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ケア/国境 関連新聞記事2007(読売新聞より)






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2007年3月29日(東京朝刊13面)「東アジアフォーラム・インタビュー フィデル・ラモス元フィリピン大統領」

 ◎「21世紀地域秩序の創造」 
 ◆日中韓緊密に協力を 
 今年1月、フィリピン中部セブで首脳会議を開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)は、「連合」として、より高度な段階に達し、さらに緊密化した。加盟10か国が対テロ協定を締結し、最高規範となるASEAN憲章制定でも一致している。
 憲章は11月までに、10か国政府高官の作業部会が起草する。元大統領らで構成する賢人会議がまとめた指針案では、投票制度を一部導入することで一致した。ASEANが法的根拠を持ち、国際地域機関として認識されるためにも必要だ。
 今年、創立40周年を迎えるASEANは、共通の利益を分かち合ってきた。ASEAN地域フォーラム(ARF)では、域外の大国が政治・安全保障問題を 持ち込む。域外問題であってもASEAN加盟国に影響を及ぼすわけで、その議論は有益だ。ASEAN共同体の将来は実りあるものになるだろう。共同体は経 済、安全保障、社会・文化の3分野で形成されるが、経済統合が急務だ。
 東アジア共同体の未来はどうか。それは日中韓にかかっている。3か国はもっと調和を図り、歴史的な意見の相違を調整すべきだ。3か国及び外部にいる我々 のためでもある。中国の胡錦濤・国家主席が「ボアオ・アジア・フォーラム」(中国・海南島)で述べた「アジアの人々は、緊密な協力を通じたウィンウィン (ともに栄える)の筋書きを強く望んでいる」という言葉を引用したい。
 東アジア共同体がどこまでを包含するかはわからない。ASEANが発足時の5か国から現在の10か国に増えたように、我々は門戸を開いている。現に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)という枠組みもある。
 ASEANは、国防、エネルギー、環境など、多岐にわたる閣僚級会議を設けるまでになったが、歴史問題を一時保留してきたことの重要性を訴えたい。
 例えば、フィリピンはサバ州(ボルネオ島北部)の領有権問題をマレーシアとの間で棚上げしている。南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島を巡っては、 ASEAN・中国間で「南シナ海行動宣言」に署名している。私の大統領在任中、同諸島に関する行動基準で、中国、ベトナムとそれぞれ合意したのが始まり で、ASEAN全域に広がった。歴史問題を忘れるのではない。保留しておくだけだ。
 また、ASEAN+日中韓に巨大なインドを加えたASEAN+4を提唱したい。ASEANはインドのハイテク技術を必要とし、インドは域内人口が5億を 超えるASEAN市場を欲している。インドの人口構成は若く、人材の宝庫でもある。ASEANを巡る多くの枠組みが現存するが、グローバル化された世界経 済において、つながりはさらに拡大できるはずだ。(聞き手=マニラ・遠藤富美子、写真も)
           ◇
 〈略歴〉1928年生まれ。副参謀総長だった86年、マルコス独裁政権に反旗を翻し、「民衆革命」の立役者の一人に。92〜98年の大統領在任中、経済再建と治安回復に尽力した。
  
写真=フィデル・ラモス元フィリピン大統領



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2007月4月12日(中部朝刊25面)「[わが街企業ファイル]恵那眼鏡工業 弟の学資を援助、就労意欲に感心=岐阜」

 ◎春・入社特別編
 ◇中津川市苗木  
 丹羽宏造社長(71)=写真=は、今年採用した従業員で、フィリピン出身女性の就労意欲に感心する。
 彼女はフィリピンの小さな島の出身。ゴムの栽培と魚の養殖で生計を立てていたが、父親がギャンブルで借金をしたため、ゴム園など、すべての財産を手放したという。
 彼女は「姉が働きながら学資を出してくれたおかげで中学校を卒業できた。これからは、私が弟の学資を援助するために一生懸命働く」と、丹羽社長に話したという。
 丹羽社長は「昔は日本でも、こうした美しい話がたくさんあった。家族を思いやる従業員がいる職場を、社長として大切にしたい」という。(藤井守人)



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2007年4月11日(東京夕刊4面)「[最前線]介護人材(下)注目の戦力、在日フィリピン人(連載)」


 ◆思いやりの心、言葉の壁越え 
 人手不足に悩む介護現場で、職員として働く在日のフィリピン出身者が増えつつある。昨年9月、フィリピンから介護人材を受け入れる協定が日比両国間で締結されており、その先駆け的な存在として注目される。(林真奈美、写真も)
 「明かりをつけましょ、ぼんぼりに――」。お年寄りの手を取り、ひと月遅れの「ひな祭り」を一緒に歌うのは、在日フィリピン人のグロリア・ディアスさん (40)。2月から、愛知県稲沢市の特別養護老人ホーム「第二大和の里」(定員100人)で正職員として働く。「フィリピンでは大家族が当たり前だから、 ここは自分の家みたい」と、笑顔を見せる。
 母国では学校教員だった。12年前に来日。日本人と結婚し、出産、離婚を経験した。定住資格を持ち、スナックに勤めたが、「昼の仕事で、日本人と同じように働きたい」と、日本のヘルパー2級を取得した。
 日本語の会話は流暢(りゅうちょう)だが、漢字は苦手。介護記録は日本人職員が代筆する。
 ◆役割分担 
 「第二大和の里」では、1年半前からフィリピン出身者が働く。今は正職員2人と派遣1人が在籍。介護職不足のなか、「フィリピン人はお年寄りを大事にする。日本語さえ通じれば戦力になると考えた」と、佐藤和夫理事長は説明する。
 意思疎通や介護技術に不安もあったが、問題はなく、むしろ、丁寧な介助が入居者に喜ばれた。「車いすからの移乗介助の際、さりげなくお尻に触れてオムツ の状態を確認する。そんな思いやりの手が自然に出る」と、竹中麻香・副施設長。書面で引き継ぎが必要な夜勤は任せられないなど、課題はある。「日本人職員 との適切な役割分担が重要」(竹中副施設長)だ。
 ◆養成校も 
 2年ほど前から、在日のフィリピン出身者向けヘルパー養成校が登場。すでに700人程度がヘルパー2級を取得したとみられる。
 在日外国人向け通信事業を展開するアイ・ピー・エス(東京・中央区)も、一昨年秋にフィリピン出身者向けの養成校を開設。これまでに約350人が修了した。修了者を介護施設に派遣する事業も行っている。
 横浜校で受講する田辺ケイさん(32)は、日本人と結婚している。食品工場に勤めたが、キャリアの向上は望めなかった。「介護の仕事なら、経験によって レベルアップでき、誇りが持てる」と言う。講義では電子辞書を駆使し、英語と日本語でノートをつける。施設に就職するため、漢字の習得にも力を入れる。
 アイ・ピー・エスの担当者は、「派遣先からの評価は高く、修了者では足りないくらい要請がある。時給も平均より高め」と話す。また、懸念された利用者や家族からの苦情もないという。
 一方、外国からの介護人材受け入れを巡っては、「文化や生活様式が違う外国人に、高齢者の介護は無理」「外国人が低賃金で働けば、介護従事者の労働条件 が悪化する」などの声も聞かれる。日本介護福祉士会は、「現在の介護従事者の労働条件改善が先決」という内容の見解を示している。
 在日フィリピン人介護士協会の篠沢ハーミ会長は、「パイオニアである会員たちの評価が低ければ、外国人介護士の受け入れに影響を与える。その自覚を持って頑張りたい」と話している。
 ◆政府案2年で600人、対象者は限定的に
 政府は、昨年9月に締結した協定の発効後、2年間でフィリピンから600人の介護人材を受け入れる計画だ。「実務経験コース」は、フィリピンの看護大学 卒業者らが対象。日本の介護施設で働きながら研修し、4年以内に国家試験を受験して介護福祉士の資格を得る。「養成校コース」は、同国の4年制大学卒業者 が対象。日本の養成校を卒業して資格を取得する。
 ただ、「相当の日本語能力が必要で、対象者は極めて限定される」との見方が、介護業界では一般的だ。
 
 写真=介護職員として働くグロリア・ディアスさん。「大家族で育ったから、お年寄りが大好き。この仕事は楽しい」(愛知県稲沢市の特別養護老人ホーム「第二大和の里」で)
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2007年4月11日(西部朝刊32面)「外国人労働者1267人、過去最多 雇用事業所数も 長崎労働局統計=長崎」

