last update: 20130411
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ます。
◆ALS・2012
■新聞記事見出し
◆2012/10/08 「田中文科相:iPS研究所を視察」
『毎日新聞』
◆2012/10/08 「田中文科相:iPS研視察」
『毎日新聞』
◆2012/10/09 「応用、世界が競う iPS細胞、実用化には時間 山中教授ノーベル賞」
『朝日新聞』
◆2012/10/09 「山中教授ノーベル賞 難病治療へ熱い思い 昨年1月 大津で講演=滋賀」
『読売新聞』
◆2012/10/09 「山中教授ノーベル賞 2度の挫折、挑戦生んだ」
『読売新聞』
◆2012/10/09 「山中氏ノーベル賞――筋無力症など、難病患者団体「快挙だ」、治療へ道切望の声。」
『日本経済新聞』
◆2012/10/09 「山中氏ノーベル賞、難病患者に希望の光――「治療薬信じ前向きに」。」
『日本経済新聞』
◆2012/10/09 「クローズアップ2012:山中氏にノーベル賞 再生医療研究を加速/安全性と倫理に課題(その1)」
『毎日新聞』
◆2012/10/09 「クローズアップ2012:山中氏にノーベル賞(その1) 国内外、広がる研究 異例6年で受賞、再生医療に期待」
『毎日新聞』
◆2012/10/10 「iPS基金へ善意次々 ノーベル賞決定後 若手研究者支援に活用」
『読売新聞』
◆2012/10/11 「iPS心筋を移植 初の臨床応用 心不全患者に=訂正あり、続報注意」
『読売新聞』
◆2012/10/12 「基礎からわかるiPS細胞の未来=特集」
『読売新聞』
◆2012/10/12 「ノーベル賞:医学生理学賞に山中氏 研究にネット寄付倍増 受賞後3日で1000万円」
『毎日新聞』
◆2012/10/17 「(声)難病ALS、きっと治療可能に」
『朝日新聞』
◆2012/10/22 「第1回日本医学ジャーナリスト協会賞記念シンポジウム」
『読売新聞』
◆2012/10/22 「ノーベル賞・山中伸弥教授インタビュー 網膜移植「技術は確立」」
『読売新聞』
◆2012/10/23 「再生医療実現 国に責務 民自公 臨時国会に推進法案」
『読売新聞』
◆2012/10/23 「在宅障害者 震災の爪痕 介護者不足 生活にも支障」
『読売新聞』
◆2012/10/24 「難病患者の自宅暮らし 24時間ケア遅れる行政 九州・山口・沖縄実施4%」
『読売新聞』
◆2012/10/28 「医療法人徳洲会理事長・徳田氏、徳之島に帰郷 【西部】」
『朝日新聞』
◆2012/10/28 「徳田虎雄氏が徳之島訪問 伊仙町名誉町民に 島民ら熱い歓迎=鹿児島」
『読売新聞』
◆2012/10/30 「石原都知事にエール 徳田虎雄氏、文字盤使い回答 /鹿児島県」
『朝日新聞』
◆2012/10/30 「重度障害者:在宅医療の研修会 盛岡で介護職員ら100人参加 /岩手」
『毎日新聞』
◆2012/11/01 「山添義隆氏(元長崎女子短大教授)死去=長崎」
『読売新聞』
◆2012/11/01 「徳田虎雄・元衆院議員:9年ぶりの奄美訪問 離島医療への貢献、実感 /鹿児島」
『毎日新聞』
◆2012/11/08 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム 次世代へのメッセージ=特集その1」
『読売新聞』
◆2012/11/09 「ALS患者団体、視線入力をデモ 体への負担少なく好評 /富山県」
『朝日新聞』
◆2012/11/13 「東日本大震災:災害医療研究会が被災地の現状説明 県立医大で報告会 /福島」
『毎日新聞』
◆2012/11/15 「(重度訪問介護 格差の現場:上)この街で生きたいのに 【大阪】」
『朝日新聞』
◆2012/11/15 「啓発活動:難病のALSを知って 患者や支援者ら、チラシ配り募金呼びかけ−−宮崎山形屋前 /宮崎」
『毎日新聞』
◆2012/11/16 「くらしの明日:私の社会保障論 ALSになった記者の「意地」=大熊由紀子」
『毎日新聞』
◆2012/11/17 「(ニュースのおさらい ジュニア向け)iPS細胞は何がすごいの?」
『朝日新聞』
◆2012/11/17 「「今を精一杯生きよう」と思います ALS協会富山支部、体験談集発刊 /北陸・共通」
『朝日新聞』
◆2012/11/17 「憂楽帳:希望の光」
『毎日新聞』
◆2012/11/20 「(重度訪問介護の足元:上)障害者サポート時間、地域で格差」
『朝日新聞』
◆2012/11/20 「筋力低下:原因遺伝子を発見」
『毎日新聞』
◆2012/11/21 「福井県立大学地域経済研究所所長中沢孝夫氏(目利きが選ぶ今週の3冊)」
『日本経済新聞』
◆2012/11/28 「難病ALS患者 宮崎で街頭活動 理解や支援訴え=宮崎」
『読売新聞』
◆2012/11/30 「難病女性、ブログで明るく 絵文字使い発信 ALS患者・下関の大神さん /山口県」
『朝日新聞』
◆2012/12/02 「難病患者の体験談発信 サイト開設 治療法研究に役立てて」
『読売新聞』
◆2012/12/03 「iPS細胞がALSを救う ノーベル賞を喜ぶ「クイズダービー」の篠沢教授」
『朝日新聞』
◆2012/12/08 「徳永装器研究所社長徳永修一氏――技術者魂、介護機器に結実(肖像九州沖縄)」
『日本経済新聞』
◆2012/12/09 「[読者と記者の日曜便]胃ろうの家族 思いやる生活」
『読売新聞』
◆2012/12/10 「京大、神経難病・筋萎縮性側索硬化症の疾患再現に成功」
『プレスリリース サービス』
◆2012/12/11 「京都大学など、ALSのマウス、実験用に作製(Science&Techフラッシュ)」
