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電子書籍 2000

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■新聞記事



『読売新聞』2000.01.06
[記者が使ってみました]電子書籍 画面のスクロールが面倒 
大阪夕刊
 通信衛星を利用してデータを取り込み、液晶が付いた端末機で小説や漫画を読む「電子書籍」の実証実験が始まっている。端末を試作したシャープの端末を借りてみた。「クリックディスク」と呼ぶ直径約5センチの記録媒体に文章や漫画を記録し、それを小型ノートパソコンほどの端末(縦21・5センチ、横17・0センチ、厚さ2・5センチ)に差し込んで読む仕組みだ。
 まず、大阪市内の大手書店で「本」を買った。出版社の協力で約5000点がデータ化されているという触れ込みだったが、目録から最初に選んだ本はデータ化されておらず、結局、4冊目の「幻想の未来」(筒井康隆、角川文庫、実験小売価格300円)をようやく買えた。
 データは1ページずつを画像として読み込んでいるため、端末にもページ送りのボタンがついている。通常表示の時は、漫画のふきだしがようやく読めるぐらいの大きさだ。表示された字は拡大できるが、その場合、ページが画面からはみ出るため画面を上下にスクロールさせなければならず、面倒だ。重さは約720グラムで、通勤の電車の中で読むには、重い感じだ。
 実証実験は今年3月末まで続き、その後は、最適な記録媒体を選んだり、端末の軽量化に取り組んだりする。大変興味深い試みだが、本のページをめくる楽しみを味わえるかどうかは、やや疑問だ。
                            (道念 祐二)

 

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『読売新聞』2000.01.21
マンガも画面でつくる時代 海外視野にネット配信 著作権問題連携して対応
東京夕刊
 次世代のデジタル・コンテンツとして「マンガ」への注目度が高まっている。続々と始まったインターネット配信の試みは、海外も視野に入れているのが特徴だ。このような動きに呼応して制作現場でのデジタル化も急ピッチだ。これまで個々の活動が中心だった漫画家たちも、連携して著作権問題に対応したり、デジタル化を作品発表のチャンス到来とばかりに積極的に利用しようという動きも出てきた。(大和太郎、愛敬珠樹)
 今や人気漫画家の多くは、ホームページを持つ。「オヤジギャル」という流行語を作った中尊寺ゆつこさんも、昨年開設したホームページで新作イラストを披露している。「オヤジギャル」はデジタル世代を迎えて「デジギャル」「デジ妻」となり、中尊寺さん自身の制作作業も大部分が手作業からパソコンに移った。
 「今から漫画家になる人は最初からデジタルで描くでしょう。私はデジタルとアナログの両方の良さを使い分けるバイリンガル」と中尊寺さん。パソコン活用は楽しく効率が良いだけでなく、表現の幅も広がるという。
 ホームページには海外からも反響があり「読者に届くスピード、発表の舞台の世界への広がりは自分をガンガン出していくには絶好のメディア」と話すが、一方で著作権問題には不安もついてまわる。音楽家の坂本龍一さんらの呼び掛けで発足した「メディアアーティスト協会(MAA)」に漫画界から唯一、発起人の一人として参加したのはそのためだ。
 MAA例会でもパソコンによるマンガ制作の現状について報告した中尊寺さんは「ハード面や流通システムが変わるとソフト面も劇的に変わっていく。音楽のMP3の登場のように作品の尊厳が危うくなることがあるかも」と感じている。
     ◆
 著作権問題への取り組みを重視する作家の一人が、新潮社のホームページで新作「ニーベルングの指輪」などを無料公開している松本零士さんだ。八人の漫画家とともに二十五日、都内で「デジタルアニメーション協会(仮称)」設立準備委員会を発足させる予定だ。
 松本さんの作品は英語版と合わせ一日四十万アクセスを誇る。「ネットで見るマンガの良さを知ってもらうため、宣伝ビラをまいているようなもの」と松本さんは笑うが、こうした作品が海外のサイトで勝手に再配信されるなど著作権問題が次第に深刻化している背景がある。
 松本さんは「これまで連載を始めるのにも契約書さえ交わさなかった日本の漫画界だが、こと外国となると環境も整備していかないといけない」と強調。「協会」では知的所有権の国際的な保護策や、海外を視野においた作品発表のあり方などについて議論を深めていくという。
     ◆
 モンキー・パンチさんは里中満智子さんら約三十人と共に、新技術を生かした作品の創造と流通形態を研究する「デジタル漫画家の会(仮称)」を今月中にも結成すべく、取りまとめに奔走している。
 ここでは紙上で発表した作品の再活用だけでなく、初めからデジタル向けに書き下ろした作品の発表も目指す。モンキーさんは「技術的な面も含め、個人では情報不足。デジタルに取り組む漫画家にとって日本最大の情報交換の場としたい」という。
 ◆有料サービス続々
 「デジタル漫画」を有料で配信するサービスがこのところ相次いでいる。
 昨年九月に「まんがの国」サイトを立ち上げたのは富士ゼロックスで、「金田一少年の事件簿」など十一作品を、連載一週間遅れで配信している。ダウンロードした作品に著作権保護が施されており、三―二十日間、閲覧できる。
 また博報堂と豊田通商が昨年七月に設立したインディビジオの「フランケン」も人気漫画や復刻版の「ぞうさん家族」など五百タイトルを配信している。主要出版社が参加する「電子書籍コンソーシアム」の配信は過去の代表的人気漫画が中心だ。
 このほかシャープが携帯端末のザウルスで、また集英社がNTTドコモのiモードを使い、いずれも四コマ漫画の配信を近く開始する予定だ。

 

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『読売新聞』2000.01.22
[2000年キーワード]ネットワーク 町田勝彦・シャープ社長
大阪朝刊
 ◆液晶駆使し生活提案
 ――日本経済の見通しはどうか。
 「二〇〇〇年の経済成長率は1・0%と見ている。積極財政による押し上げ効果と、今後も続く企業のリストラの影響との間で綱引きになる。どちらがより強い力を発揮するのかが読みにくく、予測が難しい。企業には、まだ、債務、雇用、設備と三つの過剰が残っている。人の過剰は、失業率の問題となって個人消費に響く。日本経済の60%を占める個人消費と、20%を占める設備投資がどちらも厳しい状態にある。景気が本当に良くなっていくのは、後半だろう」
 ――電機業界は。
 「九九年の業界全体の国内販売額は、前年比6%を超える伸びとなり、三年ぶりにプラスに転じた。二〇〇〇年もほぼ同じ程度の伸びが続くだろう。商品の中では、音響・映像(AV)機器が横ばいからプラスになりそうだ。BSデジタル放送の開始で、それに対応したテレビの普及が期待できるためだ。“家電の王様”であるテレビが売れると、全体が動く。パソコンは販売台数は増えるが、価格が下がるため、やや伸び悩むだろう
 ――シャープのキーワードは。
 「ハードの面では『ネットワーク』だ。九九年は、デジタル情報家電に液晶技術を融合させる戦略を打ち出した。しかし、パソコンや家電を、無線や光ファイバーでつなぐための業界の規格作りが遅れ、ネットワークの部分を積み残した。二〇〇〇年はこれを実現し、家のどこからでも、好きな機器でさまざまな情報を取り出せるような生活を実現させたい。この生活提案のキーワードが『液晶でトキメキのある生活』だ」
 ――ネットワーク商品で他社との違いをどう出す。
 「シャープは独自の液晶の開発に力を注いできた。その技術を生かし、商品の使いやすさで勝負する。例えば、電子書籍用ならば細かい文字でもはっきり見える液晶が必要だし、携帯情報機器向けには明るい場所でも見やすく、電力消費の少ない液晶が適している。商品の特性に応じた液晶を使えるのが強みだ」

