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ケア/国境 関連新聞記事2004(読売新聞より)





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2004年2月16日(東京朝刊A経)「[ワールド・インサイド]対ASEAN、FTA交渉「第1ラウンド」


◆国益の対立、鮮明
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易協定(FTA)締結に向けた作業が動き出した。日本はマレーシア、フィリピンに続き、十六日にタイとの交渉を開始する。ASEAN全体との来年からの交渉に備え、初の予備交渉もカンボジアで十五日まで行われた。一連の「第一ラウンド」で利害の対立は早くも鮮明になっており、今後は「国益」をかけた駆け引きが本格化しそうだ。(カンボジア・シエムリアップ 深沢淳一、関連記事1面)

◆むしろ「支援」
先陣を切って一月十三日に行われた日本とマレーシアとのFTA締結交渉では、早くもマレーシア側が政府調達の自由化に難色を示した。交渉の基本原則でも、マレーシアは「包括的な自由化を目指す」との表現を削除するよう求めた末に、渋々受け入れた。
 マレーシア政府は従来、「国内企業を優遇するのは当然だ」として、公共事業や政府調達でマレー系資本の企業に便宜を図る政策を展開している。関税も、国内産業を保護するため自動車や鉄鋼の税率はかなり高い。
 まともに市場開放すれば日本企業に圧倒される恐れが強いため、「日本との交渉では、FTAよりも経済協力の支援強化を重視している」(マレーシア通産省幹部)と協力分野に重点を置きたい考えだ。
 実際、二百項目余に上る経済協力の「要望書」を既に提示しており、日本が要望の実現と引き換えにどこまで自由化の譲歩を引き出せるかが焦点だ。

◆「人」の自由化
 今月四、五日に行われたフィリピンとの初交渉では、トーマス・アキノ貿易産業省次官が早速、「人の移動の自由化に最も関心がある。我が国にとって重要な分野だ」と切り出し、看護師・介護士の派遣受け入れを要求した。
 アキノ次官は交渉後の記者会見でも、看護師・介護士市場への参入に期待を表明しており、比政府側はこのテーマを専門に交渉する場を設けたい考えだ。
 日本側は「厚生労働省や関係団体の反発が強い上、世論の注目も低いため、農業よりも自由化は難しい」(交渉筋)としており、国内調整は進んでいない。
 日本でも、高齢化が深刻な過疎地の医療・介護福祉対策や、介護疲れ問題、女性の社会進出を支援する観点などから、外国人労働者の参入の是非を巡る議論が急がれそうだ。

◆タイの思惑
 タイとの交渉では、タイ政府関係者から「六月にも妥結させたい」などと早期決着を求める声が強い。
 タイは最近、FTAの司令塔となる組織を設け、日本やアメリカ、中国、インドなどとの交渉で、商業省副大臣や政府高官らをそれぞれ責任者に指名した。
 来年早々に予定される総選挙をにらみ、締結を競わせて選挙前にFTAを多く結び、農民や企業票を集めたいとのタクシン政権の思惑も指摘されている。
 タイ側は農産物交渉で、日本側の自由化が難しい分野については「柔軟に対応する」との方針を示している。ただ、日本には「交渉を早く進めるため、見返りに日本の別分野での要求水準を下げさせる狙いではないか」との警戒感も強い。
 タイの平均関税率は26%と高く、日本企業の投資も多い。日本は、締結までのスピードだけではなく、日本企業や日本経済に最大限の利益をもたらすための交渉を目指す必要がある。

◆「原産地規則」年内取りまとめ 
 シエムリアップで、十五日まで行われた日・ASEANのFTA予備交渉では、自動車や家電など、域内複数国の生産拠点を経由して製品化される物品の原産地規則を、年内に定めることで合意した。日本はシンガポールに続き、タイ、マレーシア、フィリピンとFTA締結を目指している。来年スタートする日・ASEANのFTA交渉はこの四か国以外が主な対象で、最終的にASEAN十か国とFTAを結ぶ形になる。
 ただ、それだけではFTAの効果が二国間貿易に限られるため、域内で生産分業されるモノでも「日・ASEAN原産地規則」に基づき、原価の一定割合以上が域内の工程で占められていれば、関税自由化の対象に含める。



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2004年3月13日(東京朝刊B経)「日本・メキシコFTA合意 対アジア交渉加速へ 農業・労働市場の国内改革急務」


メキシコと自由貿易協定(FTA)の締結で合意したことにより、出遅れていた日本のFTA戦略は、ようやく前へ進み始めた。政府は今後、現在交渉中の韓国やマレーシア、フィリピン、タイとの早期合意を目指す考えだ。ただ、メキシコとの間でも焦点となった農産物に加え、フィリピンやタイなどとの間では労働市場の開放が新たな争点となるのは確実だ。アジアとの交渉加速化に向けて、国内の構造改革や基本方針の明確化が急務になっている。
■積極的な米中■
 メキシコとの協定発効は早くて二〇〇五年一月で、初のFTAとなったシンガポールとの発効(二〇〇二年十一月)から二年以上も後になる。
 アメリカは一九九四年の北米自由貿易協定(NAFTA)をはじめ、最近ではシンガポールやチリなどとも締結するなど、積極的にFTAを進めている。中国も東南アジア諸国連合(ASEAN)との交渉を日本に先行して始めている。世界では約二百のFTAが結ばれており、日本は「一周遅れ」(外交筋)の状態だ。
 各国がFTAに力を入れるのは、多国間での共通ルールを定める世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(新ラウンド)が、思うように進展しないためだ。先進国と途上国の利害対立などで、昨年九月に決裂した新ラウンドは、三月から順次、分野別交渉が再開されるが、今年末の交渉期限までの完全決着は難しい。

■省庁間に温度差■
 メキシコとの交渉で、日本は対日輸出トップの豚肉などを関税撤廃の例外品目とした結果、貿易額全体に占める関税撤廃品目の割合は87%程度にとどまり、ほぼ100%の開放を決めたメキシコを下回った。WTOのルールでは90%が目安とされ、「日本は農産品で閉鎖的な印象を与えた」(関係筋)との見方が出ている。
 今後の交渉でもタイはコメ、マレーシアは丸太などの市場開放に関心が高く、農林水産品が日本の泣き所となる可能性がある。
 さらに、フィリピンは看護師や介護士、タイはマッサージ師らの就労受け入れを求めている。日本は外国人労働者の受け入れについて省庁間でも温度差があり、本格議論は始まったばかりだ。与党内では「交渉を進めるには、早急に日本の基本姿勢をはっきりさせるべきだ」との声が上がっており、農業や労働市場という「国内問題」への対応が今後のFTA交渉の成否を握る。



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2004年3月14日(東京朝刊3面)「[社説]FTA合意 東アジアとの交渉促進の契機に」