『日本経済新聞』
◆2012/12/11 「京大、神経難病・筋萎縮性側索硬化症の疾患再現に成功」
『日経速報ニュースアーカイブ』
◆2012/12/14 「(乱流 総選挙)論戦テーマ、まだある 【大阪】」
『朝日新聞』
◆2012/12/15 「ノーベル賞・山中氏が強調する「初心」――「患者救う」強い思い(真相深層)」
『日本経済新聞』
◆2012/12/17 「憂楽帳:笑顔の力」
『毎日新聞』
◆2012/12/18 「理化学研究所、ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見」
『日経速報ニュースアーカイブ』
◆2012/12/18 「理化学研究所、ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見」
『プレスリリース サービス』
◆2012/12/19 「点滴切断の病院、別患者が腕骨折 泉佐野、職員らは虐待否定 【大阪】」
『朝日新聞』
◆2012/12/19 「入院患者の骨折 職員1週間放置 点滴切断の病院」
『読売新聞』
◆2012/12/19 「点滴管切断 同病棟で患者骨折も 泉佐野の病院 昨年10月」
『読売新聞』
◆2012/12/19 「骨折の患者 1週間放置 泉佐野の病院 職員、異変に気付くも」
『読売新聞』
◆2012/12/19 「同じ病棟の患者骨折、点滴チューブ切断。」
『日本経済新聞』
◆2012/12/19 「東大、筋萎縮性側索硬化症ALSの特異的病理変化のメカニズムを解明」
『プレスリリース サービス』
◆2012/12/19 「東大、筋萎縮性側索硬化症ALSの特異的病理変化のメカニズムを解明」
『日経速報ニュースアーカイブ』
◆2012/12/20 「東大、筋萎縮、仕組み解明、難病のALS、神経内、酵素活発に。」
『日経産業新聞』
◆2012/12/25 「深層・再生医療:/4止 幹細胞、進む臨床研究」
『毎日新聞』
◆2012/12/27 「(回顧2012:上)1〜4月 「ニタマ駅長」着任、メガソーラー建設 /和歌山県」
『朝日新聞』
◆2012/12/27 「発展途上国などに200病院、徳洲会グループ・徳田理事長に聞く。」
『日経産業新聞』
◆2012/12/30 「[回顧2012]県立高、PTA費流用 五輪に田中3きょうだい=和歌山」
『読売新聞』
■催しもの、その他
◆2012/10/08 「田中文科相:iPS研究所を視察」
『毎日新聞』
「田中真紀子文部科学相が7日、京都市左京区の京都大iPS細胞研究所を視察した。山中伸弥所長の案内で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を顕微鏡で観察し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療などにつながる最新の研究成果について説明を受けた。
田中文科相はこの日、同市で開かれた「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」年次総会の開会式に出席した後、同研究所を視察。記者団に「日進月歩で研究が進歩している。世界に役立つ技術のために、強弱をつけた予算執行をしたい」と述べた。また、「山中先生の研究分野では若い人が目を輝かせて仕事に打ち込んでいる。好きなことに生きがいを見つけられる教育が大事だ」と話した。【五十嵐和大】」(全文)
◆2012/10/08 「田中文科相:iPS研視察」
『毎日新聞』
「田中真紀子文部科学相が7日、京都市左京区の京都大iPS細胞研究所を視察した。山中伸弥所長の案内で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を顕微鏡で観察し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療などにつながる最新の研究成果について説明を受けた。
田中文科相はこの日、同市で開かれた「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」年次総会の開会式に出席した後、同研究所を視察。記者団に「世界に役立つ技術のために、強弱をつけた予算執行をしたい」と述べた。また、教育行政について「山中先生の研究分野では若い人が目を輝かせて仕事に打ち込んでいる」と話した。【五十嵐和大】」(全文)
◆2012/10/09 「応用、世界が競う iPS細胞、実用化には時間 山中教授ノーベル賞」
『朝日新聞』
「応用、世界が競う iPS細胞、実用化には時間 山中教授ノーベル賞
ヒトiPS細胞の開発から5年。夢の再生医療に向けて、国内外で研究競争が繰り広げられている。新たな課題が浮かぶ一方で、難病の仕組み解明や新薬の開発の研究も進む。日本生まれの技術が大きく育つか。正念場はこれからだ。
●再生医療・難病解明・新薬開発
「脊髄(せきずい)損傷はたった1回の事故でその後の人生は車いすの状態になる。何とかしたい」。今年7月に東京都内で開かれた講演会。山中伸弥・京都大教授は、iPS細胞からつくった神経のもとになる細胞を移植し、脊髄が傷ついたマウスや小型サルに治療効果があったことを紹介した。「ここまで来ているので、患者さんの協力を得て臨床研究を始めたい」と訴えた。
6月の国際幹細胞学会では、ヒトiPS細胞から、横浜市立大のチームが肝臓の立体組織を、東京大のチームがインスリンをつくる膵島(すいとう)をつくったと報告した。肝臓病や糖尿病の治療に期待がかかる。再生医療の扉が開きつつあることを印象付けた。
東京大と京都大のチームは、血小板をつくって止血剤として使う研究を計画する。国内では、失明の恐れがある加齢黄斑変性の臨床試験を理化学研究所などが計画中で、早ければ来年にも始める。
