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「障害者自立支援法」2010
【新聞記事】


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■「障害者自立支援法」2010【新聞記事】

12月分  ◇11月分  ◇10月分  ◇9月分  ◇8月分  ◇7月分  ◇6月分  ◇5月分  ◇4月分  ◇3月分  ◇2月分  ◇1月分

◆精神障害者も運賃の割引を 考える会、1万人超署名 /長野県
(2011年02月01日 朝日新聞 朝刊 長野東北信・1地方 033)
 精神障害者の交通運賃を割り引いて――。当事者や家族らの団体でつくる「県障がい者の地域交通網を考える会」が先月、運賃の割引を訴える署名活動をしたところ、約1万3千人分が集まった。今後、この署名を添えて、県知事への陳情や県議会への請願を行う予定だ。
 身体・知的障害のある人は交通機関で各種割引があるが、精神障害者に対してはまだ一般的でなく、県内では路線バスのみにとどまる。
 「障害の種類にかかわらずサービスの一元化をうたった『障害者自立支援法』の施行後も、不平等がある」と、考える会代表の山本悦夫さん。山本さんが会長を務めるNPO法人が一昨年、精神障害のある人を対象にした長野電鉄の運賃に関するアンケートでは、73%が運賃が「高い」と答えた。作業所での工賃より通勤代が高くつく例や、出費を気にして外出や通院を控える傾向も明らかになった。
 そこで県内の関係15団体で「考える会」を結成。先月、街頭で署名活動などを行った。
 同様の活動は全国各地であり、北海道議会のように、割引適用を国に求める意見書が可決された例もある。県内関係者は「長野でも声を上げることで活動の輪を広げ、全国一律の制度を実現させたい」と話している。
 県内で、精神障害者保健福祉手帳を持っている人は現在、推計約1万5千人。
 (佐藤美千代)


◆[あんしん教室]障害児 放課後どう過ごすの 施設で発達訓練や遊び 
(2011.01.25 読売新聞 東京夕刊 安心A 07頁)
 障害のある子どもたちは、放課後をどこで、どのように過ごしているの?
 友達と遊べず、家でテレビを見て過ごしがちな障害児の放課後を、充実したものにしようと実施されているのが放課後活動だ。事業所の形態は様々で、障害者自立支援法による「児童デイサービス」、「日中一時支援」のほか、自治体独自の補助事業もある。特別支援学校や小、中学校からマイクロバスで移動したり、保護者の送迎で施設に通う。発達訓練や集団遊び、地域交流など活動内容は様々。
 厚生労働省は児童デイサービスの目的を「日常生活の基本動作の指導、集団生活への適応訓練」とし、活動に専門性を求める。1型と2型があり、学齢児が3割以上の2型が主に放課後活動を担う。子ども1人1日当たりの報酬(2型定員11〜20人で4650円)が事業所に支払われ、利用者負担は費用の1割が原則。
 日中一時支援は、保護者の就労時や休息のための預かり、見守りが主体。自治体により基準が違うため、住む場所で負担額は異なる。
 自治体独自の補助事業は都市部に多い。東京都は子ども1人に年間79万円(定員8〜19人)を拠出。小平市の「ゆうやけ子どもクラブ」(村岡真治代表)の場合、「利用者負担は月1万円程度」という。
 児童デイサービスには、1日の利用定員があり、登録しても十分な日数利用できない利用者の不満も。しかし、定員が多い事業所は、1人あたりの報酬が低く設定される仕組みのため、経営が苦しくなるというジレンマがある。
 日中一時支援は報酬が低く、自治体独自事業は待機児が多いという課題がある。
 このため、新しい受け皿作りを目指し、昨年12月、自立支援法等が改正され、「放課後等デイサービス」が来年4月に導入されることになった。厚労省は「活動内容や報酬面で事業所が活動しやすい制度にしたい」としている。
 しかし、現場には困惑も。法改正に伴い都は独自事業廃止を決め、事業所に放課後等デイサービスへの移行を求めた。制度内容が未定のままの移行に不安があるため、事業所が集う「放課後連・東京」は昨年末、事業継続を求める署名を都に提出した。利用者、事業所に不安のない制度作りが求められる。(梅崎正直)


◆寄付:「タイガーマスク、うちにも来た」 養護施設の子供、喜びかみしめ
(2011.01.15 毎日新聞 西部夕刊 6頁 社会面)
 ◇補助金で購入困難な玩具に「感謝」 障害児にも支援の輪
 社会現象と化した、漫画「タイガーマスク」の主人公・伊達直人などを名乗る善意の贈り物は、主に全国の児童養護施設に届けられた。漫画が描かれた高度経済成長期には孤児院と呼ばれたが、今は虐待などさまざまな事情を抱える子供たちが親元を離れて暮らしている。多くは社会福祉法人などが設立した民間施設で、厳しい経済情勢の中、国や自治体の補助を受けながら何とか運営を続けているのが実情だ。【夫彰子、神足俊輔】
 2〜18歳の子供97人が暮らす福岡市早良区の児童養護施設「福岡子供の家」。12〜13日、「伊達直人」名でノートや鉛筆が郵送されたり、お菓子を詰めた段ボール箱が玄関先に置かれていたりと、5件の贈り物があった。テレビなどで「タイガーマスク」の存在を知っていた子供たちは「うちにも来たんだ」と喜びをかみしめたという。副施設長の松崎剛さん(41)は「こうした施設で暮らす子らに思いをはせ行動してくれた。その気持ちがうれしい」と話す。
 児童養護施設は児童福祉法に基づき、親の死亡や病気、家庭の経済事情などで親と暮らすことが困難な子供が入所する。厚生労働省によると、09年10月時点で全国に563カ所、2万9753人が生活。子供の年齢や人数に応じて国や自治体からの補助金で運営され、子供には数千円のお小遣いも渡されるが、施設が購入する物は行政側の厳しいチェックが入る。玩具などを買い与えるのは困難という。
 このため多くの施設が、補助金に加え支援者の寄付で支えられている。松崎さんは「タイガーマスクはもちろん、今まで応援し続けてくれた方たちへの感謝でいっぱいです」。「伊達政宗」の名で帽子や人形が贈られた東京都北区の「星美ホーム」の山本英人副園長(58)も「何でも買ってあげるわけにはいかない。(贈り物は)施設のお金では買えないものばかり」と語る。
 贈り物は障害のある子供たちの施設にも届いている。目や耳が不自由な子供が入所する福岡市早良区の「新開学園/生明学園」には12日朝、玄関脇に現金1万円や学用品が入った袋が置かれていた。添えられた手紙には「未来で活躍できるようになって下さい」。漫画「あしたのジョー」の主人公にちなんでか「西の矢吹丈より」と書かれていた。
 障害児施設は、06年完全施行の障害者自立支援法で、多くが施設利用料の原則1割などを自己負担しなければならなくなった。不況の中、世帯によっては利用料の支払いが滞りがちで、児童養護施設以上に運営は厳しい。「新開学園/生明学園」の村上宣仁施設長(63)は、温かな贈り物に「心からありがとうと言いたいです」としみじみ語った。


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▼12月分

◆[今年の1歩・2010年記者ノート](5)支え合う障害者たち(連載)=埼玉
(2010.12.23 読売新聞 東京朝刊 埼玉南 33頁 782字 03段)
 日高市栗坪の社会福祉施設「かわせみ」を取材したときのことを、今でも忘れない。忘れてはいけない大事なものを目撃した、と言うべきか。
 きっかけは、障害者らが国などを相手取り、障害者自立支援法の見直しなどを求めた訴訟。「私たちの働いているところを見てください」と裁判長に訴えかけた原告男性の言葉がずっと気になっていた。3月、取材を申し入れた。
 調理室に案内された。甘いバニラの香り。市役所などで販売する手作りのクッキーを、16人の障害者が作っていた。生地をこねる係、袋に詰める係など、障害に応じて役割を分担。障害者たちの動きが止まったり、取り乱したりすることもあるが、その度、職員が優しい口調で話しかけ、仕事を続けるよう促していた。
 一通りの説明を受けた後、入り口付近で突っ立っている女性に気づいた。
 「この人はただ立っているだけなんですか」
 とてもぶしつけな質問だ。それでも職員は穏やかに、「知的障害なのですが、目も見えないのです。でもみんなに役割があります。見ていれば分かりますよ」と言うのだった。
 入り口に立っていた女性に、生地作りを担当していた知的障害の女性が声をかけてきた。「洗い物のボウルだよ。一緒に水道まで持っていこうね」。女性は手をつなぎ、洗い物のボウルをポンポンとタンバリンのように軽快にたたきながら、誘導していた。
 1分足らずのこの光景に、見とれた。施設では障害者同士も支え合っている。この当たり前のことを私は、今まで知ろうとしなかったのだ。原告の男性が「私たちの働いているところを見てください」と訴えた「私たち」とは、これだったのではなかったのか。
 記者3年目。「仕事に慣れた」などと勘違いする自分の浅はかさを思い知る。慣れてはいけないのだ。未熟な私を打ちのめす出会いのために。(福田麻衣)


◆24時間介護訴訟:介護時間削減は「違法」 障害者、市に勝訴−−和歌山地裁判決
(2010.12.18 毎日新聞 東京朝刊 26頁 社会面)
 介護サービスの利用時間を不当に減らされたとして、重度身体障害者の石田雅俊さん(42)=和歌山市黒田=が、利用時間決定の取り消しなどを同市に求めた訴訟で、和歌山地裁(高橋善久裁判長)は17日、決定を取り消した上で、時間を増やすよう市に義務付ける判決を言い渡した。石田さんが求めていた24時間介護は義務付けられなかった。
 原告側代理人によると、障害者自立支援法に基づき市町村が決める介護サービス時間について、拡大を義務付ける判決は初めて。
 首から下を動かせないなどの障害を持つ石田さんは、04年4月から1人暮らし。サービスは06年に月478時間だったが、1人暮らしに慣れたことなどを理由に、07〜09年は377〜407・5時間に減らされた。
 高橋裁判長は「介護が必要な事情に大きな変化があったとは考えられない」とし、市の決定を裁量権の逸脱で違法と認定。407・5時間だった09年を500・5〜744時間の範囲にするなど、大幅に増やすよう命じた。
 石田さんは「判決を市に認めてもらいたいと願っている」と話した。大橋建一・和歌山市長は「判決の詳細を確認し対応を検討したい」とコメントした。【岡村崇】


◆障害者支援へ光明 介護時間訴訟「一部勝訴」 「24時間義務づけ」退ける/和歌山県
(2010年12月18日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 029)
 「うれしいけど、もっと増やして欲しい」――。脳性まひでほぼ全身が不自由なため、24時間介護を求めていた和歌山市黒田の石田雅俊さん(42)は「一部勝訴」に硬い表情を見せた。17日の和歌山地裁判決は、1日当たり約13時間から約16時間以上へ介護サービスを増やすよう和歌山市に命じたが、24時間介護の義務づけは退けた。
 (三島庸孝、北川慧一、張守男)
 午後1時半すぎ、和歌山市二番丁の地裁前で、法廷から走り出てきた石田さんのヘルパーが「一部勝訴」と書かれた紙を掲げると、集まった支援者から歓声とともに拍手が起きた。
 判決後、石田さんは弁護士、支援者らと市内で会見。会場には支援者ら100人余りが詰めかけた。車椅子に乗った石田さんは、ヘルパーにマイクを口元に向けてもらい、「私の考えていることが少しは認められた。ヘルパーのいる時間が増えることは喜ばしいけど、もう少し増やして欲しかった」と語った。
 2004年からアパートで一人暮らしを始めた石田さんに対し、市は07年、障害者自立支援法に基づく重度訪問介護サービスを「生活に慣れた」との理由で1日当たり約3時間減らした。
 ヘルパーのいない時間が増え、度々尿がもれて床を汚してしまうようになった。さらに昨年末には車椅子に座ったままの状態で急な腹痛に襲われて、30分程度苦しんだこともあったという。
 判決の意義について原告側の長岡健太郎弁護士は「(介護サービスの)支給量が減って、障害者自立支援法の目的と正反対のことが起きた。和歌山に限ったことでなく、判決の意義は大きい」と語った。
 原告側の池田直樹弁護士は「市町村にフリーハンドを与えるのではなく、不十分な場合は司法が命じるという意思を表示した判決で、障害者福祉制度の改革につながれば」と話した。
 石田さんは、外出時にヘルパーをつける「移動介護サービス」の時間数も1日40分から4時間に増やすように求めていた。大好きな料理をするため、自分が店に行って買い物をしたいと思っているからだ。しかし、判決は「自宅で受ける訪問介護の時間を外出にあてることもできる」などとして認めなかった。石田さんは「買い物など地域で暮らすためにはとても足りないので残念です」と肩を落とした。
 金川めぐみ・和歌山大学准教授(社会保障法)は「一部勝訴というよりは、勝訴判決ととらえてもいいのではないか」と判決を高く評価した。その一方、「移動介護について全く考慮されていないところには疑問が残る」と述べた。「和歌山市には石田さんが自立して生活するためどのような支給量が必要か真摯(しんし)に考えてほしい」
 大橋建一市長は「判決文を確認し、対応を検討していきたい」とするコメントを発表した。
 ○安易な切りつめ問題
 佐藤久夫・日本社会事業大学教授(障害者福祉論)の話 重度の障害者は、支援する側が身体の状況をきちんと踏まえないと人間としての暮らしができないということが示された。行政は財政が厳しいからといってサービス提供を安易に切りつめるべきではない。ただ、障害者が「施設から地域へ」と移行する社会の流れを進めるためには、裁判所には社会参加の意義にも踏み込んでほしかった。


◆介護時間減は「不当」 和歌山地裁「市は裁量権逸脱」 脳性まひ男性訴え 【大阪】
(2010年12月18日 朝日新聞 朝刊 2社会 036)
 和歌山市で一人暮らしをする脳性まひの男性が、介護サービスの提供時間を大幅に減らされたのは不当だとして、市に24時間介護の提供を求めた訴訟の判決が17日、和歌山地裁であった。高橋善久裁判長は「市の判断は社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱にあたる」と男性の訴えを一部認め、介護サービスの提供時間を現在の1日当たり約13時間から、最低でも約16時間以上に増やすよう市に命じた。
 原告は和歌山市黒田の石田雅俊さん(42)。普段は車椅子に体を固定しており、介助なしではトイレにも行けず、電話を掛けることもできない。幼少時から施設で暮らしてきたが、自立した生活を求めて2004年から市内のアパートで一人暮らしをしている。06年からは障害者自立支援法に基づき市が決めた時間の介護サービスを受けている。
 判決によると、市は04年に介護サービスの提供時間を1日当たり約17時間と決めたが、05年、石田さんが浴室にリフトを付けたことを理由に約15時間に削減。さらに07年には「一人暮らしに慣れた」との理由で約12時間に減らした。判決は07年の削減について「生活に多少慣れたとしても、介護を必要とする事情に大きな変化があったとは考えられない」として、市の決定を取り消した。その上で、石田さんの場合は少なくとも約3時間は介護時間を増やす必要があるとし、それ以上の時間の介護を提供するよう命じた。
 判決後の記者会見で石田さんは「24時間介護が認められなかったのは不満だが、言い分がある程度認められたことはうれしい」と話した。
 ◇他の市町村に影響も
 <植松利夫・大阪大学大学院教授(社会保障法)の話> 判決は、単に市町村の介護時間決定の適否だけでなく、原告の男性に必要な介護サービスの時間まで具体的に指摘しており、踏み込んだ内容といえる。他の市町村の判断にも影響を与える可能性がある。


◆和歌山の障害者訴訟 「介護は1日16時間以上」 地裁判決=和歌山
(2010.12.18 読売新聞 大阪朝刊 セ和歌 33頁)
 ○全国初 具体的基準示す
 障害者自立支援法に基づく重度訪問介護の利用時間を1日13時間程度に削減されたのは違法として、脳性まひなどの障害を持つ和歌山市黒田、石田雅俊さん(42)が同市に対し、利用時間削減の決定取り消しと、1日24時間介護などを求めた訴訟の判決が17日、地裁であった。高橋善久裁判長は「決定は原告の障害の程度や生活実態を無視した不合理なもの」として、石田さんの訴えを一部認め、市の決定を取り消して、利用時間を約16時間以上に引き上げるよう命じた。
 介護利用時間を巡る訴訟で、行政の決定取り消しだけでなく、具体的な利用時間を示した判決は全国初という。
 判決は、市が石田さんが一人暮らしを始めた2004年には1日約17時間の介護を認められていたにもかかわらず、07年から09年にかけて「一人暮らしに慣れた」として4〜5時間を削減したことについて、首から下がまひしているため、食事や排尿などの世話が必要であることを挙げて「心身の状況を考慮していない」と指摘。「裁量権を逸脱、乱用した違法な処分」として、1日約16時間以上とするよう命じた。
 一方、24時間介護については、「生命身体に重大な侵害が生じるとまでは言えない」として、棄却した。
 判決後、石田さんは「主張が一定認められて嬉しい。市にこの判決を受け入れてほしい」と話した。
 重度障害者問題に詳しい札幌弁護士会の福田直之弁護士は「決定取り消しだけでなく、利用時間を示した判決は画期的。それだけ、市の裁量権の逸脱が大きかったと判断したのではないか」と評価していた。
 判決を受け、和歌山市の大橋建一市長は「判決文を確認し、対応を検討したい」とのコメントを発表した。


◆介護提供時間、問う 脳性まひの男性、和歌山市を訴え 17日、地裁判決 /和歌山県
(2010年12月14日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 027)
 和歌山市に住む脳性まひの男性が、障害者自立支援法に基づいて市が決めた公的介護サービスの提供時間が不十分だとして市を訴えた訴訟の判決が17日、和歌山地裁で言い渡される。人間らしく生きるためには24時間の介護が必要だと男性側が主張しているのに対し、現在の提供時間は1日当たり約12時間。市側は生活実態に合わせて提供時間を決めたとしている。(北川慧一)
 ○アパートで1人
 原告は和歌山市黒田の石田雅俊さん(42)。石田さんは幼児の頃から障害があり両手が動かせなかった。数年前からは両足も動かせなくなり、一人では車いすで移動することも食事をすることもできない。身体障害の程度は1級。養護学校を卒業後は市内の自宅で両親らと暮らしていたが、父親が病気になった2002年から施設で暮らしてきた。自立した生活をめざして04年4月からアパートで1人で暮らしている。
 ○空白時間生じる
 市は一人暮らしを始めた当初、重度訪問介護サービスの提供時間を、1日当たり約17時間と決めた。2人で介助する入浴時間は2倍と算定している。ところが翌05年には約15時間に削減し、07年には約12時間に減らした。石田さんは県に不服を申し立てたが認められなかった。支給決定の通知書に削減理由は記されていなかった。
 石田さんは「これ以上介護サービスを減らされると生きていけない」と08年5月に提訴した。石田さん側は「削減は生活実態を無視しており、裁量権を逸脱し違法」と主張している。
 市側は答弁書などで05年の削減について「浴室にリフトを設置したため」と説明、07年については「一人暮らしに十分慣れてきたことから特別に考慮する必要性がなくなった」と述べた。
 ○移動介護は40分
 石田さんにヘルパーを派遣している事業所は、一人暮らしを始めた当初はボランティアで補って24時間介護を提供していたが、市の提供分が減ったことを受けて05年からはヘルパーのいない空白時間が生じ、現在は夜間を含め計16時間となっている。
 石田さんはヘルパーなしではトイレに行けないことや、緊急事態に自力で連絡が取れないことを挙げて24時間介護の必要性を訴えている。市側は、尿パッドなどの利用やヘルパーが巡回していることで対応できると説明している。
 また石田さんは、障害者が外出する際にヘルパーをつける「移動介護サービス」の提供時間を現在の1日当たり約40分から国の現行制度下では最大とされる4時間に増やすよう求めている。「毎日の買い物すら満足にできず、それ以上の社会参加はほぼ不可能」という。市側は「買い物の保障は当然の責務とはいえない」と主張している。
 ○各地で係争中
 石田さん側の弁護士らによると、障害者自立支援法に基づく重度訪問介護サービスの提供時間をめぐっては、和歌山のほか札幌地裁、大阪高裁などでも係争中だ。
 同法ではサービスの提供費用の負担割合を国が2分の1、都道府県と市町村が各4分の1としているが、国は障害の程度に応じて「国庫負担基準」を決めており、これを超える分は市町村が負担している。障害者団体などで作る「DPI(障害者インターナショナル)日本会議」の木下努さん(46)は「財政的に苦しい自治体では国庫負担基準が事実上の上限になっている。自立を目指す障害者の事情に合わせた提供はできていないのが実態」と指摘する。
 また、移動介護サービスをめぐっては、社会参加のための外出にヘルパーを付けるよう求めた男性が東京都大田区を訴えた訴訟で、東京地裁が今年7月、「外出時間の一部しか認めなかった区の決定は裁量権を逸脱している」とする判決を出し、その後確定している。


◆[あんしん教室]障害者自立支援法 どう変わる 自閉症なども支援対象に
(2010.12.14 読売新聞 東京夕刊 安心A 05頁)
 障害者への福祉サービスを定めた法律が改正されたそうだけど、具体的にどう変わるの?
 この法律は「障害者自立支援法」で、今月、改正法が国会で成立した。項目ごとに異なるが、2012年4月1日までに施行される。
 自立支援法は、身体、知的、精神障害者への支援を一本化し、2006年に始まった。だが、福祉サービスを利用した障害者が、費用の1割を支払う「応益負担」を原則としたため、「障害が重く、多くのサービスを必要とする人ほど負担が大きくなる」との批判が集まっていた。
 そのため今回の改正では、応益負担から、家計の支払い能力に応じて支払額を決める「応能負担」へと、負担の方式を変えることにした。現在の制度でも、低所得層の負担の減免があるが、改正により、応能負担であることが法律上も定められ、その趣旨がはっきりすることになる。
 もう一つの改正点は、福祉サービスの対象として、身体、知的、精神障害に加え、発達障害を位置づけたことだ。自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害、学習障害などがこれにあたる。
 新たな給付も盛り込まれた。
 日常生活支援が必要な人が共同で暮らすグループホーム、介護も必要な人向けのケアホームは、家賃の負担が大きかったため、所得などの条件を満たせば、利用者は特定障害者特別給付費を受けられるようになる。1人では外出が難しい視覚障害者には、ヘルパーらが援助する「同行援護」サービスを創設することが決まった。
 障害児に関しては、同時に児童福祉法も見直され、通所で療育を行う児童発達支援などが導入される。学齢期の子どもの放課後活動や社会生活へ向けた訓練の場になってきた放課後型のデイサービスも制度化される。対象は18歳未満だが、必要なら20歳になる前まで引き続き利用できる。
 自立支援法は、昨年9月に長妻厚労相(当時)が将来の廃止を表明。これに代わる新法「障害者総合福祉法(仮称)」の制定に向け、内閣府の障がい者制度改革推進会議が議論を進め、13年8月の新法施行を目指している。だが、その間の制度の改善を求める声が上がり、つなぎの緊急措置として、今回の改正が行われた。(梅崎正直)
 

◆「障害に合わせた利用時間提供を」 福祉サービス巡り要望書 /和歌山県
(2010年12月04日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 029)
 全国14地裁で起こされ、今年4月までにすべて和解した障害者自立支援法違憲訴訟の全国弁護団の竹下義樹団長らが3日、和歌山市役所を訪れ、福祉サービスの利用時間を増やすことなどを求めた要望書を提出した。要望書を受け取った小松孝雄・市福祉事務所長は「障害のある人が住んでよかったと思える町づくりをしたい」と話した。
 要望書では、福祉サービスの支給量(利用時間)に上限を設けずに一人ひとりの必要や要望に合わせて決定することや、障害者との懇談会を開催し意見を聞くことなどを求めている。
 提出後に市内で開かれた集会で、竹下団長は「重度の障害がある人の思いを受け止めることのできない社会は先進国とは言えない。障害者自立支援法が廃止されるまで私たちの声をぶつける必要がある」と訴えた。(北川慧一)

◆改正障害者自立支援法が成立
(2010.12.04 読売新聞 東京朝刊 政治 04頁)
 障害者が福祉サービスを利用した場合の負担について、現行の原則1割から、支払い能力に応じた割合に見直す改正障害者自立支援法が3日、参院本会議で与党と自民、公明両党などの賛成で可決され、成立した。


◆介護支給量引き上げ要望 障害者支援団体、和歌山市に=和歌山
(2010.12.04 大阪朝刊 セ和歌 33頁)
 障害者自立支援法の廃止を訴える「障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす和歌山の会」のメンバーらが3日、和歌山市に障害者の介護支給量の引き上げなどを求める要望書を提出した。
 要望書では、〈1〉24時間介護を認める〈2〉外出の際に介護する「移動支援」を月20時間から50時間以上まで引き上げる〈3〉社会参加や余暇に伴う外出であっても移動支援の利用を制限しない――などを求めている。
 この日、同法訴訟全国弁護団長の竹下義樹弁護士や、同会の山本功事務局長ら約10人が市役所を訪れ、要望書を提出した。竹下弁護士は「市町村で支給量に格差がある。当事者の声を聞いて改善してほしい」と訴え、小松孝雄・市社会福祉部長は「不十分な点については検討したい」と答えた。
 同法違憲訴訟で、同法廃止などを盛り込んだ基本合意に基づき和解した元原告の同市北出島、大谷真之さん(36)は「合意しても介護支給量は上がっていない。安心して暮らせる市であってほしい」と話した。


首相、正念場の予算編成 臨時国会閉幕
(10/12/3 中国新聞)
 第176臨時国会は3日、閉会した。改正障害者自立支援法など4件が成立し、政府が今国会に提示した15機関48人の人事も衆参両院の本会議で同意された。閉会を受け、菅直人首相は2011年度予算編成や北朝鮮対応などの課題に全力を挙げる構えだが、財源不足や不透明な国際情勢で正念場の政権運営が待ち受ける。
 首相が年内の方針取りまとめを明言していた国会議員の定数削減や、国の出先機関の権限移譲についても「有言実行」が求められる。
 朝鮮半島由来の「朝鮮王室儀軌ぎき」などを韓国に引き渡す日韓図書協定や、郵政改革法案、労働者派遣法改正案、地域主権改革関連3法案、自民党提出の財政健全化責任法案は継続審議となった。
 同意された人事は、証券取引等監視委員会委員長への佐渡賢一元福岡高検検事長再任や、預金保険機構理事長への田辺昌徳理事の昇格など。自民、公明、みんなの党の3党は衆院本会議で、問責決議を受けた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相所管分の採決を欠席した。
 参院本会議では(1)国会議員の歳費を月割り支給から日割りに変更する関連法(2)障害福祉サービスの利用者負担を現行の原則1割から支払い能力に応じた金額に変更する改正障害者自立支援法(3)原発施設立地地域振興特別措置法の来年3月末の期限を10年延長する改正同法―の3件が可決、成立した。
 衆院本会議では、里山保全に携わる民間団体を国が支援する「生物多様性保全のための活動促進法」が可決、成立した。


臨時国会が閉会/障害者自立支援法が成立
(2010/12/03 13:58 四国新聞)
 第176臨時国会は3日、閉会した。改正障害者自立支援法など4件が成立し、政府が今国会に提示した15機関48人の人事も衆参両院の本会議で同意された。閉会を受け、菅直人首相は2011年度予算編成や北朝鮮対応などの課題に全力を挙げる構えだが、財源不足や不透明な国際情勢で正念場の政権運営が待ち受ける。
 首相が年内の方針取りまとめを明言していた国会議員の定数削減や、国の出先機関の権限移譲についても「有言実行」が求められる。
 朝鮮半島由来の「朝鮮王室儀軌」などを韓国に引き渡す日韓図書協定や、郵政改革法案、労働者派遣法改正案、地域主権改革関連3法案、自民党提出の財政健全化責任法案は継続審議となった。
 同意された人事は、証券取引等監視委員会委員長への佐渡賢一元福岡高検検事長再任や、預金保険機構理事長への田辺昌徳理事の昇格など。自民、公明、みんなの党の3党は衆院本会議で、問責決議を受けた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相所管分の採決を欠席した。


臨時国会が閉幕 歳費日割り法など成立
(2010/12/3 13:57 日本経済新聞)
 第176臨時国会は3日、衆参両院の本会議で閉会中審査の手続きなどを実施して閉幕した。改正歳費法など4本が成立し、政府が提示した15機関48人の国会同意人事も与党などの賛成多数で同意された。菅直人首相は2011年度予算編成を急ぐ。
 同日昼の参院本会議で成立したのは(1)国会議員歳費(給与)を月単位から日割りに見直す改正歳費法(2)福祉サービスを利用するほど負担が増える方式から、支払い能力に応じて負担を決める方式に改める改正障害者自立支援法(3)来年3月末の期限を10年延長する改正原子力発電施設立地地域振興特別措置法――の3本。午後の衆院本会議では、里山保全に取り組む民間団体を国が支援する生物多様性保全活動法が成立した。
 国会同意人事は預金保険機構理事長に同機構の田辺昌徳理事を昇格させる案など15機関48人。衆院本会議では、自民、公明両党が参院で問責決議を可決された仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相所管の人事案の採決を欠席した。仙谷長官は兼務する法相として2機関3人、国交相は2機関7人の人事を所管しているが、自公両党は両氏が衆院本会議に閣僚として出席するのを認めないため。参院本会議の同意人事の採決には副大臣が対応したため、自公両党は欠席しなかった。
 政府・与党は郵政改革法案や労働者派遣法改正案は継続審議とし、通常国会に持ち越した。


障害者自立支援法:参院で改正案可決・成立
(毎日新聞 2010年12月3日 12時35分)
 障害福祉サービスの原則1割を負担する障害者自立支援法の議員立法による改正案が会期末の3日正午過ぎ、参院本会議で民主、自民、公明各党などの賛成多数で可決・成立した。社民、共産両党は反対した。サービス量に応じた負担から支払い能力に応じた負担を掲げ、発達障害を対象に明記する内容で、13年8月までの同法廃止と新法施行までの「つなぎ」との位置づけ。
 発達障害者や知的障害者の団体などから早期成立を求める声が強まる一方、同法違憲訴訟の元原告らは「1割負担の仕組みが残る恐れがある」と強く反発している。
 新法は、ほかに▽グループホームを利用する個人への助成▽障害児向け放課後型デイサービスの制度化▽相談支援体制の強化▽知的障害者らのため成年後見の利用支援を市町村の必須事業にする−−などの内容。【野倉恵】


障害者自立支援法改正案−成立
(10/12/03 Sesure TPニュース)
3日、障がい者自立支援法の改正案(正式名称:「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律案」)が参院本会議で民主・自民各党などの賛成多数で可決した。衆院では11月18日に可決されており、障がい者自立支援法は成立のはこびとなった。
今回の改正案には支援の対象に発達障がいが追加されたほか、応益負担(サービスに応じた負担)から応能負担(支払い能力に応じた負担)に変更する内容等が盛り込まれている。また、グループホームを利用する個人への助成、障がい児向け放課後型デイサービスの制度化、相談支援体制の強化、知的障がい者の方への成年後見の利用支援を市町村の必須事業にすることなども盛り込まれている。
低所得者の利用料が減額されるため早期成立を求める声もあったが、一方で1割負担が残ってしまうことに対する反発も多く、当事者の方々の意見を十分に聞き反映できたか?多くの課題が残る結果となった。


私たちの叫びを聞け 「自立支援法延命法案廃案に」 国会前で障害者
(2010年12月2日(木) しんぶん赤旗)
(写真)自立支援法「延命」法案の廃案を求める障害者らと、訴える田村議員(右側)=1日、参院議員会館前
 障害者自立支援法「延命」法案を廃案に追い込もうと障害者団体らが1日、参院議員会館前で集会を開き、「私たちのことを私たち抜きに決めるな」と訴えました。
 主催は、障害関係3団体でつくる「今こそ進めよう! 障害者自立支援法の廃止と新法づくりを確かなものに10・29全国フォーラム」。
 同実行委員会の太田修平事務局長は車椅子の上から「自立支援法は私たちを人間扱いしない、差別的な法律だ。廃案になるまでがんばろう」と呼びかけました。
 日本共産党の田村智子参院議員は「当事者抜きに乱暴なことをやるなという声を響かせていただきたい。一緒に全力でがんばっていく」とあいさつしました。
 広島市から参加の男性(35)=施設職員=は「これから自分たちで新しい法律を作っていこうという矢先に法案が出された。自立支援訴訟の基本合意通りに廃止をしてほしい」と語りました。


障害者自立支援法、衆院委で可決
(2010年12月1日 17:00  障害者の働く場ニュース)
○応能負担へ変更
障がい者自立支援法改正案が11月17日の衆院厚生労働委員会で、民主、自民、公明3党などの賛成多数により可決された。
今回の改正案には支援の対象に発達障がいが追加されたほか、サービスに応じた負担(応益負担)から支払い能力に応じた負担(応能負担)に変更する内容等が盛り込まれている。
○一部反発の声も
今回の改正では、そのほかグループホームを利用する個人への助成、障がい児向け放課後型デイサービスの制度化、相談支援体制の強化など。
低所得者の利用料が減額されることから早期成立を求める声も多くあった一方、原則1割負担の骨格を残すことに対する反発も出ている。


自立支援法 「延命」案を断念し基本合意の尊重を
(2010年12月1日(水) しんぶん赤旗)
 会期末を迎えた国会で障害者自立支援法の「延命」法案の成立を許さないたたかいが焦点になっています。
 同法案は衆院で民主、自民、公明などの賛成多数で可決され、参院厚生労働委員会にかけられています。国会周辺では連日、障害者団体が廃案を求めて行動しています。
 旧自公政権が強行した障害者自立支援法は、サービス利用料の1割を負担させる「応益負担」を盛り込んだもので、障害者はじめ国民の強い批判をあび、民主党は同法の「廃止」を公約して政権に就きました。鳩山政権は、自立支援法を「憲法違反」と提訴した原告と1月に基本合意を交わし、「人間としての尊厳を深く傷つけた」と反省の意を表明。政府内に障害者が参加する障がい者制度改革推進本部を設置し、新しい法律の検討をすすめてきました。ところが、その結論も出ないうちに、旧与党が立案した自立支援法改定案にわずかばかりの修正を加えただけで出してきたのです。
 障害者団体は「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と声をあげています。
○言葉を言い換え
 改定案には発達障害を障害の対象に含めることを明確にするなど障害者の願いを反映した部分もあります。最大の問題点は、基本合意では2013年8月までに自立支援法廃止を約束しているのに「廃止」が明記されず、自立支援法を「延命」する余地を残していることです。
 同法案について違憲訴訟全国弁護団事務局長の藤岡毅弁護士は「『応益負担』という仕組みを残したまま軽減措置部分を『応能負担』と言葉だけ言い換えた」だけで、「根本的な見直しとなっていない」と批判しています。(本紙11月22日付)
○「一元化」危惧も
 また、障害児施設の偏在解消を理由に、知的障害・肢体不自由、難聴幼児など障害別で設置している施設を、どのような障害でも利用できる施設とすることが盛り込まれており、人員配置基準が異なる施設の「一元化」に危惧する声もあがっています。
 切実な願いである低所得者の医療サービスの無料化についてもふれていません。
 日本共産党の高橋ちづ子衆院議員は、11月17日の厚生労働委員会で、「旧与党の枠組みを広げながら生まれる新しい法律が期待した内容とは大きく違うものにならざるをえない」と指摘。法案提出を断念して、基本合意と障害者の意見を尊重するよう求めました。(前野哲朗)


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▼11月分

◆障害者自立支援法改正案の可決に懸念の声―総合福祉部会
(医療介護CBニュース 11月19日(金)20時13分配信)
 内閣府の「障がい者制度改革推進会議」は11月19日、「障害者自立支援法」に代わる新法の策定について議論する総合福祉部会の第9回会合を開いた。この中で、18日に障害者自立支援法改正案が衆院を通過したことに対し、委員の一部から、部会の議論と連動していないと懸念する声があった。
 福井典子委員(社団法人日本てんかん協会常任理事)は、障害者自立支援法改正案が衆院で可決されたことについて、「改正案の内容は、予算措置や政省令改正で対応できるのではないか。(部会の議論と連動していない国会の動きを)懸念している」と述べた。さらに、現行の応益負担から応能負担に移行することが最大の課題だと指摘した上で、「改正案は(応能負担を掲げているのに)1割負担が残っている」と批判した。
 藤岡毅委員(障害者自立支援法訴訟弁護団事務局長)は、「新法を議論する部会として、改正を見過ごすわけにはいかない。本当に部会の議論を踏まえているのか」と疑問を呈した。
 これらの意見に対し、岡本充功厚生労働政務官は、「2013年8月までの総合福祉法の施行を目指すとした閣議決定の方針は何ら変わらない」と述べた。また、部会がまとめた新法制定前に実施すべき「当面の課題」について触れ、「(厚労省の)政務三役などで議論している。障害関係者の意見に耳を傾けるスタンスは(民主)党も政務三役も変わりない」と強調した。


◆国家公務員給与1・5%引き下げ 給与法改正案が衆院で可決
(産経新聞 11月18日(木)15時36分配信)
 今年度の国家公務員の平均年間給与を人事院勧告通り1・5%引き下げる給与法改正案が18日午後の衆院本会議で、与党と公明、社民両党などの賛成多数で可決、参院へ送付された。政府・民主党内は当初、勧告を超える削減を検討したが、支持母体の労組への配慮などから断念した。
 障害福祉サービスの利用者負担を、現行の原則1割から支払い能力に応じた負担を求めるよう変更する障害者自立支援法の改正案と、国民年金保険料の事後納付期間を延長する年金確保支援法案も与党と自民、公明両党などの賛成多数で可決、衆院を通過した。


障害者自立支援法:つなぎ法案、衆院委可決 負担、支払い能力に応じ
(毎日新聞 2010年11月18日 東京朝刊)
 ◇「原則1割」に批判も
 新たな障害者福祉法制度施行までのつなぎ法案となる障害者自立支援法改正案が17日、衆院厚生労働委員会で民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決された。発達障害を対象に明記し、サービス量に応じた負担から支払い能力に応じた負担を原則とする内容で、12月にも本会議で可決の見通し。早期成立を求める関係者も多い一方「原則1割負担の骨格を残している」として反発も残り、13年8月までの現行法廃止と新制度移行を目指す現政権に重い課題を突きつける。【野倉恵】
 改正案のポイントはこのほか▽グループホームを利用する個人への助成▽障害児向け放課後型デイサービスの制度化▽相談支援体制の強化−−など。
 福祉サービス利用の原則1割を自己負担とする現行法は06年施行され、憲法で保障された生存権を侵害しているとして障害者らが、全国14地裁に提訴した。
 10年1月、原告側と政府は▽障害者の意見を踏まえずに法律を施行させ、尊厳を傷つけたのを政府が「心から反省」▽新法制定への障害者の参画▽低所得者の負担軽減−−などの内容で基本合意、4月までに和解が成立した。
 同月、障害者や家族らを中心にした政府の「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会も、新法に向けた議論を始めた。
 ◇「合意と違う」反発
 議員立法による改正案はこの動きとは別に提案され、通常国会で衆院を通過したが、鳩山由紀夫前首相の退陣で廃案に。「新法に向けた部会の議論の最中に情報提供なく進められた」として、同会議は遺憾の意を菅直人首相に伝えた。
 「基本合意にかかわらず私たち抜きに進めた。1割負担の骨格も残る」(同部会メンバーの藤岡毅弁護士)というのが元原告らの反対理由だ。
 現行法は「サービス費用の9割を(国と自治体が)給付」と規定。負担軽減策が繰り返され、実際は自己負担割合が1割未満だったケースも多い。
 一方、改正案は補助部分について「家計の負担能力などを配慮して政令で定める額」を給付するとする一方「百分の十」の自己負担があり得るとの趣旨の条文もある。この点について、「現行法以上に1割負担を明記し、家族の所得が合算されるため、負担軽減などにつながらない恐れがある」(同)と元原告らが反発を示していた。
 総合福祉部会は近く新法に向けた方向性の骨格を示す予定だが、メンバーの一人は「改正法案を巡る混乱で、不安な当事者も多い。政府与党はどう応えるのか」と、政権交代の真価を問いかけている。


◆障害者自立支援法改正案の上程に抗議声明―違憲訴訟弁護団ら
(医療介護CBニュース 11月17日(水)22時53分配信)
 障害者自立支援法違憲訴訟の弁護団と「障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会」は11月17日、同日に衆院厚生労働委員会で可決された同法改正案に反対する声明を発表した。
 記者会見した弁護団の藤岡毅弁護士は、同法の改正について、今年1月に弁護団・原告団が国と取り交わした基本合意文書で示されている2013年8月までの同法廃止に反するものと指摘。また、今回上程される法案で応能負担が原則となることについて、「提案者は応益負担がなくなるかのような説明をするが、現行の4段階の負担区分を応能負担と言い換えただけだ」と批判した。さらに、「改正案は(費用の)『1割負担』を条文化している」と述べ、速やかな応益負担の廃止を明記した基本合意文書に「相反する改正だ」と強調した。



◆障害者自立支援法改正案を可決―衆院厚労委
(医療介護CBニュース 11月17日(水)22時16分配信)
 衆院厚生労働委員会は11月17日、障害者自立支援法の改正案を賛成多数で可決した。18日の衆院本会議で可決され、参院に送付される見通し。
 改正案には、利用者の応能負担を原則とすることや、発達障害者が障害者の範囲に含まれること、障害者への総合的な相談支援を行う「基幹相談支援センター」の市町村への設置、障害者向けグループホームやケアホームを利用する際の助成制度の創設などが盛り込まれている。
 障害者自立支援法は、今年1月に障害者らでつくる障害者自立支援法違憲訴訟の原告団・弁護団が国と交わした基本合意文書により、廃止が予定されている。同法に代わる新法「障害者総合福祉法」(仮称)制定に先立ち、厚労委の委員長提案で前通常国会に今回の改正案と同様の法案が提出されたが、時間が足りずに廃案になった経緯がある。新法については、2013年8月までに施行を目指すことが閣議決定されている。


◆<障害者自立支援法>改正案が衆院委で可決 反発の声も
(毎日新聞 11月17日(水)21時35分配信)
 新たな障害者福祉法制度施行までのつなぎ法案となる障害者自立支援法改正案が17日、衆院厚生労働委員会で民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決された。発達障害を対象に明記し、サービス量に応じた負担から支払い能力に応じた負担を原則とする内容で、12月にも本会議で可決の見通し。早期成立を求める関係者も多い一方「原則1割負担の骨格を残している」として反発も残り、13年8月までの現行法廃止と新制度移行を目指す現政権に重い課題を突きつける。
 改正案のポイントはこのほか▽グループホームを利用する個人への助成▽障害児向け放課後型デイサービスの制度化▽相談支援体制の強化−−など。
 福祉サービス費用の原則1割を自己負担とする現行法は06年施行され、憲法で保障された生存権を侵害しているとして障害者らが全国14地裁に提訴した。10年1月、原告側と政府は▽障害者の意見を踏まえずに法律を施行させ、尊厳を傷つけたのを政府が「心から反省」▽新法制定への障害者の参画▽低所得者の負担軽減−−などの内容で基本合意、4月までに和解が成立した。同月、障害者や家族らを中心にした政府の「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会も、新法に向けた議論を始めた。
 議員立法による改正案はこの動きとは別に提案され、通常国会で衆院を通過したが、鳩山由紀夫前首相の退陣で廃案に。「新法に向けた部会の議論の最中に情報提供なく進められた」として、同会議は遺憾の意を菅直人首相に伝えた。
 「基本合意にかかわらず私たち抜きに進めた。1割負担の骨格も残る」(同部会メンバーの藤岡毅弁護士)というのが元原告らの反対理由だ。
 現行法は「サービス費用の9割を(国と自治体が)給付」と規定。負担軽減策が繰り返され、実際は自己負担割合が1割未満だったケースも多い。一方、改正案は補助部分について「家計の負担能力などに配慮して政令で定める額」を給付するとする一方「百分の十」の自己負担があり得るとの趣旨の条文もある。この点について「現行法以上に1割負担を明記し、家族の所得が合算されるため、負担軽減につながらない恐れがある」(同)と元原告らが反発を示していた。
 総合福祉部会は近く新法に向けた方向性の骨格を示す予定だが、メンバーの一人は「改正法案を巡る混乱で不安な当事者も多い。政府与党はどう応えるのか」と政権交代の真価を問いかけている。【野倉恵】


自立支援法改正案を可決、衆院厚労委
(日本経済新聞 2010/11/17 19:11)
 衆院厚生労働委員会は17日、障害者自立支援法改正案を委員長提案として衆院本会議に提出することを民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決した。また、同委は年金確保支援法案の修正案を民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決した。いずれも今国会で成立する見通し。
 自立支援法改正案は政府が障害者福祉の新制度を創設するまでの暫定措置として、福祉サービスを利用するほど負担が増える「応益負担」から、利用者の支払い能力に応じて負担を決める「応能負担」に改めるのが柱。年金確保支援法案は国民年金保険料の未納分の事後納付期間を2年から10年に延長する内容で、修正により事後納付は3年間の時限措置とした。


障害者支援法改正案を可決 衆院委、保険料後納法案も
(共同通信 2010/11/17 17:15)
 衆院厚生労働委員会は17日、障害福祉サービスの利用者負担について、現行の原則1割から支払い能力に応じた負担に変更する障害者自立支援法335件改正案を、委員長提案として本会議に提出することを、民主、自民、公明各党などの賛成多数で可決した。
 国民年金保険料の事後納付期間を延長する年金確保支援法案も、民主、自民、公明各党による修正案を賛成多数で可決した。両法案は今国会で成立する見通し。
 自立支援法335件改正案は、先の通常国会で廃案となった法案と同様の内容。発達障害が自立支援法の対象となることを明記し、グループホームなどの障害者に対する家賃助成や、視覚障害者の移動支援サービスを新設する。
 年金確保支援法案は、未納保険料の事後納付期間を現行の2年から10年に延長し、長期間さかのぼって納付可能にすることで無年金・低年金者対策とするのがねらい。政府は恒久法として提案していたが、自民党などから「納付意欲を阻害する」との指摘を受け、3年間の時限措置とする修正で合意した。


障害者自立支援法:改正案17日可決 衆院厚労委
(毎日新聞 2010年11月16日 21時32分)
 民主、自民、公明3党は16日の衆院厚生労働委員会理事懇談会で、議員立法による障害者自立支援法の改正案提出に合意した。早ければ17日の同委で可決の見通し。
 改正案は、新たな障害者総合福祉法(仮称)施行までの暫定措置。政府は現行の障害者自立支援法を13年8月までに廃止予定だが、それまでは現行法による対応が続くため、「その間の緊急対応が必要」と判断した。内容は、サービスの利用量に応じた負担から支払い能力に応じた負担とし、発達障害を対象にするなど。通常国会で廃案となっていた。【野倉恵】
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障害者支援法改正案を提出=今国会の成立目指す−民・自・公合意
(時事ドットコム > 社会 > 指定記事 2010/11/16-16:27)
 民主、自民、公明3党は16日の衆院厚生労働委員会理事懇談会で、障害者自立支援法改正案を議員立法により開会中の臨時国会へ提出することで合意した。また、国民年金の未納保険料の事後納付期間を2年から10年に延長する年金確保法案を3年間の時限措置に修正することで一致した。3党は両法案の会期内成立を目指す。


民自公、障害者支援法改正で合意 今国会で成立へ
(共同通信 2010/11/16 13:31)
 衆院厚生労働委員会の民主、自民、公明の3党理事は16日、障害福祉サービスの利用者負担を「応益負担」から「応能負担」に変更する障害者自立支援法改正案で合意した。また、国民年金未納保険料の事後納付期間を延長する「年金確保支援法案」についても、過去10年分の保険料を3年間の時限措置で納められるようにする修正で一致した。
 両法案とも、17日にも委員会で3党の賛成多数で可決される見通し。与野党間では、両法案について、今国会で処理することで基本的に一致しており、国会終盤で中国漁船衝突事件に絡む閣僚の問責決議案処理などで混乱しない限り、成立する可能性が高まった。
 自立支援法改正案は、委員長提案の形とし、障害福祉サービスについて利用量に応じた負担から、所得に応じた負担への変更など、先の通常国会で廃案になった法案と同様の内容。仕事をしながら少人数で暮らすグループホームやケアホームの障害者に対する家賃助成を新設する。


自立支援法改正案、今国会で成立で民自公が合意
(日本経済新聞電子版 2010/11/16 2:00)
 民主、自民、公明3党は15日、障害者自立支援法改正案を今国会に提出し、成立を目指すことで合意した。政府が新制度を創設するまでの暫定措置として、福祉サービスを利用するほど負担が増える「応益負担」から、利用者の支払い能力に応じて負担を決める「応能負担」に改めるのが柱。17日の衆院厚生労働委員会に委員長提案による議員立法として提出し、同日中に可決する方針だ。
 民主など3党は先の通常国会で自立支援法改正案を衆院通過させたが、参院で審議時間が足りずに廃案となっていた。


障害者支援法改正案を提出で合意、「応益負担」から「応能負担」へ
(SecureTPニュース 10-11-16 No.230)
16日、衆院厚生労働委員会の民主・自民・公明の理事懇談会で、障害福祉サービスの利用者負担を「応益負担」から「応能負担」に変更することで合意した。また、年金確保法案を3年間の時限措置にすることで合意した。民主・自民・公明の3党は上記2案を会期内成立を目指す。
応能負担とは、負担能力のない者には税金や社会保険料を減免し、所得の高い者にはより高い負担率で税金や社会保険料を課すことによって、所得を再配分する機能を与えるもの。一方、応益負担とは所得の高低や能力には関係なく、かかった医療費の例えば1割を負担させる方法。(全国保険医団体連合会参照)


◆特別支援学校の通学補助広がる 国・県の負担枠に限界も /山形県
(2010年11月07日 朝日新聞 朝刊 山形・1地方 033)
 特別支援学校に通う小、中高校生の通学を支援する自治体が広がりつつある。県内全体で13校と絶対数が少なく、遠隔地に進学せざるを得ないケースも多いだけに、公的な補助が進路選択や通学の大きな支えだからだ。しかし障害者自立支援法の支援枠に限界もあり、支援の内容や利用者の負担は自治体によって様々なのが実情だ。
 (笹円香)
 大江町では10月18日から、村山特別支援学校(山形市)と山形盲学校(上山市)に通う町内の子どもの通学支援事業を開始した。地元のタクシー業者の小型タクシーを使い、各学校まで車で片道40分ほどかかる通学を送り迎えする。
 事業は、「仕事を休まないと子どもの送り迎えができず、負担が大きい。助けてもらえる制度がないか」という保護者の要望で始まった。町は9月補正予算で障害者自立支援法の「地域生活支援事業」枠にタクシー会社への委託料として168万2千円を計上した。現在、利用者は2世帯3人。国や県の補助もあり、自己負担は一人月3千〜6千円で済むという。保護者の一人は、「思ったより自己負担は少ない」と喜ぶ。
 2006年の自立支援法の施行以降、県内では大江町を含め八つの市町が地域生活支援事業を導入して通学支援を行っている。寒河江市は今年度、保護者会への補助金として約720万円を計上。市内から上山市と山形市の3校に通う児童と生徒7人の通学費用を支援している。
 だが、課題を抱える自治体もある。南陽市では、通学に限定せず、障害を持つ人が介護タクシーなどを利用した際に、一回900円を上限に補助する制度を実施中だが、米沢市内の特別支援学校に通うには片道4〜5千円はかかるため、毎日の通学に利用するのは難しい。
 保護者から改善の要望もあるが、地域生活支援事業の国の算定枠は、自治体ごとに人口や実績で決められた上限があり、国が2分の1、県が4分の1を負担するはずの補助金が満額出ない可能性もある。このため、市もどこまで支援できるか検討中という。「補助が出ない分は市の負担になる。置賜地区など地域ごとにスクールバスのようなものができたらいいのだが」と担当者は話す。
 特別支援学校は一般の公立学校と比べ圧倒的に数は少なく、障害の態様も多岐にわたる。通いたい学校が自宅から遠い場合も多い。通学経費負担の不安から、市町村には「希望の学校への進学をあきらめざるを得ない」という声も寄せられているという。


◆障害者自立支援法改正案、早ければ今国会提出も
(医療介護CBニュース 11月5日(金)20時0分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101105-00000017-cbn-soci
 民主党政策調査会の「障がい者政策プロジェクトチーム(PT)」は11月4日、障害者自立支援法の見直しの在り方について、有識者や自治体関係者からヒアリングした。予定していたヒアリングは今回ですべて終わり、今後は論点整理に入る。同PTの谷博之座長と中根康浩事務局長は会合後の記者会見で、前通常国会で廃案になった同法改正案に修正を加えることも視野に、早ければ今臨時国会への新たな改正案提出を目指す考えを示した。
 ヒアリングには、▽朝比奈ミカ・中核地域生活支援センター「がじゅまる」センター長▽茨木尚子・明治学院大教授▽小澤温・東洋大教授▽倉田哲郎・大阪府箕面市長▽佐藤久夫・日本社会事業大教授▽清水明彦・西宮市社会福祉協議会障害者生活支援グループ長▽竹端寛・山梨学院大准教授▽野沢和弘・毎日新聞論説委員▽広田和子・精神医療サバイバー▽増田一世・社団法人やどかりの里常務理事―の10人が出席した。
 このほか、▽荒井正吾・奈良県知事▽岡部耕典・早大准教授▽柏女霊峰・淑徳大教授▽北野誠一・おおさか地域生活支援ネットワーク理事長▽平野方紹・日本社会事業大准教授▽三田優子・大阪府立大准教授―の6人があらかじめ意見書を提出した。
 会見した谷座長と中根事務局長によると、有識者からは障害者自立支援法の改正に前向きな意見が出たという。具体的には、障害者自立支援法に代わる新法として政府が制定を目指している「障害者総合福祉法」(仮称)の施行の前に、「雨漏りを直す作業」(野沢氏)として、特に地域生活支援事業の地域格差の解消などを求めた。また、可能な限り政省令の改正で対応し、法改正は避けるべきとする主張もあったという。
 また、今回までのヒアリングで出た障害者自立支援法改正への賛否について、谷座長は「半々」、中根事務局長は「6対4で賛成が多いくらい」との認識を示した。その上で、谷座長は「(廃案になった同法改正案に)新たな修正をできるかも含めて論点整理していく」と述べた。また、今臨時国会に新たな改正案を提出できるかに関しては、「野党との調整が必要。提出前には各党と協議する」とし、今国会への提出を目指す意向を示した。
 法改正に反対している団体への対応については、「理解してもらえるよう努力するしかない」とした。


◆障害者自立支援法改正案:関係団体、再提出求め声明
(2010.11.03 毎日新聞 東京朝刊 26頁 社会面)
 障害者自立支援法の廃止後、これに代わる新法施行までのつなぎとなる障害者自立支援法改正案を巡り、障害者関係9団体が2日、「移行期の対応が必要」として、臨時国会への再提出と成立を求める声明を出した。
 9団体が、改正案に盛り込まれた▽発達障害などを福祉サービス対象として明文化▽障害の程度が重いほど負担が増える応益負担から所得に応じた応能負担へ変更などの早期実施を求めた。


◆障害者自立支援法の改正求め9団体が声明
(医療介護CBニュース 2010年11月2日(火)17:00)
日本発達障害ネットワークなど9団体は11月2日、厚生労働省で記者会見し、前通常国会で廃案になった障害者自立支援法改正案の成立を求める声明を発表した。この中で9団体は、同法に代わる新法などの在り方を検討している内閣府の「障がい者制度改革推進会議」や、その下部組織の「総合福祉部会」での議論を乱すつもりはないと前置きした上で、「新法制定までに改善できることは、すぐに行うべきではないか」と主張した。
会見したのは、▽日本発達障害ネットワーク▽障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学会▽全国児童発達支援協議会▽全国重症心身障害児(者)を守る会▽全国地域生活支援ネットワーク▽全日本手をつなぐ育成会▽日本重症児福祉協会▽日本知的障害者福祉協会▽日本発達障害福祉連盟―の9団体。
9団体の各代表は、政府が目指している2013年8月までの障害者自立支援法の廃止とそれに代わる新法の施行に触れ、「新法の施行までに3年近くかかる。特に障害児は、その間も支援強化を必要としている」「改正案の内容は、社会保障審議会で障害者団体も加わって話し合ったもの。障害者のためになるものだ」などとして、障害者自立支援法改正による利用者負担の軽減措置の恒久化や相談支援事業の相談員の増員を求めた。
また、障害者制度改革に新法で対応すべきとして障害者自立支援法改正に反対している団体については、「新法制定がゴールなのは同じで、そこに向かう過程に違いがある。新法制定に向けては、一緒に頑張りたい」(戸枝陽基・全国地域生活支援ネットワーク事務局長)とした。
9団体は、同日中に衆参両院の厚生労働委員会の所属議員に声明を提出する予定で、今後、厚労省の政務三役にも提出したいとしている。
障害者自立支援法をめぐっては今年1月、障害者らによる同法違憲訴訟の原告と政府との間で、同法の廃止や同法に代わる新法制定などを盛り込んだ「基本合意文書」が取り交わされた。その後、民主党などは新法制定までの暫定措置として、同法の改正案を前通常国会に提出したが、事前の相談がなかったとして原告らが反発、改正案は廃案になった。8月には「障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会」などが、改正案を再上程しないことを望む声明を発表していた。


◆精神障害者の保護者制度、抜本見直しを
(医療介護CBニュース 11月1日(月)23時1分配信)
 内閣府の「障がい者制度改革推進会議」は11月1日、23回目の会合を開いた。医療分野での障害者施策における論点を整理する医療合同作業チームのメンバーが、10月に開いた初会合での議論の内容を報告。精神障害者の医療保護入院などにおける責任者として当事者の親などを規定している精神保健福祉法の「保護者制度」について、抜本見直しを視野に議論していく方針などを示した。
 同チームの堂本暁子座長(前千葉県知事)は、▽「社会的入院」を解消し、自立した生活および地域社会への包摂のための施策の根拠となる規定を設ける▽医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠となる規定を設ける▽強制的な入院などの人権制約が行われる場合に適性手続を保障する規定を設ける―の3点について、議論を進めていくことを報告した。
 特に「保護者制度」については、精神保健福祉法により、精神障害者を親などの「保護者」の同意のみで医療保護入院させられることが、自己決定権の侵害だとして抜本見直しが必要だとしている。また、「保護者」の立場からも、医師への協力などの義務を課されることに対し、家族の負担が大きいとして問題視しており、自治体やその他の公的機関が責任を負う制度に改めることも視野に検討する。
 さらに、精神保健福祉法そのものの存廃も議論の対象として提示された。川崎洋子委員(NPO法人全国精神保健福祉会連合会理事長)はこの日の会合で、「保護者制度の解消は何としてもやりたい。今ここでしないと、『保護と収容』の生活が続く」と主張した。
 また会合では、障害者基本法改正案の各則関係部分の「国際協力」「選挙等」「公共的施設のバリアフリー化」に関しても話し合われた。とりわけ「公共的施設のバリアフリー化」では、建物などのハード面だけでなく、情報などのソフト面でのバリアフリー化を求める声が委員から上がった。ほかにも、「地方において駅や建物単体でのバリアフリー化が進む一方、それらをつなぐ交通面でのバリアフリー化が遅れている。切れ目のない移動手段の確保が必要」(尾上浩二・NPO法人障害者インターナショナル日本会議事務局長)との意見も出た。


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▼10月分
◆障害者集会:新たな支援策求め、1万人が参加−−東京・日比谷
(2010.10.30 毎日新聞 東京朝刊 28頁 社会面)
 障害者自立支援法に代わる新たな支援策の実現を求める集会とデモ行進が29日、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂と周辺で行われ、全国の障害者ら約1万人が参加した。
 集会では、厚生労働省の岡本充功政務官が「新たな総合福祉法制の検討では、透明性、公平性や財源が大切」とあいさつ。参加者を代表して、視覚障害者の織田津友子さんが「どの地域でも障害者が差別なく地域で暮らせる権利を保障してほしい」といったアピール文を読み上げた。【野倉恵、写真も】


◆1万人超の障害関係者が「自立支援法の廃止を」
(医療介護CBニュース 10月29日(金)21時42分配信)
日本障害者協議会などは10月29日、東京都千代田区の日比谷公園で、障害者自立支援法の廃止と、同法に代わる「障害者総合福祉法」(仮称)などの新法制定を訴える「10.29全国大フォーラム」を開催した。会場には、1万人を超える障害関係者が集まった。
 フォーラムでは、厚生労働省の岡本充功政務官があいさつし、2013年8月までの「障害者総合福祉法」(仮称)施行を目指すことが閣議決定されたことに触れ、「(障害関係者への)透明性と公平性のある安定した施策に向けて、一歩一歩だが確実に進めていく」と述べた。
 民主党政策調査会「障がい者政策プロジェクトチーム」の谷博之座長は、障害者自立支援法で医療費の自己負担上限額が設定されている自立支援医療について、「非課税低所得者の無料化を求める声が届いている。来年度の予算獲得に努力したい」との意気込みを示した。このほか、社民党や共産党などの国会議員も参加し、障害者自立支援法の廃止を訴えた。
 障害者基本法の改正案などについて議論している内閣府の「障がい者制度改革推進会議」の藤井克徳議長代理は、前通常国会で廃案になった障害者自立支援法の改正案に触れ、「今開かれている臨時国会で提出されないという話はない。提出されて成立すれば、障害者自立支援法の根を残す可能性もある」と懸念を示し、「今が大事な時期だ」と強調した。
 また、障害者の立場からは8団体が、それぞれの障害にかかわる問題を訴えた。その後、参加者は2組に分かれ、国会議事堂や東京駅周辺などを約1時間半かけてデモ行進した。


◆民主・障害者PTで意見交換―当事者ら「評価と懸念」
(医療介護CBニュース 10月28日(木)22時11分配信)
 民主党政策調査会の「障がい者政策プロジェクトチーム(PT)」は10月28日、障害者自立支援法違憲訴訟の元弁護団や「障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会」と意見交換を行った。出席者は、同訴訟での和解成立など、民主党政権による一連の障害者政策を評価する一方、和解で交わされた「基本合意文書」の一部に進展がないことには懸念を示した。
 元弁護団の竹下義樹団長は、障害者基本法の改正法案などについて議論している内閣府の「障がい者制度改革推進会議」が、今年1月から22回の会合を開いていることを踏まえ、「早いスピードで動いている。ここまできたら議論をどうしても(同法改正などに)結実させたい」と評価した。また、「めざす会」の障害当事者からは「同会議の委員の半数以上が障害当事者。これは障害者の歴史上、画期的」と評価する意見が出た。
 一方で、「(合意で)速やかに行うとした応益負担の廃止が行われてない。約束は守ってほしい」との意見も出た。
 また同PTはこの日、障害者基本法改正の検討状況について障がい者制度改革推進会議との意見交換も行った。同PTの谷博之座長は、「推進会議での議論の具体的な中身の結実は、与党と政府一体の政治主導にかかっている。今後は緊密にクロスしていきたい」と述べた。


◆知的障害者施設、「新体系」に懸念 高山で研究協議会 /岐阜県
(2010年10月22日 朝日新聞 朝刊 岐阜全県・1地方 027)
 東海地区にある知的障害者施設の施設長ら約200人が参加した研究協議会が21日、高山市内で始まった。政権交代後、サービス利用に原則1割の負担を課す「障害者自立支援法」の廃止が打ち出され、今回は国の動向に注目が集まった。22日まで。
 同法は廃止される方針だが、従来の施設は、2012年3月までに新しいサービス体系に移行することが求められている。人員配置の基準や報酬などが変わるため、施設によっては減収になり、移行のめどが立たない例もある。
 知的障害者施設「恵那たんぽぽ作業所」の小板孫次施設長は「授産施設などが、新体系に移行できずに閉鎖に追い込まれる恐れがある。国に実情を訴えていきたい」と話していた。
 初日は基調講演の後、子どもの発達支援、地域拠点としての役割などをテーマに分科会を開いた。


◆精神障害者の保護者と入院制度で検討チーム―厚労省
(医療介護CBニュース 10月21日(木)23時10分配信)
厚生労働省は10月21日、「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」の第10回会合を開催した。会合では、11月から12月をめどに、精神障害者の保護者制度と入院制度のあり方について検討するワーキングチームを、同検討チームの第1期メンバーによる会合の下に設置すると報告。ワーキングチームでは、精神障害者の強制入院などの問題解決に向けて、両制度の問題点や改善点について議論する。
 今年6月に閣議決定された内閣府の障がい者制度改革推進会議による「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」を踏まえ、「保護者に課せられた義務の法的意義とあり方」「医療保護入院等入院制度のあり方」を主な論点に、法律の専門家を中心とする構成員で議論。定期的に同検討チームの第1期メンバーによる会合を開いてワーキングチームの検討状況を報告し、来夏をめどに方向性を示す。
□「医療版小規模多機能が必要」
 また、同日開催された同検討チームの第2期会合では、認知症患者に対する精神科医療体制を再構築するための取りまとめの議論を行った。構成員からは医療へのアクセスの強い新たな介護施設として「医療版小規模多機能型居宅介護のような仕組みが必要なのではないか」(三上裕司・日本医師会常任理事)などの指摘があった。
 また、事務局が第2期の論点の一つとする「現在入院している認知症患者への対応および今後入院医療を要さない患者が地域の生活の場で暮らせるようにするための取り組み」について議論した。
 論点のポイントは、「認知症に対する医療側と介護側との認識を共有化するための取り組み」と「入院医療を要さない認知症患者の円滑な移行のための受け皿や支援の整備」の2つ。
 地域の受け皿の一つとして、小規模多機能型居宅介護の医療アクセスを強化した施設案が出たほか、事務局が論点の一つとして示した「退院支援・地域連携クリティカルパス(退院支援・地域生活医療支援計画)の導入」についての議論が目立った。
 構成員からは、「退院後の地域の受け皿をどうすべきかが重要」(河崎建人・日本精神科病院協会副会長)、「利用者不在の工程表にならない注意が必要」(長野敏宏・財団法人正光会常務理事)などの意見があった。


◆特別障害者給付金の引き上げ求める声も―民主PT
(医療介護CBニュース 10月14日(木)22時26分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101014-00000008-cbn-soci
 民主党政策調査会の「障がい者政策プロジェクトチーム(PT)」は10月14日、8回目の会合を開き、障害者自立支援法の見直しの在り方について、関係団体からヒアリングを行った。出席団体からは、無年金障害者救済法に基づいて無年金障害者に支払う特別障害者給付金の引き上げを求める声など、自立支援法の見直しにとどまらず、障害者施策への幅広い意見が出された。
 ヒアリングには、▽日本アビリティーズ協会▽全国社会就労センター協議会▽全国精神障害者地域生活支援協議会▽日本障害者協議会▽難病をもつ人の地域自立生活を確立する会▽制度の谷間のない障害者福祉の実現を求める実行委員会―の6団体が出席した。
 会合後に記者会見した同PTの谷博之座長によると、出席団体からは、障害福祉サービスの利用者負担の無料化を訴える主張や、自立支援法改正では相談支援事業の見直しをせず、同法に代わる新法として内閣府の「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」で議論が進められている「障害者総合福祉法」(仮称)で対応すべきとする意見が出た。
 一方で、自立支援法の枠組みを超えた意見も複数上がったという。具体的には、在宅難病患者への訪問介護などを行う難病患者等居宅生活支援事業の予算が未消化のため、余剰予算を新たな障害者施策に使うべきとする提案や、制度上の理由から無年金になってしまった障害者に支払う特別障害者給付金の金額を引き上げるべきとする意見などが出た。谷座長はこれらの意見に対し、同給付金額の引き上げについては、「検討したい」と前向きな姿勢を示した。


◆障害者自立支援法:「福祉サービスは公費で」 鹿大教授ら、問題点など講演 /鹿児島
(2010.10.05 毎日新聞 地方版/鹿児島 23頁)
 社会福祉の充実を目指す「子ども・障害者・高齢者の福祉を豊かにする会」の発足総会が鹿児島市であり、代表世話人の伊藤周平鹿児島大法科大学院教授らが障害者自立支援法の問題点などについて講演した。
 同法は06年施行。障害福祉サービスなどの利用が応益負担(サービス費用の1割)に切り替わり、施設利用者の負担が増したと強い反発を受けた。与党・民主党は今年1月、同法の違憲訴訟の原告団と、13年8月までの同法廃止と、新たな総合的福祉法の制定などについて基本合意した。
 伊藤教授は、市町村がサービス費用の9割を現金給付する仕組みを批判。「健康で文化的な最低限度の生活に必要な福祉サービスが、商品化されてしまった」と強調した。
 また、そもそも支援法は、給付抑制のため、費用負担の半分を保険料で賄う介護保険制度との統合を前提としているが、伊藤教授は「応益負担などの問題の根本は介護保険化にある。介護保険法と支援法を廃止し、高齢者・障害者サービスは全額公費負担にすべきだ」と主張した。
 基本合意後、首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」の下で新制度づくりが進められているが、5月、衆院厚生労働委員会が自公政権提案とほぼ同じ内容の改正案を可決したため、関係者は「公約違反」と反発している。開会中の臨時国会で可決される可能性がある。【村尾哲】


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▼9月分
◆相談支援事業の在り方に批判や不満
(医療介護CBニュース 9月30日(木)21時18分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100930-00000015-cbn-soci
 民主党政策調査会の「障がい者政策プロジェクトチーム(PT)」は9月30日、6回目の会合を開き、障害者自立支援法の見直しの在り方について、障害者関係団体からヒアリングした。ヒアリングでは、同法上の相談支援事業の在り方に対する批判や不満が相次いだ。
 この日のヒアリングには、▽障害者自立支援法訴訟団▽全国身体障害者施設協議会▽全国地域生活支援ネットワーク▽日本ALS協会▽日本脳外傷友の会―の5団体が出席した。出席予定だった日本相談支援専門員協会は欠席し、事前に要望書を提出した。
 会合後に記者会見した同PTの谷博之座長によると、相談支援事業に関して、福祉サービスの利用をアドバイスする同事業と支給サービスの審査・決定を、同じ市町村が行っていることに対する批判や不満が各団体から出た。
 また、同事業の見直しについて、内閣府の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会で既に議論されている点を指摘し、民主党が見直しにかかわる必要はないとする主張もあったという。
 日本相談支援専門員協会が提出した要望書では、同事業の相談員の待遇・資質の向上と、障害者5万人当たり2-3人の配置が必要だとして、これらを実施する財源の確保を求める意見があったとした。さらに、同事業の充実度に市町村によって格差があるとして、財源確保による解決を要望したという。


◆障害者自立支援法改正、6団体中5団体が難色―民主PT
(医療介護CBニュース 9月28日(火)20時53分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100928-00000015-cbn-soci
 民主党政策調査会の「障がい者政策プロジェクトチーム(PT)」は9月28日、5回目の会合を開き、障害者自立支援法の見直しの在り方について障害当事者団体からヒアリングした。ヒアリングに参加した6団体のうち5団体が同法の改正に難色を示した。
 ヒアリングには、▽全日本難聴者・中途失聴者団体連合会▽全国盲ろう者協会▽日本発達障害ネットワーク▽全国自立生活センター協議会▽日本てんかん協会▽日本難病・疾病団体協議会―の6団体が参加した。
 会合後に記者会見した同PTの谷博之座長によると、同法の改正には発達障害ネットワークが賛成したものの、ほかの団体からは、「厳しい意見が出た」(谷座長)という。
 同法をめぐっては、今年1月、障害者らで構成する障害者自立支援法違憲訴訟の原告が、同法の廃止や同法に代わる新法制定などを盛り込んだ「基本合意文書」を国と取り交わした。その後、民主党など与党は新法制定までの暫定措置として、同法の改正案を前通常国会に提出したが、事前の相談がなかったとして原告らが反発、同改正案は廃案になった。□内閣府と連携へ
 民主党PTは、PTの役員を中心に、内閣府の「障がい者制度改革推進会議」メンバーも参加する会合を新たに設ける。この日の会合で、谷座長が明らかにした。同会議と民主党PTが連携し、障害者自立支援法の見直しの在り方に関する議論を進めていく方針。
 また、園田康博前事務局長の内閣府政務官就任を受け、中根康浩副座長が事務局長に就任した。


◆長妻氏「天敵だったのでは」 厚労相退任会見
(2010年09月23日 朝日新聞 朝刊 政治 004)
 長妻昭前厚生労働相は22日の退任記者会見で、厚労省について「隠蔽(いんぺい)体質、無駄遣い、天下り体質があり、世間の期待に比べて動きがワンテンポずれていた」と評価した。その上で「かなり追及したので、厚労省にとって『天敵』の位置づけだったのでは」と振り返った。
 長妻氏は予算のムダ削減や天下りの排除による「役所文化の変革」に取り組んだと強調。「他の役所に比べ、厳しすぎるという声もあったが、一番お金を使う役所だからこそ、徹底的に見直すことが大きな力になり、道が開けると繰り返し申し上げた。だが、『どうして』との思いのあった方もいた」と、職員の理解がなかなか得られなかったことに悔しさをにじませた。
 民主党の目玉政策だった子ども手当については「必ずや少子化の流れを変えるものになる」と断言。さらに、毎年2200億円の社会保障費の伸びの抑制をやめたことや、診療報酬の10年ぶりの増額、後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止への取り組み、年金記録問題で全件照合の道筋をつけたことも実績として挙げた。(石塚広志)


◆(私の視点)障害児通園施設 一元化めざす法改正急げ 宮田広善
(2010年09月22日 朝日新聞 朝刊 オピニオン1 019)
 鳩山前首相の突然の辞任表明による国会審議の停止のため、多くの重要法案が廃案となった。「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案」もその一つである。
 この法案の上程に対しては、障害のある当事者が中心となって新たな障害福祉制度を検討している国の障がい者制度改革推進会議の審議を無視したという批判がある。しかし、法案の大部分は、私たちが長く要望してきた発達支援にかかわる施設の一元化(障害種別の撤廃)や障害児に特化した相談支援事業の創設などを盛り込んだ児童福祉法改正案であり、成立が待たれていたものだ。児童福祉法改正案が国会に再上程され、早急に成立することを強く求めたい。
 従来、障害のある子どもたちは、「障害があるから」と保育所や学童保育などの児童福祉施策から疎外され、また「障害がまだ確定していない」という理由で乳幼児期からの障害福祉施策を受けにくかった。いわば、制度の谷間に置かれてきた。
 加えて、主に就学前の障害児の発達支援を担う通園施設は、公立、私立を合わせて全国に約380カ所しか設置されておらず、設置状況にも地域格差が大きい。その上、知的障害、肢体不自由、難聴の3種別に分けられているため、自宅近くに子どもの障害に合う施設がなければ通園をあきらめたり、入所施設に入所せざるをえなかったりする状況がある。また、障害が重度であったり両親が就労していたりして通園できない子どもは支援の対象にならず、施設の職員が家庭や保育所などを訪問して支援する国の事業もない。
 これらの問題を解決するために、2008年に親の団体も加わった障害児支援の見直しに関する検討会が開催され、その報告書は09年3月に、今回の児童福祉法改正案とほぼ同内容の閣議決定につながった。しかし、この時も衆議院の解散のため廃案となった。
 この児童福祉法改正案には、障害種別に分けられている障害児通園施設を児童発達支援センターに一元化して利用しやすくし、障害児のいる家庭や保育所などをセンターの職員が訪問して支援する事業や、学齢期の障害児に放課後の発達支援をするデイサービス事業の新設など、柔軟な障害児支援に向けた重要な内容が盛り込まれている。障害が確定する前の、発達が気になりだした段階から専門家が相談に乗る事業の重要性も指摘されている。
 障がい者制度改革推進会議は障害者自立支援法に代わる障害者総合福祉法の13年施行をめざして審議中である。しかし、日々発達する子どもたちはその審議を待ってはくれない。保護者や施設関係者も、児童福祉法改正に期待をかけていたが、混迷する国会は願いにこたえてくれなかった。
 「私たち(障害当事者)抜きで私たちのことを決めないで!」を合言葉に進む世界の障害福祉の流れの中、子どもたち抜きの政局に、障害のある子どもたちの願いが翻弄(ほんろう)されてはならない。
 (みやたひろよし 全国児童発達支援協議会副会長)


◆難病訪問介護「短い」「24時間必要」 患者2人 和歌山市相手に提訴
(2010.09.16 読売新聞 大阪夕刊 夕2社 10頁)
 24時間の訪問介護が必要なのに、1日約8時間の介護しか受けられないのは、障害者自立支援法などに反するとして、和歌山市に住む筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の70歳代の男性2人が16日、同市を相手取り、決定取り消しと月651時間(1日21時間)の介護支給、各100万円の慰謝料を求める訴えを和歌山地裁に起こした。
 訴えによると、2人は四肢の筋力がまひし、自力で体位変換や排便ができず、人工呼吸器の管理など24時間介護が必要。市が今年5月、「介護保険の適用を受けている場合は、公的負担は1日8時間が限度」などとして2人の介護支給量を各月268時間(1日約8時間)とした決定は、申請者の心身や介護者の状況を勘案しなければならないとする同法などに反するとしている。
 市障害福祉課は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。


