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ぼけ・ぼける・呆ける・痴呆・認知症



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  *このファイルの更新をしばらく休止→老いファイルを増補していきます。(2007.12)
  *事故と賠償請求についての情報しばらくここにおきます。(2014.1)
  *再開(2015.1)

『現代思想』2015年3月号 特集:認知症新時代

『現代思想』2015年3月号</a> 特集:認知症新時代 表紙

認知症/安楽死尊厳死/精神病院/…(別頁・2015/01新設)

◆立岩真也 2015/03/01 「認知症→精神病院&安楽死(精神医療現代史へ・追記12)――連載 109」『現代思想』43-(2015-3):8-19

◆厚生労働省 2015/01/27 「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)――認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて」
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

◆「「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜(新オレンジプラン)」について」
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

◆2015/01/27 認知症国家戦略/急ごしらえ、実効性に疑問
 共同通信 2015/01/27→東奥日報
 http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/danmen/danmen2015/0127_2.html

 「27日に決定した認知症の国家戦略は、安倍晋三首相の策定方針表明から約2カ月間という「急ごしらえ」が響き、数値目標は一部に限られるなど実効性に疑問符が付く。文面作りでは、長期入院の弊害が指摘される精神科病院の役割を強調。背後には病院団体の意向を受けた自民党議員らの巻き返しがあったとされ、「住み慣れた地域での自分らしい暮らし」の実現を懸念する声も上がる。
 ▽格上げ
 「認知症の本人が参画する形で実態調査をしてほしい」
 「日本が世界のトップランナーとして対応していく決意だ」
 27日夕、首相官邸で開かれた当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」と安倍首相の意見交換会。グループの共同代表、藤田和子(ふじた・かずこ)さん(53)の訴えに、首相は積極姿勢で応じた。
 安倍首相が国家戦略の策定を表明したのは昨年11月。当初は1月中旬に関係省庁の連絡会議で決定する予定だったが、社会保障費抑制の一方で「弱者への支援」をアピールしたい官邸の意向で、関係閣僚会合での申し合わせに格上げされた。
 厚生労働省、経済産業省、警察庁など計12省庁が参画。だが数値目標は、もともと認知症サポーター育成などを進めていた厚労省関連に限られ、「省庁横断」と呼ぶには物足りなさが残った。
 ▽悩み
 行政の垣根を越えた連携が必要なのは、認知症の人の悩みが医療、介護にとどまらないからだ。
 「経済的なことを含めてあらゆる相談を受けてくれるところがほしかった」。静岡県富士宮市の佐野光孝(さの・みつたか)さん(66)と妻の明美(あけみ)さん(62)はこう振り返る。
 光孝さんが58歳で若年性アルツハイマー病と診断されたとき、2人が最初に心配したのは、生活費と自宅のローンの支払いだった。光孝さんは約1年後に退職。その後、障害年金を受け取るまで約8カ月の“空白期間”が生じた。手続きに時間がかかることを知らなかったからだ。
 こうした問題に対応しようと、一人一人に「リンクワーカー」と呼ばれる専属の職員を付けるようにしたのが、英国スコットランドだ。自治政府が2010年に独自の戦略を定め、13年度から制度を開始。認知症と診断された後に1年間、リンクワーカーが相談に乗り、必要な機関につなげる“伴走型”の仕組みだ。
 日本の国家戦略にも「認知症地域支援推進員」というコーディネーターの配置が盛り込まれた。医療や介護、福祉など、縦割りになりがちな支援をいかに連携させられるかが鍵となる。
 ▽矛盾
 国家戦略策定の最終盤に、最も多く文言の修正が入ったのが精神科病院をめぐる記述だ。「入院も(医療、介護の)循環型の仕組みの一環」「長期的に専門的な医療が必要となることもある」などが追加された。厚労省幹部は「自民党議員から病院の役割をもっと盛り込むよう要望があり、修正した」と明かす。
 日本では、精神科病院に入院する認知症患者が約5万3千人に上り、そのうち約3万人は1年以上の長期にわたる。先進国では異質な状況で、国際機関から改善を求められている。
 文言の修正には病院経営への配慮がにじむ。各国の戦略に詳しい東京都医学総合研究所の西田淳志(にしだ・あつし)主席研究員は「日本の戦略は当事者の視点を重視するという理念をうたっているが、旧来の『サービス提供者中心』の考え方も肯定しており、矛盾がある」と苦言を呈した。(共同通信社)」

 
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■東日本大震災関連 cf.災害と障害者・病者

◆日本認知症学会 被災した認知症の人と家族の支援マニュアル
 http://dementia.umin.jp/kaigo419.pdf[PDF](ご家族・介護職向け)
 http://dementia.umin.jp/iryou419.pdf[PDF](医師・医療職向け)

 
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■事故と賠償請求

◆「家族支える法整備を 認知症鉄道事故訴訟でシンポ 「徘徊、完全に防げない」」
 2014.12.24中日新聞
 http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2014122402000002.html

 ……

◆2008/08/10 「認知症男性、線路に入り死亡 電車遅れで遺族に損賠命令」
 日本経済新聞 2013/8/10 2:12
 http://www.nikkei.com/article/DGXNASFD0902J_Z00C13A8CN8000/

 「認知症の男性(当時91)が線路内に立ち入り電車と接触した死亡事故で、家族らの安全対策が不十分だったとして、JR東海が遺族らに列車が遅れたことに関する損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁(上田哲裁判長)は9日、男性の妻と長男に請求全額にあたる約720万円を支払うよう命じた。
 判決によると、男性は2007年12月、愛知県大府市のJR共和駅の線路に入り、東海道本線の列車と衝突して死亡。男性は同年の2月に「常に介護が必要」とされる「認知症高齢者自立度4」と診断されていた。
 上田裁判長は、同居していた妻が目を離した隙に男性が外出し、事故が発生したとして「妻には見守りを怠った過失がある」と認定。別居している長男についても「事実上の監督者」とし、「徘徊(はいかい)を防止する適切な措置を講じていなかった」とした。
 男性の家族らは、妻は事故当時85歳で、常時監視することが不可能だったなどと主張。しかし上田裁判長は、介護ヘルパーを依頼するなどの措置をとらなかったと指摘。「男性の介護体制は、介護者が常に目を離さないことが前提となっており、過失の責任は免れない」とした。」

◆「家族の責任、どこまで 徘徊中、線路に…遺族に賠償命令」
 「認知症とわたしたち」取材班 朝日新聞2013年9月28日
 http://apital.asahi.com/article/dementia/2013092700005.html

 「家を出て徘徊(はいかい)していた認知症の男性が線路内に入り、列車にはねられて亡くなった。この男性の遺族に対し、「事故を防止する責任があった」として、約720万円を鉄道会社に支払うよう命じる判決が出された。認知症の人を支える家族の責任を重くみた裁判所の判断。関係者には懸念の声が広がっている。

 □妻がまどろんだ一瞬
 事故は2007年12月に起きた。愛知県に住む当時91歳の男性が、JR東海道線の共和駅で、列車にはねられて死亡した。
 男性は要介護4。身の回りの世話は、同居する当時85歳の妻と、介護のために横浜市から近所に移り住んだ長男の妻が担っていた。この男性が外に出たのは、長男の妻が玄関先に片付けに行き、男性の妻がまどろんだ、わずかな間のことだった。
 男性はホームの端から数メートルの線路上に立っていたところ、列車にはねられた。線路に入った経路はわかっていない。事故で上下線20本が約2時間にわたって遅れた。
 JR東海は、男性の妻と、横浜市で暮らす長男を含めたきょうだい4人に対し、振り替え輸送の費用など損害約720万円の支払いを求め、名古屋地裁に提訴した。
 JR側は、遺族には「事故を防止する義務があった」と主張。訴えられた遺族側は、徘徊歴は過去に2回だけで事故の予見はできなかった、などと反論した。

