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日本の精神薬物療法史




◆1300年代〜
 1394(応永2)
・仏教寺院(愛知県羽栗病院の前身光明山順因寺)における収容治療施設の存在。灸治療と漢方の家伝薬の使用。
・漢方:当帰・柴胡・遠志・甘草・陳皮・黄嗜・酸棗仁(以上鎮静剤)・蒼朮(利尿剤)・辰砂(水銀を含む吐剤)

◆1500年代〜
1599(慶長4)
 ・本多佐内、大阪市泉州夾神堂(七山病院の前身)において、一子相伝の秘薬「健児丸」が用いられる。
 ・12種の生薬成分を含み、沈静・清熱(のぼせ・利尿ぼ・せ興奮の改善)利尿作用をもつ

◆1600年代〜

◆1700年代〜

◆1800年代〜
1819(文政2)
 ・「癲癇狂経験編」土田獻著(わが国最初の精神病専門の医学書〕
 ・下気円・麦芽汁・柴胡湯・降火湯などの漢方が治療薬としてあげてある

1875(明.8)・京都癲狂院開設
 ・東京に司薬場(薬品検査所)設立され、薬舗開業試験開始

 ・1878年出版された『精神病約説』(わが国最初の西洋精神病学書)によると、温湯浴 ・灌水・芥子浴・灌腸・緩下剤が有効。阿片・モルヒネは鬱憂症に効くと記載有り

1876 ・製薬業の免許制(M.9)

1877 ・売薬規則制定(M.10)

1878 ・加藤瘋癲病院(東京)開設(M.11)

1879 ・東京府癲狂院開設(M.12)

1883(明.16)・東京府癲狂院では、明治11年のメモから34歳の鬱性の女性(症状から若年発症の統合失調症らしい〕の処方
 ・相馬事件発生→1895終結
 ・臭素加里・ういきょう水・妖化加里・キナ酒・酒石酸鐵チンキの記載あり

1886(明.19・榊俶ドイツ留学より帰国(1897年病死)西洋の精神病学の導入。
 呉秀三の「我邦ニ於ケル精神病ニ関スル最近ノ施設」の明治16年頃の東京府癲狂院の医療についての記載から
 ・日本薬局法第一版発行
 ・「不眠症にはヒオスチアミン(皮下注入・内服)・臭素加里・クロラール合剤の頓服、鬱憂病にはカンナビン・コデイン、麻痺性痴呆にはエゼリンの内服、多血性躁暴症には臭素加里エキス合剤、旦急性躁暴症の他は総強壮療法を主とし赤酒及び肝油・ブランデー合剤を臨機投与せり」

1888・長井義春が漢方薬の黄麻から→メタンフェタミン発見

1899・「精神病者監護法」政府提案

◆1900年〜

1900(明.33)・「私説松沢病院史」による、催眠剤処方・クロラールが最も多く、スルフォナールがこれに次ぎ、モルフィーム・ウレタン、パラアルデヒド、トリナオール、ヒオスチン、臭化カリ、臭化ソーダが使われていた

1901(明. 34)・呉秀三帰国東京府巣鴨病院医長、以後ドイツ精神医学に倣った治療開始

 ・「精神病者監護法」公布

1902(明.35)東京府巣鴨病院年報によれば、薬剤としてタカジアスターゼ・ヲイカジン ・ソマトーゼ・沃剥・満俺鐵・ペプトーン・沃度チリン・石炭酸・臭素カリ・臭素ソーダで、臭素カリ・臭素ソーダ以外は滋養剤か外用消毒剤

1906(明.39・巣鴨病院年報から
 『新選精神病学』(1907石田昇)では、50種以上の薬物の列挙あり・鶏卵・バター・牛乳・ぶどう酒・白糖・石鹸・煙草・氷なども医師が処方して調剤係が薬餌として患者に給付

1919(大.8)・緒方、メタンフェタミンを合成、欧州に紹介

 ・「精神病院法」公布

1922・未成年者飲酒禁止法公布 
 ・健康保険法公布(実施は1926年)

1924・マラリア発熱療法導入(進行麻痺の三分の一が治療可能となった)

1926・「精神病院法」第一条による最初の病院:大阪府立中宮病院開院(大正15年)

1928・警視庁、精神病者指紋採取開始(昭和2年)

