で読み上げる機能や、読み上げている個所をハイライト表示する機能に対応。視覚障がい者や読字障がい者の利用で特に有用といわれる。欧米諸国で多くの採用実績を持ち、国際規格ANSI/NISO Z39.86-2005としても認定されている。
 DAISY図書を作成する場合、これまではXHTMLの知識が要求されたが、Wordのアドインソフトとして提供されるDAISY Translator日本語版により、かんたんなものは変換作業だけで完了するようになった。
 マイクロソフト最高技術責任者の加治佐俊一氏は、2007 Office SystemでOpen XMLを採用したことによるOffice文書の相互運用性向上をアピール。そのうえで、「電子書籍においてアクセシビリティは大切。マイクロソフトもWindowsを中心に他製品と連携を取りながら対応を進めている」として、DAISYフォーマット普及に協力する姿勢を明らかにした。
 DAISYコンソーシアム会長の河村宏氏は、「従来の書籍には“忘れられた潜在的な読者層”が存在した。現在の電子書籍の議論では忘れられてはいないか、世に注意を喚起したい」と述べ、全盲や弱視、ディスレクシア(読字障がい)などの障がいを負う人々への理解と、電子書籍が果たしうる役割について説明した。また、「近年の経済難により外国人の子弟が普通学校へ進む例が増えているが、電子書籍が役に立つ場面もあるのではないか」として、障がい者以外の層におけるDAISYフォーマットの可能性についても言及した
 財団法人日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長の野村美佐子氏は、協会が4月1日に著作権法第37条第3項に基づく視覚障害者等のための複製また自動公衆送信が認められる施設に認定され、著作権者の許諾なしに著作物の複製/配布が可能になったことを明らかにした。今回のアドインソフト提供開始については「DAISY Translator日本語版公開のインパクトは相当大きい。これまで教師の手でDAISY図書を作成することは困難だったが、これを機に活用の場が広がるのではないか」と期待を示した。
DAISY4では動画に対応、EPUBとの連携も進む
 河村氏は質疑応答のなかで、DAISYフォーマットの今後についても言及。DAISYコンソーシアムのメンバーがIDPF(EPUB仕様策定団体)の会長を務め、EPUBのNCXファイルはDAISYフォーマットのNCXファイルそのものを採用したことがあるなどの事例を引きつつ、EPUBとDAISYが関係の深いフォーマットであり、それぞれの次期バージョン「DAISY4」と「EPUB3」についても、連携して改訂作業を進めると述べた。
 現在合意を得ているDAISY4の新機能として、聴覚障がい者などのために動画をサポートする方針を明らかにした。日本語など各国語対応も進めるという。また、IDPFは別組織でありDAISYコンソーシアム単独の見解と断ったうえで、EPUB3でも各国語対応やアクセシビリティ向上が課題とされていることを説明した。
 EPUBの日本語対応を進める日本電子出版協会(JEPA)が、縦書きや禁則処理、ルビのサポートなどを盛り込んだ日本語要求仕様案を1日に公開したことについては、DAISY4とともにEPUB3で実装される予定と述べた。今後は中国や韓国と連携し、IDPFとともにEPUBの日本語対応に取り組むという。


『読売新聞』2010.04.07
iPad 初日に30万台超え
東京朝刊
 【ニューヨーク=小谷野太郎】米アップルは5日、米国で3日発売した新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売台数が、初日だけで30万台を超えたと発表した。「40万?50万台」との市場予想は下回ったが、順調な滑り出しとなった。日本でも今月下旬の発売を予定しており、注目を集めそうだ。
 アップルによると、購入者がインターネット経由でダウンロードした応用ソフトは100万件、電子書籍は25万冊をそれぞれ超えたという。同社のスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は「情報端末の競争環境を完全に変えるだろう」との声明を出した。
 アップルは今月下旬、次世代携帯サービス対応モデルを投入予定で、「年末までの世界販売は500万台を超える」(米アナリスト)との見方も出ている。


◆2010/4/14 iPadと視覚障害者の読書 - 本格的に使えるもの / ポール・バイバ
The iPad and reading for the blind ? a real boon / Paul Biba
http://trans-aid.jp/viewer/?id=9967&lang=ja

『フォーブス』誌がこれを論じており、キンドルは視覚障害者にとって大きな助けとなることができたhずだったが、セットアップがまずかったため関連団体からの訴訟さえ引き起こしたと指摘している。
一方で、この記事によると、iPadは視覚障害者にとって有用な贈り物だという。自分でMacBookを2台使いながらアップルのインタフェースについて知らなかったことを白状しなくてはならない。上の写真[訳では省略]は私のMacBook Airのスクリーンショットである。
・・・・・・iPadにはすべて、VoiceOverという標準アプリケーションが搭載されており、サードパーティーのアプリケーションのメニューを含むあらゆるメニューの読み上げができる。NFB[全米視覚障害者連合]は梱包を解けばすぐ視覚障害者や弱視者も使えるとしてアップルの製品を推奨している。NFBはタッチスクリーンも視覚障害者にとって「必ずしも障壁とはならない」との声名を発表している。
コンピュータおたくや技術コラムニストや多くの人々はiPadが現行のメディア消費構成のどこに位置付けられるかわからないかもしれないが、視覚障害者や弱視者はiPadは購入価値のある唯一の携帯読書端末ととらえている。アップルが単なる綺麗どころでないことを証明する今ひとつのポイントだろう。
原文:http://www.teleread.org/2010/04/14/the-ipad-and-reading-for-the-blind-a-real-boon/


2010.04.15
iPad 日本発売を延期 米で売れすぎて…
東京朝刊
 【ニューヨーク=池松洋】米アップルは14日、今月末頃を予定していた情報端末「iPad(アイパッド)」=写真、AP=の日本など米国以外での発売開始時期を、1か月延期して5月末にすると発表した。3日に発売した米国での売れ行きが予想以上で、生産が追いつかないためという。
 アップルは5月10日に米国外での販売価格を発表し、インターネットで販売予約の受け付けを始める。アップルによると、iPadは米国での発売から1週間で50万台以上を出荷した。携帯電話回線を使ってデータ通信が可能なモデルは今月末に販売を開始するが、このモデルについても多数の予約が集まっているという。
 iPadは、9・7型のタッチパネルを備え、電子書籍などのコンテンツ(情報内容)を手軽に楽しめる。米国での価格は1台499ドル(約4万7000円)からで、iPadの今年の世界販売台数は最大で700万?1000万台に達するとの予測もある。


◆2010/4/17 視覚障害者にもやさしい iPad ≪ maclalala2
http://maclalala2.wordpress.com/2010/04/17/%E8%A6%96%E8%A6%9A%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85%E3%81%AB%E3%82%82%E3%82%84%E3%81%95%E3

視覚障害者にもやさしい iPad
2010年 4月 17日 - 作成者: shiro
視覚障害者によって書かれた iPad レビューが興味深い。
Associated Content: iPad Review: From a Blindness Perspective” by Waldorf PC: 04 April 2010
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視覚障害者の iPad レビュー
iPad がいかにすばらしいかみんなが話題にしている。視覚障害者のわれわれもその例外ではない。なぜならアップルがすべての製品でアクセシビリティを可能にするよう取り組んでくれたおかげだ。そのおかげでわれわれ視覚障害者もホットでクールな話題を健常者と同じように楽しむことができる。・・・アップルに心から感謝したい。我々は暗闇に置き去りにされ、長い時間待たないとクールなガジェットを利用できず、手にしたときはもはやクールではなくなっていた。アップルがわれわれを仲間に加えてくれたおかげで、私もこの iPad レビューを書く最初の視覚障害者になれたのだから・・・
[...] Just about everyone is talking about how hot the iPad looks and how they must have one. Us blind folks are no exception. Because Apple has done a spectacular job at integrating accessibility in all of their products in an effort to include the blind and other disabled individuals, us blind people can enjoy being a part of these hot trends and feel cool like our sighted peers. [...] Thanks so much to Apple; we are not left out in the cold, being forced to wait a long period of time to have some cool gadgets in our hands long after the coolness has died out. And thanks so much to Apple caring enough about our inclusion; I’m able to provide a first person iPad review from a blindness perspective
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VoiceOver
iPad は箱から取り出した時点ですでに 100% 利用可能だ。他の製品の場合は、サードパーティ製のソフトをインストールしないとちゃんと使えるようにならないので、その分追加コストがかかる。しかし iPad には「VoiceOver」テクノロジーが最初から組み込まれているので、iPad のすべての操作が可能なのだ。視覚障害者も健常者と同じコストで iPad が使えるようになる。VoiceOver とはスクリーン上のテキスト、メニュー、アイコンを音声で読み上げる音声インターフェイスのことだ。
The Apple iPad is one hundred percent accessible straight out of the box. Like many other products that require the blind to install third-party software in order to use them successfully, which requires more money to be spent, the iPad has Voiceover technology integrated into the device that enables all aspects of the iPad to be utilized. Blind individuals will spend the same amount of money as their sighted counterparts, and they can use the iPad like everyone else. For those who do not know, Voiceover is a screen reader that speaks all of the text aloud on the screen, as well as the menus and icons.
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タッチスクリーンはむずかしくない
タッチスクリーンはむずかしいのではないかと心配している仲間の視覚障害者にいいたい。まったくその心配は不要だ。スクリーン上を指でなぞれば、それぞれのオプションが読み上げられる。選択したいと思うオプションが読み上げられたら、ダブルタップすればそのオプションが選択される。視覚障害者にとっても iPad のタッチスクリーンは一切問題なく使うことができる。
For those blind individuals who are worried about the touch screen being difficult to use, there is nothing to worry about. Blind individuals can glide a finger over the screen, and as they glide their fingers, the options will be spoken aloud. When the users hear an option that they want to select, they can tap their fingers on that option twice, and the option will then be selected. There is no barrier to us blind folks using the Apple iPads touch screen.
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すべての機能を備えている
iPad はコンピュータのすべての機能(ごく例外的なものを除く)を備えている。ワードプロセッサ(Microsoft Word のファイルも互換)やEブックリーダー(無料の iBook アプリをダウンロードすれば各種Eブックを読むことができる。他所の無料のEブックを ITunes と同期することも可能で、VoiceOver を使えば音声で読み上げてくれる。)、インターネットサーフィンなどがそうで、一般のコンピュータと変わらない。
The Apple iPad has all of the functionality of a computer with very few exceptions. For example, the iPad possesses the capability of word processing (Even Microsoft Word files are compatible), the ability to read E-Books (The iBook application can be downloaded for free from the Apple Store, and this application enables you to read E-Books of many types. Free E-Books can be obtained from elsewhere and be synchronized with ITunes, and Voiceover can even be used to read these books aloud.), and the ability to utilize all aspects of the Internet, just the same as one would on a computer. [...]
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同じコストで同じメリット
アップルが障害者のためにすべての面でアクセシビリティを可能にするよう取り組んだおかげで、視覚障害者の生活は大きく変わった。他のメーカーもこの例にならって、視覚障害者が健常者と同じコストで、同じユーザビリティを享受できるよう配慮してくれることを強く望みたい。アップルがわれわれを仲間に加えるという大きな一歩を踏み出したことで、私も健常者の仲間と同じように iPad を使うことができ、iPad の情報を障害者の仲間たちに伝えることができるのだ。なにより有難いことは、同じデバイスを使うためにさらに数百ドル、いや場合によっては数千ドルを費やす必要がなくなったことだ。
Apple has really changed the lives of many blind individuals by integrating accessibility in all things. I strongly feel that the rest of the electronic industry needs to follow in their footsteps, so us blind individuals can continue to enjoy equal usability at an equal price. Because Apple has taken this major step in including us, I’m able to sit and chill out with all of my sighted peers, use my iPad right along with them, and join other blind techs in providing information to our fellow blind peers about the device. Best of all, I did not have to spend hundreds, or even thousands of dollars, to make the device accessible in order for me to use it
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いままで気付かなかった視覚障害者の視点には目を開かれる思いがする。
ここでも iPad の可能性は広がる!
ところで日本語についてはどうなのだろうか・・・


『読売新聞』2010.04.20
ペンで触れて操作 新型携帯情報端末 シャープ来月発売
大阪朝刊
 シャープは、画面をペンで触れて操作する新型携帯情報端末「ネットウォーカーPC?T1」=写真=を5月下旬に発売する。インターネットサイトや電子書籍の閲覧、メールの送受信などの機能を備え、スイッチを入れると3秒で起動するのが特長だ。シャープは年6万台の販売を目指す。
 文庫本サイズで重さは約280グラム。内蔵バッテリーで6時間駆動する。画面は5型の高精細カラー液晶で、付属のペンで触れて操作や文字を入力することができる。英和辞典など12種類の辞書を内蔵するほか、専用のホームページから専門書やビジネス書など約2万5000冊の電子書籍を購入し、閲覧できる。想定価格は4万7000円前後。


◆2010/4/22 99歳の女性がiPadで豊かな人生を取り戻した瞬間:iPadで緑内障を克服
http://capote.posterous.com/99-year-old-ovecomes-glaucoma-with-an-ipad

この動画はテクノロジーが人生を豊かにする瞬間を共有してくれたものです。
iPad発売当初、2歳の子供がiPadを巧みにあやつる動画が公開され、これぞデジタルネイティブ!というBuzzがおきましたが、こちらはハートウォーミングなストーリー。
iPadを使っているのは、99歳のVirginia Campbellさん。
彼女にとっては初めてのコンピュータです。
Virginiaさんは、緑内障を患ってからは大好きな読書をすることがとても難しくなってしまったそうですが、iPadによって、彼女の人生は変わったそうです。
iPadのディスプレイの明るさ調整とタップによるフォント拡大によって、楽しい時間を取り戻すことができたからです。
すでに2冊の本を読み、12の詩を書いたそうです。
その一つがこちら。
この機械音痴にも分かる
100歳を迎えようとする私があきらめた
読み書き
いま、それが再び目の前にある
それは、この革新的なアップルのiPad


『読売新聞』2010.04.27
電子書籍 版元こそ開拓者に 「ボイジャー」代表取締役・萩野正昭氏
東京朝刊
 年内にも電子書籍を手軽に購入して読める環境が整う見通しの今年は、「電子書籍元年」ともいわれる。1992年から電子出版に取り組んできた老舗「ボイジャー」では、この動きをどう見ているのか。代表取締役の萩野正昭氏(63)に話を聞いた。(川村律文)
 アメリカではアマゾン・ドット・コムの「キンドル」や、ソニーの「リーダー」など、数万円程度の電子書籍端末が人気を集めている。4月にアメリカで発売されたアップルの多機能端末「iPad」も、既に50万台を超えるほどのヒット商品。「電子書籍は閲覧するデバイス(道具)が必要。いくつもの魅力的なデバイスが広く受け入れられることは、電子書籍(出版)にとって朗報です」と語る。
 一方で、特定の端末が電子書籍市場を独占することには、危険を感じるという。例えば、ボイジャーではiPhone用のアプリを配信しているが、販売を予定していた書籍『iPhoneをつくった会社』(大谷和利著、アスキー新書)は、アップル社の審査で販売できなくなった。
 「iPhoneの電子書籍コーナーから、大量のグラビア写真集が予告なく削除されたこともある。これは一私企業の論理に基づいた検閲です。価格決定権を出版社側が握ることも、出版社の力が相対的に強くなければできません」
 現在、同社では「.book(ドットブック)」というフォーマットで約4万点の書籍やコミックを電子化しており、携帯電話やiPhoneなど、様々な液晶端末で閲覧することを目指している。
 「キンドルで読むか、iPadで読むかは、たいした問題ではない」と萩野氏。「端末は道具にすぎず、それを使って何を言うかが大事。本でも新聞でも、適度な分量で、事実の裏付けがあるものは、価値を持ち続ける」と力説する。続けて「端末がこの世界を開拓するのではなく、私たち自身がデジタルによる次の出版を考える必要がある。紙の本を作るからではなく、出版行為をするから出版社なのです」。
 中小出版社にとって電子化は、「チャンスの到来」ともみる。「運送用のトラックも、在庫も返品もない。紙の問題がない電子出版は、情熱を持った中小出版社に向いている。絶版になった作品を電子化で復活させれば、出版の多様性は確保される。電子化を敵視するのではなく、出版の未来のために活用する手段と理解すべきでしょう」
 先駆者は電子書籍化の幕開けを、出版文化を守り発展させる契機と受け止める。


『読売新聞』2010.04.30
[緩話急題]電子化と図書館 「愛書家の楽園」の未来
東京朝刊
 ◇文化部次長・尾崎真理子
 整備された公立図書館が今、大都市のあちこちで、活気ある拠点になっている。
 東京・池袋東口に近い再開発ビルに3年前、引っ越した豊島区立中央図書館には、毎日平均3300人が訪れる。朝10時の開館に約100人が並び、夜10時の閉館まで240席がぎっしり埋まる。
 貸し出しは1人10冊、CDなら3組まで。開架式の館内で、学生、定年退職者、子供連れの男女らが思い思いに本を選び、読み、インターネットで検索している。
 吹き抜けの空間にざわめきまで心地よく響き合い、まるで劇場のよう。ようやく実現したこうした図書館も、紙の本が廃れれば潮が引くように人が去る??そんな未来を想像したくはないが。
       ◇
 1500冊分を購入、収録できるアメリカ発の電子書籍端末キンドルや、iPadなどの日本上陸が迫る。豊島区で半年待ちが続く『1Q84』も、仮に電子化され、その使用権が図書館にも及べば、待ち時間が瞬時に解消されることになるのだろうか?
 書籍の電子化、図書館の未来については、すでに様々な考察が始まっている。
 「メディアのなかで本ほど、安定しているものは少ない。(中略)本の構造は椅子(いす)やテーブルと同じように、人間の身体と知覚が要求するものを満たしている」
 そう述べる写真家の港千尋(ちひろ)氏は『書物の変 グーグルベルグの時代』で、「千年前の源氏物語絵巻は、多少色褪(あ)せても鑑賞に耐えているが、デジタル化された絵巻を千年後に鑑賞するためには、どれだけの労力が必要だろう」と、めまぐるしく形態を変える電子機器に保存を委ねることに対して、懐疑を示す。
 人類の記憶の貯蔵庫たる図書館を維持するため、これまでにも計り知れぬ努力が続けられてきた。
 図書館を「無限の宇宙」に例えたのはアルゼンチンの世界的作家ボルヘスだった。その弟子で歴史家のA・マングェルは、『図書館 愛書家の楽園』の中で、「ウェブは本ではないし、本のかわりにもなれない」と断言する。
 古代エジプトに東西のあらゆる書物を集めたアレクサンドリア図書館は、滅亡から1500年以上を経て21世紀初頭に復興。電子化時代の殿堂を目指す。だがマングェルは、紙と電子をこの先も主要な図書館では併存させるべきだと、主張してやまない。
       ◇ 
 「もはや蔵書の数を競う時代ではない。書籍の半数以上は電子化されるんじゃないか」。豊島区立図書館の行政政策顧問を務める評論家の粕谷(かすや)一希(かずき)氏は予測する。
 それでも「出会いの場所として、図書館はますます重要になる。いい図書館には、いい読者が集まるから」。出会いが、知恵や企画を生み出す契機となる。館員も、「もっと勉強会を開く部屋を増やしたい」と希望している。
 音楽配信に押されてCDは不振になっても、コンサートへ行く人は減らない。未来は五里霧中だが、図書館へ、人の流れを絶やしてはならない。それだけは確かだろう。