一年四か月におよぶ大荒れの航海の末に、やっと港にたどり着いた――。日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)交渉が関係閣僚のテレビ電話会合で、農産物や工業品の関税相互撤廃など包括的な協定締結に合意した。
 メキシコは、世界十位の国内総生産額と一億人を超す人口を持つ巨大な消費市場だ。北米・南米市場の前進基地でもある。貿易はじめ経済関係の拡大・深化は日本経済の安定発展に極めて重要だ。
 協定案の詳細の詰めを急ぎ、早期発効を目指す必要がある。
 日本がFTAを結ぶのは、シンガポールに続き二つ目だが、農産物の市場開放を主要な柱とする協定は、メキシコが初めてだ。韓国、タイ、フィリピンなどとの協定のひな型にもなり得る。
 今回の合意を機に、これらの国々との交渉も加速することが期待される。
 交渉は、豚肉など農産物で日本から少しでも多くの譲歩を引き出そうとするメキシコと、難色を示す日本の対立で難航を続けた。昨秋の大統領来日を機に行われた協議も決裂し、頓挫を懸念する声も関係者から出ていた。
 合意に至った背景には、メキシコとの協定で米欧に後れを取り、競争上著しく不利な立場にある日本企業を早く救わねばならない、という差し迫った要請が、経済界などから出ていたことがある。
 農業分野での譲歩に国内の抵抗がそれほど強くなかったのは、豚肉などに対象が限られ、数量的にも国内生産者に致命的な打撃を与えない水準だったことや、有力族議員の引退があったためだ。
 メキシコ側としても、関心品目の豚肉やオレンジで、これ以上の追加要求をしても、夏の参院選を控えた日本の農業団体などの反発を買うだけ、との計算が働いたようだ。
 だが、東アジア諸国との交渉には、メキシコよりも、多くの困難がある。
 タイとはコメや鶏肉、マレーシアとは合板、韓国とは水産物など、農林水産分野の交渉対象が大きく広がる。看護師や介護士の受け入れなど労働市場の開放もメキシコとの間にはなかった難題だ。
 メキシコとの交渉では、大詰めの段階まで、関係省庁が共通の戦略を欠き"個益"優先で対応した。それが全体としての交渉力を弱めた、との見方もある。
 FTA交渉にあたって、農業改革はじめ国内改革と連動した通商戦略のもとに関係省庁が緊密に連携して取り組む必要は、これまで繰り返し言われてきた。
 東アジア諸国との交渉が本格化する今こそ、官邸主導で政府関係省庁の連携体制の強化を図らねばならない。



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2004年7月1日(東京朝刊1面)「看護師・介護士 足りない! 構造改革特区 「外国人受け入れ」申請次々」


◆病院・介護12施設
 政府が地域を限定して規制を緩和する「構造改革特区」の第五次の申請で、全国十二の病院や介護施設などが、外国人の看護師や介護士の受け入れを認めるよう求めていることが、三十日明らかになった。高齢化の進展で、地方を中心に看護師や介護士の不足が深刻化していることが背景にある。政府は外国人労働者の受け入れに高いハードルを設けているが、フィリピンとの自由貿易協定(FTA)の交渉では、フィリピンが看護師と介護士の就労を求めていることもあり、今後、外国人受け入れを巡る議論が活発化しそうだ。
 第五次構造改革特区は、六月末が申請受け付け期限で、自治体や企業などから約三百件の申請があった。九月上旬にも認定される特区が発表される見通しだ。
 外国人の看護師は現在、日本で働く際は期間に制限があり、外国人の介護士は在留資格がないため、日本で働くことができない。
 十二の病院などは、高齢化と若年層の都市集中などによって、地方では看護や介護の担い手がなかなか確保できず、外国人の介護士や看護師に来てもらいたいとして、特区を申請した。
 この中で、福岡県内の病院は「地方の病院は毎年必要な看護師を確保するのに苦慮している」とし、外国人看護師が期限なしで就労できるように要求。また、兵庫県内の病院も「政府の医療人材確保への対応は不十分」として、同様の規制緩和を求めている。
 このほか、関東の複数の病院で構成する事業組合は「地方では介護の担い手が中年の女性で、若い人を受け入れる必要がある」として、フィリピンで介護士の研修を受けた外国人を日本で三年間以上就労させたり、その後もフィリピンにある日本の老人を対象にした介護施設で働けるような規制緩和を求めている。
 外国人の看護師や介護士が働ける特区の申請が多いのは、フィリピンとのFTA交渉で、介護士や看護師を含めた「人の移動の自由化」が主要議題になることも影響している。
 七月五―七日にフィリピン・セブ島で行われる第三回会合で、フィリピンはこの問題について具体的な要求をする見込みだ。政府は今年末にもフィリピンとのFTAを締結したい考えだが、外国人労働者受け入れを前提にした規制緩和や、住環境や教育の整備などの議論が加速されそうだ。

〈FTA〉Free Trade Agreement

〈在留資格〉政府が、外国人の滞在期間と滞在中に可能な活動や身分・地位などを認定する制度。出入国管理及び難民認定法では27種類の資格を規定しており、看護師は日本の看護学校を卒業して国家資格をとれば、4年間働くことができるが、介護士は認められていない。



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2004年7月8日(東京朝刊A経)「対日FTA「人の移動」交渉 フィリピン、看護師・介護士に絞る」


日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)締結を目指す三回目の政府間交渉は七日、フィリピン中部のマクタン島で三日間の日程を終えた。相手国に労働者の受け入れを求める「人の移動」について、フィリピン側は当面、看護師と介護士に絞って交渉する方針を示した。フィリピン側が政府間交渉で個別の職種を示したのは初めてだ。日本はこれを受けて、具体的な受け入れの検討を進める。
 次回は、八月末から九月上旬にかけて東京で開く。



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2004年7月21日(東京朝刊A経)「対東南アFTA交渉 「工業品」攻防激化 」


◆輸出拡大目指す日本、「国民車保護」壁に
 日本がタイ、フィリピン、マレーシアの東南アジア諸国連合(ASEAN)三か国のそれぞれと進めている自由貿易協定(FTA)交渉が本格化してきた。日本が各国に求めている工業品の関税が撤廃されれば、自動車やデジタル家電の輸出拡大の追い風となるが、マレーシアが自国の自動車産業を育成する「国民車」政策が交渉の壁となるなど、各国とも難しい国内事情を抱えている。一方、日本は農産品の関税撤廃や外国人看護師らの受け入れ拡大も求められている。経済団体などには、FTAは日本経済の構造改革を促す起爆剤になるとの期待も強いが、基本合意を目指す年末に向け、厳しい交渉が予想される。(中川賢、渡辺達也)
■マレーシア 
 日本とマレーシアが東京・霞が関の外務省内で四回目の政府間交渉を行った二十日昼、川口外相は幹部らに「双方の利害が一致しない部分もあるが、長期的な視点に立ってまとめることが大事だ」と述べ、交渉とりまとめに意欲を見せた。
 十九日から始まった同交渉で両国は、互いに自由化要望を初めて提示し、実質交渉に入った。この中で、日本は、工業品などの関税の撤廃を求めたが、国民車保護の観点から輸入自動車に60―200%の関税をかけているマレーシアは、日本車のコスト削減などによって「輸入車と国民車のプロトンの価格差が縮まり、プロトンの販売が低迷している」(日本総研)という事情もあり、関税撤廃に反対の姿勢を崩していない。
 フィリピン、タイも輸入自動車に、30―80%の関税をかけており、関税撤廃には難色を示すとみられる。
 一方、日本は、自動車や電子製品の分野では日本が付加価値の高い製品を生産し、東アジア各国は部品供給や組み立てを担当する分業体制が確立しつつあり、「工業品の分野で成果が出なければFTAを締結する意味がない」(交渉筋)との見方もある。
◆農業・看護師 日本側に慎重論
■フィリピン 
 フィリピンとの交渉の焦点は、看護師や介護士などの人材の日本への受け入れだ。フィリピンは、看護師をサウジアラビアなどへ一万二千三百人(二〇〇二年)も派遣し、貴重な外貨獲得源となっている。日本でも、人手不足の地方の病院からは受け入れを求める要望が相次いでいる。
 しかし日本では、外国人の看護師は日本の看護学校を出て、日本の国家資格を取得しても四年間の就労しか認められていない。このため、フィリピン政府は規制緩和を訴えているが、日本看護協会などは「受け入れるなら日本人と同じ給与水準で、同じ資格を取る必要がある」と主張している。

