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ベーシックインカム(BI)に関する日本での議論

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last update:20120303

注:引用は本頁作成者(齊藤拓)の肯定的評価を必ずしも意味しません。
注:「目次」や「引用」の記述がない文献は本頁作成者が未読。著者の方々はよろしければtst05991@fc.ritsumei.ac.jp宛に電子ファイルか論文データをお送りください。なお、ここに載っていないもの以外にもBIに言及した著作・論文・記事等を書かれた方はよろしければお知らせください。
注:出版年月日の新しいもののみを更新するわけではありません。


*まず次の本の第3部「日本のBIをめぐる言説」を読んでいただければと。この頁は、そこでの紹介・記述を補う性格をもつものでもあります。
◆2010/04/10 立岩真也・齊藤拓 『ベー シックインカム――分配する最小 国家の可能性』、青土社、ISBN-10: 4791765257 ISBN-13: 978-4791765256 2310 [amazon][kinokuniya]  ※ bi.


◇出版年月日、著者名、タイトル、掲載紙(出版社)、巻号、頁数 (で 示したのは書籍)




◇2012.02 別所良美、「ドイツにおけるベーシック・インカム」、『哲学と現代』、第二七号、pp. 80-96.
・目次
1.ドイツのベーシック・インカム諸団体
2.「基本所得ネットワーク」のベーシックインカム理解の特徴
3.ドイツでの議論状況
4.ハルツ改革とは何か
5.反ハルツ改革として活性化したベーシック・インカム運動
 「完全雇用ではなく自由を」市民運動の意見表明
 ドイツ「基本所得ネットワーク」設立
 ドイツ語圏でのベーシック・インカム大会
 ドイツ・アタック「すべての人に十分なものを」WGの独立
 ゲッツ・ヴェルナーの登場
 ドイツ・カトリック労働者運動社団法人(KAB)
 政党内でのBI派の形成
6.おわりに

◇2012.02 齊藤拓、「日本のベーシックインカムをめぐる言説ver. 2」、『哲学と現代』、第二七号、pp. 60-79.
・目次
財源論
「労働」側からの異論
労働の権利?
コミュニタリアン
マイノリティ視点――ジェンダー、障害者
グローバルBI
BIの人間観
BI批判

◆2012.0110 小野一、『現代ドイツ政党政治の変容:社会民主党、緑の党、 左翼党の挑戦』、吉田書店.
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◆2012.01 山森亮編、『労働再審〈6〉労働と生存権』、大月書店.
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■2012
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◆2011.1222 小飼弾、『働かざるもの、飢えるべからず。 だれのものでも ない社会で、だれもが自由に生きる――社会システム2.0』、サンガ(サンガ新書).
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◆2011.1201 正田真知、『山師M――Mの旋律――』、文芸社.
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◆2011.1201 岡田斗司夫/福井健策、『なんでコンテンツにカネを払うの さ? デジタル時代のぼくらの著作権入門』、阪急コミュニケーションズ.
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◆20111125 宇佐見耕一/小谷眞男/後藤玲子/原島博、『世界の社会福祉年 鑑2011』(第11集<2012年版>)、旬報社.
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◆2011.1116 中川清/埋橋孝文(編著)、『生活保障と支援の社会政策』、 明石書店.
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◆20111115 堅田香緒里ほか編著、『ベーシックインカムとジェンダー――生 きづらさからの解放に向けて』、現代書館.
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◆20111110 伊多波良雄/塩津ゆりか、『貧困と社会保障制度――ベーシッ ク・インカムと負の所得税――』、晃洋書房.
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・目次
はじめに
第1章 地域の生活と福祉に関するアンケート調査の概要と標本特性
第2章 生活保護世帯の特徴
第3章 貧困の動態分析
第4章 負債からみた貧困の属性分析
第5章 資産保有からみた貧困の属性分析
第6章 資格取得者の属性分析
第7章 選別的社会保障手当と生活の意識
第8章 ベーシック・インカムと負の所得税
第9章 ベーシック・インカムと財源:最適税率の導出
第10章 ベーシック・インカムと負の所得税に関する意識調査
第11章 移行する社会保障
おわりに
参考文献
索引

◆2011.1102 圷洋一/金子充/西村貴直/畑本裕介/堅田香緒里、『社会政 策の視点:現代社会と福祉を考える』、法律文化社.
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◆20111101 香山リカ/橘木俊詔、『ほどほどに豊かな社会』、ナカニシヤ出 版.
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・引用
「いわゆる福祉国家論者のような、リベラルな立場の人は、わたしもそうですが、あまりベーシック・インカムには賛成していないんですよ。」(150) 「……、私の妥協案は、すべての世代にベーシック・インカムを支払う必要はないというものなんです。働くことのできない世代、つまり子どもやお年寄りには ベーシック・インカムを支給する。働くことのできる世代には支払わずに働いてもらう。私の意見では、世の中はすでにそういう方向に向かっています。子ども 手当も、そういう意味ではベーシック・インカムですからね。もちろん額はまだ少ないけれども、理論的にはベーシック・インカムだと言える。高齢者への基礎 年金や最低保障年金、一定額を高齢者に支払いましょうというのも、ベーシック・インカムの概念です。だから、部分的にはもうベーシック・インカムは実現さ れつつある、だからそれを発展させていこうというのが、私のアイデアです。」(151)「……、現役世代の社会保障制度は、ものすごくシンプルなかたち、 ととえば医療保険と失業保険だけに圧縮するべきだと思います。」(152)

◆20111011 関廣野、『フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権』、青土社.
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◇2011.10 有田正規、「科学通信 はみだし生命科学(No.8)研究者のベーシック・インカム」、『科学』、81(10): 982-984.
・引用
「 学術界の大ボスは多額の研究資金を工面できるし知名度も高い。そうした資金で雇用される若手研究者は当然ボスに逆らえない。……問題点は巷で言われる ような学術界の閉鎖性ではない。マスコミや政治家が現場を知らないボスとしか対話しないこと、そのようなボスたちが若手の将来を握っていることが問題なの である。」(983)
「 ベーシック・インカムとは、全国民に最低限の生活ができる現金をあらかじめ国が給付する制度である。歴史上この制度を採用した国家はないが、若手が声 をあげず民主化もされていない日本の学術界にはうってつけに思える。なぜなら、大型研究資金を獲得したボスが若手を囲い込む形式から、若手がボスを選ぶ形 式に移行できるからである。まず期間ごとの任期付研究員制度をやめて、日本学術振興会(JSPS)や科学技術振興機構(JST)に所属する独立研究員制度 に一本化してはどうだろう。そもそも、こうした機関が配布する研究費の6割が人件費である。それなら、学位をとった人にあらかじめ生活費と研究費(たとえ ば年間300万円)を配布してもよいのではないか(注6)。若手側は、食費を削って研究してもよいし、株式投資や求職活動に励んでもよい。この基本給に加 え、大学やとりわけ高校の授業、大学・研究所の運営業務、研究業務の報酬を追加手当として受け取る。研究の場合は採択された研究費の一部を給料として受け 取ってもよい。このほうが、若手研究者が安心して研究に打ち込めるのではないだろうか。独創性も伸ばせるのではないか。自分で科研費を取る自信がなけれ ば、ボスのプロジェクトに参加して手当を貰えばよい。行政側が融合研究や大型研究を促進したければ、若手にとって魅力的な手当を設計すればよい。教育や大 学運営への動機づけも同様である。市場原理を利用して基本給や授業料を大学ごとに調整すれば、研究者が特定大学に集中することも防げるはずである。」 (983)「平成21年度の大学等における研究費は私立も合わせて3.6兆円、その6割が人件費である……。サラリーマンの平均年収406万円より高い 600万円を年収としても36万人雇える金額が現在も使われている。この額に対し、大学等の研究関係従業者数は、任期付ポストや研究補助者だけでなく大学 院博士課程の学生まで含めて37万人である。」(984、注6)
「さらに一歩踏み込んで給料と研究費の境をなくせたら、事務手続きが大幅に減って革新的である。こうすれば若手が自主的に行動し、流動性も高くなる。アル バイト的な業務が多くなると収入の実態把握が難しく思われるかもしれないが、日本で競争的資金に申請できる研究者は全員、研究者番号と呼ばれる背番号を 持っている。現在でも、自分の教育および研究時間(エフォートと呼ぶ)の何パーセントをどの研究に費やすかを電子申請する仕組みである。これを授業や組織 運営に拡張することは、国民総背番号制に比較して、あるかに簡単なはずである。研究者のベーシック・インカムは社会実験としても実施する価値があるのでは ないか。」(984)

◇2011.10 飯田泰之、「最後の社会保障としてのベーシックインカム」、『個人金融』、6-(3): 12-19.
http://www.yu-cho-f.jp/publication/personalfinance/summary/2011autumn/feature_articles02.html
・要旨
「本稿では経済政策における再分配政策・社会保障の役割を整理し定義することを通じ、狭義の経済学の外で決定される再分配範囲・水準を実現する手段を探す ツールとしての経済理論の可能性を考える。再分配の範囲・方向性・規模等を決定する基準の一つとしては「事後保険」の思考法が有用である。そして何らかの 方法で合意された事後保険の範囲と水準に関して、その実現の制度的手段を設定する際には効率阻害最小化基準による判断が妥当であり、そこから導かれるのは 現金給付の優位性であることが示される。そして現行の現金給付制度の問題点を指摘することで、政策ツールとしてのベーシックインカムを紹介する。財源論の 立場からその実現可能性を危ぶまれるベーシックインカムであるが、手法如何によって十分に現実的な制度になり得ることを説明したい。」
・目次
1はじめに
2後払い保険としての社会保障
3効率面から考える社会保障支給の方法
 (1)再分配の3つの方法
 (2)選別的対象選択の困難
4ベーシックインカム
 (1)ベーシックインカム
 (2)代替的手法としての世帯単位BI
5考察
・引用
「……、現実の再分配問題を考えるに際しては「ある再分配」について無基準でいることはできない。再分配の方法そのものの根拠はパレート基準の外に求めな ければならないのだ。しかし、その再分配の基準に関して経済学の中で標準的な結論は得られていないように感じられる。[改行] 本稿では再分配の範囲・方 向性・規模等を決定する基準の一つとしての事後保険基準を提唱する。そして何らかの方法で合意された事後保険の範囲と水準に関して、その実現の制度的手段 を設定する際には効率阻害最小化基準による判断が妥当であり、そこから導かれるのは現金給付の優位性であることが示される。」(13)
「 生得の能力・性質や生育環境などに起因する格差の是正は後払い保険の性質を持っている。すると、どのような保険設計が望ましいかは、「(自身は五体満 足であるが)生来の障害をもっていたかもしれない」「(自分は裕福な家庭に生まれたが)貧しい家に生まれたかもしれない」といった想像の及ぶ範囲に依存す ることになる。…… 広い想像力と高い保証を望む人から極身近な範囲と低い保証で十分だと考える人まで、社会保障に関する選好は大きなばらつきがあると考 えられる。このような多様な選好のなかで行われれる合意がいかなる方向に落ち着くべきかを考えるのは経済学の範囲ではない。経済学が答え得るのは、なんら かの方法で形成された後払い保険の範囲と水準の効率的な実現方法を提示するところにある。」(14)
「 生活水準の比較の際にしばしば用いられるのが等価所得の概念である。これは世帯収入を√世帯人数で割ることで、異なる規模の世帯間の生活水準を比較す るという考えである。……[改行] 完全個人ベースのBIの早期実現は財源手当の面で国民的合意を得ることが困難であり、また個人ベースが望ましいか否か についても議論が分かれる。そこでここでは世帯単位のBIについて試算を行いたい。」(17)
「 世帯BIに要される総財源は73兆円となる。ここから先ほどと同様に老齢基礎年金国庫負担・子ども手当・一部生活保護予算による手当を考慮すると59 兆円の予算措置が要される。[改行] 第一の財源確保先として考えられるのが消費税である。社会保障目的税として10%の消費税を課すことで現行制度で 20兆円、インボイス方式の導入等による徴税の効率化の効果を織り込むことで25兆円の財源が確保される。[改行] 第二の財源確保先として想定されるの が資産への課税である。……[改頁]……、次の世代への「遺産の譲渡」を生涯最後の消費とみなし、これに配偶者以外への控除を撤廃し、一律20%の課税を 行うことで10兆円の財源が確保できる。[改行] 残る財源の不足は24兆円である。ここで老齢基礎年金が廃止されることに伴って基礎年金掛金の徴収も不 要となる点に注目しよう。近年では国民年金、厚生年金の基礎年金部分に関して年9兆円の年金掛金が徴収されている。したがって、実質15兆円の所得課税の 増加によって世帯BIは達成可能であることが分かる。」(17-8)

◆2011.0906 古市憲寿、『絶望の国の幸福な若者たち』、講談社.
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◆2011.0818 萱野稔人編、『最新日本言論知図』、東京書籍.
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◇2011.08 伊藤誠、「ベーシックインカム構想と社会主義」、『プランB』、34: 49-57.

◆2011.0725 「【特集】ベーシック・インカム」、『大原社会問題研究所雑 誌』、634号(2011年8月号).
   全文公開PDF→http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/634/index.html
◇2011.0725 成瀬龍夫、「ベーシック・インカムの魅惑と当惑」、『大原社会問題研究所雑誌』、634: 1-15.
・目次
はじめに
1ベーシック・インカムを社会保障に代替する理由
2生活保障とリスク・マネジメント
 (1)ベーシック・インカムの定義と所得保障の水準
 (2)社会保障制度の長所と短所
 (3)ベーシック・インカムとリスク・マネジメント
 (4)リスク社会の到来と新たなアプローチの必要性
3ベーシック・インカム構想における社会ビジョン
 (1)ベーシック・インカムの魅惑と当惑
 (2)生存権保障と新しい社会権
 (3)ベーシック・インカムと潜在能力アプローチ
4ベーシック・インカム構想の実現可能性
 (1)財源と社会的合意をめぐる可能性
 (2)展望――ベーシック・インカムの段階的な導入と拡大 
・引用
「……、ベーシック・インカムのような新しい社会権の成立を可能ならしめるには、新しい社会編成原理の認識が必要である。なぜなら、新しい社会権は、今日 の生活を支配している市場原理とそれを修正もしくは補完する公権力による計画原理に加えて、市民的な連帯の基盤となる協同原理の上に立つ社会権となるから である。」(11)
「……、2つの大きな壁がある。経営者団体と労働団体である。経営者については、国際的にはヴェルナーのような開明的な経済哲学を備えた人物が今後増えて いく可能性があるが、大企業の経営者団体にはまだベーシック・インカムへの関心は見られない。労働団体についても、部分的な関心が生じているが、ひろがっ てはいない。それは、両団体が社会保険制度のメリットに特別にこだわりやすいからである。両団体にとって、社会保険はいわば「社会賃金」の感覚で受け止め られる。両者は、市民共同体の感覚や責任を共有するものではなく、ともに企業共同体の利害の担い手としての連帯感を持ち、職域で成立する社会保険はそうし た連帯心を保ち、負担と給付についても対等な立場から緊密な利害調整をはかりやすい。」(13)

◇2011.0725 武川正吾、「ベーシック・インカムの理論と実践――日本の社会政策の場合」、『大原社会問題研究所雑誌』、634: 16-28.
・目次
はじめに
1BIの定義と解釈
2BIと必要原則
 BIに対する私の立場/ツールとしてのBI/必要原則の優先/BIと必要原則の親和性/善玉BIと悪玉BI
300年代におけるBIの受容
 前半の5年/後半の5年/隆盛の背景
4BI以前にやるべきこと
・引用
「BIENによるBIの定義は、これらの現在すでに存在している社会給付や、これまで提案されている社会保障プログラムが、そこからどれくらい離れた位置 にあるのかを測るための一つの基準を提供する、という点で重要である。本稿でもそのようなものとして利用したい。[改行」 なお、ここで「一つの」という のは、次節の「私の立場」ということにも関係してくるが、BIが社会政策を評価するさいの唯一最善の基準であるとは考えていないからである。社会保障プロ グラムは多様な観点から評価されるべきであるが、上記BIENによるBIの定義は、そのなかの有力な基準の一つであるとは思われる。」(19) 
「……BIに対する私の立場を、このさい明らかにしておくのが良いと思われる。あらかじめ箇条書きで記しておくと次のようになる。(19)[改行]・BI は社会政策のツール(道具)の一つである。[改行]・必要原則がBIに優先する。[改行]・良いBIと悪いBIがある。[改行]・BIは政策パッケージの なかでしか評価することができない。」(19-20)

◇2011.0725 山森亮、「東日本大震災と所得保障の必要性――ベーシック・インカム要求が喚起するもの」、『大原社会問題研究所雑誌』、634: 29-44.
・もくじ
はじめに
1震災復興計画における被災者への所得保障
2既存の社会保障制度の機能不全
3既存の制度と被災者の生活再建
4ベーシック・インカム
おわりに

◇2011.0725 新川敏光、「ベーシック・インカムというラディカリズム」、『大原社会問題研究所雑誌』、634: 45-57.
・目次
はじめに:視覚と課題
1労働と福祉の切り離し
2互恵性
3完全従事社会
結びにかえて
・引用
「本稿の課題は、このようなBIの思想としてのラディカリズムに対する最も強力かつ建設的批判である参加所得論を検討し、それがBIの自由主義的ラディカ リズムをコミュニタリアン的世界のなかに回収するものであることを確認する。[改行] したがって本稿での筆者の関心は、政策論にはない。格差社会への対 応策としてBIが脚光を浴びたことを考えれば、政策的実現可能性を検討することこそが多くの論者の関心であろう。しかし政策論レベルでの議論は、BIを現 行の社会政策に並ぶ、あるいはそれを補完する政策の一つとして位(45)置づけることになりがちである。そのことによって、BIのもつラディカリズムは失 われ、BIは既存の福祉国家論のなかに回収されてしまう。」(45-6)
「しかし参加所得によるリカップリングは、所得格差による自由の格差をもたらす。参加所得を必要としない者とって、社会参加は任意である、つまり自由で ある。それに対して、賃労働だけで十分な所得を得ることのできない者は、参加所得を必要とするため、実質的に社会参加を強要されるからである。」(54)
「完全従事社会における賃労働と所得の切り離しは、BIとは全く逆の効果をもつ。有給雇用が相対化されることによって、社会的に認められる活動はすべて仕 事となり、十分な賃労働ができない者たちは、能力に応じて社会的貢献という仕事を課せられることになる。リカップリングとは、あらゆる社会活動に仕事とい う網をかけて、あたう限りの市民を包摂する、つまり動員を最大化する戦略である。完全従事社会では、仕事がより広く解釈されることによって、「働かざるも の食うべか(54)らず」という規範は、再強化されるだろう。たとえ労働力商品化が不可能でも、それ以外のできる仕事はやりなさいというメッセージが、そ こには含まれている。[改行] 仕事概念の拡張がもたらす効果は、ほかにも考えられる。広範な仕事の序列化・差別化である。一般的にいって、賃労働の世界 では、高い賃金をもたらす仕事は低賃金労働よりも上位にあるが、無給の活動はこのような序列の外にある。しかし完全従事社会では有給雇用以外の活動も、仕 事というカテゴリーのなかに収めるので、序列化の対象になる。」(54-5)

◆2011.0720 小林正弥、『日本版白熱教室 : サンデルにならって正義を考えよう』、文春新書.
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・目次
 第1講 功利主義-「ひかりごけ、原爆投下」の正義を考える
 第2講 リバタリアニズム-「ホリエモン、橋下知事、安楽死」の正義を考える
 第3講 リベラリズム-「貧困問題、ベーシック・インカム、イラク日本人人質事件」の正義を考える
 第4講 コミュニタリアニズム-「無縁社会、ウィキリークス、尖閣ビデオ流出事件」の正義を考える
 補講 白熱教室・中級篇-正義論の国際的展開へ
・引用
「……、私はベーシック・インカム論についてもサンデルの考え方を聞きました。マイケル・サンデル『民主制の不満(下)』を見ると、収入保証 (guaranteed income)についてリベラリズムの現れとして批判的に扱っている(206‐208頁)ので、それとの関連について伺ったのです。すると、“全ての人に まっとうな生活を保障する試みとしてのベーシック・インカムに反対しているわけではなく、福祉の1つの政策だと考えている”ということでした。ただ、“リ ベラリズムのように個人や権利を根拠とする福祉国家の正当化には反対であり、それで『民主制の不満』ではベーシック・インカムを支える個人主義的な論理を 批判した。コミュニティや分かち合いやお互いへの責任感に基づく福祉の正当化が重要であり、ベーシック・インカムにはそれらが必要である”というのです。 サンデルのベーシック・インカムに対する考え方はこれまでは明らかではなかったので、これは貴重な(252)発言と思います。」(252-3)

◇2011.0706 田村哲樹、「第11章 男性稼ぎ手型家族を基礎とした福祉国家からどのように脱却するのか?――ベーシック・インカム、性別分業、 民主主義」、田村哲樹・堀江孝司編『模索する政治 代表制民主主義と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版)、pp. 271-94).
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・目次
はじめに
一 ベーシック・インカムと性別分業
 BIを通じた性別分業解消の可能性
 BIへの疑義と代案
 BIかケア手当か?
 政治の重要性
二 性別分業の言説的基礎と熟議民主主義
 物質的基礎だけでなく
 性別分業と民主主義
 性別分業の言説的基礎――その可変性の理論化
 性別分業をめぐる言説間の対抗的熟議
三 家族における熟議民主主義の条件としてのベーシック・インカム
 民主主義のための条件へ
 ペイトマン・BI・民主化
 ペイトマンの議論をどのように評価すべきか
おわりに
・引用
「 BIとジェンダーに関する先行研究の多くは、BIと性別分業との関係に焦点を当てている。すなわち、そこで問われているのは、BIが性別分業――男性 稼ぎ手型家族はその具体的表象形態の一つである――の解消ないし是正に貢献するかどうか、という問題である……。また、BIと女性運動との結びつきを強調 す(272)る文献もある……。これに対して本章では、家族におけるジェンダー不平等の問題を、@性別分業という「物質的基礎」……そのものだけでなく、 Aコミュニケーション(家族レベルの熟議民主主義)という言語的・言説的な次元にも由来するものとして捉える。そのうえで、BIが、@とAの両者の改善に 寄与する可能性について考察する。[改行] 以上の考察を通じて、本章は、次の諸点を主張する。第一に、BIが福祉国家のサブ・ユニットとしての性別分業 家族の見直しに貢献する「ポテンシャル」を持つことである。第二に、このような「ポテンシャル」が具体化するかどうかは、特定の制度の効果そのものや客観 的な制度配置によってではなく、「政治」によって決まることである。第三に、BIは、家族民主主義の条件として、代議制民主主義中心の民主主義構想の見直 しに寄与し得るということである。」(272-3)

◇2011.0630 斉藤日出治、「書評 村岡到編『ベーシックインカムの可能性』」、『大阪産業大学経済論集』、12-(3) :329-334.
・引用
「今日の生産活動は生産の現場で働く賃金労働者だけでなく、社会のすべてのひとびとのアイデア、イメージ、知識、コミュニケーション、感情のはたらき、経 験の交流といった協働の関係に支えられている。かつて経済学の古典がイメージした協業と分業といった協働をはるかに超える規模での社会成員の協働を通して 生産活動がくりひろげられている。だが私的所有の制度の下では、この協働の成果が利潤、利子、配当といった所得形態で私的に領有される。現代の金融資本は この協働の成果を証券の売買を通して私的に収奪する回路となっている。[改行] 賃金所得をふくめて私的所有の原理にもとづく所得形態は、この生産の社会 化の現実と明らかに齟齬をきたすようになっている。自己の私的所有物を提供する見返るとして報酬を受け取る所得の形態があきらかに非現実的なものと化しつ つある。われわれに求められているのは、非現実的となり老朽化したこれらの所得形態に代わって、協働による生産活動の成果を分かち合う所得形態を、つまり 生産の社会化という現実の進展に見合う所得形態を考案し創出することである。BI論はそのような所得の制度変革の提言として捉えることができる。[改 行]…… 賃金労働と所得を切り離し、生存権にもとづいて所得を保証する制度的な仕組みをつくりあげることは、このような資本主義の現実の動態によって要 請されているのである。」(332)
「 資本主義の発展の動態と危機の進展を考慮するとき、BIは危機後の社会の再生をめぐる言説のヘゲモニー闘争の主要な舞台となっていることが分かる。こ の言説は、資本主義、社会主義、社会民主主義、新自由主義といった社会形成と経済システムにかかわる既存のモデルを流動化させ、社会の再建をめぐる議論の 磁場を再設定する重要な契機になることが予測される。」(333)

◆2011.0625 堀江貴文、『0311再起動 君たちに東日本大震災後の世界 を託す』、徳間書店.
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◆2011.0616 WorldShift Osaka実行委員会(編著)、『WorldShift 未来を変えるための33のアイデア』、ディスカヴァー・トゥエンティワン.
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◆2011.06 野崎泰伸、『生を肯定する倫理へ――障害学の視点から』、白澤 社.
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◇2011.06 北明美、「児童手当から子ども手当へ――初期的なベーシックインカム思想との異同も踏まえて」、『地域公共政策研究』、19: 6-18.

◆2011.0526 池田信夫、『古典で読み解く現代経済』、PHPビジネス新 書.
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◇2011.05 浦上立志、「大震災を機会にあるべき再分配と財源問題を考える――ベーシック・インカムと給付付き税額控除の違いと共通性」、『税経新 報』、588: 20-30.
・目次
1.東日本大震災の日本経済への影響と文明の危機
2.復興のための財源とそれを裏打ちする国家と国民の関係・あり方をどう考えるか
 @復興財源としての消費税増税論
 A所得助成政策としてのベーシック・インカム
 B給付付き税額控除と共通番号制
 Cベーシック・インカムと給付付き税額控除の親和性
 D生存権保障の再分配と税制の位置
・引用
「しかし、少なくとも現時点では、所得・資産課税の再分配機能の低下と社会保険料負担面での分配機能低下と、必要な社会保障政策分野での現物給付局面での 自己負担強化による抑制と施設不足の状態となによりワーキングプアーを生む労働経済政策のゆがみがあります。問題点が明らかな、これらの改革をそれで、代 替えすることはできません。つまり短くいえば、意図はどうあれ、BIは問題の核心を治療しない、正すべき問題を棚上げにして、世界の終わりに絶望的状況に 追い込まれ兵糧攻めにあった負け戦の対象の兵糧の兵糧食い政策、最期の宴会と評価できるのではないでしょうか。」(23)
「 結局、BIも給付付き税額控除も、完全雇用の達成をあきらめる政策の追認、それを所与とした政策としては、形としては、なめらかで精緻な現金給付も、 いわば正確さをあきらめたBIに容易に反転する親和性・共通性を有すると思われるのです。」(25)
「 それ[給付付き税額控除]は担税力の正確な測定にもとづく応能負担原則を原理とするあるべき税制ではなく、むしろ、税の画一性・厳格性・予測可能性を 中心内容とする権利侵害を排除する機構としての国家と国民の関係を規律する租税法律主義と相容れません。税の歳入調達機能と歳出である分離されるべき政策 立案・執行との区分をあいまいにするもので、財政民主主義の基本原則である非充当原則からは許されるべきでないとの原理的批判も妥当します。」(25)

◆2011.0420 村岡到、『ベーシックインカムの可能性:今こそ被災生存権所 得を!』、ロ​ゴ​ス​社.
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◆2011.0415  菊池理夫、『共通善の政治学 コミュニティをめぐる政治思想』、勁草書房.
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・目次(第6章第3節のみ pp.194-200)
1.福祉の原理としての「共通善」
2.福祉政策としてのベーシック・インカム
 (1)ワークフェアとベーシック・インカム
 (2)コミュニタリアン・ジョーダンのベーシック・インカム論
 (3)ポストモダン派の主張
 (4)コミュニタリアンの基本的な主張
3.日本国憲法第12条の意味
・引用
「 サンデルが現在のリベラリズムの福祉のための原理、とりわけロールズの「格差原理」を批判するのも、福祉政策を否定するためではなく、その原理の前提 となる「個人主義的」人間観と「情感的」コミュニティ観を否定するからである。」「[ロールズ格差原理の正当化に際して持ち出される「共通資産」や「社会 連合の観念」について]……、個人の資産は彼が属するコミュニティにおいて形成されるという側面があり、そのため才能のような精神的なものも含めて、個人 の資産はコミュニティの「共通資産」、つまり「共通善」として、「コミュニティ」のために使うべきであるという福祉政策を主張している。」(195)
「……、この[田村哲樹2008.1225]ような議論では「異質な他者」とた だ共存するだけであり、何の関係もないことを認めることにしかならないと思 われる。」(198)
「 ジョーダンやサンデルの議論を参考にして、コミュニタリアンのベーシック・インカムについてその基本的な考えを最後に述べておきたい。[改行]……経 済的議論を脇において、政治的な問題として論じると、まずその支給者は「コミュニティ」であり、その対象者は原則としてそこで暮らす「住民」すべてであ る。現実には「コミュニティ」とは地方公共団体ということになるが、国家内ではすべて同額とする。また「住民」とは住民登録している外国人にも支給される (外国人まで含めるときは消費税の増税の方がよいかも知れないと思っている)。[改行] このことはすでに述べてきたように、コミュニタリアニズムが閉鎖 的であるという批判を避けるためでもあるとともにやはり成員資格(メンバーシップ)はどこかで制限するのは当然であるという考えに基づいている。[改行]  いずれにしても、ベーシック・インカムは「コミュニティ」の「共通資産」として分配され、「コミュニティ」のためにその資産を使うべきであり、コミュニ ティ活動やボランティアが増えることを期待している。」(199)
「 この[日本国憲法]十二条は「国民は個人の自由や権利をいつも公共の福祉のために用いなければならない」と、個人の自由や権利がつねに「公共の福祉」 のために存在していることを述べているのである。[改行] このことが正しく理解されれば、現在の日本にみられる傾向、つまり個人の自由や権利が自分の利 益と同じものとなって、自己利益追求が絶対的に正しいものとされることや、国民全員・住民全員の利益・福祉が軽視されることはなくなるであろうと私は考え ている。環境権もベーシック・インカムによって得た自由も、憲法上あるいは理念上は、あくまでも「共通善」のために用いなければならない。」(200)

◇2011.0401 村岡到 「〈生存権〉の浮上に感謝、しかし――齊藤拓氏のコメントに対して」、『プランB』、32: 61-3.

◇2011.04 津和崇 「ベーシック・インカムとマルクス主義」、『科学的社会主義』、156: 2-5.

◇2011.04 岡野内 正、「花には太陽を、人間にはお金を!――〈帝国〉から、地球人手当(グローバル・ベーシック・インカム)のある世界市場社会へ――」、『アジア・アフリ カ研究』、51(2): 49-73.
・目次
T問題設定
U〈帝国〉論争
Vネグリらのベーシック・インカム論
 1『帝国』
 2『マルチチュード』
 3『社会主義よ、さようなら』
 4『コモンウェルス』
X地球人手当の理論とネグリらの〈帝国〉論
・引用
「・・・・・・、世界中の人々がお買い物を楽しめるように市場を充実させるとともに、フトコロにお金のない人々にもお金が回るようなしくみはつくれないだ ろうか。多国籍企業で代表される今日のグローバル資本が取得した剰余価値から、全人類の生存に必要な最低限の物資を購入するのに必要な価値額を控除し、そ の価値額を、全人類ひとりひとりに、労働の有無に関わらず無条件で、その地域での(49)最低限度の生活に必要な額になるように、定期的に配分することは できないだろうか。国際条約に基づく権限を持つ国際機関を設置して多国籍企業の取引から徴収し、集金と分配にはインターネットバンキングの技術を用いれ ば、法的、技術的には可能ではないか。多国籍企業の剰余価値の多くが、不生産的な投機資金や軍事技術開発など地球環境問題悪化につながる奢侈品的性格の強 い部門への投資に回されている現実に照らしてみれば、生活必需品の需要創出につながるこのような資金の流れの転換は、経済的には可能であり、むしろ経済の 健全化のために望ましい。……このようなしくみを導入すれば、全人類がお買い物を楽しめるようになるだけでなく、グローバルに拡大する資本主義の現代社会 が抱える主要な問題、すなわち階級、民族、ジェンダー、エコロジー公共圏にかかわる多くの問題解決につながるだろう。地球人手当の導入は、グローバルな資 本主義のもとで歪みとともに拡大する世界市場社会のしくみの大きな転換の基軸となりうる、というのが、地球人手当の理論の展望であった……。」(49- 50)
「 以上の[〈帝国〉をめぐる論争における]三つの論点、すなわち、世界規模の反資本主義の労働者革命、世界規模の帝国的主権の形成、世界規模の民主主義 を担うマルチチュードの登場は、単純化して整理すれば、次のような論理でつながっている。いわゆるコンピューターと情報技術の革新による生産力の上昇→国 民国家を越える多国籍企業を中心とする資本蓄積→国民国家を制御して多国籍企業に奉仕させる帝国的主権の形成→国民国家の枠組みを乗り越えて世界規模の民 主主義的行動によって多国籍企業を制御しようとする人々(マルチチュード)の登場→世界規模の反資本主義の労働者革命。そこには、生産力が上昇したのだか ら、生産関係も変化し、生産様式が変わり、社会革命が起こるという、マルクス以来の史的唯物論の発想が、今日のグローバル化の現実に合わせて、いわば骨太 (51)に貫かれている。」(51-2)
「[『マルチチュード』の記述から]ネグリたちは、つねに、現実の労働運動との関連で、移民の権利問題とベーシック・インカムの要求を考えていることを示 すものであり、この論理の延長上に、世界の労働運動が、グローバルなベーシック・インカムを要求すべき、というふうにも読める。」(58)
「[『コモンウェルス』における]ベーシック・インカム論は、資本を越える動きを分析する第5部の最終章、「断層線に沿った予震」と題された5-3章のほ とんど末尾に現れる。その章は、世界不況、地球規模の環境問題や貧困問題を抱えた資本主義には展望がないとする「資本の見通し」、私有財産を守る近代的な 共和制統治(republic)の建前と人類の共通遺産に立脚する今日の経済の実態が合わなくなったとする「共和国からの脱出」、そして、「耐震補強:資 本のための改良主義的プログラム」という三つの節からなる。[改行] その最後の節で列挙される「資本のための改良主義的プログラム」は、次のようなもの である。[改行] @生政治的生産に必要なインフラストラクチャーの供給。 物理的インフラ:生存のために必要な、空気、水、食料、住居、自然環境など。 社会的・知的インフラ:基礎教育、高等教育。自由な創造活動を阻害する知的所有権の制限がかからない形での、情報、通信ネットワークへの安価で自由なアク セス。知的所有権保護の利益に依存する必要がないだけの、十分な研究開発資金の提供。移動の自由。オープンな市民権。 Aベーシック・インカム。仕事の有 無にかかわりなく、ナショナルあるいはグローバルなレベルでの最低限所得の保証。 B政府のあらゆるレベルでの参加民主主義の実現。」(63)
「ネグリらのここ[『コモンウェルス』]での議論は、ベーシック・インカムが資本の利益になるという点を指摘して左派的な発想の直感の鋭さを救いあげると 同時に、むしろそのようなネオリベラルの一部の資本の利益推進を、現物給付的な社会サービスの充実という要求とセットで、自信をもって後押しすることが、 資本主義システムの転換につながると主張しているのである。つまり、ネオリベラル論者とともにであっても、ベーシック・インカムを要求することは、資本の 利益になると同時に、マルチチュードの解放につながる、というわけである。……[フィッツパトリックの見解とは反対に、]今日の資本主義システムの権力関 係のもとでという限定によって、ベーシック・インカムの要求の革命的な性格を論証する一貫した分析といえる。」(65)
「 では、ネグリらのベーシック・インカム論の最大の難点は何か。筆者は、それが、原理的にグローバルなものとして、世界市場と接合される世界市場社会を 包括すべきものとされてない点にあると考える。……、ネグリらのベーシック・インカム論は、欧米の運動に密着して考察され、グローバルなベーシック・イン カムは、それ自体として、考察の対象になっていない。[改行] だが、多国籍企業が支配し、国民国家を超えた主権を目指す〈帝国〉に対するマルチチュード の対抗を考えるネグリらの基本的な視点に立つならば、国民国家レベルでベーシック・インカムを考えるのでは、一貫しない。初めからグローバル資本の利益を 代表する多国籍企業をターゲットとして、多国籍企業が取得する世界市場商品の剰余価値からの控除による集金と、その全人類への分配を目指す国際機関の設置 を想定しなければ、〈帝国〉主権とは闘えないはずである。 」(66)「 イタリアでの闘争を足場にものを考えることはネグリの優れた点ではある。しか し、ベーシック・インカムの構想が、ヨーロッパの運動の現場に依存しているために、ヨーロッパ中心主義的と形容したくなるような視野の狭さから、具体的な 展望の貧しさが生じているように思える。逆に、全世界を視野に入れて、地球人手当のようなものを構想すれば、ヨーロッパの運動に対しても、強力なインパク トが得られるかもしれない。」(67)
「およそ価値論抜きに市場の分析はできない。世界市場では世界価値の実体となる世界労働の把握にもとづく世界価値論がなければ、搾取はとらえられず、した がって搾取のない世界市場社会も構想できない。[改行] 世界資本主義の世界市場に立脚する世界市場社会に、地球人手当(ベーシック・インカム)を導入す ることを考える際に、まず必要なことは何か。地球人手当の価値規定である。それは、世界市場の全商品に体現された価値のうち、剰余価値(M)部分から配分 される。なぜなら、マルクス的な用語の定義にしたがえば、全世界の労働者が生産した(新しく付け加えた)価値部分(V+M)のうち、可変資本(V)部分 は、生活(労働者階級の再生産)に必要な賃金として被雇用者に支払われているものであるため、雇用されていない失業者の生存……のために必要な価値額や、 雇用されている労働者に上積みして支払われる価値額は、労働者が生産した価値(V+M)のうち、剰余価値部分(M)から支払われるほかないからである。ま た、可変資本と剰余価値との比率(M/V)は、賃金をめぐる労使間の交渉すなわち階級闘争に規定されることになる。それと同様に、地球時手当の増大要求 は、労働者だけでなく、全人類の団結した闘争に規定される。財源論としてしばしば議論されるさまざまな課税方式を通じて、最終的にだれが地球人手当の財源 を負担するのかは、Mをめぐる階級闘争によるのである。地球人手当の実現に向けてのMの減少に抵抗する資本家は、Vの減少によってMを増大させようとする かもしれない。ここで、雇用されてVを取得する労働者と、雇用されていない失業者が、マルチチュードとして団結する闘争が重要となる。」(68)
「 ……、ネグリたちは、いささか先走って、価値論の世界は過去のものとなり、価値法則は廃棄され、自由な自己実現のボランティア労働の世界が、現実のも のとなりつつあると見誤ってしまったのではないだろうか。[改行] 地球人手当の支給のための剰余価値部分の再領有を正当化するために、情動労働や非物質 的労働が価値を生むという、価値法則を廃棄する議論を展開する必要はまったくない。本源的蓄積の暴力という歴史的不正義に対する正義回復を主張するだけで 十分である。人類の共通遺産であるはずの地球上の大地に対する全人類の所有権回復を宣言するだけでいい。」(69)

◆2011.0331 ダニー・ピーテルス(Danny Pieters)/河野正輝(翻訳)、『社会保障の基本原則』(熊本学園大学付属社会福祉研究所社会福祉叢書)、法律文化社.
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◇2011.0330 井上義朗、「第12章 J. E. ミードにおけるベーシック・インカム論と協働企業論の相補性」、音無通宏編著『功利主義と政策思想の展開 中央大学経済研究所研究叢書51』(中央大学出 版部)、pp. 393-427.
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・目次
はじめに
1.社会的配当論について
 1‐1 ミードの社会的配当論
 1‐2 労働インセンティブと「職場」
2.協働企業論について
 2‐1 社会的企業と協働企業
 2‐2 ミードの協働企業論
 2‐3 LMCと雇用縮小
 2‐4 同一労働同一賃金の否定?
おわりに
・引用
「本章で論じたいのは、ベーシック・インカム論と社会的企業論がいかなる関係になるにせよ、両者が同時期に注目されるようになったことは偶然ではなく、む しろ一種の理論的な相補的関係がその根底にあること、そしてそのことを示唆する一連のテクストが、何人かの人物によってすでに残されていることを示すこと である。」(395)
「ミードが終生唱え続けた「社会的配当論(Social Dividend)」は、ベーシック・インカムの先駆的モデルとして今日高く評価されている。しかし私見では、ミードはこの社会的配当論を、彼の「協働 企業論」と一対の問題として捉えていたと思われる。……そこで本章では、ミードの社会的配当論と協働企業論の相補的な関係について検討し、そのうえで、両 者を軸に展開されたミードの新たな市場経済像を瞥見しつつ、学史的テクストからの現代的示唆について若干私見を述べてみたい。」(396)
「……、一般的・平均的に言って余暇は正常財であると経済学では想定しているわけだが、これは裏を返せば、一般的・平均的に言って労働は劣等財である、つ まり所得の上昇とともに、人々は労働を選好しなくなると想定しているに等しい。……「余暇は正常財である」といいながら「労働は劣等財である」とは決して 言わないのも興味深い事実だが、いずれにしてもこの労働観は、現在の社会的通念としての経済学が想像しているものを、そのまま受け入れたものにすぎない。 だからそこには、「なぜ労働は劣等財なのか」、もっといえば、「なぜ労働は劣等財のままでいいのか」という問いが欠けている。しかし、ベーシック・インカ ムが真に問いかけているのは、まさしくこの問題に他ならない。」(405)
「すでに何らかの職業を持っていて最低所得が保証されることになった場合と、これから職業を持つか否かという選択の時点で最低所得が保証される場合とで は、確かにベーシック・インカムの持つ意味は違ってくるだろう。……、ベーシック・インカムのは中高年労働者よりも、若年労働者に偏って負の[就労]イン センティブ効果を現わすことがあるかもしれない。」(406)
「所得に一定の余裕が生じた途端、人々の労働インセンティヴに陰りが生じたとすれば、それはまず彼ら・彼女らの、現在の「職場」に対する意識の表れとして 捉えるのが自然ではなかろうか。だとすれば、労働インセンティヴを引き下げたのはベーシック・インカムではないだろう。労働インセンティヴはすでに下がっ ていたのであり、それが生活資金を失う恐れが緩和された途端、行動になって現われたのである。そうした潜在意識の露呈を促すことになるからベーシック・イ ンカムは怪しからぬというのなら、それは現在の労働環境が抱える問題を隠ぺいしようとするに等しい言動だといわざるを得ない。」(409)
「……、自分に合った仕事を探すためには確かに「職場」の移動が必要だろう。そのための機会費用を軽減するベーシック・インカムはしたがって、確かに労働 インセンティヴの向上にとって必要な役割を果たすものになるだろう。……しかしながら、必要条件はあくまで必要条件であって、十分条件ではない。この場合 の十分条件とは、労働インセンティヴを実際に引き上げるもの、つまりは労働インセンティヴを引き上げる新たな「職場」を、実際に提供するものでなければな らないだろう。しかしベーシック・インカムには、そうした「職場」を直接創造する機能はない。」(409)「十分条件を欠く以上、ベーシック・インカムが 労働インセンティヴを高めると、一般的にいうことはできない。このようにベーシック・インカムの意義を限定的に捉えておくことは、ベーシック・インカムを 肯定する場合であっても必要なことではないかと筆者は思う。」(410)
「……、ミードの構想では、特にLMC[労働者経営組合]が一般化した経済において、排除された労働者たちによる新規企業の創設と価格競争の促進が不可欠 の要素になっている。……したがって、ミードの社会構想において「競争」は緩和されるどころか、最低所得が保証されることになる分、むしろ激化する可能性 があるだろう。ただし、この競争における敗者はもはや、生活所得を直接失うことはない。……、ベーシック・インカム論は分配論というより、あるいは分配論 である以上に、実は、競争論なのである。」(425)

◇2011.0325 齊藤拓 「国際研究調査報告 報告5 グローバル正義、ベーシックインカム、言語的正義」、『生存学』(立命館大学生存学研究セン ター)、Vol. 3: 248-250.
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 →全文掲載

◇2011.0320 辻健太、「第14章 なぜベーシック・インカムが望ましいか」、田中愛治監修/須賀晃一・齋藤純一編『政治経済学の規範理論』(勁 草書房)、pp. 235-252.
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・目次
1はじめに
2社会保障の目的
3生活保護制度
4ベーシック・インカムの特徴と理念
5ベーシック・インカムの優位性
6結論

◇2011.0301 西口 正文 「「基本所得」をめぐる理論と運動――自己所有権との関係づけ方に照準して」、『椙山女学園大学研究論集 社会科学篇』、42:193-206.
・目次
0.問いの場
 【生存の権利から説き起こすということ】
 【最も困窮している者の生存権を保障することの切実さ】
 【押し出すべき政策としての適切性】
第1節 正当化する論理に纏わる不可解さ
 1-1.【「生きていることは労働だ」・・・・・・労働の問い返し・貢献原理の問い返し】
 1-2.【福祉国家理念の倒壊?】
 1-3.【基軸論理/当座の妥協論理 と識別は不要か?】
第2節 基本所得保障のための徴収
 2-1.【福祉と労働との切り離し原則】 
 2-2.【労働の義務に関して】
 2-3.【労働成果の総和と基本所得の総和との関係――「労働-貢献がなくても生存の権利は保障されるべきだ!」への立ち入った検討】
第3節 「リアル・リバタリアニズム」に立脚する基本所得構想:フィリップ・ヴァン・パリースによる構想
 3-1.【リバタリアンでありつつ平等主義リベラルの視座に依拠すること】
 3-2.【自由な社会のための、優先順位付きの、三条件――「権利保障(のための制度構造)」―「自己所有権」―「レキシミンな機会」】
 3-3.【基本所得への自己所有権の刻印ということがもつ意味】
第4節 小括
・引用
「……ベーシック・インカムを要求する所説に対した時に不可解だと思われるのは、以下の二点である。第一に、“絶対的貧困”を脱するための現実的 政策提起ということが、その基軸論理をなしているのか、という点。……第二に、すべての人の所得を等しくしようとしたわけでないことを受け容れた として……、その違いが生じてもよい理由をどのように考えたのか、という点。」(198)
「[提案されているようなBI構想には]しかし少しだけ原理的に考えてみると、疑問が生まれる。制度の成り立ちにとって労働義務が不可欠であるはずなの に、労働への社会的圧力の存在が望ましくないという見地から、意識の上で労働義務を潜在化させる方途を選ぶ、という部面が一方にはある。……格差 の正当化論理は何かと問えば、(ベーシック・インカム論者が自らこれに明示的に答えることはないのだが)貢献原理に拠っていると考えるほかない。貢献原理 に依拠する以上、重度障害者のように健常者本位の社会で生きている中での苦労は多大ではあれ、産業的事業的に貢献をなすことのない存在者にとっては、その 生存権を行使するための手段の獲得度合いにおいて最低に置かれることになる。この部面が他方にある。いま挙げた両面はいずれもそれぞれ、二枚舌というか、 構えがふらついているというか、筆者にとって納得しがたいところだ。」(199)
「[Van Parjisの所論は]〈自己所有権〉を立論の基底に据えるがゆえに、マクシミンな格差付き機会の平等を持ち込んでくる所以に関してはロールズの曖昧さを 脱することができているように思われた。しかし、内的賦存の差異に纏わるアポリアに向けては探求が頓挫しているように見て取れた。」(204)

◆2011.03 岩附正明、『幸せな世の中をつくる80の提言―金儲け社会から助 け合い社会への転換』、合同出版.
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◇2011.03 高橋一行、「ベーシック・インカムを巡る議論――『所有論』補遺として――」、『政経論叢』、79: 787-820.
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・目次
はじめに
1章 コモンを巡る議論
2章 労働を巡る議論
3章 貨幣を巡る議論
補章 アーレントのマルクス論を巡る議論
・論文要旨
「 拙著『所有論』で、知的所有について論じ、それはコモン(共有物)であることを論じた。現代では、レッシグ、ネグリとハート、ジジェクがコモンについ て論じ、その現代社会における偏りが論じられている。コモンを取り戻し、人々に還元することが必要で、その議論が、ベーシック・インカムの根拠となる。 [改行] ただ、多くのベーシック・インカムを巡る議論は、税をその財源にしようとしているが、しかし福祉や雇用政策をおろそかにする訳には行かず、実現 が困難である。そのことを小沢修司、ゴルツ、パリースを使って検討する。また、それらの中で、関廣野と古山明男と、貨幣の信用創造に依拠する論があり、そ れらをヒントにして、さらに様々な形態の地域通貨の自生を促し、そこからベーシック・インカムの財源を求めることが可能である。[改行] 労働と貨幣のあ り方についての、根源的な議論が必要で、資本主義社会における、その弊害と克服方法が議論される。」(787)
・引用
「 実は、雇用レジームの諸政策が要らないとするのは、BI論議にとって、本質的な問題である。いや、これが多くのBI論の哲学的根拠と言うべきものであ る。この根拠となっているのは、ひとつは、労働が今や無意味となった、またはその必要性の度合いが小さくなったという指摘である。これは、労働が知的労働 化し、雇用が減るという事実を解釈し損ねたものである。」(794)「……、さしあたって必要なのは、第一次産業と第二次産業に従事してきた人を第三次産 業に回すことと、必要な第三次産業を新たに起こすという雇用政策が必要なこと、またその中で、市場に乗らないものについては、国家または地方政府が、公共 事業として担っていくことである。」(795)
「コモンはどこにあるのかということが問題である。レッシグは、知財はコモンであり、現実的に著作権を緩めることで、コモンの共有を主張した……。それは 現実的で、分かりやすい政策のひとつである。しかしここでは、さらに、ネグリとハートやジジェクの言うコモンはどこにあるのか、それを問いたい。……、労 働は富の源泉で、労働の結果として、徴収した所得税は、コモンであるが、しかしBIの財源とするには、足りない。そして、労働と所得を切り離すのは間違い である。労働と所得は結び付いているが、情報化社会では、能力に応じて働くと、格差が大きくなりすぎるのである。それは是正されるべきであるが、その是正 だけでは、BIの財源として、足りない。BIの正当性は、労働と所得の切り離しにあるのではなく、コモンにある。ではあらためて問う。コモンはどこにある か。」(803)
「 『所有論』では、地方政府や企業が、すでに様々な通貨を発行させていて、それらの中には、国家を超えて流通しているものもあり、それらをうまく活用す ることで、恐慌という、これこそが富の偏りの最たるものであるが、それを防ぎ得ると考えた。それはローカルなものが、ナショナルなレベルを超えて、トラン スナショナルになりうることを示唆したものだった。[改行] ここでは、あくまでもローカルなところで、そのローカルな通貨が及ぶ範囲内で、信用創造を得 て、それを地方政府が担うということを考えたい。[改行] 私の考えるBIは信用創造が賄える限りで支払われるから、最初は、ほんのわずかな額にしかなら ず、つまりPartial(部分的)BIとなる。人が生きて行くために、いくら必要なのかという観点で支給されるのではなく、どこまで信用創造で財源が作 られるかという観点だけで、支給額が決まる。」(809)
「 さて、この間の[トービン税に関する]議論は、上のBIを巡る議論[貨幣創造によるBI論]に似ていないだろうか。現代では、銀行と国家とが、富を独 占している。その富を国民に還元しようと考える国家を造り出すには、民主主義的手続きに従うにせよ、暴力革命を起こすにせよ、社会主義革命を起こすのと同 じ困難が予想され、かつそれに付随するであろう弊害も、同じものが予想され、到底実現は困難であろう。しかし国家が主体となるのではなく、ローカルな集団 が、その集団の関わる限りで、通貨を発行し、信用創造を高め、次第にそれが大きくなって、住民に配るBI額も大きくなり、次第に福祉の役割を持つようにな るだろう。」(812)

◇20110208 伊藤誠 「ベーシックインカム論を検証する――その可能性と限界」、『世界』、2011年3月号、pp. 147-56.
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・目次
1ベーシックインカムへの関心
2この構想の二類型の系譜
3当面の実現可能性とその意義
・引用
「……、資本主義経済のもとでは、ベーシックインカムは、実現されるとしても、(労働力の商品化による賃金所得を基本的には生活上不可欠なものとし、剰余 労働の資本による搾取関係と接合可能な範囲で、)部分BIにとどまるにちがいない。市場社会主義のモデルとくらべてもその範囲はせまく、不安定になりがち であろう。」(155)
「……、日本の経済社会の重い閉塞感を突破する魅力的な手がかりとして、ベーシックインカムによせられている熱い関心は、部分BIを万能薬として、その他 の公共的サービスは縮小し、市場原理にゆだねてよいとする新自由主義の発想に吸収されてよいものではありえない。むしろ社会の全成員に真の自由を保障しよ うとするベーシックインカムの広い基本理念にそって、社会民主主義的福祉国家の公的機能の拡充との相補関係を重視しつつ、この構想を支持する労働者、市民 の社会運動の成長をも促し、その関心がさらに拡大され展開されてゆくよう期待したい。」(156)

◇2011.0210 永合位行/村上寿来 「ドイツの基礎保障制度」、『國民經濟雜誌』、203(2): 31-49.
・目次
1 はじめに
2 ドイツの基礎保障制度概観
 2.1 基礎保障の概念と基本原理
 2.2 基礎保障制度の基本枠組み
3 社会扶助制度
 3.1 社会扶助制度の基本構成
 3.2 生計費扶助
  @基準必要A居住と暖房B追加必要Cミーンズテスト
 3.3 高齢時および稼得減退の際の基礎保障
 3.4 その他の特別な必要に対応する扶助
  @医療扶助A介護扶助B障害者のための統合扶助C特別な社会的困難の克服のための扶助Dその他の生活状況における扶助
 3.5 社会扶助制度の現状
4 求職者のための基礎保障制度
 4.1 求職者のための基礎保障制度の基本構成
 4.2 ワークフェアの強化――助成と要請の原則
 4.3 給付内容
 4.4 求職者のための基礎保障制度の現状
5 結びにかえて――ベーシック・インカムの視点から――

◇2011.0201 四方 理人 「最低所得保障をめぐる論点――生活保護、ベーシック・インカム、基礎年金の限界 (特集 最低所得保障を考える)」、『三田評論』、1142号: 34-39.
・目次
生活保護制度と最低所得保障
ベーシック・インカムと最低所得保障
最低保障年金と最低所得保障
おわりに
・引用
「 ベーシック・インカムのように全員に最低所得保障を行うやり方は、世帯の共通消費を考慮せず多人数世帯に過剰に給付を行う一方で、単身高齢女性や家族 から一人で自立する障がい者などの貧困に十分対応できるか疑問である。最低所得保障における給付のあり方は、共通消費を考慮した最低保障年金など、世帯の 構成や対象者の属性に配慮した水準を考えた制度設計を目指すべきである。」(38)

◇2011.0201 齊藤拓 「ベーシックインカムは生存権の手段ではない――『ベーシック インカムで大転換』へのコメント」、『プランB』、31: 64-66. 
全文掲載
・目次
〈雇用税〉について
「生存権」について
〈労働評価制度〉について
・引用
「リバタリアンとしての私はもとより生存権思想に現代的な意義を認めておらず、ゆえにBIを生存権に依拠して論じることに反対である。その私をしても、ベーシックインカムというかたちで「生存権」に具体的な制度的・政策的実態を与 えることには左翼の人々から反発があるだろなと……懸念がされる。」(64)
「実は、私はBIを政策プログラムとして解する場合にはこのような BI批判者[後藤道夫]たちに同意なのである。もっと言えば、左翼のBI論者たちは勘違いをしているとさえ思っている。それはBIを「生存の保証」のため の手段だとみなしている点である。……これに対して、私は「BIは目的である」と主張している。より正確に言えば、BI水準とは諸個人にとっての「自由」 の代理指標であり、いくつかの条件の下でBIを最大化するべきだ、と主張した(齊藤 [2010])。つまり、私がBIに見ているのは――そして他の人々も見るべきなのは――「生存の保証」や生存権ではなく、「自由」であり、それ も純粋な個人的自由である。」(66)
「……、私が左翼のBI論者たちに言っておきたいのは、BIで生存保証や生存権を仮託するのは上策ではないしミ
スリーディングですよ、ということだ。」 (66)

◇20110127 松井彰彦、「集中講義市場を考える(18)負の所得税――効率を高めつつ平等を追求」、『日本経済新聞』、朝刊、29ページ.