『朝日新聞』2010年05月03日
朝刊
グローブ39号<電子ブックは紙を超えるか>広がる電子ブックの定義、iPad発売に沸く米国
 The Future of Digital Media Devices
 画面上のページがめくれていく。紙で味わってきた「読み進める」感覚がよみがえる。電子が映し出す物語が、「本」の新しい時代を築いていく。
 画面の端に指をおく。本のページをめくるように、その指を滑らせてみる。すーっと、画面のなかの「紙」がまるで本物のようにめくれあがる。さっきまで見ていた文字が白地の裏に透けてみえる。
 Kindleの画面が、光を抑えた和紙としたら、これは、白さが際だつコート紙といえるだろうか。アップル社のiPadは、これまでの電子ブックとは全く異質の端末だった。
 4月3日早朝、米国・サンフランシスコ。ダウンタウンの一角にあるアップルストアの前には、そのiPadの発売を待つ行列が1ブロック先まで伸びていた。
 先頭から2人目、前日の夜8時から並んだというアラ・イスマイエルはクウェートからやってきた。「出張に合わせて、予約をしました。はやく触ってみたいね」。その後ろのアンドレス・スコーベルはプログラマー。「指先だけで操作する、全く新しいタブレット型の端末、それがiPadなんだ」
 米国の新しもの好きたちを引き付けるiPadの特徴は、なにか。
 かつてアップルのパソコンデザインを請け負っていたフロッグデザイン社のマ
ーク・ロルストンは、その新しさを、画面に直接、触れて操作するタッチスクリーンの自然な操作性と、そこから生じるコンテンツとの一体感にあると分析する。
 「カジュアルで、シンプルで、居間のソファでくつろぎながら楽しめる。そんなコンピューターに仕上がっている。これなら、コンテンツをゆったりとながめることができる。たとえばファッション雑誌などには、うってつけの端末だ」と、ロルストンはいう。
 「これまで、さまざまなファッション誌がウェブ版のマガジンを出してきたけれど、どこも成功しなかった。机の上のパソコンに向かって前のめりになりながら見ていても、くつろげなかったんです。iPadをきっかけに、これから新しいデジタルマガジンの市場がひろがるかもしれない」
 実際、iPadには、いたるところに紙に似せた仕掛けがちりばめられている。たとえば電子書籍ソフトのiBooksは、本物の本をめくる動作が、ほぼそのまま再現されている。
 もともとiPadの画面は後ろから光を当てる液晶方式。読書には向かないとされてきた。しかし、iPadは、高輝度の高級液晶を使うことで、鮮やかな色彩を出すことに成功した。そのため、グラビア雑誌のようなコンテンツを見るには、むしろiPadの方が向いているという評価も広まる。
 すでに米タイム誌やInterview誌が、iPad向けに編集したデジタル雑誌を売り出し、ニューヨーク・タイムズ紙や経済紙のウォールストリート・ジャーナルも、iPadでの閲覧ソフトを無料で提供している。
 電子ブック端末ではアップルとライバル関係にあるアマゾンも、iPad向けのソフトを開発。Kindleで購入したコンテンツをiPad上で読んだり、iPadの端末から、Kindle用書籍を買ったりできるようにした。
 米新聞・雑誌大手ハーストの子会社、スキッフのマーケティング担当、キリアン・ヴァン・レンスラーも「iPadから私たちのコンテンツが買えるようにしていきたい」。年内に始める予定の新聞や雑誌のコンテンツ配信について、アマゾンと同じくiPad用ソフトをつくるつもりだ。
 たった一人の選手起用が、試合の流れをがらりと変えてしまうことがある。「ゲームチェンジャー」。アップルCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズはiPadを、そうなぞらえている。
 2010年は、Kindle型の電子ブックに加え、iPadをはじめとするタブレット型が電子書籍の潮流を変えた年になるかもしれない。
 ●誰でもつくれる体制着々、チップが促す端末普及
 アマゾンのKindleが注目を集めてから1年あまり。後を追うように、大小さまざまな企業から電子ブック端末が大量に売り出されるようになった。なぜなのか。源流をたどって行き着いたのが、米西海岸シリコンバレーの半導体メーカー、マーベル社だった。
 「間もなく売り出される新商品です。どちらも私たちが開発した専用の半導体チップを使っています」。担当のジャック・カンは、中国語なまりの早口の英語で説明しながら、形も大きさも違う二つの電子ブック端末を操作してみせた。「うちのチップがあれば、同じ機能の製品がすぐ作れます。ぜひ、プラットホーム(共通基盤)として普及させたい」
 つい一昔前まで、電子ブックのような製品は、ハードウエアの設計から画面操作などを受け持つソフトウエアまで、一から開発する必要があり、それが後発組の参入障壁になっていた。その壁を突き崩すのが専用チップ。しかもマーベルのチップは、ネット検索大手グーグルの無料基本ソフト、アンドロイドが動く。このチップと電子ペーパーを調達すれば、製品の骨格はほぼできあがる。
 米バージニア州のベンチャー企業、アントラージュシステムズ社も、イーインク、マーベル、アンドロイドの3点セットで、電子ブック端末を売り出した。折りたたみ式2画面タイプ。片側に液晶画面、もう一方に電子ペーパーがつく。
 きっかけは、CEOのアスガル・ムスタファが2人の子どもにKindleを買い与えたときのこと。ちょっと触った後、子どもたちは「この端末、全然、使えない。チャットもネットもできない」と、不満を口にした。
 「いまの子たちには、ネットで調べものもできないなんて信じられなかったのでしょう」とムスタファ。そこで思いついたのがネット検索は液晶、ノート取りや読書は電子ペーパーの2画面式だった。マーベルのチップにしたのは、二つの機能があらかじめ組み込まれていたからだ。
 もともとマーベルは、中国系移民の夫妻が1995年に創設した企業で、製造工場は持たず、半導体の製造は台湾のメーカーに委託している。上海やシンガポール、日本にも開発拠点をもつ。太平洋をはさんだ米中を中心とする協業体制が、新たな電子産業を育てつつある。
 ●異業種格闘が本格化
 次世代の「紙」の覇権をめざして本格化する米国の電子ブック市場はいま、さながら「異業種格闘」の様相をみせている。
 ネット書店アマゾンによるKindleのヒットを追って、昨年末、大手電機メーカーのソニーと大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルが新製品を相次いで投入。アップルのiPad参入で、主要プレーヤーがほぼ出そろった。
 このほか、新聞・雑誌大手ハースト系のスキッフも、A4サイズの画面を備えた端末を試作し、年内の市場投入を計画している。
 中国や台湾企業による電子ブックの開発も進み、今年1月にラスベガスで開かれた家電見本市には約30機種が展示された。
 相まみえることのなかったネット企業や既存メディア企業などが直接、競い合うのは、それぞれの事業の延長線上で、電子書籍や電子新聞、電子雑誌の配信サービスの覇権獲得をめざしているためだ。
 どの業種であれ、コンテンツ配信・課金のプラットホームを手中にすれば、端末販売の一回限りの収入だけではなく、コンテンツ配信による恒常的な収入を得ることが可能になる。
   *
 iPad(Wi−Fi)
 ―――
 Apple
 9.7inchLCD
 680g
 $499〜
   *
 Kindle
 ―――
 Amazon.com
 6inch
 289g
 $259
   *
 nook
 ―――
 Barns&Noble
 6inch
 343g
 $259
   *
 Reader
 Daily Edition
 ―――
 SONY
 7.1inch
 360g
 $399.99
   *
 漢王電紙書
 (e.p books)D20
 ―――
 漢王(Hanvon)
 5inch
 195g
 1880元
 ●紙の消費半分に 授業活用でプリンストン大
 書類や資料のデジタル化が進むたびに、紙の消費量が増え続ける。こんな皮肉な現象に、電子ブック端末で歯止めをかけることはできないか。昨年秋から今年初めにかけて、こんな実験に取り組んだのは米プリンストン大学だ。
 以前から、授業に用いる参考資料や学内文書のデジタル化に取り組んできたが、結果は想定外ともいえる「紙消費の増大」をもたらしていた。「この5年間、学内の紙の使用量は毎年20%ずつ増えてしまったのです」と情報技術担当のサージ・ゴールドスタインは言う。
 なぜか。「まず、パソコン画面で大量の文書を読むのを、みな嫌がった。バックライトの明かりが目の負担となるからだ。メモ書きや、マーカーで印を付けることもできない」とゴールドスタイン。結局、昨年はA4用紙換算で約5000万枚の紙が使われ、紙代・印刷代も500万ドルに膨らんだ。
 電子ブック端末の実験には、西洋史や政治学など3クラスの計51人が参加した。画面が一回り大きく、教科書の表示にも向くアマゾンのKindle DXを渡し、授業で使う電子書籍や資料はなるべく端末で読むように求めた。どこまで紙の代わりになるのかを確かめるのが狙いだった。
 結果は5割減。「ここまで減るとは想像もしなかった」(教育技術センター長のジャネット・テモス)効果だった。「米国の中東政策と外交」の授業では、Kindle利用者の平均の紙使用量が962枚なのに対し、非利用者は1826枚。「市民社会と公共政策」ではそれぞれ762枚と1373枚――。
 テモス自身、電子ブック端末を愛用している。「普通に本を読むのには、とても優れている」。自宅では居間用、寝室用と端末を使い分け、それぞれ数百冊分の本を放り込んである。金曜日にはニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー欄で、気になる本をピックアップし、手元の端末から購入する。
 「新刊本のハードカバーは、ふつうの本屋なら時に30ドルもする。オンライン上のKindleストアなら9ドル99セント。しかも、思いたったらその場で買える」
 ただし、実験では電子ブック端末の弱点も指摘されたという。Kindleではアンダーラインは引けるものの、パソコンと同様、メモ書きやマーカーはだめ。学生は不満を募らせた。「大学や研究機関など学術向け市場には、もっと機能を充実させる必要があります」。実験結果はアマゾン側にも伝え、大学教育でも使える端末の開発を求めたという。


『朝日新聞』2010年05月03日
朝刊
グローブ39号<電子ブックは紙を超えるか>「世界の工場」中国で地場メーカーも百花繚乱
 The Future of Digital Media Devices
 外国ブランド、自国製品、そしてコピー……。その昔、紙が生まれた中国で、あらゆる「電子紙」がつくられていく。需要に対応する腕が育っていく。
 米国で生まれたアイデアが、台湾で形になる。それを実際に量産しているのが、中国だ。深セン市の中心部から車で20分ほど走ると、広大な工場が目の前に現れる。電子機器の受託生産(EMS)で世界最大のメーカー、台湾の鴻海精密工業(Foxconn)が中国大陸にもつ生産拠点、深セン龍華工場だ。
 ちょうどお昼時で、衣類や雑貨、果物などの店が並ぶ門前通りは、10代〜20代の若者であふれていた。
 紺色の作業着姿の男性に声をかけると、「大部分はここの工員だよ」。素材関係の部署にいるという。「iPadもつくってすごいね」とかまをかけてみると、笑いながら「知らないよ」とはぐらかされた。
 鴻海は、世界のヒット商品の生産を一手に引き受けているとされる。売上高は約6兆円。KindleもiPadも、この工場で生産されているというのが、業界のもっぱらのうわさだ。
 今に通じる製紙技術は約1900年前、後漢の時代の中国で、宦官(かんがん)・蔡倫によって編みだされたとされる。うわさが本当なら、米国発で話題を集める最先端の「電子紙」も、ここ中国でつくられ、世界に輸出されていることになる。
 取材を申し込んだが、返事はもらえなかった。通りから写真を撮っていると、警備員が飛んできた。現代の「紙工場」は、秘密のベールに包まれていた。
 ●まもなく世界一になる
 鴻海だけではない。中国ではいま、電子ブックを生産・販売する地場メーカーが続出している。なかでも、頭一つ抜きんでているのが、北京に本社を持つ漢王科技だ。
 「中国で電子ブックといえば漢王だ。シェアは8割。2位なんか誰も知らないよ」。インタビューに応じた会長の劉迎建は、体を揺らして愉快そうに笑った。
 漢王はこれまで、パソコンに文字や絵を入力できる手書きペンなどで知名度を上げてきた。2008年に最初の電子ブックを発売。09年は27万台を売り上げた。
 今年は3億元(約42億円)の広告費をかけ、人気女優を起用したポスターやテレビコマーシャルで、自社商品を強力にアピールしている。欧米の華人ネットワークへの売り込みも強め、10年の販売台数は200万台超になる見込みという。
 デザイン、技術ともKindleによく似ている。劉は、「今はアマゾン、ソニーに次ぐ3位だけど、まもなく漢王が世界一になる」と自信満々だった。
 Kindleのブームに触発されるように、電子ブックメーカーは、雨後のたけのこのように増えた。関係者によると、少なくとも20種類以上ある。「Newsmy」「愛国者」など、もともと携帯電話や音楽プレーヤーを手がけてきたメーカーが、商機を見込んで相次ぎ電子ブックに参入している。
 中心価格は1800〜3000元(約2万5000〜4万2000円)。設計はどれもシンプルで、イーインクの技術搭載をはじめ、大きな違いはない。基幹部品を組み立てればできてしまう、モジュール生産品の典型だ。
 「これから電子ブック端末に参入したい企業は中国だけで100社ある。まさに戦国時代だ」。今年3月に深セン市で開かれたシンポジウムでは、メーカーから共倒れを心配する声すら漏れた。
 国内需要が爆発的に高まっているわけではない。それでも、次々に新商品が現れる。購買力が高まり、新しいものに目を向け始めた国民に、積極的に先端商品を供給しようというエネルギーにあふれている。
 ●ニセモノの力
 さらに、侮れないのがコピー商品だ。
 深センの電気街に立ち並ぶビルに入ると、1〜3畳ほどに区切った店で、ありとあらゆるものが売られている。携帯電話などの製品から液晶パネル、ケーブルといった部品、SDカードなどの記録メディア、電池、何かの許認可を示すシールまである。
 りんごのマークがついたiPhoneの背面部品もあった。店の女の子は「ホンモノは400元、ニセモノは100元よ」。ホンモノは工場からの横流し品で、ニセモノはその模造品というわけだ。小柄な人が使いやすいよう、本来のiPhoneより一回り小さいミニバージョンもある。
 商標権侵害も甚だしいが、台湾の大手家電メーカー、BenQの副会長、王文は、「むしろ最近はニセモノがニセモノでなくなってきている。彼らの中には、技術の腕を上げているところもあるからだ」と話す。大企業の製品のマネをしていたメーカーが、いつしか独自のデザインや機能を評価され、大きく育つケースもあるという。
 米国で発売されたばかりのiPadについて、深センの地元紙には「模造品をすでに14人に売った」という店主のコメントが載っていた。記者(鈴木)には見つけられなかったが、少なくとも、「こんなのがあれば」という需要に素早く対応できる腕が、ここにはある。
 思えば、日本をはじめ、多くの国も、コピーから出発して自国産業を発達させた。ニセモノは困る。だが、これも中国経済を支える「力」の一つだ。
 ◆1万校に電子図書館、首相自ら読書奨励
 電子ブックの時代には、図書館もハコモノである必要はない。中国ではネット上の「数字(デジタル)図書館」が次々に設立されている。
 北京市の電子コンテンツ会社、中文在線は、清華大学の学生ベンチャーから始まった新興企業。すでに約1万の小中学校に数字図書館のシステムを納入した。蔵書は1万〜5万冊で、費用は数十万〜数百万元。各地の学校や教育委員会、自治体が「設置」に力を入れている。
 中国でも、電子ブック端末はまだ店頭に並び始めた段階だ。だが、電子ブック部長の伍王応は、「今は、1万校のほとんどの子どもがパソコンで数字図書館の本を読んでいる。そのうち電子ブック端末で読むようになるでしょう」と話す。
 自治体や個別の企業が職員向けの数字図書館をつくるケースも増え、農家向けに専門書をそろえた農業図書館も検討されている。
 政府も、積極的に後押しする。「中国の四大発明の二つが製紙と活字だ」。工業情報省の幹部は3月、深センであった電子ブックのシンポジウムでこう述べたうえで、「紙と印刷は時代遅れ。便利でコストが安い電子ペーパーでの出版・読書にこそ優位性がある」と言い切った。中国の通信大手が電子ブック産業の拠点整備に5億元(約70億円)を投じる計画も紹介。「新しい市場が爆発しうる」ともちあげた。
 このことは、言論統制などの影響で読書の習慣が広まらなかった中国に、大きな変化を起こしつつある。電子メディア端末の普及と呼応するように始まった読書ブームだ。温家宝(ウェンチアパオ)首相自ら、「読書をしない民族には希望がない。毎日30分は読書を心がけてほしい」といったメッセージをたびたび発信。街で「読書しよう」と訴えるポスターも見かけた。
 電子ブックメーカーの大唐電信通信終端製造の張勇は、「中国は読書人口が増えるいいタイミングにある。ブラウン管テレビすらない国では最新の薄型テレビから普及するように、読書習慣が根づいていない中国の場合、電子ブックが急速に広がる可能性がある」とみる。
 アフリカ諸国で、固定電話を経ずに携帯電話が爆発的に広まったのと同じように、中国では紙を超えて電子ブック端末が普及する可能性があるというわけだ。
 中文在線の伍も近い将来に期待する。「中国には、携帯電話で読書する人だけですでに1億3000万人いる。電子ブック端末も今年は300万台、2011年には1000万台が軽く売れるはずです」
 ◆企業やVIPに照準、「漢字文化圏」を押さえろ
 中国の新聞・出版業界にソフトウエアやシステムを販売する北大方正集団(北京市)も、電子ブック事業に参入した企業の一つだ。
 ただし、その営業戦略は他社とはひと味違う。富裕層に焦点を絞り、独自のコンテンツを武器に差別化を図っているのだ。証券会社や銀行と組み、重要顧客に無料で端末を配布し、日々のニュースや株式情報を配信するサービスも始めた。
 ある顧客に配信されたメニューをのぞいてみた。北京の不動産価格、米証券取引委員会(SEC)の会議内容、温家宝首相の発言が株式市場に与える影響についての見方、鉄鉱石に関する情報……盛りだくさんだ。電子ブックで株式のオンライン取引をすることもできる。
 読書家としても知られる温家宝首相や、次世代リーダーの一人と目される習近平(シーチンピン)・国家副主席ら中国の要人にも自社製品を贈ったという。同社の営業担当者は、「忙しい財務相も、端末を使えば車内でニュースをチェックできる」と胸をはる。省長、大学の学長といった人々に加え、患者のカルテや医療論文を読む医師、判例集を携える弁護士らも、今後の顧客ターゲットだ。
 方正の強みは営業戦略だけではない。漢字圏の電子ブックになくてはならないソフトウエアを握っているのだ。
 漢字はローマ字などと異なり、字体が四角いため、電子画面で表示するには独自の技術がいる。方正は、イーインク型の画面でも漢字をきれいに表示したり、日本語なら「。」が文頭にこないよう自動的に調整できたりするソフトを開発した。新聞や漫画、雑誌などがぐっと読みやすくなり、図や写真と文章を同じ画面に載せることも可能だ。
 中国ではすでに9割のシェアを握っており、台湾や日本、海外在住の華人など、漢字圏の電子ブック規格(フォーマット)の定番になることを目指している。
 方正はもともと、新聞・出版業界向けの組み版システムで始まった企業だ。中国では業界の85%がこのシステムを導入し、日本でもメディアの一部が採用している。印刷物に使う漢字の書体(フォント)販売のしにせでもあり、「漢字あるところ方正あり」とさえ言われる。
 「我々は成功者」。インタビューにこたえた上級副社長の方中華は、余裕たっぷりだった。「台湾は端末生産が、韓国はデザインが得意。日本の設計技術も申し分ない。だが、実際に電子ブックを発売するときは、方正の技術を使うことになる。喜んで協力しますよ」


『朝日新聞』2010年05月03日
朝刊
グローブ39号<電子ブックは紙を超えるか>技術力はあるけれど……競争力乏しい日本勢
 The Future of Digital Media Devices
 もてる力にこだわるあまり、変化をつかみそこねたかに見える日本。ライバルがひしめく中、「次の紙」への可能性を、どう見いだすか。
 薄さ0.29ミリ、重さ20グラム。
 記者(原島)が端をつまんで少し力をかけると、ぐーっとたわんだ。ラミネート加工された紙のような感覚だ。
 「もう少し」。さらに力を入れようとすると、ブリヂストン新事業開発本部電子ペーパー事業部長の和田宏明が慌てて止めに入った。「気をつけて。壊れたら大変ですよ。これまでかかった開発費用は、何億円じゃきかないですから」
 ブリヂストンが電子ペーパーの開発に乗り出したのは、2002年だ。タイヤで培った材料技術の蓄積を生かし、04年からは曲がるタイプの開発に着手した。
 電圧で粒子を移動させる仕組みはイーインクと同じだ。ただし、イーインクは微粒子移動が液体内なのに対し、ブリヂストンは空気中を移動させる。
 抵抗が少ないため、粒子が反転するのに1万分の2秒しかかからない。イーインクより約1300倍、一般的な液晶に比べても約30倍速い。そのぶん、必要な熱処理工程を減らすことができ、高温に弱い樹脂製の基板を使うことが可能になった。
 軽くて薄く、曲げやすい電子ペーパーでブリヂストンが狙うのは、次世代の電子ブックへの搭載だ。耐久性を高められれば、現在のガラス板パネルにとって代わる商機は十分にあると読む。
 もっとも、「次」を狙って、米国のプラスチック・ロジック社や韓国のLGディスプレー社など、世界の主要メーカーが同じような製品の開発を急いでいる。和田は「技術で上回る製品を、満を持して世に送り出したい」というが、市場を押さえられるかどうかは、時間との戦いでもある。
 ブラウン管や液晶など、情報機器端末の表示部品の供給者として、日本勢は韓国や台湾の猛追を受けつつも、長らくトップを走ってきた。
 だが、電子ブック端末やその基幹部品としての電子ペーパーにいたっては、世界市場で完全に後塵(こうじん)を拝した。
 例えば、富士通フロンテックが09年に発売した「フレッピア」。26万色を表示できる「世界初のカラー電子ペーパー搭載端末」とのふれこみだったが、約10万円という高価格で、販売実績は国内外で計2000台に満たない。
 なぜそうなってしまったのか。
 電子ペーパービジネスのコンサルタント会社Project Far East社長の桑田良輔は、01年から09年までE Inkの副社長などを務めた。「04、05年ごろから、10社以上の日本企業にE Inkの買収を持ちかけたが、液晶全盛の中で景気の影響もあり、どこも動かなかった」と振り返る。
 「技術と経営両方の目利きがいない。だから外国勢の社運をかけた動きに、最後はついていけなくなってしまう」
 関西学院大学大学院経営戦略研究科教授の玉田俊平太は「大企業ほど階層的で、意思決定が遅くなりがちだ。新しい技術や市場に対応した商品の開発に乗り遅れないようにするためには、新規開発部門を切り出したり、トップが責任をもって素早く決断できたりするような体制を工夫する必要がある」と指摘する。
 ●新時代の電子産業、ネットワーク力が鍵に
 基盤技術を積み上げる台湾、ものづくり大国の道を突き進む中国、その製造力を活用し、新しい市場を生み出す米国。そのはざまで存在感を失いつつある日本の電子産業には、なにが必要なのか。
 ともすれば「ものづくり再興」をめざし、その技術力を磨き上げることを唱える声が多いなか、米国を拠点にソニーの電子ブック事業を統括する野口不二夫は「ものづくりに、コンテンツやネットワークを一体化させることが重要ではないか」と考えている。
 「ものづくりの再定義」ともいえるだろうか。それを痛感したのは、米国の電子ブック市場でアマゾンの巧みなネットワーク戦略を目の当たりにしたからだ。
 もともと、電子ブック端末は日本で生まれ、米国市場でもソニーが最初に販売した商品だ。だが、人気に火をつけたのは、1年遅れで参入したアマゾンのKindleだった。なぜ、逆転を許したのか。
 アマゾンの戦略はシンプルだった。(1)Kindleに通信機能をつけ、端末から直接、書籍を買えるようにする。(2)購入時にかかる通信代は、アマゾンが負担する――。
 それまでの電子ブック端末は、パソコン経由でしか書籍データを読み込めなかった。そこに通信機能をつけ、負担をアマゾン持ちとすることで、利用者は手元に端末さえあれば、いつでもどこでも通信コストを気にすることなく書籍を購入できるようになった。
 特に二つ目の戦略は、野口にとって予想外だった。通信代を負担して、黒字になるのだろうか。
 だが、よく考えれば、電子書籍はほとんどがモノクロで文字中心のため、1冊丸ごとダウンロードしても、データ量は音楽1曲分の4分の1程度にしかならない。通信コストは大きくはないのだ。「電子ブックならではの手法なんです。それも、コンテンツと端末を一体運営していればこその発想だった」と野口は振り返る。
 インターネットの普及とともに、米国のIT産業はソフトウエアやネットワークサービスへの比重を高めている。ものづくりは台湾、中国にゆだね、自らは商品のデザインやコンテンツ、ネットサービスに力点を置く――。IBMがパソコン事業を中国企業に売却したのも、アップルがiPhoneやiPadの製造を外注し、ソフトウエアやコンテンツの充実に注力するのも、その流れの一環だ。
 アマゾンに後れをとったソニーはいま、別々に運営していた端末販売とコンテンツ配信を一体化し、新製品に通信機能を付け加えて巻き返しの態勢を整えた。「私たちは、ともすると端末づくりに重きをおいてしまう。でも、それでは米国勢に対抗できない」と野口は言う。「同じ視点にたつことで、相手が何を考えているか、推測しやすくなる。アマゾンやアップル、グーグルの次の一手は何かな、と」
 ●「紙か電子か」表示の仕方や作業環境が影響
 「画面で読んでも頭に入らない。やっぱり紙でないと」。パソコンが普及した今も、職場で「紙か電子か」の議論になると、そんな意見がかわされる。
 場所によって明るさが違う日常生活では、反射式の画面のほうが液晶より目にやさしいのは確かだ。だが、読解や思考、あるいは快適さといった「脳」での認知の仕方も、紙と電子画面では本質的に違うのだろうか。さまざまな研究が始まっている。
 「素材の違いだけでなく表示の仕方の違いを考える必要がある」と話すのは、東海大学工学部教授の面谷信だ。二つの実験を紹介しよう。
 被験者に同じ文章を読んでもらう。まず、(1)ウェブサイトのように一画面に収まりきらない文章を、上に送りながら読み取るスクロール方式(2)紙のように「ページ」として文章が表示された画面を切り替えながら読み取る方式、の2種類に分ける。
 さらに読んだ後、内容について設問に答えてもらう際に、(ア)文章を読み返さずに回答する(イ)文章を参照しながら回答する、という条件に分けて、正解率と作業時間の双方から作業効率を測る。
 すると(ア)の場合はスクロール式のほうが優位だが、(イ)だとページ式のほうが正解率が高く、作業時間は短くて済み、全体的な作業効率も高かった(グラフ1参照)。内容を把握したり読み返したりするときに、「2ページ目の、あのあたり」といった構成感覚が、記憶の手助けをするからだ。
 もう一つの実験では、画面を見ながら4ページの文書を校正してもらう。今度は、(1)一度に半ページ分を表示(2)一度に1ページを表示(3)1画面に2ページを同時表示(4)2ページ表示の画面が二つあり、4ページ分を同時に表示、という四つの条件を設定。誤りの発見率と所要時間を計った。
 結果はグラフ2のとおり。一度に閲覧できるページの面積が広がるほど作業効率は高くなった。同じ実験を20代前半と40歳以上に試してもらったが、年齢差はほとんど出なかった。
 「紙か電子かの比較は、結局、記憶しやすい表示かどうかという点と関係しています。人間の脳は、長期的な記憶力には長(た)けているが、一時的な記憶容量は意外に小さい。ふつうの人だと一度に覚えられる数字は6、7ケタ程度でしょう。スクロール式だと、一度に目に入る文章が限られ、たどって読むと時間がかかるため、読んだ内容を忘れていってしまうのです」
 紙は形をともなうし、何枚ものページを一度に見るのに便利だ。また、水平に置いたり、寝ころんで読んだりもできる。好きな姿勢で扱えることも、快適さと結びつくという。電子メディアがこうした紙のもつ表示特性をもっと取り込んでいけば、その差は埋まっていく可能性が高い。
 逆に、紙を節約するためだけに電子化を強制すれば、作業や勉強の効率が落ちてしまう可能性もある。面谷は「職場や教育現場で電子化を進める場合、検索機能の活用など、電子端末ならではの総合的な効率性を発揮できるような工夫が不可欠」と話す。
 ●日本語対応が遅れる理由
 日本で現在、簡単に手に入る電子ブック端末はKindleだ。ただし、端末自体は英語版で、Kindle向けの日本語の書籍も、基本的には販売されていない。
 「画像」として表示したり、日本語フォントを内蔵できる「PDF」と呼ばれるファイル形式を自前で用意したりすれば、日本語の表示もできなくはない。著作権の切れた小説などの電子テキストを集めた「青空文庫」をPDFファイルに変換して読むといった使い方もある。
 日本で5月末に発売が予定されているiPadは、当初から日本語表示が可能だ。ただし、米国版では売りの一つになっている電子書籍ソフト「iBooks」の日本語版サービスがいつ始まるかは未定だ。iBooksの米国版サービスへのアクセスも、原則として米国内からに限られている。
 ソニーは米国に先駆けて日本で「リブリエ」を発売したが、2007年に撤退した。「日本語のコンテンツがきっちりと読める環境が実現できたら参入したい」としており、時期を探っている段階だ。
 日本語対応が遅れているのは、日本語書籍の提供に際し、著作権の権利関係やデジタルデータの作成方式、配送手法などが固まっていないためだ。
 今年3月、大手出版社などを核に日本電子書籍出版社協会が設立され、こうした課題への出版社側の検討が本格的に始まったが、方向性が固まるまで、しばらく時間がかかるとの見方が強い。
 ●書籍以外にも応用、棚札や看板
 電子ペーパー技術は、電子ブック以外にも様々な形、用途へ広がっている。
 その中の一つが、デジタルサイネージ(電子看板)だ。すでに、屋外や公共施設、交通機関などに設置されている。
 凸版印刷は、仙台市営地下鉄の4駅で、ホーム壁面に対角72インチの電子看板を設置し、2008年から広告やニュース、天気予報などを表示している。
 人力で取り換えない限り表示内容が変わらない従来の看板・広告と異なり、遠隔操作で随時、画面を切り替えられるのが特徴だ。
 周辺の住民の属性や、利用時間帯ごとに利用者層が違うことなどを考慮し、画像をこまめに変えていくことで、広告をより効果的に見せることができる。
 電光掲示板に比べ、消費電力が少なく、熱がこもらないことも、空調が必要な地下では使いやすさにつながっている。
 将来的には、ビルの壁面全体を電子ペーパーで覆って、超大型の看板として広告を流したり、ランドセルに張り付けて学校と家庭の連絡簿に活用したり、あるいは折りたたんでポケットにしまいながら移動できるGPS端末に活用したり、といった利用法が考えられている。
 感熱印刷技術を応用した書き換え可能なペーパーを開発したのはリコーだ。専用のプリンターを使って紙のようなフィルムに熱変化を与えると、文字や図形を映し出したり消したりできる。
 約1000回繰り返して表示を書き換えられるのが特徴。A4判の普通紙1000枚に印刷した場合と比べると、二酸化炭素の排出量を約8割減らせるという。
 ●政府も「振興策」の旗振るが
 日本政府は、電子ブックを教育現場に採り入れようと動き出しているが、戦略性に欠ける。
 総務省が昨年末にまとめた「原口ビジョン」は、2015年をめどに、全国の小中学生全員にデジタル教科書を配布する構想を掲げる。
 10年度分の予算もすでに計上。7月にも、端末などを選定する入札を実施して、2学期から10校で試験導入する。
 だが、どの教科を対象に、利点や欠点をふまえて、どんな実証データを得たいのかなどといった細部は、「これから検討する」(情報通信利用促進課)というレベルにとどまっている。
 一方、文部科学省も4月22日、「学校教育の情報化に関する懇談会」をスタートさせ、電子教科書の教育現場への導入を検討している。総務省や経済産業省などがオブザーバー参加しているが、政府として一本化した動きになっていない。
 【写真説明】
ブリヂストンのたわむ電子ペーパー
リコーの感熱技術を使ったRECO−View=リコー提供
凸版印刷の電子看板情報サービス「まちコミ」=凸版印刷提供