 ◆昨年6月現在
 長崎労働局のまとめによると、2006年6月1日現在の外国人労働者数は1267人で、統計を取り始めた93年以降で最多となった。
 県内の約1300事業所を対象に調査。うち外国人労働者を雇用する事業所は214事業所で過去最多だった。直接雇用は1175人、派遣を受けるなどの間接雇用は92人。直接雇用をしているのは、前年より19事業所多い209事業所だった。
 業種別では事業所数、人数ともに製造業が最多(103事業所、706人)。うち「衣服・その他の繊維製品製造業」が58事業所、383人で、それぞれ製造業全体の約55%を占めた。
 直接雇用の出身地域は東アジア(中国、韓国)が最多の959人で全体の約8割を占める。次いで東南アジア(フィリピン、タイなど)の86人、北米(米国、カナダ)の46人、ヨーロッパ(イギリス、フランスなど)の32人の順。
 直接雇用されている外国人の在留資格は技能実習生が565人で最も多く、留学・就学(アルバイト)は340人だった。



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2007年.4月20日(東京朝刊3面)「[社説]ASEAN40年 日本も「改革」を後押ししたい」

 東アジアで進む経済連携にさらに弾みがつくことになる。
 自由貿易協定(FTA)を軸とする経済連携協定(EPA)締結を目指す日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の政府間交渉が大枠で合意した。年内に正式に協定を結ぶ見通しだ。
 中国、韓国は、関税撤廃を中心とする貿易自由化協定をASEANと締結済みで、日本は両国に後れを取った形だ。だが、東南アジアでの投資、貿易分野での日本の存在感は依然、群を抜く。
 サービスや投資の自由化まで含むEPAが発効すれば、日本企業の利益拡大だけでなく、国際分業の進展を通じ、域内経済の統合につながる。
 ASEANを扇の要にFTA網を日中韓やインド、豪州にまで広げていく――東アジアの貿易自由化は、そんなイメージで進もうとしている。ASEAN加盟国と個別に行っている二国間交渉と合わせ、円滑な進展を心がけてほしい。
 「要」の重責を担うASEANの動向にも、一層の関心を払うべきだろう。
 今年8月に、ASEANは創設40周年を迎える。年初の首脳会議では、2020年としてきた「共同体」構築の目標年限を、5年前倒しして2015年とすることを決めた。
 域内の最高規範となる「憲章」の年内制定でも合意した。加盟国の元首脳らで作る賢人会議が策定した「指針」によれば、ASEANがこれまで2大原則としてきた「内政不干渉」「全会一致」の見直しにも踏み込んでいる。
 賢人会議の中心メンバー、ラモス元フィリピン大統領は、先ごろ福岡の国際会議に出席した際も、憲章制定の意義を強く訴えた。
 ミャンマー問題で露呈した当事者能力の欠如を補って求心力を高め、国際的な信頼を得るのが狙いだ。
 ところが、憲章の草案作りが進むにつれ、制裁規定の削除を求める動きが強まるなど、不透明感も出てきた。
 「深刻な憲章違反を犯した国に対し権利停止や除名などの制裁措置をとれる」との規定が骨抜きになれば、憲章の実効性は大きく揺らぐ。
 政治体制や発展段階の異なる多様な国々をまとめて改革を進めるには、強力なリーダーシップが不可欠である。
 ASEANをリードしたラモス氏やマハティール前マレーシア首相のような個性派リーダーは不在のままだ。クーデターの起きたタイを筆頭に、多くのASEAN首脳が内政処理に追われている。
 日本はEPAの早期締結をテコに安定回復と改革を後押しする必要がある。
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2007年4月25日(西部朝刊36面)「フィリピンから「農業研修生」来県 県庁で受け入れ式=鹿児島」

 県国際農友会(宮迫泰倫会長)が受け入れる今年度の「海外農業研修生」として、2人のフィリピン人研修生が来県した。ベンジャミン・マプティさん (25)とガリー・マルシャン・ヘルナンデスさん(21)。2人は来年2月18日まで、錦江町と湧水町の受け入れ農家で、農業技術や経営を学ぶ。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)などから研修生を受け入れ、母国で農業のリーダーとなる人材を育成する事業。県では1991年度から始まり、フィリピンからは初めて。
 県庁で20日行われた受け入れ式で、2人は「最先端の経営技術を学び、それを母国に持ち帰り、フィリピンの若い農業青年をトレーニングしたい」などと目を輝かせていた。
 受け入れ先の西迫孝志さん(湧水町田尾原)と寺田郁哉さん(錦江町馬場)は、2人と同様にアメリカで農業研修をした経験がある。寺田さんは「あなたたちを家族として受け入れます。私たちの農家で学びながら、地域の人たちとも触れ合ってほしい」と語った。
 
 写真=受け入れ先農家と結束を誓うヘルナンデスさん(左から2人目)とマプティさん(同3人目)
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2007年4月27日(東京夕刊27面)「東京の特養、比女性を不正雇用 日本人装い欠員穴埋め 介護報酬を過大請求」

 東京都文京区が開設している特別養護老人ホーム「くすのきの郷(さと)」(文京区大塚)が、観光ビザで来日したフィリピン人女性を働かせて、介護保険法 の基準を満たしているように装い、介護報酬を過大請求していたことが27日わかった。同施設は社会福祉法人「同胞互助会」(昭島市)が指定管理者として運 営し、調布市内のNPO法人からフィリピン人の派遣を受けていたという。同胞互助会は、NPO法人に対しフィリピン人の稼働時間に応じた金額を「賛助会 費」として支払っていた。
 文京区は26日、過大請求の経緯を都福祉保健局に報告。都は介護保険法に基づいて同施設へ立ち入り検査することを検討している。
 同区高齢者福祉課によると、同施設では夜間は5人が勤務しなければならない。2002年4月ごろから実際には人数が足りていないのに、人数を満たしてい るように都や区に届け出、欠員分はフィリピン人女性が埋めていたが、書類上は日本人が働いているように装っていた。フィリピン人女性の勤務は今年2月末ま で続き、5年間で約100人に上るという。
 介護保険法では、特別養護老人ホームで、人員が基準に達していない場合は介護報酬を3%減額されるが、同胞互助会では、正規の介護報酬を請求していた。
 フィリピン人女性はいずれも観光ビザで来日しているため就労資格がなく、同胞互助会との雇用契約も結んでいなかったという。同胞互助会では「ボランティ ア活動だった」としているが、介護報酬などからフィリピン人の賃金に相当する額をNPO法人側に支払っていたことを認めている。
 不正は今年2月、施設の管理者が区に申し出て判明したといい、管理者は「人員確保が難しく、名義を偽ってフィリピン人を使っていた」などと釈明したとい う。区では「申し出があるまで気づかなかった」としている。同胞互助会は「事実関係を調査中」、NPO法人は「ボランティアなので問題はない」と話してい る。
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2007年5月2日(東京朝刊11頁)「特養で比女性ヤミ雇用 介護現場に切実な人手不足 門戸拡大の議論を(解説)」