 

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『朝日新聞』2000年03月07日
朝刊
電子ブック版『知恵蔵2000』10日発売<社告>
 朝日現代用語事典『知恵蔵』のテキスト・図版・写真のほとんどを収録した8センチCD−ROMです。関連新聞記事1000本、週間報告4年分、全国シティーデータ、「マイクの1年」(音声)なども収録。
 高精細表示が可能な図版・写真370点を含め、画像を約1100点収録してあります。
 ビュアーソフトViewIngを同梱していますので、パソコンでもご利用いただけます。
 本体価格5700円。お求めはお近くの書店、ASA(朝日新聞販売所)、インターネットhttp://opendoors.asahi−np.co.jp/でどうぞ。

 

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『読売新聞』2000.03.07
[デジタル生活革命](9)「本」脅かす電子書籍(連載)
東京夕刊
 ◆百科事典では格段に有利
 有史以来の伝統的な文字媒体である「書籍」の地位を、デジタル技術がいま、少しずつ切り崩している。
 本の欠点は、なんといってもかさばること。数十冊を持ち歩くことは、まず不可能。「本のページをそのまま電子画像化してディスクに保存、携帯の表示装置で見られるようにしたのが電子書籍です」と、電子書籍コンソーシアムの及川明雄事務局長は話す。
 同コンソーシアムは98年、電子書籍の将来性を探るため、出版社やコンピューター会社など155社が設立した組織で、昨年11月から今年1月まで、電子書籍の使いやすさを試すモニター実験を行った。
 500人のモニターは書店やコンビニエンスストアで、電子書籍をディスクに保存する形で購入。専用の表示端末で閲覧してもらった。「画像の鮮明さは評判がよく、漫画は売り上げベスト10のうち7タイトルを占めるなど、好評だった」と、及川事務局長は話す。
 ただし、読むためには専用の表示端末が必要で、ディスクに1冊分を記憶させるのに10分程度かかるなど、実用化に向けての課題も明らかになった。
 伝送速度の速い電波を使って、短時間に書籍情報を送る技術も開発されている。衛星データ放送を使った「スペースインク」は、スカイパーフェクTVのアンテナとチューナーを経由して受信した新聞の紙面を、パソコン上で表示する。
 受信画面は部分的に文字が隠されているが、インターネット経由で閲覧料金を支払い、暗号鍵(かぎ)を入手すると、全文が読めるという仕組み。ページめくりや、部分を拡大する画面の動きも素早い。
 実際の紙面作りの過程で、印刷に回す前の紙面データをそのまま使っているので、「提供者側の特別な編集作業は不要。読み手も違和感なく読める」と、スペースインク社の蓮池曜(あきら)社長は説明する。現在はスポーツ紙と夕刊紙の2紙を提供しているだけだが、自治体の広報や雑誌などにも範囲を広げていきたいという。
 電子方式が格段に有利になるのは、大きく重い辞典類だ。特に百科事典は検索の速さや、関連情報にジャンプできる「リンク」機構、動画、音声の再生など多彩な機能で、紙版の市場を駆逐している。
 日立デジタル平凡社が2月に発売した「世界大百科事典」は、1931年に刊行した事典と現代版を比較したディスクを添付。70年間の文化の移り変わりを簡単に知ることができる。
 優れた点の多い電子書籍だが、解決すべき課題の一つが料金だ。インターネットでの支払い方法は、多種類の方式が乱立している。また不正コピーを防ぎ、読み手の利便性も兼ね備える技術も、試行錯誤の途上だ。
 電子出版関連のソフト開発を手がけるボイジャーの萩野正昭社長は、「ちょっと立ち読みをするような感覚を、電子書籍の世界にも実現する必要がある」と語る。
 デジタル書籍は、機能的には紙をしのいだが、使い勝手を含めた全体的な浸透は、まだこれからといえそうだ。

 

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『読売新聞』2000.03.08
村上龍さんの新作小説 ネットで出版、完売 オンデマンドで1000部製本
東京朝刊
 インターネットによるオンデマンド出版で発売された作家の村上龍さんの新作小説「共生虫」が五日間で限定千部を完売した。読者から注文を受けてから印刷・製本・配達するというこの方式の成功は、現在の書籍流通を根本から変える可能性があり、改めて出版界の注目を集めそうだ。
 「共生虫」は、引きこもりの青年を通じてインターネット・コミュニケーションの病理を描く作品。単行本は講談社から今月二十一日に刊行されるが、村上さんが、富士ゼロックスのオンデマンド出版サービス「BookPark」(http://www.bookpark.ne.jp/)での実験的な先行販売を強く希望、一日から講談社も協力する形で実現した。
 オンデマンド版は、装丁は単行本と共通だが、版型も活字体も異なるオリジナル。印刷・製本の機械がまだ高価なことなどから価格は三千円(送料別)で単行本の二倍。ただし、通常の販売ルートを通らないため、作家へ支払われる著作権使用料は定価の30%と、通常の印税(約10%)より有利になっている。
 村上さんは「オンデマンド出版は、電子書籍と違い、紙の本として直接読者に届くのが僕にとっては魅力的。インターネットはまだ作家にとって金銭的利益を生むようなものではないが、いろいろ試行錯誤してみたい」と語り、小説に連動するサイト(http://www.kyoseichu.com/)を開く。
 (石田汗太)

 

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『読売新聞』2000.04.11
[ITのガリバーたち](1)ソフトウエア マイクロソフト(連載)
東京朝刊
 ◆新たな市場
 米シアトル郊外のマイクロソフト本社の敷地内には、事業の拡大と歩調を合わせて次々と新しいビルが建てられている。二か月前にも、また一つ新しい建物ができた。「五年後の一般家庭」を想像して作ったという新技術の展示施設「マイクロソフトホーム」だ。
 二階にあるキッチンを案内してくれたクレイグ・マンディ上級副社長は、流し台の上の菓子箱からキャンデーのケースを取り出すと、バーコードを解読する小型のリーダー(読み取り機)をあててみせた。
 「ピッ」という音とともにパソコン画面の買い物リストに「キャンデー」が加わった。買い物リストはテレビでも確認できる。キャンデーがなくなってケースを捨てると、自動的に買い物リストに加わるようにすることもできるという。
 書斎の本や辞典は、インターネットを通じてハードディスクに文字情報を取り込んだ「電子書籍」だ。応接間にはデジタルテレビが置かれ、隣の居間にあるDVD(デジタル多用途ディスク)からネットワークで情報を呼び出して再生できる。
 家中の機器が、ネットワークでつながれ、離れた場所でも遠隔操作で情報をやりとりできるこの“家庭”こそマイクロソフトが狙う次世代の市場だ。
 ◆「家庭革命」で覇権狙う
 マイクロソフトは、八〇年代以降、パソコン向けのソフトウエアを通じて、企業の情報通信革命を牽引(けんいん)してきた。だが、パソコンの市場は、過去二十年間のような高い成長率は期待できない。これからは、パソコンという枠を超えて、いかに深く家庭に浸透するかが勝負になる。
 マイクロソフトが家庭市場攻略の中核と位置付けているのが、家庭用のネットワーク接続技術「ユニバーサル・プラグ・アンド・プレイ」だ。既存のインターネット技術を使っているのが特徴で、規格の統一を進めるフォーラムには、すでに日本の家電メーカーなど百十社以上が参加している。
 ネットワーク技術の世界では、さまざまな規格が乱立している。「反マイクロソフト陣営」の代表格であるサン・マイクロシステムズは「ジニー」と名付けたソフトで、ソニーなど家電メーカーの囲い込みに必死だ。マイクロソフトもうかうかしてはいられない。
 ◆主導権争い
 激しい主導権争いの中でマンディ上級副社長は「インターネットの世界で、オープンさが大事だということを学んできた。マイクロソフトだけが標準規格を握るつもりはない。あらゆるソフトウエア製品と技術を組み合わせれば、勝ち残れる」と、ネットワーク接続技術の公開によって陣営を拡大し、家庭用市場でも覇権を握ることに意欲を見せる。
 マイクロソフトは、他社製品の良い点をいち早く取り入れたりする事業戦略やマーケティングの力で急成長してきた。中でも、ビル・ゲイツ会長の「ウィンドウズ」陣営作りのうまさは際立った。しかし、インターネット上で無料配布されている基本ソフト(OS)のリナックスのように、ネットの普及は「ウィンドウズ」に代わる選択肢をハイテク業界や消費者に提示するようになった。
 しかも、これから主戦場となる「家庭ネットワーク革命」は、家電メーカーも巻き込んだゼロからの戦いになる。
 ビル・ゲイツ会長は今年一月、最高経営責任者(CEO)を退き、「最高ソフトウエア設計者」という新しいポストに就いた。側近として消費者向け製品事業を統括するマンディ上級副社長は「ビルは雑事から解き放たれ、戦略立案とソフト設計に集中できる。ビルは本気さ」と話す。
 生来の「技術オタク」であるゲイツ氏の新戦略が「新生マイクロソフト」誕生の最初のステップとなるのかどうか、答えが出るのは遠くない。(シアトルで、小山 守生、写真も)
    ◇
 アメリカの好景気を引っ張っているのがIT(情報技術)業界だ。主要企業は「インターネット」をキーワードに大胆な事業転換を図り、さらなる成長を目指して挑戦を続けている。一方で、技術の進歩が激しいIT業界では、いつ主役の座から転落するかも分からない。マイクロソフトやIBMなどIT革命の主役たちは、どこに行こうとしているのか。アメリカの最前線から報告する。