 □判決「見守り怠った」 図表:略
 今年8月に出された判決は、死亡した男性には「責任能力がなかった」とし、遺族のうち男性の妻と長男の2人に賠償責任を認めた。
 長男は、家族会議を開いて介護方針を決め、自分の妻に男性の介護を担わせていたことから、「事実上の監督者」と認定した。さらに徘徊歴や見守りの状況から事故は予見できた、と指摘。男性の認知症が進行しているのに、ヘルパーの手配など在宅介護を続ける対策をとらなかったなどとし、「監督義務を怠らなかったと認められない」と結論づけた。死亡男性の妻についても、「目を離さずに見守ることを怠った」とした。
 一方、他のきょうだいは、遠くに住むなどの事情で、家族会議に参加しないなど、介護に深く関与していなかったとし、責任を認めなかった。
 遺族代理人の畑井研吾弁護士は「介護の実態を無視した判決だ。認知症の人は閉じ込めるか、施設に入れるしかなくなる」と批判。長男らは名古屋高裁に控訴した。
 JR東海によると、飛び込み自殺などで運休や遅れが発生した場合は、損害の請求をするのが基本的な立場。ただ訴訟にまで発展するケースはここ数年は例がないという。同社は「認知症の人の介護が大変だということは理解しているが、損害が発生している以上、請求する必要があると考えた」としている。
(中林加南子、立松真文)

□施錠しかないのか 長男(63)のコメント
 判決が指摘する「(出入り口の)センサーを切ったままにしていた」「ヘルパーを依頼すべきだった」といった事項を全て徹底しても、一瞬の隙なく監視することはできません。施錠・監禁、施設入居が残るのみです。父は住み慣れた自宅で生き生きと毎日を過ごしていましたが、それは許されないことになります。控訴審で頑張るしかないと思っています。

□「補償の仕組み必要」/無施錠の施設、落胆
 65歳以上の高齢者のおよそ7人に1人が認知症と推計されている。家族や関係者にとって判決は重く響く。
 認知症の人と家族の会(本部・京都市)の高見国生代表理事は「あんな判決を出されたら家族をやってられない。責任をまるまる家族に負わせればいい、というのではダメだと思う」と判決を批判。一方で「認知症の人の行動で他人に損害が生じうるのは事実。何らかの保険のような、補償の仕組みを考える必要があるのではないか」と語る。
 NPO法人「暮らしネット・えん」(埼玉県)が運営するグループホームは、カギをかけず認知症の人が自由に出入りできる。本人のペースを大事にするためだ。外に出ようとしていれば職員が付き添う。ただ注意しても、気づかぬうちに利用者が外に出かける状況をゼロにはできない。無施錠の方針は監督責任のリスクと隣り合わせだ。小島美里代表理事は「(判決の考え方で)今まで積み重ねてきたことを無視された気持ちになる。怖くて、事業をやめたいとすら思う」と話す。
 「安心して徘徊できるまち」を目指す福岡県大牟田市。今月22日に、徘徊で行方不明者が出た想定などで恒例の訓練を実施した。井上泰人長寿社会推進課長は「徘徊者に声をかけるなど、地域で見守る意識を高めることが、ますます大事になる」と語る。
 認知症ケアが専門の柴田範子・東洋大学准教授は、徘徊事故防止に関して、鉄道という公共性の高い企業の責務を指摘する。「鉄道会社は認知症についてきちんと知っておくべきだ。その知識を踏まえて、駅や踏切で事故のリスクを軽減する対策を取ってほしい」
(編集委員・友野賀世)

□事故までの経過
00年    男性の認知症に家族が気づく
02年    長男の妻が男性宅近くへ転居 男性に要介護1の認定。デイサービスへ通い始める
05、06年 夜中に2度徘徊
07年    要介護4、常に介護が必要な状態に
【07年12月7日 事故当日】
午後4時半ごろ   男性がデイサービスから帰宅、妻や長男の妻とお茶を飲む。長男の妻が玄関先へ片付けに。妻がまどろむ間に男性が外出
午後5時ごろ    妻と長男の妻で、男性の散歩コースを捜すが見つからず
午後5時47分ごろ JR東海道線共和駅で事故発生

「認知症とわたしたち」取材班
朝日新聞の東京・科学医療部、大阪・生活文化部、文化くらし報道部の記者でつくる取材チームです。連載第6部「ひとりの時代に」は、佐藤実千秋、石井暖子、伊豆丸展代の各記者が取材しています。写真は年間を通して写真部・川村直子が担当します。」

◆2013/09/29 認知症、社会も見守る態勢を
 中日新聞朝刊 2013年9月29日
 http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130929061128619

 「愛知県大府市の認知症の男性=当時(91)=が2007年、同市の駅で電車にはねられたのは、家族が見守りを怠ったからだとして、電車の遅延の賠償金約720万円を遺族からJR東海に払うように命じた判決が8月、名古屋地裁であった。 
 徘徊(はいかい)は予見不能と遺族は主張したが、地裁は、医師の診断書などから徘徊は予見できたと認定。在宅介護する妻(85)=同=が男性から目を離したことなどを注意義務を怠ったと指摘し、JRが求めた損害賠償の全額の支払いを遺族に求めた。判決後、「すべて家族の責任とは、家族にとって過酷」「認知症の人の閉じ込めにつながる恐れがある」とネット上などで議論が起きた。
 遺族は控訴しており、地裁判決の是非は高裁判決に委ねるが、一つ言えるのは、社会がリスクも含めて認知症と本格的に向き合う時代が来たということではないか。

地域が受け皿に
 厚生労働省の推計によると、12年の65歳以上の認知症の人は約462万人。全人口の27人に1人の割合。高齢化で今後、さらに増える。同省は5カ年計画で「認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる社会」を目指すとし、病院や施設でなく地域社会を認知症の受け皿に据えている。認知症の人が、とりわけ地域の中で増える。
 環境の変化に弱い認知症の人にとって、地域で暮らし続けるメリットは大きい。一方、今回のような事故やトラブルは、より頻発する可能性もある。
 トラブル防止を家族にすべて任せるのか。それは違うだろう。「介護を社会化する」という介護保険の理念に反する。認知症の人を家の外に出さないといった方法でトラブルを防ぐべきでもない。高齢者虐待防止法は「外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為」も身体的虐待の一種としているからだ。
 家族の介護力は核家族化で弱まっている。家族任せにせず、認知症の人との共存を前提にした社会づくりを進めるより他に道はないのではないか。
 認知症の人と家族の会愛知県支部の尾之内直美代表は、認知症への周囲の理解が大切という。ごみ出し日の間違いや買い物の精算忘れなど、認知症の人の失敗を「認知症という病気のため」と理解してもらえれば、家族の心の負担が減る。周囲の理解があれば認知症だとも明かしやすい。
 もし、認知症で行方不明になっても、その人が認知症と知る人が多くいれば、呼び止めて家族に連絡することもできる。自治体によっては、認知症の人の行方不明を想定した捜索訓練もしている。
 認知症の簡単な講習を受け、身近な手助け役と期待される認知症サポーターは、05年に養成が始まり、6月末で約428万人まで増えた。認知症への意識は変わりつつある。判決への驚きは、このあたりの意識の変化が根底にあるのかもしれない。