◇2010.0125 菊池理夫、「第4章 日本におけるコミュニタリアニズムの可能性」、広井良典・小林正弥編著『コミュニティ――公共性・コモンズ・ コミュニタリアニズム』(勁草書房)、pp. 87-109.
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・目次
はじめに
第1節 現代コミュニタリアニズムに対するさまざまな誤解
第2節 コモンズとしてのコミュニティの環境政策
第3節 コミュニティの連帯のためのベーシック・インカム
 →内容は2011.0415 菊池理夫の第6章第3節と 同じ

20110110 松原隆一郎 『日本経済論:「国際競争力」という幻想』、 NHK出版新書.
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・引用
「麻生政権の定額給付金にせよ、すべての個人に無条件に生活に必要な所得を現金給付すべしとする「ベーシック・インカム」論にせよ、現金を与えれば経済が 活性化するとみなす点は共通している。これらは一種の「貨幣物神化」であろう。[改行]……、しかし恥辱を覚えさせる役人の態度に改善が必須と言えても無 条件の給付は当人の要望とも限らず、納税者の共感を得にくいだろう。」(159)
「ベーシック・インカムは、成熟社会で余った労働力に対して(子ども手当同様に金銭で)生活保障することとも言えるが、政治思想家の萱野稔人は、「働きた いのに働けない」人たちが欲しいのはお金ではなく仕事であり、彼らの生活は保障されても労働市場からの排除は固定されてしまう、と反論している。筆者はこ の反論に共感する。[改行] 民主党は「脱官僚」と「生活第一」を訴えるが、「脱官僚」を形式的にとらえるあまり現金給付に資源を集中しすぎている。けれ ども雇用と経済が安定していく見通しがないならば、現金給付は貯蓄にまわるだけである。仕事を介さず現金をバラ撒くだけでは、社会参加を促さないのみなら ず、景気対策にもならないだろう。[改行] 政府は経済に参加するための敷居を低くするよう、現物支給に意を注ぐべきではないか。」(161)

◇2011.0100 伊藤誠、「ベーシックインカムの思想と理論」、『日本學士院紀要』、65(2): 109-135.
オープンアクセス
・目次
一 ベーシックインカムへの関心
二 この構想の二類型の系譜
三 フリーライダーの可能性
四 規模と財源
五 ベーシックインカムとマルクスの思想と理論
・引用
「……日本における論議は、従来主として資本主義のもとでの社会保障改革論の幅のなかに枠組みが狭められていたように思われる。それはこの論議への日本の マルクス学派としての寄与が不足していることも意味している。」(109)
「 こうして現代資本主義の再編過程で生じてきている、個人主義的自由拡大への魅力が、就労、生活・消費面である形で実現され、労働時間と自由時間の区分 線がまた個人主義的に多様化され選択可能とされながら、そのもとで、従来型の社会保障制度も、家族関係も、労働組合も容易に対応できないような社会・経済 問題や不満が累積している。そこに、新たな戦略構想で解決を与える可能性のひとつとして、ベーシックインカムが期待を集め、関心を広げる社会的基盤がある とみなければならない。」(112)
「 ふりかえってみると、ベーシックインカムという名称でかならず(113)しも呼ばれてはいなかったにせよ、その構想につらなる発想は、事実上、二類型 の系譜において、かなり古くからくりかえし提示されてきていた。[改行] そのひとつは、資本主義市場経済を前提してそのもとでの所得再分配を提唱するも のであり、いまひとつは社会主義経済を前提しての所得配分の構想である。」(113-4)
「[オスカー・ランゲは]……、この[市場社会主義の古典的な]理論モデルにおける消費者の所得に二重の構造を想定している。すなわち、消費者は一面でそ れぞれの適正や好みにしたがい職業選択の自由を保持しつつ、労働市場での需給の動向にしたがい、それぞれに職をえて、労働用役にたいする代価をえる。しか し、それにとどまらず、国民は、他面では資本や天然資源を共有する社会の主人公でもあって、その側面からすれば、生産諸手段の完全利用を実現する均衡価格 とそれぞれの維持費用との差としてえらる(資本主義のもとでの地代、利潤にあたる)所得の共有者としての地位にある。そこで、公有されている生産手段にも とづく社会的所得から、生産拡大への蓄積にあてる部分や共同消費にあてる部分などを控除した後に、国民すべてに社会的な配当が給付されてよい。」……「  こうして、ランゲの市場社会主義の古典的理論モデルにおいては、先にペインが構想していた土地への社会成員の自然権によるベーシックインカム給付論が、社 会主義の基本とされる生産手段一般の公有化を前提に、土地などの天然資源やその他の生産手段全体の公有に基づく社会的配当論に論理整合的に拡大されてい る。」(117)
「他方、ランゲは、消費者は、労働市場で需給に応じて決定される賃金所得をえるものと想定し、BIにあたる社会的配当は、賃金をえる職業選択や労働配分に 影響しないようにとの注意も記していた。……そのかぎりでは、ランゲ以来の市場社会主義論は、価格体系決定のしくみにおいてそうであるように、資本主義経 済の(117)作動と機能に類似性があり、市場を介しての労働配分の機能を確保してゆくためにベーシックインカムも部分BIにとどめざるをえない限界を有 するように思われる。」(117-8)
「……、社会主義になれば、完全BIがどうぜん容易に実現されてよいはずであるといった期待が一部にあるとすれば、[ランゲの市場社会主義モデルと、ジョ ン・ローマーによるその現代化としてのクーポン構想に関して]右にふれたように市場社会主義については、それは理論上、誤解と見なければならない。」 (119)
「 日本におけるベーシックインカムの構想をめぐる議論では、……この構想の先史が点検されるときにも、社会主義の思想と理論の系譜が軽視あるいは無視さ れやすい(注4)。……、それによって欧米でのこの構想をめぐる思想と理論の検討にくらべ、学問的にも奥行きを欠き、視野が狭くなっているおそれが危惧さ れるところである。」(119)→「……、斉藤拓も、みずからを「市場原理主義者」と規定し……その基礎としてハイエクの動態的効率性論、イノベーション 促進的市場観の意義を強調している。そのためとうぜんとはいえ、パリースの指摘しているランゲの市場社会主義論におけるベーシックインカム構想への貢献は 無視することになっている。」(129、注4)
「[小沢修司をはじめとしてBIの財源をもっぱら勤労所得への比例課税に求める発想は]……、労働により生み出される価値(所得)は、いわゆる「勤労所 得」に限られており、企業利潤や利子などは、年々の労働が新たに生み出す剰余価値ではなく、資本が生み出す価値であるとする物神的な理解によるものとも 読める。とくにマルクス学派の価値論からすれば、大いに疑問が残る規定である。現代的なベーシックインカムの基本となる財源を考えるさいに、古典派経済学 以降多年にわたる理論経済学上の剰余価値源泉をめぐる争点がはからずも再浮上することにもなっている。」(124)
「……、マルクス学派は、各人の必要に応じた配分[「共産主義」段階における分配]を、遠い未来社会に到達可能となる生産力段階を要するものと考えすぎて きたのではなかろうか。革命後の社会主義社会ではもとより、現代の先進資本主義社会においても、労働に応じた分配とあわせて、各人の必要に応じた分配も、 社会保障制度やその改革案としてのベーシックインカム構想には、少なくとも部分的には取り入れられ、拡充されてゆく余地があることが示されつつあると考え られる。ベーシックインカムの論議をも介し、現代のマルクス学派は、マルクスのこうした未来社会の二段階規定に再考を加えてよいと思われる。」(127)

■2011
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◇2010.1229 山崎元 「「主義」としてのベーシックインカム」、http://diamond.jp/articles/-/10608
・引用
「筆者が思うに、ベーシックインカムで全てを解決しようと考える必要はない。富の再分配を公正にするためには税制を調整すればいいし、老後の備えが不安な 国民が多ければ、自発的な貯蓄・運用を支援する仕組み(個人型の確定拠出年金がいいと思う)を追加すればいいし、医療保険をアメリカのようにはしたくない ので、健康保険制度は現状の延長線上で維持すればいい。ベーシックインカムとこれらの制度を合わせて、「全体として最適化する」という考え方に立つべき だ。」
「……、ベーシックインカムの考え方は政策を考え、制度を設計する上で生かすことができる。[改行] 政策を評価する際に、「シンプルさ」「公平さ」「自 由さ」「格差是正効果」「低コストな制度」の五つの視点を持つことが有効だ。……[改行] 筆者は、現在のもろもろの制度を「ベーシックインカム的」に徐 々に変えていけばいいと思っている。」

◇2010.1227 関廣野、「ベーシック・インカムについて考える― マネーは何のためにあるのか ―」、http://bijp.net/transcript/article/248

◆2010.1224 堀江貴文、『「人生論」』、ロングセラーズ(ロング新書).
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◇2010.1220 宇佐見 耕一 「アルゼンチンにおけるベーシック・インカム概念の普及と社会保障」、『ラテンアメリカレポート』、27(2): 50-59.
・目次
はじめに
T新自由主義と反新自由主義
 1.1990年代の新自由主義改革
 2.経済危機と社会保障制度の機能不全
 3.キルチネル左派政権の成立
Uアルゼンチンにおけるベーシック・インカム
 1.ベーシック・インカム概念の普及
 2.NPOによる普及活動
V社会扶助プログラムとベーシック・インカム
 1.失業世帯主プログラム 
 2.社会的包摂のための家族プログラム
 3.年金モラトリアムとカバー率の拡大
 4.普遍的子供手当
おわりに
・引用
「アルゼンチンのベーシック・インカム論者は、まず子供と高齢者から市民所得(ベーシックインカム)を給付することを提起していた。こうしたベーシック・ インカム概念のアルゼンチンへの伝播と普及は、グローバル化の下で社会福祉政策のアイディアの国際的伝播の一例であり、またその普及過程にはグローバル化 の下での市民社会の国際的ネットワークの形成をみることができる。[改行] 21世紀になると、各種の現金給付プログラムがアルゼンチンに導入された。そ れらにはベーシック・インカム概念からヒントを得たものであるとか、普遍的制度である点を強調する行政の言説がみられた。確かに、各種の現金給付プログラ ムにより現金給付が児童・青年また高齢者に広範に行き渡り、最貧困の緩和に貢献した事実は評価してよいであろう。しかし、それらプログラムのほとんどは、 ベーシック・インカム概念をレトリックとして用いるのみで、実体は条件付き現金給付または社会保険方式の中での現金給付であった。とはいえ、ベーシック・ インカムの概念が社会政策学者やNPOに留まらず、行政の内部に浸透しつつある点は注目すべきであろう。」(59)

◆2010.1220 小川仁志 『はじめての政治哲学――「正さ」をめぐる23の問い』、講談社現代新書.
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◇20101218 萱野稔人、 「なぜ私はベーシック・インカムに反対なのか」、 中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する――経済政策のオルタナティブ・ヴィジョン――』(ナカニシヤ出版)、pp. 264-87.
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・目次
一、はじめに――「オルタナティブ・ヴィジョン」としてのベーシック・インカム
二、成熟社会におけるベーシック・インカムの意義
三、労働からの解放ははたして本当に解放なのか?
四、賃金労働以外の活動による生の充実はベーシック・インカムの正当性の根拠にはならない
五、労働をつうじた社会参加の特別さ
六、労働市場からの排除が排外主義を準備するという逆説
七、おわりに――成熟社会のイデオロギーとしてのベーシック・インカム
・引用
「私がここで問題にしたいのは、最低限の生活を維持できるだ(265)けの現金をすべての人に無条件に支給する、狭義のベーシック・インカムの考えであ る。条件つきの給付であったり、所得を部分的に補完するだけの現金給付を目指す立場は、ベーシックインカムの考えのなかには入れていない。実際、ベーシッ ク・インカムというアイデアのインパクトは、まさに生活のための基本所得を無条件に保障するというところにこそあるからである。」(265‐6)
「……、私自身は、貧困問題に対してベーシック・インカムはそれほど高い効果をもたらさないのではないかと考えている。[改行] というのも、ベーシッ ク・インカムによって支給される現金は、いとも簡単に消費者金融や闇金の担保、そしてギャンブルなどの原資につかわれることになるだろうからだ。つまり人 びとは一律に現金を支給されることで、より「カネのなる木」として搾取されやすくなるのである。これは決して「貧困層は生活がだらしない」ということを主 張しているのではない。そうではなく、一律に現金を支給すること自体が人々をより搾取されやすい状態においてしまう、という構造を指摘しているのである。 ベーシック・インカムインカムはその推進者たちのもくろみとはうらはらに、貧困問題を解消するどころか、人々をより貧困化しやすい状態においてしまうので ある。」(268)
「 ベーシック・インカムの根本的な問題は、それが新しい社会的排除を準備してしまうという点にある。[改行] この社会的排除は、ベーシック・インカム がかかげる「労働からの解放」から直接もたらされる弊害だ。……ベーシック・インカムは余分になった労働力を――雇用政策や社会事業によってではなく―― カネで解決する政策にほかならない。」(271) 「ベーシック・インカムは人々を労働から解放しようとするが、同時に政府をも労働政策の責任から解放す るのである。」(272)
「なぜこの場合、雇用創出をになうアクターが政府にならざるをえないのかというと、社会のなかで政府(国家)だけが強制的に税を徴収することができるから である。労働市場における需要減(労働力の過剰)という制約に反して雇用を創出することができるのは、市場の論理をこえて強制的に財の再分配をおこなえる 政府しかない。」(273)
「……、ベーシック・インカムが想定するような高い能力を持つ人たちはそもそもベーシック・インカムを必要としないだろう。……ベーシック・インカムは、 それを必要としない人をモデルにしてみずからの意義を正当化しているのである。」(275)
「 ベーシック・インカムは、働きたいのに仕事がなくて働けない 人にとってさえ「仕 事をつうじた社会参加」を「別の仕方での社会参加」に置き換えることができる、という暗黙の想定のうえになりたっている。……おなじ社会参加でも、まさに カネを稼ぐということによってもたらされるアイデンティティ上の効果の点で、仕事には特別の意味があるのだ。」(277 下線は傍点)
「 要するに、ベーシック・インカムをするぐらいなら、その財源で政府は公共事業をするべきなのだ。もちろん、……公共事業の内容は、社会関係そのものに 投資するなど、成熟社会にふさわしいものにかえていかなくてはならない。とはいえ、それでもやはり公共投資によって雇用を創出し、人びとに仕事をつうじた 社会参加の機会をもたらすことが必(284)要であることに変わりはない。新しい公共事業をつうじた社会的排除の解消、これこそが成熟社会において目指す べき方向にほかならない。」(284‐5)
「 ベーシック・インカムは社会保障をめぐるひじょうにラディカルな「オルタナティブ・ヴィジョン」として提起されている。しかしそのラディカルさは認識 レベルでの短絡さと表裏一体だ。社会や、そこで人が生きるということに対する認識が短絡的だからこそ、一見するとラディカルな主張ができるのである。そこ に、ベーシック・インカムがじつは[賛成論者が主張するのとは]逆の効果しかもたらさないことの原因がある。ベーシック・インカムが私たちに教えるのは、 社会の「オルタナティブ」を構想するにしても、そういったラディカルなだけの姿勢ではなにも解決できないし、場合によっては逆効果になることさえあ (286)る、ということだ。その意味で、ベーシック・インカムをめぐる議論はたんなる政策論議にとどまるものではない。そこで問われているのは、私たち が社会を構想するさいの基本的な姿勢そのものなのである。」(286-7)>

◇2010.1218 book.asahi.com 「〈回顧2010・論壇〉ネットの公論空間 産声あげる」、http://book.asahi.com/clip/TKY201012180140.html

◆2010.1215 林正義ほか著、『公共経済学』、有斐閣アルマ、pp.298 -300.
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◆2010.1212 フェミックス(編集・発行) 『ベーシックインカムは希望の 原理か』、(有)フェミックス.

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・目次
はじめに
第1章 講演録 オカネは基本的人権だ――希望の原理としての所得保障 (白崎一裕さん)
 カネって何だろう?/「地域通貨」で食えるんじゃないか/「マネーへの権利」は基本的人権だと思う/自己破産した労働者の六五%が非正規雇用/「労働」 と「所得」を切り離す/労働市場と教育の分離――「教育」と「所得」を切り離す
第2章 インタビュー ベーシックインカムは、バラマキなのか (小沢修司さん)
 ベーシックインカムは働く側の力を強める/「八万円」の誤解/財源を確保できる見通しは充分ある/個人への支給は人のつながりを切ってしまうか/ベー シックインカムは社会的ニーズを掘り起こす/性差別の解消はベーシックインカムだけではできない/ベーシックインカムは、バラマキではない
第3章 インタビュー ベーシックインカム――生きていることがすなわち労働 (山森亮さん)
 →◇2009.1001  山森亮
第4章 インタビュー ベーシックインカムに女性の視点を (堅田香緒里さん)
 →◇2010.0210 堅田香緒里
第5章 シンポジウム ベーシックインカムでつながれるか、変えられるか (白崎一裕さん、稲葉剛さん、竹信三恵子さん、西川正さん)
  社会的遺産としての「富」を平等に分配する思想/もう雇用で福祉をどうにかできる時代ではない/ベーシックインカムが実現すれば、全ての差別はなくな るか?/お金を出すだけの生活保護が、貧困ビジネスのくいものになっている/生活にかかるコストを下げる政策があわせて必要/ベーシックインカムを使って 何をしていくかが大切/私たちは働けなくさせられてもいる/すばらしい概念が日本的土壌でゆがめられていく/労働と所得を切り離す、その道筋の違い/お金 だけでは人はつながらない/人間や労働の価値をお金だけで考えるのをやめる/一人ひとりのつぶやきを、社会の声にしていく
ベーシックインカムを知る/別の世界のあり方を考える (編集部・選)
・引用
(白崎)「 BIのような考えがなんで必要なのか、私の考えとしては「基本的人権としての所得保障」ということです。これは憲法に入れてもいいくらいだと 私は思っています。……自然権、ナチュラルライツ、生まれながらにもってる権利としてお金の権利はあると考えたほうがいいと思います。」(11)
(白崎)「 今までの労働市場は、産業構造の変化があり、それに合わせた労働ができて、そのための人材分配が求められる、というものでした。自分たちの勝 手知らぬところで労働市場が変わっていき、こんな人材がこれだけの所得を得られるということに教育は一方的にふりまわされてきた。しかし、所得と教育が分 離することによってどうなるでしょう。BIは、われわれが今まで変えられないと思っていた労働市場を、より人間らしい労働市場に変える可能性がある。」 (15)
(小沢)「 BIのある社会では、労働力の商品化は、自分の労働力を売ってさらに稼ごうと思う人にとっては残る。その意味で市場原理は機能する。でも、そ れは今の状況とは違う、いろんな選択肢があった上で、自分の生き方を考えならが「働く」ことに関わっていけるわけですよ。その時に、次のステージに向けて 何が必要なのか。BIのある社会でも、資本は労働者を搾取しようとする、労働者はそれに対して対抗するというような関係は続くけれども、次のステージに行 く条件なり機運が、私は醸成されてくるのじゃないかなと。そこがすごく大事でね。」(19)
(小沢)「 今の生活保護で置き換えて考えると、私の言ってる「八万円」はその中の生活扶助の部分なわけです。これに住宅扶助を足したら額としては最高で 一三万ぐらいになるんだけども、住宅扶助は確実に家賃で消えます。そういう使い道が決まっている住宅扶助や教育扶助の部分までBIの額に反映させるのは、 私は間違ってると思う。BIはあくまで使途が自由になる生活扶助部分だけで考えて、住宅や教育や医療といった保障(現物給付)の部分は、現金給付のBIと は別のやり方を考えなあかんと私は思ってるんです。」(20-1)
(小沢)「 累進税率でBIを実現するのでもいいんですよ、それでみんなが受けとめるんやったらね。BI論者でもそういう主張をする人はいます。ただ、累 進にすることで行政コストがかかってややこしくなる。私は定率制でいくのがシンプルでいいと思います。」(23)
(小沢)「「最低生活費に課税しない」[改行] 「最低生活費を支給する」[改行] これはどう違うんや?ということです。[改行] ここをおさえたら、 子ども手当にしてもBIにしても、全員にバラマキやというけど、現行制度[累進税制下での所得控除]はもっと不公平なかたちでバラマキをやっていると、こ れ をどう考えるんですか、ということなんですね。」(32-3)
「(稲葉) ……「BIの導入に賛成ですか反対ですか」という問題設定がなされることに疑問を持っています。……現状に対して、私たちは闘うのか闘わない の か、闘うとしたらその闘いの中でBIが使えるのか使えないのかという問題設定をしなければならないと感じています。一部のBI論では「衣食足りて礼節を知 る」「貧すれば鈍す」といった昔の諺が使われ、だからBIが必要なんだと語られることが多いんですが、私はそうした言葉の中に、生活困窮者、貧困にあえい でいる人たちに対する差別的なまなざしを感じざるを得ません。」(85)
「(稲葉) 私が思うに、ひとつには生活保護というしくみ自体が「人とお金」しか出せないところに問題がある。……そんな中で貧困ビジネスが付け入るスキ が できている。生活保護はほとんどもうお金を出すだけというかたちになっていて、それは生活保護というしくみが住宅をつくるとか仕事をつくるという機能を もっていなくて、そこは本来は住宅行政や労働行政がおこなうべきことなんですけど、そことの連携が全くとれていないために、結果的に生活保護のお金が貧困 ビジネスに流れ込む構造ができてしまっている。」(87-8)

◆2010.1209 橋本努 『自由の社会学』、NTT出版.
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◇2010.1206 萱野稔人/堀江貴文、「萱野稔人×堀江貴文 ベーシックインカムはゼロ成長社会の救世主か?」、『コトバ』、 2: 56-61.
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◇2010.12 永嶋信二郎、「ベーシック・インカムの基本問題 (特集 次世代と社会の変化)」、『人間文化研究所紀要』(聖カタリナ大学人間文化研究所 )、15: 1-9.

◇2010.1130 岡野内正、「第14章 世界の貧困とグローバル・ベーシック・インカム論」、田中祐二/中本悟編著『地域共同体とグローバリゼー ション』(晃洋書房)、pp. 253-266.
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・目次
はじめに
1開発援助による貧困撲滅の失敗
 (1)社会主義対資本主義的近代化論
 (2)BHNアプローチの登場と後退
 (3)市民社会の強調とグローバル化
 (4)一人勝ちの多国籍企業
 (5)社会主義的独裁の崩壊あるいは変質、キューバの成功と限界
 (6)多国籍企業に期待するBOPビジネス論
 (7)雇用問題を無視する資本主義論
 (8)ケチな目標
2全人類個人向け無条件同一金額現金給付の貧困対策
 (1)フランクマンの世界的所得再分配構想
 (2)グローバル・ベーシック・インカム財団
 (3)グローバル・ベーシック・インカムの5条件
 (4)導入計画と財源論
 (5)筆者による試算
 (6)連帯感と世界市場の公正さ
3グローバル・ベーシック・インカムによる社会変革
 (1)グローバル・ベーシック・インカム財団の主張する利点
 (2)社会理論的に見れば、革命的
 (3)グローバル・ベーシック・インカム財団のあげる難点
 (4)希望
おわりに
・引用
「 まず、これまでの貧困撲滅策の失敗の原因を明らかにし、次に、グローバル・ベーシック・インカム論者によって提起された、全人類個人向け無条件同一金 額現金給付という貧困撲滅策を検討する。そして、その延長上に、さらに基本的な生活水準を無条件で保障する完全なグローバル・ベーシック・インカムの実現 が意味する社会政策の諸側面を明らかにしていこう。」(253)

◆2010.1125 竹中平蔵/池田信夫/土居丈朗/鈴木亘、『日本経済「余命3 年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか』、PHP研究所.
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◇2010.1125 山森亮 「ベーシックインカムは雇用・保険・世帯ありきの社会保障再設計の材料だ」、『日本の論点2011』、文芸春秋、pp. 556-59.
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・目次
雇用の有無にかかわりなく個人に給付する
ベーシック・インカムの歴史、思想的根拠とは
世界各国で議論の俎上に載る制度の導入
「B・Iで社会保障を全廃可能」は大きな誤解
・引用
「 日本における議論の特殊性としては、ベーシック・インカム論者に占める、いわゆる「小さな政府」論者の数が多いことである。政府の個人の生活への恣意 的な介入を「小さく」するという意味では、これは驚くべきことではないが、政府の財政支出を「小さく」できるとの主張があることは驚きである。これはベー シック・インカムの導入によって、あらゆる既存の社会保障が全廃できるほか、その他の行政サービスの多くも削減できるという議論に基づいている。こうした 方向性の議論が世界でまったくないわけではないが、ベーシック・インカム論議の主流ではないことを考えるとやや特殊な議論と呼んでよいだろう。」 (559)

◇2010.1121 「今週の本棚:中村達也・評『政権交代の政治経済学――期待と現実』=伊東光晴・著」、『毎日新聞』、東京朝刊、9頁.

◆2010.1120 田上孝一、『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる倫理学 』、日本実業出版社.
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◇2010.1120 山森 亮 「生活権の奪還のために――ベーシック・インカムはパンドラの函か?」(特集 再考、貧困問題)、『部落解放』、638: 31-38.
・目次
ベーシック・インカムと日本での議論の背景
 ベーシック・インカムとは
 雇用・社会保障システムの機能不全
 土木ケインズ主義への批判の高まり
社会運動とベーシック・インカム
 土地は誰のものか
 賃労働中心社会への批判
 何が労働なのか――フェミニズム運動からの問い
 プレカリアートとベーシック・インカム
社会運動とベーシックインカム [*ママ]
 ベーシック・インカムはパンドラの函か? 
・引用
「 そうした誤解[BIの導入によってあらゆる既存の社会保障が全廃でき、かつその他の行政サービスや政策の一部も廃止することができるという日本に特殊 な誤解]に足をすくわれないためにも、ベーシック・インカムについて語るときに、それを要求した過去の先達の社会運動から学ぶことが重要であるように思わ れる。……キング牧師について知らない人はいないが、彼がベーシック・インカムを要求していたことはほとんど忘れ去られている。また一九六〇年代から一九 七〇年代にかけてベーシック・インカムを要求した女性運動があったことは、学問の世界ではほとんど黙殺されている。」(38)

◇2010.1112 横山彰、「ベーシック・インカムと財源の選択――Atkinson教授の考察を中心に――」、財務省財 務総合政策研究所、特別研究官等セミナー議事録、平成22年11月12日、於財務省4階西456 「第一会議室」.
  →議事録   

◇2010.1111 遅澤秀一 「人的資本投資としてのベーシック・インカムの可能性について」、『基礎研Research Paper』(ニッセイ基礎研究所)、No.10-004、11 November 2010.
 →全文PDF http://www.nli-research.co.jp/report/research_paper/2010/rp10_004.html
・目次
1はじめに
2他の福祉制度との比較、位置付け
 1 生活保護との比較
 2 雇用保険との比較
3ベーシック・インカムへの批判
 1どのような批判があるか
 2働かざるもの、食うべからず
 3労働意欲の低下
 4なぜ金持ちにも支払うのか
 5政策効果
 6財源
4人的資本投資としてのベーシック・インカム
 1本稿の立場
 2狙い、あるいは何を目指しているのか
 3人的資本投資としての位置付け
 4ベーシック・インカム批判論に対して
 5財源をどう考えるか
 6既存の年金制度をどう扱うのか
5終わりに
・引用
「本稿におけるベーシック・インカムの狙いは、社会全体のリスク回避度を低下させ、リスクを伴う人的資本投資を促す点にあり、再分配の促進にあるのではな い。そのため、リスクを取るインセンティブを高めるため、結果としての格差は容認する。ジョン・ロールズの格差原理はもっとも恵まれない人達に焦点を当て ているが、本稿の立場ではそれを最終目的としていない。最悪の事態でもリスクを許容できる範囲にとどめつつ、全体のリターンを最大化することを目指してい るのである。これはポートフォリオ理論で言えば、CVaR(Conditional Value at Risk)……を許容限度内に抑制する制約条件のもとでリターン最大化を目指す定式化にイメージは近いかもしれない。」(8)
「 人的資本への投資という立場での財源はどう考えればよいのか。配当、出資、資本回収に分けて検討してみよう。まず配当として、社会にかかわる有形・無形の恩恵全般を広く 考えるべきである。本来の狙いは新しい試み(ビジネスのみならず文化的・社会的貢献も含む)を促進することであるが、世代間格差是正、消費性向の高い層へ の所得移転による国内消費拡大や行政改革による無駄削減が期待される。そのような経済的効果に加えて、貧困対策、社会全体のリスク低下、社会保障の平等と 制度の安定性確保による安心感の増加、大都市圏の再開発、地方のコミュニティ再構築等も期待される。[改行] そこで出資金の位置付けで、各種控除を全廃した上での20% フラット・タックスの所得税を財源とすることを考える。恩恵は社会全体に及ぶが、その恩恵は高所得者ほど大きいと考え、出資も所得に比例させる。20%と いう税率は、自由度を高めるための投資として20%を目処としたことに平仄を合わせる意味もある。……[改行] 他の論者との最大の相違は、資本回収として死亡時一括払い世代別人頭税を課す点にある。 人的資本への投資であるので、本人死亡時に出資金を回収するのは合理性がある。換言すれば、死ぬときにそれまで社会から受けてきた恩恵を清算するのだ。」 (10.下線は引用者)
「相続税と本稿の世代別人頭税との相違は課税の理念にある。本稿の立場では自分の資産は自由に処分することを認めるが、社会全体、特に後の世代から移転し た分は、自分の稼得資産ではないので死亡時に社会に還元すべきだと考える。」(11)
「現状では財源を確保するために「取れるところから取る」に近い議論が目立ち、結局は再分配の強化を目指すことにしかなっていないと言ったら言い過ぎであ ろうか。また、ベーシック・インカム批判に対する再反論も、異なる思想的背景を持つ人達に対する説得力は乏しいと言わざるを得ない。[改行] そこで本稿 では、従来、ベーシック・インカムの副次的効果とされてきた生き方、働き方の多様化を前面に出し、低所得層への生活支援を反射的効果とすることによって、 人的資本投資の観点から再構築を行った。権利主体の制度論ではなく、社会への投資としての有益性を中心に据えることによって、イデオロギー色の希薄化を試 みた。また、投資であるがゆえに、リターン向上だけなくリスク低下による効用増も見込めるため、従来のように新制度になると負担増となる人が反対にまわり がちな構造を和らげる効果も期待できよう。さらに、ベーシック・インカムの難点と言える財源問題についても、人的資本投資の側面から定率所得税と死亡時一 括払い世代別人頭税を併用することによって、非現実的と批判を浴びがちだった、従来の議論に見られた高率の所得税率や消費税率を回避できる可能性を示唆し た。」(13)

◆2010.1110 飯田泰之 『ゼロから学ぶ経済政策――日本を幸福にする経済 政策のつくり方』(角川oneテーマ21)、角川書店.
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・目次
はじめに
第一章 幸福を目指すための経済政策
 1-1 幸福と経済
 1-2 経済政策の3つの柱
 1-3 経済政策を考える出発点
第二章 成長政策
 2-1 成長政策の基本
 2-2 市場の機能と競争政策
 2-3 「市場の失敗」にどう対処するか
第三章 安定化政策
 3-1 安定化政策の基本姿勢
 3-2 財政政策
 3-3 金融政策
第四章 再分配政策
 4-1 再分配政策の基本理念
 4-2 「セーフティネット」としての再分配政策
 4-3 日本の社会保障制度の再分配機能をいかに変えていくべきか
おわりに
・引用
「……実効的な経済政策とは何かというと、成長と安定と再分配のバランスの問題に他ならないわけです。[改行] この三つのバランスが比較的うまくいって い る例は、北欧三国だと言われることがあり(57)ます。その理由としては、成長政策として規制緩和と競争を、安定化政策として金融政策の活用を、再分配政 策として社会保障の充実をという三本柱の方向性が明確であることがあげられています。」(57-8)
「 本来の経済学的な成長政策は「指導」[政府の旗振りによる成長産業への選別や集中投資]とは正反対の話です。成長政策として国がやるべきものの代表と して、投資税制の優遇や規制緩和などがあげられます。……、何が「成長分野」なのかは事前には分からないのですから、あくまでもどの分野に資金を投下する か の判断は市場に任せるべきでしょう。」(63)
「……、経済学における長期とは、ある時点で経済がもっともよいパフォーマンスを発揮できたときの経済状態のこと――経済の実力・体力のようなものを指す の です。したがって、長期の問題を取り扱う成長政策とは基礎体力の向上を目指す政策ということになります。」(125)「このような基礎体力以外の体調を整 えるのが安(125)定化政策の仕事です。……基礎体力あっての体調管理であることも確かですが、同時に体調管理あっての基礎体力なのです。」(125- 6)
景気安定と経済成長の関係に関して「……、一国経済全体については、基本的にニュー・ケインジアン流の考え方[景気の善し悪しはなるべく均していったほう が、長期的な経済成長につながる]が適合するが、産業レベルではシュンペーター流の考え方[創造的破壊]が妥当するということになるでしょう。」 (131)
経済安定化のために、減税とフィスカル・ポリシーいずれが望ましいかに関して、「作ったものが役に立つからこそ財政出動が減税よりも望ましいのだとすれ ば、現在の日本で役に立つ施設を作ろうとすると、どうしても都市部への公共財供給が中心になってしまうでしょう。都市部の公共事業には莫大な土地収用費が 必要になるので、真水部分が小さくならざるを得ません。逆に土地収用費が全然かからない、クマとシカしかいないような場所に道路を作るとなれば、真水は大 きくなる代わりに、なんら役に立つものにはならないため減税と実際の経済効果は同じということになります。」(148)「安定化政策のツールとして財政を 割り当てるより、安定化政策には別の政策を割り当てて、再分配や資源配分の部分に財政を最適化していったほうがよいのではないか、というのが筆者の基本的 な見解です。」(152)
「……、自由主義的な再分配政策とは、自分で自由に選ぶことのできなかった不運に対する、強制加入の公的保険なのです。このように考えると、再分配政策の 本 質的な役割が理解できるのではないでしょうか。」(186)

◇2010.1105 西川 伸一 「きんようぶんか 本 [村岡到著]『ベーシックインカムで大転換』」、『金曜日』、18(41): 42.

◆2010.11 飯田文雄、『公募研究シリーズ(16) ポスト福祉国家の時代における共生社会の可能性とベーシック・インカム論』、財団法人全国勤労者福祉・共済振興協会.
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  →目 次などPDF

◆2010.1030 石原俊、『殺すこと/殺されることへの感度――二〇〇九年か らみる日本社会のゆくえ』、東信堂.
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・引用
「 ただし日本において問題なのは、「先進国」のなかで米国と並んで社会民主主義的な大衆意識が脆弱なことも手伝って、BIの思想的意味が大衆的にほとん ど自覚されない段階で、その表層だけが早くも統治側に横領されつつあることだ。……、そもそもBIの政策的意味には、「生活支援」と「景気対策」の両面が 存在している。つまりBIは生存権の思想/運動である側面と同時に、新自由主義的なシステムの側からの危機=恐慌予防策という側面をもっている。無条件の 定期給付によって「有効需要」を創出しようとするBIは、労働分配率が下がったポスト・フォーディズム時代の「景気対策」にさえなりうる。」(23)
「 筆者自身は、たとえば小沢修司が提唱するような、定率所得税を財源とした一国BIを制度化することには賛成しない……。BIはすくなくとも、税の累進 性や固定資本への課税の問題、家族や福祉施設における子どもや重度障害者・病者の給付金の管理をめぐる問題と併せて議論されるべきであるし、またあらゆる 生産(むろん賃労働に限られない)に携わる人びとの潜勢力を抑圧しない形で不平等な国際分業体制や為替格差を縮減するために、BIは国境を越える移動・居 住・就労の自由とセットで主張されねばならないと思っている。」(25)

◇2010.1029 橘玲 「ベーシックインカムはどうですか?橘玲公式サイト」、http://www.tachibana-akira.com/2010/10/910
・引用
「ベーシックインカムは奴隷制である。[改行]というのが、私の立場です。」

◇20101017 MICHAEL HOFFMAN "BIG IN JAPAN: Utopia means free money for everyone" The Japan Times Online http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fd20101017bj.html
  →翻訳(岩田渉) http://wtr000.blogspot.com/2010/10/blog-post_22.html
  
◇2010.1000 立岩 真也 「ベーシックインカムが語る税の思想」、『公明』、58: 42-47.
  →http://www.arsvi.com/ts2000/20100025.htm

◇20100930  東浩紀 「(論壇時評)消えた老人問題 よりどころ、どこに求める」、『朝日新聞』、朝刊、23面.
・引用
「……、かりにBIが財政的に実現可能だとして、また経済政策として有効だとして、導入する「べき」かどうか。それはおのずと別の話になる。この点で注目 す べき議論を展開しているのが萱野稔人(〈7〉)である。
 萱野は、BIの導入は働きたくないひとを救うことはできるが、「働きたいけど働けない」ひとは救えない、その点で致命的な欠陥があると論じる。労働は多 くのひとにとって、単なる生活費確保の手段ではなく、他人からの承認の証しという重要な役割を担っている。したがって、生活保護や年金を現金給付に一本化 し、弱者を労働から解放することは、結果的に彼らから承認の場を奪い、社会の「包摂」(心のつながり)の機能を著しく阻害してしまう。それゆえ、BIは導 入すべきではないと言うのだ。
 重要な問題提起だが、ここでは[日本の共同体主義的な伝統を根拠に「国からの管理はルーズなところがあったほうが自由でいい」と論じた]松原論文との共 通性だけ指摘しておこう。萱野が懸念するのは要は、BIを口実に、国家が国民の精神的なケアから手を引くことだ。他方で松原は、その役割は本来共同体のも のなのだから、国家は過剰に手を出すなと論じている。
 一見対照的に見えるが、じつは両者の主張は意外と近い。いまBIの思想が広がりを見せている背景には、人々が、家族や地域など、共同体の精神的な機能に 絶望し始めているという現実があるからである。萱野と松原がともに憂慮しているのは、まさにそのような状況、人々がもはや社会に「包摂」を期待しなくな り、ドライな富の再配分しか望まなくなってしまうことに対してなのではないか。
 家族や地域の安易な再興は望めない。しかし、ではそこで家族や地域抜きの社会保障が可能だったとして、そのときひとはだれに承認され、どこに居場所を求 めるのか。前出の斎藤の言葉を借りれば、「家族依存型社会」が壊れたあと、人々はどこに依存の場を見いだすのか。現代日本の状況は、思想的にも実践的にも じつに厄介な課題を突きつけているのである。」

◇20100929 曽我逸郎 「神野直彦先生講演@「ふるさと再生首長会議」 ベーシック・インカム」、信州中川村HP村長からのメッセージ http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/intro/v_chief/065_20100929.html
・引用
「[総会の]終了後ベーシック・インカムに対するお考えを尋ねると、全否定の見解だった。そのあたりのことを書きとめておきたい。」
「神野先生は、産業構造を変換することによって、次の社会を開かねばならないと考えておられるのではないだろうか。そのためには、社会人再教育も含めた人 間への投資が必要であり、産業構造が変換されれば、雇用も生み出せる、失業率も大きく下げられる、と考えておられるのだろう。また、産業構造変換が完成す る前においても、教育や現物給付を拡充することによって、雇用は拡大されるだろう。
 確かに現状は、貧困によって、多くの有為な人材がタメを失い、不本意にもなにごとにも取り組めない状況に置かれている。これは大きな問題だ。
 一方、ベーシック・インカムは、先生から見れば、金を貰ってただぼーっと遊んでいればいいとするものであり、市場原理主義の「奪い合い」戦略とは別の形 で、産業構造の変換を抑制すると考えておられるのではないかと思う。言われてみれば、ベーシック・インカム論者の間には、産業構造の変換を促すべき、とい う視点はあまりないように感じる。しかし私としては、これまでも書いてきたように、ベーシック・インカムが実現しても、大方の人はこれまでどおり働き続け ると思う。いくらかの人は、自分のやりたい賃労働に移るだろう。その中には、チャンスと捉えてもっと儲けようとする人もでてくる。一部には、賃労働せず、 貧乏に甘んじてもすべての時間を自分のこだわりに注ぎ込もうとする人も出てくる筈だ。「自分のこだわり」といっても利己主義的な生き方を言っているのでは ない。人や社会のために自分の時間を使うことも、その人のこだわりだ。自分のこだわりで自分の人生を納得できるものにする中から、まったく新しい、人々を 驚かし喜ばせるものが生まれてくるに違いないと思う。
 確かに、ベーシック・インカムだけで、ただぼーっと時間つぶしを続ける人もわずかながらいるかもしれない。しかし、これは長く続けることはできない。人 間は、必ず、何か自分なりに意義を感じられることに取り組むものだ。この中から次の時代を開く新しい価値も生まれてくる。」

◇2010.0921 小沢修司 「「自助」が機能しない時代には新しい社会保障の仕組みが必要だ(ベーシック・インカムについて考えよう)」 、『エコノミスト』、88(53): 80-82.
・目次
社会保険の限界
バラマキ批判は当たらない
固定的な家族のあり方を変える
◇2010.0921 小沢修司 「試算 月額8万円の給付が実現できる(ベーシック・インカムについて考えよう)」、『エコノミスト』、88(53): 83.
◇2010.0921 原田泰 「小さな政府 直接給付に切り替えれば、非効率な補助金がやめられる(ベーシック・インカムについて考えよう)」、『エコノミスト』、88(53): 84-85.
・目次
月7万円の直接給付で試算
農業、中小企業保護が削減できる
補助金で仕事を作るよりマシ
◇2010.0921 橘木俊詔 「素朴な疑問  働ける人、高額所得者にも支給する違和感(ベーシック・インカムについて考えよう)」、『エコノミスト』、88(53): 86-87.
・目次
労働意欲を阻害
巨額の税負担
社会保障の充実がより有効
◇2010.0921 山森亮 「ブラジル報告 小さな農村コミュニティで始まった給付(ベーシック・インカムについて考えよう)」、『エコノミスト』、88(53): 88.