◆障害者自立支援法訴訟、和解 元原告ら、闘いを本に /奈良県
(2010年09月10日 朝日新聞 朝刊 奈良全県・2地方 026)
 障害者の福祉サービス利用に原則1割の負担を課した障害者自立支援法は違憲だとして、国を相手取って提訴し、3月に同法廃止を約束する和解を勝ち取った元原告の小山冨士夫さん(53)や支援者らが、訴訟を振り返る「奈良・障害者自立支援法訴訟の闘い 真の自立をめざして」(A5判、127ページ)を出版した。
 執筆したのは、小山さんをはじめ、障害者や弁護士ら25人。小山さんの意見陳述書や日記からは「障害者の代表として、がんばっていきます」と果敢に訴訟に挑む一方、「なんぼ合意書があっても、こんどの選挙でまけて、ひっくりかえるようになったらこわいな」と不安な気持ちを抱く様子も伝わってくる。
 原告代理人の佐々木育子弁護士は提訴前からの流れを振り返り、1年という短期間での「勝訴的和解」を評価。「基本合意は国のした約束ですから、これを守らせるように、あくまで運動を盛り上げていかなければならない」としている。
 1千円(税込み)。問い合わせはきょうされん奈良支部(080・1424・9315)へ。


◆[あんしん教室]障害者手帳で支援さまざま 等級で異なる措置 
(2010.09.07 読売新聞 東京夕刊 安心A 05頁)
 障害のある人は手帳を持っているそうです。その手帳を持てば、どんな支援が受けられるの?
 障害者の持つ手帳は、障害によって異なっている。身体障害のある人は「身体障害者手帳」、知的障害のある人は「療育手帳」、精神障害のある人は「精神障害者保健福祉手帳」。都道府県などから交付される。
 身体障害者手帳の対象となる障害は表に示した通り。所定の用紙を用いた指定医の診断書と顔写真を添えて、市区町村の福祉担当窓口に申請する。障害の程度によって1〜6級に分かれる。有効期限はないものの、再認定の手続きが必要な場合もある。
 療育手帳(東京都では「愛の手帳」と呼ばれるなど、都道府県で名称が違うこともある)の申請も、顔写真を添えて市区町村の福祉担当窓口へ。認定や等級は、知能指数で判定されるが、区分の仕方は都道府県などによって異なる。
 例えば千葉県。最重度では18歳未満が「(A)」、18歳以上が「(A)の1」と「(A)の2」。最重度以外は年齢に関係なく、重度が「Aの1」と「Aの2」、中度が「Bの1」、軽度が「Bの2」となっている。
 申請には、18歳未満は児童相談所で、18歳以上は「障害者福祉センター」などの名称の指定機関で、それぞれ面接による医師の判定が必要だ。有効期限があり、再判定と更新の手続きが求められる。
 精神障害者保健福祉手帳の申請も顔写真のほか、医師による所定の診断書が必要。ただ、障害者年金証書のコピーなどでもよい。等級は1〜3級で、有効期限は2年だ。
 手帳を持っていればさまざまな支援を使える。障害者自立支援法に基づく介護や就労支援などの福祉サービスをはじめ、所得税の障害者控除や住民税の非課税、自動車税の減免など。身体障害者手帳、療育手帳なら、鉄道、バス、航空機などの運賃や有料道路通行料金の割引が受けられる。
 身体障害者手帳で、両下肢、体幹などの障害1、2級、心臓、腎臓、呼吸器、小腸などの障害1、3級、免疫、肝臓の障害1〜3級の人は、選挙の時に、在宅での郵便投票制度を利用できる。
 障害の等級や内容で、適用されるサービスや優遇の範囲は異なる。自治体によって微妙に違うこともある。どんな福祉が受けられるか確認も必要だ。(梅崎正直)


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▼8月分
◆冊子:「奈良・障害者自立支援法訴訟の闘い」発行−−勝利めざす会 /奈良
 (2010年8月22日『毎日新聞』地方版)
http://mainichi.jp/area/nara/news/20100822ddlk29040352000c.html
「 ◇原告小山さんの手記や経過掲載
 今年3月、奈良地裁で和解が成立した障害者自立支援法訴訟を支援した「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす奈良の会」が、冊子「奈良・障害者自立支援法訴訟の闘い 真の自立をめざして」を発行した。原告の小山冨士夫さん(53)=奈良市=の手記、訴訟の経過や意義、今後の課題などを盛り込んでいる。
 小山さんが「二度と障害者を苦しめることがないようにしてください」と訴えた意見陳述を掲載。池田直樹弁護団長は「障がいのある人の地域で生きる権利を勝ち取っていくためには、今後とも絶えることのない運動が不可欠」としている。福祉関係者、大学教授らもメッセージを寄せた。
 訴訟は同法で定める原則1割の応益負担は違憲だとして、小山さんが昨年4月に提訴。今年1月に原告団と国が、同法を廃止し、新しい福祉法制を実施すると基本合意したことを踏まえ、今年3月29日に和解が成立した。
 小山さんは、裏表紙に「国が本当に約束を守ってくれるか、ちゃんと見とどけます」とのメッセージを添えた。「国の方向性がはっきりしないので心配だ。多くの人に読んでもらい、活動の輪に入ってほしい」と訴えている。
 冊子はA6判、128ページ。1000円(送料別)。問い合わせは同会(080・1424・9315)。【高瀬浩平】」


◆障害者外出支援費訴訟:取り消し判決に大田区控訴せず /東京
(2010.08.12 毎日新聞 地方版/東京 21頁)
 障害者自立支援法に基づいて支給される「移動介護加算」を巡り、脳性まひなどで車いす生活をしている大田区の鈴木敬治さん(58)が「実際の外出時間より少ない時間分しか認められなかった」として、区の支給決定処分取り消しなどを求めた訴訟で、大田区は11日、処分を取り消した東京地裁の判決に対し控訴しないと発表した。
 区は控訴しない理由として、区の要綱が適法と認められた▽損害賠償請求が退けられた▽例外的な事例と判断された、などを挙げ、「障害者の自立した生活の支援を行う立場から、控訴しないこととした」としている。【神足俊輔】


◆障害者自立支援法改正案:与野党に再提出しないよう声明
(2010.08.03 毎日新聞 東京朝刊 5頁 内政面)
 福祉サービスの利用者負担を障害が重いほど負担が大きくなる「応益負担」から支払い能力に応じた「応能負担」に変更する障害者自立支援法改正案について、現行の支援法違憲訴訟の元原告・弁護団は2日、「当事者の意見を聞いていない」として、与野党に再提出しないよう求める声明を出した。
 厚生労働省内で会見した元原告・弁護団は、▽改正案は適用期限を明記しておらず、現行の支援法延命になりかねない▽応益負担が残るおそれがある――などと指摘した。
 元弁護団長の竹下義樹氏は「再提出を明言する議員もいる。和解にあたり『障害者の意見を聞く』とした政府と原告の基本合意を踏みにじる動き」と批判した。【野倉恵】


◆支援法新法働きかけ、障害者団体が連絡会 /熊本県
(2010年08月02日 朝日新聞 朝刊 熊本全県・1地方 017)
 民主党政権が障害者自立支援法の廃止と新法制定の意向を示しているのを受け、県内の障害者5団体が1日、「障害のある人の願いを実現する新法をつくる熊本連絡会」を発足させた。
 参加団体は、県障害児親の会連合会、きょうされん熊本支部、障害者・児の生活を豊かにする会、熊本コロニー印刷労働組合、なでしこ園保護者会。
 自立支援法が廃止されるまで、同法の改善を求め、新たな制度づくりに参加することで、障害者の声を施策に反映させるのが目的。今月末、県、熊本市と意見交換する予定だ。
 発足会で熊本学園大の高林秀明准教授は、障害のない人も含めた「雇用と労働条件の基準の確立が必要」と語った。連絡会事務局は「素朴な悩みを持ち寄って欲しい」と参加を呼びかけている。問い合わせは同事務局(096・339・0742)へ。


◆障害者支援法改正案:与野党に再提出しないよう声明
 (2010年8月2日21時19分『毎日新聞』)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100803k0000m040059000c.html
「 福祉サービスの利用者負担を障害が重いほど負担が大きくなる「応益負担」から支払い能力に応じた「応能負担」に変更する障害者自立支援法改正案について、現行の支援法違憲訴訟の元原告・弁護団は2日、「当事者の意見を聞いていない」として、与野党に再提出しないよう求める声明を出した。
 厚生労働省内で会見した元原告・弁護団は、▽改正案は適用期限を明記しておらず、現行の支援法延命になりかねない▽応益負担が残るおそれがある−−などと指摘した。
 元弁護団長の竹下義樹氏は「再提出を明言する議員もいる。和解にあたり『障害者の意見を聞く』とした政府と原告の基本合意を踏みにじる動き」と批判した。
 改正案は、現行支援法廃止と「障がい者総合福祉法」(仮称)実施(13年8月)までのつなぎの位置づけとされている。通常国会で成立予定だったが、鳩山由紀夫前首相の辞任に伴い、廃案となった。【野倉恵】」

◆障害者自立へ新法急いで 麦の芽福祉会が署名活動 鹿児島・天文館 /鹿児島県
(2010年08月01日 朝日新聞 朝刊 鹿児島全県・1地方 031)
 県内で授産施設やホームヘルパー養成などを手がける「麦の芽福祉会」の利用者やその家族、職員ら約30人が31日、鹿児島市の天文館で、サービス利用者の原則1割負担が定められている障害者自立支援法の廃止などを求めて署名・募金活動を行った。
 参加した中野喜代子さん(55)は、長男(28)に知的障害がある。部屋にこもりがちなので、週末は中野さんが外に連れ出すが、いつまでできるかわからないと不安を訴える。「ヘルパーさんにお願いするのにもお金が必要。障害者が必要な支援を受けて自立することが大事なのに、応益負担ではお金のない人は支援を受けられなくなってしまう」
 自公政権下の2006年に施行された同法は「応益負担」制度に障害者らの批判を浴び、民主党の鳩山前政権は廃止を明言した。だが首相退陣後の政局で今後の展望が見えない状況だ。新しい法律が制定されるまでは、現行法に基づく施策が行われる。
 今回署名を集め、一刻も早い新法の制定を急ぐよう県を通じて国に要望してもらうとともに、各市町村によって異なるサービスの格差をなくすよう県に求める。署名は3万件を目標に、8月末には提出する予定だという。


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▼7月分
◆障害者外出支援費訴訟:移動加算「制限は違法」 大田区決定取り消し−−東京地裁判決
(2010.07.29 毎日新聞 東京朝刊 28頁 社会面)
 障害者自立支援法に基づいて支給される「移動介護加算」を巡り、脳性まひなどで車いす生活をしている東京都大田区の鈴木敬治さん(58)が「実際の外出時間より少ない時間分しか認められなかった」として、区の支給決定処分取り消しなどを求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、処分を取り消した。岩井伸晃裁判長(川神裕裁判長代読)は「区は考慮すべき事項を考慮せず、処分は妥当性を欠く」と述べ、違法性を認定した。
 移動介護加算は、障害者が外出時に介護者を依頼するための費用。旧身体障害者福祉法でも同趣旨の支給があったが、06年4月の障害者自立支援法施行で根拠法が変わった。支給量は自治体の判断に委ねられている。
 鈴木さんはマラソンなどの社会参加活動のため、旧法に基づき月124時間分の支給を認められていた。区が04年度以降、原則月32時間以内(後に42時間分)とする上限を設けたため提訴した。
 東京地裁は06年11月、根拠法が変わったため訴えを却下したが「個別事情を十分考慮せずに支給を激減させており違法」と指摘。その後、区側は上限を廃止したが90時間分しか認めず、鈴木さん側が改めて提訴した。
 岩井裁判長は外出記録などを基に「少なくとも114時間は社会参加のための外出。通院分などをあわせて毎月147時間の外出を認めることも可能だ」と指摘。90時間分しか認めなかった06年9月▽113時間までとした06年10月〜08年2月と09年3月〜今年2月の決定を「裁量権を逸脱しており違法」と認定した。区への賠償請求などは退けた。
 会見した鈴木さんは「判決は正しい判断。区と話し合って解決したい」と語った。代理人の藤岡毅弁護士は「ケースワーカーらが障害者の生活実態を把握し、適切な支給をするようにしてほしい」と期待を寄せた。大田区障害福祉課は「今後の対応は判決内容を十分検討のうえで決める」とのコメントを出した。【和田武士】


◆障がい者負担減訴え550人が集会 荒尾=熊本
(2010.07.25 読売新聞 西部朝刊 熊北 33頁)
 知的障がい者(児)と家族、支援者でつくる「県手をつなぐ育成会」(川村隼秋会長)の大会が24日、荒尾市の荒尾総合文化センターで開かれた。
 障がいのある人約200人を含む約550人が参加。開会式で主催者らが「障がい者に大きな負担を強いる障害者自立支援法に代わる新しい体制作りのため、これからが運動のスタート」と、支援を訴えた。また全日本手をつなぐ育成会の大久保常明常務理事が、政府内に設けられた障がい者制度改革推進会議の状況などを報告した。
 大会では、陶芸教室や相談会、地元出身シンガー・ソングライター関島秀樹さんのコンサートも開かれた。


◆(私の視点)地域主権法案 障害者福祉に格差出ないか 太田修平
(2010年07月22日 朝日新聞 朝刊 オピニオン1 017)
 地域主権推進一括法案は先の通常国会で継続審議となったが、障害者の権利を後退させる、という重大な問題をはらんでいる。私たちが勝ち取ってきた改革が台なしにされようとしており、このまま成立させてはならないと考える。
 障害者が生活する施設の居室定員について、まず指摘したい。厚生労働省は身体障害者療護施設の設置基準として、居室定員を4人以下と定めてきた。自治体はこれを守る義務がある。さらに国は、1人部屋か2人部屋を推奨し、施設設置者に対する指導によって個室がかなり増えてきた。
 法案が通ると、定員に関する国の基準は「参酌すべき基準」となる。国の基準を目安にしなければいけないが、自治体はそれに拘束されず、条例で自由に定められるようになる。自治体の自由に任せると、財政力の強弱や、障害者福祉に理解があるかどうかで、自治体間に大きな格差が出てしまい、雑居部屋が増えてしまう恐れもある。今の日本では自明のことだ。
 施設については個人的な思い出もある。障害が重いために、生活施設での暮らしを余儀なくされている障害者はたくさんいるが、私も30年前は施設で暮らしていた。
 当初は3人部屋という状況だった。一番つらいのは夜間で、いびきや歯ぎしり、同室者のトイレ介助などで、なかなか安眠できなかった。青年期を迎えていた私は、プライベート空間がほしいと強く感じた。
 施設には、入居者の自治会があった。3人部屋の解消と、プライバシーが守られる個室化を求めて、施設管理者や設置者の自治体に対して運動を起こし、自治会役員として運動の戦列に立った。完全個室化が実現したのは約15年後、1990年代になってからだ。運動は、他の施設の入居者や自治会、障害者団体にも影響を与えた。
 一括法案が成立すると、新バリアフリー法にも新しい問題が起きる。自治体は、生活や移動をするうえでの支障を取り除くため、「移動円滑化基本構想」を策定することになっていて、障害者など当事者の参画が義務付けられている。ところが、法案が通ると、自治体の裁量に任されることになる。当事者参画は時代の流れであり、ナショナルミニマム(国の最低基準)として保障されなければならない。
 北欧のように地方分権と福祉社会は両立するはずだ。それには市民社会の成熟が欠かせない。他者の立場になって考え、弱い立場の人たちの人権を尊重する意識や風土が定着しているかどうかにかかっている。
 国の障がい者制度改革推進会議が当事者参画のもとに動き出した。障害者自立支援法に代わる新法の議論も進められている。社会福祉分野のナショナルミニマムを明確にするよう、地域主権推進一括法案の修正を求めていきたい。
 (おおたしゅうへい 日本障害者協議会理事)


◆講演会:市民の力で新法を 障害者自立支援法の問題点考える /熊本
(2010.07.19 毎日新聞 地方版/熊本 21頁)
 障害者自立支援法の問題点などを考える講演会が18日、熊本市大江5のウェルパルくまもとであった。全国の共同作業所でつくる「きょうされん」常任理事で、政府の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会員の小野浩さん(47)が語った。
 06年施行の同法は、障害者が福祉サービスを利用する際に原則1割の負担を求めた。反発した障害者らは国や自治体に負担廃止などを求めて提訴した。長妻昭厚労相が同法の廃止を明言して今年1月に和解し、現在は政府が現行制度に代わる制度を検討している。
 小野さんは「障害者自立支援法の延長ではなく、国連障害者権利条約に照らした新しい法をつくるべきだ」と主張。「政治が混とんとしている今、法律をつくる力は市民の運動にしかない。皆で手をつないでほしい」と呼びかけた。【澤本麻里子】


◆社説:「ねじれ」でどうする 医療・福祉 自立支援法が試金石だ
(2010.07.19 毎日新聞 東京朝刊 5頁 解説面)
 野党と何らかの妥協をしなければ何も通らない状況になった民主党にとって、旧政権の政策のうち「廃止」を宣言したものをどうするかは難問だ。たとえば、後期高齢者医療制度、障害者自立支援法である。いずれも廃止後の新制度について現在検討されているが、もとは民主から仕掛けた対決案件だけに自民や公明がすんなり同調するとは思えない。
 今後の展開を占う先行事例として自立支援法改正案が挙げられる。新制度が制定されるのは順調にいっても数年後、施行はさらに先であることを考えると、少しでも現行制度を改善しておくことは大事だ。麻生政権のころ国会提出された自立支援法改正案には、発達障害を法の対象に加える、グループホームの家賃補助、相談支援事業の法定化など重要な内容が盛り込まれていた。当時は民主が議論に応じず廃案となったが、私たちはこれらの改善点をとりあえず実現させてはどうかと提案した。実際、先の通常国会で自公が再び改正案を提出し、民主も協議に応じた。その結果、新制度までの「つなぎ」として議員立法で成立させることで合意し、衆院では可決された。
 ところが、障害者らが中心となって新制度を検討している内閣府の障がい者制度改革推進会議を支持する人々から「説明もなく頭越しに制度改正するのはおかしい」などの批判が起こり、民主党内でも反対の声が強まった。動揺する議員が続出し、参院での採決をめぐってもめていたさなかに国会が閉幕したため改正案はまた廃案になった。
 Nothing about us,without us(私たちのことを私たち抜きで決めるな)をスローガンに新制度に取り組む人たちが反対するのは分かる。その一方で障害者の地域生活を支えるのに有効な制度改正がまたしても流され、落胆の声が各地で聞かれるのも事実だ。利害が複雑に絡み合った案件では、立場も思想も違う人々の納得を取り付けるのは容易ではない。関係者や党内に対する調整能力を欠いては、政治主導も看板倒れに終わることをこの一件は物語っている。
 「つなぎ」法案ですらこれでは、さらに難易度の高い医療や年金改革はどうなるのか。後期高齢者医療制度は10年もかかって検討されてきたが、実際に施行されると高齢者から不満が噴出した超難問である。財源不足に直面しながら現行制度をさらに良いものに改革するには、これまで以上に周到な与野党協議が必要なのは言うまでもない。その前段階として、民主党内での議論の積み重ねや合意形成は大丈夫なのか。そこが心配だ。


◆どうなる障害者自立支援法
 (2010年07月10日 asahi.com>マイタウン新潟【2010参院選@新潟】)
http://mytown.asahi.com/niigata/news.php?k_id=16000561007100003
「 障害者の福祉サービス利用に原則1割の自己負担を課した「障害者自立支援法」。2006年の導入以降、負担上限額の変更を重ね、今年4月からは低所得の障害者の負担が無くなった。多くの人が負担を免除された一方、今後の方向性にあいまいさも残る。参院選後、民主党が公約する同法廃止への流れはどうなるのか。当事者らは、議論の行方を注視している。
 「自立支援法が始まった頃は、すごくお金がかかった。働きに来ているのに、どうしてお金を取られるんだろうと思った」。新潟市西区の通所授産施設「社会就労センター もぐら工房」に通う小竹康之さん(41)。脳性まひで、手足と聴覚、言語に障害がある。平日はほぼ毎日通い、古い衣類を加工して機械の油汚れを拭くための布に加工する仕事などをしている。
 同センターから受け取る工賃約2万円から、センターの利用料と食事代を合わせて1万4千円が引かれた。今年4月から市町村民税非課税世帯の負担が免除され、小竹さんの負担もなくなった。「今のままがいい」と願う。
 自立支援法で最も強い批判を浴びたのは、サービスを利用する際に原則1割の自己負担を求める「応益負担」だ。前身の支援費制度は本人の所得に応じて支払う「応能負担」だったため、利用者の9割は本人負担がなかったのが、大部分の人に負担増となった。各地で同法を違憲と訴える訴訟が相次いだ。
 鳩山前政権は、同法の廃止を前提に各地の原告団と和解。障害者本人や家族がメンバーに加わる「障がい者制度改革推進会議」を発足し、同法に代わる新制度を12年度に制定することを目指して動き出した。
 ところが、障害者らに不安が戻った。5月末、超党派の議員立法で提出された自立支援法の改正案が、衆院厚生労働委員会で可決。応益負担から応能負担に戻すことなどが盛り込まれたが、昨年3月に自公政権が国会に提出した内容とほほ同じ。民主党案にあった同法「廃止」の文言も消えた。可決を急ぎ、妥協した結果だ。その改正案も、首相交代などの政局にのみ込まれる形で廃案となった。
 重度の脳性まひながら、行商で生計を立てる新潟市西蒲区の乙川正純さん(45)も廃止を期待する一人。「当事者が入る会議ができたときには一歩前進したと思ったのに、民主党は何をやっているんだ、という思い」と話す。
 もぐら工房の田中滋世所長は、自立支援法導入当時を思い出す。利用者らに制度を説明した際、「負担は嫌だけど、自分たちも後輩たちも将来、安心して暮らせるようにするためなら仕方ない」という声が上がった。「このままでは社会保障が破綻するから、と導入された制度だったはず。財源はどうなるのか、どの範囲の人をどこまで、どう支援していくのか。議論を見守りたい」と話す。(伊木緑)」


◆(一票の足元)障害者自立支援法 寝耳に水の改正案に不信 参院選 /福島県
(2010年07月09日 朝日新聞 朝刊 福島中会・1地方 035)
 障害者自身が主体となり、生活支援事業などを行う郡山市のNPO法人「あいえるの会」。理事長の白石清春さん(60)の胸のうちは昨年の政権交代以降、期待と失望のはざまで揺れ続けている。
 福祉サービス利用者の利用料の「原則1割負担」など問題が多く、違憲訴訟が相次いだ障害者自立支援法について、鳩山内閣は公約通り「廃止」を約束した。新たな法整備に向けて、当事者が加わる制度改革推進会議も設置。抗議行動に車いすで参加した白石さんは「やっとここまで来た」と少しほっとした。
 5月末、「寝耳に水」の出来事が起きた。民主と自民、公明が合意し、問題点をはらむ改正案を議員立法で提案。現行法廃止の文言も消えた。衆院を通過後、首相退陣で参院採決が流れて廃案になったが、提案までの経緯すら分からない。「推進会議の議論もへていない。なぜ当事者の声を聞こうとしないのか」。政治への不信は募るばかりだ。(日高敏景)


◆(2010参院選 6年を託す:4)自立支援法 「障害は自己責任なのか」 【大阪】
(2010年07月09日 朝日新聞 朝刊 生活1 029)
 通常国会が会期末を迎えた先月16日、東京・永田町の参院議員会館前に障害者や支援者ら約500人が集まった。広島県廿日市市から駆けつけた秋保(あきやす)喜美子さん(61)が声を振り絞った。
 「生きることの心配をさせるこの国の政治は、本当に情けない。(福祉サービスの利用量に応じて1割の自己負担を課す)応益負担をなくすためにがんばってきた。障害者自立支援法改正案は、私たちの思いとは反対に向かうとしか思えない」
 これまで求めてきた「支援法廃止」の文言が改正案にはなく、所得に応じた負担を原則としつつも、「応益負担」の考え方が残る内容。障害者団体などから批判が強まっていた。
 昨年9月16日、鳩山内閣が発足。その3日後、長妻昭厚生労働相が支援法の廃止を明言した。あのときの喜びはいま、失望に変わってしまった。
     ◇
 身体障害のある夫和徳さん(58)とともに1986年から作業所に通い続ける。喜美子さんは布織り、和徳さんはパソコンでの名刺作りで、工賃を得てきた。
 ところが、支援法が2006年に施行され、無料だったホームヘルプや作業所の利用料は一時、夫婦で月2万円以上に。障害基礎年金や工賃などの収入から生活費を差し引くと生活はぎりぎり。「食事やトイレ、入浴などへの支援が『利益』なのか。障害を持ちたくて持ったわけではないのに、障害は自己責任なのか」。怒りを胸に、08年10月、和徳さんとともに支援法違憲訴訟の原告に名乗りを上げた。声を上げられない多くの障害者のためにも、と広島地裁の法廷に出向き、意見陳述した。
 政権交代で風向きは一変。長妻発言から5日後の口頭弁論で、国は対決の方針を引っ込めた。今年1月、原告・弁護団との間で基本合意が交わされ、広島訴訟は4月に和解が成立。合意に基づいて市町村民税非課税の障害者は福祉サービスが無料になり、秋保さん夫婦の自己負担もゼロとなった。「当事者と国が、同じ思いで新法を作る道が開かれた。これからが新たなスタート」と思っていた矢先の5月28日、支援法の改正案が、衆議院厚生労働委員長(民主)の提案で国会に提出された。「障害者の声をほとんど聞かず、前触れなしにぽんと出された。選挙を前にした実績づくりやほかの法案を通すための取引といった何らかの駆け引きがあったとしたら許せない」
 支援法の立法過程で障害者の意見を十分に踏まえなかったことなどの反省を踏まえて施策の立案に当たる、とした基本合意や、障害者らも参加して議論している政府の「障がい者制度改革推進会議」が、軽くあしらわれていると感じた。
 思えば5年前。自公政権は、障害者の不満を押し切るかたちで支援法を成立させた。訴訟にはそうした姿勢をただす意味もあったが、「また同じことを繰り返すのか」とやるせなさが募った。結局、鳩山前首相退陣の余波で改正案は廃案になった。でも、再提出されるのではないかという不安は消えない。
     ◇
 秋保さんが声を上げた議員会館前では6月8日も集会があり、福井市の山内敬一郎さん(56)の姿もあった。
 「支援法の廃止を公約にする民主党に政権交代したら、いい方向に進むと期待していたのに……。政治に振り回された」。両足が不自由なため、車いすで生活。ヘルパーの支援は欠かせず、サービスの当初の自己負担は月2万円を超え、作業所での工賃の倍以上に。今は自己負担はゼロだが、障害基礎年金などを合わせた月収は9万円余りで生活は厳しい。
 「変化を好まず、障害者運動が活発とはいえない」福井から「おかしいことはおかしい」と声を上げようと、違憲訴訟が続いていた昨年秋、第3次提訴に加わる準備を進めていた。政権交代で提訴は見合わせたが、原告と同じ思いで訴訟を見つめてきた。
 投票まで2日。選挙戦のテーマに障害者施策がのぼることはほとんどないが、13年までに制定される新法作りに影響を与える選挙だ。「当事者の声をちゃんと取り入れ、決定の過程が外からもきちんと見える政治」への思いを一票に込める。(森本美紀、田中章博)
 =おわり


◆1票の現場から:’10参院選ぐんま 障害者自立支援法 /群馬
 (2010年7月7日『毎日新聞』群馬版)
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20100707ddlk10010109000c.html
「 ◇「社会を変えたい」 早期廃止の願い込め投票
 母親が妊娠8カ月で虫垂炎になった。手術が必要になり、胎内にいた赤ちゃんを取り出した。わずか700グラム。1951年4月、未熟児として生まれた阿久澤洋子さん(59)=前橋市=には脳性まひの障害が残った。手を自由に動かすことができず、声をスムーズに出せない。小学校入学をあきらめ、療護施設に入所して初めて「自分は普通の子供と違う」と気付いた。
 18歳になると、この施設を出なければならなくなった。家に戻ったが、自分の世話のために両親に迷惑をかけることが後ろめたかった。自宅から福祉作業訓練所に通いながら、「どうやったら1人暮らしができるんだろう」と情報収集の日々を過ごした。
 27歳の時に、同じ障害を抱える仲間らと共同生活を始めて自立。しかし、92年に次の試練が待ち構えていた。旅行先で手足のしびれを感じ、ホテルのベッドに横たわると、そのまま動けなくなった。病院には「原因不明」と言われた。「寝返りもうてなくなった。この現実を受け入れるのは厳しかった。夜に目をつぶると、まぶたの裏に『死』という字が浮かぶ毎日だった」
 全身が動かなくなる「ギランバレー症候群」と診断されたのは05年。女優の故大原麗子さんらの罹患(りかん)で知られるようになった難病だ。発症から10年以上たっており「私の場合はもう手遅れ」(阿久澤さん)。寝たきり状態が続く。
 次の試練は、政治によってもたらされた。05年10月28日の自公政権下。東京・永田町の国会議事堂周辺は、全国から集まった1万人とも言われる障害者で埋め尽くされた。車椅子の阿久澤さんも、ヘルパーの成田茂さん(51)=前橋市=に連れられ、障害者に福祉サービスの原則1割負担などを求める「障害者自立支援法案」に対する抗議の輪に加わった。法案が通れば、従来の所得に応じた「応能負担」から、受益(利用したサービス)に応じた「応益負担」に変わる。負担増になる障害者も多く、成田さんは「金がなければ死ねということか」。
 法案はこの日の夕刻、衆院厚生労働委員会で可決。国会周辺は泣き崩れる障害者であふれた。
 障害者自立支援法の成立から4年を経て、同法の廃止をマニフェストに掲げた民主党が政権を奪取した。長妻昭厚生労働相は就任後間もなく、同法の「廃止」を明言。成田さんは「ついにこの日が来た」と思った。
 しかし、喜びはつかの間だった。応益負担から応能負担に原則戻す障害者自立支援法改正案は6月、審議未了で廃案に。鳩山内閣を引き継いだ菅内閣が参院選を前に、国会の会期延長に応じなかったためだ。
 政治の「裏切り」を阿久澤さんは冷静に見つめた。「障害者は何度も裏切られてきたので、驚かなかった。長妻厚労相が法廃止を宣言した時も、期待はしていなかった」
 阿久澤さんは、今回の参院選で期日前投票に行った。1票に「社会を変えたい」との思いを込めた。【塩田彩】」


◆2010参院選:自立支援法の行方は 障害者に選択幅を−−県連合会結成 /和歌山
 (2010年7月7日『毎日新聞』和歌山版)
http://mainichi.jp/area/wakayama/news/20100707ddlk30010372000c.html
「 終盤戦に入った参院選(11日投開票)。障害者やその家族らは障害者自立支援法の行方を注視している。地域の中での生活を促すのが国の施策の流れだが、さまざまな事情で施設暮らしを望む人たちは、希望がかなわなくなるのではないかと、危機感を持っている。多様なニーズにどう応えるのか。消費税問題に関心が集中しがちな選挙戦だが、議論の深まりを待っている。【山下貴史】
 4月22日、和歌山、海南両市にある9障害者施設の職員や障害者の約500家族が県障害児者施設家族会連合会を結成した。
 同会メンバーの社会福祉法人「つわぶき会」が運営する知的障害者更生施設「綜愛苑(そうあいえん)」(和歌山市西庄)に、今30歳代の知的障害のある兄弟が入所したのは、母親(61)のがん発病がきっかけだった。中度障害のある次男(30)は18歳から会社で4年間働いたが、周囲とのコミュニケーションに苦しんでいた。入所後は「今は幸せ。友達もいる。地域の人も来てほめてくれる」と言ったといい、母親は「ここに『帰る』って言うんです。家なんです」と訴える。
 同苑によると、06年施行の障害者自立支援法が移行を求める新しいサービス体系は、重度障害者の入所には手厚いが、中軽度には薄く地域での生活を促す。重度の入所者を増やせば報酬は増え運営は維持できるが、そうすれば結果的に中軽度の人は退所せざるを得なくなる。母親は「がんがいつ再発するか。施設を出るなら一緒に死ぬしかない」と話す。
 地域暮らしが難しい現実もある。同苑の知的障害のある女性(42)は、周囲の誤解もあって母親(70)と15回引っ越し、簡易宿泊所を転々とした経験さえある。今、市内の老人ホームにいる母親は「離れていても安心している。ここがなければどうすることもできない」と訴える。
 政府は、応益負担を原則とする自立支援法を廃止し、13年8月までの「障害者総合福祉法」(仮称)施行を目指すが、具体策はこれからだ。同連合会監事の岩橋秀樹・つわぶき会本部長は「地域でも施設でも選択できるようにすべきだ。軽度障害者を地域で暮らすよう促すなら、もっと支援を手厚くしてほしい。施設で暮らす選択肢も奪わない法体系にしてほしい」と訴えている。」


◆はい!報道部:’10参院選 「強い社会保障」 障害者福祉は「自己負担前提」
(2010.07.07 毎日新聞 西部朝刊 24頁 社会面)
 息子は重い知的障害者。母子家庭なので「私が死んだ後は……」と不安です。菅直人首相は「強い社会保障」と言うけれど、弱者が孤立する現実は改善されるのでしょうか。=福岡市東区の銀行員、敷島篤子さん(52)
 ◇公的責任の認識低く
 敷島さんの一人息子、祐篤(よしずみ)さん(20)は先天性の心臓病があり、生後すぐに手術を受けた。知的障害が分かったのは2歳の時。呼び掛けへの反応が鈍く、知的障害による発達の遅れと診断された。「ショックで2週間ほど泣いて過ごした」と篤子さん。夫とは数年後、子育てを巡って溝が深まり、離婚した。
 障害の特性に理解の深いヘルパー、通学の送迎、障害児のための学童保育――。生活のため仕事をやめられない篤子さんには、こうした支援の受け皿が身近に不可欠だったが、「まったくと言っていいほどなかった」。
 同居する篤子さんの母親は78歳。重い骨粗しょう症などを患い要介護状態だ。祐篤さんは幸い、今は心臓の状態が安定し、福岡市南区の作業所に通って販売用カレンダーなどのデザインを担当している。だが、篤子さんの不安は消えない。「私がいなくなった後、誰が息子の人生を気にかけてくれるでしょうか」
 自公政権時代の06年に施行された障害者自立支援法。収入に応じて福祉サービス利用料を支払う「応能負担」から、サービス費の原則1割を自己負担する「応益負担」に転換された。全国の障害者は「生きる権利を侵害している」として国などを相手に違憲訴訟を提起。祐篤さんもその1人だった。訴訟は同法の廃止を公約した民主政権の誕生で今年1月に和解することで合意。原告団は政府が進める新法制定作業を注視する。
 「人権としての福祉はあくまで公的責任で実施されるという理念に立ち、根本的な制度改革を望みます」。1月7日、新法のあり方に関する国との協議で原告団は注文を付けた。日本障害者協会の藤井克徳常務理事は「自立支援法は障害者に必要な支援を自己責任の問題にした。福祉における公的責任をはっきりさせたい」と語る。
 障害福祉においては高福祉高負担型の北欧だけでなく、自己責任論が強い米国も「障害ゆえに必要な支援は社会が保障する」との考え方が強まっている。この「公的責任」の理念は国連障害者権利条約に規定され、約90カ国が批准している。
 だが、「自己負担」が議論の前提にある日本は条約を批准していない。各党のマニフェストも「所得に応じた応能負担とする」(民主党)などと負担率の見直し論に終始し、公的責任の定義はない。藤井さんは「支援を受けるのは障害者の権利。支援するのは社会の義務というのが国際的な流れ。日本は今も『お上が支援してやる』感覚。公的責任の認識が低い」と指摘する。
 ◇記者のひとこと
 祐篤さんが受給する障害年金は月約8万円。一般就労が困難な彼が生活するには多いと言えない。けれど単に額を2倍、3倍にすればいいのか? 重度知的障害ゆえに、彼はさまざまな局面で誰かのサポートが不可欠だ。「強い社会保障」とは年金がいくら、自己負担が何円かという問題ではなく、支援を必要とする人は誰もがそれを保障されることだと思う。【夫彰子、写真も】


◆[参院選・有権者の訴え](4)障害者自立支援法(連載)=佐賀
(2010.07.05 読売新聞 西部朝刊 佐賀 29頁)
 ◇2010参院選
 ◇障害者の生活守る改革を
 武雄市山内町の工業団地の作業場では、障害者がイチゴやネギの「栽培キット」の商品づくりに励んでいる。「器用じゃないから、商品を傷つけないように丁寧にやっています。仲間も増えてやりがいがあります」。障害者の一人で作業に従事する西川隆史さん(35)は、手を動かしながら生き生きとした表情で語る。
 同市で障害福祉事業に取り組むNPO法人「すずらん」は、4月から佐賀市内の企業と提携し、「栽培キット」づくりを新たに始めた。西川さんらは、土に卵の殻を混ぜて小さな袋に詰め、その袋や種子を陶製カップに入れてひもでくくるなどの作業に汗を流す。
 同法人では、高齢者向けに食事を作って宅配する事業も行っており、計33人の障害者が働く。理事の梶川泰弘さん(46)によると、今回の新事業で月数千円だった従業者の収入は、大幅に増えたという。梶川さんは「障害者が地域の中で自立し、生活できるようにするには、安定した仕事をつくり出す必要がある。今後も、企業との連携強化などで新しい福祉のあり方を模索したい」と言う。
 民主党を中心とする政権は、障害者自立支援法に代わる新法の成立を目指し、議論を進める。一方で、当面の策として、現行法のもとで制度運用を改め、4月から、福祉サービスを受けている低所得の障害者の利用料を一部無料化するなどし、負担軽減を図っている。
 ただ、梶川さんは、障害者福祉政策を巡る政治の議論が、サービス利用料など金銭的な面に集約されがちなことに危機感を抱く。「障害の程度や家族の支援態勢によって、求められる政策やサービスは大きく異なる。『一人ひとりが安心して暮らせる』という視点で制度改革を行ってほしい」と訴える。
 また、障害者を支える家族からは、「相談員制度(相談支援事業)」の充実を求める声が高まっている。相談員は、家族と行政機関、福祉施設の橋渡し役となり、サービス計画の策定や、様々な申請手続きの手助けを行うほか、各機関との連絡や情報提供などにもあたる。
 しかし、地域によって態勢に差があることを踏まえ、相談員制度の充実策を盛り込んだ障害者自立支援法改正案は、今年の通常国会に提案されたが、会期が延長されず、審議未了で廃案となった。
 脳性まひの娘を持ち、国に相談員制度の充実を求める佐賀市内の団体職員の男性(52)は「ようやく実現直前までこぎつけたのに、福祉が政争に踏みにじられた」と憤る。「本当に福祉のことを考えているのか、政争に利用しようとしているだけなのか、参院選では候補の姿勢を見極めたい」と語気を強める。(若林圭輔)

◆(2010年7月5日(月)『東京新聞』 特報)

「むしろ障害者の自立を阻害する」として、民主党政権が政治主導で決めたはずの障害者自立支援法廃止の雲行きが怪しい。先の国会では、自民、公明両党が法の存続を前提とする改正案を提出し、民主党がこれに同調。障害者らから激しく非難された。改正案は鳩山首相辞任のドタバタで時間切れ廃案となったものの、自立支援制度に代わる新しい制度づくりの会議にも、政府の姿勢は消極的だ。官僚側の「巻き返し」があるのでは、といぶかる声が上がっている。
(熊谷通信局・柏崎智子、出田阿生)

障害者自立支援法廃止 怪しく
官僚、巻き返し中?
国と原告側の協議ストップ

先月二十二日、新制度づくりに向けて厚生労働省で開かれた「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会。冒頭、挨拶だけで中座しかけた山井和則厚労政務官に、障害者団体の委員が「なぜこんなことが起きたのか、説明なしに帰らないでください!」と改正案審議の経緯について説明を求めた。山井政務官は「(行政の)政務官として、政治家の議員立法についてあれこれ言うのは越権行為」と答え、退席した。
自立支援法で人間の尊厳を傷つけられたとして全国の障害者が起こした違憲訴訟は、鳩山前政権が廃止と新法制定を約束して和解した。その際、基本合意が結ばれ、定期協議の開催が盛り込まれた。和解時の約束が果たされているか見守る、原告・弁護団と国が意見交換する場だ。
しかし、この定期協議も開かれたのは一回で、次回開催のめどは立っていない。ストップの発端は同日の会議でのやりとりだった。
基本合意を結んだ「国」の解釈について、「国全体」とする障害者側に対し、厚労省の担当者は「基本合意を結んだ国とは厚労省であって、財務省や総務省やほかの役所ときっちり議論したわけではない」と発言。他省庁の方針によっては合意内容を覆せるとも解釈できる内容だ。同省は「国―厚労省のみという前提が共有できないなら、定期協議をしても意味がない」と説明している。
こうした一連の動きに対し、ある障害者団体関係者は「いろいろ理屈を付けて、現行法を温存しようとしているかのよう」と不信を抱く。
廃止を明言しながら、なぜ新制度設計へ後ろ向きな姿勢が目立つのか。
鹿児島大学法科大学院の伊藤周平教授(社会保障法)は「財源の問題で、何とか今の枠組みを残したいからだろう。目的は障害者福祉と介護保険の統合」とみる。
そもそも障害者自立支援制度ができたのは、財政的な理由からだ。従来の支援費制度での税金投入を減らすため、費用の半分を保険料で賄う介護保険をモデルに設計。将来の統合を目指した。もし障害者の意向に沿った独立した新制度になれば、再び財政負担は増大する。
介護保険の側からみても、障害者福祉との統合には"メリット"がある。「障害に年齢は関係ないから、現在四十歳以上となっている保険料徴収年齢を引き下げる口実を得られる」(伊藤教授)。介護保険も利用者増と昨年の介護報酬引き上げの影響で台所事情は苦しく、二〇一二年の保険料見直しでは大幅な値上げが予測されている。
参院選後の臨時国会では、廃案となった改正案が、再び議員提出される可能性は高い。伊藤教授は言う。「本当に基本合意を守ろうとするのであれば、厚労省は対案を提出できる。そもそも、議員側も法的なしばりは受けなくても、合意を尊重する政治的責任はある」
ある障害者団体の幹部は「改正案は、財源確保を目指す霞ヶ関の意向としか思えない。民主党も政治主導で廃止を約束したまではよかったが、今になって官僚の巻き返しに遭っているのではないか。官僚復活の象徴のようにみえる」。


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▼6月分
◆自立支援法 実現なき「廃止」戸惑い
 (2010年06月26日asahi.com>マイタウン>奈良)
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000001006260002
「(【写真】施設利用者が車に乗るのを手伝う小山冨士夫さん(左)。政府の約束の行方を不安そうに見守る=奈良市古市町)
 =2010参院選@奈良=
 ◎障害者ら「約束守って」
 障害者の福祉サービス利用に原則1割の負担を課した障害者自立支援法。障害者らから批判を受け、鳩山前政権は「廃止」の方針を打ち出したものの、実現しないまま。関係者から戸惑いの声が上がっている。(成川彩)
 3月末、奈良市古市町の知的障害者施設「こッから」に通う小山冨士夫さん(53)の表情に明るさが戻った。障害者自立支援法は生存権を定めた憲法に反するとして、国などを相手取って奈良地裁に起こした訴訟で、同法の廃止を約束した和解を勝ち取ったためだ。
 施設で紙すきの仕事に携わり、月給は1万3千円。2006年に同法が施行されると、施設利用料月約4千円の負担を強いられ、一緒に買い物や夕食の準備をしてくれたヘルパーの利用も有料になった。ヘルパーをあきらめ、夕食はインスタント食品やお菓子で済ますようになり、体調不良から精神的にも不安定になった。パニック障害で過呼吸に陥るなどして、救急車を呼ぶ回数が増えた。
 小山さんは「障害者だけが、働くのにお金を払うのはおかしい」と昨年4月に提訴。国は当初、争う姿勢を示した。流れが変わったのは、政権交代後の同9月。長妻昭厚生労働相が同法廃止を明言し、今年3〜4月に奈良地裁を含む全国14地裁で和解が成立し、訴訟は終結した。
 廃止期限の2013年8月を待たず、今年4月から予算措置で利用料負担はゼロになった。ヘルパーを呼べるようになり、小山さんは「野菜も魚も食べられる。料理も覚えたい」と喜んだ。精神的にも落ち着きを取り戻し、他の利用者を玄関で出迎えて連絡帳を集めたり、車の乗り降りを手伝ったりするなど、職員の補助役として施設で活躍している。
 ところが、5月末、再び小山さんの顔を曇らせるニュースが飛び込んできた。
 議員提案による自立支援法の改正案が、衆院厚生労働委員会で可決されたためだ。新制度ができるまでのつなぎとして、支払い能力に応じた負担を求めるとの発想が残る内容で、支援法廃止の文言は消えていた。障害者やその家族もメンバーに加わる「障がい者制度改革推進会議」の議論が無視された形となった。
 改正案は結局、鳩山首相の退陣に伴って廃案になったが、訴訟を支援してきた施設職員の小針康子さん(47)は「野党にすり寄って政争の具にされた」と落胆する。
 小山さんは3月の和解後の会見で「国が本当に約束を守ってくれるか、ちゃんと見届けます」と力強く語っていた。しかし、今は不安が先立つ。「鳩山さんも辞めてしまって、これからどうなるのか。約束は守ってほしい」」


◆7、廃止後の展望注視
 (2010年06月24日 asahi.com>マイタウン>千葉[「変革」の波間から 参院選])
http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000841006240001
「(【写真】洗い終えた布オムツを丁寧にたたむ。「肌触りがよく環境に優しいため、もっと普及させたい」と担当者=四街道市大日の「サンワーク」)
 四街道市直営の障害者就労支援センター「サンワーク」。成田市の船窪澄人さん(41)は毎朝8時過ぎ、車でここに向かう。特別養護老人ホームなど市内外5カ所で使われた布オムツをクリーニングする。ホテルの浴衣帯のアイロンがけ、シイタケ栽培などでも収益を生み出す。
在職24年目、職場を支える船窪さんは、先天性の脳性小児麻痺(ま・ひ)でつえがないと長時間の歩行は難しい。地元の小学校は入学から4カ月で特殊学級(当時)に移るよう言い渡された。独学で学んだトランペットを音楽部で吹きたかったが、入れてもらえなかった。
いまは月曜から金曜までフルタイム勤務。「ぼくたちが洗う汚れ物がお年寄りの生活を支え、環境保護に役立っているのは誇り」と胸を張る。
ただ工賃は月2万4千円。障害基礎年金6万5千円と合わせても収入は月額9万円弱。加えて、2006年度から障害者自立支援法の施行でサービス料の1割を応益負担することになり、月3千円の自己負担が発生した。今年4月の見直しでようやくゼロになった。法律廃止は歓迎するが、国や自治体が障害者施設に優先的に仕事を発注することを促す「ハート購入法案」(仮称)が昨年夏、衆院解散で廃案になったまま、というのは得心がいかない。
これまで最大の出費は、運転免許の取得費約70万円。送迎を頼っていた父充哉さん(76)が足腰を痛め「自分が足代わりにならないと」との思いで、2年越し15回目の受験で手に入れた。「本当は働いて自活して結婚もしたい」が、企業の面接では断られた。雇用も収入も、将来に不安が残る。
 □   □   □
「自立支援法で見えた一番の問題は市町村格差」と切り込むのは、長生村や茂原市で重症心身障害児者のデイサポートセンター、ケアホーム、居宅介護事業などを行うNPO法人・母里子(も・り・こ)ネットの汐田千恵子さん(49)だ。
娘の望さん(27)らデイサービスに周辺自治体から通ってくる約15人の大半は、同法下で判定が始まった障害程度区分6や5の重度障害者。だが、区分判定はばらつき、身体介護などの利用時間数も大きくは3倍の差がある。「本人の意思や家族の背景などを正しく理解し計画できる『人垣』が地域で充実すれば差は縮まるのに」と指摘する。
例えば、言葉が話せない区分6の飯田克己さん(29)は、子ども扱いされると真顔で怒り、職員を信頼すると喜びを体全体で表現する。「これも『自立』の表現。親からどう巣立つかを追求する政策が必要」という。
 □   □   □
流動的な政策を横目に、新しい就労支援を模索する若者も。木更津市文京にある「地域作業所hana」の主力商品は、20代の職員が不要の英字新聞を活用して開発した「新聞エコバッグ」だ。
駅前の空き店舗で起業相談などを受けていた筒井啓介さん(30)が「働く場がほしい」という地域の障害者らの声を受け、協力者を募って資金800万円を借り受け、この春、開設した。
エコバッグは4月に東京の環境イベントで1千枚を売り上げた。畑を借りての野菜作り、アジア諸国のフェアトレード商品販売などに挑戦する。将来の売り上げ目標は月160万円だ。
筒井さんはいう。「国費をもらう以上、制度に左右されるのはしかたない。地域の人で問題解決に当たれるよう頑張りたい」。(小沢香)
=おわり」


◆(選挙de談議:7)障害者ら集う 「地域で生活、支えて」 /東京都
(2010年06月24日 朝日新聞 朝刊 東京西部・1地方 035)
 JR十条駅北口からすぐ、徒歩30秒のところに「ダイニング街なか」(北区上十条2丁目)がある。昨年4月、障害者と健常者が分け隔てなく集まれる場所にしたいと、約120人の協力者の支援でオープンした。顔見知りの客に店のスタッフは「お帰りなさい。おつかれさま」と声をかける。
 参院選の公示が近づいたある日の夕方、区内に住む障害者や支援者が集まっていた。成立直前で改正案が廃案になった障害者自立支援法の話題になると、会話は熱を帯びてくる。
 「自立支援法は1割負担が問題視されたけど、地域格差もひどい。隣の区とサービスの上限時間が違うなんて」
 「財源はどうするのか。消費税アップの隠れみのにされても」「障害者の就労支援や地域で生きることに焦点をあてたことは評価できる」「改正法じゃなく新法で当事者の意見を反映させるのが大事だ」
 「重い障害があっても地域で生き続けるには保障が必要」と話す小林高文さん(55)は、難病の筋ジストロフィーのため車いすで生活する。同行していたヘルパーの北條真さん(31)は、小林さんの話にうなずいた。
 小林さんは障害者のための「自立生活センター・北」と、障害者を介助するNPO法人「ピアサポート・北」の代表をつとめる。「ピアサポート・北」では、障害者自身が家の探し方や手当の申請方法など日常生活の相談に乗ることがある。仕事をして、その対価として給料が支払われることは障害者の張り合いになっている。
 「ダイニング街なか」は、近くにある王子特別支援学校の卒業生の働く場となり、東京家政大学の協力でメニューを作ったオーガニック野菜や玄米の定食を700円からの手頃な値段で出している。
 平文雅士(まさと)さん(21)は特別支援学校を卒業後、食品製造会社に就職した。しかし周囲とうまくいかず退職し、「街なか」で働くようになった。
 今は洗い物や簡単な配膳(はいぜん)をする。最初は失敗もあったが、周りのサポートで仕事もよく覚えた。「ずっとこのままやりたい」。給料は「車を買いたいから貯金してる」と笑う。
 話の輪に、仕事帰りに毎日ここへやって来る奥野春彦さん(40)も加わった。がんを患う母親(76)を自宅で介護している。
 「政権は変わっても、自分の状況は何も変わらない」
 奥野さんは自身にも知的障害があり、「障老介護」の状態だ。母親が入院するまで、親子2人の食事は奥野さんが支度していたが、入院をきっかけに母親の世話は介護ヘルパーやデイケアサービスに任せるようになった。
 「母親の介護保険を限界まで使っても、週に2回、1時間しか来てもらえない。後は自分がやるしかない」
 ここでみんなの顔を見て、たまにビールを飲むのが息抜きだ。生活が少しでも楽になることを奥野さんは願う。
 「確実に福祉に還元する政党に投票したい」
 (宇佐美貴子)
 =おわり
 <障害者自立支援法> 自公政権下の2006年に施行された。障害者が福祉サービスを利用する際の自己負担を、所得に応じた「応能負担」から、原則として費用の1割を支払う「応益負担」に転換した。障害者年金や生活保護に頼る人も少なくない障害者にとっては負担増となり、「生存権の侵害だ」として全国14地裁に71人が提訴した。民主党政権は「応能負担」に戻す同法改正案を提出したが、鳩山首相退陣により成立目前で廃案となった。


◆(「変革」の波間から 2010参院選:7)障害者自立支援法 /千葉県
(2010年06月24日 朝日新聞 朝刊 ちば首都圏・1地方 035)
 廃止後の展望、注視 「巣立ちに政策必要」
 四街道市直営の障害者就労支援センター「サンワーク」。成田市の船窪澄人さん(41)は毎朝8時過ぎ、車でここに向かう。特別養護老人ホームなど市内外5カ所で使われた布オムツをクリーニングする。ホテルの浴衣帯のアイロンがけ、シイタケ栽培などでも収益を生み出す。
 在職24年目、職場を支える船窪さんは、先天性の脳性小児麻痺(まひ)でつえがないと長時間の歩行は難しい。地元の小学校は入学から4カ月で特殊学級(当時)に移るよう言い渡された。独学で学んだトランペットを音楽部で吹きたかったが、入れてもらえなかった。
 いまは月曜から金曜までフルタイム勤務。「ぼくたちが洗う汚れ物がお年寄りの生活を支え、環境保護に役立っているのは誇り」と胸を張る。
 ただ工賃は月2万4千円。障害基礎年金6万5千円と合わせても収入は月額9万円弱。加えて、2006年度から障害者自立支援法の施行でサービス料の1割を応益負担することになり、月3千円の自己負担が発生した。今年4月の見直しでようやくゼロになった。法律廃止は歓迎するが、国や自治体が障害者施設に優先的に仕事を発注することを促す「ハート購入法案」(仮称)が昨年夏、衆院解散で廃案になったまま、というのは得心がいかない。
 これまで最大の出費は、運転免許の取得費約70万円。送迎を頼っていた父充哉さん(76)が足腰を痛め「自分が足代わりにならないと」との思いで、2年越し15回目の受験で手に入れた。「本当は働いて自活して結婚もしたい」が、企業の面接では断られた。雇用も収入も、将来に不安が残る。
   ■ □ ■
 「自立支援法で見えた一番の問題は市町村格差」と切り込むのは、長生村や茂原市で重症心身障害児者のデイサポートセンター、ケアホーム、居宅介護事業などを行うNPO法人・母里子(もりこ)ネットの汐田千恵子さん(49)だ。
 娘の望さん(27)らデイサービスに周辺自治体から通ってくる約15人の大半は、同法下で判定が始まった障害程度区分6や5の重度障害者。だが、区分判定はばらつき、身体介護などの利用時間数も大きくは3倍の差がある。「本人の意思や家族の背景などを正しく理解し計画できる『人垣』が地域で充実すれば差は縮まるのに」と指摘する。
 例えば、言葉が話せない区分6の飯田克己さん(29)は、子ども扱いされると真顔で怒り、職員を信頼すると喜びを体全体で表現する。「これも『自立』の表現。親からどう巣立つかを追求する政策が必要」という。
   □ ■ □
 流動的な政策を横目に、新しい就労支援を模索する若者も。木更津市文京にある「地域作業所hana」の主力商品は、20代の職員が不要の英字新聞を活用して開発した「新聞エコバッグ」だ。
 駅前の空き店舗で起業相談などを受けていた筒井啓介さん(30)が「働く場がほしい」という地域の障害者らの声を受け、協力者を募って資金800万円を借り受け、この春、開設した。
 エコバッグは4月に東京の環境イベントで1千枚を売り上げた。畑を借りての野菜作り、アジア諸国のフェアトレード商品販売などに挑戦する。将来の売り上げ目標は月160万円だ。
 筒井さんはいう。「国費をもらう以上、制度に左右されるのはしかたない。地域の人で問題解決に当たれるよう頑張りたい」。(小沢香)
 =おわり
 <障害者自立支援法> 2006年に施行。障害種別や在宅・施設別だったサービス体系を一元化し、サービス利用料に1割の自己負担を課した。重い障害の人ほど負担が増えると反発が強く、民主は昨夏の衆院選で同法の廃止を打ち出した。鳩山内閣は新たな法整備に向け当事者の声を聴く「障がい者制度改革推進会議」を設置。ただ今年5月末、会議の議論を待たず「応能負担」に改める同法改正案が、民主、自民、公明の議員立法で衆院可決。その後首相退陣で流れ、廃案となった。


◆(2010参院選 声届いてますか)@愛知 竹内由美子さん 障害者自立、煮詰めて
(2010年06月23日 朝日新聞 夕刊 2社会 014)
 自閉症の子をもつ竹内由美子さん(44歳)
 名古屋市近郊の愛知県日進市。主婦竹内由美子さん(44)の日課は、小学5年の次男楽登(がくと)くん(10)を学校へ送り迎えすることだ。楽登くんは自閉症で、人との交流が得意ではない。入学した時は何も話せなかったけれど、だんだんと自分の思いを伝えられるようになっていく。その日々の成長が、うれしい。
 5年前、様々な障害のある子がいる家族らと「じゃんぐるじむ」という会を結成した。複雑な福祉サービスをわかりやすく説明する冊子を作る活動などを通じて、福祉政策には関心を寄せてきた。
 サービスの利用に自己負担を課す障害者自立支援法が2006年に導入されたことに当初は反対だった。ただ、新制度を勉強するうち、「自立」の理念や、子どもの障害の早期発見・早期療育という視点は評価できるようになった。
 ところが民主党政権は自立支援法を廃止し、新法の制定を掲げる。「政権交代は、国民の意思で国を変えられる希望を見せてくれた。その半面、当事者には半年先、1年先が見えなくなってしまった」と戸惑う。
 無理かなと最初から思ってはいたが、子ども手当の満額支給断念にも失望した。同じ政権の中で政策を撤回すれば、また振り回される。「政策を出す前に、当事者も交えてとことん煮詰めてほしい」と望む。
 (山吉健太郎)


◆障がい者総合福祉法:たたき台を公表−−総合福祉部会
(2010.06.23 毎日新聞 東京朝刊 30頁 社会面)
 障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法」(仮称)を議論する政府の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会は22日、論点のたたき台を公表した。(1)法の目的、理念(2)障害の範囲(3)サービスや支援の選択と決定のあり方――など9分野で約80項目。部会で議論したうえで、9月からは分科会でも討議し、12年の通常国会への法案提出を目指す。
 (1)は「すべての障害者が自ら選択した地域で生活する権利」と明記し、その実現のため制度をどうするかなどを議論する。(2)は障害をどう定義するかや、発達障害や難病をどう規定するかが課題。(3)は現行の障害程度区分を廃止後、どう決定するかの問題だ。
 また法案実現のための環境整備については、サービスの地域差拡大が懸念されることから、「国と地方の役割」も論点に加える。【野倉恵】


◆政権交代、そして…:検証・マニフェスト/3 障害者自立支援法の見直し /秋田
(2010.06.22 毎日新聞 地方版/秋田 23頁)
 ◇「1割負担」以外にも課題
 ビニールシートの敷かれた倉庫。さまざまな年齢の数人が飲料ケースなどに腰かけ、はけで竹ざおに赤と白のペンキを黙々と塗っていく。
 身体、知的障害者合わせて約100人が利用する美郷町の通所施設・サンワーク六郷での、町から請け負った雪道の目印「スノーポール」作り。通所者は他にも職業訓練の一環として、比内地鶏の飼育やパン製造・販売も手がけている。
 作業で得る工賃は一般的に高くないが、やりがいや働く意欲の向上という効果は大きい。ただその仕事で利益が出るにはなかなか至らない。
 石川悦郎施設長は「民間企業が障害者の十分な受け皿となっていない現状では、施設が働く場を提供するしかない。ただ十分な給与を払う形態にするのは難しい」と語る。
    ◇   ◇
 06年度に障害者自立支援法が施行された。身体、知的、精神の3障害を一元化するとともに就労支援を強化して障害者の自立につなげるのが目的。国の財政負担軽減の狙いもあって、サービス利用は原則として一律1割負担となった。
 物品製造などの作業も「働くための訓練」で、入浴や食事の支援を受けるのと同様にサービス利用と位置づける。それでも以前は利用料が所得に応じて決まり低所得者はわずかな負担で済んだ。しかし新制度では、障害者の手取りを大きく上回る利用料がかかるケースが多くなった。
 知的障害のある次女(27)が秋田市内の通所施設に通い織物や犬用クッキー製造、リサイクルなどに取り組む秋田市の渡辺禎子さん(55)は当初「娘がいわば“会社”に行くのに、なぜお金を払わないといけないのかと感じた」と振り返る。
 サンワーク六郷では法施行直後、通所していた身体障害者17人中5人が契約をやめた。自己負担が作業の工賃を上回った影響が大きく、自宅などで過ごすようになったケースが多いとみられる。
    ◇   ◇
 同様の問題は全国で起き、強い批判を受けて国は自公政権時代から負担上限を引き下げるなど軽減措置を実施。政権交代後は住民税非課税世帯については無料化した。
 民主党はマニフェストで同法の廃止を訴え、政権交代後は12年中にこれに代わる新法の国会提出を目指している。
 だが石川施設長は現在の無料化について「同居する配偶者が非課税対象外なら適用されない。身体障害者の配偶者は生活を支えるため就労しているケースが多いのに」と指摘。さらに「課題は1割負担だけではない。現場レベルの困難をどれだけ詰めて議論しているのか、新法の方向性は見えない」と訴える。
    ◇   ◇
 障害者自立支援法の施行は、施設側の経営も圧迫した。
 国から施設へのサービス提供の報酬は月額から日払いに。サンワーク六郷の収入も大きく落ち込んだ。石川施設長は「国は『障害者が通所を休んだ分だけ経費も減る』と言ったが、職員の勤務や給与まで日割りにするわけにはいかない」と語る。
 また同法では、障害の重さによって障害者を6段階に区分。障害者が受けられるサービスを制限し、施設側への報酬額や従業員の配置人数も定めた。
 渡辺さんは市の担当者から、次女が服を自分で着られるか、食事を一人で取れるかなどを聞かれたが、形式的で一人一人に合った認定はされないのではと感じた。「本人や保護者が選ぶ施設に通えるのが一番いい。区分にとらわれず、子供の行きたい施設に行かせたい」と語る。
    ◇   ◇
 石川施設長は現行法を「施設の設置基準緩和で地域の支援を受けやすくなるなど、メリットもあった」と認める。半面、国の厳しい財政事情を理由に方針が左右されることへの戸惑いは消えない。
 「障害が重いほど国が支えるべきだが、新法についても財源ありきの議論にならざるを得ないのではないか」
 渡辺さんにも不安がある。次女の障害者年金は年100万円弱。通所施設での工賃は月5000円ほど。それでも次女の自立心を尊重し、工賃を「給料」、施設へ通うことを「仕事に行く」と言っている。
 夫と共働きでさしあたっての生活に問題はないが、自分たちの老後はどうなるのか。
 「将来自立するのには十分でない。本人ができる仕事に就いて十分な給料をもらえる仕組みであってほしい」【岡田悟】=つづく


◆政権交代、そして…:検証・マニフェスト/3 障害者自立支援法の見直し /秋田
 (2010年6月22日『毎日新聞』秋田版)
http://mainichi.jp/area/akita/news/20100622ddlk05010007000c.html
 ◇「1割負担」以外にも課題
 ビニールシートの敷かれた倉庫。さまざまな年齢の数人が飲料ケースなどに腰かけ、はけで竹ざおに赤と白のペンキを黙々と塗っていく。
 身体、知的障害者合わせて約100人が利用する美郷町の通所施設・サンワーク六郷での、町から請け負った雪道の目印「スノーポール」作り。通所者は他にも職業訓練の一環として、比内地鶏の飼育やパン製造・販売も手がけている。
 作業で得る工賃は一般的に高くないが、やりがいや働く意欲の向上という効果は大きい。ただその仕事で利益が出るにはなかなか至らない。
 石川悦郎施設長は「民間企業が障害者の十分な受け皿となっていない現状では、施設が働く場を提供するしかない。ただ十分な給与を払う形態にするのは難しい」と語る。
    ◇   ◇
 06年度に障害者自立支援法が施行された。身体、知的、精神の3障害を一元化するとともに就労支援を強化して障害者の自立につなげるのが目的。国の財政負担軽減の狙いもあって、サービス利用は原則として一律1割負担となった。
 物品製造などの作業も「働くための訓練」で、入浴や食事の支援を受けるのと同様にサービス利用と位置づける。それでも以前は利用料が所得に応じて決まり低所得者はわずかな負担で済んだ。しかし新制度では、障害者の手取りを大きく上回る利用料がかかるケースが多くなった。
 知的障害のある次女(27)が秋田市内の通所施設に通い織物や犬用クッキー製造、リサイクルなどに取り組む秋田市の渡辺禎子さん(55)は当初「娘がいわば“会社”に行くのに、なぜお金を払わないといけないのかと感じた」と振り返る。
 サンワーク六郷では法施行直後、通所していた身体障害者17人中5人が契約をやめた。自己負担が作業の工賃を上回った影響が大きく、自宅などで過ごすようになったケースが多いとみられる。
    ◇   ◇
 同様の問題は全国で起き、強い批判を受けて国は自公政権時代から負担上限を引き下げるなど軽減措置を実施。政権交代後は住民税非課税世帯については無料化した。
 民主党はマニフェストで同法の廃止を訴え、政権交代後は12年中にこれに代わる新法の国会提出を目指している。
 だが石川施設長は現在の無料化について「同居する配偶者が非課税対象外なら適用されない。身体障害者の配偶者は生活を支えるため就労しているケースが多いのに」と指摘。さらに「課題は1割負担だけではない。現場レベルの困難をどれだけ詰めて議論しているのか、新法の方向性は見えない」と訴える。
    ◇   ◇
 障害者自立支援法の施行は、施設側の経営も圧迫した。
 国から施設へのサービス提供の報酬は月額から日払いに。サンワーク六郷の収入も大きく落ち込んだ。石川施設長は「国は『障害者が通所を休んだ分だけ経費も減る』と言ったが、職員の勤務や給与まで日割りにするわけにはいかない」と語る。
 また同法では、障害の重さによって障害者を6段階に区分。障害者が受けられるサービスを制限し、施設側への報酬額や従業員の配置人数も定めた。
 渡辺さんは市の担当者から、次女が服を自分で着られるか、食事を一人で取れるかなどを聞かれたが、形式的で一人一人に合った認定はされないのではと感じた。「本人や保護者が選ぶ施設に通えるのが一番いい。区分にとらわれず、子供の行きたい施設に行かせたい」と語る。
    ◇   ◇
 石川施設長は現行法を「施設の設置基準緩和で地域の支援を受けやすくなるなど、メリットもあった」と認める。半面、国の厳しい財政事情を理由に方針が左右されることへの戸惑いは消えない。
 「障害が重いほど国が支えるべきだが、新法についても財源ありきの議論にならざるを得ないのではないか」
 渡辺さんにも不安がある。次女の障害者年金は年100万円弱。通所施設での工賃は月5000円ほど。それでも次女の自立心を尊重し、工賃を「給料」、施設へ通うことを「仕事に行く」と言っている。
 夫と共働きでさしあたっての生活に問題はないが、自分たちの老後はどうなるのか。
 「将来自立するのには十分でない。本人ができる仕事に就いて十分な給料をもらえる仕組みであってほしい」【岡田悟】=つづく」


◆障害者新法:制定求める 市民団体が結成集会 /埼玉
(2010.06.21 毎日新聞 地方版/埼玉 27頁)
 障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」の制定や「障害者の権利条約」への批准を求める「障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす埼玉の会」の結成集会が20日、さいたま市内であり、約160人が参加した。
 会はこれまで、障害者が福祉サービス利用料を原則1割負担する「応益負担」の廃止などを求めてきたが、さいたま地裁などであった集団訴訟で、政府と原告が新法制定(13年8月まで)などを盛り込んだ基本合意のもとで和解したため名称を変更して再発足した。
 共同代表の堀澄清さん(73)は「基本合意が絵に描いた餅にならぬよう新法制定までしっかり見守りたい」と話していた。【平川昌範】


◆障害者支援の新制度に意見 岡山で会結成=岡山
(2010.06.20 読売新聞 大阪朝刊 岡北部 27頁)
 国と障害者自立支援法違憲訴訟の原告団とが結んだ基本合意文書の実現を目指そうと、集団訴訟の元原告で、美咲町の清水博さん(61)の支援者らは19日、「めざす岡山の会」(中島純男世話人代表)を結成し、岡山市内で第1回集会を開いた。
 県内の障害者や福祉関係者ら約40人が参加、基本合意の意義や内容を周知する活動を進めることなどを確認。基本合意文書には新たな福祉制度の制定などが盛り込まれており、清水さんは「新たな福祉制度に、障害者の声が反映されるよう行動していきたい」と話していた。
 同法は福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求めることなどが定められており、全国14地裁で71人が「生存権を保障した憲法に違反する」と集団訴訟を起こしていた。1月に長妻厚生労働相と原告側が基本合意書を交わし、4月の東京地裁を最後に、すべての地裁で和解が成立している。


◆障害者自立支援法改正案、成立目前の廃案
(2010年06月17日 朝日新聞 朝刊 政治 004)
 障害者の福祉サービス利用に原則1割の負担を課す仕組みを見直す障害者自立支援法の改正案が、成立を目前にして廃案になった。改正法案は、原則1割の負担を、支払い能力に応じた負担に改めることが柱で、民主、自民、公明の各党が合意して議員立法で提案。5月末に衆院を通過、参院の厚生労働委員会でも可決して、参院本会議での採決を残すのみだった。
 当初は今月2日の参院本会議で成立する予定だったが、鳩山由紀夫前首相の退陣表明で流れた。


◆自立支援法改定案は廃案
 (2010年6月17日(木)「しんぶん赤旗」)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-17/2010061701_03_1.html
「 障害者自立支援法改定案が16日、国会閉会にともない審議未了・廃案になりました。
 同法案は、障害者参加のもとで自立支援法廃止後の障害者福祉のあり方が論議されているなかで、その議論を無視し、自民・公明案と民主・社民案を一本化する形で先月、国会に提案されました。
 障害者抜きで法案が決められたこと、時限立法になっておらず自立支援法延命につながる内容であることから、障害者・支援団体が強く批判。参院厚生労働委員会では小池晃参院議員だけが質問・討論を行うなど、日本共産党は反対を貫きました。」


◆障害者支援法改正案は廃案 成立直前の首相退陣で
 (2010/06/16 20:19【共同通信】)
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010061601000760.html
「 障害福祉サービスの利用者負担を量に応じた「応益負担」から、所得に応じた「応能負担」に変更する障害者自立支援法改正案は国会閉幕の16日、参院本会議が流会となったため、廃案になった。
 法案は参院本会議での採決を残すだけで、いったんは今月2日に可決、成立する日程が決まっていたが、同日に鳩山由紀夫前首相が退陣を表明。本会議は開かれず、その後採決されないままになっていた。
 障害者団体からは「当事者の意見を聞かずに、国会運営の駆け引きで突然、改正案が持ち出された」との反発が出ていたが、「サービス向上につながる」と成立を期待する声もあった。
 政府は2013年8月までに自立支援法を廃止し、新法を制定する方針。改正案はそれまでの「つなぎ」との位置付けで、自公両党が議員立法で提案したのに対し、民主など3党が対案を出し、衆院厚生労働委員長提案の形でまとめた。」


◆障害者自立支援法に代わるもの 「ともに学べる教育を」 「地域格差ない制度に」 「改革へ、私たちの声を国会に」
 (2010年6月16日掲載『西日本新聞』)
http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/7454/
「 ●福岡でシンポ
 政府が廃止を決めた障害者自立支援法に代わる新しい総合福祉法制に「地域の声を届けよう」と、障害のある当事者や支援者が集まって5月30日、「分けない生活、分けない教育―地域で生きることが当たり前」と題するシンポジウムを福岡県春日市で開いた。障害者施策に携わる民主党の国会議員を招き、制度改革への検討状況や方向性について聞いた後、現場が直面している問題や要望を出し合った。
 民主党の障がい者政策推進議員連盟会長を務める谷博之参院議員が基調報告。与党の障害者施策の基本として「『すべての障害者が地域社会で生活する平等の権利を有する』とした国連の『障害者の権利条約』に沿ったものでなければならない」と述べ、自治体間でサービス支給に格差が生じている現状について「明らかに条約違反」と指摘した。
 雇用や教育、医療など個別の政策課題についても議論のポイントを説明。福祉施設での授産労働で得られる工賃の乏しさに加え、生活保護より低水準の障害年金だけで生活している人が多いことを挙げ「生きていくための額に引き上げないといけない」と強調した。
 今国会で衆院通過した自立支援法改正案については「与野党衝突で委員会がストップした状況を打開するために出てきた。ずばり言うと政局がらみ」と明かしつつ「障害者団体からは、今までよりも半歩前進という声もある」と理解を求めた。
 パネルディスカッションには、同じく民主党の神本美恵子参院議員も参加。障害のあるなしで学ぶ場を分けるのではなく、同じ教室でともに学ぶ「インクルーシブ教育」を推進する神本議員は「すでに、すべての子どもの就学、学籍を一元化し、特別支援学校への就学を希望制にしている自治体もある。課題はあるが一歩踏み出すことが大切」と話した。
 久留米市で共同作業所「ごろりんハウス」を運営する中山善人さん(56)は「施設に入る補助金の8割が人件費。施設によっては職員に月給を7―8万円しか払えないところもある。これでは職員も生活できない」とし、地域で共生する社会を実現するためには「介護職の身分保障も必要」と指摘。また「発達障害、学習障害などの名前を付けて最初から別々に分けて教育する仕組みでは“連帯”という言葉が抜け落ちてしまう」と述べた。
 会場からも問題提起があった。障害者自立支援法により、市町村の地域生活支援事業としてスタートした「移動支援」について、福岡市東区の障害者支援施設で働く男性は「福岡市の場合、公園利用は禁止。『散歩は認めていない』とか、『税金を使って公園を利用することに市民の理解が得られない』と言われる。周辺市町村では認めている所が多いのに…」。
 これに対し、谷議員は「まさに来年の通常国会に『交通基本法』案を提出しようとしている。移動する権利を明文化し、行政がきちんと担保する仕組みを作ろうとしている」と答えた。
   ◇   ◇ 
 障害者政策全体を見直している政府の「障がい者制度改革推進会議」が7日にまとめた第1次意見には、人権被害の救済を目的とした障害者差別禁止法案の2013年通常国会提出▽政府が検討中の年金制度改革に合わせ、障害者の所得保障を検討する−などが盛り込まれている。」
cf.
◆障害者自立支援法改正案【ワードBOX(西日本新聞)】
 障害者が受ける福祉サービスに原則1割の自己負担を求めた障害者自立支援法に代わる総合福祉法制の検討がされている中、今国会に提出された。昨年3月に前政権が国会に提出した政府案とほぼ同じ内容で、自民、公明両党が議員立法で提出。与党も改正案を提出したが双方が取り下げ、衆院厚生労働委員会の委員長提案とした。改正案は、発達障害を障害に位置付けるなど評価される点もあるが、障害者団体の中には(1)障害者の意見を十分踏まえていない(2)法案に自立支援法の廃止期限が明記されていない−ため「自立支援法の延命につながる」と反対する意見がある。

◆争点の現場から’10参院選 障害者自立支援法  改正法案に『裏切り』の声
 (2010年6月11日『東京新聞』[埼玉])
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20100611/CK2010061102000088.html
「(【写真】議員会館前の集会で障害者自立支援法の改正案に反対する障害者ら=東京都千代田区で)
 曇り空に掲げられた「怒」「廃案」と書かれた黄色いビラ。今月八日、東京・永田町の議員会館前で、障害者自立支援法の一部改正案に反対する全国の障害者らが「国会前大集会」を開催。約二千人(主催者発表)が、「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」と声を張り上げた。
 改正案は先月下旬、超党派の形で提案され、衆議院では民主、自民、公明各党の賛成で可決。十六日までが会期の参議院本会議での審議を待つ状態だ。
 内容は自民、公明両党が四月に提案した法案とほぼ同じで、集会の参加者からは「他の法案を通したい与党が野党と取引した」といぶかる声も。障害者自立支援法違憲訴訟の元原告五十嵐良さん(36)=さいたま市=は、「改正案が出てきてから怒りの毎日。廃案にしたい」と訴えた。
   □  □
 同法をめぐっては、民主党は衆院選マニフェストで廃止を掲げ、今年一月、全国の違憲訴訟の原告側と国が現行法の廃止を盛り込んだ基本合意書を締結。「二〇一三年八月までに当事者の意見を十分聞いて新法を作る」という約束の下、三月のさいたま地裁を皮切りに全国で和解が結ばれ、裁判は終結した。
 実際に国と当事者との話し合いの場として、内閣府に「障がい者制度改革推進会議」が設置され、新法制定に向けた協議がスタート。しかし、今回の改正案はその場への説明なしに突然出てきた。
 障害者側は、改正案では同法で問題視された「応益負担」が完全に撤廃されていないことなどを批判。同推進会議にも一切の事前説明がなく、新法制定までの「つなぎ」としながら時限立法と明示されていないことから、信頼関係が大きく揺らいだ。「現行法の廃止」という根本の約束すら守られないのではないか、という不安が広がっている。
   □  □
 「まさかこんなことになるなんて…」。集会にも参加した川口市の新井たかねさん(63)は、そう言って寂しそうに笑った。長女の育代さん(38)は脳性まひで知的障害があり、違憲訴訟の元原告だ。
 新井さん自身、自分たちの声が届いたからこそ、民主党がマニフェストに「廃止」を盛り込むに至ったという思いがある。基本合意をまとめる協議にも参加していただけに、「ここにきて裏切られるとは」と憤る。
 新井さんによると、すべての違憲訴訟が終結した四月二十一日、元原告らを首相官邸で迎えた鳩山由紀夫前首相は一人一人と握手して回り、求めに応じて「エイエイオー」と新法制定に向けた意欲を示したという。
 それから一カ月余りでの突然の同法改正の動き。元原告らは改正案の廃案を求めて国会議員を訪ねているが、「基本合意の内容に沿っている」とあいまいな答えしか返ってこず、問題意識は共有されないままだ。
 新井さんは「今国会での廃案が第一」とした上で、参院選に向けて「当事者の声を聞いて新法を作るというのが約束。あらためてマニフェストで、自立支援法に対する立場を明示してほしい」と望んだ。 (井上仁)
 障害者自立支援法 2006年に施行。障害者が福祉サービス利用料を所得に応じて支払う従来の「応能負担」から、一律に原則1割を負担する応益負担に転換され、障害が重く福祉サービスが必要な人ほど自己負担が増えることになった。08年10月以降、障害者らが「同法は生存権の侵害で憲法違反」として全国14地裁に提訴。国は当初争っていたが、民主党が昨夏の衆院選マニフェストで同法廃止を明示。政権交代後に裁判の方針が転換され、原告側と廃止で合意していた。」