 変わる企業意識
 写真:認知症の人と家族の会愛知県支部が作成、ユニーグループ・ホールディングスが研修に使っている教材
 企業の意識も変わってきている。
 大手スーパーの「ユニーグループ・ホールディングス」は、09年から、開店や店舗の改装の際に、従業員の認知症研修をしている。認知症になると金銭の計算も手間取る。支払いに時間がかかることもしばしば。そうしたときに、後ろの客を別のレジに誘導する対応などを役割実演も交えて学ぶ。
 きっかけは認知症の人と家族の会愛知県支部からの協力要請。百瀬則子グループ環境社会貢献部長は、店長時代の経験から、研修の導入を決めた。
 警備員から万引の連絡を受け、駆け付けると、万引した高齢者は受け答えから認知症が疑われた。家族に連絡し、穏便に解決した。従業員に認知症の知識があれば、より適切な対応ができると考えた。「お年寄りは長年、お店を利用していただいたお客さま。認知症への無理解から悲しい思いをさせたくない」と百瀬さんは話す。
 万引と列車事故、周囲に与える影響を考えると同列ではない。ただ、問われているのは企業が認知症とどう向き合うか。認知症の人がトラブルを起こした際の金銭負担の在り方を含め、これを機に議論が深まればと思う。住民も企業も決して人ごとでない。
 (生活部・佐橋 大)」

◆2013年11月06日 くらし☆解説「どうする?認知症の人の徘徊事故」
 NHK 解説委員室 解説アーカイブス
 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/172073.html
 図表:略

 飯野 奈津子 解説委員
 <前説>くらし☆解説です。きょうは、認知症の人が徘徊している時に起きた事故を巡る裁判についてです。この裁判の判決が、介護現場に波紋を広げています。
 担当は飯野解説委員です。

Q1 判決が、波紋を広げているのはどうしてですか?
A1 認知症の人を自宅で介護する家族の責任を重く見た判決で、在宅での介護に水を差しかねないと受け止められているからです。まず、裁判で争われた事故の概要を整理しておきます。
 事故が起きたのは2007年の12月。愛知県内に住む当時91歳だった認知症の男性が、自宅から一人で外に出て、およそ一時間後に、3キロほど離れたJRの駅の線路内で列車にはねられて亡くなりました。この事故で列車に遅れなどが出たことから、JR東海が、振り替え輸送の費用などの損害賠償として、およそ720万円の支払いを遺族に求めて提訴。今年8月の名古屋地裁の判決では、遺族のうち、同居していた男性の妻と、横浜に住む長男の2人に賠償責任を認め、JRが求める全額を支払うよう命じました。

Q2 こうした事故が起きた場合、遺族に賠償を求めるのは一般的なことですか?
A2 鉄道会社に話をききますと、列車の遅れなど損害が発生した場合、責任の所在や事実関係を調べた上で賠償請求するのが基本的な立場だということです。

Q3 今回裁判所が、その賠償責任を妻と長男に認めた理由はなんですか?
A3 亡くなった男性は認知症の症状が重く、責任能力はなかったとしていますが、妻と長男の二人については、過去の徘徊歴などから事故は予見できたとして、防止策を怠った責任があったとしているんです。
 亡くなった男性は当時85歳だった妻と二人暮らし。身の回りを世話していたのは、同居していた妻と、横浜から近所に移り住んだ長男の妻でした。事故当日、家には長男の妻もいましたが、片付けのために席をはずし、一緒にいた妻がまどろんだ、ほんのわずかな間に、男性は外に出ていってしまいました。
 判決は、まず、男性の妻について、「目を離さずに見守ることが必要だったのにそれを怠った」と賠償責任を認めています。
そして、横浜に住む長男については、家族会議を開いて介護の方針を決めたりしていたので「事実上の監督者」とした上で、ヘルパーをお願いするなど徘徊を防ぐ措置を怠ったと指摘しています。
 一方、他のきょうだいには、介護に深く関わっていなかったなどとして、責任を認めませんでした。

Q4 介護する家族の責任を重く見た、厳しい判決ですね。
A4 今回の判決は、認知症の介護のあり方ではなく、損害をだれが負担すべきかということについて出されたものですが、認知症の人を自宅や施設で介護する人たちも、厳しい判決と受け止めています。
 その理由のひとつは、認知症の人を見守る注意義務を家族に厳しく求めている点です。認知症の人は周りがどんなに注意していても、勝手に出て行ってしまうことがあります。もし徘徊させるなというなら、部屋に鍵をかけて閉じ込めざるをえず、それでは、本人の思いに寄り添った介護ができなくなるという声が出ているのです。
 もうひとつは、介護に深くかかわるほど重い責任を問われていることです。
 長男は、親の介護のために妻を実家近くに住まわせ、自分も月に3回ほど実家を訪れていたといいます。その長男の責任を認め、介護とのかかわりが少ないほかのきょうだいは、責任を問われなかった。これでは、積極的に親の面倒を看ようという子供がいなくなるのではないかと、話す人もいます。

Q5 そうした不安が広がるのも、わかる気がしますね。
A5 しかし、認知症の人を閉じ込めたり、親の面倒を看る人がいなくなったりするようでは、本人も家族も幸せとはいえません。
 認知症の人は、全国で462万人、認知症になる可能性がある軽度認知障害の人も400万人いると推計されています。65歳以上の高齢者のおよそ4人に1人が、認知症とその予備軍ということですから、誰もが今回のような事故に、遭遇する可能性があるといえると思います。
 今回の問題では、遺族が名古屋高裁に控訴し、司法の場で家族の責任について改めて判断することになりますが、この裁判とは別に、認知症の人が徘徊することもあるという前提で、社会全体でどう支えていくのか考えていくことが重要だと思います。

Q6 具体的には、どんなことを考える必要がありますか?
A6 まず、認知症の人が他の人に損害を与えるような事故を起こした時に、だれがどう賠償するのかということです。賠償責任を家族だけにおわせるのではなく、多くの人で支えあう仕組みを検討する必要があると思います。たとえば、認知症の人や家族の間で互助的な保険を作ったり、介護保険に組み入れた新たな仕組みを作ったりすることが考えられます。

Q7 そうした仕組みができれば、家族の精神的な負担も軽減できますよね。
A7 そう思います。それともう一つ大事なことは、認知症の人が徘徊しても、事故に遭遇するリスクを減らす環境づくりです。たとえば、今回裁判になった鉄道事故では、亡くなった男性がどこからどのように線路に入ったのかわかっていませんが、そうした事故が起きた時には経路など原因をつきとめ、再発防止のために安全対策を講じることが必要だと思います。

Q8 線路に入れないよう柵を設けたりしたら、事故を防げますよね。
A8 そして、地域で徘徊する認知症の人を見守る体制を整えることです。徘徊しても地域の誰かが気がつけば、事故を防げるからです。
 そうした地域づくりを始めて10年以上になる、福岡県大牟田市をご紹介します。
 大牟田市は人口12万人あまり。「安心して徘徊できる街づくり」をスローガンに掲げて様々取り組みを進めています。
 その一つが、毎年一回行う、徘徊SOSネットワーク模擬訓練です。認知症の人の行方が分からなくなったという想定で、徘徊者役の人が町を歩き回り、情報伝達や捜索・声掛け・保護までの一連の流れを行います。
 このほか、地域のネットワークづくりをけん引する、認知症コーディネーターを独自に養成したり、認知症について学んでもらう出前授業を小中学校で開いたり。
 先日取材した延命中学校の授業では、認知症の人本人から話をきいてどう対応すればいいか、生徒たちが話し合いました。「認知症の人は何もわからないと思ったけれど、やりたいことがたくさんあるときいて、支えてあげたいと思った」「優しく声をかけたい」など意見が出ていて、子供のうちから認知症について学ぶことがとても重要だと思いました。