1929(昭.4)・ズルフォナール持続催眠療法導入

1930(昭.5)・レセルピンの抗精神病効果がインドで見出される

1935・昭和10年代:サルファ剤などの新薬導入

1936・『精神病学』丸井清泰:「阿片定式療法」

1937・インスリン療法導入(1960年頃まで行われた)
 ・保健所法公布

1938(昭.13)・メタンフェタミン、ドイツでぺルビチンの商品名で発売
 ・厚生省設置(以前は内務省管轄)
 ・国民健康保険法施行

1939 ・電撃痙攣療法

1940・日本ではメタンフェタミンはヒロポン・ホスピタンの商品名で発売
(精神病院165・精神科病床24000床)

1941(昭.16)・ぺルビチンは軍隊で多用・習慣性が問題となり麻薬と同じ法規制となる
 ・アンフェタミンはゼドリン・アゴチンの商品名で販売、戦時中多用される
 ・「精神病者監護法」「精神病院法」、厚生省予防課の所官となる

1942・ロボトミー(前頭葉切除術)導入

1943(昭.18)・古くは漢方薬の製造販売には殆ど何の規制もなかったが、西洋医学の導入と医制の発布を契機として、これまでの薬事・売薬法・薬剤司法を統一して(旧々)薬事法制定

1946(昭.21)・GHQ指導の下(旧)薬事法制定(不良医薬品を取り締まる衛生警察法規色彩が強)
 ・医師国家試験制度採用
 ・生活保護法公布

1948年7月・『精神医学教科書』内村祐之
 ・強い運動興奮には、ヒオスチンやスコポラミンの皮下注射、躁病には鎮静剤・睡眠薬スコポラミンの皮下注射、鬱病には精神的対処療法と自殺予防の注意及び痙攣療法、持続催眠療法が詳しく記載され、阿片定式療法、コレステリン・ポルフィリン・覚醒アミンなどについて触れている
 ・覚せい剤は薬事法により劇薬に指定、それ以前は新薬として医師向けに広告有り

1949(昭.24)・リチュウム塩の躁効果オーストラリアで発表
 ・覚せい剤(メタンフェタミンなど)製造自粛と製造と製造中止勧告 

1950(昭.25)・薬価基準制度制定(健康保険制度の普及に伴う)
 当時は医薬品や売薬の輸入販売などの規制は少なく医師の責任で自由に輸入、患者に使用できた。厚生省の薬品製造・販売への認可は簡単であった
 ・「精神衛生法」公布

1951

1952・フランスでクロールプロマジン(CPZ)の精神病への効果発見、臨床に用いられ有効性が確認される。その後レセルピン・メプロバメートなども有効性確認 

1954(昭.29)・『常用新薬集』15版出版される
 ・催眠剤として、ブロムワレル尿素(ブロバリン)、バルビツール系製剤(バルビタール・イソミタール・ラボナ・チクロパン)、鎮静剤はブロムカルシュウム注、抗痙攣剤としてフェノバルビタール製剤、ヒダントイン製剤(アレビアチン・コミタールなど)その他アーテン、自律神経興奮剤としてヒロポン、アルコール中毒治療剤にアンタブース、後に向精神薬として用いるレセルピンを含むインド蛇木根アルカロイド製剤のエガリンが血圧降下剤としての記載有り

1955(昭.30)・輸入されたCPZを使用し、1955年頃から症例報告される。
 ・コントミン(吉富製薬)、ウインタミン(塩野義製薬)の製法特許、独自のCPZ製剤発売:一般精神病院でCPZが本格的に使用され出したのは昭和31〜32年
(1955年時、260病院・精神病床44、250で人口1万対4.96)

1956(昭.31)・1950年代初期、精神症状に治療効果のある薬物をトランキライザーとよび、抗精神作用のあるものをメジャートランキライザー・神経症性不安に有効なものをマイナーランキライザーと称した。現在は「抗不安薬」に相当する薬物を指す
 ・最初のトランキライザー・メプロバメートは第一製薬から「アトラキシン」、その少し以前に非バルブツール酸系の鎮静剤「ノクタン」が山之内製薬の商品名で発売され精神科だけでなく一般臨床各科でも使用された

1957(昭.32)・国際神経精神薬理学会(CINP)設立
 ・CPZ以後のフェノチアジン化合物(抗精神薬として多くのフェノチアジン化合物が開発され臨床に使われたたが多くの薬剤は2006年現在発売中止となる)現在も残っている薬剤:ノバミン・ピーゼットシー・トリオミン

1958(昭.33)・CPZ以後のフェノチアジン化合物 :セーバミン(発売中止)
 ・メチルフェニデートの輸入が承認される

1959(昭.34)・三環系抗鬱剤イミプラミン(トフラニール・藤沢)認可
 ・CPZ以後のフェノチアジン化合物 :ヒルナミン・レボトミン
 ・メプロバネートの長期大量使用者に痙攣発作やせん妄の副作用が問題となる
 ・非定型抗精神薬の代表であるクロザピンがスイスで合成