◆20100915 NPO法人POSSE、『POSSE vol. 8』、特集 マジでベーシックインカム?.
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◇20100915  POSSE誌編集部 「10分でわかるベーシックインカム講座」、『POSSE』、vol. 8: 14-17.
◇20100915 小沢修司 「BIと社会サービス充実の戦略を」、『POSSE』、vol. 8: 18-26.
・目次
労働と所得を切り離すためのBI
社会サービスは別途構想
「増額」論に乗ってはいけない
年金改革や子ども手当がBIへとつながっていく
新自由主義のリスクといかに立ち向かうか
福祉国家要求とBI要求は両立しうる
2010年を仕切り直しの年に
新自由主義的なBI論との共闘の可能性
BIは国民国家に限定されるのか
・引用
「……[BIを]次々に増額していくような話になると、それは現物給付・社会サービスをBIの中に解消するという新自由主義的なやり方を受け容れた上で給 付 額の基準を出していくことになると私は思っています。すべて必要なものを市場で現金で買うというわけです。社会サービス解体に乗ったことになります……。 つ まり、現物給付部分を現金給付部分に潜り込ませるということを前提としてしまった途端に、新自由主(20)義的なBI論と同じ土俵に立つことになり、両者 の相違点は給付額が多いか少ないかのみになってしまうわけです。肝心なのは、現金給付部分はこれだけ、現物給付つまり社会サービスで対応しなければならな い部分はこれだけ、というふうに現金給付と現物給付のバランスを見据えた政策をあくまでも取っていくことです。」(20-21)
◇20100915 後藤道夫 「「必要」判定排除の危険――ベーシックインカムについてのメモ」、『POSSE』、vol. 8: 27-41.
・目次
1.福祉国家の限界か、福祉国家の不在か?
2.BIは現行の所得保障制度を代替できるのか
3.「必要」という基準の排除の危険
4.社会サービス領域における給付方式の争点
5.「必要」の個別化・多様化
・引用
「[本稿での]筆者の関心は、BIが排除すべきだとする「必要」判定という作業が、現在の社会保障諸制度にとってどのような位置をもっており、またどのよ うに論じられるべき対象なのか、という点にある。」(27)
「……、小沢がその存在自体は自明であって、そこに内在する欠陥が問題であるかのように議論する、福祉国家型社会保障そのものが、日本では極度に脆弱であ り、現在の日本の社会的危機の大きな一因は、福祉国家型社会保障の脆弱・不在にある……。」(28)
「[生活保護世帯とそれ以外の貧困世帯への]保障額の面でのそれらの相互関係がバランスを欠く最大の背景は賃金の過少であり、ついで社会保険による所得保 障の脆弱、および家族関連所得保障の脆弱である。」(30)
「 BIによって現在の所得保障制度の大半を置き換えるというのならば、その置き換えによって新たな困窮者が生じないよう、BIを補足する諸制度とセット にした検討が必要なはずであり、むしろ、そうした検討とその結果の提示こそが、BI論の本論――注記ではなく――をなさなければおかしいのではないか。」 (32)
「……、「必要」を考慮しない所得保障への理念的飛躍は、三つの点で、最低生活の保障という社会保障の大目的そのものをおびやかす。[改行] 第一に、 「必 要」判定の一般的排除とともに、最低生活が可能な所得保障の額を決定する根拠がおびやかされる。給付額を決定する根拠は薄弱となり、給付額は政治的に変動 しやすいものとなる。」(35)「「必要」の中身、つまり、属性や条件などを、すべて考慮の外に置かれた個人の最低生活費と言う概念そのものに無理があろ う。」(36)「第二に、現在の諸制度によって所得保障をなされているのは、何らかの種類の「必要」を認定された人々であり、給付総額もそれに対応したも のだが、BIの給付対象はすべての住民となるため、給付総額は飛躍的に増える。」(36)「第三に、「必要」判定の排除という考え方は、社会サービスの領 域に適用されると、「必要」に基づく現物給付そのものを後退させる役割をはたすと思われる。」(36)
「[宮本太郎の主張する「ニーズ決定型」から「ニーズ表出型」の福祉制度への転換という市場・準市場志向においての]ニーズという言葉は、今日・明日の空 腹を満たす必要と、自家用ヨットを持ちたいという要求とのどちらをも含んでいる。だが、社会保障施策上で、この二つの間に本質的な差異を認めない議論があ るとすれば、それは異常なものとなるだろう。……新自由主義は、この二つの間に基本的な差異を認めない。」(39)
「 市場あるいは準市場に期待を寄せる主張とは反対に、クライアントの「必要」に積極的に応じて社会サービスが現物給付されると、その個別性、多様性は大 きく拡大されることとなろう。」(39)「……、すべての人間に保障されるべき個別的支援は、一定の現金を保障してあとは市場で提供される情報やサービス を 買え、という形で実現できるものではない。個別的支援の要点は、クライアントの実情にていねいによりそいながら、複雑に分節化した各社会領域ごとの必要情 報を収集し、それらをつきあわせ、相互に関連づけて、総合的な解決方向を示すことである。クライアントの選択の自由は、そうした総合的な解決案の作成過程 に即して、つまり、支援チームとの十分な話し合いに即して保証されるべきだろう。」(40)
「 こうした個別支援は、一人一人の生活に深く関係をもつがゆえに、国家と自治体による公的責任に裏打ちされたものでなければならず、同時に柔軟性の高 い、社会全体の資源を有効活用できるものでなければならないだろう。これは福祉国家型社会保障のヴァージョン・アップとして実現されるべきものである。」 (41)
◇20100915  東浩紀 「情報公開型のBIで誰もがチェックできる生存保障を」、『POSSE』、vol. 8: 42-51.
・目次
生存の保障と承認の保障を切り離せ
「オープンガバメント」化としてのBI
プライバシーを「買う」社会へ
労働するインセンティブはなくならない
正社員信仰という日本社会最大の「悪」
公共サービスの無償化か、天下り化か
市場化より消費者のリテラシーが問題
過剰に国家に依存しない社会を
運動アレルギーをどう乗り越えるのか
同床異夢は悪いことではない
・引用
「……、ポストモダンのリ(42)ベラル社会においてはアイロニーしか倫理として使えません。その場合の「アイロニー」とは、私的な原理と公的な原理を分 け るということです。つまり、公的な保障と私的な「よき生」を分ける社会にしていかざるをえないわけです。」(42-43)「むしろ重要なのは、BIによっ て、承認ではなく、生存だけを国家が保障するということです。承認を国家から切り離すことが大事だと考えます。」(43)
「 生存は絶対的に保障するから、生活情報は渡してほしいという、究極のサービスプラットホーム。生存を保障するために最適な手段をいまのテクノロジーを 前提として考えたら、結局こういうBIのかたちがありうるんじゃないのかなと。」(45)
「[教育や医療など]公共サービスを無料で提供した方が、むしろ効率的なんだという議論はありますが、民間に任せてクーポンを発行する方が、市場の競争が 成立するから効率的なんじゃないかと思います。」(47)「……、いまの日本で無料サービスとかいったら、「また特殊法人増えんのかよ」と誰もが思うわけ で すし、実際にどんどん太っていくわけです。いまは保育園が足りないけれど、あと20年もしたら、今度は子どももいないのに、保育園ばかりつくられていたと か。」(48)
「 僕たちの社会ではいま、どこまでぶら下がるとどこまで甘い汁がすえるのかがよくわかりません。BIのアイデアが良いのは、ここまでしかぶら下がれな い、ここから先は何もしない、とはっきり線を引くことです。」(49)
「……いまの30代後半くらいの世代は、多くが「左翼」とか「市民運動」は悪だと思っていますよね。そういう奴がこれだけ多い世界を前提に、彼らのアレル ギーをどう変えていくかを僕は発想しますけどね。」(50)「僕は思想とか批評とかをやっていますが、そこでだって、もう「フランス現代思想」、「ネグ リ」とかいっただけでアウトとか、そういう次元なんです。そのときに、ネグリ=ハートを引用して『現代思想』とか『VOL』で論文を書いているというの は、何の意味もないんですよ。申し訳ないけど、この10年間、そういうタイプの「現代思想」はまったく新しい思想や運動をつくり出せていないと思う。」 (50)
◇20100915  竹信三恵子 「なぜ「働けない仕組み」を問わないのか〜BIと日本の土壌の奇妙な接合」、『POSSE』、vol. 8: 52-59.
・目次
「働けるはず」と「働けないはず」
お札でもどんどん刷って
財政難打開の切り札?
連帯の概念簒奪の歴史
ベーシック・インカムをいかすために
・引用
「……、気がかりなのは、この[「すべての個人が無条件で生活に必要な所得を持つという」]理念が日本社会の土壌と奇妙な接合を起こし、本来の狙いとは異 な るものに転化する兆しが出ている点だ。」(53)
「……、日本で起きかけている問題は、働ける仕組みを整えれば働けるはずの人たちまでもが、「働けない現実」を認めてしまい、働ける仕組みづくりから下り よ うとする動きが、ベーシック・インカム論で後押しされているということだ。」(53)「……女性にとっては「働けないはず」を認めてもらうことより、働け る 仕組みを充実させることのほうが先決ではないのか。」(53)
「「働けないことを認めて現金を支給する仕組み」は、そんな[公的に専業主婦世帯を優遇する]構図を内面化してしまっている多くの日本の女性にとって、 「仕組みなんか変えなくても、いまのままのあなたでいいんだよ」というメッセージに転化しがちだ。変革の道具としてのベーシック・インカムではなく、現状 肯定、変革の免除の道具としてのベーシック・インカムである。」(55)
「 どうやらベーシック・インカム論は、いまの日本社会のなかで、@「あなたは今のままでいい」として、職場から排除された人々が職場のあり方そのものを 変えようとするエネルギーを削ぐイデオロギー効果、Aもともと駄目(56)な人間に職業訓練などおこなうのは行政のお節介なので、そんな行政サービスを削 減するための黙り賃としての支給、といった役割を担わされて流通し始めているようだ。」(56-57)
◇20100915  飯田泰之 「経済成長とBIで規制のない労働市場をつくる」、『POSSE』、vol. 8: 60-72.
・目次
「結果の平等」のための生活保障を
高すぎる生活保護?
ルールに基づいた所得保障を
経済成長がないとBIは維持できない
円安は簡単にできる!
雇用の流動化で採用が増える
退職金を少なくして辞めやすく
すでに雇われている人の待遇を下げる
守られていない賃金規制は撤廃を
最低賃金は地方では高すぎる
第2のセーフティネットは、職業訓練か解雇予告手当か
公共施設ではなく所得保障で公的なセーフティネットを
スウェーデンなみの解雇規制緩和を
・引用
「 まず、支給する水準については、5〜7万円が僕の考えている数字です。家賃補助もいっさいなしで。ただし障害者と母子家庭は別途手当です。この金額の 理由は、単に老齢基礎年金が月7万円だから。」(62) 「 BIのほうが僕は理想なのですが、財源について考えると同じ手取りを達成する負の所得税がよ いかもしれない。」(62) 「 必要となる準備は2つ。[改行] ひとつは所得税の世帯課税を個人課税に切り替える。……次に、その所得にしたがって負 の 所得税をおこないます。」(62)
「……、生活保護老齢基礎年金はぜひとも廃止か大幅縮小したい。……[改行] 財源として考えられるのは相続税でしょう。……[改行] この2つ、とくに 相続税 については上手にデザインすれば20兆、下手でも12兆の税収があげられます。12兆円と老齢基礎年金の15兆円と生活保護費の2兆円、あと累進課税から 3〜4兆円出てくると思うので、そのあたりを財源に負の所得税によって事実上のBIを達成するとよいでしょう。」(62)
「BIでぎりぎりの生活をする人が増えると、需要が縮み、売り上げが落ち、会社がつぶれる、さらにBIオンリーで生活する人が増え、需要が縮むというスパ イラルに陥るのは防がなければならない。恒常的に実質2%、インフレ2%で名目3〜4%の経済成長率を維持できればこのようなスパイラルは生じないでしょ う。」(63)「ですから経済成長、景気安定化、再分配の3つは切っても切れない縁にあるわけです。この3つが揃っていない、ひとつだけという選択肢はあ りえません。」(63)
「 人手不足をつくる方法のひとつは、賃金を切り下げることです。でもこれは嫌でしょう。……もうひとつ、国際的にみた賃金を下げる方法があるんです。そ れ が円安。」(64)「……、一番目先でできて、法改正も必要ないのは、失業率が何%以下になるまでゼロ金利を継続するといってしまうことです。金融政策の 目 標としても、雇用を入れないとダメです。」(65)
「[最低賃金制度は] 全廃するとよいでしょう。賃金に対する規制ほど馬鹿げたことはないと考えています。理由は簡単です。雇いたい、働きたいという需要 を最低賃金が止めてしまうんです。賃金に対する規制は、人々の生活保障の負担を企業に間接的に負わせようという制度です。ちゃんとこれを負担してくれる企 業と、してくれない企業があるので、どこに勤めるかによって事実上の生活水準が変わってきてしまいます。」(67)
「 [最低賃金規制がなくなったら、さらに所得が下がるように思えますが、という質問に対して、] それはちがいますよ。国民所得は賃金と利潤の合計で す。これは僕の主張ではなく「国民所得」の定義です。……規制がなくなったときの賃金水準以上の賃金を法律で設定しているとすれば、それは失業を生んでい ると いうことです。企業は雇える人しか雇わないわけです。ただ、BIを導入すれば賃金が上がりますよ。だって働きたくなければ働かなくなるわけですから。」 (69)
◇20100915 萱野稔人 「ベーシックインカムがもたらす社会的排除と強迫観念」、『POSSE』、vol. 8: 73-84.
・目次
「労働からの解放」は本当に解放なのか
労働力が過剰になる成熟社会
経済成長は歴史的な例外だった
BIは新たな社会的排除をうみだす
BIは国家をも労働から解放する
「働ける自由」をBIは保障しない
「労働からの解放」の先にBIは関与できない
BIによってもたらされる強迫観念
BIでは貧困問題すら解決できない
新しい公共事業で「公」をつくりだせ
資本主義は市場経済とイコールではない
・引用
「 結局、国家による公共投資がなくても市場経済そのものは回っていくと――無意識にせよ――考える点で、BIは資本主義を市場経済に還元してしまう、あ りがちな誤謬のうえに立脚しています。……そこには資本主義とは何かという認識が決定的に欠けている。市場と国家を対立させてとらえている点で、BIは けっ して有効な社会構想にはなりえないのです。」(84)
◇20100915 錦織史朗 「ベーシックインカム論の「自由」観の貧困」、『POSSE』、vol. 8: 85-96.
・目次
はじめに
貨幣は中立的な道具ではない
貨幣による共同性の解体
物象化を抑制する貨幣給付はありうるか
脱労働ではなく、脱商品化を
BI論の隘路
・引用
「……、貨幣が中立的に使える道具などではないことは明らかであろう。むしろこの社会を編成する極めて根源的な要素なのである。貨幣は特別な社会的力を 持っ たモノであり、個人によって排他的に所有される。したがって、それを所持する個人は文脈にかかわりなく、貨幣によって社会的力を行使することができる。つ まり、貨幣さえあれば、個人は他者に依存することなく社会的力を行使し、他者を動かすことができるのである。そして、このことが人間が本来的に持つ「自 由」として表象されることになる。[改行] このような貨幣の力は人間の共同性を解体していくだろう。そもそも貨幣は共同性の喪失ゆえにその力が全面化さ れたのであり、私的個人が行使する貨幣の力が強まれば強まるほど共同性は喪失されていく。」(89)
「……、端的にいうなら、賃労働がアソシエートしてどれほど資本の「自由」を規制しているかによって、社会における貨幣や資本の力の強さが決まるといって も よいほどだ。……賃労働のアソシエーションこそが、さしあたり、脱商品化のためのもっとも基礎的な条件となる。」(94)
◇20100915  齋藤幸平 「ヨーロッパにおけるベーシック・インカムと新自由主義」、『POSSE』、vol. 8: 97-108.
・目次
はじめに
1.規範理論としてのBIの普及
2.BIの急先鋒、VIVANT(ベルギー)
3.ヴェルナーのBI構想(ドイツ)
おわりに
・引用
「……、日本でBIの議論が紹介される際、戦後日本の[企業中心主義的な]社会統合の特殊性が十分に認識されないまま、「先進国」というくくりで日本の企 業 主義とヨーロッパの福祉国家がまとめて論じられてしまっている。その結果、BIの適応可能性に関する戦略的限定が忘却され、BIは日本の福祉制度の危機に たいする解決策ではないにもかかわらず、BIが日本の左派によって賞賛されてしまっているのではないか。」(98)
「 要するに、[Van Parijs, Bill Jordanなどによって]BIが規範理論として論じられることで、BIは特定の社会的・政治的文脈を軽視する理論的(99)傾向を強めており、こうした 傾向性は、BIが社会主義運動や環境運動と絡めて論じられるとき、いっそう顕著になる。」(99-100)
「貨幣を人々にばらまきさえすれば、それで人々が労働から自由になるというのは、資本主義における貨幣の物神性に捕らわれた発想であり、そのような社会運 動は、人々の生活がますます貨幣へと依存し、市場原理が日々の生活を貫徹するような社会しかつくりださない。」(106)
◇20100915  都留民子 「フランスのベーシックインカム論とRSA」、『POSSE』、vol. 8: 109-111.
・目次
失業者が多く、市場へ参加できていない
フランスで誰がBIを支持しているのか
所得保障よりも先に保障すべきもの
日本も、昔から市場原理だった
・引用
「 まあ、左派でもBI派はいますが、私の見る限りでは失業が減少するまでの一時的な施策として、つまり「仕方のない」選択というように消極的な論です ね。」(110)
「 EUの労働者の賃金は基本的に生涯にわたりフラットに近く、平均賃金では日本の半分くらいです。しかし、生活の質は、生活が社会化されているから、比 較にならないほど高い。」(111)
◇20100915  POSSE編集部 「これが日本のベーシックインカム論だ@ ベーシックインカム論争史がわかるゼロ年代ブックガイド」、『POSSE』、vol. 8: 112-115.
◇20100915  POSSE編集部 「これが日本のベーシックインカム論だA ベーシックインカムへの高まる期待@インターネット」、『POSSE』、vol. 8: 116-123.
・目次
生存の「運動」から出発
「運動」からホリエモンへ
規制緩和派も続々支持
さらなる論客の登場
「ニコニコ生放送」に論客が結集
BI日本ネットワークの懸念
「運動」の希望のゆくえ

◇2010.0901 イダ ヒロユキ 「「もうひとつの社会」はどこに?(2)ベーシック・インカムの議論で浮わつくべきでない」、『ピープルズ・プラン』、51: 143-151.
・目次
1 ベーシック・インカムへの基本スタンス
2 BIの現実上の問題点
3 私のスタンスと提案――秩序の撹乱へ
・引用
「 生存権を保障する普遍主義的な思想を現実的に実現するのは、……、個別のニーズを踏まえた現物サービス給付が手厚くある社会民主主義システムであ る……。……私が言いたいことは、家族単位型福祉システムの行き詰まりの対抗策はBIではない、ということである。」(144)
「[「ベーシック・インカム ええじゃないか」というグループや「ベーシック・インカム友の会」の主張においては]BIの議論が、自由で多様な、いまの主 流秩序の生き方からの離脱を援助するものと捉えられているのである。ならば、BI論議を翻訳し、変形し、そういうものとしての議論と運動につなげよう。」 (144)
「 BIの[思想的な]ラジカルさを大事にするなら、その支給額は一五万円を最低にすることである。また無条件に、あらゆる人に、住居や仕事や居場所的な ものを与えるべきである。……、ボトムアップで、主流秩序を撹乱するような動きの中での運動につながるべきである。」(148)

◇2010.0900 岡野内正 「地球人手当の理論序説――グローバル・ベーシック・インカム論批判のために――」、『社会志林』、57-(1・2): 15-40.
・目次
1.ウルトラマンにはあげない――地球人手当とは何か――
2.実現したらどうなるの?――批判のために検討すべき論点
 2-1.みんなが殿様!――階級
 2-2.さようなら家族依存!;ジェンダー・エイジ分析
 2-3.隣近所で作る新しい民族;民族・エスニシティ分析
 2-4.だいじに使おうみんなの地球;エコロジー分析
 2-5.三度のただ飯でゆっくりミーティング;公共圏分析
3.ほうっておけない世界のルール!;導入にかかわる倫理の問題
4.安心してサボれる社会づくり――モノからヒトへのポスト勤労社会――
・引用
「……、今日ほどグローバル化が進んでしまった状況のもとでは、一国規模のベーシック・インカムの導入は、地球規模の連携なしでは、決してうまく機能しな いだろう……。さらに筆者は、一国規模のベーシック・インカム(もどきというべきか)が、たと(22)えばイスラエルの場合のように、グロテスクなナショ ナリズムに流用される危険性を考えるとき、あくまでも地球人手当の導入を展望するという立場をつかんで離さないことが重要だと考える……。[改行] それ にしても、地球人手当の導入についての合意は、さしあたり、ローカルなレベルから始めねばならない。本稿は、……国際的な議論への介入の準備となるよう に、論点を整理する試みである……。さらに、グローバル化に関する議論を一歩進める試みでもある……。」(22-3)
「……、地球人手当のように、無条件で、生活に必要な物資の供給を保障される階級にもっとも近いのは、ヨーロッパや日本の封建社会で見られた、底土権に基 づいて徴税権を行使する領主階級であろう。……、地球人手当を支給する全人類は、地球上の全経済活動を課税対象として、全人類が生活するのに必要な基本的 生活物資(あるいはそれを代表する価値)を徴収し、全人類がそれぞれの居住地で基本的な生活を送ることができるように、実質的に平等な分配を行うのであ る。すなわち、地球人手当とともに、全人類が新しい単一の領主階級になる。」(24)

◇2010.0900 矢野 秀利 「ベーシック・インカムの構想と社会保障 (特集 21世紀型の社会保障のあり方)」、『21世紀ひょうご』、 9: 9-18.

◇2010.0900 山上俊彦 「〈研究ノート〉日本における貧困議論の現状と展望」、『日本福祉大学経済論集』、41: 173-200.
・目次
1はじめに
2格差問題について
 2.1 格差の定義
 2.2 日本の所得格差の状況
3貧困問題について
 3.1 貧困の定義
 3.2 日本の貧困の状況
4貧困問題の背景と対応
5貧困対策の必要性の根拠
6新しい貧困対策
 6.1 ベーシック・インカム
 6.2 負の所得税
 6.3 両者の共通点
 6.4 ワークフェアの実施
7まとめ
・要約
現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている.1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層(ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.

◇20100809 曽我逸郎(長野県中川村村長) 「ベーシック・インカム制度は、閉塞の時代を打破し、自由な生存を可能にする」、信州中川村HP村長 からのメッセージ http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/intro/v_chief/063_20100809.html
・引用
「A「なぜ怠け者にまで給付する?BIは怠け者を増やすのでは?」
 「BIがあれば仕事は続けるか」というアンケートが欧州で実施された。6割は今のままの仕事、3割は別の仕事をすると答えた。一方「他の人たちは遊んで 暮らすだろう」と考える人は8割に上った。つまり、BIが怠け者を生むという危惧は、他者への不信感の表出にすぎず、9割の人は依然として働き続けるので ある。
 もし、どうしても働く意欲のない人を排除しようと思えば、例えば月に一度ハローワークに通って求職相談して判子をもらうというような、またしても不毛で 形式的な審査が必要になる。そのための経費も馬鹿にならない。これは「怠け者」の「タダ乗り」が気に食わない「善良なる」納税者を納得させるためだけに必 要な手間と費用だ。」
「国レベルでの実施に先立ち、もっと小さな形で実証実験できないだろうか。その舞台に我が中川村がなれるなら、名誉だと思う。村発行の地域通貨(地方政府 通貨)によって、例えば農地を守る村民や高齢者を介護している村民から始めて、毎月一定額を支払えないか。専門的に研究しておられる方のアドバイスを頂け れば幸甚である。
 また、私は、BIに加えてもうひとつ別のことにも関心がある。日本も批准しているジュネーブ協定追加議定書の「平時から軍と市民を分離しておく」という 考えを生かして、自治体からの軍施設の撤去を求め、自治体への軍の侵入を拒否しようとする「無防備平和条例」運動だ。なし崩しにされている憲法9条の思想 を、自治体単位で再生していこうとする取り組みである。条例自治体が増え、海外にも輪が広がり、緊張を高め戦争を誘発する「抑止力」に頼らない平和維持が 真摯に模索されるようになり、あわせてBIによる生存権と自由の確保が実現できれば、私にとって、日本はほとんど理想の国になる。」

◆2010.0806 村岡 到 『ベーシックインカムで大転換』、ロゴス社. 
amazon] /[bk1
 →目次・書評など http://www18.ocn.ne.jp/~logosnet/images/basicincome.html

◇2010.0804 橋本努 「ベーシック・インカム論(2)」、http://synodos.livedoor.biz/archives/1479734.html
◇2010.0803 橋本努 「ベーシック・インカム論(1)」、http://synodos.livedoor.biz/archives/1479731.html#more
・引用
「問題となるのは、その経済的帰結であろう。基本所得を主張する第一人者のヴァン・パリースは、基本所得の給付によって、政府の持続可能な税収が先細りす るようなことがあってはならないと論じている。基本所得は、その体制がもつ潜在生産力(いますぐに使用できる人的労働力の生産性ファイル)が小さくならな い限りにおいて、給付されるべきだというのである。
とすれば、基本所得の正当性は、その都度の経済状態によって変化する。基本所得は、たとえそれが給付されたとしても、その水準を安定的に維持することは難 しいように思われる。
基本所得の水準は、おそらくインフレターゲット政策と類似の困難を抱えている。インフレターゲット論者たちは、政府が毎年k%のインフレ率を達成すること を法的に定めるべきだと主張するが、そのような法律は、実際には維持できない可能性が高い。
基本所得政策の場合も同様である。基本所得政策が経済成長と両立すべきだとすれば、毎月どの程度の給付が望ましいのかについて、私たちは財政面、社会的帰 結面で、その都度の検討を迫られる。基本所得政策は、なにが「基本」であるかをめぐって、制度的に不確実で不安定な運営を強いられるだろう。
それゆえ基本所得は、それが導入された場合にも、労働の倫理観の転換をもたらさない範囲で導入されるにすぎず、行政コストの削減をもたらさない可能性が高 い。加えて基本所得は、人々の実質的自由を実現するほどの額には至らず、したがって創造資本を増大させる可能性も低いだろう。
実効的には、農家に対する基本所得の給付と自由貿易協定の締結、あるいは、子供に対する基本所得の給付によって、自由経済制度の整備と少子化の対策に資す るような場面での導入が望ましいのではないか。基本所得は、それが対象限定的に給付される場合に、経済利益と人口の増大という国富の理念に適うであろ う。」

◆2010.0801 『プランB』、No.28 特集:ベーシックインカムの可能 性、ロゴス.
◇2010.0801 村岡到 「生存権所得の財源(特集 ベーシックインカムの可能性)」、『プランB』、28: 2-7.
・目次
はじめに――山森亮氏の及び腰と小沢修司氏の空論
1基礎的な数字の確認
2〈雇用税〉の創出
3日本の税制(略)
4財源をどこに求めるか
 A財政の無駄の削減と転用
 B法人税の増税
 C所得税と消費税の抜本的改革
5国民背番号制の導入(略)
・引用
「……、〈生存権所得〉にはどの程度の規模の財政支出になるのか。試案を提起しよう。
 A 年齢一五歳から七四歳までの全国民に月額一〇万円。対象人口は八九〇〇万人。
 B 一四歳までは、三万円。対象人口は一七〇〇万人。
 C 七五歳以上は七万円。対象人口は二〇〇〇万人。[改行] 総額は一三〇兆円となる。[改行] なお、この〈生存権所得〉月額一〇万円については、そ の半分を「公的地域貨幣」として、使用範囲を特定の地域に限定するのも一案である。……この「公的地域貨幣」は当該の地域でしか使えず、かつ支払われた側 だ けが銀行で普通の紙幣と兌換できる。」(3)
「この[生存権所得の]財源のすべてではないが、重要な部分について新しいアイデアを提起する。[改行] まず、名称は〈雇用税〉とする。……[改行]  〈雇用税〉を国家に対して支払う(納税する)のは、他人を賃金労働者として雇用するものである。資本家も国家も地方自治体も同じである。[改行] 〈雇用 税〉の総額は、〈生存権所得〉の金額に雇用した労働者の総数を掛けた金額となる。[改行] この制度実施と同時に、賃金労働者が雇用主から受け取る最低賃 金は五万円となる。」(3)
「例えば、月額三〇万円の賃金だった労働者は、〈生存権所得〉を国家から月額一〇万円支給され、雇用者から差額の二〇万円を支払われる。雇用者は労働者に 二〇万円支払い、〈雇用税〉一〇万円を国家に納税することになる。月額一五万円未満の労働者の場合には、差額は収入増加となる(近年大きな問題になってい る非正規労働者の問題も飛躍的に改善される。この問題はそれ独自のレベルで解決策を見出さなくてはならない)。この差額は、雇用者と国家が折半して負担す る……。」(3-4)
「<雇用税>によって金額にして約七五兆円がカバーできる。必要な総額[一三〇兆円]の半分以上はまかなえることになる。ただし、前述の月額 一五万円未満の労働者九三〇万人についての負担増加を考慮しなくてはならない。……、国家の負担は約二兆円となる[ので]……[改行]次に問題となるの が、残 余の財源五七兆円をどうするかである。」(5)
 *本稿は村岡到著『ベーシックインカムで大転換』(ロゴス社)収録の論文を圧縮したもの

◇2010.0801 曽我 逸郎 「閉塞時代を打破するベーシック・インカム(特集 ベーシックインカムの可能性)」、『プランB』、28: 8-13.
・目次
資本主義市場経済の果ての閉塞
現行社会保障制度の限界
ベーシック・インカムへの期待
ベーシック・インカムは万能か?
ベーシック・インカムへのありがちな疑問
 @なぜ金持ちにまで支給するのか?
 Aなぜ怠け者にまで支給する? ベーシック・インカムは怠け者を増やすのでは?
 B財源はどうするのか?
終わりに

◇2010.0801 高橋 聡 「ベーシックインカムの諸論概観(特集 ベーシックインカムの可能性)」、『プランB』、28: 14-18.
・目次
ベーシックインカムはいかにして発想されたか
 ベーシックインカムの起源と初期の議論
 社会主義ヒューマニズム
 戦間期の運動
 福祉国家の成立と衰退
ベーシックインカム論の諸相
 BIの現実性――いわゆる財源論
 BIと類似のもの
 社会主義とBI
・引用
「 日本で土田杏村が一九三〇年(昭和五年)に『生産経済学から信用経済学へ』という本を発行し、ダグラス派の思想を紹介している。……この中に、恐らく 日 本人によるBIについての最初の積極的言及と思われる記述がある。……「国民的配分」という用語でBIが説明されているが、労働に関係なく支給される現金 で あると言い、資本にも労働にも属さない「共同社会の共通文化遺産」は社会の全成員に属するとして、そこから分け前を受け取ることは倫理的に正しい、とも 言っている。……この本が当時の日本社会に何らかの影響を持ったかどうかは不明である。」(15)
「 ヴァン・パリースは一九八〇年代に、BIは「必要に応じた分配」であり、BIの実現によって、社会主義(国有化)の段階を経ることなく共産主義を実現 できる、と主張したことがある。いささか安直な感じがするが、「必要に応じた分配」に具体的なイメージがなかったことを考えると、BIは不要な神秘化を避 けてマルクスの考えを理解する糸口になるかもしれない。[改行] 社会主義がBIの極大形態であると考えられる根拠は社会配当である。社会配当の意義は人 々を生産手段に直接結びつけることにある。そうすると原理上人々が株主となって自分たちを雇うことになる。[改行] より現実的なビジョンとしては、雇用 に依存しなくても生きていけることが労働者の立場を強くし、またNPOなど非営利の社会活動を促進することが期待される。これには協同組合は自治的な経済 組織を形成して社会主義的変革の基礎になることが期待される。」(18)

◇2010.0709  週刊ポスト 「「ベーシックインカム論」で騒然!若者vs高齢者の「世代間戦争」が始まった」、『週刊ポスト』、42(28): 48-50.

◇2010.0624 東浩紀 「(論壇時評)「祭り」のあとに 現実変えられる理想を 東浩紀」、『朝日新聞』朝刊、017.
・引用
「 最後に「現代思想」のベーシック・インカム(最低限所得保障、BI)特集(〈12〉)。BIは福祉国家のあり方を根底から捉え直す新しい社会思想。思 想誌による特集ということで期待したのだが、肩すかしをくらった。本特集はBIが「ネオリベラリズムに親和的な社会政策に簒奪(さんだつ)されたりしない ために」編まれたらしいが、そもそもBIの魅力はそのような党派性を超えたところにある。思想の言葉こそが硬直しているのではないか。」

◇20100615 阿部彩、「第10章 ワーキング・プア対策としての給付つき税額控除」、埋橋孝文・連合総合生活開発研究所(編)『参加と連帯のセー フティネット――人間らしい品格ある社会への提言――』、ミネルヴァ書房、pp. 237‐262.
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◇2010.0615 山森 亮 「エコノミスト・リポート すべての個人に無条件給付する「ベーシック・インカム」という考え方」、『エコノミスト』、88(35): 82-84.
・目次
米欧でも議論されてきた
「常識」に反する3つの疑問
万能薬ではない

◆2010.0610 波頭亮 『成熟日本への進路――「成長論」から「分配論」 へ』、ちくま新書.
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・目次
まえがき
T 二一世紀日本の国家ヴィジョン
 一 国家ヴィジョンの不在
 二 日本が成熟フェーズに入ったことの意味
 三 新しい国家ビジョン:国民の誰もが医・食・住を保障される国づくり
U 経済政策の転換
 一 成長戦略は要らない
 二 成長論から分配論へ
 三 産業構造をシフトする二つのテーマ
 四 この国のかたち:社会保障と市場メカニズムの両立
V しくみの改革
 一 行政主導政治のしくみ
 二 官僚機構を構築している四つのファクター
 三 官僚機構の改革戦略
 四 国民が変わらなければならないこと
あとがき
・引用
「 ベイシックインカムの基本理念は、国家による国民の生存権の絶対的保障である。……憲法に制定されている生存権に関する記載には、「働かざる者、食う べからず」とは書いていない。ベイシックインカムの理念は「働かなくても、食ってよし」というもので、平等・公平の価値を最大限に尊重したタイプの社会保 障給付である。」(111)

◆2010.0601 『現 代思想』 38-8(2010-6)(特集「ベーシックインカム−−要求者たち」)、青土社.
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◇20100601 小沢修司 「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平:社会サービス充実の財源はある」、『現代思想』38-8(2010- 6): 62-69.
・目次
はじめに
1 新自由主義的BI論への危惧
2 所得保障と社会サービスは車の両輪
3 社会サービス充実の財源はある
4 社会サービス充実を求める社会的要求を
・引用
本稿の動機は「……、BI導入とセットで社会サービス充実の財源が確保できることを示す必要がある」(66)ということ。これについて、「……、BI導入 に よって軽減される[現在社会保険料として負担されている]事業主負担額は一七兆九二二二億一八〇〇万円に上ること」(68)、そして、「BI導入による国 庫負担軽減額……は八兆二九五四億四五〇〇万円となる」(69)ことから、二六兆二一七六億六三〇〇万円が得られる。結論として、「所得税をBI財源にあ て ることで一六兆円の税収が失われることを考慮しても、一〇兆円の財源が生み出されることになる。念のため指摘すると、筆者の四五パーセント所得税財源案に は医療、介護などの現物給付部分をさしあたり現在の社会保険方式で維持するために必要な費用は織り込み済みである。つまり、事業主と国庫に従来どおりの額 を負担いただくという財政中立の立場で臨めば、住宅、教育、保育を含む社会サービス充実のための財源を確保することができるということになる。」(69)

◇20100601 立岩真也/山森亮 「対談 ベーシックインカムを要求する」、『現代思想』38-8(2010-6): 70-94.
・目次
BI要求の出自
貢献原理?
ベース+α
徴収と分配の話をどうするか
労働の義務?
要求の潜在的複数性
個別状況への応じ方
・引用
 「(山森)社会保険と社会扶助を柱とした今の社会保障の考え方・制度が、多様な立場から支持ないし批判されうるのと同様に、BIも一つの考え方・制度で す から、BIそのものが特定の要求者性とか色を持っていなければいけないということは必ずしもないとは思います。[それでも]……、しかしBIの議論の少な く とも三分の二は社会運動と結びついて議論されてきたということができると思います。」(71)「(山森) では、今私たちがBIを要求するときにどうして も抜いてはいけないのは何かと言えば、それは六〇、七〇年代のBI要求なのではないかと思っています。なせならそれが、私の理解では、昨今のBI論議の大 きな根っこになっているからです。」(72)「当時オランダで女性を主に組織していた労働者組合がBIを要求していたのですが、そうした要求運動の高まり の中で、ベルギーやオランダから多くの参加者を集めてヨーロッパ・ネットワークは設立されることになります。……ですから運動の盛り上がりを抜きにして、 BIの議論を語るということは、非常に偏った歴史の描き方になるだろうという気がします。」(74)
 「(山森)BIの主張がBI単独で主張されることは運動の中ではほとんどないのであって、生産・労働の部分に手を入れることと一緒にBIはむしろ歴史的 に は主張されてきたわけです。一番わかりやすい例で言えば、一九二〇、三〇年代のソーシャル・クレジットは金融の問題にも切り込んで、社会全体を設計しなお そうというパッケージの中の一部としてBIが要求されていましたし、六〇、七〇年代のとりわけ女性たちの運動では、ペイ・エクイティ(同一価値労働同一賃 金)など、労働現場の賃金の分配の在り方の是正要求と合わせてBIが要求されてきているわけです。」(77)
 「(山森)BIのある将来を考えたときに[最低賃金は]なくてよいと思っている人でも、今の段階で最賃の引き上げとBIを同時に主張することはなんら矛 盾 しない。例えば保育サービスがないという状況の中で「自分たちで共同保育やるからそれに援助しろ」という話と、「将来的にそんなことをしなくてもいいよう に保育園整備しろ」という話は、両方必要ないかもしれないけどとりあえず両方要求していかなくてはいけないわけです。」(81)
 「(山森)……、BIでも他の形でもよいのですが、今食えない人が食えるようになることが凄く大事だと思っていて、誰から取ってくるかというのはさほど 重 要 ではないと思います。……、それが累進所得税であれ定率所得税であれ、はたまた消費税だろうと、それらによってBI給付が可能となり、今貧困線以下で生活 し ている人がそこから脱却できるのであれば、……、どこから取ってくるかというのは二の次の話だと思います。」(82)
 「(山森)……、事実上BIを客観的に見渡して日本で議論している人はほとんどいなくて、自分が食らいついたものが中立で“The BI”だと思って紹介している人が多いですから、そういう状況の中である程度中立的にBIの最大公約数的な議論を紹介するところに研究者としての自分の役 割を第一と考えています。」(83)
 「(山森)……、この本[立岩・齊藤『ベーシックインカム:分配する最小国家の可能 性』] を読むと、BI論者は社会への貢献の義務を否定しているかのように読み取れてしまいます。しかし実際の多くのBI論者はそうではありませんし、むしろ立岩 さんがここでお書きになっていることと同じことを言っています。つまり、社会への義務はあるのだけれど、社会への義務とBIを引き換えにすべきではない、 BIはBIとして給付したうえで、その義務の遂行については別の道具立てを考えるべきだと。」(88)

◇20100601 A・フマガリ/柴田努訳 「バイオ資本主義とベーシック・インカム」、『現 代思想』38-8(2010-6): 95-109.
1 序
2 バイオ経済学と認知資本主義(バイオ資本主義)
3 生の価値(知識、愛情、イメージ)の理論に向かって
4 バイオ資本主義の下での生産と所得分配
5 バイオ資本主義における対抗権力としてのベーシック・インカム

◇20100601 小泉義之 「残余から隙間へ:ベーシックインカムの社会福祉的社会防衛」、『現 代思想』38-8(2010-6): 110-118.
・目次
残余の者への視線
散乱する隙間の者
上からミニマムを見る視線
ディオゲネスの応答待ち
・引用
「……、ベーシックインカム構想は、現存の福祉国家批判とセットにされるのでなければ、何も産み出さないであろう。その上で、マレー[Charles Murray]は、「労働倫理の凋落」「移民」「貧困の罠」「アンダークラス」を問題視していく。その眼差しは保守的なものであるが、逸してはならないの は、マレーが残余ではなく隙間を直視しているということである。現状では、家族や地域(community)や正規労働者組合の復権や保護を唱える保守主 義の方が、問題への感度が高いのだと言わざるをえない。」(116)
「 問題は残余から隙間へと移行しつつある。しかも、ベーシックイ(116)ンカム構想に共鳴する人の多くは隙間の者なのである。では、ベーシックインカ ム論者は、その基本所得の目的を何と心得ているのか。あげられていることは、サーフィン、ボランティア、ファミリー、ガーデニング、メディテーション、労 働からの退出、社会的に有意義な活動などである。要するに、何も大したことは考えていない。というより、「大したこと」を考えさせないために、隙間の者に 視線を向けながらも直ちに視線を逸らすためにいって見せているだけである……。福祉国家の補完を事とする大方のベーシックインカム論は、隙間のガス抜きを 目 指す社会福祉的社会防衛の言説である。」(116-7)

◇20100601 白石嘉治、「ベーシックインカムの神話政治」、『現代思想』38-8 (2010-6): 119-125.
・目次
神話政治とは何か
コナトゥスの経済学
・引用
「ベーシックインカムが開示するのは、われわれの信じている現実がひとつの神話にすぎないということである。この意味でも、……(119)、社会科学的な 議 論の限界はあらわである。……、ベーシックインカムによる現実の親和性の暴露はもとより政治的であり、われわれの生きる地平の自明性の動揺と欠落をめぐっ て 「神話政治(ミトクラシー)」……の導入が求められているのである。」(119-10)

◇20100601 中野冬美 「母子家庭にとってのベーシックインカム」、『現代思想』38 -8(2010-6): 126-131.
・目次
1 母子家庭の貧困の陰に女性の貧困がある
2 母子家庭への就労支援の実態
3 恩恵としての経済的支援(児童扶養手当)
4 母子家庭はなぜみじめでかわいそうでなければならないか
5 「母子家庭」にとってのベーシックインカムとは
・引用
「ベーシックインカムがあると[横暴な男と]別れることができるかもしれない(もちろん逆に、金づるになると思えば夫や父親がいっそう離してくれないので は、と不安をもつ人もいる。)」(130)
「 しかし、ベーシックインカムで、一人あたり何万円だからシングルだと苦しいが、家族四人だと何万円、だから今までよりお得というような議論をされると 首を傾げたくなる。個人給付ではなかったのか? やっぱり家族でないと生きていけないのか? そんな議論でいいのか?」(131)

◇20100601 白崎朝子 「内なるスティグマからの解放:「個」の自律に向けて」、『現 代思想』38-8(2010-6): 132-139.
・目次
構造的な虐待下におけるシングルマザー
貧困の連鎖
DV/児童虐待……サバイバー
ベーシック・インカムとワークフェア
家父長制度/ロマンチック・ラブ・イデオロギーを超えて
「個」の自律性
おわりに
・引用
「 ちなみに、生活保護は申請という関門があるが、ホームレス当事者がBIを受給できるようになった時、そのお金を使ってどう生活を組み立てていくかは、 生活保護の時以上に問われるかもしれない。何故なら、BIがもし八万円支給されても、パチンコで三日ですってしまう金額だからだ。経済恐慌で、この年末年 始は若年ホームレスが急増した。しかし彼らとじっくり話せば、そこにはただの派遣切りだけではない問題が潜んでいることがわかる。彼らの中には、幼少時に 保護者からネグレクトされていて、金銭管理や生活するための最低限のノウハウす(133)ら身につけていない場合がままある。」(133-4)
「 生活の自律性を奪われるような生育環境で生きざるを得なかった当事者が、BIを手にした時、より貧困ビジネスの搾取の対象になりやすいのではない か……というのが私の現場実感であり、危機感だ。もしBIが導入されたとしても、単なる現金支給だけではない、きめ細かな支援体制が必要になってくると痛 感している。」(134)
「BIの導入は、DVや児童虐待を根絶する運動と支援体制の強化とを同時にしていかなければならない。」(134)
「もしBIが導入されたら、資力調査が節減されるし、就労支援という名目でハローワークのOBの人件費に消えている無駄な経費を、サバイバー支援のための 専門家養成に使うよう働きかけるべきだ。」(135)
「……、BIの議論の中で必ず語られる「BIが導入されたら、人が嫌がる3Kのケアワークをやる人間がいなくなるのでは?」という質問には強い違和感を覚 え る。たいていはケアワーカーをやったことがない人たちから出る質問だ。」(135)
「 ケアワーカーが営んでいる時間、その豊かさを、よりきちんと社会が保障し、ケアが提供される当事者のためにも、より良(135)いケアを提供できる環 境にしていこうという発想がまるで感じられない。BI運動の中でもケアワークに対する議論のレベルは、政治家たちが経済恐慌や不況になると、失業対策事業 としてケアワークの職業訓練に無駄な税金を大量投入するという、非常に短絡的な政策とさして変わらないレベルではないだろうか。」(135-6)

◇20100601 三澤了 「障害者の所得保障とベーシックインカム:障害者が豊かに生活しつづけるために」、『現代思想』38-8(2010-6): 140-144.
・目次
障害者のおかれてきた状況
所得保障を求める運動の経過
障害者の所得保障の問題点
ベーシックインカムと障害者の所得保障

◇20100601 渡邉琢 「ベーシックインカムがあったら、介助を続けますか?:介助者・介護者から見たベーシックインカム」、『現代思想』38-8 (2010-6): 145-153.
・引用
「 さて、以上、何名かの介助者の声を紹介した。いちおう全体では、一一名の方にインタビューしてみた。そのうち、七名が続けるといい、四名がやめちゃう かも、と言っていた。けっこう続けると言っている人が多い。やめると言う人でも、実際には[要介助者との]関係があるから、すぐにはやめられないけど、と いうようなことを 言っていた。ただし、続けるという人の声にも社交辞令的な部分もあるかもしれない。学生介助者で、大学を辞めて、介助も辞めるとき、だいたいの人はまた来 ますね、と言って去っていくが、その大半はほとんど来なくなってしまう。それと同じで、続けますよ、と言いながらも、次第に去っていく人も多いかもしれな い。[改行] また、続けると言った人の多くに共通しているのが、ベーシックインカムがあったら介助は続けるけど、ペースは減らす、と言っていたことだ。 大勢の介助者がペースを減らしたら、介助がまわんなくなっちゃうんじゃないか、という一抹の不安を感じた。」(151)
「 それから、以上のインタビューの中には、これまでのベーシックインカムがらみの議論から抜けていた重要な論点があるように思う。それは、一口に介助・ 介護と言ってもどのような関わり方があるかはさまざまで、その関わり方しだいによって介助・介護が好ましいものにもなり嫌なものにもなる。つまり、ベー シックインカムと介助・介護・ケア労働の関係を考える上でも、どのような場所で、どのような立場で、どのような考え方のもとで、どのくらい、介助・介護に 関わるか、という議論が不可欠なわけである。[改行] たとえば、DさんとEさんは、組織の中で自分の位置にある一定の誇りをもっていた。自分の居る位置 に誇りがもてるからこそ、その際に必要な介助や介護にも関わっていける、Eさんが述べているように、延々と介助だけだったら、やめちゃうかもしれないの だ。また、Cさんが無償ボランティアを続けてきた理由は、その介護現場じたいが、面白かったからだ。そういうのがなかったら、別に行かなかったのだろ う。」(152)

◇20100601 栗原康 「大学賭博論:債務奴隷化かベーシックインカムか」、『現代思 想』38-8(2010-6): 154-164.
・目次
はじめに
自己啓発としての大学
知性の爆発
知的博徒のヒューマンストライキ
おわりに
・引用
「……。おそらく90年代以降の一連の大学改革には、二つのプロセスが進行している。ひとつは大学を社会化するというもの。ネオリベラル社会だから、大学 も ネオリベ社会化するという。これが産学協同とか民営化とか呼ばれたものだった。ただし、今後はもうひとつのプロセスのほうが顕在化してくるのではないか。 すなわち、社会を大学化するというプロセスである。ネグリは労働の女性化というが、労働者が学生のようになっていく、ともいえるはずだ。」(161)
「もしかしたら、ベーシックインカムは大学の奨学金制度をおしひろげていった結果として生じるのかもしれない。」(162)

◇20100601 新川敏光 「基本所得は福祉国家を超えるか」、『現代思想』38-8 (2010-6): 165-181.
・目次
プロローグ
福祉国家をどうみるか
福祉国家の危機から再編の政治へ
 福祉国家の揺らぎ
 福祉国家の対応
BIというオルタナティブ
近代労働観の相対化
エピローグ――国境を越えるBI?
・引用
「私はどちらからも多くを学んできたが、政策論はBIの理論的思想的意義をやや軽視しているように思えるし、規範論はあまりに抽象的に思える。私は、BI をめぐる論争が、現実の文脈で語られることに賛成するが、他方においてそれは優れて価値やイデオロギーをめぐる対立であることを忘れてはいけないと思う。 その文脈でこそBIに対する評価が決まるからである。」(165)
「[福祉国家の揺らぎに対応する]各戦略の違いは大きい。しかし、そこには共通性が窺われる。各国の包摂戦略をみれば、いずれも包摂されるのは、労働意欲 をもっている者たちのようだ。労働意欲をもっていながら、失業している、労働力商品化に失敗している者たちをなんとか就業させよう、労働力を商品として売 れるようにしようというのが社会的包摂戦略なのである。品質の悪い商品は、ドンドン安くして売りましょうというのがワークフェアなら、何とか品質を上げて 売れるようにしましょうというのが「活性化」、売れる商品と売れない商品をまとめてお得な価格で提供しましょうというのがフレクシキュリティというと、い ささか悪のりが過ぎようか。」(171)

◇20100601 小林勇人 「就労支援・所得保障・ワークフェア:アメリカの福祉政策をも とに」、『現代思想』38-8(2010-6):182-195.
・目次
1 はじめに:BIとワークフェア
2 アメリカの福祉政策
 貧困の再発見と福祉
 ジェンダー・人権・階級
 ケネディ、ジョンソン政権下の福祉政策
 「サービス戦略」から所得保障戦略へ
3 チャールズ・エヴァーズの戦略
4 ニクソンの福祉改革案の審議と帰結
5 就労支援・所得保障・ワークフェア

◇20100601 岸政彦 「貧困という全体性:「複合下層」としての都市型部落から」、『現 代思想』38-8(2010-6): 196-208.
・目次
0 はじめに
1 ベーシックインカムを歓迎する
2 貧困という全体性――「A地区」の歴史と現在
 2-1 「複合下層」としての都市型被差別部落
 2-2 A地区の実態――高齢化、貧困化、流動化
 2-3 転出入する部落民
3 ベーシックインカムでは足りない
・引用
「私にとってベーシックインカムは非常に魅力的だが、しかしそれがそうなのは、よくいわれるように貧困対策として有効だからという理由からではなく、内需 拡大やデフレ脱却を、あるいは国家観や家族観の変更をもたらし、われわれをより近代的で合理的な主体にしてくれるから、という理由である。……ただ、本稿 で は、上記の調査経験から、ベーシックインカムがおそらくデフレ対策などとしては有効だが、貧困対策としては不十分であることを述べたいと思う。」 (196)
「これ[複合的な困難を抱えるあるニューカマー親子がこの被差別部落地域に包摂されたという事実]は解放運動を経験した者でなければ不可能なことであっ た。相談窓口が形式的に存 在するだけでなく、長年運動に携わってノウハウを蓄積してきた人びとがいたこと、つまり、インフラ整備などのハード面の施策や現金支給などの制度だけでな く、職業紹介やエンパワメントなども含めた総合的な支援活動のノウハウが地元で蓄積していたからこそ、さまざまな困難やスティグマを抱えた人々を受け入れ ることができたし、またそうした総合的な施策が存在したからこそ、チャンスを得ることができた人びとは、階層上昇して外部に転出することができたのであ る。徹底的に全体的な排除と、徹底的に全体的な包摂とが結びついて、都市部落をめぐる人々の循環が生まれているのである。」(205)
「これは要するに、もともとは国家がしなければならない「総合的な貧困対策」というものが、一般的な貧困層への対策ではなく、解放運動や同対事業という被 差別部落民への施策を通じておこなわれていた、ということなのである。転入者たちは部落に移り住んだ時点で部落民として外部からの差別の視線にさらされる ことになるが(その意味で転入者も正当かつ完全に部落民である)、同時に高度成長期以降の一連の同対事業によって、そこには生業資金や生活保護へのアクセ ス、安い住宅、職業訓練や職業紹介、高齢者や障害者や子ども向けのさまざまな施設や施策といった生活のインフラだけでなく、解放運動がもたらすアイデン ティティやエンパワメントまでもが存在していたのである。」(206)
「 現在のベーシックインカム論で議論されている貧困とはどういうものかというと、身分的・市民的権利を十分に保障された上で現金だけ持っていない状態、 というものを想定しているかのようにみえる。貧困というものが、障害、暴力、差別、孤独などによって、家族や教育のような「普通の世界」からトータルに排 除された状態であることを考えれば、その対策もまた、収入を保証するだけでは不十分であることは容易に理解できるだろう。…… ベーシックインカム論への 批 判として、それが「与え過ぎ」である、ということがよくいわれる。しかし逆に、ベーシックインカムでは「足りない」のである。」(208)

◇20100601 関曠野 「ベーシック・インカムをめぐる本当に困難なこと」、『現代思 想』38-8(2010-6): 210-218.
・引用
「……、われわれが目撃しているのは近代租税国家の解体の危機なのだから、所得税や消費税を財源にして福祉国家の改革としてBIを実施するという議論には も う説得力がない。今我々が必要としているのは「所得」という問題についてのラディカルでマクロ経済学的な視点である。」(210)
「そこで彼[クリフォード・H・ダグラス]は、近代工業社会においては勤労者の賃金給与は企業会計のわずかな一部をなすにすぎず企業が生産する商品の総体 を決して買い取ることができないことを発見したのである。ゆえにこの経済においては企業は生産過剰、勤労者は所得不足に苦しむことになる。社会信用論は彼 がこの単純な発見がもつ意味を問いつめたことから生まれた。それは資本主義による抑圧や搾取の告発といったものではなく、エンジニアらしい近代工業経済の 構造的欠陥の分析である。」(211)
「 社会信用論は三つの支柱からなっている。それは(一)銀行による私的な信用の創造を排除し政府が通貨を公共の利益のために発行することによる信用の社 会化、(二)全国民に市民権を根拠に一律無条件に給付される国民配当、(三)販売部門において随時必要に応じて商品が値引きされて売られる正当価格−−で ある。これらはいずれも経済の構造的欠陥から生じる生産と消費の恒常的な不均衡を是正するための措置であり、ゆえにBIないし国民配当も福祉には論理的に 無関係である。そして生産と消費、供給と需要の不均衡が生ずる原因についてのダグラスの見解は、ある意味で単純明快なものである。その原因は(一)オート メーション、(二)企業会計、(三)銀行マネーである。」(211)
「 そしてダグラスの社会信用論は抽象的な理論ではなく、オートメーション、企業会計、銀行マネーに起因する恒常的な生産と消費の不均衡を是正するための 一連の政策である。そこでまず第一に、銀行による私的な信用の創造を止めさせ信用の創造を公益事業として社会化する必要がある。そのためには政府が主権者 として通貨を発行してそれを企業や自治体などに無利子で融資することになる。このダグラスの構想は国家主義的なものではない。彼は中央銀行を公共的な事業 主体としての国家信用局に置きかえることを考えており、この組織は定期的に収集された国民経済計算上のデータに基づいて丁度自治体の水道局が家庭に水を供 給するように社会に通貨を供給する。ここでは国家財政は収入と支出をめぐる会計ではなく信用の管理になる。そして国家信用局は同時に全国民に国民配当とし て基礎所得を永続的に給付する。国民配当が一律無条件に給付されるのは、それが生産と消費の不均衡を是正するためのマクロ経済学的な措置だからである。そ して均衡実現のためのもの一つの補完的な政策が正当価格である。これは例えば経済に三〇パーセントの需給ギャップが存在した場合、販売部門がすべての商品 を一定期間三〇パーセント割り引いて販売するという政策である。この割り引いた分は後に国家信用局から販売部門に補償されるので、この政策は補償される ディスカウントとも呼ばれる。」(213)
「しかし[ダグラスに対する]名声から忘却への世の評価の変転にはそれなりの理由があるのだ。[改行] というのも彼の著作をいくら読んでも社会信用局に 対応する政治体制とはどんなものであるかがさっぱり解らないからである。ダグラスには国家論がなく、この空白のせいで社会信用論はその説得力ある政策にも かかわらず机上の空論になってしまっている。…… ダグラスが社会信用論を党派綱領にした政治に関係して違和感を感じたのは当然のことだった。社会信用論 は 議会主義や政党政治とは本質的に馴染まないのである。というのも議会主義と政党政治は近代租税国家と一体になっていて、この国家に政治的正統性を与えてい る制度だからである。議会制国家は会計としての国家財政を前提としており、それゆえに予算の審議および税の徴収と配分をめぐる政争が政党の存在理由にな る。もしも会計としての国家財政が信用の社会的管理に置きかえられたら政党はすることがなくなってしまうだろう。」(217)
「そして問題はこの租税=議会制国会にとって代わり社会信用論をプログラムとして実現することが可能になる政治共同体とはどんなものなのか私も含めて誰に も見当がつかないことである。」(218)

◇20100601 牧野久美子、「「道具主義」と「運動」のはざまで:現金給付の拡大と「南」のBIの展望」、『現代思想』38-8(2010-6): 219-229.
・目次
はじめに
条件付き現金給付
アフリカ開発援助における現金給付
社会年金
ナミビアのBIパイロット・プロジェクト
おわりに

◇2010.0600 Andersen, Jorgen goul(ヨルゲン・グル・アンデルセン)/萩原久美子[訳]、「特集 国際シンポジウム報告 アクティベーションか、ベーシックインカムか--持続可能な社会構想へ(その2) アクティベーションと積極的労働市場政策――デンマークにおける変 遷」、『生活経済政策』、161(577): 30-35.
・目次
はじめに
1デンマークの失業保険(1967-1972)
2デンマークにおけるアクティベーションの展開と多様性
 アクティベーションT 社会保障パラダイムと市民賃金
 アクティベーションU 規律化の制度
 アクティベーションV 人的資源アプローチ
 アクティベーションW ワークファーストの強調
3アクティベーションの三つの世界、三つの目標
 社会全体の技能の向上効果
 福祉効果
 雇用効果
4どのようにアクティベーションは機能したのか
まとめ
・引用
「 アクティベーションは多様な側面を持つ試みです。デンマークのケースだけでなく、ヨーロッパを見ても、ベーシックインカムとのコンビネーションへと向 かううごきがある一方で、イギリスのようなソフトなワークフェアから、より就労義務を強調するものまで様々です。」(30)
「……アクティベーションには三つの目標があります。第一に個人レベルでの雇用効果、第二に福祉効果、第三に社会全体の技能が向上する効果です。」 (33)
「 では、なぜアクティベーションが軌道にのり、どのような作用があるのでしょうか。デンマークでは通常、四つに区分し、議論しています。[改行] 一つ 目はいわゆる抑制効果、働かないとたいへんなことによるよ、と人を脅かすわけです。二つ目は技能向上効果。三つ目はロックイン効果です。アクティベーショ ン期間に積極的に仕事を探さないので、より積極的に仕事を探すことを促す努力が続けられています。四つ目が選別効果です。これは、アクティベーションに よって、障害年金受給者など、別の形で活性化されるべき人たちが失業者としてカテゴリー化されることです。…… [改行] これに二つばかり、付け加えた い と思います。ひとつは前向きな積極的な意味でのモーティベーション効果です。とくに長期失業者にとって自信回復につながります。もうひとつは接触効果で す。民間企業での現場訓練が比較的うまくいっているのは、失業者と使用者との間に接触の機会を作り出すからです。」(35)

◇2010.0600 上野義昭 「ベーシック・インカムと社会主義(特集 世界と日本の社会主義(その8))」、『科学的社会主義』、146: 14-21.