 

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『読売新聞』2000.04.21
シャープが50万人に情報提供 「スペースタウン」の会員を倍増へ
大阪朝刊
 シャープは二十日、インターネットを通じて電子書籍の配信などを行う情報提供サービス「スペースタウン」の会員を、二〇〇一年三月までに現在の二・五倍の五十万人に増やす計画を明らかにした。配信する電子書籍の種類を増やすなど、外部の企業と提携して提供するコンテンツ(情報の中身)を充実させ、インターネット接続ができる携帯情報端末「ザウルス」などの販売と相乗効果を狙う。
 コンテンツの拡充は、電子書籍の有料配信サービス「ザウルス文庫」やインターネットでの証券取引、地図情報提供などを柱に進める。ザウルス文庫では、既に光文社、旺文社の二社の文庫本約六百冊を配信しているが、近く徳間書店、講談社が加わるほか、文芸春秋、中央公論新社などとも交渉中で、数千冊規模の配信を目指す。
 スペースタウンは、ザウルスなどシャープの情報端末の購入者を主な対象に、九九年三月にスタートした。

 

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『読売新聞』2000.05.28
[e−ライフIT+経済]「電子ブック」読んでみました ネットで取り込み
大阪朝刊
 ◆小説、写真集…ネットで取り込み
 電子ブックをご存じだろうか。インターネットを使い、パソコンや携帯情報端末に電子情報として本を取り込み、画面で読む。書店に足を運ぶことも、紙をめくることもなく、本が読める。その数も徐々に増え、2000年を「電子ブック元年」と位置づける人もいる。           
                             (実森 出)
              ◇
 ■ザウルスで
 外で仕事をする時間の長い記者にとって、本は、持ち歩いて読むケースが圧倒的に多い。それなら、いっそ、電子ブックが便利ではないだろうかと思った。そこで、シャープの携帯情報端末「ザウルス」を使ってトライする。
 まずは、インターネットに接続しなければならない。この手の話は、なにをするにもインターネットだ。ザウルスに、手持ちのPHSを接続して、インターネットにつなぎ、シャープのホームページ「スペースタウン」に飛ぶ。ここには、電子ブックの「ザウルス文庫」が入っている。
 このサービスを利用するには、スペースタウンの「情報会員」になる必要がある。名前、住所、電話番号などを登録し、パスワード(暗証)などをもらう。情報会員になるのに料金はかからない。
 現在、ザウルス文庫には「光文社電子書店」「旺文社モバイル書店」の2つが出店している。光文社は600冊が入っており、ミステリー&推理、歴史・時代――などのジャンルに分かれている。旺文社は30冊と少ないが、すでに絶版になり、インターネットでしか見られないという「幻の旺文社文庫」がある。
 ■モルグ街の殺人
 どちらの文庫も、作品のリストが出て、ひとつひとつ、内容が紹介してある。旺文社のリストの中から、推理小説の記念碑とされるエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」を選んだ。
 料金は、普通の文庫本と同じように、分量をベースに決めているようだ。光文社は500円から800円で、旺文社は短編が多く、100円、200円と安い。「モルグ街の殺人」は100円となっている。
 「情報会員」のパスワードなどを入れ、支払い方法をクレジットカードにした後、いよいよ受信を始める。
 画面に出た説明を見ると、受信時間は、長い場合は、5分から15分くらいかかるとある。インターネットに熱中すると、つい電話料金がかかっていることを忘れる。時間がかかれば、電話料金の分だけ本の値段も高くなる。少々心配したが、「モルグ街の殺人」の受信は、20秒で完了した。これなら、電話料金もたいしたことはない。
 ■読み心地は
 さて、そうして受信した電子ブックの読み心地はというと、白と黒のコントラストは紙には及ばないものの、文字は思ったより読みやすい。
 新しい行を自分の読みやすいところまで次々に表示するので、ページというものがない。だから、本を読んでいるという気はしないが、勢いにのるとどんどん進める。
 デジタルだけにいろんなことができる。縦書き、横書きを自由に変えることができ、文字の大きさも調節できる。お年寄りにも便利だ。
 辞書機能もある。
 たとえば、文中の「鍛錬」という語句にカーソルを合わせると、自動的に小窓が開く。国語、漢和、英和、和英の4種類から、国語辞典を開くと「たんれん。心身を鍛えたり、技をみがくこと」と出てきた。和英辞典を選ぶと「training」「discipline」などと出てきた。
 これは重宝する。
 ■パソコンで
 電子ブックはパソコンでも買うことができる。今度は、95年にフジオンラインシステムが始めた電子書籍の老舗(しにせ)「電子書店パピレス」のホームページにつないだ。こちらは文庫だけではなく、一般の書籍も扱っている。画面が大きいから写真集が見ばえすると思い、「ニッポン空中散歩・山岳(東海・中部・北陸編)」(オンライン出版刊、450円)を買う。
 手持ちのノートパソコンには、電子ブックを読むためのソフトが入っていないので、「パピレス」のホームページから取り込む。これは無料だ。ところが、トラブルが発生した。何度やってもソフトが取り込めない。深夜、別のデスクトップのパソコンで再挑戦した。同じ手順でやってみたが、不思議なことに今度はスムーズにいった。パソコンの世界では「相性が悪い」というらしい。
 ソフトは30分、写真集も30分、合わせて1時間で取り込みが完了した。パソコンの画面には、富士山や北アルプスの雄大な風景が広がり、いい気分だった。
          ………………………………………
 《書店で買えぬ作品も》 
 電子ブックの配信事業の形態は〈1〉出版社が図書の電子化から販売まで手がける〈2〉biglobeや@niftyなどのプロバイダーが会員向けに仲介する−−などに分かれる。
 電子書店パピレスは現在2650冊を販売しており、毎月100冊ずつ増えている。「光文社電子書店」や、凸版印刷の「Bitway」も扱っている本の冊数が多く、人気を集めている。
 シャープは、ザウルス文庫の拡大を考えている。光文社、旺文社の2社に、講談社、徳間書店など7社を加え、今年秋までに計1000冊をそろえる予定といい、eコマース(電子商取引)は本から始める方針だ。
 このほか、著作権が切れた作家の作品をデータベース化して無料で公開している「青空文庫」や、一般の書店には流通していない作家のコラムや日記を販売する@niftyの「ほん・まるしぇ」などユニークな展開も見られる。インターネットを通じた電子ブックの配信は活発だ。