1960(昭.35) ・CPZには、注射(筋・静)、経口(散・錠・シロップ)製剤が存在した。
 ・CPZ以後のフェノチアジン化合物 :フルメジン
 ・急性副作用の危険性についても記載されている。
 ・MAO阻害薬(モノアミン・オキシターゼ阻害剤)の導入:肝障害などの副作用、服用の際禁忌食品が多く医師にとっても使い難く市場から消退。
 ・1950~1960年代にかけて自律神経者遮断剤(CPZなど)に対する問題の顕在化{錐体外路神経症状(パーキンソニズム・アカシジア)などの副作用を抑制するため、抗パーキンソン薬を併用して処方する悪しき慣習を生む。
 ・抗精神薬の導入によって精神病床は減少するどころか病院の建設が多発、入院患者は増加の一途を辿った。
(506病院・精神病床95,067床で人口1万対10.18、2000年には358,153床で人口1万対28,2)となり45年間で8倍強増加する。
(背景:精神衛生法の改定による公費負担患者の増加・医療法の精神科特例措置・医療金融公庫融資の拡大・抗精神薬の導入)
 ・「精神薄弱者福祉法」公布

1961(昭.36)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
 抗不安薬:コントール(武田)・バランス(山之内)
 ・三環系抗鬱剤:トリプタノール(メルク万有)
 ・メチルフェニデート、薬価基準に載りリタリンの商品名で発売(抗鬱・抗鬱神経症適応)

1963(昭.38)・睡眠薬の市中薬局での販売規制(ドリデン・ハイミナール・アドルム・バラミンの強力な催眠薬の乱用者が増加。現在はいずれも発売中止となっている)

1964(昭.39)・メプロバメートの長期大量使用者の禁断症状の症例報告多数顕在化
 ・ブチロフェノン誘導体:セレネース(三共)・リントン
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):セルシン(武田)ホリゾン(山之内)
 ・抗鬱剤:サフラ(小野)
 ・ライシャワー大使刺傷事件

1965(昭.40)・ブチロフェノン誘導体:プロピタン・トリペリドール
 ・三環系抗鬱剤:スルモンチール(塩野義)
 ・「精神衛生法」改正

1966(昭.41)・カルバマゼピン(CBZ)抗てんかん薬として導入(50年代日本で発見・60年代臨床治験・テグレトールの名で欧州で発売)

1967(昭.42)・「医薬品の製造承認に関する基本方針の取り扱いについて」厚生労働省通知により、「医療用医薬品」と「その他の医薬品」に分けられ、医療用医薬品は医師の処方箋なしでは薬局での販売は不可となる
 ・イミノディベンジル系化合物:デフェクトン(吉富)
 ・BZ化合物:ベンザリン(塩野義)・ネルボン(三共)
 (睡眠剤として開発)セレナール(三共)

1968・「クラーク報告書」提示される(日本の精神病院の閉鎖性等について)

1969 ・ブチロフェノン誘導体 :スピロピタン

1970(S.45)・メプロバメートは禁断症状・薬物依存性が問題となり、薬局での自由販売の規制、使用が激減し、発売が中止される
 ・向精神薬導入の変化:国立精神療養所11施設における慢性統合失調症529例の調査では、1950年〜1051年には、患者の7.5割は電気痙攣療法・1割はインシュリン療法・1.5割は精神外科療法を受けたが、向精神療法の導入された1955年〜1957年には7割が向精神薬で治療される。
 ・1960年〜80年にかけて、抗精神薬同士の多剤併用が常態化する。
 ・持続性注射薬(アナテンゾール・デポ)の承認発売
 (精神病院896病院・約25万床)
 ・心身障害者対策基本法公布:平成5年障害者基本法に改正

1971(昭.46)・「医薬品の再評価」制度発足(厚生労働省通達)。レセルピンは精神疾患適応から除外される。
 ・ブチロフェノン誘導体:ルバトレン
 ・カルバマゼピン(CBZ)抗躁効果と病相予防効果有する報告

1972(昭.47)・インドール誘導体:ホーリット
 ・イミノディベンジル系化合物:ジセプロン(吉富

1973(昭.48)・三環系抗鬱剤:アナフラニール(藤沢)

1974(昭.49)・ブチロフェノン誘導体:オーラップ
 ・イミノディベンジル系化合物:クロヘェクトン(吉冨)

1975(昭.50)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):ユーロジン(武田)・ダルメート(日本ロシュ)・ベノジール(協和)
 ・抗てんかん薬として認可:バルブロサン(VA)・デパケン・バレリン・エピレナート・ハイセレニン・エスダブル等
 ・クロザピンによる16例の無顆粒症(うち8例死亡)が報告され、研究停滞する