◇2010.0603 田中康夫 「「ベーシック・インカム」は東京集中を解消する」、 http://www.love-nippon.com/4_kikai2010.htm#225

◇2010.0527 田中康夫 「事業仕分けより抜本的な“ベーシック・インカム” 」 、http://www.love-nippon.com/4_kikai2010.htm#224

◇2010.0527 下平裕之 「コラムQ ベーシック・インカム」、小峯敦編『福祉の経済思想家たち〔増補改訂版〕』、ナカニシヤ出版、p. 302.
amazon] /[bk1

◇20100521 齊藤拓、「ベーシックインカムと豊かな社会」、『京都新聞』、2010年5月21日付14面.
  →http://www.arsvi.com/2010/20100521.htm

◇2010.0510 原田 泰、「ベーシックインカムが貧困を解消する」、『中央公論』、125(6): 116-125.
・目次
無駄に働くことのコスト
「負の所得税」と権利としてのベーシックインカム
直接給付の財源はある
給付水準の根拠
インセンティブ問題と「結婚税」
具体的構想
想定される批判論に答える
ベーシックインカムは勤労意欲を阻害するか
・引用
「 以下に示すベーシックインカムの提案は、結婚や扶養家族などの有無によらず、すべての成人に年八四万円のベーシックインカムを、各自の銀行口座に振り 込むという制度である。配偶者の扶養控除、基礎控除などほとんどの控除を廃止する。子ども手当を前提に、子どもの扶養控除も廃止する。六十五歳以上は、す でに別途年金制度があるので除外し、二十〜六十四歳の日本国民全員、七四七六万人のすべてにベーシックインカムを給付すれば、すべての人々の貧困をなくす ことができる……。その費用は六三兆円である。[改行] 一方、所得を見ると、二〇〇八年には雇用者所得二六二兆円、混合所得一七兆円がある。……雇用者 所得 二六二兆円だけを考えても、これに三割の課税をすれば、七九兆円の税収となる。ベーシックインカム給付との差は一六兆円で、現在の所得税の税収と同じであ る。」(121)
「……、私は、ここで提案したベーシックインカムの水準が低すぎるという反論は真剣なものではないと思っている。そのような主張をする人が真剣であれ ば、…… 生活保護水準以下の所得で暮らしている人は人口の一三%いるのに、実際に保護を受けている人は全人口の〇・七%しかいないという事実に真剣に向き合うはず だが、とうていそうとは思えないからだ。」(123)
「 私は、ベーシックインカムが青春彷徨の機会を作りうることを、むしろ積(124)極的に評価したい。……社会の人があらゆる試みに、それが素晴らしい も のであれ、客観的には愚行にすぎないものであれ、最低限の報酬を払うということでもある。私は悪くないことだと思う。」(124-5)

◇2010.0500 Vanderborght, Yannick(ヤニク・ヴァンデルホルヒト)/萩原久美子[訳]、「普遍的ベーシックインカムと福祉国家改革をめぐる緊張関係 (国際シンポジウム報告 アクティベーションか、ベーシックインカムか――持続可能な社会構想へ(その1)」、『生活経済政策』、160(576): 24-29.
・引用
はじめに
1普遍主義と選別主義の緊張関係
 (1)貧困
 (2)政治的復元力
 (3)労働力供給
2現金給付と現物給付間の緊張関係
3条件付きと無条件との間にある緊張関係
まとめ
・引用
「……選別主義においては、時間、スティグマ、権利に関する情報・知識の欠如という三つの問題が相互にからみあっています。ティトマスの言う「貧困層のた め のプログラムは貧弱なプログラムである(programs for the poor are poor programs)」とはこのことです。逆説的ですが、貧困に関しては普遍主義のほうがすぐれているのです。」(26)
「それ[所得補助と福祉政治との関係に関する北欧の研究者たちの考察]が示すところによれば、対象選択を厳しくすれば、再分配の総予算は小さくなるとして います。逆に普遍的なプログラムの場合、受給者はそれだけ多いので守ろうとする力も強くなります。」(26)
「 ベーシックインカムは完全雇用に対する理想的なオールタナティブだと言われますが、私は逆ではないかと思います。労働権、効力ある仕事へのアクセス権 を持つためには、所得の権利がまずもって必要だからです。その観点からいえば、ベーシックインカムは就労しようとする人々への直接的補助(job subsidy)です。無条件ベーシックインカムは完全雇用のオールタナティブではなく、完全雇用を達成するための方法だといえます。」(26)
「……、現金給付か現物給付かという選択には、労働力供給に注意を払うこと。そして短期的にみれば現金給付よりも現物給付である保育サービスがよいと結論 付 ける確実な証拠はないものの、長期的にみれば保育サービスはよいということ。つまり、(27)現金給付と現物給付の双方が必要なのであって、重要なのはこ の二つをどう組み合わせるか、コンビネーションの問題だということ。そのよい例がスウェーデン、デンマーク、オランダです。これらの国では普遍的児童手当 と普遍的保育サービスに政府はかなりの額を拠出しています。」(27-28)
「……、私は漸進的という観点から、無条件ベーシックインカムとアクティベーション政策とは矛盾しないことを三点挙げて、論じたいと思います。[改行]  第 一に、労働市場への強制参入は非生産的であるという点です。……強制されてやってきた労働者の生産性は明らかに低いのです。[改行] 第二に、労働あるい は 活動(activity)の非金銭的効果に注目すべきです。……[改頁] 第三に、無条件ベーシックインカムは漸進的アクティベーション戦略の重要な構成 要 素です。」(28-29)

◇2010.0500 宮本太郎、「国際シンポジウム報告 アクティベーションか、ベーシックインカムか――持続可能な社会構想へ(その1)」、『生活経済政策』、160(576): 23.
・引用
「 二つのアプローチはこのように重なり合うところがあり、私は両者を組み合わせて包摂型の社会を構築していくべきと考えている。これは決して抽象的、理 論的な政策論議ではない。政権交代以後の生活保障の諸施策をみると、ベーシックインカム的な特質ももつ子ども手当に、アクティベーション型の保育サービス や公的職業訓練をどう組み合わせるかが問われている。」(23)

◇20100411 「今週の本棚・新刊:『ベーシックインカム 分配する最小国家…』=立岩真也・齊藤拓著」、『毎日新聞』、東京朝刊 p. 13.

◇2010.0400 白崎一裕 「ベーシックインカムを希望の原理へ〜所得への権利を考える〜」、『社会臨床雑誌』、18-(1): 53-65.
・目次
ベーシックインカムの基本的原理
BIへの素朴な疑問集
BIの思想史
BIVS福祉国家(生活保護)
BIの基本的論点 倫理論
BIの基本的論点 政治論
BIの基本的論点 財源論
最後に
・引用
「……、恒常的にBIを支給するためには「通貨改革」を実行して公共通貨とBIの組み合わせが最も有効な方法だと考えられる。」(64)

◇2010.0400 河添誠 「すべての若者に雇用と生活の保障を」、『日本の科学者』、45(5): 248-251.
・目次
はじめに
1 現在の非正規労働者の就労と失業
2 「正規労働者の解雇規制を緩和すべき」説
3 「多様な雇用形態のニーズ」論
4 社会保障は労働者全体を加入対象に
 (1) 社会保険・雇用保険
 (2) 国民健康保険の不備
 (3) 「失業者の生活保障は社会にとって負担」説
5 ベーシック・インカムは解答なのか?
おわりに
・引用
「本稿では、特に、巷間に流布している新自由主義的な言説・政策提言に対して、それらの議論が、若年労働者の実態に即したときに、いかなる問題があるのか を論ずる。」(248)
「[正規労働者の解雇規制論について]……、これはおかしな主張だ。そもそも、解雇にかかわる法的な規制は、正規雇用も非正規雇用も区別せずにすべての労 働 者に関わる法的規制として成立しているわけであるから、正規雇用の労働者を解雇しやすくすれば、非正規雇用についても同様に解雇しやすい状態になる。現実 の労働現場では、正規雇用に比べて非正規雇用の労働者のほうが社会的に弱い立場におかれているので、非正規雇用の労働者をさらに解雇しやすくする結果とな る。…… もう一つ決定的に欠けているのは、繰り返し解雇されることの精神的苦痛にまったく配慮がないということである。」(249)
「……、有期雇用で働きたいというニーズが労働者側に存在するというのは事実誤認である。というのは、労働者には、いつでも退職する自由がある。企業の求 人 がないよりはましという理由で有期を選択することはあり得るが、それは失業と比較した場合の消極的な「ニーズ」であり、有期であることのメリットではな い。雇用期間の定めのない雇用についている労働者だとしても、退職の意思を通告して2週間が経過すれば自動的に退職は可能となるわけであるから、労働者の 側からすれば、雇用期間を設けることにたいする積極的なニーズなるものはいっさい、存在しない。」(250)
「……、たとえば、15万円のBIを一律に保障するとしても、教育費・保育費・医療費・介護費・家賃など、通常の生活を送るうえで不可欠な費用が市場の動 向 によって上がってしまえば、15万円では生計費を十全にカバーできるものにはならなくなる。BIを有効に機能させるためには、実は、これらの公共サービス が低価格で提供され、生計費が低くなるように市場をコントロールしなければ意味がない。」(251)

◇2010.0400 小沢 修司 「ベーシック・インカムは実現可能か――立ちはだかる壁を超えて (特集 新しい福祉社会のための構想)」、『日本の科学者』、 45(5): 236-241.
・目次
はじめに
1 ベーシック・インカムへの関心の高まり
2 ベーシック・インカムと勤労意欲喪失論
3 「ばらまき」論と福祉概念の転換
4 ベーシック・インカム論は社会サービス解体論なのか
・引用
「……、BI導入により「後ろ向きの飢餓的な労働意欲」が減退していけば、いやいや働くものはなるほど少なくなるかもしれない。それは憂慮すべきことなの だ ろうか。無理矢理働かせてどうするのか。」(238)
「……、ここで考えていただきたいのは現行制度にある「ばらまき」である。……所得控除で税金を軽減することと手当を支給することは、形は違えども同じ 「福祉 的効果」を及ぼすのであり、現行税制はすべての所得階層に対し「ばらまき」を行っているということである。」(239)
「[筆者のBI提案における]月額8万円の根拠としたのは生活保護のうち生活扶助部分であり、教育扶助や住宅扶助、医療扶助などは除いている。それは、教 育、住宅、医療など社会サービスの充実はBI実現とは別途図らなければならないとの思いを込めてである。」(241)

◇2010.0400 本田 浩邦 「新しい経済社会の可能性――日本経済の新たな二重構造と労働市場・社会保障 (特集 新しい福祉社会のための構想)』、『日本の科学者』、45(5): 231-235.
・目次
はじめに
1 日本経済の「二重構造」はいかに変容したか
2 労働契約法と労働者代表性
3 普遍的な社会保障制度
4 普遍的所得保障――ベーシック・インカムの役割
・引用
「 労働市場における力関係を変えるためには、非正規労働者をも包含する労働者代表制の構築、さらにそれを基礎にした全国的な労働協約制度と真の労働契約 法の確立を目指す必要がある。ベーシック・インカムはその固有の機能に加え、労働条件のフラット化に伴う中小企業の負担を軽減することによってこうした戦 略を助けるであろう。」(235)

◇2010.0400 宮部彰 「書評橘木俊詔・山森亮著『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか』 」、『ピープルズ・プラン』、49: 158-160.

◆2010.0331 大阪市立大学共生社会研究会 『共生社会研究』、第5号 特 集:共生のためのベーシックインカム?
◇2010.0331 山森亮 「講演録:ベーシックインカムというシステム」、『共生社会研究』、5: 1-12.
・目次
ベーシックインカムとは何か
雇用の崩壊
セーフティネットの崩壊
社会保障システムづくりに成功しなかった日本
社会保障体制の方向性:教育への着目
社会保障システムの方向性:ワークフェアの実態
社会保障システムの方向性:ベーシック・インカム
ベーシックインカムの制度的実現可能性
さまざまな立場からのベーシックインカム
・引用
「それ[小沢修司の所得税45%でのBI提案]への批判として、そんなことやったら増税だし、ベーシックインカムが導入されたら働かなくても食べれちゃう ので、……労働供給率が5%から14.6%減少して、深刻な労働ディスインセンティブをもたらす……というご意見を、ある経済学者からいただきまし た。……、日 本人はだいたい2000時間弱、2002年のデータでは1954時間、年間で平均すると一人一人が働いています。……、一番悲観的な見通しの14.6%と 言 うのを用いて計算してみました。そうすると、日本の労働者は1669時間しか働かなくなります。……、同じ年にドイツの労働者は、1525時間働いたとい う ことです。それからフランスでは、1539時間働いたということです。……、ドイツやフランスの労働者よりも100時間以上、ベーシックインカム導入後の 日 本の労働者は働くだろうというのが、東大の経済学者の方の試算だということになります。」(10)

◇2010.0331 水野博達 「論文:障がい者の就労とベーシックインカム――労働<役割≦存在の価値序列で考える――」、『共生社会研究』、5: 13-27.
・目次
(はじめに)
(1)障がい者の生存する権利と近代における労働の意味
 1−1 国家公務員で、保護費という『賃金』!
 1−2 生存する権利と近代の〈労働〉
 1−3 「生きていること自体が労働だ」は、労働第一価値説
 1−4 障がい者にとっての近代の〈労働〉の意味
(2)障がい者にとってのBIの意義と出現した〈新しい介護空間〉
 2−1 障がいのある人の就労に関するバリアとBI
 2−2 障がいのある人の介護現場への参加・参入が生み出す力
 2−3 介護現場における障がい者「ならでは」の働きと役割
(3)人間の存在と役割、そして労働の価値序列
 3−1 シティズンシップの問い返し
 3−2 「存在」を第一価値として設定することの意味について
 3−3 役割≦存在の意味について
 3−4 労働<役割≦存在の価値序列における労働の位置と意味
(おわりに)
・引用
「……、筆者は、今日、BIを考える際に、なぜ、彼ら[障害者たち]が自らの生存する権利を彼ら流の労働観と結びつけて主張せざるを得なかったかを検討す る ことは、意義があることがと考えている。」(13)
「……、今日から振り返ると当時[1970年代前半]の「青い芝の会」の主張と行動は、近代の価値観の超克を考えながら、「労働第一価値説」とも言うべき 近 代社会の価値観・価値序列から十分に解き放たれていた訳ではなかったと、筆者は考えるのである。……なお、ここで言う「労働第一価値説」とは、人間の価値 (「猿から人間」への進化を含め)、あるいは社会(組織)の価値創造のベースに〈労働〉を置くという考え方である。」(15)
「 「労働第一価値説」から脱却する価値序列として、労働<役割≦存在 の価値序列を提案しているのだが、ここでいう〈労働〉とは、賃労働のみを指していない。端的にいえば、それは、「なんらかの社会的に意味をもった結果をも たらすことを意図した人間の自覚的な行為、あるいは自覚的な意志の発現」を指す。」(25)

◇2010.0331 古久保さくら 「ジェンダーの視点からベーシックインカムを考えるために:山森亮『ベーシックインカム入門』;橘木俊詔・山森亮 『貧困を救うのは、社会保障か、ベーシック・インカムか』」、『共生社会研究』、5: 28-31.
・引用
「 私にとっての[BIの]画期性とは、それがアンペイドワークを最低限であっても確実に評価する方法だと思われたからです。原因と結果が必ずしも計算で きないような、複雑な人間同士の相互作用の中で育つ人間というもの。その成長(あるいは衰退)というものに、非常に深く関わるがゆえに、労働市場において は不利益を受けざるを得ない存在(ここに多くの女性が含まれるでしょう)に対し(29)て、直接的に経済保障する方法として、この選択肢を加えたときに、 私たちはさまざまな議論をすることが可能になるのではないか……。[改行] しかし、あらためて、労働と非労働の境界線の融解を必然とする認知資本主義の 議 論のなかで、アンペイドでおこなわれているケアの領域はいかに位置づくのだろうか……。」(29−30)

◇2010.0331 尾崎力 「共生社会理念に抵触するBI?:トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ベーシックインカム論争』」、『共生社会研 究』、5: 32-33.

◇2010.0331 櫻田和也 「プレカリアートはつつましく/無条件をうたう:フランコ・ベラルディ(ビフォ)『プレカリアートの詩――記号資本主義 の精神病理学』」、『共生社会研究』、5: 35−37.

◆2010.0325 立岩真也・齊藤拓 『ベーシックインカム 分配する最小国家 の可能性』、青土社.
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◆2010.0324 宮本太郎編 『自由への問い2 社会保障――セキュリティの 構造転換へ』、岩波書店.
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◇2010.0324 宮本太郎・齋藤純一 「対論 セキュリティの構造転換へ」、『自由への問い2 社会保障――セキュリティの構造転換へ』、pp. 1-25.
・目次
1分断社会における社会保障
 「セキュリティ」の意味転換と「生活保障」
 雇用と社会保障、再分配と承認
2自由・承認・社会契約
 自由の拡大に向けた生活保障
 「承認」の二つのあり方
 「社会契約」をめぐって
 権利と制度の緊張関係
3「内部最適化」を超えて
 移民の受入れをめぐって
 経済・ジェンダー・エスニシティ
4信頼構築から社会的連帯へ
 「信頼」における垂直軸と水平軸
 「たまたま居合わせている」ことの可能性
・引用
宮本「[宮本[2009]『生活保障』における「社会契約」という概念について、福祉受給の権利に条件をつけることになるのではという齋藤の懸念に対し て、]社会制度はおそらく何からの形で規範を持たざるを得ないというのが私の出発点ですが、その規範は、パニッシュメントよりも報償によって維持されるべ きであろう、と。あるいは契約関係が履行されない場合にも――最低限という言い方はあまり好きではないので――付加的な給付をいっさい取り除いた、むき出 しの生存権の水準は当然ある。でもその水準が提示され適用される場面をなるべく回避するべきだろうというのが、私の考えるアクティベーションです。」 (14)
宮本「しばしば福祉国家への信頼と市民社会における信頼、垂直的な信頼と水平的な信頼は相互に矛盾するもののように言われますが、実はそうではありませ ん。」(21)「人びとがお互いを支え合うルールを認識して、そのルールに基づいて政府の活動を支えるという関係がない限りは、垂直軸の信頼と水平軸の信 頼は相乗的に育たない。」(22)

◇2010.0324 菊池馨実 「社会保障法の基本理念としての自由」、『自由への問い2 社会保障――セキュリティの構造転換へ』、pp. 56-80.
・目次
1はじめに
2社会保障の法理念
 1 従来の議論
  (1)生存権
  (2)社会連帯
 2 新しい法理念論の必要性
3社会保障法の基本理念としての「自由」
 1 個人の自律支援としての社会保障
 2 学会の反応と批判
 3 「基礎づけ主義」批判
 4 「個人的自律」及び「貢献」原則批判
4むすびにかえて
・引用
「 法政策論の展開にあたっても、法解釈技術が重要な役割を果たしうるのであるが……、それと並んで、憲法などに基盤をおく基本理念ないし法理念といった 規範的視座から、いわば(57)原理的に制度論構築にあたっての視座を得ることにも一定の意義がある、というのが筆者の基本的立場である。[改行] 本章 は、こうした観点から、社会保障法の基本理念あるいは社会保障の法理念に関して筆者が展開してきた「自由」に着目した法理論の概略を再論し、それに対する 論者からの批判を紹介することにより、社会保障への法学的アプローチにおける学会の理論的到達点を明らかにするものである。」(57-8)
「 「個人の自律の支援」を社会保障の根源的目的と捉える私見において尊重されるべき規範的価値は、@「個人」基底性と、A「自律」指向性である。」 (62)「そして、自立の支援のための条件整備(その中心的手段としての社会保障制度の整備)にあたって最終的に責任を負う主体は国家であり、そこで目指 されるべきものは、ライフステージの各段階における各個人のB「生き方の幅の平等」ないし「実質的機会平等」とでもいうべき規範的価値である。」(63)
「 こうした@「個人」基底性、A「自律」指向性、B「実質的機会平等」といった規範的諸原理の下で(63)は、それのみで社会保障の個別具体的なあり方 を論じ尽くせるわけではないものの、裁判規範(法解釈)のレベルでは個別規定を解釈する際の拠り所として、また政策ないし立法策定のレベルでは慎重な配慮 がなされるべき重要な指針として、さらにいくつかの下位原則を導き出し得る。具体的には、@「個人」基底性に関し、(@)国家による個人への過度の干渉に 対する警戒、(A)個人単位での権利義務の把握、A「自律」指向性に関し、(@)「参加」原則、(A)「選択」原則、(B)「情報アクセス」原則、(C) 「貢献」原則、B「生き方の選択の幅の平等」ないし「実質的機会平等」につき、(@)医療・福祉・介護サービスの充実、(A)子どもへの実体的保障、 (B)精神的自立能力の不十分・欠如に対するサポート、(C)稼働能力ある失業者に対する(生活保障を伴った)職業訓練・教育の充実を指摘してき た……。」(63-4)
「ここでいう「貢献」は、典型的には社会保険の仕組みにおける負担能力に応じた保険料負担等の形でなされる。ただし、「貢献」原則の射程は、生活保護受給 者などのように現時点で費用負担能力を欠く場合であっても、抽象的な負担可能性がある限り自立に向けた何らかの取り組みが求め(70)られる点にまで及ん でいる。」(70-1)
「 [「貢献」を強調する場合の]こうした危惧を承知した上でなお、私見を展開する意義は、第一に、所得保障給付を求職活動・職業訓練・公共就労など一定 の就労プログラムと関連づけることを否定的に評価すべきではないという点にある。……[改行] 第二の意義は、理念的に、稼働能力があるにもかかわらず確 信犯的にフリーライダーをする「サーファーの自由」を認めるべきではないという点である……。この点で、立法論ないし政策論として、所得調査を必要とせ ず、就労義務とも切り離され、稼動能力あ(71)る成人も含めまったくの無条件で一律に金銭給付を行うという意味でのベーシック・インカムの構想は支持で きない。……こうした制度の下でもなお経済社会の持続可能性が図られるものと想定されているとすれば、筆者には、ベーシック・インカム構想で想定されてい る人間像は、……私見が念頭に置く人間像よりよほど「自律」的個人であり、理想主義的人間像であるように思われるのである。」(71-2)
「 なお、たとえば児童やひとり親世帯など、支給対象を限定した無拠出制で所得制限のない給付(従来の社会保障制度の枠組みでいえば社会手当に相当する) などもベーシック・インカムの一種であるとの議論があり得よう。しかし、私見によれば、そうした制度はまた別個の政策目的からも正当化されうるものであっ て……、ベーシック・インカムの名の下に論者による議論のすれ違いを惹き起こしかねない。よって先に述べたように、ベーシック・インカム構想を、「所得調 査を必要とせず、就労義務とも切り離され、稼動能力ある成人も含めまったくの無条件で一律に金銭給付を行うという意味」に限定し、その評価を論じることに は十分意義があると思われる。」(73)

◇2010.0324 布川日佐史 「最低保障改革の動向と自由――包摂の名による排除――」、『自由への問い2 社会保障――セキュリティの構造転換 へ』、pp. 102-120.
・目次
1はじめに
2ドイツにおける最低生活保障改革
 1 求職者基礎保障――労働市場志向の公的扶助の創設
 2 フレキシキュリティと活性化
 3 「低いレベルのフレキシキュリティ」の実現と課題
3日本における最低生活保障の課題
 1 生活保護の役割と自律支援の意味
 2 課題一 ――貧困基準・最低生活保障の検討
 3 課題二 ――最低生活保障からの排除をなくす
4おわりに

◇2010.0324 田村哲樹 「ベーシック・インカム、自由、政治的実現可能性」、『自由への問い2 社会保障――セキュリティの構造転換へ』、 pp. 146-170.
1はじめに――いかなる自由をどのように実現するのか
2どのような自由か?――自律としての「真の自由」
3個人主義修正の二つの道――民主主義と個人主義の深化
 1 民主主義
 2 個人主義の深化
4「BIと自由」をめぐる疑問について
5どのように自由を実現するのか?――政治的実現可能性について
 1 政治的実現可能性とは?
 2 手がかりとなるが、不十分な議論
 3 政治的実現可能性の分析枠組
6BIへの複数の道――「政治的実現可能性」の試論的分析
 1 特定世代対象の所得保障からの道
 2 その他の所得保障制度からの道
・引用
「 自律としての「真の自由」を実現するために、ヴァン・パリースの議論を超えた二つの方策を考え(149)ることができる。一つは民主主義を通じた他者 との関係性の構築であり、もう一つは個人主義の深化を通じた〈世界〉との接触である(なお、「民主主義を通じた〈世界〉の認識」という筋道もありう る。……)。」(149-150)
「……、〈社会〉とのつながりを断つような個人主義を損なわないこともBIのメリットである。その際、人によっては、私生活に引きこもる「ロマン主義的自 由」を享受することもありうる。しかし、それさえも否定しないことが、BIのメリットの一つと言える。現代人である私たちにとっては、この意味での「個人 的な自由」も、他者との間で形成される自由とともに重要なのである。どちらの「自由」も切り捨てないところに、BIの意義がある。」(155)

◇2010.0324 宮本太郎 「「二つの自由」への福祉国家改革」、『自由への問い2 社会保障――セキュリティの構造転換へ』、pp. 171-202.
・目次 
1「二つの自由」という視点
 いかなる自由か
 福祉国家の危機と「二つの自由」
2「抑圧的統合」からの自由
 福祉国家による「抑圧的統合」
 「抑圧的統合」に抗する福祉国家
 レジームと自由
 レジームと資本制・家父長制
 国民国家の権力
3「寄る辺なき生」からの自由
 バーリンとフロムの承認論
 再分配と承認
 自発的参加の場の創出
4「二つの自由」への新しい戦略
 日本型レジームとその変容
 より柔軟な所得保障
 補完型の所得保障
5結語
・引用
「……ベーシック・インカムが、それが積極的労働市場政策や家族支援のサービスなどを犠牲にして導入され、人々の労働市場からの離脱につながるならば、財 政的な持続困難を引き起こすのみならず、人々が働く場やケアの場でむすびつき、育っていくという、社会の基本的なダイナミクスの喪失につながるかもしれな い。[改行] おそらく現実的な方向は、家族関連の社会的手当や、勤労所得を前提とした負の所得税、あるいは給付付き税額控除などで、低所得の家計を補完 しつつ、就労と家族を支援する公共サービスと連携していくという方向であろう。このようなかたちが出来ることで、人びとが労働市場や家族からの離脱の自由 を確保しつつ、職場や家族を自己実現の場に近づけていくことが可能になる。[改行] ベーシックインカムの発想は、このようなかたちで活かされることで、 あたらしい環境のもとでの「抑圧的統合」および「寄る辺なき生」からの自由を維持することにつながっていくであろう。」(198)

◇2010.0319 石鍋仁美 「ベーシック・インカムが実現したら(石鍋仁美のマーケティングの非常識)」、『日経MJ(流通新聞)』, 4ページ.
・引用
「もちろん課題は多い。しかしあらゆる制度変更はビジネスチャンス。気は早いが、賛成派の描く未来図をもとに、ライフスタイルの変化や新ビジネス、社会的 効果を考えてみたい。
 一切働かない人が増える。仕事のためだけに都市に住む必要はない。地価の低い地方や農村に移住する人が出る。子供を5、6人育てながら、庭で畑仕事をす る夫婦などが現れよう。BIは子育てという労働への対価ともいえる。消費は地元に落ちる。都市と地方の格差、少子化、国全体の需給ギャップなどの是正や解 消につながる。
 BIだけでは収入が足らないと感じる人は働く。しかし「路頭に迷う」心配がないので、不本意な仕事は避けられる。音楽や絵画などの創作家や、その予備軍 が大量に生まれそうだ。少数でも芽が出れば文化が活性化する。起業に挑戦する人が今より増えるという見方もある。知、アイデア、ソフトが富や国力の源泉に なる時代に合う。
 多少のお金はほしいが仕事は余り選ばないという人もいよう。企業などは、これまでより低めの賃金でも労働者を確保できるかもしれない。新興国の追い上げ に対抗しやすくなる。逆に「社会的に不可欠だが、危険が伴うなどで応募者が集まりにくい」タイプの仕事は、負担に見合うまで賃金が上昇するとみられる。
 BIを生活費ではなく、その場限りの喜びやぜいたくに使ってしまう人がいるかもしれない。対策として、用途限定のクーポン券や電子マネーが提案されてい る。購入可能リストに自社の製品やサービスが入るかどうかが、企業にとっては重要になる。
 さて、BIは本当に地域格差の縮小や貧困追放、芸術や起業の隆盛につながるか。
 権丈善一・慶大教授は週刊東洋経済3月6日号で、BIの芽とされる18世紀末の英国のスピーナムランド制度を紹介した。最低生活費を収入が下回った分を 行政が補てんする救貧政策だ。しかし税負担増、雇用の過度な不安定化、労働意欲の喪失などを招き実施から39年で廃止されたとし、所得補償という手法全般 に疑問を投げかける。」

◇2010.0315 山崎元、「経済評論家山崎元氏――ベーシック・インカムを目指せ(インタビュー領空侵犯)」、『日本経済新聞』、朝刊、5ページ.
・引用
「――財源はどうしますか。
 「1人月5万円なら1億2500万人で年に約75兆円。2007年度の社会保障給付は年金が約48兆円、医療が約29兆円、その他福祉が約14兆円でし た。医療は今の仕組みを残し、年金と福祉の財源計62兆円を置き換えれば、あと13兆円。消費税なら5%強です。地方への所得再配分の面がある公共事業 も、中抜きが顕著なので一部財源を移し、社会保険庁もいらないので浮いた経費を回せます」」

◇2010.0308 堀田 義太郎、「ベーシック・インカム構想を通して社会政策の課題を考える」、『インパクション』、173号、pp. 197〜  http://www.arsvi.com/2010/1003hy.htm

◇2010.0303 朝日新聞、「ネット動画、新たな論壇 視聴者コメントに即反応も 若い世代、引き込まれつつ参加」、『朝日新聞』、夕刊、7面.

◇2010.0300 新谷 周平、「ベーシック・インカム構想と勤労倫理――制度の是非から社会の観察と関与へ」、『千葉大学教育学部研究紀要』、58: 187-192.
・目次
1ベーシック・インカムと本研究の目的
 (1)キャリア教育とフリーター・ニート問題の本質
 (2)ベーシック・インカムと本研究の目的
2授業の概要
3ベーシック・インカムへの批判と課題提起――レポートの分析――
 (1)全体的傾向
 (2)批判と課題提起
 (3)解釈
4結論と示唆
・引用
「……、だが、このような[働かざるもの食うべからずといった、人間であることの条件としての勤労倫理に訴えるタイプの]実存レベルの抵抗を受けること は、 ベーシック・インカム構想にとって、その限界や障害のみを指し示しているのだろうか。……、実存レベルの抵抗を受けるからこそ、第一に、その抵抗の背景や 意 味、その変容可能性(不可能性)を検討することができ、第二に、その抵抗に対する反批判や吟味によって、我々の社会の抱えている課題が照射され、異なるレ ベルの議論へと接続していく可能性に開かれる。[改行] つまり、ベーシック・インカム構想が重要なのは、実際の制度化可能性よりも、それが提起する諸問 題が、我々の実存に根ざした規範や意識を問い、我々を社会全体への志向に導くことにあると考えられる。」(188)
「 この授業は、ベーシック・インカム構想についての議論が、制度そのものの是非を超えて、大学生において、少なくとも一定程度は、社会システムレベルの 観察を促すことを示した。それは倫理的反発を惹起するからこそ、その背景にある人々の観念や社会の課題を照らし出し、次の議論・コミュニケーションへと接 続していく可能性を有していることを示している。「改行」 このことは、現在取り組みが進みつつある小中学校・高等学校におけるキャリア教育においても課 題を提起せざるをえない。個人レベルの倫理や意識の強化とそれによる尊厳の獲得は、必然的に学業達成や階層による構造的な限界と、成員相互の差異化、卓越 化を帰結してしまうことになる……。それがひいては、国家と税による再分配への不信、それを通した格差拡大とその正当化に結びついてしまう。それに対し て、 システム全体の観察に基づく制度の考察は、現在の社会的位置によらずに、社会全体の布置と自らの位置とを変容可能なものとして思考することを可能にす る。」(191)

◇2010.0300 磯野博、「障害者の貧困と所得保障のあり方に関する問題提起 : 無年金障害者問題をとおして」、 『障害者問題研究』、 37(4): 33-42.
・要旨
本稿は,無年金障害者問題をとおして障害者の貧困を社会階層論的にとらえ,障害者の貧困が,不安定・低所得(低年金)障害者問題であることを示している. そして,障害当事者団体が行った調査を踏まえ,そのような障害者の貧困が,障害者の趣味・娯楽など,社会参加にも影響を与えていることを示している.その うえで,今後の障害者の所得保障について,障害者の所得保障の中心である障害基礎年金のあり方をとおして問題提起している.その主な論点は,障害基礎年金 の社会手当化であるが,今後の障害者の所得保障では,就労と所得保障のあり方を一体に論じる必要性についても言及している.
・目次
はじめに
1 障害者の貧困と社会階層論
2 無年金障害者と無年金障害者問題
3 不安定就労・低所得(低年金)障害者の実態
4 障害年金と稼得能力
5 障害年金制度の歴史的経緯
6 障害基礎年金の社会手当化に関する是非
おわりに
・引用
「[本稿で問題提起された障害基礎年金の在り方に関する]そのおもな論点は、受給要件に障害による稼得能力喪失や減退を盛り込み、障害基礎年金を社会手当 化することの是非である。しかし、……障害者の就労と所得保障を一体に論じる必要がある。」(280)
「この障害基礎年金のベーシックインカム化に関しては、障害当事者団体も、障害者の所得保障における障害の定義・認定のあり方を根本的に改め、幅広い障害 者に対する所得保障として、無年金障害者問題の解消につながるという評価もある。しかし、筆者はベーシックインカムには慎重、もしくは懐疑的である。それ は、ベーシックインカムは、上述のワークフェア路線にのった福祉国家論[規制緩和による労働、雇用の流動化、不安定化をもたらし、所得再分配としての社会 保障の役割を弱めている傾向]と密接に関わっていると考えるからである。」(281)

◇2010.0300 天田城介、齊藤拓、小林勇人、山本崇仁、村上潔、橋口昌二、「座談会 生産/労働/分配/差別について」、『生存学』、vol. 2.
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◇2010.0300 金澤誠一 「現代の貧困と最低生活保障の意義(特集 障害児者の貧困)」、『障害者問題研究』 、37(4): 2-11.
・目次
はじめに
1 貧困とは何か
 (1)貧困概念の拡大
  1)絶対的貧困論
  2)相対的貧困論
 (2)相対的貧困論のあいまい性とその克服
  1)相対的貧困論のあいまい性
  2)アマルティア・センの生活の「機能」とは
  3)多様性への配慮・潜在能力アプローチ
 (3)ナショナル・ミニマムの体系
2 貧困の原因は何か
 (1)ワーキングプアの発見
 (2)福祉依存型文化の登場
 (3)パネル調査と社会的排除
 (4)ポジティブ・ウェルフェアの登場
 (5)「不利の複合性」と潜在能力
 (6)自立支援対策と福祉削減
 (7)福祉国家の再構築
結びにかえて
 (1)「最低生計費」の算定
 (2)若年単身世帯の「最低生計費」と生活保護基準や最低賃金との比較
・引用
「 [筆者の推奨している「最低生計費」に関する]この算定方法の特徴は、労働組合による「持ち物財調査」や「生活実態調査」、「価格調査」を基に、基本 的には保有率が7割を超えている持ち物を積み上げ、人前に出て恥をかかないでいられ、自尊心を保つことができる最低限必要(9)な必需品として算定してい る点にある。」(9-10)
「 若年単身世帯の「最低生計費」は、税や保険料などを含めて月23万3,801円(消費支出17万4,406円、税金・保険料4万2,395円、予備費 1万7,000円……)と算定された。」(10)
「 「最低生計費」月額23万3,801円を、中央最低賃金審議会で用いている月労働時間173.8時間で割ると、時給1,345円となる。」(10)

◇20100224 堀江貴文 「ひろゆきもベーシックインカム議論参加すればよかったのに」、http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10466575188.html
・引用
「「国民全員を何もしない公務員として雇うのと一緒」という指摘は正しい。それをやろうとしてるんですわ。」

◇20100222 堀江貴文 「朝 までニコニコ大会議ベーシックインカム編はなかな」、六本木で働いていた元社長のアメブロ 
・引用
「……、結局社会福祉を一本化するところで色々抵抗が出てきそうだと思った。実質給付額ダウンになるような人たち。でもそれも数年のスパンで給付を減らし て いく方向付けをできればいいのかな。」

◇2010.0221、ひろゆき、「空虚なベーシックインカム議論 :ひろゆき@オープンSNS」、http://hiro.asks.jp/66376.html
・引用
「出演者の人が、先生とか作家とかタレントとか、趣味が仕事になってるような人ばっかりだったせいかもしれませんが、世の中には、みんなが嫌がるけど、社 会のためには、誰かがやらなければいけない仕事ってのがいっぱいあるんですよね。警察官とか消防署員みたいに、死ぬかもしれない仕事とか、介護や清掃局み たいな他人の排泄物を触らなきゃいけない仕事とか、救急医療のお医者さんみたいな、働きたくない時でも人の生死が自分の責任になる仕事とか、、、風俗産業 とかとか、仕事ってのは、自分でやりたくないことを、お金を払って替わりにやってもらうことが多いのですね。
んで、世の中には、人がやりたがらないことを仕事にしている人が大勢いるんですけど、出演者がそういうことを知らないのか、あえて無視したのかわかりませ んけど、現実に即してない話をしていて、そりゃ広まらないよなぁ、、と思ったりしました。」

◇2010.0220 錦織史朗、「ベーシック・インカムが使えない4つの理由」、『POSSE』、vol. 6: 97-106.
・目次
はじめに
1、ベーシックインカムは生存を保障しない
 BIは市場の偶然性を限定的にしか抑制できない
 社会保障において市場の論理を抑制することの意味
2、ベーシックインカムが福祉切り下げに利用される危険性
 新自由主義者も支持してきたBI
 特に日本において状況が悪化する理由
3、ベーシックインカムでスティグマを解決できるか?
 アイデンティティの問題は生存の保障が前提
 個人的自由と現物給付は二項対立ではない
4、「労働を軸とする社会」を乗り越えるために
 商品経済の不安定性を乗り越えるための政策
 BIを提唱することの意味
・引用
「 生存を保障するにあたってもっとも重要なことは、人間が生きるのに最低限必要な基礎的な社会サービス(医療、住居、教育など)を市場の論理から切り離 していくことである。すなわち、それらを普遍主義の原則にしたがって無償で保障することが必要となる。……、社会保障を組み立てていく基本軸は市場の論理 を いかにして抑え込んでいくかという視点から構成されなくてはならない。BIによってその市場の偶然性を抑え込むことは根本的には不可能なのである。」 (100)
「 しかし[BIによって廃絶されると主張されている]こうしたスティグマについては、福祉国家の成立を前提とし、国家が生存を保障した上で、その限界と して問題化された課題である。……実存の問題を問うには、生存の保障が成り立っていることが前提とされる。[改行]……日本ではBIよりもまず、個人の尊 厳を 保障するために早急に生存を保障することが優先的な課題となっている。」(103)
「……、現物給付を国家による個人の生活への権威主義的介入を同一視し、現金給付による選択の自由を称揚するという理解は、「市場か国家か」という二者択 一 へと問題を還元してしまっている。……[宮本太郎『生活保障』のように]……、権威主義的性格を克服するような国家の現物給付の新しいかたちは現実に模索 され ている。」(105)
「 もちろん、人々が労働を強制される社会は問題である。しかし、だからと言って労働自体を変えるべき対象とせず、それを差しおいたまま生活を保障しよう というのであれば、「労働を軸とした社会」を一見批判しているようで、実効性のない倫理的な批判にとどまってしまう。[改行] というのも、仮にBIで働 かなくても生活が保障される社会が実現したとしても、誰かの労働によってその社会が維持されていることに変わりはないからだ。端的な例で言えば、現在の日 本社会は、アジア諸国における低賃金労働によって生産された商品に支えられている。……、こうした労働の質を問題としない限り、それは国内外を問わず、誰 か の低廉な労働の上に成り立つ制度でしかないのである。」 (105)

◇2010.0220    匿名A、B、C(「社会学や哲学を専門とする若手研究者3人」) 「マスコミがス ルーした民主党改革の新たな「利権」」、『POSSE』、vol. 6: 83-94.
・目次
閣僚のペットを知ってどうする?とにかく浅い『AERA』
政治学者は現場に行け!!
既得権だけじゃない!新自由主義がもたらす新たな利権
「経済成長」のために再分配を制限するのか?
企業が儲けるためのセーフティネット論?
ほとんど報道されないマニフェストの「労働規制」
社会保障の抑制とビジネスチャンスとしてのベーシックインカム
「文化左翼」はアナーキスト以下?
コミュニティによる包摂
民主党マニフェストに追いつけなかったメディア
・「引用」
「(A) そもそも、欧州では[BI論議は]最低賃金の規制と福祉があることが前提なんです。」(90)
「(B)……教育や医療、住宅とかの物質的な保障はもうヨーロッパの福祉国家では達成されたことです。何でそっちを追求せずに、いきなりBIにいくので しょ うか。」(91)
「(A)財界の側からは、BIはむしろ公的領域でビジネスチャンスを広げるために賛成されているわけですよね。医療とか教育というのは福祉国家では現物給 付で、お金儲けの世界と切り離されていたんだけど、新自由主義ってそうした人間の生存の条件をどんどんビジネスの領域にしてきたわけです。だからそこに BIの議論がもろに接続しちゃうわけですよ。それこそ新しい利権ですよ。」(91)
「(C)でもそれ[BIの反パターナリズム]は極端にいえば、金を与えて、あとはパチンコやって首くくって死のうがそれは個人の自由、というのが正しい世 界だということにもなっちゃう。[改行] それと、BI派って文化左翼にけっこういるんですよね。彼らにとっては、最低限暮らせる金が与えられれば、あと の残った時間でクリエイティブなことをできる奴がたくさん出てきて、面白い社会になるからいいというロジックですよね。東浩紀もそういうのに乗っかってい ます。」(92)
「(B)[BIを思想的に評価すれば]古典的なマルクス主義がずっとやってきた物象化という論点がすっ飛ばされています。平たく言えば、市場原理の問題を 見ていないということですよね。[改行] いってみれば、アナーキストのプルードンを後退させた感じなんですよ。プルードンは、貨幣を廃絶して市場の不安 定性をなくした上で、私的所有の枠組みで自由にやっていきましょうという考え方だったわけです。だけどBIはただ単にお金ばら撒けって話だから不安定性は なくさずに、自由だけ確保しようという話になってしまっています。」(92)
「(A)人間の生活というのは国家というか社会が保障してその上で、自由な領域があるべきであって、まず生存が保障されなきゃ自由はないんですよね。だか らBIというのは現物給付の生存を保障するような分配が前提ですよ。」(92)

◇2010.0220 宮本太郎 「持続可能な生活保障の戦略は、アクティベーションしかない」、『POSSE』、vol. 6: 15-31.
・目次
1 福祉国家の第3ステージ・アクティベーション
 戦後福祉国家の第1ステージと第2ステージ
 「第3の道」も「スウェーデンモデル」も、新自由主義と同じ第2ステージ
 持続可能な雇用をつくりだし、わかちあうのが第3ステージ
 安定雇用なき時代の社会保障を、「代替型」から「補完型」へ
 日本型生活保障とその解体、そして民主党政権の誕生
2 民主党の政策はアクティベーション型なのか
 T. 雇用生活支援
  参加支援の「橋」を無償の公共サービスで
  BI型保障より、公共サービスの拡充・多様な社会的企業の参加を
  補完型の子育て支援で「自立」をうながせ
 U. 働く見返り強化
  生活を維持でき、「出番」と「居場所」のある雇用を
 V. 雇用の創出と維持
  公共投資の転換によって、地域に雇用創出を
 W. 一時的離職中の安心確保
  雇用労働の時間短縮・一時休職
3 不可欠なアソシエーションの政治参加
 民主党には本当にビジョンがあるのか
 「団体」への信頼がなければ、アクティベーションは実現できない
 新しい民意集約システムとアソシエーションの再編を
 「参加」と「自立」の旗を取り戻せ
・引用
「 このように、生産性の高いエースストライカー的な産業分野を環境関連技術などを軸に再編していくと同時に、地域でも生活関連型の、新しいライフスタイ ルに沿った持続可能な雇用をつくり出す。これがアクティベーションの大きな特徴の一つです。」(19)
「……、たとえ勤労所得が十分でなくても、公的な所得保障との組み合わせで生活を維持できる、代替型に代わる「補完型」の社会保障が不可欠になっていま す。 [改行] このように、福祉国家の第3のステージであるアクティベーションは、雇用政策という観点からは先ほど申し上げた新しい産業創出、社会保障の分野 では産業創出と連携した新しい諸政策が特徴です。この社会保障は、……人々を労働市場にいざなうような支援を行い、補完型の所得保障でその労働市場の雇用 を ある程度見返りのあるものにするというものです。」(20)
「ここ10年の脈絡で「参加」と「自立」という言葉は、かなり構造改革論議の手垢にまみれています。しかし、だからといって、「参加」と「自立」という旗 を降ろす必要はないし、降ろしてはなりません。それは、むしろ対抗的な言説の脆弱さを表しているのであって、その旗を取り戻さなくてはならないと思ってい ます。[改行] もちろん、参加の条件なき参加、自立の手立てなき自立はありえません。自治体であれ都道府県であれ、政府であれ、上からの何らかのグロー バルなガバナンスが、こうした条件をきちっと提供していく必要があります。当然ですが、……、[そういった条件は]政府に一律に決められるものではありま せ ん。社会契約を全うするために、政府は「参加」と「自立」のために何が必要なのか、いってほしいというコミュニケーションも促していかなければならないの です。」(31)

◇2010.0210 堅田香緒里 「ベーシック・インカムに女性の視点を インタビュー 堅田香緒里さん【埼玉県立大学助教】」、『We』、164: 16-33.
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・目次
なぜBIを研究するようになったのか
貧困は今始まったことではない
なぜ貧困率が高いのか
BIと福祉国家の違い
よくある三つの疑問
BIに女の視点を
BIはシンプルである
BIは運動の基盤を作る
・引用
「実は、その同じころに、ウィリアムズという女性がBIのアイデアを、ベバリッジレポートへの対案として出していたのですが、結局歴史が採用したのはベバ リッジ型の福祉国家でした。」(24)
「……、アカデミズムの中ではまだまだ女性の視点は弱く、BI論はジェンダーブラインドだとしばしば指摘されています。[改行] それから、アカデミズム の 世界では、フェミニストがBIに批判的だったりもするようです。女と言っても一枚岩じゃない。お金がある人とお金がない人がいて、そういう女の階級的な違 いっていうのが、BIに対する態度に反映されているような気もしますね。」(29)
「自分を支えている制度がどういうものかわかっていないと権利が実質的なものにならないんだけど、あまりに複雑だとそれができない。[改行]……私は、ど ん なにいい支援者であっても、当事者を代理することはできないと思っています。その人が必要なものはその人にしかわからない。だから、公共サービスはシンプ ルであればあるほどよいと思います。」(31)
「 興味深いのは、フェミニストのBI論者の多くは、BIを単独で要求していないということです。……、七〇年代のBI要求運動においては、保育サービス や 給食サービスなどと一緒にBIが要求されていました。いま、日本でも、たとえば桐田史恵さんは、婚姻制度の批判の延長でBIって言っているし、屋嘉比さん もBIはペイ・エクイティとセットじゃなきゃ意味がないって言っている。白崎さんは教育の(31)無償化と合わせてBIって言うし。でも、多くのBI論者 は、BIだけ唱えて、そこを落としちゃう。BIはほかのいろんなものとセットじゃなきゃ意味がないってことは、あまり強調しないんですよね。」(31- 2)

◇2010.0201 立岩真也、「家族・性・市場(第51回) ベーシックインカム(3)非優越 的多様性」、『現代思想』、38(2) : 40-51.