 ◆門戸拡大、早急に議論を
 東京都文京区立の特別養護老人ホームで、観光ビザで来日したフィリピン人女性をヘルパーとして働かせて介護保険法の人員基準を満たしているように装っていたことが発覚した。背景には、介護現場の切実な人手不足がある。(社会部・大沢帝治)
 特別養護老人ホーム「くすのきの郷(さと)」で、不正が明るみに出たのは今年2月。指定管理者として運営していた社会福祉法人「同胞互助会」(昭島市)の施設長が「これ以上、良心の呵責(かしゃく)に耐えられない」と区などに電話で伝えたのが発端だった。
 同胞互助会などによると、不正受給は2002年4月ごろから今年2月まで行われていた。同施設は定員100人で、介護保険法で定められた夜勤の職員は5 人。人員基準を満たせない状態は以前から続いてきたが、都に早期の改善を求められ、調布市のNPO法人からボランティア名目で派遣を受けていたフィリピン 人女性を夜勤の人数に繰り入れるようになったという。
 フィリピン人女性は食事や排せつの世話にもあたっていたが、施設では日本人が勤務したように装って、区に満額の介護報酬を請求していた。不正に受け取っ た介護報酬は施設側の推計で計4000万円。同胞互助会からは1人あたり月額平均18万9000円が「賛助会費」としてNPO法人に支払われ、NPO法人 は立て替えた渡航費やアパートの家賃などを除いて、女性に6万7000円を手渡していた。
 NPOの代表者は、女性たちが帰国後、日本での実習体験を紹介したり、日本から介護が必要な旅行者が訪れた時に迎え入れる活動に携わったりしているとし て、「施設側はヘルパー不足を補えるし、フィリピン人女性は技術を身に着けられる。外国人を介護現場に受け入れるモデルケースだ」と主張する。
 同胞互助会の理事も「『お金を出せば人は集まる』と言われるが、簡単にはいかない。フィリピンの人たちは優しいし技術もあるので、評判が良かった」と話 す。目的は人手の確保であって、不正請求のためではないという理屈だが、就労に限りなく近い実態をボランティアとしたり、日本人の名前で届け出たりしたこ とは言い逃れできない。
 しかし、介護現場の人手不足が深刻なのは事実だ。厚生労働省の統計では、昨年の全職業の有効求人倍率は1・02だが、介護関連職種は1・68。入浴介助 などは体力的な負担が重く、精神的な緊張も強いられるのに、高収入とは言えず、休みもとりづらい。このため1年以内の離職率も20・2%と全労働者の平均 よりも3ポイント近く高い。
 国の社会保障審議会での試算では、介護が必要な人の数は2014年には少なく見積もっても、04年の約1・5倍の600万人に達する。これに伴い、介護職員も最低でもあと40万人近く増やさなければならず、単純な介護報酬の引き上げは、国民負担の大幅な増加を招く。
 そこで現実的な選択肢となるのは、フィリピンなどからの外国人労働者の受け入れだ。政府は昨年9月、フィリピンとの経済連携協定(EPA)に署名、当初 の2年間で介護職員を最大600人受け入れることで合意した。フィリピン側の批准の遅れでまだ発効していないが、介護施設などに就労し、4年以内に介護福 祉士の試験に合格すれば、希望する限り、日本で働き続けられる仕組みだ。
 ただ、国の方針は、高度で専門的な知識を持つ外国人だけを受け入れるのが原則。言葉の壁に加えて、対象はフィリピンでも介護士資格を持つ人などでハード ルは高い。厚労省福祉基盤課は、「外国人労働者の受け入れ全般に影響を及ぼすため、介護分野だけ条件を緩和するわけにはいかない」と説明するが、"戦力" にするためには、門戸を広げる工夫も必要だろう。
 介護の担い手確保には、待遇改善と人材の供給源確保が不可欠だ。ただし、どちらにしても、国民負担の増加や外国人労働者受け入れなどの難題が立ちはだかる。
 「くすのきの郷」のように、フィリピン人をヤミ雇用して人手不足をしのごうとする施設を根絶するためにも、早急な議論と方向付けが求められる。



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2007年5月5日(東京朝刊二面)「日・ASEAN EPA来年発効へ」

【バンダルスリブガワン=菊池隆】日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は4日、ブルネイの首都バンダルスリブガワンで経済閣僚会議を開き、自由貿易協 定(FTA)を柱とした経済連携協定(EPA)の締結で基本合意した。8月にフィリピンで開く次回閣僚会議までに、全交渉分野で最終合意を図ることで一致 した。11月にシンガポールで開く日・ASEAN首脳会議での署名と来年の発効を目指す。
 基本合意では、日本はASEANからの輸入額の92%について、協定発効後10年以内に関税を撤廃する。残る7%分は関税率を5〜50%にまで引き下げ、コメなど1%分は自由化対象から除外する。
 一方、ASEAN主要6か国は、日本からの輸入額の90%について、10年以内に関税を撤廃する。発展が遅れているカンボジア、ラオス、ミャンマーは15年、ベトナムについて10〜15年の猶予期間を持たせる。
 また、日本とASEAN全体を単一の生産基地と見なす「原産地規則」でも合意した。日本から輸出した部品などがASEAN域内で加工されてさらに域内に 再輸出される際に、「ASEAN自由貿易地域(AFTA)」内の特恵関税率(0〜5%)の対象になり、日本企業の関税負担が大幅に減る利点がある。
 今後、物品貿易について具体的な自由化リストづくりを急ぐほか、サービス・投資の自由化ルール策定など積み残しの課題についての交渉を加速する。〈関連記事9面〉
  
 ◇日本とASEANのEPA交渉の合意のポイント
▽日本は輸入金額で92%の商品の関税を、協定発効後10年以内に撤廃
▽ASEAN主要6か国は、日本からの輸入額の90%について発効後10年以内に関税を撤廃
▽日本から輸出する部品などをASEAN域内に再輸出する際に、ASEAN域内の特恵関税を適用
   
 〈EPA〉
 特定の国や地域が経済関係の強化を目的に結ぶ取り決め。関税の撤廃や規制緩和で貿易自由化を図る自由貿易協定(FTA)を柱に、投資の自由化や知的財産 権保護での協力なども含んだ広範な内容となるケースが多い。日本は、シンガポール、メキシコなど6か国と締結済み。ブルネイ、インドネシアと合意してい る。



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2007年5月11日(西部朝刊二熊本)「海外畜産技術者が研修 「受精卵移植」習得のため 玉名で=熊本」


 玉名市横島町、独立行政法人・家畜改良センター熊本牧場で、海外の畜産技術者の研修が行われた。
 畜産技術者はエジプト、フィリピン、トルコ、ベトナムなど8か国の8人。国際協力機構(JICA)の招きで来日し、福島県西郷村の同センター本所を拠点に、5月末まで肉質の良い牛をつくるための受精卵移植技術を習得する。
 熊本牧場では、専用の装置で受精卵を2分割し、雄の双子を生産する技術を学び、あか牛の品種改良や飼料用イネの増殖などに取り組んでいる同牧場の業務について担当者から説明を受けた。
 
 写真=熊本牧場の業務について説明を受ける研修生ら(右)



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2007年6月8日(東京朝刊都民)「文京区「利用者困らぬように」 都の処分後、4特養の事業譲渡検討=東京」

 文京区立の特別養護老人ホーム「くすのきの郷」の介護報酬の不正請求問題で、都が今月中にも、同区に対して介護事業設置者の指定を取り消す処分を行う見 通しになった。くすのきの郷だけでなく、他の三つの区営ホームの経営もできなくなる。「区立」の看板が消えてしまうことに、関係者には動揺が広がった。
 同ホームでは、指定管理者となって運営に携わった社会福祉法人が、フィリピン人の女性らを正規職員であるかのように装い、介護報酬約4000万円を不正 受給したことが明らかになっている。八木茂・区高齢者福祉課長は「監督責任は重く受け止めている」と沈痛な面もちで語り、「いかなる処分が出ても、利用者 が困ることがないようにしていかなければならない」と話した。
 区は取り消しに備え、4施設を民間を含め他の法人に事業譲渡することを検討している。介護保険法では処分の後、5年間は指定の更新が認められない。区は都の正式な処分を待って、具体的に動き出す方針という。
 一方、くすのきの郷の柏木洋子施設長は「都からは、何の知らせもないので、職員や入所者になんと説明したらよいのか分からない」と困惑気味。「他の施設にも迷惑をかけることになり、申し訳ない」と力なく話した。
 "連座"する形で区営ではなくなる特養ホームでは、施設長の一人が「一生懸命やってきただけに残念だ。くすのきの郷がなぜ法を犯したのか分からない。ただ、利用者の生活は続くので、『しっかりやろう』と職員には呼びかけている」と悔しさをにじませた。



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2007年6月7日(東京夕刊)「比女性不正雇用、文京区を処分へ 事業指定取り消し 都が4特養の譲渡指導」

 ◆介護不正
 東京都文京区立の特別養護老人ホーム「くすのきの郷(さと)」が観光ビザで来日したフィリピン人女性を働かせ、介護保険法の人員基準を満たしているように見せかけていた問題で、都は今月中にも、同区に対して介護事業所の指定取り消し処分を下すことを決めた。
 欠員による介護報酬の減額を免れ、計約4000万円を不正請求したなどと認定した。特養ホームが介護事業所の指定取り消し処分を受けるのは全国初で、自治体が処分対象となるのも極めて異例。
 同施設は社会福祉法人「同胞互助会」(昭島市)が、区の委託を受けた指定管理者として運営していたが、介護保険法では開設者の区が処分対象となる。処分 を受けると、区は同施設を含め計4か所の特養ホームの運営ができなくなるため、都は、別の社会福祉法人へ事業譲渡するよう指導する。
 調べによると、同施設は2002年4月〜今年2月、調布市のNPO法人から派遣されたフィリピン人女性を夜勤に就け、介護報酬を不正請求。都の調査には、フィリピン人女性を架空の日本人名に書き換えた書類を作成し、虚偽の報告をした。