Q9 そうした取り組みの成果は出ているのですか?
A9 徘徊ネットワークを使って保護される高齢者は少なくありませんし、保護される前に子供たちが声をかけて自宅まで送り届けたりすることもたびたびあるそうです。先週行われた徘徊模擬訓練の報告会では、名古屋地裁の判決で、認知症の人の徘徊に不安を感じる人が多い時だからこそ、安心して徘徊できる街づくりを着実に進めていこうと確認し合っていました。
大牟田を取材して感じたのは、地域に暮らす人たちが認知症への理解を深め、認知症の人のことを気にかけてちょっと声をかける。そうしたことがとても大事だということです。危ないからと家に閉じ込めるのではなく、認知症の人と家族を包み込む街づくりが、これからますます必要になってくると思います。」

◆2013/11/07 「認知症男性の列車事故 720万円損害賠償命令で波紋」
 産経新聞 2013.11.7 09:00[防犯・防災]
 http://sankei.jp.msn.com/life/news/131107/bdy13110708420001-n1.htm
 写真:認知症の男性が電車にはねられ死亡する事故が起きた愛知県内のJR駅

 「高齢の認知症の男性が平成19年12月、線路内に立ち入って列車事故で死亡し、男性の親族が鉄道会社へ代替輸送などにかかった費用約720万円を払うよう命じられた判決が今年8月、名古屋地裁であり、関係者に波紋を呼んでいる。地域での見守りで「家での暮らし」を支えようとする住民や自治体職員からも「ショックだ」との声が上がっている。(佐藤好美)
 判決などによると、JR東海の線路内で列車にはねられ、死亡したのは愛知県内に住んでいた当時91歳の男性。同居の妻(当時85)は要介護度1で、横浜市に住む長男の嫁が2級ヘルパーの資格を取って近隣へ転居。通いで老々介護を支えていた。
 男性は要介護度4で認知症日常生活自立度IV。親族の代理人弁護士によると、尿意はあってもトイレの場所は分からず、着替えの際は家族が衣類を順番に手渡す状態。しかし、生活は穏やかで、男性がゴミ出しや街路樹への水まき、草取りをする際には、家族がガラス戸越しに様子を見守り、男性が故郷へ「帰る」と言い出せば、長男の嫁がいつものカバンを持たせ、男性の気の済むまで後をついて歩いていたという。
 事故は男性が通所介護から帰宅後に起きた。妻と嫁の3人でお茶を飲んだ後、男性が居眠りしたのを見て、嫁は片付けに立ち、妻もまどろんだ隙に男性はいなくなった。その後、線路内に立ち入り、列車にはねられ死亡した、との知らせが来た。
 事故後、JR東海は男性の妻と4人の子供たちに振り替え輸送などにかかった費用約720万円を請求した。同社は「今回は痛ましい事故で気の毒な事情は承知している。ただ、輸送障害が発生すれば、特急券の払い戻しをしたり、振り替え輸送の費用を他の輸送機関に払う金額が発生したりする。列車の遅延が第三者に起因するときは必ず損害賠償請求はする。しかし、相続放棄をされていて訴訟に至らないケースもある」とする。
 訴訟では、本人の責任能力と親族の監督責任が問われ、名古屋地裁は本人の責任能力を「認められない」としたうえで、長男を「事実上の監督者」と認め、妻については「目を離さずに見守ることを怠った過失がある」とし、2人に請求額を払うよう命じた。

 □24時間の見守りは不可能 新たなシステムづくり必要 
 判決は、在宅介護を支える人々に衝撃を与えた。全国在宅療養支援診療所連絡会会長の新田國夫医師は「認知症の人の判断能力はその時々で変わるので、譫妄(せんもう)に基づいた徘徊(はいかい)なのか、判断能力があるのにたまたま線路に出たのかは医学的にも判断できず、法律で問うこと自体に限界がある。24時間の見守りは、自宅介護の場合だけでなく、グループホームや施設でもできない。それを求めれば、拘束したり閉じ込めたりになりかねず、人権侵害につながる」と指摘する。
 「釧路地区障害老人を支える会(たんぽぽの会)」の岩渕雅子会長も「介護に携わっていなかった親族は責任を問われず、介護した家族が責任を問われるのでは誰も介護をしなくなる。認知症の人が外に出ないように、家族が外から五寸くぎを打ち付けて介護していた時代に戻ったら困る」と言う。
 北海道釧路市では20年前から、行方不明の認知症の人を地域ぐるみで捜索・保護するネットワークをつくってきた。今は行方不明者が出ると、警察が保健所や福祉事業所、連合町内会やラジオ局、ハイヤー協会、トラック協会など約360団体に呼び掛け、地域ぐるみで捜す。
 しかし、事故をゼロにするのは困難だ。岩渕会長は「鉄道事故が起きれば鉄道会社も経済的な負担を負う。それを会社が負うのもおかしい。認知症の人が交通事故に遭い、ひいた人が罪を問われるのも困る。新たなシステムづくりが必要だと思う」。
 別のある自治体では実際に見守りをしていた認知症の女性を事故で亡くした。女性は日に複数回の神社の掃除が日課。家族や自治体は女性が盛夏に脱水で倒れることを心配してチラシを作成。家から神社への道沿いの公的機関や地域の人に働き掛けて女性を見守り、行方不明になったら連絡網で捜す仕組みをつくった。しかし、うまくいっているかに見えた2年後、女性は事故で死亡した。
 職員の中からは「在宅にこだわり過ぎた結果ではないのか」との声も出た。しかし、取り組みをするまでには、本人の意思をおもんぱかり、家族にどう暮らしたいかを確かめ、自治体の地域包括支援センターや福祉職が連携し、周囲でできることを検討し、地域で共通認識をつくって取り組んだ経緯がある。
 事故後も家族の気持ちを聞き、地域の人の意見を聞き、関係者間で話し合った。「本人の意思には添えた。それをもって良しとするしかない」(同自治体職員)と結論付けた。
 取り組みをやめれば楽だし、家族の介護負担を一緒に担わなくても自治体は責任を問われない。だが、今も取り組みを進める。認知症になっても、それ以前と変わらぬ暮らしができる町にするのが願いだ。
 「本当にあれで良かったのか、今も整理がつかない。しかし、プロセスを丁寧に積み上げ、関係者の合意で意思決定をした。これで良いというやり方はない。今後も一件一件、個別に考えて対応していくしかない」(同)と話している。
 □社会で保障する仕組みを
 認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長の話「認知症の人を地域で支えるには、理解と合意を積み上げて行動を起こすのが回り道に見えて最短の道だ。鉄道会社にも見守りのネットワークに参加してもらうことで網の目は細かくなっていく。それでも事故は起こる。個人や鉄道会社にのみ責任を負わせるのではなく、鉄道事故や自動車事故などで生じる損害は社会で保障する仕組みが必要。判決を機に、社会的な見守りや支え合いの合意をつくり、損害をどう分かち合うかを議論し、人と費用と制度の重層的な支えをつくっていく必要がある」

◆2013/11/23 「認知症男性の電車事故 遺族側「賠償見直しを」」
 『中日新聞』朝刊2013年11月23日

 「愛知県大府市の認知症の男性=当時(91)=が電車にはねられたのは家族が見守り を怠ったからだとして、JR東海が遺族5人に対し、電車の遅延の賠償金約720万円を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が22日、名古屋高裁であった。一審は遺族に全額の支払いを命じたため、遺族が控訴。JR側は控訴棄却を求めた。
 遺族側は控訴理由で、事故当日まで、同居の妻らが目を離した隙に男性が1人で外出して行方不明になったことはなく、予見可能性はなかったと主張。線路への侵入防止対策を十分に取らないまま、JR側が遺族にだけ賠償請求するのはおかしいと訴えた。
 8月の一審名古屋地裁判決によると、男性は2007年12月、同居の当時85歳の妻がまどろむ間に外出。大府市のJR東海道線共和駅で線路に入り、電車にはねられ死亡した。地裁は、医師の診断書などから徘徊(はいかい)は予見できたとし、妻らの注意義務違反を認定した。」