◇2010.01.31 斎藤環 「時代の風:国家体制と自由=精神科医・斎藤環」、『毎日新聞』、東京朝刊、2頁.
・引用
「[シンガポールのように]個人の自由よりも経済発展を優先するという考え方は、ある種の功利主義と言ってよいのかもしれない。「最大多数の最大幸福」の ためには、少数派の犠牲はやむを得ない、とする思想。こうした発想は、現代にあってはもう時代遅れなのだろうか。
 確かに、これから「開発独裁」体制を取る国家が急増するとは思えない。しかしそれは「幸福」の判定基準が変わったためかもしれない。経済的発展よりも、 病や貧困のような絶対的な不幸を減らすこと。ベーシック・インカムのような形で富の再配分を最大化すること。そうした目的で、たとえば「福祉独裁」のよう な思想が出現したら?
 空想をさらに広げるなら、人々の幸福のために常に最適解を計算してくれるコンピューターが発明されたら、われわれは機械に統治をゆだねるべきか、という 思考実験にもつながっていく(なぜかここで、ふと「事業仕分け」のシーンが脳裏をよぎった)。
 もし幸福が「パンとサーカス」で満たされるなら、そうした思想は肯定されるべきかもしれない。しかし私の考えでは、幸福には少なくとも2種類ある。「パ ンとサーカス」で満たされる「生理的欲求」レベルの幸福と、「尊厳と関係」によってしか満たされない「心理的欲望」レベルの幸福だ。
 前者は計算可能であるがゆえに、功利主義が有効だ。しかし後者は質的なものなので、計算することができず、功利主義には抵触する。もちろん政治が扱いう るのは計算可能な幸福のみ、という判断はあってもいい。しかしそのために「欲望としての幸福」が制約されることは、私には耐えがたい。
 「自由とはつねに、思想を異にする者のための自由である」とローザ・ルクセンブルクは言った。どれほど欲求が満たされても、われわれの欲望は「すべてよ し」とは言わないだろう。欲求の満足と欲望の自由とを、いかにして調和させるか。これもまた「政治の問題」ではないか。」

◇2010.0126 内藤眞弓 「ベーシック・インカムへの道筋:必要とされるところにお金を流してデフレ克服」、日経ビジネスオンライン版、http: //business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100125/212388/?P=1

◆2010.0115 安積遊歩、『いのちに贈る超自立論――すべてのからだは百点 満点』、太郎次郎社エディタス.
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  →http://www.arsvi.com/b2010/1001ay.htm
 
◇20100109 日経新聞 「「ベーシック・インカム」の財源論――所得税率45%で現実味(社会保障ウオッチ)」、『日本経済新聞』、夕刊、7ペー ジ.

◇2010.0101 田村哲樹 「ベーシック・インカムは流動化社会で生きていくための「足場」となる」、『日本の論点2010』(文芸春秋編)、pp.364-67.
◇2010.0101 濱口桂一郎 「失業者と非労働者を区別しないベーシック・インカム論の落とし穴」、『日本の論点2010』(文芸春秋編)、pp. 368-71.
◇2010.0101 文芸春秋 「データファイル BIはいまの生活保障制度とどう違うのか」、『日本の論点2010』(文芸春秋編)、pp. 372-73.
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◇2010.0101 立岩真也、「家族・性・市場(第50回)ベーシックインカム(2) 」、『現代思想』 38(1): 22-33

◇2010.0000 岡野内正 「グローバル・ベーシック・インカムは移民問題を解決できるか?」、吉村真子編『グローバリゼーションと公共圏――移 民・マイノリティ・ジャスティス――』(科研費プロジェクト「公共圏と規範理論の探求」 公開研究記録集7)、pp. 21-8.

■2010
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◇2009.1231 桜井芳生 「分配する/最小政府/ぷちナショナリスト・宣言!――「格差」社会化/新自由主義の「失敗」/2ちゃんねる・以後におけるオススメの道――ベーシック・ イ ンカム論への「右からの?」接近」、『鹿児島大学法文学部紀要人文学科論集』、70: 1-27.
・引用
「いわば、新たな岩波文化人の旗手ともいえる立岩真也と、レイシストとも呼ばれかねない米国の右派 (?)知識人[Charles Murray]とが、「分配する、最小国家」論者として、非常に近い立場にいまやたっている!。[改行]この思想的事実にわたしはおどろき感動しました。 と同時にいままでの立岩の議論にいわば感情的に反発していた自分の思想態度を反省しました。と、さらに同 時に、現今の日本の政治思想的混迷を、柔軟かつクールに整理してみるおもしろさをわたしは予感したのです。「岩波・朝日新聞」的なるもの、と、「文春・産 経新聞」的なるもの、との二項的対立のどのあたりに(自分の)政治思想的立場がいちづくのか、と、かんがえるのでなく、もっと柔軟に、さまざまな「暗黙の 前提」を意識化し、それらを「直交して組み合わせて」、吟味し、それにたいする自分のスタンスを考えてみること、このような知的作業がいまの自分にとって 非常におもしろくかつ(ねがわくば他者にとっても)生産的になるのではないか、そんな予感を、上の驚きは導いてくれたのでした。[改行]以上のような経験 を経て、わたしは少なくともしばらくは一種の作業仮説として、「分配する、最小行政府主義」者として、知的な自己吟味を行ってみようと意 志決定しました。[改行]と、ここまではよろしい。しかし、それでもなお立岩の立場に大きな違和感が残ります。それはなにか?。そうだ!、立岩のアンチナ ショナリズムだ!私の立岩 論の第一エッセイ(桜井2009)は、書いた当初は著者本人の自分としては、立岩の「分配する最小国家」論への反対論であったとおもっていました。が、こ の視点からふりかえってみると、「立岩の、分配する、最小国家論は、さらに彼の「アンチナショナリズム」と両立(鼎立)させるのは、ほとんどの日本人に承 認させることはむずかしい」という議論だったのです。」(24-5)

◇2009.1231 別所良美 「ベーシック・インカムとフェミニズム」、『ジェンダー研究』(東海ジェンダー研究所)、12: 1-3.
・引用
「市場で買い手の見つからない人間活動は、単なる趣味活動であり、欲求充足活動であり、私的な「消費」活動にすぎない。家事(household)活動 は、それが家庭(house)内にとどまり、市場化されないかぎり、社会的承認としての賃金を与えられることはない。賃金(=社会的承認)は〔市場〕労働 (=市場化された人間活動)と不可分である。それゆえ女性は、家事労働を市場化し、自らも労働力商品として市場に参入することでしか社会的承認を得られな い。[改行] さて、このようないわば資本主義社会の常識に対して、「ベーシック・インカム」思想の本質は、賃金と労働とは分離可能だという点にある。正 確に言うと、市場労働ではない人間活動に対しても(賃金とは区別された)所得を与えるべきであり、与え得る、というものである。」(2)「 ベーシック・ インカムの思想は資本主義制度の本質的転換に関わるものかも知れない。」(3)

◇2009.1231 山森亮 「〈第60回「サロンde人権」記録〉ベーシックインカムの可能性」、『人権問題研究』(大阪市立大学)、 9: 91-104.

◇2009.1225 小沢修司、「ベーシック・インカムとスピーナムランド制」、『京都府立大学学術報告. 公共政策』、1: 19-30.
・目次
はじめに
1.資本主義とスピーナムランド制
  1.「スピーナムランド制の亡霊」
  2.資本主義社会の成立と「経済外的強制」
2.BIと現代のスピーナムランド制
  1.現代のスピーナムランド制としての「最低参入所得」
  2.ワークフェアと「仕事がペイしない」理由
3.福祉国家を巡る対立軸(ワークフェアとBI)の新しい天下を踏まえて
おわりに〜BIと資本主義〜
・引用
「 小論の構成は、次の通りである。まず、スピーナムランド制の概要を確認するとともに、スピーナムランド制の評価について資本主義成立の歴史的文脈に位 置づけて検討する。次いで、現代のスピーナムランド制はBIではなく賃金補填型のワークフェアモデルにこそ求めなくてはならないことを指摘する。」 (20)
「 以上を踏まえると次のようになろう。すなわち、スピーナムランド制自体は、労働の量や得られる所得の多寡にかかわらず生活を維持しうる所得を保障しよ うとする限りでBI的であるとはいえ、賃金での生活維持を基本とした賃金扶助であり所得逓減的な性格を有している点でBIとは違っていること、また、進行 しつつある農村労働者の貧困を救済しようとする温情主義的な制度であったが、資本主義経済が全国的規模で成立せんとする時代状況にあって、資本の要求に 従って労働移動の自由、労働市場の全国的な形成を実現するために邪魔者となっていた定住法を廃止し、あわせて資本家に対する労働者の抵抗を排除するための 団結禁止法を制定するという「経済外的強制」が発動されたために、貧困救済の思惑とは正反対に教区財政の疲弊と農村労働者の凋落をもたらし、制度としては 歴史上から消え去る憂き目となったものである、と。とすれば、歴史発展のダイナミズムの中にスピーナムランド制を位置づけて考えてみると、BIを現代のス ピーナムランド制とみなし、失敗の憂き目にあうことは必定と断じて歴史の舞台から葬り去る必要は(22)ないことを意味する。」(22-3)

◆2009.1225 新田ヒカル/星飛雄馬 『やさしいベーシック・インカム:貧 困のない社会を実現する理想の社会保障』、サンガ.
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◇20091225 後藤道夫 「第4章 構造改革が生んだ貧困と新しい福祉国家の構想」、渡辺治・二宮厚美・岡田知弘・後藤道夫『新自由主義か新福祉国家か:民主党政権下の日本の行 方』、pp. 316-417.
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・目次
はじめに
1 貧困・生活困難の拡大とその背景−−日本型雇用破壊・構造改革と開発主義国家体制の特質
 (1)貧困の拡大
  @貧困理解と救済施策の貧弱−−生活保護における救済基準と給付基準の乖離
  A勤労世帯むけ貧困基準
  B就業構造基本調査を用いた貧困推計とその結果
   ワーキングプア世帯の増加
    〈二割強の貧困世帯、二割弱のワーキングプア世帯〉
    〈ワーキングプアの構成〉
   子育て世帯と「貧困上層」
   その他の「主な収入の種類」別世帯の動向
    〈農業、自営業の減少〉
    〈「その他の収入が主」世帯の増加〉
    〈「雇用保険が主」世帯の減少〉
    〈年金世帯の急増〉
 (2)賃金収入大幅減の直接的諸要因と日本型雇用規範の解体
  @失業率の急増と産業構造の転換
   産業構造転換と日本型雇用規範解体の同時進行/半失業の量的推計
  Aフルタイム・自立生活型非正規の急増と非正規の低処遇の持続
   フルタイム非正規の急増/フルタイム・自立生活型非正規/従来の正規/非正規区分と生計費原則の無視
  B低処遇男性正規雇用の急増、新たな低処遇正規カテゴリー
   男性正規における低処遇労働者の増加/低処遇長時間労働と新たな低処遇正規カテゴリー
  C若年の非正規・無業比率の急上昇と高止まり
   将来の貧困増大要因としての若年非正規・無業の増大/大きな学歴差と進学の経済的困難の拡大
 (3)労働規制と勤労世帯に対する生活保障の極端な脆弱
  @最低賃金額の過少
  A不安定雇用規制・間接雇用規制の脆弱
  B失業時の生活保障の崩壊
   雇用保険受給率の低下/失業時の生活保障−−賃金下落圧力の緩和
  C企業横断型労働市場の未整備
  D社会保険における所得保障の脆弱、最低保障の欠如
  E勤労世帯への生活保護適用の抑圧
  F子育て費用の社会的
   子育て費用を含めた年功賃金という社会通念/高額な教育費と最低レベルの公的教育費負担
  G選択の余地のない基礎的社会サービスの有料・高額と基礎的な生活インフラへの公的支援の脆弱
   高額な社会的固定費用/有料・高額な基礎的社会サービス/脆弱な公共住宅政策
  H最低生活費非課税原則の無視−−公租公課による貧困拡大
2 新たな福祉国家の形成にむけて
 (1)生活保障システム全体の再構築
  @再構築の必要性
  A従来型の生活支援の枠組み−−ミクロには自己責任
 (2)新たな福祉国家形成の諸課題−−その考え方
  @あるべき労働市場の諸要素
   雇用基準・労働基準の再建/失業時の生活保障の再建と失業扶助制度/企業横断的労働市場の整備と性差別撤廃のための施策/労働組合運動の対等な交渉 力の獲得
  A選択の余地がない基礎的社会サービスの公的供給・利用料の無料化と費用全体の応能負担
   「所得制限による減免、援助」の問題点/普遍主義的な無償給付へ/医療における現物給付原則の重要性/教育の機会均等と受益者負担
  B重層的な所得保障のあり方
   世帯ごとの最低生活費の公的算定とそれに達するための重層的所得保障/生活保護制度を改正し、保護受給人口を現在の数倍程度に
  C福祉国家の財源を企業が大きく負担すべき理由
おわりに
・引用
「 なお、「ベーシック・インカム」という提案が議論をよんでいる。さまざまな立場から多様な提案があるようだ。就労に関係なく、すべての人に普遍主義的 に最低生活保障を与えるべきだ、という発(406)想が支持されているのだろう。この発想そのものは賛成だが、その実現方法の点で疑問がある。少なくとも 現在の日本を念頭におくかぎり普遍主義的な最低生活保障は、@最賃大幅引き上げ等の労働規制、A基礎的社会サービス(「ベーシック・サービス&サポー ト」)の無償提供や低家賃公共住宅の大量供給、B最低生活費に達するまでの重層的な所得保障、の三領域での前進によって、総合的に達成されるべきであろ う。」(406-7)
「 また、基礎的な社会サービスの公的提供と重層的な所得保障は、国の責任で行われるべきだが、それが実行されれば、経済グローバリゼーションと構造改革 によって疲弊しきっている地方が復活し、持続可能な地域経済循環を復活形成するうえでの巨大なテコとなろう。現在でも、年金収入が地域(407)経済には たす役割は大きい。教育・福祉・医療の公的なサービス提供、最低保障年金、社会保険の再建と最低保障の整備、生活保護率の大幅アップなどは、地域経済循環 の重要な要素となるだろう。現在の状況で、地域社会が持続可能であるためには、福祉国家型の生活保障システムがどうしても必要なのである。」(407- 8)

◆20091220 村岡到 『生存権所得――憲法168条を活かす』、社会評論 社.
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・引用
「憲法については、第九条(非武装)、第一四条(法の下の平等)、第二五条(生存権)、第二八条(労働者の権理)、第九二条(地方自治)を総体として活か すことが必要だという理解に到達した。合計すると一六八条(奇しくもイロハ)となる。」(4)
「……、失職して収入がない人には、……窮極的には〈生存権所得〉を保障するとこにこそ活路がある。私が一九九九年に提起したこの言葉はまた共通の言葉に なっ ていないが、近年、散見するようになった「ベーシックインカム」などとカタカナで言うよりも拡がりを持つことができる。憲法第二五条と直接リンクしている ことを表現できるし、憲法を活用する活動と一体のものとして要求できるからである。」(6-7)

◇2009.1210 武川正吾 「第7章 ベーシックインカム――が当たり前ではない時代の生活保障――」、橘木俊詔編著『叢書・働くと いうこと@ 働くことの意味』、ミネルヴァ書房、pp. 164-195.
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・目次
1働くということをめぐる環境の変化
 ハーマン・カーンの予言/失われた世界/ワークフェアの潮流とベーシック・インカム
2ベーシック・インカムとはどのような公共政策か
 BIとは何か/社会政策としてのBI、所得保障としてのBI/現行の所得保障制度の体系/BIによる社会保障の置換/BIと税制/BIと社会サービス
3ベーシック・インカムとはどのような社会保障か
 世帯単位から個人単位へ/個人化の政府方針/家族の個人化とBI/無条件性/BIと市民権/社会保障を受給するための条件/必要原則と貢献原則の否定か
4ベーシック・インカムはなぜ擁護されるのか
 社会的市民権とBI/社会変動とBI/テクノクラティックな議論
5ベーシック・インカムは財政的に不可能なのか
 財政的な反対論/フィッツパトリックによる試算/小沢修司による試算/中谷巌による還付金付き消費税の提案
6働かずに生きることが許されるのか
 就労忌避の懸念/働かざる者食うべからず/道徳的反対論への反批判
7流れは変わった
 思考実験から経験研究へ/ネオリベラリズムの終焉

◇2009.1210 原田泰 「格差是正で成長を目指せ:低所得者への直接給付によってむしろ改革が進む」、『中央公論』、124-(12): 146-153.
・目次
格差拡大よりも所得減少が問題
改革を止めれば成長も止まる
成長産業は選べない
中長期的には雇用拡大で成長
まずデフレ脱却を
痛みを手当して成長へ
・引用
「国民生活基礎調査によると、所得年一〇〇万円未満の世帯は二九六万世帯、所得年二〇〇万円未満の世帯は五六二万世帯ある。一〇〇万円未満世帯の一人当た り平均所得は年三八万円、二〇〇万円未満世帯の一人当たり平均所得は年八七万円である。世帯あたりの人数から計算すると、一人当たり平均所得三八万円の人 は三九〇万人、一人当たり平均所得八七万円の人は九六五万人いる。この九六五万人のうち半分が所得八七万円以下であると考えよう。すると、所得八七万円以 下の人は、……八七三万人いることになる。これらの人の平均所得は三八万円よりも多いだろう。したがって、八七三万人に八七万円と三八万円の差、四九万円 を 支給すればよいことになる。その費用は四・三兆円である。ここでは保障すべき基礎的所得を便宜的に年八七万円としたが、民主党などが最低保証年金の額を七 万円としていることなどから考えて、月七万円、年八四万円としてもよいだろう。この場合には、必要な費用は四・〇兆円となる。またここでは子供にも月七万 円を配るという仮定で計算している。それを削減すれば、必要な費用はもっと少なくなる。」(152)

◇2009.1202 諸富徹 「税制再考どう変えるか(2)京都大学准教授諸富徹氏(経済教室)」、『日本経済新聞』、朝刊, 23ページ.
・引用
「だが例えば英国では、本来、「就労」と「給付」を強く結び付ける点でベーシックインカムとは対極と考えられてきた「給付付き税額控除」を用い、普遍主義 的な給付手段に組み替え、子どもの貧困を削減することに成果を上げた。これは、課税最低限以下の人々に対しても再分配効果が及ぶよう工夫された所得税改革 として高く評価できよう。」

◇2009.1201 伊東光晴、「鳩山新政権の経済政策を評価する 財政・公共投資政策の転換はどういう意味をもつか」、『世界』、2009年12月 号: 54-70.
・引用
「 一国の生産水準をきめるのは、@消費の総額、A投資の総額、それにB貿易によって作り出される需要額の和である。・・・・・・民主党のマニフェストは Aの公共投資にウェイトを置かない。いわゆる箱ものは作らない。そうではなく、直接家計を支援する。つまり@の引上げをはかるというものである。その具体 的政策が、子ども手当、公立高校無償化、出産一時金等である。」(56)「家計への直接支援をバラマキと言って批判する主張も多いが、従来の政策は公共投 資のバラマキであり、バラマキに変わりはない。両者の違いは選択基準の違いである。道路もかなりの程度充実した。ダムも空港もこれ以上いらな(57)い。 公共投資を削減し、Aを減らし、@をふやす。これは大きな政策転換である。」(57-8)
「 民主党のマニフェストが指し示す所得補償・家計補助の極地は、西欧で論じられているベーシック・インカムである。すべての人に一定金額を市民の権利と して補償するというベーシック・インカムである。注意しなければならないのは、これが付加価値税と組み合わされたとき、付加価値税は逆累進にならないこと である。…… ひとつのモデルを考える。家族はすべて四人。家計所得は年四〇〇万円、六〇〇万円、八〇〇万円。所得はすべて支出される。付加価値税率は二 〇%。そしてすべての人に年二〇万円のベーシック・インカム。[改行] このようなモデルを作ると、年収四〇〇万円の家計はそれを支出して年八〇万円の付 加価値税を払う。しかし、八〇万円のベーシック・インカムがある。したがって、税率は〇%になる。年所得が六〇〇万円の人は支払う付加価値税は一二〇万 円、ベーシック・インカムは八〇万円。そこで所得六〇〇万円に対し、差引き四〇万円の税を支払うことになるから税率は約六・六%。年収八〇〇万円の人は、 税率一〇%であり、年収が二〇〇万円の人は実質所得が二四〇万円になる。付加価値税とベーシック・インカムの結合は、税の累進性を実現するのである。[改 行] もちろん、付加価値税が西欧福祉社会のように、二〇%であっても二五%であっても、それ以上の税率を実現できない。また前述のモデルのように高額所 得者が、所得のすべてを消(58)費するわけではない。貯蓄される分付加価値税は少なくなる。この二つに対処するため高額所得者に対しては累進税を課さね ばならない。…… ただし、日本とアメリカは所得分布が違う。アメリカは累進性を強めることでかなりの税額を確保することができる。だが日本はできない。 大きな政策を実現するためには、付加価値税に依存せざるをえないのであって、それによる再分配こそ、リベラルから革新までの求めるものでなければならな い。」(58-9)

◇2009.1201 立 岩真也、「家族・性・市場(第49回)ベーシックインカムという案について」、『現代思想 』  37(15), 54-66.

◇2009.1201 篠原一 「政治システムの転換と歴史的展望」、『世界』、2009.12臨時増刊号、pp. 6-14.
・目次
イタリアの場合
五五年体制の功罪
鳩山革命?――「第二民主制」へ
「第二の近代」への変容過程
「子ども手当」の含意するもの
討議民主主義の時代に求められるもの
新しいデモクラシーを作り上げるために
「小さなユートピア」を求めて
・引用
「私見によれば、ベーシック・インカムは「第二の近代」[後期近代]の思想であり、そう考えれば、子ども手当は歴史的転換の時代に適合的な政策である。少 なくとも、単なるバラマキ政策ではない。」(12)

◇2009.1201 宮本太郎 「アクティベーション型保障へ舵を切れ 民主党政権と生活保障の転換」、『世界』、2009.12臨時増刊号、pp. 131-139.
・目次
はじめに
1 二つの「ノー」とベーシックインカム型社会保障
 二つの「ノー」への対応
 ベーシックインカム型保障
2 参加支援によるアクティベーション
 アクティベーションという考え方
 求められる保育サービス
 職業訓練をめぐるジレンマ
3 見返りのある雇用を
 雇用に見返りを
 「脱コンクリート」の雇用創出
おわりに
・引用
「受け身のベーシックインカム型になりつつある生活保障政策を、能動的なアクティベーション型に転換するべきだ、というのが本稿の主張である。」 (132)
「……二〇〇九年夏の総選挙では、この二つの「ノー」が渾然一体となって噴出し、自民党政権を倒壊させた。[改行] 第一の「ノー」は、自民党政権が築き 上 げてきた官僚主導型の生活保障に対するノーである。」(132)「 第二の「ノー」は、歪みだけが目立つようになった官僚主導型の仕組みをぶちこわすこと を掲げて、生活保障そのもの(132)をぶちこわしてしまった構造改革路線へのノーである。」(132−133)「民主党という政党は、かねてから指摘さ れてきたように、新自由主義的な系譜と社会民主主義的な潮流が同居する政党である。通常であればその手を縛りかねないこうしたねじれの存在が、二つの 「ノー」に応えるという点では格好の分業体制となった。」(133)
「……、ベーシックインカム型の給付は、それだけでは持続可能な制度とは言えない。そこには、人々の就労と社会参加を支援し、支えていく仕掛けがない。つ ま り、社会保障を経済活力につなげていく接点がない。」(134)
「 生活保障において、社会保障と雇用を積極的に連携させていく考え方を、アクティベーション(活性化)という。……同じ「生活第一」でも、家計にお金を 積 み上げる受け身の生活保障ではなく、能動的な活動を支援することがその中身である。」(135)
「……、[第三の道路線の低迷から]しだいに明らかになってきたのは、生産性の高い先端部門はそもそも人をあまり吸収しないのであり、雇用創出に向けた独 自 のイニ(138)シアティブが求められる、ということであった。」(138-9)
「 念のために述べておけば、アクティベーションとは、人々を何か特定のライフスタイルに向けて動員する考え方ではない。人々が社会に参加してそれぞれの 価値や生き方を実現しようとするときに、その障害となる事柄を解決することを生活保障の目標としようとするものである。就労こそが社会参加の軸になるが、 生涯教育や家族ケアなど、労働市場の外にある活動も尊重する考え方である。」(139)
「 民主党の年金政策もまた、アクティベーションとむすびついてその強みを発揮する。北欧にモデルのある一元的な所得比例年金の構想は、大多数の人々が排 除されることなく就労していることを前提に、その拠出と給付の関係をできるだけクリアに示そうとするものであるからである。逆に言えば、アクティベーショ ンとむすびつかなければ、拠出できなかった人々のための最低保障年金の給付が肥大化し、この制度は揺らぐであろう。」(139)

◇2009.1200 White, Stuart/權順浩[訳]、「翻訳 スチュアート・ホワイト著『ベーシック・インカムに対するエクスプロイテーション批判の再考』」、『龍谷大学社会学部紀要』、35: 149-160.
・目次
[訳者はしがき]
1.序論
2.完全主義の反応
3.公平性反応のバランス
4.互酬正反応のバランス
5.相続資産の反応
6.結論および提言

◇2009.1200 山森亮、「ベーシック・インカム――実現可能性を問う前に理念の承認を (特集 生存権)」、『ピープルズ・プラン』 、48: 30-37.

◇2009.1130 堅田香緒里 「ベーシック・インカムとフェミニスト・シティズンシップ――脱商品化・脱家族化の観点から」、『社会福祉学』、 50(3): 5-17.
・目次
T.はじめに:問いの所在
 1.研究の背景と目的
 2.研究の視点と方法
U.脱商品化と脱家族化:女のシティズンシップを描けるか
 1.Esping-Andersenの「脱商品化」概念
 2.「脱商品化」概念へのフェミニストからの批判とそれへの応答
 3.Esping-Andersenにおける「脱商品化」と「脱家族化」の関係
 4.脱商品化と脱家族化の再定式化
V.フェミニズムにおける三つのシティズンシップ・モデル
 1.従来のフェミニスト・シティズンシップのジレンマ:「平等派」「差異派」
 2.「平等」と「差異」の批判的総合
W.フェミニスト・シティズンシップの類型化と「もう一つのフェミニスト・シティズンシップ」
 1.脱商品化・脱家族化に基づくフェミニスト・シティズンシップの類型化
 2.「もう一つのフェミニスト・シティズンシップ」の居場所
X.フェミニスト・シティズンシップの政策モデル
 1.Fraserのシティズンシップ・モデルと政策構想
 2.「もう一つのフェミニスト・シティズンシップ」とベーシック・インカム
 3.女にとってのBI:脱家族化政策としてのBI
Y.おわりに
・引用
「……本稿では、[BIとフェミニズムという]これら二つの主張の「交差」を分析的に論じることを目指す。[改行] では、両者の志向性の中心はどこにあ る か。労働をめぐる差異を等閑視し、市場からの自由を重視するBIと、従来の家族モデルに基づくシティズンシップを問題化し、家族からの自由を重視するフェ ミニズムの志向性はそれぞれ、「脱商品化」「脱家族化」にその中心があるとひとまず整理できるだろう。」「 そこで本稿では、脱商品化概念と脱家族化概念 の内容および、とりわけ女をめぐる両概念の関係の再検討を通して、BIが新たなフェミニスト・シティズンシップに基づく一つの政策構想となりうるかどうか を明らかにすることを目的とする。」(6)
「[山森亮による「二つの脱商品化」と「二つの脱家族化」という指摘や、R. Listerの提起する脱家族化概念についての]以上の考察を踏まえて、本稿ではさしあたり脱商品化、脱家族化を以下のように定義する。[改行] ・脱商 品化:市民が、市場に依存することなくその生を営むことができる程度 [改行]・脱家族化:市民が、家族に依存することなくその生を営むことができる程 度」(8)
「しかしここで注意したいのは、これらのモデル[平等派による「ジェンダー中立的(gender-neutral)シティズンシップ」と差異派による 「ジェンダー差異的(gender-differentiated)シティズンシップ」の「批判的総合」として公/私のジェンダー分割を乗り越えたかに見 える、Fraser [1996]やLewis [1997]に代表される「ジェンダー包括的(gender inclusive)シティズンシップ」のモデル]はいずれも、シティズンシップのあり様として、賃労働を担っているか、家庭内の不払い労働をしている か、いずれかの役割を要求しているという点である。」(10)
「……、三つのフェミニスト・シティズンシップに加え「もう一つのシティズンシップ」のありかを探ってきたが、誤解のないようにつけ加えておきたいのは、 筆 者はここで、これらのモデルに優劣をつけることができるとか、どれか一つが排他的に正しいといいたいわけではないということで(11)ある。これらはいず れもフェミニスト・シティズンシップのある一形態を示しており、複合的に理解することができるはずである。また、現実の社会的諸条件においては、異なるモ デルが同様のふるまいをみせることもありうるし、この意味でもこれらのモデルは排他的なものではなくときに親和的にもなりうるものである……。」(11- 12)
「……、フェミニズムは一般にBIを無視するか批判的にとらえてきた。それらの主張を要約すると、おおむね以下のとおりである。第一に、BIを家事労働に 対 する支払いとしてとらえ、それゆえBIは女を私的領域(家事やケア労働)に幽閉してしまうとする。また、こうした女の私的領域への幽閉は、第二に、性分業 と労働市場のジェンダー分割を維持・強化するという帰結をもたらし、結果的に家庭内における夫のフリーライドを維持してしまう。したがって、総じてBIは 女の劣等なシティズンシップを維持・強化してしまうというのである。」(13)
「……、一般に脱商品化を促すとされるBIは、総じて脱家族化をも志向しうるといえる。しかもそれらが男/女に固定的に配分されるのではないため、脱家族 化 の志向が必然的に商品化と結びつくこともない。この意味でBIは、「もう一つのシティズンシップ」に基づく新たなフェミニスト社会政策の一候補たり得ると いえるのではなかろうか……。」(14)
「……、筆者はここで、BIはそれのみで十分なジェンダー平等をもたらすフェミニスト社会政策だと主張しているのではない。むしろそれがジェンダー平等を も たらすかどうかは、その他の育児サービスや諸手当、性差別禁止に関するさまざまな政策との組み合わせによって決まるであろう。」(14)

◇2009.1129 松井彰彦、「「バラマキ」続けば財政破綻――東京大学教授松井彰彦氏(経済論壇から)」、『日本経済新聞』 朝刊, 21ページ.
・引用
「京都大学名誉教授の伊東光晴氏(世界12月号)は、ベーシックインカムという考え方を紹介している。これはすべての人に一定金額を市民の権利として補償 するというもので、発想はやや異なるが、理論的には給付付き税額控除と類似の経済効果をもたらす制度である。
 伊東氏はベーシックインカムの導入と併せ、所得税の累進税率を最高税率が60〜70%だった80年代に戻すことも提案している。もっとも、日本では高所 得者層がそれほど多くなく、安定財源としては、消費税を改良した付加価値税に頼るほうが賢明だというのが同氏の見立てだ。」

◆2009.1126 小飼弾 『働かざるもの、飢えるべからず』、サンガ.
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◆2009.1126 堀江貴文 『「希望」論』、サンガ.
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◆2009.1125 ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)著/高橋巖訳 『社会の未来――シュタイナー1919年の講演録』、春秋社.
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・引用
「今日では、誰もが収入に課税することを当然のことと考えています。しかし今日の人にはどれほど背理に思われようとも、収入税による課税が正当だという考 えは、貨幣経済がもたらした幻想の所産でしかないのです。」(66)
貨幣は、それが支出されるとき、はじめて現実的な力となります。 そのときはじめて、貨幣は経済過程のなかに入ってきます。」(66)「公的な生活にとって、たくさん支出することだけが、たくさんの収入を得ていることの しるしなのです。それゆえ、税制によって経済過程のなかに寄生虫的な存在を作り出すのではなく、一般社会に本当に役立ちうるものを生み出そうとするのなら ば、貨幣が経済過程のなかに移される瞬間に課税しなければならないのです。そこで一見奇妙な要請をすることになります。つまり収入税は支出税に変えなければならないのです。……支出税と 言うときには、私の獲得した貨幣が経済過程のなかに移される瞬間に、つまりそれが生産的となる瞬間に課税の対象となるということです。」(67、下線は傍 点)

◇2009.1125 齋藤純一/宮本太郎 「対論 自由の相互承認に向けて」、齋藤純一責任編集『自由への問い1 社会統合――自由の相互承認に向けて』、岩波書店、pp. 1-18.
◇2009.1125 宮本章史/諸富徹、「所得再分配と税制――ワークフェアから普遍主義的給付へ――」、齋藤純一責任編集『自由への問い1 社会統合――自由の相互承認に向けて』、岩波書店、pp. 128-152.
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◇2009.1125 埋橋孝文 「書評と紹介 武川正吾編著『シティズンシップとベーシック・インカムの可能性』」、『大原社会問題研究所雑誌』、614: 70-73.

◆2009.1120 宮本太郎 『生活保障 排除しない社会へ』、岩波新書.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0911mt.htm

◆2009.1120  橘木俊詔/山森亮 『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシックインカムか』、人文書院.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0911tt.htm
    堀田 [2010]の書評→http://www.arsvi.com/2010/1003hy.htm

◇2009.1118 山森亮 「ベーシック・インカムは市場社会に 人間の尊厳を取り戻せるか」、『arc』、vol. 13: 90-93.
・引用
「しかし生存権が無条件であることが承認されるならば、少なくとも理念としてのベーシック・インカムは承認されることになる。そうなれば、社会保障を巡る 議論は、「○×にいくら掛かる(だからやらない)」ではなく、「○×にいくら掛かるけれども、ベーシック・インカムに比べたら微々たる額だから、とりあえ ずやろう」と変わっていくだろう。」(92)

◇2009.1101 立岩真也、「家族・性・市場(第48回)資産としての職(1)」、『現代思 想』、37(14): 52-63.

◇2009.1100 橋本努 「ベーシック・インカム論」、『生活 経済政策』、 no.154(November 2009): 27-30.
  →http://www.econ.hokudai.ac.jp/~hasimoto/My%20Essay%20on%20Basic% 20Income%20200911.htm
  
◇2009.1030 斎藤幸平 「『コモンウェルス』におけるベーシックインカムの位置づけ」、『POSSE』、Vol.5: 82-7.
・目次
戦略なき社会変革――マルチチュードへの批判
暴動ではない継続的な「政治的」運動の組織論を
資本の論理に包摂されたコモンの再領有化を
生政治的生産と新「福祉国家」
・引用
「 ここで注目すべきは、ベーシックインカムが第二のリストにおいてはじめて挙げられていることである。むしろネグリ=ハートが強調している改革のプログ ラムは万人への住居、教育、医療の供給といった現物給付のカテゴリーを多く含んでいる。ここには、単にベーシックインカムによって貨幣という「普遍的媒 介」を個人に渡すことでまやかしの「自由」を確保するのではなく、むしろ住居や教育、情報を貨(86)幣から切り離すことで、資本の論理を制約し、人々が より自由にそして平等に「出会い」や意思決定を行う社会的な場を作り出していくという方向が見出される。生政治的な生産を保障するインフラが整備されて初 めてベーシックインカムがマルチチュードの生産性の向上へと寄与するのである。」(86-7)

◇2009.1030 岩田正美 「日本型雇用が生んだ若者の「社会的排除」とは」、『POSSE』、Vol.5: 71−81.
・目次
限界のある生活保護、雇用保険制度
 戦後は働いている人が生活保護の対象だった
 雇用保険は「公平」で生活保護は「不公平」?
 保険制度は本当に「公平」なのか
 保険制度に格差を縮小する機能はない
せめぎあう労働市場規制と福祉政策
 最低賃金の低さに対応する2つの方法
 労働市場の規制か、社会保障か
 住宅手当で持ち家政策の転換を
 生活保護を8つにばらす
日本型雇用を緩和し、同一労働同一賃金へ
 雇用が終身である必要はない
 家族賃金で良いのか
 家族賃金を廃止し、同一労働同一賃金へ
 異常なサービス産業化より社会保障を
 社会保障の充実を
「社会的排除」から参加の運動へ
 非正規雇用という名の「社会的排除」
 お金がないから人間関係から「排除」される
 「排除」から一人一人の「参加」へ

◇2009.1030 山森亮 「ベーシックインカムが生活保護よりも現実的な理由」、『POSSE』、Vol.5: 60-70.
・目次
@ベーシックインカムと福祉国家の違い
 ベーシックインカムのある社会
 無条件で、全ての個人に
 福祉国家のセーフティネットを批判
 ワークフェア批判としてのベーシックインカム論
Aベーシックインカムを求める運動
 アメリカの福祉権運動
 イタリアでのフェミニズム運動とアウトノミア運動
 イギリスにおける要求者組合
B生活保護より現実的なベーシックインカム
 日本の福祉は特殊なのか
 日本で失敗した生活保護制度
 生活保護予算を増やす政党はいない
 「働けない人は働けない」と認められる社会を
 ますは部分的ベーシックインカム
Cネオリベラリズムはベーシックインカムを簒奪するのか
 ホリエモンのベーシックインカム論
 ベーシックインカムに社会保障政策のパッケージを
インタビューを終えて
・引用
「[生活保護の]捕捉率の低さは、最近の現象ではく、戦後一貫しています。…… そうしたら、やっぱり日本の風土の中では、別の制度を提案するしかないん じゃないのかなという気がしています。」(66)

◇2009.1013 原田泰 「書評『ベーシック・インカムの哲学』」、『エコノミスト』、87(55),   (4062).

◇2009.1001 山森亮 「インタビュー 山森亮さん ベーシック・インカム――生きて いることがすなわち労働」、『We』、162: 4-18.
・目次
はじめに
山谷との出会い
BIとの出会い
運動とのつながり
イギリスの要求者組合とアメリカの黒人女性の運動
差別撤廃とBIを同時にすすめる
BIは女性を家庭に引き止める?
BIで何が変わるか
今のモデルではだめだという時に
BIの部分的導入

◇2009.1003     山崎元    「山崎元のマネー経済の歩き方(Number 320)発想法としての「ベーシックインカム的」、『週刊ダイヤモンド』、 97(39), (4297)  145.

◇2009.0917     文藝春秋    今週のキーワード――論争を読み解くための重要語――「ベーシックインカム」、 日本の論点PLUS、http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/keyword/090917.html

◇2009.0912 朝日新聞 「(be report)トレンド 働かざる者も食わせる?」、『朝日新聞』、朝刊(週末be面)、p. 4.

◆2009.0910 飯田恭之/雨宮処凛 『脱貧困の経済学』、自由国民社.
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◇2009.0902 萱野稔人、無題:インタヴュー、『談』、85: 33-49.

◇2009.0900 石垣建志、「基本所得についての予備的な考察」、『茨城大学人文学部紀要. 社会科学論集』、no.48:  pp.53-58.
・抄録
 本稿の課題は,ベーシックインカムあるいは基本所得と呼ばれている政策構想について,簡単なモデルによって,大づかみにその特徴を明らかにし,今後の研 究方向を探ろうとするものである.第1に,基本所得の導入によって労働供給が減少し,所得の減少が起きるだけでなく,長期的には貯蓄率低下によって,一層 の所得の減少が生ずる可能性のあることを指摘した.第2に,短期的に生産要素が不完全稼動となっている場合には,失業が存在する下では,労働供給の減少を 通して,いわば見かけ上失業を減少させうることを指摘した.第3に,労働供給とリスクの関係について試論を示した.基本所得政策については,一般均衡モデ ルによる分析がさらに必要であることと,個別の政策目標に対して,補助的な政策と基本所得との相乗効果についての実証的および理論的研究が必要であるとい う,2点を確認した.
・目次
1 はじめに
2 モデル
 2.1 労働供給
 2.2 長期均衡
 2.3 短期均衡
 2.3 無リスク資産としての基本所得
3 検討されるべき課題
4 まとめ

◇2009.0901 立岩真也、「家族・性・市場(第46回)『税を直す』+次の仕事の準備」    『現代思想』   37(12): 24〜35.

◆20090810 バートランド・ラッセル(Russell, Bertrand A. W.)/堀秀彦訳『怠惰への賛歌』、平凡社ライブラリー.
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・引用
「私が本当に腹からいいたいことは、仕事そのもは立派なものだという信念が、多くの害悪をこの世にもたらしているということと、幸福と繁栄に到る道は、組 織的に仕事を減らしていくにあるということである。」(13)
「近代の生産方法は、私たちに万端にわたって、安楽安全である可能性を与えた。だのにわざわざ私たちは、或る人々には過労を、他の人々には飢餓を与える道 をとっている。これまで、私たちは機会が出来ない前と同じように、根かぎり働いて来ている。この点で私たちは今まで愚かであったが、永久にずっと愚かであ る道理はない。」(32)

◇2009.0808     MARTIN, ALEX    "New Party Nippon pledges 'basic income' for all"    http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20090808a5.html

◇2009.0801     橋本努    「Books&Trends ベーシック・インカムの哲学――すべての人にリアルな自由を フィリップ・ヴァン・パリース著/後藤玲子、齊藤拓訳」、『週刊東洋経済』、(6215), 138.
http://202.74.4.113/life/review/detail/AC/a842b7708fc66ee08adc11620f0206af/

◇2009.0723 田村哲樹 「第8章 足場とブレーキ:希望の条件としてのベーシック・インカム」、東大社研・玄田有史・宇野重規〔編〕『希望学4  希望のはじまり:流動化する世界で』、東京大学出版会、pp. 185-214.
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・目次
一 はじめに
二 希望を持つことの困難
三 流動化の中での「不変性」
四 希望の社会的条件――「不変的なもの」としてのベーシック・インカム
五 必然的にBIなのか?
 1 労働
 2 共同性
六 流動化にブレーキをかけること――もう一つの希望の社会的条件
七 おわりに
・引用
「……、希望そのものというよりも、その「社会的」条件に注目する。すなわち、本章の問いは、流動化する社会において希望を持つことができるためには、ど のような条件が必要か、というものである。[改行] この問いに対する本章の回答は、「足場」と「ブレーキ」である。流動化・不確実化する社会の中で、そ れでも安心して未来に進むためには、その前提として、確固たる「足場」が必要である。同時に、社会の流動化そのものにも「ブレーキ」をかける必要がある。 以下では、無条件の現金給付の制度・原理である。「ベーシック・インカム」が、一方で諸個人にとっての「足場」となるとともに、他方で流動化への「ブレー キ」の手がかりともなる、と論じることになる。」(187)
「……、[D・ミラーの「ナショナリティ」や鈴木謙介の「ジモト」で語られるような]「共同性」という選択肢は、民主主義を必要とし、民主主義はその条件 としてのBIを必要とする。このような形でならば、共同性もまた、希望の社会的条件となり得るであろう。」(203)

◇20090715 城繁幸 「ベーシックインカム、あるいは「負の所得税」の可能性」、Joe's Labo http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/245ad33fbf769e493cbb3aa765a213d2
・引用
「ただ、支給額があまり大きいというのは、ちょっと現実的ではない。財源的にもだが、間違いなく生産性が劇的に下がる。「昔の共産圏と違って、現代日本は IT化が進んでいるから大丈夫だ」という人もいるが、働かない高給取りがいるおかげでこれだけ閉塞感が溢れている現状を鑑みるに、まだ人類はそこまで進歩 し切れてはいないと思われる。なにより、就労放棄が続出して労働力不足に拍車がかかり、BI受給権のない中国人労働者が大量に使われるだけだろう。」

◇2009.0712 古山明男 「古山明男 講演録「ベーシック・インカムのある社会」――労働と教育の根本的転換」     http://bijp.net/transcript/article/98

◆2009.0710  障害学研究編集委員会(編) 『障害学研究』、第5号(特集 I障害と分配的正義――ベーシック・インカムは答になるか?)、明石書店.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/ds/jds005.htm
◇2009.0710 山森 亮 「生きていることは労働だ--運動の中のベーシック・インカムと「青い芝」(特集 障害と分配的正義--ベーシック・インカムは答になるか? シンポジウム--障害学会第4回大会から)」、『障害学研究』、5: 8-16.
  転載→http://www.arsvi.com/2000/0709yt.htm
◇2009.0710 岡部 耕典 「「すべての人に対する基礎年金」としてのベーシック・インカム(特集 障害と分配的正義--ベーシック・インカムは答になるか? シンポジウム--障害学会第4回大会から)」、『障害学研究』、5: 17-21.
  転載→http://www.arsvi.com/2000/0709ok.htm
2009.0710 野崎 泰伸 「価値判断と政策--倫理と経済のダイアローグ(特集 障害と分配的正義--ベーシック・インカムは答になるか? シンポジウム--障害学会第4回大会から)」、『障害学研究』、5: 22-30.
  転載→http://www.arsvi.com/2000/0709ny2.htm
◇2009.0710 三澤 了 「障害者の地域生活と所得保障のあり方(特集 障害と分配的正義--ベーシック・インカムは答になるか? シンポジウム--障害学会第4回大会から)」、『障害学研究』、5: 31-35.
  転載→http://www.arsvi.com/2000/0709mr.htm
◇2009.0710 立 岩真也/山森 亮/岡部 耕典[他] 「討論(特集 障害と分配的正義--ベーシック・インカムは答になるか? シンポジウム--障害学会第4回大会から)」、『障害学研究』、5: 36-45.
  転載→http://www.arsvi.com/ts2000/2007091.htm

◇2009.0700 松川 誠一/山田 和代 「シンポジウムの記録 日本フェミニスト経済学会2008年度大会「ベーシックインカムへのフェミニスト的接近:ペイエクイティ、生活賃金、家事労働」」、『女性史学』、19: 129-132.
・目次
1. 日本フェミニスト経済学会の紹介
2. 2008年度大会からの問題提起
・引用
「[日本フェミニスト経済学会2008年度大会における、山森亮・居城舜子・小沢修司による]以上の3報告が示したものは、BIという具体的な政策構想が 労働、家計、福祉など諸領域における理論と密接な(しかしややもすれば見過ごされがちな)相互関係をもっているだけでなく、その橋渡しをしているのがフェ ミニストの理論的・実践的な活動であったという歴史的な事実である。」(131)

◆2009.0630 荻上/芹沢編 『経済成長って何で必要なんだろう?』、光文 社.
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◆2009.0611 ヴァン・パリース、フィリップ(著)/後藤 玲子・齊藤 拓(訳) 『ベーシック・インカムの哲学―すべての人にリアルな自由を』、勁草書房.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/b1990/9500vp3.htm
  
◇2009.06 小沢修司 「貧困・低所得に抗するベーシック・インカム戦略――これからの社会保障を考える (特集 経済危機とくらし)」、『生活協同組合研究』、401: 11-16.

