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名古屋地下鉄広告問題「赤ちゃんの指、5本ずつありますか?」


last update:20110420

■紹介


◆概要
 特定非営利活動法人名古屋NGO センター(以下、NGOセンター)および独立行政法人国際協力機構中部国際センター(以下、JICA中部)の共催により実施した「地域NGO の広報力を高める研修」において、研修プログラムの一環として作成し、2010 年10 月から11 月まで名古屋市営地下鉄鶴舞線に掲載した6 種類の広告のうち、劣化ウラン弾や放射能汚染の影響の深刻さを伝える目的で制作した広告のキャッチコピー(下記「広告コピー」参照)に対して、複数の団体および個人の方から抗議が行われる。

◆広告コピー
「赤ちゃんの指、5 本ずつありますか?」
 「出産時、日本では「先生、男の子ですか?女の子ですか?」と聞きますよね。地球上のいくつかの地域では、おかあさんはこう聞くのです。「指は揃っていますか?」。それらの地域の多くは放射能や化学兵器などで汚染された大地を持っています。傷ついた子どもたちやおかあさんを救うため、あなたにもできることがあります。」

◆抗議を行った団体・個人
・斎藤亮人 名古屋市議会議員 (往訪および来訪、文書受取)
・先天性四肢障害児父母の会 (来訪、文書受取)
・愛知県重度障害者団体連絡協議会 (文書受取)
・障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワーク・インクルネ ット愛知 (文書受取)
・個人名で4名(障がい者関係団体の方2名、国際協力NGO 関係の方1名 個人名のみの方1名) (いずれもメール)

◆抗議内容(報告書)
・「キャッチ・コピーの表現は、「奇形児は生まれて来ない方がよい」即ち、「障害がある子は生まれないで」という連想をさせ、障害者の感情を逆撫でするもの。このような表現が新聞記事や地下鉄広告になることは、不適切でかつ障害者に対する配慮を欠く行為だと考え、怒りを覚える。」
・「広告を見た人々が、障害者・児を「悪い結果」の象徴ととらえかねない。障害者・児への差別を助長する。障害者・児、ことに「奇形児」への恐怖、これから出産する女性の不安をあおるものであり、障害者・児およびその家族に対する連帯感が感じられない。」

◆全体の動き
20101001 名古屋市営地下鉄・鶴舞線の車内に広告掲載(11月末まで予定)
20101022 朝日新聞、愛知、岐阜、三重版、夕刊「NGO列車「発信」 車内広告作り、PR力学ぶ」記事
20101023 名古屋市栄で開催された「ワールドコラボ・フェスタ」にブース出展し、制作 された6種類の広告を掲示。来訪した市民の方に投票形式で評価してもらう
20101025- 斎藤亮人名古屋市議のほか、各団体、個人からの抗議、要望を受ける
20101026 抗議を受けて緊急協議(NGOセンターとJICA中部は、広告作成団体、研修コーディネーターを含めて協議)
20101027 朝日新聞朝刊(愛知、岐阜、三重版)に当該広告掲載中止の記事が掲載 20101027 広告取り外し、ホームページ上にお詫び文を掲載、
        検証委員会(NGOセンター理事長、理事、事務局長、JICA中部、次長、課長、調整員で構成)を設置
20101127 第1回検証委員会
20101204 第2回検証委員会(広告作成団体を訪問、当該団体役員および研修参加者へ聞き取り実施)
20101209 第3回検証委員会(広告作成団体を訪問、当該団体役員および研修参加者へ聞き取り実施)
20101217 第4回検証委員会
20101222 第5回検証委員会
20110109 抗議を行った団体・個人と話し合い 20110112 抗議を行った団体・個人と話し合い 20110120 抗議を行った団体・個人と話し合い 20110122 抗議を行った団体・個人と話し合い