◆わされん、廃案求め抗議集会 障害者自立支援法改正案
 (2010年06月10日更新『紀伊民報』)
http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=191218
「 障害者自立支援法の改正法案が今国会で成立する見通しとなったことを受け、県内の作業所で組織する「わされん」(県共同作業所連絡会)第4ブロックはこのほど、田辺市湊の市民総合センターで同法案の廃案を求める抗議集会を開いた。
 田辺西牟婁地方の福祉施設職員ら約20人が参加。わされんの米川徳昭会長がアドバイザーを、第4ブロックの石神慎太郎ブロック長が進行役を務めた。
 民主党政権は、障害者の福祉サービス利用に原則1割の負担を課す現行の障害者自立支援法を2013年8月までに廃止し、それに代わる新法「障がい者総合福祉法」(仮称)を新たに制定するとしている。今回の改正法案はそれまでの暫定措置とされ、障害が重いほど利用者の負担も重くなる「応益負担」から支払い能力に応じた「応能負担」に転換するほか、発達障害者も対象とすることなどを盛り込んでいる。
 この日の集会では、ふたば福祉会の松原卓さんが改正法案の中身について説明。今年1月、障害者自立支援法違憲訴訟原告団と国が「障害者自立支援法は立法過程において十分な実態調査や障害者の意見を踏まえることがなかったため、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけた。その反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる」との内容が盛り込まれた基本合意文書を取り交わしたにもかかわらず、今回の改正法案には反映されていないと指摘した。「当事者の存在が軽視されている」「利用者負担があることには変わりはない」として、同法案の廃案を求める緊急抗議声明を採択した。」


◆(遠い政治@福井 参院選を前に:1)自立支援法 消えた文言、障害者困惑 /福井県
(2010年06月08日 朝日新聞 朝刊 福井全県・1地方 031)
 「応益負担という重い負担と苦しみを皆さんに与えている、尊厳を傷つける障害者自立支援法を廃止する」
 集まった障害者と支援者、1万人がどよめいた。
 昨年10月30日。東京・日比谷公園で目の当たりにした長妻昭厚生労働相(当時)の発言に、福井市栄町の山内敬一郎さん(56)は「この一言が聞きたかった」と、車いすの上で胸を高鳴らせていた。
 山内さんは当時、自立支援法が定めた「サービス利用料の原則1割の自己負担」の廃止を求める訴訟を支援していた。自分を苦しめる法律の廃止を、政治家が眼前で約束した。縁遠い「政治」に、自分の思いが届いたと感じられた瞬間だった。
   □
 山内さんは脳性マヒで両足が不自由だ。手でアクセル操作をするよう改造した乗用車なら運転できるし、車いすで移動もできる。しかし、借家での一人暮らしには、食事づくりや車への乗り込み、目薬を差すのにもヘルパーの介助が欠かせない。
 50代も半ばを過ぎ、近頃は体力の衰えから入浴や着替えが自力では難しくなった。それでも介護や家事援助を必要最小限にしている。「なるべく人に頼らず自分の力で暮らしたい」からだと言う。
 勤続20年の眼鏡工場で、リストラに遭ったのは9年前。心機一転しようと実家を離れた。障害者通所施設で商品の箱詰めやチラシ折りを始めた2006年10月、自立支援法が全面施行された。
 収入は、8千〜9千円の工賃と障害基礎年金を合わせて月額9万円余。父親が残してくれた月4万円の共済はすべて家賃に充てている。自立支援法に基づく自己負担は当初、通所施設の利用料の月1万3千円と給食費などの実費で、自ら働いて得る工賃の倍以上に達していた。
 ヘルパーのつくってくれた料理と一緒にたしなむビールや焼酎が、一日のささやかな楽しみ。軽減措置が順次導入されたが、時に親が残した貯金を取り崩した。「晩酌をいつまでできるか心配した時期もあった」と振り返る。
   □
 山内さんは昨秋、自立支援法の違憲訴訟第3次原告団に加わる予定だった。いくら軽減措置が追加されても、「応益負担」の発想のもと、重い障害の人ほど負担が増える仕組みが受け入れがたかった。
 「水を飲むのもトイレに行くのも、介助されれば『益』なのか。障害は『自己責任』か」。膨らんだ障害福祉費を抑えるため、小泉政権下の「自己責任論」が持ち込まれたとしか思えず、障害者作業所の全国組織が主催した国会請願にも度々同行した。
 政権交代で、状況は一変した。昨年の総選挙で自立支援法の廃止を公約にした民主党が政権につき、就任した長妻厚労相も「廃止」を公言。9月に国が訴訟を争う姿勢からの転換を表明、山内さんは提訴を見送ることになった。
 今年1月の原告と国の合意文書は「障害者の人間としての尊厳を深く傷つけた」と、反省の文言が盛り込まれた。13年8月までに自立支援法の廃止をうたい、新たな福祉法を制定するとあった。
   □
 しかし、不安の種が生まれた。5月28日、1割負担の発想が残る自立支援法改正案が議員提案され、衆院厚生労働委員会で唐突に可決されたからだ。
 自公両党と民主党が妥協して採決を急ぎ、民主党案にあった同法「廃止」の文言が消えていた。障害者施策に当事者も参画していくはずだったのに、議員提案で蚊帳の外に置かれたと、山内さんは感じている。
 不可解さを残し、鳩山政権は退陣。山内さんには難点の多い改正法案すら、参議院本会議の採決を直前に政局の行方に成否を委ねられた。
 「当事者が意見を言え、蚊帳の外にされない『見える政治』を確立してほしい」。山内さんは参院選を前に、そう思っている。
 (田中章博)
   ◇
 政局が激動を重ねた昨今、私たちの暮らしに政治は何をもたらしたのか検証する。


◆障害者組織が名古屋で全国集会 12、13日 【名古屋】
(2010年06月08日 朝日新聞 朝刊 3社会 033)
 全国の障害者組織などでつくるDPI(障害者インターナショナル)日本会議の全国集会が12、13日、名古屋市熱田区熱田西町の名古屋国際会議場で開かれる。朝日新聞厚生文化事業団など後援。
 昨年の政権交代を受けて障害者自立支援法が廃止の見通しになり、政府に「障がい者制度改革推進会議」ができた。講演や分科会もこうした流れに沿ったテーマになる予定で、主催する日本会議事務局は「障害者の立場に沿った法の制定や抜本改正が期待される中で、例年とは違った意義を持つ会にしたい」と話している。
 12日は総会と懇親会、13日は午前に全体会、午後に分科会がある。全体会では内閣府の推進会議担当室長の東俊裕さんが講演。続いてシンポジウム「障害者の当事者の政策づくりへの参画」がある。午後の分科会では、政府で現在議論中の障害者立法についての討論会や、教育・雇用・労働などを扱う報告集会、ミニシンポなどを予定。また、13日には、障害者たちが実際に外出していろいろな地域や施設を回り、地域で暮らす喜びや課題を考える「遊びから学ぼう〜フィールドトリップの実践」もある。
 参加費は3千円(介助者で資料が必要ない場合は無料)。当日も受け付ける。問い合わせはDPI日本会議事務局(03・5282・3730)へ。


◆「自立支援法“延命”に反対」 障害者団体など改正法案廃止訴え 福岡市・天神
 (2010/06/06付『西日本新聞』朝刊)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/176506
「 「障害者自立支援法改正案は断固反対」と、福岡市・天神で5日、20障害者団体・作業所の関係者が、今国会で審議中の同法案の廃案を訴えた。
 障害者が受ける福祉サービスに原則1割の自己負担を求めた自立支援法を憲法違反として国と法廷で争った障害者を支えた「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす福岡の会」「同法違憲訴訟福岡弁護団」が主催。障害者や支援者など約80人がチラシを配り、「改正法は障害者を苦しめることになりかねない」などと呼び掛けた。
 全国一斉に行われた違憲訴訟は4月までに、国と原告側が和解。基本合意文書で国は自立支援法について「障害者の意見を十分に踏まえず拙速に制度を施行した」と反省し、制度改革には障害者の参画の下に、十分議論するという内容が盛り込まれた。また、2013年8月までの自立支援法廃止や、新たな総合福祉法制の実施も明記、障害者が参加した「障がい者制度改革推進会議」が発足し、論議を進めている。
 今回の改正法案は、昨年3月に前政権が国会に提出した政府案とほぼ同じ内容。自民、公明両党が4月に議員立法で提出し、与党も改正案を提出したが双方が取り下げ、委員長提案の法案とした。衆院を既に通過し、参院厚生労働委員会でも可決されている。福岡の会によると、法案について障害者団体などとの協議はなかったという。
 同会は(1)基本合意で約束された障害者の参加がないまま法案提出された経緯が不透明(2)法案に自立支援法の廃止期限が明記されていない‐などとし「改正案は、廃止を約束している自立支援法を延命するもの」と反対。発達障害を障害に位置付けるなど評価できる点もあるものの「関係者の合意が得られておらず、議論を深めなければならない点も多い」と法案廃止を求めている。」


◆(政策ウオッチ)社民と民主 障害者支援から生まれた溝
(2010年06月02日 朝日新聞 朝刊 政策総合)
 社民党の阿部知子政審会長が連立政権を見切ったのは、米軍普天間飛行場の移設問題で福島瑞穂党首が閣僚を罷免される少し前だった。5月28日の衆院厚生労働委員会で、障害者自立支援法改正案に反対した。民主党が自公両党と妥協して採決を急いだ法案だった。
 重い障害の人ほど原則として負担が増える同法の見直しは、民主党が昨年の衆院選で政権交代のシンボルの一つに掲げた。だが、鳩山内閣が当事者の声を聞くとして設けた会議の議論を待たず修正案は可決され、もとの与党案にあった同法の「廃止」は姿を消した。
 採決の場には200人近い障害者らが詰めかけ「私たちの声を聞け」と訴えた。阿部氏は「制度改革の原点は『私たち抜きに私たちのことを決めないで』という障害者の声だったのに」と悔しがる。
 民主党には「少数政党に振り回される」との不満がくすぶるが、政策調査会を廃止した同党は、連立相手との協議を独善に陥らない安全弁として生かしてきただろうか。民主党への国民の信頼が揺らぐ今こそ、少数政党の声に真摯(しんし)に耳を傾けて欲しい。(南彰)


◆障害者と雇用契約「事業所」、県の理念を全国へ 国に制度創設を提案 /滋賀県
(2010年06月02日 朝日新聞 朝刊 滋賀全県・1地方)
 障害者が「労働者」として雇用契約を結び、最低賃金が保障される県独自の就労支援策「社会的事業所制度」について、県は同様の制度を創設するよう国に提案した。障害者にとって一般就労は採用が少なく、作業所などで働く福祉的就労は低賃金のため自立が難しいのが実情だ。社会的事業所はその中間的な就労形態で、県は類似の制度を進める自治体と協力して、障害者と健常者が対等に働ける社会の実現を国に訴える。(浅野有美)
 県は2005年、企業で就労する障害者が増えないことなどから、社会的事業所制度を開始。事業所への補助金は県と市が2分の1ずつ分担。現在、大津、近江八幡、甲賀市にある計7カ所の事業所で障害者約50人が働いている。
 その一つが大津市京町3丁目の「掃除屋プリ」。障害者9人を含む11人が、JR駅前など市管理のトイレ約20カ所を掃除している。盆や正月も休みなく、北と南の2班に分かれて1カ所を1日2回ずつ回る。
 3年前、NPO法人おおつ「障害者の生活と労働」協議会(OSK)が市からトイレ4カ所の掃除を受託。昨年4月には掃除専門の「プリ」を立ち上げた。OSK事務局長の白杉滋朗さん(54)は「トイレ掃除は障害者が働く姿を見てもらえるので、障害者の社会参加につながる」と話す。
 プリで働く障害者の中には、一般就労が難しかった人もいる。鎌田晴義さん(60)は2年前にくも膜下出血で倒れ、昨年3月に金型を作る技術士として働いていた会社を退職。1年間ハローワークに通い、今年3月にプリにたどり着いた。「毎日幾度も『ありがとう』『ご苦労さま』と声をかけられる。前の仕事では得られない体験」と話す。
 社会的事業所制度の特長の一つが、福祉施設の「利用者」として働くのではなく、事業所が障害者全員と「労働者」として雇用契約を結ぶ点だ。06年に施行された障害者自立支援法では、条件によっては全員と契約する必要がなく、最低賃金も保障されない。札幌市や大阪府箕面市にも県と同様の制度があり、箕面市は雇用機会の拡大と就労によって、障害者への費用負担が減ることもメリットとしている。
 一方、県は制度を運営するため障害者1人あたり月7万5千円、事業所にも年100万円の管理費などを助成している。2010年度当初予算案では3359万円を計上。政府は昨年12月、障がい者制度改革推進本部を設け、自立支援法を早期廃止した後の新たな福祉制度について検討しており、苦しい財政状況の自治体側は国に制度化を働きかけ、負担を減らしたい考えだ。
 白杉さんは「社会的事業所は、障害者と健常者の共働を進める現実的な制度。国への提案は、補助金目当てだけでなく、あくまで制度の理念を訴えてほしい」と話した。


◆介護報酬を不正受給 平野の事業所、府指定取り消し /大阪府
(2010年06月01日 朝日新聞 朝刊 大阪市内・1地方)
 府は31日、「ジョイ介護センター」(本社・神戸市垂水区)が大阪市平野区で運営する事業所「ハッピーひらの3(スリー)出会いの里くわのみ」で、介護報酬計約4140万円の不正受給があったとして、同事業所の介護保険法に基づく居宅サービス事業者の指定と、障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業者の指定を取り消した。
 府では不正受給分を大阪市などへ返還させ、加算金約1660万円も支払わせる。また、大阪市でも府の処分に合わせ、移動支援事業者の指定を取り消した。
 このほか、府では同様の介護報酬の不正受給があったとして、「ダイワヘルプサービス」(大阪市平野区)と「ケアいちごいちえ」(大阪市住吉区)の障害福祉サービス事業者の指定を取り消した。また、「堺ふれあいネット」(堺市中区)については、人員配置に基準違反があったとして居宅サービス事業者の指定を取り消した。(石木歩)


◆介護給付費4100万円不正受給 平野の事業所 府、指定取り消し=大阪
(2010.06.01 読売新聞 大阪朝刊 市内 28頁)
 介護給付費約4100万円を不正に受給したとして、府は31日、居宅介護などを行う事業所「ハッピーひらの3出会いの里くわのみ」(大阪市平野区)を運営する「ジョイ介護センター」(神戸市垂水区)の事業者指定を取り消した、と発表した。
 府によると、同事業所は2007年8月〜09年12月、居宅介護などの利用者9人について、通院介助の回数を水増ししたほか、家事援助を単価の高い身体介護と偽って申請するなどしていたという。
 昨年8〜10月の府の監査などで発覚した。介護給付費を支給した大阪市などは今後、ジョイ介護センターに対し、障害者自立支援法などに基づき、不正受給額に4割を加算した上で返還を求める。
 府はこのほか、同様に介護給付費約520万〜30万円を不正受給したとして、特定非営利活動(NPO)法人「NPOダイワ」(大阪市平野区)など3社の指定を取り消した。


◆ふくしま人模様:福島頸損友の会代表・相山敏子さん /福島
(2010.06.01 毎日新聞 地方版/福島 20頁)
 ◇「一人じゃない」と呼び掛け−−相山敏子さん(50)
 交通事故や高い所からの転落で首を通る脊髄(せきずい)(頸髄(けいずい))に強い衝撃を受けることによる頸髄損傷。体が自由に動かなくなる。相山さんは、受傷者を「頸友(けいとも)」と親しみを込めて呼び、2年前に県内の頸友と家族で「福島頸損友の会」を設立した。約10人のメンバーは、電子メールと電話を中心に、相談を受けたり、励まし合ったりしている。
 設立直後、県内の男性から妻が交通事故で受傷したと相談があった。リハビリに対応できる病院、妻を乗せる車、家の改装――。将来への不安を抱える男性に、受傷者や家族を紹介した。男性はその後、さまざまな助言を受けたという。「私は何もできないけれど、同じ境遇の人をつなぐことはできる」と活動の趣旨を語る。今年、この男性と再会し「闘いはこれから。でも一人じゃないからね」と励まして送り出した。
 自身も残っている肩から上とひじの機能を使って、1人暮らしを送る。受傷したのは約30年前の春。軽乗用車で通勤途中、農道から水田へ転落した。長期入院を経て、両親の下で暮らしていたが、15年前に転機が訪れた。
 友人の紹介でパソコンを始め、インターネットの中に同じ境遇の人が数え切れないほどいることを知った。今も付き合いが続く神奈川県や大阪府など県外の頸友と出会った。交流の中で、自分より症状が重くても、もっと自立している人がいることに気付いた。施設介護か家族の下で暮らすしかなかった自身の選択肢に「自立」が加わった。
 7年前、西郷村に一軒家を建築。ヘルパーと母の介護を受け、1人暮らしを始めた。しかし、障害者自立支援法ができて単価が下がったせいか、業者のヘルパーの派遣が途切れた時もあった。「1人ではもう生活できない」と孤独感を感じた時、支えてくれたのが頸友だった。受傷者の集まりがなかった福島で、仲間が集う機会を作ろうと提案してくれたのだ。「僕たちも参加するから、相山さんが企画して」との励ましに背中を押され、08年7月、東北では初めて交流会を開催。友の会の設立につながった。
 それからベッドの上で、パソコンで「友だより」を作成してきた。ほぼ2カ月に1回、頸友の近況や障害者関連の行政情報を盛り込んできた。「1人の自分は小さいけれど、2人3人とつながっていけば生きていける」。かけがえのない仲間をまだまだ増やしていこうと思っている。
    ◇   ◇
 同会は受傷者・家族の「正会員」が年会費2000円、会を応援する「賛助・一般会員」が任意で2000〜3000円。ホームページのアドレスはhttp://fukushima−keitomo.e−whs.net【種市房子】
  □人物略歴
 西郷村生まれ。大学を卒業して会社員になった直後に受傷。ワープロを打つなどして肩を動かす機能が回復。現在は介護メニュー作成や頸友との連絡で1日10時間はパソコンに向かう。好きな言葉は「一期一会」。


◆不正受給:平野で事業所運営の会社、介護給付費など6140万円 /大阪
(2010.06.01 毎日新聞 地方版/大阪 21頁)
 ◇府、指定取り消し
 府は31日、大阪市平野区の居宅介護事業所「ハッピーひらの3出会いの里くわのみ」を運営する株式会社「ジョイ介護センター」(神戸市垂水区)の事業者指定を取り消した。居宅介護の介護給付費など府と大阪市からの福祉分野での不正受給額は計約6140万円に上るという。
 府によると、同社は07年8月〜09年12月、ヘルパーの運転で通院などの介助サービスを実施したにもかかわらず、公共交通機関を利用と虚偽の申請をするなどして約3335万円の介護給費費を不正受給。
 さらに、勤務予定のない非常勤ヘルパーを福祉用具専門相談員として府に届け出るなどして、簡易式トイレなどを販売・貸与し、約1128万円を不正に受け取ったとしている。また、障害者自立支援法に基づく移動支援事業で1674万円を不正受給したとして同市は同日、事業者の登録を取り消した。
 このほか府は不正受給などでNPO法人「堺ふれあいネット」(堺市中区)▽合同会社「いちごいちえ」(大阪市住吉区)▽NPO法人「ダイワ」(同市平野区)――の事業者指定も取り消した。【佐藤慶】


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▼5月分
◆在宅障害者支援ネットワーク:「安心暮らし条例」を 実行委、今秋発足へ /大分
(2010.05.30 毎日新聞 地方版/大分 21頁)
 誰もが安心して暮らせる大分県に――。障害者の家族の相談に24時間応じている大分市の「在宅障害者支援ネットワーク」が29日、市内で報告会を開き、「安心暮らし県条例」の制定を目指し、当事者を含めた実行委員会の今秋発足を決めた。
 重度身体障害児の父で津久見市の倉原英樹さん(45)は、地区の連絡が放送でなされるため、周囲の聴覚障害者が内容を理解できずに孤立している現状を報告。「障害者の生活実態をさまざまな人に知ってもらうことが大事」と、条例が必要な背景を説明した。小野久事務局長も「今も孤立して苦しんでいる障害者や家族がいる。地域全体に協力の輪を広げないと」。
 同ネットの活動は今年で丸10年に。小野事務局長は「障害者自立支援法など国の制度は揺れ動き、地域は振り回された」と回顧。代表世話人の徳田靖之弁護士は「今年も重度障害者の声を行政に届け、条例を実現させたい」と訴えた。【高芝菜穂子】


◆障害者自立支援法:廃止求め、障害者らが署名活動−−天文館地区 /鹿児島
(2010年5月30日15時3分配信 毎日新聞)
 ◇「負担に変わりない」
 障害者自立支援法の一日も早い廃止と新法の制定を求める街頭署名活動が29日、鹿児島市の天文館地区であった。障害者福祉団体「麦の芽福祉会」(同市)の関係者ら15人が「私たちが安心して暮らせる仕組みを作って」と通行人に署名を呼びかけた。
 28日には、障害者自立支援法の廃止に伴う新法制定までの暫定改正法案が、衆院厚生労働委員会で可決したばかり。受けたサービスに対し、これまでの負担額は一律だったが、改正法案では支払い応用能力に応じた負担額になったものの、麦の芽福祉会組織運動委員会の久保田清隆事務局長(39)は「負担をすることには変わりない。法律そのものを早く廃止する必要がある」と話す。
 この日の署名では、同法の一日も早い廃止や、新法の制定に障害者の意見が十分に反映されることを政府に働きかけるよう市と県に要望。3万5000人分を目標に、8月に提出する。
 久保田事務局長は「障害者自身の声が法律に反映されなければいけない。街頭署名することで、少しでも多くの人に関心を持ってほしい」と話した。【黒澤敬太郎】


◆障害者自立支援法の改正案が可決 衆院委
(2010年05月29日 朝日新聞 朝刊 政治 004)
 障害者の福祉サービスに原則1割負担を課す障害者自立支援法の改正法案が28日、衆院厚生労働委員会で、民主と自民、公明など各党の賛成多数で可決した。今国会で成立の見通し。改正法案では、1割の自己負担を課す原則を、支払い能力に応じて支払う「応能負担」に転換し、発達障害もサービスの対象とする。グループホーム利用への助成制度も盛り込んだ。


◆羽黒山ぶしいたけファーム:障害者就労施設でシイタケ栽培 鶴岡に開所 /山形
(2010.05.29 毎日新聞 地方版/山形 23頁)
 ◇経済的自立目指す男女26人 雇用契約で最低賃金を保証
 障害者と高級シイタケの菌床栽培の雇用契約を結び、最低賃金(時給631円)を保証する障害者就労施設「羽黒山(やま)ぶしいたけファーム」(田辺省二社長)が28日、鶴岡市常盤木に開所した。知的、精神、身体のいずれかの障害がある同市と三川町の10〜60代の男女26人が経済的自立を目指し働き出した。
 障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業所。県によると、最低賃金を保証する県内の障害者就労施設の開設は6件目という。26人はハローワークを通じて採用された。原則週5日午前10時〜午後3時の1日4時間働く。作業は菌床で栽培したシイタケの収穫や選別、出荷などで、月額賃金は5万5000〜6000円になる計算。
 同市の社会福祉法人理事などを務める元県議の田辺社長が、岐阜県山県市で同様の施設を運営する「山県ファーム」社長の藤原雅章さん(56)の指導を受け、県の認可を受け設立した。事業所近くにある地下水を使った270平方メートルのハウス2棟の「しいたけハウス」で計2万株を通年栽培する。
 藤原さんによると、菌床栽培ながら原木に負けない香りや歯ごたえが特徴。一般的な価格が1キロ600円なのに対し、東京の高級飲食店などと1キロ2000円で取引されるという。藤原さんは「農業には彼らの力を発揮させられる広い器がある。他にはない高級品の栽培で月収17万円も可能になる」と話している。【長南里香】


◆障害者自立支援法:新法制定までの暫定改正法案可決
(2010.05.29 毎日新聞 東京朝刊 24頁)
 障害者自立支援法の廃止に伴う新法制定(13年8月)までの暫定改正法案が28日、衆院厚生労働委員会で可決された。サービス量に応じた応益負担ではなく支払い能力に応じた応能負担とし発達障害を対象とすることなどを盛り込んだ。


◆障害者自立支援法改正案が可決、利用者負担見直し
(2010年5月28日21時10分配信 医療介護CBニュース)
 参院厚生労働委員会は5月28日、医療・福祉サービスの利用者負担の見直しなどから成る障害者自立支援法の改正案を、民主、自民両党などの賛成多数で可決した。共産、社民両党は反対した。法案は今国会で成立する見通し。
 法案は、利用者のサービス量で負担が決まる「応益負担」から、所得に応じた「応能負担」に改めることなどが骨子。障害者の範囲に新たに発達障害者を明記することも盛り込んだ。
 政府は、障害者自立支援法を違憲とする訴訟団と今年1月に和解し、2013年8月までに障害者自立支援法を廃止して新制度を創設する方針。改正案はそれまでの暫定措置という位置付けで、利用者負担の見直しは、訴訟団が緊急課題として政府に速やかな対応を求めていた。


◆<障害暫定改正法案>衆院委で可決…発達障害も対象に
(2010年5月28日21時16分配信 毎日新聞)
 障害者自立支援法の廃止に伴う新法制定(13年8月)までの暫定改正法案が28日、衆院厚生労働委員会で可決された。サービス量に応じた応益負担ではなく支払い能力に応じた応能負担とし、発達障害を対象とすることなどを盛り込んだ。障害者らで構成する政府の障がい者制度改革推進会議で新制度について議論を進めているさなかだけに、障害者団体幹部は「障害者中心に新法を作る流れが中断されてはならない」と語気を強めている。
 改正法案には▽判断能力の不十分な知的障害者らのために成年後見の利用支援を市町村の必須事業にする▽福祉サービス支給決定前に当事者の意向を反映する仕組みの拡充−−なども盛り込んだ。国会で成立すれば12年4月に完全施行される。【野倉恵】


◆障害→障がい 変わる表記 国や自治体イメージ考慮
(2010.05.28 読売新聞 大阪朝刊 生活A 19頁)
 ◇「言葉より偏見解消を」の声も
 「障害」という表記を見直す動きが、自治体を中心に広がっている。「『害』という字には悪いイメージがある」として、「障がい」と平仮名と交ぜ書きする府県や市町村が増えており、国も検討を始めた。(長谷川敏子)
 「害は不快感を与え、誤解を招く」――。「障がい」という表記は、2000年に東京都多摩市が改めた後、各地に波及した。08年度の内閣府のまとめでは、大阪など10道府県と、札幌など5政令市が公文書などに使用。その後も鳥取市、島根県などが改めている。
 国も昨年12月、国の組織名としては初めて「害」を平仮名にした「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山首相)を設け、様々な課題について話し合う改革推進会議で、表記の検討もしている。
 メンバーは障害のある人らを含む24人。「表現を見直すべきだ」との主張の中で多いのが、「障碍(がい)」または「障がい」を推す意見。碍には「さまたげる」という意味があり、戦前は「障害」とともに使われていた。しかし現在は碍が常用漢字ではなく使えないため、常用漢字に加えようとの声もある。
 一方、見直しを疑問視する声も少なくない。全日本ろうあ連盟(東京)事務局長の久松三二(みつじ)さんは「障害者と呼ばれると精神的にまいるという人は多いので、その気持ちは理解できる。ただ、言葉を変えても、差別や弱い立場は解消されない。障の字にも負のイメージはある。表記だけの見直しはかえって、障害者が抱える課題が見えなくなる恐れがある」とする。
 全国脊髄(せきずい)損傷者連合会(同)副理事長の大浜真さんも「障害者自立支援法に代わる総合福祉法(仮称)の制定など課題は山積している。表記よりも優先する課題に議論を集中させる方がいい」と話す。
 鳩山首相は昨年10月の所信表明演説などで、「チャレンジド」という英語を使った。「挑戦という使命を与えられた人」との意味から、障害者を指す。しかし改革推進会議では「障害者だけに挑戦という価値や生き方を求めているよう」などと否定的な意見が多い。
 同会議は、来年の通常国会に障害者基本法の改正案を提出する予定で、表記に関してもそれまでに結論を出す必要があるという。
 自治体の中には、独自に呼称を決めようという動きもある。大阪府吹田市は昨年11月、新しい呼び名を公募、85件が寄せられた。その後、当事者らから「新しい建物の愛称を決めるかのようだ」といった批判が出たことなどから、検討作業は一時中断。今後の動向が注目される。
 先天性の脳性まひのある同市の金沢ユウ子さん(69)は「『害』にいい意味はないから、『障害者』は問題がある。でも言葉よりも、障害者の置かれている実態を把握して変えることが先です」。同じ障害のある杉尾睦美さん(54)も「呼び名を変えても生活が変わらなければ、意味がない」と話す。
 大阪市立大教授の堀智晴さん(障害児保育・教育)の話「言葉だけにこだわるのはよくないが、重要な問題。議論が多くの人にとって、障害者問題について考える機会になるといい。また、障害者に接した経験がないまま偏見を持つ人は多いので、子どもは学校で、大人は街の中で、直接出会ってかかわり合う体験をして、負のイメージを崩すことも必要だ」


◆県母親大会:子育て問題語り合おう−−来月20日・大田 /島根
(2010.05.28 毎日新聞 地方版/島根 23頁)
 子どもをもつ母親らが、子育てを取り巻く問題や悩みを語り合い共に考える「第48回県母親大会」(同実行委主催)が6月20日午前9時半から、大田市大田町の市立大田小学校で開催される。
 午前中は▽手作りおもちゃ▽親子で遊ぶ▽学力・生活・進路・生と性▽就労・医療・障害者自立支援法▽いじめ・不登校・ひきこもり▽平和と憲法▽食の安全・安心▽介護・高齢者▽地域医療――の9テーマで分科会を開催する。
 午後1時からは、立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長の安斎育郎さんが「だまし博士のだまされない知恵」と題して記念講演。「疑似科学」の説明を通じ、科学的、論理的な見方や考え方の大切さについて語る。
 参加は母親以外でも可。参加費(資料代)500円が必要。保育室もある。問い合わせは同実行委(県教職員組合内0852・21・2767)。【鈴木健太郎】

◆障害者支援法改正案、成立へ=与野党が議員立法で国会提出
(2010年5月26日19時19分配信 時事通信)
 与野党が超党派の議員立法によって障害者自立支援法改正案を今国会に提出することが26日、分かった。改正案は、同法廃止後に新制度が始まるまでの暫定措置との位置付けで、月内にも成立する見通しだ。
 福祉サービスを利用すると1割の自己負担を求める現行の障害者自立支援法をめぐっては、政府が2013年8月までに廃止した後で「障がい者総合福祉法」(仮称)を制定、新制度を創設する方針を打ち出している。
 改正案は、福祉サービスを利用するほど負担が増える「応益負担」から、利用者の支払い能力に応じて負担を決める「応能負担」に見直すことなどが柱で、昨年の通常国会に自民、公明両党が提出した改正案の内容をほぼ踏襲している。 


◆障害者支援財源、5割増を―民主・谷議員
(2010年5月26日14時38分配信 医療介護CBニュース)
 日弁連は5月25日、シンポジウム「障がい者制度改革推進会議の現状と課題―障害者権利条約の国内法整備に向けて」を開催した。国会議員の討論会に出席した民主党の谷博之参院議員は、障害者支援の財源について「現状の5割拡大したい」と述べた。

 谷議員は障害者支援の予算について、「関連予算合計で約9500億円」と指摘。「米国の約半分で、日本は先進諸国と比較して遅れている」とし、これを5割増の約1兆4250億円に拡大する必要性について、「政権与党の使命で、(内閣府などの)担当大臣も政務官も考えている」とした。
□「どさくさで基本合意踏みにじるな」
 共産党の高橋ちづ子衆院議員は、超党派の議員立法で今国会での成立を目指している障害者自立支援法の改正案について批判。障害者の範囲に難病を含むことが抜けているなど、同法の違憲訴訟団と国が和解した基本合意書に反する内容だとし、「当事者からの抗議が殺到している」と述べた。さらに、改正案の成立を目指す与党を含む超党派の動きについて、制度改革は当事者を中心に進めるという基本原則を無視した行為であるとし、「どさくさの中で基本合意を踏みにじっている」と非難した。
□強力な委員会が“縦割り行政”を打破
 このほどまとまった障害者基本法の抜本改正など制度改革関連法案の骨子案について、障がい者制度改革推進会議の東俊裕担当室長が報告。東室長は、この中で掲げる障害者施策の実施状況を監視する委員会を内閣府に設置することは「関係閣僚への勧告権限など非常に強い力を持つ」と、改革推進を妨げる恐れのある縦割り行政を打破する可能性に期待感を示した。
 また、「推進会議やシステムだけですべては変わらない」とし、国民の障害者に対する意識改革の必要性を訴えた。


◆<障害者支援>つなぎ法案、議員立法で今国会成立へ
(2010年5月26日2時31分配信 毎日新聞)
 福祉サービス利用の原則1割を自己負担する障害者自立支援法の廃止を巡り、新制度開始までの暫定的な現行法改正法案が、超党派による議員立法で今国会に提出され、成立する可能性が強まった。障害が重いほど負担も重くなる「応益負担」から、支払い能力に応じた「応能負担」にし、発達障害を同法の対象と明記するなどの内容。
 現政権は13年8月までに自立支援法を廃止し、新たな障害者福祉法制度を開始させる予定だが、障害者団体から「それまでの間どうするのか」との懸念の声が上がっていた。
 改正法案は「障がい者総合福祉法ができるまでの間の障害者自立支援法改正案」(仮称)。障害程度区分によるサービス内容の決定前に、本人の希望を反映させる「セルフケアマネジメント」(仮称)の仕組みを導入するほか、仕事などをしながら少人数で暮らすグループホームの障害者に対する家賃助成なども盛り込まれる見込み。【野倉恵】


◆障害者自立支援法:新制度開始までのつなぎ法案、議員立法で今国会成立へ
(2010.05.26 毎日新聞 東京朝刊 2頁)
 福祉サービス利用の原則1割を自己負担する障害者自立支援法の廃止を巡り、新制度開始までの暫定的な現行法改正法案が、超党派による議員立法で今国会に提出され、成立する可能性が強まった。障害が重いほど負担も重くなる「応益負担」から支払い能力に応じた「応能負担」にし、発達障害を同法の対象と明記するなどの内容。
 現政権は13年8月までに自立支援法を廃止し、新たな障害者福祉法制度を開始させる予定だが、障害者団体から「それまでの間どうするのか」との懸念の声が上がっていた。
 改正法案は「障がい者総合福祉法ができるまでの間の障害者自立支援法改正案」(仮称)。障害程度区分によるサービス内容の決定前に、本人の希望を反映させる「セルフケアマネジメント」(仮称)の仕組みを導入するほか、仕事などをしながら少人数で暮らすグループホームの障害者に対する家賃助成なども盛り込まれる見込み。【野倉恵】


◆「障害者の職場を守って」、施設関係者らが訴え /奈良県
(2010年05月25日 朝日新聞 朝刊 奈良1・1地方 029)
 障害者が寝泊まりをしながら働ける入所型授産施設を守ろうと、県内外の施設関係者らが24日、奈良市の近鉄奈良駅前で、通行人らに同施設への国の助成継続を呼びかけた。佐賀県で15日に始まった「政治のあり方を問う日本列島遊説隊」の活動で、今後も全国行脚を続ける。
 障害者自立支援法は、障害者の職場と生活の場は別々であるべきだとして、2011年度末までに同施設への助成を打ち切るとしている。鳩山政権は同法の廃止を明言したが、助成打ち切りについては議論されていない。
 50人の入所者がいる社会福祉法人「青葉仁(あおはに)会」(奈良市杣ノ川町)の榊原典俊理事長も活動に参加し、「県内の入所型授産施設は最近1年で4カ所から1カ所に減った。24時間支援が必要な重度の障害者たちは今後どこで働けばいいのか」と訴えた。


◆障がい者制度改革推進会議:特別学校、希望制に 所得保障など求める−−1次意見書案
(2010.05.25 毎日新聞 東京朝刊 25頁 総合面)
 障害者政策全体を見直す政府の「障がい者制度改革推進会議」が24日開かれ、政府に対する1次意見書案を公表した。障害の定義について、身体、知的、精神の個人の心身機能に注目した従来の「医学モデル」を転換し、社会参加を難しくしている社会の側の問題からとらえ直す障害者基本法改正案を来年の通常国会に提出するよう要請。障害者自立支援法廃止後の「障害者総合福祉法」(仮称)案の12年内の国会提出や障害者差別禁止法制定に加え、教育、医療、雇用など各分野の制度改正も求めた。
 来月内に全閣僚で構成する「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)に提出、閣議決定を目指す。基本法改正については、関係閣僚に勧告権をもつ監視機関の設置も要請する。
 意見書案では、障害にかかわらずすべての子供が原則、地域の小中学校に学籍を置き、親子が希望すれば特別支援学校にも就学できるようにする▽政府が検討中の新年金制度で障害者の所得保障を検討▽国土交通省が検討中の「交通基本法」(仮称)案で移動の権利を明文化▽医師や看護師の配置が一般より少ない精神医療政策などの見直し――などを求めた。
 現行法制の大幅な改革を促す中身も多く、同会議の委員からは「財源と共に、地方分権との整合性も課題」との意見も出ている。東俊裕・同会議担当室長は「省庁にどこまで具体的に要請するかは今後詰める」とした。【野倉恵】


◆社民・福島党首、仙台で街頭演説 /宮城県
(2010年05月23日 朝日新聞 朝刊 宮城全県・1地方 031)
 社民党の福島瑞穂党首が22日、今夏の参院選で公認する立候補予定者を応援するため、JR仙台駅近くで街頭演説をした。
 福島党首は労働者派遣法の改正案や、障害者自立支援法の廃止決定などは同党の取り組みによって実現したと主張。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題については「沖縄にこれ以上負担と犠牲を強いることはできない。日本政府が説得すべき相手は沖縄ではなく、米側だ」と訴えた。


◆バナナたわわ 葛城の授産施設本格販売へ 地元で好評「国産で安心」=奈良
(2010.05.22 読売新聞 大阪朝刊 奈セ2 24頁)
 葛城市寺口の社会福祉法人「柊(ひいらぎ)の郷(さと)」が運営する障害者授産施設の温室で、バナナがたわわに実っている。10年前に観賞用に植えられたものだが、施肥や水やりに力を入れ、昨年から試験的に販売。購入した地元の人たちの間で好評で、商品作物としての本格的な栽培を目指している。
 施設は入所、通所合わせて20〜70歳代の約80人が利用。約200平方メートルのガラス張りの温室は、10年前の開園時に、利用者に南国の植物を観賞してもらおうと設置し、バナナやガジュマルなどの木が植えられた。
 温度調節など管理が難しいため、一時は放置されていたが、3年前に園芸店での勤務経験がある二宮博直さん(57)が管理課長に赴任してから、手入れを再開。10株ほどのバナナに有機肥料を与え、葉を剪定(せんてい)したところ、樹勢が回復し、昨年から実をつけるようになった。
 施設周辺の畑で栽培する野菜などとともに地元のスーパーやイベントなどに出荷すると、「国産は珍しいし、安心」などと評判に。今年も現在、3房約300本が実り、花も順次咲いている。
 障害者自立支援法の施行以来、各授産施設では利用者の負担に見合う収益の確保が課題となっている。二宮課長は「バナナを中心にパパイアなど南国の果物を商品化し、安定した収入源にしたい」と話す。利用者が作った野菜や果物はインターネット(http://www.rakuten.co.jp/hiiragi/)でも販売している。問い合わせは「柊の郷」(0745・69・9601)。


◆イベントナビ /広島県
(2010年05月21日 朝日新聞 朝刊 広島1・2地方 028)
 <学ぶ>
 ◇どうなるこれからの障害者福祉制度〜障害者自立支援法のゆくえと新法作りについて〜 22日13時半〜、広島市中区千田町1丁目の市社会福祉センター。障がい者制度改革推進本部(本部長・鳩山由紀夫首相)の下、障害者自身が制度づくりに参加する障がい者制度改革推進会議の藤井克徳議長代理を招いた講演会。会議の動向と今後の見通しを学ぶ。資料代500円。問い合わせは、きょうされん県支部(082・299・7061)。


◆障害者の働く拠点、蓬田に 青森のNPOが開設=青森
(2010.05.21 読売新聞 東京朝刊 青森 31頁)
 障害者に働く場を提供しようと、青森市のNPO法人「夢の里」(鎌田慶弘理事長)が、蓬田村の中央公民館内に障害者就労支援施設「希望」蓬田を開設した。障害者自立支援法に基づき障害者の最低賃金を原則保障するタイプの施設で、外ヶ浜、今別、蓬田の周辺3町村では同タイプの施設は初めて。
 「希望」は障害者と雇用契約を結び、業務委託を受けた職場に派遣する。施設の定員は20人。現在、5月下旬以降の就労を視野に、村内の男女2人が清掃のやり方を学びながら、工場での勤務に備え、手指の機能強化訓練も受けている。
 近く、外ヶ浜町などの3人がさらに利用を始める予定。三浦慎太郎所長(40)は「障害者自立支援の蓬田周辺での拠点となることを目指す。気軽に見学に来てほしい」と話している。
 問い合わせは、「希望」(0174・27・3456)へ。
 

◆新教育の森:軽度・中等度の難聴児 補聴器購入、家計の負担大きく /福岡
(2010.05.21 毎日新聞 地方版/福岡 18頁)
 ◇補助制度創設訴え−−山口・親の会
 身体障害者手帳の交付対象とならない軽度、中等度の難聴児(高校生以下の児童・生徒)の多くが、授業で補聴器を使用している。しかし、1台数万〜数十万円する購入費が負担となる家庭も多い。現在の公的支給制度は身障者手帳交付対象者(高度、重度の難聴者)に限られており、山口県では、難聴児の親の会が「聴力レベルによる線引きは見直すべきだ」と、県に独自の補助制度の創設を訴えている。【諌山耕】
 「ペットボトルはリサイクル工場で押しつぶして、再利用されます」。今月12日、県中部の小学校の4年生教室。社会科の授業で、軽度難聴の男児が約30人の児童に交じり、先生の話に耳を傾けた。
 男児は校内にある難聴児のための特別支援学級(今年度児童数7人)に所属するが、児童の交流を図る目的で、半数強の授業を通常学級で受けている。
 男児は日常生活で、補聴器を使っている。しかし、通常学級では、近くの児童のおしゃべりや物音を拾ってしまうといい、雑音を除くため補聴器を外し、隣に支援学級の担任が座り、先生の話を復唱した。「どんなふうに再利用されるのかな。考えてみて」
 次の4時間目。男児は支援学級に移り、担任が算数を教えた。支援学級は少人数の上、壁が防音仕様だ。男児は補聴器を付け、近くで話す担任の声にスムーズに反応した。
 支援学級では7人全員が補聴器を使用している。しかし、補聴器は安いものでも片耳数万円で、家計に重くのしかかる。先生の胸につけたマイクから声を直接受ける「FM型受信機」を装着すると、更に片耳で十万円近くかかる。耳の汗や脂によりさびやすく、耐用年数は5年程度だ。
 障害者自立支援法に基づく購入費支給制度(自己負担原則1割)の対象は、身障者手帳が交付される高度、重度の難聴者のみ。中等度以下は全額自己負担となる。
 山口市内の小学2年の中等度の女児は、1歳から補聴器を付ける。母親(34)は「買い替えの時期に来ているが、購入費が賄えないので、修理を繰り返しながら使い続けている」と話す。
 難聴児の親などで作る「山口県ことばを育てる親の会」(加藤碩(ひろし)会長)は昨年11月、県に中等度以下の難聴児に対する独自の補助制度の創設を要望した。毎日新聞の調べで、独自制度は大阪、岡山など一部の府県が実施しているが、九州・山口各県は導入していない。
 山口県障害者支援課は「国に現行制度の拡充を働き掛けることも検討したい」と話す一方「財政事情もあり、県独自の制度は考えていない」と付け加える。
 親の会の加藤会長は「中等度以下でも、補聴器なしでは授業内容を理解できない子供は多い。聞こえないことで学習に支障が出るのは、教育機会の均等に反する」と訴える。
 □ことば
 ◇軽度・中等度難聴
 難聴度は一般的に軽度、中等度、高度、重度に分かれ、身障者手帳の交付対象は聴力70デシベル以上の高度と重度。どの程度の聴力で軽度、中等度とするかについては研究者によって意見が分かれるが、小寺一興・帝京大医学部教授は、軽度26〜39デシベル▽中等度40〜69デシベルとし、学校などでは35デシベル程度の軽度でも補聴器が必要なケースがあると指摘している。


◆障害福祉サービス事業所「ありんこ」、装い新たに 富士吉田 /山梨県
(2010年05月20日 朝日新聞 朝刊 山梨全県・1地方 033)
 富士吉田市大明見に障害福祉サービス事業所「ありんこ」の新しい建物が完成し、18日に開所式があった=写真。手狭だった同市下吉田の施設から移転した。
 式に出席した近所のお年寄りは「ありんこから元気な声がもれてくる。近所にとっても、うれしい。ありがたい」と喜んだ。
 もとの場所は、知的障害者小規模通所授産施設だった。これからは、障害者自立支援法に基づく事業所として新たなスタートを切る。定員は、自立訓練(生活訓練)6人、就労移行支援6人、就労継続支援(B型)30人。
 広い敷地は東京都江東区に住む加賀美村昌さん(74)が「障害者福祉向上のために」と提供した。ありんこ理事長の渡辺秀樹さんは「生まれ育った地域のために寄付して下さった」と、加賀美さんに謝意を表した。
 18歳から通所している渡辺正純(まさすみ)さん(31)=同市=はテープカットに加わった。新しい施設の感想は「広くなって素晴らしいですよ」。出席した横内正明知事から「がんばって」と声をかけられ、「よかったね」という堀内茂市長と握手を交わした。


◆障害者支援に一役 津のNPO 空き店舗に活動センター開設=三重
(2010.05.20 読売新聞 中部朝刊 北勢 27頁)
 ◇バンド演奏などで 利用者交流深める 
 身体障害者の自立支援に取り組むNPO法人「ピアサポートみえ」(津市)が、心の病を抱えた人たちの居場所づくりを応援する「地域活動支援センター スタジオピア」を津市丸之内の空き店舗に開設した。運営開始から1か月がたち、利用者も徐々に増え、現在は16人がバンド演奏やパソコン学習などを通じて交流を深めている。
 4月2日にオープンしたスタジオピアのある建物は2階建てで、延べ床面積約160平方メートル。以前は陶芸教室に使われていた。ギターやドラムなど軽快なリズムのバンド練習に打ち込むほか、硬式テニス教室を週1回行ったり、生活相談にも応じたりしている。今月からは昼食(200円)の提供なども始めた。開設は午前10時〜午後6時で、水・木曜日は休み。
 利用している16人は、20〜40歳代で、津市のほかに、伊勢や松阪、名張、伊賀市、明和町から何度も足を運んでくる。今後は、小中学校などで障害者が自らの体験談を話し、障害への偏見をなくすなど、障害者への理解を求める活動も実施したいという。
 津市障がい福祉課によると、この活動は2006年度に施行された障害者自立支援法に伴い、市町村が実施する地域生活支援の一つとして、障害者に日中の活動の場を提供する委託事業。家族の就労支援や一時的な負担軽減を図るのが狙い。
 利用者の負担は原則1割だが、所得に応じた一定の自己負担上限がある。だが、今年4月からは住民税非課税の人は負担がゼロとなった。利用する場合、市などの窓口に申請し、交付された受給者証を事業者に提出する。精神障害者を支援するこうした施設は県内では珍しいという。
 自らもそううつ状態がある気分障害(双極性障害)を抱える「ピアサポートみえ」の佐々木康弘理事(52)(名張市)は、ギターの弾き方などを指導している。「家に引きこもりになりがちな障害者たちの外出や仲間同士が交流するきっかけになれば」と話す。また、身体や知的の障害者も利用ができるため、多くの利用を呼びかけている。問い合わせはスタジオピア(059・253・8765)へ。(青山丈彦)
 
 
◆障害者自立支援法:佐賀の村井さん、入所施設の存続訴えビラ配り /兵庫
(2010.05.20 毎日新聞 地方版/兵庫 21頁)
 全国行脚して障害者が暮らす入所施設の存続を訴えている社会福祉法人・佐賀西部コロニー(佐賀県太良町)の村井公道理事長(73)らが19日、JR神戸駅でビラを配った=写真、右から2人目。
 障害者自立支援法は、障害者が生活する場と、働いたりする「活動の場」を分けるよう推進。12年4月以降、24時間体制の入所授産施設の利用は難しくなる公算が大きかった。政権交代を受け同法の廃止は決まったが、施設の扱いについては従来通りとされたため、反発が強まっていた。
 村井さんは「施設は最後のセーフネット。施設がなければ障害者は行き場をなくす」と話す。
 今後、北海道や九州など全国を回り施設の存続を訴える方針。【川上晃弘】


◆6月1日に緊急対策案―障がい者総合福祉部会
(2010年5月18日20時20分配信 医療介護CBニュース)
 内閣府の「障がい者制度改革推進会議」は5月18日、障害者自立支援法に代わる新法「障がい者総合福祉法」(仮称)のあり方を議論する「総合福祉部会」の第2回会合を開催した。会合では、当面の課題として、新法の制定までに必要な緊急対策案を6月1日の次回会合で示す方針を決めた。
 緊急対策案は、新法制定までの当面の措置として総合福祉部会の委員55人から指摘があった「応益負担の廃止」などの意見をまとめて作成する。委員が当面の措置として必要とする意見はすべて列記し、障がい者制度改革推進会議が6月7日にまとめる予定の中間報告書の別添資料として提出する方針。
 緊急対策をめぐっては、障害者自立支援法違憲訴訟の原告団などでつくる訴訟団が、新法制定までの当面の措置が速やかに行われていないとして、17日に長妻昭厚生労働相にあてて緊急要望書を提出している。これについて厚労省では、「一意見として承るが、当面の措置は障がい者制度改革推進会議やその部会の判断」(障害保健福祉課)としているが、「当面の措置は本来、厚労省が対応すべき案件」(政府関係者)との声もある。
 総合福祉部会は緊急対策案の提出を経て、6月22日開催の第4回会合から新法制定に向けた本格的な議論を開始。来夏までをめどに内容を詰め、2012年の通常国会への法案提出を目指す。


◆「民主党政権に失望」―障害者法違憲訴訟団
(2010年5月17日22時29分配信 医療介護CBニュース)
 障害者自立支援法違憲訴訟の原告団などでつくる訴訟団は5月17日、長妻昭厚生労働相にあてて緊急要望書を提出した。緊急要望書では、政府方針である「応益負担」の廃止のめどが立っていないことなどに反発。訴訟団は「約束を守らない民主党政権に失望している」としている。
 政府は障害者自立支援法違憲訴訟で原告団と和解。今年1月7日に「応益負担の速やかな廃止」などから成る「基本合意」を締結した。
 訴訟団によると、17日に対応した山井和則厚労政務官は、応益負担の廃止など今後の対応について「検討」を連発。面会後、記者会見した弁護団は「廃止どころか予算措置の見込みも不透明」と不満をあらわにした。
 また政府が、障害者の生活に影響を与える可能性があることを当事者に知らせることなく「地域主権推進一括法案」の法案化を進めているとして、「基本合意に逆行する」と政府の姿勢を批判した。
 6月7日までに今回の緊急要望書に対する厚労省の見解を求めている。厚労省が応益負担の廃止で「検討」などの実質的なゼロ回答であれば、同21日開催の訴訟団の全国会議で、基本合意違反として今後の対応を協議する。同16日開催の政府と訴訟団の定期協議でも問題提起する。


◆障害者施設への助成継続を 村井さんの全国行脚始まる /佐賀県
(2010年05月16日 朝日新聞 朝刊 佐賀全県・1地方 031)
 障害者が寝泊まりしながら働く入所型授産施設への公費助成の継続を求めている太良町の授産施設理事長、村井公道さん(72)が15日、全国行脚を始めた。スタートとなった佐賀市のJR佐賀駅前の演説では、「障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指し、全国を遊説したい」などと訴えた。
 2006年施行の障害者自立支援法では、入所型授産施設への助成を11年度末に打ち切ることになっている。村井さんは法改正や助成打ち切りの凍結を求め、まずは、6月21日までに半分程度の都道府県を訪問する予定。「国が見直しを表明すれば、すぐにやめる」と話している。
 全国行脚初日の佐賀市内の演説には施設入所者や家族ら約150人が集まり、ビラをまいて支援を求めた。施設の一つ「佐賀西部コロニー」の親の会の野口武男会長(69)は「『親の会』も、親の世代が減ってきている。入所と通所がうまく両立できるようにしてほしい」などと話した。


◆障害者自立支援法:入所授産施設を守ろう 「日本列島遊説隊」佐賀で活動開始 /佐賀
(2010.05.16 毎日新聞 地方版/佐賀 23頁)
 ◇「障害者の行き場なくすな」
 障害者が働きながら生活する入所授産施設を守ろうと、太良町で施設を運営する社会福祉法人・佐賀西部コロニーの村井公道理事長(73)らが15日、JR佐賀駅前などで「政治の在り方を問う日本列島遊説隊」の活動を始めた。
 障害者自立支援法は「施設から地域での自立生活へ」という趣旨の下、働いたり介護を受けたりする「日中活動の場」と、生活する場を分けるよう推進。12年4月からは、原則として24時間体制の入所授産施設は利用が難しくなる。
 昨年の政権交代で国が同法の廃止を決定し、村井さんは一度は安心したものの、今年2月に長妻昭厚生労働相が「(同法に基づく施設のあり方への移行を)推進する」と発言。村井さんは「施設で生活しながら働くことが必要な障害者もいる。廃止するといったのに、矛盾している」と反発。全国で抗議活動を行うことを決めた。
 村井さんはマイクを手に「入所施設を失ったら、障害者は行き場をなくす」と呼びかけ、施設関係者や障害者約130人が「嘘(うそ)つき政治は止(や)めてくれ」のタスキをかけ、2000枚のビラを配った。
 村井さんは16日には沖縄県に入り、その後兵庫県や奈良県でもアピールするという。【蒔田備憲】


◆参院選へ、マニフェスト着々 自民は保守回帰鮮明 自主憲法制定・夫婦別姓に反対
(2010年05月15日 朝日新聞 朝刊 政治 004)
 自民党は14日、参院選マニフェストの原案を明らかにした。冒頭に「自主憲法の制定」を掲げ、外国人地方参政権や夫婦別姓に反対を表明し、保守回帰の姿勢を鮮明にした。消費税については「引き上げを含む税制の抜本改革を行う」としたが、引き上げ幅などは明記していない。
 記者会見した石破茂政調会長は、自主憲法制定を冒頭に掲げたことについて「昨年の総選挙マニフェストの末尾においたことに批判があった」と説明し、保守層に配慮したことを強調した。今回のマニフェストでは、自衛隊を迅速に海外に派遣することを可能にする一般法制定、外国人への地方参政権付与法案や夫婦別姓法案に反対する方針も明記した。
 社会保障政策では、基礎年金を満額受給できる年金制度の実現、後期高齢者医療制度に代わる65歳以上を対象とした新たな医療制度の整備、障害者自立支援法の改正などが盛り込まれた。
 消費税はこうした社会保障の充実に「全額充てる」としたが、増税幅や増税時期は盛り込まず、「政権復帰時点で決定する」とした。石破氏は「増税の税率は明記しないと決めたものではない」と述べ、6月初めにまとめるマニフェスト完成版に向けて含みを残した。
 今回、消費増税についての具体的記述が先送りされた背景には、党内議論がいまも一枚岩でないことが大きい。
 民主党との明確な対立軸を示すため、「増税幅も書き込むべきだ」との意見が党税制調査会メンバーなどの財政再建派には少なくない。一方で「財政を悪くしたのは自民党政権という批判がある。増税は言い出しにくい」(党幹部)などの事情がある。
 (蔭西晴子)
 ◇自民党マニフェスト原案の主な項目
 ・自主憲法の制定
 ・法人税率を20%台に減税
 ・財政均衡条項を憲法に明記
 ・消費税率は政権復帰時に決定
 ・年金受給資格の要件を10年に短縮
 ・温暖化ガス排出量を2020年までに05年比で15%削減
 ・自衛隊を海外派遣できる一般法制定
 ・教員免許更新制の厳格な運用
 ・国家公務員人件費を2割削減
 ・外国人地方参政権と夫婦別姓に反対
 ※原案は自民党ホームページ(http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/pdf/2010_genan.pdf)にも掲載し今月中は一般からの意見も受け付ける。


◆障害者の職場維持へ行脚 佐賀の授産施設理事長・村井さん 【西部】
(2010年05月15日 朝日新聞 朝刊 3社会 033)
 施設に寝泊まりしながら働く障害者の職場を守ろうと、佐賀県太良町の授産施設理事長、村井公道さん(72)=写真=が15日、入所型授産施設への公費助成の継続を訴える全国行脚を始める。障害者自立支援法=キーワード=では、2011年度末で同施設への助成が打ち切られる。村井さんは「利用者の多くが行き場を失う」と危機感を募らせる。
 (小川直樹)
 村井さんが理事長を務める身体・知的障害者授産施設「佐賀西部コロニー」は、有明海の海水を使った「海水みかん」などの独自商品を手がける。三つの作業所で働く身体・知的障害者計約130人のうち約7割が入所者だ。
 60人を抱える多良岳作業所は、08年度の月平均工賃が1人あたり2万4306円で、授産施設の県平均1万9949円を上回る。同作業所は長年の努力の末、有明海の海水を使った農法を確立。「海水みかん」「海水サツマイモ」など高付加価値商品を売り出した。村井さんは「利用者の自立は経済的自立から。所得保障にはこだわりの商品づくりが欠かせない」と話す。
 だが、06年に施行された障害者自立支援法によって、利用者の生活基盤が揺らいでいる。同法は「自立と共生の社会を実現。障害者が地域で暮らせる社会に」を目標に掲げ、障害者の職場と生活の場が別々の場所でなければ補助金を支給しないなどとした。
 11年度末までの移行期間は公費助成を受けられるが、その後は、大半の利用者が行き場を失うと村井さんは懸念している。利用者の多くは精神安定剤など薬の服用が必要で、夜間の服用が本人任せとなるグループホームや自宅では暮らせないという。
 全国行脚は佐賀から沖縄、東京、大阪などを回り、人通りの多い街頭で入所型施設の現状などを訴える予定だ。
 村井さんは「施設は、障害者が地域で安心して暮らせるように造ったもの。同法のうたう『地域』に含むべきだ」とした上で、「民主党は『天下の悪法だから、新しい制度を作るまで(助成打ち切りを)凍結する』と昨年の衆院選で約束した。国民をなおざりにする政治は許さない」と意気込んでいる。
 ◇キーワード
 <障害者自立支援法>
 2006年施行。障害者が福祉サービスを受ける際の自己負担を、費用の原則1割を支払う「応益負担」に転換、負担増となる障害者らから強い批判が噴出。自公政権が07、08年に負担軽減措置をしたが、自己負担を無くすよう求める訴訟が各地で起こされ、政権交代で発足した鳩山民主党政権が今後、同法を廃止し、障害者参画のもと、新たな制度を作る方針を明言している。


◆寄り添って:日本点字120年/2 外出時移動支援・ガイドヘルパー
(2010.05.15 毎日新聞 東京夕刊 6頁 社会面)
 ◇伝い歩きの手を取り
 楕円(だえん)形の大きな傘が、並んで歩く2人を雨滴から守った。右手に白杖(はくじょう)を持つ園順一さん(64)=大津市=は、外出時の移動支援を担うガイドヘルパー、杉野森満さん(41)=奈良県大和郡山市=と街に繰り出す。2人がそれぞれ傘を差せば歩きにくい。視覚障害者向けのイベントで杉野森さんが見つけた便利グッズだ。
 出会いは12年ほど前、通信技術の研究所を経営する園さんの元に、他社で働いていた杉野森さんが出向してきた。当時、園さんの目は、網膜色素変性症が進み出していた。オフィスの壁に手を当てて伝い歩きし、残る視力を頼りに一人帰る夜道。「明日も会社にたどりつけるのか」。漠然と不安も覚えていた。
 そんな姿を職場で見かけ、杉野森さんは園さんに付き添うようになった。パソコンや音響機器などの趣味も合った。ほとんど視力がなくなり、経営を譲った園さんが視覚障害者のパソコン普及に向け全国各地で講師の活動などを始めると、ボランティアで同行した。
 「ガイドヘルパーの資格を取ってみたら?」。園さんの勧めで08年秋、杉野森さんは3日間の養成講座に参加して資格を取った。障害者自立支援法の下、外出支援事業は各自治体に任せられている。だが、日本盲人会連合(東京)が全国の自治体を対象に実施した調査(09年度)によると、視覚障害者の希望に対してヘルパー利用が認められた割合は「2%未満」という自治体が約4割を占めた。同連合は「ガイドヘルパーの絶対数が足りず、制度も不十分な証拠」と指摘する。養成講座の内容も自治体ごとに違い、質をどう維持するかも課題だ。
 杉野森さんは自ら設立したITサポートの会社で、視覚障害者が簡単に操作できる音声再生ソフト開発などにも取り組んだ。通勤途中でも、白杖を持つ人には「ガイドしましょうか」と一声かける。「見えなくなった人が経験したつらさを、私は受け止めきれない。けれど、一緒の道を行く間はそんな思いを抜きにして、ただ『行きましょか』って思うんです」【青木絵美】=つづく


◆要約筆記者:聴覚障害者の耳、13町村で不在 登録170人、実働3割 /岩手
(2010.05.15 毎日新聞 地方版/岩手 25頁)
 ◇少ない派遣要請
 聴覚障害者のために会議や会話の内容を文章でまとめる要約筆記者の育成と事業普及が、なかなか進まない。登録者数は170人いるものの、盛岡市に集中し、実働も3割にとどまる。15日から、県立視聴覚障がい者情報センターが県の委託で5年目の講座を開くが、定員40人に27人しか応募がない。同センターは「大変な仕事だが、関心を持ってもらいたい」と訴える。【狩野智彦】
 ◇養成講座定員割れ「主因は認知不足」
 病気、事故、高齢などで中途失聴または難聴になった人の多くは、文字での意思疎通を重宝する。厚生労働省の06年度調査では、聴覚障害者約34万人の意思疎通手段は手話18・9%に対し、話の内容をその場で文字で伝える筆談・要約筆記は30・2%に上る。
 このため、要約筆記の普及が急がれている。要約筆記は、隣席で伝える「ノートテーク」と、会場の多くの人に伝える「全体投影」がある。いずれも、手書きとパソコン利用の2通りあり、4、5人1組で行われる。
 同センターによると、県内の登録者数は170人(13日現在)。国が99年に養成カリキュラムを作り、一般的に各自治体が講習を開くことになっているものの、受講者や講師、講座時間、経費の確保が難しい状況だ。
 また派遣は、06年の障害者自立支援法で市町村の必須事業となった。しかし、登録者の半数以上が盛岡市内に偏在し、13町村で不在だ。要請件数も少ない。自治体によって報酬もまちまちだ。同センターを介した派遣は09年度、講演会や個人の病院診療時など73件で延べ約300人だが、実働は3割で、「同規模県は5、6割くらいある」という。
 15日から、新たな要約筆記者の養成が始まる。センターの女鹿一美・情報支援員は、「社会全体の認知不足が問題の根本にある。自治体も重要性を認識して取り組んでほしいし、利用者も積極的に使うことで必要性の認知度も上がる」と、訴える。


◆障害者自立支援法:佐賀・施設関係者、きょうから抗議の全国行脚開始
(2010.05.15 毎日新聞 西部朝刊 23頁 総合面)
 政権交代で国が障害者自立支援法の廃止方針を決めながら、地域での自立した生活と就労を重視する同法が定めた支援体系への移行を進めているのは問題だとして、佐賀県内の施設関係者が15日、佐賀市で抗議の全国行脚を始める。
 同法は障害者の入所授産施設などに対し、06年の同法施行後5年以内に、生活介護や自立訓練など同法に基づく新たな支援体系に移行するよう定めていた。
 しかし、障害者や施設職員からは「新体系は障害者の実態を無視している」と反発が根強く、政権交代後、長妻昭厚生労働相は同法の廃止を明言していた。
 ところが今年2月の衆院予算委員会で、長妻厚労相は「我々は(新体系への移行を)推進する立場」と発言。同法が廃止されれば移行は不要と期待していた関係者から非難の声が上がっている。
 佐賀県太良町で入所授産施設を運営する社会福祉法人「佐賀西部コロニー」の村井公道理事長(73)らは15日、長妻発言に抗議する全国行脚を始めるという。

◆就労支援費、詐取容疑 NPO理事長ら逮捕 宮崎 【西部】
(2010年05月14日 朝日新聞 朝刊 1社会 031)
 障害者の就労支援などに対する給付費をだまし取ったとして、宮崎県警捜査2課と串間、都城両署は13日、同県串間市西方のNPO法人・マルナカ福祉会理事長の中原利秋容疑者(90)と妻で職員のチヅ子容疑者(82)を詐欺容疑で逮捕し、発表した。認否について県警は「詳細は言えない」としているが、利秋容疑者は逮捕前の10日、朝日新聞の取材に応じ「事務長にすべて任せていた。私は知らない」と話していた。
 発表によると、2人は共謀し、障害者自立支援法の訓練等給付費をだまし取ろうと、同県都城市の女性に木工品の加工などの訓練を実施したとする虚偽の申請書を市に提出し、2007年5月ごろ、同市から給付費約7万円をだまし取った疑いがある。


◆NPO理事長ら逮捕 給付費7万円不正受給容疑=宮崎
(2010.05.14 読売新聞 西部朝刊 宮崎 23頁)
 県警は13日、障害者自立支援法に基づく訓練等給付費約7万円を不正に受給したとして、NPO法人マルナカ福祉会(串間市)の理事長中原利秋(90)(同市西方)と同法人職員で妻のチヅ子(82)(同)の両容疑者を詐欺容疑で逮捕した。県は、同法人が2007年4月から08年12月にかけ、訓練等給付費1000万円以上を不正に受給したと認定しており、県警は余罪を追及する。
 発表によると、両容疑者は07年5月頃、都城市内の女性について、訓練をしていないのに、虚偽の訓練等給付費申請書を同市に提出し、同市から約7万円をだまし取った疑い。「詐取金は運営費に充てた」と供述しているという。
 同法人は、県から2007年4月に障害福祉サービス事業者の指定を受け、作業所の運営を開始。県は昨年1月の指導監査で不正を認定し、同年3月に指定を取り消した。都城市は今月10日、同法人を詐欺容疑で刑事告訴していた。


◆障害者支援に新プラン 相談体制強化 障害者教育充実=岐阜
(2010.05.14 読売新聞 中部朝刊 岐阜 23頁)
 ◆県、2010〜14年度 
 県は、障害者への福祉サービスの向上を図る「県障がい者支援プラン」(2010〜14年度)を策定した。県内の障害者手帳所持者は年々増加し、11万1068人(08年度末)と過去最高となっている。プランでは、県内五つの「障害保健福祉圏域」を新たに設け、様々な障害者に必要なサービスを圏域内で受けられるように態勢作りを進めることにしている。(倉橋章)
 ◆5圏域で細かなサービス 
 県によると、08年度末現在の手帳所持者は、身体障害者は8万9078人、知的障害者は1万4020人、精神障害者は7970人。10年前と比べて、4461人〜1万7192人増とすべての障害者で増えている。年齢別では、70歳代が最も多く、次いで80、60歳代の順で、身体障害者は高齢者が大半を占めている。
 プランでは、障害者が安心して暮らせる「人に優しい県づくり」を基本目標に、社会環境と自律・社会参加、日常生活、保健・医療の4分野で施策を実行する。前回プラン(05〜09年度)と比べ、市町村の相談体制の強化と、発達障害児・者の支援充実などを図ったのが特徴。
 具体的には、五つの障害保健福祉圏域ごとに広域支援アドバイザーを新たに配置するほか、手話通訳者と介助者の養成や、特別支援学校の新設整備、民間企業の障害者雇用の促進、障害者に優しい県営住宅数の増加などを進める。
 達成目標は、4分野21項目で、手話通訳者が81人増、特別支援学校の新設整備が10%増、障害者法定雇用率は0・11ポイント増の1・8%、障害者に優しい県営住宅数は91戸増の642戸などを掲げる。
 県障害福祉課は「障害者の社会参加を重点に、相談体制の強化や障害者教育の充実を図った」と話す。
 国は、障害者自立支援法の廃止を含め制度全体の見直しを行っており、県は自立支援法廃止の際には、期間途中でもプラン見直しを行う方針。
 

◆福祉行政、網の目漏れた 小郡70代母娘の孤独な死、なぜ 地域の見守り課題/福岡県
(2010年05月13日 朝日新聞 朝刊 福岡・1地方 027)
 小郡市の民家で、無職女性(75)と長女(46)の遺体が見つかってから1カ月がすぎた。異変に気づいたのは近所の住民だったが、2人は普段から近所づきあいも少なく、行政が定期的に見守る対象にも入っていなかった。足が不自由な母親を、視覚障害のある長女が介護するなかで起きた今回のできごと。悲惨な結末を防ぐ手だてはなかったのだろうか。
 (上山崎雅泰)
 近所の女性は、親子とのつきあいは回覧板のやりとり程度だったと振り返る。
 3月初めごろ、長女が回覧板を持ってきたが、変わった様子はなかった。視覚障害者用のつえはついていなかったが、道路の白線を頼って歩いている様子だった。母親が出歩く姿は見たことがなく、「もう少し早く気づいてやれれば……」と肩を落とした。
 小郡市によると、約1年前、県外在住の息子から、亡くなった母親の介護認定申請が出された。調査員が自宅に向かったが、本人に「調査を受けたくない」と拒まれたという。後日、別の調査員が赴いたが、会うことはできなかったという。
 結果を息子に伝えたところ、認定申請は取り下げられた。当時、2人は父親と一緒に暮らしていた(父親は昨年5月ごろ死亡)。市介護保険課は「独り暮らしの高齢者で、明らかに介護が必要な場合は申請を勧めるが、当時はあてはまらなかった」と説明する。
 市では、独り暮らしの高齢者の家を民生委員や区長らが月に数回巡回する「ふれあいネットワーク」事業を行っている。しかし長女と暮らしていたので独り暮らしではなく、巡回の対象から外れていた。
 小郡署によると、遺体の状況から、母親が死亡したあとしばらくは、長女は生存していたとみられる。目が悪かった長女は身体障害者2級の手帳も持っており、障害者自立支援法に基づく福祉サービスを利用できる立場にあったが、利用していなかった。長女の手首には、自殺を図ったとみられる切り傷があったという。
 市は事件を受けて4月中旬、市内の民生委員を集めて高齢者の見守り態勢について話し合い、巡回が必要な世帯について、市と民生委員との情報交換をこれまで以上に密にすることにしたという。同課は「市だけで全体を把握するのは無理。地域で意識を高めてもらい、一人ひとりを見守っていく態勢にしていきたい」と話した。
  ◇福岡市は「配食」で安否確認
 独り暮らしの高齢者への目配りを、ほかの自治体はどのように行っているのか。
 福岡市や北九州市は校区の社会福祉協議会が主体となって、民生委員やボランティアが定期的に自宅訪問をしている。
 さらに福岡市は「食の自立支援事業」として、高齢者や障害者に食事を配って安否を確認する「配食サービス」を実施。昨年度は820人が利用した。
 北九州市では「ニーズ対応チーム」を編成し、ボランティアがごみ出しや買い物、布団干しなどを手伝っている。2003年度にはボランティア5080人が12万7千回の活動を行った。
 ただ、配食サービスは要介護認定などを受けた人が対象で、小郡市の女性のケースは対象外になってしまう。
 北九州市社協は「生活に困っている世帯を、ボランティアができるだけ見逃さないようにして、行政や民生委員に伝えることが大事だ」と話している。
 ◆キーワード
 <事件の概要> 4月5日午後1時半ごろ、小郡市の民家で、女性2人が死亡しているのが発見され、この家に住む無職女性(75)と長女(46)と判明した。近所の住民から市役所に「最近2人の姿を見ていない」と連絡があったため、市職員が小郡署員と確認に行っていた。


◆障害者就労施設:シイタケ栽培、オープン 市内2件目の最低賃金保証 /宮城
(2010.05.12 毎日新聞 地方版/宮城 21頁)
 ◇登米の遊休工場を活用 11人就労
 シイタケの菌床栽培を通じ、障害を持つ利用者と雇用契約を結び県の最低賃金(時給662円)を保証する障害者就労施設「しいたけランド」が登米市南方町にオープンし、11人の利用者が作業に励んでいる。最低賃金を保証する同市内の障害者就労施設の開設は、クリーニング工場を柱とする「ラボラーレ登米」と並び2件目。障害者の経済的な自立につながる貴重な就労の場だ。
 「しいたけランド」は4月上旬、障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業所として開所。利用者11人は登米、栗原の両市に住む30〜50代の男女で精神、知的、身体のいずれかの障害がある。労働時間は週休2日を原則に1日4〜6時間。作業は菌床で育てたシイタケの収穫、集出荷、水やりなどで、月額賃金は最高8万円台になる計算。
 「しいたけランド」の運営は株式会社「ワンズ」。渡辺忠悦社長(60)によると、知的障害がある知人の子供の就労が話題になった後、岐阜県にあるシイタケ栽培の就労施設を視察。景気低迷で遊休化していた渡辺さんの親族経営の電子部品工場施設を生かし、障害者が働くシイタケ栽培施設の開設に踏み切った。栽培技術指導は栗原市瀬峰のシイタケ栽培農家から受けた。
 ハウス内で菌床の手入れをしていた50代の女性利用者は「近隣の障害福祉支援施設でクリーニング作業をしていた時は毎月約1万5000円の工賃だった」と話した。さらに「しいたけランドに就労し初めてもらった1カ月分の賃金は、クリーニング作業よりも多く、シイタケを育てる喜びが大きくなった」と顔をほころばせた。
 出荷は4月末から始まり連日30〜50キロをJAみやぎ登米を通じ仙台の市場に出荷している。渡辺さんは「品質向上の工夫を凝らす一方、付加価値のあるシイタケ商品を開発して採算ラインに乗せ、利用者が楽しく働ける場にしていきたい」と話している。連絡は「しいたけランド」(0220・44・4215)。【小原博人】


◆都城市がNPO告訴 給付金85万円の詐欺容疑 理事長「事務長に一任」 /宮崎県
(2010年05月11日 朝日新聞 朝刊 宮崎全県・1地方 029)
 障害者の就労などに対する給付費約85万円を不正請求されたとして、都城市は10日、串間市西方のNPO法人・マルナカ福祉会の中原利秋理事長(90)について、詐欺容疑で告訴状を串間署に提出した、と発表した。
 都城市によると、同会は2007年4月から08年12月までの間、実際には訓練を受けていない、いずれも都城市の男性(60)と女性(52)について、訓練を実施したとする虚偽の実績記録票を同市に提出し、2人の月々の給付金を不正に受給していた。不正請求額は計約294万円とみられるという。
 中原理事長は朝日新聞の取材に「理事長は名前だけ。事務長を信頼して一切を任せていたので、事務のことはよく分からない」と話した。
 同会の不正請求は昨年1月に県の定期監査で発覚。同市のほか、串間市と鹿児島県曽於市にも不正な請求をしていたとして同年3月、障害福祉サービス事業の指定を取り消されている。
 障害者自立支援法では、障害者への就労訓練などを行った指定事業者に対し、障害者1人につき1日あたり4810円の「訓練等給付費」を市町村が支給すると規定。月1回、訓練の「実績記録票」を市町村に提出することを義務づけている。