京大チームは今年8月、全身の運動神経が衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者のiPS細胞から運動神経細胞をつくり、治療効果のある化合物を見つけたと発表した。
●「がん化」が課題
ただ、実用化までには、まだ時間がかかりそうだ。iPS研究に詳しい黒木登志夫・元岐阜大学長は「iPS細胞を治療に応用するには、安全性の確認など課題が多い。とくにがん化については、体内のどんな環境に移植すればがん化しないのか、もっと基礎研究や動物実験が必要だ」と話す。
昨年6月、がん化のおそれがある不完全な細胞の増殖を抑える「魔法の遺伝子」(山中さん)が見つかった。しかし、がん化の原因はiPS細胞づくりに使うウイルスなどほかにもある。
技術のめどがついても、患者ごとに本人のiPS細胞を作るのでは時間と費用がかかりすぎる。そのため、京大は拒絶反応を比較的起こしにくい白血球型の人たちの細胞であらかじめつくっておく「iPS細胞ストック」の計画を進めている。75種類集まれば、日本人の80%をカバーできる計算という。
●倫理と制度の壁
新たな倫理的な課題も浮かんできた。
別の京都大のチームが今月、マウスのiPS細胞から卵子をつくり、子を出産させることに成功したと発表した。昨年の精子に続く成果で、雌雄とも体細胞から生命を誕生させることが理論上、可能になった。いずれ、ヒトでも生殖細胞をつくることが視野に入ってきたことで、生命倫理の問題と無縁でなくなった。
制度の整備も追いついていない。細胞シートなどの再生医療製品を実用化するには、審査の前例が少なく、手続きの難航が予想される。早い実用化と安全性確保を両立させる仕組みを求める声が上がっている。
科学技術に詳しい国の総合科学技術会議の前議員、本庶佑(ほんじょたすく)・静岡県立大学理事長は「今回の授賞はあくまで基礎研究に対する評価だ。実際に治療に使えるのか検討が必要で、国は引き続き、基礎研究にも予算を配分していくべきだ。企業なども一体となって、協力、検証する場も重要だ」と話している。
◆日本の受賞者19人目
山中伸弥・京都大教授の受賞決定で、日本のノーベル賞受賞者は19人になる。内訳は文学、平和両賞が3人で、残りの16人は自然科学系3賞(医学生理学、物理学、化学)だ。自然科学系は、2000年から3年連続で受賞者が出た後、08年以降は再び、計7人が輩出する受賞ラッシュとなっている。文科省などによると、米国籍の南部陽一郎さんを除いた日本の自然科学系の受賞者計15人は、世界で6番目に多い。
◆研究費、国も支援
山中伸弥・京都大教授のノーベル賞受賞決定は、これまでの受賞者の多くが30年ほど前の業績だったのと違い、2000年以降を中心とした新しい研究成果によるものだ。国は90年代以降、科学技術予算をほぼ一貫して増やし、国の研究開発の中枢を占める「科学技術振興費」は20年でほぼ3倍に増加。その支援態勢が実を結んだとも言える。
山中さんの研究が花開いた背景にも、03年から5年間にわたり、国から年間5千万円もの研究費が支給されたことがある。
だが、将来は決して明るくない。国と民間を合わせた10年度の科学技術研究費の総額は17兆1100億円で、不況の影響で3年連続で減少中だ。日本は全体の研究費の約7割を企業がまかなう、世界に類のない「民間研究大国」だけに、景気の影響は甚大だ。
若手研究者の「先細り」を心配する声も消えない。
大学の理工系学部の志願者数が90年代半ばから減少傾向にあり、博士課程への進学者数も03年をピークに減り始めた。博士研究者(ポスドク)になったものの、大学や研究機関のポストが限られ、終身雇用の地位になかなか就けない。
海外に出向く若者も少ない。文科省によると、米国で科学・工学の博士号を04〜07年に取得した人は中国が1万5533人、韓国4743人、インド5759人に対して、日本はわずかに897人だ。
◆「全国に勇気」 野田首相
野田佳彦首相は8日、山中教授のノーベル賞受賞決定をうけ「我が国の学術水準の高さを世界に堂々と示すもの。被災地で復興を目指す方々をはじめ全国で数限りない方々が勇気づけられる」との談話を出した。「先生に続くような世界に雄飛する人材を育み、今後とも科学技術の振興に努める」と受賞をたたえた。
【図】
iPS細胞の応用例
日本のノーベル賞受賞者
国別のノーベル賞受賞者数
<グラフィック・石井章>」(全文)
◆2012/10/09 「山中教授ノーベル賞 難病治療へ熱い思い 昨年1月 大津で講演=滋賀」
『読売新聞』
「◆大津の「つどい」で講演
8日、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京都大教授(50)は昨年1月、NPO法人・県難病連絡協議会が大津市内で開いた「難病のつどい」にゲスト出演し、自身が作製したiPS細胞(新型万能細胞)を将来の難病治療につなげたい、との熱い思いを語っていた。この時の講演を聞いた人からは「受賞を契機に一層、研究を加速させてほしい」と、期待と祝福の声が寄せられた。
同協議会は、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など13の患者団体で構成する。講演で山中教授は「皆さん、あと10年待ってください。もっと研究を進めるので希望を失わないで」と真剣な表情で語りかけたという。
当時、同協議会の常務理事を務め、山中教授に講演を依頼した葛城貞三さん(73)(大津市坂本)は「『難病の皆さんに話を聞いてもらいたい』と忙しい中、引き受けて下さった。親しみやすい先生で、受賞は我が事のようにうれしい」と喜んだ。」(全文)
◆2012/10/09 「山中教授ノーベル賞 2度の挫折、挑戦生んだ」