1976・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):エリミン(住友)

1977・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):レキソタン(エーザイ)

1978(昭.53)・抗精神薬の併用は副作用を強め合い、併用に消極的な見解もでる
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):ワイパックス(武田)
 ・メチルフェニデートの効能にナルコレプシー追加

1979(昭.54)・薬事法改正
 ・リチュウムの認可
 ・ベンザミド系化合物:ドグマチール・アビット・バルネチール
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):リーゼ(睡眠薬・吉富)

1980(昭.55)・リチュウム薬価基準に搭載、リーマスの商品名で販売(大正製薬)
 ・米国精神医学会による「精神疾患の診断と分類の手引き」(DSMV)の登場
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)、抗不安薬:メンドン(大日本)・エリスパン(住友)・セダプラン(興和)
睡眠薬:ソメリン(三共)
 ・三環系抗鬱剤:アモキサン(日本レダリー)

1981(昭.56)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
・抗てんかん薬:リボトール(日本ロシェ)・ランドセン(住友)
 ・三環系抗鬱剤:ルジオミール(チバガイギー)・アンプリット(第一)

1982(昭.57)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):ハルシオン(睡眠薬)
 ・三環系抗鬱剤:テトラミド(三共)
 ・イミノディベンジル系化合物:ロドピン(藤沢)

1983(昭.58)・ブチロフェノン誘導体:トロペロン(第一)
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
 ・抗不安薬:デパス(吉富)・メレックス(三共)
 ・睡眠薬:ロヒプノール(日本ロシュ)・サイレース(エーザイ)・ソメリン(三共) 

1984(昭.59)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
 ・抗不安薬:コンスタン(武田)・コレミナール(日本シェーリング)
 ・イミノディベンジル系化合物:チミペロン(第一)
 ・リスペリドン(ドパミン
 ・宇都宮病院事件

1985(昭.60)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):ダランダキシン(抗不安薬・持田)
 ・三環系抗鬱剤:プロチアデン(科研)
 ・国際法律家委員会日本政府に精神障害者処遇に関する「勧告」提出

1986(昭.61)・ブチロフェノン誘導体:インプロメン
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):レスタス(抗不安薬・日本オルガノン)

1987(昭.62)・持続性抗精神薬注射薬デポ剤導入:ハロマンス・ネオペリドール
 ・「精神衛生法改正」→「精神保健法」制定

1988(昭.63)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):メイラックス(抗不安薬・明治)
 リスミー(睡眠薬・塩野義)

1989(昭.64)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
 ・睡眠剤:レンドルミン(日本ベーリンガー)・アモバン(中外)
 ・三環系抗鬱剤:テシプール(持田)
 ・抗てんかん薬として承認:エクセグラン・エクセミド
 ・厚生省薬務局長通達「医薬品の臨床試験に関する基準(GCP)」が出され、すべての新薬の承認に当たって第一〜第3相の段階的評価・他施設の比較試験による有効性・安全性・有用性の評価が必要となる。

1990(平.2)・医薬品製造(輸入)承認の際の臨床試験遵守(GCP)の施行(H.2)
 ・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系)
 ・睡眠剤:ロラメット(武田)エバミール(日本シェリング)
 ・メチルフェニデート:食欲抑制作用に着目した一部の医師が「やせ薬」として適応外処方を行う・この頃からインターネット情報の影響もありヒロポンに変わる覚せい剤として乱用が増加。
 ・バルブロサン(VA)、躁病に対して保険適用外で用いる。
 ・SSRIフルボキシアミンの治験開始

1991(平.3)・イミノディベンジル系化合物:クレミン(吉冨)
 ・ベンザミド系化合物:エミレース(山之内
 ・三環系抗鬱剤:レスリン(日本オルガノン)
 ・医薬品規制調和国際会議(ICH)開催:GCPの国際的共通基準の討議

1993(平.5)・持続性抗精神薬注射薬デポ剤導入:フルデカシン
 ・社会保険診療報酬に「持続性精神病注射治療指導料」が算定される(血中濃度測定が保険診療で承認))
 ・「精神保健法」一部改
 ・障害者基本法制定

1994・「地域保健法」施行 
 ・リスパダールが欧米で抗精神薬として承認される(ドパミン2受容体・セロトニン受容体(5HT)への遮断作用を持つ薬物:両受容体への遮断作用を持つ薬物はSDAと呼ばれる)199(平.7)
 ・メチルフェニデート:軽症鬱病の適応除外、難治性鬱病・遷延性鬱病に適応変更
 ・精神保健法が精神保健及精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に改称