■タイ 
 タイとの交渉はコメなどの農産品がカギだ。タイは八月四―六日の四回目の政府間交渉で鶏肉、コメ、砂糖、でんぷんを「主要四品目」と位置付け、関税撤廃を要求する見通しだ。
 タイだけでなく、ASEAN三か国は、国内総生産(GDP)に占める農林水産品の比率(二〇〇一年)がフィリピン17・4%、タイ11・2%、マレーシア10・7%と高く、農業分野の譲歩を求める声は強い。
 一方、日本のコメの関税率は490%と高く、多国間で共通の貿易ルールを決める世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)でも開放圧力がかかっている。農水省は、大規模な専業農家に直接補助金を支払う新制度の導入などを検討しているが、政府は農政改革の実現を急ぐ必要がある。
 〈FTA〉特定の二国間や地域の国同士が、原則としてすべての関税撤廃を目指す協定で、世界貿易機関(WTO)ルールの例外として認められている。通常は、〈1〉事前検討(作業部会)〈2〉産官学研究会〈3〉政府間交渉――の三段階に分かれ、ASEAN三か国との交渉は今年一―二月から政府間交渉に入り、年内合意を目指している。



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2004年7月30日(東京朝刊A経)「[加速・アジア市場統合](5)FTA交渉の試練(連載)」


◆"痛み"分かち合えるか
 「マスク、手袋の着け方はOKよ。手の消毒は指の間も丁寧にやりなさい」
 フィリピンのマニラ首都圏ケソン市にある聖ルーク看護専門学校。教室では教官の指示が飛び、女子生徒が実技訓練に臨んでいた。
 約百年前に設立されたこの学校には現在、十六―二十歳の二千二百人が通う。四年間で最低30万ペソ(約60万円)の学費を親類から借金する生徒も多い。
 ジョセフィナ・スマヤ総長は「卒業生の大半はアメリカ、イギリス、中東の病院で働く。国内の病院は月150―200ドルしかもらえないが、海外なら2000―2500ドルも稼げる」と話す。
 海外で就労するフィリピン人看護師は「統計では約一万人、実際はその数倍に上る」(フィリピン看護師協会のエリンダ・アホロ専務理事)と見られている。
 産業基盤が弱く雇用と家計収入を外国に頼るフィリピンにとって、海外労働者は、国内総生産(GDP)の一割相当を毎年送金する貴重な稼ぎ頭だ。
 日本との自由貿易協定(FTA)交渉で、フィリピンが看護師・介護士の対日派遣を強く求めているのも、収入源となる新たな"鉱脈"を開拓しようと狙っているためだ。
 実際、マニラなどの介護士学校は、日本での就労解禁を当て込み、日本語や日本食の調理を教え始めた。「私たちは日本の高齢化を支える人材を提供できる。言葉の習得も問題ない」とスマヤ総長は力説する。
 だが、日本側は、医療・介護の安全や不法就労を理由に厚生労働省、法務省が難色を示し、受け入れに慎重な姿勢だ。知恵を絞れば、医療・介護コストの低減や現場の人手不足対策、介護疲れ問題、女性の社会進出などに役立つはずだが、労働市場の開放についての日本の姿勢は堅く、交渉は難航したままだ。
 小泉首相は「アジアと共に歩む」と強調しているが、各国の経済的な実情を理解した上で、市場開放をいかに進めていくか、日本の姿勢が改めて問われている。
 皮肉にも、アジアで進む市場統合の流れに火を着けたのが、実は日本だった。
 中国社会科学院の幹部は「日・シンガポールのFTAに手をこまぬいていられないと中国は判断し、ASEAN(東南アジア諸国連合)とのFTAに乗り出した」と内情を明かす。出遅れ気味だった中国を焦らせ、市場統合に走らせたのが日本だったという訳だ。
 そして、猛烈な中国の巻き返しが、逆に日本やインド、アメリカ、豪州、韓国などを刺激し、ここ三年でASEANを軸にした自由化の潮流が急速に出来上がってきたことになる。
 「将来、日本と中国がFTAを結ばなければ、アジアの市場統合は完成しない」(シンガポールのゴー・チョクトン首相)との指摘もあり、日本がどのように主導的な役割を果たしていくかも問われている。
 自由化に消極的な分野を抱える点では各国も同様だ。タイ、マレーシアと日本のFTAでは、国内産業を守りたいタイ、マレーシア側が及び腰になり、年内妥結は難しい情勢だ。
 韓国も日本勢の攻勢を警戒し、産業界に対日FTAの慎重論が台頭している。ベトナム、フィリピンも競合する軽工業品の輸入増大を恐れ、中国、インドとのFTAには消極的だ。
 自由化の痛みや反発を、経済構造の強化に転換させる"決断"は、各国が背負った大きな課題になっている。



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2004年8月3日(東京朝刊多摩)「[もう一度歩きたい…]第4部(1)フィリピンで「自立」(連載)=多摩」


◇新天地で生きる
◆新聞の投書読み衝撃
 在宅で介護者が見つからないなど、脊髄(せきずい)損傷者が国内で納得のいく介護を受けられない場合、どんな思いを抱くだろうか。第四部では、かつて多摩市内で「自立生活」を試みたものの、やがて日本を飛び出し、新天地のフィリピンで生活するようになったある重度障害者を追った。(山田博文)
 首都・マニラに次ぐ約百二十万人が暮らすフィリピン・ダバオ。けたたましいクラクションを鳴らし、フィリピン名物の乗り合いバス「ジプニー」が、次々に人を乗せては降ろしていた。
 「ようこそ、遠いところまで」。寺本一伸さん(46)が電動車いすをあごで操作しながら、フィリピン人の理学療法士(PT)のラニー(24)、介護士のエルジェン(23)、そして唯一の男性で専属運転手のバンビー(24)とともに迎えてくれた。

 五年前からフィリピン人介護者を年金で雇い、現地で「自立生活」を送る脊髄損傷者の日本人がいる――と聞いたのは、この企画の取材を始めた今年二月のことだった。いったいどんな暮らしをしているのか。記者はそんな思いを抱き、七月中旬に現地を訪ねた。
 寺本さんの自宅は、ダバオ市街から車で十分ほどの住宅街にあった。約三百平方メートルの敷地に、築約三十年、延べ床面積約百二十平方メートルの平屋建て三LDK。家の周囲は高さ約二メートルの塀で囲われている。家賃は月1万ペソ(約2万円)。フィリピン人の平均月収よりやや高い程度で、「これでも中の上のクラスの居住区」という。
 バンビーが運転するのは、日本製ワゴン車。一九九六年製を二年前、約30万ペソ(約60万円)で手に入れた。フィリピンでは二台目だ。電動車いすごと乗り込めるように改造し、後部座席は取り外されている。生活に欠かせない、大切な「足」だ。
 寺本さんの年金の手取りは月約14万円。三人の人件費が約5―6万円、医療品代が約5千円だから、「ぜいたくをしなければ、年金でゆっくり暮らしていけます」という。

 寺本さんがダバオに来るまでには、実に様々な曲折があった。出身は金沢市。地元の県立高校、金沢大学を卒業し、同市内で小学校の教員をしていた。ところが、十五年前の七月、自損事故で運命は暗転する。ふとしたハンドル操作の誤りで立ち木に衝突。その時、頸髄(けいずい)(C4)を傷めた。まだ三十一歳だった。
 以後、現在に至るまで手足の自由は奪われたまま。「自分一人では一ミリたりとも動くことができず、日常生活のほとんどすべてに人の手を借りなければ生きていけない状態」が続いている。
 金沢市内の病院に二年間入院、その後、市内の自宅で一年間療養。やがて在宅生活は限界となり、九二年九月、福井県内の重度障害者療護施設に入所した。現場の介護者はよくしてくれたが、介護体制は必ずしも十分ではなかった。忙しさに気軽に用事を頼める状況ではなく、何かと我慢する習性が身についた。
 二年ほどたったある日、新聞の投書欄に目がくぎ付けになった。当時、多摩市で在宅生活を送っていた、同じく頸髄損傷で重度障害者になった藤木徳雄さん(46)の著書に関する投稿だった。
 自分と同程度の重度障害者が自立生活を……。強い衝撃を受けるとともに、夢が膨らんできた。