『朝日新聞』2010年05月03日
朝刊
グローブ39号<電子ブックは紙を超えるか>コア技術を手にしたのは、台湾最大の製紙会社だった
 The Future of Digital Media Devices
 本はやっぱり「紙」に限る。そんな感覚が、過去のものになるかもしれない。次々に登場する電子ブック端末は、より紙に近づくことで存在感を増し始めた。ネットワークと新たなモノづくりがこれを支える。主役は米国と台湾、そして中国。日本勢の影は薄い。(文中敬称略)現地取材:鈴木暁子、田中郁也
 机の上に、ティッシュボックスが一つ。大輪の花の絵柄に「五月花」の文字が入るパッケージは、台湾の人なら誰でも知っている。つくっているのは、台湾最大の製紙会社、永豊余(YFY)だ。3月下旬、記者(鈴木)はその応接室にいた。
 2009年末、電子ブック端末の基幹技術「イーインク」をもつ米国のE Ink社を、子会社のPVIを通じて買収したのが、YFY社だった。買収コストは優先株の譲渡を含め総額4億ドル以上になる見通しだ。
 寝不足なのだろう。応対してくれたPVI会長、劉思誠の目は真っ赤だった。米国から戻ってきたばかり。明日は中国大陸に飛ぶのだという。
 米国の書籍流通大手アマゾン社が販売する「Kindle(キンドル)」をはじめ、世界の電子ブック端末のほとんどが採用する表示画面技術――それが、イーインクだ。
 電子ペーパーのひとつで、液体を満たした数百万個の極小カプセル内に、正の電荷を帯びた白のインク粒と負に帯電した黒のインク粒を入れる。それを極薄シートに塗りつけ、電圧をかけて白黒の配列を調節しながら文字や絵を形づくる。
 後ろから光を当てる液晶と違い、紙と同じように外部からの光を反射する方法をとるため、目が疲れない。画面の書き換え速度は遅いが、切り替えない限り電力も消費しないので、頻繁に充電する必要もない。
 「なぜ最大手の製紙会社が、ライバルともいえる電子ブックの部品を?」という記者の質問に、劉は表情を緩めた。
 「確かに我々はあらゆる紙で台湾市場を独占してきました。だが、デジタル時代には別の選択肢が生まれるはず。ならば自分たちでやろうと思ったのです」
 真っ先に時流を読んだのは、グループ前会長の何寿川だった。1992年にはPVI社を設立して、いち早くIT産業に参入。台湾初の液晶メーカーに名乗りを上げた。
 電子ブックにも早くから注目した。だが、液晶では紙の本を超えられない。もっといい技術はないのか――。
 97年、劉と何は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで探していた「理想の紙」に出合う。それがイーインクだった。劉は振り返る。「すごい可能性を秘めた技術だ、と2人で興奮した」
 時期を待った。05年には、メディアラボから起業したE Inkの部品を仕入れて、電子ペーパーの製造を開始。そして09年、E Inkが売りに出ると、買収を即決した。
 E Inkにとっても、渡りに船だった。07年にKindleが発売されて以来、市場の注目を一気に集め出していた。今こそ、カラー化と大型化の開発を加速させて、事業を波に乗せたい。
 当初は株式を上場して資金を調達する予定だったが、08年の金融危機で証券市場がマヒし、めどが立たずにいた。元手を何とか調達できないものか。社内には、そんなもどかしさが充満していた。
 「そこに、PVIの提案が舞い込んだ。資金と技術。互いの強みを生かし合う、完璧(かんぺき)なマッチングでした」
 米ボストン郊外にある本社を訪ねた記者(田中)に、E Ink副社長のスリラム・ペルベンバは、こう振り返った。
 相手が台湾企業だったことも背中を押したという。「いま、ほとんどのディスプレー産業はアジアにある。その主要メーカーの傘下に入れば、広大なサプライチェーンを利用できる。新技術にもアクセスしやすい。シナジー効果は大きい」
 「アジアの企業」になることに、社員や株主の反発はなかったのだろうか。
 「米国では日常のひとこまですよ。技術はあるのに、金はない。そんな状態より、はるかにいいでしょ」。そう言ってペルベンバは、付け加えた。「社員の30%は、英語以外の言葉をしゃべります。私も、生まれはインド。ここはメルティングポットの国ですから」
 資金を手にしたE Inkは今、研究・開発チームを急ピッチで拡大している。昨年は大小合わせて約50機種、500万台分のインクを出荷した。今年末には、カラー版も売り出す予定だ。
 Kindleに今回の特集のタイトルなどを読み込ませて、コピーをとってみた。液晶だと真っ黒になるが、こちらは紙と同じようにきれいに仕上がった。
 めくる、書き込む、曲げる、折る……電子ブックを機とした技術革新競争は、これまでと違う世界を開き、伝統的な記録メディアが守ってきた「本」という最後の砦(とりで)を落とそうとしている。
 「紙」に勝つために、限りなく「紙」に近づこうとしているのだ。


『読売新聞』2010.05.04
iPad 28日で100万台
東京朝刊
 【ニューヨーク=池松洋】米アップルは3日、4月3日に米国で発売した情報端末「iPad(アイパッド)」の累計販売台数が、4月末までの28日間で100万台に達したと発表した。
 携帯電話「iPhone(アイフォーン)」は100万台を販売するまでに74日間かかっており、iPadはその2倍以上のペースで売れている計算だ。また、アップルのサイトから150万冊の電子書籍と1200万本のソフトウエアがiPad向けにダウンロードされたという。
 5月末から、日本など世界各地で順次販売を始める予定で、iPadの売れ行きはさらに伸びそうだ。


『朝日新聞』2010年05月08日
夕刊
iPadもソフトバンクから SIMカード制限 ドコモ対応は不明
 ソフトバンクモバイルは8日、アップルの電子ブック端末「iPad(アイパッド)」の携帯通信対応モデルを国内で販売すると発表した。携帯電話「iPhone(アイフォーン)」に続いてアップルの人気端末の販売を手がけることで、顧客拡大をめざす。
 iPadは、インターネットに接続し、電子書籍やゲームのデータを入手する端末。アップルは日本で28日から発売すると発表している。国内で発売されるのは、無線LAN機能だけのモデルと、携帯電話の通信回線からもダウンロードできるモデルの2通り。
 携帯通信対応のiPadを使うには、通信会社が発行する電話番号情報などが記録されたICカード「SIM(シム)カード」が必要。関係者によると、ソフトバンクとアップルは、ソフトバンクのiPad専用SIMしか使えない端末を販売する。端末価格は4万8960円からで、月割りでも販売。データ通信料の割引プランなどとも組み合わせ、実質的に端末価格を引き下げる。
 携帯電話首位のNTTドコモもiPad用のSIMカードを販売する意向を示しているが、交渉状況は不明だ。このため、iPhoneのように、ソフトバンクと契約しなければ利用できない可能性がある。
 米国での価格は1台499ドル(約4万5千円)から。米国での販売台数は、4月3日から同月末までの28日間で100万台を突破。2007年に発売されたiPhoneの2倍を超える売れ行きを記録している。


『読売新聞』2010.05.08
iPad 28日上陸
東京朝刊
 米アップルは7日、同社の情報端末「iPad(アイパッド)」=写真、AP=を5月28日に日本を含む9か国で発売すると発表した。10日からインターネットで販売予約の受け付けを始める。価格は公表していない。米国では1台499ドル(約4万7000円)から販売している。iPadは、9・7型のタッチパネルを備え、動画やメールに加え、電子書籍やゲームなどのコンテンツ(情報内容)を手軽に楽しめるのが特徴だ。


『読売新聞』2010.05.08
ソフトバンク 「iPad」販売 
東京夕刊
 ソフトバンクモバイルは8日、米アップルの情報端末「iPad(アイパッド)」を国内で28日から販売すると発表した。10日から予約を受け付ける。
 iPadは、電子書籍やゲームなどをダウンロードして楽しむことができる電子端末で、米国で発売され、人気を集めている。
 端末の価格は、ソフトバンクの通信機能搭載モデル(16ギガ・バイト)が2年間の分割払いの場合、5万8320円。ソフトバンクはiPad専用のデータ通信プランを、2年契約で月額2910円(基本使用料別)で提供する。
 無線LANのみの対応モデルはソフトバンクの販売店では5万3280円(16ギガ・バイト、2年間の分割払い)で売られ、家電量販店などのアップル製品の売り場でも購入できる。


『読売新聞』2010.05.10
iPad予約始まる
東京夕刊
 米アップルは10日、情報端末「iPad(アイパッド)」の販売予約受け付けを直営店やソフトバンクモバイルの販売店などで始めた。28日に発売する。
 通信機能を搭載した機種を取り扱っている「ソフトバンク表参道」(東京・渋谷区)では、米国で人気を集める話題の機種を一刻も早く手にしようと、前日の深夜から開店前に約70人が行列を作った。
 米国では4月3日に発売し、売れ行きが予想以上だったために日本などでの発売時期を1か月延期したほどで、日本での売れ行きに注目が集まっている。iPadは、9・7型のタッチパネルを備え、動画や電子メールに加え、電子書籍やゲームなどをインターネット経由で取り込んで楽しめる。価格は、ソフトバンクの通信機能に対応した機種が2年間の分割払いで5万8320円。無線LANのみの対応機種はソフトバンク販売店で、5万3280円で購入できる。


『読売新聞』2010.05.10
iPad 待望の行列 予約求め
大阪夕刊
 米アップルは10日、情報端末「iPad(アイパッド)」=写真、AP=の販売予約受け付けを家電量販店やソフトバンクモバイルの販売店などで始めた。28日に発売する。
 大阪・梅田のヨドバシカメラ梅田店では、午前10時の受け付け開始前に約100人が行列を作った。神戸市北区の美容師、森内幸一さん(36)は「画面が大きいが持ち運びやすい。以前から購入したいと思っていた。本を読めるのも便利」と話した。
 iPadは、9.7型のタッチパネルを備え、動画や電子メールに加え、電子書籍やゲームなどをインターネット経由で取り込んで楽しめる。価格は、ソフトバンクの通信機能に対応した機種(記憶容量16ギガ・バイト)が、2年間の分割払いで5万8320円。ソフトバンクのiPad専用のデータ通信プランは、2年契約で月額3225円。
 米国では4月3日に発売し、売れ行きが予想以上だったために日本などでの発売時期を1か月延期したほどで、日本でも注目が集まっている。


『読売新聞』2010.05.11
iPad販売もソフトバンク限定 SIMロック適用 ドコモ負け 
東京朝刊
 米アップルの新しい情報端末「iPad(アイパッド)」の販売予約受け付けが10日始まり、直営店やソフトバンクモバイルの販売店、家電量販店の店頭では早朝から行列ができた。通信機能が搭載されているiPadには最大手のNTTドコモも強い関心を示していたが、ソフトバンクが携帯電話「iPhone(アイフォーン)」に続き国内での独占販売契約に成功した。
 iPadは9・7型のタッチパネルを備え、動画や電子メールに加え、電子書籍やゲームなどをインターネット経由で取り込んで楽しめるのが特徴だ。4月3日に発売した米国では、すでに100万台を超えるヒット商品となっている。価格は、ソフトバンクの通信機能を搭載した機種(16ギガ・バイト)が2年間の分割払いで5万8320円となる。
 10日は、全国各地の直営店などで、「発売初日から商品を手にしたい」というファンらが早朝から行列を作った。販売は28日の予定。
 iPadの国内発売を巡っては、コンテンツ(情報の内容)を入手する際に通信機能が必要なことから国内のどの通信会社に対応するかが注目されていた。
 関心を示していたのが、かつてiPhone争奪戦でソフトバンクに敗れたドコモ。ドコモの山田隆持社長は4月28日の記者会見で「iPadは(通信会社を自由に選べる)SIM(シム)フリーと聞いている」として、iPadをドコモでも使えるように専用のSIMカードを販売する準備をしていた。ドコモの通信網を生かし、高機能携帯電話(スマートフォン)で先行するソフトバンクの追撃を期していた。しかし、米国とは異なり、日本ではソフトバンクに限定した「SIMロック」がかけられ、ドコモはSIMカード販売を断念。ソフトバンクはiPad人気を追い風にシェア(市場占有率)拡大につなげたい考えだ。


『読売新聞』2010.05.11
[社説]携帯情報端末 日本上陸で広がる新たな波紋
東京朝刊
 米アップル社の情報端末「iPad(アイパッド)」の、日本での予約受け付けが始まった。
 米国では先月3日に発売され、初日だけで30万台、1か月足らずで100万台が売れた。すさまじい人気だ。
 その余波で、日本など海外での発売が延期されていた。
 人気の秘密は、iPadが、従来のパソコンや携帯電話とは異なる新世代の情報端末、と受け止められていることだろう。
 新聞を四つに畳んだくらいの大きさの板のような形だ。重さは700グラム前後で、ガラス張りの液晶画面が埋め込んである。
 メモ帳(英語でpad)のように持ち歩くことができ、画面を指先でなぞる簡単な操作で、写真や映像、電子書籍、ゲームなど多彩なコンテンツ(情報内容)を楽しめるのが特徴だ。
 携帯電話のような通話機能はない。しかし、インターネットには接続でき、情報を調べたり、メールを送受信したりできる。文書を書いたり、表計算をしたりと、ビジネスにも使える。
 パソコンのように難しい操作を覚える必要がほとんどない。携帯電話のように、狭い画面に目を凝らさなくてもいい。米国では老若男女を問わず、幅広い層に売れているという。
 日本でも、米国と同様に受け入れられるだろうか。課題は、iPadで見る映像や電子書籍といったコンテンツが、米国ほど簡単には入手できないことだ。
 アップル社は、映画やテレビ番組をネット経由で見るサービスを米国内で提供している。iPadで読める本も、同社やネット書籍販売大手のアマゾンから、ネット経由でいくつも入手できる。
 教育現場でも、教科書を電子書籍化してiPadで読めるようにする動きが拡大している。
 日本では、著作権者の了解が得られないなどの理由で、映像や電子書籍のネット販売は小規模にとどまる。iPadは、それを拡大する黒船”になるかどうか
 特に電子書籍は欧米で急速に利用が拡大し、出版業界の新たな収益源として注目されている。
 日本人は紙の本に愛着があると言われるが、電子化で読書の手段が多様化すれば、「活字文化」振興にもつながるのではないか。
 それにしても残念なのは、日本が、こうした電子機器の開発で近年、海外の後塵(こうじん)を拝する例が多いことだ。技術力、産業力に陰りが出ていないか。政府、産業界は対策を検討してもらいたい。


『読売新聞』2010.05.17
[キャッチボール]哲学が詰まったiPad ジョブズ氏の挑戦  
東京朝刊
 米アップルの最高経営責任者(CEO)、スティーブ・ジョブズ氏が頑固なまでに「使いやすさ」を追求したのが新型情報端末「iPad(アイパッド)」だろう。予約が殺到し、28日の国内発売日は、買いたくても商品が手に入らない人が続出しそうだ。菅財務相も「アイパッドのようなユニークなものは新たな需要を喚起する」と、経済活性化のヒントにしたい考えだ。
 今年1月、サンフランシスコでの発表会。無精ひげにジーンズ姿で登場したジョブズ氏は、「誰もが使っている携帯電話端末よりも、ノート型パソコンよりも、使いやすい新領域に挑戦した」と強調した。画面は美しく、ソファに寝ころんで指を動かすだけで、インターネットをしたり、電子書籍を読んだりできる。米国では、いままでにない「使う楽しさ」が評判となり、販売台数は、4月上旬の発売から1か月弱で100万台を超えた。
 ジョブズ氏が2005年、米スタンフォード大卒業式で述べた祝辞は印象的だ。
 「Stay hungry.Stay foolish.」(貪欲(どんよく)であれ。常識にとらわれず、むちゃであり続けろ)
 1970年代半ば、当時のヒッピーのバイブルになっていた出版物から引用した言葉だ。大学を中退し、禅に傾倒し、がんで死にも直面したジョブズ氏。アップルが革新的な製品を発表できるのは、「型破り」を目指す彼の哲学と切り離せない。
(黒川茂樹)


『読売新聞』2010.05.18
書店側も電子出版ビジネス 東京の商業組合など 来月、約10誌参入
東京朝刊
 電子書籍端末にもなる米・アップル社の「iPad(アイパッド)」の日本発売が28日に迫る中、書店側が新たな取り組みを始めた。ソフトウエア会社が新しく開発した雑誌閲覧用ソフトを使い、電子出版ビジネスに参入していくことで、紙と電子の共存を目指す試みだ。(多葉田聡)
 都内約600の書店でつくる東京都書店商業組合とACCESS(アクセス)社は、iPadや携帯電話「iPhone(アイフォーン)」などで雑誌を閲覧できるソフト「ネットフロント・マガジン・ビューアー」の説明会を今月11日に開催。同社の子会社が発行する「東京カレンダー」など約10誌の電子版を、6月からスタートさせるとした上で、出版各社に今後の参加を呼びかけた。
 ACCESS社は出版社から雑誌の記事や写真などのデータを受け取り、電子版用に変換。iPadやiPhoneなどの画面上で、雑誌のページをめくる感覚で読めるようにする。
 将来的には、電子書籍を金額分だけ購入できるプリペイドカードを書店で販売したり、書店の棚に絶版本の電子書籍を購入できるカードを並べたりするなど、現実の店舗を持つ“リアル書店”インターネット上のデジタル書店の連携を深め、若者が書店に足を運ぶよう誘導していくのが狙いだ。
 同組合の大橋信夫理事長は、「リアル書店はデジタル情報に排他的な姿勢だったが、これからは有利に利用・活用していく。この説明会はエポックメーキング(画期的)だ」と強調。同組合特任理事の小城武彦・丸善社長も「デジタル技術を使って売り上げを伸ばすには、紙の本を十分分かった人間が知恵を出す必要がある」と、連携の必要性を訴えた。
 ACCESS社の鎌田富久社長は、「コンテンツを提供するだけでは、電子書籍端末を持つ企業に食われてしまう。ユーザーとソフトを自ら握っておくことが重要」と話す。iPadに続き、米アマゾン・ドット・コムの「キンドル」などの上陸も予想され、こうした動きが活発化するかどうか注目される。