1996(平.8)・抗不安薬:セディール(住友)
 ・持続性抗精神薬注射薬デポ剤:リスペリドン【セロトニン・ドーパミン拮抗薬(SDA)】
 ・わが国最初の非定型抗精神病薬リスパダールの発売が承認される

1997(平.9)・現行の新薬の治験は、薬事法・省令・厚生労働省通知によって構成される新GCPにより行われ、新たに治験の契約・治験計画書の作成・治験審査委員会の設置・治験責任医師・被験者の同意など詳細の規定がある

1999(平.11)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):ドラール(睡眠薬・三菱ウェルハァーマ)
 ・抗てんかん薬承認:ミオカーム
 ・SSRIフルボキシアミン(デプルメール・ルボックスの商品名)で発売

◆2000年〜

2000(平.12)・BZ化合物(ベンゾジアゼピン系):マイスリー(睡眠薬・藤沢)
 ・マイスタン(抗てんかん薬・大日本)
 ・イミノディベンジル系化合物:ルーラン(住友)
 ・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)フルボキシアミン(パキシル)発売
 ・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)であるトレドミン承認発売
 (精神病床数:358,153床・人口1万対28,2)

2001(平.13)・非定形型抗精神病薬セロクエル・ルーランの承認(2月)、臨床で用いられる
 ・非定形型抗精神病薬ジプレキサ(6月)の発売

2002(平.14)・バルブロサン(VA)「躁病及び躁鬱病の躁状態」が適応症に追加(保険診療で躁うつ病の躁状態適応は、炭酸リチュウム・カルマバゼピン・バルプロ酸3種)
 ・抗精神薬:ベンゾジアゼピン(BDZ)系薬物で気分安定作用を持つもの:クロナゼピン(ハロペリドールと併用)・ロドピンが注目されているが適応症には搭載されていない2003(平.15)
 ・「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」成立(公布7月16日)

2004 ・非定型抗精神病薬クロザピン承認申請施行

2005(平.17) ・「心神喪失者等医療観察法」施行
 ・「精神保健福祉法」一部改正:「精神分裂病」は「統合失調症」と改称

2006(平.18)・イミノディベンジル系化合物:エビリファイ(大塚)
 (非定形型抗精神病薬D2受容体遮断薬で、1990年大塚製薬で開発された化合物、1999年米国との共同開発で2002年米国で承認・EU諸国でも承認されている
 ・SNRIであるジェイゾロフトの承認
 ・「障害者自立支援法」施行

2007

2008


*風祭元「日本近代向精神治療史」『臨床精神医学』第35巻第1号PP59〜65、第2号PP199〜205、第3号PP325〜330、第4号PP425〜431、第5号PP545〜549、第7号PP999〜1004、第8号PP1111〜1116、第10号PP1481〜1487、第11号PP1583〜1589,第12号PP1683〜1689、2006年 
 同第36巻第1号PP83〜88、第2号PP189〜193,2007年より抜粋作成
*製薬会社名は開発当時の呼称
*日本で開発された抗精神薬に関して薬品名を太字で記載(筆者改筆)
*法律及び精神障害者に関係深い事柄を枠で囲んで表記加筆。(広田伊蘇夫『立法百年史』批評社2007より引用)


■風祭は、連載にあたって、「わが国の近代的精神医学は、欧州留学から帰朝して東大精神病学の主任教授・巣鴨病の医長でもあった榊が診療を始めた1886年から始まり、以来、発熱療法・持続催眠療法、いくつかのショック療法などが行われた。ある病態に関しては有効なものもあったが、多くは手技が複雑で効果が不確実であり、わが国の精神医療体制の不備と相まって治療効果は不十分であった。しかし、抗精神薬の導入によって有効な薬物療法が可能になり、精神療法のあり方が大きく変化した。(2005『臨床精神医学』35‐1,P59)と述べている。
これに関して、ロボトミーやショック療法に対する手技の複雑性を原因としていることは医師として問題であり、治療効果が不十分であったとしながら、ショック療法を続けた精神医療の反省は見られない。

また、1970年代入院中心の精神医療において、「抗精神病薬が出揃い、経済成長の波に乗った製薬会社は新製品の利点を強調して自社製品の使用を医師に進めた。医師も、それまで用いていた薬物で効果が不十分だった患者に対して新しい薬を付加して用い、抗コリン薬の併用が常態化し、その用量も次第に増加した。当時は社会保険診療報酬のうえで、精神科病院の入院料や心理社会的治療の報酬が極めて低く設定されており、薬物を大量に使えば使うほど薬価差益(薬剤の購入価格が薬価基準価格より大幅に低い)によって病院の収入が増すという事情も加わって、抗精神薬の多罪大量処方の傾向が加速された」(2006『臨床精神医学』35‐12,P1683)