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2004年8月6日(東京朝刊多摩)「[もう一度歩きたい…]第4部(4)比の人材育成に貢献(連載)=多摩」


◇新天地で生きる
◆自宅で介護の体験学習
 寺本一伸さん(46)が移ったダバオは、マニラから南へ飛行機で約一時間四十分の所にある。ドリアンなどの果物の産地として知られる。戦前は、一万人以上の日本人がマニラ麻の栽培に従事し、現在もその子孫が多く住む、日本と縁の深い都市でもある。
 移住のきっかけは、多摩市で自立生活を送っていたころ、介護を通じて知り合った中井聡さん(38)が、ダバオに拠点を持つ日本フィリピンボランティア協会(調布市)で働くようになったことだった。
 同協会は一九九〇年に設立され、ダバオを拠点に熱帯雨林再生のための植林活動やミンダナオ国際大学の運営、さらに福祉、医療分野での人材育成を実践している。日本語ができるフィリピン人のヘルパー養成もその一つで、中井さんから聞く活動内容に寺本さんは大いに関心を持った。
 同協会の網代正孝会長も「日比の福祉活動の象徴的な存在に」と、寺本さんの存在そのものを高く評価し、熱心にダバオ行きを誘ってくれた。
 そうした中、マニラで偶然、学生の日本語スピーチ大会を聞く機会があった。設立から半年余りのミンダナオ国際大学で福祉を学ぶ女子学生が、「エンターテイナーとケアギヴァー(介護士)」のテーマで話した。日本語能力にも驚いたが、飲食店の「タレント」だけでなく、介護士も病院でお年寄りたちを喜ばせられる、と日本で働く夢を熱く語る姿に感動した。もう迷いはなかった。二〇〇三年二月、ダバオへ移った。
                  
 今年四月から生活に少し変化があった。「自分が役に立つのなら」と、同協会の介護者養成コースの在宅介護の体験学習先になったのだ。
 フィリピンは英語が公用語の一つということもあり、人口の約一割にあたる約八百万人が海外で働き、「出稼ぎ大国」と言われる。アロヨ大統領も就任以来、海外での就労を目指す介護者養成に力を入れ、現在、日本政府にも受け入れを働きかけている。少子高齢化が進む中、日本政府も近い将来の介護労働力不足を考慮し、日本語能力など一定の条件のもと、開放する方向で検討している。
 同協会の養成コースは、こうした流れを見越したものだ。同協会現地事務所の平野雅一さん(42)によると、理学療法士など一定の医療資格を持った人を対象に、ほぼ一年に一回程度開講。期間は半年で、週三回各二時間、日本語の学習などを行う。今回は一月に二十五人でスタートし、最終的に十五人が修了した。受講料は月200ペソ(約400円)。平野さんは「学費が安いだけに、やる気がないと続けられない」と言う。
 取材に訪ねた時も三人の研修生が寺本さん宅にやってきた。英語と日本語を交え、自分の状態を説明し、口でスティックをくわえパソコンを打つ寺本さん。その姿に三人は目を凝らした。
 数日後、同協会で開かれた修了式では、特別講義を行った一人として招かれた寺本さんにも、貝で作られた記念品が修了生から贈られた。それを見つめる寺本さんの表情は、卒業生を何度も送り出した、小学校教師だった時代をほうふつさせた。



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2004年8月26日(東京朝刊1面)「比の看護師・介護士、年100人ずつ受け入れ 日本の資格が条件/政府方針」


 日本が進めている東アジア各国との自由貿易協定(FTA)交渉で焦点となっている外国人労働者の受け入れ問題で、政府は二十五日、フィリピンの看護師と介護士を、年間の入国人数を限定した上で認める方針を固めた。政府がFTA交渉に絡む外国人労働者の受け入れで明確な方針を固めたのは初めてとなる。
 政府開発援助(ODA)を活用して、日本語研修を行う仕組みも取り入れるなど、受け入れの実効性を高める配慮もしている。ただ、人数制限に加えて、日本の国家資格を取得することを条件とするなどフィリピンにとっては障壁の高い内容となる見込みで、フィリピン側との交渉は難航も予想される。
 政府筋によると、日本が受け入れるのは、看護師と介護士それぞれ年間で百人程度に限る方向で調整している。フィリピンで看護師や介護士の資格を持つ人に限定し、現地で日本語などの研修を受けた人について、数年間の期限付きで入国を認める。
 さらに日本国内の病院や介護施設などで働きながら研修して、日本の看護師か介護福祉士の国家試験に合格すれば、正式に就労できる仕組みとする方針だ。
 外務省はフィリピンなどでの日本語研修を国際交流基金を通じて援助するために、二〇〇五年度予算の概算要求で、約15億円のFTA関連予算を盛り込む。
 フィリピンは、年間約一万二千人の看護師や約五千三百人の介護士を世界各国に送り出しており、海外での就労が重要な外貨の獲得源となっている。
 しかし、日本の現行制度では、看護師は「研修」として四年以下の就労が認められているだけで、介護士は在留資格そのものがない。
 フィリピンは、アロヨ大統領が六月に川口外相と行った会談で、「農業の自由化よりも、人の移動(フィリピン人労働者の受け入れ)に重点を置いて協定を結びたいと考えている」と強調するなど、日本の受け入れに対する期待感は大きい。年間の受け入れ人数や日本の資格が必要な点に関してフィリピン側が難色を示す可能性もある。

 〈ODA〉 
 ◎Official Development Assistance
 特定の開発途上国に行う「二国間援助」と、国際機関への出資などによる「多国間援助」に大別される。二国間援助には、低利で長期の融資を行う円借款や、資金を贈与する無償援助、技術協力がある。



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2004年9月7日(東京朝刊解説)「[論陣・論客]看護・介護職 外国人受け入れ 井口泰氏VS河北博文氏」


日本が進める東アジア諸国との自由貿易協定(FTA)交渉で、看護・介護分野での外国人労働者の受け入れが、限定的ではあるが現実味を帯びてきた。労働政策と医療現場の専門家はどうみているか。       (聞き手・解説部 永峰好美)
◇井口泰氏