『読売新聞』2010.05.18
[論点]知のグローバル化時代 情報通信政策の転換急げ 角川歴彦(寄稿)
東京朝刊
 今、米国から起こりつつあるICT(情報通信技術)の進歩や変化は、「知」のグローバリゼーションを加速させ、明治維新、第2次世界大戦後の復興に次ぐ、3度目の開国を日本に突き付けている。米国発の21世紀型知的産業革命に日本も立ち遅れることのない対策は何か。処方せんを考えてみたい。
 私たちは日常生活を営む上でパソコンや携帯電話などの情報機器を手放せない。しかし、そのサービスを受けるにはマイクロソフトやグーグルなどの米国勢に頼っているのが現実である。事態は急速に動き、例えば音楽市場ではアップルのiPodが独占的な立場を確立し、2010年はアマゾンのキンドルとアップルのiPadなどの電子書籍リーダーの登場で、活字世界を担っている新聞業界や出版界がにわかに主戦場となった。
 日本には漫画、アニメ、ファッションといったポップ・カルチャーがある。今や「クール(かっこいい)・ジャパン」といわれるコンテンツ(情報内容)に育ち、米国や欧州で存在感を高め、アジアのコンテンツ産業をリードする大きな武器となっている。ハリウッドの巨費を投じた映画と異なり、いわばグローバル・ニッチ(すき間)ともいうべき存在は、文化のナンバーワンではなくオンリーワンを目指すべきことを示している。
 しかし、そのコンテンツ力を最大化するにはインターネットと一体となったサービスが必須で、アップルの成功がそれを証明している。一方、日本の存在感を再び取り戻すため、21世紀型産業革命の基盤となるクラウド・コンピューティング(ネット経由でデータなどをサーバーから取り出すサービス)をいち早く実現し、産業界を革新させることが成長戦略となるのは明らかだ。日本も音楽から映画までデジタル化を促進し、クラウド・サービスを推進することにより、コンテンツ産業に革命をもたらすビジョンが生まれる。
 時あたかも光回線など超高速ブロードバンド網のあり方と、携帯電話を契約した会社経由でしか使えないSIMロックの解除といった通信政策で、日本は大きな判断と戦略を描くべき時期である。総務省の作業部会の論議を新聞報道で見る限り、相変わらず通信業者間の利害調整という伝統的な視野で論議しているのではないかという疑問と危惧(きぐ)を感じる。なぜ、日本からグーグルやアップルのサービスが生まれなかったのか。なぜ、米国では電子書籍リーダーの担い手が流通やコンテンツ事業者から生まれているのか。このような視点で論議がなされたのだろうか。
 従来、日本では「インフラ(通信基盤)・リッチ(豊富)のコンテンツ・プア(貧弱)」といわれてきたが、コンテンツが脆弱(ぜいじゃく)なのではない。通信事業者の都合でインフラ投資を脅かさない程度に制約されてきたのである。米国においてグーグルやアップルが自由にリッチ・コンテンツを繰り出し、それがインフラ発展を促している状況とはまことに対照的に見える。
 「知」のグローバリゼーションが日本の通信政策を業者間の権利のすりあわせに終始することなく、根本的な再検討を促していると知るべきだ。政府には、コンテンツ産業の育成に加えて、すべての産業の発展、そして国民生活の向上という視点に立ち、それらを支える国家的基盤の在り方を検討していただきたいと願う次第である。

◇かどかわ・つぐひこ 角川グループホールディングス会長兼CEO。早稲田大学客員教授。66歳。


『読売新聞』2010.05.21
京極夏彦さん新作 iPadで販売へ
東京朝刊
 直木賞作家の京極夏彦さん(47)と講談社は、28日に日本で発売される「iPad(アイパッド)」向けに、今月出版した新作ミステリー小説「死ねばいいのに」の電子版を販売すると、20日発表した。
 4月に米国で発売されたアップル社の情報端末、iPadは電子書籍端末としても人気を集めており、日本の著名な作家が新作配信を表明したのは初めて。
 国内では電子化についての著者との契約などが未整備のため取り組みが遅れているが、人気作家が先頭を切ることで普及が加速しそうだ。電子版は6月上旬に販売開始予定。紙の書籍が1700円(税抜き)なのに対し、発売後2週間は700円、その後は900円と割安だ。
 記者会見した京極さんは「実験台を買って出た。紙と電子の本は別のもので、補完しあっても食い合うことはない」と話した。


『読売新聞』2010.05.21
名古屋文理大 新入生に「iPad」 来年度 情報メディア学科で配布=愛知
中部朝刊
 名古屋文理大(稲沢市)は、来春入学する情報メディア学科の新入生全員に、米アップル社の情報端末「iPad(アイパッド)」を無料配布する。学生に無料配布するのは国内の大学で初めてという。
 アイパッドは重さ約700グラムで、メモ帳のように持ち歩くことができる。電子書籍やゲームなどのコンテンツ(情報内容)を無線LANや携帯電話の通信機能を通して入手できるのが特徴で、欧米で爆発的に売れている。
 同学科の定員は100人。同学科では、紙で配布していた講義の資料をデジタル化して配布するほか、講義を受けている学生が書き込んだ意見をスクリーンなどに映し出して共有するといった活用法を検討している。アイパッドの活用を通して、携帯端末向けの新たなソフトウエアの開発に生かしてもらう方針。学科長の長谷川聡教授は「ソフトウエアの開発で企業との連携も考えたい」と話している。
 一方、名古屋商科大(日進市)も今年秋頃から、図書館でアイパッド20?30台の貸し出しを始めるほか、来春の新入生の希望者を対象に、特別価格で販売する。同大は「大量の情報を持ち運ぶことができるので、従来の講義や学習のスタイルが大きく変わるだろう」と話している。


『朝日新聞』2010年05月27日
朝刊
携帯選び、遠い自由 SIMロック解除に指針案 iPhone解除慎重
 携帯電話に特定の通信会社でしか使えないように制限をかける「SIM(シム)ロック」の解除について、総務省は26日、指針案を公表した。来春に発売するモデルから対象になるが、解除の義務づけはしなかった。お気に入りの携帯電話のまま、料金が安い通信会社に乗り換えるような使い方は、すぐにはできそうにない。(和気真也、橋田正城)
 指針案は、携帯電話や米アップルの「iPad(アイパッド)」のような電子ブック端末など、ICチップに電話番号情報が記載されたSIMカードを差し込む通信端末が対象。これまで日本の通信会社が販売する携帯のほとんどは自社のSIMしか受け付けないようカギ(ロック)がかかっていたが、来年4月以降に発売される端末は、ロックをかけずに販売したり、設定されたロックを無効にしたりするよう求めている。
 フランスやイタリアは、発売から一定期間が過ぎた端末は、ロックを解除するよう法令で定める。総務省も解除の強制を検討したが、通信会社が反発。結局、自主性に任せることで落ち着いた。だが、解除が進まなければ「強制力のある法制化も含めて対応する」(総務省)。指針案について一般から意見を募り、来月末に正式決定する。
 とはいえ、すぐに恩恵を受ける利用者は、ごくわずかになりそうだ。携帯大手3社のうち、NTTドコモとソフトバンクモバイルは同じ通信方式だが、KDDI(au)は違う方式をとる。ロックが解除されても乗り換えることができるのはドコモとソフトバンクの利用者に限られる。KDDI利用者はかやの外だ。
 しかも、ソフトバンク向けの端末を使っている人が、NTTドコモの回線に乗り換えたとしても、ドコモの「iモード」は利用できない。反対に、ドコモから乗り換えた人がソフトバンクの「S!メール」は使えない。
 ドコモの契約者の関心は、ソフトバンクが事実上、独占販売するアップルの「iPhone(アイフォーン)」を使える日は来るかどうかだ。
 ところが、これも難しそうだ。来年4月以降にiPhoneの新型が発売されるとロック解除の対象にはなる。だが、ソフトバンクはiPhoneを「ドコモと戦うのに必要な武器」(孫正義社長)と、解除に極めて慎重だからだ。
 日本の携帯電話ビジネスは、通信会社が決めた仕様に従ってメーカーが端末を作れば、通信会社に買い上げてもらえるなど、両者の強い結びつきで成り立ってきた。SIMロック解除で、利用者が自由に乗り換えるようになればこうした慣行が突き崩されるおそれがあるため、通信会社もメーカーも解除に冷ややかな反応を示す。
 だが、これを機に、海外の有力メーカーが、ロックのないシンプルな機能の端末を低価格で売り出してくる可能性もある。そうなれば国内メーカーも競争に巻き込まれ、日本独自のビジネスモデルの見直しを迫られかねない。


『読売新聞』2010.05.27
「金太郎」iPad版 
東京朝刊
 NTTソルマーレ(本社・大阪市)は、あす28日に日本で発売される情報端末「iPad(アイパッド)」向けに、本宮ひろ志さん作の人気漫画「サラリーマン金太郎」=写真、(c)本宮ひろ志/サードライン=などを販売すると、26日発表した。
 国内の電子書籍市場は携帯電話向けの漫画配信が大半を占め、同社は最大手。iPad版の登場で、市場がさらに拡大しそうだ。
 「サラリーマン金太郎」は単行本1冊分が税込み450円(紙の本は第1巻が同530円)。
 このほか、同社は海外で普及している電子書籍端末「キンドル」向けにも漫画4作品の英語版を販売。携帯電話向けに始めている海外配信も強化する。


◆2010/5/27 電子書籍、国内でも配信 ソニー・凸版・KDDI・朝日 - ビジネス・経済
http://www.asahi.com/business/update/0527/TKY201005270310.html

2010年5月27日16時32分
 電子出版物への関心が世界的に高まる中、ソニー、凸版印刷、KDDIと朝日新聞社の4社は27日、今年7月1日をめどに電子書籍配信事業に関する事業企画会社を設立すると発表した。事業企画会社は書籍、コミック、雑誌、新聞などのデジタルコンテンツを配信する仕組みを構築・運営する事業会社に移行し、年内のサービス開始を目指す。国内最大級の電子書籍配信のプラットホーム構築に向け、他企業にも参加を呼びかける。
 事業会社は、出版と新聞コンテンツの収集、電子化、管理、販売、配信、プロモーションを手がけ、それに必要なシステムの企画、開発、構築、提供を行う。さまざまな端末を通じてコンテンツを提供する予定で、電子出版物を楽しむ機会を幅広い読者に提供し、国内の電子書籍市場の発展を目指している。
 講談社や小学館、集英社など出版社も設立に賛同。日本電子書籍出版社協会代表理事を務める講談社の野間省伸副社長は「今回、配信事業に関する企画会社が設立されることをきっかけに、私ども出版社の進める電子書籍がより早く、読者の皆様のお手元に届く形が作られれば幸いです」とのコメントを出した。


『読売新聞』2010.05.28
ソニーなど4社 電子書籍新会社
東京朝刊
 ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社は27日、電子書籍を配信する新会社を共同出資で設立すると発表した。今年7月に企画会社を設立した後、大手出版社や端末メーカー、通信事業者などに参加を呼びかけ、年内のサービス開始を目指す。
 新会社は、書籍やコミック、新聞、雑誌などを電子化し、管理や販売、配信などを行う。企画会社の資本金・資本準備金は計3000万円で、4社が均等出資する。
 ソニーは年内にも、欧米で展開する電子書籍端末「リーダー」の国内投入を計画しており、28日に国内発売される米アップル社の「iPad」が先行する電子書籍事業で対抗する狙いもあるとみられる。


『読売新聞』2010.05.28
書籍、ゲーム iPad戦略 人気新作を配信 既存書籍落ち込み警戒
東京朝刊
 ◆きょう発売
 米アップル社の新型情報端末「iPad(アイパッド)」が28日、国内で発売される。「iPad上陸」が、電子書籍の普及やゲーム市場の拡大などの起爆剤になるかどうかが注目される。(栗原守、戸田雄 本文記事1面)
 講談社はiPad発売と同時に、人気作家の京極夏彦さんの新作を書籍の約半額でデジタル配信する。「紙の書籍の需要も刺激し、出版市場を活性化する可能性がある」(野間省伸副社長)と判断したからだ。東京都書店商業組合も10誌程度の雑誌を配信する。
 ただ、出版・書店業界の警戒感は根強く、どれだけ電子書籍の普及につながるかは見通せない。
 国内の出版物の売り上げ規模は2009年、2兆円の大台を21年ぶりに割り込んだ。大画面のiPadは一般書も読めるため、既存の書籍がさらに落ち込みかねない。作家が出版社を介さず作品を供給すれば、経営の根幹が揺らぐ恐れもある。
 出版・書店業界は「紙とデジタルの共存」(丸善の小城武彦社長)を模索するため、電子書籍でも収益を確保できる体制づくりを急ぐことになる。ソニーや、米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムも近く、電子書籍を取り込める情報端末を投入する予定だ。
 一方、ゲーム業界は、高機能携帯電話(スマートフォン)より画面が大きく、高精細の映像が楽しめるiPadへの期待が大きい。
 iPad向けにバンダイナムコゲームスは、人気の「太鼓の達人プラス」など4作品を230?900円で販売する。ハドソンはトランプゲームなど3作品を、カプコンも人気作品「バイオハザード4」を投入する。
 ◆みずほ銀、待ち時間つぶしに配備
 みずほ銀行は、「iPad」を支店のロビーに配備し、来店客が待ち時間をiPadで楽しめるようにする。端末の入荷状況をみながら、7月から都内の数店舗にそれぞれ5台程度を置く予定だ。
 テレビや音楽、雑誌などのほか、株価や為替相場、金融商品の広告も閲覧できるようにする。
 みずほ銀は、来春ごろまで試験的に配備し、顧客の反応を見ながら対象支店や台数を増やしたい考えだ。


『読売新聞』2010.05.28
iPad 99歳も2歳も利用 米、1か月で100万台超
東京朝刊
 ◆キーボードなし、ネットや読書
 28日に日本で発売になる米アップルの情報端末「iPad(アイパッド)」は、同じアップルの高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」から通話とカメラ機能を省き、大きく高精細な液晶画面を搭載したものだ。キーボードはなく、画面に指を触れて簡単に操作できるのが特徴だ。4月に発売された米国の販売台数は約1か月で100万台を超え、高齢者や子供にも利用されている。(ニューヨーク 池松洋、本文記事1面)
 オレゴン州ポートランド近郊に住むバージニア・キャンベルさん(99)は4月、娘からiPadをプレゼントされ、毎日、電子書籍を読んだり、詩を作ったりしている。緑内障を患っているが、iPadなら液晶の画面を明るくできるうえ、画面上で指を広げるだけで文字も大きくできるためだ。娘のコリーナさんは「母はこれまで、パソコンも携帯電話も使ったことがなかったが、iPadの操作はすぐに覚えてくれた」と喜ぶ。
 一方、2歳の子供でも、画面上のお絵かきやピアノの演奏を楽しんでいる。画面をなぞるだけで、インターネットサイトの閲覧、ゲームや電子書籍などが楽しめるほか、画面上にキーボードを表示させてタッチすれば電子メールなどの文字を打つこともできる。
 米国では、販売開始からの約1か月間でアップルのサイトから150万冊の電子書籍や、ゲームなどのソフト1200万本がiPadに取り込まれたという。大きな画面で迫力のあるゲームを楽しめることも人気につながっている。
 日本で発売されるiPadも、インターネットやゲームなどが楽しめる。ただ、アップルが米国で開設した電子書籍の販売サイトは、日本の出版社と著作権などをめぐる契約をしていないため、当面は利用できない。日本で電子書籍の普及にどれだけつながるかは未知数だ。


『読売新聞』2010.05.28
iPad行列 きょう発売
東京朝刊
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売が28日朝から全国で始まるのを前に、27日、一刻も早く手に入れたい人たちが店舗前に並んだ。
 東京都中央区の「アップルストア銀座」では28日午前0時、約140人の行列ができた。いすを用意して26日午後から発売開始を待っているという東京都府中市の男性(19)は、「予約済みだが、最初に手にしたかった」と話した。予約販売以外にも、アップル直営店など一部店舗で当日販売も行われることが明らかになり、行列に加わる人数が増えたとみられる。ただ、当日販売分の台数は公表されておらず、店頭で混乱が生じる恐れがある。iPadは画面が大きく、電子メールや動画、音楽の再生に加えて、電子書籍などを楽しめるのが特徴だ。〈関連記事2・11面〉


『読売新聞』2010.05.28
iPadで電子書籍新時代 札幌も盛況=北海道
東京夕刊
 ◆紙の本「アイ乗り」期待 書店「若者が読書」の機会に
 米アップル社の新型情報端末「iPad(アイパッド)」が28日、発売された。その特徴の一つは、本をインターネット上の書店からダウンロードする「電子書籍端末」としての機能だ。4月に先行発売された米国では出版業界が早くも勢いづいており、日本でも電子書籍時代の幕が開くか、注目されている。本を取り扱う街の書店からは、「若者が本を読むようになるかもしれない」と相乗効果に期待する声が聞かれた。
 ◆札幌も盛況
 札幌市中央区南1西3の「アップルストア札幌」でも午前8時から「iPad」が販売された。徹夜組を含む約100人が行列を作り、次々と商品を手にしていた。
 午前6時半から並んで買った札幌市南区のアルバイト古川雅徳さん(36)も「仕事では書類を見るのに使い、趣味のサイクリングでは地図を使ってみたい」とうれしそうな様子。高速バスで買いに来たという三笠市の主婦佐藤典子さん(35)は「初日に入手できてうれしい。電子書籍の小説やゲームを自宅で楽しみたい」と笑顔で話した。


『読売新聞』2010.05.28
iPadで電子書籍新時代 紙の本「アイ乗り」期待
東京夕刊
 ◆書店「若者が読書」の機会に
 米アップル社の新型情報端末「iPad(アイパッド)」が28日、発売された。その特徴の一つは、本をインターネット上の書店からダウンロードする「電子書籍端末」としての機能だ。4月に先行発売された米国では出版業界が早くも勢いづいており、日本でも電子書籍時代の幕が開くか、注目されている。本を取り扱う街の書店からは、「若者が本を読むようになるかもしれない」と相乗効果に期待する声が聞かれた。
 東京都渋谷区の「ソフトバンク表参道」に午前4時から並んだという大手証券会社勤務の山本景(けい)さん(30)は「携帯電話は画面が小さく読書には使ってこなかったが、iPadなら目をこらさなくても読める。仕事で使う専門書や資料も何冊も保存でき、いつでも好きなだけ取り出せる」と期待を寄せた。家ではファッション雑誌や小説を読んで過ごすという目黒区の美容師北川綾さん(24)も、「この端末なら、パソコンと違ってソファに寝転がって気軽に読める」と手に入れたばかりのiPadをさっそく指でなぞっていた。
 米国では、2007年に米アマゾン・ドット・コム社が発売した情報端末「kindle(キンドル)」のヒットで、電子書籍が急速に普及。価格が紙の本に比べ半分以下で済むことなどが読者に受け入れられたもので、iPadの出現がこうした傾向にさらに拍車をかけるとみられている。
 しかし、日本では書籍の電子化は、作家の了解が得られないなどの事情から遅れ気味だ。広告会社「電通」などが雑誌約60誌の有料配信をスタートさせているが、書籍の品ぞろえは薄い。こうした中、講談社がiPad発売の28日に合わせ、作家・京極夏彦さんの新刊本の配信に踏み切るなど、電子化時代の本格到来を予感させる動きも出てきた。
 街の書店では、新たな電子メディアに対し、危機感を示す声は意外に少ない。大手書店「丸善」丸の内本店(千代田区)の壹岐(いき)直也店長(57)は「携帯電話で読む『ケータイ小説』が書籍化されてベストセラーになった例もある。電子書籍発で話題になった作品が、紙の本として売れることも期待できる。iPadとの相乗効果がきっと出てくるでしょう」と語る。
 都内の約600店舗の書店が加盟する東京都書店商業組合の下向紅星(しもむかいこうせい)理事(46)も、「iPad発売は本が見直されるいいきっかけになる。活字離れの進む若者が本を手にする機会になってほしい。書店も売り方を工夫することで、逆にチャンスになるかもしれない」と話した。
 ◆銀座に行列1200人
 iPadの販売は午前8時から始まった。東京のアップルストア銀座には1200人以上が、ソフトバンク表参道では約300人が発売日の前日から長い列を作った。iPadは9・7型の大きな液晶画面で、インターネットや動画を見たり電子書籍を読んだりすることができる。本体を2年間分割払いで購入した場合の支払総額は、ソフトバンクの携帯回線の通信機能対応型が5万8320円(16ギガ・バイトモデル)?7万7280円(64ギガ・バイトモデル)、無線LANだけの機種が5万3280円(16ギガ・バイトモデル)?7万3200円(64ギガ・バイトモデル)だ。


『読売新聞』2010.05.28
iPad待ちきれない 福岡でも20人列
西部朝刊
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売が28日朝から全国で始まるのを前に、27日、一刻も早く手に入れたい人たちが店舗前に並んだ。福岡市中央区の「アップルストア福岡天神」では27日午後11時半現在で約20人が列をつくった=写真、久保敏郎撮影=。
 iPadは9.7型と高機能携帯電話(スマートフォン)に比べて画面が大きい。画面に指で触れる方式で使いやすく、電子メールや動画、音楽の再生に加えて、電子書籍やゲームなどを楽しめるのが特徴だ。〈関連記事2・11面〉


『読売新聞』2010.05.28
「待った」iPad 国内販売スタート
西部夕刊
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売が28日午前8時から始まった。福岡市中央区の「アップルストア福岡天神」では、徹夜組を含む約150人が列をつくった。
 ほぼ丸一日並んで手に入れた佐賀県伊万里市の主婦川原賀子さん(42)は「とても使いやすい。今日は夜更かししそう」と満足な様子だった。
 iPadの本体価格は2年間分割払いの場合で、ソフトバンクの携帯回線の通信機能対応型が5万8320円から、無線LANだけの機種が5万3280円から。9・7型の大きな液晶画面で、インターネットや動画を見たり、ネットで取り込んだ電子書籍を読んだりできる。


『読売新聞』2010.05.28
iPad待ちきれない!
大阪朝刊
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売が28日朝から始まるのを前に、一刻も早く手に入れたい人たちが27日、店の前に並んだ。〈関連記事2・11面〉
 大阪市中央区の「アップルストア心斎橋」では夕方から毛布やキャンプ用のイスを持参した人々が行列を作り、午前1時には約100人に増えた。大阪府豊中市の男子大学院生(23)は「当日販売があることをインターネットで知って駆けつけた。これまでにない情報端末なので、どんな使い方ができるか楽しみ」と話した。ただ、当日販売分の台数は公表されておらず、店頭で混乱が生じる恐れもある。iPadの大きさは約24センチ×約19センチで、電子メールや電子書籍、動画の再生などを楽しめるのが特徴だ。