◇2009.06 山崎元(述)、「国民1人5万円のベーシックインカムで福祉国家と自由主義の融合図れ」、山崎ほか編著『経済危機「100年に一度」の 大嘘』、講談社BIZ、pp. 14-23.
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◇2009.0511 藤生京子 「(21世紀のキーワード)ベーシック・インカム 無条件に給付される所得」、『朝日新聞』、朝刊、11面.

◇2009.0502 山崎元 「山崎元のマネー経済の歩き方(Number 300) どちらがいいか、「モノ」と「カネ」」、『週刊ダイヤモンド』、97(19), (4277)  133.

◇2009.0430 山森亮 「ベーシック・インカムの手前で……――二つの当事者運動によるシンポジウムに参加して (朝日ジャーナル 創刊50年 怒りの復活)――(未来への処方箋2009)」、『週刊朝日』   114(19), (4942): 95-97.

◆2009.0430 福士 正博 『完全従事社会の可能性―仕事と福祉の新構想』、日本経済評論社.
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◇2009.0426 広井良典 「書評)ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える 山森亮著」、『朝日新聞』、朝刊、13面.

◇2009.0420 週刊社会保障 「この一冊『シティズンシップとベーシック・インカムの可能性』武川正吾編著」、『 週刊社会保障』、   63(2527), p. 28

◇2009.0415 中野冬美/岡野八代/山森亮/伊藤公雄 「ベーシック・インカムとジェンダー(特集 揺らぐ新自由主義--ベーシック・インカムの可能性)」、『インパクション』、168: 6-33.
・目次
1、新自由主義の三〇年をふりかえる
2、施しではなく再分配を
3、ベーシック・インカムは可能か
4、新自由主義とジェンダー
5、実現可能なベーシック・インカム
・引用
「(山森) ……、たとえば時間給で働いている、出来高払いで働いている、一日終ればすぐ収入が途絶えてしまうような、そういう働き方をしている人ほど、 ベーシック・インカムに反発するんです。むしろ、サラリーマンになった友人に飲み屋で話を振れば、「何かいいかも」って反応が返ってきたりし て、……。……、 自分が汗をかかないとお金が入ってこないというところに追い込まれている人たちは、ベーシック・インカム的なものへの想像力を持ちようがないと思うんで す。」(17)

◇2009.0405 中村達也 「今週の本棚:中村達也・評 『ベーシック・インカム入門……』=山森亮・著」、『毎日新聞』、東京朝刊、10頁.
・引用
「 ところで、財源確保の困難性を根拠にベーシック・インカムに批判的な人たちに対して、著者が拒絶反応的な説明をしているのが少々気にかかる。ベーシッ ク・インカムを現実的な文脈で考えるためには、財源確保論はやはり不可欠ではなかろうか。前出の老齢基礎年金に対する消費税率一五%の提案(橘木)や、 「若者基礎年金」に対する環境税や相続税や消費税を割り当てる議論(広井)、さらには所得税率四五%の試算(小沢修司『福祉社会と社会保障改革』高菅出 版)のように、具体的な構想がすでに出始めている。著者が強調する「衣食足りて礼節を知る」の立場を認めるとしても、その「衣食」は天から降ってくるわけ ではなく、その社会が生み出さなければならない。単なる空想論ではなく、現実的な文脈でベーシック・インカムを論ずるとなれば、財源論はやはり避けては通 れないはずである。」

◆2009.0400 ヴェルナー,ゲッツ・W./渡辺一男(訳) 『すべての人にベーシック・インカムを : 基本的人権としての所得保障について』、現代書館.
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◆2009.0321 『週刊ダイヤモンド』、97(12)、(「特集 あなたの知らない貧困」)、pp. 30-69.

◇2009.0308 関曠野 「関曠野 講演録 「生きるための経済」―― なぜ、所得保証と信用の社会化が必要か――」、http://bijp.net/sc/article/27

◇2009.0306 週刊金曜日 「ベーシック・インカム――貧困脱出の切り札」、『金曜日』、17(9), (755): 10-17.
◇2009.0306 週刊金曜日 「政治 各党に問う 緊急アンケート (ベーシック・インカム――貧困脱出の切り札)」、 『 金曜日』、17(9), (755): 15-17.

◇2009.0305 駒村康平 「第5章 雇用政策への提言」、『希望の社会保障改革』(駒村/菊池編)、旬報社、pp. 95-116.
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◇2009.0300 齊藤拓 「ベーシックインカム(BI)論者はなぜBIにコミットするのか? : 手段的なBI論と原理的なBI論について」、『コア・エシックス』、5: 149-159.
PDF
・趣旨
「多くの人が、ベーシックインカム(以下BI)を何らかの望ましい社会的価値ないし目的に資するための政策だと考える。その目的をより実効的・効率的に達 成する別の政策(手段)があるとしたら、あえてBI に拘る必要はないはずだ。そしてそのような別の手段を思いつくこと・指摘することはかなり容易なように思える。その場合でもBI論者がなおBI を支持することに何か合理的な理由はあるのだろうか?公共政策分析においては、政策分析者・担当者があらかじめ解決策を念頭に置いているために、当の「問 題」の認識の仕方(問題の構造化)が枠付けられてしまう危険性が指摘されている。BI を主張する論者たちにはとくにこの傾向が強く、問題とされるあらゆる状況がBIによって(少なくとも間接的には)解決されうる状況であると認識してしまっ ている(更にはそう強弁している)ように映る。BI 論者たちは手段を目的化する愚を犯しているのだろうか?」(149)
・目次
1. 手段的なBI論と原理的なBI論
2. 「政策」としてのBIの評価:公共政策分析の視点から
 2.1. 禁欲的な「政策目的」の設定
  2.2. 政策オルタナティブ
  「ワナ」の解消
  行政コストの削減
  スティグマの除去
 2.3. 政治的実行可能性
3. 手段的BI論の困難
4. Van Parijs [1995]のベーシックインカム資本主義
5. デモクラシーとのアナロジー
6. おわりに
・引用
「……、手段的BI 論――すなわち、BI を特定の政策目的を達成する手段(政策)として売り込むこと――が必ずしも原理的BI論より容易な途ではな(149)いことを指摘する。その上で、これま での原理的vs. 手段的という図式とはやや異なる視点から原理的BI論を少しく翻案することにより――結論を先取りして言えば、BIは「政策」ではなく「制度」であること を強調することにより――原理的BI論を擁護する。それによってBI論議の妥当な理解の仕方とBIの説得的な訴求の仕方を提示するのが本稿の目的であ る。」(149-50)
「[BI資本主義というレジームにおいては]……、政府のあらゆる活動(立法から社会政策まで)は(二つの制約条件を満たした上での)一人当たりBI 額への正効果によって正当化される必要があることだ。たとえば、ベーシックキャピタル、賃金補助金、時短とワークシェア、官製ジョブなどは一般的にBIの 政策代替案と目されるが、BI資本主義という体制において、それらはそもそもBIの「代替」ではあり得ず、せいぜい、それを実施することが BI水準を上昇させる場合に限り「上乗せ」されるBI補助政策に過ぎない。あらゆる政策は一人当たりBI額という「目的」に奉仕するための手段なのであ る。BI資本主義において、BIは何らかの政策目的(およびその達成効率)に照らして導入の可否が判断されるような「政(155)策」ではなく、つねにす でに、「正義に適う諸制度」の一翼として、「社会の基礎構造」(ロールズ)に構成的なかたちで埋め込まれている。このとき、BIが最低生活水準に不足する 所得を事後的に補填するような再分配政策ではなく、事前に・万人に・無条件で、給付されるという性質ゆえに、再分配以前の分配の段階に広範に作用するもの であることは明らかだろう。」(155-6)

◇2009.0300 小沢 修司 「ベーシック・インカムによる新しい社会保障の姿」(特集 社会的セーフティネットを考える)、『部落解放』、611: 43-50.
・目次
わが国の社会保障制度の特徴
社会保障制度と経済成長の「良い関係」
社会保障制度の機能不全とベーシック・インカムの出番
ベーシック・インカムの実際
ベーシック・インカムの実現可能性
ベーシック・インカムが切り開く新しい社会保障や社会のあり方

◇2009.0300 内藤 敦之 「最後の雇用者政策とベーシック・インカム――ポスト・ケインジアンと認知資本主義の比較」 、『大月短大論集』、40: 37〜64.

◇2009.0300 内藤 敦之 「認知資本主義論:ポスト・フォーディズムにおける新たな労働」、2009年、進化経済学会第13回大会(於岡山大学)
    筆者公開のPDF→http://www.e.okayama- u.ac.jp/jafee/paper/b13.pdf
・目次
1、はじめに
2、マルチチュード論
 (1)新たな労働
 (2)市民所得論
3、認知資本主義論
 (1)知識と動学的な規模の経済
 (2)ポスト・フォーディズムとしての認知資本主義
  (@)フォーディズムの特徴
  (A)ポスト・フォーディズムの特徴
 (3)ベーシック・インカム導入の必要性
4、結論
・引用
「……、認知資本主義論において、ベーシック・インカムは認知的労働への報酬としてマクロ経済的に必要とされている。ベーシック・インカム論においては、 人 権や市民権といった論点から、ベーシック・インカムを正当化する主張が多くなされているが、認知資本主義論においては、その枠組みにおいて、経済的な論理 によって説明が行われている点に注目すべきであろう。すなわち、認知資本主義的なシステムの不安定性を解消するためにベーシック・インカムが必要とされて いる。というのは、所得分配が不安定な場合、認知的投入を生み出すのに必要な報酬が確保されなければ、充分な生産性の上昇が得られないからである。この点 は、別な言い方をすれば、フォーディズムからポスト・フォーディズムへの変化をケインズ・ベヴァリッジ的福祉国家からシュンペーター的ワークフェア国家へ の再編と捉える見方が存在するが、それに対しては、シュンペーター的にイノヴェーションを強調する点は類似している。けれども、ベーシック・インカムを主 張しているため、むしろ、シュンペーター的ベーシック・インカム国家論とも言うべき主張となっている点が特徴である。」(12)

◇2009.0300 矢野 秀利 「ベーシック・インカムと社会保障への影響――新しい所得税制と社会保障との統合の可能性」 (特集 ダイナミック・メンテナンスの観点での社会システムデザイン)、『関西大学社会学部紀要』、40(2): 71-94.
・目次
1.はじめに
2.ベーシック・インカムとは
3.公的扶助と負の所得税
4.アトキンソンのベーシック・インカム
5.BIと労働のインセンティヴ効果
 税率(給付率)tおよびBの変更の効果
 政策変数の変更:労働時間への効果
 端点解の問題
 BIとワークフェア
 BIの財源問題と最適な税率
6.BIシステムと社会保障・税制の統合
7.所得税制とBI:BIの適用の問題
8.課税単位とBIシステム
9.結び
・引用
「……、本稿では、NITとBIの比較、合衆国における最低所得制度の概要、そしてミードとともに社会保障や税制を研究し、現代的ベーシック・インカム論 を 展開したアトキンソンの著作を軸にして、1960年代後半の公的扶助にかかわる問題点の指摘から現代のBI論に至る最低生活の保障という考えに対する政策 と問題点を整理し、社会的メンテナンスとしての現代のベーシック・インカム論の課題をさぐることにしよう。」(74)

◆2009.0217 山森亮 『ベーシック・インカム入門 : 無条件給付の基本所得を考える』、光文社.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0902yt.htm

◇2009.0207 山崎元 「山崎元のマネー経済の歩き方(Number 288) 定額給付金は本当にダメなのか?」、『週刊ダイヤモンド』、97(6), (4264): 69.

◇2009.0203 吉原 直毅 「中級 福祉社会の経済学(vol.10)ベーシック・インカムの実行可能性」、『経済セミナー』 、646: 107〜117.
  著者のHPより修正バージョンのPDF→http://www.ier.hit-u.ac.jp/~yosihara/semi200901.pdf

◇2009.0124 堀田義太郎 「ケア・再分配・格差」、『現代思想』、37-2(2008-2): 212-2.

■2009



◇2008.1225     田村哲樹    「民主主義のための福祉――「熟議民主主義とベーシック・インカム」再考」、NHKブックス別巻『思想地図vol. 2』、pp. 115-142.
・目次
序論――熟議民主主義とその条件
1 条件としての社会保障
 1.1 福祉国家と生産主義
 1.2 ギデンズの積極的福祉論
2 民主主義の条件としての社会保障
 2.1 対話的民主主義のための積極的福祉か
 2.2 労働市場パラダイムからの転換
3 民主主義の条件としてのベーシック・インカム
 3.1 財産の平等と民主主義
 3.2 民主主義は余暇を必要とする
 3.3 なぜ無条件性か?――民主主義の「魅力のなさ」と負担軽減
結論
・引用
 「 熟議民主主義に対しては、しばしば、「理性的な対話」の非現実性や、理性の名の下での少数者の排除可能性といった批判が提起されてきた。……むし ろ、 私としては、熟議民主主義の「現実性」を指摘したい。「異質な他者」と共存するためには、異なることを認めつつ、それが和解不可能な対立・紛争へと転化し ないように最低限の共通理解を形成し問題解決を図るしかない。そのためには、対話を通じた各自の選好の変容が重要なのである。」(116)
「[I. M. Youngの提案になる「集団代表制」や「コミュニケーション的民主主義」のような直接的条件に対して、]……、より間接的な次元で熟議民主主義の条件と な り得る諸要素も存在する。それらの中で本稿では、社会保障と熟議民主主義の関係に焦点を当てる。……、熟議民主主義の条件としてのベーシックインカムの可 能 性という観点から考察する。」(117)
「……、私は、ギデンズの議論そのものに、手がかりは存在していると考える。それは、積極的福祉の提案を、民主主義への関与のための資源提供として捉える こ とである。実際、既に見たように、積極的福祉はもともと、「生活政治の意思決定のための、物質的条件と組織化の枠組みを提供する」ことによって、人々が自 律的に何かを引き起こすことを可能にするための提案であった。そうだとすれば、積極的福祉の提案は、親密圏を含む対話民主主義関与のための条件として議論 されるべきだったのである。」(124)
「[ハーバーマス 1996=2004『他者の受容――多文化社会の政治理論に関する研究』における]ポイントは、社会的基本権を、それ自体として固有の権利として位置づけ ることは問題だ、ということである。つまり、社会的基本権は、私的自律と公的自律との同時的な保障のための条件としてのみ正当化され得るのである。私的自 律とは、「善き生活についての各人固有の構想の追求」であり、公的自律とは、各人が共通の問題について、相互に理由を提示し、検討しあう熟議のプロセスに 参加することである。古典的な自由主義(の法パラダイム)も、福祉国家(の法パラダイム)も、社会的公正の達成を、「私的自律」の保障であると見なしてい た。……。ハーバーマスは、私的自律と公的自律との同時的重要性を主張する。一方で、「国家市民による公的自律の適切な使用は、平等に保障された私的自律 に よって市民が十分に自立している場合にのみ可能」であるが、他方で、「市民が私的自律についての合意可能な規制に到達し得るのは、国家市民として政治的自 律(公的自律)の適切な使用によってのみ」である。そして、社会保障は、そのための条件という観点から正当化されるのである。」(128)
「[参加所得の方が熟議民主主義に相応しいのではという指摘は容易に予想されるが、] しかし、現代社会における民主主義の二面性を考えた場合、私は現時 点では、BIの無条件性に意義を見出したいと考えている。ここで、「二面性」と言うのは、現代社会においては、一方で民主主義が不可避であるとともに、他 方で人々は民主主義にあまり積極的に関わりたくはないだろう、ということである。」(134)
「[Bauman 1999=2002『政治の発見』における、BIが「共和制に奉仕するかもしれない」という趣旨の]……、以上の議論は、バウマン自身の意図とはおそらく 異 なり、利己的な自己の意義をそれなりに認めることの必要性をも示唆しているように思われる。伝統、習慣、あるいは既存の社会関係から解放され、「個人化」 した私たちは、利己的な特徴を強く帯びる。……このような利己的な側面をも含めた個人化の趨勢を逆転させるような民主主義論は、リアリティをもたないだろ う……。そうだとすれば、民主主義の条件としての社会保障であっても、その条件の内容は間接的であることが望ましい。つまり、条件といっても、あくまでも 民 主主義への関わりを選択肢の一つとして可視化するような「文脈」の形成という意味で捉えることが望ましい。この場合、民主主義に関わらなくとも、直ちに批 判されることはない。BIの無条件性は、利己的な個人を否定しない、文脈としての条件の創出という点に、その意義を見出すことができる。」(137)

◆2008.1220 中谷巌 『資本主義はなぜ自壊したのか:「日本」再生への提 言』、集英社.
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◇2008.1215 堀江貴文 「ベーシックインカムの話」 http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10178349619.html

◇2008.1200 成瀬 龍夫 「読者ノート 経営者の立場からの基本所得の構想――ゲッツ・W. ヴェルナー著/渡辺一男訳/小沢修司解題『ベーシック・インカム--基本所得のある社会へ』を読む」、『大原社会問題研究所雑誌』、601: 63-69.
 公開されている全文PDF→oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/601/601-05.pdf
・目次
基本所得論のドイツ的背景と本書の影響
ヴェルナーの基本所得構想の特徴
ヴェルナーの構想の性格
基本所得をめぐるいくつかの問題
初めて基本所得に関心をもった人へ
・引用
「今のところ,基本所得構想では,保育や医療,介護といったサービスをどう扱うのかという点が十分解明されていない。ヴェルナーも,本書においてこうした 分野には言及していない。社会サービスについて,既存の医療社会保険制度などをそのま(67)ま利用するということであれば,基本所得論者の批判する労働 と所得の関係が保険料の負担を通じて残ることになり,原理的な不徹底さが否めない。」(67-8)
「……基本所得構想においては,ライフサイクルにおいて予想されるニーズやリスクをとくに考慮せず,個人は,給付される基本所得で自分のニーズの充足やリ ス ク・マネジメントを図ることになる。国家は,基本所得の給付と財源確保の業務のみを負担すればよいので,システムがきわめてシンプルで効率的になることは 疑いない。しかし,果たして,こうした方法がリスク・マネジメントといえるのかどうかといえば,かなり危惧される問題が多い。仮に,日常の衣食住は基本所 得でまかなえるとしても,先にのべた子育てや学校・大学,老後の介護,病気の治療といったサービス分野でのリスクは,出費が大きく個人負担の差も大きい。 もちろん,基本所得の支給額は,「揺りかごから墓場まで」年齢や家族のライフサイクルを考慮しておおまかに決められることになろうが,リスクへの対応は原 則自由,かつ自己責任である。個人や家族が重要なリスクを背負っている場合は,平均的基準の支給額では到底対応できない生活困難の事態が多数生まれるであ ろう。」(68)

◇2008.1200 梶原太一・小林伸考・中村美樹子・橋本慶一 「書評 トニー・フィッツパトリック著/武川正吾・菊池英明訳『自由と保障--ベーシック・インカム論争』」、『経済科学通信』、118: 98-100.
・引用
「ただし、ここで注意しておかねばならないのは、人々が貧困の深刻さを認識させられるのは収入の少なさによってではなく、そのことによって引き起こされる 様々な貧困現象を通じて認識させられている、という点である。…… [改行] したがって、今後のBI論の方向としては、一次元上のレベルの議論として、 生 活に資する所得を個人に保障した上での、社会的排除などの貧困現象を生まない仕組みと発達に資する仕組みをどのように構築するかについての検討が求められ る。」(100)

◆2008.1005  武川正吾(編著) 『シティズンシップとベーシック・インカムの可能性』、法律文化社.
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 内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0810ts.htm
◇2008.1005 武川正吾 「序 社会政策の20世紀から21世紀へ」、『シチズンシップとベーシック・インカムの可能性』(法律文化社)、pp. 1-8.
・目次
1 福祉国家と社会政策
2 グローバル化・個人化と社会的排除
3 ワークフェアとベーシック・インカム
4 本書の構成
・引用
「ワークフェアが行き過ぎた労働力の脱商品化を是正して再商品化を図ることによって社会的包(4)摂を実現しようとするのに対し、BIの方はむしろ労働力 の脱商品化を徹底させることによって社会的包摂を実現しようとする。またワークフェアがグローバル化へ適応するための社会政策であるのに対して、BIの方 は個人化へ適応するための社会政策である。」(4-5)
◇2008.1005     武川正吾    「第1章 21世紀社会政策の構想のために:ベーシックインカムという思考実験」    『シチズンシップとベーシック・インカムの可能性』(法律文化社)、pp. 11-42.
・目次
1 ピースミールからユートピアへ
2 社会価値と社会政策
 (1) 価値論と政策論の断絶
 (2) 価値論と政策論の接近
3 社会政策における思考実験
 (1) トービン税
 (2) 累進消費税・支出税
4 社会政策としてのベーシック・インカム
 (1) 公共政策におけるBIの位置
  (2) 社会保障としてのBI
5 ベーシック・インカムとは何か
 (1) 無条件性
 (2) 個人単位
 (3) BIと市民権
 (4) BIと類似制度
6 賛否両論
 (1) BI賛成論
 (2) 財政的反対論とそれに対する反論
 (3) 道徳的反対論
 (4) 道徳的反対論に対する反論
7 ユートピアからピースミールへ
・引用
「ある意味で実質的市民権の境界は恣意的であり可変的である。それは現実政治のなかで決定される。したがって実質的市民権の範囲が拡大されるにつれて、 BI受給にお(28)ける市民権という条件は限りなく無条件なものに近づいていくことになり、市民権の保有という条件は重要なものではなくなっていく。」 (28−9)

◇2008.1005 秋元美世 「第3章 シティズンシップとベーシック・インカムをめぐる権利の理論」、『シチズンシップとベーシック・インカムの可 能性』(法律文化社)、pp. 63-84.
・目次
はじめに
1 シティズンシップと社会権
 (1) シティズンシップと社会権の意義
 (2) 福祉国家批判と社会権
2 社会権の法理−−法的人間像をめぐって
 (1) 市民法と自立−−市民法的人間像
 (2) 社会法と自立−−社会法的人間像
3 ベーシック・インカムと社会権
 (1) 給付の無条件性と生活個人責任
 (2) 自律の保障とベーシック・インカム
4 権利の理論とベーシック・インカム
 (1) 権利論のフレームワーク−−権利の議論の2つの側面
 (2) 権利の理念と価値−−自律の問題をめぐって
 (3) 権利の制度的側面−−責任の問題をめぐって
おわりに
・引用
「 ベーシック・インカムや参加所得というのは、それ自体はあくまでも制度であり、権利を実現するための手段・方法の問題なのである。ベーシック・インカ ムなどの制度を通して実現しようとする価値(リアル・フリーダムや自律の保障)が権利の目的であり、いわば権利の本体なのである。したがって、すべての者 に無条件でというベーシック・インカムの方法に関して、あるいは参加所得という方法に関して、効率とか効用、実効性という観点から評価し、比較検討すると いうことは、権利の観点からしてもなんら問題ないばかりか、むしろ権利の実現方法を制度設計するという意味では不可欠なことというべきなのである。」 (82)

◇2008.1005 田村哲樹 「第4章 シティズンシップとベーシック・インカム」、『シチズンシップとベーシック・インカムの可能性』(法律文化 社)、pp. 85−111.
・目次
はじめに
1 ベーシック・インカムと権利
 (1) リベラルな平等の保障
 (2) 脱労働中心的なシティズンシップ
2 ベーシック・インカムと義務−−互恵性原理を中心に
 (1) 互恵性の観点からのBI批判
 (2) 互恵性への反批判@:自由な社会における自由の擁護
 (3) 互恵性への反批判A:政府からのより高度な「貢献」の必要性とその現実性への疑問
 (4) 互恵性への反批判B:貢献を求めることが互恵生を破壊する
 (5) 小括
3 ベーシック・インカムは義務としてのシティズンシップを促進しないのか?
 (1) BIの修正による互恵性原理の組み込み
 (2) 有償労働による互恵性の侵害−−BIと「多様な互恵性」
 (3) 「多様な互恵性」への疑問について
 (4) BI支持への「選好の変容」の促進
おわりに
・引用
「……、リベラルデモクラシーの政体に生きる私たちは、恒常的に権利と義務との間で揺れ動くことを強いられているのである。私たちは、あまりに自己中心的 な 言動を嘆くことがあるかもしれないが、だからといっていわゆる「公共心」や「国家への義務」を求められる社会にも息苦しさを覚えるはずである。BIは、特 定の行為を、強制力をもった義務として構成することはない。それは、ただ「貢献」を望むものにはその選択肢を保障し、そうでない者にとっても他の諸制度と の組み合わせを通じて「多様な互恵性」への選好変容の可能性を提供するのみである。しかし、だからこそ、BIの下で私たちは「自由」を手放すことはない。 それゆえ、BIは、現代社会に生きる私たちが受入れ可能なシティズンシップのあり方を提供するといえるのではないだろうか。」(105)

◇2008.1005 菊池英明 「第5章 ベーシック・インカム論が日本の公的扶助に投げかけるもの:就労インセンティブをめぐって」、『シチズンシッ プとベーシック・インカムの可能性』(法律文化社)、pp. 115-133.
・目次
はじめに
1 日本型福祉国家システムの「中核」−−労使協調と動員
 (1) 日本型福祉国家システムの起源
 (2) 戦後の労働運動における労働・賃金観
2 日本型福祉国家システムの「周辺」−−公的扶助受給者の「自立支援」をめぐって
 (1) 生活保護におけるワーキング・プアの存在
 (2) 勤労控除の導入−−生活保護における「きわめて限定的な」ワークフェア
 (3) 保護受給者の非稼働化と基準の引き上げ
3 日本型福祉国家システムのゆらぎと2つの社会構想−−ワークフェアとベーシック・インカム
 (1) 労働市場の変化とさまざまな異議申し立て
 (2) グローバルな労働市場への適応−−ワークフェア
 (3) ベーシック・インカムによる賃労働の再分配
  (a) BIと賃労働の再分配
  (b) BIは無条件に給付されるべきであるか否か?
おわりに−−日本の公的扶助へのインプリケーション

◇2008.1005 鎮目真人 「第6章 基礎年金制度の類型とその決定要因:ベーシック・インカムとの関係に焦点を当てて」、『シチズンシップとベー シック・インカムの可能性』(法律文化社)、pp. 134-159.
・目次
はじめに
1 各国における基礎年金の概要
 (1) 財源を税とした年金制度
  (a) オーストラリア
  (b) カナダ
  (c) デンマーク
  (d) フィンランド
  (e) フランス
  (f) ニュージーランド
  (g) ノルウェー
  (h) スウェーデン
 (2) 財源を保険料とした年金制度
  (a) アイルランド
  (b) 日本
  (c)  オランダ
  (d) スイス
  (e) イギリス
2 基礎年金の類型化
 (1) 類型化の基準
 (2) 類型化の手法と類型の特徴
3 ベーシック・インカム型年金の決定要因
 (1) 理論
 (2) 方法
  (a) パラメータ推計
  (b) 変数
 (3) 結果と考察
おわりに
・引用
「[本稿のパネルロジット分析の結果]……、女性の政治参加と財政制約がベーシック・インカム型年金の実現に関わることが明らかになった。ベーシック・イ ン カム型基礎年金を成立させる条件を確保することは極めて厳しいが、それについて当面考えられるのは、女性の政治参加が進展した状況のもとで、女性労働者を 中心として増加する縁辺的労働者の声を労働側の年金戦略に反映させることかもしれない……。」(154)

◇2008.1005 北明美 「第7章 日本の児童手当制度とベーシック・インカム:試金石としての児童手当」、『シチズンシップとベーシック・インカ ムの可能性』(法律文化社)、pp. 160-193.
・目次
はじめに−−問題の所在
1 児童手当の所得制限はいかにして生まれたか
 (1) 被用者家庭に対する児童手当と非被用者家庭に対する所得制限
 (2) 答申に対する批判と斎藤構想の登場
 (3) 所得制限をめぐる紆余曲折とその全面化
2 所得制限はいかに児童手当を歪めたか
 (1) 所得限度額はどのように決定されるか
 (2) 児童手当の受給資格と支給期間および手当額
 (3) 児童手当と税の扶養控除
おわりに

◇2008.1005 小沢修司 「第8章 日本におけるベーシック・インカムに至る道」、『シチズンシップとベーシック・インカムの可能性』(法律文化 社)、pp. 194-215.
・目次
はじめに
1 「月額8万円で比例所得税率50%」提案の現在
 (1) 「提案」の確認
 (2) 財源と税率をめぐって
 (3) 支給額の設定をめぐって
 (4) 社会保障給付費とBI後の家計所得推計
2 日本におけるBI実現の可能性
 (1) 正解でのBI論議
 (2) 高齢者ならびに子ども向けBIへの道
 (3) 負の所得税としてBIに至る道
 (4) 「参加所得」としてBIに至る道
 (5) 「人間の生活と資本主義社会の生活原理の矛盾」がBIを引き寄せる
おわりに

◇2008.1005 宮本太郎 「座談会補論 ベーシック・インカム資本主義の3つの世界」、『シチズンシップとベーシック・インカムの可能性』(法律 文化社)、pp. 237-242.
・目次
1 主張したかったこと
2 代替型所得保障の限界
3 脱労働中心的なアクティベーションへ
・引用
「……、これからはワークフェアによって(きわめて広く解釈した)「ベーシック・インカム」的な制度が取り込まれていくことが予想されること、そしてその 限 りでは、これからの対立軸は、ワークフェアとベーシック・インカムの間の対抗というよりは、両者の異なった連携の仕方の対抗と理解したほうが実際に近い、 ということである。資本主義が、何からのかたちでベーシック・インカム的な制度を組み込まないと機能しなくなりつつある。私たちはその意味で、「ベーシッ ク・インカム資本主義の3つの世界」の入り口にいるのかもしれない、ということである。」(239)
「 「ワークフェア補強型」のその対極の「フル・ベーシック・インカム型」との対照でいえば、この[宮本が推奨する]タイプは、アクティベーションにまだ 残る雇用労働中心主義あるいは生産主義を是正するという意味で、「脱労働中心的アクティベーション型」とでも名づけることができるかもしれない。」 (241)「それは、サービス強化型の(強制の度合いの少ない)ワークフェア、すなわちアクティベーションと、修正型ベーシック・インカムを組み合わせて いくという方向であった。」(241)

◇2008.1005 小沢修司 「座談会補論 「ワークフェアとベーシック・インカム 福祉国家における新しい対立軸」に寄せて」、『シチズンシップと ベーシック・インカムの可能性』(法律文化社)、pp. 243-246.
・目次
1 ワークフェアと「ボーモルのコスト病」
2 アクティベーションと相互性
3 あらゆる社会進歩の前提条件

◇2008.1000 元田 厚生 「ベーシック・インカム論争を前進させるために 」、『経済と経営』   39(1), (128)  1-15.
・目次
1 ベーシック・インカムにたいする反対論
2 自然の恩恵のとらえ方
 @訳し方の問題
 A共通利用権をめぐって
 B共通占有権をめぐって
 C「落ち穂を残す精神」
3 過去労働の恩恵のとらえ方
 @経済の配当をめぐって
 A過去労働の蓄積をめぐって
4 コモンズの恩恵の捉え方
 @Common resourcesとは何か
 Aロバートソンの最良の見解

◇2008.秋 小野 一 「研究ノート 現代ベーシック・インカム論の系譜とドイツ政治」、『レヴァイアサン』、43(2008秋): 113-128.
・目次
はじめに
1ベーシック・インカムの定義およびその多様性
2ベーシック・インカムをめぐるいくつかの論点
 労働中心社会への問い直し
 貧困・社会的排除との闘い――ふたつの論争から
3ベーシック・インカム論の政治思想的意味――ドイツ・赤緑連立政権を例に
4残された課題
・引用
「 グロッツ[Peter Glotz]は、現代社会の問題状況とその変容に関して鋭い問題提起を行ってきたSPD[ドイツ社会民主党]の理論家である。ベーシック・インカム論の理 論形成にも多大な貢献をなしたことは、例えばゴルツの著作からも読み取れる。彼の議論には、労働こそが自己実現(ないしはその前提)という立場が反映され ており、賃金労働を超えたところに自己実現と社会参加の契機を見出すベーシック・インカム論者とは微妙に主張を異にする。それを労働中心的価値観から抜け 切れない旧左翼の議論、と左派オルターナティブの見地から断罪することはたやすい。しかし、労働社会の後に来る社会のイメージが、同時に新自由主義が標榜 する市場万能主義へのアンチテーゼというかたちで具体化されているかというと、むしろ左派オルターナティブのビジョンのほうに不明瞭なものが残る、と言わ ざるを得ない。」(120)
「 ベーシック・インカムは、現実の政治的言説の下ではどの程(122)度受容可能なのだろうか。フランスのRMIや、ワーク・シェアリングを取り入れて 一定の成果を上げたオランダの雇用政策などは注目すべき例だが、ベーシック・インカムそれ自体が実際の政治制度として定着した例はほとんどない。むしろこ の種の問いでは、ベーシック・インカム的要素を含んだ政策構想が実在の政治勢力の間でどのように論じられたのか、それが(成功であれ失敗であれ)政治思想 的にどのような寄与をなしたのかが検証されるべきだろう。」(122-3)
「国際競争力の維持を大義名分として賃金コストの切り下げを迫る新自由主義的方策(ないしそのような状況下での次善の策)を、表面的な類似性をもってベー シックインカムと混線させる」(126)Clause Offeの議論は、「ベーシック・インカム論の到達水準の反映として理解されるべきだろう。」(126)

◇2008.0821 新谷 周平 「ベーシックインカム構想と勤労倫理(11.【一般B-7】若年労働市場と学校,一般研究発表I,発表要旨)」、『日本教育学会大會研究発表要 項』、 67: 142-143.
・目次
はじめに
授業の概要
ベーシックインカムに対する受講者の見解
 (1) 労働と生きがい
 (2) 税・社会保障による再分配と国家への(不)信頼
ベーシックインカム構想が提起するもの――システム全体の観察と関与――

◇2008.0800 山口 宏 「個人化,そして社会参加と自己責任論の対立を超えて――選別としての社会参加から,ベーシック・インカムへ」、『日本福祉大学社会福祉論集』、 119: 103-123.
・もくじ
はじめに
1.ベックの個人化論と、連帯の変容
 (1)ベックの個人化論と第2の近代
 (2)社会連帯の原理と個人化
2.アクティブな個人と社会参加
 (1)ワークフェア
 (2)ベックの市民労働構想
3.カウンターパートとしての自己責任化批判
4.生存の美学とベーシック・インカム
 (1)フーコーと生存の美学
 (2)生存の美学としてのベーシック・インカム
・引用
「 本稿では、個人化と呼ばれる社会変容を現代ドイツの代表的社会学者であるベックの議論に拠りながら概観し、その文脈の中で社会参加への構想としての ワークフェアや、ベックが近年示してきた市民労働論に目を向け、それをフーコー派の統治批判論という異なる角度から照らし出していく。そして最後に収束点 のひとつとして、フーコーが晩年に構想した自己の美学的な思想とも重なるものとして、ベーシック・インカムの思想を位置づけてみたい。」(103)
「 ベックのなかでもたしかにこの[個人化という]概念は両義的なニュアンスを帯びているが、しかしベックは否定的で危うい面にも注意を促しつつも、孤立 化や自己中心化よりも新たな政治的潜在力をもつものとして、肯定的な可能性をより強調している。」(104) 「個人化はたしかに「自分さがし」的志向を 強めるが、それは私的な世界への閉鎖につながるとはベックは考えない。「自分であることへのあこがれ」(Sehnsucht nach Selbstbestimmung)をいかにして共同性への探求と調和させるかは大きな課題だが……、それに対してベックは楽観的である。個人化を非政治 的 ふるまい、無関心、エゴイズムと等置することは誤りであり、自己実現への要求が高まると、ますます他者のために何かしたいという思いが強まる。自己中心的 社会を嘆くのは誤りであり、むしろ自己実現と他者のための活動が結びついた「利他的個人主義」が生成することになる……。」(107-8) 「しかし若者 た ちは自己理解としても表層的印象としても「非政治的」となっているが、それは従来の政治参加とは異なるが、「高度に政治的な政治拒否」であるのだとされ る。[改行] その第2の近代と個人化のなかでの、そうした政治的なるものの変容を示す概念が「サブ政治」である。生の多くが自ら組み立てる決断の問題と なり、自己のあり方がよりテーマ化するなか、日常生活が政治と直結する機会が増える。旧来の代議制民主主義に対する無関心は高まっているとしても、消費者 の不買行動など私的な行為が企業に影響を与えるなど、グローバルな政治的行為の行為者として自らを感じることが大きくなる。「自己-文化」のかなでの「自 己-政治」とも言われるそうしたあり方が、個人化のなかで新たに浮かび上がってくる……。」(108)
「このような[完全就労社会が終焉している]状況で重要なのは、「労働社会に対するいかなるオルターナティヴがありうるか?」という問いである。そこで ベックが近年示してきたのが「市民労働」概念であり、それは賃金労働にとって代わるものではなく、それと並存して別様の空間をつくるものである。簡単にい えば、賃金労働外の自由意志的で多様な活動に物質的・非物質的報酬をもたらし、賃金労働の外部で存在確認と安定が得られる仕組みをつくる、という構想であ る。」(111)
「 市民労働は賃金労働とも家事労働とも余暇活動とも区別され、自由意志による参加により、集合財を生み出し共同の福祉に仕える活動である。ベックはかな り具体的な制度構想を示しているのだが、まず市民労働は特定のプロジェクトに結びついたもので、「公共福祉的企業家(Gemeinwohl- Unternehmer)」と呼ばれる人物のイニシアチヴによって進められていく。公共福祉企業家とは、ベックは「マザー・テレサとビル・ゲイツを合わせ たような像」と表現しているが、企業家的才覚を備えつつ共同福祉のための想像力や組織力をもった人物がイメージされている……。そのような「夢想的実務 家」 が人々の要求や課題を見つけ、人々に語りネットワーク化し、資源を動員していく。その公共福祉的企業家は、市民議会や福祉団体、ボランティア団体の代表、 市民労働のサービスの受け手などからなる「市民労働委員会」が課題に応じて選び、正当性を与える。報酬としては、非物質的には、教育・訓練が与えられた り、大学入学の際にポイントとして考慮されたり、奨学金ローンの返済で考慮されたり、また名誉が与えられるなどである。また物質的には、社会扶助や失業給 付の財がんを充てて給付がなされたり、「市民通貨」といった単位による地域通貨的なサービス交換システムが考えられている……。」(111-12)
「 これまで見てきたように、個人化という状況のなかで、それに即応した社会参入・連帯のかたちがここで要請されるが、市場志向が強いワークフェアに対し てベック市民労働の新たな可能性を示した。しかしまた同時に、フーコーの系譜をひく論者たちによる統治批判論の観点から、アクティブな個人というモデルや 自己責任化に内在する権力作用についても確認した。だが統治性の視座からは、市民労働的な参加への積極的な評価が開かれにくく、自己責任批判を強めること が、自立を支えることの重要性を論じることを薄めてしまう傾向がある。それらは接合されねばならない。[改行] ここでその接合が果たされるわけではない が、ひとつの可能性として、近年新たな注目を浴びているベーシック・インカムの思想を、フーコー晩年の自己論と重ね合わせて考えてみたい。」(115- 16)
「それ[フーコーが晩年に探求した古代ギリシアの生や快楽をめぐる実践=「生存の技法」]は強制的・普遍的な道徳に自らを従属させることではなく、「養 生」や「自己陶冶」といった語で表されるような営みであり、よく生きるため自らに注意を払うことであった。」(116)「そうした自己の技法は、何と異な るのか。そこで対置されているのが、キリスト教道徳である。」(117)
「 先にも見たように、ベックは個人化が他者への共同性を強めるという楽観的なヴィジョンをもっていた。、それは旧来の企業社会から脱したNPOや市民企 業家の動きを見ても、あるいは「自分さがし」とボランティアなどの結びつきを見ても、納得できる。しかしその外部にとどまる者も出てくるだろう。そこで社 会参加を条件とした保障を行えば、選別性を生んでしまう。BIをベースに置き、かつベックの構想する市民労働、あるいは市民企業など社会貢献的活動を「演 出していく」ということしかないのではないだろうか。ベックは「サブ政治」を論じるなかで、感情に訴える演出がもたらす流動的だが新しい政治的可能性を見 出そうとしていた。教育やメディアを通して共同性の「楽しさ」を演出することで参加を促し、かつ回路も開き、しかしそれを条件とはせず、その鋳型に自らを 合わせない人びとにも普遍的給付を行うという、そうしたヴィジョンを提示してみたい。」(120)
「 また実際には(当面は)BI構想は、現実の政策であるよりも、その理念が現実を批判する根拠となるような統制的理念であるかもしれない。しかしBIへ の運動自体が連帯を生むものでもあるだろう。個人化をめぐる議論では、個別の生が集合的な共通枠組みでとらえられなくなっていくとしばしば論じられるが、 BIへの運動は周縁に置かれた多様な人びとを連帯させる契機ともなる。」(120)

◇2008.0700 宮台 真司/堀内 進之介 「対談 民主主義の危機から、危機の民主主義へ――ゼロ年代的議論からの考察」、『論座』、158: 130-145.
   本頁作成者によるちょっとした異論→http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/d/b03m.htm

◇2008.0600 宮崎 徹 「書評論文 格差社会とベーシック・インカムを考える[橘木俊詔『日本の経済格差』,佐藤俊樹『不平等社会日本』,小沢修司『福祉社会と社会保障改革』 ほか] (変貌する消費生活と消費者問題のいま)」、『まちと暮らし研究』、1: 17-22.

◇2008.0430 白石嘉治 「Lecture 学費0円へ――学費無償化とベーシックインカム」、白石・大野編『増補 ネオリベ現代生活批判序説』、新評論社、pp.276-304.
・引用
「……、ベーシックインカムが導入されるということは、人間の中心的なイメージが労働者やサラリーマンから学生=芸術家になることです。」(296)
◇2008.0430 堅田香緒里 「Interview ベーシックインカムを語ることの喜び――堅田香緒里氏に聞く」、『増補 ネオリベ現代生活批判 序説』、pp. 253-275.(『Vol』所収の論考に加筆)
amazon] /[bk1
・引用
「……ベーシックインカムが文化や芸術にとって、肯定的な生産をもたらすことを確認しておきたい。大学院生の生活などもそうですが、文化や芸術の表現は、 貧困へのリスクを通じて資本や国家に潜在的に検閲されています。ベーシックインカムはそうした検閲や管理を取り払うものです。繰り返しますが、ベーシック インカムはたんなる貧困への対策ではありませんし、ましてや「格差社会」への回答ではない。誤解をおそれずに言えば、それは存在論的な貧しさを保証するも のであり、それだけが真の意味で文化や芸術の表現を可能にするものだと思う。文化や芸術では、再生産と生産が創造性において接合されています。簡単にいう と、芸術家や学生はまず食べていなければ何も創(274)り出せないわけですが(笑)、それは生きていることそれ自体が何かを生み出すことです。地味な再 生産の「豊かさ」がそのまま生産の「豊かさ」に転化していく。これが表現の自由の本当の意味でしょうし、だからこそネグリはベーシックインカムの基盤を 「一般的知性」の発達にみているのでしょう。再生産が生産となり、そしてそれが自由な創造となること。これがベーシックインカムの示している地平だと思い ます。」(274-5)

◇2008.0400 ヴァン・パリース,フィリップ 「ベーシックインカム――21世紀を彩る簡潔で力強い観念」(齊藤拓/後藤玲子訳)、『社会政策研 究』、 8: 87-129.
        全文PDF→http://www.arsvi.com/2000/0400pp.pdf
・要旨
ベーシックインカム(ないしデモグラント)とは,政治的共同体によって,そのすべての成員に対して個人ベースで,資力調査や就労要請なしに,支払われる所 得である。本稿は,ベーシックインカム提案がとってきた多様な型を紹介し,それらが同種のアイデアとどのような関係にあるかをサーベイする.また,貧困と 失業の双方への対抗策としての,ベーシックインカムの中心的擁護論を統合して提示する.さらに,ベーシックインカムが財政上実行可能であるか否か,可能で あるとしたらそれはどのような意味においてであるかを検討する.最後に,南北双方においてベーシックインカムを実現する見込みが最も高い新たなステップに ついて議論する。
・目次
ベーシックインカムとは何であり、何でないか
 所得
  現物ではなく、現金で支払われる
  一回限りの賦与ではなく、定期給付で支払われる
 政治的共同体によって支払われる
  国民国家、それ以下またはそれ以上
  再分配
  分配
 その成員すべてに対して
  非市民は?
  子供は?
  年金受給者は?
  被収容者は?
 個人ベースで
  各人に支払われる
  均等額
 資力調査なしで
  所得に関係なく
  富者をより富ませるのではないか
  富者に与えることが貧者にとってベターなのか?
  労働は割に合うか?
  負の所得税と同じか?
  負の所得税よりも安価か?
 就労要請なしに
  現在の労働パフォーマンスに関係なく
  労働の意欲に関わりなく
なぜわれわれはベーシックインカムを必要とするのか?
 資力調査なしを望むのであれば、労働調査をやめることが重要である
 資力調査が存在しないならば、労働調査がないことが要求される
 促進的でありながら解放的である
 ベーシックインカムと社会正義
ベーシックインカムは財政上実行可能か?
  あまりに具体性に欠ける問い
  労働無条件性ゆえに高くつくのでは?
  求職者手当vs.国家によるワークフェア:一つのジレンマ
  怠け者に与えるほうが安くつく
 所得無条件性ゆえに高くつく?
  資力調査付きスキームと普遍的スキームの間の相同性
  富者に与えることはより安くつく
 底辺における労働インセンティブを創出するので高くつく?
  底辺における限界税率と中間所得帯における限界税率:大きなトレード・オフ
  一つの事例
  貧者により高く課税されても、当の貧者にとって改善となるのか?
  低額稼得者への超過請求vs.部分的ベーシックインカム
 厳密に個人主義的であるために高くつく?
  個人化の美点
  もう一つのジレンマ:不十分な給付か、それとも世帯単位か?
どの途をすすむか?
 遠くを見る眼と近くを見る眼
  1. 個人単位の税額控除
  2. 世帯単位の逆進的な負の所得税
  3. 控え目な参加所得
 「南」にとってのベーシックインカムへの途
ベーシックインカムに関するビブリオ
付録:ベーシックインカムおよび関連するスキームの形式的表現
 図1. 従来型最低限保証所得
 図2. ワナのあるベーシックインカム
 図3. 線型の負の所得税
 図4. フラット税と結合したベーシックインカム
 図5. 非線型な負の所得税
 図6. 低額稼得者への超過負担を有するベーシックインカム
 図7. 部分的ベーシックインカム

◇2008.0400 齊藤拓 「ベーシックインカム論者から見た日本の格差論議」、『社会政策研究』、8: 130-152.
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・目次
はじめに
1. 分配的正義論の視点
 1.1. 個人主義および厚生主義の擁護
 1.2. 自由の平等
 1.3. 「機会の平等」言説
2. Van Parijsの無条件ベーシックインカム正当化論の概要
 2.1 「左派ロールズ主義者」として
 2.2 「左派リバタリアン」として
 2.3 要素レントの解釈
 2.4 再び左派ロールズ主義者として
 2.5 「資本主義を正当化する」:UBIを最大化する
3. 「機会の平等」批判
4. おわりに:規範的なBI論の意義
 4.1 プラグマティックなBI論
 4.2 BIの有意義な「使い途」
・要旨
「政治家,教育学者,エコノミスト,労働政策論者など,様々な立場の専門家が自らの専門的な知見と関心からそれぞれに重要と信じる視点を提供した結果,論 点が錯綜し拡散したように見える今回の格差論議だが,分配的正義論の文脈に位置付ければ,それらにも一定の方向性を見て取ることができる。そして,本稿の 提示するベーシックインカム論者……の視点は日本社会での大方の合意や前提とは異なる方向性を示唆する。以下,網羅的ではないが,分配的正義論の主要ト ピッ クを語りながら日本の格差論議を瞥見するが,本稿の目的は今回の格差論議の正確なサーベイを提供することにはない。マスコミレベルでの大雑把な共通了解を 示すに留める。BI論者がそれらと十分に異なる視点を提示しうることを理解してもらえれば本稿の目的は達せられる。」

◆2008.0310 入江公康 『眠られぬ労働者たち 新しきサンディカの思 考』、青土社.
amazon] /[bk1
・引用
「かくのごとく彼ら野宿者やホームレスは、資本主義を動かす力ともなっていながら、差別と侮蔑と嘲りと無視を一身に受け、過酷な不払い労働を、不断に、そ して長期にわたって強いられてい(83)る存在である。人々にそのような効用を与えているにもかかわらず、決してその代価が支払われることはない。凄まじ いばかりの搾取である。否、これを強奪といわずしてなんというのであろうか。……[改行] ……彼らがいなければ、資本主義がうなりを立ててドライブする こともない。いったい誰のおかげで食えているのか、いまいちどまともにつきつめて考えてみなければならない。無駄であるどころか、社会的に有害な仕事で、 とんでもない金額を不当に手にしているゴミのような人間が多いなか、以上のように有意な労働をしている野宿者やホームレスには、それよりも圧倒的に多くの 額の報酬が彼らに支払われなければならないと考えられる。……[改行] 自立支援などとほとんど意味のない言葉をいちいち並べたてる必要もなく、月五〇 万、福祉事務所などの行政は、即時手渡しで彼らに対する給与支払いを実行すべきであろう。迅速かつ漏れがないよう、即刻に。人は〈市民〉であろうとするな らばそうすべきだ。」(83-4)
「……、依存することを必要以上に怖れることもなく、国家に要求することを憚ってもならない……。要するにわれわれは“自立しすぎ”なのだ。国家が、資本 がそれを望んでいる以上、これ以上に「自立」することは<ヤツら>の“思うツボ”である。それこそ、それは深々と国家に従属することを意味し ている。……、たとえば国家に要求するということは依存することでは、まったくない。[改行] たとえば、家賃はただにならねばならないし、学費は無償で なければならないし、もちろん債務は帳消しにされなければならないし、基本所得は要求されなければならない。」(168)