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◆資料

NGO列車「発信」 車内広告作り、PR力学ぶ
(朝日新聞 2010年10月23日 愛知、岐阜、三重版 夕刊)
◇先天性四肢障害児父母の会 20101125 「朝日新聞の記事、写真に抗議」『父母の会通信』391
◇名古屋NGOセンター・中部国際センター 201101 『「地域NGOの広報力を高める研修2010」に関する広告検証委員会報告書』【PDF】

◆ホームページ

◇名古屋NGOセンター「地下鉄広告に関する「検証委員会」による検証結果の報告について」(http://www.nangoc.org/owabi.html)
◇JICA中部「地下鉄広告に関する「検証委員会」による検証結果の報告について」(http://www.jica.go.jp/chubu/topics/2010/110314_01.html)



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■引用


◆NGO列車「発信」 車内広告作り、PR力学ぶ
(朝日新聞 2010年10月23日 愛知、岐阜、三重版 夕刊)

 「戦争や貧困など、様々な分野で地道に活動しているのに、その姿がなかなか市民に伝わらない。非政府組織(NGO)のそんな悩みにこたえようと、名古屋NGOセンター(名古屋市中村区)などは今年、地下鉄の車内広告づくりを通じて、情報発信能力を磨いてもらう講座「NGOを広めるプロジェクト」を企画した。参加14団体が知恵を絞って六つの広告を制作。今月初めから、名古屋市営地下鉄・鶴舞線で「NGO列車」が走り始めている。
 幼い子どもの握り拳の写真。その横に「赤ちゃんの指、5本ずつありますか?」のキャッチコピー。
 制作したのは、イラク戦争で傷ついた子どもたちを支援する「セイブ・イラクチルドレン・名古屋」(名古屋市昭和区)と、1986年の旧ソ連での原発事故被害者を救援する「チェルノブイリ救援・中部」(同)。劣化ウラン弾と事故による放射能汚染で、いずれも子どもの先天性障害などが問題になっている。
 コピーの下には「出産時、地球上のいくつかの地域では、おかあさんはこう聞くのです」「傷ついた子どもたちを救うために、あなたにもできることがあります」と続く。
 講座は、東海地方のNGOの運営支援や人材育成に当たる同センターと、国際協力機構(JICA)中部国際センターが主催した。広告費は両者が負担し、参加は無料。14団体が6班に分かれ、6月から車内広告作りに取り組んだ。完成した広告は、今月1日から、鶴舞線で掲示している。1両に1枚ずつで、自動ドア横にある「小枠」スペースを利用している。
 NGOセンターの坂井敏子・事務局長代理は「東海地方では、意義のある活動をしているのに、魅力的に伝えることが苦手な団体が目立つ」と話す。広報態勢が整った東京のNGOに寄付や人材が流れる現象も起きており、「地元NGOの情報発信能力を高める必要がある」と考えた。
 講座では、プロの広報プランナーやデザイナーが「漫然と万人に訴えるのではなく、主張を伝えたい相手を絞り込むことが大切」などと、広告作りのコツを伝授した。「赤ちゃんの指」の広告に携わったイラクチルドレンの副代表の山縣忍さん(50)は「これからお母さんになる30歳前後の女性を主な読者と想定して、表現を考えた。関心を持った人が活動に参加してくれるといいけれど」と話す。
 インドやネパールの農村で貧困層の自立支援活動をしている岐阜県高山市のNGO「ソムニード」など3団体が制作した広告には、大学の帰り道に募金活動を見かけたのに、そのまま通り過ぎてしまった女子大学生が登場。「こんなんでいいのかな、私……」と自問し、「よし、あしたはきっと、何かやる。多分!」と結ぶ=写真下。ソムニードの広報担当、和田あすかさん(34)は「鶴舞線は沿線に大学が多いので、若者にターゲットを絞った。『上から目線』の表現は避けて、肩ひじ張らずに活動を参加できる雰囲気を出してみた」と話す。
 参加団体は名古屋NGOセンターのホームページ(http://www.nangoc.org/)で紹介している。広告は11月末まで掲示する。」(全文)