『読売新聞』2010.05.28
iPad上陸 電子書籍時代 紙の本 相乗効果期待 
大阪夕刊
 書店に立ち寄って本を選ぶ。そんな生活スタイルが変わるか??。米アップル社の携帯情報端末「iPad(アイパッド)」が28日、国内でも発売された。電子書籍端末の機能も特徴の一つで、早速手に入れた利用者は「欲しい本がすぐ読める」と歓迎。書店主らも「若者がもっと本を読むようになるかも」と相乗効果に期待する。4月に販売が始まった米国では出版業界が勢いづいており、日本でも電子書籍時代の幕が開くか、注目される。
 ◆「若者に読書の機会」 「古書に呼び込める」 書店・識者ら 
 大阪市北区のヨドバシカメラ・マルチメディア梅田店でこの日朝、購入した兵庫県西宮市の会社員田中真吾さん(40)は「新聞や本がいつでもどこでも手軽に読める」とiPadを絶賛。
 大阪市中央区のアップルストア心斎橋店では、大阪府寝屋川市の京都造形芸術大准教授、岩本守弘さん(42)が「電子書籍で若者も活字に触れる機会が増え、活字離れは進まないと思う」と語った。
 「機能が充実すれば、絶版や品切れの本も読める。書き手としても読み手としてもうれしい」と語るのは作家の有栖川有栖さん。自宅書庫に並ぶ約1万冊の本を眺め、「置き場所の悩みも解消され、読書人口が増えるのでは」。
 米国では、2007年に米アマゾン・ドット・コム社が発売した携帯情報端末「kindle(キンドル)」のヒットで、電子書籍が急速に普及。紙の本の半分以下で済む価格などが読者に受け入れられた。講談社は発売に合わせ、作家・京極夏彦さんの新刊本の配信に踏み切るなど、電子化時代の本格到来を見据えた動きも出ている。
 こうした状況について、佐伯順子・同志社大学教授(比較文化)は「欧米の大学ではすでに電子書籍が国際標準。難解な書物も敷居が取り払われ、知の再編成が起こるかもしれない」と述べた。
 書店からも、危機感を示す声は意外に少ない。
 大手書店「丸善」丸の内本店(東京都千代田区)の壹岐(いき)直也店長(57)は「携帯電話で読むケータイ小説が書籍化され、ベストセラーになった例もある。電子書籍発で話題になった作品が、紙の本として売れることも期待できる」。大阪市北区の「阪急古書のまち」にある中尾書店の石井利昌主任も、「今まで本を読まなかった人たちが本を読むきっかけになるのでは。読者のすそ野が広がれば、古書にも呼び込むことができる」と期待を寄せた。
 ◆「もうパソコン持ち歩かない」 
 大阪市中央区の「アップルストア心斎橋店」では、開店時間の午前8時に100人を超える行列ができた。ただ、店頭での混乱はなかった。初日は大半が予約者への引き渡しで、当面は入手困難な状況が続きそうだ。
 大阪・梅田のヨドバシカメラ梅田店では、ホームページ制作を手がける大阪市都島区の男性(29)が、購入直後にiPadに電源を入れ、「すごく動作が速く、画面も大きくて見やすい。仕事の打ち合わせに使いたい」と興奮気味に話した。大阪府茨木市の男性会社員(31)も「電子メール、動画など多彩な機能があり、もうパソコンは持ち歩かない」と話していた。
 iPadに対抗する形で、ソニーが年内にも端末の国内投入を計画しており、アマゾンがキンドルを日本語に対応させる観測もある。日本でも今後、電子書籍市場が急成長する可能性がある。


『読売新聞』2010.05.28
iPadに徹夜=中部
中部朝刊
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」の販売が28日朝から全国で始まるのを前に、27日、一刻も早く手に入れたい人たちが店舗前に並んだ。
 名古屋市中区栄の「アップルストア名古屋栄」では、27日午前から客が並び始め、28日午前0時には33人の行列ができた。愛知県岡崎市のシステム開発会社社長稲熊茂男さん(43)は、「予約済みだが、明日中の在庫切れを心配して来た。仕事でノートパソコンを持ち歩く僕には、ちょうどいいサイズ」と心待ちにしていた。
 予約販売以外にも、アップル直営店など一部店舗で当日販売も行われる。ただ、当日販売分の台数は公表されておらず、店頭で混乱が生じる恐れがある。
 iPadは9・7型と高機能携帯電話に比べて画面が大きい。画面を指で触れる方式で使いやすく、電子メールや動画、音楽の再生に加えて、電子書籍やゲームなどを楽しめるのが特徴だ。〈関連記事2・9面〉


『読売新聞』2010.05.29
早くiPadを 県内でも人気=宮城
東京朝刊
仙台
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」が28日、全国で発売され、県内でも4店で販売が始まった。このうち仙台市青葉区の「アップルストア仙台一番町」では、いち早く手に入れようという人たちが開店前から列を作った。
 同店によると、27日午後9時の閉店から並んだ人もおり、開店を2時間前倒しした翌午前8時には約100人が集まった。首都圏の店では混雑するからと、わざわざ出張先の仙台で購入して行く人もいたという。
 iPadを手に入れた同市太白区長町、アルバイト佐藤和広さん(32)は、「予約していたが、できるだけ早くと考え、午前8時頃来店した。電子書籍を読んだり、音楽を作ったり、いろいろ使ってみたい」と話していた。


『読売新聞』2010.05.29
iPad発売 情報端末新時代 メーカー・通信業界 競争激化必至
東京朝刊
 ◇ビジネス・スコープ
 米アップルの新型情報端末「iPad(アイパッド)」が28日発売された。高精細の大型液晶画面と使い勝手の良さを備えたiPadの登場で、パソコンメーカーや通信業界は新たな競争に突入する。(河野越男、岩崎拓、本文記事38面)
 キーボードにもなる液晶画面は9・7インチで、携帯電話より格段に大きく、動画や電子メール、電子書籍、ゲームなどの見やすさや臨場感が増した。アスキー創業者の西和彦・尚美学園大学大学院教授は「パソコンよりも持ち運びが便利で使いやすい。5?10年で5000万台程度は普及する」と予想する。
 パソコンメーカーは、キーボードにもなる液晶画面を備えた情報端末を投入して対抗する。「携帯電話より使い勝手が良く、新たな市場を切り開く」(NECの遠藤信博社長)期待が高いからだ。パソコンとも異なり、情報端末の使い道を変える可能性もある。NECは今年度中に対抗商品を発売し、富士通や東芝も発売を検討中だ。
 通信業界でも、iPadというブランド力のある商品の発売を機に、顧客獲得競争が激化している。iPadでの情報のやり取りに内蔵の携帯電話機能を使う場合は、ソフトバンクの回線しか選べない。通信各社は、無線LANを使うユーザーの取り込みを狙う。
 NTTグループは外出先でも無線LANを使える携帯型のルーターと呼ばれる中継機を6月に投入する。イーモバイルは26日から月額利用料を引き下げるキャンペーンを始めた。今後、データ通信料の価格競争が過熱する可能性もある。
 米調査会社アイサプライによると、iPadの主要部品は、液晶画面のほか、フラッシュメモリーやDRAMも軒並み韓国メーカー製で、日本勢の採用はTDKの香港子会社製のリチウムイオン電池だけだ。
 2007年発売の高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」には「日本製の部品が多く使われていたが、その後のアップル製品では割合が減っている」(ディスプレイサーチの氷室英利ディレクター)という。低価格攻勢を仕掛ける韓国勢などの台頭を象徴しているといえそうだ。
 ◆電書協まず1万点 iPhoneで発売へ
 出版社31社が加盟する日本電子書籍出版社協会(電書協)は、運営する電子書店「電子文庫パブリ」で、パソコンや携帯電話向けの電子書籍を、今秋をめどに、iPadでも発売する方針だ。手始めに6月初旬からは「iPhone(アイフォーン)」向けに約1万点を発売する。
 電子文庫パブリの既刊書の約半分にあたり、中心価格帯は500?600円の見込みだ。
 ◆画面明るく鮮明 仕掛け多く驚き 記者が体験
 高機能携帯電話を使った経験もなく、タッチパネルにも不慣れな記者が、実際にiPad(無線LANのみ対応)を使ってみた。明るく鮮明な画面と簡単に操作できる手軽さが印象的で、インターネットや動画の閲覧、ゲーム、電子書籍などを気軽に楽しめそうだ。
 電源を入れると約2秒で起動した。画面上の表示に触れるだけでネットに接続できる。文字は、画面上に現れるキーボードで入力する。凹凸がなくパソコンほど速く打てないが、短い文章なら十分だ。
 インターネットで取り込んだ電子書籍の絵本を開くと、登場人物を指で動かせるなど、仕掛けの多さに驚いた。本体を傾けてハンドルを操作するレーシングゲームも、臨場感たっぷりだ。
 重さは700グラム前後で、ポケットにも入らないので、持ち運びは携帯電話よりも不便だ。文書の作成や表計算も、パソコンの方が優れているように思う。それでも、iPadは触っているだけで楽しい。子どもの頃、初めてゲーム機を手にし、わくわくした気持ちを思い出した。(戸田雄)


◆2010/5/30 Digital Book 2010にボイジャーが参加
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2010/05/30/voyager_joins_digital_book_2010/#more-2799

Digital Book 2010にボイジャーが参加
2010年5月30日
posted by 大原けい (Lingual Literary Agency, NewYork)
毎年初夏に行われるブック・エキスポ・アメリカ(BEA)といえばアメリカで最大規模のブックフェア。基本的にアメリカの版元が国内のお得意様を相手にしたイベントなので、フランクフルトやロンドンのブックフェアと比べると、国際色豊かというわけではないが、その分、顧客サービスが充実、タレント本を出したセレブから文壇の重鎮まで、大勢の著者が来場して場内を賑わせ、ただで貰えるトートバッグやしおりなどのプロモーショングッズが多いことでも、参加者には楽しいイベントとなっている。
その「アカウント」と呼ばれるお得意様とは、本を発注する立場にある全国の書店員や図書館の司書、つまり普段は本に囲まれて室内で黙々と働いている人たち。彼らは少ないお給料の中から毎年少しずつ貯金して年に1回ニューヨークに出かけ、ミュージカルを見たり観光したりとちょっぴり都会で物見遊山も楽しみながら、開催中にセミナーで同業者と知り合ったり、出版社のブースを回って見本刷のゲラを集めたり、好きな著者のサイン会に並んだり、と本の虫ならではのお楽しみが満載だ。
そのうちのセミナーの一つとして25日に行われた「Digital Book 2010」。IDPF(国際電子出版フォーラム)は、コンテンツクリエイター、電子書籍端末のメーカー、そしてユーザーのためのEブックのスタンダードを作ろうという非営利団体で、EPUBを業界標準規格のフォーマットとして推進している。
Digital Book 2010の会場となったNYのジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンター
電子書籍関連のセミナーはBEAでもう10年も前からやっているが、さすがにiPadという強力なEPUBのデバイス登場で注目が集まり、今回のセミナーは早々にソールドアウト、当日は朝から椅子が足りなくなるほどの大盛況で、興味関心のほどが伺える。
冒頭の挨拶でジョージ・カーシャー会長は「世界規模で新しい読者を獲得するためにも不可欠なのがアジアの市場。そのためには今こそEPUBのスタンダードを書き換える時期に来ている」と訴えた。
ガラパゴスだが巨大な日本の電子書籍市場
満員御礼の約700人が詰めかけた会場で、最初のパネルで今回日本代表として招待されたのがボイジャー・ジャパン。EPUBは元々アルファベットを基本とする言語を念頭に作られたので日本語に対応しない、という意見もあるが、世界の潮流はEPUBの側にあるといっていいだろう。
このパネルではまず、LibreDigital社のタイラー・ルース氏が躍進中のジャンルとしてロマンスの大御所、ハーレクインのオンラインインプリント、「ミルズ&ブーン」の紹介をした。ここの発想は「読者が読者を連れてくる」で、ロマンスファンのためのコミュニティーを提供し、同じウェブサイトでソフトのダウンロードから購入、紙の本もオーダー出来る仕組み。タダで読めるプレヴューが購入につながる確率は平均16%だという。
そしてボイジャー・ジャパンの塩浜大平氏の番が回ってきた。92年以来、多様なガジェット、プラットフォームに対応してEブックを作ってきたボイジャーの略歴を紹介。「サクセスストーリーとはいえ、決して平坦な道ではありませんでした」というと、事情を察した参加者から笑い声が。ケータイマンガがあるため、日本は実は500億円という世界最大のEブック市場であることを示すグラフに会場のあちこちで感嘆の溜息が漏れた。
講演中のボイジャーの経営戦略/国際事業担当、塩浜大平氏
アニメと同様、世界に発信できるコンテンツとして注目されるマンガだが、問題は日本語のdirectionality、つまり右綴じ縦書きを基本としてストーリーが流れていくので、例えば見開きで見せる大きなコマが逆に分断されてしまう点だ。パワーポイントのイグアナのイラストで日本がガラパゴス化しつつあることを訴えながらも、iPhoneが400万台も売れ、いよいよiPadの発売も控え「どんなデバイスも本になる」をモットーに、EPUBに取り組む決意を新たに訴えた。
ボイジャーはコミック・ビューアのBookSurfingをセルシスと共同開発し、90%を超えるシェアを誇る。これからも日本と世界でEブックのさらなる発展を見据えて、T-TimeのドットブックフォーマットからEPUBへの変換や、EPUBの組版リーダーにも着手しているので、EPUBの浸透によって日本の本が世界市場に進出する窓口を開いたと言えるだろう。
電子書籍はすでに定着の時代へ
パネルの最後は、グローバルなコンテンツ供給に取り組むKobo社のマイケル・タンブリン氏。世界200カ国でEブックの販売実績を持ち、現在10%を占める英語圏以外での売り上げが今後伸びていくだろうと予測する。日本でiPadのiBookstoreの品揃えを見ると、最初は版権切れの古典を集めたグーテンベルク・プロジェクトの本だけだが、KoboのiPadアプリでは既に多様なタイトルが並んでいる。
グローバル化の中で問題になるのが版権のテリトリー。英語の本ひとつとってもグローバル権、世界英語圏権、北米権などと分けて取引されてきた海外版権も、Eブックの登場によってコンセプトを根本から見直すことを迫られている。
ビジネスモデルにしても同様で、今回のセミナーでもエージェンシー・モデル登場による課税の問題が業界を悩ませている。ガラパゴスとして隔離されている一方で、本が定価で販売され、全国で税率が一律の日本が抱えなくていい問題もあるというわけだ。
終日行われたセミナーでは、EPUBのテクニカルな側面を追求するグループと、マーケティングやこれからの著者と編集者の関係などを探った上で、EPUBとそれを取り巻くガジェットやプラットフォームの紹介と予測、さらにはEブックだけでなく、雑誌や新聞がどうデジタル化できうるのか、海賊版への対処とDRM問題など幅広いセッションが続いた。
翌日からの本会場の展示では、IDPFのブースが閑散としているという声もあったが、これはEブックのブームが過ぎたのではなく、どの出版社でも紙の本と同様に取り組みがなされ、電子書籍が既に受け入れられたことの現れだろう。そこには「衝撃」はなく、確固たるビジョンと未来への期待が感じられた。


『読売新聞』2010.06.01
作品のネット公開広がる 作家「書店に足運ぶきっかけに」 
東京朝刊
 作家の五木寛之さんが昨年末に出したベストセラー小説「親鸞」の上巻全文が先月12日から1か月間、インターネット(http://shin?ran.j)で無料公開されている。パソコンでの“立ち読み”によって読者を書店に呼び戻そうとする動きが、人気作家の間でも広がっている
 「親鸞」は上下巻で計65万部と版を重ねる。新刊の一部をネット公開する手法は昨年頃から増えているが、人気作の前半をそっくり無料公開した例はない。
 自ら提案したという五木氏は「一人でも多くの読者に読んでもらいたい。若い世代が書店に足を運んでくれるきっかけとなれば、これほど嬉(うれ)しいことはありません」と理由を述べる。
 長引く出版不況で書籍・雑誌の昨年の推定販売額は21年ぶりに2兆円を割り、全国の書店数も2000年の2万1000店強から6000店以上減った(アルメディア調べ)。出版事情に詳しいフリーライターの永江朗さんは「全国どこでも著作が並ぶ人気作家だけに、特に地方の書店減少を深刻に受け止めたのではないか」とみる。
 出版元である講談社の国兼秀二・文芸図書第二出版部長は「読者が本に触れるきっかけ作りという意味でプラスと判断した。少しでも読み始めてもらえば、ワクワクするエンターテインメントとして本を買ってもらえる自信がある」と話す。公開後1週間で約20万回閲覧され、書店での売り上げも上下巻ともに約2割伸びたという。今後、iPadでも電子書籍として販売する予定だ。
 渡辺淳一さんも4月末から約2週間、初期の短編をネット公開した。自選短編集(朝日文庫)のPRを兼ね、閲覧は3万回以上。集英社インターナショナルも同月、新刊の半分程度を公開する「無料立ち読み」を始めた。瀬戸内寂聴さんの近刊も近く公開する。
 ベストセラーを連発してきた大御所3氏だが、「新しい技術にも前向き。米国企業にのみ込まれる前に、日本の出版社主体の仕組みを作らなければ、という気持ちも強いのでは」と永江さん。出版状況が激変する中、人気作家も様々な模索を続けている。(多葉田聡)


『読売新聞』2010.06.01
iPadと電子書籍 西垣通氏、平野啓一郎氏に聞く
東京朝刊
 電子書籍を読むこともできる米アップルの情報端末「iPad(アイパッド)」が国内でも発売され、話題となっている。黒船来襲”を機電子書籍が本格的に普及するのか、作家は電子化とどう向き合うのか。東大教授の西垣通氏、作家の平野啓一郎氏に聞いた。

 ◆「紙」は消えず二極分化へ/西垣通 東大教授(メディア論)
 iPadでまず思い出したのは米の科学者、アラン・ケイの「ダイナブック構想」。ケイは大型コンピューターしかなかった1970年代初め、パーソナル(個人向け)コンピューターという概念を提唱した。スタティック(静的)なメディアである本に対し、文書や図像、音声などを組み合わせたダイナミックなメディアがパソコンで、それは人間の想像力をかきたて、創造的活動のための文化的ツールになるという夢を描いた。
 iPadは電子書籍として注目されているが、完全にケイの構想の延長線上にあり、音楽や動画、書籍などを組み合わせた複合メディア。一方、アマゾンの「キンドル」は紙の本を電子書籍に置き換えた単体メディアだ。
 コミックやビジネス実用書、娯楽雑誌などが、まず電子書籍に移行する可能性が高い。だが物としての厚みを持つ紙の本は、愛書家が線を引いて読んだり大事に飾ったりするから、絶対にすたれない。電子書籍が大量に流通し消費されていく一方で、時間をかけて作られた真の良書は残る。それらは価格が高くても一部の人々に必ず売れ、読書ファンが復活して、二極分化していくのではないか。
 電子書籍が普及すれば、アマチュアでも出版社を介さずに本を出しやすくなり、編集者の役割も変わっていく。優秀な著者を発掘し、人の心をとらえる企画を立て、良い作品を世に出す能力がますます求められる。編集者の中には独立してプロダクションを作り、電子書籍専門の会社と連携して仕事をする人も出てくるだろう。
 電子書籍では、小説に登場する音楽や風景の映像も並行して楽しめるような、クロスメディア作品が登場する可能性もある。iPadの登場はそういう総合クリエイターの創造性を刺激するかもしれない。

 ◆端末向けに小説も変化/平野啓一郎 作家
 片手で持つのは、まだ相当重いですね……。現在の雑誌や新聞を見るには、判型も小さく慣れません。ただ、写真はバックライトで画面が発光して美しい。写真雑誌やファッション誌とは相性がいいのではないか。
 でも時間がたてば、軽い機種が出るでしょう。折り畳み式で画面が広がるかもしれない。そうなれば個人の紙に対する愛着にかかわらず、作家も世間の流れに沿って、作品を電子書籍端末に掲載するしかなくなる。
 この機器に合う書き方をした小説も現れるはずです。例えば「二人が訪れた東京・狸穴(まみあな)のレストランは暗く、テーブル席が六つあり??」などと文章で書いていたのを、画像を添えて済ませるとか。「狸穴」の地名を知らない読者向けに、本文からネット上の地図へリンクを張れば余計な説明を省ける。それに応じて文体も変わります。
 作家にとって、iPadの普及は一つのチャンスでもあると思う。通勤電車で携帯電話の画面を眺め、ゲームや音楽を楽しむ人がいる。彼らは画面が大きくなれば、読書に興味を持つかもしれない。電子書籍で適切な収入が得られる仕組みを作り、忙しい現代人がほかの分野のエンターテインメントに割く時間を、文学が取り戻す方法を考えてみたい。
 人間の記憶や思考も変わるでしょう。本の装丁を編集者が作家と打ち合わせする際、今までは「あの画家の雰囲気で」などとあいまいに語り合った後、現物の掲載作を本で探してコピーしたりしていた。iPadがあれば、話の最中にその場で画像を呼び出し、情報を共有化できる。
 一方で、一つの画面で簡単に動画や音楽、小説を楽しめるから、長時間集中するより、次々とコンテンツ(中身)を試したくなる。切り替えが早く、飽きっぽい人に向くのではないか。


『読売新聞』2010.06.01
直木賞受賞作 電子書籍化へ
東京朝刊
 祥伝社は31日、直木賞を2月に受賞したばかりの白石一文さんの恋愛小説「ほかならぬ人へ」を、6月4日から電子書籍として販売すると発表した。1600円(税別)の単行本に対し、電子版は半額の800円。受賞から間もない人気作の登場で、電子化の流れが加速しそうだ。日本電子書籍出版社協会が運営するサイトなどを通し、「iPhone」などの携帯電話やパソコン向けに販売。秋以降、情報端末「iPad」でも販売される予定。


『読売新聞』2010.06.01
記者が買って試したiPad 読書は慣れ必要 ゲーム操作 新鮮=京都
大阪朝刊
 ◆快適な画面 
 話題の携帯情報端末「iPad(アイパッド)」(米アップル社製)をさっそく購入した。仕事の都合があったので入手したのは発売日翌日の5月29日。アイパッドは何ができ、何が魅力なのか。一ユーザーの視点でお伝えしたい。(中根靖明)
 購入したアイパッドは縦約24センチ、横約19センチの長方形。最高ランクのものは8万円程度するが、私のはメモリーの容量が小さいなどのため5万8800円だった。予約開始日だった5月10日にインターネットで注文したので、こんなに早く手元に届いたが、今はもう品薄で小売店ではほとんどお目にかかれないという。
 ボタンを押して起動させてみる。最初は自分のパソコンと接続し、自動で初期設定させる。見た目でパソコンや携帯電話と大きく違うのは、三つだけというボタンの少なさ。ボタンがなくても、画面を指でなぞったり、押したりすることで情報入力が簡単にできるところが最大の特長だ。最新機を使って、まずネットにつなげる瞬間、「いよいよだ」と胸が高鳴った。
       ◇
 ここで少しアイパッドの基本を押さえておきたい。できることの主な内容は▽ネットの閲覧▽電子書籍の読書▽メールの作成、送信▽ゲーム??など。電話機能はついていない。ただし、パソコンでできる内容のかなりをカバーし、気軽に持ち運べる。
 携帯電話に比べると画面が大きく、見やすい。入力に欠かせないキーボードも大きな画面に表示して利用でき、指先が硬直するようなこともない。
       ◇
 さて、アイパッドの“売り”の一つであ電子書籍を試してみた。
 アップル社や日本の出版社などが、どのような電子書籍サービスを提供していくか今のところ不透明だが、ネット上では著作権の切れた作品を無料公開しているサイトがある。
 どの本を選ぶか。栄えある最初の本だから格式ある本にしたい。作品の一覧を眺めていると、京都にゆかりの深い哲学者・西田幾多郎の「善の研究」が目に入った。
 アイパッドにデータを取り込み、読書開始。画面に現れたページの上に人さし指を載せ、右にサッと滑らせる。するとページが、まさに実物の本と同じようにぺらぺらと繰られていく。
 確かに、本を読んでいる感じだ。しかし本来なら両腕の手のひらで感じる本の重みと質感がなく、次第にアイパッド(680グラム)をもつ左手が疲れてきた。寝転がって気軽に読めるようになるには慣れが要りそうだ。それに作品の内容も難しい……。
 気分転換ならゲームが一番と、次はレーシングカーゲームをダウンロード(有料)し、挑戦してみた。ハンドルを切るようにアイパッドを回すと車が方向を変え、臨場感たっぷりだ。
 据え置き型の家庭用ゲーム機にない、新しい操作感覚は面白い。こちらは疲れることもなく、知らず知らず時間が過ぎていた。
       ◇
 さて、このマシンの魅力の一端が伝わっただろうか。自分の仕事に照らして考えると、新聞社の中でも紙面をアイパッドに配信する社が出ており、今後、情報産業や出版業界に与える影響は計り知れない。1年後、「1人1台」にまで普及が進んでいることは、さすがにないだろうが、身の回りで目にする機会は、きっと段違いに増えていることだろう。