◆2013/12/11 「認知症の人の徘徊は防ぎきれない 家族に責任を押し付けた一審判決は取り消すべき――認知症列車事故 名古屋地裁判決に対する見解」
 2013 年12 月11 日 公益社団法人 認知症の人と家族の会
 http://www.alzheimer.or.jp/webfile/nagoyahanketukenkai.pdf

◆2014/01/12 「認知症:115人鉄道事故死 遺族に賠償請求も」
 毎日新聞 2014年01月12日 03時00分(最終更新 01月12日 04時19分)
 http://mainichi.jp/select/news/20140112k0000m040087000c.html

 図:認知症の人の事故と鉄道会社の対応例[一部略・以下片岡さんによる]
※片岡注 図の貼り付けで、事故年月・鉄道会社・遺族への請求額・運休本数・影響人員の表がある。
合計10の対応例で、運休本数・影響人員を除いた部分を編集して記す。
07.12 JR東海 720万円
09.05 JR九州 請求なし
10.09 JR東日本 請求なし
11.01 JR西日本 請求なし
11.07 JR北海道 請求なし
05.12 名鉄 80万円
09.11 南海 請求なし
11.06 東武 16万円
12.03 東武 137万円
13.01 近鉄 80万円

 認知症またはその疑いのある人が列車にはねられるなどした鉄道事故が、2012年度までの8年間で少なくとも149件あり、115人が死亡していたことが分かった。事故後、複数の鉄道会社がダイヤの乱れなどで生じた損害を遺族に賠償請求していたことも判明した。当事者に責任能力がないとみられる事故で、どう安全対策を図り、誰が損害について負担すべきか、超高齢社会に新たな課題が浮上している。
 鉄道事故については各社が国土交通省に届け出て、同省は「運転事故等整理表」を作成している。毎日新聞は情報公開請求で得た整理表と各事故の警察発表などから、「認知症」という言葉が介護保険法改正で取り入れられた05年度以降の事例を調べた。当事者が認知症であることを記載していない届け出も多く、件数はさらに膨らむ可能性がある。
 事故の多くは認知症による徘徊(はいかい)や、危険性を認識しないまま、フェンスなどの囲いがない場所や踏切から線路に入って起きたとみられる。線路を数百メートルにわたって歩いた人や、通常は立ち入れない鉄橋やトンネルで事故に遭った人もいた。
 08年1月に大阪市で当時73歳の女性が死亡した事故では、駅ホームの端にある職員用の鉄柵扉から入り線路に下りた可能性がある。本人がGPS(全地球測位システム)発信器を身につけていたが、間に合わなかった死亡事故もあった。
 認知症の人による鉄道事故を巡っては、名古屋地裁判決が昨年8月、「家族が見守りを怠った」というJR東海の主張を認めて約720万円の賠償を遺族に命じた(遺族側が控訴)。家族会などからは「一瞬の隙(すき)なく見守るのは不可能。判決通り重い責任を負うなら在宅介護はできなくなる」と不安の声が上がっている。
 毎日新聞はJR東海の事故を含め、被害者の氏名や所在地が判明した9社10件の事故について、遺族や関係者に話を聞いた。
 遺族によると、係争中のJR東海のほか、東武鉄道が2件、近畿日本鉄道と名古屋鉄道が各1件で約16万〜137万円を請求していた。約137万円のケースでは会社側が事故で生じた社員の時間外賃金や振り替え輸送費などを求めていた。この事故を含む2件は双方の協議で減額されたが、4件とも遺族側が賠償金を支払っている。
 他の5件は北海道、東日本、西日本、九州のJR4社と南海電鉄の事故で、いずれも請求なしだった。遺族によると、JR東日本は「認知症と確認できたので請求しない」、南海は「約130万円の損害が出たが請求しない」と伝えてきた。JR東日本は「そういった伝え方はしていない。事実関係に基づき検討し、請求を見合わせたのは事実」、南海は「回答は控えたい」とコメントした。JR各社で請求しないケースが目立つ一方、他社では「原則請求」の対応が少なくないとみられる。
 12年度の鉄道事故死者数は295人、統計上別区分の自殺は631件だった。【山田泰蔵、銭場裕司】

 ◇認知症
 脳血管や脳細胞の障害で記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障が生じる程度に至った状態。以前は「痴呆」と呼ばれたが、侮蔑的で誤解を招きやすいとの理由で2004年12月、厚生労働省が行政用語を変更した。12年の患者数は「予備軍」と呼ばれる軽度認知障害の人(約400万人)を含めて約862万人に上ると推計され、高齢者の4人に1人に上るとみられる。

 ◇「個人賠償責任保険」などで損害対応できる可能性
 日本損害保険協会によると、遺族は「個人賠償責任保険」などと呼ばれる保険で損害に対応できる可能性がある。自動車保険や火災保険の特約として契約され、保険料は年数千円程度。ただし補償例が「ボールで人家の窓を割った」「飼い犬が人にけがをさせた」などと記載され、鉄道事故を対象と考えない人もいるとみられる。
 協会は「種類により対象になる場合とならない場合があるので詳しくは保険会社に相談してほしい」と話している。」

◆2014/01/12 「認知症:鉄道事故死遺族ら「24時間見守りなんて無理」」
 毎日新聞 2014年01月12日 04時00分(最終更新 01月12日 04時19分)
 http://mainichi.jp/select/news/20140112k0000m040089000c.html

 写真:東武東上線川越駅近くの踏切で、伊藤敦子さんは右奥から手前に渡ろうとして電車にはねられ亡くなった=松下英志撮影

 「在宅介護に取り組み家族を失った各地の遺族が、予期せぬ賠償請求に直面している。認知症の人の鉄道事故。予防や安全対策が追いつかない中、遺族の監督責任だけが問われる事態に、「できるだけ住み慣れた地域で」という国の認知症施策は課題を突きつけられている。【銭場裕司、山田泰蔵、松下英志】
 2012年3月6日夕、埼玉県川越市の伊藤貞二(ていじ)さん(78)宅に近くに住む長女(44)が立ち寄り、首をかしげた。「お母さんは?」
 「寝ているだろ」。伊藤さんはそう答えて隣室の寝床をのぞいたが、妻敦子さん(当時75歳)の姿はない。悪い予感がした。まだ肌寒いのにコートは置かれ、必ず身に着けさせていたGPS(全地球測位システム)付きの携帯電話や名前と連絡先を書いた「迷子札」も布団に残っていた。
 予感は当たってしまった。敦子さんは自宅から約15分の東武東上線川越駅そばの踏切で、電車にはねられ死亡した。
 高度経済成長期に自動車部品工場で職場結婚して50年近く。敦子さんは孫ができたころから物忘れが目立ち、70歳を過ぎて近くの病院で胃がんを手術した際、「麻酔で症状が悪くなることがある」と告げられた。退院後、近くのスーパーから1人で帰れなくなり、事故の1年半ほど前に認知症と診断された。
 週に1度ほど徘徊(はいかい)があり、時折、道が分からなくなることはあったが、大声を上げたり排せつで困らせたりすることはない。要介護度は「部分的介護が必要」とされる「2」。施設に入れるほどではなく、デイサービスも利用しながら、敦子さんは住み慣れた家で穏やかに暮らしていた。
 事故当日は伊藤さんが自治会の用事で出掛けた直後、外に出たらしい。がんを手術した病院の近くで見たという人がおり、そこへ行こうとしたのかもしれない。伊藤さんは帰宅後、妻の不在に1時間ほど気付かなかった。
 「もう少し早く気付いていれば……」。悔いは残るが「できる限りのことはした」という思いはある。就寝時は部屋の出入り口で横になり、妻がトイレに立つ度に起きて見守った。近くの孫も一緒に外出する際、常に敦子さんと手をつないで注意を払ってくれた。万一に備え近所にも症状を隠さず伝えていた。
 事故の約2カ月後、東武鉄道から損害賠償を求める連絡が来た。請求は137万円余。年金暮らしの身にはとても払えない。相談した弁護士の尽力のおかげか、最終的に東武鉄道は事故対応でかかった人件費など自社分の請求を放棄。JRやバスなど他社への代替輸送分63万円余を支払うことで和解が成立したが、伊藤さんは「鉄道会社もどうすれば事故を防げるか考えてほしい」と思う。
 同種事故の裁判で、遺族に賠償を命じた名古屋地裁の判決(昨年8月)は「目を離さず見守ることを怠った過失」を認定した。伊藤さんは「介護実態に合わない」と怒りを覚える。「鍵をかけて柱にでも縛ってないと、24時間ずっと(の見守り)なんて無理。でも縛るのは虐待だ。判決通りだと買い物一つできなくなる。介護する人は一体どうすればいいのか」