『読売新聞』
「◆心の底から笑える日願う
山中伸弥さんと初めて名刺を交換したのは2007年11月。人のiPS細胞作製を発表した直後だった。すでにノーベル賞の有力候補の一人だったが、応対は丁寧で、さわやかな印象を受けた。
以来、学会や講演会、記者会見の場を何十回と取材した。講演会では、関西人らしく、笑いを誘う巧みな話術から快活な性格だと思っていたが、年々笑顔は少なくなり、硬い表情が増えていることを心配していた。
医学関係の数々の賞を受賞し、「後はノーベル賞を取るだけ」と周囲の期待も重圧になっていたのだろうが、山中さんの表情を曇らせているのは、iPS細胞の臨床応用を一日千秋の思いで待つ、難病患者の存在があるのだと思う。
山中さんの友人の家族が、運動神経が変性し、次第に全身が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した。「いつかiPS細胞でALSを治せる病気にしてほしい」と、遺産の一部を山中さんの研究所に寄付するよう遺言して亡くなった。ある講演会で、この出来事を話そうとした山中さんは涙ぐみ、途中で言葉が続かなくなった。
iPS細胞が難病治療に役立つまでには、まだ何年もの時間がかかる。そうした現実を知り尽くした山中さんは、徐々に笑顔を見せられなくなったのではないか。しかしiPS細胞は、こうした難病で苦しむ世界中の多くの人々に、「希望」の二文字を届けたことは間違いない。
山中さんは8日の記者会見でも、ほとんど笑顔を見せず「本当の意味で、iPS細胞が医学や創薬に役立ったと言えるところに来ていない」と表情を引き締めた。山中さんが心の底から笑える日が一日でも早く来ることを願っている。(科学部 今津博文)
◆不器用な研修医 怒鳴られ…
山中伸弥さん(50)は、臨床医を志しながら挫折するなど、順風満帆な研究者生活を送ってきたわけではなかった。そうした苦労の末にノーベル賞の受賞が決まった山中さんに、生まれ育った大阪や学生時代を過ごした神戸、京都などの同級生や薫陶を受けた弟子の若手研究者から祝福や称賛の声が上がった。
山中さんは、中学、高校で柔道、大学でもラグビーをし、骨折を10回以上経験している。けがが絶えなかったことから神戸大医学部に在学中に「スポーツ外傷の専門医になると決心した」という。
1987年に同大学を卒業した山中さんは、大阪市大の医局を経て、国立大阪病院整形外科(現国立病院機構大阪医療センター)で研修医となった。しかし、不器用な上、点滴に失敗するなど指導医から「お前は邪魔、ジャマナカや」と呼ばれ、毎日、毎日怒鳴られていたという。
講演会などで当時の話をする山中さんは、ユーモアを挟みながらも苦しい胸の内を明かしている。「手術が下手で、他の人なら20?30分でやれる手術に2時間もかかった。研修も修行という感じで、地獄だった」と振り返る。
理想と現実の大きな隔たりにも悩んだ。「整形外科は、手術をして元気になって帰っていくという明るいイメージがあった」が、脊髄損傷など深刻な患者を治せない現実を目の当たりにした。重症患者を救うには「基礎研究をするしかない」と思うようになり、臨床医を諦め、大阪市大大学院の薬理学教室の門をたたいた。これが1度目の挫折だった。
薬理学教室で研究を進め、その後、93年に米国の研究所へ留学した。帰国後、大阪市大で、当時米国で盛んだったマウスのES細胞(胚性幹細胞)の研究を続けようとしたが、研究環境の違いや周囲の無理解から思ったように成果が上がらなかった。気持ちも沈み、2度目の挫折の日々だった。
一時は臨床医に戻ることも考えたが、最後にもう一度、研究に挑戦してみようと、公募中だった奈良先端科学技術大学院大(奈良先端大)の助教授に応募。99年に採用され、iPS細胞研究の礎を築いた。
◆一番弟子高橋さん「科学には妥協許さぬ人」
■弟子
山中さんが、1999年に初めて自分の研究室を持った奈良先端科学技術大学院大から行動を共にしている一番弟子の京都大iPS細胞研究所講師の高橋和利さん(34)は8日夜、渡米を翌日に控えた千葉・成田空港で取材に応じた。「師匠と言っていい先生が受賞したことがすごくうれしい」と喜んだ。
2005年夏、iPS細胞が世界で初めて誕生した瞬間に、当時京大研究員だった高橋さんは立ち会った。
同大学内の実験室で目の前にあるシャーレの上で、おわんのように盛り上がった細胞の塊に「先生、生えました」と叫び声を上げた。
あれから7年。山中さんが、記者会見で高橋さんの働きを高く評価していたことについて「とても光栄。研究は、多くの同僚や後輩との合作であり、だれ一人として欠けていても出来なかった」と、業績を振り返った。また、山中さんとの研究生活は「知識も経験もゼロだったぼくを、一から指導していただいた。普段は優しいが、科学については妥協を許さない厳しさを持った人。尊敬しています」と話した。
■同級生
山中さんとともに大阪教育大付属天王寺中学、高校時代を過ごした級友らにとっても待ちに待った朗報だった。
同じ神戸大に進んだ大阪市西区で鉄製品商社を経営する平田修一さん(50)は高校卒業後、山中さんらと「壱發(いっぱつ)野郎乃會(のかい)」を結成した。大志を抱く酒飲み仲間の集まりだ。「いつかはやると信じていた。自分も負けてられないという思いにさせてくれた」と興奮気味に話した。
参院議員の世耕弘成さん(49)は中学3年の時、自らが生徒会長、山中さんが副会長という間柄だった。「僕は学園祭を盛り上げる段取りに必死だったが、山中は『なぜ学園祭をやるのか』と真剣に考えていた」とふり返った。
山中さんは忙しい研究の合間をみて、今も同窓会などにはこまめに顔を出す。