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2007年6月19日(東京朝刊A経)「日本とブルネイ、EPAに署名 年内に発効へ」

 安倍首相と来日中のブルネイのボルキア国王は18日、両国間の経済連携協定(EPA)に署名した。国会承認を経て年内に発効する見通しだ。
 日本側は発効後、アスパラガス、マンゴーなどを輸入する際の関税を即時撤廃するほか、ブルネイ側も自動車の関税(現行20%)を3年以内に撤廃する。エ ネルギー分野などでも関係を強化する。日本のEPA署名はシンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイに続き7か国目となる。



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2007年6月19日(東京朝刊)「特養の比女性不正雇用 文京区の介護指定、東京都が取り消し決定」

 東京都文京区立特別養護老人ホーム「くすのきの郷(さと)」が観光ビザのフィリピン人女性を働かせ、介護保険法の人員基準を満たしているよう偽っていた 問題で、都は18日、介護事業所の指定を取り消すことを決め、同区に通知した。自治体が同法に基づき処分を受けるのは異例。実際の処分は今年11月末で、 今後、同区は施設の引き受け先を探す。
 また都は、同区の委託を受けて施設を運営していた社会福祉法人「同胞互助会」(昭島市)に対しても、理事長らの懲戒処分などを求める措置命令を出した。



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2007年7月1日(大阪朝刊市内)「明るい笑顔を介護現場に 在日フィリピン人対象、ヘルパー養成講座開く=大阪」

 介護現場の人手不足が深刻化するなかで、在日フィリピン人を対象にした訪問介護員(ヘルパー)養成講座「大阪ケアギバーアカデミー」が30日、大阪市西 区で始まった。「明るく朗らかな国民性が介護スタッフに最適」と、同市西区の人材派遣会社「キャリーアップ」が関西で初めて講座を設けた。修了者には就職 先も紹介するという。
 厚生労働省や同社によると、1991〜2005年度のヘルパー1〜3級養成研修の修了者は延べ約300万人に上るが、就業しているのは約40万人(05 年10月調べ)に過ぎない。仕事がきつく、賃金水準も高くないためとされ、スタッフ不足でサービス低下が懸念される介護施設もある。
 一方で、近畿の在日フィリピン人は約1万5000人とされるが、言葉や文化の違いで就職できないケースも多い。同社は「フィリピンでは、介護は尊い仕事とされ、人気がある。ヘルパーとして働きたい人は多いはず」とみて企画した。
 講義は、実習を含め計132時間で、受講料は9万円。修了すればヘルパー2級の資格を得られる。
 1期生は14人。日本人と結婚し、4年前に来日した豊中市の田坂マリベルさん(35)は「幼いころ、看護師になりたかった。漢字が難しいけど、頑張りた い」。10年前に来日した神戸市中央区の岩佐カテリーヌさん(29)は「将来、家族の面倒をみるためにも、ガッツで乗り切りたい」と意気込んでいた。
  
 写真=講師の話を熱心に聞く女性たち(大阪市西区で)



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2007年7月26日(東京夕刊安心C)「[ぬくもり]外国人ヘルパーさん奮闘中」

◇あんしん 社会保障
 「ありがとうと言われることが、こんなにうれしいなんて」
 福岡市西区にある認知症高齢者グループホームで、左京マルガリータさん(41)の大きな瞳が輝いた。フィリピンから来日して16年。2人の子どもがいる元ダンサーは昨年、外国人向けホームヘルパー養成講座に3か月通って資格を取った。
 マルガリータさんが資格を取った養成講座を開いているのは、福岡県小郡市の元銀行員、中村政弘さん(66)。アジアからの看護研修生受け入れに奔走していた亡き長男謙一郎さんの志を生かそうと、昨年3月に開講した。
 ホームヘルパーの講座を持つ福岡YMCA学園などの協力を得て、講義と実習のほか日本語の授業も実施。これまで4人がヘルパーとして巣立った。今もアジアや中南米出身の女性15人が、ダンサーなどとして明け方まで働いた後、授業に臨んでいる。
 「人の役に立つ仕事をしたいと、みんな口をそろえます。優しい心を持った彼女たちに活躍してほしい」と、女性たちに父親のようなまなざしを向ける中村さん。「お年寄りたちは自分の両親と同世代。いろいろ教えてくれて勉強になる」と話すマルガリータさん。
 介護の現場で外国の人たちが働き始め、一方にそれを支える人がいる。(写真と文・貞末ヒトミ)
 
 写真=「声に出して読んでみよう」。日本語の授業をする中村さん(右)
 写真=介護の引き継ぎにはリポートが欠かせない。「漢字は難しいね」と、生徒たちは何度も書いて勉強する
 写真=歌も踊りも上手なマルガリータさん(右)はお年寄りの人気者



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2007年8月2日(東京朝刊朝特A)「シンポジウム「新時代における日本とASEANの挑戦」=特集」

 ◆日本の指導力高まる期待 
 今月で発足40年となる東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の協力について話し合うシンポジウム「第6回日・ASEAN対話―新時代における日本と ASEANの挑戦」(グローバル・フォーラムなど主催、読売新聞社協力)が7月19日、東京で開かれた。参加者は、ASEANの統合や環境、安保問題など を巡り活発な討論を行った。内容を詳報する。(敬称略)
 
 《シンポジウム参加者》
 ■セッション1
 ◇共同議長
 西原正(平和・安全保障研究所理事長)
 クララ・ユウォノ(インドネシア・戦略国際問題研究所副所長)
 ◇基調報告
 ソエン・ラッチャビー(ASEAN事務局次長)
 木下俊彦(早稲田大学客員教授)
 ◇コメント
 チャイワット・カムチュー(タイ・安全保障問題研究所評議委員)
 赤尾信敏(日本アセアンセンター事務総長)
 ノエル・モラダ(フィリピン・戦略開発問題研究所所長)
 ■セッション2
 ◇共同議長
 村上正泰(グローバル・フォーラム常任世話人代行世話人)
 マライビエン・サコンニンホム(ラオス・国際問題研究所部長代理)
 ◇基調報告
 大木浩(全国地球温暖化防止活動推進センター代表)
 サイモン・テイ(シンガポール国際問題研究所会長)
 ◇コメント
 米本昌平(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
 チャップ・ソサリット(カンボジア平和協力研究所所長)
 河野博子(読売新聞編集委員)
 ■セッション3
 ◇共同議長
 天児慧(早稲田大学教授)
 キー・ミント(ミャンマー戦略国際問題研究所代表)
 ◇基調報告
 リザル・スクマ(インドネシア・戦略国際問題研究所副所長)
 伊藤憲一(グローバル・フォーラム執行世話人)
 ◇コメント
 ゴー・ズイ・ゴー(ベトナム・国際関係研究所副所長)
 福島安紀子(国際交流基金特別研究員)
 テオ・シュウ・イェン(ブルネイ政策戦略研究所代表)
 相川一俊(外務省アジア大洋州局地域政策課長)
 ■総括
 進藤栄一(筑波大学名誉教授)
 モハメド・ジャワール・ハッサン(マレーシア戦略国際問題研究所会長兼CEO)
 