◆2010/6/1 iPadを使ってみた(4日目)
http://d.hatena.ne.jp/skymouse/20100601/1275324819

1.日本語を読み上げるiPad
・読み上げ機能は素晴らしいが、なぜか動作が不安定になる
操作:iPad本体→設定→一般→アクセシビリティ→VoiceOver→VoiceOver:ON
この機能を使ってWebページを開いて、テキスト部分をタップすると、なんとiPadが日本語を読み上げる!残念なのは、この機能を使うと、タッチ操作がおかしくなり、同じタッチ操作でも挙動が変わると言う異常動作をしてしまうところ。本当は三本指でフリックするとスクロールする設定に変わるのだが、そうなるときとそうならないときがあったりしたので、設定を解除する為に、ホームボタンを押して、設定を押しても、YouTubeが開いてしまったりと、異常動作が続いたので、この機能は、そういう機能があると言う感じにとどめておいた方が良さそうだ。使うと本体の底の部分が結構熱くなる。異常動作をしなければ面白い機能である。最終的には、電源切って、しばらくして再起動して、設定を開いてVoiceOverはOFFにした。そうでないと、設定が選べなくて、VoiceOverをOFFにできなかった。
(略)
まとめ
iPadは、不完全なところや、素晴らしいところが混在する製品だ。まぁ新しいハードだから、仕方がない。個人的には、VoiceOverの動作安定性を高めて、もう少し、普通の人に合わせた機能に限定したモードが欲しい。ボタンを押す度に喋る必要はないのだ。必要なテキストを選んで、そこを喋ってくれと頼む程度の機能が欲しい。あとは次の製品で電子コンパスの精度向上や、GPSのWifi版への標準搭載を望みたい。


『読売新聞』2010.06.08
電子書籍に統一規格 
東京朝刊
 総務、文部科学、経済産業の3省は7日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及のため、日本語の電子書籍データのファイル形式を統一させる方針を固めた。閲覧ソフトごとに異なるファイル形式の共通化を図ることで、利用者が閲覧できるコンテンツ(情報の内容)を増やし、市場拡大につなげるのが狙いだ。日本語形式の国際標準化を図り、電子書籍の本格的な普及に備える。


『読売新聞』2010.06.08
新型iPhone24日発売 電子書籍にも対応 
東京夕刊
 【サンフランシスコ=池松洋】米アップルは7日、携帯電話iPhone(アイフォーン)の新型「iPhone4」を24日から日本や米国など5か国で発売すると発表した。画面の解像度を現行型の4倍に引き上げたほか、テレビ電話機能を搭載した。デザインも刷新し、厚さは現行型より3ミリ・メートル薄い9・3ミリだ。
 発表会でアップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は、「地球上で最も薄いスマートフォン(高機能携帯電話)だ」と述べた。
 iPhone4は、画素数を大幅に高めたことで、写真や動画の鮮やかな色彩も再現できるという。アップルの電子書籍配信ソフトにも対応しており、購入した電子書籍は情報端末iPad(アイパッド)と共有できる。米国での価格は199ドル(約1万8000円)からとなっている。日本での価格は未発表だが、ソフトバンクモバイルが15日から予約の受け付けを始める。


◆2010/6/8 デジタル・ネットワーク社会における 出版物の利活用の推進に関する懇談会
技術に関するワーキングチーム 第1次報告(案)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000069890.pdf

(pp25-27)
【10】障がい者、高齢者、子ども等の身体的な条件に対応した利用を増進する。
1)電子出版とアクセシビリティ
電子出版は、視力低下をきたした高齢者の読書、子どもの教育を助けるとともに、視覚障がい、学習障がい等のある人々の出版物へのアクセスを飛躍的に拡げる可能性を持っている。
電子出版においては、文字の拡大等を簡単に行うことができ、高齢により視力が低下した人々の読書習慣を支えることが可能であり、こうしたことから、米国においては、電子出版が高齢者の支持を獲得しつつある。
我が国では、点字図書館や一部の公共図書館、ボランティアグループなどでDAISY 録音図書(Digital Accessible Information SYstem)が制作されており、音声と文字、動画等を同期をとって扱うDAISYデータは、子どもの読書、教育への活用の拡大が期待される。
また、政府にあっては、21世紀にふさわしい学校教育を実現できる環境整備のため、デジタル教科書・教材の普及促進に向け、必要な取組を計画的に実施することが求められる。
障がいのない人々が紙の出版物と電子出版を選択することができるのに対して、視力を失った視覚障がい者にとって、「紙の本は本ではない」現実がある。
このため、視覚障がい者にとって電子出版の普及は、障がいのない人々とは比較できないほど大きな意味がある。
例えば、正確でなくともよいから本の概略だけを知りたい、より多くの出版物を読みたい、障がいのない人々と同様に新刊が読みたい等、多様な視覚障がい者等のニーズに応えるには、電子出版についてテキストデータの音声読み上げ(TTS;Text to Speech)を可能とする環境の構築や、テキストデータの読み上げの高度化が重要と考えられる。
電子出版のアクセシビリティを高めることは、情報バリアフリーの実現の観点から重要であるのみならず、電子出版とデジタル・アーカイブに関する技術開発、他の様々な応用分野におけるイノベーションを促進し、社会全般にも裨益が波及するものと考えられ、こうした観点からも積極的な取組が期待される。
2)テキストデータの音声読み上げ(TTS)に関する課題
@ 音声読み上げを可能とする電子出版環境の構築
電子出版においては、改ざんや流出、無制限な複製の防止等の観点から、テキストデータの抽出ができないよう処理が行われているが、アクセシビリティの確保の観点からは、著作者等の理解を得つつ、一定の音声読み上げ機能への活用に限定してテキストデータの受け渡しを可能とする、標準規格に基づいた読み上げ用の情報を電子出版内に収録する等、音声読み上げ可能な電子出版を拡大するための技術的な仕組み、業界横断的なワークフローの仕組みについて、関係者において各方面の理解を深めつつ検討することが望ましい。
A テキストデータの音声読み上げ(TTS)の高度化
英語と比べて複雑多様な日本語21について、テキストデータの音声読み上げ(TTS)には技術的課題が多い。
TTSは、開発ベンダーごとに技術開発に注力しており、近年、精度の向上が進んでいるが、電子出版の普及に伴い障がいのない人々向けのサービスとしても様々な場面での活用が考えられるため、需要の拡大に伴って一層の精度の向上が期待できる。
今後の電子出版の普及を見込み、TTSの精度やユーザビリティの飛躍的向上を図るため、TTSの開発に関して、出版物のつくり手や読み手の意見の反映、評価検証を行う機会の設定等、関係者による取組が進展することが望まれる。
3)雑誌、コミックのアクセシビリティ
テキストデータの音声読み上げ機能を実現するためには、シンプルなテキストデータが必要であるが、雑誌やコミックにおいては、見出しや吹き出し内のセリフを画像データとして保持しており、シンプルなテキストデータが存在しない状況にある。
このため、雑誌、コミックについては、電子出版端末側で音声読み上げ機能が用意されていても、音声による読み上げを行うことはできない。
既存のOCRではテキスト化が困難な雑誌、コミックに対するアクセシビリティを確保するためには、画像認識・テキスト変換等の分野において新たなイノベーションが必要であり、官民をあげた取組が必要である。


◆2010/6/9 電子書籍の統一規格、「中間形式」策定へ、3省懇談会、多様な端末に対応。
 日経産業新聞, 4ページ, , 467文字
 総務、経済産業、文部科学3省の懇談会「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」は8日に会合を開き、電子書籍の保存・流通に適した統一規格を策定する方針を打ち出した。米アップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」など、電子書籍が読める端末が登場していることに対応。様々な端末に合わせて変換できる「中間形式」を定めて、配信先を広げやすくする。
 電機メーカーや印刷会社などで組織する「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」を今夏にも立ち上げ、年内をメドに規格をまとめる。会議にはシャープや電子出版制作のボイジャー(東京・渋谷)、大日本印刷、凸版印刷などが参加する見通し。シャープが策定した「XMDF」方式と、ボイジャーが策定した「ドットブック」方式を軸に、日本語の表現に適した電子書籍の中間フォーマットを策定する。
 電子書籍のうち、縦書きやルビ、禁則など日本語に必要な規則を規格に盛り込む。雑誌やマンガ、挿絵入り書籍などに必要な、イラストデータなどの扱いは業界団体などで別途、議論される見通し


◆2010/6/9 電子端末データ、規格統一で合意、官民が懇談会。
 日本経済新聞 朝刊, 5ページ, , 361文字
 総務、経済産業、文部科学の3省は8日、電子書籍の普及に向けたルールづくりなどを検討する官民共同の懇談会を開いた。参加者は出版社と通信会社、電子端末の利用者の間でやりとりする日本語表記に対応したデータについて、送受信や保存などに必要な規格を統一することで合意した。
 懇談会には作家や出版業界、書店、通信事業者の代表者ら約30人が参加した。データの規格をそろえるため、「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」を立ち上げ、年内に実証実験を始める。電子書籍を検索できるようにするために、紙の出版物と電子出版の書誌情報も統一する。米アップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」など新しい端末で活用できるID認証や課金システムを構築することも決めた。
 懇談会は今回の議論を踏まえた上で、6月下旬に中間報告をまとめる。


◆2010/6/9 「日の丸電書フォーマット」とEPUB
http://www.ebook2forum.com/2010/06/j-format-vs-epub/

「日の丸電書フォーマット」とEPUB
2010年 6月 9日
三省合同の「官民」懇談会の技術WTで最初の非公開資料が6月2日の「第1次報告(案)(たたき台)」だった。8日の懇談会ではそれをもとに「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」の設置が決まった。年内に実証実験ということは、仕様が固まっていないとできない。この進め方は、少なくともオープンな標準を普及させるプロセスとして適切ではないし、この際問題点を指摘しておきたい。情報が限られているので誤解もあると思うが、関係者にもぜひ電書協以外への「説明責任」を果たしていただきたい。(+6/10追記)
はじめに:“E-Bookガラパゴス”を避けるため
三省「懇談会」は「電子書籍データのファイル形式統一」に向けて動き出した。腰の重い大手出版社をその気にさせる環境としては意義がある。しかし、懸念されることもある。懇談会は結局オープンなようでオープンでなかった。とくに技術仕様については、最初から電書協がパブリで採用している2つの商用技術をターゲットにしたとしか思われない。公的なお墨付きと「コンセンサス」の演出のために政府を使ったことは今後に問題を残すだろう。われわれとしては、後で政治的・国際的な非難の応酬にならないように、現実的な調整の可能性を考えてみたい。
「名ばかり標準」と使える「標準」:EPUBに背を向けるのか?
XMDFとドットブックは、日本語デジタルコンテンツを表示する上では優れた実装技術であり、国内での実績もある。しかし、当然のことながら国際的にはほとんど使われていないし、知られてもいない。電書協を中心とした出版社がこれらをもとにしたフォーマットを採用するのは自由だが、政府が関与するとすれば、次のような条件を忘れないでいただきたい。
1. 国際的に普及している標準、既存技術との整合性を確保する
2. 日本のコンテンツの海外展開、多国語コンテンツの展開の妨げにならない
3. 多様で多機能なE-Book技術の発展への障壁にならない
4. EPUBなど他のフォーマットとの相互運用性を確保する
最後の条件は、新たなガラパゴス化を避けるために、ほとんど絶対的なものだ。オープンな標準はオープンなプロセスに基づくコンセンサスよって実現される。それには人間が関わることなので時間と手間がかかる。そのしくみはIDPF、W3Cのような標準化コンソーシアムしか持っておらず、これらをスルーした「国際標準」は、産業の実態と離れた「名ばかり標準」となりやすい。
IEC62448(のAnnex B)は確かに正規の「国際標準」である。しかし、標準というものの実態を観察してみれば、世に標準はゴマンとあれど、使われて進化しているのは一握りで、あとは標準化作業の残骸に過ぎない。少数の専門家と圧倒的多数の非専門家が時間をかけて国連の機関で「採択」しても、使われないものは無意味である。IEC62448(のAnnex B)の拡張が提案されても、国際的な業界からは無視される可能性が高い。ちなみに62448にはAnnex Aというのもあり、こちらはソニーのBBeBでLIBRIeの副産物である。
他方でデファクト標準には、グローバルな有力ベンダーと日本企業が参加しているIDPFのEPUBがあり、まさに日本語拡張仕様が、アジア言語の一部として策定されようとしている。「懇談会」の技術資料が(アマゾンのプライベート仕様を除いて)最大のデファクトであるEPUBについて何の言及もしていないのは「奇怪」というほかなく、逆に強く意識していると思われても仕方がない。おそらく関係者は「EPUBに敵対するものではない」と強調されると思うが、それだけでは不十分で、EPUBと協調する方法を(もちろん英語で)明示し、現在開発中のEPUB日本語拡張作業に参加するくらいの姿勢が望まれる。言うまでもないが、これが国際性を主張するための基本である。縦組が価値を持つ言語は日本語だけではない。
万が一にもないとは思うが、EPUBと争うことは有害無益だ。それは進化を続けるWeb(XHTML+CSS)に背を向けることであり、日本語E-Bookの開発と運用に無用のコスト負担を生じさせる。日本の消費者は負担したくないだろうし、海外企業も同様だ。様々な欠点を持ちながらも、EPUBの巨大な利点は、Web技術との共有性であり、それが出版社の自立性を高め、様々なサービスとの自由な連携を可能にする。改善へのニーズがある限り、EPUBの問題はオープンに検討され克服されていくが、公表されている「官民一体フォーマット」には、そのための仕組みは考慮されているのだろうか。たとえば、オープンソースのオーサリング環境や、様々な機能インタフェースを利用する(国際的な)プロジェクトは考えられているのだろうか。優れた技術コンセプトを「日の丸」で縛ったTRONの失敗を教訓とすべきだろう。
「縦組・ルビ…」だけが必要なフォーマットではない
フォーマットには組版フォーマット以外にも様々なものがあり、生まれている。懇談会では「日本語組版」とくに縦組やルビなどが強調されているが、小説など「特定の日本語の本」をイメージしている印象がある。縦組・ルビを必要としないE-Bookにそうした機能は無用で、無用なものに余計なコストはかけたくない。例えば、政府刊行物を提供するフォーマットとして何が必要かを考えていただきたい。文部省の教科書には、数式、化学式や記号の表示が重要となる。本の中でのジャンプだけではなく、外部のWebサービスを利用したいコンテンツもある。そうした機能フォーマットの拡張が容易かどうかはフォーマットのライフサイクル価値を決定する。グローバルなフォーマットに日本語(やその他の)機能を追加するのと、日本語フォーマットをベースに拡張するのとではまったく別の作業になる。実装技術は進化するが、フォーマットを進化させるのは容易ではないからだ。
シャープのXMDFは組版のほかにDRMの仕様も持っており、「統一フォーマット」のDRMもこの仕様を使うのかどうか不明だが、特定のDRMを強制することには問題が生じるだろう。サンプルや書誌情報の扱い、配信プラットフォームでのアクセス情報の管理なども課題となる。方法によっては、iPadやKindleを市場から締め出す動きとして問題にされる可能性もあるだろう。そうした問題を避けるためにこそオープンなプロセスが生まれているのであり、これ以降の進め方は多くの問題を生んできた過去の教訓を生かしたものにしていただきたい。
これからもWebコンテンツは増え続け、リッチになっていくだろう。EPUBは最も少ないコスト(多くは無料で)でそれを反映させることができる。「官民統一フォーマット」あるいは「電書協フォーマット」がEPUBと遠いものになれば、Webコンテンツの流入は制限されるだろう。むしろそのほうがよいという考えもあるのだろうが、それは「出版社コンテンツ」のほうの商品価値を下げるだけで意味がないと思う。この点は改めて検討したい。しつこく言いたいが、EPUBとの相互運用性に背を向けるならば、国内市場、関連市場に負担を与えることになる。閉じたフォーマットでは市場は守れない。日本のコンテンツも、E-BookやE-Readerビジネスも、世界に飛躍するしか生き残る方法はないし、それができない理由は(「世界の壁」という幻想以外に)何一つない。(鎌田、06/09/2010)
6/10追記:フォーマットに関するロードマップとガイドライン策定の必要
6月10日に資料が公開され、技術WTの報告案を読めるようになった。詳細は別途検討するが、資料を踏まえて昨日の本文記事に補足・訂正をしておきたい。
報告案でEPUBへの対応に関する記述は次の個所にある。
今後、第2.1章2)の日本語基本表現の中間(交換)フォーマットの統一規格の反映や、上述のEPUB 等デファクト標準のファイルフォーマットとの変換に係る技術要件も検討の上、国際規格IEC62448 の改定に向けた取組が重要であり、上述の「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」を活用しつつ、国際標準化活動を進め、こうした民間の取組について国が側面支援を行うことが適当である。
難解な表現だが、中間フォーマットではEPUBも反映され、XMDF/ドットブックとEPUBを含む「デファクト」との「中間」としてのフォーマットであると理解できる。したがって、この通りに進んでいくのであれば、問題は生じないようにも思える。しかし、EPUBの仕様策定プロセスに参加して仕様に反映させる活動を伴わなければ、あるいはその日本メンバーを支援するのでなければ具体的にはならないだろう。また「中間フォーマット」に過大な期待は禁物である。過去にCADなどでいくつもの「中間フォーマット」が開発されたが普及しなかった。エスペラントのようなもので、実装技術の独自性が強いと、そのまま使えない汎用フォーマットはユーザーのメリットが少なく、中途半端になるためだ。また有力な実装技術を持つベンダーは、当然自社の実装機能を優先する。RTFを使う人はどれだけいるだろう。またバージョンアップなど面倒な問題もある。組版に限っての「中間」ならばさほど難しくはないと思うが、これもチェックが必要だろう。
筆者がすでに指摘しているように(下記関連記事参照)、E-Bookにおけるフォーマットの問題は(印刷本との直接的接点である)組版だけではなく、ほかにも広がっている(例えばメタデータ)。また組版にしても、数式や表組、化学式など、さらに複雑な問題も残されている(数式ではMathMLがあるが組版には普及していない)。「統一規格会議」は、当面の日本語組版を超えて、E-Bookのフォーマットに関する調査・研究を長期的に進めていただきたい。また政府はそのための十分な予算措置を講ずるべきであると思う。行政に対しては、具体的に以下を検討されることを提案したい。
1. E-Bookのフォーマット問題に関する情報収集と調査研究
2. E-Bookフォーマットの開発・標準化に関するロードマップの策定
3. 多国語E-Bookフォーマットに関する国際ガイドライン策定のイニシアティブ(国際標準化コンソーシアムの発議)
(以上、6/10に加筆)


◆2010/6/10 電子書籍の3省懇談会、日本語フォーマットなどの経過を公表
http://www.nikkei.com/tech/trend/article/g=96958A9C93819499E2EBE2E39A8DE2EBE2E4E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E0E7E2E6E0E2E3E2E2E0E

 国内の電子書籍市場のあり方について話し合う、経済産業省・総務省・文部科学省合同の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第2回が、2010年6月8日に開催された。この中で、日本語の電子書籍フォーマットについて、多様な端末で閲覧可能にするための中間フォーマットの策定などを盛り込んだ、ワーキングチームの第1次報告案が公表された。
6月8日に開催された「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」
XMDFや.bookなどを相互変換できる中間フォーマットを策定、ePub日本語化の動向も注視
 中間フォーマットについては、傘下組織である「技術に関するワーキングチーム」(技術WT)の第1次報告として盛り込まれている。日本語の電子出版に携わる関係者を中心に「電子出版日本語フォーマット統一規格会議」(仮称)を設置して、主要各フォーマットから相互に変換可能な中間フォーマットを作成するよう検討する。技術WTにはシャープとボイジャーの関係者が参加しており、国内市場で商用の電子書籍で使われている「XMDF」「.book」などの電子書籍フォーマットを参考にしつつ、検討を進めていく方針だ。併せて、米IDPF(International Digital Publishing Forum)が定め欧米の1バイト文字圏で広く使われている「ePub」やW3Cの定めるHTML5についても、日本語への対応状況を見極めつつ対応を検討する。さらに、日本と同様に漢字を使用している中国、韓国との連携も検討課題としている。中間フォーマットの策定後、IEC(国際電気標準会議)に国際規格化を提案し、海外の事業者や端末での対応を広げることを目指す。
 中間フォーマットの策定とともに、複数の端末やネットワーク、プラットフォームの間で相互運用性を確保するため、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)をオープン化することを検討する。このほか、電子書籍フォーマットと同様に書誌情報フォーマットも標準化を進める。米国議会図書館が定め、国立国会図書館でも採用予定の「MARC21」などをベースに、紙の書籍と電子書籍の双方を収録できる書誌情報データベースを作れるよう、関係者による議論の場を設けることを提言している。
 技術WTの第1次報告案では、電子書籍の貸与についても言及した。購入者が家族や友人に貸し出すケースでは、貸与先を限定する仕組み、一定期間経過後にデータを消去する仕組み、貸与回数を制限する仕組みなどについて、技術面から検討する。図書館による貸し出しについては、米国などの先行事例を検証し、図書館と出版社、電子書籍の販売業者などが連携して実証実験を行うことなどを盛り込んだ。
 技術WTと同じく懇談会の傘下組織である「出版物の利活用の在り方に関するワーキングチーム」(利活用WT)も、第1次報告案を公表した。現時点では議論の途上であるとしているが、具体的には、1、著作物の権利継承者などの情報をまとめた著作権の集中管理システム 2、出版社を対象とする著作隣接権 3、共通のファイルフォーマットや文字コード体系 4、違法・有害情報への対応 5、書店の活性化 6、図書館と民間の役割分担 7、「知のアクセス」の確保(アクセシビリティ)――といった論点について議論を進めている。
「議論に加え実証実験を」「中間フォーマットはロイヤルティーフリーに」
 三田誠広構成員(作家、日本文藝家協会副理事長)は、著作権の集中管理システムについて持論を展開。「1950年代の作品は、著作権が残っているが継承者が分からない作品が多く、電子化して配信しようにも許諾が取れない。裁定制度は不便で利用が進まず、大きな著作権処理のできるシステムを作る必要がある。報告書には慎重なことが書かれているが、それでは100年たっても利用できないのは明らか。国民の税金で作った国立国会図書館のアーカイブを国民が利用可能にするために、超法規的に利用可能にするくらいの気持ちでやるべきだ」とした。
 野間省伸構成員(講談社副社長、日本電子書籍出版社協会代表理事)は、議論にとどまらず実際に試験配信してみることの重要さを唱えた。「電書協では著作者の利益と読者の利便性の両立、紙と電子の連動を目的に活動している。講談社では、2009年12月に刊行した五木寛之氏の『親鸞』について、2010年5月に上巻を全文無料で公開した。京極夏彦氏の『死ねばいいのに』は、2010年5月に紙の書籍と電子書籍をほぼ同時に出している。確信犯的に、紙に良い影響を出すだろうと考えてやっている。『親鸞』は2週間で30万件ダウンロードされ、紙の書籍の売れ行きも配信前より2〜3割増えている。『死ねばいいのに』も、紙の書籍は当社の目標を上回るペースで売れている。例えばiPadの配信は結構面倒であるなど、実証実験をやってみて初めて分かることもある。電子書籍を比較的手軽に読める端末が出てきているので、ぜひ実証実験をやるような方向性を出してほしい」と語った。
 野口不二夫構成員(米ソニーエレクトロニクス上級副社長)は、中間フォーマットや書誌情報の統一化について「いい活動だと思うが、一方で懸念もある。フォーマットを世界に広げていくには、オープンな規格で誰もが参加する必要がある。また、ロイヤルティーフリーかどうかも重要。国が支援するような活動であるならばライセンス費用がかからないように整備を進めてほしい」と指摘した。