◆枠拡大なら制度改革を
 ――受け入れ検討が進んでいる背景をどう考える。
 井口 医療・介護分野の労働需給は、当分の間国内で均衡できると、厚生労働省は試算する。だが、現場ではすでに人手不足が問題になっており、受け入れを希望する医療機関が名乗りをあげている。少子高齢化の進展で、人手不足は深刻化するとの見方もある。また、今年始まった東アジアとのFTA交渉で、特にフィリピンから受け入れを強く求められた経緯がある。
 ――現状は?
 井口 外国人が医療の仕事に就く場合、日本の国家資格取得が条件だ。日本語の習得に加え、日本の医大や看護学校などを卒業する必要があり、ハードルは高い。その後も、研修生として四年以内の就労しか認められない。介護に関しては在留資格がない。
 ――研修が認められる人はどのくらいいるのか。
 井口 毎年一、二人程度で、門戸は事実上閉ざされている。外国人を安易に入れることには賛成できないが、日本語を熱心に学び、日本の資格に相当する能力があると判断された人には、仕事を続けられる仕組みが必要だと思う。
 ――海外はどうか。
 井口 フィリピン人の場合、多くの看護師が米国や英国、サウジアラビアなどで働いている。しかし、資格を持っていても、台湾やシンガポールでは、看護助手やホームヘルパーのような仕事をする人が多い。タイ人の場合、看護師の資格を持たなくても、送り出し機関で半年程度の研修を受けて、家事援助や老人介護の現場で働いている。
 ――内閣府の世論調査で、約半数が、介護に携わる外国人受け入れを「認めない」と答えた。理由の第一は、日本語の問題だった。 井口 地方の病院は外国人の雇用に積極的なのに、英語の表示さえない。日本人看護師と対等な立場で仕事をするには、漢字一千字程度は読める日本語能力試験で二級の実力は必須だ。
 ――ほかに問題は?
 井口 フィリピン人やタイ人は「情が深く献身的に働く」と海外で評判がいい。だからといって、外国人看護師を二級市民扱いして、低賃金や長時間労働を強いる事態が起こるならば、受け入れる意味はない。
 ――介護職については。
 井口 日本は、高度な知識や技術を持つ外国人は受け入れるが、いわゆる単純労働者は入れないというのが基本的な姿勢だ。国内で専門職としての地位が固まっていない介護職の受け入れは、看護師と分けて慎重に議論すべきだ。一般のホームヘルパーはパートが多く、年収200万円前後。生活は苦しい。在宅介護では、お年寄りの生活習慣や地域の情報に通じている必要があり、介護福祉士の資格を取っても、現場のヘルパーをまとめる役割は外国人には難しいだろう。
 ――フィリピンとの交渉では、看護師・介護士それぞれ毎年百人受け入れの枠が伝えられているが。
 井口 人数を抑えて対応するのは、現行制度では様々な社会問題が発生する恐れがあり、それを回避する当面の措置という性格が強い。これで、フィリピン側が納得するかは予断を許さない。大量に受け入れることになれば、入国後の就労管理など根本的な制度改革が求められる。
 ――根本的改革とは。
 井口 市町村における現行の外国人登録制度は十分に機能していない。一度登録すると、現住所や就職先が変わっても本人の所在がつかめない。これでは、外国人労働者の権利確保にも不法残留の防止にも限界がある。入国・在留、就業の情報を一つにデータベース化し、関係機関が利用できる仕組みづくりが必要だ。長期的なビジョンをもって検討してほしい。      ◇
◇いぐち・やすし 関西学院大学教授。旧労働省外国人雇用対策課長などを経て現職。専門は労働経済学。著書に「外国人労働者新時代」など。50歳。

◇河北博文氏
 ◆医療サービス改善 期待
 ―現場の人手不足は深刻か。
 河北 日本では、病院の職員配置基準が決められていて、それに照らせば、たいして不足していない。ただし、国の作ったこの基準では利用者が満足できるような診療を提供できない。その意味で、人手は大いに不足している。都市部も地方も状況は同じだ。
 ――どのくらい足りないのか。
 河北 日本の病院は、一人の入院患者に対し平均して一・〇人の職員(医師、看護師、その他専門職、事務職を含む)しか配置されない。病院は二十四時間動いているのだから、一人八時間勤務として少なくとも三・〇人は必要だ。ちなみに、米国は六・〇人、英国三・五人、独・仏は二・五人。日本は少なすぎる。
 ――看護師の離職率の高さも問題になっている。
 河北 百床あたりの看護職員数は日本は米国の五分の一。一人の仕事の負担が重く、夜勤が月に七、八回では、離職も無理はない。
 ――外国人看護師らの受け入れについては。
 河北 進めるべきだと思う。人の移動の自由は時代の流れだ。労働力の需要があるから看護師もやって来る。グローバル化が進んだ今、日本だけかたくなに門戸を閉ざすのはおかしい。
 ――慎重論もあるが。
 河北 一般的に、過渡期は様々な混乱があるだろう。だが、外国人との競争で、国内の医療サービスの構造改革を促す効果も期待できる。日本社会全体の活性化にもつながる。
 ――受け入れにあたって留意することは何か。
 河北 外国人だからと、安く雇おうとしてはいけない。日本語を話し、日本の看護師と同じ資格をもつ外国人は、同賃金で雇用するのが基本。日本人自身の賃金を守ることにもなる。
 ――外国人看護師を育てたことがあると聞いた。
 河北 九年前、知人の紹介で中国ハルビンから留学生三人を看護学校に迎えた。日本語学習の盛んな旧満州(中国東北部)の高校から選抜した。卒業後四年間の就労を経て、二人は日本に帰化し、現在も働いている。高齢の患者さんも違和感を感じていなかった。
 ――その経験を通じて必要と感じたことは。
 河北 日本語の勉強はある程度出身地で終えるのが合理的だ。ODA(政府開発援助)を使って日本語研修を行うのがいい。フィリピン人看護師の研修をした時、「英語が話せるのになぜ日本語まで勉強しなければならないのか」と不満が出て、長続きしなかった。
 ――課題はないのか。
 河北 国際会議でマレーシアの代表から、「看護師を養成しても、英語が話せる人はアメリカに行ってしまい、国内の医療水準が上がらない」との問題提起があった。看護師の八割以上が海外で働くフィリピンでも同様の問題が浮上していると聞く。送り出し国への配慮も欠かせない。
 ――介護職はどうか。
 河北 二〇二五年には介護関連の働き手が百万人以上不足するとの推計がある。ホームヘルパーなど介護職の受け入れも積極的に進めるべきだ。介護にはそれほど専門性を期待しないから、日本の資格を求める必要はないと思う。その分、賃金は低くなるだろう。在宅介護で、住み込みのホームヘルパーを雇えるようになり、それは、介護疲れの解消などにもつながる。
 ――長期的にみると?
 河北 看護や介護の分野で外国人受け入れのルールづくりが進めば、他の分野の参考になるだろう。外国人を一時的な出稼ぎ労働者とみるか、将来の定住を見越して日本社会の営みの中に組み込まれた存在として考えるか。「国のかたち」について本格的な議論が求められている。     ◇ 
◇かわきた・ひろぶみ 医療法人財団河北総合病院理事長。東京都病院協会会長。総合規制改革会議では医療分野の専門委員を務めた。54歳。  
(寸言)
◆介護現場からも発言の時
 近い将来、病院や自宅で、フィリピン人やタイ人から介護を受けるのが、ごく日常の風景になるのか……。私たちにとって身近な問題が、通商交渉の場で検討されている。
 政府は、看護・介護職の外国人の受け入れ枠を設けた上で研修を義務づけ、就労には日本の国家資格を条件とするといった仕組みの導入を考えているようだ。「外国人を入れると給与水準が下がる」など、強硬に反対していた日本看護協会も最近、条件をのむ方向で容認の立場に転じている。両氏の意見が分かれたのは、介護職についてだ。日本人の働き手にも看護師並み労働条件を保障できない現状では、リスクが大きすぎる。介護の現場も発言する時ではないか。



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2004年9月16日(東京朝刊A経)「看護師受け入れ問題 日本の国家資格取得が条件 フィリピンも同意」


フィリピンとの自由貿易協定(FTA)交渉で焦点となっているフィリピン人看護師、介護士の受け入れ問題で、政府は十五日に開かれた自民党の「FTAに関する特命委員会」で、日本の国家資格の取得を条件とする方針を説明し、フィリピンもこの条件については同意していることを明らかにした。
 政府は「国民の肉体や生命にかかわるので日本の国家資格取得が条件。フィリピンもこの条件をのむと言っている」と説明した。
 日本は今後、政府開発援助(ODA)を活用して日本語研修を行うなど、受け入れの枠組みをフィリピンに示す見通しだが、受け入れ人数の制限などにフィリピンが反発し、難航することも予想される。



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2004年9月21日(東京朝刊3面)「[社説]FTA交渉 経済連携拡大に「戦略」が必要だ」