◆(声)私は生きるよ、お母さん見てて
(2010年05月02日 朝日新聞 朝刊 オピニオン2 007)
 無職 宮下真理子(埼玉県春日部市 59)
 お母さん、見てますか。あなたが亡くなって3年が経(た)ちました。あなたは「亡くなったら、どう生きていくのか」といつも心配していましたね。大丈夫、私はしっかり生きてますよ。脳性マヒで手足の不自由な私をどこでも連れてってくれましたね。演劇、映画、旅行と、健常者と同じように育ててくれました。
 今は障害者自立支援法ができ、私もヘルパーさんや近所の皆さんのお陰で、家で何とか一人で暮らしていますよ。今は週2回、デイサービスに行っています。そこには私より重度の障がいのある方がいっぱいいます。その人たちのことを思うと私は幸せだと思います。人間はただ寝て食べるだけではないと生きる意味を考えた時、市のパソコン教室に電動車イスで行ってみました。でも私にはマウスが持てませんでした。市障がい者福祉課に相談すると、障がい者にボランティアで教えてくださる方がいるとのこと。紹介して頂き、今はメールもできるようになりました。
 これから先、どんな人生が待っているのか分からないけど、お母さん見てて。もう少し頑張ってみる。自分自身に負けないように。


◆なるほドリ:障害者自立支援法 /京都
(2010.05.02 毎日新聞 地方版/京都 20頁)
 <NEWS NAVIGATOR>
 ◇全国すべての訴訟は終結、財源確保が問題
 なるほドリ 障害者自立支援法を巡って、全国で訴訟が起きていたよね。最近、すべて解決したんだって?
 記者 08年10月の集団提訴以降、全国14地裁に障害者71人が訴訟を起こしていました。3月24日、さいたま地裁で原告側が提訴を取り下げたのを皮切りに、京都府内の原告9人も4月13日に京都地裁で和解。同月21日の東京地裁での和解を最後に、全国すべての訴訟が終結しました。
 Q 障害者の人たちは何を訴えていたの?
 A 障害者自立支援法は、障害者が自立した生活を送れるよう支援することを目的に作られ、06年4月に始まりました。それまでは収入に応じて福祉サービスの利用料を支払う「応能負担」でしたが、収入に関係なく原則1割を自己負担する「応益負担」に転換されました。多くの障害者が福祉サービスを受けられなくなったり、負担が増えたりするなどの影響があり、訴訟では、原則1割負担は「障害者の生きる権利を侵害する」として、負担撤廃を求めていました。
 Q 障害者に負担が大きいっていうことは悪い法律なの?
 A そうは言い切れません。例えば、身体、知的、精神の3障害に分かれていた施策が一元化され、「精神障害への支援は手薄だったが、支援が受けられる人が増えた」「NPO法人でも運営が認められて施設の数が増え、就労支援の体制も強化された」と評価する声もあります。
 Q 何で和解することになったの?
 A 政権交代直後、長妻昭厚生労働相は同法廃止を明言。その後、原告・弁護側と国が交渉を始め、13年8月までの新制度制定に障害者が参画する▽障害の範囲見直しを新法の論点とする▽低所得者の医療費負担を課題とする――などの「基本合意」を今年1月に結びました。和解条項に合意の確認などが盛り込まれたため、原告側は訴えを取り下げました。
 Q これまでの障害者自立支援法はどうなるの?
 A 新制度ができるまで継続する予定です。同法廃止までの措置として負担軽減策が打ち出され、10年度は低所得者に対してホームヘルプの費用などを無料化する予算が組まれました。しかし、国の財政難で医療費については見送られ、財源の確保が問題になっています。原告の男性は「新制度の確立に向け、更なる努力を」と訴えました。新制度は、障害者や家族が6割を占める政府の「障がい者制度改革推進会議」で本格的に話し合われますが、低成長時代に障害福祉予算を確保するには増税も議論の対象となりそうです。<回答・古屋敷尚子>


◆(声)急ぎすぎていませんか、私たち
(2010年05月01日 朝日新聞 朝刊 オピニオン2 016)
 主婦 上野ひさ(新潟市西区 63)
 障害者自立支援法をめぐる違憲訴訟の和解が成立し、鳩山由紀夫首相が原告に陳謝した。その報道に、私は何かほっとしました。
 政治資金や普天間飛行場移設の問題で、鳩山政権のすべてを否定するかのごとき風潮があります。けれど、もう少し長い目で全体を見ることも必要なのではありませんか。
 C型肝炎や水俣病患者、子ども手当、高速料金、事業仕分けなどの課題が動き出しています。がんばっているとも思うのです。
 普天間にしても、米国の世界戦略を問いつつ解決を目指さなければならない難問です。沖縄の願いを受け止め、どこまでできるか。ていねいに説明し、粘り強く交渉する必要があります。安易な約束は無益です。
 指導者にリーダーシップや決断力は必要だけれど、「まかせとけ」と一刀両断にもできません。ものごとは総合的、冷静に見ていくべきです。急(せ)いては事をし損じる、というではありませんか。


◆(発信)売却難航、増す不安 精神障害者支援「ハートピアきつれ川」 /栃木県
(2010年05月01日 朝日新聞 朝刊 栃木全県・2地方 030)
 さくら市の精神障害者支援施設「ハートピアきつれ川=キーワード=」が、経営難でホテル部門を閉鎖してから1年余り。精神障害者が接客や配膳(はいぜん)などホテルでの職業訓練を通じて社会復帰を促そうという全国でも先駆的な施設だったが、運営母体の幹部が補助金の不正流用の疑いで逮捕・起訴され、施設売却の交渉は難航している。利用者や施設の職員たちは今も併設された授産施設で働いているが、先行きに不安を募らせている。(矢吹孝文)
  ◇活動続く授産施設 「地域の人、減った」
 桜の花が咲き始めた4月10日の土曜日。ハートピアの前庭に、にぎやかな笑い声が響いた。職員や施設利用者、利用者OBとその家族ら80人が参加して催された「桜祭り」だ。10年以上にわたって毎年開かれていたが、昨年は3月のホテル閉鎖による混乱で開かれず、この日が2年ぶりの開催となった。
 参加した利用者たちは、自身の社会復帰のきっかけとなったホテルの閉鎖を口々に惜しんだ。
 数年前までハートピアのホテルでフロントマンとして働いていた市内の男性(34)は、今はデイサービス施設の職員として働いている。「お客さんへの対応やほかの従業員とのあいさつなど、ここで力をつけた」と振り返る。清掃や庭の草むしりを担当していた埼玉県に住む男性(42)も「ここに来れば、1年に一度でも仲間に会える。なんとか存続してほしい」と話す。
 ホテルは閉鎖されたものの、ハートピアに隣接した授産施設は今も稼働しており、利用者は名刺の箱や陶器を作っている。利用者は施設で寝泊まりしている人が約20人、自宅などから通う人が約30人おり、職員も30人ほどが働く。時期によって人数の増減はあるが、ホテル閉鎖前とそれほど変わらない。3月にも新たな利用者を迎えたばかりだ。
 日帰り温泉施設も備えるホテルは、閉鎖されるまでは地域の人たちの憩いの場になっていた。しかし、「閉鎖されてから、ハートピアに寄る地域の人が減った」と職員の女性は寂しそうに言う。
 桜祭りも、一昨年までは近くの保育園児を招待したり、宿泊客に地元の太鼓の演奏を披露するなど盛大に開かれていたが、今年の参加はほとんど関係者だけだった。
  ◇運営元、機能停止続く
 ハートピアを運営する全国精神障害者社会復帰施設協会(全精社協)はホテル閉鎖直後から、ほかの事業者に経営をゆだねるため、施設全体の売却先を探してきた。
 現在、千葉県内で介護老人保健施設などを運営する医療法人が買い取りに手を挙げている。全精社協関係者によれば、高齢者向けショートステイ施設に衣替えして、利用者にはそこで働いてもらう計画が説明されたという。
 しかし昨年秋、全精社協の会長をはじめとする幹部が、ホテルの赤字を穴埋めするために国からの補助金を不正流用した疑いで相次いで逮捕・起訴されたため、交渉は滞っている。
 東京の事務所もすでに閉鎖され、全精社協は事実上、機能停止に陥っている。ハートピアは現場の職員たちだけで切り盛りしている状態だ。全精社協の関係者は「理事会も開けず、売却交渉を進めることができない。裁判が終わるまで身動きがとれない」と説明する。
 ハートピアには職員の退職金や固定資産税の未払い分など1億円を超える負債が残る。裁判の行方によっては、補助金の返還を求められる可能性もある。この関係者は「交渉を再開できたとしても、買い手と金額で折り合いがつくかどうか分からない」と不安げだ。
 ◇来年度の方針、いまだ不透明
 ハートピアは、利用者が施設内で寝泊まりする「入所型授産施設」という現在の運営方法自体についても、来年度中の見直しを迫られている。障害者の授産施設と居住施設の場所を分けなければ、補助金の支給対象にしないと定めた障害者自立支援法が2006年度に施行されたためだ。
 施設の運営に欠かせない国と県からの補助金の支給を受けるためには通所型の就労施設とグループホームを組み合わせるなど新しい運営方式に改める必要があるが、全精社協の運営方針は示されていない。09年度、国と県から受けた補助金は計7820万円で運営費の大部分を占める。
 現在は「経過措置」があるが、このままだと12年度から補助金が給付されなくなる。ハートピアの職員によると、利用について相談に来た人の中には「この先どうなるかが分からない」と利用を見送る人も出てきているという。
 ◇キーワード
 <ハートピアきつれ川>
 精神障害者がホテルの従業員として働き、宿泊客とふれ合うことで社会復帰を目指す日本初の施設として1996年に設立された。22の客室を備えたホテルや授産施設があり、周辺には全精社協が運営する利用者が従業員を務めるカフェや、利用者の一部が住むグループホームもある。当初は全国精神障害者家族会連合会(全家連)が運営していたが、経営に失敗し、約10億円の負債を残して2007年に自己破産。施設は全精社協に引き継がれていた。


◆[ほのぼの@タウン]5月1日=多摩
(2010.05.01 読売新聞 東京朝刊 多摩2 28頁)
 ◎タウンリポーターのコーナー
 ◆パン作り通して自立 
 □昭島 昭島署のそばにある「食工房ゆいのもり パンひろば」=写真=は、国産小麦を使ったパンの販売とカフェのお店。木のぬくもりがある外観に黄色のオーニングテントが目印だ。
 店内に入ると焼きたてパンの香りが漂い、自家製カスタードのクリームパンや天然酵母食パンなどが並ぶ。昼時には人気メニューが売り切れてしまうこともある。
 同店は、社会福祉法人ゆいのもり福祉協会が、精神障害者を対象に障害者自立支援法に基づく事業所として運営し、安心安全な食材を使ったパン作りを行っている。障害者が自立し充実した人生を実現できるように、作業の場、仲間作りの場の提供、日常生活上の相談や就労に関する支援と相談などを行っている。
 問い合わせは食工房ゆいのもり((電) 042・500・5152、http://www7a.biglobe.ne.jp/〜yuinomori)(木下くみこ)


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▼4月分
◆(時時刻刻)与党支援、連合手探り 成果の一方、歩調に乱れ 政権交代後初のメーデー
(2010年04月30日 朝日新聞 朝刊 2総合 002)
 連合による第81回メーデーの中央大会が29日、東京・代々木公園で開かれ、鳩山由紀夫首相が現役の総理大臣として9年ぶりに出席した。壇上に並んだ連合首脳と首相は、口をそろえて政権交代の成果をアピール。今夏の参院選への決意も示したが、足元では微妙な緊張関係が生まれている。(江口悟、佐藤徳仁、宮崎健)
 無数ののぼり旗がはためく前で、あいさつした鳩山首相は力をこめた。
 「日本を大きく変えていかなければなりません。そのためにはエネルギーが必要です。時計の針を逆に戻そうという力が、徐々に強まってきています。でも、皆さんとともに、時計の針をもっと進めていかなければなりません」
 帰り際、100人ほどの参加者に囲まれた首相は、気さくに写真撮影に応じた。参加者からは「がんばってください」「信頼しています」といった声が飛んだ。
 約680万人の組合員を抱える連合にとって、昨年9月の政権交代は結成20周年で達成した悲願だ。政権交代後初のメーデーとなったこの日は、平野博文官房長官、長妻昭厚生労働相や、消費者担当相の福島瑞穂社民党党首ら与党3党の代表者も駆けつけた。
 連合の古賀伸明会長は昨秋の就任後、「政策のすべてが一致するわけでもないし、優先順位が異なるものがあって当然だ」と政権を尊重する一方で、政策要求を実現する仕組みづくりに力を注いだ。
 ほぼ3カ月ごとに鳩山首相とトップ会談。実務者レベルの協議も毎月開くようにした。幹部は日常的に携帯電話で閣僚たちと連絡を取り合い、政策絡みの報告がメールで来ることも多い。
 スタートダッシュは好調だった。政府は連合の要望を受け、解雇を防ぐため企業に休業手当を一部補助する基準を広げたり、失業手当が受けられる人を増やすために雇用保険法を改正したりした。
 だが、「政治とカネ」の問題や米軍普天間飛行場の移設問題が長引いて内閣支持率が大きく下がる中、政権が世論を強く意識するようになり、連合の希望に反する方向に動くことも目立ってきた。
 たとえば、地域主権に絡んで、政府が検討するハローワークの地方移管。連合は4月、「憲法が保障する勤労権を実現するためにも国が責任を持つべきだ」と反対の声を上げた。厚生労働省の事業仕分けでは、職業能力開発総合大学校の指導員養成事業を廃止する方向が12日に示され、南雲弘行事務局長は直ちに「重大な懸念」を表明した。
 春闘でもあった。連合が「最低限の要求」とした定期昇給。鳩山首相は1月下旬、「簡単に昇給できるという状況ではない」と労働側に不利な言葉を発した。連合が平野官房長官に“抗議”すると、首相は翌日、参院の委員会で「経営側が主張していることを単に紹介しただけ」と釈明した。
 それでも、鳩山政権を支えるしか選択肢はない。古賀会長はメーデーのあいさつで、「国民の生活を重視する社会への変革はようやく始まったところ」と訴え、「(参院選の)勝利に向け、連合も一丸となり、最大限の力を発揮する」と意気込んだ。
 ◇「小沢流選挙」に戸惑い
 メーデー前日の28日夜、古賀会長ら連合幹部は都内のホテルで民主党の小沢一郎幹事長と向き合っていた。前日には検察審査会による「起訴相当」の議決が出たばかり。古賀氏らは会合のキャンセルもやむを得ないと受け止めていたが、小沢氏は10分遅れで姿を見せた。
 小沢氏は普段通り淡々と参院選対策を語ったという。「これから難しい局面や課題が出てくるかもしれないが、参院選に向けてお互いに頑張ろう」。最後はそう確認して、会合を終えた。
 連合は2月から3月にかけて、各地で「ブロック別代表者会議」を開催。参院選が近づく中、選挙対策を加速させた。主要産別を中心に11人を擁立した比例区のほか、47都道府県ごとの選挙区で重点候補を決めている。
 ただ、複数選挙区に複数の候補者を擁立した「小沢流」の選挙手法に各地で異論が噴き出している。ある地域の会議では、古賀氏の面前で「2人区に2人目の公認候補を決めたのは、刺客を立てられた感覚だ。我々が応援した候補が落選したら組織問題につながる」との意見も出た。
 3月、連合静岡の吉岡秀規会長は「小沢氏自身が2人擁立とセットで辞職願を出していただく覚悟があれば、私たちは真剣に検討する」と発言。この「小沢氏辞任論」は古賀氏が小沢氏に謝罪することで収拾したが、地方組織には批判がくすぶり続ける。
 連合は1989年の結成後、90年代前半の新党ブームを「非自民」の立場から後押しした。小沢氏とのかかわりも当時が発端だ。だが、連合会長経験者の一人が語る。「小沢氏は決して親労組ではない。利用しているだけなんだよ。それは計算に入れておかないといけない」
 民主党と二人三脚でやってきた高木剛前会長の路線とは一線を画し、現在の古賀執行部は「是々非々」を掲げる。27日、宇都宮市であった講演で古賀氏はこう語った。「私たちは野党の応援団をやったことはあるが、与党の応援団はやったことがない。従ってどんな距離感をつくるか。(連合内で)聞いてもバラバラだ」
 ◇メーデー会場で聞いた鳩山政権の評価(100点満点)
 ○35歳男性 建築土木 1点 
 高速道路無料化の公約が守られていない。次は民主党に投票しない
 ○51歳男性 機械販売 30点 
 「まだ半年」と言い訳ばかり。半年後も「まだ1年」と逃げそう
 ○50歳女性 自動車 45点 
 子ども手当は借金を後世に押しつけるだけだ。せめて所得制限を 
 ○45歳男性 運輸 50点 
 事業仕分けは評価。ガソリン税の暫定税率廃止の公約も守って 
 ○20歳男性 電気設備 50点
 財政支出はもっと節約できるはず。消費増税はやめてほしい 
 ○51歳男性 公益法人 50点
 事業仕分けはパフォーマンス。独立行政法人などの雇用を守って
 ○48歳男性 機械製造 50点
 政治には時間がかかる。そのなかで時効廃止などよくやっている 
  ○22歳女性 運輸 60点 
 首相は人柄はいいが決断力がなさすぎ。政治主導の感じがしない
 ○52歳男性 派遣 70点 
 労働者派遣制度の規制強化で、雇用の機会が減るのが心配だ 
 ○49歳男性 情報通信 70点 
 閣僚や議員は小沢一郎幹事長ら内部にしっかり意見を言うべきだ 
 ○45歳男性 福祉 75点 
 障害者自立支援法の廃止宣言は評価。介護職の給与増も実現して 
 ○43歳男性 小売り 90点 
 期待通りに政治主導へと転換した。ムダ削減の姿勢も評価できる 


◆三田の障害者協、100人参加し総会 /兵庫県
(2010年04月29日 朝日新聞 朝刊 三田2・1地方 031)
 三田市身体障害者福祉協議会の2010年度総会が28日、市総合福祉保健センターであった=写真。約100人が参加、川原格(いたる)会長はあいさつで「昨年政権交代があり、障害者自立支援法が廃止されることになった。今後は障害者の立場に立った施策を望む」などと述べた。
 その後、「『障がい者総合福祉法(仮称)』の制定に向け私たちも関係機関へ働きかけていく」とした「総会宣言」を採択した。会員は310人。


◆なるほドリ:障害者自立支援法訴訟で、和解をどう受け止めたの? /岡山
(2010.04.28 毎日新聞 地方版/岡山 26頁)
 ◇国が廃止受け入れ事実上の勝訴 すべての障害者が無料にならず不満も
 なるほドリ 全国14地裁の障害者自立支援法訴訟は、最後の東京で21日に和解したね。岡山地裁でも訴訟はあったね。障害者は和解をどう受け止めたの?
 記者 国が自立支援法の廃止を受け入れたことを考えれば、事実上の勝訴といえます。でも、すべての障害者の負担が無料とならなかったことに不満を持つ障害者もいます。
 Q 原告の人たちは国に何を求めたの?
 A 自立支援法訴訟で、原告の障害者は、福祉サービスの一律1割負担を廃止するよう求めました。自立支援法は障害者の収入に関係なく、福祉サービスを受ける利用者に料金の1割の負担を求める仕組みでした。06年の自立支援法の施行以前は、障害者の支払い能力に応じて福祉サービスの使用料を負担しました。無料で受けたサービスにお金がかかるようになり、所得の低い人は生活に困るようになりました。
 Q 障害者はどんな福祉サービスを受けるの?
 A 一人で風呂に入ることが困難な人は入浴の手助け、買い物の付き添いなどがあります。障害者が生きるために必要なサービスと考えられます。利用できる時間は障害の程度によって変わります。
 Q 自立支援法では、障害の程度をどうやって決めたの?
 A どんな障害があるかを問う質問表に答え、医師の意見書などを加味して審査されます。障害の区分は1〜6段階。区分の認定は市町村ごとに審査し、全国で統一した基準はなく、区分の決定にも問題点があるという声も聞かれます。
 Q 和解に、どんな約束が盛り込まれたの?
 A 国は13年8月までに新制度をつくると約束しました。それまでの経過措置として、低所得者の福祉サービス利用料は全額無料となりました。
 Q 障害者自立支援法は悪法だったの?
 A 地域社会のサービスを充実させて、障害者が日常生活を暮らせるようにする自立支援法の理念は一定評価できます。しかし、障害者の負担が多い点で議論の余地がある法律でした。
 Q どうやって、新制度ができるの?
 A 障害者は、社会基盤の充実を求めています。働く場づくりなど社会参加の支援も要求しています。和解を受けて、新しく設置された「障がい者制度改革推進本部」は障害者の要望を受けて、今後3年以内に障害者が暮らしやすい新制度を提案します。<回答・石井尚>


◆総合福祉部会:障害者新法で初会合
(2010.04.28 毎日新聞 東京朝刊 29頁 総合面)
 障害者自立支援法に代わる新たな法制度を検討する政府の障がい者制度改革推進会議の専門部会「総合福祉部会」(部会長・佐藤久夫日本社会事業大教授)の初会合が27日、開かれた。委員は障害者や家族など障害者団体幹部や有識者55人で、発達障害や難病の団体幹部も加わった。来年度予算への反映を視野に、課題を委員から聴取。低所得者の医療費負担軽減のほか、グループホーム補助など地域支援の拡充などの課題が浮かんだ。


◆(政策ウオッチ)障害者自立支援 「申し訳ない」なら前進を
(2010年04月24日 朝日新聞 朝刊 政策総合 007)
 「常に『検討』の連続。命を守る支援に財源を回してほしい」。障害者自立支援法訴訟の和解が、14地裁すべてで成立した21日、原告・弁護団と国が1月に結んだ「基本合意」の進み具合を確認する初の協議の場で、障害のある娘をもつ母親が声を上げた。
 協議では、サービス利用量に応じて原則1割負担を課す「応益負担」の速やかな廃止など合意内容にそって原告がさまざまな課題で改善を求めた。だが、国は「検討する」の答えに終始した。
 同法施行の背景には、サービス利用の増加に伴う財源不足があった。国が107億円の予算を計上し、4月から低所得(市町村民税非課税)の障害者の福祉サービスを無料にしたことは一歩前進だ。しかし、低所得者の医療費の無料化や、課税世帯の負担の撤廃などは先送りされたままだ。
 原告と面談した鳩山由紀夫首相は「申し訳ないという思いでいっぱい」と言った。本心なら、2013年までに同法を廃止し新たな福祉法制を実施するという合意を守り、財源を確保するのは最低限の責務だろう。
 (森本美紀)


◆告知板 /広島県
(2010年04月23日 朝日新聞 朝刊 広島1・1地方 027)
 ◆学習会「障害者の生活をチョッと考えてみようや」 25日13〜16時、広島市西区福島町2丁目の西区地域福祉センター3階大会議室。兵庫県西宮市の自立生活センター・メインストリーム協会事務局長の佐藤聡さんを講師に、障害者自立支援法廃止後の障害者施策の行方を学ぶ。資料代500円。問い合わせはNPO法人・障害者生活支援センター・てごーす(082・294・4185)。


◆鳩山首相、原告に陳謝 自立支援法訴訟、終結受け
(2010年04月22日 朝日新聞 朝刊 3社会 037)
 障害者自立支援法をめぐる違憲訴訟が21日、全国14地裁すべてで国との和解が成立したことを受け、原告・弁護団ら約120人は首相官邸を訪れ、鳩山由紀夫首相と面談した。首相は「ご迷惑をおかけした。申し訳ないな、という思いでいっぱいだ」と陳謝し、「最終的には障害者差別禁止法まで作り上げたい」と約束した。
 鳩山政権は、民主党のマニフェスト(政権公約)を踏まえて、福祉サービスを受けると原則1割負担を課す障害者自立支援法の廃止を宣言。今年1月に原告・弁護団と国が交わした基本合意文書で、「遅くとも2013年8月まで」に同法に代わる新制度を始めることを明記した。
 原告を代表してあいさつした和歌山市の大谷真之さん(35)は「鳩山政権のおかげで、この日を迎えられた」と基本合意の意義を強調。「障害者一人ひとりが夢と希望を持ち、幸せに伸び伸びと暮らせる社会をつくらなければならない」と語った。原告から贈られたおそろいのウインドブレーカーを着た首相は、約40人の原告一人ひとりに声をかけ、握手して回った。
 首相との面談に先立ち、この日は合意文書に基づく第1回の国と原告・弁護団との定期協議が都内で開かれた。協議は、議論の進み具合などをチェックするもの。受けるサービス量に応じ負担する制度の先行廃止を求められた厚生労働省の山井和則政務官は、「検討していきたい」と応じた。(森本美紀、中村靖三郎)


◆市長独自策を減額 東久留米市議会委、予算案修正し可決 /東京都
(2010年04月22日 朝日新聞 朝刊 むさしの・1地方 035)
 東久留米市議会臨時会の予算特別委員会は21日、今年度一般会計予算案を一部修正して可決した。事業仕分けの実施など、1月に就任した馬場一彦市長の新規事業にかかわる予算を大幅に減額する修正案を野党側が提出。合わせて、大型商業施設の誘致を計画通り進めることなどを求める付帯決議案も可決した。
 自民クラブ提出の修正案では、タウンミーティングの開催57万3千円を5万3千円に、事業仕分けの実施216万円5千円を6万5千円にするなどした。一方で障害者自立支援法に基づく「移動支援」にかかわる予算12万円を追加した。
 自民、公明と、1人会派の2委員は、馬場氏が前市長を批判して当選しながら予算案では全体として前市長の政策を踏襲しているなどとして、「政治姿勢が不透明だ」と主張した。
 付帯決議では、前市長が進めてきた保育園の全園民営化などの施策を継続することや、行財政改革プランを発表することなどを求めた。
 市議会は、昨年12月の市長選で馬場氏の対立候補を推した自民、公明などが多数を占める。野党側は予算案のうち新市長の独自部分を減額することで、馬場市長と対立する姿勢を鮮明にした。


◆障害者差別 首相「禁止法作り上げたい」 自立支援法訴訟和解で
(2010.04.22 読売新聞 東京朝刊 2社 36頁)
 東京地裁での21日の和解成立により、全国14地裁で争われていた障害者自立支援法を巡る違憲訴訟のすべてで国側との和解が成立したことを受け、原告・弁護団は同日、首相官邸を訪問した。その席で鳩山首相は「今日まで自立支援法の下でご迷惑をおかけした」と陳謝した後、「最終的には障害者の差別禁止法まで作り上げていきたい」と述べた。
 また、今年1月の基本合意に盛り込まれていた厚生労働省と原告側の第1回定期協議も東京・霞が関で開かれ、原告側は、福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求める現行制度の早期見直しなどを要望した。


◆自立支援法訴訟、東京も和解成立 14地裁すべて終結
(2010年04月21日 朝日新聞 夕刊 1社会 015)
 福祉サービスに応じて障害者に原則1割負担を定めた障害者自立支援法は「法の下の平等」を定めた憲法に違反するとして、東京都内の障害者ら6人が国に自己負担をなくすことなどを求めた訴訟は21日、東京地裁(八木一洋裁判長)で和解が成立した。これで全国14地裁に原告71人が起こした訴訟はすべて和解が成立し、訴訟が終結した。
 同法をめぐっては、昨年の政権交代後に長妻昭厚生労働相が廃止を明言。今年1月、全国の原告・弁護団と国は同法を廃止し、13年8月までに新法を制定することなどを盛り込んだ基本合意を交わしている。
 訴訟終結を受け、原告・弁護団は会見し「裁判を通じて悪法を廃止に追い込んだが、ひどすぎた制度をゼロに戻したに過ぎない。新法制定を求めるこれからが本当のスタート」とする声明文を出した。


◆障害者自立支援法訴訟:和解 定期協議で厚労相「机上の空論作らぬ」
(2010.04.22 毎日新聞 東京朝刊 25頁 総合面)
 ◇基本合意、進展検証
 東京地裁で21日、障害者自立支援法違憲訴訟が和解し、集団訴訟がすべて終結したのを受け、同日午後、原告側と政府の「基本合意」の進展を検証する初の定期協議が開かれた。この後、首相官邸を訪れた原告側と面会した鳩山由紀夫首相は「自立支援法でご迷惑をかけて申し訳ない。新しい法律を作り上げる願いを皆さまと共有している」とあいさつした。【野倉恵】
 基本合意は▽同法を廃止し13年8月までに新制度を実施し、策定に障害者が参画▽制度の谷間を作らないための障害範囲見直し▽低所得者の医療費負担を当面の重要課題とする――などの内容。定期協議で長妻昭厚生労働相は「机上の空論で政策を作らず、現状をつぶさに把握したい」と述べた。
 原告だった秋保喜美子さん(広島県)や家平悟さん(東京都)らは▽応益負担の速やかな廃止▽利用実績に基づく日払い制度で減った施設の報酬を、月払い制度に戻す▽地方分権推進でサービスの地域差を拡大させない――など10項目を求めた。政府側は「検討する」(山井和則政務官)などと答えるにとどまった。
 今後の新法制定は、財源など課題が山積する。支払い能力に応じた負担とする方向で▽現行の障害程度区分見直し▽難病や発達障害、高次脳機能障害など範囲見直し、などが焦点。低所得者の医療費無料化(財源約200億円)も不透明だ。協議の場となる政府の「障がい者制度改革推進会議」は専門部会を今月下旬、発足させる。
 官邸では、脳性小児まひの和歌山市、大谷真之さん(35)が「障害者の多くが生きるか死ぬかの思いをした。一人一人が夢と希望を持って暮らしたい」と述べた。鳩山首相は床にひざをつき、約60人と懇談した。


◆社説:自立支援法和解 次につなぐべきこと
(2010.04.22 毎日新聞 東京朝刊 5頁)
 障害者自立支援法で利用者に応益負担を課したのは憲法で定めた生存権を侵害するとして、全国の障害者計71人が14地裁に起こした訴訟がすべて和解し終結した。国が速やかに応益負担を廃止し、13年8月までに新制度を制定することなどが和解の内容である。
 訴訟を通して一般国民の間でも<自立支援法=悪法>のイメージが広まった。しかし、すべてを否定できるだろうか。次につなぐために冷静に総括する必要がある。
 障害者が必要な福祉サービスを利用すると原則1割の自己負担が課され、障害が重くサービスをたくさん利用する人ほど負担も重くなる。これが応益負担だ。自公政権は減免措置を重ね、生活保護受給世帯は負担ゼロ、市町村民税非課税の低所得世帯には月1500〜3000円などの上限を設け、負担は平均2・8%にまで低減された。それでも批判はやまず、民主党政権は低所得世帯の負担をゼロにした。
 しかし、負担がなければそれでいいのか。税と保険の違いはあるが、医療も介護も1〜3割の自己負担はある。コスト意識や権利意識を利用者が持ち、納税者(被保険者)の納得感を考えれば負担自体を否定すべきではないのではないか。むしろ生活保護より低水準の障害年金しか収入がない人が多いこと、障害者の働く場がないこと、福祉施設での授産活動で得られる工賃の乏しさなどに大きな問題がある。
 それでも、最近は都心のオフィスで働く知的障害者をよく見かける。以前は一部の軽い障害者が中小零細の職場で働いているくらいだったが、大企業が知的障害者を雇用するのが珍しくなくなった。就労支援を柱とする自立支援法の効果である。地方では農家や食品製造業と障害者がコラボレーションして地場産業を取り入れたユニークな事業が見られるようになった。障害者の収入増に貢献し、お年寄りや主婦の雇用の場にもなっている。規制緩和でさまざまな事業展開を可能にした同法の影響が大きい。社会保障費が抑制される中、同法施行後は障害者福祉の予算が毎年10%前後伸びてきたことも無視できない。こうした効用は新しい制度でもぜひ引き継いでほしい。
 昨年の国会で廃案になった自立支援法改正案には、地域のグループホームで暮らす障害者への家賃補助、障害程度区分判定の改善、相談支援事業の拡充などが盛り込まれた。いずれも重要なものだ。新しい制度が13年8月までにできたとしても、施行までにさらに時間がかかることを考えれば、改正案に盛り込まれた改善点を実現しておくことも提案したい。与野党で合意できるはずだ。


◆自立支援法訴訟、大阪地裁で和解 【大阪】
(2010年04月21日 朝日新聞 朝刊 3社会 036)
 原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は「法の下の平等」を定めた憲法に違反するなどとして、大阪府内の障害者11人が国などに自己負担をなくすことなどを求めた訴訟は20日、大阪地裁(吉田徹裁判長)で和解が成立した。原告弁護団によると、全国14地裁で同様の訴訟が起きていたが、和解していないのは東京地裁だけになった。
 同法は2006年4月に施行され、国側は争う姿勢を示していたが、政権交代後、同法は廃止される方向になった。全国の原告・弁護団と国は今年1月、訴訟を終わらせ、13年8月までに新法をつくることなどで合意している。


◆自立支援法訴訟 すべて和解 原告団弁護士「障害者に負担おかしい」
(2010.04.21 読売新聞 東京夕刊 夕社会 13頁)
 ◆父の思い新た 
 福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は生存権を保障した憲法に反するとして、東京都内の障害者ら6人が国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟は21日、東京地裁(八木一洋裁判長)で和解が成立した。原告、被告双方は、同法廃止などを盛り込んだ1月の基本合意を確認、原告が金銭の請求を放棄した。
 和解に先立って開かれた口頭弁論では、原告の男性(38)が意見陳述に立ち、「裁判は終わりを迎えるが、引き続き、基本合意などの完全実施に向けて運動を強めたい」と述べた。
 同法を巡る訴訟は2008年10月以降、障害者ら71人が全国14地裁に起こしたが、基本合意を受けて3月から順次和解し、この日ですべての訴訟が終わった。今後は、同法廃止後の新法作りが焦点となる。
     ◇
 「障害を自己責任として負担を強いる社会を子供には残せない」。藤岡毅(つよし)弁護士(47)は2008年10月の提訴以来、そんな思いを抱きながら弁護団の事務局長を務めてきた。
 障害を持つ子の介護を苦にした殺人事件の模擬裁判を傍聴したことをきっかけに、学生時代から障害者問題に取り組んできた藤岡さん。妻の邦子さん(42)も、障害者のためのボランティア活動を続けてきた。
 次男の駿人(はやと)君(12)に知的障害があることが分かったのは2歳の時。東京都内の特別支援学校に通う今は、本や歌が大好きで、藤岡さんとかるた遊びをする時は、生き生きとした表情で、どんどんかるたを取っていく。ただ、一人で食事をしたり、トイレに行ったりすることは難しく、下校時などに週3回程度、ヘルパーが付き添うサービスを利用している。
 自己負担額は月平均約7300円。「日常生活を送る上で不可欠な『移動』に対し、健常者が払わずに済む負担を強いるのは、障害を理由にした差別ではないだろうか」。それは藤岡さんだけでなく、原告全員の思いだった。
 和解が成立した21日、藤岡さん夫妻と駿人君は他の原告らとともに、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見に臨んだ。
 邦子さんは涙を浮かべながら、「本当にうれしい。でも、これからだと思うので、ますますの応援をお願いします」と語り、藤岡さんも感慨深げに語った。
 「今後に向けて相当大きなものを獲得できたと思う」
 ◇新法制定へ検討本格化 
 2006年4月に施行された障害者自立支援法に代わる新法については13年度の施行に向け、今月27日から内閣府の「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会で本格的な検討が始まる。
 障害者自立支援法では、福祉サービスの利用増大による財源不足を背景に、利用料の1割を自己負担する制度が導入されたが、低所得者層を中心に福祉作業所の利用を控えるといった弊害が生まれた。
 このため今年1月の国側と原告側の訴訟終結に向けた合意文書には、新法制定の議論に障害者側が参画することが盛り込まれ、総合福祉部会はメンバー56人(1人未定)のうち、福祉作業所をはじめとするサービス提供事業者や障害者団体など障害者側が39人を占めた。このメンバーで障害者の自己負担のあり方や財源確保の問題についても議論する。
 厚生労働省も、今年度から低所得者層の自己負担をゼロとするなど新法制定までの負担軽減策を開始。サービスの利用を控えていた障害者のうち6割が利用を再開したと推計されており、厚労省は「今後も新法制定までの間、対策を継続していく」としている。
 

◆障害者自立支援法:「机上の空論作らぬ」定期協議で厚労相
(2010年4月21日 20時52分(最終更新 4月21日 21時15分)毎日新聞)
http://mainichi.jp/life/health/news/20100422k0000m040073000c.html
 東京地裁で21日、障害者自立支援法違憲訴訟が和解し、集団訴訟がすべて終結したのを受け、同日午後、原告側と政府の「基本合意」の進展を検証する初の定期協議が開かれた。この後、首相官邸を訪れた原告側と面会した鳩山由紀夫首相は「自立支援法でご迷惑をかけて申し訳ない。新しい法律を作り上げる願いを皆さまと共有している」とあいさつした。【野倉恵】
 基本合意は▽同法を廃止し13年8月までに新制度を実施し、策定に障害者が参画▽制度の谷間を作らないための障害範囲見直し▽低所得者の医療費負担を当面の重要課題とする−−などの内容。定期協議で長妻昭厚生労働相は「机上の空論で政策を作らず、現状をつぶさに把握したい」と述べた。
 原告だった秋保喜美子さん(広島県)や家平悟さん(東京都)らは▽応益負担の速やかな廃止▽利用実績に基づく日払い制度で減った施設の報酬を、月払い制度に戻す▽地方分権推進でサービスの地域差を拡大させない−−など10項目を求めた。政府側は「検討する」(山井和則政務官)などと答えるにとどまった。
 今後の新法制定は、財源など課題が山積する。支払い能力に応じた負担とする方向で▽現行の障害程度区分見直し▽難病や発達障害、高次脳機能障害など範囲見直し、などが焦点。低所得者の医療費無料化(財源約200億円)も不透明だ。協議の場となる政府の「障がい者制度改革推進会議」は専門部会を今月下旬、発足させる。
 官邸では、脳性小児まひの和歌山市、大谷真之さん(35)が「障害者の多くが生きるか死ぬかの思いをした。一人一人が夢と希望を持って暮らしたい」と述べた。鳩山首相は床にひざをつき、約60人と懇談した。
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◆障害者自立支援法訴訟:訴訟終結 東京地裁で和解が成立
(2010.04.21 毎日新聞 東京夕刊 8頁 社会面)
 福祉サービスを利用する障害者に費用の原則1割負担を課す障害者自立支援法は、憲法で保障された生存権を侵害しているとして、東京都内の障害者ら6人が国に負担廃止などを求めた訴訟は21日、東京地裁(八木一洋裁判長)で和解が成立した。同法を巡る訴訟は全国14地裁で争われたが、13件は既に和解。最初の一斉提訴(08年10月)から約1年半で、計71人が訴えた一連の訴訟は終結した。【和田武士】
 この日の法廷では原告の家平悟さん(38)=板橋区=が意見陳述。「裁判は終わるが、私たち原告は新法づくりに向けた運動を強めていく」と決意を表明した。
 06年に支援法と改正児童福祉法が施行され、障害が重いほど負担が増す「応益負担」が導入されたことに障害者らが反発。09年9月に長妻昭厚生労働相が廃止を表明し、国と原告側は1月、新法制定で基本合意した。
 国は今月から、支援法廃止までの間の措置として、市町村民税非課税の障害者らについて、支援法や児童福祉法による福祉サービスなどを無料化した。
 和解条項は、国が▽速やかに応益負担を廃止し13年8月までに新制度を制定する▽拙速に制度を施行して障害者の尊厳を深く傷つけたことに心から反省の意を表明する――とした基本合意を確認する内容。
 ◇「結実の記念日」−−弁護団長
 閉廷後、原告やその家族らと記者会見した全国弁護団長の竹下義樹弁護士は「一つの願いが結実した重大な記念日」と原告・弁護団や支援者らをねぎらい「(新法制定に向け)今日から新たにスタートする」と決意を語った。原告側は21日午後、基本合意事項の履行状況などを確認する国側との定期協議の初会合に臨む。
 ◇「訴えたかいあった」−−児福法唯一の原告・深沢さん
 東京地裁で21日に和解が成立した障害者自立支援法違憲訴訟。原告の深沢直子さん(43)=東京都三鷹市=は全国でただ一人、児童福祉法の「応益負担」廃止を訴えた。児福法に基づく重症心身障害児施設に入所しているためだ。国は当面は「市町村民税非課税者は児童福祉法による障害福祉サービスを無料とする」と約束した。「原告になったかいがあった」。母智子さん(72)は娘にほほ笑みかけた。
 直子さんは重度の知的障害と肢体不自由が重複している。生後間もなく受けた手術が原因だ。車いすで生活し、言葉を話すことも難しい。現在は、重症心身障害児施設の都立東大和療育センター(東大和市)に入所している。
 06年10月の改正児童福祉法施行で、センターのような児福法に基づく施設の入所者も応益負担を求められ、利用料は原則1割の定率負担となった。直子さんの自己負担は月額3万4100円から1万3000円以上の増額となった。収入は年間約99万円の障害基礎年金しかなく、蓄えも難しくなった。
 「行政訴訟なんて勝ち目はない」。周囲に言われたが、09年10月の3次提訴で原告に加わった。智子さんは娘に代わって法廷で意見陳述し「障害は本人や家族の責任ではない。福祉を『私益』として障害のある人に負担を強いるのは誤り」と力を込めて訴えた。
 重症心身障害児施設の入所者は08年10月現在で1万1827人。全国弁護団事務局長の藤岡毅弁護士は「彼女の訴えがなければ、問題は見過ごされていた」と言う。
 新制度に向けた議論は、障害者や家族も加わった政府の「障がい者制度改革推進会議」で本格化する。「きちんとした制度ができない限り、安心できない」。21日の訴訟終結が、深沢さん親子にとって新たな出発点になる。【和田武士、写真も】


◆障害者自立支援法訴訟:大阪地裁でも和解 /大阪
(2010.04.21 毎日新聞 地方版/大阪)
 障害者に対して負担を求めた障害者自立支援法は違憲として、府内の原告障害者11人が国に負担廃止などを求めた訴訟は20日、大阪地裁(吉田徹裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で起こされた訴訟のうち13例目の和解で、21日の東京地裁ですべての訴訟が和解する予定。
 訴訟を巡っては、今年1月に原告側と国が同法を廃止して新法を制定することで基本合意している。この日は原告本人が意見陳述した後、吉田裁判長が基本合意に基づく、和解条項を読み上げた。
 最後に吉田裁判長が「和解が双方にとって意義があるよう願っています」と締めくくると、傍聴席から拍手が上がった。【日野行介】


◆大和路密着:障害者自立支援法訴訟で和解 施設スタッフ・研修に励む小山さん /奈良
(2010.04.21 毎日新聞 地方版/奈良 27頁)
 ◇試練越え「やる気、責任感」
 障害者自立支援法で定める原則1割負担は違憲だとして、国と奈良市に負担廃止などを求めた訴訟で和解した同市の小山冨士夫さん(53)が、これまで利用者として通っていた福祉施設のスタッフを目指し、研修に励んでいる。小山さんには知的障害があるが、訴訟を通じて精神的に強くなり、スタッフとして働けると判断された。訴訟を経て新たな挑戦に踏み出した小山さんを追った。【高瀬浩平】
 小山さんは、奈良市古市町の福祉施設「コミュニティワークこッから」で約8年間、牛乳パックを再利用して紙すきで名刺やはがきを作る仕事を続けてきた。紙の表面を滑らかにし、厚さを薄くする高い技術を習得。自治体職員や医療関係者らから多くの注文が入り、やりがいを感じていた。
 ところが06年4月に施行された同法で、障害者が福祉サービス利用料を原則1割負担(応益負担)することが規定された。小山さんの賃金は月額約1万3000円。そこから、施設利用料とヘルパー代約3000円、さらに食費約4000円を負担することになった。施設を辞める仲間も出てきた。「障害者だけが働くためにお金を払わなくてはいけないというのはおかしい」と、昨年4月に違憲訴訟の原告になった。
 小山さんは意見陳述の原稿を何度も書き直し、奈良地裁の証言台に立った。口頭弁論では、県内の障害者や支援者たちが傍聴席を埋め、手話通訳者も入った。法廷の外でも、県内外の福祉施設を回り、支援を訴えた。和解が成立した3月29日の口頭弁論では、最終意見陳述で「いろいろな人が支えてくれて、ここまで来られた」と述べた。
 ◇「仲間と一緒に」
 小山さんは、4月から「こッから」で、指導員の助手になるため、重度の知的障害がある利用者らをサポートする研修を受けている。同じ障害を持つ仲間として、利用者の思いをくみ取りながら行動する「ピアサポーター」の役割を期待されているが、小山さんは「リーダーというより、仲間と一緒にいたい」と自然体だ。
 施設を運営する社会福祉法人「こぶしの会」理事長の藤井正紀さん(68)は「小山さんは訴訟を支援してもらったことを感謝し、やる気と責任感を持てるようになった。今後もスタッフの一人として成長してほしい」と期待している。

◆「障害者自立法」で和解
(2010.04.20 読売新聞 大阪夕刊 夕2社 10頁)
 福祉サービスを利用する障害者に原則1割の料金負担を求める障害者自立支援法は、憲法が保障する生存権を侵害しているとして、大阪府内の障害者11人が国などに負担の取り消しなどを求めた訴訟は20日、大阪地裁(吉田徹裁判長)で和解が成立した。
 和解内容は〈1〉同法を廃止し、2013年8月までに新たな総合的福祉制度を定める〈2〉国は障害者らに混乱を招いたことに反省の意を表明する――など。


◆【社説】障害者自立支援 権利と尊厳を守り抜け
(2010年4月19日 東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2010041902000083.html
 障害者自立支援法をめぐる違憲訴訟は、全国で和解が相次いでいる。国が支援法廃止を確約したからだ。取って代わる障害福祉法制も、国のご都合主義で障害者の権利と尊厳を脅かすようでは困る。
 四年前に施行された障害者自立支援法は、国の財政難を背景に福祉サービス利用料の一割負担を求めた。だが、障害が重いほど負担がのしかかる仕組みは、とりわけ低所得層の反発を買った。その怒りと悲しみは二〇〇八年十月以降、全国十四地裁での違憲訴訟にまで発展した。
 障害者が住み慣れたまちで、学んだり、働いたりしながら安心して暮らす。そのためには介護や訓練、治療といったサポートが不可欠だ。国はどこまでその責任を負うべきか。違憲訴訟は、障害者福祉制度が直面するそうした根本問題を見つめ直す契機になった。
 厚生労働省によれば、支援法施行前後を比べると、障害者(身体、知的、子ども)の九割近くで毎月の負担額が平均八千五百円余り増えていた。さらに、五割以上で、福祉施設で働いて得た工賃が施設に支払う負担額を下回った。その差額は平均七千円余りに上ったというから深刻だ。
 これでは障害者の自立を促すどころか、足を引っ張るようなものだ。障害者が司法の場に救いを求めたのもうなずける。
 政権交代を受けて国は一月、支援法を撤廃して新しい福祉施策を導入することを違憲訴訟の原告らに約束した。その代わり、原告らは今月二十一日、東京地裁での和解を最後に訴訟を終結させる。
 国は百七億円を手当てして、まずは低所得層の一割負担を本年度から停止した。だが、原告らが勝ち取ったといえる約束事全体から見れば当座しのぎにすぎない。
 衣食住をはじめ、教育でも就労でも、大多数の健常者がつくり上げた社会の仕組みに合わせて生きることを、障害者は強いられてきた。実はそれが障害者が歩んできた歴史だった。
 三年前に日本が調印した障害者権利条約は、そんな社会こそ変わるべきだとする。バリアフリーや手話通訳、点字翻訳、ガイドヘルパーなどの支援を社会が進んで提供するよう求めている。
 国はそうした理念に基づく障害者福祉の仕組みを実現してほしい。政策論議には障害当事者も加わっている。絶好の機会だが、責任も重大だ。障害者が暮らしやすい社会は、健常者も暮らしやすいことを忘れてはならない。


◆鳩山政権の通信簿:マニフェスト検証 7カ月目(その3止) 実行度一覧
(2010.04.19 毎日新聞 東京朝刊 15頁 特集面)
 □参院定数減 初期←未着手
 ◇「公約で数字出す」
 参院選を控え、民主党では参院改革論議も始まった。公約の「衆院の比例定数80削減」は手付かずのままだが、「衆院に準じて削減する」とした参院が先行する形となり、「無駄削減」の姿勢をアピールしたい狙いだ。
 民主党の高嶋良充参院幹事長は6日の記者会見で13年の参院選適用を念頭に今夏の参院選マニフェストで参院定数削減の「数字を出す」と述べた。党内に設置した「選挙制度のあり方に関する検討委員会」で検討する。
 また、参院選関連ではインターネットを利用した選挙運動ができるようにする公職選挙法改正案を巡り、与野党の参院政策担当者が16日会談した。今国会に共同提案し、今夏の参院選からの解禁を目指す方針だ。
 □教員の増員 達成←後期
 ◇教委改革は進まず
 「すべての人に質の高い教育を提供する」と掲げた学校教育現場の改善。具体策7項目のうち、10年度予算成立を受けて2項目が達成されたが、教育委員会制度や公立小中学校の運営の見直しは進んでいない。
 「教員の増員」については、公立小中学校の教職員定数4200人増。子どもの数の自然減を踏まえると300人の純増で、純増は03年度以来7年ぶり。「コミュニケーション拠点の充実」も予算成立で進む。ただ、概算要求では拠点校・拠点地域の指定などに1億円を計上したが、予算では1000万円にとどまった。また、生活相談などを行うスクールカウンセラーも配置が拡充されるが、「全小中学校への配置」の目標は達成されていない。
 □自立法廃止 初期→
 ◇13年までに新制度
 障害者自立支援法を巡っては今年1月、違憲訴訟の原告団、弁護団と長妻昭厚生労働相の3者が同法廃止で基本合意している。政府が「心からの反省」を表明、廃止後、13年8月までに新制度を策定する。
 同法は福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を求めている。障害者らは「生存権の侵害」として全国14地裁で71人が提訴。各地で和解が成立し、21日の東京地裁ですべての訴訟が和解する予定。
 鳩山政権はサービスの利用量に応じた「応益負担」ではなく、所得に応じた「応能負担」とする新法制定を掲げている。厚労省は現行法の負担軽減措置を取るため、来年の通常国会で改正案の提出を検討している。
 □食の安全 初期← 未着手
 ◇「庁」設置を検討へ
 政府は3月30日、今後10年の農業政策を示す「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。食料自給率を現在の41%から20年度までに50%に引き上げる目標を設定。戸別所得補償導入で小規模農家の意欲を促進する。
 この中で「米穀以外の飲食料品についてのトレーサビリティー(生産履歴の追跡可能性)制度の検討に加え、加工食品の原料原産地表示の義務付けを着実に拡大する」と明記。輸入検疫体制の強化もうたった。
 また、リスク管理を一元化する「食品安全庁」設置も検討するとし、これは今後5年の消費者政策を示す「消費者基本計画」にも盛り込まれた。マニフェストに掲げた「食の安全」の具体化が始まることになった。
 □NPO法人 中期←初期
 ◇「税額控除」を導入
 鳩山由紀夫首相が掲げる「新しい公共」の担い手となるNPO法人(特定非営利活動法人)について、政府税制調査会は8日の会合で、税制優遇を拡充することを決めた。NPO法人への寄付の税額控除を導入する。
 首相は9日の「新しい公共」円卓会議で、所得税の税額控除の割合を50%とする考えを示した。限度額は所得税額の25%とする方針で、寄付金は実質半額で済む計算になる。年末の11年度税制改正論議で詳細を詰める。
 寄付税制拡充はマニフェストに盛り込まれている。市民公益税制プロジェクトチームが8日に中間報告をまとめた。低所得者にもメリットがある税額控除を導入することで「草の根」寄付を促進する狙いがある。
 □消費者救済 初期←未着手
 ◇夏めどに論点整理
 政府は3月30日、10年度から5年間の「消費者基本計画」を閣議決定した。消費者被害救済策として「消費者に被害を生じさせた加害者の不当な収益をはく奪し、被害者を救済するための制度」創設を検討するとした。
 財産被害は消費生活相談の過半を占めるとされ、具体的には消費者団体による損害賠償等団体訴訟制度、課徴金制度の活用などを検討する。今夏をめどに論点整理し、11年夏をめどに結論を出すことにしている。
 基本計画では具体的施策として171項目を挙げたが、マニフェストに示された、消費者に危害を及ぼすおそれのある製品の情報公開を企業に義務付ける「危険情報公表法」の制定について言及はなかった。
 □消費税 初期→
 ◇改革議論が活発化
 政府税制調査会は14日、有識者らによる専門家委員会を開き、消費税改革の議論に本格的に乗り出した。厳しい財政状況の中でマニフェスト政策実現を目指す鳩山政権内では消費税の議論が活発化している。
 菅直人副総理兼財務相、仙谷由人国家戦略担当相らは消費税増税論議に前向きだが、参院選を控える民主党の小沢一郎幹事長は消費税論議を封印した09年衆院選マニフェストの基本は見直さないと表明した。
 鳩山首相は15日、記者団に「無駄を徹底的に排除するまで、消費税を上げる議論は国民に納得してもらえない。徹底的に歳出削減に努める気持ちは一切変わっていない」と述べ、歳出削減を優先させる立場を強調した。

 ◇マニフェスト実行度一覧表の読み方
 <実行中>
 初期=具体的な検討や議論に着手、予算の要求、当面の期限を区切った実施表明など達成の初期段階にある政策
 中期=法案の策定や提出、予算措置など達成過程の中間段階にある政策
 後期=法案などの審議が継続され達成に向け大詰めを迎えている政策
 達成=法案などが成立したり、実施した政策
 <未着手>
 具体的な検討や論議に入っていない政策。省庁や政党での内部的検討にとどまり、公表や表面化していないなど実行度を評価できない政策も原則として「未着手」に含めた
 <難易度>
 調整=マニフェストに限らず公約を修正した政策。喫緊の課題や時期的な明示をしながら当面判断を見送った政策も含む
 後退=修正にとどまらず、公約内容や目標時期を大幅に後退させるなどした政策
 困難=修正などを経てなお政府内や与野党間で行き詰まっている政策など
 違反=長期間にわたって具体的な検討を見送ったり、実施を断念するなどして公約に明確に違反した政策
 ※実行度一覧表は及川正也、佐々木雅裕が担当しました。インターネット版は毎日jpの「鳩山政権の通信簿」(http://mainichi.jp/select/seiji/indicator/)でご覧ください。


◆障害者自立支援法訴訟、3件和解 福岡・岡山・盛岡
(2010年04月17日 朝刊 3社会 033)
 障害者の福祉サービスの利用料に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、各地で障害者らが国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟が16日、福岡、岡山、盛岡の3地裁で和解した。これで全国14地裁で計71人の障害者らが起こした訴訟14件のうち東京、大阪を除く12件が終結した。


◆障害者サービス、4割が利用せず 厚労省調査
(2010年04月17日 朝日新聞 朝刊 政策総合 006)
 障害者自立支援法の施行に伴い負担増を理由に施設を出た人のうち、現在も障害福祉サービスを利用していない人が4割近くいることが、厚生労働省が16日に公表した調査結果で明らかになった。2006年4月施行の同法は、障害福祉サービスを受ける利用者に原則1割の自己負担を求めるもので、13年8月までの廃止が決まっている。
 厚労省は、同法の施行による負担増を理由に全国の入所施設や通所施設を退所した1172人を対象に調べた。


◆支援者らも安堵 障害者自立支援で和解 盛岡地裁/岩手県
(2010年04月17日 朝日新聞 朝刊 岩手全県・1地方 029)
 福祉サービスの利用料を原則1割負担とする障害者自立支援法は違憲だとして、藤沢町の施設に入所する佐々木亮さん(39)が国や自治体に負担取り消しなどを求めた訴訟が、16日に盛岡地裁で和解が成立したことで、支援者らには安堵(あんど)の表情が広がった。
 この日は田中寿生裁判長が和解条項を読み上げた後、原告の父直人さん(77)が法廷に立ち、「親たちは親亡き後のことを不安に思い、親より先に死んでくれればとさえ思っている。どんな障害があっても安心して暮らせる社会の実現を期待する」と述べた。
 原告の亮さんは1歳の時に脳性まひと診断され、重度の言語障害がある。月々の収入は障害基礎年金の約8万円で、藤沢町の知的障害者更生施設で作業し、年額で約6千円を得ている。
 それまでは所得に応じた負担だったのが、利用額の「1割」を負担することになったため、月約8千円の施設利用料を支払った上に、食費や光熱費として月3万〜5万円を負担することになった。「基礎年金だけで賄えず、支援法は自立が目的といえない」と2009年4月、国と奥州市を相手に利用料約30万円の返還などを求めて提訴した。
 国側は政権交代後に支援法廃止を明言。今年1月、13年までに支援法を廃止して新法を制定することを盛り込み、基本合意した。
 和解成立後、支援者らが盛岡市内に集まり、代理人らから裁判の報告を聞いた。原告代理人の小笠原基也弁護士は「和解は終わりではなく、始まりの一歩。どういう制度をつくるか意見を述べていかなければいけない」と話した。


◆和解、次は障害者新法 自立支援法原告、決意新た 福岡地裁 /福岡県
(2010年04月17日 朝日新聞 朝刊 筑豊・1地方 031)
 障害者への自己負担を定めた障害者自立支援法は違憲だとして、国などに負担取り消しを求めて福岡地裁に提訴していた原告らは、16日の和解成立を受け、「勝利的和解だ」と喜んだ。同時に、今後制定を目指す新法が、実態に配慮した内容になるよう訴え続ける決意を新たにした。
 この日は盛岡、岡山両地裁でも和解し、和解が成立したのは全国12地裁となった。福岡地裁には、田川市の授産施設などに通う男性3人が提訴していた。
 福智町の平島龍磨さん(42)は施設の工賃で月約9千円の収入を得ていたが、支援法で1500円の利用料と6千数百円の給食費の負担が新たに増えたという。和解後、「これで終わったわけではない。新法づくりをこれから応援してほしい」。車いすで出廷した糸田町の山下裕幸さん(29)は「なぜ障害者が負担するのか、怒りを感じていた」と語った。


◆「喜びと誇り感じる」 障害者自立支援法訴訟、和解で報告会 岡山 /岡山県
(2010年04月17日 朝日新聞 朝刊 岡山全県・1地方 027)
 福祉サービスの利用料に原則1割負担を課す障害者自立支援法の違憲性が問われた集団訴訟で16日、全国12例目となる和解が岡山地裁で成立した。原告側は和解に喜ぶ一方、新しい制度などへの期待と不安が絡み合う複雑な思いも見せた。
 訴えていたのは美咲町原田の清水博さん(61)。脳性まひによる車いす生活を送っている。清水さんは2009年8月に国と町を相手取り、06年の同法施行後に自己負担した利用料と慰謝料など計約14万7千円を賠償するよう求めて提訴した。
 同様の訴えは全国14地裁で起こされ、当初国は争っていたが、昨年の政権交代で方針を転換し、今年1月には全国原告団と国が13年8月までに同法を廃止することで合意した。全国で順次和解が成立しており、21日の東京地裁で終結する予定だ。
 この日の口頭弁論で、清水さんは「障害者の生活は自立支援法でぎりぎり以下まで追いつめられた。国と自治体が基本合意を守るかどうか十分監視しなければならない」と意見陳述した。
 山口浩司裁判長は「国が訴訟の趣旨を理解し、障害のある当事者が安心して暮らせる障害福祉施策にするために最善を尽くすことを約束した」と和解条項を読み上げた。
 和解成立後、約80人が集まった報告会で清水さんは「喜びと誇りを感じる」と話し、笑顔をみせた。記者会見では国に対して「障害者が安心して暮らしていける総合的福祉法制を作って欲しい」と望む一方で「(利用額の原則1割を負担する)『応益負担』をなくす約束はしたが、(「完全履行」するのかどうかや新制度がどうなるのか)大きな不安がある」と述べた。(平井恵美)


◆自立支援法訴訟、岡山なども和解 【大阪】
(2010年04月17日 朝日新聞 朝刊 3社会 033)
 障害者の福祉サービスの利用料に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、各地で障害者らが国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟が16日、福岡、岡山、盛岡の3地裁で和解した。これで全国14地裁で計71人の障害者らが起こした訴訟14件のうち東京、大阪を除く12件が終結した。
 訴訟は、障害者自立支援法が憲法で定める生存権の侵害などにあたるとして障害者らが提訴した。昨年の政権交代後、鳩山政権は同法廃止の方針を決定。全国の原告・弁護団と国は訴訟を終結し、2013年8月までに新法を作ることで今年1月に合意した。
 岡山地裁では、同法施行後に自己負担した利用料と慰謝料など計約14万7千円を求めていた岡山県美咲町の清水博さん(61)と国との和解が成立した。清水さんは口頭弁論で、「国として責任をもって実施してほしい」と述べた。


◆障害者自立支援法訴訟が和解 原告側「安心な暮らしを」=岩手
(2010.04.17 読売新聞 東京朝刊 岩手 31頁)
 障害者自立支援法による福祉サービス利用料の自己負担の取り消しなどを求めて、全国14地裁で原告計71人が国などを相手取った行政訴訟のうち、県内で藤沢町新沼の佐々木亮さん(39)が起こしていた訴訟は16日、盛岡地裁(田中寿生裁判長)で第3回口頭弁論が行われ、和解が成立した。和解は全国で11例目。
 田中裁判長が、和解条項を朗読するのに先立ち、原告側の佐々木良博弁護士が「十分な調査や意見聴取もなく成立した障害者自立支援法は、障害者の人間としての尊厳を破壊した」と改めて国を批判した。
 原告の父直人さん(77)は意見陳述で「国が合意を守り、障害者が安心して暮らせる社会となるように期待する」と述べた。
 終了後、直人さんらは、盛岡市内丸の県公会堂で支援者約40人を集め、報告会を開き、直人さんが支援者たちに感謝の言葉を述べると、支援者からは大きな拍手が起こった。
 息子がダウン症という同市緑が丘の高橋靖枝さん(65)は「和解は、私と息子にとって大きな励みになった」と感激していた。


◆障害者自立支援法違憲訴訟3人和解 「安心して暮らせる社会を」=福岡
(2010.04.17 読売新聞 西部朝刊 二福岡 26頁)
 ◇原告ら歓迎 
 障害者に福祉サービス利用料の自己負担を求める障害者自立支援法は違憲として、県内の障害者3人が国などを相手取り、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟で和解が成立した16日、原告らは「勝利的な和解だ」と歓迎する一方、同法に代わる新法の制定に向け「どういう障害があろうと安心して生きていける社会を実現してほしい」と訴えた。
 「この子を置いて死ぬわけにはいなかい。こんな思いをしなくていいようにしてください」
 原告の一人で、福岡市東区の敷島祐篤(よしずみ)さん(20)の母・篤子さん(52)はこの日、福岡地裁で行われた口頭弁論で、国側代理人に向けて強い口調で意見を述べた。
 知的障害と身体障害がある祐篤さんは18歳の頃から週5日、障害福祉サービス事業所「工房まる」(福岡市南区)に通い、ほかにもショートステイなどを利用している。福岡市に自己負担の全額免除を求めたが、市側は一部の免除しか認めなかったため、昨年10月に提訴した。
 施設利用料や昼食代などの自己負担額は月1万円を超え、工房で得られる月約5000円の工賃を大幅に上回る。今月から利用料の自己負担分は免除になるが、篤子さんは「障害者が安心して暮らせる社会に到達したわけではない」と不安を隠さない。
 全国原告団と長妻厚生労働相が今年1月に締結した基本合意には、自立支援法に代わる新たな総合的福祉制度を2013年8月までに定めることが盛り込まれた。篤子さんは「よし(祐篤さん)が独りぼっちにならない社会になってほしい。そういう社会にするための新法を作ってほしい」と語った。
 福岡地裁をはじめ全国14地裁に71人が提訴した同法を巡る訴訟は、各地で和解が進んでおり、今月21日の東京地裁ですべてが終結する。〈代表県版採録〉 
 
 
◆障害者自立支援法集団訴訟 美咲の男性、地裁で和解 全国12件目=岡山
(2010.04.17 読売新聞 大阪朝刊 岡山 28頁)
 障害者自立支援法の違憲性を問い、全国14地裁で71人が起こした集団訴訟のうち、美咲町の清水博さん(61)が国と町に自己負担額の取り消しや慰謝料など約14万7000円の支払いを求めていた訴訟は16日、地裁(山口浩司裁判長)で和解が成立した。
 長妻厚生労働相と原告側が今年1月、同法廃止などを盛り込んだ基本合意書を交わしたことを受けた和解で、全国12件目となった。原告側は請求を放棄する。
 この日の弁論で、光成卓明弁護団長が「自立支援法に対して戦い続けてきたからこそ、基本合意と和解が実現した。和解は全面的な勝利」と陳述。清水さんは「障害者の声をよく聞いて制度設計してほしい」と訴えた。その後、山口裁判長が基本合意文書確認などを示した和解条項を読み上げた。
 清水さんは幼児期の脳性まひによって手足が不自由となり、車いすで生活。訴訟を通じ、2006年施行の同法で介護や車いすの修理などの費用の1割が自己負担となり、生活が圧迫されていると訴えていた。
 裁判後の報告集会などで清水さんは「(負担のために)月に1回もできなかった散髪や、岡山後楽園での花見にも行ける」と喜ぶ一方、「全て解決された訳ではない。基本合意実現に向けてさらなる支援を」と呼びかけていた。
 

◆障害者自立支援法訴訟:盛岡地裁でも和解−−11例目 /岩手
(2010.04.17 毎日新聞 地方版/岩手 23頁)
 障害者自立支援法の応益負担は障害者の生存権を侵害し違憲だとして、重度の知的障害のある藤沢町の佐々木亮さん(39)が、国と以前住んでいた奥州市に、負担廃止などを求めた訴訟は16日、盛岡地裁(田中寿生裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で起こされた訴訟のうち、11例目。21日の東京地裁で全国すべての訴訟が和解する予定。【宮崎隆】
 田中裁判長は、速やかに応益負担制度を廃止し、新制度を作るなどとした、今年1月の原告と国の基本合意文書に基づく和解条項を読み上げた。そのうえで「国が今後の障害福祉施策で、障害のある当時者が社会の対等な一員として暮らせるよう、最善を尽くすと約束した」と述べた。
 佐々木さんの父、直人さん(77)は、和解条項の読み上げ後、意見陳述し、「基本合意の約束を国が誠実に果たしてくれるよう、全国の障害者やその家族らとともに努力を続けていきたい」と話した。
  ◇「人間らしく生きる制度を」
 和解成立後、支援団体が地裁近くの県公会堂(盛岡市内丸)で報告集会を開いた。和解成立を喜ぶ一方、今後、新団体を作って国との合意実現を目指す活動を行うことで合意した。
 集会には、約50人の支援者が参加した。原告の佐々木亮さんの父、直人さんは感謝を述べつつ、「ここからがスタート。実際にどのような制度を作っていくかがこれからの課題だ」と呼びかけた。
 06年4月に障害者自立支援法が施行された後、亮さんは入所施設に、それまで不要だった利用料や食事代など毎月約5〜6万円を、障害者年金(月額8万3000円)から支払うことになった。年金で暮らす両親の援助無しには、生活していけなかった。
 直人さんは「私たちがいなくなった後、人間らしい生活を続けられる新制度を作らなくてはならない」と強調した。


◆究・求・救・Q:障害者自立支援法訴訟 原告と国が和解 /岡山
(2010.04.17 毎日新聞 地方版/岡山 23頁)
 ◇基本合意受け、原告取り下げ 安心して暮らせる制度望む
 障害者自立支援法が定める福祉サービス利用料の1割負担は障害者の生存権侵害にあたるなどとして、美咲町原田、清水博さん(61)が国と同町に負担廃止を求めた訴訟は16日、岡山地裁(山口浩司裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴し、和解成立は全国で12番目。清水さんは法廷で「障害者の苦しみは本人しかわからない。障害者の声をよく聞いて制度をつくってほしい」と訴えた。【石井尚】
 和解内容は、今年1月7日に原告側と国が交わした基本合意に沿って国は、収入に関係なく原則1割を負担する「応益負担」を廃止し、新制度を作るとしたもので、原告側が訴えを取り下げた。
 この日の口頭弁論では、清水さんは「受けられるサービスが抑制され、普段の生活が圧迫され、将来の不安が大きくなった」と提訴に至った心境を語り、1月に国との間で締結された基本合意文書について「応益負担という言葉が残る以上、基本合意が守られるか、しっかり監視しないといけない」と述べた。また原告代理人の光成卓明弁護士は「国が制度の改正を約束するなど目的は達成された」と話した。
 会見した清水さんとほっとした表情で「個人的には大変うれしい」と笑顔を浮かべ、「私は県内約15万人の障害者を代表して裁判を争ったがまだすべての人が無料になっていない。毎日安心して暮らしていける制度を望む」と語った。
 ◇国が約束を…まだ不安も
 「楽しみだった年1回の旅行にも行けず、花見もできなかった」。法律が施行された後の負担は大きく、清水さんは切実に語った。ヘルパーに頼る福祉サービスの利用料が1割負担となり生活は圧迫された。
 清水さんは脳性まひで歩行が困難な肢体不自由の障害を持ち、車いすが生活に欠かせない。障害を持つ妻と2人暮らしで、2人の障害基礎年金約16万円で1カ月を過ごす。日常生活に家事援助等のヘルパーが必要で、利用料に毎月約4000円を支払った。
 最も苦しかったのは車いすの修理費用だ。分割払いは認められず、一度に約2万円を引かれ、その月は食費を切り詰めた。「精神的にも追い詰められていた」と語った。
 基本合意の後、今月から福祉サービスの1割負担は免除となった。清水さんは「歴史を変えた坂本龍馬が好き」といい「新婚旅行で旅した高知に行きたい。龍馬ブームでもありますし」と話した。
 国は障がい者制度改革推進会議を定期的に開き、13年8月までに障害者の意見を聞きながら新制度を作る方針。清水さんは、同会議の動きを見守る決意だ。清水さんは「障害者のための制度になるか、まだ不安がある。国が約束を守るか、しっかり見守る」と話した。


◆障害者自立支援法訴訟:福岡訴訟和解 障害者、新法に不安
(2010.04.17 毎日新聞 西部朝刊 24頁)
 福祉サービスを利用する障害者に費用の原則1割負担を求めた障害者自立支援法は違憲として、福岡県の原告3人が国などに負担廃止などを求めた訴訟は16日、福岡地裁で和解が成立した。国が13年8月までに新制度を制定することなどが条件。原告団は「障害者を取り巻く苦しい事情をもっと市民に知ってほしい」と語った。
 同県福智町の原告、平島龍磨さん(42)は授産施設で月9000円の工賃を得るが、支援法施行で約1500円の施設利用料と約6500円の給食費を払うことになった。「(和解で)施設利用料は4月から無料になるが、給食費は白紙。給食費も公費負担してもらえるよう訴えてゆきたい」と語った。「どんな新法が作られるのか何の確証もない」。福岡市の原告、敷島祐篤さん(20)の母、篤子さん(52)は息子の知的障害や心臓に抱える病を明かし窮状を法廷で陳述、「今のままでは子を置いて死ねない」と訴えた。【岸達也】


◆350万円を不適切経理 社団法人、全額を返還 県委託事業 /愛知県
(2010年04月16日 朝日新聞 朝刊 名古屋・1地方 027)
 県が障害者自立支援法に基づく支援事業を委託した中小企業診断協会愛知県支部(名古屋市中村区)が、経費を二重に計上するなど、不適切な会計処理をしていたことがわかった。県は3月上旬、2007、08年度の委託費計1650万円のうち、350万円を返還するよう要求。同支部は3月末に全額返還した。「会計処理上の単純なミス」と説明している。
 同協会は、中小企業診断士らで構成されており、企業経営について診断や助言を行う経済産業省所管の社団法人。今回の事業では、障害者の授産施設などの経営改善に向け、講師の派遣などを行っていたという。
 情報提供を受けた県が昨年12月以降、請求書などを調べたところ、納入されたことになっていたファイルなどの事務用品80万円分が確認できなかった。さらに、事務アルバイトの人件費270万円分を二重に計上していた。
 同支部は、経理を担当していた県職員OBの事務局長を辞任させた。県の調査に対し、「他の委託事業も請け負っており、間違って重ねて報告してしまった」と説明、事業報告書を訂正したという。


◆神戸地裁でも13人和解成立 障害者自立支援法訴訟 /兵庫県
(2010年04月16日 朝日新聞 朝刊 神戸・1地方 023)
 福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は生存権などを定めた憲法に違反するとして、県内の障害者13人が国や神戸市に対し自己負担をなくすことなどを求めた訴訟が15日、神戸地裁で和解した。全国の原告団と国は今年1月に訴訟の終結に合意。全国14地裁、71人の原告が訴えを起こしているが、神戸地裁での和解は9例目となる。
 国側は争う姿勢を続けてきた。しかし、政権交代後、長妻昭・厚生労働相が自立支援法の廃止を明らかにした。基本合意では、低所得の障害者の利用者負担を4月から無料にし、同法を2013年8月までに廃止して新たな法律を制定するとしている。
 この日の口頭弁論で、原告を代表して神戸市北区のマッサージ業吉田淳治さん(68)が意見陳述。「大切なのはこれから。国が基本合意の内容を誠実に実現しなければ意味がない」と訴えた。


◆「悪法廃止の突破口」 障害者自立支援法、広島訴訟でも和解 /広島県
(2010年04月16日 朝日新聞 朝刊 広島1・1地方 023)
 福祉サービスの利用に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は憲法違反だとして、広島、廿日市両市の男女3人が、県と両市に負担の取り消しなどを求めていた訴訟が15日、広島地裁(植屋伸一裁判長)で和解した。全国14地裁(原告71人)で起こされている集団訴訟で、8例目の和解となった。
 昨夏の政権交代で発足した鳩山政権が同法の廃止を決め、全国の原告・弁護団が1月、訴訟を終結させることで国側と合意していた。
 この日の口頭弁論では、原告の秋保和徳さん(58)=廿日市市=が「支援法は、障害者の尊厳を侵害した。訴訟は終結するが、すべての国民が『生きていて良かった』と思える福祉法を制定させることが重要」と意見陳述した。
 閉廷後、原告・弁護団は、広島市中区の広島弁護士会館で支援者への報告集会を開いた=写真。原告で秋保さんの妻、喜美子さん(60)は「悪法を廃止させる突破口を開くことができた。勝ち取った基本合意は宝物のようだ」と笑顔を見せた。広島市の森岡靖夫さん(71)は「基本合意が絵に描いた餅にならないよう、国の動きを注視していかないといけない」と気を引き締めていた。
 (小俣勇貴、村形勘樹)


◆県内8人も和解 障害者自立支援法訴訟 /滋賀県
(2010年04月16日 朝日新聞 朝刊 滋賀全県・1地方 023)
 福祉サービスの利用者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、県内の障害者8人が国などに負担の取り消しなどを求めていた訴訟は15日、大津地裁(石原稚也〈ちがや〉裁判長)で和解が成立した。原告らは「これが終わりではなくスタート。新しい法律がどのような中身になるのかチェックしていきたい」と決意を新たにした。
 同法をめぐっては、2008年10月から全国14地裁で71人が提訴した。国は当初争う姿勢を示していたが、昨年発足した鳩山政権は同法を廃止する方針を決定。今年1月には全国の原告・弁護団と厚生労働省が「応益負担(定率負担)制度を廃止し、新たな総合的な福祉法制を実施する」とする文書を交わし、訴訟の終結に合意。各地で順次、和解が成立している。
 この日の法廷では、和解に先立って原告側が約10分間のDVDを上映。原告が通う福祉施設の他の障害者らが同法廃止の方針を喜び、原告らに感謝する様子が映し出された。また、原告の母親らが意見陳述し「親や兄弟がいなくても障害を持った人が安心して暮らせるような新しい法をつくってほしい」と述べた。
 原告で知的障害がある近江八幡市中之庄町の中谷茂彰さん(47)は食事やトイレにも介助が必要で福祉施設に入所していたが、自立支援法の施行で一月あたりの負担額が6割増えた。母敏子さん(70)は「もう二度とこのような法律を作ってほしくない。国だけで新しい制度を決めるのではなく、障害者の話をしっかり聞いてほしい」と述べた。


◆福岡でも和解成立 障害者自立支援法訴訟 【西部】
(2010年04月16日 朝日新聞 夕刊 1社会 011)
 福祉サービスの利用に応じて障害者に原則1割の自己負担を定めた障害者自立支援法は違憲だとして、福岡県田川市の授産施設などに通う男性3人が国などに自己負担の取り消しを求めた訴訟は16日、福岡地裁(増田隆久裁判長)で和解が成立した。同法をめぐる集団訴訟の和解成立はこれで10例目。九州・山口では、福岡地裁だけに起こされていた。
 この訴訟は、同法が憲法で定める生存権の侵害などにあたるとして、全国14地裁に71人の障害者らが提訴。だが、昨年の政権交代後に国は同法廃止の方針を示した。
 このため、全国原告団と国は今年1月、訴訟を終結し、2013年8月までに新法をつくることで基本合意した。福岡訴訟でも合意に基づき、原告側と国側双方で和解する方針を申し合わせていた。
 この日は口頭弁論があり、増田裁判長が「国が訴訟の趣旨を理解し、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことができるよう約束した」などとする和解条項を読み上げた。
 原告らも法廷で意見陳述した。平島龍磨さん(42)=同県福智町=は「いい制度を築き上げるため、運動によって問題を解決したい」。山下裕幸さん(29)=同県糸田町=も「二度と自立支援法がよみがえらないよう、声を出していきたい」と述べた。