 

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『読売新聞』2000.06.21
文芸作も著作権証明 作家・鐸木氏ら準備サイトを立ち上げ
東京朝刊
 インターネットによるコンテンツ配信の普及により、盗作、改ざん、違法配布などの被害に遭いやすい文芸作品の著作権そのものを証明するシステムを作ろうと、作家・鐸木能光(たくきよしみつ)さんとニフティ推理小説フォーラム統括システムオペレーター・斎藤肇さんが、著作権証明機構の準備サイトをこのほど立ち上げた。
 このサイトは、インターネットを表現の場とする作家たちが「だれが何をいつ作り出したかわかる」システムを確立しようというもの。
 このためフリーソフトを使って作品を暗号化した圧縮ファイルに変換、パスワードを入力しないと元に戻らないようにしたうえで著作権証明サイトに登録する方法を考えている。
 きっかけとなったのは、鐸木さん自身が作家の佐伯一麦(かずみ)さん、森下一仁(かつひと)さんと、「文藝ネット」(http://bungei.net)という小説の電子配信サイトを作った体験から。鐸木さんは「デジタル配信が先行している作品は常に盗作・改ざんの危険にさらされているし、疑わしい事例が実際多くある」という。
 文芸作品の著作権については、日本文芸著作権保護同盟など三団体が著作権者の委託により作品の利用許諾や使用料徴収などの業務を行っているが、著作権の証明機能を持ってはいない。また、世界的にも著作権証明制度があるのは、特許のように著作権を登録するシステムがある南米の一部の国だけだ。
 一方、最近激増しているオンライン書店のなかには、文芸作品をテキスト形式のファイルでダウンロードできるところもあり、ワープロやエディターで簡単にコピーや加工ができる。そのため日本推理作家協会は三月、「電子書籍の販売・配布はテキスト形式のファイルですべきではない」という見解をまとめている。
 鐸木さんは、「オリジナルの権利を主張し、証明できるシステムを今のうちに確立しておかないと、デジタル時代は表現活動の無法時代になりかねない。よりよいシステム作りの布石になりたい」と話している。
 準備サイトのアドレスは、http://chosakuken.org
    (早乙女泰子)

 

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『朝日新聞』2000年07月11日
朝刊
液晶表示で東芝と提携 マイクロソフト
 東芝は十日、液晶上で多量の文字を読みやすく表示できる技術で、米マイクロソフトと提携すると発表した。パソコンや携帯端末を使って書籍をインターネット配信する電子書籍などに使うことができる。東芝は、ノートパソコンや持ち運び可能なDVD(デジタル多用途ディスク)プレーヤー向けの解像度の高い液晶を、マイクロソフトのブランドを生かして電子書籍向け液晶の業界標準とする狙い。来年四月までに月産五万五千枚の生産を目指す。
 東芝は業界で初めて「低温ポリシリコン」とよばれる基盤上の配線間隔を微細にした解像度の高い液晶画面を開発。一方、書籍のネット配信に力を入れているマイクロソフトは、液晶上で文字情報を読みやすくする独自の技術をもっている。今回の提携で、両社はそれぞれの技術を組み合わせて、一インチあたり百五十画素と銀塩写真に近い高精細の画像の実現を目指す。

 

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『読売新聞』2000.07.11
東芝・マイクロソフト、液晶装置を共同開発 電子書籍の表示用
東京朝刊
 【ニューヨーク10日=坂本裕寿】東芝と米マイクロソフトは十日、電子書籍(eBOOK)用の端末に使われる液晶表示装置を共同で開発すると発表した。
 共同開発するのは、インターネットを通じて配信される書籍や雑誌を見る場合に使う端末の表示装置で、年内の製品化を目指す。
 東芝の「低温ポリシリコン液晶技術」とマイクロソフトが開発した電子活字の解像度を上げる技術を組み合わせることで、小型画面上でもカラーグラビア印刷並みの精密な画質と、なめらかな活字を実現できるという。新たな液晶表示装置は縦型のペーパーバックサイズで、小型画面をスクロールせず、一定量の活字や画像をそのまま見ることができる点が特徴だ。
 東芝の低温ポリシリコン液晶は従来型の液晶と比べると軽量化が可能で、すでにモバイル用ディスプレーや携帯用DVDプレーヤーなどに採用されている。

 