日本経済の活力を高めていくために、アジア諸国と経済連携を強めていかねばならない。
 フィリピン、タイ、マレーシアの東南アジア三か国との二国間の自由貿易協定(FTA)締結交渉が、年内合意に向けて山場を迎えようとしている。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTAを含む包括的な経済連携に向けた交渉も、来年四月から始めることが決まった。インドとも、交渉開始へ年内に次官級の準備協議を開く。
 世界レベルの貿易自由化を目指す世界貿易機関(WTO)の新ラウンド(新多角的貿易交渉)合意が遠のく中で、二国間など地域間で自由化を進めるFTA締結が、アジアを含め世界の潮流だ。
 日本はその流れに乗り遅れている。協定を結んだのはシンガポールだけだ。二つ目のメキシコとの協定は、十八日に両国首脳の署名を終えたところだ。
 フィリピンなど三か国と協定締結で速やかに合意し、続いて交渉中の韓国や、インド、ASEANとの経済連携の枠組み作りに弾みをつける必要がある。
 交渉で焦点になっているのは、農業と労働の分野での日本の市場開放だ。
 農業分野で、三か国はコメやバナナなど熱帯果実の対日輸出拡大を、労働の分野では、看護師や介護士、マッサージ師などの受け入れを強く求めている。
 だが、日本側は、農産物売り上げや雇用に影響が出るとする国内の関係団体や族議員、所管官庁の強い抵抗を背景に、受け入れに消極的だ。
 工業品の関税撤廃などで日本の主張を通すには、農業や労働市場の開放で積極的な対応が要る。そのために、国内政策と連動した通商交渉の戦略を確立せねばならない、と以前から言われてきたが、取り組みのテンポは遅い。
 農業については、農水省が、市場開放に耐える競争力確保を狙いとした農政改革の検討を始めている。八月の中間報告で農家に対する直接支払い制度の導入を打ち出したが、具体策はこれからだ。
 労働市場では、政府は一九九九年に、専門・技術職十四業種に限って開放を進める方針を閣議決定している。だが、具体的にどう進めるのか不明のままだ。
 年初に閣議決定した「構造改革と経済財政の中期展望」で労働市場開放促進の方針を明記したのを機に、十四業種以外の看護師や介護士についても早期開放の期待が高まっている。開放は「外」だけでなく「内」からの要請でもある。
 国としての戦略を欠き、"個益""省益"に引きずられ小出しの妥協を繰り返す。そうした手法から決別する時だ。



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2004年10月26日(東京朝刊A経)「日比FTA締結交渉 看護師ら受け入れ、比に政府案提示へ」


日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)締結を目指す政府間交渉が二十五日、マニラで始まった。日本は交渉期間中に、最大の焦点である看護師と介護士の受け入れ案を正式に提示する見通しだ。労働者の受け入れ問題は今交渉で大筋合意する可能性もある。     ◇
フィリピンのアロヨ大統領は二十五日、日本との交渉で求めているのは、介護士とIT(情報技術)専門家の労働市場開放であり、「無理に日本に看護師を送り込む交渉をする必要はない」と述べた。フィリピンはこれまで看護師の市場開放も強く求めてきたが、別の分野に重点を移したと見られる。(マニラ=中谷和義)



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2004年10月28日(東京夕刊夕2面)「日比FTA、介護士受け入れで新提案 入国後の養成・資格取得も」


日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)交渉の焦点になっている介護士の受け入れ問題で、日本がフィリピンに対し、入国後に日本国内の専門学校などの養成機関で学び、介護福祉士の資格を取得することを認める新提案を示したことが二十八日、明らかになった。これまでは、原則として介護士の有資格者に入国を認めたうえ、日本の国家試験に合格することを条件にしていた。フィリピンは介護士の受け入れを、看護師と並ぶ重点要求に掲げており、今回の門戸拡大によってFTA交渉が大きく進展する可能性もある。
 新たな提案は、〈1〉フィリピンの四年制大学の卒業者を選抜し、日本への入国を認める〈2〉専門学校など日本の介護士養成機関で二―四年程度受講する〈3〉卒業によって介護福祉士の資格を取得し、就労する――ことが柱だ。
 日本国内では、国家試験を受験しなくても、養成機関を卒業することで介護福祉士の資格を取得できる制度がある。このため、日本はフィリピンに対しても、有資格者らを対象とした「受験コース」とは別に、大卒者向けの「養成コース」も設けることにした。
 ただし、日本で生活しながら養成機関に通うには、多額の費用が必要なため、「利用できる人が限られる」との見方もある。年間の受け入れ枠を百人程度とする案をめぐっても、両国の主張は分かれている。



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2004年10月28日(東京朝刊A経)「マレーシア、タイ、フィリピンとのFTA交渉正念場 「合意」時期にズレ?」


◆看護師ら扱い比と大詰め 受け入れ人数焦点
 日本がフィリピン、マレーシア、タイと進めてきた自由貿易協定(FTA)交渉が正念場を迎えている。二十七日は、マニラで行われたフィリピンとの交渉で、特に日本側にとって大きな課題である看護師、介護士の受け入れ案を正式に示した。十一月下旬の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせてFTAの大筋合意を期待する声が高まる一方、タイとの交渉では越年が予想されるなど、相手国との「進度」の差も鮮明になりつつある。
■フィリピン
 日本がこの日、正式にフィリピン側に示した看護師と介護士の受け入れ案は、原則としてフィリピンの資格保有者らを選抜して入国を認め、日本の国家資格を取得した上で就労することなどが柱となっている。
 これまでの交渉で、両職種とも、日本での就労条件として、フィリピンでの資格保有者らが日本の国家資格を取得する必要があるとの点ではほぼ合意している。
 さらに看護師については、この日、日本が示した〈1〉法相が個別の活動を判断して在留を認める「特定活動」の在留資格で入国する〈2〉国家試験に合格すれば在留資格の更新が可能――などの項目でも、早ければ今週末にかけての交渉で大筋で合意する可能性がある。日本政府内でも「韓国を加えたFTA交渉中の四か国で最も合意に近い」(官邸筋)と期待する声が強い。
 看護師と介護士の就労で、残された大きな課題が、受け入れ人数だ。日本は看護師、介護士とも、各百人程度を年間受け入れ人数の上限としたい考えだが、「フィリピンの希望と隔たりはかなり大きい」(交渉筋)といい、日本は二十七日の交渉で受け入れ人数について明示しなかった模様だ。
 このため、今週末までの交渉では、両国が日本の国家資格の取得などを条件とする受け入れの枠組みで合意することを優先させ、具体的な受け入れ人数は今後の調整に委ねる可能性が高い。
 他の分野では、フィリピンは日本の望む自動車や鉄鋼の関税撤廃に難色を示す一方、これまで日本に求めてきたバナナやパイナップルに加え、砂糖やマグロも自由化を要求し、難航している。今回の交渉で、双方がどこまで歩み寄れるか注目される。

■マレーシア
 日本が強く望む自動車の関税撤廃がポイントだが、マレーシアが自国の自動車産業を保護、育成する「国民車」政策が壁となっている。一月からの交渉で日本は関税などの早期撤廃を求めたが、マレーシアは原則例外扱いとするよう主張し、十一月四―六日に予定される交渉も「自動車は進みにくい」との観測が多い。
 ただ、昨秋首相に就任したアブドラ氏は国内市場の開放に比較的前向きだ。年内には自動車政策を開放的な方向で見直す方針で、これをきっかけに交渉が進展し、「年内の大筋合意も可能」(経産筋)との見方もある。