◇2008.0300 片山博文 「環境財政構想としてのベーシック・インカム」、『桜美林エコノミックス』、55: 61〜7.
・目次
はじめに 「コモンズの経済学」から「コモンズの財政学」へ
第1節 社会権型ベーシック・インカム
 (1) ポスト生産力主義による福祉国家の再編
 (2) 環境財政構想としてのベーシック・インカムとその問題点
第2節 環境権型ベーシック・インカム
 (1) 共有資源とレントの経済学
 (2) グローバル・ベーシック・インカム構想
第3節 所有権型ベーシック・インカム
おわりに 「レントの経済学」の可能性
・引用
「いま、共有資源としての環境資源に対する社会成員の平等な請求権のことを「環境権」……と呼ぶならば、[フーリエ主義に共感していたミルのBI論のよう な]初期の構想は、ベーシック・インカムを通じて人々の環境権を実現する構想である。一方、現代のベーシック・インカム構想は、その普遍的・無条件的性格 にも明らかなように、再分配政策による「社会権」の実現を徹底させたものであり、したがって「社会権型」ベーシック・インカムと規定することができる。こ のように、そもそも性格の異なる両者を一体化し、社会権という政治的共同体の論理に環境権という所有(共有)の論理を接木するのには明らかに無理がある。 環境権は社会権の延長線上にはないのである。[改行] 以上の検討から明らかなように、ベーシック・インカムがコモンズ環境主義の環境財政構想として有効 たりうるためには、少なくとも次の2点が必要であると 思われる。第1に、ベーシックインカム論者の掲げる「ポスト生産力主義」を、持続可能性の論理をふまえた概念として再構成することである……。第2に、 ベー シック・インカムを社会権ではなく環境権によって基礎付けることである。」(65−6)
「……、社会権型ベーシック・インカムは、その無条件的給付を正当化する根拠の提示の困難に加えて、ポスト生産力主義の実現を労働力の脱商品化そのものを 通 じて行おうとしている点に、環境財政としての難点がある。一方、環境権型ベーシック・インカムは、環境税との結合による環境保全のインセンティブに加え て、その支払いの根拠をコモンズの共有性においているため給付根拠論の難点を免れており、さらに市民の「コモンズ感覚」を涵養する点において、環境財政構 想として優れているように思われる。」(68)

◇2008.0300 秋元美世 「権利の観点から見たベーシック・インカム構想の意義について」、『茨城大学政経学会雑誌』、78: 29-40.
・目次
T 福祉国家の再編とベーシック・インカム
 1 福祉国家の再編
 2 ベーシック・インカム
U ベーシック・インカムとその論拠
V ベーシック・インカムとベーシック・ニーズ
 1 プライマリー・ニーズ
 2 ラディカル・ニーズ
W ベーシック・インカムと権利保障
X 権利目的とその実現手段
 1 権利を実現する手段としてのギャランティ
 2 権利と効率性
 3 ギャランティとしてのベーシック・インカム
・引用
「 そもそも、ベーシック・インカムを権利や人権の問題として考える、ということには、どのような意義があるのだろうか。……、ベーシック・インカムが単 に 政策判断の問題としてだけでなく、同時に権利や人権の問題として認識されているのであれば、こうした政策上の決定によってベーシック・インカムを廃止して しまうことに対して、権利侵害、人権侵害の問題として異議申立を行うことができることとなろう。」(34)
「……、社会福祉ニーズを法的権利の問題として論じていくためには、第1に、そのニーズの充足が、人間が自律的存在として生存するうえで、不可欠の事柄で あ ること(正当性の社会的承認)、第2にそのニーズを充足するための制度的保証が用意されていることが必要となろう。」(35)
「ベーシック・インカムは、……、ラディカルニーズ[自分自身のライフスタイルや人生の目標を自ら決定できる自由を尊重するうえで不可欠の必要]を具体的 な 法的権利として論じていくためにきわめて重要な役割をはたすのであり、逆に言えば、ベーシック・インカムを通じてはじめてラディカル・ニーズに関する普遍 的な権利を論じることが可能となるのである。」(36)
「・・・、実はこうしたギャランティという概念を取り入れることによって、権利を語る文脈では取り扱うことが一般に困難であるとされている効率性の問 題…… を論じていくための手だてを、得ることができるのである。」(37)
「これまでの社会保障制度では、拠出性・無拠出性を問わず何らかの条件がつくのが常であり、ラディカル・ニーズ……ということを厳密に考えたとき、そうし た 条件が制約要因となり、ギャランティ(目的を実現するための方法)としては「難あり」という部分が見られた。この点、ベーシック・インカムにはそうした制 約がなく、ギャランティとしてきわめて効率的かつ効果的な方法であると言える。」(38)

◇2008.0220 小沢修司、「第11章 「持続可能な福祉社会」とベーシック・インカム」、広井良典編『「環境と福祉」の統合 持続可能な福祉社会 の実現に向けて』(有斐閣)、pp. 225-41.
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・目次
1「持続可能な社会保障制度」とは
 「給付と負担のバランス」論で示される「持続可能性」
 「社会保障の給付と負担」が含むものと含まないもの
 いとも簡単にできる「持続可能な社会保障改革」?
2「持続可能性」の条件
 自助・共助・公助の組み合わせとは
 戦後社会保障制度の「持続可能性」
 揺らぐ戦後社会保障制度の「持続可能性」
3「労働」「家族」「環境」の変化に対応した制度としてのBI
 BIへの関心の高まり
 「労働の人間化」「個の自立に基づく多様な家族形成と両性関係」「環境との調和」
 人間に無理強いをしない公共政策
4BIは持続可能か?
 「働きすぎ社会」の抑制
 財源論からみたBIの持続可能性
 消費論からみらBIの持続可能性
 「持続可能な福祉社会」とBIの可能性
・引用
「[社会保障の在り方に関する懇話会の報告書(2006年5月26日)等にみられる「給付と負担のバランス」論では]……、保険で支払われる金額のみが 「給付」であるから、食費・居住費が保険給付から外され利用者負担に回されると、「改革」の成果として「給付」は減る。では、利用者負担が増えた分は「負 担」に含まれるのかといえばそうではない。「負担」とは、あくまで減った保険給付をまかなうために集められる「負担」なのであって、私たちが支払った自己 負担分は「社会保障の負担」にはいっさい含まれないのである。」(228)「 この視点でいま一度、……「給付」と「負担」から除外されているものを眺め てみてほしい。施設整備に支出される国庫や地方公共団体の補助金。医療、福祉等の事務処理に要する人件費。地方公共団体の単独事業の費用。除外されるもの があまりに多すぎる。」(229)
「 まず確認したいのは、BIが社会保障のうちの所得保障部分に関わった構想であるということである。社会サービス、すなわち社会保障の現物給付部分の構 想は別途検討されなくてはならない。所得保障を担うBIがナショナルな制度として構想され、地域における分権化された社会サービス構想がローカルな制度と して構想されるであろう。この点、BI論に社会サービス構想が含まれていないことを取り上げて、BIが社会サービスを解体して現金給付に一本化する「所得 一元化」の構想であると誤解・曲解することだけはくれぐれも避けていただきたい。」

◇20080217 中村達也 「今週の本棚:中村達也・評 『ベーシック・インカム――基本所得のある社会へ』」、『毎日新聞』、東京朝刊 11頁. 
・引用(全文)
「◇福祉国家の問題を示すラディカルな発想
 「働かざる者、食うべからず」。新約聖書の中のパウロの言葉であるが、キリスト教徒ならずとも、こうした労働倫理はあまねくゆき渡っているのではあるま いか。現にこの日本でも、不労所得という非難語めいた言い回しがあるし、ラファルグの『怠ける権利』もラッセルの『怠惰への讃歌(さんか)』もすでに絶版 となっているらしい。そんなわけだから、すべての個人に無条件でミニマムの所得(ベーシック・インカム。以下、BIと略記)を保障するなどというのは、ま るで荒唐無稽(むけい)な絵空事と取られるかもしれない。
 しかし、実はこうしたBI的な主張は、すでに一八世紀末にT・ペインによって語られて以来、決して主流的な位置を占めることはなかったものの、様々に形 を変えながら、あたかも持続低音のごとくに語りつがれてきた。そして戦後の八〇年代以降、ヨーロッパを中心にこの主張が注目されるようになった。「訳者あ とがき」によれば、〇七年だけでドイツでBIをテーマにした本が十数冊も刊行されたという。ちなみに、日本でBIが語られるようになったのは、数年前から のこと。しかも、その多くは、専門家によって専門書の中においてであった。
 だからして、本書のような一般向けにBIを論じたものはむしろ例外的で、BIを知るための格好の一冊といえる。著者のヴェルナーは、ヨーロッパ全土でド ラッグストア・チェーン「デーエム」を運営する創業者で、近年カールスルーエ工科大学教授に就任したという異色の経歴の持ち主。彼へのインタビューを中心 に、対談、鼎談(ていだん)、小論文を含めた構成で、BI的発想のエッセンスが語られる。成功した経営者である彼が、何ゆえにBIを主張するに至ったか は、それ自体おおいに興味をそそるのだが、彼自身は「ゲーテとシラーの世界に触れたから」とだけ述べて多くを語らない。
 戦後の福祉国家は、おしなべて八〇年代頃(ごろ)からその機能不全が目立つようになった。失業率が高まり雇用不安が常態化し、それまでのケインズ的な完 全雇用政策が問い直されるようになった。ワーキング・プアと呼ばれる貧困層が増え、格差の広がりが目立つようになった。何もヨーロッパだけのことではな く、この十数年来の日本の現実でもある。しかも、労働市場から排除されるだけでなく、社会生活全般からも切り離される「社会的排除」が関心を呼ぶように なった。それへの対処に二通りのものがある。一つは、職業訓練やリカレント教育や職業紹介などを通じて就労を促し所得を確保させるいわゆるワークフェアと 呼ばれる対策。そしてもう一つが、むしろ就労と所得とを切り離し、無条件にすべての個人に所得を保障するBI。
 ヴェルナーは言う。所得を得るために不本意な雇用関係の中に身を置くのではなく、BIによってミニマムの所得が保障されれば、自らの意志によって自由に 仕事を選択できるし、ボランティア活動など雇用の場以外で自らの役割を見いだすこともできる、と。もちろん、こうしたBIの考え方に対しては、賛否が分か れる。賃労働への束縛から人々を解き放つその一方で、自らは働かずBIだけを受け取る「フリーライダー(ただ乗り)」が発生し、「怠け者による勤労者の搾 取」を招くとの批判もあろう。フェミニストの中には、稼ぎ手たる男性への依存から女性を解放する契機を与えるとして評価する人がいるかと思えば、BIが給 付されることによって、女性が労働市場に赴くのを却(かえ)って引き留めることになるとして反対する人もいる。
 あるいは意外なことに、市場原理主義的な新自由主義者から賛意の声があがる。BIが保障されるのであれば、最低賃金などの配慮なしに、賃金は市場の自由 な調整にゆだねることができるというのである。一方、エコロジストからは、人々を賃労働・生産至上・経済成長からの離脱を促すものとして支持される。つま り、BI構想は、それのみが独立してその効果が発揮されるというのではなく、どのような立場のどのような政策パッケージの中で位置づけられるかによって、 その果たす役割が大きく分かれるということなのである。
 ところで、BIの財源はどうするのか、果たして実現の可能性があるのかという疑問に対しては、小沢修司『福祉社会と社会保障改革』(高菅出版)が、日本 の現状を念頭に計算を試みていることを付け加えておこう。そして、ヴェルナーの特徴は、ここでもいかんなく示されている。財源を、税率五〇パーセントの消 費税に求めているのである。その根拠は、勤労所得税や法人税は、経済的富を生み出す過程に対する税であるから全廃する。その一方、消費は経済的富を消失さ せる過程であるからして課税さるべきだというのである。確かにひとつの見識ではある。荒唐無稽、いや実にラディカルな発想であるからこそ、そこを光源にし て福祉国家のありようを逆照射して問題を浮かび上がらせる。そういうものとして、私はこの作品を大いに楽しむことができた。(渡辺一男・訳)」

◇2008.0000 川越 敏司 「経済学は障害学と対話できるか? (特集 障害学と経済学の対話)」、『障害学研究』、4: 33-62.
  筆者が公開しているPDF→www.fun.ac.jp/~kawagoe/kawagoeDisability.pdf
・引用
「しかし、この考え[BI]には問題があります。つまり、子どもを増やせばそれだけ「家計」にとって総所得が増えるので、家計には子沢山になろうというイ ンセンティブが働くということです。そうすると、その理念に反して、ベーシック・インカムの導入は、女性を子作りのためのマシーンとするような暴力や抑圧 を一層助長します。ゲーム理論で分析したところ、ベーシック・インカムの導入は、必ずしも個人の自立を促すのではなく、むしろ抑圧的な家族関係の再生産が 助長される側面もありうることがわかりました。
 確かに、現行の生活水準を維持したまま、複雑化した福祉制度を統合して簡略にするという意味で、ベーシック・インカムには魅力があります。また、個人の 全人格的発達といった、ユートピア的な美しい表現も魅力的です。しかし、「ただより高いものはない」と言われますが、ゲーム理論や経済学による人間行動の 厳密な分析なしには、安易な福祉政策の導入は危険であるということです。」


■2008



◇2007.1200 浦川邦夫 「ベーシック・インカム論に関する政治経済学的考察」、『国民経済雑誌』、196(6): 93-114.
1 はじめに
2 ベーシック・インカム政策に関する主な議論
3 BI/FT政策の再分配効果
 3.1 理論モデル
 3.2 ベーシック・インカム政策の効果
 3.3 ベーシック・インカムの導入と最適所得税
 3.4 公正に対する価値判断とベーシック・インカム
  Case. 1: 社会的弱者の厚生を重視するケース
  Case. 2: 労働者の賃金分配を考慮するケース
4 ベーシック・インカムの導入に関する課題
5 結論

◆2007.1120 ヴェルナー,ゲッツ・W./渡辺一男(訳)/小沢修司(解 題) 『ベーシック・インカム―基本所得のある社会へ』、現代書館.
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内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0700wg.htm

◇2007.1115 後藤玲子/駒村康平 「対談――ミニマム保障は強めるべきか」、『福祉ガバナンス宣言――市場と国家を超えて』(岡澤憲芙・連合総 合生活開発研究所[編])、日本経済評論社、pp. 142-153
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◇2007.1100 浦川邦夫 「視点(第49回)ベーシック・インカム構想--究極の社会保障の可能性と現実的課題[トニー・フィッツパトリック著, 武川正吾/菊地英明訳『自由と保障――ベーシック・インカム論争』,塩野谷祐一・鈴村興太郎・後藤玲子編『福祉の公共哲学』,小沢修司著『福祉社会と社会 保障改革――ベーシック・インカム構想の新地平』]」、『Int'lecowk』(国際経済労働研究所)、61(11・12): 40-42.
・目次
ベーシック・インカム構想
ワークフェアvs.ベーシックインカム
日本におけるベーシック・インカム構想

◇2007.1000 山森亮 「書評 租税原理神話を超えて――マーフィー&ネーゲル『税と正義』におけるベーシック・インカムの提言」、『思想』、1002: 118-125.

◆2007.0928 アンドルー・グリン(Andrew Glyn)/横川信治・伊藤誠訳 『狂奔する資本主義――格差社会から新たな福祉社会へ』、ダイアモンド社.
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・引用
「 しかし根本的な点は、もしこの計画[ベーシックインカム]が正規部門の労働時間をいくばくか減少させ、しかも正規部門の労働をより平等に分け合うよう に促すならば、この計画の影響は全体として有益だということである。というのは、現在の正規部門の労働は深刻な「外部不経済」の負担を負わされており、正 規部門の労働は、人間的関係のための時間や多くの正規部門労働の疎外的な面とは対照的に、本質的に満足を見出せるようなその他の活動のための時間を締め出 し、しかもそれによって支払われる消費の多くは、環境に重い犠牲を課しているからである。」(234)
「その[ベーシックインカムの]長所のひとつは、賃労働から独立しているため、どのような仕事にいつ就くかに関して、賃金分布の底辺層にも彼ら独自の「伸 縮性」をいくらかでも与える点にある。[改行] 日本で失業率が減少し続けるならば、やがて労働不足が低賃金層の状況を改善することになろう。しかし、 ベーシック・インカムは適度な最低賃金制度とともに、不平等を減少させることにいっそう貢献し、併せて社会の優先事項が物質的生活水準のみを焦点とするこ とから転換しつつあるという重要な宣言を示すものとなるであろう。」(246)
◇2007.0928 横川信治・伊藤誠 「訳者解説」、『狂奔する資本主義――格差社会から新たな福祉社会へ』、pp.247-255.
・引用
「ベーシック・インカムのような全国民への無条件の給付に必要な財源がどうしたら得られるのかは、そう容易な問題ではない。しかし、次のような計算を試み ることもできよう。[改行] たとえば、付加価値労働生産性の上昇率が年二%の場合、そのうち一%を労働時間の減少に適用すると、一人当たり付加価値生産 量は年約一%増大し(計算式は1.02×0.99 - 1)、これが利潤と賃金として分配される。この所得増のうち半分がベーシック・インカムの原資として課税されるとする。最初はごく控えめなレベルである が、労働時間は毎年一%ずつ減少するのでたとえば二〇年後には約一八%減少し……、個人的な人生の理想実現のために自由になる時間は同量増大する。また、 毎年約一%ずつ増大する付加価値生産量の半分がベーシック・インカムの原資となるので、二〇年後にはベーシック・インカムは付加価値生産量(国民純生産) の約九%を占めるようになる……。[改行] この場合、問題は生産性の上昇を維持していけるかどうかと併せ、平等主義的な生活の安定への政治的支持と合意 が、こうしたベーシック・インカムのプランに確保されてゆくかどうかにある。」(254-5)

◇20070915 杉田俊介 「[非正規雇用問題]労働運動/生存運動」、いちヘルパーの小規模な日常 http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/20070915/p1
・引用
「労働よりも生存(生命)の価値は大きく、重い。現在の労働運動のポイントは、このシンプルなひと言にある。われわれが最も剥奪されているのは、雇用機会 や賃金だけではなく、生存/生命それ自体だから。」

◇2007.0901 牧野久美子 「「南」のベーシック・インカム論の可能性(特集=社会の貧困/貧困の社会)」、『現代思想』、35(11): 156-165.
・目次
はじめに
ポスト・アパルトヘイトの南アフリカの課題:BI論の背景
南アフリカのBIG構想の展開
南アフリカ、ナミビア、ブラジル:「南」のBI構想の共通点
貧困削減の技術としてのBI:「南」のBIの現実味
・引用
 南ア、ナミビア、ブラジルの共通点は、「まず、……低い給付水準のBIが想定されていること……また、BIは究極のゴールとして位置づけられ、条件 つきの社会扶助がそれに向けたステップとして積極的な評価を与えられる点」(161-2)である。
 「これらの国々でBIが議論されている社会背景として共通するのは、一人あたりGDPで判断すれば中所得国に分類されるが、極端な格差を抱え、貧困が大 きな社会問題となっていることである。」(162)

◇2007.0823 山崎元 「ベーシック・インカム」を支持します    http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/df9729ff82024e97dd3447d08d9c5f27

◆2007.0710 広井良典 『持続可能な福祉社会――「もうひとつの日本」の 構想』、ちくま新書
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    内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0607hy.htm

◇2007.0600 白石嘉治 「不安定を保証する――ベーシック・インカムと新しい貧者たちの闘い」、『未来』(未来社)、489: 10-13.
・引用
「『〈帝国〉』の記述に即すならば,もはや資本は工場などの閉域からのみ利潤を引き出すのではない。むしろ資本が社会全体を包摂することによって、「一般 的知性」、つまりわれわれの知的活動の協働そのものが搾取の主要な対象となる。しかも注意すべきは、そうした協働には情動や身体的な次元がともなうことで ある。われわれは語り合うが、同時に愛し合うのであり、そうした営為のすべてが富の源泉となる以上、生存自体に賃金が支払われてしかるべきだろう。資本の 権力が生そのものを捕獲するとき、ベーシック・インカムはそれに対する端的な政治として発動されるのである。」(11)

◇2007.06 野崎泰伸 「生活保護とベーシック・インカム」、『フリーターズフリー』(人文書院)、第1号: 282-292.
    HPへの転載→http://www.arsvi.com/2000/0706ny2.htm
・目次
はじめに
一 思想としての生活保護制度
二 BI論の可能性と限界
三 生のニーズに応え得る生活保護制度へ
終わりに 生活保護制度を活用しよう
・引用
「BIという政策は、「生の無条件の肯定」を、少なくとも理想としては、一見地で行く政策のように思える。しかし私には、BIは理想ではないように思える のである。その理由としては大きく二つある。一つにはスティグマの問題であり、もう一つにはニーズの問題である。」
「 つまり、要援護者に対して調査をしないことで、スティグマ回避のコストを、個々の「生のニーズ」を測らないことに負わせているのである。一律給付は、 給付以上に必要な者への対応を軽視しているのである。」
「ここ[個々人で異なるニーズ問題への対応]で資力調査と同じような調査を行なうとすれば、生活保護へのBI側からの批判が、そのままBI自身にも当ては まってしまうことになる。それは必要最小限に抑え、生活保護のような「大体的な」資力調査ではない、と反論されるかもしれない。しかし、資力調査がスティ グマを生むものであれば、どれほど少人数であっても、実施してはいけないと述べるのが、BI側の筋ではないだろうか。」

◇2007.0525 福間聡 「第11章 福祉国家の原理と課題」、『経済倫理のフロンティア』(柘植ほか著)、ナカニシヤ出版、pp. 146-157.
◇2007.0525 福間聡 「第12章 福祉社会の可能性」、『経済倫理のフロンティア』(柘植ほか著)、ナカニシヤ出版、pp. 158-169.
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◆20070426 萱野稔人ほか編著、『VOL 2』(特集「ベーシック・インカム――ポスト福祉国家における労働と保障」)、以文社.
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◇20070426 山森亮/萱野稔人/酒井隆史/他、「ベーシック・インカムとはなにか」、『Vol』、2: 4-19.
◇20070426 Lazzarato, Maurizio/中倉智徳訳、「所得を保証すること――マルチチュードのための政治[含 訳者解説・「創造と協同の社会」の可能性を発明する――「所得を保証すること」によせて]」、『Vol』、2: 20-28.
◇20070426 Negri, Toni/和泉亮訳、「無条件かつ普遍的な所得保証へ――アンドレ・ゴルツ『現在の貧困、可能なるものの豊さ』をめぐって」、『Vol』、2: 30-36.
◇20070426 Fumagalli, Andrea/Lucarelli, Stefano/木下ちがや訳、「認知資本主義下におけるベーシック・
インカムと対抗権力」、『Vol』、2: 38-51.
◇20070426 矢部史郎、「魂の戦争が始まる」、『Vol』、2: 52-54.
◇20070426 小泉義之/白石嘉治/矢部史郎、「ベーシック・インカムの「向こう側」」、『Vol』、2: 56-65.
◇20070426廣瀬純、「ベーシック・インカムの上下左右――運動なきBIはつまらない」、『Vol』、2: 66-78.
◇20070426 Caille, Alain/ 谷口清彦 訳、「しかるべく20世紀と決着をつけるため」、『Vol』、2: 80-92.
◇20070426 堅田香緒里/ 白石嘉治、「ベーシック・インカムを語ることの喜び」、『Vol』、2: 94-99.
◇20070426 入江公康、「"能動的"賃金、回帰する政治――賃金闘争史をベーシック・インカムに」、 『Vol』、2: 100-107.
◇20070426 小林勇人、「冗談でも、本気ならなおさら、"Don't Kill Me!"――ニューヨークのワークフェア政策の「現実」」、『Vol』、2: 108-115.
◇20070426 宇城輝人、「労働と個人主義――ロベール・カステルの所説によせて」、『Vol』、2: 116-124.
◇20070426 松本麻里、「彼女らが知っていること、知っていたこと」、『Vol』、2: 125-128.

◇20070415 池田信夫 「負の所得税」、池田信夫 blog(旧館)http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/855d2fe7c6f54dda2eeb83eab2e0178e
・引用
「しかし、まさにその効率性が原因で、負の所得税はどこの国でも実施されていない。大量の官僚が職を失うからである。現在の非効率な「福祉国家」では、移 転支出のかなりの部分が官僚の賃金に食われている。それを一掃して負の所得税に一本化すれば、現在の生活保護よりはるかに高い最低所得保障が可能になろ う。フリードマンは、やはりまだ新しい。」

◇2007.0301 松永公隆/潮谷有二、「イギリスにおける障害者の就労支援に関する一研究」、『純心人文研究』、13: 113-151.
・目次
1 はじめに
2 障害者の就労施策の動向
 1)就労政策の概略的枠組み
 2)イギリスの障害者施策の類型について
 3)ジョブセンタープラスと就労不能給付金
 4)障害者のニューディール(NDDP) 
 5)障害者差別禁止法(DDA) 
3 障害者の雇用の実態
4 イギリスにおける障害者の就労支援サービス
5 おわりに

◇2007.0300 小沢修司、「「持続可能な福祉社会」とベーシック・インカム(特集 「福祉と環境」の統合――「持続可能な福祉社会」への理念と政策)」、『公共研究』、3-(4): 46-63.

◇2007.0300 原田康美、「フランスにおける「普遍手当」論――「ベーシック・インカム」論のフランス的コンテクスト」、『東日本国際大学福祉環 境学部研究紀要』、3-(1): 75-91.
・要旨
近年、日本では、「ベーシック・インカム」、フランス語圏では「普遍手当」に関する議論に大きな関心が寄せられている。本稿の第一義的な目的は、フランス 社会におけるこの議論の位置を明らかにし、「普遍手当」構想の有する理論的な射程を検討することにある。そのために、まず、多種多様な「普遍手当」論に共 通する構成要素を取り出して、一般的な定義を行った。そこでは「普遍手当」は、最大公約数的にいうと「すべての人々に無条件で支給される最低限所得保障」 と定義される。次に、CNRSの研究者フィリップ・クィリオンが「普遍手当」の理解のために展開した分類枠組を援用して、各「普遍手当」の位置関係を明確 にした。この分類枠組によると、「普遍手当」論は4つの系譜に分類できる。各系譜は「普遍手当」を正当化するロジックにおいて明確な差異があり、「普遍手 当」の擁護者は、それぞれのロジックにしたがって、「社会の変容」とりわけ「労働の位置」の変容を理解しようとする。「普遍手当」に関しては、擁護論と同 じくらいに批判論ないし反対論があることも事実である。批判論者ないし反対論者は「普遍手当」の実現可能性を疑問視するとともに、「労働と切断された所 得」のもたらす弊害を危惧するのである。
・目次
はじめに
T.フランスにおける「普遍手当」論
U.「普遍手当」の構成要件
 1. 普遍性・無条件性・無代償性
 2. 金銭給付
 3. 個人原則
 4. 十分性
V.「普遍手当」論の分類
 (1)労働市場の規制緩和を受容・是認させる方策としての「普遍手当」論
 (2)非任意的失業・無職者に対応する手段としての「普遍手当」論
 (3)歴史的な不払いを是正・回復するための“正当な所得”としての「普遍手当」論
 (4)社会関係の変革の道具としての「普遍手当」論
おわりに
・引用
「フィリップ・クィリオンは、「普遍手当」論は、A「労働市場への信頼性の有無」に関する軸、B「歴史的射程の長短」に関する軸という2つの軸に基づいて 類型化を試みることが可能であるという。前者の軸にしたがうと、「普遍手当」論は労働市場への信頼性を有している議論と有していない議論とに区別できる。 後者の軸に従うと、「普遍手当」論は歴史の短期的な射程における回答(短期的な失業・雇用対策)としての議論と歴史の長期的な射程における回答(歴史的に 蓄積された富の再分配の手段)としての議論とに区別できる。

◆2007.0223  福間聡 『ロールズのカント的構成主義:理由の倫理学』、勁草書房.
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  内容紹介→http://www.arsvi.com/b2000/0702hs.htm
・目次(第一章第三節 「熟議による民主主義と基礎所得」)
1.3.1 実質的な手続き的正義
1.3.2 三種の正当化の手続き
1.3.3 重なり合う合意と公共的理性
1.3.4 公正性と理由
1.3.5 熟議による民主主義と自尊の社会的基礎
1.3.6 社会的ミニマムとしての基礎所得
1.3.7 余暇と互恵性

◇2007.0000 小野一、「もうひとつの「赤と緑」の実験――社会政策,特にベーシック・インカムをめぐる議論を中心に」、『工学院大学共通課程研 究論叢』、2007: 61-76.
・目次
1. はじめに
2. 80年代緑の党の社会政策――アントニア・ゴールの論文より
 2.1. 社会政策的基本コンセプト
 2.2. 労働時間政策および基礎的所得保障
 2.3. 社会政策的イノベーション政党としての1980年代の緑の党
3. ベーシック・インカム論のSPDへの波及とその限界
 3.1. ベルリン綱領前夜におけるオルタナーティブ思考の高まり
 3.2. ペーター・グロッツによるベーシック・インカム論批判
4. ベーシック・インカム論の到達点と今後の展望

◇2007.0000 實原隆志 「労働と福祉を分離する理論的可能性について」、『長崎国際大学論叢』、7: 143-153.
・目次
はじめに
第1章 雇用環境の変化と社会保障制度の課題
第2章 基本所得論概観
第3章 予備的考察
 (1) 生活保護法の規定とその運用
 (2) 憲法学的課題
  @ 近代憲法における「国民の」義務
  A 日本国憲法上の国民の義務
  B 個別の義務について
 (3) 理論的課題
  @ 外国の理論 
   (1)リベラリズム
   (2)リバタリアニズム
   (3)共同体主義
  A 日本の理論への当てはめ
  B 小括
・引用
「 基本所得論を労働と福祉の分離と捉えた場合、日本国憲法上そのような制度を導入できるのかという問題が生じる。……勤労という憲法上の義務を文字通り に 理解すれば、労働と福祉を分離しようとする基本所得制度の導入は憲法違反となり、憲法改正を主張するのでない限り日本で議論する意味はないということにな る」(146)ように思えるが、「憲法学説では、日本国憲法で規定されている義務は「基本的人権の保障を可能ならしめるた めの公共の福祉の維持」のためのものと説明」(146)さ れているので、「憲法上の義務については、公共の福祉による権利の制限として扱えば十分」(146)で あるかもしれない。
「……、勤労の義務の場合には、その反面として、国民が勤労の義務を果たせるように、国家がそのような労働環境を整える義務が発生する。……、就職環境を 整え られないことによって勤労の義務を果たす前提条件が用意されていないという状況では、雇用政策を講じる義務からさらに一歩進んで勤労と所得を切り離す必要 があると言うことによって、基本所得制度に対する憲法上の問題は解消できるように思われる。」(148)

◇2007.03 樋口也寸志、「テロリストに対する行動の経済学的アプローチ-基本所得はテロを防ぐ政策として有効か?」、『コア・エシックス』 (立命館大学大学院先端総合学術研究科)、3: 421-431.
・要旨
テロリストの行動を経済学モデルで用いて分析する目的は、テロに参加する理由の発見とテロを防ぐヒントを得ることである。分析手法として、効用最大化問題 とBecker (1968) の犯罪の経済分析を用いる。これらの分析手法について、不確実性のケースを想定している。もし基本所得が、不確実性の状況においてオプションとして利用で きるならば、テロリストは基本所得あるいはテロリズムによる不確実な報酬を選ぶのだろうか。基本所得とは、人々が確実に受け取る所得である。しかし、テロ リストは成功したときのみテロリズムに対する報酬を受け取るが、失敗したときに受け取ることはできない。この論文のテーマは、テロリズムの参加を防ぐため のテロ対策を発見すること、そして基本所得が和平戦略の一環として効果的な戦略であるのかどうかを示すことである。
・目次
T. イントロダクション
U. テロリストの効用最大化問題
 U−1.対決戦略と和平戦略
 U−2. スルツキー方程式によるアプローチ
  U−2−1.定義
  U−2−2. スルツキー方程式とテロリストの行動
   1.合成財の価格弾力性とテロリズムの水準
   2.スルツキー方程式
 U−3.結果
V.利潤最大化問題のテロリストの行動への応用
 V−1. テロリストの利潤最大化問題
 V−2.テロリストの期待値
W.期待効用仮説とテロリストの行動−基本所得が存在するとき、テロリストはどのように反応するか?−
 W−1. 基本所得
 W−2. 期待効用仮説
 W‐3.アレの反例
 W−4. 結果
X. 結論
Appendix

◇2007.0000 小野一、「第17回ウトポス研究会報告 現代ベーシック・インカム論の系譜とドイツ政治」、『ロバアト・オウエン協会年報』、32: 101-113.

◇2007.0000 五十嵐守、「階層の「再生産」としての格差と貧困をこえて――ベーシックインカムを考えよう(特集 異議申し立て)」、『現代の理論』、11: 26-33.
   筆者HPに転載→http://mamoru.fool.jp/blog/2007/03/post_85.html
・目次
朝日「ロストジェネレーション」の錯誤
「分岐」は出身階層と密接に結びつく
「新興中間層」と「集団就職層」
学校教育を通じた階層の「再生産」
「横並び階層社会」とベーシックインカム
・引用
「「新興中間個人の「選択の自由」という原理を認める限り、階層間移動の「自由」を保障する「開かれた社会」は無条件に保障されるべきだ。しかし実際には 「自由」や「機会」は一方向のみが重視され奨励されている。「上層」への「移動」という一方向だ。それは私に言わせれば、まだ「閉じられた」社会だ。そう ではなく職業選択(=「階層」選択)に際して、たとえ「下層」を選択しても「上層」と比べて不利にならない社会こそ「開かれた社会」なのだと思う。」
「これに対してBIが構想する社会はこうだ。「努力しない者も報われる社会」。つまり働いているか否か、その経験があるか否かに関わらず、 一律に基本的な所 得を保障するというものだ。いったいどちらが「すぐれた社会」だろうか。私は「努力しない者も報われる社会」のほうがすぐれた社会だと思う。


■2007



◇2006.1229 横井 敏郎、「若者自立支援政策から普遍的シティズンシップヘ : ポストフォーディズムにおける若者の進路と支援実践の展望(<特集>青年の進路選択と教育学の課題)」、『教育學研究』、73-(4): 432-443.
・目次
はじめに――本稿の課題
T.日本の若者自立支援政策の特質
 1.若者自立支援政策の概要と推進方法
  1)「若者自立・挑戦プラン」の施策概要
  2)「若者自立・挑戦プラン」の推進方法
  3)「若者自立・挑戦プラン」の重点の変化
 2.若者自立政策の地域的展開の現実
  1)主要な実施事業――北海道を中心に
   @ジョブカフェ北海道(北海道若年者就職支援センター)
   Aヤングハローワーク札幌
   Bヤングジョブスポットさっぽろ
   C北海道経済産業局の主な若者関連事業
   D北海道労働局の主な若者関連事業
   E北海道庁経済部の主な若者関連事業
   F北海道教育委員会のキャリア教育
  2)政策実施の現実
   @キャリア施策への特化と事業の重複
   A民間企業の進出
   B事業の短期性と評価
   C若者の階層性と若者自立支援政策
  3)若者自立塾と困難を抱える若者たち
 3.ワークフェアとしての若者自立支援政策
U.困難を抱える若者と地域での自律的な支援
 1.NPOによる困難を抱える若者支援
  1)精神障害の若者支援NPOの活動から
  2)引きこもりの若者支援NPOの支援活動から
 2.困難を抱える若者支援実践の視点
V.ワークフェアから普遍的シティズンシップへ
 1.雇用と社会的有用活動
 2.普遍的シティズンシップ
 3.労働の権利と有給雇用の位置づけ
 4.小括
おわりに

◇2006.12 小沢修司、「これからの社会保障とベーシック・インカムの可能性(特集 切り崩される社会保障)」、『経済科学通信』、112: 31-36.

◇2006.12 堅田香緒里/山森亮、「ベーシック・インカム 分類の拒否――「自立支援」ではなく、ベーシック・インカムを(特集=自立を強いられる社会)」、『現代思想』、34-(14): 86-99.
・目次
(1) はじめに:自立支援?
(2) 自立と依存の系譜学
(3) 自立と依存の現代的編成
(4) 現代の自立/依存の線引きと「自立支援」――「自立支援プログラム」を例に
(5) 今日の不平等と貧困の語られ方
(6) われわれの貧しさ――貧困が問題だ!
(7) ベーシック・インカムとは
(8) 夢物語か、それとも当たり前の話か

◇2006.12 菊地英明、「ヨーロッパにおけるベーシック・インカム構想の展開(特集:ベーシック・インカム構想の展開と可能性)」、『海外社会 保障研究』、157: 4-15.
・目次
T はじめに
U BIについての基礎知識
 1. BIの多様性
 2. BIと従来の社会保障・税制との関係
V 市場システムと福祉国家システムの誕生
 1. 生産/賃労働の分断と自己調整的市場
 2. 福祉国家による需要と雇用の創出
W 市場メカニズムの回復のための諸改革
 1. 負の所得税構想とその挫折
 2. ワークフェア改革の席巻と、負の所得税の「復活」
X BIによる、真の生産・労働の回復
 1. 福祉国家の財政危機
 2. システムの生活世界への侵食
 3. 専門家支配への批判
 4. BIによる労働と福祉国家の人間化
  (1) BIによる賃労働時間の短縮
  (2) 自律的活動への従事
 5. BIと義務
  (1) 賃労働の義務づけ
  (2) 社会参加や教育・訓練の義務づけ
Y 福祉国家による環境破壊
 1. 環境保護とBIとの関係
 2. 生産物の循環と地域通貨
Z 我が国の社会保障への示唆
 1. ワークフェアが見落としたものは何か
 2. 社会保障制度・行政組織の再編の可能性
 3. 残された問題点
・引用
「……、グローバル経済の中でBIを導入することによる、経済的競争力の喪失という問題もありうる。この観点から、リピエッツは、「普遍手当は、自由貿易 と は両立しない」と指摘する……。実はこの問題は一国内でも生じうるものであり、アメリカでの負の所得税の審議過程でも指摘され、法案が葬り去られた原因の ひ とつになった経緯がある。保護基準や最低賃金に一定の地域間格差がある以上、この問題は我が国でも無視することはできないだろう。」(13)

◇2006.12 藤森克彦、「イギリスにおける市民年金構想(特集:ベーシック・インカム構想の展開と可能性)」、『海外社会保障研究』、157: 16-28.
はじめに
T 英国における市民年金をめぐる議論の経緯
U なぜ市民年金が求められるのか
 1. 現行の年金制度の問題点
  (1) 子育て・介護などを行う女性に不利な年金制度
  (2) 年金生活者の貧困問題
  (3) 資力調査付き給付の受給者が増加していくことへの懸念
 2. これまでの政府の対応
V NAPFによる「全面的・市民年金」の提案
 1. 「全面的・市民年金」案の内容
 2. 市民年金への移行過程
 3. 財政的な見通し
W 年金委員会による「部分的・市民年金」の提案
 1. 基礎年金の市民年金化
  (1) 長期的な視点からの市民年金構想
  (2) 過渡的な措置としての「カテゴリーD年金」の改正
 2. なぜ「部分的・市民年金」なのか
 3. 財政的な見通し
X 政府による「保険原理の例外措置拡大」の提案
 1. 保険原理の例外措置の拡大
 2. なぜ「市民年金」を導入しないのか
Y 三つの提案の対立軸
 1. 「市民年金案」と「保険原理の例外措置拡大案」の対立軸
 2. 「全面的・市民年金」と「部分的・市民年金」の対立軸
Z 日本への示唆
・引用
「[普遍的な市民年金を採用しなかった英国の]政府の根拠は、以下の六点に整理できる……。 第一に、保険原理のもつ「権利は責任を伴う」という考え方の 重 視であ る。…… 第二に、市民年金の導入にかかる膨大な費用である。…… 第三に、市民年金はどのような設計をしても、人々の間で不公平感を招く恐れがある点 だ。……  第四に、例外措置の拡大のほうが、貧困問題の克服に有効な面がある点だ。…… 第五に、市民年金はシンプルで理解しやすい点が大きな魅力であるが、移行 過 程が複雑なためにその長所が失われてしまう。…… 第六に、居住審査の問題である。」(24-5)

◇2006.12 牧野久美子、「南アフリカにおけるベーシック・インカム論(特集:ベーシック・インカム構想の展開と可能性)」、『海外社会保障研 究』、157: 38-47.
・目次
T はじめに
U 民主化後の社会保障制度の再編:南アフリカにおけるBI導入論の背景
V BI導入論の経緯
W 二つのBI提案:BIG連合と民主同盟
X 結びに代えて:「北」のBI、「南」のBI
・引用
「……、「南」のBI[の水準]は「働かない自由」とは程遠いものであり、貧困軽減(撲滅ではなく)を意図して提案されているのである。[改行] このよ う な「南」の文脈では、BIと従来型の社会扶助との境目はしばしば不明瞭となる。南アフリカとブラジル両国のBI論に共通するのは、究極的には普遍的なBI を志向しつつも、そこに向かうステップとして「北」で批判にさらされてきた従来型の福祉国家の制度、具体的には資産調査つきの社会扶助の意義を否定せず、 むしろその導入をBIに向けた積極的な前進ととらえていることである。……「南」のBI論は、「北」の福祉国家の危機を根拠とする福祉国家批判に対抗する 理 論武装を行いつつ、ナショナル・ミニマムの保障を実現するという意味おいて、新たな福祉国家の樹立を志向するものであるといえる。」(45)

◇2006.12 両角道代、「修正された「ベーシック・インカム」?――スウェーデンにおける「フリーイヤー」の試み(特集:ベーシック・インカム 構想の展開と可能性)」、『海外社会保障研究』、157: 29-37.
・目次
T フリーイヤーの趣旨・目的
U 制度の内容
V 実績
 1. 試行期間
  (1) フリーイヤー取得者について
  (2) 代替雇用者について
  (3) フリーイヤーの効果について
   @取得者
   A代替雇用者
   Bその他
 2. 2005年の実績
  (1) 取得者について
  (2) 代替雇用者について
W フリーイヤーの意義と位置づけ
 1. スウェーデンの雇用と社会保障:「基本的規範パターン」による分析
 2. ベーシック・インカムとフリーイヤー
・引用
「……、フリーイヤーにおける所得保障は、所得比例給付であることを別にしても、決して無条件になされるわけではない……。当該労働者が有償労働を中断す るこ と(他の企業でも就労しないこと)、使用者が失業者を代替雇用することが、活動手当の支給要件である。すなわちフリーイヤーの取得は、当該取得者がまと まった自由な時間を得るというだけでなく、失業者に良質の雇用機会を与えることになるが故に、所得保障を受けるにふさわしい「社会的」行為と見なされてい るとも考えられる。」(36)

◇2006.12 山本克也、「「所得再分配調査」を用いたBasic Incomeの検討(特集:ベーシック・インカム構想の展開と可能性)」、『海外社会保障研究』、157: 48-59.
・目次
T はじめに
U 先行研究と若干の整理
 1. 先行研究
 2. 若干の思想的背景
V 分析データと方法、結果
 1. 分析データ
 2. 分析の方法
 3. 分析結果
W BIは実行可能か
Y おわりに
Appendix

◇2006.1100 清水浩一、「書評 トニー・フィッツパトリック著,武川正吾・菊地英明訳 自由と保障:ベーシック・インカム論争」、『社会福祉学』、 47-(3): 75-77.

◆20061017 ジョン・ケネス・ガルブレイス(Galbraith, John Kenneth)/鈴木哲太郎訳『ゆたかな社会 決定版』、岩波現代文庫.
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・引用
「 今日でも所得の源泉として生産に依存するところが大きいが、この依存を低めるような何らかの方法を見出すことが問題の解決となろう。……第一に必要と される措置は、失業手当の水準を平均週給にもっと近づけ、かつ手当をもらえる期間をもっと長くすることである。念のため繰り返し述べると、その結果サボリ は若干増えるであろうが、それは、犠牲となる生産があまり重要でないという点とにらみあわせてかんがえねばならぬ。その利点は、経済活動が高水準に維持さ れない場合にいちばん犠牲を受ける人びとの不安をかなり軽減させることによって、全く福祉上の理由から経済を高水準の生産・雇用状態に運用しようとする圧 力を小さくすることができる、という点に(351)ある。…… 第二の措置は、今日の経済が職を与えることが著しく困難または不得策であるような人びとに 対して、生産とは無関係に別の収入源を与えることである。……一九六〇年代初期にアメリカの経済学者の間では、失業が需要不足の結果であり、したがって需 要の増加によって救えるものか、あるいはまた、失業が、需要水準とは無関係に、労働力人口の(352)一部が雇用しえないものであることによるところが大 きいか、という点についてはげしい論争がおこなわれた。著名な学者はだいたい需要の決定的な役割を主張する立場をとった。そこでかれらの議論が優勢だっ た。しかし事実は、概して、いわゆる構造論者の味方であった。高水準の需要が高水準の雇用にとって必要な条件であることは認めねばならぬ。しかしそれは完 全雇用の十分な条件ではない。ある程度を越えれば、また資格のある労働者が不足すると考えられる以上、無教育で未経験な黒人労働者を労働力と雇用に引き入 れることは実際的でない……。かれらとともに、ほかにも多数の人びと――家庭の主婦、身体的または精神的な虚弱者など――も、その生産物に対する必要が大 きくなければ、そもそも労働市場に入るべきではないのだ。」(351-3)
「 ゆたかな社会は、同時にまた同情心と合理性をもっていさえすれば、品位と慰安に必要な最小限の所得を、必要とする人に与えることができる筈である。不 労所得は人心を堕落させるといわれているが、それは、飢餓と窮乏が人格の陶冶に役立つというのと同様に、誇張であることは疑いない。……貧困な社会は、働 かざるもの食うべからずというルールを施行せざるをえなかった。そしてまた、働けない者や労働能率が平均よりもはるかに悪い者に対してまでこのルールを適 用したとしても、その加重された残酷さは正当化することができたであろう。ゆたかな社会はこうした厳格さを同じように弁護することはできない。困窮者に所 得を与えるという端的な救済策を用いることができるからである。ゆたかな社会は同情的である必要はないが、(381)冷酷さを正当化すべき高尚な哲学的理 由もなくなっているのだ。」(381-2)
「……、経済によって要求される制度としての労働を除去することこそ、われわれが直面している最大の期待であり、また今やわれわれの社会の中心的な経済的 目標の一つとして数えられるべきことである。これは空想ではない。われわれはこの方向に向かってかなり進んでいるのだ。すでに起こっていることをかくして いるのは、社会的なカムフラージュがじつに巧妙に仕組まれているからにほからなない。」(394)

◇2006.1000 堅田香緒里 「働かざる者食うべからず?――ベーシック・インカムという構想(KOIZUMI vs. U-40)」、『論座』、137: 94-99.

◆2006.0913 橘木俊詔/浦川邦夫、『日本の貧困研究』、東京大学出版会
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◇2006.0913 橘木俊詔/浦川邦夫、「第8章 社会的排除と ベーシック・インカム構想」、『日本の貧困研究』、pp. 281-305.

◇2006.0809 稲葉振一郎、「(ブログ解読)働くことが引き合うか 稲葉振一郎」、『朝日新聞』 夕刊、012.
・引用
「ただ、実行可能性という点では「ベーシック・インカム」に、ぼくは悲観的である。濱口のアイデアはその点リアリティーがある。」

◇2006.0801 立岩真也、「家族・性・市場(第11回)撤退 そして基本所得という案」、『現代思想』、34(9): 8-20.