 ■セッション1(ASEAN共同体)
 ◇基調報告 
 ◆2015年の共同体構想 安保や経済で効果
 ソエン・ラッチャビー 2015年を目標にしている「ASEAN共同体」の構築はなぜ必要なのか。
 理由の一つは、安全保障面での協力だ。ASEANがなければ、各加盟国は大国とそれぞれ同盟関係を結ばざるをえない。経済規模のメリットも大きい。経済 規模の小さい、発展途上国が緊密に経済統合することで、地域市場が大きくなる。さらに、「人間の安全保障」に対する脅威にも対処しなければならない。例え ば国境を超える犯罪は、一国では手に負えない。
 日本とASEANとの対話はこれまで順調に発展してきた。今後さらに連携を深めるためには、具体的な作業計画が必要だ。人的な協力関係にとどまらず、実質的でダイナミックな連携に持っていきたい。
 ◆富の偏在解消には共通通貨導入必要
 木下 ASEANを取り巻く経済問題で最大の懸案は、世界的な貿易や貯蓄の不均衡、富の偏在だ。だが、これは日本やASEANだけで解決できる問題では ない。カギは米国と中国が握っている。国際的な通貨システムが動揺しないよう、いかに共通通貨を実現していくかがポイントになるだろう。
 アジア金融危機前と比べると、投資不足によりASEANの経済成長率は低くとどまっており、中国と比べて国際競争力が劣っているという問題も抱えてい る。ASEAN各国がビジネス環境を改善し、技術系の人材を育成することが不可欠だ。日本政府は魅力的な投資環境作りなどの課題に協力することが重要だ が、ASEAN側の政治的リーダーシップも求められている。
 ◇コメント
 チャイワット ASEAN諸国と日本は、過去、援助・被援助国の関係だったが、この30年でより対等なパートナーシップに移ってきた。そして、我々は予 期せぬ挑戦を共に乗り越えてきた。アジア金融危機、国際テロ、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)がそうだ。ASEANと日本は資源、知識、技 能、製品の面で相互補完的関係にある。経済連携を強化し、互いを活用していかねばならない。
 赤尾 ASEANの現状には不安がある。サービスの自由化や運輸、観光などの連携は順調とはいえない。首脳会議で宣言を採択しても、制裁を盛り込むなど、実行に向けたメカニズムがないためだ。政治的な指導力を発揮していくことが必要だ。
 日本が今まで各国と結んだEPA(経済連携協定)には、人、モノの自由化に向け、改善の余地がある。道路、橋などのハード面、税関、物流といったソフト面を含め、日本にはさらなる支援が求められている。
 モラダ 経済のグローバル化や自由貿易がどういう影響を社会的にもたらしているかに注目する必要がある。特に、人材育成の問題、「人間の安全保障」の問題は重要だ。例えば、健康・保健の面では、鳥インフルエンザの問題にどう対応するかが問われている。
 ASEANと日本の人的交流も重要だ。東南アジアから日本に若者が来るだけでは一方通行になる。日本の若者がもっと東南アジアの社会、文化を学んでほしい。
 
 ■セッション2(エネルギー・環境) 
 ◇基調報告 
 ◆石油や海賊問題で協力拡大が不可欠
 大木 グローバルなエネルギー・環境問題で、日本とASEANは石油の共同備蓄やマラッカ海峡の海賊対策などをめぐって協議を始めている。今後、双方の協力をどう拡大させていくかが課題だ。
 ASEAN域内には、インドネシア、ブルネイなど原油の生産者がある。消費者の日本にとっては調達先を多様化させる意味で、輸入を増やしていくことも検討すべきだろう。
 地球温暖化問題は、国際的政治課題としてクローズアップされており、ASEAN自身が、国際社会に貢献する立場で積極的に発言することが望ましい。日本は自然エネルギーの活用など、来世紀に向けた方針を掲げる必要がある。
 ◆省エネ効率向上へ日本の技術共有を
 テイ 貧困層が多く存在するアジアはさらなる経済発展が必要で、そのためには石油など炭素エネルギー消費が必要となる。しかし、それは環境にはマイナスで、アジアは気候変動にぜい弱な地域といえる。解決のためには、エネルギー効率の向上を図らなければならない。
 日本は世界に冠たる省エネ国であり、技術と知識をASEANと共有すべきだ。東アジアではまだ十分な調査がなされていない、太陽、地熱、潮力、風力によ る代替エネルギー分野でも、日本はリーダーシップをとることができるだろう。環境を保護しながら、持続的成長と安全、安定を確保するため、日本には、 ASEAN加盟国を多国間でも二国間でも支援してもらいたい。
 ◇コメント
 米本 国際政治の中で地球温暖化問題が格段に重みを増している。来年の洞爺湖サミットの主要議題になるのは確実だ。脅威を感じた時、国家は科学技術を動 員するものだが、この点で温暖化は米ソ冷戦と似ている。冷戦は大量の核兵器と戦車を残しただけだが、温暖化の脅威が後世に残すのは省エネ技術と投資であ り、その点では幸福な脅威かもしれない。
 国をまたいだ共同研究を活発にする必要がある。日本の科学研究費の一部をアジアの研究者に開放し「科研費アジア枠」を創設したらどうか。研究者の刺激になり、相互理解も深まる。
 チャップ・ソサリット エネルギーは経済発展や国家の安全保障にとって不可欠な要素であるが、台頭するアジア諸国の需要に対応するためには開発も必要。
 日本とASEANは、経済統合の一環としてエネルギーと環境の問題をとらえ、もっと緊密な協力を行うべきだ。エネルギーの安全保障と環境保護を進めることが地域の安定と繁栄につながる。
 河野 日本とASEANが環境問題で協力するため、まず、健康と安全に関する基本的な情報、データを共有する仕組み作りをできないか。最近の中国製玩具 (がんぐ)の塗料に鉛が含まれていた騒動にしても、当の労働者たちが、そのような塗料を自分たちが扱っていたことを知らなかったとの報道もある。
 海外で取材をしていると、日本が何十年も前に経験した公害の教訓が生かされず、同じことを繰り返している例に出くわす。中国も東南アジアもそうだ。省エネや高度技術もいいが、まずは基礎作りが必要だ。
 
 ■セッション3(政治・戦略) 
 ◇基調報告
 ◆民主主義促進強化 大きい日本の役割
 スクマ 日本とASEANが、両者の関係強化にとどまらず、東アジアあるいは域外における安定的な地域秩序の創設にも貢献するような、政治・安全保障 パートナーシップをいかに推進していくかは、非常に重要な問題だ。日本が民主主義の確立と、人権の尊重に積極的役割を果たすことを期待したい。内政干渉だ と恐れる理由はない。日本のODA(政府開発援助)もASEAN加盟国の民主主義の促進と強化に寄与すべきだ。
 ただ、日本は学校、病院など「ビルディング」の建設には積極的だが、「キャパシティー・ビルディング(能力強化)」には関心を持っていないのではないか。政府機能強化のために、人材育成にも力を貸してもらいたい。
 ◆日本とASEAN 現在は対等な関係
 伊藤 ASEAN40年の歴史には二つの転換点があった。一つは、1990年代後半のインドシナ3国とミャンマーの加盟だ。これで、ASEANは東南ア ジア全体を代表する存在となった。第二は、97年のアジア金融危機への対応とその後の東アジアサミットの開催を通じて域外国とのかかわりが強まったこと だ。
 日本との関係も、ASEANが日本を助ける場面も多く見られるようになっている。例えば、2007年1月の日ASEAN首脳会議の議長声明は、拉致問題に言及し、明確に日本の立場を支持した。
 今は三つ目の転換点が現れつつある。日本とASEANは、真に対等な立場で共通の課題に取り組む関係になってきている。
 ◇コメント
 ゴー ASEANが安全保障共同体を目指す過程で、日本には経済面だけでなく、政治面でも貢献できるチャンスがある。台頭する中国の政治、軍事戦略は予 測できない不安定要因だが、日本とASEANの関係を緊密化することで、中国に対処することができる。日本からASEANへの直接投資額は中国より大き く、外交面でも日本の力は強い。ベトナムの立場からすると、経済面で中国は競争相手だが、日本とは補完し合える。
 福島 三つの問題を提起しておきたい。第一に、この地域において相対的パワーシフトが起きているが、ASEANプラス3(日中韓)、ASEAN地域 フォーラム(ARF)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)といった枠組みをどう活用していくか。第二に、ASEANの安全保障共同体作りと、アジア全 体の戦略的関係、日米中との関係をどうするか。第三に、ASEANにとって、台頭する中国はどのような姿であることが望ましく、そのためにどのような行動 を取っていくかだ。
 相川 日本とASEANの共通課題は、域内の経済格差をなくすことだ。日本外交には、ASEANが共同体を構築し、地域全体を繁栄させていくことへの支 援が求められている。日本は新たな脅威への対応も重視しており、アジアでの鳥インフルエンザ発生に備え、ASEANなどと協力し、タミフル、防護用品の備 蓄体制を整えたのはその例だ。日本とASEANは、共通の価値観と展望を持つことで、より地域的、世界的な関係に発展させる必要がある。
 