■タイ
 農産品の自由化が焦点のタイとの交渉は、二十五日の交渉で、最大の障害と見られたコメを関税撤廃の例外扱いとすることで合意した。
 ただ、タイは引き続き、鶏肉、砂糖、でんぷんの三品目などの関税撤廃を強く求めており課題も多い。「来年二月のタイ総選挙までタクシン首相は思いきった決断ができない」(外交筋)との指摘もあり、交渉の行方は不透明だ。
 十一月二日には、日本経団連が奥田碩会長を団長とする経済ミッションを三か国に派遣する。各国首脳らと会談し、早期合意への機運を高めたい考えだ。



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2004年10月30日(東京朝刊A経)「日比FTA交渉 「看護師・介護士」大筋合意、締結へ前進」


【マニラ=菊池隆】日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)締結を目指す政府間交渉は二十九日、マニラでの五日間の日程を終え、焦点の一つだったフィリピン人看護師、介護士の日本への受け入れの枠組みについて大筋で合意した。対立点として残る受け入れ人数などは次回協議に持ち越すが、フィリピン側が強く求める農水産物の市場開放でも今後の重点対象を絞り込むなど、「交渉は大きく進んだ」(フィリピン政府幹部)としている。日本政府関係者は十一月末までに、首脳間でFTA締結の合意を交わせる可能性が高まったとみている。



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2004年11月4日(東京朝刊B経)「アロヨ大統領、奥田会長とタッグ!? 日・フィリピンFTA交渉」


【マニラ=菊池隆】フィリピンのアロヨ大統領は三日、同国を訪問した日本経団連の奥田碩会長らと会談し、日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)交渉について、「農水産品の対日輸出や、日本によるフィリピン人看護師、介護士の受け入れ問題などで柔軟な対応を示すよう(事務方に)指示した。互恵的な合意を期待している」と述べ、早期決着に強い意欲を示した。十一月末にも首脳間で合意したい意向を示したものとみられる。
 看護師と介護士の受け入れ問題では、「介護士は日本人看護師を手助けできる。看護師より受け入れやすいのではないか」として、介護士の門戸開放により関心を持っていると強調した。両国はすでに受け入れの枠組みについて大筋で合意しているが、残る課題の年間受け入れ人数について、日本が看護師、介護士で各百人程度としたいのに対し、フィリピンが特に介護士で大幅な上積みを求める可能性がある。
 また、日本に対し、「工業製品の分野で柔軟性を示して欲しい」と要請し、日本からの自動車、電機などの投資を促進して、フィリピンが「輸出拠点」となることを希望した。
 これに対し、奥田会長は「先週の政府間交渉は、年内合意に向け大きな進展があったと聞いた。喜ばしい」とこたえた。さらに、フィリピン側の投資環境を整備するため、「規制の透明性確保に向けて官民でつくる協議機関を設置したい」と提案し、アロヨ大統領も同意した。日本経団連の東南アジア訪問団は今後、マレーシア、タイ、インドネシアを訪問し、各国首脳と会談する。



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2004年11月13日(東京朝刊2面)「日・比FTA 農業分野も大筋決着」


【マニラ=菊池隆】日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)交渉は、マニラで開いた十二日までの次官級交渉で、焦点となっていたフィリピン産農水産品の市場開放問題について大筋で決着した。鉄鋼など鉱工業品の取り扱いは、週明けに担当次官級の交渉を開いて最終調整に入るが、最大の懸案だった農業分野が山を越えたことで、十一月末にも首脳間でFTA締結について基本合意する可能性が高まった。FTA締結が決まれば、日本にとってシンガポール、メキシコに続く三か国目となる。
 フィリピン側は砂糖、バナナ、鶏肉、マグロなどの農水産品で日本の市場開放を要求してきたが、FTAの早期締結を唱えるアロヨ大統領が柔軟姿勢に転じた。
 フィリピンが求めていた砂糖の関税撤廃については四年後をメドに再協議するほか、鶏肉は関税を段階的に引き下げる方向となった。完全撤廃を求めていたパイナップルやバナナも、日本が提示した低関税枠の設定など妥協案を受け入れる意向を示した。
 日本とフィリピンのFTA交渉は、当初懸案だったフィリピン人看護師、介護士の受け入れ問題は、すでに大筋で決着しており、農水産分野の大筋決着で締結に向けて大きく前進する。
 両国は十一月末にラオスで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の首脳会議の際に、FTA締結の首脳間合意に持ち込みたい考えだ。



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2004年11月16日(東京朝刊生活C)「[特派員メール]フィリピン 高給目当て医師流出深刻」


今年二月、妻がマニラで長女を出産した。お世辞にも高いとは言い難いフィリピン医療の水準を考えると、かなり不安だった。だが、日本に戻って産めば最低でも半年は家族離ればなれになる。「一流病院を選べばマニラでも大丈夫」という日本人医師の言葉を信じることにした。無事に生まれた長女を見て「賭けに勝った」と、ほっとした。
 しかし、今後この種の賭けは、患者にとってますます危険なものになりそうだ。医師が高給にひかれ、大挙して海外流出。国内に残る医師のレベルが下がっているからだ。ここ五年は先進国の看護師不足に目をつけ、医師が看護師に転身して海外で就職する例が増えている。なにしろ国内の医師の年収は50万ペソ(約100万円)程度。一方、米国で看護師として働けば最低でも5万ドル(約525万円)は稼げるのだ。
 看護師に転身した医師は、二〇〇二年で二千人、昨年は三千人。今年は四千人に達する見込みだ。ネグロス島やミンダナオ島で医師不足で廃業に追い込まれる病院も出始めた。
 こうした流れを食い止めようと、フィリピン内科医協会は今年九月、「今後三年は国内にとどまる」との誓約書に署名するよう医師に求める運動を始めた。発案者のウィリー・オン医師(41)によると、これまでに同協会員の六分の一にあたる約千人が署名した。
 もちろん、誓約書には何の拘束力もない。「自らの意思を公言することで、国内で働こうという意識が高まる」との心理的効果を狙ったものだ。フィリピン大学が十一月から国内医療史の講座をもうけたのも、若い医学生の愛国心を刺激し、国内にとどまらせるためだ。
 日本は今年十月、フィリピン人看護師・介護士受け入れで原則合意した。マニラの介護学校では一足早く日本文化の授業を取り入れたところもある。医師免許を持った看護師・介護士はいずれ日本にも向かうだろうが、フィリピン国内の医師不足をふまえ、貴重な人材を日本が横取りした、と思われないよう注意すべきだろう。(マニラ・中谷和義)



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2004年11月17日(東京朝刊B経)「日比FTA交渉 看護師らの受け入れ人数明記見送りへ」


【サンティアゴ=中川賢】日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)交渉で、焦点のフィリピン人看護師、介護士の受け入れ人数について、両国が今月末の実現を目指している首脳間の合意の段階では、明記を見送る方針を固めたことが十六日、明らかになった。
 両国は日本の国家資格の取得を条件とするなど、受け入れの枠組みで大筋合意している。ただ、日本が看護師、介護士とも年間の上限人数を各百人程度に限る考えなのに対し、フィリピンは、より多くの受け入れを求めて意見が一致していない。



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2004年11月19日(東京夕刊夕1面)「日比FTA大筋合意 月末の首脳会談で正式合意の見通し」