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◆2000/7/14 音声付き電子書籍は主流製品になるか
http://wiredvision.jp/archives/200007/2000071405.html
音声付き電子書籍は主流製品になるか
2000年7月14日
Kendra Mayfield 2000年07月14日
ジョージ・カーシャー氏が20代後半に視力を失い始めたとき、当時の教師は、同氏はこれまでと同じように本を読むことはできなくなるだろうと思った。
網膜色素変性症という進行性の病気を患っているカーシャー氏は、印刷された本のページをたどることが不可能になったので、カセットテープを使ったオーディオ・ブックを聞きはじめた。おかげで本を読むことができるようになったとはいえ、オーディオ・ブックには限界があった。カーシャー氏はページをめくることもできないし、流し読みして必要な部分を見つけ出すこともできなかった。必要な情報を得るには、何時間も我慢して録音を聞かなければならなかった。
「文章に合成音声を付けて情報を得られるようにするというのはとても重要なことではあるが、この方法はあくまで代用的なものだ」とカーシャー氏は言う。
だが、まもなくカーシャー氏は、障害者の読書法に大変革を起こしうる新技術を見つけた。音声付き電子書籍だ。
「本を読みながら同時に音声でも聞けるという機能を、誰もが楽しむようになってきていることに私は気づいた」とカーシャー氏。同氏は現在『視覚障害者および読書障害者のための録音』(RFB&D)という団体の理事だ。「たくさんの人々が音声付き電子書籍を好むようになるだろうと考えている。……普段は読書嫌いの子どもたちも、この機能のおかげで読書を楽しむようになるだろう」
カーシャー氏は現在、およそ40の図書館と非営利団体で組織されている国際的なグループ『デイジー・コンソーシアム』を率いている。デイジー・コンソーシアムは、次世代の音声付き電子書籍の世界標準の確立を目指している団体だ。デイジー(DAISY)とは、『デジタル音声ベース情報システム』(Digital Audio-based Information System)の頭文字だ。
このデイジーを使えば、目の不自由な人や、印刷された文字を読むのに障害を持つ人々が、合成音声ではなく、デジタル録音された人間の声で聞くことができるようになるのだ。
「われわれには、読書に対する基本的な権利を可能にするという共通した目標がある」と語るのは、デイジー・コンソーシアムのメンバーで、イギリスの『盲人のための王立国民協会』の上級責任者でもあるピーター・オズボーン氏。「社会のいかなる層も除外されないように、情報アクセスの機会を確実に分かち合っていけるようにしたい」
デイジー・コンソーシアムは、『W3C』、『オープン・イーブック』、『全米情報標準機構』(NISO)のそれぞれの標準規格を一本化しようとしている。
「われわれは、生まれつつあるこれらの標準規格を検討してみた。目の不自由な人や、印刷された文字を読む上で障害を持つ人々にとって、一番効果のあるやり方でこれらの標準規格を使うにはどうすればいいかを検討するためだ」とカーシャー氏は語る。「どの標準規格も、同じような技術を目指しており、物事を実行するための新たな方法に向かっている」
「デジタル化による副産物の1つに、障害を持つ人々にとって困難が拡大するということがある。だが、世界標準を確立することによって、その格差の大部分を埋められるようになる」と、RFB&Dのリチャード・スクリブナー会長は語る。
音声付き電子書籍の標準確立に関する大きなサポートとして、米マイクロソフト社は最近、コンソーシアムの活動に対して金銭的および技術的サポートをするという計画を発表した。マイクロソフト社は同社の製品、『マイクロソフト・リーダー』用の『オーディオパブリッシャー』(AudioPublisher)の売上の25%を寄付するという。オーディオパブリッシャーは、電子書籍に情報を追加できるツールで、同期した音声ナレーションが可能になる。
これによってコンソーシアムは、商業出版社の主要製品に、デジタル音声機能を採用してもらいやすくなるだろう。
「極めて重要な第一歩であり、他の出版社やソフトウェア・プロバイダーの手本となるものだ」と、スクリブナー会長は語る。
「これは、他の組織をこの方向に動かすための、最初の大きな刺激となるだろう」と、カーシャー氏も賛同する。「彼らは、電子書籍読者にとって、音声とテキストが組み合わさることがどれほど重要なのかを認識したのだ」
オーディオ・テープの欠点は、テープ走行が限定されているところだ。ユーザーは前方向、あるいは逆方向にしか使用できない。そのため視覚障害者は、健常者が本を読むようにはオーディオ・ブックを聞くことができないとカーシャー氏は語る。たとえば、料理のレシピを探したり、ガーデニングのヒントを探したりする場合には、とても時間がかかってしまう。
しかし、音声付き電子書籍を使えば、ユーザーはさまざまなページ、章、文章を自由に飛び回ることができる。ある言葉を検索することもできるし、特別なキーパッドを使って、好きな箇所から音声を再生することもできる。
「音声付き電子書籍は、印刷された書籍と同じくらい自由に、ページ内を行ったり来たりできる」とカーシャー氏は語る。「見ることと聞くことが同時にできる、ということは大きな利点なのだ」
また、RFB&Dの最近の研究では、音声付き電子書籍を使った学生のうち15%が、理解が深まり、読書量と読書の楽しみが増加したという結果が得られたという。眼と耳を同時に使うことによって、注意力が散漫にならず、読書障害や注意欠陥障害をもつ学生がより速く読めるようになるとカーシャー氏は語った。
マイクロソフト・リーダー用に、文章と音声の同期技術のライセンス供与を行なっているisサウンド社のマーク・ハッキネン最高技術責任者(CTO)は、「アカデミックな分野に大きな価値を見いだしている」と語る。
本文と音声が同期しているので、教科書の中にある挿し絵を見るだけでなく、あわせてその説明を聞くこともできるようになる。こうした改良は、障害を持つ学生だけでなく、一般ユーザーにとっても便利だろうというのだ。
「障害者の問題に限らない。幅広いユーザーに役立つものだ。誰にとってもすばらしいものだ」とハッキネンCTO。
電子書籍を再生できるCDプレーヤーや携帯機器はすでにいくつか発売されているが、音声付き電子書籍はなかなか主要販売網で販売されるようにならない。
「この製品が採用されるにあたっての現在の最大の課題は、コンテンツが手に入りにくいことだ」と、カーシャー氏は語る。電子書籍と音声付き電子書籍は完全に互換性があるが、電子出版社は、電子書籍用デバイスの需要をつくりだすのに充分なコンテンツ作成に関して現在奮闘している最中だ。
他の電子書籍でも同じだが、著作権上の懸念が、音声付き電子書籍が主流製品として受けいれられるのを妨げる可能性がある。
「この問題が解決されれば、電子書籍と音声付き電子書籍は大きく飛躍することだろう」と、スクリブナー会長は語る。
もう1つの課題は、世界レベルの共通標準の確立だ。これには、複数言語サポートの開発が必要となる。これを解決するために、世界中で同じ録音技術と再生技術を提供できる言語開発ツールキットが準備されている。
スクリーン表示技術の改良や、操作のための音声認識技術の内蔵など、将来的な改良によっても、次世代の電子書籍は利用者を拡大していけるだろう。
カーシャー氏は、2001年という早い段階で、音声付き電子書籍は主流製品になるだろうと予測している。「自動車用の音声付き電子書籍プレーヤーが開発されれば(大きく飛躍するだろう)」
[日本語版:森さやか/岩坂 彰]

 

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『朝日新聞』2000年07月17日
朝刊
読めます絶版文庫 デジタル化で復刊容易に 出版ルート開拓も狙う
 石川達三「人間の壁」、ソルジェニーツィン「収容所群島」……。こんな品切れ・絶版の文庫本をデジタル化して復刊する動きが目立つ。インターネットによるダウンロードやCD−ROMで販売することで、出版社は在庫スペースを節約でき、読者は需要があまりない本でも入手できるようになる。出版不況の中で各社は、絶版文庫のデジタル化をてこに新たな流通ルートを模索している。(学芸部・白石明彦、馬場秀司)
 文庫本は現在、約六十五社が百六十種類以上を出している。新刊は昨年だけで六千三百二十点(出版科学研究所調べ)。一年で品切れになるものがざらだ。
 大手の徳間書店、文芸春秋、角川書店、新潮社、光文社、講談社、集英社、中央公論新社は、九月にインターネット上で「電子文庫パブリ」を立ち上げる。お客は絶版・品切れを中心にした文庫本をホームページで選び、テキストデータをダウンロードしてパソコンの画面で読む。有料で、一冊がほぼ文庫本と同程度。運営が軌道に乗ったら、加入社は随時増やすという。
 ○使いやすい端末を
 その方向性について、角川書店書籍事業部の新名新(にいなしん)管理課長は「品切れ・絶版の文庫が入手できるだけではなく、例えば短編集を出す前に一部を電子本で先行販売するなど、新しいメディアとしてとらえている」と話す。
 徳間書店は「パブリ」に先行して、先月から携帯情報端末へのテキスト配信を始めた。最初のラインナップは星新一「できそこない博物館」、西村寿行「蒼き海の伝説」など三十冊。一日平均十五冊売れている。三浦厚志・著作権管理室長は「使いやすい端末の開発などによりニーズが高まることを期待している」という。
 ○違法コピーに対策
 デジタル化されたテキストは簡単にコピーできるため、著作権の保護が課題になる。角川書店など四社は「パブリ」で、お客がテキストをダウンロードする時、その人を特定できるID番号をデータに埋め込むシステムを採用した。テキストを違法コピーして他人に譲った場合、ID番号で特定できる仕組みだ。
 本のデジタル化で先べんをつけたのは、富士通が出資するフジオンラインシステムの「電子書店パピレス」。一九九五年以来約三千八百点の在庫をそろえ、月平均約一万五千冊売れている。うち絶版本は約二割。天谷幹夫社長は「まだ赤字だが、冊数をさらに増やし、ビジネスとして軌道に乗せたい」と語る。
 ○在庫スペース節約
 一方、新潮社は四月に、CD−ROM版新潮文庫の第五弾として絶版だけを集めた「新潮文庫の絶版100冊」を出した。百点百五十八冊、五万五千ページ分の絶版文庫を収め、「人間の壁」「収容所群島」など名作が並ぶ。本体価格一万六千円で、一冊分にすると約百円と安い。中高年の男性を中心に四千枚売れ、もう少しで採算ベースにのる。
 本の流通システムで在庫スペースの確保は大きな問題になっているが、「質量ゼロ」の電子本はそれを軽々とクリアする。紙の本が将来なくなると考える出版人はまずいないが、デジタル化は、本に永遠の命を吹き込む策ともいえる。

 