 ◇「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事の話
 公共的な存在の鉄道会社が、社会問題でもある介護の難しさを考慮せずに賠償を求めるのは問題だ。家族も鉄道会社も事故は100%防げない。損害が補償される公的な制度を検討してほしい。

 ◇鉄道事故に詳しい関西大社会安全学部の安部誠治教授の話
 遺族に未請求の会社は認知症を考慮した可能性があり、妥当な対応だ。ただし、高齢化で将来事故が増えると会社だけに損害を負わせるのは酷だ。社会全体で対策を議論する必要がある。」

 
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■■文献

■1970

◆有吉 佐和子 19720610 『恍惚の人』,新潮社,312p. ASIN: B000J95OE4 690 [amazon] ※ →19820525(文庫版)→20030225 『恍惚の人』(52刷改版),新潮社,新潮文庫,437p. ISBN-10:4101132186 ISBN-13:9784101132181 660 [amazon]


■1980

浜田 晋 19820515 『このいとしきぼけ老人たち』,日本看護協会出版会,174p. 1000 ※ **
◆福永 哲也 編 198309 『ぼけ老人の家庭看護』,家の光協会,254p. 1100
◆中島 紀恵子・石川 民雄 198311 『ぼけ――理解と看護』,時事通信社,262p. 1300
◆東京都老人総合研究所 198503 『小金井市における痴呆老人実態調査と訪問看護に関する報告書』,東京都老人総合研究所看護学研究室,74p.

■1990

◆大渕 律子 19931215 「痴呆性老人を抱える家族援助と訪問看護」,上田敏・大塚俊男編[1993:205-221] 千葉社4738-04
出口 泰靖 19970530 「「痴呆」にまつわる現象の「臨床社会学的」エッセイ:その一――「痴呆性老人」とのコミュニケーションの断絶とバーチャル・リアリティ」,『オープンフォーラム』02:09-12
小沢 勲 199806 『痴呆老人からみた世界――老年期痴呆の精神病理』,岩崎学術出版社,258p. ISBN:4-7533-9807-2 3150 [amazon] ※
◆前田 泰樹 19981122 「医療場面における情緒をめぐるやりとりの分析可能性について――痴呆に関する問診場面の相互行為分析」,日本社会学会第71回大会報告 
出口 泰靖 199811 「「痴呆性老人」の「幼児扱い」に関する一考察――施設ケアにおける処遇の実情と問題解決の可能性」,『老人生活研究』(老人生活研究所)1998-11
出口 泰靖 199811 「自分がおかしいという「病感」あり症状に隠された「わけ」の理解を」
 『ばんぶう』(日本医療企画)1998-11:118-119
出口 泰靖 1998 「「呆けそゆく」人びとの「呆けゆくこと」体験における意味世界への接近――相互行為的な「バイオグラフィカル・ワーク」を手がかりに」,『社会福祉学』(日本社会福祉学会)39-2
出口 泰靖 1998 「「呆けゆくこと」体験の研究における可能性とその方法」
出口 泰靖 1998 「「呆けゆくこと」に対する歴史・文化・社会的「まなざし」――「痴呆性老人」と介護者との相互作用における臨床社会学的研究」,(財)明治生命厚生事業団編『第4回「健康文化」研究助成論文集』91-113
出口 泰靖 199910 「呆けゆくこと」における「気づきの文脈」と「呆けゆく」本人にとってのサポーティブ・ケアに関する考察」
 第72回日本社会学会大会報告
◆長谷川 和夫(聖マリアンナ大学副学長)×武藤 香織 199912 「対談:わが国のアルツハイマー型痴呆のこれから――老いと痴呆にやさしい社会の実現をめざして」,『CLINICIAN』46(486):8-28.

■2000

新村 拓 20020725 『痴呆老人の歴史――揺れる老いのかたち』,法政大学出版局,202p. 2200 ※ * a
天田 城介 20030228 『<老い衰えゆくこと>の社会学』,多賀出版,595p. ISBN:4-8115-6361-1 8500 [amazon][bk1] ※ **
cf.立岩 真也 2004/02/01 「二〇〇三年読書アンケート」,『みすず』46-1(2004-1・2)
cf.立岩 2006/03/25 「天田城介の本・1」(医療と社会ブックガイド・58),『看護教育』47-03(2006-03):-(医学書院)

小沢 勲 20030718 『痴呆を生きるということ』,岩波新書新赤0847,223p. ISBN:4-00-430847-X 777 [amazon] ※
天田 城介 20040330 『老い衰えゆく自己の/と自由――高齢者ケアの社会学的実践論・当事者論』,ハーベスト社,394p. ISBN:4-938551-68-3 3800 [amazon][bk1] ※ **
◆小澤 勲・土本 亜理子 200409 『物語としての痴呆ケア』,三輪書店,309p. ISBN: 4895902153 [amazon]
◆小澤 勲 20050318 『認知症とは何か』,岩波新書・新赤版942,208p. ISBN4-00-430942-5 C0247735(700+) [amazon]
◆小澤 勲・黒川 由紀子 20060120 『認知症と診断されたあなたへ』,医学書院,136p. ISBN: 4-260-00220-1 1600 [boople][amazon] ※ a06 b01,
◆小澤 勲 20060501 『ケアってなんだろう』,医学書院,300p ISBN: 4-260-00266-X 2000 [amazon][kinokuniya][boople]※ a06 b01 c06,


出口 泰靖 20000530 「「呆けゆく」人のかたわら(床)に臨む――「痴呆性老人」ケアのフィールドワーク」,好井・桜井編[2000:194-211]*
*好井 裕明・桜井 厚 編 20000530 『フィールドワークの経験』,せりか書房,248p. 2400
出口 泰靖 20010730 「「呆けゆく」体験の臨床社会学」,野口・大村編[2001:141-170]*
*野口 裕二・大村 英昭 編 20010730 『臨床社会学の実践』,有斐閣選書1646,318+ivp. 2000 ※
武藤 香織・小倉 康嗣 200006 「現代日本人のぼけ観に関する調査研究」,『CLINICIAN』47(491):73-75
◆阿保 順子 20040220 『痴呆老人が創造する世界』,岩波書店,207p. ISBN-10: 4000238213 ISBN-13: 978-4000238212 1700+ [amazon][kinokuniya] ※ m. a06. b01.
◆井口 高志 20070630 『認知症家族介護を生きる――新しい認知症ケア時代の臨床社会学』,東信堂 335p. ISBN-10: 4887137680 ISBN-13: 978-4887137684 \4410 [amazon] ※
◆山口 貴美子 20090610 『夫が認知症になった』,ライフサポート社,206p. ISBN-10: 4904084098 ISBN-13: 978-4904084090 \1680 [amazon][kinokuniya] ※ a06 b01
◆浅野 弘毅・阿保 順子 編 20100725 『高齢者の妄想――老いの孤独の一側面』,批評社,メンタルヘルス・ライブラリー26,136p. ISBN-10: 4826505299 ISBN-13: 978-4826505291 1600+ [amazon][kinokuniya] ※ m. a06. b01.