◆障害者自立支援法訴訟 県内分きょう和解=岩手
(2010.04.16 読売新聞 東京朝刊 岩手 25頁)
 福祉サービスの利用者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は憲法違反だとして、藤沢町新沼の佐々木亮さん(39)が国などを相手取り、負担免除などを求めた行政訴訟は16日、盛岡地裁で和解が成立する。同様の訴訟は全国14地裁で起こされたが、法を廃止し、国に責任があったとする基本合意が1月、国と原告団との間で締結されたのを受け、和解が相次いでいる。和解では、基本合意を確認し、原告が施設利用料などにかかわる損害賠償請求権を放棄する。
 奥州市水沢区に住む原告の父直人さん(77)は「うちの子はドライブが好きでね。盛岡や仙台に行くと喜ぶんですよ」と話す。亮さんは1歳で脳性まひになり、重度の知的障害になった。中学卒業後、藤沢町の障害者施設に入所しているが月1度、家族と過ごす。
 だが、年金生活は裕福ではない。亮さんの月々の収入も障害基礎年金の約8万3000円だけで、息子の生活費の多くは夫婦の年金から工面してきた。そこに2006年4月の障害者自立支援法施行が直撃し、亮さんの障害者施設の利用料、水道光熱費、食事代で約5万円の負担増になった。
 「息子のささやかな楽しみのために家族の多大な支援が必要になった。私たち夫婦が死んだら息子はどうなるか……」。そんな不安の中で提訴しただけに、同法の廃止が決まったうれしさは大きかった。
 ただ、政府は依然、同法に代わる今後の政策を示していない。直人さんも「和解は始まりに過ぎない。障害者が幸せな暮らしを送れるようになるまで、福祉制度改革を政府に訴え続ける」と話している。
 一方、県内の障害者施設でも今回の和解を歓迎している。沿岸部のある施設では、施設での作業で得る工賃と障害基礎年金の合計が10万円以下という通所者が多い。施設利用料や昼食代、家賃、光熱費などを支払えば、障害者の手元にはほとんど残らない。同施設の男性管理者(49)は「働く意欲のある人に施設利用料を支払わせてきたこれまでの制度は間違っていたと、やっと国が認めてくれた」と喜んでいる。


◆障害者自立支援法違憲訴訟 福岡の3人 国と和解 
(2010.04.16 読売新聞 西部夕刊 S2社 08頁)
 福祉サービスを利用する障害者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は違憲として、福岡県内の障害者3人が国と居住する市町を相手取り、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟は16日、福岡地裁(増田隆久裁判長)で和解が成立した。
 全国14地裁に71人が提訴した同法を巡る訴訟は、各地で和解が進んでおり、今月21日の東京地裁ですべての訴訟が終結する。
 この日の和解では、長妻厚生労働相と全国原告団による同法廃止などを盛り込んだ1月の基本合意を確認。原告弁護団によると、和解内容は同法を廃止し、2013年8月までに新たな福祉制度を定めるほか、▽国は同法の施行について、障害者やその家族に反省の意を表明する▽新制度制定に障害者が参加して十分に議論する――など。原告側は自己負担分の損害賠償請求を取り下げる。
 この日行われた口頭弁論では、原告3人らが意見陳述した。原告の山下裕幸さん(29)(福岡県糸田町)は「和解していいのか最後まで迷った。自立支援法がよみがえらないよう、声を上げていきたい」と話した。


◆障害者自立支援法訴訟 県内13人も和解 全国9件目=兵庫
(2010.04.16 読売新聞 大阪朝刊 神戸 23頁)
 福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は憲法が保障する生存権などを侵害し、違憲として、障害者71人が14地裁に起こした集団訴訟のうち、県内の13人が国などを相手取り、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の第6回口頭弁論が15日、地裁(栂村明剛裁判長)であり、全国9件目となる和解が成立した。
 長妻厚生労働相と全国原告団が1月、同法廃止や2013年8月までに新たな総合的福祉制度を定めることなどを盛り込んだ基本合意を確認。これに基づき、各地裁で順次和解している。
 この日の法廷では、原告のマッサージ業吉田淳治さん(68)(神戸市北区)が意見陳述し、「全国の障害者に喜んでもらえたと思うと感無量だが、大切なのはこれから。私たちが国の新たな制度作りを見守らないといけない」と訴えた。〈代表県版採録〉


◆障害者自立支援法訴訟 原告8人と国 和解成立=滋賀
(2010.04.16 読売新聞 大阪朝刊 セ滋賀 23頁)
 障害者自立支援法の応益負担制度は違法として、県内の男女8人が、国などに介護給付費の一部負担の決定取り消しなどを求めた訴訟は15日、地裁(石原稚也裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で同様の訴訟が行われており、和解成立は7例目。長妻厚生労働相と原告団が1月、同法廃止などを盛り込んだ基本合意を締結していた。
 口頭弁論では、県内の多くの障害者の意向を立証しようと、原告が所属する支援施設の入所者が、原告らに裁判参加をねぎらうコメントを寄せたDVDを法廷のモニターに放映。原告や家族ら計8人が意見陳述した。
 原告の一人、瀧本靖子さん(62)(彦根市野良田町)は「裁判を続けていけるのかと悩む毎日だった。法律が廃止され、よい方向に変わろうとしている」と述べた。その後、石原裁判長が訴訟を取り下げることなどを盛り込んだ和解条項を読み上げた。
 閉廷後、大津市の滋賀弁護士会館で開かれた報告集会では、支援者が原告に花束を手渡した。橋田直子さん(46)(草津市青地町)の母・静子さん(70)は「新しい法律はみんなで中身を考えていきたい」と笑顔を見せた。
 弁護団によると、今後、他地裁でも順次和解が成立し、21日の東京地裁で全訴訟が終結する見通し。


◆自立支援法訴訟 県内3原告和解 全国で8番目=広島
(2010.04.16 読売新聞 大阪朝刊 広島 25頁)
 障害者に福祉サービス利用料の原則1割の自己負担を求めた障害者自立支援法は憲法違反だとして、県内の障害者3人が国や自治体を相手取り、負担の取り消しなどを求めた訴訟は15日、地裁で和解が成立した。
 今年1月、長妻厚生労働相と全国原告団との間で、2013年までに同法を廃止し、新しい福祉法を作るなどとする基本合意がされている。和解はこの合意に基づくもので、全国14地裁に提訴された訴訟のうち、8番目。法廷で植屋伸一裁判長が、和解条項を読み上げ、双方が同意した。
 ◇「これからが大事」報告集会で秋保さん 
 「喜べる心境ではありません。これからが大事な局面です」。障害者自立支援法訴訟の原告で廿日市市六本松、秋保和徳さん(58)は和解成立後の報告集会で、支援者らに語りかけた。
 生後間もなく高熱が続き、脳性小児まひに。幼少期は親元を離れ、ほとんどを施設で過ごした。手足が自由に動かせず、電動車いすでの生活を送る。
 平日は廿日市市串戸の「くさのみ作業所」に通い、名刺製作をしている。木製の棒を口にくわえてパソコンのキーボードをたたき、レイアウトを決める。1日約4時間の作業に対して支払われる作業料はわずか200円程度だが、「賃金を得るだけではなく、仲間と人間関係を持ち、生活の場があるということに価値がある」と考えていた。
 しかし、2006年、障害者自立支援法の施行で、月に1500円の施設利用料の自己負担が必要になった。「働くために通っているのに、なぜ利用料を払わないといけないのか」と、やりきれなかった。
 「好んで障害者になった者は誰1人としていない。障害者自立支援法は、『障害は自己責任』だとして、障害者が生きていることさえ否定されている」。同じ障害を持つ妻・喜美子さん(60)とともに08年、訴訟に踏み切った。6回の口頭弁論には欠かさず出席、この日を迎えた。
 「人はいつ、障害を持つことになるか分からない。今、障害を持っている人のためだけではなく、すべての人のための福祉制度を作っていかないといけない」。障害者自立支援法に代わる新しい福祉法の内容を注視していく決意を固めている。(杉山弥生子)


◆障害者自立支援法訴訟:福岡地裁でも和解、全国10例目
(2010.04.16 毎日新聞 西部夕刊 7頁)
 福祉サービスを利用する障害者に費用の原則1割負担を課す障害者自立支援法は生存権を侵害して違憲として、福岡県福智町の平島龍磨さん(42)ら3人が、国や町などに負担廃止などを求めた訴訟は16日、福岡地裁(増田隆久裁判長)で原告側と国との和解が成立した。この問題を巡っては全国14地裁で71人が提訴したが、和解成立は10例目。
 原告側と国は1月、国は速やかに応益負担を廃止し、13年8月までに新制度を制定▽国は障害者の意見を十分踏まえず拙速に制度を施行し障害者の尊厳を傷つけたことに反省を表明する――などの内容の基本合意を交わした。和解条項には基本合意の内容などが盛り込まれた。一方、原告側はこれまで負担額免除申請却下の取り消しなどを自治体側に求めていたが、和解に伴い訴えを取り下げた。
 16日は法廷で原告や原告の親が意見陳述。原告の山下裕幸さん(29)=福岡県糸田町=は和解について「国を信用していいのか、最後の最後まで悩み迷った」と述べた上で「二度と自立支援法がよみがえらないよう声を出していく」と強調した。国との基本合意の内容を弁護団が読み上げ、増田裁判長が和解条項を朗読した。【岸達也】


◆障害福祉サービス:自立支援法負担増で施設退所者、4割受けず
(2010.04.16 毎日新聞 大阪夕刊 10頁)
 ◇
 障害福祉サービス利用に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法施行前後に、負担増を理由に障害者福祉施設を退所した人のうち、4割は現在も障害福祉サービスを何も受けていないことが厚生労働省の追跡調査で分かった。多くが作業所通いなどをやめ、自宅で暮らしていた。
 同法は06年4月に施行されたが、13年8月までに廃止予定。調査は06年3月から10月、施設を退所した1625人を対象に10年1月実施した。当時の調査票などを保存していない大阪、東京、京都、愛知、秋田、茨城、山口の各都府県の障害者分などを除く計902人について自治体を通して状況を把握した。
 この結果、902人中453人(50%)が、以前とは違う種別の施設に通ったり異なるサービスを利用していた。同じ施設の利用を再開した人は116人(13%)いたものの、何も利用していない人が333人と37%にのぼっていた。【野倉恵】


◆一宮の準強姦:県が立ち入り調査 運営実態聞き取り /千葉
(2010.04.16 毎日新聞 地方版/千葉 21頁)
 ◇障害者施設入所者に性的暴行
 一宮町の障害者支援施設で昨年1月、生活支援員だった榊田悠人被告(25)が重度の知的障害を持つ20代の女性入所者に性的暴行を加えたとして準強姦(ごうかん)容疑で逮捕、起訴された事件で、県は15日までに、障害者自立支援法に基づき、この施設を立ち入り調査した。調査内容を精査し、必要なら施設に運営の是正などを求める考え。
 起訴状などによると榊田被告は昨年1月ごろ、障害のため意思表示できない女性入所者を性的に暴行したとされる。女性は妊娠。昨年8月に死産した胎児のDNA型から父親が榊田被告と判明したという。
 立ち入り調査は県障害福祉課と県山武健康福祉センターの職員が実施。施設職員らから運営実態などを聞き取りした。県などによると、障害者支援施設は厚生労働省の「指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」で人員や設備が定められている。基準を満たし、適切に運営されていたかどうか今後詳しく調べる。
 この施設は被害者の妊娠が発覚した昨年8月、県などに事実関係を報告。当直を2人から3人体制にし、防犯カメラを増設するなどの措置を取ったとしている。【森有正】


◆障害者自立支援法訴訟:県内原告13人「やっと人並みの生活」 地裁で和解 /兵庫
(2010.04.16 毎日新聞 地方版/兵庫 21頁)
 福祉サービスを利用する障害者に費用の原則1割負担を定めた障害者自立支援法は違憲だとして、県内の障害者13人が国や自治体に負担停止などを求めた訴訟は15日、神戸地裁(栂村明剛裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴しており、21日の東京地裁で全国すべての訴訟が和解する予定。
 原告側と国は1月7日、同法を廃止し速やかに新制度を作るなどとした基本合意を交わしており、和解内容には基本合意の確認などが盛り込まれた。
 和解成立の前に、視覚障害がある原告団代表の神戸市北区、マッサージ業、吉田淳治さん(68)が意見陳述で「大切なのはこれから。国が基本合意の内容を実現しなければ意味がないので、私たちが見守っていかなければならない」と述べた。
 原告団は閉廷後、県弁護士会館で報告会を開いた。視覚障害がある原告の今泉勝次さん(59)=神戸市垂水区=は「やっと人並みの生活ができるスタートラインに立てた」と笑顔。知的障害がある田中猛志さん(43)の母昌子さん(68)=伊丹市=は「全国の障害者の苦しんでいる姿や、傍聴席で見守ってくれた支援者の人たちが励みになった」と話した。
 報告会では、吉田さんらが作詞し、今泉さんが作曲した「明るい社会をめざして」を全員で合唱し、和解を喜んだ。【米山淳】〔神戸版〕


◆障害者自立支援法訴訟:原告ら国と和解 「ここからスタート」 /広島
(2010.04.16 毎日新聞 地方版/広島 21頁)
 ◇福祉サービス、1割負担は違憲
 福祉サービス利用費用の1割を障害者に負担させる障害者自立支援法は違憲だとして、秋保和徳さん(58)夫妻=廿日市市=ら3人が国などに負担の廃止などを求めた訴訟は15日、広島地裁(植屋伸一裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴した訴訟で、和解は8例目。原告らは喜びの表情を見せる一方、新しい制度ができていないため、「ここからがスタート」と気を引き締めた。【寺岡俊】
 国は今年1月、全国の原告・弁護団に対して「今後の障害福祉施策に最善を尽くす」と約束し、速やかに同法を廃止して新制度を作るなどとする基本合意を交わした。一連の訴訟の和解条項には、これを明記した。
 この日の法廷で、秋保さんは車椅子で証言台に進み、意見陳述。「障害者自立支援法は、我々が生きることをも否定した法律。泣き寝入りはできないと全国の原告が名乗りを上げ、支援者、弁護士と団結し、運動を続けてきたことが法律廃止につながった」と語り、「運動の成果は新しい福祉法の行方によって決まる。国の動き、対応などをしっかり注視しながら運動を継続していく」と述べた。
 閉廷後、原告は記者会見した。秋保さん夫妻はともに脳性まひで手足が不自由。妻喜美子さん(60)は「5年かかったが、悪法の突破口ができた。基本合意を勝ち取ることができたのは、大きな宝物」と声を弾ませた。もう1人の原告で、やはり脳性まひの森岡靖夫さん(71)=広島市=は「障害者に負担がある限り、裁判が終わったとは言えない。絵に描いた餅にならないようにしないといけない」と決意を新たにしていた。
 □プラス1
 ◇国の対応を注目
 昨夏の総選挙で、障害者自立支援法の廃止を掲げた民主党が政権を握り、国側はそれまでの争う姿勢を一転させた。判決前に国が法律の廃止を表明する異例の展開をたどった。早期和解は喜ばしいことだが、国の財政難で、「持続可能な新制度確立の道のりは厳しい」という見方もある。
 原告の秋保和徳さんは「誰でも障害者になる可能性がある。福祉制度の問題は、決して人ごとではない」と訴える。私たち一人一人が、自分の問題として今後の国の対応を注目しないといけない。【寺岡俊】


◆障害者自立支援法訴訟:大津でも和解 原告ら「新制度に期待」 /滋賀
(2010.04.16 毎日新聞 地方版/滋賀 21頁)
 福祉サービス利用料の原則1割負担を定めた障害者自立支援法は違憲として、県内の8人が国などに負担廃止を求めた訴訟は15日、大津地裁(石原稚也裁判長)で和解した。全国14地裁で71人が提訴し、和解成立は7例目。1月の国と原告側の合意を受け、和解条項には同法の廃止や13年8月までの新制度実施などが盛り込まれた。
 この日は、原告の中谷茂彰さん(46)の母敏子さん(70)らが「親や兄弟がいなくなっても、一人で安心して暮らせますように」と意見陳述。閉廷後、滋賀弁護士会館で開かれた集会では、原告の宮本晃嗣さん(30)の母房子さん(59)が「訴訟は終わったが、今後どのような制度になるか見守りたい」と語った。
 原告らは17日午前10時から、近江八幡市鷹飼町の県立男女共同参画センターで報告集会を開く。資料代500円。問い合わせは「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす滋賀の会」(0748・46・5528)。【前本麻有】


◆名古屋でも和解 障害者支援法訴訟 【名古屋】
(2010年04月15日 朝日新聞 朝刊 2社会 026)
 障害者に福祉サービスの利用料に応じた自己負担を求める障害者自立支援法が憲法に違反していると訴えて全国14地裁に71人の障害者らが起こした集団訴訟で、名古屋地裁に提訴されていた訴訟の和解が14日、成立した。国と原告・弁護団は今年1月、2013年8月までに同法を廃止することで合意しており、各地の地裁で進む和解の一環だ。
 名古屋訴訟を起こしていたのは名古屋市港区の坂野(ばんの)和彦さん(30)。知的障害のある坂野さんが、国と市を相手に「障害の程度が重い人ほど負担が重いのは、生存権の侵害にあたり違憲」と主張し、06年4月の同法施行から09年9月までの自己負担額24万6671円の返還や、慰謝料10万円などを求めていた。
 この日、増田稔裁判長が法廷で「国が訴訟の趣旨を理解し、今後、障害のある当事者が安心して暮らせるために最善を尽くすことを約束した」とする和解条項を読み上げた。坂野さん側は金銭的な請求を放棄した。和解後に記者会見した坂野さんは「和解できてうれしい」と話した。代理人の吉江仁子弁護士は「障害者の福祉政策がどうなるのか、まだ漠然としている。今後も当事者の幸せを求める運動は続く」と述べた。(志村英司)


◆障害者自立支援法訴訟 名古屋地裁でも和解=中部
(2010.04.15 読売新聞 中部朝刊 中2社 30頁)
 障害者自立支援法による自己負担の取り消しなどを求め、障害者71人が全国14地裁で起こした集団訴訟のうち、知的障害がある名古屋市港区の坂野和彦さん(30)の訴訟は14日、名古屋地裁(増田稔裁判長)で和解が成立した。同訴訟の和解は6例目。
 訴訟では、同法で福祉サービスの利用料が原則1割の自己負担になったのは、憲法が保障する生存権などの侵害にあたるとして、名古屋市と国に、自己負担の取り消しと、これまでの負担金の返還など約35万円の支払いを求めていた。
 長妻厚生労働相と全国原告団は今年1月、同法廃止などで基本合意している。合意に基づく和解内容は、〈1〉法を廃止し、2013年8月までに新たな総合的福祉制度を実施する〈2〉国は障害者や家族らに混乱と悪影響を招いたことに反省の意を表明〈3〉原告側は支払い請求を放棄する――など。
 ◇月収5万徴収1万4000円 原告・坂野さん「作業所辞めた人も」 
 坂野さんは名古屋市中川区の作業所で平日午前9時〜午後4時、販売用の弁当作りをしている。時給は350円、月額で約5万円だが、同法に基づき、作業所の施設利用料やヘルパー代など月額最大約1万4000円を徴収された。
 昨年12月、名古屋地裁で行われた意見陳述で「1日150食を目標に頑張っている。一生懸命仕事をしているのに、お金を払わないといけないのはおかしい。お金を払えなくて作業所を辞めた仲間もいる」と訴えた。
 和解成立後、記者会見した坂野さんは「安心して暮らしていけるように今後も頑張りたい」、吉江仁子弁護士は「裁判は終わるが、新しい障害者福祉制度の概要はまだ見えていない。障害者の幸せな生活を求める活動は続けてゆく」と話した。
 

◆障害者自立支援法訴訟:和解 原告の坂野さん「うれしい」 運動継続に意欲 /愛知
(2010.04.15 毎日新聞 地方版/愛知 18頁)
 障害者自立支援法訴訟が名古屋地裁で和解成立した14日、原告の名古屋市港区、坂野(ばんの)和彦さん(30)は記者会見し、「うれしい」と笑顔を見せた。今年1月に国と全国訴訟団(14地裁・71人)が同法廃止などを「基本合意」し、一気に進んだ和解。今後も新法成立まで、坂野さんのたたかいが終わることはない。「(全国訴訟団の会議がある)福岡へ行きたい」と、運動継続に意欲をみせた。
 地裁前で支援者が掲げた小さな幕には、「勝利的和解」の文字。支援する障害者の仲間たちが書いたという。
 自立支援法は、作業所などへの利用者へ応分負担を求めた。坂野さんが通う作業所では、負担金を払えず辞める仲間もいた。このため作業所の自治会長も務める坂野さんが、「私がやらなければ」と原告に名乗りを上げた。訴訟弁護団の高森裕司弁護士は「たった一人で訴えた坂野さんの勇気のお陰で、今日の和解を迎えられた」とねぎらった。
 訴訟を支援している「勝利をめざす愛知の会」の小川春水共同代表は、同会を今月21日付で「『基本合意』の完全実施をめざす愛知の会」へと改組し、応分負担の無料化などに向けた運動を行っていくことを明らかにした。【黒尾透】


◆障害者自立支援法訴訟:「違憲」訴訟、名古屋地裁でも和解 全国6例目
(2010.04.15 毎日新聞 中部朝刊 21頁 社会面)
 福祉サービスを利用する障害者に費用の原則1割負担を課す障害者自立支援法は生存権を侵害して違憲だとして、名古屋市港区の坂野和彦さん(30)が国と市に負担廃止などを求めた訴訟は14日、名古屋地裁(増田稔裁判長)で原告側と国との和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴しており、和解成立は6例目。
 原告側と国は1月、国が速やかに同法を廃止して新制度を作るなどの内容の基本合意を交わした。和解条項には基本合意の確認などが盛り込まれた。一方、原告側は負担額免除申請却下の取り消しなどを市に求めていたが、和解に伴って訴えを取り下げた。
 坂野さんは市内の社会福祉法人が運営する作業所で働きながら同法人の介護や移動支援などを利用している。06年4月の同法施行後、作業所利用料など新たに計約25万円の負担が生じたとして09年10月に提訴した。【高木香奈】


◆障害者自立支援法訴訟、京都でも和解 全国5例目 /京都府
(2010年04月14日 朝日新聞 朝刊 京都市内・1地方 023)
 障害者の福祉サービス利用料を原則1割負担させる障害者自立支援法は、生存権を保障した憲法に反するとして、府内の障害者9人が国や自治体に負担取り消しを求めた訴訟が13日、京都地裁で和解した。政権交代後に国が支援法廃止の方針を示し、全国原告団と国が今年1月、訴訟の終結に基本合意していた。この集団訴訟は全国14地裁(原告71人)で起こされ、和解は京都地裁が5例目となる。
 この日の口頭弁論では、原告の井上吉郎さん(64)=京都市=が「支援法は障害者の人格を傷つけ、自立を妨げてきた。和解を区切りに、障害者福祉の充実に向けてがんばりたい」と意見陳述した。瀧華聡之裁判長が基本合意の確認や訴えの取り下げを盛り込んだ和解条項を読み上げ、双方が同意すると傍聴席の支援者から大きな拍手が起きた。
 京都地裁では2008年10月に1人、昨年4月に8人が提訴。国側は争う姿勢を続けたが、政権交代後の昨年9月、長妻昭・厚生労働相が支援法廃止を明言。今年1月の基本合意では、低所得の障害者の利用料負担を4月から無料にし、同法は13年8月までに廃止して新法を制定するとしている。
 原告の稲継学さん(43)=福知山市=は生後まもなく、てんかんと診断され、重度の歩行障害や言語障害がある。市内の知的障害者通所施設で作業し、月6千円程度の給料を得ていたが、同法施行後は月1500円の施設利用料が必要に。施設に払う食費など1日200円の負担を含めれば給料とほぼ同額となり、「自立と言える状態にないことは明らか」と訴えていた。
 和解成立後の集会には原告や支援者らが集まり、喜びを分かち合った。学さんの父清秀さん(73)は「本当にうれしい。国には今後、障害者の声をしっかり聞いてもらいたい」と話していた。(玉置太郎)


◆障害者負担訴訟が和解 京都市などの9人「国の責務熱望」=京都 
(2010.04.14 読売新聞 大阪朝刊 京市内 28頁)
 福祉サービス利用料の原則1割を自己負担と定めた障害者自立支援法は、生存権を保障した憲法に反するなどとして、知的障害や身体障害などがある京都、亀岡、福知山市の9人が国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟は13日、地裁で和解が成立した。
 長妻厚生労働相と原告団は1月、同法廃止などを盛り込んだ基本合意を結んでいる。和解はこれを受けたもので、全国14地裁で争われた同種訴訟で和解は奈良、和歌山などに続き5件目。
 この日の口頭弁論で、原告の稲継学さん(43)(福知山市)の父・清秀さん(73)は「基本合意は、今後の障害者福祉施策の理念を明確にした。国が誠実に責任を果たすよう熱望する」などと意見陳述。続いて、滝華聡之裁判長が和解条項の内容を明らかにした。
 閉廷後、中京区の京都弁護士会館で報告集会が開かれ、同法に対する反対運動に加わっていた頃に脳梗塞(こうそく)で倒れて障害者となり、自身も原告になった井上吉郎さん(64)(北区)は「事実上の勝利と言える和解。訴訟に参加してよかった」と話した。


◆障害者郵便割引不正:副検事、誘導認める 部下の供述調書、動機で−−大阪地裁
(2010.04.14 毎日新聞 大阪夕刊 8頁 社会面)
 郵便不正事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)の第17回公判が14日、大阪地裁(横田信之裁判長)であり、当時の部下らを取り調べた牧野善憲副検事(42)が出廷した。「障害者自立支援法のため野党議員に配慮する必要があった」とする部下の供述調書について、牧野副検事は「当時は法案はなかったかもしれない。私の方から水を向けた」と述べ、動機を調べる経緯で誘導があったことを事実上、認めた。
 牧野副検事は当時の社会参加推進室長(59)らの取り調べを担当。弁護側は「04年4月当時、法案提出に向けて動いていたが、野党が反対していた」とする室長らの供述調書を明らかにしたうえで、「法案は当時あったのか、室長が自分で言い出したのか」と質問。これに対して、牧野副検事は「法案を通すための下地という意味だった」と述べ、事実上存在しなかったことを認めた。さらに提出に向けた当時の動きを裏付ける資料がなかったことも明らかにした。
 大阪地検特捜部は捜査段階で、同法成立を目的にした野党議員への配慮が事件の背景にあったとみて調べていた。しかし、同法成立は05年10月で、これまでの公判で、室長が「法案について聞かれ、『知らない』と答えたがつなぎあわされた」と調書の内容を否定。他の職員も「04年当時は法案はなかった」と一様に否定していた。【日野行介】


◆障害者自立支援法訴訟:地裁で和解成立、全国5例目 原告、喜びかみしめ /京都
(2010.04.14 毎日新聞 地方版/京都 21頁)
 福祉サービスの利用者1割負担を定めた障害者自立支援法は違憲として、府内の障害者9人が国や自治体に負担廃止を求めた訴訟は13日、原告側が訴えを取り下げ、京都地裁(瀧華聡之裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴し、和解成立は全国で5例目。
 和解内容は、原告側と国が1月に交わした基本合意に沿って制度を廃止し、速やかに新制度を作るなどとしている。
 意見陳述をした原告の井上吉郎さん(64)=北区=は障害者自立支援法の反対運動のさなか、脳こうそくで倒れ、自身も障害者となった。和解終了後「勝利的和解で大変うれしい」と喜びをかみしめ、「更なる運動に努力したい」と述べた。
 同法は自公政権下の05年10月に成立したが、政権交代後の昨年9月に長妻昭厚生労働相が廃止を表明。21日の東京地裁で全国すべての訴訟が和解する予定。新制度は、障害者や家族が中心メンバーの「障がい者制度改革推進会議」で議論され、13年8月までの成立を目指す。【古屋敷尚子】


◆障害者立法へ、55人部会発足
(2010年04月13日 朝日新聞 夕刊 2総合 008)
 障害者自らが制度づくりを進める政府の「障がい者制度改革推進会議」は12日、障害者自立支援法の廃止後の法制度を検討する部会の発足を決めた。関係団体の要望を踏まえた結果、部会のメンバーは55人の大所帯に。親会議メンバーの24人の2倍以上という異例の構成になった。
 55人のうち、障害がある当事者や家族などは22人。発達障害など会議のメンバーに入らなかった団体からの不満を考慮した結果、膨れあがった。ほかに有識者や自治体関係者などが入る。


◆障害者施策巡り、札幌で17日討論 /北海道
(2010年04月11日 朝日新聞 朝刊 北海道総合 032)
 障害者施策を話し合う討論会「障がい者施策の転換期が来た!」が17日、札幌市東区民センターで開かれる。政府の「障がい者制度改革推進会議」のメンバーも参加し、関係者は「推進会議に意見を反映させるため、多くの人に参加し、意見を言ってほしい」と呼びかけている。
 鳩山由紀夫首相を本部長とする推進会議は昨年12月、内閣に設置された。会議は障害者や家族をメンバーに加え、障害者差別を禁じる国連の障害者権利条約を批准する国内法の整備を目指している。また、政府が廃止する方針の障害者自立支援法にかわり、福祉サービスの新たな利用者負担を決める制度改革の議論も始まっている。
 討論会では、推進会議の進行状況や方向性などを報告し、参加者からも意見を募る。推進会議メンバーの関口明彦さんや土本秋夫さんのほか、前道立精神保健福祉センター所長で、北見赤十字病院の医師、伊藤哲寛さんがパネリストを務める。
 17日午後1〜5時、資料代500円。問い合わせは新保さん(080・1875・2668)へ。


◆県内でも和解に沸く原告 新法へ「力抜けない」 障害者自立支援法訴訟 /和歌山県
(2010年04月10日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 023)
 障害者に福祉サービス利用料を原則1割自己負担させる障害者自立支援法は憲法違反だとして、脳性小児まひによる障害がある大谷真之(おおたにまさゆき)さん(35)=和歌山市北出島=が国と市を相手に自己負担分の返還などを求めた訴訟は9日、和歌山地裁で和解が成立した。大谷さんは「勝利的和解だが、まだまだ力は抜けない」と話した。「障害の有無に関係なく幸せに暮らせる社会」を目指す闘いはこれからも続く。(北川慧一)

 和歌山地裁でこの日、最後の口頭弁論が開かれた。高橋善久裁判長は大谷さんに「本当にお疲れ様でした。少しでもよりよい制度になっていくよう、私たちもお祈りしています」と語りかけた。同様の裁判は全国14の地裁で起こされ、和解は大谷さんで4例目となった。
 大谷さんは2009年4月に提訴した。06年4月の障害者自立支援法施行から09年3月までに支払った自己負担額64万5895円の返還、10万円の慰謝料、ヘルパーの利用時間を月229時間に増やすことなどを国と市を相手に請求した。今回の和解で、国は同法を廃止して新制度を作り、大谷さんは金銭的な請求を取り下げる。
 大谷さんは脳性小児まひで手足が思い通りに動かない障害があるが、一人で暮らし、移動は電動車いすを使う。自ら立ち上げた「自立生活応援センター・和歌山チャレンジ」の代表を務め、障害者の生活の相談に乗ったり、ヘルパーを手配したりしている。
 同法では、大谷さんのような重度の障害者が、福祉サービスを受けながら自立した生活を目指そうとすると、負担がどんどん増えてしまう。ヘルパーの利用回数を減らしたため、おかずは簡単なものに代え、風呂は湯船に入る回数を少なくしてシャワーで済ませなければならなかった。
 和解成立後に市内であった報告集会には約70人の支援者が集まった。大谷さんは「自己負担が重くのしかかって、地域に暮らす障害者がいなくなってしまうと思った」と裁判を起こした理由を語った。
 昨夏の政権交代を受けて今年1月、国と原告・弁護団は13年8月までに同法を廃止することで合意。障害者のための新しい法案作りでは、大谷さんも厚生労働省との協議の場に加わりたいと思っている。「重度の障害者も地域で当たり前に暮らせるような福祉サービスの支給のあり方や障害者が働ける場所の確保」などに取り組む意欲を示した。
 「人は遊びたいときは遊ぶやろ。障害者も同じ。体が不自由だからといって、我慢しなければならないのはおかしい」


◆自立支援法 和解成立 大谷さん「希望持てる社会に」 全国4件目=和歌山
(2010.04.10 読売新聞 大阪朝刊 セ和歌 27頁)
 障害者自立支援法は違憲などとして、全国14地裁で71人が起こした集団訴訟のうち、原告の和歌山市北島、大谷真之さん(35)が国などを相手取り、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の第4回口頭弁論が9日、地裁(高橋善久裁判長)であり、同法廃止などを盛り込んだ基本合意に基づいて和解が成立した。同訴訟の和解は全国で4件目。
 この日の弁論で、大谷さんは「障害者一人ひとりが夢と希望を持ち、のびのびと暮らせる社会を作るために力を入れたい」と最後の意見陳述をした。高橋裁判長は、和解成立を告げ、大谷さんに「1年以上にわたる裁判、ご苦労さまでした。よりよい制度になるよう、私どもも祈っております」と声をかけた。
 大谷さんは、和解成立後、同市内のホテルで報告会を開き、「夢にも思わなかったこの日を迎えられてうれしい」と語った。
 大谷さんは「支援のおかげです。ありがとうございました」と笑顔を見せ、支援者から花束が手渡された。弁護団長の山崎和友弁護士も「障害者が主権者として尊ばれる社会にするためには、さらなる努力が必要。この闘いに身を置いていきたい」と力強く語った。


◆障害者自立支援法訴訟:違憲訴訟和解 原告・弁護団「勝利的」評価 /和歌山
2010.04.10 毎日新聞 地方版/和歌山 25頁 写図有 (全629字) 
 ◇「当たり前に暮らせないとだめ」
 ◇13年8月までに新制度
 原則として福祉サービス利用費用の1割を障害者に負担させる障害者自立支援法は違憲とし、和歌山市北出島の大谷真之さん(35)が国と同市に負担撤廃を求めていた訴訟が9日、和歌山地裁(高橋善久裁判長)で和解した。全国で4例目、西日本では2例目。国と原告・弁護団が1月に交わした「基本合意」に沿い、速やかに制度を廃止して遅くとも13年8月までに新制度を実施する。大谷さんは閉廷後の集会で「すごくうれしいが、まだ問題がある。さらに運動を続けていく」と話した。【平川雅恵】
 障害者らの尊厳を深く傷つけたことを国が心から反省する▽新制度制定に障害者を参画させる▽ヘルパーなどサービス支給量を障害の特性に配慮した選択制などにする▽低所得者本人と家族の負担を無料とする――など基本合意に沿って国が和解に応じたことを、原告弁護団は「勝利的」と評価した。一方で、山崎和友弁護団長は「新法についてまだ具体的な施策が明らかにされていない」と課題を指摘した。
 事業所を経営する大谷さんには収入があるため、ヘルパー利用料の月額負担は障害者自立支援法施行後、4500円から9300円に増額された。大谷さんは「どんなに重い障害者でも地域で当たり前に暮らせないとだめやと思っている」と訴え、「基本合意には支給量のことを盛り込んだ。それをバネに交渉を続ける」とし、障害者のニーズに沿った新制度が施行されるまで活動していくことを確認した。


◆障害者自立支援法訴訟、道内でも和解 旭川地裁 家族「実態に合う制度を」 /北海道
(2010年04月08日 朝日新聞 朝刊 2道 026)
 国と原告団が終結で合意した障害者自立支援法をめぐる集団訴訟で、道内唯一の原告、旭川市の川村俊介さん(29)の訴訟が7日、旭川地裁(湯川浩昭裁判長)であり、和解が成立した。

 福祉サービスの利用に応じて原則1割の自己負担を求めた同法は、生存権を定めた憲法に違反するとして全国14地裁で71人の障害者らが自己負担をなくすよう求めて提訴。聴覚と知的の障害がある川村さんは、同市内の授産施設に通って木工作業をしているが、2006年の同法施行後は施設の利用料などで月約5千円を負担しているという。
 この日の弁論では、湯川裁判長が「国は訴訟の趣旨を理解し、今後、障害のある当事者が安心して暮らすことができる施策を約束した」とする和解の条項を読み上げ、原告と被告が受け入れた。
 俊介さんの母和恵さん(58)は和解後、「国は今後、障害のある人たちの実態に合った制度をつくってほしい」と話した。
 国は当初、争う姿勢だったが政権交代で方針を転換。長妻昭厚生労働相が昨年9月、同法の廃止を明言したため、全国の地裁で順次、和解が成立している。


◆「障害者が使いやすい制度を」 自立支援法訴訟和解で=北海道
(2010.04.08 読売新聞 東京朝刊 道社A 29頁)
 旭川地裁で障害者自立支援法による自己負担などの取り消しを求めた裁判の和解が成立した7日、旭川市内で報告会を開いた原告側は、国が同法廃止後に作るとしている新制度について「障害者が使いやすい制度を作ってほしい」と要望した。
 原告の川村俊介さん(29)(旭川市春光)は聴覚障害や知的障害を抱え、同市内の授産施設「あかしあ労働福祉センター」で木工を担当し、月額約1万4000円の工賃を得ている。同法施行後、利用費1000円と給食費4400円を負担しなければならなくなっていた。川村さんとともに報告会に出席した母、和恵さん(58)は、約20人の支援者に「支援ありがとうございました」と述べた。
 同法廃止に伴う新制度について、和恵さんは「障害者の生活実態に合った制度にしてほしい」と求めた。同センターの北村典幸総合施設長も「自己負担が必要になり、施設を辞めた人もいる。より良い制度を求めていきたい」と話していた。
 被告側の旭川市の西川将人市長は「双方の合意で和解することができ、ほっとしています。国が進める新たな制度づくりの動向を見守りたい」とするコメントを発表した。
 

◆自立支援法訴訟 3例目の和解
(2010.04.08 読売新聞 東京朝刊 3社 29頁)
 福祉サービスの利用者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は憲法が保障する生存権の侵害として、北海道旭川市の川村俊介さん(29)が自己負担の取り消しなどを求めていた訴訟は7日、旭川地裁(湯川浩昭裁判長)で和解が成立した。
 同様の訴訟は全国14地裁で起こされており、これまでにさいたま地裁と奈良地裁で和解が成立している。


◆ちば経済:障害者が接客サービス 広がる支援、自立目指す−−習志野 /千葉
(2010.04.08 毎日新聞 地方版/千葉 22頁)
 習志野市大久保1の福祉施設「ぽんぽこりん」で、障害者が接客サービスに取り組んでいる。施設利用者が自ら軽食を作って客に出し、収益を上げながら自立を目指す試み。地元商店街で支援の輪も広がっている。10日には市内の音楽グループを招いてコンサートを開く。
 ぽんぽこりんは、NPO法人「希望の虹」(豊嶋國威会長)が運営。障害者自立支援法に基づく「就労継続支援B型」と呼ばれ、日常生活や社会生活で自立できるよう応援する施設だ。
 障害者施設での作業は内職や軽作業が多く、飲食店で障害者がサービスするのは珍しい。現在、約10人がコーヒーやカレー、うどんなどを作って客に提供している。「ぞうきんが絞れなかったり、お茶を出すことも難しい障害者が1カ月で成果が出るなど効果を上げている」とサービス管理責任者の元吉みゆきさん。利益は全額、障害者に還元している。
 施設は、建物を所有する地元の寺がNPOの趣旨に賛同して提供。地元の「学園おおくぼ商店街」関係者も、もちつき大会で街頭販売を手伝ったり、コンサートのポスターを店頭に掲示したりして協力。豊嶋会長は「みんなが楽しめる広場として活用してもらえれば、地域の発展にも貢献でき、障害者にもいい。みんなが支え合っていくのがこれからの福祉だ」と話している。
 10日午後2時からのコンサートでは、音楽グループ「町の音楽好きネットワーク」が童謡やラジオ歌謡などを披露する。入場料1800円。希望の虹(電話047・404・0050)。【橋本利昭】


◆障害者自立支援法違憲訴訟:和解成立 「大きな一歩」 原告ら新制度に決意 /北海道
(2010.04.08 毎日新聞 地方版/北海道 23頁)
 障害者自立支援法の定める福祉サービス利用料の原則1割負担(応益負担)は違憲として国などに負担廃止を求めた訴訟は7日、旭川地裁で和解し、法廷での争いは決着した。「大きな一歩」と喜びをかみ締めた原告らは新たな制度づくりに向け、決意を新たにしていた。
 この日の第4回口頭弁論で湯川浩昭裁判長は、1月に国と原告らが締結した基本合意に基づく和解条項を読み上げると原告、被告双方がうなずき、和解が成立した。
 「和解は違憲判決と同じ重み。国と市は和解条項の重さを受け止めて障害者が安心して暮らせるまちづくりを進めてほしい」。数分で終わった口頭弁論の最後、原告代理人の西村武彦弁護士が被告側を見つめ念を押した。
 報告集会では、裁判を傍聴した20人余りの支援者を前に、原告の川村俊介さん(29)を支えてきた母・和恵さん(58)は「新しい法律の基を作ったメンバーの一員にいたことを後で実感できるかも」とほっとした様子で時折、笑顔をみせた。しかし、話すうちに「勝手に法律を作って、勝手にお金をとるなんて、実態に合っていない。みんな『何で』という思いだった」と悔しみを涙ながらに訴えた。
 西村弁護士は、国と市が法廷戦術として実質的な審議に入らず、障害を持つ川村さんの訴訟能力に「重大な疑いがある」と請求却下を求めた手法について、「許せない。質疑応答や本人の発言までやって、障害を持つ本人の訴訟能力の壁を低くしたかった」と批判。裁判所が原告補佐人に施設関係者を認めず、母親しか認めなかった点にも疑問を呈した。
 川村さんが通う施設の総合施設長で裁判を支援してきた北村典幸さんは「国との基本合意以外でも、まだ制度改善の余地がある。新制度づくりに向けて現場から声を上げていかないといけない」と話した。【横田信行】


◆障害者自立支援法違憲訴訟:基本合意沿い和解−−旭川地裁
(2010.04.08 毎日新聞 北海道朝刊 27頁)
 障害者自立支援法が収入に関係なく福祉サービス料の1割を利用者に負担させるのは生存権侵害で違憲として北海道旭川市の川村俊介さん(29)が国と市に負担廃止などを求めた訴訟は7日、旭川地裁(湯川浩昭裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴し和解成立は全国3例目。(23面に関連記事)
 和解内容は、1月の原告側と国の基本合意に沿って国は速やかに同法を廃止し、さらに新制度を作るなどとしたもので、原告側が訴えを取り下げた。
 川村さんは市内の通所授産施設の木工作業で月約1万4000円の工賃(収入)を得ているが、06年の同法施行後は、月約1000円の利用者負担や、施行前は不要だった給食費4000円余りを払わなければならず、収入は実質4割減になった。聴覚障害と知的障害、自閉症を抱える川村さんを支えてきた母和恵さん(58)は和解後、川村さんと記者会見し「新制度は障害者の実態に合って、十分活用できるものにしてほしい」と話した。同法は自公政権下の05年10月に成立したが、政権交代後の昨年9月に長妻昭厚生労働相が廃止を表明。国と原告団、弁護団が基本合意していた。【横田信行】


◆自立支援法違憲訴訟 旭川地裁でも和解成立=北海道
(2010.04.07 読売新聞 東京夕刊 札夕2 10頁)
 障害者自立支援法による自己負担の取り消しなどを求め、障害者ら71人が全国14地裁で起こした集団訴訟のうち、聴覚や知的障害がある北海道旭川市春光の川村俊介さん(29)が提訴した旭川地裁(湯川浩昭裁判長)で7日、和解が成立した。同様の訴訟は、これまでに、さいたま地裁と奈良地裁で和解が成立している。
 訴訟では、川村さんが、福祉サービスの利用者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は憲法の保障する生存権の侵害として、旭川市と国を相手取り、自己負担の取り消しと福祉施設利用費など約26万円の支払いを求めた。
 和解では、長妻厚生労働相と全国原告団による同法廃止などを盛り込んだ今年1月の基本合意を確認。原告が請求を放棄する。


◆障害児施設で日常的体罰 職員13人が児童ら21人に
(2010.04.07 読売新聞 大阪夕刊 夕社会 13頁)
 ◇大阪 たたく・引きずる・馬乗りで押さえる
 大阪府は7日、府内の社会福祉法人が運営する障害児施設で、職員13人が入所児童ら21人に対して体罰などの虐待を日常的に繰り返していたと発表した。通報を受けた府は児童福祉法に基づき同施設に監査に入るとともに、改善報告を提出するよう指導した。児童らにけがはなかった。  
 発表によると、同施設には知的障害児を中心に約50人が入所し、生活していた。このうち5〜22歳の計21人が体罰を受けていた。
 虐待に関与していたのは、職員約30人のうち男性児童指導員5人と女性保育士8人で、パニック症状になった児童の顔を平手でたたいたり、動かない児童を力ずくで立たせたりするなどの体罰を加えていた。けんかをした児童を注意する際などに、服や体をつかんで引きずったり、馬乗りになって押さえたりしたこともあった。
 同施設で実習中、虐待を目撃した短大生が指導教授に相談。昨年9月に教授が府中央子ども家庭センター(寝屋川市)に通報したことから発覚した。府はその後、今年2月までに延べ10日間、監査を実施した。
 府の調査に、職員らは「そういう(体罰などの)方法が当たり前だという認識だった。皆がやっているからいいだろうと思っていた。注意する人もいなかった」と語った。施設を運営する社会福祉法人の理事長は「体罰は知らなかったが、責任を痛感している。重大な問題だととらえ、早急に府に改善策を提出したい」と話しているという。
 ◇定期監査で見抜けず
 府によると、これまでの年1回の定期監査では、同施設で体罰などを確認できていなかった。昨年9月まで虐待などの情報が寄せられたことはなく、いつから体罰が始まったかは確認できていないとしている。
 記者会見した府の担当者は「施設職員の認識の低さは言語道断。今後も強く指導していく」と述べた。
 ◇障害者施設職員 昨年 人権侵犯は61件
 法務省によると、2009年に取り扱った知的障害者施設や高齢者施設での職員による人権侵犯事件(暴行、プライバシー侵害など)は116件にのぼり、2年連続の増加。うち、障害者福祉施設職員によるものは61件と、約半数を占めた。
 公的施設での暴行事件を巡っては、同年5月、大阪市中央児童相談所で、非常勤職員の男(当時24歳)が、一時保護されていた男子中学生に暴行したとして、傷害容疑で書類送検された。同11月には栃木県の国立児童自立支援施設でも、男性職員が入所者の少女に暴行を加え、停職処分となった。
 こうした施設職員による入所児童への虐待は最近まで想定されておらず、虐待を見つけた場合の児童相談所などへの通告義務はなかった。09年4月の改正児童福祉法で初めて、「被措置児童等虐待」と定義され、通告義務に加え、自治体などへの防止義務が盛り込まれた。
 ◇職員に余裕ない
 桃山学院大の滝沢仁唱(ひとひろ)教授(社会福祉法)の話「障害者自立支援法施行以後、補助金が減額され、十分な職員数を確保できない施設も多い。その結果、職員が入所者に向き合う時間的、心理的余裕がないという事態が起きている。そういった構造的な部分も変えないと、虐待問題の根本的な解決は難しいのではないか」


◆障害者自立支援法違憲訴訟:3例目和解成立
(2010.04.07 毎日新聞 中部夕刊 6頁)
 障害者自立支援法が福祉サービス料の1割を利用者に負担させるのは生存権侵害で違憲として、北海道旭川市の川村俊介さん(29)が国と市に負担廃止などを求めた訴訟は7日、旭川地裁(湯川浩昭裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴し、和解成立は全国3例目。
 和解内容は、1月の原告側と国の基本合意に沿って、国は速やかに法を廃止し、新制度を作るなどとした。
 川村さんは市内の通所授産施設の木工作業で月約1万4000円の収入を得ているが、法施行後、月約1000円の利用者負担や施行前は不要だった給食費4000円余りを払わなければならず、実質的な収入は4割減になった。【横田信行】


◆点字訴状、認められた 名古屋地裁、行政訴訟を受理 全盲女性「たどり着いた」
(2010年04月03日 朝日新聞 朝刊 2社会 034)
 全盲の女性が名古屋市を相手にした行政訴訟の訴状を点字だけで作り、2日、名古屋地裁に提出した。同地裁は手続き上の不備はないと判断して受理した。全盲の弁護士らによると「前例がないケース」という。(上田真由美)

 提訴したのは、市内に住むあんま鍼灸(しんきゅう)師の梅尾朱美さん(59)。市が、障害者自立支援法に基づく障害程度の認定にあたって、重度の「4」だった障害の区分を昨年10月に軽度の「1」に変更したことを不服として、変更処分の取り消しを求めた。提訴は代理人に弁護士を立てずに自ら訴状をつくる「本人訴訟」。訴状は12ページ分で、漢字とひらがなの文章に置き換えると2500字程度という。地裁などによると、裁判所法には「裁判所では日本語を用いる」との規定があるが、点字の訴状についての規定はないという。
 梅尾さんは提出後に記者会見し、「点字は私たちにとって大事だが、まだ市民権を得ていない。司法試験や国家公務員試験、大学受験なども、一つ一つ当事者が点字受験を切り開いた。やっと裁判所までたどり着いた」と語った。
 全国では、複数の全盲の弁護士が活躍している。その一人、田中伸明弁護士(愛知県弁護士会)によると、メモは点字でとるが、訴状などの書類は音声パソコンで活字に落とすのが通例で、点字の訴状は作ったことがないという。田中弁護士は「司法手続きの利用の仕方の可能性を開く前例になる」と期待する。
 同じく全盲の大胡田誠弁護士(第一東京弁護士会)は「公の機関が点字を公用文字として認める一歩になるのではないか」と話している。


◆点字訴状を地裁受理 全盲女性の障害認定巡り 名古屋 【名古屋】
(2010年04月03日 朝日新聞 朝刊 1社会 031)
 名古屋地裁は2日、点字で作った訴状による提訴を求めていた全盲のあんま鍼灸(しんきゅう)師梅尾朱美さん(59)=名古屋市在住=の要望を受け入れ、訴状を受理した。提訴の後、梅尾さんは「(通常は訴状に押されることが多い)押印も求められず、視覚障害について配慮してもらえた」と喜びを語った。
 裁判所法には「裁判所では日本語を用いる」との規定があるが、点字の訴状についての規定はない。最高裁広報課は「過去に点字の訴状が受理されたかどうかは把握していない」としているが、全盲の弁護士らによると「前例がないケース」という。
 梅尾さんは、障害者自立支援法に基づく障害程度の認定にあたって、市が重度の「4」だった障害の区分を昨年10月に軽度の「1」に変更したことを不服として、変更処分の取り消しを求めた。提訴は代理人に弁護士を立てずに自ら訴状をつくる「本人訴訟」。訴状は12ページ分で、漢字とひらがなの文章に置き換えると2500字程度という。
 梅尾さんは先月26日に同地裁に訴状を提出しようとしたが、地裁はいったん受け付けを留保していた。手続き上問題がないことを確認し、受け取ることを同月30日に梅尾さんに伝えていた。2日、支援者とともに地裁を訪れた梅尾さんは、提訴の受付窓口で、原告と被告の名前を読み上げ、訴状の内容を説明。その場で受理された。
 梅尾さんは提出後に記者会見し、「点字は私たちにとって大事だが、まだ市民権を得ていない。司法試験や国家公務員試験、大学受験なども、一つ一つ当事者が点字受験を切り開いた。やっと裁判所までたどり着いた」と語った。
 法務省によると、司法試験では1973年度以降、問題文を点字に置き換えた試験を行っている。全国では、複数の全盲の弁護士が活躍している。その一人、田中伸明弁護士(愛知県弁護士会)によると、メモは点字でとるが、訴状などの書類は音声パソコンで活字に落とすのが通例で、点字の訴状は作ったことがないという。田中弁護士は「司法手続きの利用の仕方の可能性を開く前例になる」と期待する。同じく全盲の大胡田誠弁護士(第一東京弁護士会)は「公の機関が点字を公用文字として認める一歩になるのではないか」と話している。(上田真由美)


◆点字訴状:名古屋地裁が受理 障害者「裁判が開かれた」
(2010.04.03 毎日新聞 東京朝刊 26頁)
 名古屋市熱田区の視覚障害者、梅尾朱美さん(59)が2日、障害者自立支援法に基づく市の判定を不服として、点字の訴状を名古屋地裁に提出し、受理された。全日本視覚障害者協議会(東京都)では「点字のみの訴状が受理されたのは初めて」と話している。
 梅尾さんによると市は06年、梅尾さんの障害程度区分を審査に基づき、06年の審査では等級を「4」と判定したが、09年の審査では「1」に下げた。この3年間で福祉サービスの利用頻度が少なくなったことが理由になったという。梅尾さんは、この市の判定を不服として、弁護士などの代理人を立てずに提訴した。
 訴状はB5判で10ページ。訴状提出後に記者会見した梅尾さんは「視覚障害者にも裁判が開かれた。視覚障害で訴訟を起こすことをあきらめていた人の励みになればうれしい」と語った。
 民事訴訟法は、提訴の際に訴状の提出を規定しているが、点字についての明文規定はない。裁判官の判断によっては原告側に点字ではない訴状を求める可能性もあるという。【沢田勇】


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▼3月分
◆点字の訴状「受け取る」 名古屋地裁が回答=中部
(2010.03.31 読売新聞 中部朝刊 中2社 36頁)
 障害者自立支援法に基づく名古屋市の認定を不服として、全盲の同市熱田区、梅尾朱美さん(59)が認定取り消しを求める点字の訴状を名古屋地裁に持参した問題で、名古屋地裁は30日、「受け取る」と回答した。今後、同地裁の裁判官が正式に受理するかどうかや、通常の日本語の訴状に改めるよう求めるかを決める。梅尾さんは26日に訴状を持参したが、同地裁民事部は受け取らず、「対応を検討する」としていた。


◆県:厚木「紅梅会」の停止処分を解除 /神奈川
(2010.03.31 毎日新聞 地方版/神奈川 27頁)
 厚木市の社会福祉法人「紅梅会」が運営する知的障害者のグループホームで元女性入所者が元職員から性的暴行を受けた事件で、県は30日、障害者自立支援法に基づく同法人の新規利用者の受け入れ停止処分を解除した。県は09年5月に同法人を処分したが、人権擁護や虐待防止の態勢整備について「改善が確認された」と判断した。【木村健二】


◆原告側、国の動き検証 障害者自立支援法訴訟、奈良地裁で和解成立 /奈良県
(2010年03月30日 朝日新聞 朝刊 奈良1・1地方 027)
 障害者自立支援法は違憲だとして、奈良市の小山冨士夫さん(53)が国や奈良市に自己負担をなくすことなどを訴えた訴訟は、奈良地裁で和解が成立した。小山さんは制度改善の履行を国に求めた。
 小山さんは和解に先立って意見陳述し、「国が本当に約束を守ってくれるかちゃんと見届けます。二度と障害者を苦しめることがないようにして下さい」と述べた。和解後の会見で「しんどい時もあったが、最後までやると決めたので貫き通した」と話した。
 奈良弁護団長の池田直樹弁護士は「憲法のような大きな問題を論じるのに1年余りで決着がつくのは画期的な和解だった」と評価。「国が本気かどうかを見るためにも、今後もかかわる必要がある」と述べ、基本合意の完全実施に向け、国の動きを検証する会議を開くとした。


◆障害者支援訴訟、2例目和解 奈良地裁 【大阪】
(2010年03月30日 朝日新聞 朝刊 3社会 029)
 障害者の福祉サービス利用料の原則1割負担を定めた障害者自立支援法は、生存権を定めた憲法に違反するとして、奈良市内の障害者の男性(53)が国や自治体に負担の取り消しなどを求めた訴訟は29日、奈良地裁で和解が成立した。同種訴訟はほかに全国13地裁で起こされ、今月24日にさいたま地裁で初の和解が成立した。奈良は2例目。


◆自立支援法違憲訴訟 奈良地裁で和解成立 全国2件目 
(2010.03.30 読売新聞 大阪朝刊 3社 37頁)
 障害者自立支援法は違憲だとして、障害者ら71人が全国14地裁に起こした集団訴訟のうち、奈良市の小山冨士夫さん(53)が国などを相手に、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の第4回口頭弁論が29日、奈良地裁(一谷好文裁判長)であり、今年1月の長妻厚生労働相と全国原告団の基本合意に基づいて和解が成立した。和解成立は全国2件目で、西日本では初めて。
 和解条項によると、原告、被告双方が基本合意を確認し、原告が請求を取り下げる。基本合意には、同法を廃止し、2013年8月までに新たな総合的福祉制度を定めることなどが盛り込まれている。


◆障害者自立支援法和解成立 原告・小山さん「支援に感謝」=奈良
(2010.03.30 読売新聞 大阪朝刊 セ奈良 33頁)
 奈良の障害者自立支援法違憲訴訟で和解が成立した29日、奈良市に住む原告の小山冨士夫さん(53)は「裁判をやってよかった」と笑顔を見せた。原告弁護団も「障害者の応益負担は間違いと認めた勝訴的な和解。憲法を論じる裁判が1年で決着したのは画期的だ」と国の対応を評価した。
 小山さんは、市内の福祉作業所で紙すきの仕事をしているが、同法の施行で、毎月1500円の「施設利用料」が必要になった。「働いているのに、お金を払う必要があるのか」との疑問から提訴を決意した。
 この日、法廷で意見陳述した小山さんは「これからもっと仕事を頑張りたい。給料で釣りにも行きたい」と希望を語った。和解成立後の記者会見では、「つらいこともあったが、最後までやると決めて頑張った。みんなの支えがあってできた」と、支援者らに感謝した。
 2009年4月の提訴を受け、障害者や福祉関係者らが「勝利を目指す奈良の会」を発足し、小山さんを支援。弁護団長の池田直樹弁護士は「奈良の障害者みんなが勝ち取った和解だ」と喜びを語り、会長の玉村公二彦・奈良教育大教授は「国際的にみても意味ある和解。今後も障害者の健康、文化的な生活を守る活動を続けたい」と話した。
 

◆障害者自立支援法訴訟:「二度と苦しめないで」 地裁で和解成立 /奈良
(2010.03.30 毎日新聞 地方版/奈良 27頁)
 障害者自立支援法で定める福祉サービス利用料の原則1割負担(応益負担)は違憲だとして、奈良市在住で知的障害のある小山冨士夫さん(53)が国と市に負担廃止などを求めた訴訟は29日、奈良地裁(一谷好文裁判長)で和解が成立した。全国14地裁で71人が提訴し、和解成立は、24日のさいたま地裁に次いで全国2例目で、西日本では初めて。
 和解内容は、1月の原告側と国の基本合意に沿って、国は速やかに応益負担制度を廃止し、新制度を作るなどとし、原告側が訴えを取り下げた。
 小山さんは奈良市内の福祉施設に通い、紙すきなどの仕事に携わる。賃金は月額約1万3000円で、06年4月に同法が施行されてから、月々施設利用料など約3000円と食費約4000円を自己負担している。
 小山さんは和解後に記者会見し、「働くのにもお金を払わなくてはならないのは、絶対におかしい。新しい法律に期待している。二度と障害者を苦しめないでください」と訴えた。【高瀬浩平】


◆川口の福祉事業者の指定、県が取り消す 訓練等給付費不正請求など /埼玉県
(2010年03月27日 朝日新聞 朝刊 埼玉・1地方 029)
 県は26日、障害者の就労支援の「訓練等給付費」約830万円を不正請求したなどとして、障害福祉サービス業「カテヨ」(川口市赤山)に対し、障害者自立支援法に基づく障害者福祉サービス事業者としての指定を5月1日で取り消すと発表した。
 県障害者自立支援課によると、同社は、同事業者の指定を受けていない蕨、朝霞、川越3市の治療院で障害者を働かせ、訓練等給付費を不正請求するなどしていたという。


◆「点字訴状、受理を」 名古屋地裁に全盲女性 【名古屋】
(2010年03月27日 朝日新聞 朝刊 3社会 033)
 全盲の女性が弁護士の力を借りずに行政訴訟の訴状を点字で作り、26日、名古屋地裁に提出した。地裁側は「相手側との書面のやりとりをどうするかなど、検討させてほしい」として受け取りを保留した。女性は「点字の訴状を受け取ってくれれば、障害者が人の手を借りずに裁判ができる。そんな世の中になってほしい」と話す。地裁は30日までに対応を回答する。
 点字の訴状を出したのは、名古屋市熱田区に住む全盲の梅尾朱美さん(59)。障害者自立支援法に基づく障害程度の区分認定で、重度の「4」から軽度の「1」に変更した行政の審査を不服として、同市を相手に処分取り消しを求める訴訟を計画している。
 梅尾さんは弁護士に頼らない「本人訴訟」をするつもりで、付き添いは同じ障害のある支援者だけ。訴状は約1500字。「障害の状態に変化はないのに、不当に認定を変更された」と点字で記した。現在、選挙の投票や大学入試、就職試験では点字が使われている。裁判所も、障害のある人が裁判員に選ばれると、資料を点字にして配布できるようにしている。(志村英司)


◆全身不随の夫殺害 溝根容疑者介護36年の末に…「何度もせがまれ」=埼玉
(2010.03.27 読売新聞 東京朝刊 埼玉南 33頁)
 昨年暮れから「殺してほしい」と繰り返していたという。さいたま市岩槻区南下新井の自宅で25日夜、全身不随の夫を殺害したとして、妻の溝根久美子容疑者(69)が殺人容疑で逮捕された。貴照(よしあき)さん(78)が転落事故で寝たきり状態になったのは36年前。半生を介護にあててきた久美子容疑者は「『早く楽にして』と何度もせがまれ、心を鬼にした」と供述している。捜査関係者によると、取り乱すことなく調べに応じ、「穏やかな表情を見せている」という。
 岩槻署の発表などによると、久美子容疑者は25日午後9時45分頃、自宅寝室のベッドで横になっていた貴照さんの首を晒(さら)しで絞め、水でぬらしたタオルで口と鼻をふさいで殺害した疑い。
 久美子容疑者は「去年の暮れ頃から、夫が『もう死にたい』『殺してほしい』と繰り返すようになった」「この日も、夜8時頃から何度も『死にたい』と言われ、もうどうしようもないと思った」と供述。殺害後、さいたま市内の次女(47)に「お父さんを殺してしまった」と留守番電話を入れ、自ら通報して救急車と警察を呼んでいた。
 近所の住民らによると、夫婦は1965年頃、現住所に引っ越し、自宅敷地内にプラスチック加工の作業場を開設。2人の子どもにも恵まれ、楽しそうに出かける家族の姿を覚えている住民も少なくない。
 生活が一変したのは74年。作業場の雨どいのペンキ塗りをしていた貴照さんが脚立から足を踏み外し、頸椎(けいつい)を損傷。全身不随で第1種身体障害者になった。
 近所の女性(71)は、久美子容疑者が自転車に乗って買い物に出かけ、ゴミ捨てに出入りする姿をよく見かけた。しかし「立ち話はせず、すぐに家に帰っていった」と話す。
 作業場を始める際、保証人になったという近くの高齢の夫妻は「弱音を吐いたり、相談したりしない人。1人で背負い込んでしまったのか」と声を詰まらせた。
 介護保険制度に基づくデイサービスや、2006年施行の障害者自立支援法によるヘルパー派遣、介護施設に入居できる障害者福祉サービスなどがあるが、いずれも本人の申請が必要。岩槻区によると、文書を郵送するなどしてサービスを周知しているが、貴照さんも久美子容疑者も申請していなかったという。


◆全盲女性 点字の訴状 名古屋地裁「対応検討」支援法での認定に不服=中部   
(2010.03.27 読売新聞 中部朝刊 中2社 38頁)
 障害者自立支援法に基づく名古屋市の認定を不服として、全盲の同市熱田区、梅尾朱美さん(59)が26日、認定取り消しを求める訴訟を起こすため、点字で書かれた訴状を名古屋地裁に持参した。
 全日本視覚障害者協議会(東京)の田中章治会長(64)によると、点字の訴状は全国でも初めてという。同地裁民事部はこの日、訴状を受け取らず、「対応を検討し、30日までに何らかの回答をする」とした。
 梅尾さんは生後10か月で失明。同市は2006年に障害程度区分を「4」と判断したが、昨年は最も軽い「1」と認定した。このため、家事や外出を支援するヘルパーの派遣時間が3分の1以下に減ったという。
 点字の訴状は6ページで、1500〜1600字相当。梅尾さんは「人の手を借りずに提訴できる仕組みを認めてほしい」と訴えている。
 裁判所法は「裁判所では日本語を用いる」と定めているが、点字についての明文規定はない。田中会長によると、自治体が水道料金の通知を点字で知らせるなどの取り組みは徐々に普及しているが、点字を公文書と認める動きはほとんどないという。


◆自立支援法訴訟、和解喜ぶ原告団 新制度へ「これが本当のスタート」 /埼玉県
(2010年03月25日 朝日新聞 朝刊 埼玉・1地方 035)
 福祉サービスの利用に応じて原則1割負担を課す障害者自立支援法の違憲性が問われた集団訴訟で、全国初の和解が24日、さいたま地裁で成立した。原告の障害者らと被告の国が1月に交わした基本合意で、2013年8月までに同法が廃止され、新法が作られることになっている。原告団は和解を喜びつつ、「新しい制度へのスタート」と気を引き締めた。(西村圭史)
 「初めは合意に反対だったが、争い続けるよりも、良い制度を作るために賛成しようと思った」。この日の口頭弁論で、和解に先立ち、さいたま市に住む原告の五十嵐良さん(36)が意見陳述した。
 遠山広直裁判長は「障害者が社会の対等な一員として安心して暮らせるために最善を尽くすことを、厚生労働省が約束した」として、和解を勧告。1月の基本合意の全文を読み上げた。
 提訴は08年10月。障害者12人が、「生存権の侵害」などとして自己負担の取り消しを求め、国とさいたま、越谷、春日部、行田、川口、川越、日高、鶴ケ島の8市を訴えていた。
 閉廷後、さいたま市浦和区の県自治会館で原告団の記者会見があり、五十嵐さんは「これが本当の運動のスタート。仲間と頑張りたい」と話した。報告集会も開かれ、約320人の支援者らが集まった。行田市に住む原告の板垣忠織さん(34)は、母親が理事長を務める社会福祉法人の作業所で働いている。母親は「私の名前で息子に対し、給料より多い自己負担の請求書を出さなくてはならないことがつらかった」。
 春日部市に住む原告の西紀子さん(31)の父親は「本当に歴史的な日。でも、この日が忘れられるくらい、早く障害者が普通に暮らせるようになってほしい」と話した。


◆自立支援法訴訟 和解「最後まで迷った」 障害者ら 行政へ不信感根強く=埼玉
(2010.03.25 読売新聞 東京朝刊 埼玉南 33頁)
 福祉サービスを利用した障害者に「応益負担」を課す障害者自立支援法の施行から間もなく4年。県内の障害者らが、国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟は24日、さいたま地裁で和解が成立し、同法の廃止と、新たな総合的福祉制度を定めることが確認された。しかし、障害者や家族たちには、現状も知らないまま、原則1割の自己負担を求めた行政に根強い不信感がある。原告のある親族は「和解するかどうか最後まで迷った」と語った。
 「自立支援法は十分な実態調査を踏まえずに施行された。今回の裁判は障害者の実態を知ってもらうための裁判だった」と原告弁護団の柴野和善弁護士は振り返る。原告側は訴訟で、裁判官に対し、施設の「検証」を求めていた。検証先に挙げたのは、日高市栗坪の「かわせみ」。障害者41人が通い、クッキーや生花、肥料を作って市役所に販売したりしている施設だ。
 「働いているのに、なぜ施設利用料を払わないといけないのか」。通所する原告の村田勇さん(30)は納得ができなかった。月々の給料は約1万円。同法施行で月1500円の負担が村田さんに重くのしかかった。11年前から仕事を探しているが、知的障害と若年性関節リウマチがあり、就職先は見つからない。
 同法は施設利用を「就労移行支援」などと位置づけた。萩原政行施設長(57)は「通所者は地域とも連携し、ちゃんと仕事をしている。実際に来て、働いている姿を見てもらいたかった」と訴える。
 施設入所者の負担はさらに大きい。蓮田市黒浜の障害者支援施設「大地」。入所する原告の秋山拓生さん(36)は脳性まひを抱え、歩くことも話すこともできない。障害基礎年金が月約8万2000円支給されるが、施設利用料の自己負担分などを差し引くと、手元に残るのは2万5000円弱。施行前より約2万円減った。生活費もかかるため、ほぼ毎月赤字だ。
 「死んだ後の子どもの将来が不安でたまらない。最低限の命を守ることだけは保障してほしい」。母親の宇代さん(68)は言う。「障害を持って生まれたことも自己責任なのでしょうか」
 国や障害者らでつくる「障がい者制度改革推進会議」が今、新たな福祉制度を検討している。柴野弁護士は「厚労省には、実態を踏まえた新法を制定してもらうためにも、ぜひ現場に来てもらいたい」と訴える。
 県内で同法に基づく福祉サービスの支給対象者は約2万2000人。「これからがスタート。障害者が連携し、現場の声を反映してもらえるよう監視していきたい」と宇代さんは言うが、「今後、政権交代などがあった場合、合意がどう生かされるのか、不安が残る。判決で違憲と判断してもらいたいという思いもあった。最後の最後まで、和解していいのかどうか、心が揺れた」と明かした。


◆障害者自立支援法訴訟:和解 原告ら「新しいスタート」 新制度へ改めて決意 /埼玉
(2010.03.25 毎日新聞 地方版/埼玉 25頁)
 障害者自立支援法の定める「応益負担」は違憲として、県内の障害者12人が国などに利用料の自己負担廃止を求めた訴訟は24日、さいたま地裁で全国で初めて和解した。法を廃止し、速やかに新制度を制定することが司法の場で確認され、法廷での争いは幕を閉じた。「今日が新しいスタート」。喜びをかみ締めた原告らは、障害者の意見を取り入れた新たな制度づくりに向け、改めて決意を胸にした。【町田結子、飼手勇介】
 「障害者が本当に安心して暮らせる新しい法律ができるよう、これからも運動を続けたい。国が同じ過ちを二度と繰り返さぬように」。午前11時から始まった第7回口頭弁論で、先天性の脳性まひによる障害があるさいたま市緑区馬場の原告、五十嵐良さん(36)は車椅子に腰掛けたまま、意見陳述で声を振り絞った。
 遠山広直裁判長が、1月に国と原告らが締結した「基本合意」に基づく和解条項を読み上げると原告、被告の両者がうなずき和解が成立。傍聴席からは拍手が起こった。
 厚生労働省は「合意を踏まえつつ、障害がある方が社会の対等な一員として、安心して暮らすことのできるよう努めていきたい」とコメントした。
 約320人が詰めかけた報告集会では「勝訴和解」などと書かれた横断幕がはられ、原告団を大きな拍手で迎えた。
 脳性まひによる障害がある原告の新井育代さん(38)の母たかねさん(63)は「自立支援法の下、障害者親子の心中もたくさんあった。半歩違えば誰もがそのような状況になる。障害者が安心して暮らせる社会のため、新制度制定に向け少しも手を緩めてはいけない」と決意を新たにしていた。
 原告の板垣忠織さん(30)の母で、障害者の通所施設を運営する慶子さん(52)は「利用料が日額払いとなったせいで、施設の収入は約8割になった。施設を守るために職員の人件費を下げざるを得なかった。それでも誰も辞めず頑張ってくれたからここまでこられた」と感謝の意を述べた。
 4月21日の東京地裁まで全国13地裁で順次和解が成立する予定。新制度は、6割のメンバーが障害者やその家族からなる「障がい者制度改革推進会議」で議論され、13年8月までの成立を目指す。


◆きのうの夕刊から:自立支援法で初の和解
(2010.03.25 毎日新聞 西部朝刊 24頁 社会面)
 障害者自立支援法で定める福祉サービス利用料の原則1割負担(応益負担)は「生存権を侵害して違憲」として、埼玉県内に住む障害者12人が、国などに負担廃止などを求めた訴訟は24日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)で和解が成立した。他に同種の訴訟を全国13地裁に59人が起こしたが、原告側と国は法を廃止することで1月に基本合意している。4月までに各地裁で順次和解が成立する見通し。


◆障害者自立支援法訴訟:和解 厳しい新制度確立
(2010.03.25 毎日新聞 東京朝刊 28頁 社会面)
 全国14地裁で71人が国を訴えた障害者自立支援法の集団違憲訴訟は24日、さいたま地裁で初の和解が成立した。1次提訴から11カ月後に政権が交代し、判決前に国が法律廃止を表明した「行政訴訟史上まれな裁判」(竹下義樹・原告弁護団長)は、障害福祉法制を大きく転換させるきっかけとなった。だが、財政難を背に、持続可能な新制度を確立する道のりは厳しい。【野倉恵】
 障害者福祉サービスは03年度、利用者がサービス内容を選び事業者と契約する「支援費制度」に転換した。支払い能力に応じた負担となり「障害者の意見を国が相当くんだ、一つの到達点」(障害者団体幹部)と歓迎された。
 だが、サービス量の急増で初年度から100億円超の財源不足になり、06年度、1割を原則自己負担する自立支援法が導入された。
 所得保障が十分でなく障害が重くなるほど負担も重くなる仕組みだったため、年金や福祉手当に頼る障害者を圧迫。福祉施設を営む事業者も、定員に応じて毎月支払われていた報酬が、利用実績による日割り計算となり、経営を圧迫された。原告第1号の秋保喜美子さんは「障害を『自己責任』とみなす仕組み」と批判した。
 長妻昭厚生労働相は就任4日目に同法廃止を表明。訴訟を支える障害者団体幹部らと旧知の山井和則政務官が「私もこの法律施行後、施設経営者の親友を亡くした。共に新たな仕組みを考えてください」と原告側に語りかけ、交渉を始めた。厚労省は負担実態を初めて調べ昨年11月、障害者の87%で月平均8518円の負担増が判明した。
 昨年12月には10年度予算案での低所得者の負担無料化を巡り、弁護団が政務官室で詰め寄る場面も。結局、ホームヘルプや車椅子修理などは住民税非課税世帯で無料化されたが、手術などの医療費に負担が残った。
 先行きに不透明感も残り、訴訟終結へ見通しがついたのは、今年1月7日の「基本合意調印式」の1時間前だった。
 ◇財源確保が緊急課題
 支援法は当面、新制度ができるまで継続する。低所得者の医療費の無料化が緊急課題とされるが、約200億円の財源が必要だ。
 縦割りだった身体、知的、精神の障害福祉を一元化して、精神障害をサービス対象に加えた点は、「支援法の長所としてくむべきだ」との関係者の指摘はあるが、基本合意では「障害者の意見を踏まえることなく、拙速に」導入されたと自戒する。新制度は、障害者やその家族が6割を占める政府の「障がい者制度改革推進会議」が議論の場。制度の谷間をなくすため、難病や発達障害、高次脳機能障害などを含めるか、障害の範囲も再検討する。メンバーの障害者団体幹部は「私たちは政府を批判してきたが、今後は批判覚悟で、国民に共感される議論をしないと」と話している。
 ◇障害者ら「新法見守る」
 原告の障害者や支援者らは閉廷後の集会で「本当に障害者のためになる法律ができるまで安心できない」と声をそろえた。
 地裁近くであった集会には約320人が参加。原告の中村英臣さん(41)の母和子さん(69)は「ひどい法律が廃止されて新法が動き出すまで、しっかり見守りたい」と決意を語った。【飼手勇介、町田結子】


◆(水曜発!)障害者働ける新制度を 自立支援法訴訟、きょう和解成立へ /埼玉県
(2010年03月24日 朝日新聞 朝刊 埼玉全県・2地方 028)
 福祉サービスの利用に応じて原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は憲法違反だとして、全国14地裁で71人の障害者らが国などに自己負担をなくすよう求めていた訴訟で、さいたま地裁分(原告12人)が24日、最初の和解成立となる見通しだ。1月に全国訴訟団が厚生労働省と訴訟終結で合意した条件は、現行法廃止と新法制定。新制度には何が求められるのか。(西村圭史)