ここでも医療側の倫理観は見られない(正直にその背景として医療側の経営優先があることを述べているのは好感が持てるが)。

さらに、多剤併用に関して、現在わが国の入院患者のうち、「約40%は、在院5年以上の長期入院患者で、これまで通常数種の向精神薬と、抗パ剤、睡眠剤などの併用投与が行われており、処方の急激な変更によって病状が変化することも少なくないので、単剤化や減量は思ったほど簡単ではないのが実情である」(同P1685)という医療側弁護とも見られる発言は気になる。

今後は、「できれば初診患者には、単剤処方を原則とし、併用が行われた場合には、単剤化や減量を常に念頭に置き、多剤併用大量処方を漫然と続けることのない様努めるべきであろう」という提言は、一定評価できる。

なお、非定型抗精神病薬のわが国への導入に関して、「わが国では、1960年代から1970年代にかけて薬剤の副作用に起因する薬害事件が多発し、1967年・1977年・1979年の厚生省の医薬品製造承認に関する基本方針の通達によって、新薬承認には、第一相〜3相の段階的評価、他施設の比較試験が求められるようになる。1989年には、医薬品の臨床試験に関する基準が出され、この後しばらくは新薬の臨床試験がうまく進捗せず、 “治験の空洞化”とでも言うべき状況が生じわが国の新規抗精神薬の臨床導入が諸外国に比べて大きく遅れる事態を招いた」(2007『精神医学』36‐1,P84)

「昭和25年には、はじめて薬価基準制度が制定されたが、当時は医薬品の売買の輸入や販売の規制が少なく、薬品の効果や適応症などは、医師の経験に任され、医師は自己の責任で自由に輸入・患者に使用でき、初期のクロールプロマジンやイムプラミンは製薬会社の研究所から医師が直接入手して患者に投与し、効果が見出されたものである」(2006『精神医学』35‐1,P64)

と強調して述べている。しかし、規制が緩やかなことで、医師の裁量範囲が大きく、そのため乱雑な処方の横行・薬害被害が生じたことについてはどう考えるのか。

「治験は薬事法80条で、厚生労働省令で定められる基準に従わなければならないとされ、現行の新薬の治験は、新GCP(医薬臨床試験に関する基準)によって治験の科学性・透明性・倫理性は確保されたが、一方で新薬の開発には莫大な資金と長い期間が必要となり、第製薬企業でなければ事実上不可能となった。先進緒国で有用性が高いとされ広く使用されている薬を輸入して発売承認を得るにもかなりの長時間を要することになり、結果、一部の医師と患者の責任によって薬の個人輸入が行われ、公的な規制のない薬が用いられるという事態を招いている。向精神薬SDAやSSRIのわが国への導入に長い時間を要したことなどはその一例である。最近は、わが国で開発された新薬が提携している外国企業の努力によってわが国よりも外国で早く承認発売されるという現象を生んだ。今後、有用性のさらに高い薬物がより早く臨床で応用できるように薬事行政上でも更なる工夫が望まれる」(2007『精神医学』36‐2,P191)
厚生労働省の薬事行政―特に新薬の承認及び発売システムの問題について工夫が行われることが望まれることを提唱している。

このことは、薬の安全性を第一に考えるのではなく、企業側への背慮を優先しているように伺われると考えるのは考え過ぎであろうか。


■SSRI の問題点について
*薬理学者であり現代精神医学の歴史研究の第一人者でもある英国の精神科医ディヴット・ヒーリ−は、プロザック(米国の製薬メーカーであるイーライリリー社が開発した不安とうつの治療薬:既に欧米ではパテントが切れ、わが国への導入は断念されている)に代表されるSSRI(選択的セロトニン阻害薬)が、薬剤市場のブローバル化の中で、警告もつけずに市場に野ばなしをされたのは、とんでもなく危険なことだったと指摘する(製薬企業が、最も儲けの多い企業となっている仕組みの中)。 
SSRIという概念は、クリーンで特異的に効き、非選択的な三環系うつ薬より副作用が少ないという印象を伴う。しかし、選択性は、薬理学者と臨床医にとって別のことを意味していた。薬理学者は、ノルアドレナリン系を除くすべての脳システムに影響を与える可能性があるもので、その意味では、SSRIは三環系抗うつ薬のどれよりも「ダーディ」な薬かもしれなかった。もし、臨床医が「選択的」というのは、脳の一つの場所だけに作用するという意味だと考えたとしたら、それは勘違いだった。だが、これらのくすりのマーケティングは、臨床医がまさにそういうふうに考えるよう仕向けたものであった。
(ディヴィット・ヒーリ−著:田島治監修・谷垣暁美訳『抗うつ薬の功罪』みすず書房2007P44) 

