「人間というものは、人間のたんなる生命とけっして一致するものではないし、人間のなかのたんなる生命のみならず、人間の状態と特性をもった何か別のものとも、さらには、とりかえのきかない肉体をもった人格とさえも、一致するものではない。人間がじつにとうといものだとしても(あるいは、地上の生と死と死後の生をつらぬいて人間のなかに存在する生命が、といってもよいが)、それにしても人間の状態は、また人間の肉体的生命、他人によって傷つけられうる生命は、じつにけちなものである。こういう生命は、動物や植物の生命と、本質的にどのような違いがあるのか? それに、たとえ動植物がとうといとしても、たんなる生命ゆえにとうといとも、生命においてとうといとも、いえはしまい。生命ノトウトサというドグマの起原を探究することは、むだではなかろう」(Benjamin, Walter 1921 Zur Kritik der Gewalt=19940316 「暴力批判論」,野村 修編訳『暴力批判論 他十篇――ベンヤミンの仕事1』,岩波書店:27-65)(引用はpp.62-63)