 ■総括 
 ◆中国との協力、課題 
 進藤 創設から40年、ASEANは「反共組織」のそしりを受けたベトナム戦争とその後の時期を経て、いまや民主主義と人権という新たなアイデンティ ティーを持つに至り、自らの命運をしっかりと選択した。単に地域経済統合に向かうのではなく、社会、文化、政治、安全保障の統合も目指している。個別の国 益は地域の共通利益に取って代わられるべきだし、それは可能だ。安保については、単に軍事問題としてではなく、社会・経済的観点、「人間の安全保障」の観 点からも扱われるべきだ。これからの問題としては、台頭する中国と平和的に協力できるかどうか。中年を迎えたASEANの健全な将来をどう確保し、東アジ ア共同体に到達するかが課題だ。
 ◆日本実績のPRを 
 ジャワール 日本のASEANに対する協力で最も重要なのは、能力開発の支援だ。人材育成や教育制度、民主主義の拡充に努めることが必要。東南アジアで は取り組みが遅れている環境分野でも、省エネ効率が高く、技術を持つ日本は特別の役割が果たせる。また、自然災害、疾病などASEAN諸国がぜい弱な分野 の対応能力向上を支援することで、日本はアジア太平洋地域で平和と安定を推進できる。対立的な安保ではなく、協力的安保の推進ということだ。東南アジアも 日本も中国も運命共同体だ。アプローチを非軍事化することで、信頼醸成を図るべきだ。日本はASEAN最大の友人。過去の支援の実績を謙遜(けんそん)せ ず、もっとPRしてもいいだろう。
 
 〈東南アジア諸国連合=ASEAN〉
 地域の政治・経済の安定を目的に1967年8月8日、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピンの5か国がバンコクで設立を宣言。84 年にブルネイ、95年にベトナム、97年にラオスとミャンマー、99年にカンボジアが加盟。域内人口は5億5000万人。2015年までに「共同体」構築 を目指す。
 
 写真=討論に耳を傾けるシンポジウム参加者(東京都港区の国際文化会館で)
 写真=進藤栄一氏
 写真=モハメド・ジャワール・ハッサン氏




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2007年8月10日(東京朝刊解説)「ASEAN40年 経済統合へ加速 日本、戦略的関係築く必要(解説)」

◇解説スペシャル
 結成から40年を迎えた東南アジア諸国連合(ASEAN)が、経済を軸に統合への動きを加速させている。日本は対ASEAN向けの戦略的な経済外交を迫られる。(シンガポール支局 菊池隆)
 ■2015年に共同体
 ASEANは8日、結成40周年を迎えた。
 加盟10か国による「寄り合い所帯」から脱皮し、より強固な地域機構とするため、2015年を目標に経済、政治・安全保障、社会・文化の3分野で「共同 体」を構築する。現在、最高規範となる「ASEAN憲章」の草案づくりを進めており、11月のASEAN首脳会議で正式決定する。
 政治的にも、経済的にもバラバラだった各国の統合を主導したのは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)に象徴される経済分野だ。
 特に、域内各国に展開する日本企業の「国境を越えた分業」が土台になっている。
 日本の製造業は、1985年のプラザ合意後の円高を受け、東南アジア各国での現地生産に乗り出した。最近は、AFTA計画に基づく域内の関税撤廃・削減 が急速に進んだ。このため、例えば、タイを輸出拠点とする自動車メーカーが、フィリピンから変速機を、マレーシアからバンパーを輸入し、タイ工場で完成車 に仕上げるといった域内分業が一段と加速している。
 ASEAN側も、域内を「単一の生産基地」や「人口5億超の単一市場」とする目標を掲げる。域外企業が投資しやすくなる環境づくりだ。
 膨張する中国に対抗し、国際競争を生き抜くには、貿易・投資の両面で、実質的に国境を消滅させる覚悟が必要との危機感がある。このため、「ASEAN経 済共同体」では、鉱工業品や農林水産品の関税撤廃を徹底するほか、金融や航空などサービス貿易の自由化、専門資格の相互認証など「人の移動」の自由化を目 指す。
 ■通貨危機が転機
 各国が文化や利害、思惑の違いを乗り越え、真剣に経済統合を目指す契機となったのは、97〜98年に起きたアジア通貨危機だ。
 通貨危機で、国際金融資本が投機対象にしたのは、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国など市場の自由度が高く、規模は小さい新興国だった。今も狙われ やすいリスクは変わらない。このため、アジア開発銀行(ADB、本部・マニラ)の黒田東彦(はるひこ)総裁は「より大きな経済圏を形成することが、危機予 防策の一つになる」と指摘する。
 危機が起きた97年末、ASEANは日本、中国、韓国の3国を加えた初の「ASEANプラス3首脳会議」をマレーシアで開き、これを機に、13か国間で 市場介入のための外貨を融通し合う通貨交換協定網「チェンマイ・イニシアチブ」を創設した。さらに、ASEANプラス3財務相会議は昨年、「地域通貨単 位」の研究を進めることでも合意している。
 もっとも、まだ、欧州のような共通通貨の実現に向け、踏み込んだ具体論を進められる環境にはない。
 実は昨年、ADBは試験的に「アジア通貨単位(ACU)」を独自に算出し、日々公表することを計画していた。ところが、この「参考指標」さえ、韓国、中国が「数字が独り歩きし、通貨主権が侵害される可能性がある」などとして反発、検討を棚上げにされた。
 共通通貨の実現には、人、モノ、カネの自由な流れを先行させ、国別に金融政策や自前の通貨を持つ意味が薄れるまで、まず経済統合を深めることが前提となりそうだ。
 ■日本と中国
 各国の思惑は様々だ。
 日本は、「ASEANプラス3」にインド、豪州、ニュージーランドを加えた16か国で自由貿易協定(FTA)などを締結する「東アジア経済連携協定 (EPA)」構想を提唱している。中国が「ASEANプラス3」の13か国での自由貿易圏づくりを提唱しているのに対抗する動きだ。
 ただ、中国を露骨にライバル視し、ASEANに対し「日本案か、中国案か」と選択を迫るのは、日本にとって得策ではない。
 日本とASEAN加盟国などのEPA交渉は、予想を超えて難航した。ASEAN側には、鉱工業品関税の早期撤廃を求めながら、自国の農林水産品市場の開放を渋る日本への不信感もあるからだ。
 これに対し、中国はASEANと同じ途上国同士ということもあって、互いに関税撤廃・削減の余地が大きく、FTA締結の効果が見えやすい。電子機器などの対中輸出が、ASEAN各国の成長を支えている実態もある。
 見落としてならないのは、ASEANは実利だけを求めてはいないことだ。
 ASEANと中国による人口18億超の巨大な市場統合には、地域の安全保障という側面がある。経済の相互依存が深まれば、中越戦争のような事態を防ぐ効 果も期待できる。中国側も「中・ASEANの戦略連携は、アジアの平和、安定、繁栄にも大きく資する」(温家宝首相)と強調している。
 もちろん、ASEANは過度に中国に依存する危険性を認識している。日本と良好な関係を維持することが、対中関係のバランスを図る上で欠かせないと考え ている。そんな思惑も背景に、ASEANが、両国を東アジア経済統合の土俵につなぎとめている点は再評価する必要がある。
 日本は、政府開発援助(ODA)や民間投資で築いたASEANとの伝統的な関係に安住せず、より長期的な視野で戦略的な関係を構築する必要に迫られるだろう。
 
 ◇シンガポール国立大学 リー・クアンユー公共政策大学院 キショール・マブバニ院長
 ◆中印台頭で域内協力深化 
 ASEANは政治的に不思議な地域だ。
 多くの英国の歴史家たちが「東南アジアはアジアのバルカン」と表現してきた。人種、言語、文化、宗教は本場欧州のバルカン半島よりも多種多様だ。90年 代に冷戦が終わると、「アジアのバルカン」は戦争に向かい、欧州のバルカンは平和を保つとの見方が多かったが、逆になった。
 欧州ではセルビアやクロアチアなど各地で多くの人が命を失った。一方、ASEANは平和を保ち、設立40周年を機に「憲章」を確立しようとしている。実現すれば大きな躍進となる。
 国々は「愛」ではなく「恐怖感」によって協力するものだ。ASEANは冷戦中、共産主義の拡大に対する恐れから創設された。
 共産主義の脅威がなくなり、今は中国とインドの台頭が新たな脅威になっている。ASEANが経済協力を深め、自由貿易圏を形成して貿易・投資の相手先としての魅力を高めなければ、あらゆる投資が中印両国に向かう。
 近く、中国が世界一の経済大国になるだろう。世界の力関係に大きな変化が起きつつある。中国は旧ソ連崩壊の教訓に学び、軍事大国化ではなく、経済発展を重視している。
 ブッシュ米大統領は、9月に予定されていた米・ASEAN首脳会議を延期する方向だ。米国はASEANとの関係を深めようとせず、重大な戦略上の誤りを 犯している。短期的な問題に目を向け過ぎではないか。中国は長期的な戦略を重視しており、「地政学的な知見」も優れている。
 反共連合を作るというのは米国の発想だったが、皮肉にもASEAN加盟国の多くが米国よりも中国との関係を強めている。
 日本がASEANと良好な関係を維持しようとしているのは喜ばしい。日本がASEANとのFTAを完成させることは、均衡ある対外関係を構築する上でASEANにとって望ましい。
 今や中国とインドも自由貿易の信奉者だ。シンガポールがASEAN各国に「市場を開放せよ」と訴えてきたのは利己的な理由からではなく、ASEANが中国やインドとの厳しい競争にさらされているからだ。
 