地元の小学校から高校まで同じだった日本銀行システム技術担当参事役、浅田徹さん(50)は昨年夏、東京から帰省した際、「山中は受験生の息子に『運・不運の波に負けない志を持ちなさい』と声をかけてくれた」といい、当時と変わらない優しさを感じた。
◆「名誉ある賞光栄」 妻・知佳さん
山中さんの妻・知佳さん(50)と母・美奈子さん(81)は、京都大を通してそれぞれコメントを発表した。
知佳さんは「このような名誉ある賞を受賞することになり、大変光栄に思っております。iPS細胞の発見は、山中一人の力ではなしえなかったことです。これまで研究を支えて下さった多くの方々に心から感謝を申し上げます」とした。
美奈子さんも「大変驚いております。息子を支えてくださった方々に心より感謝申し上げます」とした。
写真=大阪教育大付属天王寺高校の卒業アルバム、3年A組の寄せ書きから
写真=高橋和利さん(右端)ら研究室のスタッフと話す山中さん(2007年11月、京都大で)
写真=山中さんの受賞決定を受け、祝杯を上げる高校時代の同級生ら(8日夜、大阪市天王寺区で)=菊政哲也撮影」(全文)
◆2012/10/09 「山中氏ノーベル賞――筋無力症など、難病患者団体「快挙だ」、治療へ道切望の声。」
『日本経済新聞』
「iPS細胞はあらゆる細胞に成長し、傷んだ臓器の修復など再生医療の実現につながるとの期待が高い。根本治療のない難病の患者団体は「快挙だ」と喜び、治療へ道が開けることを切望する声が相次いだ。
筋力が弱る難病の患者でつくる「全国筋無力症友の会」(京都府)の北村正樹事務局長は「原因究明と治療法の確立を待つ患者にとって希望になる」と強調した。
神経と筋肉の接合部に異常が起き、重症の場合は寝たきりに。対症療法の研究は進むが、薬を一生飲み続けなければならない。「根本治療が一番の願い。制限がなくなり、普通の生活に戻れる」
加齢に伴い視界の中心でゆがみや大幅な視力低下が起きる「加齢黄斑変性」の患者らも研究成果の応用に期待する。
患者の支援活動などを続ける「AMDアライアンス・インターナショナル日本事務所」(東京)によると、国内患者は推定70万人。同事務所の神谷和子さんは「高齢化に伴い患者は増えている。国は受賞を機に治療法への応用を後押ししてほしい」と要望する。
国が研究対象としている難病のうちiPS細胞の応用研究が始まっているのはALS(筋萎縮性側索硬化症)など一部のみ。約70の患者団体が加盟する「日本難病・疾病団体協議会」(東京)の水谷幸司事務局長は「これまで日の当たらなかった難病にも研究のすそ野が広がれば」と話した。」(全文)
◆2012/10/09 「山中氏ノーベル賞、難病患者に希望の光――「治療薬信じ前向きに」。」
『日本経済新聞』
「受賞で研究に弾み 期待
京都大・山中伸弥教授のノーベル賞受賞決定に、筋肉が骨に変化する「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」などの難病患者らも8日、喜びの声をあげた。山中教授が開発したiPS細胞は、FOPなど難病治療薬の発見につながるといわれる。患者とその家族らは、研究がさらに加速することに期待する。
「やった、本当に取った」。FOPと闘う中学3年の山本育海(いくみ)君(14)=兵庫県明石市=と母の智子さん(39)は午後6時半過ぎ、明石市役所の記者会見場で山中教授のノーベル賞受賞を知ると、手を取り合って喜んだ。
育海君は「(山中教授が)やっと取れてうれしい。研究が世界中に広まってほしい」と笑顔で語った。智子さんは「受賞を機にFOPなど難病治療薬の開発が早くなり、新薬ができることを願っている」と涙をぬぐった。
育海君は小学3年生だった2006年に原因不明の全身の痛みを訴えた。検査の結果、FOPと判明。以来、骨化が進むが、くい止める方法はない。骨化に伴う激痛を「体の中に雷がいるみたい」と例える。痛みがひどい時は鎮痛剤を飲み、学校を休んで対処する。
すべての運動を控え、小6の修学旅行にも参加しなかった。智子さんは「今も病気は進行を続け、特に肩や腕が硬くなっている」と言い、「何をしたら進行するのか分からないので、何事も我慢の道を選択せざるをえない」と漏らす。
iPS細胞が難病研究につながると知った育海君は「治療法を一刻も早く見つけてほしい」と京大に打診し、昨年2月に自分の体細胞を提供。現在、京大でFOP患者由来のiPS細胞からつくった筋肉細胞などを分析し、筋肉が骨化するメカニズムの解明が進む。
育海君は山中教授と親交があり、今年に入り再会した際も教授から「久しぶり。来てくれてありがとう」と声を掛けられたという。智子さんは「治療薬は絶対にできると信じている。希望が持てるだけで育海も前向きに生きていける」と話す。
全身の筋肉が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と闘う長尾義明さん(64)=徳島県板野町=も喜んだ。
ALSもiPS細胞でメカニズムの解明が進み、8月には京大iPS細胞研究所がALSの原因の一端を解明、薬の候補物質を発見した。長尾さんは「告知から22年、『過酷』という2文字を体の芯までたたき込まれてきましたが、希望が持てるようになった。一日も早く治療薬ができる日を待っています」とコメントした。
1990年に病気が発覚。告知から3年後には人工呼吸器を外せなくなり、声を失った。
ひらがなの書かれた文字盤を妻の美津子さん(65)が指さし、伝えたい文字を指した時に義明さんがまばたきをして会話を交わす。「告知を受けた時、医者からは2〜3年の命だと言われ絶望した。でも、今は治療薬開発がいつ発表されるか指折り数えて前向きに生きている」と美津子さん。
受賞決定の記者会見で山中教授は難病患者について「(iPS細胞が)万能細胞という名前のせいで、すぐに病気が治ると誤解を与えている部分があるかもしれないが、実際は時間がかかるかもしれない。たくさんの人がiPS細胞を研究している。希望を捨てずにいてほしい」と話した。