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『読売新聞』2000.07.19
[サイバー・トーク]ディック・ブラス氏 電子ブックで識字率も向上
東京朝刊
 ◇マイクロソフト 技術開発副社長 
 手のひらサイズの携帯情報端末の発売が相次いでいるが、マイクロソフト社の米国版「ポケットPC」の売り物は電子ブック機能だ。これらの普及のため同社が提唱している標準ファイル規格「オープンeブック」と、電子ブックを読みやすくするソフト「マイクロソフト・リーダー」の開発者に聞いた。
 ――「オープンeブック」とはどのようなものか。
 電子ブックにはこれまで統一した規格がなく、出版社や電子書店が違えば同じ機械で見ることは出来なかった。オープンeブックはこれを統一するための規格で、昨年十月、米国の出版社、ソフト会社、パソコンメーカーなど約百社が採用に合意した。世界標準化を目指し、日本の出版社などとも話し合いを持っており、年末までには合意ができると思う。
 ――電子ブックのためのリーダーはどんなソフトか。
 液晶画面で文字の解像度を高めるフォント技術「クリアタイプ」を使い、十分なマージンや適切な文字間隔などで、紙の本のようなスタイルで文章を表示するソフトだ。しおり、注釈、辞書など多様な機能を備え、手のひらサイズのパソコンなら五百冊、デスクトップなら五万冊の本が格納できる。
 ――クリアタイプの日本語への適応は。
 ローマ字に比べてわずかに落ちるが、見かけ上は英語と同じようにきれいになる。今月、東芝とクリアタイプを用いた電子ブック用液晶ディスプレーを共同開発することが決まり、年内に製品化する予定だ。
 ――著作権侵害に対するリーダーの対策は。
 コピー防止機能を備えており、作者や出版社の希望により、たとえば一回しか読めない、数日間だけ読める、部分的にコピーできる、コピー自由など、柔軟な設定ができる。
 音楽のナプスターに見られるように、若者はデジタルなものはコピー自由と考える傾向があるが、若者とのコミュニケーション、啓もう活動にも力を入れたい。
 ――電子ブックの普及による活字文化の将来像は。
 電子ブックは、紙の本のように簡単に絶版されることがないうえ、だれにでも読んでもらえる可能性を作る。私は昨年、十五年以内に、発行される本の半分以上が電子的になると予測したが、電子化のスピードは予測不能なほど速まっている。
 安く楽に本を手に入れることが出来るため、世界の貧しい地域でも、大学並みの図書館と変わらない蔵書にアクセスでき、識字率も上がると期待している。(インタビュー・早乙女泰子)

 

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『朝日新聞』2000年08月29日
朝刊
スティーブン・キング話題作、ネットで販売 邦訳、書店に先駆け
 米国の人気ホラー作家スティーブン・キングの話題作「ライディング・ザ・ブレット」の邦訳版(白石朗・訳)が、九月六日から書店に先駆けインターネット上で販売される。
 「ライディング・ザ・ブレット」は今年三月、米国でインターネット上の電子書籍として発表され、発売後二日間で五十万部がダウンロードされたという。通常の書籍として発売されるのは今回の邦訳版が世界初。
 インターネットで書籍を販売している「ビー・オー・エル・ジャパン」(本社・東京都渋谷区)が国内で二カ月間独占的に先行販売する(http://www.jp.bol.com)。十一月六日からは全国の書店で販売される。アーティストハウス刊、本体千円。

 

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『読売新聞』2000.08.31
ネット経由で電子書籍販売 角川書店など大手出版8社が開設
東京朝刊
 角川書店、講談社、中央公論新社など大手出版社8社は30日、インターネット経由で電子書籍を販売するサイト『電子文庫パブリ』(http://www.paburi.com)を9月1日正午に共同でオープンさせると発表した。電子書籍はデジタル化した本の情報をダウンロードしてパソコンで読めるようにしたもの。書店で入手の難しい品切れ本を中心に約1000冊の電子書籍がクレジットカードで購入出来る。価格は1冊500円から800円程度。

 

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『朝日新聞』2000年09月05日
朝刊
「高齢者」には電子本が最適(声) 【名古屋】
 会社員 矢野寛(愛知県安城市 53歳)
 パソコンを私も使いたい、という主婦や高齢者が講習会に参加し、デジタル写真の処理やメール交換を目的としてパソコンを習っているという。そんな方に、これぞ「高齢者御用達」とでもいえるパソコンの機能をご紹介しよう。それは、一般に電子出版物といわれる、読書好きの高齢者にとっては福音ともいえるソフトだ。
 電子図書館「青空文庫」では、夏目漱石ら、著作権の切れた作家の膨大な作品をインターネットを通して無料で読むことが出来る。「シャーロックホームズ全集」や「文庫本百冊」なども一枚のCD−ROMに収められている。また、インターネットで購入する「電子書籍」は文庫本上下二巻で、千ページほどを居ながらにして十分くらいで入手することが出来る。といっても、これだけでは「高齢者必需品」にはならない。
 パソコンで本を読む最大のメリットは、表示される活字の大きさを自由に変えることが出来る点である。文庫本の文字の何倍にも拡大出来るので、老眼鏡を必要としない。しかも、ページめくりはポンとキーをたたくだけ。
 将来、書店では、紙の本と同じ内容の電子本が売り場に並び、本探しを楽しみつつ、買うのはCD−ROMということになるかもしれない。

 

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『読売新聞』2000.09.11
[ひと]元“反パソコン派”がHP 「本の雑誌」発行人・目黒考二さ
東京夕刊
 「反パソコン派を標榜(ひょうぼう)していたのに、一度手にしたら面白くてはまってしまって……」と苦笑いするのは、評論家北上次郎としても活躍する「本の雑誌」発行人、目黒考二さん(53)=写真=。パソコン熱が高じて、本好きのためのホームページ「WEB本の雑誌」(http://www.webdokusho.com)を十一日から立ち上げることになった。
 他のホームページにはない特色をと知恵をしぼったのが「読書相談室」。目黒さんのほか大森望、池上冬樹さんら七人のプロ書評家が「新幹線の中で読むべき本は?」などといった質問メールに無料で答えてくれるという。「若いころ、夢物語と考えていた」という読書相談の“専門会社”インターネットによって実現した形だ。
 毎月十点の新刊を十五人の採点員が品定めするコーナーも設けられるが、創刊以来二十五年間、ベストセラー本の論評は避けてきた同誌のウェブ版だけに、読書人好みの硬派な選定となりそう。
 パソコン画面で読む電子書籍の登場などネット社会は本の読み方や形も変えつつある。「デジタル化で絶版本が簡単に読めるのはありがたいけれど、心理的には今の紙の本の形のほうが楽しめる。両立していくのが一番です」

 

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『読売新聞』2000.09.16
時期尚早? 日本の電子書籍
東京夕刊
 モダンホラーの旗手スティーヴン・キングは、電子書籍の分野でも先頭を走っている。今年三月には、インターネットを利用してダウンロードする電子書籍の形で出版した新作『ライディング・ザ・ブレット』が、二日で五十万部を売って全米で話題を呼んだが、いよいよこの作品の翻訳版が日本でも売り出された。
 やはり書店には並ばず、オンラインショップ「ビー・オー・エル」(www.jp.bol.com)だけでの先行発売。ただし、電子書籍ではなく、通常の新刊単行本を、ネットを介して販売するというシステムだ。十一月六日以降は書店でも販売する。パソコンの普及率がアメリカに比べまだ低い、などの状況から、電子書籍での販売は見送られた。
 本の出版に革命を起こそうとしたキングの意図が、完全には生かされなかった形。反面、紙で読めた方がありがたいと、正直思ってもしまうのだが……。(佐)

 