【サンティアゴ=中川賢】中川経済産業相とフィリピンのセサール・プリシマ貿易産業相は十八日夜(日本時間十九日朝)、両国の自由貿易協定(FTA)交渉で最後の主要課題として残っていた鉄鋼の関税撤廃についてチリのサンティアゴで再協議し、大筋で合意した。フィリピン人看護師らの受け入れや農業分野の市場開放などに続き、鉱工業品分野も決着したことにより、両国が日比FTAの締結で事実上合意したことになる。月末にラオス・ビエンチャンで予定されている首脳会談で正式に合意する見通しだ。
 日本にとって、フィリピンはシンガポール、メキシコに続く三か国目のFTA相手先で、看護師と介護士の受け入れという労働市場の一部開放を含む初のFTAとなる。並行して進めているタイ、マレーシア、韓国との交渉にも弾みがつきそうだ。
 交渉筋によると、鉱工業品分野のうち、自動車関税についても、一部は即時撤廃するのをはじめ、その他の自動車も段階的に引き下げ、将来的には撤廃することで合意した。
 会談後に記者会見した中川経産相は「鉄鋼分野について、私の提案に基づいてフィリピンが大統領の了承を得て合意した。最も難しく、大きかった鉄鋼について知恵を絞り、仕事は一段落した」と話した。
 両閣僚は十七日に会談したが、鉄鋼の関税撤廃を求める日本と、多くは例外としたいフィリピンとの主張の溝は埋まらなかった。
 十八日の再協議では、フィリピンが例外とする品目数を絞り込み、撤廃への期間も短縮するなど、歩み寄る内容を示した模様で、日本側も大筋で受け入れることを決めた。



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2004年11月20日(東京朝刊B経)「FTA交渉 比と大筋合意 日本、出遅ればん回狙い 初の労働市場、一部開放」


【サンティアゴ=中川賢】中川経済産業相とフィリピンのセサール・プリシマ貿易産業相が十八日夜(日本時間十九日朝)、二日連続の交渉の末に自由貿易協定(FTA)を締結することで事実上合意した背景には、月末にラオス・ビエンチャンで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の首脳会議までに正式合意の道筋をつけたいとの両国の事情があった。
 日本にとっては、フィリピンはシンガポール、メキシコに続く三か国目の相手先だが、看護師らの受け入れという労働市場の一部開放を含む初のFTAとなるだけに、運用には難しさも伴いそうだ。
 十八日夜に始まった二回目の閣僚協議は二時間近くに及んだ。中川経済産業相は同夜の帰国便を急きょキャンセル、フィリピンのプリシマ貿易産業相もアロヨ大統領と度々連絡を取り、最後までもつれていた鉄鋼関税撤廃の問題で、ぎりぎりのタイミングで譲歩した。
 日本が決着を図ったのは、欧米に出遅れたFTA戦略で巻き返したいとの狙いがある。日本はタイ、マレーシア、韓国とも並行して交渉を進めているが、年内の合意が確実なのはフィリピンだけ。ラオスでの首脳会議は、ASEANと日中韓の首脳が外交成果を披露する大舞台になるだけに、「事前にフィリピンとの合意を固めておく必要があった」(官邸筋)。一方、フィリピンにとっては、日本が二国間で初のFTA締結先で、「外交上の得点となるアロヨ大統領が合意を急いだ」(交渉筋)とされる。
 ただ、大枠での合意を優先したため、農業分野では、砂糖の扱いについては四年後をめどに再協議することになっているほか、フィリピンが重視する労働市場の開放でも、看護師、介護士の受け入れ人数は先送りした。首脳間合意の後も火種になりかねない要素を抱えている。

◆受け入れ看護師 "即戦力"化は疑問も
 日本とフィリピンの間で事実上合意したFTAは、フィリピン人看護師の受け入れなど労働市場の一部開放を初めて盛り込んだのが大きな特徴だ。
 これまで外国人看護師は日本の国家資格を取得しても最大四年の在留しか認められず、外国人介護士は在留できなかった。FTAの締結により、フィリピン人看護師は、日本の国家資格を取得すれば在留期間が更新できるほか、介護士を希望する者は日本の専門学校などの養成機関を経て資格を習得すれば長期就労が可能となる。地方では看護師を確保するのに苦慮している病院も多いだけに、フィリピン看護師の活躍を期待する向きもある。
 ただ、受け入れ人数について、フィリピン側が数千人を要求するのに対し、日本側は数百人程度にとどめたい考えだ。言葉の問題などから、フィリピン人が日本の国家資格を取得するのも簡単ではないと見られ、すぐに多くのフィリピン人が活躍するかは不透明だ。
 また農業分野の影響は限定的との見方が強く、農水省はコメなど重要品目は譲らず、他品目でも限定的な輸入枠設定にとどめた今回の結果を今後のFTA交渉のモデルにしたい考えだ。
 一方、フィリピン側には、自動車や電機を中心に日本からの直接投資が拡大することへの強い期待感がある。投資ルールの整備も約束されたため、日本からの輸入鋼板を使っての自動車生産などがやりやすくなると見られ、タイなどに続いてフィリピンが日本企業の生産基地になる可能性も出てきた。(渡辺達也、シンガポール 菊池隆)  

 《日本・フィリピン FTAの骨子》
〈看護師・介護士〉
フィリピン人看護師・介護士について、日本の国家資格取得を条件に長期就労を認める
〈農業分野〉
日本はパイナップルに無税枠、鶏肉には低関税枠を設定し、バナナは10年で関税2%引き下げ。砂糖は4年後に再協議
〈鉱工業品〉
フィリピンは自動車用鋼板などは段階的に関税撤廃、鉄鋼は一部関税撤廃例外も。自動車、自動車用部品は2010年までに関税撤廃 



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2004年12月2日(東京朝刊3面)「[社説]日比FTA 戦略なき"自由化"の限界が見えた」


日本がフィリピンと進めてきた自由貿易協定(FTA)を柱とする経済連携協定の締結交渉が、小泉首相とアロヨ大統領の首脳会談で基本合意した。
 日本にとってシンガポール、メキシコに続く三か国目のFTAだ。看護師の受け入れなど日本の労働市場の開放を含む協定は初めてである。
 政府によると、鉱工業品や農水産品の貿易額でみて九割以上の関税相互撤廃を進めることで合意した。建設、運輸などサービス分野でも、日系企業への市場開放が進められる。
 これまでに締結した二つの協定と比べれば、自由化の対象が広がるなど前進したようにみえる。だが、双方が自由化を強く希望していた分野についてみると、タイやマレーシア、韓国と交渉を進めているFTAのひな型、と誇れる内容には必ずしもなっていない。
 日本の国家資格取得などの条件付きで看護師、介護士の受け入れは決まったが肝心の受け入れ人数は、両国の溝が埋まらず、先送りされた。
 農水産分野でも、フィリピン側が最重要としていた品目のうち、砂糖は自由化について四年後に再協議することとし、鶏肉も低関税枠の設定にとどまった。
 利害関係を持つ業界団体や生産者、族議員、所管の厚生労働省、農林水産省などが、自由化に強く抵抗したためだ。
 一方で、日本側が強く求めていた鉄鋼の関税撤廃は、フィリピン側が難色を示し、一部品目が対象から除かれた。日本がフィリピンに砂糖先送りなどで妥協を強いた"見返り"との見方もある。
 このような交渉の過程で明確になったのは、日本の国としてFTAをどう進めるかという、基本戦略の欠如だ。日本の経済・社会が安定成長を続けていくために、貿易、投資、労働など幅広い分野でどのようなテンポ、内容で、市場の相互開放を進めていくのか。
 タイなどとの国別の交渉に続いて、東南アジア諸国連合(ASEAN)との交渉も来年四月からの開始が決まった。だが、国としての戦略を欠いたままでは、国内の関係団体や族議員、所管省庁の個益や省益に引きずられ、国益から離れた名ばかりのFTAになりかねない。
 竹中経済財政相は、労働分野も含めたFTAに関する政府の基本戦略を経済財政諮問会議で検討し、来夏までに決定する方針を表明している。
 国益に沿うFTA実現の戦略を、来夏と言わず一刻も早く策定するべきだ。そして、国別、さらにASEANとのこれからの交渉に、反映させて行かなければならない。

*作成:永田 貴聖
UP: 20100412
ケア/国境 関連新聞記事2005 見出し  ◇ケア/国境 関連新聞記事  ◇ケア/国境
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