 
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◆立岩 真也 2002/07/25 「出口泰靖・野口裕二」(医療と社会 ブックガイド・18),『看護教育』2002-07(医学書院)
◆立岩 真也 2006/03/25 「天田城介の本・1」(医療と社会 ブックガイド・58),『看護教育』47-03(2006-03):-(医学書院)
◆立岩 真也 2006/04/25 「『認知症と診断されたあなたへ』」(医療と社会ブックガイド・59),『看護教育』47-04(2006-04):-(医学書院)[了:20060227]
◆立岩 真也 2006/05/25 「次に何を書くかについて――天田城介の本・2」(医療と社会ブックガイド・60),『看護教育』47-05(2006-05):-(医学書院)[了:20060322]
◆立岩 真也 2006/06/25 「『ケアってなんだろう』」(医療と社会ブックガイド・61),『看護教育』47-06(2006-06):-(医学書院)[了:20060428]
◆立岩 真也 2006/07/25 「『ケアってなんだろう』・2」(医療と社会ブックガイド・62),『看護教育』47-07(2006-07):-(医学書院)[了:20060528]


 
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■アルツハイマー

◆2001/05/22
 <アルツハイマー病>脳神経細胞死を防ぐ遺伝子発見 慶大教授
◆2001/05/25
 アルツハイマー病の原因仮説、理研グループ発表へ
◆2001/08/12 「遺伝子治療の臨床実験に成功=アルツハイマー病の治療法確立も−英紙」
 時事通信ニュース速報 →遺伝子治療

◆2001/05/22

脳細胞の死防ぐ遺伝子 アルツハイマー病治療に光 慶応大教
共同通信ニュース速報

 【ワシントン21日共同】アルツハイマー病の原因である脳細胞の死を防ぐ物質を作る遺伝子を、西本征央慶応大医学部教授などのグループが発見、二十二日 付の米科学アカデミー紀要に発表した。 まだ、細胞レベルの実験だが、将来的にアルツハイマー病の治療
法の開発につながる成果だという。
 研究グループは、アルツハイマー病の患者の脳細胞の中でも、死なない細胞があることに注目し、この中で働いている遺伝子を探索した。見つかった遺伝子の 一つに、アルツハイマー病と深い関連があるとされる三種類の遺伝子の異常によって起こる脳細胞の死を防
ぐ効果があることを突き止めた。
 見つかった遺伝子は、アミノ酸二十四個から成る物質を作る遺伝子。この物質はごく微量でアルツハイマー病患者に特有のベータアミロイドという物質の沈着 による脳細胞の死を防ぐ働きがあることも分かった。
 この遺伝子は、人間のさまざまな臓器で発現していたが、これまでは知られておらず、グループはこの遺伝子がつくる物質を「ヒューマニン」と名付けた。
 グループは「生体内での反応や持続性、毒性など今後の研究課題は多いが、脳細胞を守るという観点からの新しいアルツハイマー病治療法開発の出発点となり うる」としている。
(了)
[2001-05-22-09:07]

05/22 06:15 <アルツハイマー病>脳神経細胞死を防ぐ遺伝子発見 慶大教授
毎日新聞ニュース速報
 アルツハイマー病の原因となっている脳の神経細胞の死を防ぐ遺伝子を、西本征央(いくお)・慶応大医学部教授(薬理学)らの国際研究グループが世界で初 めて発見した。難病のアルツハイマー病は、最初の患者が報告されてから約100年がたつが、この成果は根本的な治療につながる可能性もあるという。22日 付の米科学アカデミー紀要に発表された。
 アルツハイマー病は、複数の遺伝子に異変が起きたり、「ベータアミロイド」という特殊なたんぱく質が脳内に蓄積して神経細胞が死んでいき、痴呆症が進行 する。世界の治療法の研究は、ベータアミロイドを除去したり、その生成を抑える方法が主流だが、同研究グループは神経細胞の死そのものを防ぐ方法はないかと考えた。
 アルツハイマー病患者の脳で、「後頭葉」という部分の神経細胞がほとんど死なないことに注目し、後頭葉の神経細胞で働いている遺伝子を探す方法を開発。その結果、数十種類の遺伝子を特定し、その中の一つが、アルツハイマー病による神経細胞の死を防ぐことが分かった。この遺伝子は24個のアミノ酸で構成され、研究グループは「ヒューマニン」と名付けた。マウスの脳から取り出した神経細胞にベータアミロイドを蓄積させる際、この遺伝子が作り出すたんぱく質を加えたところ、ごく微量でも神経細胞は死ななくなった。
 西本教授は「脳には一部の機能が失われても代替する能力が備わっている。ヒューマニンは微量の投与で効果を持ち、新薬の開発も十分可能だ」と話している。 【田中泰義】

 アルツハイマー病に詳しい国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の田平武センター長の話 画期的な成果で、治療を大きく前進させるだろう。試験管内での結果で、このたんぱく質をどのように脳内に入れるのかなどの課題は残されている。また、生死を繰り返している神経細胞が死なず増え続けると、がん化が懸念される。安全性、技術面での課題は残されている。
[2001-05-22-06:15]

05/22 06:09 読: アルツハイマー病防ぐ物質を発見
読売新聞ニュース速報

 アルツハイマー病による脳神経の細胞の死滅を防ぐ物質を、慶応大医学部の西本征央教授らが突き止めました。
 原因遺伝子は3種類見つかっていますが、すべてのケースで死滅を防ぐ物質が見つかったのは初めてで、治療薬開発につながる可能性があるということです。
[2001-05-22-06:09]