【図・写真】山中教授(左)と山本育海君(3月、大阪市)=FOP明石提供」(全文)
◆2012/10/09 「クローズアップ2012:山中氏にノーベル賞 再生医療研究を加速/安全性と倫理に課題(その1)」
『毎日新聞』
「日本人として25年ぶりとなるノーベル医学生理学賞を京都大iPS細胞研究所の山中伸弥・同大教授(50)が受賞することが決まり、日本の科学技術力の高さが改めて証明された。「従来の常識を覆した」と言われる英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士(79)のカエルの細胞初期化から半世紀。世界中の研究者を驚かせた山中氏の成果の大きさは、国内外で急速に進む研究の広がりからもうかがえる。マウスiPS細胞の作成から6年、研究の現状と関係者の喜びの声をまとめた。
◇「患者由来」実現に期待
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、あらゆる組織や細胞に変化する。患者の細胞からiPS細胞を作れば、病気やけがでだめになった組織や臓器に、拒絶反応なく正常な組織を移植する再生医療が実現できる。iPS細胞の研究は急ピッチで進み、再生医療への期待は大きい。
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)は、患者の皮膚細胞から作ったiPS細胞を網膜細胞に変化させてシートを作り移植することで、失明につながる難病「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」を治療する臨床研究を、来年度にも始める予定だ。京都大と東京大のグループは昨年12月、ヒトiPS細胞から大量に血小板を作成する方法を開発したと発表。献血に代わる安定した血液製剤作りにつながる可能性が出てきた。
動物実験ではさらにさまざまな臓器の研究が進む。慶応大の岡野栄之教授らは脊髄(せきずい)損傷で歩けなくなったマーモセット(小型サル)にヒトiPS細胞由来の細胞を移植し、跳びはねるまで回復させた。NPO法人「日本せきずい基金」の大浜真(おおはままこと)理事長は「一日も早く治療に使えるよう期待している」と話した。
活用が期待されているのは、治療法が見つかっていない病気の原因解明や新薬の効果を試す役割だ。山中教授も「世界中でiPS細胞の研究が盛んだが、大半は患者の細胞から作った『疾患iPS細胞』による病態の研究や薬の探索だ」と話す。
例えば、アルツハイマー病などの神経疾患患者の脳から神経細胞を採取し研究することがほぼ不可能だった。体への負担が大きく、死後では神経細胞が心停止後にすぐに死んでしまう。この状況をiPS細胞が打破した。
慶応大の伊東大介専任講師らは神経疾患の患者からiPS細胞を作成。患者の神経細胞では生まれつき異常なたんぱく質を出しやすい状態にあることを明らかにした。伊東さんは「iPSのおかげで、手に入れようがなかった材料を入手できるようになった」と話す。
京都大の井上治久准教授は今年8月、患者のiPS細胞を使い、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬につながる物質を見つけたと発表。バイオベンチャー企業「リプロセル」はヒトiPS細胞から作った心筋細胞の販売を始めている。【須田桃子、永山悦子】
◇難病解明・創薬、国が集中投資
iPS細胞の開発は、他分野の研究を加速させた。中でも注目されているのは、iPS細胞を介さずに、皮膚細胞などから直接、神経や心臓など必要な細胞を作る「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる技術だ。
研究の歴史はiPS細胞より古いが、成功例がほとんどなかった。しかし、マウスの皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入するというiPS細胞の作成方法が刺激となり、複数の遺伝子を組み入れることで、成功例が相次ぐようになった。
慶応大のチームは今年8月、心筋梗塞(こうそく)を起こしたマウスの心臓に三つの遺伝子を入れて、心筋細胞を再生させる実験に成功したと発表した。チームの家田真樹・特任講師は「iPS細胞の論文は、何度も繰り返し読んだ」と話す。京都大iPS細胞研究所の妻木範行教授らは、ヒトの皮膚細胞から軟骨細胞を作り出した。
iPS細胞研究は、世界をリードできる有望な分野と政府も位置づける。今夏まとめた日本再生戦略では、集中的支援を明記し、iPS細胞を含む再生医療分野を新産業の柱に育てる目標を掲げた。
国の予算はここ2年、毎年100億円以上計上している。中でも大きな研究の枠組みが、文部科学省と厚生労働省が進める「再生医療の実現化プロジェクト」だ。京都大を筆頭に、慶応大、東京大、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの4機関を拠点とし、iPS細胞の活用に必要な研究や技術開発を進めている。
患者数が少ないため治療法の研究が進まない難病の原因解明や創薬でも、iPS細胞を使った国のプロジェクトが始まる。病気の種類ごとに4カ所程度の拠点を設置。患者から提供を受けた細胞を使って難病iPS細胞を作り、それを使って創薬を目指す。現在、文科省へ公募のあった研究内容の審査が行われている。
通常、難病の薬は、患者数が少なく利益が出にくいため、製薬企業は研究に尻込みしがちだが、このプロジェクトでは、製薬企業約70社で作る「日本製薬工業協会」の協力を得る。文科省ライフサイエンス課の彦惣(ひこそう)俊吾専門官は「企業にも入ってもらい創薬まで持っていく」と話す。【斎藤広子、野田武】