 白岡町小久喜の知的障害者の入所施設「太陽の里」。周辺には田畑が広がり、近くを東北道が通る。自閉症で強度行動障害がある林政臣さん(34)は、1996年からここで暮らす。原告の1人だ。
 午前8時過ぎ、テレビや食卓がある共同スペースで朝食を食べる。仰向けになり、職員に歯磨きをしてもらう。午前10時から、仲間と一緒に肥料を作る仕事に励む。作業が終わると、近くの公園まで散歩する。夕方、職員と一緒に階段の掃除をして、集団で入浴。夕食を終え、就寝する。
 初めから順調に生活できたわけではない。同年6月、両親の体調不良で短期入所し、9月に父親が亡くなると、着ている下着や服を破り続けるようになった。こっそり大量の水を飲んだり、他の入所者から飲み物を奪い取ったりするようにもなった。2000年12月、水中毒で入院。03年5月には2階から飛び降り、足を骨折して再び入院した。
 施設では職員が付きっきりで、林さんの要求を表情などから読み取るようにした。時間をかけて接することで意思疎通ができるようになった。
   *
 しかし、06年に障害者自立支援法が施行されてから、林さんの生活は経済的に圧迫され始めた。
 それまでは、利用者の負担は所得に基づく「応能負担」だったが、利用額の原則1割を負担する「応益負担」へ。林さんは月に約1万円だった施設利用料などが約2万5千円になった。同法施行で、施設の光熱費と食費も負担するようになり、合計で1カ月の出費が約5万円から約8万円に増えたという。
 1カ月の収入は、障害基礎年金(約8万円)と、父親が生前積み立てていた障害者扶養共済(4万円)の計約12万円。負担が増えて施設の利用をあきらめたり減らしたりする障害者が相次いだため、同法施行後に2度の自己負担軽減策が実施された。それでも林さんは、水中毒後に必要になった栄養補給用飲料の費用を負担している。
 林さんは母親を後見人として08年10月、「生存権などの侵害で違憲」として、他の原告6人と一緒に国と自治体を相手取り、さいたま地裁に提訴した。法廷で母親は「自立支援法は、人間らしく食事やトイレをすることにも、お金を払わせている」と訴えた。
 原告は全国14地裁で71人に増えた。当初、国側は争っていたが、政権交代で流れが変わった。衆院選直後の昨年9月、長妻昭厚生労働相は同法廃止を明言。今年1月、「心から反省の意を表明し、施策の立案・実施に当たる」として、原告・弁護団との基本合意文書に署名した。これを受け、各地裁で和解に向けた手続きが進められてきた。
 鳩山由紀夫首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が設置され、下部組織として障害者団体らによる「障がい者制度改革推進会議」が作られた。県内の原告団も毎回傍聴しているという。
   *
 基本合意では、13年8月までに同法を廃止し、新法を制定することになっている。しかし、障害者自立支援法は、それまでの支援費制度の財源が破綻(はたん)したとして生まれた経緯がある。「応能負担」に戻すという新しい制度には、どんな支援が求められるのか。
 障害者福祉をテーマに経済学を研究する中島隆信・慶応大学教授は、生活支援を手厚くすると同時に、企業で働ける環境作りをもっと進めるべきだと訴える。「弱い部分をどう助けてあげられるかという視点と同時に、個々の強みをどう生かすかという視点も持たなくてはいけない」
 厚生労働省によると、昨年6月現在の民間企業の障害者実雇用率は1・63%で、障害者雇用促進法の法定雇用率(1・8%)を達成した企業は45・5%。埼玉労働局によると、同時期の県内の民間企業の実雇用率は1・54%で、全国下位の42位だ。
 中島教授は、制度を考える際、障害者を雇って成功している企業にも参加してもらうことが重要だという。「できる仕事や必要な制度は、障害によって違う。どんな職種に向いているか、働くための準備は何が必要かというアイデアは、企業からしか出ない。行政には、いかに福祉施設と企業をつないでいくかという支援が求められる」

◇障害者福祉制度の変遷
◇2002年度まで 措置制度
 ・自治体がサービスを決定
 ・法律は障害の種類別
 ・負担は所得に基づく「応能」
◇03〜05年度 支援費制度
 ・「自己決定の尊重」のため、利用者がサービスを選んで事業者と契約
 ・負担は「応能」のまま
◇06年度〜 障害者自立支援法
 ・身体、知的、精神の各障害者福祉を統合
 ・負担は原則1割の「応益」に(07年4月と08年7月に軽減措置実施)
 ・サービスの種類と量を決める「障害程度区分」を導入
◇09年9月
 ・長妻厚労相が同法廃止方針を明言
◇10年1月
 ・原告団と国が同法廃止などで合意


◆(明日に望む 2010名張市長選)自立へ当事者の声を 佐々木康弘さん /三重県
(2010年03月24日 朝日新聞 朝刊 伊賀・1地方 035)
 名張市精神障害者連絡会代表(52歳)

 名張市精神障害者連絡会の代表として、障害がある人が地域で当たり前に暮らせるようになることを目指している。市独自の心身障害者医療費助成制度が見直されて助成額が減らされた時には、市に具体的な代案を提示するとともに、街頭で市民に訴え、市に当事者と議論するよう求めてきた。
 制度見直しで運動していて感じたのは、当事者と一緒に考えるスタンスが行政になかったこと。当事者とともに制度を作っていこうと呼びかけたのだが、本当に困っている人の意見を聞く姿勢が感じられなかったのは残念だ。
 誰もが自分の意志で自立して暮らせる町になるのが願いだが、津市などと比べ、行政と当事者、福祉関係者のつながりがまだ少ない感がある。
 今回の選挙で選ばれる市長には、当事者の活動をサポートする視点を持って欲しい。例えば、当事者自身も地域に出ないといけないのだが、市民は精神障害者のことを知らないのが現状だ。市民への啓発活動を当事者が担えば、こうした経験が当事者自身の自立への力にもなる。このような取り組みにぜひ予算を付けてほしい。最初は完全にできないかもしれないが、育てる観点を持ってほしい。行政の仕事を障害者が担う機会を設けることも検討すべきだ。障害ある人が公務員として働く姿を見ることで、市民の理解も深まるのではないか。
 当事者が自由に話をして意見を言える場を設けることも大切だ。国は障害者自立支援法の見直しで委員会に当事者を入れている。市も行政の委員会に当事者を多く加えるなど、見習ってほしい。
 また、精神障害者についてはまだまだ居場所がないのが現状だ。ごく普通に地域に小さな施設があるとよいのだが……。(聞き手・前田智)
      ◇
 名張市長選が28日に告示される。市の将来像に市民は、何を望むのか。各分野で活動する3人に聞いた。


◆障害者支援訴訟が和解 さいたま地裁、全国で初
(2010年03月24日 朝日新聞 夕刊 1社会 019)
 福祉サービスの利用に応じて原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は憲法違反だとして、全国14地裁で71人の障害者らが国や自治体に自己負担をなくすよう求めていた集団訴訟で最初の和解が24日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)で成立した。
 同地裁に提訴していた12人は、国や埼玉県内8市に、自己負担の取り消しなどを求めていた。遠山裁判長は24日、「訴訟の意義を厚生労働省が理解した」などとして、和解を宣告した。
 最初の集団提訴は2008年10月で、8地裁に30人が訴えた。原告側は「生存権を侵害している」などと主張していた。障害者が福祉サービスを利用する場合、06年に支援法が施行されるまでは所得に応じた負担だったのに、施行後は利用額の原則1割を負担することになった。
 国側は当初争う姿勢だったが、政権交代で方針を転換。衆院選直後の昨年9月、長妻昭厚生労働相が支援法廃止を明言した。今年1月、「障害者の尊厳を深く傷つけた」と反省の意を表明し、訴訟を終結することで原告・弁護団と基本合意した。これを受け、各地裁で和解に向けた準備が進んでいた。基本合意では、13年8月までに支援法を廃止し、新法を制定することになった。
 同省は「障害のある方が社会の対等な一員として安心して暮らせるよう努める」と談話を出した。


◆障害者自立支援法 違憲訴訟 初の和解/さいたま地裁  
(2010.03.24 読売新聞 東京夕刊 夕2社 10頁)
 埼玉県内の障害者ら12人が国などを相手取り、障害者自立支援法による自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の口頭弁論が24日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)であり、長妻厚生労働相と全国原告団による同法廃止などを盛り込んだ今年1月の基本合意を確認し、和解が成立した。
 違憲訴訟は全国14地裁(原告計71人)に提訴されたが、和解は初めて。
 和解内容は、同法を廃止し、2013年8月までに新たな総合的福祉制度を定めることのほか、〈1〉国は、障害者の意見を十分に踏まえず、障害者や家族らに混乱と悪影響を招いたことに反省の意を表明する〈2〉新制度の制定には、障害者が参加して十分に議論する――など。
 原告側は自己負担分の損害賠償を放棄する。
 原告側は、福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求める同法は、生存権を保障した憲法に反すると主張していた。
 残る13地裁でも順次和解し、4月21日の東京地裁ですべての訴訟が終わる見通しとなっている。
 和解後、原告側の柴野和善弁護士は記者会見し、「和解は障害者が安心して暮らせるための第一歩になる。新しい政策に向けて、国と協議していきたい」と語った。厚労省も「合意を踏まえつつ、障害のある方が社会の対等な一員として安心して暮らせるよう努める」とコメントした。


◆障害者自立支援法訴訟:初和解 原告の母、負担ゼロが願い 「弱者の笑顔守る国に」
(2010.03.24 毎日新聞 西部夕刊 9頁 社会面)
 「この法律がある限りは死に切れなかった」。障害者自立支援法の撤廃が法廷で改めて確認された24日のさいたま地裁での和解。脳性まひの長男を持つ母、秋山宇代(たかよ)さん(68)は閉廷後「和解が成立してとにかくほっとしました。でも、これが出発点です」と決意を新たにした。【飼手勇介】
 原告の長男拓生さん(36)が暮らす埼玉県蓮田市内の入所施設では、1カ月約50万円の利用料の1割が自己負担となった。他に食費や光熱費約3万円が必要だ。拓生さんの収入は障害年金の約8万2000円。自己負担の一部が減免されるものの、手元には2万5000円しか残らない。法施行前に比べて約2万円減り、宇代さんは生活費の不足分を夫(71)との年金で支えてきた。
 「応益負担」では、入所者が買い物や定期検診などの単独行動をすると、介護施設は別料金のサービス料を請求できる。また入所者が急病で入院すると、収入源を失う施設側は3カ月で契約を打ち切ることが可能にもなっていた。宇代さんは「貯金が無くなれば食べて寝るだけの生活になる。突然帰る場所がなくなるかもしれないという不安も募り、夜も眠れなかった」と話す。
 拓生さんが入所する施設を運営する社会福祉法人理事長の高橋孝雄さん(55)は「入所者の入院が延びるたびに、契約を打ち切るかギリギリの協議をしてきた。多い年は約700万円の損害があった」と明かし「親の経済状況によって受けられるサービスが大きく変わるのは福祉と呼べない」と強調した。
 宇代さんは「法律が『自立』を押しつけてきた。選挙権の行使がままならない弱き者の暮らしを踏みにじる法律を変え、本当の支援法をつくりたい」という。障害者の負担がゼロになる福祉制度とともに施設職員の生活安定を望んでいる。「障害者と職員が心を通わせる余裕がある国になってほしい。多くの人の支えがあって笑顔が保たれる。その笑顔が支える人を明るくするんです」
  ◇福岡訴訟原告「一つの節目」
 障害者自立支援法を巡っては福岡地裁でも3人が提訴している。「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす福岡の会」事務局の赤松英知さん(44)=北九州市若松区=は「今日は一つの節目。障害者支援のための新制度づくりに向けた、運動の第一歩です」と話した。
 また、原告の平島龍磨さん(42)=福岡県福智町=は来月16日に福岡地裁で開かれる弁論に向けて、最終陳述の原稿を書いている。平島さんは赤松さんに「ほっとしています」と語る一方、「当初は現政権に期待感を持っていたが、政治とカネの問題などいろいろな問題が出てきており、新たな制度づくりへのマイナス面の影響が心配」と話したという。
 ◇新制度策定、障害者中心に議論へ
 「基本合意」に基づく新制度策定の議論は、障害者や家族がメンバーの6割を占める政府の新組織「障がい者制度改革推進会議」が舞台となる。今後、同会議内に専門部会を設け、負担の在り方や福祉サービスの対象となる障害などについて議論を本格化させる。
 当面の課題は、新制度に移行するまでの間の低所得者の負担軽減策。障害者自立支援法施行で、サービス利用者の7割以上を占める市町村民税非課税世帯の障害者は負担が重くなり、9割で月平均8000円以上負担が増えたためだ。
 低所得者の負担無料化は「合意の前提」(原告弁護団)。10年度予算案では、住民税非課税世帯のサービス給付などの負担は無料とされたが、医療費については見送られ、財源確保が焦点となる。このほか、障害程度の区分の在り方なども検討課題だ。【野倉恵】


◆障害者自立支援法訴訟:和解 負担ゼロ、母の願い
(2010.03.24 毎日新聞 東京夕刊 11頁 社会面)
 ◇脳性まひの長男、出費2万円増 年金で不足分支え
 「この法律がある限りは死に切れなかった」。障害者自立支援法の撤廃が法廷で改めて確認された24日のさいたま地裁での和解。脳性まひの長男を持つ母、秋山宇代(たかよ)さん(68)は閉廷後「和解が成立してとにかくほっとしました。でも、これが出発点です」と決意を新たにした。【飼手勇介】
 原告の長男拓生さん(36)が暮らす埼玉県蓮田市内の入所施設では、1カ月約50万円の利用料の1割が自己負担となった。他に食費や光熱費約3万円が必要だ。拓生さんの収入は障害年金の約8万2000円。自己負担の一部が減免されるものの、手元に2万5000円しか残らない。法施行前に比べ約2万円減り、宇代さんは生活費の不足分を夫(71)との年金で支えてきた。
 「応益負担」では、入所者が買い物や定期検診などの単独行動をすると、介護施設は別料金のサービス料を請求できる。また入所者が急病で入院すると、収入源を失う施設側は3カ月で契約を打ち切ることが可能にもなっていた。宇代さんは「貯金が無くなれば食べて寝るだけの生活になる。突然帰る場所がなくなるかもしれないという不安も募り、夜も眠れなかった」と話す。
 拓生さんが入所する施設を運営する社会福祉法人理事長の高橋孝雄さん(55)は「入所者の入院が延びるたびに、契約を打ち切るかギリギリの協議をしてきた。多い年は約700万円の損害があった」と明かした。
 宇代さんは「法律が『自立』を押しつけてきた。選挙権の行使がままならない弱き者の暮らしを踏みにじる法律を変え、本当の支援法をつくりたい」という。障害者の負担がゼロになる福祉制度とともに施設職員の生活安定を望んでいる。「障害者と職員が心を通わせる余裕がある国になってほしい。多くの人の支えがあって笑顔が保たれる。その笑顔が支える人を明るくするんです」
 ◇サービス対象など議論
 「基本合意」に基づく新制度策定の議論は、障害者や家族がメンバーの6割を占める政府の新組織「障がい者制度改革推進会議」が舞台となる。今後、同会議内に専門部会を設け、負担の在り方や福祉サービスの対象となる障害などについて議論を本格化させる。
 当面の課題は新制度に移行するまでの間の低所得者の負担軽減策。障害者自立支援法施行でサービス利用者の7割以上を占める市町村民税非課税世帯の障害者は負担が重くなり、9割で月平均8000円以上負担が増えたためだ。
 低所得者の負担無料化は「合意の前提」(原告弁護団)。10年度予算案では、住民税非課税世帯のサービス給付などの負担は無料とされたが、医療費については見送られ、財源確保が焦点となる。このほか、障害程度の区分の在り方なども検討課題だ。【野倉恵】
  ◇障害者自立支援法違憲訴訟の経緯◇
05年10月 自公政権下で自立支援法成立
06年 4月 自立支援法施行
08年10月 全国8地裁に一斉提訴(第1次)
09年 4月 全国10地裁に一斉提訴(第2次)
    9月 マニフェストで法廃止を掲げた民主党による連立政権が誕生。長妻昭厚生労働相が自立支援法の廃止を明言
   10月 全国4地裁に一斉提訴(第3次)
10年 1月 原告側と国が法廃止などで基本合意
    3月 さいたま地裁で初の和解成立


◆障害者自立支援法訴訟:1割負担廃止 国と初の和解−−さいたま地裁
(2010.03.24 毎日新聞 東京夕刊 1頁 政治面)
 障害者自立支援法で定める福祉サービス利用料の原則1割負担(応益負担)は「生存権を侵害して違憲」として、埼玉県内に住む障害者12人が、国などに負担廃止などを求めた訴訟は24日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)で和解が成立した。他に同種の訴訟を全国13地裁に59人が起こしたが、原告側と国は法を廃止することで1月に基本合意。4月までに各地裁で順次和解が成立する見通し。(社会面に関連記事)
 和解内容は「基本合意」に沿い、▽国は速やかに応益負担を廃止し、2013年8月までに新制度を制定する▽国は、障害者の意見を十分踏まえず拙速に制度を施行して障害者の尊厳を深く傷つけたことに、心から反省の意を表明する――など。また原告で、先天性の脳性まひによる障害があるさいたま市緑区、五十嵐良さん(36)は意見陳述し、「障害者が本当に安心して暮らせる新しい法律ができるよう、障害者の声を聴いた法律にしていければと思う」と述べた。
 障害者自立支援法は自公政権下の05年10月に成立した。収入に応じて福祉サービス利用料を支払う「応能負担」から、障害が重いほど負担が増す「応益負担」に転換したため、多くの障害者が「生存権や平等権を定めた憲法に違反する」などと反発。政権交代後の昨年9月、長妻昭厚生労働相が法の廃止を表明し、国と原告、弁護団が基本合意を締結した。【飼手勇介、町田結子】
 □ことば
 ◇障害者自立支援法
 「小泉改革」の一環として05年10月に成立した。身体、知的、精神の3障害に対する福祉サービスを一元化し、障害者が自立した生活をできるように支援することが目的。一方で、財源を安定させるため、収入に応じて福祉サービスの利用料を支払う従来の「応能負担」を転換し、収入に関係なく原則1割を自己負担する「応益負担」を導入した。


◆ことば:障害者自立支援法
(2010.03.24 毎日新聞 東京夕刊 1頁 政治面)
 ◇障害者自立支援法
 「小泉改革」の一環として05年10月に成立した。身体、知的、精神の3障害に対する福祉サービスを一元化し、障害者が自立した生活をできるように支援することが目的。一方で、財源を安定させるため、収入に応じて福祉サービスの利用料を支払う従来の「応能負担」を転換し、収入に関係なく原則1割を自己負担する「応益負担」を導入した。


◆難病 支援の手届かず 生活、職探し… 
(2010.03.23 読売新聞 東京夕刊 安心A 05頁)
 福祉制度の「谷間」にあるといわれる難病。医療面での支援はあっても、患者の生活を支える介護、就労支援などは、制度の対象外となるケースが多い。公的なサポートがないまま孤立し、苦しい療養生活を送る人たちを取材した。(梅崎正直、写真も)
 □買い物、掃除に苦労
 薬局で見知らぬ人から祝福の言葉をかけられると、アユミさん(仮名=47)は複雑な笑みを浮かべた。膨らんだおなか。そこには、腹水がたまっている。
 40歳の時、多発性肝嚢胞(のうほう)を発症した。肝臓に腹水がたまる難病。福島県内のホテルに勤めていたが、不規則な勤務が続くうちに、疲れが取れなくなった。ある朝、背中に激痛が走り、そのまま4か月入院した。
 体が重く、壁に寄りかかって歩く。すぐに息が切れる。突然襲ってくる痛みで、救急外来の世話になることもしばしば。独り暮らしで、医療費を払うため懸命に働いたが、入院のたびに辞めざるを得なかった。今は生活保護を受けている。
 困るのは、買い物や掃除といった身の回りのことだ。体調が悪いと、起きあがれず、食事をすることも難しくなる。そんな状態でも、ヘルパーの派遣など、国や自治体から支援はない。「買い物だけでも援助してくれたら、どんなに助かるか……」と、思いは切実だ。
 障害者手帳を持たない難病患者は、障害者自立支援法によるサービスの対象外。介護保険が使えるケースも限定的だ。自力で生活を維持するのが難しい人にも、多くの場合、支援の手は届かない。「難病をもつ人の地域自立生活を確立する会」代表の山本創さんは「多くの重症患者が、地域で孤立しているのが実態」と話す。
 □障害者手帳がない
 沖縄県豊見城(とみぐすく)市に住む西銘(にしめ)亜希さん(34)は、地域の求人紙とにらめっこをする日々が続く。一昨年の春、ひどい発熱と痛みを伴う全身性エリテマトーデスを発症。このとき失業して以降、ずっと無職だ。志望した26社すべてに不採用。「難病患者であることを履歴書に書かずに応募しても、面接で話すと必ず落とされた。そこで、履歴書にも書くことにしたのですが、今度は書類選考さえ通らなくなってしまいました」と話す。
 特定の難病を対象とした医療費補助を受けていたが、症状が軽くなると対象外に。無収入で、貯金も底をついた昨年暮れからは、医療費が払えなくなった。通院をやめ薬もなく、激痛で眠れない日が続く。
 このように、難病患者の多くは医療で症状が改善しても、その後の就労など生活基盤への支援がない。仕事がなく、医療費を払えなければ、また病状が悪化するだけだ。
 「制度の谷間」の現実も西銘さんは知った。ある会社の面接官に、「障害者の法定雇用率に入れられないから雇えない」と言われたのだ。民間企業には全従業員の1・8%以上の障害者を雇う義務があるが、手帳のない難病患者は算入できない。
 □制度改革に期待
 患者が期待を寄せるのが、政府の新たな動きだ。今年1月に設置された障がい者制度改革推進会議では、障害者参加のもと、廃止される障害者自立支援法に代わる新制度の議論が始まっている。その論点の一つが、難病などを支援対象に含めるかどうかだ。会議メンバーの意見は「支援ニーズがあるかどうかで適用範囲を決めるべきだ」など、「谷間」のない制度を作る方向で、ほぼ一致している。山本さんは「障害のある臓器や部分によって対象を限定しない制度になれば」と期待している。
 ◇難病患者等居宅生活支援事業 130疾患を対象に、入浴、食事などの介護、家事援助などのヘルパー派遣、ショートステイなどがある。実施している自治体は全体の約35%。「難病をもつ人の地域自立生活を確立する会」のホームページ(http://www.k5.dion.ne.jp/〜against/)が参考になる。
 ◇特定疾患治療研究事業 56疾患が対象。主治医の診断に基づき、都道府県が「特定疾患医療受給者証」を交付。医療費自己負担分の一部を給付する。「難病情報センター」のホームページ(http://www.nanbyou.or.jp/)で、疾患の説明、相談窓口の紹介などを行っている。


◆高齢者と障害者 共に暮らす ロビーで談話 自然に役割分担
(2010.03.23 読売新聞 東京夕刊 安心A 05頁)
 認知症の高齢者と、障害者が一緒に暮らす「共生型グループホーム」が昨年12月、富山県でオープンした。世代や障害の違いを超え、支え合いながら、地域で暮らし続けることを目指す。全国的にも数少ない取り組みで、注目が集まっている。(飯田祐子、写真も)
 □親子で入居も
 空が暗くなり始めるころ、同県入善町の共生型グループホーム「双葉」に、若い障害者たちが、がやがやと話しながら入ってきた。ロビーのソファでくつろぐお年寄りに「ただいま」と声をかけ、2階の自室へ。荷物を置くと、すぐにロビーに戻ってきて、お年寄りの間に座った。
 「2階にも談話室があるのですが、いつもこんなふうに、ロビーに集まってくるんですよ」。「双葉」代表者の石丸真弓さんが目を細める。
 住人は、75〜92歳の高齢者9人、26〜65歳の知的・精神障害者7人の計16人。企業の施設だった2階建ての建物を改修し、1階に高齢者、2階に障害者の生活スペースを配置している。
 障害者は、日中は地元の企業や福祉作業所などで働いているが、夜間や週末は、高齢者と雑談やゲームを楽しむ。石丸さんは、「障害者が雪かきを行ったり、お年寄りが障害者にアイロンのかけ方を教えたり、役割分担が生まれている。障害者がお年寄りから人とのつきあい方を学んでくれるといい」と期待する。
 「双葉」を開設した社会福祉法人「にいかわ苑」は、障害者の福祉作業所などを運営しており、「親が年老いても、親子で暮らしたい」という障害者と親の願いをかなえるため、共生型グループホームを計画。実現に向けて、県や町と協議を重ねた。
 高齢者の場合、認知症でないと入居できないため、実際に親子で住んでいるのは、精神障害の男性(49)とその母親(79)の一組のみ。男性は、「一緒に暮らせて安心です」と話し、母親は、「朝、息子が起こしてくれる」と顔をほころばせる。
 □会計、職員は別々
 認知症高齢者のグループホームは、介護保険の「認知症対応型共同生活介護」、障害者のグループホームは、障害者自立支援法の「共同生活援助」で、異なる制度をよりどころにしている。運営は、それぞれの設置基準を満たしたうえで、会計も全く別にして、職員も分けなくてはならない。
 「双葉」には、3人の地元の障害者が通ってきて、清掃などを担当しており、就労の場にもなっている。「にいかわ苑」の若林清彦理事長は、「障害者が高齢化して認知症になったとしても、住み続けることができる。事務の煩雑さは難点だが、多くのメリットがある」と話す。
 □開設には制度の壁
 共生型グループホームの先駆けは、2004年に宮城県白石市で開設された「ながさか」だ。県職員の発案による県のモデル事業としてスタートした。その後、県内各地で開設が相次ぎ、現在は12か所で運営されている。
 富山、宮城の両県以外でも、共生型グループホームをつくる動きはある。
 「ながさか」を運営する社会福祉法人「白石陽光園」の太田清記・法人本部事務局長は、「高齢者と障害者でそれぞれ異なる制度の壁を乗り越えるのが難しい。開設には、自治体の強い後押しが欠かせない」と話している。
 ◇ 「にいかわ苑」のサイト(http://www13.ocn.ne.jp/〜niikawa)
 ◇宮城県の共生型グループホームについては、県社会福祉課のサイト(http://www.pref.miyagi.jp/syahuku)を参照。


◆地域で暮らす:精神障害、いま/下 支援施設
(2010.03.23 毎日新聞 中部朝刊 26頁 社会面)
 ◇経営不安理念に障壁
 「人と話をする気力もなくなる時がある」。名古屋市に住む統合失調症の50代男性は言う。27年前に発症、2年間入院した後は、親と自宅で生活。デイケアなどに通うが、気分が重くなると病院に行かざるを得ない。
    ◇
 精神保健福祉法で設置された精神障害者の社会復帰を促す施設は、障害者自立支援法の移行期間が完了する12年3月末までに様変わりする。同じ建物で24時間生活する施設体系を改める。日中の活動と住まいを分離することで、地域生活を営めるようにする狙いだ。
 ところが、病院を退院した人が寝泊まりしながら生活習慣を学んだ「生活訓練施設」から、新体系の施設へ移行を済ませたのは、支援法が施行された06年の約2割に当たる66件にとどまる(厚生労働省調べ、昨年10月現在)。医療法人や社会福祉法人などの事業主が経営上の不安をぬぐえないのが大きな理由だ。
 従来は、規模に応じ施設に支給されていた補助金が、支援法では日々の利用実績に応じた報酬支払いに変わる。精神障害は症状に波がある。昨日まで元気に見えた人が、入院してしまうことも。一方で、空いた定員にすぐ別の人が入ることもできない。全国約550事業者からなる「全国精神障害者地域生活支援協議会」(伊澤雄一代表)は昨年12月、民主党に対し「事業所の運営困難が浮き彫りになった」などと制度の見直しを求めた。
 名古屋市守山区の医療法人が運営する生活訓練施設「守牧」は、97年から掃除や洗濯などの生活訓練を行い、自立につなげてきた。1年後には支援法に基づく日常介護のみのケアホームとして再出発する。定員は20人から12人へ、スタッフも5人から3人に減らす。
 石田竹男施設長は「退所による収入減を嫌って、自立できる人を留め置くような施設が出てくるのでは」と、地域移行の流れと逆行する事態を危惧(きぐ)する。さらに「社会福祉法人やNPOなどが新たに地域の受け皿を作ろうとしても、すぐ財政難に直面するのではないか」と指摘した。
 精神障害者家族でつくる名古屋市精神障害者家族会連合会の堀場洋二会長も同様の懸念を持つ。「事業者が行き詰まれば、当事者や家族には死活問題。支援が必要な人が引きこもったり、病院に戻ったりしかねない」
    ◇
 障害者自立支援法は第1条に「障害の有無にかかわらず安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与する」とうたう。その理念と、現実とのギャップは残ったままだ。【高橋恵子】


◆まちかど:障害者の自立促進 吉川に通所施設オープン /埼玉
(2010.03.23 毎日新聞 東京朝刊 13頁 家庭面)
 ◇印刷作業など能力向上を支援
 吉川市の社会福祉法人「葭(よし)の里」(福山紀子理事長)が昨年10月から着工していた重度心身障害者通所施設「吉川フレンドパーク新事業所」(同市中井2)が完成し、4月1日からオープンする。自宅に閉じこもりがちな障害者の自立促進が図れると、関係者は大きな期待を寄せている。
 新事業所は、市内にある他の障害者デイケア施設「さつき園」が狭くなり、障害者自立支援法でも地域活動支援センターの設置が義務づけられたことから建設された。
 完成した建物は鉄骨造り2階建て771平方メートル。1階に▽機能訓練やレクリエーション、内職作業の生活介護作業室▽パソコンや調理ができ、通所者の憩いの場となる地域活動支援センター▽集会や一時預かり用の多目的室がある。2階は、印刷作業の実習など就労に向け知識、能力の向上を図る就労移行作業室など。
 定員50人で、通所対象者は原則的に市内在住に限る。建設費は1億6380万円(補助金は国・県1億円、市6380万円)。市の担当者は「新事業所の開設で、障害者の自立と市民との幅広い交流がいっそう促進されると思う」と話している。【飯嶋英好】


◆地域で暮らす:精神障害、いま/上 長期入院者
(2010.03.21 毎日新聞 中部朝刊 29頁 社会面)
 ◇退院困難、進む高齢化
 ナースステーションの前に広がる170平方メートルの空間は、ジュースの自動販売機もある共有スペースだ。患者たちが話をしたり、椅子に腰掛けている。エレベーターホールに向かう通路にある鍵付きの二重のドアさえなければ、ここが精神科の閉鎖病棟とは分からない。
 愛知県大府市の共和病院3階にある精神科病棟。「急性期治療病棟」と呼ばれ、同院では44床ある。患者は統合失調症4〜6割、うつ病などの感情障害3〜4割、その他は認知症、依存症など。原則、3カ月で退院する。カーテンで仕切られた4人部屋の病室はテレビも見られ、携帯電話も使用できる。
 だが、比較的症状が早く回復する患者が入る急性期病棟に対し、長い入院期間を要する精神療養病棟では、約20人が6年以上の長期入院をしており、中には受け皿が整えば退院できる人もいるという。
 榎本和・名誉院長は「急性期病棟は、仕事や学校にすぐ戻っていけるという環境もあり、狭い意味で入院から地域への移行と言える。しかし、既に入院が長期に達し、家族が年をとっていたりで受け入れ先がない人が取り残されている」と指摘する。病状が安定して退院できる状態になっても、住宅やその後の支援態勢が十分整備されていないのだ。
 地域で生活しながらの治療を促す国の方針が生まれた背景には、かつて各地の精神科病院の中で起きた人権侵害事件への反省がある。急性期病棟は08年7月現在、全国で1万1983床まで増え、今後も増加が見込まれる。療養病棟は9万382床で、顕著な増減はない。
    ◇
 名古屋市守山区の守山荘病院では、系列医療法人に訓練施設を設置、患者の社会復帰に取り組んできた。現在、新規入院患者が1年後も院内に残る割合は約1割となった。ただ、長期入院者は退院のめどが立つ人が少ない。20年以上入院している患者は全体の約460人中16・8%。10〜20年の患者もほぼ同数いる。
 行き先のない患者はそのまま病院で亡くなっていくケースが多いという。河瀬久幸院長は「症状の重くない人は一般の高齢者施設に移ることも可能だが、順番待ちに加え、入所費用の問題もある。施設に移ることは難しい」と話す。
    ◇
 「入院から地域へ」と、国は04年9月、精神科医療の方向性を打ち出し、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」では10年間で約7万人の入院患者削減を目標に掲げた。しかし、偏見や無理解に加え、受け皿作りは進んでいない。地域で暮らそうとする精神障害者たちを取り巻く課題を追った。【高橋恵子】
  □ことば
 ◇精神科急性期治療病棟
 入院長期化を招かないために、96年の診療報酬改定で導入された精神科特定入院料に基づく病棟。入院3カ月以内の患者への点数を高く算定することで病院側に早期退院を促す。専門機能を持たせた入院体系を作るため、以前からある病棟と別に設けられた。急性期治療病棟の他、精神療養病棟や認知症病棟などがある。
 ◇戦後日本の精神科医療
 戦後の入院中心医療の支えとなったのは精神衛生法(1950年施行)。「私宅監置」の名称で認めていた自宅への隔離収容を廃止し、都道府県に病院設置を義務付けた。国は患者数に対する医師らの配置基準を下げる「精神科特例」などで病院建設を促進。しかし、院内での人権侵害事件が表面化、精神保健法(88年)が施行され、患者の人権擁護と社会復帰の促進などを盛り込んだ。95年、精神保健福祉法施行。自立と社会参加の流れが作られ、06年施行の障害者自立支援法は、知的・身体障害と一体化した生活・就労支援を進めている。


◆ことば:戦後日本の精神科医療
(2010.03.21 毎日新聞 中部朝刊 29頁 社会面)
 ◇戦後日本の精神科医療
 戦後の入院中心医療の支えとなったのは精神衛生法(1950年施行)。「私宅監置」の名称で認めていた自宅への隔離収容を廃止し、都道府県に病院設置を義務付けた。国は患者数に対する医師らの配置基準を下げる「精神科特例」などで病院建設を促進。しかし、院内での人権侵害事件が表面化、精神保健法(88年)が施行され、患者の人権擁護と社会復帰の促進などを盛り込んだ。95年、精神保健福祉法施行。自立と社会参加の流れが作られ、06年施行の障害者自立支援法は、知的・身体障害と一体化した生活・就労支援を進めている。


◆議会 /千葉県
(2010年03月20日 朝日新聞 朝刊 ちば首都圏・1地方 029)
 浦安市議会 19日、障害者自立支援法に基づく施設を新浦安駅前で運営する社会福祉法人に市が2008、09年度に支出した補助金計8092万円が適切に使われたか、監査を請求する発議案を提案し、賛成多数で可決した。市監査委員に8月末までの報告を求めている。同時に、「福祉関連補助金に関する特別委員会」の設置も可決され、委員長に西山幸男氏、副委員長に末益隆志氏を選んだ。
 同議会は610億円の10年度一般会計当初予算案など34議案を可決し、閉会した。

 八街市議会 19日閉会で新年度一般会計予算案など31議案を可決。核兵器廃絶を目指す「ヒロシマ・ナガサキ議定書」について、5月の核不拡散防止条約(NPT)再検討会議での採択に向けた取り組みを求める意見書の発議も可決した。


◆障害福祉サービスを無料化 低所得者の負担軽減 日光市、来月から /栃木県
(2010年03月20日 朝日新聞 朝刊 栃木全県・1地方 029)
 日光市は19日、訪問入浴サービスなど障害福祉サービス全般について、4月から市民税が非課税の低所得者の利用者負担を無料にすると発表した。国は新年度から同サービスのうち、分野を限って無料とすることにしているが、同市ではすべてに適用する。
 国は障害福祉制度に関して障害者自立支援法を廃止して、総合的な制度を作るとしている。この制度ができるまで、市町村民税が非課税の障害者については、通所や居宅サービス(現行月額上限1500〜3千円)などや、車イスなどの補装具(同1万5千〜2万4600円)の分野で無料化する方針を打ち出している。
 この他について国は、各市町村の判断によるとしていたが、日光市は訪問入浴サービス(同1500〜3千円)や日中一時支援事業(同1500円)など「地域生活支援事業」とされる分野の6項目を無料化の対象に加えた。
 市の概算では829人の低所得者が対象になり、2300万円余の個人負担が軽減される。


◆障害者介護職員、法定数配置せず 都、江戸川の事業所処分 /東京都
(2010年03月20日 朝日新聞 朝刊 東京東部・1地方 029)
 都は19日、江戸川区の障害者訪問介護サービス事業所「マーチステーション」が、障害者自立支援法に基づく職員配置をしていなかったとして、31日から3カ月間、都の障害福祉サービス事業者としての指定を停止すると発表した。
 都によると、同事業所は2007年8月に都の指定を受け、知的障害児の介護サービスをしている。
 しかし、同法が常勤・専従を義務付けているサービス提供責任者と管理者が、実際には勤務実態がなかったり、兼業だったりしたという。


◆障害者自立支援法訴訟で廿日市市が和解を議決 /広島県
(2010年03月19日 朝日新聞 朝刊 広島1・1地方 028)
 障害者自立支援法は憲法違反として、県内の男女3人が国と広島、廿日市両市を相手に広島地裁に起こしている集団訴訟で、廿日市市議会が18日、市内の夫妻との和解に応じる議案を議決した。広島市長も近く市内の男性との和解を専決処分する方針で、4月15日の次回期日で正式に和解が成立する見通し。


◆障害者が自立支援法に代わる新法制定へ街頭署名 /広島県
(2010年03月18日 朝日新聞 朝刊 備後・1地方 034)
 きょうされん広島県支部東部ブロックなかまの会(竹中麻里会長)が16日、福山市東桜町の福山郵便局前で、廃止される見通しの障害者自立支援法に代わるより良い新法の制定を目指して署名を集めた。
 同会に加盟する市内の7施設の通所者と職員計30人が参加。新法の制定過程への障害者代表の参加や福祉施策と雇用策とを連結させた新たな就労支援策の創設などへの賛同を求め、署名を呼びかけた。


◆介護報酬など、過誤請求244件 福祉施設で08年度 /大阪府
(2010年03月17日 朝日新聞 朝刊 大阪市内・1地方 030)
 府は16日の健康福祉常任委員会で、社会福祉法人やNPO、民間会社が運営している福祉施設による介護報酬などの過誤請求が2008年度に244件に上ったと明らかにした。府は「意図的なものはなかった」としているが、新年度から組織改編し、事業者の指導、育成体制を強化する方針。
 中村哲之助府議(民主)の質問に答えた。府地域福祉推進室によると、高齢者や障害者施設で、介護保険法や障害者自立支援法の基準を読み違えるなど介護報酬を不当に多く市町村に申請していたものが大半という。(吉浜織恵)


◆障害児向け学童保育 当別のNPO、夕張で5月から /北海道
(2010年03月17日 朝日新聞 朝刊 1道 031)
 夕張市の財政破綻(はたん)で閉鎖された集会施設「はまなす会館」を指定管理者として再開・運営しているNPO法人・当別町青少年活動センターゆうゆう24(横井寿之理事長)が5月から、市内で空白となっていた障害児のための学童保育を中心にしたデイサービスを始める。事業の財源は9日に総務相が同意した同市の財政再生計画には盛り込まれておらず、市では再生計画の変更で対応するという。
 同会館で15日に開かれた説明会には、障害児を持つ母親や保護者の代理人などが「こんなサービスが欲しかった」「すぐにでも利用したい」などと熱心に質問していた。
 ゆうゆう24は、石狩支庁当別町や江別市で同様の事業に取り組んでいる。夕張市内で始める児童デイサービスは、障害者自立支援法に基づく障害児への在宅支援の一つ。夕張市内では学齢期前の障害児への支援や成人した障害者の通所施設などはあるが、障害がある学童への放課後や夏休みなどの長期休暇の支援サービスはなく、仕事を持つ親たちの悩みは深刻だった。
 説明会に来た自営業の母親は「子どもは南幌町の養護学校の寄宿舎に世話になっていますが、休日などは仕事ができないし、もう一人の子や家族とのレジャーもあきらめねばならなかった」と話す。特別支援学級に通ったり通常の学童保育では対応が困難だったりする児童は、市内に20人以上いるといい、「孤立しがちな親たちの交流の拠点になれば」と、集まった母親たちは期待していた。
 事業費は国が半分、残り半分を道と市で負担するという。


◆障害者自立支援法の代替制度求めシンポ=宮城
(2010.03.16 読売新聞 東京朝刊 宮城2 28頁)
 障害者福祉団体など約40団体が加盟する「みやぎアピール大行動実行委員会」が21日、障害者自立支援法にかわる新制度の創設を国に求めるため、仙台市内でシンポジウムなどを行う。
 同法は、福祉サービスの利用にかかる費用の原則1割負担を利用者に求めている。障害者団体などの批判を受けて、政府与党が昨年、廃止の方針を打ち出したが、新法の制定にはまだ至っていない。
 当日は、東北選出の国会議員によるシンポジウムのほか、加盟団体が市内の行進などを行う。同委は「障害者本位の充実した制度にするため、一般の人も感心を高めてもらいたい」としている。詳しくは、同委事務局(022・248・6054)へ。


◆(政権交代 半年の検証)色あせた二枚看板 閣僚発信、行き詰まり 前原氏と長妻氏
(2010年03月15日 朝日新聞 朝刊 2総合 002)
 政権交代の象徴とも言える2人の看板閣僚の輝きが半年の間に失われた。前原誠司国土交通相や長妻昭厚生労働相が、マニフェストに沿った積極的な発信で政権を引っ張ったのは過去の姿。閣内外の調整が必要になると行き詰まり、悩む姿が目立つ。鳩山由紀夫首相が目指す「新トロイカ」による官邸主導が試されるのはこれからだ。
 ◇公共事業カット挫折 日航・個所付けも苦戦 前原氏
 「鳩山首相は人の話を聞いて、まとめてやっていこうという『劉邦』タイプ。目標を掲げて突っ走る『項羽』タイプではない。チームで乗り越えていくということだ」
 前原氏は12日、記者会見で首相を中国・漢の建国者になぞらえた。首相の指導力不足をかばったのだ。けなげ、といっても良い発言だった。前原氏は首相に「貧乏くじ」を引かされたばかりだったからだ。
 「利益誘導政治ではないですか」。2月、前原氏は連日のように国会で野党に責め立てられた。公共事業の予算配分、いわゆる「個所付け」の公表前の資料を民主党幹事長室に漏らし、自治体に流れたことが発覚したためだ。
 首相は今月2日、前原氏を口頭で注意して事態の収拾を図った。「今後、無用の混乱や誤解を生じさせることのないように」
 だが、前原氏はそもそも「個所付け」資料を国会審議前に公表すべきだと考えていた。それを止めて、参院選目当てと見られかねない使い方をした党幹事長室側に対して、首相はおとがめなしで済ませた。
 政権発足直後の前原氏は順風満帆だった。
 「みなさんの地元の事業の凍結も出てきます。生意気な言い方ですけど、覚悟をしていただきたい」
 昨年10月13日、国土交通省10階大会議室で開かれた第1回の同省政策会議。前原氏は詰めかけた300人近い与党議員や秘書に公共事業費の大幅削減を宣言した。その2日後、前原氏は公共事業費を前年度比14%カットした新年度予算の概算要求を提出した。
 それが、年末に向け、暗転する。
 「やっぱりカネのある財務省は強いよ」。国交相直属の「JAL再生タスクフォース」が解散した10月末以降、前原氏はこんな愚痴を周囲にこぼすようになった。タスクフォースの日航再建プランが金融機関にことごとく反対されたのだ。「抵抗勢力」の筆頭が、財務省が手綱を握る日本政策投資銀行だった。
 その後も運航ストップを恐れた前原氏は、裁判所が関与しない「私的整理」を主張したが、企業再生支援機構が菅副総理に働きかけ、会社更生法による「法的整理」へ突き進んだ。軌道修正を迫られた前原氏は、市場関係者の不信を買った。
 その上「高速道路会社による道路整備の推進」「地方自ら必要な道路建設を行える支援策」……。党内では前原氏の知らない間に「公共事業復活プラン」が練られていた。12月16日、小沢一郎幹事長が首相に手渡した「重点要望」でそれが明らかになる。
 その後、党要望受け入れに同意するサインを求める書類が前原氏のもとに届いた。前原氏は「今まで議論していない考え方だ」とサインを拒否。代わりにサインしたのは平野博文官房長官だった。
 次々に撤退を強いられた前原氏。この間、首相が調整に乗り出した形跡はない。
 ◇政策、主導権握れず 首相に接近、調整期待 長妻氏
 13日夜、東京都中野区。長妻氏が選挙区内で開いた国政報告会は、550席の会場に立ち見も出ていた。
 長妻氏が「政権交代をしてちょうど6カ月。民主党は期待通りだ、という方はどれくらいいますか」と切り出すと、半分程度から手が挙がった。「ありがたい。誰も手を挙げなかったらどうしようかと思っておりました」
 「コンクリートから人へ」の担い手のはずの長妻氏を取り巻く環境は厳しい。最近、官邸内に税と社会保障の「共通番号制」導入や新たな年金制度を検討する枠組みが立ち上がったが、事務局長を古川元久国家戦略室長が務め、官邸に主導権を握られている。
 伏線は年明けからあった。
 1月12日午後、鳩山内閣は首相官邸で2時間以上に及ぶ閣僚懇談会を開き、当面の政策課題を議論した。
 子ども手当の満額支給や年金の国庫負担などで7兆円規模の追加財源が必要になることから、長妻氏が「2011年度の予算編成は大変だ」と提起。引き取ったのは、財務相に就任したばかりの菅直人氏だった。「大きい内閣の枠組みで、巨額な財源も含めた社会保障全体の議論をする必要がある」
 次々と議論する場は立ち上がったが、長妻氏は脇役に追いやられる。今月8日の新年金制度検討会の初会合では、菅、古川両氏と仙谷由人国家戦略担当相の協議が続く中、ひと足先に退席。記者団に「菅大臣が主導して議論する税制改革にもリンクするし、非常に大きな議論の中での話だ」と言い残した。
 長妻氏の苦悩は、重要政策のかじ取り役が首相と菅、仙谷両氏による「新トロイカ」に移る過程と重なる。12日に札幌地裁が和解勧告したB型肝炎訴訟に対応する政権の窓口は、仙谷氏になった。
 長妻氏の就任直後の発信力は、閣内でも前原氏と双璧(そうへき)だった。後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止を明言。しかし政策を実行に移そうとすると、壁に当たった。
 子ども手当の地方負担をめぐる原口一博総務相との議論は平行線に終始した。長妻氏は菅氏を何度も訪ねて調整を依頼したが、閣僚間の調整機能は働かず、同手当の制度設計は満額支給する11年度の予算編成作業に先送りされた。
 「閣僚発信型」による限界が露呈した形だ。
 閣僚間で個別に調整するのでは政策は進まない――。そう見定めたのか、長妻氏は首相との面会を増やし、2月以降ですでに6回を数える。
 だが、「官邸主導」はまだ十分機能していない。今月11日夜。首相執務室に長妻、仙谷、菅の3氏が顔をそろえた。この日内閣は、労働者派遣法改正案の国会提出を先送りすることを決めていた。社民党党首の福島瑞穂少子化担当相との調整難航が原因だった。首相裁定も視野に長妻氏は経緯を報告したが、首相は聞いているだけだったという。それでも、長妻氏は「中枢は状況を理解している」と周囲に漏らし、官邸の指導力への期待をにじませている。


◆移動支援の無料化広がる 自治体、予算に計上 障害者サービス 【大阪】
(2010年03月10日 朝日新聞 朝刊 3社会 033)
 障害者が外出する際の移動支援サービスについて、低所得者の利用者負担を新年度から無料にしようという動きが自治体に広がっている。国が居宅介護などの福祉サービスで同様の措置を取るのに合わせた対応だが、厳しい財政事情のために判断を先延ばしする自治体もある。
 神戸市は対象者を約2300人と見込み、約3070万円を新年度当初予算案に計上した。現在、市民税非課税の障害者は収入に応じて月1500円か3千円を上限に1割を自己負担しているが、予算案が議会で可決されれば、4月から無料になる。京都市はすでに身体介護を伴わない障害者の自己負担をゼロにしているが、「障害者の移動の権利を守るという市の思いを反映したい」(障害保健福祉課)と、今回新たに身体介護を伴う市民税非課税の障害者を対象に。約850人の利用を見込み、約500万円を計上した。名古屋、札幌、仙台など、ほかの政令指定市も無料にする方針を決めた。
 厚生労働省は1月に開いた自治体向けの関係部局長会議で、低所得者が自治体事業のサービスを利用する際に支障が生じないよう配慮を要請している。ただ、財政事情の悪化で財源確保に四苦八苦している自治体もある。兵庫県内のある自治体は「無料にしたいが、現状のサービスを維持するのも大変。無料化に伴う負担増は重い。近隣市の状況をみて考えたい」と、当初予算案への計上を見送った。
 障害者の福祉サービス利用料をめぐっては、障害者ら71人の原告が全国14地裁で原則1割の自己負担撤廃を求め裁判を起こしている。訴訟の原告・弁護団と国が1月、国所管の福祉サービス利用料について市町村民税非課税の低所得者の自己負担を4月からなくすことで合意。訴訟団は、自治体主体の移動支援事業などの利用料についても神戸、京都など7市区の被告自治体を中心に低所得者を無料にするよう申し入れ、7市区はいずれも事業費を確保した=表。
 全国弁護団の藤岡毅・事務局長は「自治体の間に無料化が広がり、多くの障害者の自己負担がなくなるのは裁判の一定の成果。ただ、自治体間で格差が生じないか、一時的なものでなく障害者の権利として確保できるのか注意深く見守る必要がある」と話す。(森本美紀)
 ◇キーワード
 <移動支援サービス> 社会生活を営むのに不可欠な移動や余暇活動などのための外出の際にヘルパーが付き添うサービス。障害者自立支援法で市町村が実施する「地域生活支援事業」の一つと位置づけられ、利用料や利用できるサービスの範囲は市町村が独自に定める。厚生労働省によると、移動支援を実施している市町村は全体の約84%に当たる1529市町村(2008年3月現在)で、利用者は全国で約7万7千人(同6月現在)。
 ◇低所得者の移動支援サービス無料化に伴う事業費と利用者数
自治体       推計額  予想利用者数
東京都板橋区  1330万円   410人
名古屋市    1970万円  2900人
京都市      500万円   850人
大阪府吹田市   700万円   750人
堺市      1170万円  2210人
神戸市     3070万円  2300人
福岡市      510万円   600人 
 (いずれも障害者自立支援法訴訟の被告自治体)


◆障害者向け移動支援、無料化の動き 自治体が予算化 【名古屋】
(2010年03月10日 朝日新聞 夕刊 2社会 006)
 障害者が外出する際の移動支援サービスについて、低所得者の利用者負担を新年度から無料にしようという動きが自治体に広がっている。国が居宅介護などの福祉サービスで同様の措置を取るのに合わせた対応だが、厳しい財政事情のために判断を先延ばしする自治体もある。(森本美紀)

 神戸市は対象者を約2300人と見込み、約3070万円を新年度当初予算案に計上した。現在、市民税非課税の障害者は収入に応じて月1500円か3千円を上限に1割を自己負担しているが、予算案が議会で可決されれば、4月から無料になる。
 京都市はすでに身体介護を伴わない障害者の自己負担をゼロにしているが、「障害者の移動の権利を守るという市の思いを反映したい」(障害保健福祉課)と、今回新たに身体介護を伴う市民税非課税の障害者を対象に。約850人の利用を見込み、約500万円を計上した。
 名古屋市は約2900人の利用を見込み、新年度当初予算案に約1970万円を計上した。水谷正人・障害者支援課長は「財政は厳しいが、移動支援は生きていくのに必要なサービス。障害者の所得保障が進んでいない現状では負担を下げる必要がある」と話す。札幌、仙台など、ほかの政令指定市も無料にする方針を決めた。
 厚生労働省は1月に開いた自治体向けの関係部局長会議で、低所得者が自治体事業のサービスを利用する際に支障が生じないよう配慮を要請している。ただ、財政事情の悪化で財源確保に四苦八苦している自治体もある。兵庫県内のある自治体は「無料にしたいが、現状のサービスを維持するのも大変」と、当初予算案への計上を見送った。
 障害者の福祉サービス利用料をめぐっては、障害者ら71人の原告が全国14地裁で原則1割の自己負担の撤廃を求めて裁判を起こしている。訴訟の原告・弁護団と国が1月、国所管の福祉サービスの利用料について市町村民税非課税の低所得者の自己負担を4月からなくすことで合意。訴訟団は、自治体主体の移動支援事業などの利用料についても神戸、京都など7市区の被告自治体を中心に低所得者を無料にするよう申し入れ、7市区は事業費を確保した=表。
 全国弁護団の藤岡毅・事務局長は「多くの障害者の自己負担がなくなるのは裁判の一定の成果。ただ、自治体間で格差が生じないか、一時的なものでなく障害者の権利として確保できるのか注意深く見守る必要がある」と話す。
 ◇キーワード
 <移動支援サービス> 社会生活を営むのに不可欠な移動や余暇活動などのための外出の際にヘルパーが付き添うサービス。障害者自立支援法で市町村が実施する「地域生活支援事業」の一つと位置づけられ、利用料や利用できるサービスの範囲は市町村が独自に定める。厚生労働省によると、移動支援を実施している市町村は全体の約84%に当たる1529市町村(2008年3月現在)で、利用者は全国で約7万7千人(同6月現在)。
 ◇低所得者の移動支援サービス無料化に伴う事業費と利用者数
自治体      推計額   予想利用者数
東京都板橋区 1330万円   410人
名古屋市   1970万円  2900人
京都市     500万円   850人
大阪府吹田市  700万円   750人
堺市     1170万円  2210人
神戸市    3070万円  2300人
福岡市     510万円   600人
 (いずれも障害者自立支援法訴訟の被告自治体)


◆ニュースワイド:障害者自立支援法訴訟和解へ 不安消えず「苦しい」 /北海道
(2010.03.07 毎日新聞 地方版/北海道 23頁)
 ◇現場の声、反映が鍵
 障害者自立支援法が福祉サービス料の1割を利用者に負担させるのは憲法の定めた生存権侵害だとして、全国の障害者ら71人が08年10月以降、14地裁で起こした集団訴訟は、原告・弁護団と被告の国が基本合意を交わしたことで、順次和解が成立する。道内では旭川市の川村俊介さん(29)が唯一、原告となり、旭川地裁で支援法の不当性を訴えてきた。4月7日の和解成立を前に、川村さんと家族、そして支援者の思いや、訴訟がもたらした影響などを探った。【横田信行】
 □審理なく心残り
 聴覚障害と知的障害、自閉症を抱える川村さんは、市内の通所授産施設の木工作業で月約1万4000円の工賃(収入)を得ていた。ところが、06年4月の法施行後、月約1000円の利用者負担に加え、施行前は不要だった給食費4000円余りを払わなければならず、収入は実質4割減になった。
 川村さんは両親との3人暮らし。提訴時、一家の収入は川村さんの障害者基礎年金と工賃だけで、父親の退職金を切り崩して生活していた。訴訟はこうした私生活を公表せざるを得ず、法廷に立つことに二の足を踏む人が多かった。
 しかし、川村さんの日常生活を支える母和恵さん(57)は「誰かが動かなければ何も変わらない。抵抗はなかった」。提訴は09年4月。国と旭川市に提訴時までの利用者負担約17万円の返還と、慰謝料10万円を求めた。
 裁判では、国が障害者をどう見ているのかが如実になった。09年7月の第1回口頭弁論。国と市は全面的に争う姿勢を示しただけでなく、川村さんの訴訟能力に重大な疑いがあると請求却下を求めたのだ。「障害を理由に訴訟能力がないとする根拠を示せ」。自らも全盲で全国弁護団長を務める竹下義樹弁護士は怒りをあらわにした。
 行政は今まで、当事者を川村さんにしたさまざまな文書を作成してきた。和恵さんは「腹が立つより『今更そんなことを言うの』って感じ。確かに俊介には中身を十分理解し、うまく説明するのは難しい。それならなぜ、そんな文書を作ってきたのか」。法廷戦術とはいえ、国側の見え透いたご都合主義に不信感が募った。
 和恵さんは和解に不満はなく「こんなに早く終わると思わなかった」と安堵(あんど)する一方、実質的な審理がないままの決着には心残りがある。「法廷で見せるはずだったビデオで、俊介のありのままを知ってほしかった。被告側には一人の人間として『裁判で言ったことはどうするのか』と聞いてみたかった」
 □道条例にも注文
 訴訟は終結するとはいえ、障害者の自立支援に向けた課題は山積している。
 川村さんが通っている「あかしあ労働福祉センター」(旭川市)の総合施設長、北村典幸さんによると、法施行直後に5人が退所、年間で1000万円以上補助が減った。
 また、重度障害者の受け皿不足は深刻だ。全国の入所施設定員13万人中、道内は1万人と入所率が高い。学校卒業後、地域で暮らせるセンターのような施設は、極めて少ない。
 北村さんは「訴訟が終わっても苦しい現状は変わらない。情報は不足し、先行きに不安を抱えている」と現場の声を代弁。支援法に象徴される障害者福祉の最大の欠陥は、「当事者の声を反映していなかったこと」と指摘する。
 道が4月に本格施行する「障がい者条例」についても「差別禁止などが盛り込まれたので、ないよりあった方がいいが、罰則規定や施設・利用者の負担軽減など道独自の支援制度はない。受け皿もなければ絵に描いた餅になる」と危惧(きぐ)する。
 現場の声を施策や法制度に反映させていく仕組み作りが、今後の鍵と言えそうだ。
 ◇医療費の負担や法廃止後に質問 「きょうされん」道支部研修会
 障害者が地域で働き活動する施設でつくる全国組織で、集団訴訟を支援してきた「きょうされん」(東京)の道支部主催の研修会が2月20日、旭川市で開かれた。政権交代で集団訴訟が突破口となり、「きょうされん」が障がい者制度改革推進会議入りするなど政策づくりに現場の声が届き始めたことを歓迎する一方、今後に対する不安の声が相次いだ。
 各地の施設や養護学校の関係者ら約100人が参加。「自立支援医療費は無料化になるのか」「国や自治体から補助を受けるため11年度中に自立支援法に合わせた施設へ移行しなければならないが、法廃止でどうなるのか」などの質問が出た。
 「きょうされん」の多田薫事務局長は基本合意の舞台裏について「国は謝罪という言葉を入れることに難色を示し、『心から反省』という文言になったが、長妻昭厚生労働相が頭を下げた。一方で、とことん戦いたい原告もおり、苦しい思いの中の決断だった」と明かした。
  □ことば
 ◇障害者自立支援法とその影響
 障害者自立支援法は、収入に応じて障害者の負担を決める支援費制度の「応能負担」の財政的な破綻(はたん)を受け、06年4月に施行された。身体・知的・精神の3障害の福祉施策の一元化や利用者本位のサービス体系への施設再編などを掲げた。
 1割負担を求める「応益負担」を原則としたことで、障害者の負担が増し、施設の大幅な収入減を招いた。厚生労働省の調査では法施行後、利用者の87%が月平均8518円の負担増で、特に低所得者の負担が増加。負担が工賃を上回る割合は21ポイント増の52%で月7097円の“赤字”だった。
 国や自治体は定員に応じた定額の月払いだった施設報酬(補助金)を、利用日数に応じた日割り計算に変更。利用者が1日休めば、その分の報酬が減少。報酬単価も下がった。特に地域の障害者の受け皿である小規模作業所が深刻な運営難に陥った。
 《基本合意の主な内容》
・13年8月までに障害者自立支援法廃止と新法制定
・国が「心からの反省」表明
・障害者も含めた「障がい者制度改革推進会議」で新たな福祉制度を策定(6月に中間取りまとめ)
・介護保険との統合を前提とせず、利用者負担や認定基準の抜本的見直しなどを新法の論点にする
・利用者負担を無料化する措置を予算化し、予算化されなかった自立支援医療費の無料化を当面の重要課題とする
・基本合意の履行状況を確認する原告・弁護団と国の定期協議


◆ことば:障害者自立支援法とその影響 /北海道
(2010.03.07 毎日新聞 地方版/北海道 23頁)
 ◇障害者自立支援法とその影響
 障害者自立支援法は、収入に応じて障害者の負担を決める支援費制度の「応能負担」の財政的な破綻(はたん)を受け、06年4月に施行された。身体・知的・精神の3障害の福祉施策の一元化や利用者本位のサービス体系への施設再編などを掲げた。
 1割負担を求める「応益負担」を原則としたことで、障害者の負担が増し、施設の大幅な収入減を招いた。厚生労働省の調査では法施行後、利用者の87%が月平均8518円の負担増で、特に低所得者の負担が増加。負担が工賃を上回る割合は21ポイント増の52%で月7097円の“赤字”だった。
 国や自治体は定員に応じた定額の月払いだった施設報酬(補助金)を、利用日数に応じた日割り計算に変更。利用者が1日休めば、その分の報酬が減少。報酬単価も下がった。特に地域の障害者の受け皿である小規模作業所が深刻な運営難に陥った。


◆沖縄・障害長男殺害:心中で長男殺害、両親に実刑判決−−那覇・裁判員裁判
(2010.03.06 毎日新聞 西部朝刊 28頁 社会面)
 障害がある長男(当時35歳)と無理心中を図り長男のみを死なせたとして、殺人罪に問われた沖縄県金武(きん)町の無職、宮城ハツ子被告(62)に対する裁判員裁判で、那覇地裁は懲役5年(求刑・同8年)を言い渡した。吉井広幸裁判長は「結果は重大だが、心労を重ねたことも遠因」と述べた。ともに起訴された夫の吉正被告(67)については関与が従属的として法定刑(5年)を下回る懲役4年6月(求刑・同)を言い渡した。
 判決によると、両被告は借金苦から心中を決意。重い知的、身体障害がある長男吉章さんの将来を懸念して、昨年8月11日に3人で睡眠導入剤入りのコーヒーを飲んで名護市の海岸で入水自殺を図ったが死にきれず、吉章さんだけが溺死(できし)した。
 公判では、検察と弁護側の双方が事件の動機として、借金苦のほかに、障害者自立支援法が見直された場合、吉章さんが療護施設での24時間介護を受けられなくなる可能性があると知らされた点もあると指摘。弁護側は執行猶予を求めていた。


◆障害者ら、国・5市と和解へ 新制度受け、来月 自立支援法訴訟 /兵庫県
(2010年03月03日 朝日新聞 朝刊 神戸・1地方 030)
 福祉サービスの利用に応じて障害者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、障害のある県内の13人が国と神戸、伊丹、淡路、宝塚、尼崎の5市に自己負担をなくすことなどを求めた訴訟の第5回口頭弁論が2日、神戸地裁であった。佐藤明裁判長は和解のための期日を4月15日に指定した。
 各地で訴訟を起こした原告・弁護団と厚生労働省が1月、訴訟の終結に合意。障害者自立支援法について「障害者の意見を十分に踏まえず、生活の悪影響を招き、人間としての尊厳を深く傷つけた」とし、新たな福祉制度を創設することになった。これに基づき、2月には京都地裁や福岡地裁でも4月中旬の和解期日が指定されている。
 この日の口頭弁論では、和解期日指定後に原告と家族の計3人が意見を述べた。
 視覚に障害がある神戸市東灘区の車谷美枝子さん(58)は「障害者が1人の人間として社会で生きていくのは、まだハードルが高い。しっかりした制度をつくりあげていかなければならない」。約5年前に交通事故に遭い、車いす生活になった淡路市の長野小波さん(35)は「何をとっても人の手を借りなければいけない。どうして国は障害者が健常者と同じ生活ができるようにしてくれないのかと思う」と訴えた。
 原告や家族、弁護団は弁論終了後、県弁護士会館で報告会を開催。参加者からは「バラ色の合意ではないが、良い制度ができるまで頑張りたい」などの意見が出された。
 (根岸拓朗)


◆障害者ヘルパー、平均月給7200円増 厚生労働省
(2010年03月03日 朝日新聞 夕刊 2総合 010)
 厚生労働省は3日、障害者への福祉サービスを担う常勤のホームヘルパーらの平均月給が、2009年9月までの1年間で約7200円上昇したと発表した。事業者に支払われる報酬が同年4月に5・1%引き上げられたことが影響したが、2割の施設では給与を全く引き上げなかった。
 障害者自立支援法の施行後、初めての報酬改定が処遇改善につながったかどうか、厚労省が全国1万3844の施設や事業所を抽出して調べた。回収率は67・6%。


◆障害者1割負担訴訟 来月15日和解へ=兵庫
(2010.03.03 読売新聞 大阪朝刊 神戸 31頁)
 障害者自立支援法で、福祉サービスの利用料が原則1割の自己負担になったのは、憲法が保障する生存権などの侵害として、県内の障害者13人が国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟が4月15日、地裁で和解することがわかった。
 同様の訴訟は全国14地裁で係争中だが、長妻厚生労働相と原告側が1月、同法の廃止を確約し、障害者らに悪影響を与えたことについて反省の意を表明するなどの基本合意文書に調印。これを受け、各地裁の訴訟は終結することになり、京都、さいたま両地裁などでも和解に向けた話し合いが進められている。


◆なるほドリ:障害者自立支援法廃止で福祉の行方は? /滋賀
(2010.03.03 毎日新聞 地方版/滋賀 22頁)
 <NEWS NAVIGATOR>
 ◇当事者交え新法作り “助けてもらう”から“自立”へ
 なるほドリ 障害者自立支援法って廃止になるんだよね。障害者の福祉はどこに向かうのかな。
 記者 昨夏の衆院選マニフェストで自立支援法の廃止を掲げた民主党は新政権で、障害のある人や支援団体を主体とした制度作りを目指し「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)を設置しました。委員25人のうち14人は自身や家族に障害のある団体の幹部で、13年8月までに制定する新たな「障がい者総合福祉法」(仮称)について協議を重ねています。
 Q 障害者自立支援法ってそんなに悪い法律だったの?
 A 一概にそうは言えません。例えば、支援法で障害区分が重度であるほどサービス支給の報酬単価を上げる仕組みになりました。家族からは「施設に重度障害者を受け入れる態勢ができ、親なき後の生活の場が確保された」と評価する声があります。就労支援の体制づくりでも、障害に応じて働く場所を多様化させました。
 一方で、福祉作業所は経営努力が求められるようになりました。働く障害者も利用料を一部負担する必要があり、大きな反発がありました。障害程度の認定区分は個々のニーズを反映しづらく、家族や当事者には戸惑いも広がっています。
 Q 障害のある人たちの目線で制度を描くことが大切なのね。
 A 「障がい」の定義の見直しも進んでいます。2月5〜7日に大津市内で開かれた全国の福祉団体による「アメニティーネットワークフォーラム4」でも議題に上り、「身体的なハンディの克服より、希望する生活を実現するための差し障りを解決するためのサポートが大切だ」という意見がありました。
 ただ、経済情勢が悪化する一方で国の社会保障費は年々増加しており、対GDP比の政府債務は戦時中の水準に達していると言われます。日本の障害福祉予算は先進国の中で最低レベルにあるとされ、増税の議論も避けて通れません。
 新制度では従来の知的、身体、精神の3障害に加え、難病や発達障害のある人たちへの支援をどう盛り込むかも課題です。貧困を背景に社会的弱者が増え続ける中、福祉の財源は無尽蔵というわけにはいきません。
 フォーラムの中で、脳性まひのある玉木幸則さん(41)=兵庫県西宮市=は、施設から地域生活への移行を支援してきた活動を基に「助けてもらう対象から自分たちで自立していく存在に、障害を持つ人も反省していかないといけない」と訴えました。当事者を主人公に据えて新制度を作ることは画期的な試みですが、理想と現実のギャップを埋める作業も必要です。障害のある人もない人も同じ目線で議論を広げていかなければなりません。<回答・安部拓輝(大津支局)>


◆沖縄・障害長男殺害:両親「支援法で将来悲観」 検察指摘−−那覇地裁
(2010.03.03 毎日新聞 西部朝刊 23頁 社会面)
 重度の知的、身体障害がある長男(当時35歳)を道連れに無理心中を図り長男を殺害したとして、殺人罪に問われた沖縄県金武町の無職、宮城ハツ子(62)と夫の吉正(67)両被告の初公判が2日、那覇地裁(吉井広幸裁判長)であった。
 検察側は冒頭陳述で、両被告は借金苦に加え、障害者自立支援法が見直された場合、長男が従来通りの24時間介護を受けられなくなる可能性があると聞かされ、将来を悲観したと指摘した。
 両被告は、経営していた米兵向けキャバレーの不振などから、長男吉章さんを道連れにした無理心中を決意。昨年8月11日、3人で睡眠導入剤入りのコーヒーを飲んで入水自殺を図ったが死にきれず、吉章さんを水死させたとして起訴された。
 検察側の冒頭陳述によると、2人には約3000万円の借金があり、返済に充てていたキャバレーの収益が昨夏に激減。ほぼ同時期に、吉章さんが24時間介護を受けていた施設の職員から障害者自立支援法が見直された場合、24時間介護が難しくなる可能性があると聞かされたという。
 弁護側は起訴内容については争わず「ハツ子被告が、施設から『一部自宅で介護することになるかもしれない』と言われ、夫婦の死後、施設には任せられないと考えた」と述べ、情状酌量を訴えた。【三森輝久】


◆和歌山市議会、37議案を可決 新年度予算案を提出 /和歌山県
(2010年03月02日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 028)
 和歌山市議会の2月定例会は1日、今年度の一般会計補正予算案や障害者自立支援法訴訟の和解など37議案を承認・可決した。また、総額1347億円の新年度一般会計当初予算案など35議案を提出した。


◆障害者自立支援法の違憲訴訟 4月終結へ 
(2010.03.02 読売新聞 東京朝刊 2社 36頁)
 福祉サービスを利用した障害者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は生存権を保障した憲法に反するとして、東京都内の障害者ら6人が国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の口頭弁論が1日、東京地裁であり、原告、被告双方が、次回期日の4月21日に和解することを確認した。
 長妻厚生労働相と原告側は今年1月、同法廃止などを盛り込んだ基本合意文書に調印している。
 原告側によると、東京など全国14地裁に起こされている同種の訴訟は、今月24日のさいたま地裁を手始めに各地で順次和解が成立し、4月21日の東京地裁ですべての訴訟が終わる見通し。


◆障害者自立支援法訴訟:東京訴訟、来月21日に和解成立
(2010.03.02 毎日新聞 東京朝刊 24頁 総合面)
 障害者自立支援法が福祉サービス利用料の1割を利用者に原則負担させているのは違憲として、東京都内の障害者ら6人が国や自治体を相手取り、負担廃止などを求めた訴訟の口頭弁論が1日、東京地裁(八木一洋裁判長)で開かれ、4月21日の次回口頭弁論で和解が成立することになった。同種訴訟は東京を含め全国14地裁に起こされたが、原告側は厚生労働省と1月、法を廃止することで基本合意しており、順次和解する見通し。


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▼2月分
◆告知板 /広島県
(2010年02月28日 朝日新聞 朝刊 広島1・1地方 034)
 ◇障害者のための無料法律相談会 3月3日午前10時〜午後4時、広島市南区比治山本町の県社会福祉会館。広島弁護士会の高齢者・障害者等の権利に関する委員会と県社会福祉士会の主催。弁護士や社会福祉士、社会保険労務士が、労働や障害年金、障害者自立支援法など社会福祉に関する相談を受ける。電話相談(090・9002・3532)もある。問い合わせは紅山(べにやま)綾香弁護士(082・511・7772)へ。


◆障害者入所施設も住所地特例を導入 県、負担公平化に対応 /滋賀県
(2010年02月28日 朝日新聞 朝刊 滋賀全県・1地方 034)
 施設に入所中の障害者に対する福祉医療の助成費を、障害者が入所前に住んでいた自治体が負担する「住所地特例」が、今夏にも県内に導入される。これまで施設所在地の自治体が負担してきたが、施設を多く抱える自治体から負担の公平化を求める声が上がっていた。
 特例が導入されるのは県の福祉医療費助成制度。障害者が住民票を置く自治体と県が入院や通院にかかった費用を折半して負担しているが、2006年の障害者自立支援法の施行で施設の入所者も助成の対象に加えられ、施設のある自治体の負担が増していた。
 県障害者自立支援課によると、県内の障害者入所施設は公立、民間合わせて計26カ所あり、定員は約1500人。甲賀、湖南両市がそれぞれ最も多く、次いで彦根市、草津市と続く。一方で施設を持たない自治体もある。県内最多の5施設を抱える湖南市によると、自立支援法の施行前後で年間約800万円の負担増となっていた。
 新制度では、施設の入所者が住民票を施設のある自治体に置いていても、助成費は入所前に住んでいた自治体が負担する。県市町会、県町村会は昨年までに県との間で住所地特例の導入に合意。今年8月からの実施を目指している。
 ◇キーワード
 <住所地特例> 介護保険制度などで、被保険者の住所地の自治体が保険者になると定めた「住所地主義」の特例。施設が集中する自治体の財政負担を軽減する。被保険者が住所地以外の入所施設に転居した場合に適用される。


◆「一つの役割終えた」 福祉喫茶「砂時計」きょう閉店=栃木
(2010.02.28 読売新聞 東京朝刊 栃木2 34頁)
 ◇足利 
 障害者の就労訓練の場として、足利市社会福祉協議会が運営してきた福祉喫茶「砂時計」(同市通)が28日、5年間の歴史に幕を閉じ、閉店する。市の補助金を受けてきたが、昨年行われた事業仕分けで、民間の就労支援施設が充実してきたことなどを理由に補助金廃止が決まり、「一つの役割を終えた」として閉店することになった。
 砂時計は2004年11月、市内の大通りに面した空き店舗を利用してオープンした。以来14人の障害者が、社協職員のサポートを受けながら接客や商品管理の経験を積み、7人が市内の企業や工場などに就職した。
 しかし、2006年の障害者自立支援法施行などを受けて就労支援施設が増え、来店者数も最近では1日10〜20人に落ち込んでいた。
 現在は20〜30代の男性3人が訓練を受けているが、閉店後は、市内の別の施設で就労訓練などを続ける。昨年5月から訓練を受けてきた男性(25)は「いろいろな人と出会い、勉強になりました」と話している。指導員の宮田和子さんは「訓練生たちはこれからも目標に向かって進んでほしい」と願っていた。
 

◆障害者自立支援法訴訟:「社会保障に応益負担不要」 岡山の原告が報告 /岡山
(2010.02.28 毎日新聞 地方版/岡山 25頁)
 障害者自立支援法違憲訴訟を支援する「障害者自立支援法訴訟勝利をめざす岡山の会」が27日、訴訟の経過を報告する集会を北区津島西坂の岡山労働福祉事業会館で開いた。
 同法が定める「障害者福祉サービス利用料の1割自己負担」を「障害者の生きる権利を侵害し憲法違反」などとして全国14地裁で計71人が集団提訴した訴訟は先月7日、弁護・原告団と国との間で基本合意を締結。この日の集会には県内唯一の原告で美咲町の清水博さん(61)らが参加した。
 集会では、大阪弁護士会所属で全国弁護団の辻川圭乃弁護士が政府と結んだ基本合意文書について説明。「文書で『現行の介護保険制度との統合は前提とはせず』の部分は『1割負担の枠組みはあきらめました』ということにつながる」と話した。
 清水さんが岡山地裁に提訴した訴訟は4月16日に国との間で和解が成立する見通しで、清水さんは「弁護団や勝利をめざす会のみなさんには感謝しています」とあいさつ。今後について「(原告団として)社会保障制度に応益負担とか受益者負担などの言葉を持ち込ませないという世論形成に向けて活動を強化したい」と決意を述べた。【石井尚】


◆障害者負担なお重く 今春から暫定の軽減措置 サービス利用時間に制限
(2010年02月27日 朝日新聞 朝刊 生活1 033)
 政府は、福祉サービスの利用に応じて障害者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の廃止を決め、新たな福祉制度の導入に向けて議論を始めた。支援法が廃止されるまで、低所得者の負担を軽減する措置が取られるが、当事者から「地域で安心して暮らすにはなお課題がある」との声があがる。(森本美紀)
 厚労省は1月、支援法は憲法違反だとして国を訴えていた原告・弁護団と、支援法を廃止して2013年8月までに新法を制定することなどについて基本合意=表=を交わした。
 自立支援法が廃止されるまでは負担軽減措置が取られる。4月から福祉サービスと車いすなどの補装具の購入や修理について、低所得者(市町村民税が非課税)は無料となる予定で、サービス利用者の約8割にあたる約39万人が対象だ。
 ただし、サービスの利用時間には制約がある。
 堺市ではり治療院を営む土屋久美子さん(44)は、市民税が非課税のため、4月から、月36時間利用している居宅介護(ホームヘルプ)の自己負担、月3千円が無料になる見通しだ。
 生まれつき目が見えず、料理や掃除、書類の読み書きなどをヘルパーに依頼する。収入は障害基礎年金と治療院の収入で月15万円ほど。高校生の子どもの学費や、自身が外出する際の移動支援(ガイドヘルプ)代などもかさみ、余裕はない。「たとえ3千円でも家計には大きい。当たり前の生活をするのに必要な支援にまで負担を課すのはおかしい、と国がわかってくれたことがうれしい」
 ただ、市から認められた利用時間では十分ではないため、金曜午前の3時間は、全額自己負担でヘルパーを依頼している。費用は月約1万円。負担が重く、土日の利用は控えざるを得ないという。
 和歌山市の大谷真之さん(35)は課税世帯のため、重度訪問介護の月9300円の負担は続く。障害者が地域で自立して暮らせるよう、ヘルパー派遣事業所を運営しているが、経営は厳しく、生活は楽ではない。
 生まれつきの脳性まひで、手足が自由に動かせず、家でも車いすの生活。今の生活を続けるには、食事やトイレの介助をしてくれるヘルパーの支援が欠かせない。現在利用できるのは月190時間。毎日朝と晩に来てもらっているが、土日の晩は1時間短くせざるを得ず、入浴を控えてトイレを我慢する時間も長くなっているという。
 「僕の望みは、当たり前の生活をすること。将来は結婚もしたい。そして、幸せやったと思って死んでいきたいだけなんです。障害があるために何かを我慢しなければならない社会を変えていきたい。障害者の声を取り入れた法律ができるかどうか。これからが本当の闘いです」
 障害者団体に勤める東京都の家平悟さん(38)は、本人は「非課税」だが、共働きの妻(36)が課税者で「課税世帯」とみなされるため、無料化の対象にならない。
 家平さんには重い身体障害があり、首から下はほとんど動かない。毎日、朝と晩に食事や着替えなどのホームヘルプを利用し、外出にはガイドヘルパーを伴う。こうした支援にかかる自己負担は月に計1万8600円。車いすなどの修理代も「非課税」なら無料になるが、課税世帯では上限月額が3万7200円。4歳と乳児の息子2人の教育費など、将来への貯金もままならない。
 「身の回りのことは最低限、自分でやるという思いで結婚した。障害の負担を家族にまで押しつけるのは、『家族に面倒をみてもらえ』というのと同じで、自立支援にはつながらない」
 ◇自立支援法訴訟の原告と国の基本合意
 ・憲法13条(個人の尊厳)、14条(平等権)、25条(生存権)の理念に基づき、違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感する
 ・障害者自立支援法を障害者の意見を十分に踏まえず施行し、応益(定率)負担を導入したことにより、多大な混乱と生活への悪影響を招き、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、原告らをはじめとする障害者、及びその家族に心から反省の意を表明する
 ・新たな総合的な福祉制度を制定するに当たっては、障害者の参画のもとに十分な議論を行う