 ◇ASEANの歩み
1967年 8月 インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5か国外相会議で
         ASEAN設立宣言(バンコク宣言)を採択
  84年 1月 ブルネイ加盟
  92年 1月 AFTA創設に合意
  95年 7月 ベトナム加盟
  97年 7月 アジア通貨危機の始まり
         ラオス、ミャンマー加盟
     12月 初のASEANプラス3首脳会議開催
  99年 4月 カンボジア加盟
2003年10月 3本柱からなるASEAN共同体設立に合意
     12月 日本との特別首脳会議を東京で開催
  05年 4月 日本とのFTA交渉開始
      7月 中国との物品貿易に関するFTA発効
     12月 初の東アジア首脳会議開催
  06年 8月 米国との貿易投資枠組み協定に署名
     10月 中国との特別首脳会議を中国・広西チワン族自治区で開催
  07年 5月 欧州連合(EU)とのFTA交渉入りに合意
         日本とのFTA交渉が大枠合意
     11月 ASEAN憲章採択(予定)
  15年    ASEAN共同体構築(目標)
 
 図=東アジア経済統合の動き
 
 写真=ASEAN・日中韓13か国の財務相会議では、金融協力が議題になった(5月5日、京都市で)
 写真=シンガポール支局 菊池隆
 写真=キショール・マブバニ院長
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2007年8月10日(東京夕刊2面)「対インドネシアEPA、閣議決定/政府」

 政府は10日、インドネシアとの経済連携協定(EPA)締結を閣議決定した。2006年11月に大筋合意していたもので、今月20日に安倍首相とユドヨ ノ大統領がジャカルタで署名し、年明けにも発効する見通しだ。日本のEPA署名はシンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ、ブルネイ に続き8か国目となる。



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2007年8月14日(東京夕刊夕1面)「[よみうり寸評]外国人労働者」

 新築工事中の筆者の実家で3人のフィリピン人男性が働いていた◆炎天下、柱などを組み上げる仕事を黙々とこなす。休憩時間には汗まみれのシャツを着替 え、また、はしごを登る。1日3枚のシャツを持参している。仕事への真摯(しんし)な姿勢がうかがえた◆弁当はいつも手作りだ。前夜におかずを仕込んでお くという。ジャガイモとタマネギを差し入れたら、大喜び。次の日のおかずは肉じゃがだった。節約すればするだけ、母国の家族に多く送金できる。メールで送 られてくる幼子の写真を見るのが、何よりの楽しみだそうだ◆外国人労働者を見る目は、必ずしも温かいとはいえない。不法就労、強制退去といった言葉と結び つけてしまう。だが、多くの外国人が合法的に、まじめに働いていることも忘れてはならない◆あと1日、実家で働くはずだった3人は急きょ、別の現場に回さ れた。その日、仕事が終わってから3人がわざわざ訪ねてきた。「お世話になりました」。礼を言うためだった◆今年の帰省は、毎日の仕事で忘れがちなことを 思い出させてくれた。



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2007年8月26日(東京朝刊7面)「ASEANと経済協定合意 「東アジアEPA」前進 農産品開放に課題」

◆初の多国間協定
 難航していた日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済連携協定(EPA)交渉は25日、全分野で大筋合意に達し、11月にシンガポールで開く首 脳会議での署名に道筋を付けた。中国や韓国に自由貿易協定(FTA)で先を越されたASEANとの関係で、日本は巻き返しの糸口をようやくつかみ、政府の 目指す東アジア地域全体のEPAに向かって一歩前進した。(マニラ 実森出、菊池隆)
 ■効果
 「紆余(うよ)曲折して大変だった。正直ホッとしている」。ASEANとの経済閣僚会議を終えた甘利経済産業相は、安堵(あんど)の表情で記者団に語った。
 日本はシンガポールやマレーシアなどASEAN主要6か国との2国間EPAで署名や締結にこぎつけているが、今回は日本にとって初の多国間協定になる。
 このEPAが日本にもたらす最大の恩恵は、日本とASEANが一つの自由貿易圏を形成することだ。経産省は、日・ASEANのEPAには、日本の国内総生産(GDP)を2兆円押し上げる経済効果があると試算している。
 ■難航
 2005年4月に始まった交渉は当初から難航した。ASEAN加盟国に自動車や鉄鋼の関税撤廃を迫りながら、農林水産品では市場開放を渋る日本に対し、ASEAN側に不信感が高まったためだ。
 日本が交渉期間や妥結目標を定めることに難色を示すと、ASEAN側は「交渉中止」も辞さない構えを見せて抵抗し、「2年以内の妥結」という目標を日本に認めさせた。
 交渉の途中で、ASEAN側は決着したはずの2国間のEPA交渉も蒸し返し、新たな譲歩を迫る場面もあり、甘利経産相は「追加の要求が次々と出てきて、モグラたたきのようだった」と振り返る。
 今回の閣僚会議も「合意はほぼ絶望的、という見通しでやってきた」と政府関係者は明かす。日本側は結局、「輸入額の90%の品目で協定発効後直ちに関税を撤廃する」という思い切った譲歩を示し、ようやく交渉がまとまった。
 ■布石
 日・ASEANのEPAは、日本が提唱した「東アジアEPA」構想への重要な布石となる。
 この構想は、日中韓、ASEAN、インド、豪州、ニュージーランドの16か国でFTAを柱とするEPAを締結する内容だ。ASEANはすでに中国、韓国 と部分的なFTAを発効させているほか、インド、豪州・ニュージーランドなどとも交渉中で、東アジアEPAの「扇の要」となりつつある。
 これに加えて、日本とインド、日本と豪州など「横ぐし」となるEPAの締結も進めば、東アジアに網の目のようにEPAやFTAが張り巡らされ、アジア地域の経済統合は進む。
 東アジアEPAを見据えて、日本は今回の閣僚会議で、東アジア地域の経済を分析する政策研究機関「東アジア・ASEAN経済研究センター」の構想を紹介し、ASEAN側から歓迎された。
 ただ、日本は、今回のASEANとのEPAでもコメ、ムギなどの農産品を除外した。
 今後とも同様の措置を続けることは、農産品輸出国である豪州などとのEPA交渉では難しくなっており、東アジアEPAへの障害ともなりかねない。日本が農業で大胆な政策転換が出来なければ、東アジア経済統合の主導権を中国に握られる可能性も強まりそうだ。
 ◆経団連会長「早期発効を」
 経済界からも日ASEANのEPAの大筋合意を歓迎する声が相次いだ。
 日本経団連の御手洗冨士夫会長は、「より広範な多国間EPAへの道筋となるものだけに、11月の首脳会議での署名、可能な限り早期の発効を期待したい」とのコメントを発表し、東アジア全体のEPAへの布石になるとの見方を示した。
 国内電機メーカーの業界団体、電子情報技術産業協会の町田勝彦会長(シャープ会長)は、「協定が発効されれば、ASEAN域内での自由な物の流れが実現 し、柔軟な海外事業展開が可能になる。ASEANにとっても我が国からの投資の拡大と輸出競争力の強化につながる」と期待感を表明した。
 大手商社で構成する日本貿易会の佐々木幹夫会長(三菱商事会長)も、「東アジアで2国間の経済関係のみならず地域全体が発展することを容易にするもので、非常に意義深い」と高く評価した。
 