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『朝日新聞』2000年09月28日
朝刊
活字スラスラ、手のひら液晶 高精細な画像可能に 東芝が開発
 東芝は27日、インターネットを使って携帯端末で本が読める電子書籍用の液晶画面を開発した、と発表した。米マイクロソフトと東芝が共同でつくった端末の仕様に沿ったもので、グラビア印刷並みのカラー画像が表現できる低温ポリシリコンを液晶に採用している。2001年初めに量産に入る計画だ。
 低温ポリシリコンは、液晶画面を制御する回路の線幅を現在のアモルファス液晶より細かく加工できるため、より高精細な画像表現が可能となる。また、部品点数が40%削減でき、コスト安で振動にも強いため、持ち運んで使用するノート型パソコンや携帯情報端末などに適している。
 試作した画面は、ペーパーバックと同じ大きさの7.7型=写真。価格は10万円。活字を滑らかな字体で再現するマイクロソフトの電子書籍用ソフトに対応している。

 

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『読売新聞』2000.09.28
電子書籍を高画質で表示 東芝、液晶装置を商品化 米マイクロソフトと共同開発
東京朝刊
 東芝は二十七日、米マイクロソフトと共同開発した電子書籍(eBOOK)をグラビア印刷並みに表示するための専用液晶装置=写真=を商品化し、十月から企業向けに出荷すると発表した。日本で実際に店頭で販売されるのは二〇〇一年以降となる予定だ。
 電子書籍はインターネットやCD―ROMなどで配信される。現在はパソコンや携帯情報端末(PDA)などで表示しているが、新製品では小さな画面でも精密な画質や自然な字体を表示できるという。
 縦型のペーパーバックサイズ(対角二十センチ)で、厚さ五・七ミリ。画面を上下移動させなくても一ページ分の活字や画像をそのまま表示できる。東芝の低温ポリシリコンTFT液晶技術とマイクロソフトの電子活字の解像度を高める技術を組み合わせた。価格は十万円。
 電子書籍などを表示するための携帯情報端末機器は二〇〇三年には全世界で千八百万台の出荷が見込まれ、東芝は二〇〇三年時点で月産三十万台の出荷を目指している。

 

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『読売新聞』2000.10.29
[サンデーひろば]図書館 便利になったが、味気なさも 語学教師・杉山みすづ
大阪朝刊
 ◇34(兵庫県尼崎市)
 子供のころ、月一度の移動図書館が待ち遠しかった。だが、図書館が建設されて来なくなった。貸し出しは書き込み式からパソコンに代わり、今や検索もパソコンだ。とても便利になったが、少々味気ない。
 時代はIT(情報技術)革命。本と言えば電子ブックを指す時代が来るかも知れない。そうなれば、図書館へ行かなくてもネット上で本を検索し、必要なページだけ自宅のプリンターで打ち出す、ということも可能となるだろう。
 子供が大きくなるころ、図書館はどんな姿をしているだろう、と考える。便利になるのは結構だが、図書館へ出向いて親子で絵本を選ぶのも楽しい。いつまでも、そういうゆとりのある生活をしたい、と思った。

 

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『朝日新聞』2000年11月01日
朝刊
広がるオンデマンド出版 絶版復刊・作家自ら出版も
 在庫なし、注文に応じて一冊からでも本を作れる、オンデマンド出版が軌道にのり始めた。従来のオフセット印刷による出版が数千の部数を前提にするのに対し、少部数の本で強みを発揮する仕組みを使う。出版界の構造不況に風穴をあけたいと、印刷、出版、取次など各社が取り組んできた。絶版本の復刊や大活字本、作家本人による出版をはじめ、オンデマンドの特性をいかしたヒットも出ている。 (佐久間文子)

 書籍取次会社の日販が昨年十月に立ち上げた、オンデマンド出版の会社「ブッキング」のヒットは、三原順著『かくれちゃったのだぁれだ』(白泉社)。
 インターネットで絶版本の復刊リクエストをつのる「復刊ドットコム」の第一号で、初刷りの五百部すべてを「ブッキング」が買い取り、販売代行する条件で八月、復刊が実現した。元本が千二百円だったのに対し、オンデマンド版は二千五百円と割高だが、五日で完売。注文に応じて増刷し、千二百部を超えた。
 「百人のリクエストがあれば、千部売れるめどがたった」と左田野渉常務。ヒット作が出たことで、他の出版社との交渉も順調になってきた。一年前は月商十六万円だったが、今では千万円を超える月もあり、来年四月には年商二億円に達する見込みだ。
 巻数の多いシリーズ物は、巻によって売れゆきにばらつきがある。児童書出版の偕成社は、『県別ふるさとの民話』(全四十七巻)、『子どもと大人のための世界のむかし話』(二十巻)の品切れの巻を、オンデマンドで生き返らせることにした。注文から十日前後で手元に届けている。
 手掛けたのは「ブッキング」のライバル、トーハン出資の「デジタルパブリッシングサービス(DPS)」。絶版本のほか、大学教科書用の本などで売り上げを伸ばしている。自著の在庫が出版社にないので、講演会当日までに、百部刷ってほしい、といった著者からの注文もある。
 大日本印刷と季刊「本とコンピュータ」編集部は、オンデマンドで少部数出版のさまざまな可能性をためす。日本とスウェーデンの共同出版「HONCOインターナショナル」、入手しにくい資料を復刊する「レアブックス」などを既に出し、来年一月には、学術書の「アカデミック」(仮称)も予定している。
 品切れ・絶版本をインターネットでダウンロードできる出版社八社の共同事業「電子文庫パブリ」に参加する新潮社は、提供する電子書籍を、オンデマンド印刷本でも買えるようにした。
 富士ゼロックスの「ブックパーク」は、十三の出版社や作家の事務所のオンデマンド出版を請け負う。作家村上龍氏が、『共生虫』『希望の国のエクソダス』を、まずオンデマンド版で出したことでも話題を呼んだ。『小松左京全集』は単行本で百二十冊にもなる氏の文章からほしいものを選んで本にする、新しいタイプの個人全集だ。
 講談社と共同で十月十一日から始めた「源氏大学ドット・コム」でも、瀬戸内寂聴氏らの講義録から自分だけのテキストを編むことができる。瀬戸内氏が現代語訳した『源氏物語』(全十巻)の好きな帖(じょう)だけ買うことも可能だ。オンデマンド本の市場はまだ十億円に満たないが、「当初の『実験』から、『実用』になってきた」と広報担当の硲一郎さんはみる。
 ベネッセと角川書店の提携記者会見でも、両社社長はオンデマンド出版への取り組みを意欲的に語った。角川歴彦社長は「二百部ぐらいで採算をとることも可能。事実上絶版はなくなり版切れになった本のリストも今後は出版社の有力な資産になる」と話した。

 

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『読売新聞』2000.11.02
書籍ネット販売、日本でも本格化 米アマゾン・ドット・コムがHPを開設
東京朝刊
 ◆紀伊国屋書店「eブック」配信へ
 インターネットを使った書籍の販売が日本でも本格化し始めた。世界最大のオンライン書店である米アマゾン・ドット・コムは一日、日本語版ホームページを開設し、洋書と日本の書籍のネット販売を開始した。国内の書籍ネット販売最大手の紀伊国屋書店も同日、マイクロソフトと組んでパソコンや専用端末に市販本の内容を電子化して配信する「電子書籍(eブック)」事業を展開すると発表した。書籍のネット販売には大小様々な業者が参入済みだが、大手業者の新たな動きは今後、市場の勢力図を変える可能性もある。
 アマゾン・ドット・コムは、千葉県市川市に物流センターを置き、当面は日本の書籍百十万点、洋書六十万点以上をそろえて販売する。クリスマスや年末商戦を視野に入れ、年内は国内向けに限り配送料を無料にするという。
 一方、紀伊国屋書店は、eブック事業を来年半ばにも開始する方針だ。この方式なら本の流通や在庫管理の経費がかからず、一般の書籍よりも安価での提供が可能になるとしている。専用端末は、活字の風合いを再現できるような書体を採用するという。