05/22 06:06 読: アルツハイマー病の発症防ぐ物質を発見
読売新聞ニュース速報

 アルツハイマー病の原因遺伝子による脳神経細胞の死滅を防ぐ物質を、慶応大医学部の西本征央教授らが突き止めた。二十二日発行の米科学アカデミー紀要に 掲載される。アルツハイマー病は、脳神経の細胞が死滅し、脳が委縮、痴ほう症状が出る病気。その原因遺伝子は、いくつか見つかっているが、すべてのケース で死滅を防ぐ物質が見つかったのは初めて。治療薬開発につながる可能性があるという。
 この物質はヒューマニン(HN)と呼ばれ、二十四個のアミノ酸からなる小さなたんぱく質。西本教授らは、アルツハイマー病になっても脳の後頭葉はほとん ど委縮しないことに着目、患者の後頭葉の遺伝子からHNを作る遺伝子を見つけた。
 研究では、HNをごく微量加えたマウスの脳神経細胞と、HNを加えていない細胞とを比較。両方の細胞でアルツハイマーの原因遺伝子を働かせたところ、 HNを加えていない細胞はすべて死滅したが、HNを加えた細胞は100%生き残った。西本教授は「働くメカニズムは不明だが、ごく微量で効果があり、注射 などによる治療につながると期待できる」という。
 また、細胞に沈着して死滅させる物質で、この病気の原因の一つと考えられているβアミロイドを使った実験でも、HNを加えた細胞のみ生き残った。西本教 授は既にHN遺伝子の特許を申請しており、今後は動物を使ってメカニズムなどを解明していくという。
 アルツハイマー病には、四十〜六十五歳ぐらいで発症する若年性のものと、六十五歳以上で起こる老年性のものとがある。原因遺伝子に異常がある人は、若く してアルツハイマー病を発症する。国内の患者は約百万人、世界では一千万人以上といわれている。
 治療法や新薬の開発では、βアミロイドを作る酵素の研究などを中心に、各国の研究者がしのぎを削っている。
 症状の進行を遅らせる薬は臨床応用されているが、根治させる治療法はまだ開発されていない。米国では、βアミロイドの働きを封じ、記憶力を改善させる 「ワクチン」開発などの試みも始まっている。
 国立療養所中部病院長寿医療研究センターの田平武所長の話「アルツハイマー病による細胞死だけを特異的に防ぐ物質は例がない。HNのように小さな物質は 脳に届きやすく、有効な薬となる可能性が高い。今後は、動物実験を踏まえ、人間での効果を確かめる必要があるだろう」
[2001-05-22-06:06]

 

◆2001/05/25
アルツハイマー病の原因仮説、理研グループ発表へ
『朝日新聞』
http://www.asahi.com/

 脳の中にたまった不要なたんぱく質を分解する清掃係の働きが悪くなると、老人の痴ほうを起こすアルツハイマー病になる――。こうした可能性が高いことを 示す研究結果を、理化学研究所脳科学総合研究センターの西道隆臣・チームリーダーらが25日発行の米科学誌サイエンスに発表する。
 アルツハイマー病患者の脳の中では、βアミロイドというたんぱく質が異常にたまることが知られている。このたんぱく質は正常な人にもあるが、すみやかに 分解されると考えられている。
 西道さんらは、ネプリライシンというたんぱく質がβアミロイドを分解しているという仮説を立て、遺伝子操作で、ネプリライシンができなくしたネズミを 作った。
 その結果、βアミロイドの量が正常なネズミの約2倍になっていることを確認した。ネプリライシンの量が約半分になるように操作したマウスでも、βアミロ イドの分解が抑制された。ネプリライシンの量が増えるほどβアミロイドの量が減る関係があることもわかった。
 「分解の働きを妨げるものはアルツハイマー病の危険因子になる可能性がある。発症前のリスク予想もできるようになるのではないか」と西道リーダーは話 す。
[2001-05-25-09:12]

2001/05/25 07:46 脳内酵素が発症遅らせる アルツハイマー病 理研で究明
共同通信ニュース速報

 脳内でつくられる「ネプリライシン」と呼ばれる分解酵素が、アルツハイマー病の発症や進行を遅らせるのに中心的な役割を果たしていることを、理化学研究 所・脳科学総合研究センター(埼玉県和光市)の西道隆臣チームリーダーらの研究チームが動物実験で突き
止め、二十五日付の米科学誌サイエンスに発表した。
 この酵素は、脳に蓄積すると脳細胞を破壊するベータアミロイドと呼ばれる物質を分解する作用があることが知られていたが、今回脳内で、その“掃除”作用 が発症や進行具合に重要なカギを握っていることを明らかにした。
 酵素の活性を調べることで、発症の危険度が分かり予防に役立つほか、遺伝子治療への応用が期待される成果として注目される。
 理研チームは、遺伝的にこの酵素をつくれないようにしたマウスと正常なマウスを使って、脳内のベータアミロイドの分解過程を比較。その結果、酵素の有無 により、分解能力に最大で二倍もの差があることが分かった。
 また片方の親から、酵素の遺伝子異常を受け継いだだけでも、正常なマウスよりやや分解能力が落ちることも確認。これにより一見健康な人の中にも、発症リ スクが高い人が含まれている可能性が示された。
 大部分のアルツハイマー病患者は、脳内のベータアミロイドの量が健康な人と変わらず、どのような原因で発症するか不明だった。
 今回の研究は、生まれつき酵素活性が低い潜在的な患者グループが存在し、老化に伴ってベータアミロイドを掃除しきれなくなる新たな発症メカニズムを示唆 するという。遺伝子レベルでの解明が進めば、酵素活性が落ちた患者に対する遺伝子治療も可能になるとみ
られている。
(了)
[2001-05-25-07:46]

アルツハイマー病の原因遺伝子を特定
読売新聞ニュース速報

 アルツハイマー病の発症の原因になる遺伝子を理化学研究所の西道隆臣チームリーダーらの研究チームが突き止めた。これまでもアルツハイマー病に関係する 遺伝子は見つかっているが、九割以上を占める老年性アルツハイマー病の発症に強くかかわる遺伝子が特定されたのは初めて。治療薬の開発や早期診断につなが るものと期待される。
 アルツハイマー病は、βアミロイドという物質が、記憶にかかわる海馬や大脳皮質の部分に沈着することで神経細胞が死滅し、発症すると考えられている。
 研究チームは、ネプリライシンという遺伝子の作るたんぱく質が、このβアミロイドを分解する働きを持つことをマウスの実験で解明した。ネプリライシンの 働きを、アルツハイマー病の患者と健康な人の脳で比べたところ、患者の脳では半分程度に弱まっていることが別の研究で確かめられている。この遺伝子の働き が加齢とともに弱まり、βアミロイドがたまって発症につながったと見られる。
 若年性のアルツハイマー病は、βアミロイドを過剰に作り出すような遺伝子の変異が原因になることがわかっている。しかし六十五歳以上で起こる老年性で は、βアミロイドが作られる量は変わらず、原因がわかっていなかった。
[2001-05-25-03:05]

◆2002/01/09 「アルツハイマー病起こす物質特定 阪大チーム」
 朝日新聞ニュース速報

 「85歳以上の5人に1人がかかるといわれるアルツハイマー病を起こすたんぱく質を、大阪大の研究チームが見つけた。このたんぱく質が遺伝情報を伝達中 にゆがめることで、脳の神経細胞の死を招く。チームは、製薬会社と連携して診断・治療薬の開発を始めた。
 このたんぱく質は「HMG−I」。健康な人の細胞中にもあり、本来はDNAに作用する。
 阪大大学院医学系研究科の片山泰一・助手と博士課程の真部孝幸さんは、神経細胞を酸素がほとんどない状態にしばらく置くと、細胞死を起こす変異型プレセ ニリン2(PS2)というたんぱく質を作り始めることに着目した。
 PS2を作れ、という指令を伝える遺伝子(mRNA)を調べたら、HMG−IがmRNAの原型となる物質にくっついて、変異型PS2を作る指令に変えて いることが分かった。HMG−IがmRNAにくっつかないようにすると、変異型PS2もできなくなった。
 死亡したアルツハイマー病患者17人の脳を調べたら、全員に変異型PS2があった。
 片山助手は「ごく小さな脳こうそくなどで脳細胞が低酸素状態になると、HMG−Iが異常に増え、アルツハイマー病をひき起こしていると考えられる」と話 す。
 HMG−Iを量れば、アルツハイマー病の早期診断ができ、過剰なHMG−IがmRNAにくっつかないようにすれば病気の進行を止めることができる可能性 がある。」
[2002-01-09-20:08]
◇大阪大学大学院医学系研究科プロセッシング機能形態分野
 http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/anat2/index.html


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