◆2006.0715 シャンタル・ムフ(Chantal Moffe)/葛西弘隆訳 『民主主義の逆説』、以文社.
amazon] /[bk1
・引用
「こうした[雇用の]二極化と闘うために、一連の基準が提起されており、それは大きくいって次の三つの論点にまとめることができるだろう……。[改行]  1 合法的で効果的な労働時間の削減、および給与労働者間の積極的な再分配の政治。[改行] 2 アソシエーションによる数々の非営利活動の大きな発展の ための助成。私的経済、公的経済に相互作用し、純粋市場経済とは異なる、真に複数主義的な経済の発生に寄与する。[改行] 3 無条件の最低収入(ベー シック・インカム)の配分によって、最貧困層と社会から排除された層のスティグマ化を終焉させること。最低(所得)水準に満たない者も、また他の収入、年 齢、性別、夫婦の地位を問わない。いずれの場合も、このベーシック・インカムは補助的資金に加えて支給されるもので、その代替ではない。[改行] これら の基準は複数主義的な経済の醸成に貢献し、市場セクターや国家セクターとともに、アソシエーションのセクターが重要な役割を果たすことになるだろう。市場 の論理によって切り捨てられた重要な社会事業の多くの活動が、公的資金をつうじて、この連帯に基づく経済において遂行されるだろう。このイニシアティブの 成功の条件は、もちろん第三の基準、すなわち誰にとってもふさわしい最低ラインを保障する市民所得の実現にある。こうした所得について新たな様式を構想す ることは、明らかに、労働によって福祉国家をおきかえるよりはるかによいアプローチであるだろう。[改行] これらがともに実行されるとき、三つの基準 は、新自由主義にたいするポスト社会民主主義的な解答の基礎を創出することができるだろう。もちろん、この解答はヨーロッパ(全体)の文脈でのみ成功する 可能性があるもので、だからこそ、今日の左翼プロジェクトはヨーロッパ(全体)のプロジェクトだけなのである。」(190-192)

◇2006.03 齊藤拓 「ベーシックインカムとベーシックキャピ タル」、『コア・エシックス』、2: 115-128.
PDF
・目次
はじめに
1. BIvs.BC論争:A&A対パライス
 1.1 A&A提案
 1.2 A&Aの主張
2. 資産ベース福祉(ABW)の評価
 2.1 ABWへの批判
 2.2 ABW推進者の主張
  (1)政策転換の動機は社会的包摂にある
  (2)資産は単なる所得のストックではない  (3)所得ベース政策の難点
  (4)マクロ経済政策としての資産ベースの福祉
3. A&A-パライス論争
 3.1 A&A提案の背景:共和主義とアメリカ
 3.2 それでもBIを擁護するとしたら……
  3.2.1 社会的流動性
  3.2.2 反パターナリズム:リベラルと中立性
  3.2.3 リベラルの「中立性」
結び:普遍的給付
・引用
「 BI論議のテーマは、80年代後半から90年代半ばごろまでの政治哲学を基盤とする規範的BI論から、90年代終盤には具体的制度設計へと移ってき た.その過程で、「より公正な機会の配分を!」という抽象的表題の下に纏まりを見せていたBI擁護論者たちが具体案を巡って分裂を呈し、言わば総論賛成各 論反対の状況を現出させた。中でも注目されるのは、Van Parijs[1995]のBI案にAckerman and Alstott(A&A)[1999]のステークホルダーグラントと呼ばれる案を対置した「ベーシックインカム(BI)か、ベーシックキャピタル (BC)か」という対立軸の設定である。従来のBI論壇内部では所得再分配と資産再分配が対立的に語られることはなく、資産志向のトマス・ペインと所得志 向のトマス・モアをともにBI的アイデアの思想的淵源として語ってきた。しかし、具体的な制度設計が論じられる中で、BIとBCという制度的形態の違い は、その実行において我々の社会では無視することのできない帰結の相違をもたらすと強調されるようになった。本稿では、両者の論争を紹介するとともに、資 産ベース福祉(ABW)推進論者たちの知見を踏まえて、論争の評価を行う。」(115)

◇2006.03 齊藤拓 「研究ノート 福祉国家改革の一方向性: 各国に見る資産ベース福祉への移行」、『Core Ethics』、Vol.2: 259-270. →PDF
・目次
1. はじめに
2. 資産ベース政策の現在
 2.1 米国
  対象を限定した資産政策――IDA
  IDAの評価
  普遍的な資産政策――KidSave
 2.2 英国
  ブレアの新機軸:「資産ベースの福祉」へ
  これまでの資産政策
  チャイルド・トラスト・ファンド(CTF)
  Saving Gateway (SG:貯蓄の入り口)
  英国のこれから
 2.3 その他諸国
3. 「資産ベース政策」の現実:米国を中心に
 オーナーシップ社会
 「オーナーシップ社会」的な資産ベース政策の背景
4. 結びに代えて
・要旨
「現在、福祉国家改革の一つの方向性として、「資産ベース福祉(Asset-Based Welfare: ABW)」が注目されている。ここでいう「資産ベース福祉」とは、勤労者や貧困者に適格要件を限定した財産形成・資産蓄積プログラム一般を指す。これに対 して、貧困者のみに限定しないが、これまでの福祉国家政策プログラムを部分的に代替する目的を持ち、原則としては適格要件を問わない資産蓄積支援政策を 「資産ベース政策」と呼ぶ。本稿では、世界的に広がりつつあるABWの具体的動向を紹介することを目的とする。その意図は、現在、政治経済学で注目されて いる、資産ベース政策対所得ベース政策の論争――換言すれば、筆者が別稿で紹介するベーシックインカム(BI)対ベーシックキャピタル(BC)論争――の イ ンプリケーションを現実の福祉国家改革の文脈において確認することにある。BI-BC論争の概要は次の通りである。Van Parijs [1995]が無条件の所得を万人に一律で支給せよとしたのに対して、Ackerman & Alstott [1999]は21歳を迎えるすべての米国市民に80、000ドルのステークと呼ばれる一括給付金を与えよと提案した。その理由は、彼ら (Ackerman & Alstott)の提案(BC)が実行可能性、政策効果、規範的正当性のすべてにおいてパライスの提案するBIに優るというものであった。 Ackerman & Alstottの具体的な提案内容はABWを推進する論者たちと重なるところが多い。以下では、英米に焦点をあて、具体的なABW政策ができるまでの経 緯、政策の具体的内容、政策がもたらした効果や影響に関して可能な限り詳細に検討していきたい。」(259)

◇2006.0000 小野一 「書評 Yannick Vanderborght/Philippe van Parijs: Ein Grundeinkommen fur alle? Geschichte und Zukunft eines radikalen Vorschlags (ベーシック・インカム論の到達点を示した入門書)」、『ロバアト・オウエン協会年報』、31: 144-152.

◇2006.0000 堅田香緒里 「すべてのひとに無条件で――ベーシック・インカム研究会という実践(特集 接続せよ! 研究機械)」、『インパクション』、153: 44-47.

◇2006.0000 金子充 「<なまけもの>の豊かな生を約束する――自由と連帯の福祉構想」、『人間の福祉』(立正大学社会福祉学 部)、19: 113-124.


■2006



◇2005.1001 堅田香緒里 「基本所得の構想――分け前なき者の分け前を登録すること(特集 フリーター、ニート――階級闘争の焦点)」、『状況第三期』、6(9): 148-161.
・目次
一 はじめに
二 脱工業化社会におけるインセキュリティな生の存在
三 インセキュリティな生をめぐる問題構成
四 セキュリティの含意/配置/再編
 四-一 セキュリティの含意
 四-二 セキュリティの配置
 四-三 セキュリティの再編
五 基本所得――「怠け者」のまま生を全うする自由を保障すること
 五-一 基本所得とは何か――内容/特徴/志向性
 五-二 基本所得のひとつの正当化――「怠け者」の生を保障することをめぐって
 五-三 基本所得の先にあるもの――その可能性と留保
六 おわりに

◇20050703 佐々木弾 「自由と保障、国民一律支給の所得、是非問う――トニー・フィッツパトリック著(読書)」、『日本経済新聞』、朝刊、25 ページ.
・引用
「この種の書物としては異例とも言えるほど価値自由で、著者自身による結論や政策提言は殆(ほとんど)どない。貧困という古くて新しい社会問題の難しさを 科学的事実として直視し、それに関する様々な政治的「視点」を知るには格好の一冊だ。
 半面、問題を経済的に「分析」し「解決」したい人には更に別の教科書が併せて必要になろう。例えば消費性向の高い低所得層への所得移転が消費拡大による 経済成長をもたらすという、社会保障制度の非常に好ましい副産物についての経済分析は、全編を通じ手薄だ。
 また、一般にBIのような「不労所得」が勤労意欲に与える影響は、純然たる経済の問題であり、政治の問題ではない。受給者の選好、つまり代替効果と所得 効果の関係や、余暇が「上級財」かどうか等により客観的事実として実証可能な筈(はず)である。」

◆2005.0525 トニー・フィッツパトリック(Fitzpatrick, Tony)/武川正吾・菊地英明(訳) 『自由と保障―ベーシック・インカム論争』、勁草書房
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◇2005.0509 広井良典 「21世紀と資本主義、新しい福祉社会(5)千葉大学教授広井良典氏(やさしい経済学)」、『日本経済新聞』、朝刊 22ページ.
・引用
「今必要なのは、労働生産性の上昇は(賃)労働時間の削減にまわし、むしろ余暇を含め賃労働以外の時間への「時間の再分配」を行うという発想転換と政策支 援である。慢性的なモノ余りが一般化する定常型社会では、労働時間削減は失業率の低下にも寄与する「社会的善」といえる。また賃労働以外の時間は、前に述 べたコミュニティー・環境活動などを通じ「市場経済を超える領域」の発展を促す。」

◇2005.0503 広井良典 「21世紀と資本主義、新しい福祉社会(2)千葉大学教授広井良典氏(やさしい経済学)」、『日本経済新聞」 朝刊, 27ページ.
・引用
「このように、平時において「個人のチャンスの平等」ということを実現するためには、「資産面での再分配」や、教育を含めた「人生前半における社会保障」 の強化といったことが課題になる。逆に、事後的な所得再分配については年金などをスリム化し、後で述べるベーシックインカム(基礎所得保障)などに一元 化・簡素化してよい。こうして全体として事後的な所得再分配から事前的な分配へ、あるいは「フロー(所得)の再分配」から「ストック(資産)の再分配」に 重点を置いた社会保障へ、という新たな方向が浮かび上がるのである。」

◇2005.0400 宮本太郎 「ソーシャル・アクティベーション ――自立困難な時代の福祉転換」、『NIRA政策研究』、18(4): 14-22.
・目次
はじめに
1. 社会的包摂への異なったアプローチ
 ワークフェア
 アクティベーション
 ベーシックインカム
 アプローチの比較
2. 若年層等自立支援の新しいアプローチ
 ステークホルダー・グラント
 修正型ベーシックインカム
むすびにかえて――ソーシャル・アクティベーションへ
・引用
「 ここでは、労働市場の外部への一時的滞留を保障する政策と連携したアクティベーション政策を、ソーシャル・アクティベーションと呼ぶことにしたい。 ソーシャル・アクティベーションは、労働市場の外で能力形成を図る可能性を拡大する。従来のアクティベーション政策も、……市民が必要に応じて労働市場 を離脱することを可能にする仕組みであった。しかしながら、こうした権利は、少なくとも実質的な水準の保障を受けるためには、市民が労働市場のなかにある 必要があった。これに対して新たに、労働市場参加から切り離された所得保障と能力開発支援政策が求められているのである。」(21)

◆20050325 アミタイ・エツィオーニ/小林正弥訳 『ネクスト――善き社会 へ の道』、麗澤大学出版会.
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・引用
「すべての人を目的として扱うことの中核的な含意の一つは、各人の行いにかかわらず、皆が豊かなベーシックミニマム〔基本的最低生活水準〕に値するという ことである。端的に、人であれ(99)ば誰でも、少なくとも、住居、衣服、食物、基本的な保健医療が保障される。反社会的な行動をとる人や、社会的責任を とらない人々に対しても――それが両親のせいか、「システム」のせいか、生い立ちのせいか、性格的な欠点のせいか、いずれであろうとも――私たちが囚人、 戦争捕虜、そしてペットにも提供している、基本的な生活必需品の提供を拒否すべきではない。[改行] ベーシックミニマムの提供は、仕事があって働ける限 り、大部分の人々の労働意欲をそぐことはない。一部の人がシステムを悪用することがあっても、善き社会ではそれを、皆の基本的な人間性を肯定するための、 小さな代償と考えるべきだ。」(99-100)
「……、現金の支給は、国家が提供する(もしくは民間慈善事業が提供する)包括的施策の中に必ずしも入れる必要がない。」(101)

◇2005.0300 小沢修司 「「市民労働」とベーシック・イン カム――多様な働き方による豊かな福祉社会へ」、『月刊自治研』、47: 27-34.
・目次
はじめに
一、「多様な働き方」をめぐって
 (1)政策課題としての「多様な働き方」
 (2)二極化した働き方の中間形態
二、コミュニティ・ビジネスと「ボーモルのコスト病」
 (1)コミュニティ・ビジネスでは生活の糧は得られない
 (2)社会サービスのコスト病
三、ベーシック・インカムが開く豊かな福祉社会

◇2005.0000 小沢修司 「報告2 ベーシック・インカム構想にみる「就労」と「福祉」の転換(特集 福祉社会フォーラム ワークフェア社会を巡って――『就労』と『福祉』の転換と交錯)」、 『福祉社会研究』(京都府立大学福祉社会学部)、6: 11-19.
・目次
はじめに
1. BI構想とは
2. 日本におけるBI論議の展開
3. BI構想への関心の広がりは何を意味するのか
4. ワークフェア社会における「就労」と「福祉」の行方
おわりに

◇2005.0000 宮本太郎 「報告1 社会的包摂の政治学〜 ワークフェアと対抗構想〜(特集 福祉社会フォーラム ワークフェア社会を巡って――『就労』と『福祉』の転換と交錯)」、 『福祉社会研究』(京都府立大学福祉社会学部)、6: 2-9.
・目次
はじめに 日本型ワークフェアの展開
1. 20世紀型福祉国家の構造
2. 「社会的包摂中心、ニーズ表出型」への転換
3. 「社会的包摂中心、ニーズ表出型」の多義性
むすびにかえて


■2005



◇2004.1115 宮本太郎 「福祉政策再編とジェンダー平等 ワーカーズ・コレクティブの意義」、『社会運動』、Vol. 296: 2-13.
・目次
1. ジェンダー平等と多様な福祉政策
2. 有償労働支援、無償労働支援と福祉政策
3. 各国の福祉政策と有償労働、無償労働支援
 有償労働、無償労働支援の優等生、スウェーデン
 有償労働支援のアメリカ
 ジェンダー拘束的評価のドイツ
4. 福祉政策再編の動向と現状
 社会の変化と「退避空間確保型」福祉政策の限界
 「活動空間形成型」の新しい福祉理念
 欧州福祉政策の転換
 各国福祉国家の対応とその問題性
5. 日本の現状
6. ワーカーズ・コレクティブの可能性 
・引用
「……、スウェーデンでは実際に実験的にではありますが、導入されています。12の自治体で、1年間、失業保険の85%(失業保険は従前の所得の80% ですから、80×85%で大体70%弱)を、とにかく何もしていなくても1年間所得保障しましょうというものです。エーテボリとかルーレオとか、かなり大 きな自治体で実験していますが、概ねうまくいっています。遊びほうけている人とかあまり出てこなくて、やっぱりそれに申請した人たちは大学に行きなおした りとか、介護に時間を費やしているというような調査結果が出てきたいるのです。そういう意味では夢物語ではなくて、2005年に1度実験の総括をして、ポ ジティブな評価が得られれば正式に全国的に導入しようという形になっているわけです。」(12)

◇2004.1100 田村哲樹 「熟議民主主義とベーシック・インカム――福祉国家「以後」における「公共性」という観点から」(特集 脱国境化時代における社会形成理念:公共性の可能性――公平・福祉・効率性をめぐる法学・政治学・経済学の対話)、『早稲田政治経済学雑誌』、357: 38-62.
・目次
1. 「公共性」をどのように理解すべきか?
 1.1. 公共性」を領域的に捉えることへの疑義
 1.2. 公・私の連続的理解への疑義
 1.3. 反本質主義的な公共性理解への疑義
 1.4. 本稿における「公共性」定義
2. なぜ、福祉国家「以後」でなければならないのか?
 2.1. 福祉国家の定義
 2.2. なぜ、福祉国家「以後」なのか?@:実証研究の知見
 2.3. なぜ、福祉国家「以後」なのか?A:社会理論的視座
 2.4. なぜ、福祉国家「以後」なのか?B:規範理論的視座
3. 福祉国家「以後」のデモクラシー――熟議民主主義と「公共性」
 3.1. 福祉国家におけるデモクラシー:デモクラシーの集計モデル
 3.2. 福祉国家「以後」のデモクラシー:熟議民主主義
 3.3. なぜ、熟議民主主義なのか?
 3.4. 熟議民主主義における「公共性」生成可能性
4. 福祉国家「以後」の福祉――ベーシック・インカムと「公共性」の生成可能性
 4.1. ワークフェアとベーシック・インカム
 4.2. ワークフェアとベーシック・インカムの正当化原理
 4.3. ベーシック・インカムと福祉国家の「共同性」の超越
 4.4. ベーシック・インカムによる「公共性」生成可能性への疑問
 4.5. ベーシック・インカム批判へのさまざまな応答――互恵性概念を中心に
  (1) 他の原理・制度との接合
  (2) 互恵性原理内在的なベーシック・インカム擁護 
  (3) ベーシックインカム支持への「選好の変容」の促進
 4.6. 小括――ベーシック・インカムは「公共性」生成のポテンシャルを持つのか?
おわりに
・引用
「……、本稿における「公共性」の定義を、以下のようなものとして定義したい。第1に、……、公・私の連続説は採用せず、両者の質的区別を認める立場を採 る。  第2に、その際の公・私の区別を、「領域」ではなく、個人の思考、行動様式の相違として考える。…… 第3に、「公共性」の内容としては、異質な他者と の 関係への志向性を重視する。…… 最後に、本稿では、このような「公共性」が、社会システムの「制御メディア」であると同時に「道徳的資源」でもある、と い う視点を重視する。」(41)
「ここでの考察からすれば、それ[福祉国家「以後」の連帯]は、「組織された男性の賃金労働者/一家の稼ぎ手」を前提としないような「連帯」であり、国家 の主体化/従属化の権力を前提としない(または極小化し得る)「連帯」ということになる。そのような「連帯」こそ、諸個人の「公共性」にもとづく「連帯」 であろう。」(45)
「……、本稿で述べ得ることは、ベーシック・インカムは(私的に止まるかもしれない)自由を確保することによって、「公共性」生成の潜在的可能性をもたら す、ということに止まる。」(55)

◇2004.1011 週刊社会保障 「展望 ベーシック・インカムという発想」、 『週刊社会保障』、 58(2303): 39.

◇2004.1000 山森亮 「基本所得と福祉国家――Philippe Van Parijsの自由論を中心に(特集1 福祉国家と厚生経済学)」、『経済セミナー』、597: 34-38.
・目次
1 福祉国家の規範理論
2 基本所得とは何か
3 リバタリアニズムと自由
4 労働とリベラリズムの中立性

◇2004.1000 吉原直毅 「「福祉国家」政策の 規範的経済原理――その可能性についての一試論」、『経済セミ ナー』、597: 28-33.
・目次 
1 はじめに
2 伝統的な厚生経済学の限界
3 厚生主義的限界を超克する「社会的厚生関数」の議論の必要性
4 「社会的厚生関数」によって同定された政策体系の実現問題
5 結びに代えて
・引用
「……、政治学者や哲学者のシンパシティックな評価であれ、新古典派経済学者の批判的見解であれ、それらは「基本所得」政策の、また「ワークフェア」政策 に 関しても同様に、経済的資源配分メカニズムとしての特性に関する理論的解明に基づいてこそ、初めて実りある論争をもたらすことができるであろう……。 「ワー クフェア」か「基本所得」であるかといった論戦は、まさに経済理論的な議論の裏づけを、とりわけ規範的かつ誘因両立的な観点からの資源配分メカニズム分析 によるそれをこそ必要とするからである。」(29)

◇2004.0700 後藤玲子/吉原直毅 「「基本所得」政策の規範的経済理論――「福祉国家」政策の厚生経済学序説」、『経済研究』、55(3): 230-244.
・要約
本稿の目的は、「福祉国家」の有り方を巡る近年の論争において提起されている「基本所得」政策の、資源配分メカニズムとしての規範的特性を明らかにする事 である。最初に、「基本所得」政策の代表的提唱者であるヴァン・パレース(Van Parijs [1995])に依拠しつつ、「基本所得」制構想の規範理論的基礎付けを与える「リアル・リバータリアン」論を紹介し、それによって明らかにされた「基本 所得」政策が満たすべき規範的基準を、公理的資源配分理論の枠組みにおいて定式化する。さらに、「基本所得」政策と整合的な資源配分ルールの理論的構成可 能性を探求する。そのようなルールは、労働スキルの格差のない経済環境では、均等便益解として特徴付けられる一方、スキル格差のある経済環境では「非支配 的多様性」条件を満たすいくつかのパレート効率的配分ルールについて紹介・分析される。
・目次
1. はじめに
2.「基本所得」政策の規範理論的基礎付け
 2.1. 「実質的自由の全構成員への最大限保証」としての「公正な社会」論
 2.2. 「実質的自由の全構成員への最大限保証」の制度的保証としての「基本所得」制度
3.「基本所得」制の資源配分メカニズム:ファースト・ベスト・アプローチ
 3.1. 内的資源の格差が無い社会の下での「基本所得」制度による資源配分
 3.2. 内的資源に個人間格差がある場合の「基本所得」制度による資源配分
4.結びに代えて

◇2004.0700 福士正博 「基本所得の意義――エコロジーの視点から」、『歴史と経済』、46(4): 19-33.(福士2009 『完全従事社会の可能性 : 仕事と福祉の新構想』に収録)
・目次
T 課題
U 基本所得構想と自由主義
 1 基本所得の定義
 2 基本所得構想の目的――「万人のための真の自由」
 3 基本所得構想の根拠――雇用レント論
V 基本所得構想の社会的背景と論理構造
 1 基本所得構想の社会的背景
  (1) 社会的排除
 2 基本所得の論理構造
  @デカップリング
  Aリカップリング
 3 完全従事社会
W コミュニタリアニズムの基本所得構想
 1 コミュニタリアニズムの基本的立場――共通善の形成
  @共通善は共通の利益から生じる
  Aこの状況が共通利益を生み出す
  Bすべての者が共通善のために協力する
  C特別の能力をもつ者が中心的役割を果たす
  D特別のニーズをもつ者には特別の配慮が必要となる
  E既存の関係が認められる
  F全ての者は全ての者に対する善ために責任を持つ
  G誰もが意思に反した行動を強制されない
 2 共通善の形成の場所 
 3 共通善の構成要素
  @ニーズ
  Aシチズンシップと義務・責任観念
 4 参加所得
X エコロジーと基本所得
 1 「緑の党」と基本所得
 2 完全従事社会と福祉のエコロジカル・モデル
 3 税制のグリーン化と段階的実施
・引用
「 基本所得の目的を考える上で、有給雇用と所得を切り離すデカップリングと、仕事と所得を結合させるリカップリングを区別しておくことは決定的に重要で ある。……自由主義的基本所得論の欠点は、デカップリングの段階に止まり、次の段階へ踏み出そうとしない(踏み出せない)ことにある。デカップリングの段 階 に止まろうとしている自由主義と、それをさらにリカップリングの段階にまで発展させようとしているコミュニタリアニズムとエコロジーの違いはそこにあ る。」(23)
「 完全従事社会をこれまで理論的かつ体系的に追求してきたのは、コーリン・ウィリアムズやウィンデバンクであった。彼らによると、完全従事社会とは「市 民に基本的な物質的ニーズと創造的可能性の双方を満足する手段を提供することができるように、仕事(雇用と自助との両方)と所得の十分な確保が行われてい る社会」(Williams, Colin C. and Windebank, Jan 1999 A Helping Hand, p. 21)と定義されている……。」(24)
「……、「善が正より優先する」ことが求められているということ……は諸個人の権利が重要ではないということではない。権利の前提に善がなければならない とい うことである。コミュニタリアンにとって問題なのは、共通善がどのようにして形成されるのかという点にある。諸個人が私益を求めて活動している社会ではた して、効率的で、民主的で、調和した善の社会を建設することなど可能なのだろうか。」(25)
「問題はそうした普遍的目標[普遍的ニーズ]を誰が、どのように決定できるかということにある。その答えは、合意形成の場所としてのコミュニティにあ る。」
「……、社会貢献の内容は本来、市民相互の交換行為やコミュニケーションによって形成されていくものである。多様な活動社会である完全従事社会は、こうし た 過程を経て、市民が行う活動の内容を充実させていくことになる。参加所得は、その活動の中から、社会的貢献に値するものを選んでいくことになる。」 (28)
「[エコロジストのBI論は]……、自然資源の共有や、完全従事社会に見られるような社会的経済論と、基本所得構想に具体化されているような富の再分配と を いったいのものと考えようとしている……。」(31)

◇2004.0600 武川正吾/宮本太郎/小沢修司/菊池英明(編集) 「座談会 ワークフェアとベーシックインカム:福祉国家における新しい対立軸 (特集:ワークフェアの概念と実践)」、『海外社会保障研究』、147: 3-18.
・目次
T はじめに――座談会の趣旨
U ワークフェアとは何か
 ワークフェア概念の沿革
 アメリカにおけるワークフェア
 ワークファーストモデルvs.サービスインテンシブモデル
 北欧における「ワークフェア」
 社会的包摂とワークフェア、アクティベーション、ベーシック・インカム
V ベーシック・インカムとは何か
 ベーシックインカム構想の概要
 労働・家族・環境
W ベーシック・インカムをめぐる問題
 政治的合意の獲得
 フリーライダー問題
 ベーシック・インカムと市民権
 公的社会保障の空洞化
X ワークフェアをめぐる問題
 ジェンダーと環境
 脱商品化概念との関係
 ワークフェアとベーシック・インカムの収斂
Y 日本の社会保障制度への提言
 ワークフェアと社会保障
 ベーシック・インカムと社会保障

◇2004.0600 宮本太郎 「ワークフェア改革とその対案 新しい連携へ?(特集:ワークフェアの概念と実践)」、『海外社会保障研究』、147: 29-40.
・目次
1 背景
2 ワークフェア改革の展開
 2-1 ワークフェア改革の先駆:アメリカ
 2-2 サッチャー改革と「第三の道」:イギリス
 2-3 ワークラインとアクティベーション
3 非ワークフェア型所得保障の新機軸
 3-1 ベーシックインカムと互酬性をめぐる陥穽
 3-2 非ワークフェア型所得保障の新しい構想
  修正型ベーシックインカム
  ステークホルダー・グラント
4 おわりに

◇2004.0331 小沢修司 「ベーシック・インカム構想と新しい社会政策の可能性」、社会政策学会編『新しい社会政策の構想――20世紀的伝統を問 う――』(社会政策学会誌第11号)、pp.18-31.
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・目次
はじめに
1 BI構想とは
 (1)BIは、税制度と社会保障制度を統合する最低限所得保障の構想
 (2)BI論の系譜と展開
2 20世紀型「福祉国家」の見直しとBI構想新展開の意味
 (1)「貧困の再発見」と社会保障制度の改革課題
 (2)21世紀の福祉改革
3 20世紀的前提(「労働」「家族」「環境」)を越えて
おわりに

◇20040330 山森亮、「第7章 連帯・排除・政策構想――基本所得を巡って――」、齋藤純一(編著)『講座・福祉国家のゆくえ第5巻 福祉国家/ 社会的連帯の理由』、ミネルヴァ書房、pp. 219-240.
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◇2004.0325 西岡正義 「最低限所得保障(Basic Income Guarantee)について」、『創発』(大阪健康福祉短期大学)、2: 11-20.
・目次
1. はじめに
2. ベーシック・インカム(最低限所得)とはなにか
3. フランスでRMIが構想された背景
4. 戦後「福祉国家」とベーシック・インカム構想
 (1) 負の所得税
 (2) 参加(型)所得
 (3) ワークフェア
5. 最低限所得保障はコストがかかりすぎるか?
6. ベーシック・インカムはわが国で実現できるか
7. まとめ

◇2004.0309  広井良典  「社会保障一体改革と国民負担(中)千葉大学教授広井良典氏(経済教室)」、『日本経済新聞』、朝刊、 29ページ.

◇2004.0200 広井良典 「持続可能な福祉国家 /福祉社会」の構想――定常経済における社会保障とは」、『月刊自治 研』、 46: 53-61.
・目次.
はじめに
「定常型社会」という発想
社会保障の価値原理――機会の平等と潜在的自由
社会保障改革の基本的な理念と方向
社会保障の新しい課題と対応

◇2004.0200 小沢修司 「ベーシック・インカム構想からの思考――日本における導入の姿とその効果」、『月刊自治研』、46: 30-40.
・目次
はじめに
一、 ベーシック・インカム構想とは
 (1) 「万人の真の自由」を保障する最低限所得保障構想
 (2) 「福祉国家」の矛盾とBI構想の登場
二、 BI構想の変形バージョン――負の所得税と参加所得
 (1) 負の所得税の場合
 (2) 参加所得の場合
三、 日本における導入を考える
四、 ベーシック・インカム導入の効果
おわりに
・引用
BI導入の効果とは、「 第一に、万人へのセーフティネットを無条件に保障することである。…… 第二に、賃金収入に依存して生活を維持させるという「生 業 絶対主義の労働社会」からの脱却をすすめることによって、……労働の尊厳を取り戻し、多様な人間労働の価値を尊重する社会を築いていく効果……。 ……  第三 に、男性の肩に「稼ぎ手」である重荷と女性の肩に「専業主婦」であり扶養される存在としての烙印を押し付ける性別分業固定型の家族イデオロギーから個々人 を解き放つ効果……。…… 第四に、労働時間の短縮とワークシェアリングを効果的に押し進め、ゆとりある生活を実現する効果がある。…… 第五に、労働市 場への 柔軟性を高める効果である。…… 第六は、個人所得課税における所得控除をなくし、税制と社会保障制度の間にある複雑で錯綜したシステムを簡素化・合理化 し て統合する効果である。」(37-9)

◇2004.0200 都留民子 「フランスの参入最低限所得(RMI)をめぐる論議(特集 所得保障と社会的統合――社会的統合とベーシックインカム)」、『月刊自治研』、46: 41-52.
・目次
はじめに
一、 RMI制度についての若干の解説
二、 「RMI改正とRMA創設法」の主要な内容
 (1) RMAの創設
 (2) RMIの改正(地方分権化)
三、 「RMI改正とRMA創設法」の背景と、法を支えるイデー
 (1) 失業対策の方向転換と失業保障の後退
 (2) 新自由主義イデー
四、 「RMI改正とRMA創設法」の障害――失業者団体の最低限所 得保障論
 (1) 不安定・低賃金雇用を拒否するための所得
 (2) 雇用確保ではなく、失業をポジティブな状況にすべき
さいごに

◇2004.0200 宮本太郎 「社会的包摂への三つのアプローチ――福祉国家と所得保障の再編 (特集 所得保障と社会的統合――社会的統合とベー シックインカム)」、『月刊自治 研』, 46: 20-29.
・目次
一、 社会的排除と社会的包摂
二、 ワークフェア
三、 アクティベーション
四、 ベーシックインカム
五、 戦略間の緊張と収斂
六、 日本への示唆

◇2004.0112 週刊社会保障 「書評「福祉社会と社会保障改革――ベーシックインカム構想の新地平」小沢修司著」、『週刊社会保障』、58 (2266): 30.


■2004



◇2003.1200 小沢修司、「労働と生活の変容とベーシック・インカム構想」、『経済科学通信』、103: 19-26.
・目次
はじめに
T 今日に労働と生活の変容
U 「個人化」とウルリヒ・ベックの「危険社会」論
 @ 「伝統社会」の制約からの脱却と「福祉国家」による「個人化」の進展
 A 完全就業システムから部分就業システムへ
 B 男女関係、家族関係の「個人化」と資本主義社会の構造的「矛盾」
V いまなぜBI構想が注目されているか?
 @ 「労働」「家族」「環境」の変容への応答
 A BIへの懸念について〜なぜ労働と所得を切り離すのか〜
おわりに

◇2003.0310 成瀬龍雄、「論評 全国民一律最低限所得保障 ベ-シック・インカム構想との可能性――小沢修司著『福祉社会と社会保障改革――ベ-シック・インカム構想の新地平』によせて」、『賃金と社会保障 』、1341: 48-56.
・目次 
一 はじめに
二 ベーシック・インカム構想とは
三 ベーシック・インカムについての小沢氏の考察
四 三つの疑問
五 ベーシックインカム構想の実現可能性について
六 結びに代えて
・引用
 BI構想に対する三つの疑問として、「 まず第一にふれたいことは、何のためにベーシック・インカム全国民に一律あるいは画一的に保障するのか、実はこ の最も基本的な点が明確でないことである。」(52) 「……、国民一人ひとりが異なっている生活リスクの内容と程度を無視して、単に画一的な方法で所 得給付を行うことによってリスクの適切なカバーが果たして可能であろうか。……ベーシック・インカム構想には、国民の生活リズムを体系的にマネジメント するという視点がきわめて弱いと思われる。」(53) 「第二に、ベーシック・インカムの水準とのその財源調達の問題である。……ベーシック・インカム は所得と労働とを切り離すところに本質的な特徴があるとされるが、給付面では切り離せるかに見えても、給付の財源面では所得の源泉である労働との関係を断 ち切ることはできないのではなかろうか。」(53) 「第三に、ベーシック・インカム構想では、医療や介護などのケア・サービスをどうするのかという点も 十分解明されていない。」(53-4)
 「……、最低所得保障で大多数が賃労働をしなくなるならばいざ知らず、相変わらず大多数が賃労働に従事する状況が続く限りは、……勤労者の働く条件 の保護や社会的な雇用管理、労使関係上の労働者の対抗力を強めないことには、賃労働の従属労働という性格を緩和させることは望めないであろう。」(55)

◇2003.0000 小沢修司、「"労働を中心とした福祉社会"で良いのか――連合「21世紀社会保障ビジョン」の考察と対案」、『賃金と社会保障』、 1337・1338: 32-42.

◇2003.0201 山森亮、『帝国』を読む 基本所得――多なる者たち(マルチチュード)の第二の要求によせて (特集 『帝国』を読む)、『現代思想』、2003年2月号: 130‐147頁

◆2003.0120 アントニオ・ネグリ(Negri, Antonio)/マイケル・ハート(Hardt, Michael)、『〈帝国〉――グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』、水嶋一憲ほか訳、以文社.
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・引用
「 生政治的な生産のこの一般性によって、マルチチュードのプログラムにもとづいた政治的要求の第二点、すなわち、万人に対する社会的賃金と保証賃金の要 求が明らかになる。社会的賃金は何よりもまず家族賃金に対立する。家族賃金は性別分業の基本的な武器であり、それによって男性労働者の生産的労働に支払わ れる賃金は、同じくまた労働者の妻やその他の扶養家族による無償の再生産労働への支払いとしても把握される。家族賃金によって家族の管理統制は男性の賃金 取得者の手に確固として委ねられ、ある労働が生産的でそれ以外の労働は不生産的である、という誤った考えが固定化されることになる。生産的労働と再生産労 働の区別が消えていくにつれ、家族賃金の正当性も消えていく。社会的賃金は家族を超えてマルチチュード全体へと、失業者にすら広がっていく。というのも、 生産するのはマルチチュード全体なのであり、さらに、その生産は社会的総資本の観点からは必要不可欠だからである。ポスト近代性への、そして生政治的な生 産への移行においては、労働力はますます集団的で社会的な性質を帯びるようになる。「同一労働、同一賃金」といった旧いスローガンも、労働が個人に分割で きず計測不可能なときには支持することはできなくなるのだ。資本の生産に必要なあらゆる活動には同等の報酬が賦与されてしかるべきだという社会的賃金の要 求は、社会的賃金が実際は保証収入であるというようなやり方で、人口の総体へとこの要求を拡大していくのである。ひとたび市民権が万人へと拡大していくな ら、この保証収入のことを、社会の構成員すべてに当然支払われるべき報酬として、市民権収入と呼ぶことができるだろう。」(500)

◇2003.0000 亀山俊朗 「社会政策の変容とシティズンシップのゆくえ」 『年報人間科学』、24分冊2: 251-268.
・目次
一 社会政策の三類型と「平等」
二 社会的権利と市民的権利――T・H・マーシャルのシティズンシップ論――
三 社会的シティズンシップの解体?
四 ベーシック・インカムとシティズンシップ


■2003



◇20021105 山森亮、「4 市場・脱商品化・基本所得――福祉国家論の規範的含意」、小笠原浩一・武川正吾(編著)『福祉国家の変 貌――グローバル化と分権化のなかで』、東信堂、pp. 53-71.
・目次
1 はじめに
2 二つの脱商品化?
3 規範理論の変容――脱商品化モメントの欠落
 市場原理主義による社会(政策)の否定と再商品化
 規範理論における脱商品化の欠落
4 脱商品化と基本所得
 規範の抵抗
 基本所得
 想像力としての脱商品化
5 おわりに

◆2002.1030 小沢修司 『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』、高菅出版
.
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  →http://www.arsvi.com/b2000/0210os.htm

◇2002.0900 宮本太郎 「福祉国家再編の規範的対立軸――ワークフェアとベーシックインカム(特集 福祉国家の規範理論)」、『季刊社会保障研 究』、38-(2): 129-137.
・目次
はじめに
T 二つのワークフェア
 1 リスク構造の許容
 2 ワークフェアの制度と類型
  (1) アメリカのワークファーストモデル
  (2) スウェーデンのサービスインテンシブモデル
V ベーシックインカムという対案
W 交錯と展開
 1 二軸の交錯
 2 展開
むすびにかえて

◇2002.0900 新川敏光 「福祉国家の改革原理――生産主義 から脱生産主義へ」、『季刊社会保障研究』、38(2): 120〜128.
・目次
T 生産主義の終焉?
U 基本所得
 1 無条件基本所得
 2 参加所得
V 負の所得税
W 結論

◇2002.0300 牧野久美子 「ベーシック・インカム・グラン トをめぐって――南アフリカ社会保障制度改革の選択肢」、『アフリカレポート』、34号: 8-12.

◇2002.0000 亀山俊朗 「市民社会と新しい社会政策――ベーシック・インカム論に向けて」、『年報人間科学』 、23分冊2: 229〜245.


■2002



◇2001.0700 小沢修司 「ベーシック・インカム論と福祉社会の展望〜所得と労働の関係性をめぐって〜」 、『福祉社会研究』、第2号: 40-49.
・目次
はじめに
1. 所得と労働の分かちがたい関係
2. 所得保障と社会的排除
3. 所得保障と労働時間の短縮
4. 消費から見たもの一つの「所得と労働の関係」
おわりに


■2001



◇2000.1200     小沢修司    「貧困・社会的排除との闘いの新局面と21世紀「福祉国家」の課題」、『経済科学通信』、94(Dec. 2000): p.554-60.

◇2000.0600     小沢修司    「アンチ「福祉国家」の租税=社会保障政策論――ベーシック・インカム構想の新展開」、『福祉社会研究』、1号(2000.6): p.2-11.
・目次
1. はじめに
2. ベーシック・インカム(BI)構想の系譜
3. 戦後「福祉国家」の見直しとBI構想
4. 最低所得保障の諸類型とBI構想
 (1)負の所得税とBI
 (2)参加所得とBI
 (3)社会配当とBI
5. おわりに

◆2000.0310     都 留民子    「[補論]最低限所得あるいは所得保障のあり方についての論議」、『フランスの貧困 と社会保護――参入最低限所得(RMI)への途とその経験――』(法律文化社)、pp. 196-213.
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◇1997.0800     川口貴美    「フランスにおける最低所得保障と社会的・職業的参入」、『静岡大学法政研究』、2-1(1997.8): p.43-144.

◇1993.0702 香西泰 「20世紀の巨人たちフリードマン(6)日本経済研センター香西氏(やさしい経済学)終」、『日本経済新聞』、朝刊、31 ページ.
・引用
「有名なものに「負の所得税」構想がある。今の所得税は最低課税所得以下の低所得者は税を払わないが、負の所得税では、低所得者には所得が低くなれば、そ れだけ多く政府が所得補てんを行う。これで、高所得者と低所得者の取り扱いが対称になり連続になる。働いて所得を得ると税金がかかるという労働へのディス インセンチブをなくすことにもなる。複雑な社会保障制度はこの仕組みに統合することが可能だ。
 これによってフリードマンは福祉制度を一本化する考えだったが、進歩的な人たちは所得再配分を大規模に行う方策としてこの仕組みの導入に熱心になった。 現在、ヨーロッパでは「ベーシック・インカム」「シティズンズ・インカム」として市民全員に一定の所得を政府が配分する構想が議論されているが、これも負 の所得税に近いアイデアだと言えよう。」

◆1987.1020 ポール・エキンズ編著/石見ほか訳 『生命系の経済学』、御 茶の水書房.
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・目次
序文
緒言と感謝のことば
はじめに
第T部 新しい経済学をもとめて
 第1章 経済成長:それは薬か、それとも病か
 第2章 国際経済の無秩序
 第3章 実質的意味のない諸指標
第U部 人間を第一に
 第4章 未来への構想
 第5章 ニーズの問題
 第6章 労働の性質
 第7章 経済自立の探求
 第8章 健康は財産である
 第9章 経済進歩の諸指標
第V部 行動するニュー・エコノミックス
 第10章 土地、貨幣の地域管理と基本所得構想
  土地問題への取り組み/貨幣問題/税制、共済金制度、基本所得構想
 第11章 産業・技術の選択と地域の復興、新しい協同の試み
 第12章 南から学ぶ
 第13章 貿易と多国籍企業
結語
解題
あとがき
事項索引
・引用
「 第V部は理論から政策論と運動論にかわる。そこでは土地にたいして強化すべき公的取組みのメカニズムを説明する。コミュニティ通貨と地方分権に基づく 銀行業が地域経済の管理下の富の創造の手段として提案され、経済活動の社会目的を考慮して、貯蓄者主権と社会的投資の概念が紹介されている。いまよりも柔 軟性に富む働き方へ移行することが強調され、税金と利潤制度の改革、とくに基本所得の保証制度の導入が提唱される。」(I@@)

◆1986.1025 マリアローザ・ダラ・コスタ、伊田久美子/伊藤公雄訳『家事 労働に賃金を――フェミニズムの新たな展望』、インパクト出版会.
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・引用
「 マリアローザ・ダラ・コスタらによる「家事労働に賃金を」といういささか刺激的なスローガンは、しばしば誤解されたまま批判の的にされてきた。しか し、このスローガンが提起しようとした問題意識は、一般に想像されるよりは、はるかに広く深い射程をそなえているのである。[改行] なぜなら、ラディカ ル・フェミニズムが告発した家父長制に基く性差別・性抑圧の問題、マルクス主義フェミニズムが発展させてきた再生産労働をめぐる視点、さらには、エコロジ カル・フェミニズムが明らかにしようとしている近代産業社会への批判的視座、これらの問題意識が彼女の理論的視点において、媒介―統合されようとしている と思われるからだ。しかもこの理論は単なる理論として終始してしまうことはなかった。それは、七〇年代のイタリアの状況のなかで、具体的な実践のかたちを とって、政治に介入したのである。この男たちの肝をひやすような、しかも一見物質的欲求のみを要求しているかにみえるようなおおらかなスローガンには、そ うした彼女たちの理論的・実践的な営為が結実するかたちで詰め込まれているのだ。」(244 訳者のあとがきより)


◆1984.0200 ミルトン・フリードマン/西山千明監修/土屋政雄訳 『政府 からの自由』、中央公論社(=19910425中公文庫版).
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・引用
「 現在の徴税機構をそのまま利用し、ある所得水準に達しないすべての人々に財政援助を与えようというのが、負の所得税の基本的な考え方である。」 (1991: 403)
「 私がいま例に取り上げた計画では、税金も払わず補助金ももらわないという所得の分岐点が三千ドル、最低保障所得が千五百ドルであった。この二つの金額 が違っていることが大切である。低所得家族に自ら収入を得る意欲を失わせないためには、この二つの金額にある程度の差をもたせなければならない。」 (404)
「 ここであげた数字はすべて、四人家族に適用される数字である。家族構成が大きくなれば、分岐点も最低保障所得も大きくなり、家族構成が小さくなれば金 額は小さくなる。こうして、負の所得税は所得の多寡による調節だけでなく、家族の人数に合わせた調節も自動的にやってのける。」(404)
「 この計画は、扶養児童手当や生活保護といった現行の直接救済制度を完全に廃止し、それに代わるものとして考えられている。きわめて包括的な計画で対象 が広いので、実施後一、二年は現在の制度より多少費用がかかるかもしれないが、この計画のもつ労働意欲促進効果が現れてくるにつれ、費用は激減するだろ う。現在の直接援助計画が永久的な生活保護依存層を作り出し、費用の爆発的増大をもたらすのと対照的である。」(404-5)
「そうした未使用控除の一部を負の所得として活用し、それで貧しい人々の所得を補おうとする制度は、現在の福祉制度に比べて数多くの利点をもっている。た とえば、[改行] (一)、貧しい人々を最も直接的な方法で助けることができる。[改行] (二)、貧しい人々を国のお荷物や厄介者としてでなく、責任あ る個人として扱うことができる。[改行] (三)、自助の精神を失わせずにすむ。[改行] (四)、現行の福祉制度より費用がかからず、しかも大きな援助 効果を上げることができる。[改行] (五)、現在の福祉制度を牛耳っている巨大な福祉官僚機構が、ほぼ全面的に不要となる。[改行] (六)、不正政治 資金として使われることがなくなる。現在の福祉政策(とくに「貧困との戦い」に伴う諸政策)は、しばしばそうした目的に使われてきた。」(405-6)
「所得保障が誰はばかることのない当り前の制度になってしまったら、さらに分岐点を高くしろとか、負の税率をもっと高くしろとか、要求がエスカレートし、 政治的圧力を増大させることにならないか。金持ちからもっと税金をとり、貧しい人に分配しろなどという運動に発展しないか。[改行] その危険は確かにあ る。しかしわれわれは、政府の福祉政策など何もない理想の世界に住んでいるのではない。あくまでも、現実の世界でそれがどの程度の危険なのかを判断しなけ ればならない。そういう目で見ると、危険はすでに存在しているものばかりではないのか。問題は、そうした政治的圧力の積重ねから生まれたこの泥沼をどうす るか、そこからどうやって抜け出すかである。負の所得税は、一つの答えにはなりうると思う。徐々に、そして無責任に陥らずに、そこから抜け出るための手段 にはなりえよう。そして負の所得税に代わる方法は、まだ誰からも提案されていないのである。 (一九六八年十月七日)」(408-9)

◇1972.12 中桐 宏文、「真の福祉を求めて――新しい保証所得制度のヴィジョン」、『月刊福祉』、55(12): 8-15.

◆1969.1031 エーリッヒ・フロム(Erich Fromm)/作田啓一・佐野哲郎訳、『希望の革命』、紀伊國屋書店.
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・引用
「人間的であるとは何を意味するかを知ろうと望むなら、私たちは人間のさまざまの可能性という見地からではなく、これらの可能性が選択の可能性として出て くるところの、そもそもの人間存在の条件という見地から、その答えを見出す心構えをしなければならない。これらの条件は、形而上学的な思索の結果としてで はなく、人類学、歴史学、児童心理学、個人的ならびに社会的精神病理学などの資料を検討した結果として、認識することができるのである。」(96)
「 個人が自分の働く企画に能動的に参加するという考え方に対する反論の中で、おそらく最も一般的なものは、ますます盛んになるサイバネーションを考える と、個人の労働時間はうんと短くなり、余暇にあてられる時間はうんと長くなるから、個人の能動化はもはや労働という状況の中で行われる必要はなく、余暇で 十分なし遂げられるであろう、という議論である。この考え方は、思うに人間存在と労働についての誤った概念に基いている。……ほとんどの肉体労働を機械が 肩代わりしたとしても、人間は自分と自然との間のやりとりの過程に参加しなければならない。人間が身体を持たない存在であるか、肉体的欲求を持たない天使 である場合にのみ、労働は完全に姿を消すだろう。……それともこの問題の解決は、……エリートだけが働く特権を持ち、大多数の人間は消費に精を出すという ことになるのだろうか。……もし人間が生産し組織する過程で受動的であれば、彼は余暇においても受動的だろう。もし人間が生命を維(157)持する過程に おいて責任と参加を放棄すれば、彼は人生の他のあらゆる領域において受動的な役割を取得することになり、自分のめんどうを見てくれる人々に依存することに なるだろう。」(157-8)

◆1958.0430 エーリッヒ・フロム(Erich Fromm)/加藤正明・佐瀬隆夫 『正気の社会』、社会思想社.
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・引用
「……、所得の平等という考えは、社会主義者の要求ではなく、多(373)くの理由から実際的でも望ましいものでさえもないのだ。必要なのは、人間が品位 をもって存在するための基礎になる所得だ。所得の不平等についていえば、所得のちがいが人生の経験のちがいをもたらすようになってはならないと思われ る。……、所得のちがいがある限界をこえなければ、ある所得のちがいのはんいで、人生の基本的な経験は同じでいられるだろう。重要なことは、所得が多いか 少いかということではなくて、所得の量的な相違が人生経験の質的相違に変わることにある。」(373-4)
「実際的にいうと、失業したり、病気したり、年をとったりしても、すべての市民が生存の最低限度に必要な金額を要求できることを意味するのだ。自分から仕 事をやめても、ほかの仕事に備えることを希望しても、個人的な理由のために金がかせげず、しかも現存の保険年金の範疇に該当しないばあいでも、この金額が 要求できる。ようするに、なんの「理由」がなくても、こういう最低限度の生存を要求できるのだ。だがあらゆる社会的責任を拒否する神経症的な態度を助成し ないようにするために、それは一定の期間、たとえば二年間ぐらいにかぎられるべきだ。」(375)
「こういう計画にたいするおもな反対は、各人が最低限の衣食をうることができたら、働かなくなるだろうということだろう。この仮定は、人間の本性はもとも と怠惰なものだという謬見にもとづいている。だがじっさいには、神経症的に怠惰なひとは別として、最低限以上にかせごうとせず、働くよりもなにもしないほ うがいいというひとは、ほとんどいないのだ。」(375)
「 費用についてはどうだろうか? われわれは、すでに失業者、病者および老人のための原理[社会保険制度]を採用したのだから、この特権を利用したいと 思うのは周辺の集団のそのほかのひとびと、特別な才能のあるひとびと、一時的に葛藤を感じているひとびと、責任感もなく、労働にたいする興味もない神経症 のひとびとだけだろう。ここに含まれるすべての要素を考慮すれば、この特権を用いるひとびとの数は、それほど多くはないと思われ、注意して調査すれば、現 在のおおよその数が分かるだろう。しかし、こういう提案は、本書で示唆した他の社会的変化とともにとりあげられるべきであり、個々の市民が積極的に労働に 参与する社会では、労働に興味をもたないひとびとの数は、現在の状態での数の一部分にすぎないだろう。」(377)
「 ロボット化の危険にたいしてとりうる唯一のみちは、人間主義的な共同社会主義だ。問題はまず第一に財産所有にかんする法律的な問題でもなければ利益を 分配する問題でもない。労働をともにし、経験を共にすることが問題なのだ労働の共有をつくりだし、利益動機が生産を社会的に有害な方向に向かわせないため に必要なところまで、所有上の変革がなされる必要がある。所得は万人に品位のある生活の物質的な基礎をあたえ、経済的な相違が、さまざまの社会階級にとっ て基本的に違った人生経験をつくりださないていどに、平等にならなければならない。人間はけっして手段とならず、他人や自分じしんによって利用されるもの ともならずに、社会での最高の地位に復帰しなければならない。人間が人間を利用することはやめねばならず、経済は、人間発達のための召使とならなければな らない。資本は労働に仕えなければならず、ものは生命に仕えなければならない。十九世紀において優勢だった搾取的構えと貯蓄的な構えや、今日優勢である受 容的な市場的な構えにかわって、生産的な構えがすべての社会的なとりきめに仕える目的でなければならない。」(402)


■〜2000

*作成:齊藤 拓
UP: 20100817 REV:20100824, 1024, 1222, 20111014, 1220, 20120303
ベーシック・インカム   ◇事項