 

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『朝日新聞』2000年11月25日
夕刊
電子辞書(売れ筋ランキング)
 ここ1年ほどで機種が増え、再び注目が集まっている。留学や出張を機に買う学生や会社員が多い。主にIC方式とディスク方式がある。ICはコンパクトでバッテリーが長持ちする。ディスクはソフトの入れ替えが可能で、発音の音質がいい。
 1位=写真=は英語専用機。研究社の「新英和・和英中辞典」、ロングマンの「現代英々辞典」、「ロジェ・シソーラス類語辞典」の4冊がひける。品薄になるほどの人気商品だ。2位はコンパクト。「広辞苑」、研究社の「新英和・和英中辞典」、「ロジェ2ザ・ニューシソーラス類語辞典」を収録。3位と4位は、辞書メディアが入れ替えられ、別売りの電子ブックも見られるディスク方式。3位は、定評のある「リーダーズ英和辞典」、「広辞苑」、「マイペディア」、「漢字源」などを搭載。4位は英語特化型。5位は「広辞苑」、「ジーニアス英和辞典」など4冊を収録。
    商品名     製造・販売元       価格(円)
 (1)SR8000  セイコーインスツルメンツ 31,000
 (2)SR900   セイコーインスツルメンツ 26,600
 (3)DD−S35  ソニー          36,800
 (4)DD−S25  ソニー          36,800
 (5)XD−2000 カシオ計算機       27,300
 (価格は店頭価格、10月21日〜11月20日 紀伊国屋書店アドホック店調べ)

 

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『読売新聞』2000.11.25
[読まれています]「ライディング・ザ・ブレット」スティーヴン・キング著
東京夕刊
 ◆人生考えさせる結末
◆「ライディング・ザ・ブレット」 スティーヴン・キング著
 オンラインショップでの先行販売が話題となったキングの新作が、今月から一般の書店にも並び、たちまち十万部を超えた。
 母親が病気で倒れたという連絡を受けた大学生のアランは、ヒッチハイクで故郷へ向かう。夜、町はずれの墓場に立つアランの前に現れた車は――。
 ホラー仕立ての短編は、墓碑銘や遊園地の記念バッジといった小道具が効果的に使われ、暗やみで突然肩をたたかれるような恐怖が味わえる。表題の「ブレット(弾丸)」は遊園地の乗り物で、主人公の少年期の思い出と結び付いて物語のカギとなり、しみじみと人生を考えさせる結末へと導いて行く。
 原作は米国で電子書籍として販売され、四十八時間で五十万部ダウンロードされるという成功を収めている。著者はその後もこうした販売方法の試みを続けているというが、日本ではまだまだ「本」の形が強いようだ。白石朗訳。(アーティストハウス、1000円)

 

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『朝日新聞』2000年11月29日
朝刊
映画も小説もネットで 配信ビジネス続々(ITが変える)
 IT(情報技術)が変える
 ●デジカメで映画
 インターネットを通じて、映画、漫画、小説などを配信するビジネスが次々に生まれている。大容量(ブロードバンド)インターネットが今後急速に普及すれば、高品質な動画を手軽に受信できるようになるため、パソコンや携帯情報端末を映画館や本屋として活用しようというアイデアで、今後も広がりそうだ。
 相模湾を望む神奈川県横須賀市の高台で八月下旬、女優の田中麗奈さん主演の映画撮影が行われた。といっても、フィルムを回すのではなく、田中さんらの演技を、デジタルカメラで撮影するだけ。せりふは別に収録し、十二月中旬から、ワンシーンを四、五枚の写真で構成する三十分映画として、ネット配信する。視聴料は二百円。
 監督を務めた写真家の鋤田正義氏は「かねてから写真だけの映画をつくりたいと考えていたが、ネットで映画を配信するという新しい表現方式ならなじむだろうと考えた」と話す。
 企画会社のスケール(本社・東京)と電通などがつくった「クリックシネマ製作委員会」が二十四日から始めたネット映画の一つだ。現在の通信回線の容量では、動画を常に鮮明に送信するのは難しいが、写真のような静止画だときれいに送ることができるため、静止画の映画も始める。
 ●「キカイダー」
 CS(通信衛星)放送の「スカイパーフェクTV」に子供向け番組を提供しているキッズステーションは、ソニー・ミュージックエンタテインメントと提携し、約三十年前に実写版で放送された「人造人間キカイダー」(原作・石ノ森章太郎氏)のアニメ版を製作し、十二月四日から、スカパーでの放送と同時に、ネットでも無料配信する。とりあえずネット配信は十一日までで、利用者の反応を見て、継続するかどうか判断する。
 ソニーはグループを挙げてブロードバンド・ネットワークへの対応を進めており、パソコンや携帯端末を、番組の受信機にすることを視野に入れたうえでの試みだ。
 ●実際の本の半額
 漫画や小説などのネット配信ビジネスへの参入も相次いでいる。イーブックイニシアティブジャパン(本社・東京、資本金四億四千万円)は十二月末から、「ドカベン」(原作・水島新司氏)や「走れメロス」(原作・太宰治)などの漫画や小説を、容量の大きいCATVを使ったインターネット向けなどに配信する。料金は、実際の本のほぼ半額にする予定。
 「週刊少年サンデー」などの連載漫画を、雑誌発売から一週間後にネット配信している「まんがの国」。富士ゼロックスと、講談社、小学館、白泉社の三出版社が昨年九月から運営しているが、今年十一月に新たに「週刊少年チャンピオン」などを発行する秋田書店と、学習研究社が運営に加わり、配信される漫画が増えた。
 小学館で「週刊ポスト」編集長を務め、出版社や家電メーカーなどが加わり、三月末に終了した「電子書籍コンソーシアム」のメンバーでもあったイーブック社の鈴木雄介社長は「漫画、写真集、ビジネス書などを電子化して配信していく。また、新人の『電子書籍作家』の発掘を手がけていきたい。通信回線の容量が増えれば、電子書籍の可能性はさらに広がるだろう」と話している。

 

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『朝日新聞』2000年12月08日
朝刊
価格・サービス多様化進展 著作物の再販制度、公取委まとめ
 新聞や書籍などの著作物の再販売価格維持(再販)制度について検討している公正取引委員会は七日、制度の見直しに関する検討状況をまとめた。制度の運用では、「従来の硬直的で画一的な状況と比べれば、価格設定や消費者サービスで多様化が進展しつつある」と評価しながら、依然として進展がみられない部分もあると指摘した。公取委は、是正状況や国民の様々な意見を踏まえ、来春をめどに同制度の存廃に関する結論をまとめる方針。
 まとめによると、書籍・雑誌業界では、出版社が月刊誌などの年間購読者を対象に、前払い割引定価の設定や送料の無料化サービスを実施するなどの取り組みがみられた。新聞業界については、学校教育教材用の定価を設定する動きが進んでいるほか、大量一括購読者向けの定価を設定している地方紙も一部にみられたとした。
 また、インターネットを利用した通信販売や電子書籍などの電子商取引をめぐって始まった新たな動きが、著作物の取引形態に多様性をもたらすとし、これが拡大していけば「再販制度が著作物の流通全体に果たす役割や機能も相対的に変化していくと考えられる」と指摘した。


*作成:植村 要
UP: 20100706  REV:
情報・コミュニケーション/と障害者  ◇視覚障害者と読書  ◇電子書籍  ◇テキストデータ入手可能な本 
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