◆先天性四肢障害児父母の会 20101125 「朝日新聞の記事、写真に抗議」『父母の会通信』391
10月30日、朝日新聞名古屋本社あて「要望書」

 「私たちの会の目的は、障害のある者も、ありのままに受け入れる社会を築いていくことです。
 もともと障害児は一定の割合で生まれてくるのは自然なことであり、原因も殆どわかっていません。過日の記事の中では、子どもの手の写真と共に「5本指がありますか」とキャッチコピーが添えられ、指が欠損した子どもが生まれるのは「あってはならないこと」のように取り上げられています。障害者の人権が認められるようになってきたにも関わらず、障害者の存在を否定するような記事には怒りとともに悲しい思いさえ致しました。」

◆先天性四肢障害児父母の会の抗議行動の動き
20101001 名古屋市営地下鉄・鶴舞線の車内に広告掲載(11月末まで予定)
20101022 朝日新聞、愛知、岐阜、三重版、夕刊「NGO列車「発信」 車内広告作り、PR力学ぶ」記事
        先天性四肢障害児父母の会会員、朝日新聞に抗議、名古屋NGOセンターに取り外し要求
20101027 朝日新聞朝刊(愛知、岐阜、三重版)に当該広告掲載中止の記事が掲載
20101027 始発から広告取り外し
20101028 先天性四肢障害児父母の会会員、朝日新聞と話し合い
20101030 先天性四肢障害児父母の会、朝日新聞名古屋本社に要望書を提出
20101102 朝日新聞より先天性四肢障害児父母の会へお詫びの文書
20101106 先天性四肢障害児父母の会、名古屋NGOセンターと話し合い(第1回)
20110109 先天性四肢障害児父母の会、名古屋NGOセンター、中部国際センターとの話し合い(第2回)



◆名古屋NGOセンター・中部国際センター 201101 『「地域NGOの広報力を高める研修2010」に関する広告検証委員会報告書』【PDF】

 「この広告を制作したのは、劣化ウラン弾による残留放射能の影響を受けているイラクで医療支援に携わる団体と、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染地域で住民の保健・生活改善の活動に携わる団体です。二つの団体が日本の市民の関心を引きつける広告を制作した背景にあったのは、今現在、残留放射能の影響で多くの被害が出ている現状を早く何とかしたい、できるだけ多くの人々に現状を知ってもらいたいという焦りと、この現状の背後にある核開発や核兵器の問題に対して、私たち日本人にも責任があるという思いでした。
 制作団体の関係者は、活動地域の人為的な障がいを受けた人々と日常的に接し、障がい者の方々への強い共感をもって支援活動に取り組んできました。広告を制作する際にも言葉の使い方には気を使っていました。関係者の一人は、障がい児を持った知人に文案を見せて感想を聞くなど、表現に不適切な点はないかを慎重に検討しました。しかし、効果のある表現、インパクトのある表現を追求して言葉を研ぎ澄ます作業に没頭する中で「障がい者の方々への思いは頭から抜け落ちてしまった」と、聞き取りの中でこの関係者は述懐しました。
 実は今回の問題と同じ問題が20年前にも起きています。チェルノブイリ原発事故をきっかけに原子力発電に反対する活動に取り組んだ団体が、現地の状況を伝え、原子力発電の危険性を訴えるために、人為的障がいを前面に出した広報を行なったのです。これに対して、障がい者の方々から「障がいのある子は生まれない方がいいということか」との抗議の声が上がりました。このときの団体と、今回の広告制作に携わった団体とはつながりがあります。20年前の経験が団体内で十分継承されないまま、再び同じ事が繰り返されました。当時の経験が、当該団体のみならず国際協力に携わる団体の間で共有し、継承する取り組みが行われてこなかったことも、今回の事態を招いた要因です。」(p.8)




*作成:堀 智久
UP: 20110420  REV:
障害を巡る言説  ◇原子力発電(所)と障害(者)  
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