◆2010/6/10 電子書籍の3省懇談会、日本語フォーマットなどの経過を公表
http://www.nikkei.com/tech/trend/article/g=96958A9C93819499E2EBE2E39A8DE2EBE2E4E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;df=2;p=9694E0E7E2E6E0E2E3E2

図書館の電子書籍配信は賛否分かれる
 一方、図書館による電子書籍の配信などに対しては賛否両論が繰り広げられた。
 長尾真構成員(国立国会図書館長)は、国会図書館で構築を進めているデジタルアーカイブについて、保存・蓄積だけでなく早期に電子書籍で利用可能にすべきだとの意見を表明。「電子書籍の問題は、利用者、読者の立場をもっとよく考えて議論を深めていく必要がある。図書館のサービスに対しては慎重な意見が多々出ており、それらは当然理解できることだが、利用者のことを考えてもっと前向きに考えて、解決できるためにどうすればよいか考えてほしい。まずは関係者で合意できる部分から取り組んでみることも必要ではないか。図書館と出版社が全文検索の実証実験をするなど、トライアルをしながら一番良いシステムを作っていくことが期待される。議論を深めていけば、Win-Winの関係が見いだせると思う」と述べた。
 佐藤隆信構成員(日本書籍出版協会デジタル化対応特別委員会委員長、新潮社取締役社長)は、図書館による電子書籍の配信が拡大することで出版社の利益が損なわれる可能性に触れ、「読者の目線は大事だが、利便性を考えると何が起こるのかしっかり考える必要がある。デジタルの場合、電子書籍が人々にさまざまな形で広く提供されると、新たな著者が現れるのでなく、著者の利益とトレードオフになる可能性がある。著者のモチベーションに資する利益が担保されることが大事。今までは図書館が不便だったために出版社のビジネスが成り立っていたが、デジタルでは図書館と出版社のビジネスが真っ向から対立する可能性がある。今までは、知のアクセスを確保する上で図書館の果たす役割が広く知れ渡っていたが、今後の図書館の役割は何なのかという視点での議論をお願いしたい」と警戒心を示した。
 小城武彦構成員(丸善社長)も、「知のアクセスポイントという表現は、図書館もそうだが書店もそうである。これまで図書館と書店は、うまいバランスで読者の知のアクセスポイントを担ってきた。デジタルでも前向きにやりたいが、やや心配をしている。いかなるアクセスポイントが日本にあるべきなのか、役割分担について議論してほしい」と、図書館の電子書籍配信により書店が影響を受ける可能性を懸念した。
 金原優構成員(日本書籍出版協会副理事長、医学書院社長)は、出版社の影響について懸念を表明。「出版社は、執筆者が大変な苦労をして執筆した大事な原稿をいただき、それを出版している。これがデジタルになり、できるだけ広く、いつでもどこでも誰にでも提供するというのは、利用者にとってはバラ色の世界だ。著作物の電子データは出版社が運用しており、電子書籍を進める上では出版社が保有している電子データを最大限活用すべきだと思う。しかし、出版をなりわいにしている立場からすると、将来どういう形で配信され利用されていくのか、どのような利用料体系で、どのような配分があるか、不安を持っている。出版社に権利を与えるのか著作者との契約ベースで運用するのか、まだ議論が続くようだが、出版社が積極的に参加できるような形態にしてほしい」と語り、いわゆる版面権などの著作隣接権を出版社に認めるよう求めた。
「私たちは紙の本をどうしていくのか、紙の本のない社会を作ろうとしているのか」
 阿刀田高構成員(作家、日本ペンクラブ会長)は、紙の書籍の将来という根本的な質問を提起。「結局私たちは紙の本のない社会を作ろうとしているのか。あるいは紙の本を存続させるならば、どういう前提の中で存続させるのか。20〜30年後のことは分からないところもあるが、常に考えていかないと、単に簡便で広く安くということばかり追求すると、紙の本はなくなるだろう。グーテンベルクの時代からずっと続いている紙の本をどうしていくのか、考える必要がある」と述べた。
 これに対して三田構成員は、「私個人の意見だが、電子出版でざっと読んで、その上でじっくり読みたい、何回も読みたい、手元に残したい、というものは紙の本を買うだろうと思う。紙の本はなくならないだろうし、紙と電子の総量として増えるように思う。そうしなければいけない」と応じた。
(日経パソコン 金子寛人)
[PC Online 2010年6月9日掲載]


◆2010/6/10 アクセシブルな電子書籍プラットフォームに向けて
http://current.ndl.go.jp/e1057

カレントアウェアネス-E
No.172 2010.06.10
E1057
アクセシブルな電子書籍プラットフォームに向けて
 2010年4月,英国情報システム合同委員会(JISC)の一部門であるJISC TechDisとJISC Collections,及び英国の出版社団体Publishers Licensing Societyは連名で,“Towards Accessible e-Book Platforms”(『利用しやすい電子書籍プラットフォームに向けて』)という実践ガイド集を刊行した。文字の拡大,テキストの音声読み上げといった操作が可能な電子書籍は,印刷された文字を読むのが難しい障害(ディスレクシア,視覚障害,肢体不自由等)を持つ人々に,新しい可能性をもたらす。こうした特徴を持つ電子書籍を,誰にとっても使いやすい形で提供できるプラットフォームとはどのようなものなのだろうか。このような問題意識の下,上述の3機関が資金提供を行い,出版社が実際に提供している電子書籍プラットフォームを障害のある人に試してもらうという実験が行われた。この実践ガイド集は,実験で得られた障害のある人の意見を参考にして,今後の開発に役立つポイントをコンパクトにまとめたものである
 ガイド集はまず,「ログイン」「検索」「ナビゲート」「テキストへのアクセス」「テキストのエクスポート」という操作の各段階における課題等をまとめている。例えば,「ナビゲート」では「プラットフォームでは文字の拡大が可能だがテキスト本文ではできない等,全体で機能が一貫していない」「音声認識やキーボードのみでの操作では使用できない機能がある」といったことが,「テキストへのアクセス」では「テキストの文字の拡大機能,文字を拡大するとページにフィットするよう自動的にテキストが調節される機能が必要である」「テキストの文字の色やコントラストをカスタマイズする機能が必要である」といったことが指摘されている。
 実験全体を通じて得られた重要なメッセージとしては,「電子書籍は,障害のある人に一定の自立と伝統的な印刷メディアでは難しかったカスタマイゼーションをもたらす」「それぞれのプラットフォームのよい要素を集めれば,非常に使い易いものになる。アクセシビリティとは遠い目標ではなく,実現可能なものである」「多くの課題は技術の限界ではなく,技術の実装に関わっている」を含め,9つのポイントが指摘されている。
 では,上記のような指摘を踏まえ,これから出版社はどういった電子書籍プラットフォームを開発していけばよいのだろうか。ガイド集では,戦略的優先事項として「よい実践例に基づくアクションプランを作成する」「様々な支援機能の利用者実験を計画する」等,実践的優先事項として「アクセシビリティに関する声明を作り,アップロードする」「支援とフィードバックのために,コンタクトパーソンへの電子メールリンクを掲載する」等を挙げている。なお,このガイド集よりさらに詳細な情報は,JISC TechDisのウェブサイトで入手することができる。


『朝日新聞』2010年06月11日
朝刊
(声)教科書の電子化、世界に先駆けて
 ペンション経営 藤井英一(長野県大町市 60)
 弱視の児童生徒向け「拡大教科書」がコストの壁が大きく、高校での普及にブレーキがかかっているという6日の記事があり、一方で電子ブックが注目を集めている。そこで提案だが、教科書の出版会社に教科書の電子化を義務付け、各学校で児童生徒に個人専用の電子ブック端末を用意してはどうか。
 教科書にかける公私の費用は毎年相当な金額になり、紙資源もバカにならない。これらをすべて電子化することで、それらの費用は節減できる。さらに電子データならば拡大表示も思いのままで拡大教科書も不要になる。
 教科書のようにアンダーラインの書き込みなどは難しいが、タッチパネル機能とメモリーカードを装備すれば印を付けるなどの「しおり機能」は可能になる。プリントアウトもでき、表示や出力機能を改良すれば音声や点字でも読めるようになる。通学時の重いカバンからも解放されるなど利便性は格段に向上する。
 官民一体となって世界に先駆けて実用化をめざし、教科書の電子化による教育のユニバーサルデザイン化を果たしてもらいたい。


◆2010/6/12 電子書籍端末と視覚障害者 - ウロボロスの回転
http://d.hatena.ne.jp/uroburo/20100612/p1

電子書籍端末と視覚障害者
2010-06-12
iPad Life, Kindle Life
第28回出版UD研究会「電子書籍端末をさわって見くらべよう」(@専修大学)に行く。電子書籍端末のアクセシビリティがテーマ。
イースト株式会社・藤原隆弘氏による電子書籍端末の動向に関する講演のあと、参加者全員で実機をさわる。
iPad、Kindle 2、Kindle DX、SonyのReader、Barnes & Nobleのnookから、COOL-ER、IREXという会社の端末まで、有名無名機が大集合。
音声読み上げ機能があるのは、iPadとKindleだけとのこと。ただしKindleは操作を読み上げない。
これがSonyのReader(Touch Edition)。タッチスクリーンでの操作は、iPadのように軽くタッチするのではなく、ちょっと指で押さないといけない。
こちらはBarnes & Nobleのnook。ページ画面の下に操作用のタッチスクリーンがある。
COOL-ERというのは初めて見た。大きなiPodといった感じ。
視覚障害者4名がモニター発表を行う。以下メモ。
1人目(弱視)
普段の読書にはルーペ・拡大読書機・スクリーンリーダーを使用。
Kindleは文字の拡大が出来るので弱視者にはいいが、全盲者は操作が出来ない。
ルーペを使うと、画面を傷付ける心配がある。
画面と本体縁の境にルーペがぶつかってしまい、端まで読めない。
発光しない電子ペーパーの画面は、顔を近づけて影を作ってしまうと読めなくなる。
通常のデザインの製品を視覚障害者も使えるようになるのはいいこと。
弱視者は日によって見え方が違う。電子書籍は文字の倍率を変えられるので、情報アクセスの可能性が高くなるのでは。
2人目(弱視)
普段の読書には15倍ルーペを使用。
iPad、Sony Reader、IREXを試用。
iPadの液晶画面の方が読みやすい。電子ペーパーはボケる。が、ルーペを使うとはっきり見える。
自分が読める文字の大きさは50〜60ポイントなのだが、どれもそこまで大きく出来なかった。が、iPadはくっきり見えるので、なんとか読むことは可能。
外に持ち出せるのはSony Reader。だが、影が出来ると読みにくくなるのが難点。自宅だと照明の明るさが読みやすさに影響する。
文字を大きくすると、外では他人にも読まれるのではないかという心配がある。
iPadのi文庫HDでは、太字の明朝体が読みやすかったのが意外(注・一般に弱視者に読みやすい書体はゴシック体と言われている)。京極夏彦『死ねばいいのに』の書体も読みやすかった。ゴシックだとちょっとうるさい感じで読みにくい。
使ってみての感想:便利だなとは思ったけど、iPadなら3分の2くらいの大きさで2万円位になって、どうしても読みたいものがないと買わないかなあ。重さもあるし。紙の方が疲れない。現状では紙の本を選ぶ。
3人目(音声ユーザー)
普段の読書は点字か音声。ほとんど音声。プレクストークPTP1を使っている。
今の段階では、どの電子書籍端末も使えない。
若干は見えているので、iPadのような液晶なら見える。電子ペーパーは背景が白くないのでコントラストがつきにくく読みにくい。
拡大に限界がなければ使える可能性もあるが、音声読み上げの機能がないと読書までには至らない。
音声読み上げ機能は、簡単にオン・オフできれば健常者も利用するのではないか。
触って操作するので、手が使えない人には使えない。
人と同じものを使っていると、困ったとき他人にきける。
視覚障害者の中には、無理して使いにくいものを使わなくてもいいという人もいれば、iPod Touchを使っている人もいる。ある程度まで使えるものなら、可能性を残しておいた方がいい。
使う人が増え、市場がある程度できれば、いろんな機能を加えたアプリケーションが可能になる。
今まではタダが当たり前だったが、電子書籍を使うとなるとお金がいる。お金を出して情報を買うという文化を視覚障害者の間でいかに育てるかが課題。
4人目(音声ユーザー)
iPadで電子書籍はどこまで読めるか。VoiceOverで、音声でアプリケーションを起動することはできるが、そこまで。i文庫HDも京極夏彦も読めない。
入力に関して:6点入力とかカナ入力とかができて、場所を決められればできるかもしれない。
これからは本を直接買うという選択肢ができる。
速報性は合成音声のほうが優れている。「早い安い不味い」だが。
ちなみに、隣の席の全盲の人は、読み上げようがなにしようが、どの端末も全否定だった・・・


『読売新聞』2010.06.16
小田実全集 電子書籍で 
東京夕刊
 講談社は16日、2007年に亡くなった作家、小田実(まこと)さん=写真=の電子書籍版の全集を25日から刊行すると発表した。個人全集を電子書籍で出版するのは初の試みで、小田さんの主要な著作を網羅する初の本格的全集となる。
 収録されるのは、高校時代に書いたデビュー作「明後日の手記」など小説32作品のほか、ベストセラーとなった世界旅行記「何でも見てやろう」など32作品で、半数以上が現在、絶版。1巻525?2100円(税込み)で、パソコンのほか、携帯電話「iPhone」で読むことができる。
 14年5月までに、月2?3作ずつ刊行。注文を受けて印刷するオンデマンド版全集も全82巻で発売する。


『読売新聞』2010.06.16
「iPad」大学も変える ピアノ授業に活用 学生がソフト開発=中部
中部朝刊
 ◆ピアノ授業に活用…中部学院 学生がソフト開発…名古屋文理 
 電子書籍や娯楽用のソフトなどを携え、鳴り物入りでデビューした米アップル社の情報端末「iPad(アイパッド)」。日本での発売からまだ2週間余りだが、早くも授業に取り入れたり、研究開発に使い始めたりする大学が現れた。
 「画面をタッチして楽譜をめくってください」。岐阜県関市の中部学院大学短期大学部で15日、アイパッドを使ったピアノの授業が初めて行われた。杉山祐子准教授(50)の指示で、保育士を目指す1年生10人が、アイパッドに記憶させているクラシック音楽の再生ボタンを押すと、音楽が流れ、演奏個所が楽譜上で赤く反転していく。別のボタンを押すと、内蔵されたメトロノームがカチカチとリズムを取り始めた。
 学生たちは電子オルガンの楽譜を置く場所にアイパッドを立て、一通り音楽を耳に入れた後、鍵盤をたたいて個別の練習に入った。4月からピアノを始めたばかりの本田あゆみさん(19)は「メトロノームや楽譜を持ち歩く手間が省け、練習が楽になった。弾き方が分からなくても、アイパッドがあれば、自宅でも予習や復習が出来る」と声を弾ませた。杉山准教授は今後、学生がアイパッド上の楽譜に書き込んだ質問をインターネットを通じて受け取り、個別指導にも役立てるつもりだ。
 名古屋文理大学(愛知県稲沢市)では、学生がアイパッド用の無料ソフトを開発してアップル社の公式サイトで採用された。画面をタッチすると、裁判で原告団などがよく掲げる「勝訴」の文字が表示され、利用者の間で話題になっているという。ソフト開発者を養成する同大情報メディア学科は、来春入学する学生全員にアイパッドを無料配布する予定で、長谷川聡教授(45)は「学生は奇抜なアイデアを秘めている。有料のソフトも作りたい」と言う。
 名古屋造形大学(愛知県小牧市)は先月28日の発売初日に3台を購入し、電子書籍や娯楽用ソフトの開発を進めている。学生の一人は、動物園で動物のオリに近づくと、全地球測位システム(GPS)機能によってアイパッドの画面上にその動物を紹介する画像や情報が表示されるソフトを作り始めたという。


『読売新聞』2010.06.17
「週刊少年サンデー」も電子書籍
西部朝刊
 小学館は16日、「週刊少年サンデー」の名作漫画の電子書籍版を販売するiPhone向けアプリの配信をスタートした。アプリ自体は無料で、スタート時のラインアップは、高橋留美子「うる星やつら」、青山剛昌「名探偵コナン」など4作の1?5巻、各巻450円。


『読売新聞』2010.06.17
電子書籍で新刊配信
西部朝刊
 人気作家や編集者らが集まって企画・執筆した電子書籍「AiR(エア)」が、きょう17日から、情報端末「iPad(アイパッド)」などに向けて発売される。出版社による電子書籍が旧作に偏る中、作家たちが独自に新刊を配信する試みとして注目される。瀬名秀明さんの小説「魔法」、永井豪さんの人気漫画をライトノベル作家、桜坂洋さんが小説化する「デビルマン魔王再誕」のほか、評論やエッセーなどを交えた雑誌的な構成。一般書籍300ページ以上の内容で、17日発売の先行配信版が350円、中身を増やして来月配信される正式版が600円(いずれも税込み)の予定。


『読売新聞』2010.06.17
[間奏曲]変容する読書 電子書籍の時代
大阪夕刊
 招き入れられた書斎や研究室で、本の並べ方やラインアップを見て、相手の意外な側面を知る。そんなコミュニケーションも、これからは難しくなるのか。携帯情報端末「iPad」の発売で到来した電子書籍の時代を、愛書家らはどうとらえているのだろう。
 早速「iPad」を使い始めたのは、大阪在住のミステリー作家、近藤史恵さん。「今は洋書が中心だが、読みたい本を簡単に探せる仕組みになっている。読書の幅も読書人口も広がりそう」と期待する。
 国際日本文化研究センターの山田奨治准教授(情報学)も「印刷したら段ボール箱がいっぱいになる資料が携帯できる」と便利さを実感した。ただ「規約によると、購入した書物データのアクセス権は譲渡できない。これでは家族の本棚、研究室の書棚という文化資本が後世に残らない」とみる。
 パソコンより手軽なことから、「老後の生活シーンでこそ役立つのでは」と言うのは森岡正博・大阪府立大教授(生命学)。「書棚が端末に納まれば、限られた居住空間や介護を受けながらでも、読書を楽しめる」
 一方で、電子書籍が広がっても「紙の本は決してなくならない」とも語る。自著をウェブ上で無料公開し、印刷希望者にのみ課金する社会実験を行ったところ、意外なほど売れたという。「人間の、実際に触れられるモノに寄せる信頼感の確かさを物語っている」
 以前、作家からもらった本に「挿架(そうか)」というサインが添えられていた。書棚の片隅に置いて下さいとの意味だ。そんなしゃれた言い回しにも、実感を伴って生きのびてもらいたい。(西田朋子)


◆2010/6/22 紀伊國屋書店が電子書籍販売事業に参入、9月にiPhone/iPad向けアプリから
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100622_375988.html
紀伊國屋書店が電子書籍販売事業に参入、9月にiPhone/iPad向けアプリから
 株式会社紀伊國屋書店は21日、一般消費者向けの電子書籍販売事業を開始すると発表した。9月には、iPhone/iPad向けに「紀伊國屋書店アプリ」を投入。さらに、Android端末など他のデバイスへの展開を目指す。
 紀伊國屋書店では、法人向けには既に学術・研究機関などを対象とした電子書籍サービス「NetLibrary」を提供しているが、新たに一般消費者向けにも事業を拡大する。
 販売方法としては、スマートフォン上のアプリによる販売のほか、SDカードなどのメディアにコンテンツを収納して書店店頭で販売する「ハイブリッドデジタル販売モデル」を構築し、「書店発の電子書籍流通モデル」の確立を目指す。また、端末メーカーに対しては、ストアのフルサポート機能に対応できるよう、アプリや基本機能の実装についての働きかけを行っていく。
 プロジェクトに対しては、講談社、小学館、集英社、角川グループなどの出版社が賛同している。また、既に法人向けで協業している凸版印刷との連携を強化するとともに、インフォシティ、ボイジャーからの技術協力を受ける。
(三柳 英樹)
2010/6/22 12:15


◆2010/6/22 電子書籍の3省懇談会、著作権集中管理や統一中間フォーマットの検討を提言
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100622_376075.html
電子書籍の3省懇談会、著作権集中管理や統一中間フォーマットの検討を提言
デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会(写真は3月開催の第1回会合)
 電子出版の課題や制度について検討する、総務省、文部科学省、経済産業省の3省合同による懇談会「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の第3回会合が22日開催された。会合では、出版物の著作権処理円滑化に関する検討会議の設置や、多様な電子書籍フォーマットに対応するための統一中間フォーマットの策定に向けた会議の設置などが盛り込まれた報告書が了承された。
 懇談会は、日本における電子出版の技術面や制度面での課題を検討する目的で、2010年3月に3省合同で設置。これまでにワーキングチームなどで行われた討議を報告書としてまとめた。
 報告書では、書籍の電子化にあたって権利処理を円滑化するための方策として、権利の集中管理を行う組織や制度の必要性を議論するために「著作物・出版物の権利処理の円滑化推進に関する検討会議(仮称)」を設置し、具体的な検討に速やかに着手するとしている。一方、著作者と出版社の契約関係を明確にするとともに、違法複製などに対して出版社が差止請求を行えるよう、出版社にも著作隣接権を付与するという提案については、権利関係をさらに複雑にするものだという反対意見もあったことから、今後さらに検討が必要だとしている。
 電子出版のファイルフォーマットについては、国内外の多様なプラットフォームや端末で閲覧できるようにする観点から、日本語コンテンツの「中間フォーマット」を策定するための「電子出版日本語フォーマット統一規格会議(仮称)」を設置。EPUBなど海外のデファクト標準との変換に関わる技術要件も検討の上、国際標準化活動を展開していくとしている。
 このほか報告書では、電子出版端末・プラットフォーム間の相互運用性の向上に向けた環境整備、検索を容易にするための書誌情報の標準化、全文テキスト検索の実現に向けた環境整備、家族や友人などで電子書籍を貸与する方法、アクセシビリティの確保などについて、検討を行うことを提言している。
(三柳 英樹)
2010/6/22 17:56


『読売新聞』2010.06.23
電子書籍配信事業参入へ 
東京朝刊
 NTTコミュニケーションズは22日、携帯型端末の普及を視野に、電子書籍の配信事業に新規参入する方針を明らかにした。18日付で就任した有馬彰社長が読売新聞のインタビューで明らかにした。有馬社長は米アップルによるiPad(アイパッド)の発売を踏まえ、「(情報の)新しい配信プラットホームを作りたい」と表明した。