◆無料法律相談会:障害のある人、気軽に相談を−−来月3日、南区 /広島
(2010.02.27 毎日新聞 地方版/広島 24頁)
 「障がいがある人・その支援に関わる人のための無料法律相談会」が3月3日午前10時〜午後4時、南区比治山本町の県社会福祉会館で開かれる。広島弁護士会高齢者・障害者等の権利に関する委員会と、県社会福祉士会が主催。
 成年後見や相続、労働、契約、債務といった法律問題のほか、障害年金や障害者自立支援法などについて相談を受け付ける。弁護士と社会福祉士、社会保険労務士が対応する。
 電話相談(090・9002・3532、当日のみ)もあり。問い合わせは広島みらい法律事務所(082・511・7772)。【樋口岳大】


◆補聴器販売の営業所 補助金不正受給疑い=新潟
(2010.02.26 読売新聞 東京朝刊 新潟北 33頁)
 佐渡市は25日、障害者自立支援法に基づく日常生活用具購入費の補助を巡り、補聴器販売「新潟リオンメディカル」(新潟市中央区)の佐渡営業所が、補助金約356万円を不正に受給した疑いがあると発表した。同社の報告を受けて、市は昨年末から調査を進めていた。
 市や同社によると、市に補助申請した金額より安価な機材を利用者に届けるなどの手口で差額を発生させ、補聴器の売り上げを水増しするのに回していたとみられ、2006年4月〜09年12月までの申請117件のうち、58件で不正が疑われるという。
 市では、不正受給額が確定し次第、業者に返還を求めることにしている。同社は営業所の責任者を既に懲戒解雇にした。


◆障害者→障「碍」者に改めて 国と民主党に佐賀知事要望
(2010.02.26 読売新聞 西部朝刊 西2社 38頁)
 佐賀県の古川康知事は25日、「障害者」の表記を「障碍(がい)者」に改めるよう民主党本部と文化庁、内閣府に要望した。
 古川知事は「『害』の字には害毒、有害といった負の意味があり、使うべきではない」と主張。自身のホームページなどでは、「さまたげ」を意味する「碍」の字を用いている。しかし、「碍」は常用漢字に含まれておらず、障害者自立支援法などでも一様に「障害者」と表記されている。
 公的な文書などに使えないため、古川知事は文化審議会に「碍」を常用漢字に加えるよう要望。さらに、鳩山内閣の「障がい者制度改革推進会議」でも見直しを協議するよう内閣府の福島消費者相や、民主党の広野副幹事長らに求めた。福島消費者相は「知事の思いはしっかり受け止めた。推進会議で議論したい」と答えたという。
 「障害者」の表記の変更は全国的に検討されており、佐賀県によると、熊本、大分、宮崎など10道府県と福岡市など5政令市が「障がい者」に改めた。古川知事は「交ぜ書きは意味が不明で好ましくない。障害者団体からも異論が出ている」として、「碍」の使用を訴える方針。


◆高知の介護業者、200万円不正請求 県、指定取り消し /高知県
(2010年02月25日 朝日新聞 朝刊 高知全県・1地方 034)
 障害者や高齢者に対する介護事業などで不正請求や法令違反などがあったとして、県は24日、有限会社ゆずケアセンター(高知市日の出町)に対し、障害者自立支援法に基づき、居宅介護などのサービス事業者の指定を3月1日付で取り消すと発表した。県内で同法に基づく指定取り消しは初めて。また、介護保険法に基づき、訪問介護などのサービスの新規利用者受け入れを3月1日から6カ月間停止する処分も出した。
 県によると、不正請求は2006〜08年を中心に、居宅介護で400件約195万円、介護保険の訪問介護で63件約18万円が確認された。県に提出する文書で虚偽の報告をしたほか、監査にも虚偽の回答をした。また、無資格の従業者3人が訪問介護などのサービスをするなどしたという。
 昨年6〜11月、県の各担当課が監査に入って調べていた。今後、高知市などが不正請求分の返還を求める。現在の利用者は、障害者自立支援法の事業で1人、介護保険法の事業で約60人という。
 同社の宇賀みどり社長は朝日新聞の取材に「地域やお客様にご迷惑をおかけした。法律に基づいて対応し、責任は取りたい」と話し、不正請求分の返還に応じる意向を示した。


◆ゆずケアセンター 介護給付210万円不正請求 障害福祉事業指定抹消=高知
(2010.02.25 読売新聞 大阪朝刊 高知 27頁)
 県は24日、介護給付金計約210万円を不正請求したとして、介護保険事業所「ゆずケアセンター」(高知市日の出町)に対し、障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業所の指定を取り消す、と発表した。さらに、無資格の従業員に訪問介護サービスをさせたとして、新規の利用者に対するサービス提供も6か月間、介護保険法に基づいて停止させる。いずれも処分は3月1日付。
 県によると、同事業者の従業員が2007年5月〜08年12月、延べ388回にわたって同居の家族に対するサービスを提供するなどし、居宅介護給付金194万円を不正請求するなどした。また、訪問介護員の資格を持たない従業員3人が06年5月1日〜08年11月30日、延べ63回の訪問介護サービスを行い、本来請求できない計18万円の介護給付金を受け取った。
 指定が取り消される障害福祉サービス事業所の利用者1人は、すでに他の受け入れ先が決まっている。
 同事業所は今後、市町村と利用者に対し、介護給付費をそれぞれ返還する。


◆介護給付費不正受給:県が居宅介護業者の指定取り消し−−ゆずケアセンター /高知
(2010.02.25 毎日新聞 地方版/高知 23頁)
 県は24日、介護給付費計約212万円を不正に受け取ったなどとして、高知市日の出町の「ゆずケアセンター」(宇賀みどり社長)を障害者自立支援法に基づき、居宅介護事業などの指定取り消し処分にした。また、訪問介護などの事業では無資格の従業員によるサービス提供が判明し、新規利用者受け入れ停止(6カ月)の処分とした。
 県によると、居宅介護事業を巡っては、07年5月〜08年12月、同センターのヘルパーが自らの家族に対する入浴介助などをサービスを提供したと申請。介護給付費388件約192万円を不正に受け取っていた。さらに、訪問介護事業では06年5月以降、介護福祉士の資格がないヘルパーがサービスを提供するなどの違法行為で、介護給付費63件約18万円を受け取っていた。
 同センターは県の聞き取り調査に対し、「違反とは認識していたが、指定取り消しという重い違反との認識はなかった」と釈明。3月末で事業からの撤退を決めており、約60人のサービス利用者は他の事業者に引き継がれるという。【服部陽】


◆社説:鳩山政権への手紙 長妻昭様 夢や人間力も必要です
(2010.02.25 毎日新聞 東京朝刊 5頁 内政面)
 どうせ存在感が薄くて期待はずれと決めつけるのだろう、そう思っていませんか? 年金問題の追及が政権交代の道を開いたとすれば、長妻さんは最大の功労者です。が、大臣になってからは苦戦続きでメディアへの露出度も低く、官僚とも相変わらずそりが合わないようですね。
 同情すべきなのは、党として子ども手当をはじめ医療や福祉の政策をあれだけマニフェストに盛り込みながら、財源不足で手詰まりになったしわ寄せを一手に受けていることです。就任早々、生活保護の母子加算復活を財務省に押し返され、党内基盤の弱いあなたは首相に直談判してようやく公約を果たしました。年末には、診療報酬アップ、障害者の負担軽減、児童扶養手当の父子家庭への支給なども財務省の反対にあいました。小沢一郎幹事長の「一声」で暫定税率が維持され、やっと財源が確保されてつじつまが合ったわけです。もっとも小沢幹事長の新年会には招待されなかったようで、一匹オオカミは相変わらずなのですね。
 省内各課に細かい「宿題」を矢継ぎ早に出し、その数は1000を超えたとか。野党時代に質問主意書を連発した手法をそのまま大臣室に持ち込んだかのようです。無駄な予算削減やナショナルミニマム研究などいくつものプロジェクトチームを作り、週末は高齢者の介護や幼児の保育を体験するなど、勉強熱心さには頭が下がります。「福祉の心がわからない」とも評されますが、何ごとも先入観を排し、合理的な根拠を求める姿勢には共感します。ただ、大臣や政務三役だけで厚生労働省全域の課題に取り組むのは無理です。
 自民党政権下の社会保障費削減方針で苦しい制度設計を強いられてきた厚労官僚の中には民主党政権を待望していた人が少なからずいます。また、自民党政権末期の社会保障国民会議の報告、障害者自立支援法改正案などにはくむべき提言や政策がたくさんあります。それをすべて否定してゼロから制度を作り直す余裕があるのでしょうか。限られた財源で制度改革をしても万人が満足するものはできません。マイナス面ばかり強調すれば国民は不安をかき立てられ、政権批判が高まることは、長妻さんが一番わかっているはずです。
 大臣になったのですから、持ち前の合理的思考は、相手の失策を追及するのではなく、敵陣の中から優れた人材や政策をくみ上げるために使うべきではないでしょうか。超高齢社会における持続可能な社会保障を確立するためには、大きな夢を語り、官僚や野党も引きつける人間力が必要だと思います。


◆補正予算案など37の議案を提出 和歌山市議会、開会 /和歌山県
(2010年02月24日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 031)
 和歌山市の2月定例議会が23日開会した。今年度の一般会計補正予算案、障害者自立支援法訴訟の和解など37議案を提出した。補正予算案を議決した上で新年度予算案の討議に入るため、新年度当初予算案を含む残りの議案は3月1日に提出される予定。代表質問は2日。一般質問は6、7日の休会を挟み、3〜9日にある。会期は同19日までの25日間。一般会計補正予算案は市税の減収などで約14億7千万円を減額する一方、国の2次補正分で約8億円が盛り込まれる。


◆筑紫野市予算案 6.8%増の293億円=福岡 西部朝刊
(2010.02.24 読売新聞 福岡 34頁)
 筑紫野市は23日、総額293億5000万円の2010年度一般会計当初予算案を発表した。前年度比6・8%増で、2年連続の増加。26日開会予定の市議会に提案する。
 歳入は、大規模商業施設の進出などにより固定資産税の増額が見込まれ、市税が前年度比1・7%増の126億2400万円。地方交付税は同1・9%増の33億1200万円。市債は前年度より27・8%多い27億1400万円。歳出は、子ども手当の負担や障害者自立支援法に基づく介護給付費などが増え、扶助費が同30%増の69億7000万円と大きく伸びた。
 主な新規事業は、小中学校の耐震化事業(6億2800万円)▽待機児童の解消のための保育園の分園建設補助事業(6900万円)▽住宅の省エネ化やバリアフリー化などの改修工事への補助金(1000万円)。
 市議会の会期は、3月24日までの27日間。市は52議案を提案する。一般質問は16、17日。


◆みやこ福祉会4事業所、事業者指定取り消し 給付費、不正受給 /京都府
(2010年02月18日 朝日新聞 朝刊 京都市内・1地方 030)
 府は、社会福祉法人みやこ福祉会(沢田宗吾理事長)が運営する4事業所が、必要な管理者を配置せず、市町村からの給付費を不正に受け取ったうえ、改善指導にも従わなかったとして、障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業者の指定を4月30日付で取り消すと発表した。府内で同種の事業者が指定を取り消されるのは初めて。
 取り消しの対象となるのは、障害者の就労支援を行うユニバース鴨川(南区)、京都創作工房(伏見区)、かぐや庵(あん)(向日市)、ユニバース乙訓(同)の4事業所。計33人の利用者がおり、府は市町村と連携して新しい施設のあっせんなどを進める。
 介護・福祉事業課の調査では、同福祉会は2006年10月に指定を受けた直後から、利用者のサービス計画の立案や評価をするために配置が定められている常駐の「サービス管理責任者」を少なくとも1年半にわたって配置せずに事業をしたとされる。
 府は08年から2度監査を実施。09年1月に勧告、文書指導した後も改善されなかった。また、同責任者がいない場合、利用者が住む市町村から支給される「給付費」が3割減額されることになっているが、福祉会は指導に基づき責任者を配置したという虚偽の申告をし、全額を受け取っていた。他にも利用時間を水増しして不正に給付費を受け取っており、不正請求額は概算で1千万円を超える見込みという。


◆県一般会計予算案 経済対策拡充5345億円 2年連続増=和歌山
(2010.02.17 読売新聞 大阪朝刊 セ和歌 28頁)
 ◇産業活性化、医療にも重点
 県は16日、2010年度当初予算案を発表した。一般会計は5345億円で、09年度当初比2・2%増。緊急経済対策として公共事業や中小企業向け融資などを拡充し、2年連続増加した。予算配分は、人件費や県債発行を抑えた一方、産業活性化や医療体制充実などの分野に力を入れた。仁坂知事は「景気に配慮した一方、明日の希望と今日の安心の両方を担った政策を展開する」としている。
 □経済・産業
 化学、金属、農業技術、新エネルギーなど、県の経済をリードする先端技術開発や実用化を補助する「先駆的産業技術研究開発支援」に1億円。公共事業削減による建設業界の苦境を改善しようと、「県内建設業界の競争力強化」として700万円を計上、学識研究者らを交えて「県建設技術会議」を設立し、今後の技術開発や事業展開の方向性をとりまとめる。業界全体の技術レベル底上げのため、土木関係の資格取得費も補助する。
 □地域づくり
 「過疎集落再生・活性化支援」に5000万円。乗り合いタクシーや農作物集荷、買い物代行など、集落全体を活性化するためのソフト事業を補助する。県外からの移住の課題となっている住宅確保を支援する「移住推進空き家活用」には、2280万円を盛り込んだ。官民で作る「田舎暮らし応援県わかやま推進会議」に住宅部会を新設し、空き家所有者と移住希望者の契約を仲介する。水回りの改修にも補助する。
 □医療
 「救急医療体制の充実」(16億9220万円)として、県立医科大付属病院と日赤和歌山医療センターに、集中治療室から患者を移す観察ベッドを約10床ずつ設置し、救急医療体制を拡充。医療機器も整備する。
 「周産期医療体制の充実」には、2億2835万円。新生児集中治療室(NICU)やNICUに準じる「後方病床」を増床、分娩(ぶんべん)を行わなくなった産科の開業医らに、総合病院での診療を手伝ってもらい、勤務医の負担軽減を図る。
 看護師不足解消のため「潜在看護職員復職支援」に1065万円を予算化。出産や育児で退職する看護師らをあらかじめ登録し、看護情報をメールで送ったり、医療機関で研修を開いたりして復職を支援する。
 □教育・スポーツ
 2015年に県内で開催される国民体育大会に向けて、「きのくにスポーツフェスティバル(仮称)」事業を3616万円で行う。国体の内定を受けて実施される総合開会式のほか、各競技の開催地でスポーツが定着するように市町村への補助を行い、国体への機運を盛り上げる。
 文部科学省の「地域産業の担い手育成プロジェクト」の「わかやま版」に806万円を計上した。熟練の技能や最新技術をもつ企業人を授業に招いたり、長期の企業実習を行ったりして就職内定率の向上と、離職率の低下を図る。高校生の就職支援に1062万円を予算化。県立16高校に就職支援相談員を配置し、生徒の面接指導や企業への求人開拓にあたる。また、公立高校の授業料無償化について、県立高校生約2万3000人の授業料の総額は約25億円の見込みという。
  ◇人件費削り県債14%減
 □歳入
 不景気の影響で、県税は前年度より17・6%落ち込んだ。代わりに、国から交付される地方交付税と臨時財政対策債の合計は、「三位一体改革」が始まった04年度以降最高の2001億円(前年度比8・6%増)にアップ。
 一方、県債(臨時財政対策債を除く)の発行額は14%減。人件費を削減し、退職手当債を圧縮できた。しかし、過去の累積などから、臨時財政対策債を含む10年度末の県債残高見込みは戦後最高の9036億円となり、県民1人当たりの借金は87万円にのぼる。
 基金の取り崩しは、県債管理基金を31億円(前年度62億円)に抑え、財政調整基金は保全、残高は40億円のまま。
 □歳出
 義務的経費は前年度並み。うち人件費は、行政改革に沿って職員定数を前年度より241人減らしたため1・7%縮減。公債費は、償還額増加により2・5%増。利子の支払いだけで年間143億円に上る。扶助費は、障害者自立支援法を適用したサービスを行う事業所が増えたことなどから、8・3%増加した。
 政策的経費は4・1%増えた。そのうち普通建設事業費は1・7%減だが、国直轄事業負担金の見直しにより、維持管理費や事務費が大幅削減された影響が大きく、実質的には救急医療施設整備などを進めて増加した。そのほか、中小企業向け融資や雇用対策などの緊急経済対策を大幅に拡充した。
 ◇過疎対策ソフト事業推進役は(解説)
 仁坂知事1期目最後の年となる新年度予算案は、過疎対策など「地域づくり」をソフト面で支援する姿勢が打ち出されている。
 県の人口は今年、100万人を切ると予想される。若者の定住を目指し、企業誘致などを進めてきたが、人口減少に歯止めをかけるまでの成果は得られていない。新年度予算では、Iターン促進や、地域資源を生かした町おこしを拡充しており、身の丈に合った活性化を目指したことがわかる。
 「過疎集落再生・活性化支援」の事業では、道路などのハードではなく、既存の集落を再編した上で、買い物代行などのソフト事業に補助し、過疎地の高齢者らが基本的な生活を送れることを目指す。県単独で6年間で5億円投資する方針。山間部の住民を見捨てないとの姿勢の現れだろう。
 県は、補助対象を「市町村や団体など」としているが、ソフト事業の推進役となるリーダーを、どのように見いだしていくのか、具体策は見えておらず、実力が試されるのはこれからだ。(坊美生子)


◆4月にも和解 京都地裁で自立支援法違憲訴訟 /京都府
(2010年02月16日 朝日新聞 朝刊 京都市内・1地方 031)
 福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、府内の障害者9人が、負担撤廃などを求めた訴訟の第5回口頭弁論が15日、京都地裁(瀧華聡之裁判長)であり、和解のための期日を4月13日に指定した。鳩山政権は同法廃止を決め、1月には全国の原告・弁護団と国が「速やかに応益負担制度を廃止し、新たな福祉法制を実施する」などとする文書に署名。各地裁で順次、和解に向けた手続きが始まっている。


◆自立支援法違憲訴訟、4月に和解の見込み 京都地裁、期日を指定 /京都府
(2010年02月16日 朝日新聞 朝刊 丹後・1地方 031)
 福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、府内の障害者9人が、負担撤廃などを求めた訴訟の第5回口頭弁論が15日、京都地裁(瀧華聡之裁判長)であり、和解のための期日を4月13日に指定した。
 鳩山政権は同法廃止を決め、1月には全国の原告・弁護団と国が「速やかに応益負担制度を廃止し、新たな福祉法制を実施する」などとする文書に署名。各地裁で順次、和解に向けた手続きが始まっている。
 この日は原告ら4人が「一日も早く新しい法律になって、地域で安心して生活できるようにして欲しい」などと意見陳述した。


◆障害者負担訴訟 国などと和解へ 京都市民ら9人=京都
(2010.02.16 読売新聞 大阪朝刊 京市内 31頁)
 福祉サービス利用料の原則1割を自己負担と定めた障害者自立支援法は、憲法が保障する生存権を侵害するなどとして、知的障害や身体障害などがある京都、亀岡、福知山市の9人が国などに自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の第5回口頭弁論が15日、地裁(滝華聡之裁判長)であり、次回4月13日に和解する見通しとなった。同法を巡る訴訟は、京都を含め全国の14地裁で71人が係争中だが、長妻厚生労働相と原告団が1月、同法を廃止し新法を制定するなどとした合意文書を結んでおり、各地裁で和解に向けた協議が進んでいる。


◆障害者自立支援法訴訟:京都でも終結へ 和解期日4月13日 /京都
(2010.02.16 毎日新聞 地方版/京都 25頁)
 福祉サービスの利用者負担を定めた障害者自立支援法は憲法違反だとして、府内の障害者9人が負担撤廃を国や自治体に求めた訴訟の第5回口頭弁論が15日、京都地裁(瀧華聡之裁判長)であり、和解期日を4月13日に決めた。
 同種訴訟は全国14地裁で係争中で、原告団・弁護団と国は今年1月、同法廃止で合意している。京都でも合意を確認し、原告が訴えを取り下げることで訴訟は終結する見通し。【熊谷豪】


◆障がい者制度改革推進会議:障害者施策に関心を 聴覚障害者ら傍聴 /富山
(2010.02.16 毎日新聞 地方版/富山 25頁)
 政府の「障がい者制度改革推進会議」の生中継を見て、障害者施策への関心を高めようと、県聴覚障害者センターで傍聴会が開かれた。聴覚障害者や関係者らが参加し、活発に交わされる議論を熱心に見つめていた。
 同会議は、国の障害者施策を見直すために設置。障害を持つ当事者らがメンバーとなり、障害者自立支援法廃止後の制度設計や、障害者基本法のあり方などについて検討している。
 この日は第3回会合があり、会議の様子がCS放送で手話通訳と字幕付きで同時中継された。傍聴会の参加者は、障害者雇用などを巡る議論をメモを取りながら見入っていた。
 同センターは、今後も同時中継の傍聴会を開催する予定。小中栄一施設長は「当事者が政策づくりに参加できる今回の会議は画期的な取り組み。会議を政府の中だけで終わらせないためにも、関心を持って積極的に傍聴してほしい」と呼びかけている。【蒔田備憲】


◆重要課題に世論調査活用へ 長妻厚労相が検討
(2010年02月15日 朝日新聞 朝刊 2総合 002)
 長妻昭厚生労働相は、後期高齢者医療制度(後期医療)や年金問題などの重要な政策課題に世論調査を活用する検討に入った。国民の声を政策に反映させる狙いで、「国民から送り込まれたチェックマン」を自任する長妻氏のこだわりの一手だ。
 世論調査は、3段階で実施する方針。まず、一般から公募している厚労省モニターのうち約100人を同省に集め、担当者が直接説明して意見を聞く。次に、有識者約千人を対象にしたアンケートで、専門的な問題点を洗い出す。さらに、国民にわかりやすい形でA案とB案を示し、どちらが良いか大規模なアンケートで選んでもらう。
 こうした方式を導入するのは、自公政権下の2年前に始まった後期医療が、周知不足により高齢者から強い反発を受けたことが背景にある。長妻氏は、後期医療について「二度と繰り返してはいけない政策決定の誤り」と指摘。すでに廃止方針を示し、2013年度から新制度への移行を図る。後期医療のほか、廃止する障害者自立支援法に代わる制度設計や年金制度改革などにも、世論調査方式を適用したい考えだ。
 (石塚広志)


◆子育てセンター、草加に4月開設 医師も常駐、全般支援 /埼玉県
(2010年02月15日 朝日新聞 朝刊 埼玉東部・1地方 037)
 草加市は4月から、子育ての総合相談センター、発達支援センター、児童デイサービスセンターの三つの機能を持つ「子育て支援センター」を同市松原1丁目に開設する。発達支援センターには診療所を併設し、医師1人が常駐するという。
 市子育て支援課によると、市立さかえ保育園の建て替えに合わせ、平屋建てを3階建てにし、1階と2階の一部を保育園、2階の残りと3階を子育て支援センターにする。
 総合相談センターは、子育て全般について相談に応じる。3歳までの子どもと親が遊びながら交流できるスペースや情報発信コーナーも。
 発達支援センターでは、常駐医師らが相談や診療し、診断に基づいて理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が療育支援する。
 現在は市外の医療機関などを利用する家族もいるといい、今後は「敷居が低くなれば」としている。
 児童デイサービスセンターは障害者自立支援法に基づくもので、保育士を中心に、少人数のグループで子ども同士のコミュニケーション力向上を目指す。発達支援センターと児童デイサービスセンターは総合相談センターで相談後に、予約制で利用。対象は小学校低学年まで。
 3月までのセンターについての問い合わせは市子育て支援課(048・922・1483)へ。


◆みんなの広場:政党こそ自助努力で自立せよ=無職・藤原正三・72
(2010.02.15 毎日新聞 東京朝刊 15頁 家庭面)
 (横浜市青葉区)
 現在問題となっている政治資金問題には、企業・団体からの献金の他に政党助成金の問題がある。
 先日の本紙夕刊で、自民党の舛添要一前厚生労働相は、政党助成金を倍増すれば企業・団体からの献金がなくとも政治はできると述べている。政党助成法案が出された際も、同じことが言われたように記憶している。しかしこれまでの経過は結局、政党助成金のただ取りとなってしまった。
 国民に対しては自助・自立を言って、最も弱い立場の障害者に対して障害者自立支援法を押し付け、最後の砦(とりで)である生活保護費まで削減した。その自民党が、ぬれ手であわの政党助成金を倍増したいとは、開いた口がふさがらない。
 政党助成金や企業・団体からの献金がないと政治活動ができないという話をよく聞く。しかし、現に共産党のように、政党助成金も企業・団体献金もなしで政治活動をしている政党がある。決してできない相談ではない。
 国民に自助努力や自立を言う前に、まず政党自身が自立すべきである。


◆障害者自立支援の福岡訴訟が和解へ 【西部】
(2010年02月13日 朝日新聞 朝刊 3社会 029)
 福祉サービスに応じて障害者に原則1割の自己負担を求める障害者自立支援法は違憲だとして、福岡県田川市の通所授産施設などに通う男性3人が、国などに自己負担をなくすことなどを求めた訴訟の第5回口頭弁論が12日、福岡地裁(増田隆久裁判長)であった。全国の原告・弁護団と厚生労働省が今年1月、訴訟の終結に合意しており、同地裁でも4月16日の次回期日で和解する方針を原告側、国側双方が申し合わせた。
 同法をめぐっては、2006年の施行後に負担が増えた障害者らが「生存権などの侵害にあたり違憲だ」として全国14地裁に71人の原告が提訴していた。
 鳩山政権が誕生し、連立与党が同法廃止で合意したのを受け、長妻昭厚労相が廃止を明言。今年1月、全国原告・弁護団と厚労省で「応益負担を廃止し、新たな福祉法を制定する」ことなどが盛り込まれた基本合意を交わし、訴訟は各地裁で順次、和解が成立する見通しになっていた。


◆障害者自立支援法訴訟 国と和解確認 福岡地裁=福岡
(2010.02.13 読売新聞 西部朝刊 二福岡 26頁)
 福祉サービスを利用する障害者に原則1割の自己負担を求めた障害者自立支援法は違憲として、県内の障害者3人が国と居住自治体を相手取り、自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の口頭弁論が12日、福岡地裁(増田隆久裁判長)であった。次回期日の4月16日に和解し、訴訟を終結することを確認した。
 同法を巡る訴訟では、福岡を含む全国14地裁で71人が係争中。1月に長妻厚生労働相と全国原告団が同法廃止などで基本合意したことを受け、4月下旬までにすべての地裁で和解が成立する見通しになっている。
 この日の弁論では、原告の敷島祐篤(よしずみ)さん(20)の日常生活を撮影したDVDを上映。原告代理人が意見陳述し、「国が支援法廃止だけでなく、総合的な福祉法制の実施を約束したことは画期的なことだ」と基本合意を評価した。
 原告団によると、和解条項は基本合意に沿った形でまとめられる予定という。〈代表県版採録〉


◆障害者自立支援法訴訟:4月16日和解へ−−福岡地裁
(2010.02.12 毎日新聞 西部夕刊 7頁 社会面)
 障害者自立支援法による福祉サービス費の原則1割負担は「生存権を侵害し違憲」として、福岡県の障害者3人が国や自治体に負担撤廃を求めた集団訴訟の口頭弁論が12日、福岡地裁(増田隆久裁判長)であり、訴訟は4月16日に和解する見通しとなった。
 全国14地裁に集団提訴した原告・弁護団と厚生労働省が先月、同法廃止と新法制定の基本合意を締結したのを受けたもの。
 原告側弁護団によると、基本合意は▽同法廃止▽13年8月までの新制度設計の障害者参画▽低所得者のヘルパー利用などの利用者負担の当面無料化――などの内容。


◆(変わる?安全網)障害者自立へ、改革注目 「1割自己負担」廃止合意1カ月【大阪】
(2010年02月09日 朝日新聞 朝刊 生活1 023)
 変わる?安全網(セーフティーネット)
 ようやく私たちの声が国に届いた――。福祉サービスの利用に応じて障害者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲として負担の廃止を求めた訴訟の原告・弁護団と国が、同法を廃止し、新しい福祉制度をつくることで合意して1カ月が過ぎた。原告はおおむね評価しながらも、「地域で安心して暮らすにはなお課題がある」と中身の論議に注目している。(森本美紀)
 ◇地域支援なお課題
 基本合意では、支援法廃止までの「当面の措置」として、福祉サービスと車いすなどの補装具の購入や修理について4月から、低所得(市町村民税が非課税)の障害者の負担をなくすことが盛り込まれた。14地裁に提訴した計71人のうち65人、全国では、サービス利用者の8割弱の約39万人が対象になる見込みだ。
 だが、和歌山市の大谷真之さん(35)は課税世帯のため、重度訪問介護の月9300円の負担はなくならない。地域で自立して暮らすことを願う障害者を支えたい、と現在ヘルパー派遣事業所を運営しているが、経営は厳しく、生活は楽ではない。
 それでも合意に応じたのは、「無料になる人が増えるのはうれしいし、裁判で勝訴する以上の成果」と思ったからだ。
 合意文書には、「新法の制定に当たっての論点」として、支給量(サービスの利用時間)の保障が明記された。原告でただ1人、自己負担の撤廃だけでなく、支給量の上乗せを訴えていた。
 「やっと障害者の声を国がきいてくれた。支援法によって苦しめられ、廃止を求めて闘ってきた日々を思い出し、涙があふれた」
 生まれつきの脳性まひで、手足が自由に動かせず、家でも車いすの生活。小中学校時代は肢体不自由児施設で暮らした。念願だった一人暮らしを始めたのは8年前。何を食べるか、いつだれと会うか、自分で決断してやりたいことをやり、近所の人とあいさつを交わす日々に喜びを感じてきた。
 今の生活を続けていくのに、食事やトイレの介助をしてくれるヘルパーの支援が欠かせない。市の決定により、現在利用できるのは月190時間。毎日朝と晩に来てもらっているが、土日の晩は1時間短くせざるを得ず、入浴を控えてトイレを我慢する時間も長くなっているという。
 「僕の望みは、当たり前の生活をすること。将来は結婚もしたい。そして、幸せやったと思って死んでいきたいだけなんです。障害があるために何かを我慢しなければならない社会を変えていきたい。障害者の声を取り入れた法律ができるかどうか。これからが本当の闘いです」
 ◇柔軟な仕組み望む
 大阪府堺市ではり治療院を営む土屋久美子さん(44)は、市民税が非課税のため、4月から、月36時間利用している居宅介護(ホームヘルプ)の自己負担、月3千円が無料になる見通しだ。
 生まれつき目が見えず、料理や掃除、書類の読み書きなどをヘルパーに依頼する。収入は障害基礎年金と治療院の収入で月15万円ほど。高校生の子どもの学費や、自身が外出する際の移動支援(ガイドヘルプ)代などもかさみ、余裕はない。「たとえ3千円でも家計には大きい。当たり前の生活をするのに必要な支援にまで負担を課すのはおかしい、と国がわかってくれたことがうれしい」
 ただ、市から支給されている利用時間では不足するため、金曜午前の3時間は、別の事業所のヘルパーを依頼している。費用は実費で、月約1万円。負担が重く、土日の利用は控えざるを得ないという。
 外出の際の移動支援も、利用できるのは月50時間まで。英会話などの趣味を控えるしかない。月4千円の自己負担も払わなくてはならない。「美容院にも行きたいし、旅行にも行きたい。それなのに家にいなくちゃいけないのは納得できない。生活の実情に応じて利用時間を決められる仕組みにしてほしい」
 ◇個人で収入認定を
 東京都の原告、障害者団体に勤める家平悟さん(38)は、自分一人だけなら「非課税」だが、共働きの妻(36)が課税者で、「課税世帯」とみなされるため、4月からの無料化の対象にならない。
 家平さんには重い身体障害があり、首から下はほとんど動かない。毎日、朝と晩に食事や着替えなどのホームヘルプを利用し、外出にはガイドヘルパーを伴う。こうした支援にかかる自己負担は月に計1万8600円。車いすなどの修理代も「非課税」なら無料になるが、課税世帯では上限月額が3万7200円。4歳と乳児の息子2人の教育費など、将来への貯金もままならない。
 「身の回りのことは最低限、自分でやるという思いで結婚した。障害の負担を家族にまで押しつけるのは、『家族に面倒をみてもらえ』というのと同じで、自立支援にはつながらない。訴訟の真の意味での勝利は新法ができたときだ」
 ◇「尊厳傷つけた」国が反省・新法制定明記 国との「基本合意」、弁護団が意義強調
 国は基本合意文書のなかで、支援法により「障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたこと」に対し、反省の意を表明し、2013年8月までに支援法を廃止し、新たな福祉法を制定することを明記した。
 さらに、原告・弁護団からの指摘を踏まえた「新法制定に当たっての論点」として、支給量の保障や障害者本人だけでの収入認定に加え、介護保険の優先原則を廃止する▽施設の食費などの実費負担を見直す▽支給決定の過程に障害者が参画する――などを挙げた。
 全国弁護団の藤岡毅・事務局長は「違憲訴訟の趣旨に正当性があると国家が認めた」と合意の意義を強調。「サービス利用に原則1割の自己負担を課す『応益負担』の廃止だけでなく、新法作りにも影響を与える内容で勝訴と同じ意味を持つ」と受け止める。
 訴訟は、14地裁で順次和解が成立する見通し。原告・弁護団は今後、政府の「障がい者制度改革推進会議」で予定されている新たな福祉制度の議論に意見が反映されるよう働きかけていく。厚労省との定期協議では、自立支援医療の1割負担の廃止や、自己負担を理由にした施設退所者の実態調査などを求めることも検討している。
 14人の原告が自己負担の撤廃を求めている移動支援については、各地の原告・弁護団らが事業主体の各市町村に原則無償化を要望していくという。


◆障害者支援:理解を 新法制定・権利条約、関係者200人がシンポ−−春日 /福岡
(2010.02.07 毎日新聞 地方版/福岡 23頁)
 障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」の制定に向け今後の課題や障害福祉の国際的な動きを学ぼうと、「新法づくりと障害者の権利条約を考えるシンポジウム」が6日、春日市のクローバープラザであった。県内18の障害者団体が企画。障害者や福祉職員ら約200人が参加した。
 現行の支援法は福祉サービス費の原則1割を自己負担する内容で、小泉政権下で制定されたが、長妻昭厚生労働相が廃止を明言。新たな総合福祉法案について議論が現在進められている。
 一方、06年に国連で採択された権利条約は、障害ゆえに必要な支援は自己責任ではなく社会が保障するとした「合理的配慮義務」が明記され、日本も批准を目指している。
 シンポでは、社会保障に詳しい伊藤周平・鹿児島大法科大学院教授が基調講演。当事者が施設と利用契約を結び、支援が必要なほど自己負担が増える「契約制度」について「介護保険に始まり、自立支援法や保育制度に拡大してきた仕組み。福祉を商品化し、国と自治体の責任を後退させた」と指摘した。
 さらに支援法廃止を約束する一方、介護保険や保育制度では契約制度を推進している鳩山政権について「政策が矛盾している。民主党には政策的理念がない」と批判した。【夫彰子】〔福岡都市圏版〕


◆障害者施設「新生園」事業移管を 保護者側、県に要望 /富山県
(2010年02月06日 朝刊 富山全県・1地方 031)
 県立の知的障害者援護施設「新生園」(高岡市麻生谷)の利用者の保護者会が5日、自ら社会福祉法人を設立して施設の運営を担い、将来的に県からの事業移管を求める要望を県に提出した。他県でも同様の公営施設の運営を民間委託する例はあるが、保護者側が事業移管を求めるのは異例という。
 同園は1962年に県内初の知的障害者援護施設として県が開設、県内でモデル的な役割を果たしてきた。障害者自立支援法の施行を受けて、近年は同園でも利用者が各地のグループホームなどに移る地域移行が進んでいる。
 保護者会の安元昭夫会長は県に対し、利用者の高齢化に伴う身体介護や医療ケアの増大にきめ細かく対応できる施設の重要性を訴え、「社会法人を立ち上げて施設運営をしたい」と呼びかけた。
 保護者会の要望書や法人設立の趣意書によると、現在の利用者73人のうち33人は施設入所支援を必要とし、入所期間は平均約27年、平均年齢は約52歳に達する。別の高齢者施設などへの移転が困難な場合が多いという。
 移管が実現すると、2012年の法人設立後、定員は現行の半数の50人とし、(1)通所型施設の設置(2)認知症型グループホームの運営(3)ショートステイやデイサービスといった地域支援事業の拡大――を目指し、県内の知的障害者支援施設の中核にしたい考え。これに伴い、県からの土地や建物の基本財産の貸与や支援職員の派遣も要望した。
 要望を受けた飯田久範・県厚生部長は「サービスが維持されるか、安定的に経営されるかが基本と思う。検討させてもらい、結論を出したい」と答えた。公的施設を民間が運営する場合、行政による事業者の公募や審査を経るケースが多いが、今回は保護者からの提案。県障害福祉課は「内部で協議し、保護者会とも調整を続けたい」とした。


◆フォーラム:障害者が地域で暮らせるように−−開幕 /滋賀
(2010.02.06 毎日新聞 地方版/滋賀 25頁)
 障害者が地域で暮らせる仕組み作りを考える全国大会「アメニティー・ネットワーク・フォーラム4」が5日、大津市におの浜4の大津プリンスホテルで始まった。7日まで開かれ、全国の福祉、教育関係者や行政担当者、当事者ら約1550人が参加する。
 鳩山内閣が検討を進める障害者自立支援法の後継制度や発達障害者支援のあり方を討論する。会場では、県内外の事業所が販売している商品なども紹介されている。【安部拓輝】


◆介護費を不正取得 水戸・障害者施設、指定取り消しへ /茨城県
(2010年02月05日 朝日新聞 朝刊 茨城・1地方 025)
 県障害福祉課は4日、水戸市見川町のNPO法人「創」(高柳ゆき子理事長)が運営する児童デイサービス「創」と短期入所サービス「絵(かい)」の2事業所が、利用時間を水増しするなどして介護給付費を不正に受け取っていたと発表した。同課は4月30日付で、同法人の障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業者の指定を取り消す。
 事業所は水戸市を中心に、18歳以下の重度の知的障害児や発達障害児を受け入れていた。県は両事業所の利用者計39人と職員17人が他施設に移れるように調整を進める。
 県の調査によると、2事業所のうち「創」は昨年7〜9月に利用者12人についてのべ116日分、「絵」は同年8〜9月に利用者5人についてのべ20日分の水増し請求をしていた。不正に取得した金額は計120万円とみられる。
 ほかにも、義務づけられている児童デイサービスの計画書が作成されていなかったことも発覚しており、不正に取得した金額を含めて、同法人の返還金は少なくとも3100万円に上る。総額が確定次第、水戸市など市町村が返還を求める。
 不正は昨年9月に別の事業所から県国民健康保険団体連合会に通報があり、水戸市や県による利用者への聞き取りで判明した。


◆県内の自立支援法違憲訴訟、4月に和解の見通し 「これからがスタート」 /滋賀県
(2010年02月05日 朝日新聞 朝刊 滋賀全県・1地方 024)
 福祉サービスの利用者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は違憲だとして、県内の障害者8人が負担取り消しなどを求めた訴訟の第5回口頭弁論が4日、大津地裁(石原稚也裁判長)であり、4月15日の次回期日で和解する見通しとなった。
 同法をめぐっては、2008年10月から全国14地裁で71人が提訴。大津地裁では同月と09年4月に各4人が提訴した。同年1月には集団訴訟で全国初の口頭弁論があり、国側が全面的に争う姿勢を示していた。
 昨年発足した鳩山政権は同法を廃止する方針を決定し、今年1月には全国の原告・弁護団と厚生労働省が「応益負担(定率負担)制度を廃止し、新たな総合的な福祉法制を実施する」などとする文書を交わし、訴訟の終結に合意していた。
 この日の訴訟では、原告側代理人の元永佐緒里弁護士が経緯や合意内容を裁判所に説明し、「次回期日で和解したい」と述べた。意見陳述した彦根市の原告宮本晃嗣さん(30)の母、房子さん(59)は、今後の制度について「障害を個性として理解する地域にしていく牽引(けんいん)役となる法律、行政になるよう望んでいます」と話した。
 「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす滋賀の会」の寺川登事務局長は「和解で終わりではなく、これからが制度づくりのスタート」と話した。


◆介護給付費を不正請求 NPOを事業指定取り消し=茨城
(2010.02.05 読売新聞 東京朝刊 茨城東 27頁)
 県は4日、福祉サービスを行っていないにもかかわらずサービスを提供したように装い、介護給付費約120万円を不正請求したとして、特定非営利活動法人「創(そう)」(水戸市見川町、高柳ゆき子理事長)に対し、障害者自立支援法に基づく事業所の指定取り消し処分を通知した。利用者の新たな引き受け先を確保するため、実際の指定取り消しは4月30日付とした。
 同法に基づく指定取り消し処分は、2008年3月の訪問介護サービス「ファミリー」(神栖市)に続いて県内2例目。児童デイサービス、短期入所サービスでは、いずれも県内で初めて。
 同法人が運営しているのは、主に知的障害児を対象にしている児童デイサービス「創」(利用者数27人)と短期入所サービス「絵(かい)」(同12人)。
 県によると、創は昨年7〜9月に12人分(延べ116日分)で計100万円、絵は昨年8〜9月に4人分(延べ20日分)で計20万円分の架空の介護給付費を請求し、受領していた。昨年9月、ほかの事業者から情報提供があり、水戸市が利用者への聞き取りを行い、県が立ち入り監査などを実施し発覚した。
 また、同法人は06年10月の開所当初から、利用者に対して作成が義務づけられている「児童デイサービス計画書」が未作成だった。計画書が未作成の場合、通常の介護給付費から5%を割り引いて請求しなければならないが、通常分を請求するなどしていた。このため、不正請求分を含めた返還額は、少なくとも3100万円に上るとみられる。
 県の調べに対し、高柳理事長は不正請求を認め、「施設の備品や設備拡充に充てた」と話しているという。障害者自立支援法は06年4月に施行され、同法で指定を受けた事業所では、利用者が1割負担で福祉サービスを受けられる。


◆障害者自立支援法訴訟 双方が和解応じる姿勢=滋賀
(2010.02.05 読売新聞 大阪朝刊 セ滋賀 31頁)
 障害者が福祉サービスを利用した際、原則1割負担(応益負担)を求める「障害者自立支援法」は憲法違反として、県内の障害者8人が国に自己負担の取り消しなどを求めた訴訟の口頭弁論が4日、地裁(石原稚也裁判長)であり、原告、被告双方が和解に応じる姿勢を示した。今後、和解協議を進め、各市町議会の合意が得られれば、次回弁論期日の4月15日に和解が成立する見通し。
 訴訟は障害者71人が全国14地裁で係争中だが、1月に長妻厚生労働相と原告団が同法廃止などで基本合意したことを受け、各地の地裁で和解に向けた協議が行われている。
 4日の弁論では、原告の谷口真規さん(26)(彦根市日夏町)の母・裕美さん(48)と、宮本晃嗣さん(30)(同市原町)の母・房子さん(59)が意見陳述をした。
 閉廷後、大津市の滋賀弁護士会館で開かれた報告集会では、弁護士が支援者に基本合意の内容を説明した。房子さんは「ようやくスタートラインに立てた。みんなが納得できるよう、これからも国との協議を続けていきたい」と話した。


◆NPO代表らを詐欺容疑で告訴 久喜市、給付費不正請求で /埼玉県
(2010年02月04日 朝日新聞 朝刊 埼玉西部・1地方 025)
 障害者自立支援給付費などの不正請求事件で、久喜市は3日、市内の当時のNPO法人「エイム福祉サポート」と有限会社「エイム」の代表ら2人を詐欺容疑で久喜署に告訴し、受理されたと発表した。
 告訴状によると、代表らは、2006年4〜6月に児童が居宅介護サービスを受けたように虚偽の書類を作成して同市に介護給付費を請求し、総額約29万円をだまし取ったとされる。
 両法人の不正請求は県内12市町に及び、県の調査では総額1億1700万円。県は昨年3月、両法人の障害者自立支援法に基づく事業所の指定を取り消した。被害額が最も多かった久喜市が、12市町を代表して告訴の手続きをしたという。


◆水増し請求:水戸のNPOが介護給付費120万円 県、2施設指定取消処分 /茨城
(2010.02.05 毎日新聞 地方版/茨城 23頁)
 県障害福祉課は4日、水戸市見川町で知的障害児向け通所・短期入所施設を運営するNPO法人「創」(高柳ゆき子代表)が介護給付費を水増し請求したとして、4月30日付で2施設を障害者自立支援法に基づく指定取消処分とし、利用者に新たな受け入れ施設を探すよう通知したと発表した。同課は昨年7〜9月分だけで2施設で約120万円の水増し請求を確認。また、義務付けられた計画書の提出も怠っていたことが判明し、同法人は追徴加算金と合わせ約3100万円以上の返還を求められる見通し。
 処分されるのは、児童デイサービス「創」と短期入所サービス「絵」で、09年12月末時点で18歳未満の児童ら計39人が登録していた。昨年9月に別の事業者から県国民健康保険団体連合会に情報提供があり、不正請求や書類不備が発覚した。
 同課によると、いずれも同じ管理者が経理や実質的な運営を担当。登録児童が利用していない日にも利用したように装い、虚偽の記録を各利用者の自治体に提出していた。県は、確認された昨年7〜9月分以外にも、水増し請求は08年ごろから繰り返されていたとみており、さらに調査を進めるという。
 また創では、同支援法でサービス開始時に作成が義務付けられている個別計画書が、開所当初の06年10月から一切作成されていなかったことも発覚。これまでに受給した介護給付金の5%にあたる約2100万円が返還対象となる。水戸市など計4自治体は、事業者に対して不正請求額と計画書未作成による返還対象分の合計に4割の加算金を追徴し、返還命令を出す方針。【山崎理絵】


◆障害者自立支援法訴訟:大津訴訟、「基本合意」受け和解へ /滋賀
(2010.02.05 毎日新聞 地方版/滋賀 25頁)
 障害者自立支援法が定める福祉サービス利用料の1割負担規定は、障害者の生存権などを侵害し違憲として、県内の障害者ら8人が国と自治体に負担廃止を求めた訴訟の第5回口頭弁論が4日、大津地裁(石原稚也裁判長)であった。
 全国14地裁で集団提訴した原告・弁護団と厚生労働省が先月7日、同法廃止と新法制定の基本合意を締結したのを受け、訴訟は次回期日の4月15日に和解する見込みになった。
 原告の谷口真規さん(26)=彦根市=の母裕美さん(48)はこの日、「これからは障害者の意志と個性が大切にされる法律を」などと意見陳述。閉廷後の報告会で、原告らは「やっとトンネルの外に出られる。これからが本当のスタートライン」と励まし合った。【前本麻有】


◆介護給付費不正請求 久喜市が刑事告訴=埼玉
(2010.02.04 読売新聞 東京朝刊 埼玉南 27頁)
 久喜市のNPO法人などによる介護給付費不正請求問題で、久喜市は3日、同法人などの代表を務める男性ら2人を詐欺容疑で久喜署に刑事告訴した。
 告訴されたのは、NPO法人「エイム福祉サポート」と有限会社「エイム」の代表の男性(60)と、事務責任者を務める男性の娘(32)。
 告訴状によると、2人は2006年4〜6月、久喜市の女児に障害者自立支援法に基づく居宅介護サービスを提供していないにもかかわらず、架空の実績記録票などを作成し、同市から約28万7000円をだまし取ったとされている。
 両団体は、同年から約2年半にわたって不正請求を行っていたとして、県内12市町から約1億4900万円の返還命令を受けているが、ほとんどが返還されていない。久喜市は3月の合併による新「久喜市」誕生までに、損害賠償を求めた民事訴訟などの法的手続きを行う準備も進めている。


◆障害者自立支援法訴訟:藤沢の男性、国と和解へ 地裁に合意書を提出 /岩手
(2010.02.04 毎日新聞 地方版/岩手 21頁)
 障害者自立支援法に定める応益負担は障害者の生存権を侵害し違憲だとして、障害者らが全国一斉に国を訴えた訴訟で、盛岡地裁に訴えを起こした藤沢町の知的障害のある男性(39)が国側と和解する見通しであることが3日、分かった。1月7日に国と原告団が同法撤廃などで基本合意したため、男性側が合意書を提出し、和解を同地裁に申請した。
 原告団によると、4月16日の協議で和解が成立する見込みという。
 男性は09年4月に提訴した。当初国側は争う姿勢を示したが、同年8月の衆院選で勝利した民主党政権が方針転換を表明していた。基本合意では同法を撤廃し、13年までに新法を制定することや、低所得者に対しては当面福祉サービス利用料などを無料にすることなどを盛り込んだ。
 原告団の事務局がある日本障害者協議会の中村喜長事務局長によると今後、合意文書を基に4月中旬までに全国で和解が成立する見通しという。【山中章子】


◆詐欺:「介護給付金だまし取る」 久喜市、NPO法人役員ら告訴 /埼玉
(2010.02.04 毎日新聞 地方版/埼玉 21頁)
 久喜市は3日、居宅介護サービスの介護給付費を市からだまし取ったとして、市内のNPO法人「エイム福祉サポート」代表理事を務めた男性ら2人を、詐欺容疑で久喜署に告訴した。県によると、同法人と関連の有限会社「エイム」による12市町への不正請求額は1億円を超えており、うち約5900万円と最大の久喜市が代表して刑事告訴した。
 告訴状によると、男性らは06年4月から6月にかけて、市内の障害児に対し、障害者自立支援法に基づく居宅介護サービスを提供したとする虚偽の書類を作成し、市に提出。同年6〜8月に介護給付費28万6992円をだまし取ったという。
 市によると、法人側が調査に対して認めた架空請求や水増し請求は▽児童デイサービス1040万円▽居宅介護3284万円▽地域生活支援事業1379万円▽障害児生活サポート事業208万円。県は不正発覚後の昨年3月、NPO法人への障害福祉サービス事業者指定などを取り消している。【平野幸治】


◆きのうの夕刊から:自立支援給付の新規申請、内規で認めず
(2010.02.04 毎日新聞 西部朝刊 22頁 社会面)
 障害者自立支援法で定められた居宅介護などの自立支援給付について、東京都新宿区が「対象者が増えると事務作業などの面で処理しきれなくなる」と昨年10月以降、65歳以上の障害者から新規申請があっても認めないよう内規で定めていたことが分かった。厚生労働省は実態に応じて同給付と介護給付の両方適用するよう求めており、区は「不適切だった」と認め、2日、措置を撤回した。


◆難病ALSの「篠沢教授」に介護の上乗せ拒否 新宿区、誤って年齢制限 /東京都
(2010年02月03日 朝日新聞 朝刊 東京都心・1地方 027)
 「クイズダービー」などテレビ番組で人気を集めた篠沢秀夫・学習院大名誉教授(76)が全身の筋肉が動かなくなる難病、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)になり、家族らが新宿区に障害者自立支援法に基づく在宅介護サービスを求めたところ、「65歳以上は介護保険しか適用しない」として拒否されていたことがわかった。同法にはこうした年齢制限はなく、区は2日、「不適切かつ誤った運用だった」と認めた。
 妻の礼子さん(69)によると、篠沢名誉教授は昨年2月にALSと診断され、4月には気管を切開して人工呼吸器を付けた。たんの吸引が24時間必要なうえ、話すこともできないため、1人で家においておけない状態という。介護保険に基づきヘルパーにきてもらっていたが、昨年11月と今年1月、より手厚い介護を受けられる障害者自立支援法に基づくサービスを区に求めた。これに対し、区は「65歳以上は介護保険しか適用できない」の一点張りだったという。
 区障害者福祉課によると、介護保険に障害者福祉のサービスも加えるケースについて、厚生労働省はALSのような重い障害者を対象にしてきた。だが、2007年3月の通知で対象者を明記していなかったことから、区は昨年10月、「介護保険を適用されている65歳以上の人には、自立支援法にもとづくサービスを上乗せしなくてもいい」と判断し、内規を改めた。しかし区は2日、内規は誤ったものだったとし、おわびする中山弘子区長のコメントを発表した。
 礼子さんは「区の対応はひどいという言葉以外にない。年を取って障害者になった人の気持ちがまったくわかっていない」と話した。
 (大塚晶)


◆篠沢教授の障害者支援申請 新宿区が拒否 独自ルール「不適切」と改正=東京
(2010.02.03 読売新聞 東京朝刊 都民 25頁)
 テレビのクイズ番組で人気を集めた学習院大名誉教授の篠沢秀夫さん(76)(新宿区)が、障害者自立支援法に基づいて受けられる障害者向けの福祉サービスを同区に申請した際、断られていたことがわかった。区が2日、発表した。
 区によると、篠沢さんは、筋肉が動かなくなる難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)」と診断され、介護保険を利用してヘルパーの派遣を受けていた。昨年11月、さらに必要な福祉サービスを受けようと、同法に基づいて区に申請したところ、区は、介護保険の利用者は同法によるサービスを追加して受けられないという独自のルールにのっとり、申請を受け付けなかった。
 区は同10月、このルールの運用を始めたが、区障害者福祉課は「障害者全員の要望に対応できないので、対象者を絞ろうと考えていた。不適切なルールだった」として、2日付で改めた。


◆障害者自立支援給付:65歳以上、新宿区「認めぬ」内規 ALS、篠沢夫妻指摘で撤回
(2010.02.03 毎日新聞 東京朝刊 24頁 社会面)
 障害者自立支援法で定められた居宅介護などの自立支援給付について、東京都新宿区が昨年10月以降、65歳以上の障害者から新規申請があっても認めないよう内規で定めていたことが分かった。厚生労働省は実態に応じて同給付と介護給付の両方適用するよう求めており、区は「不適切だった」と認め、2日、措置を撤回した。【小泉大士】
 テレビ番組「クイズダービー」で活躍した篠沢秀夫学習院大名誉教授(76)と妻礼子さん(69)が1月に自立支援給付の申請について相談した際に断られ、内規が発覚した。篠沢名誉教授は昨年2月に進行性の難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症」(ALS)と診断され、既に介護給付を受けていた。
 厚労省の07年の通知などによると、65歳以上の障害者は、介護保険制度のサービスを受けるのが基本だが、介護負担が大きい場合などは、生活の手助けや補装具費補助などの自立支援サービスも受けることができる。
 だが区は昨年10月、「対象者が増えると事務作業などの面で処理しきれなくなる」と自立支援給付の運用ルールを改定していた。
 厚労省障害福祉課は「障害者自立支援法は、自治体は申請があれば面接を行い調査したうえで支給の是非を決めるよう定めている。新宿区の対応は法律違反の可能性もある」と指摘している。
 中山弘子新宿区長は2日、「職員から報告を受けてがくぜんとした。明らかに不適切で間違った対応。即座に改めるよう指示した」と話した。
 ◇「家内疲れ果てている」
 篠沢名誉教授はALSを患い、昨年4月に気管を切開し、たんの吸引など24時間介護が必要になった。自宅介護で、礼子さんが夜中2〜3時間おきに吸引しなければならない。
 礼子さんは1月、自立支援給付について区に相談したが、断られた。「とにかく新規は受け付けないととりつくしまがなかった。職員は『障害者が増え、税金で賄いきれない』と言った。まるで障害になるのが悪いようだった」と憤る。
 区から2日、謝罪申し出を受け、礼子さんは「ほっとしています」と笑顔に。篠沢名誉教授は「家内が僕の介護で疲れ果てているのが、一番心配していることです。介護士に助けていただければ幸いです。妻に遠慮し(トイレなど)ガマンしていたのです」と紙に感想を書いた。【馬場直子】


◆ユーモア交え「死」考える アルフォンス・デーケンさん講演=阪神 
(2010.02.01 読売新聞 大阪朝刊 阪神 26頁)
 尼崎市若王寺の聖トマス大で31日、「生と死を考える講演会」が行われ、市民ら約120人が聴講。日本における死生学の第一人者とされるアルフォンス・デーケン上智大名誉教授が「よく生き よく笑い よき死と出会う」と題し、死生観や悲嘆教育、人としての生き方などについて、ユーモアを交えて語った。
 障害者自立支援法や介護保険制度に基づく事業などを行うNPO法人「愛逢(あいあい)」(尼崎市小中島)が主催。終末期の支援事業にも取り組んでおり、生や死について市民らに意識を高めてもらおうと、講演会を年1回、開催している。
 デーケンさんは「肉体的な死」のほか、生きる意欲を失った「心理的な死」や周囲から存在感を認められなくなった「社会的な死」、文化面で潤いを失った「文化的な死」があると説明。「20世紀の日本は平均寿命も高く、医学の面では大成功した。21世紀は心理的、社会的、文化的な死の延命をいかに図れるか、が問われる」と述べた。
 また、「相手の死は、残された人にとっても小さな死のようなものだ」というフランスのことわざを引き合いにして、予防医学としての悲嘆教育の重要性を強調。人間らしい生き方をするために「愛と思いやりの表現で、相手と温かい関係も築ける」として、ユーモアの効果を挙げていた。


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▼1月分
◆鳩山首相の施政方針演説<全文>
(2010年01月30日 朝日新聞 朝刊 特設C 004)
◆鳩山首相:施政方針演説・全文(その1)
(2010.01.30 毎日新聞 東京朝刊 10頁 特集面)
◆29日の鳩山首相の施政方針演説 全文
(2010.01.30 読売新聞 東京夕刊 夕特A05頁)

 ◇はじめに
 いのちを、守りたい。
 いのちを守りたいと、願うのです。
 生まれくるいのち、そして、育ちゆくいのちを守りたい。
 若い夫婦が経済的な負担を不安に思い、子どもを持つことをあきらめてしまう、そんな社会を変えていきたい。未来を担う子どもたちが、自らの無限の可能性を自由に追求していける、そんな社会を築いていかなければなりません。
 働くいのちを守りたい。
 雇用の確保は、緊急の課題です。しかし、それに加えて、職を失った方々や、様々な理由で求職活動を続けている方々が、人との接点を失わず、共同体の一員として活動していける社会をつくっていきたい。経済活動はもとより、文化、スポーツ、ボランティア活動などを通じて、すべての人が社会との接点を持っている、そんな居場所と出番のある、新しい共同体のあり方を考えていきたいと願います。
 いつ、いかなるときも、人間を孤立させてはなりません。
 一人暮らしのお年寄りが、誰にもみとられず孤独な死を迎える、そんな事件をなくしていかなければなりません。誰もが、地域で孤立することなく暮らしていける社会をつくっていかなければなりません。
 世界のいのちを守りたい。
 これから生まれくる子どもたちが成人になったとき、核の脅威が歴史の教科書の中で過去の教訓と化している、そんな未来をつくりたいと願います。
 世界中の子どもたちが、飢餓や感染症、紛争や地雷によっていのちを奪われることのない社会をつくっていこうではありませんか。誰もが衛生的な水を飲むことができ、差別や偏見とは無縁に、人権が守られ基礎的な教育が受けられる、そんな暮らしを、国際社会の責任として、すべての子どもたちに保障していかなければなりません。
 今回のハイチ地震のような被害の拡大を国際的な協力で最小限に食い止め、新たな感染症の大流行を可能な限り抑え込むため、いのちを守るネットワークを、アジア、そして世界全体に張り巡らせていきたいと思います。
 地球のいのちを守りたい。
 この宇宙が生成して137億年、地球が誕生して46億年。その長い時間軸から見れば、人類が生まれ、そして文明生活をおくれるようになった、いわゆる「人間圏」ができたこの1万年は、ごく短い時間に過ぎません。しかし、この「短時間」の中で、私たちは、地球の時間を驚くべき速度で早送りして、資源を浪費し、地球環境を大きく破壊し、生態系にかつてない激変を加えています。約3千万とも言われる地球上の生物種のうち、現在年間約4万の種が絶滅していると推測されています。現代の産業活動や生活スタイルは、豊かさをもたらす一方で、確実に、人類が現在のような文明生活をおくることができる「残り時間」を短くしていることに、私たち自身が気づかなければなりません。
 私たちの英知を総動員し、地球というシステムと調和した「人間圏」はいかにあるべきか、具体策を講じていくことが必要です。少しでも地球の「残り時間」の減少を緩やかにするよう、社会を挙げて取り組むこと。それが、今を生きる私たちの未来への責任です。本年、わが国は生物多様性条約締約国会議の議長国を務めます。かけがえのない地球を子どもや孫たちの世代に引き継ぐために、国境を越えて力を合わせなければなりません。
 私は、このような思いから、平成22年度予算を「いのちを守る予算」と名付け、これを日本の新しいあり方への第一歩として、国会議員の皆さん、そして、すべての国民の皆さまに提示し、活発なご議論をいただきたいと願っています。
  ◇目指すべき日本のあり方
 私は、昨年末、インドを訪問した際、希望して、尊敬するマハトマ・ガンジー師の慰霊碑に献花させていただきました。慰霊碑には、ガンジー師が、八十数年前に記した「七つの社会的大罪」が刻まれています。
 「理念なき政治」
 「労働なき富」
 「良心なき快楽」
 「人格なき教育」
 「道徳なき商業」
 「人間性なき科学」、そして
 「犠牲なき宗教」です。
 まさに、今の日本と世界が抱える諸問題を、鋭く言い当てているのではないでしょうか。
 20世紀の物質的な豊かさを支えてきた経済が、本当の意味で人を豊かにし、幸せをもたらしてきたのか。資本主義社会を維持しつつ、行き過ぎた「道徳なき商業」、「労働なき富」を、どのように制御していくべきなのか。人間が人間らしく幸福に生きていくために、どのような経済が、政治が、社会が、教育が望ましいのか。今、その理念が、哲学が問われています。
 さらに、日本は、アジアの中で、世界の中で、国際社会の一員として、どのような国として歩んでいくべきなのか。
 政権交代を果たし、民主党、社会民主党、国民新党による連立内閣として初めての予算を提出するこの国会であるからこそ、あえて、私の政治理念を、国会議員の皆さんと、国民の皆さまに提起することから、この演説を始めたいと、ガンジー廟(びょう)を前に私は決意いたしました。
 ◇人間のための経済、再び
 経済のグローバル化や情報通信の高度化とともに、私たちの生活は日々便利になり、物質的には驚くほど豊かになりました。一方、一昨年の金融危機で直面したように、私たちが自らつくり出した経済システムを制御できない事態が発生しています。
 経済のしもべとして人間が存在するのではなく、人間の幸福を実現するための経済をつくり上げるのがこの内閣の使命です。
 かつて、日本の企業風土には、社会への貢献を重視する伝統が色濃くありました。働く人々、得意先や取引先、地域との長期的な信頼関係に支えられ、100年以上の歴史を誇る「長寿企業」が約2万社を数えるのは、日本の企業が社会の中の「共同体」として確固たる地位を占めてきたことの証しです。今こそ、国際競争を生き抜きつつも、社会的存在として地域社会にも貢献する日本型企業モデルを提案していかなければなりません。ガンジー師の言葉を借りれば、「商業の道徳」を育み、「労働をともなう富」を取り戻すための挑戦です。
 ◇「新しい公共」によって支えられる日本
 人の幸福や地域の豊かさは、企業による社会的な貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。
 今、市民やNPOが、教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。昨年の所信表明演説でご紹介したチョーク工場の事例が多くの方々の共感を呼んだように、人を支えること、人の役に立つことは、それ自体がよろこびとなり、生きがいともなります。こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域のきずなを再生するとともに、肥大化した「官」をスリムにすることにつなげていきたいと考えます。
 一昨日、「新しい公共」円卓会議の初会合を開催しました。この会合を通じて、「新しい公共」の考え方をより多くの方と共有するための対話を深めます。こうした活動を担う組織のあり方や活動を支援するための寄付税制の拡充を含め、これまで「官」が独占してきた領域を「公(おおやけ)」に開き、「新しい公共」の担い手を拡大する社会制度のあり方について、5月を目途に具体的な提案をまとめてまいります。
 ◇文化立国としての日本
 「新しい公共」によって、いかなる国をつくろうとしているのか。
 私は、日本を世界に誇る文化の国にしていきたいと考えます。ここで言う文化とは、狭く芸術その他の文化活動だけを指すのではなく、国民の生活・行動様式や経済のあり方、さらには価値観を含む概念です。
 厳しい環境・エネルギー・食料制約、人類史上例のない少子高齢化などの問題に直面する中で、様々な文化の架け橋として、また、唯一の被爆国として、さらには、伝統文化と現代文明の融和を最も進めている国のひとつとして、日本は、世界に対して、この困難な課題が山積する時代に適合した、独自の生活・行動様式や経済制度を提示していくべきだと考えます。
 多くの国の人々が、一度でよいから日本を訪ねたい、できることなら暮らしたいとあこがれる、愛され、輝きのある国となること。異なる文化を理解し、尊重することを大切にしながら、国際社会から信頼され、国民が日本に生まれたことに誇りを感ずるような文化を育んでいきたいのです。
 ◇人材と知恵で世界に貢献する日本
 新しい未来を切り開くとき、基本となるのは、人を育てる教育であり、人間の可能性を創造する科学です。
 文化の国、人間のための経済にとって必要なのは、単に数字で評価される「人格なき教育」や、結果的に人類の生存を脅かすような「人間性なき科学」ではありません。一人ひとりが地域という共同体、日本という国家、地球という生命体の一員として、より大きなものに貢献する、そんな「人格」を養う教育を目指すべきなのです。
 科学もまた、人間の英知を結集し、人類の生存にかかわる深刻な問題の解決や、人間のための経済に大きく貢献する、そんな「人間性」ある科学でなければなりません。疾病、環境・エネルギー、食料、水といった分野では、かつての産業革命にも匹敵する、しかし全く位相の異なる革新的な技術が必要です。その母となるのが科学です。
 こうした教育や科学の役割をしっかりと見据え、真の教育者、科学者をさらに増やし、また社会全体として教育と科学に大きな資源を振り向けてまいります。それこそが、私が申し上げ続けてきた「コンクリートから人へ」という言葉の意味するところです。
 ◇人のいのちを守るために
 私は、来年度予算を「いのちを守る予算」に転換しました。公共事業予算を18・3%削減すると同時に、社会保障費は9・8%増、文教科学費は5・2%増と大きくメリハリをつけた予算編成ができたことは、国民の皆さまが選択された政権交代の成果です。
 ◇子どものいのちを守る
 所得制限を設けず、月額1万3千円の子ども手当を創設します。
 子育てを社会全体で応援するための大きな第一歩です。また、すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます。さらに、「子ども・子育てビジョン」に基づき、新たな目標のもと、待機児童の解消や幼保一体化による保育サービスの充実、放課後児童対策の拡充など、子どもの成長を担うご家族の負担を、社会全体で分かち合う環境づくりに取り組みます。
 ◇いのちを守る医療と年金の再生
 社会保障費の抑制や地域の医療現場の軽視によって、国民医療は崩壊寸前です。
 これを立て直し、健康な暮らしを支える医療へと再生するため、医師養成数を増やし、診療報酬を10年ぶりにプラス改定します。乳幼児からお年寄りまで、誰もが安心して医療を受けられるよう、その配分も大胆に見直し、救急・産科・小児科などの充実を図ります。患者の皆さんのご負担が重い肝炎治療については、助成対象を拡大し、自己負担限度額を引き下げます。健康寿命を延ばすとの観点から、統合医療の積極的な推進について検討を進めます。
 お年寄りが、ご自身の歩まれた人生を振り返りながら、やすらぎの時間を過ごせる環境を整備することも重要です。年金をより確かなものとするため、来年度から2年間を集中対応期間として、紙台帳とコンピューター記録との突き合わせを開始するなど、年金記録問題に「国家プロジェクト」として取り組みます。
 ◇働くいのちを守り、人間を孤立させない
 働く人々のいのちを守り、人間を孤立させないために、まずは雇用を守ることが必要です。雇用調整助成金の支給要件を大幅に緩和し、雇用の維持に努力している企業への支援を強化しました。また、非正規雇用の方々のセーフティーネットを強化するため、雇用保険の対象を抜本的に拡充します。
 労働をコストや効率で、あるいは生産過程の歯車としかとらえず、日本の高い技術力の伝承をも損ないかねない派遣労働を抜本的に見直し、いわゆる登録型派遣や製造業への派遣を原則禁止します。さらに、働く意欲のある方々が、新規産業にも生かせる新たな技術や能力を身につけることを応援するため、生活費支援を含む恒久的な求職者支援制度を平成23年度に創設すべく準備を進めます。
 若者、女性、高齢者、チャレンジドの方々など、すべての人が、孤立することなく、能力を生かし、生きがいや誇りを持って社会に参加できる環境を整えるため、就業の実態を丁寧に把握し、妨げとなっている制度や慣行の是正に取り組みます。社会のあらゆる面で男女共同参画を推進し、チャレンジドの方々が、共同体の一員として生き生きと暮らせるよう、障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准などに向けた、改革の基本方針を策定します。
 また、いのちを守る社会の基盤として、自殺対策を強化するとともに、消防と医療の連携などにより、救急救命体制を充実させます。住民の皆さまと一緒に、犯罪が起こりにくい社会をつくり、犯罪捜査の高度化にも取り組んでいきます。
 ◇危機を好機に ―フロンティアを切り開く―
 ◇いのちのための成長を担う新産業の創造
 ピンチをチャンスととらえるということがよく言われます。では、私たちが今直面している危機の本質は何であり、それをどう変革していけばよいのでしょうか。
 昨年末、私たちは、新たな成長戦略の基本方針を発表いたしました。
 鳩山内閣における「成長」は、従来型の規模の成長だけを意味しません。
 人間は、成人して身体の成長が止まっても、様々な苦難や逆境を乗り越えながら、人格的に成長を遂げていきます。私たちが目指す新たな「成長」も、日本経済の質的脱皮による、人間のための、いのちのための成長でなくてはなりません。この成長を誘発する原動力が、環境・エネルギー分野と医療・介護・健康分野における「危機」なのです。
 私は、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、2020年に、温室効果ガスを1990年比で25%削減するとの目標を掲げました。大胆すぎる目標だというご指摘もあります。しかし、この変革こそが、必ずや日本の経済の体質を変え、新しい需要を生み出すチャンスとなるのです。日本の誇る世界最高水準の環境技術を最大限に活用した「グリーン・イノベーション」を推進します。地球温暖化対策基本法を策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入を加速するとともに、「チャレンジ25」によって、低炭素型社会の実現に向けたあらゆる政策を総動員します。
 医療・介護・健康産業の質的充実は、いのちを守る社会をつくる一方、新たな雇用も創造します。医療・介護技術の研究開発や事業創造を「ライフ・イノベーション」として促進し、利用者が求める多様なサービスを提供するなど、健康長寿社会の実現に貢献します。
 ◇成長のフロンティアとしてのアジア
 今後の世界経済におけるわが国の活動の場として、さらに切り開いていくべきフロンティアはアジアです。環境問題、都市化、少子高齢化など、日本と共通の深刻な課題を抱えるアジア諸国と、日本の知識や経験を共有し、ともに成長することを目指します。
 アジアを単なる製品の輸出先ととらえるのではありません。環境を守り、安全を担保しつつ、高度な技術やサービスをパッケージにした新たなシステム、例えば、スマートグリッドや大量輸送、高度情報通信システムを共有し、地域全体で繁栄を分かち合います。それが、この地域に新たな需要を創出し、自律的な経済成長に貢献するのです。
 アジアの方々を中心に、もっと多くの外国人の皆さんに日本を訪問していただくことは、経済成長のみならず、幅広い文化交流や友好関係の土台を築くためにも重要です。日本の魅力を磨き上げ、訪日外国人を2020年までに2500万人、さらに3千万人まで増やすことを目標に、総合的な観光政策を推進します。
 アジア、さらには世界との交流の拠点となる空港、港湾、道路など、真に必要なインフラ整備については、厳しい財政事情を踏まえ、民間の知恵と資金も活用し、戦略的に進めてまいります。
 ◇地域経済を成長の源に
 もうひとつの成長の新たな地平は、国内それぞれの地域です。
 その潜在力にもかかわらず、長年にわたる地域の切り捨て、さらに最近の不況の直撃にさらされた地域経済の疲弊は極限に達しています。まずは景気対策に万全を期し、今後の経済の変化にも臨機応変に対応できるよう、11年ぶりに地方交付税を1・1兆円増と大幅に増額するほか、地域経済の活性化や雇用機会の創出などを目的とした2兆円規模の景気対策枠を新たに設けます。
 その上で、地域における成長のフロンティア拡大に向けた支援を行います。
 わが国の農林水産業を、生産から加工、流通まで一体的にとらえ、新たな価値を創出する「6次産業化」を進めることにより再生します。農家の方々、新たに農業に参入する方々には、戸別所得補償制度をひとつの飛躍のバネとして、農業の再生に果敢に挑戦していただきたい。世界に冠たる日本の食文化と高度な農林水産技術を組み合わせ、森林や農山漁村の魅力を生かした新たな観光資源・産業資源をつくり出すのです。政府としてそれをしっかりと応援しながら、食料自給率の50%までの引き上げを目指します。
 地域経済を支える中小企業は日本経済の活力の源です。その資金繰り対策に万全を期するほか、「中小企業憲章」を策定し、意欲ある中小企業が日本経済の成長を支える展望を切り開いてまいります。
 さらに、地域間の活発な交流に向け、高速道路の無料化については、来年度から社会実験を実施し、その影響を確認しながら段階的に進めてまいります。
 地域の住民の生活を支える郵便局の基本的なサービスが、地域を問わず一体的に利用できるようユニバーサルサービスを法的に担保するとともに、現在の持ち株会社・4分社化体制の経営形態を再編するなど、郵政事業の抜本的な見直しを行ってまいります。
 ◇地域主権の確立
 地域のことは、その地域に住む住民が責任をもって決める。この地域主権の実現は、単なる制度の改革ではありません。
 今日の中央集権的な体質は、明治の富国強兵の国是のもとに導入され、戦時体制の中で盤石に強化され、戦後の復興と高度成長期において因習化されたものです。地域主権の実現は、この中央政府と関連公的法人のピラミッド体系を、自律的でフラットな地域主権型の構造に変革する、国のかたちの一大改革であり、鳩山内閣の改革の一丁目一番地です。
 今後、地域主権戦略の工程表に従い、政治主導で集中的かつ迅速に改革を進めます。その第1弾として、地方に対する不必要な義務付けや枠付けを、地方分権改革推進計画に沿って一切廃止するとともに、道路や河川等の維持管理費に係る直轄事業負担金制度を廃止します。また、国と地方の関係を、上下関係ではなく対等なものとするため、国と地方との協議の場を新たな法律によって設置します。地域主権を支える財源についても、今後、ひも付き補助金の一括交付金化、出先機関の抜本的な改革などを含めた地域主権戦略大綱を策定します。
 あわせて、「緑の分権改革」を推進するとともに、情報通信技術の徹底的な利活用による「コンクリートの道」から「光の道」への発想転換を図り、新しい時代にふさわしい地域のきずなの再生や成長の基盤づくりに取り組みます。本年を地域主権革命元年とすべく、内閣の総力を挙げて改革を断行してまいります。
 ◇責任ある経済財政運営
 当面の経済財政運営の最大の課題は、日本経済を確かな回復軌道に乗せることです。決して景気の二番底には陥らせないとの決意のもと、この度成立した、事業規模で約24兆円となる第2次補正予算とともに、当初予算としては過去最大規模となる平成22年度予算を編成いたしました。この二つの予算により、切れ目ない景気対策を実行するとともに、特にデフレの克服に向け、日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済政策を進めてまいります。
 財政の規律も政治が果たすべき重要な責任です。今回の予算においては、目標としていた新規国債発行額約44兆円以下という水準をおおむね達成することができました。政権政策を実行するために必要な約3兆円の財源も、事業仕分けを反映した既存予算の削減や公益法人の基金返納などにより捻出(ねんしゅつ)できました。さらに将来を見据え、本年前半には、複数年度を視野に入れた中期財政フレームを策定するとともに、中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化に向けた長く大きな道筋をお示しします。
 ◇課題解決に向けた責任ある政治
 以上のような政策を実行するのが政治であり、行政です。政府が旧態依然たる分配型の政治を行う限り、ガンジー師のいう「理念なき政治」のままです。新たな国づくりに向け、「責任ある政治」を実践していかなければなりません。
 ◇「戦後行政の大掃除」の本格実施
 事業仕分けや子育て支援のあり方については、ご家庭や職場でも大きな話題となり、様々な議論がなされたことと思います。私たちは、これまで財務省主計局の一室で官僚たちの手によって行われてきた予算編成過程の議論を、民間の第一線の専門家の参加を得て、事業仕分けという公開の場で行いました。上から目線の発想で、つい身内をかばいがちだった従来型の予算編成を、国民の主体的参加と監視のもとで抜本的に変更できたのも、ひとえに政権交代のたまものです。
 「戦後行政の大掃除」は、しかし、まだ始まったばかりです。
 今後も、様々な規制や制度のあり方を抜本的に見直し、独立行政法人や公益法人が本当に必要なのか、「中抜き」の構造で無駄遣いの温床となっていないか、監視が行き届かないまま垂れ流されてきた特別会計の整理統合も含め、事業仕分け第2弾を実施します。これらすべてを、聖域なく、国民目線で検証し、一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替えていきます。行政刷新会議は法定化し、より強固な権限と組織によって改革を断行していきます。
 ◇政治主導による行政体制の見直し
 同時に、行政組織や国家公務員のあり方を見直し、その意識を変えていくことも不可欠です。
 省庁の縦割りを排し、国家的な視点から予算や税制の骨格などを編成する国家戦略局を設置するほか、幹部人事の内閣一元管理を実現するために内閣人事局を設置し、官邸主導で適材適所の人材を登用します。
 こうした改革を断行するため、政府と与党が密接な連携と役割分担のもと、政府部内における国会議員の占める職を充実強化するための関連法案を今国会に提案いたします。
 さらに、今後、国民の視点に立って、いかなる府省編成が望ましいのか、その設置のあり方も含め、本年夏以降、私自身が主導して、抜本的な見直しに着手します。
 税金の無駄遣いの最大の要因である天下りあっせんを根絶することはもちろん、「裏下り」とやゆされる事実上の天下りあっせん慣行にも監視の目を光らせて国民の疑念を解消します。同時に国家公務員の労働基本権のあり方や、定年まで勤務できる環境の整備、給与体系を含めた人件費の見直しなど、新たな国家公務員制度改革にも速やかに着手します。
 ◇政治家自ら襟を正す
 こうした改革を行う上で、まず国会議員が自ら範を垂れる必要があります。国会における議員定数や歳費のあり方について、会派を超えて積極的な見直しの議論が行われることを強く期待します。
 政治資金の問題については、私自身の問題に関して、国民の皆さまに多大のご迷惑とご心配をおかけしたことをあらためておわび申し上げます。ご批判を真摯(しんし)に受け止め、今後、政治資金のあり方が、国民の皆さまから見て、より透明で信頼できるものとなるよう、企業・団体献金の取り扱いを含め、開かれた議論を行ってまいります。
 ◇世界に新たな価値を発信する日本
 ◇文化融合の国、日本
 日本は四方を豊かな実りの海に囲まれた海洋国家です。
 古来より、日本は、大陸や朝鮮半島からこの海を渡った人々を通じて多様な文化や技術を吸収し、独自の文化と融合させて豊かな文化を育んできました。漢字と仮名、公家と武家、神道と仏教、あるいは江戸と上方、東国の金貨制と西国の銀貨制というように、複合的な伝統と慣習、経済社会制度を併存させてきたことは日本の文化の一つの特長です。近現代の日本も和魂洋才という言葉のとおり、東洋と西洋の文化を融合させ、欧米先進諸国へのキャッチアップを実現しました。こうした文化の共存と融合こそが、新たな価値を生み出す源泉であり、それを可能にする柔軟性こそが日本の強さです。自然環境との共生の思想や、木石にも魂が宿るといった伝統的な価値観は大切にしつつも、新たな文化交流、その根幹となる人的交流に積極的に取り組み、架け橋としての日本、新しい価値や文化を生み出し、世界に発信する日本を目指していこうではありませんか。
 ◇東アジア共同体のあり方
 昨年の所信表明演説で、私は、東アジア共同体構想を提唱いたしました。アジアにおいて、数千年にわたる文化交流の歴史を発展させ、いのちを守るための協力を深化させる、「いのちと文化」の共同体を築き上げたい。そのような思いで提案したものです。
 この構想の実現のためには、様々な分野で国と国との信頼関係を積み重ねていくことが必要です。断じて、一部の国だけが集まった排他的な共同体や、他の地域と対抗するための経済圏にしてはなりません。その意味で、揺るぎない日米同盟は、その重要性に変わりがないどころか、東アジア共同体の形成の前提条件として欠くことができないものです。北米や欧州との、そして域内の自由な貿易を拡大して急速な発展を遂げてきた東アジア地域です。多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益であることを確認しつつ地域の経済協力を進める必要があります。初代常任議長を選出し、ますます統合を深化させる欧州連合とは、開かれた共同体のあり方を、ともに追求していきたいと思います。
 ◇いのちと文化の共同体
 東アジア共同体の実現に向けての具体策として、特に強調したいのは、いのちを守るための協力、そして、文化面での交流の強化です。
 地震、台風、津波などの自然災害は、アジアの人々が直面している最大の脅威のひとつです。過去の教訓を正しく伝え、次の災害に備える防災文化を日本は培ってきました。これをアジア全域に普及させるため、日本の経験や知識を活用した人材育成に力を入れてまいります。
 感染症や疾病からいのちを守るためには、機敏な対応と協力が鍵となります。新型インフルエンザをはじめとする様々な情報を各国が共有し、協力しながら対応できる体制を構築していきます。また、人道支援のため米国が中心となって実施している「パシフィック・パートナーシップ」に、今年から海上自衛隊の輸送艦を派遣し、太平洋・東南アジア地域における医療支援や人材交流に貢献してまいります。
 ◇人的交流の飛躍的充実
 昨年の12月、私はインドネシアとインドを訪問いたしました。
 いずれの国でも、国民間での文化交流事業を活性化させ、特に次世代を担う若者が、国境を越えて、教育・文化、ボランティアなどの面で交流を深めることに極めて大きな期待がありました。この期待に応えるために、今後5年間で、アジア各国を中心に10万人を超える青少年を日本に招くなど、アジアにおける人的交流を大幅に拡充するとともに、域内の各国言語・文化の専門家を、相互に飛躍的に増加させることにより、東アジア共同体の中核を担える人材を育成してまいります。
 APEC(アジア太平洋経済協力会議)の枠組みも、今年の議長として、充実強化に努めてまいります。経済発展を基盤として、文化・社会の面でもお互いを尊重できる関係を築いていくため、新たな成長戦略の策定に向けて積極的な議論を導きます
 ◇日米同盟の深化
 今年、日米安保条約の改定から50年の節目を迎えました。この間、世界は、冷戦による東西の対立とその終焉(しゅうえん)、テロや地域紛争といった新たな脅威の顕在化など大きく変化しました。激動の半世紀にあって、日米安全保障体制は、質的には変化を遂げつつも、わが国の国防のみならず、アジア、そして世界の平和と繁栄にとって欠くことのできない存在でありました。今後もその重要性が変わることはありません。
 私とオバマ大統領は、日米安保条約改定50周年を機に、日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化させることを表明しました。今後、これまでの日米同盟の成果や課題を率直に語り合うとともに、幅広い協力を進め、重層的な同盟関係へと深化・発展させていきたいと思います。
 わが国が提出し、昨年12月の国連総会において採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」には、米国が初めて共同提案国として名を連ねました。本年は、核セキュリティー・サミットや核拡散防止条約運用検討会議が相次いで開催されます。「核のない世界」の実現に向け、日米が協調して取り組む意義は極めて大きいと考えます。
 普天間基地移設問題については、米国との同盟関係を基軸として、わが国、そしてアジアの平和を確保しながら、沖縄に暮らす方々の長年にわたる大変なご負担を少しでも軽くしていくためにどのような解決策が最善か、沖縄基地問題検討委員会で精力的に議論し、政府として本年5月末までに具体的な移設先を決定することといたします。
 気候変動の問題については、地球環境問題とエネルギー安全保障とを一体的に解決するための技術協力や共同実証実験、研究者交流を日米で行うことを合意しています。活動の成果は、当然世界に及びます。この分野の同盟を、そして日米同盟全体を、両国のみならずアジア太平洋地域、さらには世界の平和と繁栄に資するものとしてさらに発展させてまいります。
 ◇アジア太平洋地域における2国間関係
 アジア太平洋地域における信頼関係の輪を広げるため、日中間の戦略的互恵関係をより充実させてまいります。
 日韓関係の、世紀をまたいだ大きな節目の今年、過去の負の歴史に目を背けることなく、これからの100年を見据え、真に未来志向の友好関係を強化してまいります。ロシアとは、北方領土問題を解決すべく取り組むとともに、アジア太平洋地域におけるパートナーとして協力を強化します。
 北朝鮮の拉致、核、ミサイルといった諸問題を包括的に解決した上で、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を実現する。これは、アジア太平洋地域の平和と安定のためにも重要な課題です。具体的な行動を北朝鮮から引き出すべく、6者会合をはじめ関係国と一層緊密に連携してまいります。拉致問題については、新たに設置した拉致問題対策本部のもと、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、政府の総力を挙げて最大限の努力を尽くしてまいります。
 ◇貧困や紛争、災害からいのちを救う支援
 アフリカをはじめとする発展途上国で飢餓や貧困にあえぐ人々。イラクやアフガニスタンで故郷に戻れない生活を余儀なくされる難民の人々。国際的テロで犠牲になった人々。自然災害で住む家を失った人々。こうした人々のいのちを救うために、日本に何ができるのか、そして何が求められているのか。今回のハイチ地震の惨禍に対し、わが国は、国連ハイチ安定化ミッションへの自衛隊の派遣と約7千万ドルにのぼる緊急・復興支援を表明しました。国際社会の声なき声にも耳を澄まし、国連をはじめとする国際機関や主要国と密接に連携し、困難の克服と復興を支援してまいります。
  ◇むすび
 いのちを守りたい。
 私の友愛政治の中核をなす理念として、政権を担ってから、かたときも忘れることなく思い、ますます強くしている決意です。
 今月17日、私は、阪神・淡路大震災の追悼式典に参列いたしました。15年前の同じ日にこの地域を襲った地震は、尊いいのち、平穏な暮らし、美しい街並みを一瞬のうちに奪いました。
 式典で、16歳の息子さんを亡くされたお父様のお話を伺いました。
 地震で、家が倒壊し、2階に寝ていた息子ががれきの下敷きになった。
 積み重なったがれきの下から、息子の足だけが見えていて、助けてくれというように、ベッドの横板を
 とん、とん、とん、とたたく音がする。
 何度も何度も助け出そうと両足を引っ張るが、がれきの重さに動かせない。やがて、30分ほどすると、音が聞こえなくなり、次第に足も冷たくなっていく我が子をどうすることもできなかった。
 「ごめんな。助けてやれなかったな。痛かったやろ、苦しかったやろな。ほんまにごめんな」
 これが現実なのか、夢なのか、時間が止まりました。身体中の涙を全部流すかのように、毎日涙し、どこにも持って行きようのない怒りに、まるで胃液が身体を溶かしていくかのような、苦しい毎日が続きました。
 息子さんが目の前で息絶えていくのを、ただ見ていることしかできない無念さや悲しみ。人の親なら、いや、人間なら、誰でも分かります。災害列島といわれる日本の安全を確保する責任を負う者として、防災、そして少しでも被害を減らしていく「減災」に万全を期さねばならないとあらためて痛感しました。
 今、神戸の街には、あの悲しみ、苦しみを懸命に乗り越えて取り戻した活気があふれています。大惨事を克服するための活動は地震の直後から始められました。警察、消防、自衛隊による救助・救援活動に加え、家族や隣人と励ましあい、困難な避難生活を送りながら復興に取り組む住民の姿がありました。全国から多くのボランティアがリュックサックを背負って駆け付けました。復旧に向けた機材や義援金が寄せられました。慈善のための文化活動が人々を勇気づけました。混乱した状況にあっても、略奪行為といったものはほとんどなかったと伺います。みんなで力を合わせ、人のため、社会のために努力したのです。
 あの15年前の、不幸な震災が、しかし、日本の「新しい公共」の出発点だったのかもしれません。
 今、災害の中心地であった長田の街の一角には地域のNPO法人の尽力で建てられた「鉄人28号」のモニュメントが、その雄姿を見せ、観光名所、集客の拠点にさえなっています。
 いのちを守るための「新しい公共」は、この国だからこそ、世界に向けて、誇りを持って発信できる。私はそう確信しています。
 人のいのちを守る政治、この理念を実行に移すときです。子どもたちに幸福な社会を、未来にかけがえのない地球を引き継いでいかねばなりません。
 国民の皆さま、議員の皆さん、輝く日本を取り戻すため、ともに努力してまいりましょう。
 この平成22年を、日本の再出発の年にしていこうではありませんか。


