last update: 20160526
◆2003/05/29 <社説>国産ES細胞 臨床応用想定したルールを
毎日新聞ニュース速報
事故や病気で損傷した細胞や臓器を修復する再生医療が注目されている。その切り札
ともいわれるヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)が日本でも作成された。
今秋にも国内の研究機関に無償で提供されるという。使用は国の指針で基礎研究に限
定されているが、臨床応用に向けた研究が促進されるのは間違いない。
体を構成する体細胞は、分裂しても血液なら血液、筋肉なら筋肉にしかなれない。と
ころがES細胞は条件を整えるとどのような細胞にも変化できると考えられる。「万能
細胞」などと呼ばれるのはそのためだ。
ES細胞から神経や心臓などを作り出せば、脊髄(せきずい)損傷やパーキンソン病
、心臓病などの患者に移植できるのではないか。そんな期待が患者にも研究者にもある
。
その一方で、ヒトES細胞の扱いには慎重さが求められてきた。ES細胞のもとにな
るのは受精卵だ。そのまま育てば一人の人間になる。それを壊して作るのだから、倫理
的に重い問題を含んでいることを忘れてはならない。
今回、ヒトES細胞を作成した京都大のグループは、国の指針に従って倫理的配慮を
してきた。できた細胞を使う研究者も、由来を忘れず慎重に利用してほしい。
日本ではすでに6グループが、米国やオーストラリアからの輸入ヒトES細胞を使っ
た研究を認められている。しかし、これらの細胞には知的財産権や研究成果の扱いなど
について、細胞提供機関による制約付きのものがある。
国産細胞ができたことで、こうした制約への心配はなくなった。一方で、国産細胞を
使って生み出される知的財産権についてはルールが決まっていない。海外に細胞を分配
する場合も含め、検討しておかなくてはならない。
さらに気にかかるのは、臨床応用に向けてまだいくつもハードルがあることだ。ES
細胞を思い通りに制御してねらった細胞や臓器だけを作る研究は発展途上だ。制御がう
まくいかないと、がんができてしまう恐れがある。
ES細胞ほどの万能性はないが、決まった細胞などに変化する体性幹細胞の研究も進
んでいる。再生医療にとってどちらが最適か、常に念頭におく必要がある。
ES細胞を使った再生医療では拒絶反応が問題になる恐れもある。その場合には、患
者自身の細胞を使ったヒトクローン胚作りの是非が問題になる。ヒトクローン胚はクロ
ーン人間作りにつながることなどから日本では禁止されている。それが、認められる場
合があるかどうか、議論には時間がかかるはずだ。
倫理問題をはらみ、評価も定まらないヒトES細胞は、当面、基礎研究に限定するの
が妥当だ。だが、うまくいけば研究の先には臨床応用がある。
その時に、患者や国民に受け入れられなかったり、技術を悪用するケースがあっては
、基礎研究の意味がなくなる。将来の実用化に伴う問題点を今から考え、ルール作りを
進めることが大切だ。」[2003-05-29-00:56](全文引用)
REV: 20160526