*うつ病の早期発見・早期治療が叫ばれる昨今、わが国でも年間800億円近い抗うつ薬の薬売り上げがあると言われる(全世界で、SSRIの売上げは年間2兆円近いといわれ、その70%弱が北米で消費され、残り20%が欧州、10%が日本を中心とするアジア各国)
(『前掲著』P390)

*依存性がなく過量服用しても安全な薬物として登場したSSRI も依存症や自殺関連行動の惹起が今改めて大きな議論の的となっている。(『前掲著』P391)

■日本におけるSSRI 服用が関係したとおもわれる犯罪

ハイジャック機長殺人事件(平成11年7月23日発生)
・事件の経緯
犯人は飛行機に興味があり、平成11年6月に、ネットで羽田空港のターミナルビルの図面を見て、構造上の欠陥を発見し、実名で空港警察や警備会社、航空会社に手紙やメールで、その欠陥及び対策の詳細な内容を示すとともに調査に要した費用の請求・警備員としての就職を希望している。ところが警備会社から警備員の増員は当面予定していないと言う通知を受けたため、警備上の欠陥をついてハイジャックを成功させることで自己の正当性を実証するとともに、自ら操縦士世間に誇示した上最後は自殺しようと言う計画を立て周到に準備を行っている。犯行は計画通りに7月23日に決行されたが機長の毅然とした対応のため操縦桿を奪うことはできなかった。不幸なことに機長は包丁で刺殺されたが、乗務員に取り押さえられ、副操縦士の操縦により無事羽田に着陸した。
3回目の精神鑑定で「抗うつ薬による治療途上に生じた、うつ状態と躁状態の混ざった混合状態であったと思われる」と鑑定され、犯行前の平成11年2月以降に服用していた抗うつ薬は我国では未承認のSNRIであるイフェクサー(ベンラファキシン)とSSRIであるルボックス(フルボキサミン)であった。上記の躁うつ混合状態は、これらの薬物の作用の個別的あるいは複合的作用によって生じた可能性が大きいと考えられるという鑑定であった。
加害者は、現在30半ばの男性で大学卒行後就職したが、仕事がうまくいかず自殺未遂の既往があり、未遂後に精神科を受診し統合失調症という診断をうけている。しかしその後別の精神科を受診しうつ病と診断され、投薬により2ヶ月で症状改善したため夏には治療を中断していた。翌年春には再就職がうまくいかず再びうつ状態となり、ここで初めてプロザック(プロッザックは我国では承認されていない薬物であるが、未承認の向精神薬処方を売り物にしているクリニックも存在する)が処方されている。 
 プロザックの服用後うつ状態と興奮状態が反復するようになり4ヵ月後に大量服薬による自殺未遂を行っている。自殺未遂後には異常な興奮状態が出現し、駅の改札口で切符を通さずに突破し、静止しようとした家族や駅員、通行人に罵声を浴びせたり殴りかかるなどして都内の病院に措置入院となっている。ここでは 再び統合失調症と診断されている。ところが1ヶ月ほどで退院した後、前に通っていたクリニックを受診し、うつ状態と診断され、まずパキシルが処方され、2ヵ月後には同じく我国で未承認の抗うつ薬であるイフェクサー(ベンラファキシン)が処方されている。ベンラファキシンはセロトニンの再取り込み阻害作用の強いSNRIである。その前後から再び奇妙な興奮状態が出現し、複数回の自殺未遂を起こしている。そのためにSSRIであるルボックスが処方された。ハイジャック事件はその翌月である平成11年7月に起こった。
 事件後「本件犯行により逮捕された当初はしばらくの間強気な言動が見られていたが逮捕後は抗うつ剤の摂取がなく、徐々に穏やかな人格にもどっていった。
(田島治『精神医療の静かな革命』勉誠出版 2006 PP182−187)
(田島治「SSRIの功罪―新規抗うつ薬の光と影―」『精神経誌』109巻4号 2007年PP381−387)

他方、精神医学のバイブルともいえるアメリカ精神医学会のDSM分類によって、医学的問題でないものまで、医学的な問題として無理やり精神の病気を見つけ出し、コードナンバーをつけ治療の対象とする。其の背景には、政治的妥協と保険請求の関連・製薬会社の薬販売のグローバル化などの指摘もある。
(ハーブ・カチン、スチュワート・カーク;高木俊介・松本千秋監『精神疾患は作られる』日本評論社 2002年)