◆障害者支援法広島訴訟、和解へ 原告「ハードだった」 /広島県
(2010年01月29日 朝日新聞 朝刊 広島1・1地方 026)
 福祉サービスの利用に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は憲法違反だとして、廿日市市の秋保(あきやす)和徳さん(58)と妻の喜美子さん(60)、広島市の森岡靖夫さん(71)が県と広島、廿日市両市に負担の取り消しなどを求めていた訴訟の口頭弁論が28日、広島地裁であった。被告側は和解に応じる方針を表明。4月15日の次回期日で和解する見通しになった。
 昨年夏の政権交代で発足した鳩山政権は、障害者自立支援法を廃止する方針を決定。これを受け、広島を含む全国14地裁で起こされている集団訴訟の原告・弁護団は今月7日、訴訟を終結させることで国側と合意していた。
 閉廷後、広島弁護士会館であった支援者らへの報告会で、原告3人は「こんなに早く合意になるとは」と喜びをあふれさせた=写真。
 東京であった原告団の協議に何度も足を運んだ喜美子さんは「とてもハードな作業だった」と振り返り、「声を上げなければ、良くはならなかった」と話した。
 秋保さんも「これからも要望していかないと、良い福祉制度はできない」と気を引き締めた。森岡さんは「裁判は終わるが、これからは変わった形で運動していくことになる」と意欲をみせた。(山下奈緒子)


◆自立支援法訴訟 和解へ 基本合意受け、原告側と国=広島
(2010.01.29 読売新聞 大阪朝刊 広島 27頁)
 障害者に対して福祉サービスの原則1割の自己負担を求めた障害者自立支援法は憲法違反として、県内の障害者3人が国や自治体を相手取り、負担の全額免除申請の却下処分取り消しや損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が28日、地裁(橋本良成裁判長)であった。原告側と国の双方が和解に応じる姿勢を示した。今後、和解内容を協議し、4月15日に和解する見通し。
 同様の訴訟は全国14地裁で起こされたが、民主党が政権に就き、長妻厚生労働相と全国原告団が同法廃止などで基本合意しており、各地で和解に向けた協議が進んでいる。
 この日の弁論で、国側は基本合意を受けて、「和解して訴訟を終結させたい」と述べ、原告側も同意した。閉廷後に広島弁護士会館(広島市中区)で開かれた報告集会で、原告の秋保喜美子さん(60)が、「基本合意は原告の思いが詰まったもの。新しい福祉制度は、障害者の生存権を尊重してほしい」と話した。
 原告弁護団によると、「速やかに同法を廃止し、2013年8月までに新しい総合的福祉制度を実施する」などとした基本合意を確認する内容が和解条項に盛り込まれ、損害賠償請求は放棄する予定という。


◆障害者自立支援法訴訟:広島訴訟、和解へ 全国初の原告、秋保さん笑顔 /広島
(2010.01.29 地方版/広島 25頁)
 ◇「こんなに早く」 国と原告、廃止などで基本合意
 障害者自立支援法をめぐる全国違憲訴訟において、広島訴訟(橋本良成裁判長)の口頭弁論が28日、広島地裁であり、4月15日に和解する見込みとなった。今月7日に国と原告が同法の廃止などで基本合意したことを受けたもの。
 基本合意は▽同法廃止▽13年8月までの新制度設計の障害者参画▽低所得者のヘルパー利用などの利用者負担の当面無料化―などの内容。4月までに基本合意に沿った内容の和解案をまとめる。
 全国初の原告、秋保和徳さん(58)=廿日市市=と妻喜美子さん(60)は「こんなに早く終わると思わなかった」「皆さんの支援のおかげ。今後もいい福祉(関係の)法を作るため、頑張っていきたい」と喜びを語った。【矢追健介】


◆3月24日に和解の方針 県内の障害者支援法訴訟 さいたま地裁 /埼玉県
(2010年01月28日 朝日新聞 朝刊 埼玉・1地方 035)
 福祉サービスの利用で原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法は憲法違反などとして、県内の障害者12人が国などに負担取り消しなどを求めた訴訟の第6回口頭弁論が27日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)であり、次回期日の3月24日に和解する方針が決まった。
 全国14地裁で71人の障害者らが起こした集団訴訟で、全国の原告・弁護団と厚生労働省が7日、訴訟終結に合意していた。弁護団によると、さいたま地裁での訴訟が、全国で最初の和解成立となる見通しという。27日の口頭弁論で、原告側は「国との基本合意に至った経緯も示した上で、裁判所で確認して和解としたい」と主張した。


◆自立支援法違憲訴訟 3月24日和解見通し=埼玉
(2010.01.28 読売新聞 東京朝刊 埼玉南 29頁)
 障害者自立支援法は違憲として、県内の障害者らが国などを相手取り、見直しなどを求めた訴訟の第6回口頭弁論が27日、さいたま地裁(遠山広直裁判長)であった。違憲訴訟を起こしている全国の原告団と国側が7日、同法廃止などを盛り込んだ基本合意文書に調印したのを受け、3月24日に和解する見通しとなった。
 原告側の弁護団によると、違憲訴訟は全国14地裁(原告計71人)で係争中で、3月末から4月中旬にかけて順次、和解手続きが行われる予定。和解手続きの期日は、さいたま地裁が最も早くなる公算が大きい。
 この日の公判では、原告側3人が意見陳述し、「基本合意が結ばれたが、これで終わりではない。真に障害者も安心して暮らせる法律ができるまで、みんなでしっかり監視していかなければならない」などと訴えた。


◆新年度にも支援拠点設置 専門医らが対応 高次脳機能障害、横浜市が独自策/神奈川県
(2010年01月26日 朝日新聞 朝刊 横浜・1地方 035)
 交通事故や脳卒中で、記憶力が低下したり、感情のコントロールがきかなくなったりする「高次脳機能障害」。外見では分かりにくく、症状が個々人で異なることもあり、支援が遅れてきた。患者や家族のニーズに応えようと、横浜市は2010年度にも、この障害に特化した支援センターを立ち上げる。患者の家族会は「十人十色の障害で、自立のための訓練ができる専門の場が求められていた」と歓迎している。
 (二階堂友紀)
 高次脳機能障害は身体障害、精神障害、知的障害のいずれでもとらえきれず、今の福祉行政の枠組みでは、十分に対応し切れていない。
 例えば、知的障害者や精神障害者の作業所に行ってみても、要介護の認定を受けてデイサービスを利用してみても、なじむことができない人が多いという。その結果、引きこもって家族の負担が大きくなり、社会的に孤立してしまう場合も少なくない。
 市障害企画課によると、患者や家族へのニーズ調査で「相談のできる専門機関をつくってほしい」「日中に活動のできる場がほしい」といった声が寄せられていた。
 こうした要望を踏まえ、新設するセンターでは、専門医、社会福祉士などの資格を持った支援コーディネーターを配置。相談から、確定診断、一人ひとりの障害に合った支援プラン作りまでを行う機能を担わせる方針だ。
 家族らでつくる高次脳機能障害・横浜友の会「はばたき」の長井祝子代表(55)=同市都筑区=は「親などの支援者がいなくなった後も安心して暮らせる仕組みを期待している」と話す。
 横浜市は、09年4月に策定した障害福祉計画で、高次脳機能障害を「これまでの障害認定基準ではとらえきれない新たな障害」と位置付け、支援体制を整備・拡充することを明記。10年度に支援センターを設置する方針を示し、準備を進めてきた。
 国の調査に基づいて県障害福祉課が推計したところ、県内の患者数は約4700人、新たに発症する人は年間約200人とみられる。県内では厚木市の県総合リハビリテーションセンターが、障害者自立支援法に基づく県の支援拠点機関になっている。
  ◇キーワード
 <高次脳機能障害> 交通事故や脳卒中などの脳血管疾患の後遺症として起きる障害。症状は、言われたことや行った場所を覚えられなくなる、集中力や意欲が低下する、衝動を抑制できなくなる、計画を立てるなど段取りよく物事を運べなくなるなど。目に見える障害ではないため、周囲から理解されにくく、社会生活を維持するのが難しくなることもある。


◆現場から記者リポート:アウトサイダー・アート 芸術は障害を超える /滋賀
(2010.01.26 毎日新聞 地方版/滋賀 22頁)
 ◇作る喜び、体全体で表現 見る人の感性を刺激
 アール・ブリュット。聞き慣れないフランス語だが、米国ではアウトサイダー・アートと呼ぶ。日本では障害のある人の芸術作品のことを指すことが多い。パリ市立アル・サン・ピエール美術館で3月、全国の障害のある作家ら65人の作品展「アール・ブリュット ジャポネ展」が開かれる。国境を超えて発信される彼らの作品の魅力とは? 一般的な「芸術」と何が違うのか。陶芸作品を出品する澤田眞一さん(27)=栗東市=を訪ね、答えを探した。【安部拓輝】
 今月5日、栗東市小野の社会福祉法人「なかよし福祉会」。ドアを開けると、トゲトゲの生き物のオブジェが目に飛び込んだ。「これはオニ。タヌキ。フクロウ……」。奥のパン工房からエプロン姿で私を迎えた澤田さんが説明してくれた。ゴツゴツ。無数のトゲが体を覆う。作品に手を添えると、重い。手のひらに不思議な違和感が伝わる。どうしてトゲが生えているの? そう聞くと、澤田さんは首をかしげて工房に戻って行った。
 「それは、彼も分からないと思うよ」。施設の滝昭一所長(53)はほほ笑んだ。自閉症の澤田さんには知的障害もある。滝所長は言った。「私たちは自分の作品を理解してほしくて説明する。でも、彼は作り終えた作品に興味はない。ただ、作っていることが楽しいのです」
 対価を必要としたり評価を求めたりと理由はさまざまだが、私たちは作品に「意味」を込める。澤田さんは08年、県文化奨励賞を受賞した。近年は東京や京都などでの作品展を通じて美術関係者に評判が広がり、作品に値段も付くようになった。パリの作品展に出展する顔のオブジェはパンフレットの表紙を飾る。一見名誉のようだが、9年間陶芸を指導してきた池谷正晴さん(76)は「それは彼にはどうでもよいこと」と話す。「彼の中で作りたいものは時代と共に進化する。この作品はすごいからもう一度作ってと言っても絶対作らない。多くの芸術家が目指す境地に、彼は最初からいるのだと思う」
 障害者の芸術とは、「障害のある人の芸術も理解しよう」という意味合いで理解していたが、澤田さんと出会って気付いた。芸術は障害を超えるということだ。
 陶芸の工房と登り窯は施設から車で約15分の山中にある。陶芸ができるのは、通所する週5日のうち3日間だけだ。粘土が乾いてしまう夏と冬は休止し、他の利用者とパンを作る。あまり好きな仕事ではない。その分、陶芸の日には澤田さんの目の色が変わる。食事の時間以外はひたすら粘土をつまんでトゲを付け、縄文土器のような模様を作り続ける。好きなことができる喜びを体いっぱいに表現しながら、作品は一目見たら忘れない衝撃を帯びていく。
 障害者自立支援法の施行後、収益が上がらない陶芸などの不採算部門をやめる施設も増えている。だが、福祉も本来多様であるはずだ。政府で支援法の見直しが始まる中、見る人の感性をいろんな角度から刺激する澤田さんの陶芸は、福祉のあり方も問い掛けているように思う。
  ◇  ◇
 澤田さんらの作品は2月5〜7日、大津市におの浜の大津プリンスホテルである「アメニティー・ネットワーク・フォーラム4」の中で開催される「アウトサイダーアート展」で紹介される。500円。問い合わせは県社会福祉事業団(0748・31・2481)。


◆あいち・日曜リポート:障害者自立支援法訴訟が終結へ 厚労相が反省表明 /愛知
(2010.01.24 毎日新聞 地方版/愛知 16頁)
 ◇「恵んでやる」に猛反発
 「障害者自立支援法は生存権を侵害し違憲」と、名古屋市港区の坂野(ばんの)和彦さん(30)が国と名古屋市を相手取った訴訟は7日、全国で同様の裁判を起こした計71人の原告団と国が基本合意を交わし、終結することになった。この席で長妻昭・厚生労働相は「皆さんの尊厳を深く傷つけた」と述べ「心からの反省」を表明。参加した坂野さんらと握手を交わした。合意は、自立支援法を廃止して2013年8月までに新法を制定することなどを盛り込み、画期的な内容となった。【黒尾透】
 坂野さんは知的障害がある。市内の作業所で弁当作りに従事。時給350円で平日の午前9時〜午後4時に働き、月給は5万円弱だ。それが、06年4月に障害者自立支援法が施行されて、1日当たり671円の負担金を支払うことになった。上限措置がとられ、現在は月額4200円に減ったが、作業所を使うという「益」に対して負担を求めるのが自立支援法の考え方だ。この法律のため、坂野さんには、わずか500円の年末ボーナスも支払われなくなった。坂野さんは09年10月、これまでに支払った負担金と慰謝料10万円の計35万円の損害賠償と負担金廃止を求めて提訴した。
 坂野さんの作業所では、負担金を支払えずに辞める人も出た。仲間がいなくなるのが寂しかった。作業所の自治会長も務める坂野さんには「私がやらなければ」との思いがあった。
 坂野さんを支援する高森裕司弁護士は「応益負担、つまり自己責任でとの考えだが、障害者に働く場を恵んでやっているというスタンス。原告の人たちはそこが許せないと訴えている」と解説する。
 坂野さん自身も裁判の弁論で「障害をもっているからと、仕事に行ったり、(障害者施設で)お風呂に入ったり、食事をするだけでお金を払わなければいけない仕組みはおかしい」と訴えた。裁判で訴えたからこそ障害者の声が政府に届き、今回の合意につながったと言える。
 7日の国との合意は、(1)自立支援法廃止と新法制定(2)国の反省(3)障害者も含めた「障がい者制度改革推進会議」(12日に初会合)で新たな福祉制度を策定(4)利用者負担の当面措置(来年度107億円を予算化)(5)原告・弁護団との定期協議――が主な柱。この中には、介護保険との統合を前提としないなどの政府の方針転換も盛り込まれた。
 改革推進会議は夏までに新法などの骨格を示す方針だ。高森弁護士は「障害者が不便な社会でなく、社会の方が障害者を動けないようにしている。改革推進会議の議論で、根本的に今の考えを変えてほしい」と話す。


◆障害者自立支援法訴訟:港区で訴訟支援の報告学習会「解決向け会議続けたい」 /愛知
(2010.01.24 毎日新聞 地方版/愛知 16頁)
 ◇参加の100人、坂野さんをねぎらう
 知的障害がある坂野(ばんの)和彦さん(30)が「障害者自立支援法は違憲」と訴えた訴訟を支援する「勝利をめざす愛知の会」の報告学習会が23日、名古屋市港区で開かれた。坂野さんは「これからも裁判の解決に向け(支援者と取り組んできた訴訟対策の)会議を続けたい」と述べた。
 坂野さんは、7日に国と原告団が自立支援法廃止などで基本合意したことを報告。その後も17日の名古屋市の予算公聴会で、河村たかし市長に応益負担廃止を訴えたと披露、「神田真秋知事にも訴えたい」と語った。参加した約100人の支援者から「国と合意し、よかった」とねぎらいを受け坂野さんは笑顔を見せていた。
 合意は、障害者福祉の転換を目指す内容だが、「めざす愛知の会」は、違憲と明記していないことや、謝罪ではなく反省であることなどを指摘、今後もこれらを国に求めていくという。次回の裁判が開かれる4月14日の和解を目指す。【黒尾透】


◆「こんなに早いとは」原告、喜びの声 障害者自立支援法訴訟で和解勧告 /和歌山県
(2010年01月23日 朝日新聞 朝刊 和歌山3・1地方 024)
 「国が僕らの声を聞いてくれた」――。障害者自立支援法は憲法違反だとして和歌山市北出島の大谷真之さん(35)が国と市を相手取って福祉サービス利用料の自己負担分の返還などを求めていた訴訟が、4月に和解する見通しとなった。大谷さんは取材に対し「こんなに早く和解するとは夢にも思わなかった」と喜びを語った。(森本未紀)
 和歌山地裁(大西嘉彦裁判長)で22日にあった口頭弁論。まず原告側が、7日に国と全国各地の原告が訴訟の終結に合意した経緯を説明し、和解を求めた。続いて被告側も和解に応じる方針を示し、大西裁判長が和解を勧告した。次回期日の4月9日、国と原告との間で交わされた基本合意文書に基づいて和解する予定だ。
 脳性小児まひによる身体障害者の大谷さんは、福祉サービスの利用料の1割を自己負担する障害者自立支援法は違憲だとして昨年4月に提訴。法律が施行された2006年4月から09年3月までに支払った自己負担額64万5895円の返還と10万円の慰謝料、ヘルパーの利用時間の増加などを求めていた。和解で大谷さんは金銭的な訴えを取り下げる。自己負担やヘルパーの利用時間は新制度ができるまでは今のまま続く。
 和歌山市四番丁の和歌山弁護士会館で開かれた報告会に集まった障害者らは「障害者が歴史を作っているんだと思いうれしかった」「障害者の代表として苦労した大谷さんに敬意を表します」などと話した。山崎和友弁護団長は「これは出発点。みんなで力を合わせて今後も運動をがんばってほしい」と述べた。


◆自立支援法 和解勧告 原告・大谷さん「こんなに早くとは…」=和歌山
(2010.01.23 読売新聞 大阪朝刊 セ和歌 25頁)
 ◇喜びの中「いい新法を」 
 全国14地裁で提訴された障害者自立支援法の違憲訴訟は22日、初めての和解勧告が和歌山訴訟で出され、解決への道筋が示された。すでに政府とは基本合意に達しているものの、原告の和歌山市北出島、大谷真之さん(35)は「こんなに早く和解という話になるとは夢にも思わなかった」と喜ぶ。和解期日は4月9日、大谷さんが同訴訟の2次提訴に加わってから約1年で、裁判は終結の見通しとなった。(上野綾香)
 脳性小児まひから、両足などに障害を抱える大谷さんは、同法の施行後、ガイドヘルパーなどのサービスに、月3万7200円が必要となった。その後、9300円に軽減されたが、施行前の4500円と比べ、大きな負担増。昨年4月に提訴し、福祉サービスの利用に原則1割の自己負担を求めた同法は、憲法が保障する生存権の侵害だと訴えてきた。
 その後、同法の廃止を掲げた鳩山内閣が発足。今月7日には、全国から集まった原告と厚生労働省との間に基本合意文書がかわされた。調印式に同席した大谷さんは、「長妻さんは、一人ひとりと握手してくれ、やってくれると感じた」と涙を流したという。
 この日の弁論では、原告側が合意に至るまでの経緯を説明し、「やっと願いの一つがかなえられた。でも、スタートに過ぎず、いい新法を作っていきたい」と意見陳述した。これを受けて被告側が和解による解決の姿勢を示し、大西嘉彦裁判長が和解勧告、原告側も受け入れた。
 弁論後の報告集会で、大谷さんは支援者を前に、昨年10月から何度も東京に通い、合意文書の作成にもかかわってきたことなどを振り返り、「これからは、国がわれわれの声を聞いてくれる」と、合意に応じた理由を話し、「まだ力は抜けない」と決意を新たにした。
 山崎和友弁護士も「(新法)制定まで国を監視していくことが大事。力を合わせてがんばりましょう」と呼びかけた。集会では、障害を持つ支援者から、「自ら立ち上がるべきところを、大谷さんが抱え、戦ってくれた」と、原告に感謝する声が上がった。
 一方、今後の集団訴訟でも、原告、被告双方が和解を進める方針とみられる。厚生労働省障害福祉課は「各自治体と協議しながら、訴訟終結に必要な手続きを進めたい」と話し、国とともに被告となった和歌山市の大橋建一市長は「和解に向け、国と協議しながら取り組んでいきたい」とコメントした。
 〈基本合意文書〉
 〈1〉同法廃止を確約し、2013年8月までに新法を制定〈2〉国は反省の意を表明〈3〉新法制定には障害者が参加〈4〉当面は低所得の障害者の利用負担を無料――などの内容が盛り込まれた。
  ◇障害者自立支援法違憲訴訟の主な経過
2006年 4月 1日 障害者自立支援法施行
2008年10月31日 第1次全国一斉提訴
2009年 4月 1日 第2次全国一斉提訴
      6月16日 和歌山地裁第1回口頭弁論
      9月25日 和歌山地裁第2回口頭弁論
     10月 1日 第3次全国一斉提訴
2010年 1月 7日 基本合意文書に調印
        22日 和歌山地裁第3回口頭弁論
      4月 9日 和歌山地裁和解期日


◆県の表記「障がい者」に 「“害”のイメージ払拭」 4月から=島根
(2010.01.23 読売新聞 大阪朝刊 島根 27頁)
 県は、障害者などを表す際の「害」の字の表記を改め、4月からは「障がい者」と、平仮名を交えて記すことを決めた。県が作成する公文書やパンフレットなどで変更し、「害」の字が持つマイナスイメージを取り除く考え。県障害者福祉課は「表記だけでなく、偏見などを払拭(ふっしょく)する取り組みにも一層力を入れたい」としている。
 県内の障害者団体などから、「害」の字に対し、「否定的な意味があり、表記方法を改めてほしい」との要望が県に寄せられていたため、昨春から表記方法を検討。障害者らへの心理的な負担に配慮して、人にまつわる表記では、平仮名交じりとすることを今月になって決めた。
 「障がい」と記すのは、原則として、県が2010年度以降、新たに作る文書や広報誌、看板などで、障害者自立支援法などの法律や団体名、障害者とは関係がない「障害物」や「電波障害」などは、これまで通りの漢字表記を使う。
 県障害者福祉課によると、全国では11道府県が、平仮名交じりの表記を採用。県内では、松江、出雲両市などが既に公文書などで平仮名を使っている。同課も、新年度の組織改編で、課の名称が変更される可能性があるという。
 同課の担当者は「たかが表記の問題と思われるかもしれないが、文字には意味が込められている。庁内で表記が混在しないように今回の方針を徹底したい」としている。


◆障害者自立支援法訴訟:違憲訴訟 廃止の合意受け、双方に和解勧告−−地裁 /和歌山
(2010.01.23 毎日新聞 地方版/和歌山 23頁)
 原則1割を障害者が負担する障害者自立支援法の違憲訴訟の口頭弁論が22日、和歌山地裁で開かれた。同法廃止などを盛り込んだ基本合意が調印されて初めての公判で、大西嘉彦裁判長は原告、被告双方に和解を勧告した。
 基本合意は今月7日、被告の国と原告団、弁護団との間で調印した。次回期日の4月9日までに基本合意を確認する内容の和解案をまとめて訴訟は終結し、13年8月までに新制度に移行する見込み。
 公判で原告の大谷真之さん(35)=和歌山市北出島=は意見陳述し、「まだスタートに過ぎない。障害者の声を盛り込んだよい新法となるようにしたい」と話した。【藤顕一郎】


◆瑞穂学園、宿直増員 不適切な対応発覚した障害者施設、県に改善報告書提出 /福岡県
(2010年01月22日 朝日新聞 朝刊 筑豊・1地方 023)
 入所者への不適切な対応が発覚した赤村の知的障害者更生施設「瑞穂学園」(石田八重子園長、入所者約60人)は、障害者自立支援法に基づく改善報告書を県に提出した。夜間宿直者の増員、休日の緊急対応マニュアルの策定などが内容で、県は必要があれば立ち入り調査を行い、実施状況を確認する方針。
 園が19日に提出した報告書には、宿直者を3人から4人に増やし、職員の技術向上のために第三者を含めた研修委員会設立▽一部入所者のベッドに赤外線センサーを付け、夜間の対応を強化▽情報を共有する事故防止委員会設立――などを盛り込んでいる。
 園では昨年11月、厚生労働省令の基準に違反してリハビリ室で男女10人を寝起きさせたことや、意識不明になった入所者の病院搬送が約5時間後になったことなどが明らかになった。
 県障害者福祉課などは問題発覚後に立ち入り調査を行った。不適切なリハビリ室の使用と搬送遅れについて、原因の分析と対応策、職員の連携の確認、危機管理態勢の見直しなど計8項目の改善を12月18日付の文書で指導した。同課は「一連の問題が意図的とは思えないが、改善すべき点はいくつかある。園の関係者が工夫して対応して欲しい」と話した。
 園の石田憲司副園長は21日、取材に対し「今後は法令を順守していきたい」と述べた。


◆障害者自立支援法訴訟、和歌山地裁が和解勧告 【大阪】
(2010年01月22日 朝日新聞 夕刊 2社会 014)
 障害者自立支援法が憲法に違反するとして全国14地裁で障害者らが国などを相手に起こした訴訟のうち、和歌山市の男性が提訴した訴訟で22日、和歌山地裁(大西嘉彦裁判長)が和解を勧告した。原告と被告の双方が、7日に訴訟の終結に合意している。合意後、和解勧告は初めて。次回4月9日に和解する予定。
 和歌山市北出島の身体障害者、大谷真之(おおたに・まさゆき)さん(35)が2009年4月に国と市を相手取り、法律が施行された06年4月から09年3月までに支払った自己負担額約65万円の返還や慰謝料を求めて提訴していた。


◆障害者ケアホーム:建設を 親らが会作り募金活動−−尼崎 /兵庫
(2010.01.22 毎日新聞 地方版/兵庫 23頁)
 ◇24日にチャリティー映画会
 尼崎市で、障害者が介助を受けながら暮らす共同住宅「ケアホーム」の建設を支援しようと、障害者の親などが「ケアホーム建設委員会」を作って募金を集める動きが始まっている。ケアホームは、親が亡くなって残された障害者や、成人して自立した生活を送りたい障害者が住み慣れた街で暮らすためのもの。今月24日にはチャリティー映画上映会も開かれる。【大沢瑞季】
 同委員会が支援しているのは、社会福祉法人あぜくら福祉会が、尼崎市若王寺1の約1130平方メートルの土地に計画している5棟のケアホーム。完成すれば、計約40人が生活できる。必要となる約4億円の費用のうち、残り約2億円が不足しているという。
 両親を亡くした障害者は、住み慣れた土地を離れ、入所施設に入ることが多い。そのため、自分の死後の子どもの暮らしを不安に思う親が多い。また、高齢化した親が、成人した子どもの介護をする場合、体力的に難しく、障害者が自立して暮らせる家が必要だという。
 当初、物件を賃借してケアホームとする可能性を探ったが、障害者自立支援法で1人当たり7・43平方メートル以上の個室が必要と決められており、改修するにしても適当な物件が見つからなかったため、建設することになった。
 映画上映会は24日午前10時と午後2時、同市若王寺3の尼崎あぜくら作業所で、映画「ブタがいた教室」を上映する。障害者と小学生以下は500円、一般800円。同時に、作業所で作ったはがきや陶芸作品の実演・販売もある。問い合わせは同委員会(06・6497・1630)へ。〔阪神版〕


◆障害者自立支援法訴訟:違憲訴訟、和解へ 原告の清水さん、新制度制定は評価 /岡山
(2010.01.19 毎日新聞 地方版/岡山 21頁)
 ◇謝罪の言葉なく…
 障害者自立支援法が定める障害者福祉サービス利用料の1割自己負担は「障害者の生きる権利を侵害しており憲法違反」などとして、全国14地裁で計71人が集団提訴した訴訟は今月7日に原告・弁護団、厚生労働省が基本合意を締結、3、4月にも和解する見通しとなった。県内で唯一の原告、清水博さん(61)=美咲町原田=に和解の意義を聞いた。【石井尚】
 基本合意は、同支援法の廃止▽13年8月までに新制度を制定▽経過措置として、低所得の障害者らのヘルパー利用などを無料にする――などの内容。民主党は同支援法の廃止をマニフェストに盛り込み、「利用者負担は、応能負担(所得などの能力に応じた負担)を原則とする総合的な福祉法を制定する」などとしている。これを受け、全国の弁護・原告団などは新法制定作業に障害者自身が加わることや障害者福祉のための社会基盤整備なども併せて求めている。
 清水さんは昨年8月、自己負担の免除申請を却下した国と美咲町を相手取り、却下処分の取り消しなどを求めて提訴。月額約8万2500円の障害基礎年金で暮らす清水さんは、1割負担によって「病院への通院回数を減らすなど、生活の圧迫を余儀なくされた」などと訴えている。
 清水さんは今回の合意を、「13年8月までに(同支援法を)廃止して新しく総合的な福祉法制を実施するという点は画期的」と評価する一方、障害者が求めていた具体的な謝罪の言葉がなく、「反省の意を表明する」にとどまったほか、一部の対象者の自己負担がすぐには廃止にならないことを踏まえると「やや不満が残る」とも指摘。和解成立後も「合意内容を政府がきちんと履行しているか、しっかり見守っていきたい」と話している。


◆自立支援法和解 和歌山地裁勧告
(2010.01.22 読売新聞 大阪夕刊 夕2社 14頁)
 障害者自立支援法は憲法違反だなどとして、全国14地裁で障害者約70人が起こしている集団訴訟で、長妻厚生労働相と原告側が同法廃止を確約した基本合意文書を締結後、初めての口頭弁論が22日、和歌山地裁(大西嘉彦裁判長)であった。大西裁判長が和解を勧告し、国側、原告側双方が協議に応じる考えを示した。和解期日は4月9日。


◆障害者権利条約批准へ法整備めざす 夏めどに制度案の骨格 改革推進会議が初会合
(2010年01月13日 朝日新聞 朝刊 政策総合 007)
 障害者自らが制度作りに参加する政府の「障がい者制度改革推進会議」の初会合が12日開かれ、今夏をめどに制度改革案の骨格を示すことを決めた。障害者の差別を禁じた国連の障害者権利条約を批准するための国内法整備を目指す。政権交代で廃止が決まった障害者自立支援法にかわり、福祉サービスの利用者負担を決める制度の論議も本格的に始まった。(中村靖三郎)
 改革推進会議のメンバー24人のうち14人は、障害のある人やその家族ら。福祉サービス利用の際に原則1割の自己負担を課す自立支援法などが当事者不在でつくられ、強く批判されたことから、障害者らが主体的に制度構築に参加する態勢とした。
 この日の会合では、障害者施策を担当する福島瑞穂・内閣府特命担当相が「改革の具体的な検討を進めていくための、いわばエンジン部隊」と会議を位置づけた。
 そのうえで福島氏は、障害者施策の基本理念を定めた障害者基本法の抜本改正▽障害者自立支援法に代わる障がい者総合福祉法(仮称)▽障害者差別禁止法制――の3点について、夏までに骨格を示す方針を提案した。いずれも障害者権利条約の批准に必要だとして障害者団体などが対応を求めていたものだ。
 最終的には会議の方針を踏まえ、全閣僚でつくる「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)を経て、基本方針を閣議決定する考えだ。同本部では、当面5年間を改革の集中期間として、関係省庁の施策の見直しを進めていく。
 同会議で議論すべき課題は山積している。この日は、事務局トップで障害がある東俊裕・同会議担当室長=内閣府参与=が大枠の論点を示した。その内容は、「障害」や「差別」の定義をどうするのかといった根本的な問題から、虐待の通報義務者の範囲など具体的なものまで約100に上るという。
 一方、障害者自立支援法を廃止した後の新制度のあり方では、同法の違憲訴訟の原告団らと厚生労働省が今月7日に合意した基本文書に論点が盛り込まれた。原告らの(1)市町村民税非課税世帯には利用者負担をさせない(2)介護保険の優先原則を廃止(3)実費負担の早急な見直し――などの指摘をもとに、厚労省が利用者負担のあり方などを検討することが明記された。
 ただ、厚労省で進める検討と推進会議の議論との役割分担は明確ではなく、今後の意見調整が課題だ。
 今後は月2回程度の協議を予定している。初会合は会場の都合で一般傍聴が認められずに障害者団体から批判が出たことから、毎回、会議の模様をインターネットで配信して公開していくことも確認した。


◆障害者自立支援法訴訟:「基本合意にほっと」−−調印式同席の大谷さん /和歌山
(2010.01.09 毎日新聞 地方版/和歌山 21頁)
 障害福祉サービス利用の原則1割を障害者自身が負担する障害者自立支援法の違憲訴訟を巡り、7日に原告団の1人として長妻昭厚生労働相との「基本合意」調印式に同席した大谷真之さん(35)=和歌山市北出島=が8日、「障害者の思いを酌んだ合意になりほっとしている。新制度に向け全国の障害者の意見を盛り込んでいきたい」と抱負を語った。
 基本合意は、同法を廃止する▽13年8月までの新制度制定に障害者が参画する▽当面は低所得者のヘルパー利用などにかかる利用者負担を無料とする――などの内容。和歌山地裁を含む全国14地裁で71人が原告となっている裁判は終結へ向かう。
 大谷さんは昨年10月から、原告団の代表1人として与党議員らと合意文書作成に向け折衝を続けてきた。障害の程度がそれぞれ違い、生活状況も異なるため、原告全員が納得する結論を得られるか不安だったという。原告団の大半は仕事を持たず年金などで生活しているが、大谷さんは仕事を持っているため負担額はすぐには減らない。それでも「みんなのためと思うから頑張れる。みんなの声を届けて、ぼくにできることをしたい」と話している。【藤顕一郎】


◆障害者支援訴訟、終結へ 3年内に新制度、国と合意
(2010年01月08日 朝日新聞 朝刊 2社会 034)
 障害者が福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の違憲訴訟をめぐり、全国の原告・弁護団らと厚生労働省は7日、訴訟の終結に合意した。長妻昭厚生労働相は「障害者の尊厳を深く傷つけた」と反省の意を表明。2013年8月までの新制度への移行を約束した。
 06年の施行後に負担増を強いられた障害者らが「生存権などの侵害にあたり違憲」として、全国14の地方裁判所で71人の原告が提訴。今後は各地裁で和解を中心に終結に向けた手続きが進められる。
 長妻氏と原告・弁護団らは7日、厚労省で基本合意文書に署名した。同法について「十分な実態調査の実施や障害者の意見を十分踏まえず、拙速に施行」したと指摘。そのうえで「心からの反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる」とした。
 さらに、同法廃止後の新たな福祉法制の実施に向けて、「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)で、障害者自身が参加して議論を進めることを確約。残る課題として医療費の負担軽減策が盛り込まれた。
 自立支援法の施行は06年。支払い能力に応じた負担から、サービスの利用量に応じて原則1割を負担する仕組みへ変わり、障害が重い人ほど負担がのしかかった。反発を受けて自公政権は負担軽減措置を取り、平均負担率は3%程度になったが、障害者の憤りは治まらなかった。
 鳩山政権が誕生し、連立与党が自立支援法廃止で合意したのを受けて、長妻厚労相は就任早々その方針を明言。厚労省と原告側が解決に向けて協議を進めていた。
 原告側は声明文で「社会保障裁判の歴史や障害者福祉運動において画期をなす歴史的なもの」と評価。長妻氏は「今日を新たな出発点として、障害者の皆様の意見を真摯(しんし)に聴いて新しい制度をつくっていく」と表明した。
 ただ、法律が廃止されるまで1割負担の仕組みは残る。厚労省は来年度予算で負担軽減のため300億円を要求したが、医療費の軽減分が盛り込まれず、政府案は約100億円にとどまった。原告らは見直しを求めているが、復活は難しい状況だ。


◆インデックス 1月8日
(2010年01月08日 朝日新聞 朝刊 1総合 001)
 ◇福祉 自立支援法の違憲訴訟終結へ
 全国14の地方裁判所で係争中の障害者自立支援法をめぐる違憲訴訟が、終結することになった。国は遅くとも2013年8月までに同法を廃止し、新制度へ移行することを約束。政権交代に伴う政策転換により、原告側も受け入れた。 34面


◆障害者支援法訴訟が終結 3年後に新制度移行で合意 国、反省の意 【名古屋】
(2010年01月08日 朝日新聞 朝刊 1社会 027)
 障害者が福祉サービスを利用する際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の違憲訴訟をめぐり、全国の原告・弁護団らと厚生労働省は7日、訴訟の終結に合意した。長妻昭厚生労働相は「障害者の尊厳を深く傷つけた」と反省の意を表明。2013年8月までの新制度への移行を約束した。

 06年の施行後に負担増を強いられた障害者らが「生存権などの侵害にあたり違憲」として、全国14の地方裁判所で71人の原告が提訴。今後は各地裁で和解を中心に終結に向けた手続きが進められる。
 長妻氏と原告・弁護団らは7日、厚労省で基本合意文書に署名した。同法について「十分な実態調査の実施や障害者の意見を十分踏まえず、拙速に施行」したと指摘。そのうえで「心からの反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる」とした。
 さらに、同法廃止後の新たな福祉法制の実施に向けて、「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)で、障害者自身が参加して議論を進めることを確約。残る課題として医療費の負担軽減策が盛り込まれた。
 自立支援法の施行は06年。支払い能力に応じた負担から、サービスの利用量に応じて原則1割を負担する仕組みへ変わり、障害が重い人ほど負担がのしかかった。反発を受けて自公政権は負担軽減措置を取り、平均負担率は3%程度になったが、障害者の憤りは収まらなかった。
 鳩山政権が誕生し、連立与党が自立支援法廃止で合意したのを受けて、長妻厚労相は就任早々その方針を明言。厚労省と原告側が解決に向けて協議を進めていた。
 原告側は声明文で「社会保障裁判の歴史や障害者福祉運動において画期をなす歴史的なもの」と評価。長妻氏は「今日を新たな出発点として、障害者の皆様の意見を真摯(しんし)に聴いて新しい制度をつくっていく。その前にできる見直しは進める」と表明した。
 ただ、法律が廃止されるまで1割負担の仕組みは残る。厚労省は来年度予算で負担軽減のため300億円を要求したが、医療費の軽減分が盛り込まれず、政府案は約100億円にとどまった。原告らは見直しを求めているが、復活は難しい状況だ。
 ◇原告「画期的」と評価
 「人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、心から反省の意を表明する」。静まりかえった厚生労働省の講堂に、合意文書を読み上げる声が流れた。調印式に参加した原告らはうなずきながら、じっと耳を傾けた。判決も出ていない訴訟に対する国の異例の「反省」。原告らと並んで座る長妻厚労相も、唇をかみ締めながら聴き入った。
 名古屋訴訟の原告の坂野和彦さん(30)=名古屋市港区=はこの日の調印式に参加し、「負担が廃止になったことがうれしい」と率直に話した。
 知的障害があり、同市内の作業所で弁当作りなどをしている。昨年10月、国と名古屋市を相手に、負担廃止とこれまでの負担分などの支払いを求める訴えを名古屋地裁に起こした。「やってみてよかった。名古屋では原告は1人だけど、作業所やほかのみんなの同じ気持ち」という。
 作業で払われる時給は350円だが、利用料として1日670円を支払わなければならない。利用者負担は月数千円で、自己負担が払えず作業所をやめた仲間もいる。坂野さんは「みんなの思い」と繰り返した。
 障害者自立支援法訴訟あいち弁護団の高森裕司弁護士は「人間としての尊厳を深く傷つけたと認めたのは画期的だが、基本合意はゴールではなくスタート。どういう制度をつくるのか、考えなければならない」とした。
 障害者福祉の立場から、名古屋市の河村たかし市長の経営アドバイザーを務める社会福祉法人「AJU自立の家」専務理事・山田昭義さん(67)も「本当によかった」と喜んだ。自身も車いす生活を送り、地域の中で障害者がいかに暮らしやすくしていけるかを考え続けている。
 名古屋市を含めた地方自治体に対しても「国が謝ったのだから、窓口業務を担う地方も速やかに従ってほしい。そして早急に障害者関連の予算を見直し、来年度には反映してほしい」と話した。(岩波精、柿崎隆)


◆自立支援法訴訟終結へ 障害者原告と国が合意
(2010.01.08 読売新聞 東京朝刊 2社 32頁)
 「障害者自立支援法は憲法違反だ」として、障害者ら71人が全国14地裁に起こした集団訴訟について、長妻厚生労働相と原告側が7日、同省内で同法廃止などを盛り込んだ基本合意文書に調印した。2008年10月に始まった集団訴訟は、判決が一度も示されることなく、終結することになった。
 調印後、長妻厚労相は「障害者自立支援法が障害者の皆様の尊厳を深く傷つけてきた。厚生労働大臣として心から反省の意を表明する」と述べた。
 06年施行の障害者自立支援法は、障害者の受ける福祉サービスの利用料について、原則1割を自己負担とした。
 原告側は訴訟で「障害の程度が重いほど、自己負担が重くなる仕組みで、憲法が定める生存権の保障に反する」と訴えてきた。
 これに対し、民主党は昨年の総選挙で同法の廃止を公約に掲げ、長妻厚労相も昨年9月、同法の廃止を表明していた。
 この日の基本合意文書は〈1〉国が同法廃止を確約し、遅くとも13年8月までに新たな総合的福祉制度を制定する〈2〉障害者の意見を十分に踏まえずに制度を施行した国は、障害者や家族らに混乱と悪影響を招いたことについて反省の意を表明する〈3〉新たな総合的福祉制度の制定には、障害者が参加して十分な議論を行う――などが盛り込まれた。
 原告を代表して調印した広島訴訟の原告・秋保(あきやす)喜美子さん(60)は「きょう、道が開けたことに感動している。誰もが安心して暮らしていける制度を作っていきたい」と喜びを語った。


◆日野・父子心中事件 「障害児と家族」を本に 支援の大切さ知って=滋賀
(2010.01.08 読売新聞 大阪朝刊 滋セ2 30頁)
 ◇12団体が調査まとめ
 日野町内の会社員男性(当時43歳)が2006年12月、養護学校に通う娘2人と無理心中した事件を受け、障害者団体ら12団体で結成した「日野・障害児家族心中事件調査団」が事件の調査結果などをまとめた本「障害のある子ども・家族とコミュニティーケア―滋賀・父子心中事件を通して考える―」を出版した。調査団は「当時の状況を知ってもらい、サポートの大切さを感じ取ってもらえれば」としている。
 4章構成で、1章では事件の背景などを言及。男性の遺書には「生活が苦しい」「娘の将来が不安だ」と記されており、養護学校の寄宿舎廃止や障害者自立支援法施行に伴う福祉サービス利用料の負担増で男性が経済的困窮に陥っていたなどと説明したうえで、「一人で娘を支えていくことへの不安などが事件に結びついた」と結論づけた。
 2章では、障害児を育てている母親や障害者団体などの関係者がつづった事件への思いを紹介。3章では、県内の障害児を抱える世帯を対象に実施した生活実態調査で浮かび上がった悩みや、福祉サービスの利用状況などを掲載している。
 4章では、行政と地域が連携して支援に取り組むことや、実態に見合った制度を作ることなどを提言している。
 1冊1050円。限定2000冊で、県内の書店で販売している。問い合わせは調査団事務局(077・543・6440)。


◆障害者自立支援法訴訟:終結へ 厚労相「障害者尊厳傷つけた」 原告と合意
(2010.01.08 毎日新聞 東京朝刊 26頁 社会面)
 障害福祉サービス利用の原則1割を障害者が負担する障害者自立支援法の違憲訴訟を巡り、原告団、弁護団と長妻昭厚生労働相の3者が7日午後、「基本合意」に調印した。合意は、支援法実施で障害者に悪影響をもたらしたことについて、政府が「心からの反省」を表明、同法廃止後、13年8月までの新制度制定に障害者が参画するなどの内容。全国14地裁で71人が「障害が重いほど負担も重い(応益負担の)法律は憲法違反」と国を訴えた裁判は終結へ向かい、施行後3年余りの障害者福祉法制を大きく転換させた。【野倉恵】
 基本合意は、このほか、利用者負担や制度の谷間を作らないための障害の範囲見直しなどを、新法の論点とする▽来年度予算案にない低所得者の医療費負担を当面の重要課題とする▽基本合意の履行状況を確認するための原告団・弁護団と国(厚労省)の定期協議の実施など。
 同日夕、厚労省内で開かれた調印式で長妻厚労相は「(法律で)皆さまの尊厳を深く傷つけ、心から反省の意を表明します。障害者施策の新しいページを切り開いていただき感謝申し上げる」とあいさつ。原告を代表し署名した原告第1号の広島県廿日市市、秋保喜美子さん(60)は「一人一人の(原告の)思いが合意に入り、感激している」、弁護団長の竹下義樹弁護士は「訴訟を終わらす決断をした71人の原告をたたえてほしい」と述べた。
 裁判で原告らは、「法律は障害を自己責任のように感じさせ、生存権の保障を定めた憲法に反する」と訴えてきた。法施行後、福祉サービス対象者約51万人の75%を占める市町村民税非課税世帯では、9割で月額平均8452円負担が増えた。


◆(自立したい:5)病院出て地域で生活 筋ジストロフィー・安武治二さん /熊本県
(2010年01月07日 朝日新聞 朝刊 熊本全県・1地方 027)
 リクライニング式車いすに座ったまま、自宅でじっとしている。何か異変があったときは、ひざの上の携帯電話に手をかけ、わずかに動く指で、助けを呼ぶほかない。
 熊本市のアパートで一人暮らしをする安武治二(やすたけはるじ)さん(50)は筋肉が萎縮(いしゅく)する筋ジストロフィーで、首から下がほとんど動かず、携帯電話も握れない。
 「人が24時間ついていないと生活できない状況」だ。生活のすべてを介助に頼る。障害者自立支援法に基づいて、市が決めた公的介助時間は月458時間(1日約14時間)。生活保護を受けているので、1日4時間の介護加算がある。しかし、残り6時間は介助がない。
 せきをする筋力がないため、自力でたんが切れない。肺にたんがつまると、肺炎になる恐れがある。たんを吐く介助や寝返りのために夜も常駐の介助が必要になる。
 昼の6時間はヘルパーなしで過ごすが、問題はトイレだ。筋力が足りないから、排便には1時間半〜2時間かかる。便意を我慢し、「あと10分、あと5分」と数えながらヘルパーの到着を待つ。
 小学生で筋ジストロフィーと診断された。福岡の親元を離れ、合志市の専門病院で33年間、暮らした。呼べば職員が来てくれる環境だった。しかし、生活全般を管理されていた。「いつまでたっても大人扱いされず、何をするにも許可が要った。自分の責任で物事を決めることは、一般の人には当たり前だろうけど、病院の中の障害者にはそれができない」
 「たとえ、体は不自由でも、自分の意思で生きたい」。それは渇望だった。
 2005年、病院を出て熊本市で一人暮らしを始めた。06年に自立支援法が施行され、熊本市は、入浴回数を原則週3回などと基準を決めた。病院から出ても待っていたのは「制限された生活」だった。
 当初、熊本市が安武さんに割り当てた介助時間は月316時間(1日約10時間)。07年、症状が進行し、電動車いすで動き回れなくなった。24時間介護のために、残りの14時間分は自費やボランティアで確保したが、08年7月に蓄えが底をつき、生活保護受給者になった。
 安武さんは市と交渉し、介助時間は08年12月に月370時間(1日約11・5時間)に引き上げられたが、「細切れの介助では生きていけない」と、09年1月、県に審査を請求した。県は6月、「24時間必要とまでは判断できないが、支給量は不十分」として熊本市の決定を取り消し、「重度訪問介護は長時間の支援を想定している。短時間の算定は制度の趣旨に反し、妥当でない」と裁決した。
 裁決を受けて市は安武さんの介助時間を引き上げ、市内で重度訪問介護を受ける約80人の支給も見直しを始めた。前回紹介したノグチナオコさん(仮名)のように介助時間が増え、トイレの時間が確保できた人もいる。
 安武さんにはまだ、24時間介護は認められていない。熊本市より受けられる介助時間が長い他県に引っ越すことも考えたが、12歳から過ごしてきた熊本への愛着は強い。
 病院を出た後、多くの人から「ヤスさんが体験する生活を、たくさんの人に聞かせて」と頼まれた。障害者からの相談も来る。安武さんはヘルパーに携帯電話を持ってもらい、相談に乗る。「これからも地域で暮らすことをあきらめたくない」


◆(翔 2010:5)運転免許、自立の一歩 ハンディ乗り越え挑む2人 /岩手県
(2010年01月07日 朝日新聞 朝刊 岩手全県・1地方 029)
 指導員が問題を解説している間、佐藤美香(20)は机に広げた教科書に突っ伏すように小さくなっていた。年の瀬の押し迫ったこの日の模擬試験は80点。最近では一番の出来だが、合格ラインの90点にはまだ遠い。時間も20分以上オーバーした。
 「出来たと思っても、また、同じところで間違えてしまう」と千厩自動車学校の千葉昭博・教務開発部長。この日は保険の問題でことごとくつまずいた。実は、「保険」という仕組み自体、よく分かっていない。
 美香には、知的障害がある。
    *
 この学校に籍を置くのは2回目だ。2008年秋、ほぼ1年がかりで一度は卒業したものの、公安委員会の運転免許試験の壁が高かった。一関市大東町の自宅から運転免許センターのある金ケ崎町まで20回通って挑戦し、89点が2回。合格まであと1点が遠いまま、1年間の卒業証明書の期限が切れた。
 「もっと簡単にとれるものだと思っていた。さすがにいやになりましたよ」と美香は言う。ハンドル操作には慣れたし、勉強は日付が変わる頃まで布団の中でやっている。それでも試験になると緊張で足がすくみ、頭が真っ白になる。その繰り返しだ。
 「彼女の就職には、絶対に運転免許が必要なんです」。障害者福祉サービス事業所「室蓬館」(一関市大東町)で就労支援員をしている千田伸樹(46)は言う。
 06年に障害者自立支援法が施行され、障害者の一般企業への就職を促す「就労移行支援事業」が始まった。美香も室蓬館でパソコン操作やビジネスマナーなどの職業訓練を受ける「就職組」の1人だ。
 「自宅から通える範囲で、スーパーマーケットの総菜部門」が美香の希望だ。今秋受けた2回の企業実習は、「作業が速くてついて行けなかった」。
 それでも実習が出来ればまだ幸運だ。求人開拓に出向く千田は、通勤手段の有無を問われていつも答えに詰まる。
 東北線から離れた一関市東部は、公共交通機関に乏しい。自前の交通手段を手に入れない限り、施設で月工賃約2万2千円のパン作りが続く。
 「就職した方が自分のためになる」。美香は自分に言い聞かせる。
    *
 丸森優香(25)も「就職組」の1人だ。09年11月、千厩自動車学校を卒業した。就労移行支援に進んだのは、美香と同じ07年4月。2年も運転免許へ挑戦が遅れたのは、両親の強い反対にあったから。知的障害に加え、胸には心臓ペースメーカーが埋まっている。
 日常生活に支障はないが、激しい運動は厳禁だ。医師にペースメーカーの耐久性を説明してもらい、両親を説き伏せた。学校ではS字カーブやクランクにてこずり、本来は20時間ほどの技能に50時間以上をかけた。
 施設でのパン作りは嫌いではない。11月にはロールケーキが全国の福祉施設利用者が競う大会で、銀賞を受けた。しかし、周囲からは「ここは訓練を受ける場で、ゴールではない」と言われている。
 「クルマの免許を取れば自由になれる。ちゃんと自分で暮らせるようにしないと」
 就労移行支援の期間は、最長3年間。2人は今年3月末までに免許を取得できないと、助成金が受けられなくなる。=敬称略
 (上田輔)


◆障害者自立支援法訴訟:原告・政府が和解協議
(2010.01.07 毎日新聞 東京夕刊 10頁 社会面)
 障害福祉サービス利用の原則1割を障害者が自己負担する障害者自立支援法の違憲訴訟を巡り、原告団・弁護団と政府が7日午後、和解を視野に入れた最終協議を行う。両者が同法廃止後の新制度の話し合いに障害当事者が参加していくなどの基本合意を交わすことになれば、和解に進む可能性もある。
 障害者自立支援法を巡る訴訟は08年10月以降、全国14地裁で約70人が提訴。原告側は、「応益負担」は重度の人ほど負担が重くなるとして「憲法の生存権の保障に反する」などと訴えてきた。
 長妻昭厚生労働相は政権交代後の昨年9月、同法廃止を表明。原告団に協議を申し入れ、厚労省と与党議員らを交えて話し合いを重ねてきた。
 その過程で原告団・弁護団側は、来年度政府予算案について、低所得者のサービス無料化を強く要望し、厚労省は当初300億円の計上を目指したが、一部は対象外となり、計上額は107億円となった経緯がある。
 原告団・弁護団と政府の基本合意に向けた協議では、自立支援法への政府の反省や謝罪、医療費の無料化などについて話し合われる見込みだ。【野倉恵】


◆(自立したい:4)恋する夢、詩に 介助時間制限、一人暮らし・ノグチさん /熊本県
(2010年01月06日 朝日新聞 朝刊 熊本全県・1地方 027)
 熊本市で一人暮らしをするノグチナオコさん(28)は昨年11月まで、おむつを使っていたことがある。重度の脳性まひで、体に障害があり、自分一人では何もできない。ヘルパーに頼んでトイレで用を足すことはできるが、問題は「時間」だった。
 障害者自立支援法で、公的介助の時間は市町村が決める。熊本市からナオコさんが認められた時間は1日平均約8時間。入浴や食事、そうじなど暮らしのすべてでヘルパーの介助なしにはできないナオコさんには十分とは言えなかった。
 トイレを使うときは、体を支えてもらってズボンを下ろし、終わると、再び体を支えてもらいながらズボンを上げ、車いすに座る。ヘルパーにかける負担も大きい。おむつを使っていたのは、トイレに行く時間を節約するためだった。
 限られた介助時間の中で生活するには、生活の質を下げるしかない。トイレだけでなく、調理の介助時間を短縮するため、昼食はカップラーメンですませていた。
 おしゃれが好きで、詩を書くのが趣味のナオコさん。詩集を自費出版したこともある。おむつの生活に「こんなの嫌だ」と思ったが、「慣れるようにがんばろう」と自分に言い聞かせるほかなかった。
 詩にはこんな一節がある。
 《慣れないのは当たり前だ 失敗するのも当たり前 だって私は一人暮らしするのは初めてだから 今にきっと慣れるよね》
 家族と暮らした家を出て一人暮らしを始めたのは昨年5月。「自立して自分の時間を生きたい」と、家族を説得した。新居のカーテンは空色に雲の柄。自由を夢見て始めた新生活の象徴だった。しかし、現実は介助時間の節約に追われる。
 《自由とは何 私は縛られるためにここにいるんじゃないよね 私は上手に笑えてる?》
 障害者の権利擁護のために活動するNPO法人・ヒューマンネットワーク熊本の吉田太郎さん(30)は「自立生活をする障害者の多くは毎日が時間との闘いだ。自治体が支給する最低限の介助時間に、障害者は身の回りの用事をすべて詰め込む。排泄(はいせつ)の意思を伝える能力があるのに、時間が足りないからとおむつをしなければならないなんておかしい」と憤る。
 昨年12月、熊本市はナオコさんの介助時間を1日平均約10時間に引き延ばした。おかげでおむつを使わず、「トイレにいきたい」とヘルパーに言えるようになった。
 でも、市の基準で認められた入浴は週3回。ナオコさんはよく汗をかく。体の緊張をほぐすためにも入浴は欠かせない。お風呂に入れない日は、化粧も映えない。
 《我慢は嫌だよ 私達はずっと ずっと 我慢をさせられてきて生きてたよね 認めて下さい 毎日、お風呂に入ることを》
 夢は、恋人ができたら手をつないで街へ出かけること。
 《ありのままの私の障害を 好きになってくれる人はいるのかな きっと希望をもっていれば必ずネ ありのままの私を好きになってください》
 たくさんの人と出会い、恋をしたい。詩を書くとき、自由な思いがあふれる。
 《言語障害があっても 伝えることをあきらめないよ 一言 一言》
 (文中カタカナは仮名)


◆「空白」碧海地域に入所施設を 障害者の声集め、要望へ 安城の筋ジス男性【名古屋】
(2010年01月05日 朝日新聞 夕刊 1社会 007)
 24時間介助ができる入所施設を、「空白地」に作って――。進行性筋ジストロフィーという難病の愛知県安城市の男性(31)が、こんな切実な願いの実現に向けて立ち上がった。重度の身体障害者にとって施設不足は死活問題だが、同市を含む碧海(へきかい)5市地域には施設がない。その解消のため、同じ悩みを抱える人たちに呼びかけて集まった三十数人とともに、今春にも5市の市長らへの要望に乗り出す。(青瀬健)
 男性は安城市東明町の本田桂吾さん。小学校入学後、よく転倒するという指摘を受けて受診し、病気が分かった。3年生になると車いすに頼り始め、高校卒業前には「全介助(生活すべてで介助を受けなければならない状態)」が必要になった。
 食事にトイレ、入浴だけでなく、睡眠時の介助が欠かせない。床ずれと痛みを防ぐため、ほぼ1時間半おきに体の向きを変え、夜だけ装着する人工呼吸器の管理も必要だ。
 全介助になってからは、母親(56)を中心に、2歳下の弟(29)が本田さんの生活を助け、会社から帰宅した父親(60)が睡眠時の介助を担当した。
 障害者自立支援法施行後の2007年からは、週に4日、睡眠時にヘルパーの世話を受けてきた。09年2月、契約していた介護事業者の都合で、夜間の介護が週2日に。加えて昨春には父親が足の病気で入院し、母親と弟の介助時間が増えた。
 安城市の窓口で窮状を伝えたが、家族でやりくりして欲しいというような回答しか得られない。「今はまだしも、家族に何かあったら困る」。昼間通う福祉施設「ピカリコ」(同県西尾市)などに相談した末、自ら発起人となり、昨秋、「身体障害者入所施設をつくる会」(仮称)を設立した。
 小泉政権下で成立した障害者自立支援法は「施設から地域へ」をうたい、介護サービスを利用した家庭での生活を目指す。多くのメニューが用意されているが、本田さんは「従事できる職員がいなければ絵に描いた餅。そもそも、24時間介助が必要な障害者の声が行政に届いていないのではないか」と主張する。
 愛知県障害福祉課と「ピカリコ」によると、身体障害者の入所施設は県内に約20。本田さんが住む安城を含む碧南、刈谷、高浜、知立の碧海5市は「空白区」だ。「ピカリコ」も入所32人に対して待機は60〜70人、短期入所は定員3に対して140人いる。
 会結成後、本田さんは自分と同じような重度の身体障害者の知人やそのまた知人などに声をかけ、「今すぐ入所したい」という約30世帯から入会届が届いた。
 対象を身体障害者に絞ったのは、善意の第三者による幾多の署名よりも生の声の方が説得力があると信じるから。参入を検討する業者があった場合、需要を担保する根拠になるとの思いもある。
 今後、どんな施設が欲しいのか各方面に意見を聞いたうえで加入者をさらに増やし、4月には5市の市長に建設を要望するつもりだ。


◆みんなの広場:「共生社会」実現への努力が大切=無職・古藤嘉久次・64
(2010.01.05 毎日新聞 東京朝刊 15頁 家庭面)
 (横浜市港南区)
 12月7日の本紙によると、障害者自立支援法廃止後に代わる新法など法制度全般について障害者自ら政策立案に直接参加して協議が進められるという。障害者をもつ親として、特に現法では「障害程度区分」に基づきサービス内容を決める仕組みが機械的に行われていないかと危惧(きぐ)しています。新制度では個々のニーズを反映させるなど手厚い仕組みに見直されると聞き、心強く思っています。
 障害者の生活環境をみると、まだ十分とは言えないが、公共の建物をはじめ、駅などはエレベーター、エスカレーター、斜路の設置が進み、多目的トイレも徐々に設置されている。道路などは段差の解消や点字ブロックの整備、音声案内式の信号機などバリアフリー化が促進され、乗り物もノンステップバスの運行など障害者の日常の活動範囲も広がってきたと思う。
 ただ制度が見直され、施設も改善され、自助努力をしても、根本は誰もが等しく個性を尊重し支え合う思いやりのある「共生社会」をつくるよう一人一人が努力することだと思う。


◆(自立したい:1)息子の進学へ共働き 知的・聴覚障害ある永田さん夫妻 /熊本県
(2010年01月03日 朝日新聞 朝刊 熊本全県・1地方 026)
 「息子さんが校舎2階から落ちました。すぐ病院に来てください」。昨年12月4日夕、玉名市に住む永田登紀子さん(44)は、長男の忠広君(14)の事故を知らせる学校からの電話に言葉を失った。
 荒尾市の荒尾市民病院に駆けつけると、忠広君は集中治療室にいた。医師が何か言っているが、知的障害のある登紀子さんには、言葉が難しくてよく分からない。夫の正英さん(54)もぼうぜんとしている。聴覚障害のため、聞こえないのだ。
 忠広君は小学校で野球をしていた。校舎の2階に止まってしまった球を取ろうとして転落したという。2人は集中治療室の外で息子の無事を祈った。集中治療室から出てきたのは4日後。右足は複雑骨折だが、早ければ1月には退院できるという。
 2人は1992年、お見合い結婚した。仲人は登紀子さんが熊本大付属養護学校の生徒だったときの恩師、松村忠彦さん(66)。熊本市障害者福祉センター希望荘のふれあい相談所で障害者の結婚相談を担当し、正英さんの両親から相談を受けた。「息子は耳が不自由で結婚が決まらない。お嫁さんを紹介してほしい」
 松村さんは正英さんに登紀子さんを紹介した。互いに「スポーツマンでかっこいい」「かわいい」と見初め、相談所で結ばれた初めての夫婦となった。
 結婚生活は正英さんの実家で始まった。95年3月、元気な男の赤ちゃんが生まれた。松村さんから「忠」の字をもらい、「広い心の子に」と「忠広」と名づけた。
 正英さんは父親の農業を手伝っていた。コンバインの運転は上達したが、仕事全体を考えた段取りや家計の管理は父親頼みだった。母親はすでに亡く、父親も2002年に亡くなると、正英さんは農業を続けられなくなった。
 収入は減ったが、夫婦はお金の計算が苦手で、事態に気づかなかった。同窓会で登紀子さんと再会した松村さんは、夫婦に仕事がなく、親の残した貯金などで暮らしていると知った。
 松村さんは「忠広君が高校生になると、今よりたくさんお金がかかるよ」と説いた。正英さんはハローワークで仕事を探したが、断られ続けた。松村さんは、自らが施設長を務める障害福祉サービス事業所の「就労移行支援事業」への参加を勧めた。障害者自立支援法により、障害者に就労の道を広げることを目的に設けられた制度だ。
 今、2人は自分たちが結婚式を挙げた玉名市のホテルで皿洗いをしている。正式採用ではなく体験就労だ。事業所の職員もホテルを訪ねて様子を見る。就労移行支援の期限は2年。夫婦はホテルに正式に就職しようとがんばっている。忠広君の高校の学費を稼ぎたいという。
 玉名市社会福祉協議会の「地域福祉権利擁護事業」で家計管理の支援を受け、通帳を預けて週1回、生活費を受け取る。登紀子さんは家計簿をつけるようになった。
 忠広君は健常者。夫婦にとって大事な話し相手だ。登紀子さんは家に帰ると、忠広君にその日のできごとを話す。忠広君は友だちと遊びながらも「わかった、わかったけん」と答える。テレビで野球観戦する正英さんが「こんな球、おれならカッキーンとホームランたい」と手話で話しかけると、忠広君は手話で「ないない」と返す。社協の担当者から大事な話がある時も、忠広君が手話で通訳する。
 忠広君には目標がある。一つは目前に迫った高校受験の志望校合格。もう一つは「父さんと母さんと自分のために、今の家よりでっかい家を建てたい」という夢だ。
     ◇
 恋愛、結婚、子育て、就職。あらゆる場面で、自分らしく生きたいという願いはだれにでもある。障害があって、人の手を借りないと生活できない人にも、さまざまな自立の形がある。(土井恵里奈)


*作成:村上 潔・有松 玲・竹林 義宏・青木 千帆子・桐原 尚之
UP: 20100617 REV: 0708, 0803, 0902, 1108, 1111, 1116, 1117, 1118, 1121, 1122, 1203, 20110203
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