◇今世紀10人、米に次ぐ2位 研究担う若手は減
山中氏が医学生理学賞に選ばれたことで、日本のノーベル賞受賞者数は19人となった(08年に物理学賞を受賞した米国籍の南部陽一郎氏を含む)。国別受賞者数では米国や英国などに次いで8位につけ、2001年以降の自然科学3賞に限れば計10人と、米国に次ぐ2位に食い込む健闘。20世紀前半に科学研究をけん引し、多くの受賞者を出した英国、ドイツ、フランスなどの欧州勢をしのぐ勢いだ。
政府は01年、「科学技術基本計画」で「50年間にノーベル賞受賞者30人」との「数値目標」を掲げた。科学研究をめぐる各種統計からは、今後も研究が順調に発展するとは言えない不安要素もうかがえる。
内閣府が、国立大学教員の年齢別推移を調べたところ、00年ごろを境に55歳以上が増え、40歳未満の若手が減り続けていることが分かった。定年が延長される一方、財政緊縮で国から支給される運営費交付金が減り、人件費が頭打ちとなって若手の採用が抑制されているためとみられる。
さらに心配なのが、基礎科学を支える理学分野の博士課程の大学院生数だ。00年以降、5000人台で横ばいだったのが、ここ数年は4000人台に落ち込んだ。研究者としての将来を不安視し、修士課程を終えて就職する若者が増えたため、との指摘もある。
過去の受賞者が受賞のきっかけとなる業績をあげた年齢は30〜40歳代が中心。研究の中核を担う若手の減少は、研究力の低下に直結する恐れがある。文科省科学技術政策研究所が研究論文の質や量などを調べた「日本の大学ベンチマーキング2011」では、物理を除く化学や生命科学などの分野で、世界の主要国に比べて論文の質や量が低下している傾向が浮かんでいる。【野田武】
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■解説
◇影響大で早期受賞
ノーベル医学生理学賞は、発見・開発から20〜30年がたち、臨床現場で広く普及した成果が選ばれることが多い。10年に選ばれた体外受精技術は典型的な例で、世界中で400万人近くの誕生を助けたことが評価された。iPS細胞も医学・医療での利用を目指して開発されたが、山中氏自身が「一人の患者も助かっていない」と話すように、この技術を使った新薬や治療法は、まだ臨床現場で用いられていない。このため、受賞は時期尚早という見方もあった。
一方で、iPS細胞の登場によって、再生医療など人の細胞を用いた研究が可能な分野は飛躍的に広がった。生命の萌芽(ほうが)を壊すなど倫理的な理由で胚性幹細胞(ES細胞)が使えなかった国でも課題を克服し、今や世界各地でiPS細胞の研究は競うように取り組まれている。
最初の報告からわずか6年という異例のスピード受賞の背景には、iPS細胞の開発がもたらした影響の大きさと、可能性の広がりがあることは否定できない。【須田桃子】
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◇国別受賞者数(1901〜2012年)
国名 合計 医 物 化 経 文 平
米国 320 94 84 60 47 10 25
英国 108 30 21 26 8 11 12
ドイツ 81 16 24 28 1 8 4
フランス 55 10 12 8 1 15 9
スウェーデン 31 8 4 4 2 8 5
スイス 27 6 3 6 0 2 10
ロシア(旧ソ連) 20 2 11 1 1 3 2
日本 19 2 7 7 0 2 1
オランダ 16 2 9 3 1 0 1
イタリア 14 3 3 1 0 6 1
デンマーク 13 5 3 1 0 3 1
カナダ 12 2 3 4 1 0 2
オーストリア 11 4 3 1 0 1 2
ベルギー 10 4 0 1 0 1 4
イスラエル 10 0 0 4 2 1 3
ノルウェー 9 0 0 1 3 3 2
南アフリカ 7 1 0 0 0 2 4
オーストラリア 7 6 0 0 0 1 0
スペイン 6 1 0 0 0 5 0
アイルランド 5 0 1 0 0 3 1
アルゼンチン 5 2 0 1 0 0 2
インド 4 0 1 0 1 1 1
ポーランド 4 0 0 0 0 3 1
その他 61 3 3 4 1 19 31
※医=医学生理学、物=物理学、化=化学、経=経済学、文=文学、平=平和の各賞※受賞者の国名は受賞時の国籍による。08年物理学賞受賞の南部陽一郎氏は米国籍だが日本に計上した。文部科学省の資料を基に作成。10月8日現在」(全文)
◆2012/10/09 「クローズアップ2012:山中氏にノーベル賞(その1) 国内外、広がる研究 異例6年で受賞、再生医療に期待」
「日本人として25年ぶりとなるノーベル医学生理学賞を京都大iPS細胞研究所の山中伸弥・同大教授(50)が受賞することが決まり、日本の科学技術力の高さが改めて証明された。「従来の常識を覆した」と言われる英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士(79)のカエルの細胞初期化から半世紀。世界中の研究者を驚かせた山中氏の成果の大きさは、国内外で急速に進む研究の広がりからもうかがえる。マウスiPS細胞の作成からわずか6年、異例のスピード受賞となった。
◇難病解明、新薬試験に力
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、あらゆる組織や細胞に変化する。患者の細胞からiPS細胞を作れば、病気やけがでだめになった組織や臓器に、拒絶反応なく正常な組織を移植する再生医療が実現できる。iPS細胞の研究は急ピッチで進み、再生医療への期待は大きい。