 ◇日本・ASEAN 経済連携協定の骨子
 【日本側の措置】
▽輸入額の90%以上の品目で関税を即時撤廃。5年以内に92%以上、10年以内に93%以上に撤廃品目を拡大
▽輸入額の6%の品目は関税率を50%以下に削減
▽コメ、ムギ、牛肉など輸入額の1%の品目は関税撤廃・削減の例外に
▽ASEAN地域の投資環境整備を支援
▽ASEAN域内の知的財産権保護に協力。ASEAN統合の深化、格差是正を支援
 【ASEAN側の措置】
▽ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの6か国は輸入額及び品目数の90%以上で関税を10年以内に撤廃
▽ベトナムは輸入額または品目数の90%以上で15年以内に関税撤廃。カンボジア、ラオス、ミャンマーは85%以上を18年以内に撤廃
 
 図=ASEANを巡る経済連携の動き
 図=ASEANに対する日本、中国、韓国の関税削減方式
 
 写真=EPA交渉が大筋合意に達し、記念撮影に臨む甘利経産相(右から3人目)ら各国の経済閣僚(マニラで、菊池隆撮影)
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2007年8月25日(東京朝刊2面)「ASEANとの経済協定 安倍首相「月末にマレーシアと大筋合意」

 【クアラルンプール=越前谷知子】安倍首相は24日、マレーシアのアブドラ首相と会談し、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との包括的な経済連携 協定(EPA)について「8月末までに大筋合意し、11月の日ASEAN首脳会議で妥結したい」と述べた。フィリピンで25日に行われる日ASEAN経済 相会合で、物品関税など全分野で合意する見通しを示したものだ。一方、24日の「日本マレーシア・ビジネス・フォーラム」で御手洗冨士夫・日本経団連会長 は、「可能な限り速やかな発効に向け(安倍首相、アブドラ首相の)2人のリーダーシップに期待したい」と早期実現を求めた。




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2007年11月14日(東京夕刊1面)「比看護師」誕生、都が支援 合格へ日本語指導 100人受け入れへ

 ◆国家資格取得めざし
 東京都は来年度、フィリピンから計約100人の看護師と介護福祉士を都立病院などで受け入れる方針を固めた。日本とフィリピンが昨年9月に締結した経済 連携協定(EPA)に基づくもので、自治体が外国人看護師らの受け入れを表明するのは初めて。国家資格の取得が最大の難関とみられるが、厚生労働省は支援 策を打ち出していない。個人教師の派遣など、都は国に先駆けて具体的な支援プログラムを策定し、フィリピン側にアピールしたい考えだ。
 厚労省などによると、看護師は全国で4万人以上、都内でも約3000人不足している。高齢者や障害者の介護を行う介護福祉士など、介護職員も人手不足が深刻な状態で、少子高齢化がさらに進む10年後には、全国で40万〜60万人が足りなくなるという。
 EPAに基づく制度では、厚労省の委託を受けた国際厚生事業団が、日本での勤務を希望するフィリピン人の看護師らを、受け入れを希望する全国の病院に振り分けることになる。受け入れ数は、看護師400人、介護福祉士600人の計1000人を予定する。
 この制度では、半年間の日本語研修の後、看護師は3年、介護福祉士は4年、助手として病院などで働きながら、国家試験の合格を目指す。特例のビザが発行 され、資格取得後は、希望すれば永続して働けるが、期限内に合格できなければ、帰国しなければならない。このため、受け入れる側の支援体制の充実が課題と なっている。
 試験に出る医療関係の用語は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、膀胱(ぼうこう)、大腿部(だいたいぶ)など、日本人にとっても難解なものが多い。都で は「このままでは合格者が出ない恐れがある」(福祉保健局)と判断した。資格試験用の日本語教材を英語訳したり、専門教師を派遣したりするなどの教育プロ グラムを策定し、入国後から受験まで手厚く支援する。
 EPAは、フィリピンの国会で批准後、発効されるが、都は「発効は時間の問題」としており、今月、プログラム策定の参考にするため、都職員を現地に派遣し、現地の看護師協会などで聞き取り調査を実施した。来年度予算にも支援費用を盛り込む方針だ。
 都では、都立病院など都施設で約10人を受け入れ、残る約90人は、都医師会などを通じて、民間で受け入れるよう働きかける。 
 
 〈経済連携協定=EPA〉
 工業品や農産物などの関税を削減・撤廃する貿易自由化のほか、労働力の受け入れや知的財産権の取り扱いを定める包括的な取り決め。日本はタイやフィリピンなど8か国と締結済みで、現在、別の七つの国・地域と交渉している。 




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2007年11月22日(東京朝刊三面) [社説]ASEAN外交 EPA締結を関係強化のテコに

 日本と東南アジアの経済関係を、貿易のほか投資や人的交流でも強める契機にすべきだ。
 日本と、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、経済連携協定(EPA)の締結で最終合意した。来秋の発効をめざす。
 日本は、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどASEANの主要6か国や、メキシコなど計8か国とEPAに署名し、一部は発効済みだ。地域連合とのEPA締結は初めてとなる。
 しかし、アジアでの経済連携に積極的な中国と韓国は、日本に1〜2年先行して、ASEANと自由貿易協定(FTA)の交渉をまとめている。韓国は、4月に米国とFTA締結で合意し、欧州連合(EU)とも交渉を開始した。
 日本は韓国との交渉が中断し、農業大国・豪州との交渉も難航している。今回のASEANとの合意で、中韓との距離が多少縮まった。成長センターのASEANとの経済関係の強化は、人口減社会を迎えた日本にプラスとなる。
 期待が大きいのは、域内に生産拠点を持つ日本企業の分業メリットだ。
 ASEANは、主要6か国が日本からの輸入額の90%以上の製品で、関税を10年以内に撤廃する。ベトナムなども15〜18年以内に段階的に関税を撤廃する。
 日本から液晶テレビの部品を輸出し、タイで組み立てた完成品をフィリピンなどに関税なしで輸出できる。日本メーカーの価格競争力が増すに違いない。
 一方、日本は、ASEANからの輸入額の90%分の関税を即時撤廃し、さらに3%分を5年から10年かけて撤廃する。だが、コメ、乳製品など農産品の一部は対象外とした。農業分野の市場開放に、相変わらず消極的なためだ。
 日本は、ASEANに日中韓、豪州、ニュージーランド、インドを加えた16か国での「東アジアEPA構想」を提唱している。ASEANとのEPA締結は、構想への一歩という見方もある。
 だが、農業の国際競争力を高め、農業を含めたオープンな市場を目指さなければ、構想の実現は難しい。市場開放に伴う痛みに耐えられるよう、農業の構造改革を加速しなければならない。
 ASEANは首脳会談で、2015年までに貿易・投資などを自由化し、域内経済を一体化する「経済共同体」を目指すことで一致した。結束力強化のための基本法となるASEAN憲章にも署名した。存在感を高めるのは間違いない。
 中韓両国やインドなどが、ASEANとの関係を強化している。日本もASEANとのEPAをテコに、戦略的な通商政策を構築しなければならない。



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2007年12月6日(東京朝刊) 特養ホーム不法就労 処分の元理事長、危うく表彰 匿名指摘で取り消し=東京

 ◆都教委
 文京区立の特別養護老人ホーム「くすのきの郷(さと)」で、観光ビザのフィリピン人女性を働かせたとして、今年6月に都の行政処分を受けていた社会福祉 法人「同胞互助会」(昭島市)の元理事長(66)に対し、都教育委員会が先月、都教委表彰を贈ることを決めていたことが、5日わかった。都教委は同日、表 彰の決定を取り消したが、「確認が足りず、恥ずかしい限り」と平謝りしている。
 この表彰は年に1回、児童・生徒の健康づくりに優れた功績のある学校や学校医に贈られる。同胞互助会は今年6月、都から理事長らの懲戒処分などを求める 措置命令を受け、元理事長も引責辞任していたが、元理事長は学校医を15年以上務めた功績などが評価され、昭島市教委が同7月に推薦。都教委が先月5日の 審査会で、今月11日に表彰することを決定していた。
 都教委は、「処分を受けた法人の元理事長が表彰を受けるのは不適切」と匿名の電話で指摘を受けて、初めて気付き、「表彰の欠格事由にあたる」として、表彰を取り消すことにした。
 都教委は「処分を受けた法人の元理事長とは気付かなかった。推薦してもらう各区市町村の教育委員会に注意を促すとともに、自らのチェック体制を強化したい」としている。


*作成:永田 貴聖
UP: 20080426 REV:20091212
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