■抗精神病薬の一般的な副作用
1)過剰鎮静(眠気・倦怠感)
2)血圧低下(起圧性低血圧)
3)錐体外路症状
 @アキネジア(無動症);動き・表情が乏しく元気がなくなる。
 A筋強剛・振戦(パーキンソン症状)、時に唾液分泌過多が併発する。
 Bアカシジア(静座不能症);体がむずむずし、落ち着かなく、一か所にじっとしておられない。患者自身も苦しく時には自殺企図が生じることもある。
 C急性ジストニア;抗精神薬投与初期に生じることが多く、頚部がねじまがったり舌が突出したり、眼球上転が起こる。患者は著しい不安が生じるが、抗コリン性抗パーキンソン薬投与で改善する。
 D遅発性ジストニア・遅発性ジスキネア;抗精神薬投与後数年から生じ始め、投与期間が長いほど発現リスクが高くなる。高齢者に抗精神薬を投与すると高率に出現する。遅発性ジストニアは比較的若い男性に出現することが多く、斜頚や体感のねじれなど多彩な持続性筋緊張異常が生じ、日常生活を大きく阻害する。
  遅発性ジスキネジアは口唇・下額・舌などのゆっくりとした不随意運動として出現することが多いが、上肢・下肢・体感などにも出現することがある。遅発性ジストニアとジスキネアは併発することもあり、嚥下や歩行・呼吸といった筋肉の共同運動が障害されることもある。
4)抗コリン性服作用;抗精神薬自体の副作用としても生じるが、併用して使用する抗コリン性抗パーキンソン薬の副作用が混在して生じることが多い。口渇・便秘・目のかすみ・尿閉・時には腸閉塞を引き起こし危険なこともある。このため大量の下剤を併用することにもつながる。中枢性抗コリン性服作用としては記銘力障害がよく知られており、このため患者は、物覚えが悪くなったと訴えることがある。
5)内分泌系副作用
 @月経不順・無月経・乳汁分泌
 A女性化乳房
6)代謝への副作用
 @体重増加(肥満)
 A高血糖・糖尿病の誘発・糖尿病性昏睡;新規抗精神病薬のオランザピンやクエチアピン(糖尿病患者には禁忌)などで特に問題になっている。これらの薬物は血糖を下げるホルモンであるインスリンの効果を弱める。血糖上昇に伴う口渇とこれに伴うソフトドリンクの多飲が組み合わされると危険で、急性糖尿病性昏睡を生じる。
 B高脂血症
5)悪性症候群微熱と軽い筋強剛・振戦・発刊などで始まるが、やがて著しい筋強剛・40C前後の高熱・混迷様精神症状・大量の発汗・水泡や褥創が生じ、放置すると呼吸障害・嚥下障害などのために死亡することもある。
6)その他の副作用
 @知覚変容体験;ハロペリドールやフルフェナジン服用中によく認められる。患者は「黒いものが気になる」「物の輪郭が際立って見えて苦しい」などの発作的な幻覚体験を訴える。幻聴も生じることがある。新規抗精神病薬では、知覚変容発作は少なくなった。
 A水分・嗜好品の過剰摂取;多飲水は低ナトリュウム血症から生じる水中毒発作が危険なだけでなく、水中毒発作に伴う痙攣がてんかんと誤診されたり、水中毒のコントロールのために保護室や個室隔離が頻用、長期化するなど多様で深刻な問題を引き起こす。コーヒーの飲みすぎや大量の喫煙は抗精神病薬治療中の患者にしばしば認められる行動であるが、その背景には、抗精神病薬による眠気や倦怠感、アカシジアなどに伴うイライラ感があり、患者はこれらの悪影響を一時的に逃れようとしている可能性がある。
(伊藤哲寛編著『精神医学』ミネルヴァ書房 2008 PP160-164より引用)

■参考図書

風祭元「日本近代向精神治療史」『臨床精神医学』第35巻第1号PP59〜65、第2号PP199〜205、第3号PP325〜330、第4号PP425〜431、第5号PP545〜549、第7号PP999〜1004、第8号PP1111〜1116、第10号PP1481〜1487、第11号PP1583〜1589,第12号PP1683〜1689、2006年 
 同第36巻第1号PP83〜88、第2号PP189〜193,2007年より抜粋作成
佐藤光源『統合失調症の治療―臨床と基礎』朝倉書店、2000年
大熊輝雄『現代臨床精神医学(第10版)』金原出版、2005年


*作成:仲 アサヨ
UP:20081011 REV:20081021
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