『読売新聞』2010.06.23
iPad300万台
東京夕刊
 【ニューヨーク=池松洋】米アップルは22日、情報端末iPad(アイパッド)の累計販売台数が、4月3日から6月21日までの80日間で300万台に達したと発表した。米国で先行発売されたiPadは、タッチパネルによる簡単な操作で、電子書籍や動画、ゲームを高画質で楽しめる。4月末に100万台、5月末に200万台を突破していた。
 5月28日からは各国で順次発売されている。スティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は「iPadは、人々の生活の一部となるぐらいに愛好されている」との声明を発表した。


『読売新聞』2010.06.26
国民読書年 魅力伝えるには 本との出会い提供を(解説) 
東京朝刊
 ◇編集委員・河合敦
 ◆大人になる前 読書を習慣に

 〈要約〉
・書籍・雑誌の推定販売額が2兆円を割り込む
・理由は「時間ない」「読みたい本がない」など
・電子書籍化が進んでも本と共存する

 今年が国民読書年に制定されたのを記念した講演会が23日、都内で開かれた。
 建築家の安藤忠雄さんは基調講演で「読書は心の世界を広げてくれる」と、和辻哲郎の著書に影響を受けた体験などを語った。田中真紀子・衆院議員も「読書で自分を再発見することもある。また、好きな作品を読んだ後は、リラックスでき仕事もはかどる」と壇上で読書の効能を述べた。
 本を読む人は、こぞって意義、重要性を強調する。だが、全体では読書離れが進んでいる。出版科学研究所によると、2009年の書籍・雑誌の推定販売額は21年ぶりに2兆円を割り込んだ。ピーク時(1996年)の7割だ。
 読売新聞が昨年10月実施した世論調査でも、1か月に1冊も本を読まなかった人は53%と調査開始以来2番目に高い割合となった。
 なぜ、本を読まない人は多いのだろうか。理由(複数回答)で最も多かったのは「時間がなかった」(51%)、そして2番目は「読みたい本がなかった」(21%)。一方、「読むのが嫌いだから」は10%とそれほど高い割合ではない。機会があれば本を手に取る意思のある人は意外と多い??との見方ができる。読書人口を増やす可能性も期待できる。
 では、「時間がない」にどう対処すべきか。忙しいうえ、パソコン、ケータイも使えばとても本まで……という人も多いだろう。
 文字・活字文化推進機構の渡辺鋭気・専務理事は「暇だから読書ではなく、習慣化することが大切」と指摘。読書を小中高教育で一貫したシステムとして取り入れ、大人になる前に習慣化させるべきだという。
 「読みたい本がない」にはどうすればいいか。編集工学研究所所長の松岡正剛さんが、大手書店丸善と展開中の試みはヒントになりそうだ。丸善丸の内本店(東京)の一角「松丸本舗」では、ジャンル、著者などの区別なく5万冊の本が並ぶ。司馬遼太郎と政治専門書が、樋口一葉と漫画が同じ棚に並ぶという具合に。
 「本は交際。気楽に出会って、一目ぼれや失恋などもあっていい」と言う松岡さんの思考回路が具現化された棚で、次々と関連する本と出会える。膨大な本の中から興味深いものを見つけられるかもしれない。
 先月発売された携帯情報端末iPad(アイパッド)の登場などで電子書籍化が進むとして、本離れを懸念する声も聞かれる。だが、外山滋比古・お茶の水女子大学名誉教授は講演会で「デジタル時計が現れても、読み取る必要があるアナログ時計は残った。分かりやすすぎるものは美しくなく、文字でつくられたものは見直されるだろう」と述べ、本と電子書籍の共存を予想する。
 このように、本の魅力は本に出会えばわかると確信する人は多い。読書人口を増やすためには、地道に本との出会いの場を提供し続けることが重要だろう。


◆2010/7/4 電子書籍の普及へ乗り越えるべき壁
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E2E6E1E6EAE5E2E2E6E2E5E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8
電子書籍の普及へ乗り越えるべき壁
2010/7/4付
 米アップルの多機能携帯端末「iPad」の発売を受け、電子出版への関心が高まっている。出版業界では警戒感も強いが、上手に使えば安い値段で読者に便利なサービスを提供できる。電子書籍元年といわれる今、日本でも電子化への基盤作りとルールの検討を急ぐべきだ。
 電子出版事業で先行するのはアマゾン・ドット・コムやアップル、検索大手のグーグルなど米国のIT(情報技術)企業だ。米出版業界も電子化へ急カーブを切っている。
 背景には高速無線インターネットや高精細な画像を表示できる携帯端末の登場がある。ネット経由でソフトやシステムを提供できる「クラウドコンピューティング」の広がりで、情報を大量に蓄積、配信できるようになったことも見逃せない。
 新しい携帯端末やサービスに対し、日本の出版社や新聞社、広告会社なども情報提供を始めた。国内の出版市場は1996年をピークに縮小し、現在は2兆円を切っている。デジタル時代への出版の取り組みとして当然の試みといえよう。
 しかし外資主導で日本の電子出版が広がることには疑問がある。米国の情報サービスは、同時テロを機に制定された「愛国者法」により、有事には米政府が差し押さえられる。基本的な出版物のデータベースや配信基盤は日本国内で整備すべきだ。
 出版社の意識転換も欠かせない。90年代にもソニーなど家電メーカーが電子書籍端末を開発したが、出版業界がまとまらず、頓挫した。二の舞いを避けるには、書籍情報の提供や技術の標準化について出版各社の協力体制が重要である。
 読者に情報を直接配信できる電子出版は再販制度や取次制度へも大きな影響を及ぼす。デジタル時代には流通よりも企画や編集など出版社特有の機能が重みを増す。その意味でも、書誌データベースの構築など出版社の取り組みが求められる。
 電子化は新刊本だけでなく過去の出版物も重要だ。国立国会図書館が蔵書の電子化を進めているが、出版界の要請で同時に1人しか閲覧できないなど制約が多い。電子化の効用を最大限に生かすには、著作権を尊重しながらも、利用しやすくするため、なんらかの仕組みを考えていくことが今後の課題だろう。
 海外ではコミックスなど日本文化への関心が高まっている。電子出版は国内読者の利便性を高める一方、海外にも販路を開くことができる。電子翻訳技術などを合わせて活用すれば、日本の情報をもっと海外に広めることができるに違いない。


◆2010/7/5 iPadは伝統メディア巻き返しの切り札 ――課金で縮まるネット企業との距離
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100629/215178/
2010年7月5日(月)
iPadは伝統メディア巻き返しの切り札 ――課金で縮まるネット企業との距離
『グーグル秘録』のケン・オーレッタ氏に聞く[エピソードIII]
 米グーグルの躍進と伝統メディアの凋落は、今後も続くのだろうか。優れたジャーナリズムや文芸作品は、非効率性といった伝統メディアの“負”の部分とともに過去の遺物となるのだろうか。それともネット時代に適したビジネスモデルが生まれ、息を吹き返すのか
 5月中旬、早稲田大学で講演したケン・オーレッタは「未来は不透明だが、私は多少楽観している」と語った。2008年秋のリーマンショック以降、ネット企業の姿勢に、ある重要な変化が見えつつあるからだ。
「課金は加速度的に進む」
 広告を唯一の収益源とするビジネスモデルの危うさに気づいたネット企業は、新たな収益源としてコンテンツへの課金を検討し始めた。その結果、ネット収入の拡大を目指す伝統メディアとの距離は着実に縮まっているという。
 講演では『グーグル秘録』でも紹介した、「インターネットに初めからシンプルで分かりやすい、少額決済の機能を埋め込んでおくべきだった」という米スタンフォード大学学長でグーグル取締役のジョン・ヘネシーの発言を紹介しながら、「今後はネット上で月極め購読契約や少額決済といった課金モデルを確立できるかがカギになる」と語った。
『グーグル秘録 完全なる破壊』(文藝春秋)ケン・オーレッタ著、土方奈美訳 1900円(税別)
グーグル共同創業者であるラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンをはじめとする経営トップや社員に150回ものインタビューを敢行。テレビや新聞、広告など“伝統メディア”の有力者に対する取材も交えながら、「グーグル化される世界」をまとめている
 課金をキーワードとする、ネット勢と伝統メディアの新たな関係を象徴する事例としてオーレッタが挙げたのは、グーグル傘下のユーチューブと、米アップルのパッド型端末「iPad(アイパッド)」だ。
 ユーチューブでは、ユーザーの投稿するコンテンツに頼っている限り、黒字化が望めないことが明白になった。広告を集めるにはプロの制作するコンテンツが不可欠であり、既に5大映画会社と契約を結んだ。プロにコンテンツを制作してもらう資金を得るには、ユーザーへの課金が必要になる。「課金は加速度的に進むはずだ」とオーレッタは断言する。
 iPadについては、コンテンツの無料化や低価格化を推し進める勢力に対する、伝統メディアの巻き返しの切り札になると見る。米国では大手新聞社と提携し、月間購読料を徴収する仕組みを取り入れた。それ以上に重要なのが、電子書籍市場における役割だ。
 米アマゾンの電子書籍端末「Kindle(キンドル)」の登場によって、米国の電子書籍市場は爆発的な成長を遂げている。書籍販売に占める割合は現在5%程度だが、数年以内に30%を超えるという見方もある。
 だが圧倒的な市場シェアを獲得するため、出版社から13ドル前後で買い取った電子書籍を赤字も厭わず原則9.99ドルで販売するアマゾンに対し、出版社は「“本は1冊10ドル以下で買うもの”という意識を広めてしまう」という危機感を募らせてきた
自助努力の必要性を力説
 それに対しアップルの「iBookstore(アイブックストア)」では、上限はあるものの出版社が販売価格を決められる。ベストセラーの場合14.99ドルという“高値”で販売することもできる


◆2010/7/5 電子時代の印税をめぐる著者vs.出版社の戦い、有名作家エージェントAndrew Wylie氏「当面許諾は出さない」【編集部記事】
http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=1619
2010-07-05 11:51:58
電子時代の印税をめぐる著者vs.出版社の戦い、有名作家エージェントAndrew Wylie氏「当面許諾は出さない」【編集部記事】
The New York Observerによると、有名な作家代理人(エージェント)のAndrew Wylie氏が、現在電子書籍の出版で一般的となっている著者印税率が不当に低いとの理由から、当面電子化の許諾を出さない方針であることを明らかにした。
 Andrew Wylie氏は、米英の出版業界ではタフな交渉で有名な辣腕エージェントで、米英の有名作家約700名をクライアントに持つ。この電子書籍に関する方針は米「Harvard Magazine」誌のインタビュー記事の中で明らかにしたもので、既刊書の電子書籍化で一般的となっている印税契約(出版社売上の25%)には不満で、結論を引き延ばすことで印税率をまだまだ引き上げられると主張。他の有名エージェントたちも彼と歩調を合わせていく模様だ。
 なお、米The Authors Guildや英Society of Authorsなど現地著者団体も、会員作家たちに対して電子書籍の印税率ターゲット「50%」を提唱しており、当面はそれを目指した動きに発展していきそうな気配だ。【hon.jp】
問合せ先: The New York Observerの記事(http://www.observer.com/2010/daily-transom/wylie-tells-harvard-he-wants-license-clients-e-book-rights-independently


◆2010/7/5 電子書籍業界の“戦国時代”に備え、凸版印刷と大日本印刷がそれぞれ異なる総合B2Bサービスを発【編集部記事】
http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=1620
2010-07-05 21:47:37
電子書籍業界の“戦国時代”に備え、凸版印刷と大日本印刷がそれぞれ異なる総合B2Bサービスを発【編集部記事】
凸版印刷株式会社(本社:東京都千代田区)と大日本印刷株式会社(本社:東京都新宿区)は7月5日、電子書籍時代の到来をにらみ、それぞれまったく異なる出版社向けの総合B2Bサービスを発表した。
 凸版印刷が今回発表したのは「出版イノベーション2010」構想で、新しく設立する総合フロント組織「デジタルコンテンツソリューションセンター(仮称)」を介して、出版社の電子・紙出版両面における業務全域を支援。一方、大日本印刷は電子・紙出版の著作権契約管理業務をサポートする法人向けクラウド型サービスを9月からスタートする。
 従来、両社グループとも売上高の小さい電子書籍関連フロント業務はすべて子会社(ビットウェイ、モバイルブックジェーピー)に管轄させていたが、Amazon/Apple/Google社などの世界大手およびトーハン/日本出版販売など2大取次の本格参入を前に、本社主導の組織運営に切り替える模様だ。
問合せ先:凸版印刷のプレスリリース(http://www.toppan.co.jp/news/newsrelease1068.html


◆2010/7/6 電子書籍は紙の本より読書スピード遅い――専門家がテスト
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1007/06/news065.html
電子書籍は紙の本より読書スピード遅い――専門家がテスト
iPad、Kindleと紙の本で短編小説を読み比べたところ、電子書籍の方が読み終わるまでに時間がかかった。
2010年07月06日 17時28分 更新
 電子書籍リーダーやタブレットは進化しているが、それでも長い文章を読むのには紙の本よりも時間がかかる。ユーザビリティ専門家ジェイコブ・ニールセン氏がこのようなテスト結果を発表した。
 テストでは、読書好きの被験者にiPad(iBookアプリ)、Kindle、PC、紙の本でアーネスト・ヘミングウェイの短編小説を読んでもらい、読み終わるまでの時間を測定し(読書後には内容の理解度テストも実施)、満足度を聞いた。24人の被験者のデータを分析した。
 テストの結果、短編を読むのにかかった時間は平均で17分20秒だった。紙の本と比べて、iPadは6.2%、Kindleは10.7%読書スピードが遅かった。ただしiPadとKindleの読書速度には統計的に有意な差は見られなかったという。
 満足度に関して1〜7(7が最高)で点数を付けてもらったところ、iPadは5.8、Kindleは5.7、紙の本は5.6だった。PCは3.6とかなり低い点数だった。電子デバイスの満足度は高めだったものの、iPadの重さや、Kindleの文字があまり鮮明でないことが不満として挙げられていた。「紙の本は電子デバイスよりも落ち着く」という回答や、「PCは仕事のことを思い出すので落ち着かない」という意見もあった。


◆2010/7/7 モリサワ、電子書籍ソリューション「MCBook」を発表
http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/14177/
モリサワ、電子書籍ソリューション「MCBook」を発表
(株)モリサワは、モリサワフォントと組版エンジンを利用した高品質な電子書籍アプリの制作を可能にする電子書籍ソリューション「MCBook(エムシーブック)」を7月20日にリリースすると発表した。
MCBookは電子書籍コンテンツ変換ソフト「MCBook Maker」、iPhoneアプリ生成ソフト「MCBook iPhone Builder」、校正支援ソフト「MCBook Shot」から構成される。InDesignなどで作成された組版データを有効活用することで、手軽かつ低コストで電子書籍アプリを制作できるだけでなく、初期導入費用を抑えた提供方法を用意しているのが特長。
年間ライセンス方式で提供され、iPhoneアプリの売上に応じたロイヤリティが発生する。詳細は製品ページ(http://www.morisawa.co.jp/biz/products/main/device/mcbook/)を参照してほしい。同社は今後iPadやAndroid端末などに向けてもソリューションを展開していくとのこと。


◆2010/7/7 日本の電子書籍市場、2009年は574億円〜89%がケータイ向け
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100707_379065.html
日本の電子書籍市場、2009年は574億円〜89%がケータイ向け
 株式会社インプレスR&Dは、電子書籍に関する市場規模をまとめた調査結果を公表した。それによれば、日本の2009年度の市場規模は574億円と推計され、2008年度の464億円と比較して23.7%増加した。
 成長率は2006年度から2007年度の195%、2007年度から2008年度の131%と比べると鈍化しているが、市場規模は依然として成長を続けている。市場の牽引役はコミックを中心としたケータイ向け市場で、2009年度は513億円と、電子書籍市場の89%を占めた。
 ケータイ向け市場拡大の要因については、タイトル数の増加、大手コンテンツプロバイダーの参入など公式サイトの増加、特集や一部無料など公式サイトのキャンペーン強化による新規ユーザーの獲得や既存ユーザーの継続的な購入の促進などが考えられるという。
 PC向け市場は55億円で前年比11%減。また、2009年度から調査対象とした、新たなプラットフォーム向け市場は約6億円。現状ではiPhoneを中心としたスマートフォン向けの電子書籍アプリにほぼ限定され、市場の本格的な立ち上がりはこれからだとしている。
 新たなプラットフォーム向け市場には、スマートフォン向けマーケットプレイスの電子書籍カテゴリーのアプリ、スマートフォンやタブレットPCなどのビューワーアプリ経由で購入する電子書籍、iBookstoreやKindle Storeから購入する電子書籍などが含まれる。
 2010年度以降の電子書籍市場については、ケータイ向け市場の拡大が頭打ちになる一方で、新たなプラットフォーム向け市場が急速に立ち上がると予測。その結果、2014年度における電子書籍の市場規模は、2009年度の約2.3倍の1300億円程度に拡大するとみている。
 新たなプラットフォーム向け市場に関しては、今後2〜3年の間にコンテンツの充実や環境整備が整い、2012年度以降に本格的な拡大期に入ると予測。2014年度にはケータイ向け電子書籍市場に追いつくとしている。
 今回の調査は、通信事業者や出版社、取次、ポータルサイト、コンテンツプロバイダーなど主要な電子書籍関連事業者へのヒアリングやアンケート、ユーザーへのアンケートなどをとりまとめたもの。
 インプレスR&Dでは調査結果の詳細を「電子書籍ビジネス調査報告書」(全3巻)シリーズとして7月27日に発売する。価格は各巻いずれもCD(PDF)版が6万900円、CD(PDF)+冊子版が7万1400円。7日に予約受け付けを開始した。
 プレスリリース http://www.impressrd.jp/news/100707/ebook2010
(増田 覚)
2010/7/7 15:42


◆2010/7/8 2009年の電子書籍端末国内市場は9000万円、2010年は237億円に急拡大
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100708_379295.html
2009年の電子書籍端末国内市場は9000万円、2010年は237億円に急拡大
 株式会社シード・プランニングは7日、電子書籍端末の市場動向をまとめた調査結果を公表した。それによれば、国内の2009年度の電子書籍端末の市場規模は推計9000万円にとどまり、「まだ市場は本格的には立ち上がっていない」としている。
 その一方、ソニーが米国で販売している電子書籍端末を2010年内に国内で投入すると発表するほか、その他のメーカーやベンダーの市場参入も含めて、2010年度には販売台数が110万台、金額は237億円に急拡大すると予測している。
 また、2015年度には鮮明なカラー電子ペーパーの実用化が進み、これを搭載する電子書籍端末への、既存ユーザーの買い替えに加えて、新規ユーザーの増加もあり、販売台数は230万台、金額は495億円に達するとみている。
 なお、調査対象となっている電子書籍端末は、日本語の電子書籍を閲覧することを主目的とした端末を指しており、iPadやKindleは含まれていない。
 株式会社シード・プランニングでは、今回の調査結果の詳細をまとめたレポート「電子書籍端末と関連市場の動向」を販売している。価格は9万9750円。
 プレスリリース http://www.seedplanning.co.jp/press/2010/2010070702.html
(増田 覚)
2010/7/8 13:12


◆2010/7/9 グーグルも電子書籍参入へ、2011年初めに国内でサービス開始 オンライン書店による販売も計画、「価格は各サイトが個別に決定」
http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C93819499E2EAE2E0E08DE2EAE2E5E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;da=96958A88889DE2E4E1E2E5E0E
グーグルも電子書籍参入へ、2011年初めに国内でサービス開始オンライン書店による販売も計画、「価格は各サイトが個別に決定」
2010/7/9 7:00
 グーグルは2010年7月8日、電子書籍の販売サービス「Googleエディション」を日本で提供する意向を表明した。2006年から展開している「Googleブックス」の機能を拡張する形で、電子書籍を同社Webサイトなどで閲覧可能にする。具体的な提供時期は未定だが、「北米では2010年夏、日本でも2011年初めまでの早い段階で提供したい」(グーグル パートナー事業開発本部 ストラテジック パートナーデベロップメント マネージャーの佐藤陽一氏)としている。
 Googleブックスは、市販の紙の書籍などをGoogleがスキャンして、OCRで全文検索用データを生成。同社Webサイト上で書籍の全文検索ができるほか、1ユーザー・1カ月当たり総ページ数の20%を上限としてスキャンした書籍本文のイメージも無料で閲覧できるサービス。今回のGoogleエディションは、ユーザーが料金を支払うことで書籍全ページの本文のイメージを閲覧可能にするというものだ。
 グーグルはGoogleエディションの特徴として、(1)同社Webサイトでの閲覧を基本とすることで、特定の端末に依存せず閲覧可能にする、(2)Google自社サイトに加え、国内のオンライン書店サイトがそれぞれ設定した価格でGoogleエディションの電子書籍を販売できるようにする――を挙げる。
 (1)については、Googleエディションで提供する電子書籍は、基本的にHTML5ベースのデータとして、Webブラウザーを使って閲覧する仕組みを採る。ユーザーの購入履歴はGoogleのサーバーに蓄積しておき、購入済みの電子書籍を任意の端末で閲覧できる。「現時点では開発中のため詳細は未定だが、HTML5のオフライン閲覧機能を使うことで、インターネットに接続していない状態でも閲覧できるようにしたいと考えている」(佐藤氏)という。本文の保存や印刷、テキストデータのコピーはできない。このほか、出版社がePub形式の電子書籍データを提供している場合は、ePubデータをダウンロードして閲覧できる。
 (2)については、Googleエディションの販売経路を広げるため、国内にある複数のオンライン書店サイトでGoogleエディションの電子書籍を扱ってもらえるよう働きかける予定としている。通常の書籍は再販制度により定価が決まっているが、各サイトでの価格は、「電子書籍は再販制度の対象外。家電量販店で販売する家電製品の価格が店により異なるのと同様、オンライン書店サイトでの電子書籍の価格も異なるものになるだろう」(佐藤氏)としている。
 収益分配については現状では未定としているが、「電子書籍の売り上げは、希望小売価格の少なくとも半額以上を出版社に分配する。電子書籍の表示画面にある広告をユーザーがクリックしたときに生じる広告収入も、同様に売り上げの半分以上を出版社に分配する」(佐藤氏)との考えを示した。
 なお、Googleブックスで提供している電子書籍のデータは、出版社からデータの提供を受ける「パートナープログラム」と、Googleが図書館の蔵書を借り受けてスキャンした「図書館プロジェクト」の2種類に分かれる。今回のGoogleエディションでは、このうちパートナープログラムで出版社から有償販売の許諾を得たもののみ提供する。パートナープログラムで出版社が未許諾の作品と図書館プロジェクトにより蓄積した電子書籍データは、Googleエディションでの有償販売の対象としない。また、新聞・雑誌など書籍以外の出版物については「米GoogleのWebサイトでは、雑誌コンテンツの一部を閲覧できるサービスがあるが、Googleエディションで販売する仕組みは用意しない。日本でも、ISBNコードの割り振られたムックまでは対象になるが、ISBNコードの付かない雑誌などは、現時点では検討していない。雑誌は書籍と比べ、出版に携わっている権利者の数が飛躍的に増えることも考慮する必要があるだろう」(佐藤氏)とした。
(日経パソコン 金子寛人)
[PC Online 2010年7月8日掲載]


*作成:植村 要
UP: 20100620  REV:
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