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)は、患者の皮膚細胞から作ったiPS細胞を網膜細胞に変化させてシートを作り移植することで、失明につながる難病「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」を治療する臨床研究を、来年度にも始める予定だ。東京大などは昨年12月、ヒトiPS細胞から大量に血小板を作成する方法を開発したと発表。献血に代わる安定した血液製剤作りにつながる可能性が出てきた。
動物実験ではさらに研究が進む。慶応大の岡野栄之教授らは脊髄(せきずい)損傷で歩けなくなったマーモセット(小型サル)にヒトiPS細胞由来の細胞を移植し、跳びはねるまで回復させた。岡野教授は「手綱を緩めず、技術をどう患者さんに届けるかやっていきたい」と意欲を示した。NPO法人「日本せきずい基金」の大浜真(おおはままこと)理事長は「iPS細胞は私たちのような難病患者にとって希望の光。一日も早く治療に使えるよう期待している」と話した。
現実的に活用が期待されているのは、治療法が見つかっていない病気の原因解明や新薬の効果を試す役割だ。
アルツハイマー病などの神経疾患患者から神経細胞を採取し研究することが困難だった。体の負担が大きく、心停止後は神経細胞がすぐに死ぬ。この状況をiPS細胞が打破した。慶応大の伊東大介専任講師らは神経疾患の患者からiPS細胞を作成。患者の神経細胞では生まれつき異常なたんぱく質が出やすいことを明らかにした。京都大の井上治久准教授は今年8月、患者のiPS細胞を使い、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬につながる物質を見つけたと発表。ベンチャー企業の「リプロセル」はヒトiPS細胞から作った心筋細胞の販売を始めている。【須田桃子、永山悦子】
◇新技術開発にも波及
iPS細胞の開発は、他分野の研究を加速させた。中でも注目されているのは、iPS細胞を介さずに、皮膚細胞などから直接、神経や心臓など必要な細胞を作る「ダイレクト・リプログラミング」と呼ばれる技術だ。
研究の歴史はiPS細胞より古いが、成功例がほとんどなかった。しかし、マウスの皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入するというiPS細胞の作成方法が刺激となり、複数の遺伝子を組み入れることで、成功例が相次ぐようになった。
慶応大のチームは今年8月、心筋梗塞(こうそく)を起こしたマウスの心臓に三つの遺伝子を入れて、心筋細胞を再生させる実験に成功したと発表した。チームの家田真樹・特任講師は「iPS細胞の論文は、何度も繰り返し読んだ」と話す。京都大iPS細胞研究所の妻木範行教授らは、ヒトの皮膚細胞から軟骨細胞を作り出した。
iPS細胞研究は、世界をリードできる有望な分野と政府も位置づける。今夏まとめた日本再生戦略では、集中的に支援することを明記し、iPS細胞を含む再生医療分野を新産業の柱に育てる目標を掲げた。
国の予算はここ2年、毎年100億円以上計上している。中でも大きな研究の枠組みが、文部科学省と厚生労働省が進める「再生医療の実現化プロジェクト」だ。京都大を筆頭に、慶応大、東京大、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの4機関を拠点とし、iPS細胞の活用に必要な研究や技術開発を進めている。
患者数が少ないため治療法の研究が進まない難病の原因解明や創薬でも、iPS細胞を使った国のプロジェクトが始まる。病気の種類ごとに4カ所程度の拠点を設置。患者から提供を受けた細胞を使って難病iPS細胞を作り、それを使って創薬を目指す。現在、文科省へ公募のあった研究内容の審査が行われている。【斎藤広子、野田武】
◇二人三脚で大発見支え 愛弟子の高橋和利・京都大講師
山中伸弥・京都大教授(50)の大発見を支えたのは、奈良先端科学技術大学院大で山中さんが自分の研究室を開設した時以来の愛弟子、高橋和利・京都大講師(34)=写真=だ。高橋さんは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の発見という歴史的瞬間に立ち会った。
「先生、生えてます!」。05年夏、高橋さんは山中さんの部屋に駆け込んだ。当時、博士号をとったばかりの高橋さんは山中さんの指示で、iPS細胞作りに取り組んでいた。
体から採取した細胞に何の遺伝子を入れればいいか。山中さんたちは24種類に絞り込んだものの、なかなか成果が上がらなかった。その日、実験容器が余ったため、山中さん、高橋さんたちは話し合った。「せっかくだから」と24種類をすべて入れたところ、それだけが塊を作った。塊を見つけた高橋さんは、すぐに山中さんに報告した。24種類の中に、iPS細胞作りに欠かせない4遺伝子が含まれていることが分かった。
高橋さんは、同志社大工学部卒で生命科学とは畑違い。山中さんの研究室に学生が一人もいず、「自分でも大丈夫かもしれない」と志願して以来の二人三脚の成果だった。
高橋さんは8日夜、「偉大な研究者の指導を直接受けられたこと、革新的な研究を最も間近で見られたことに幸せを感じる。先生と分かち合った感動を後輩に伝えられるよう精進します」とコメントを発表した。
■国別受賞者数
◇2001年以降、10人で2位 自然科学3賞、米に次ぐ健闘
08年に物理学賞を受賞した米国籍の南部陽一郎氏を含め、日本のノーベル賞受賞者数は19人となった。国別では8位。01年以降の自然科学3賞に限れば計10人と、米国に次ぐ。20世紀前半に科学研究をけん引し、多くの受賞者を出した英国、ドイツなどの欧州勢をしのぐ勢いだ。
政府は01年、5年間の科学技術政策の方向性を示す「科学技術基本計画」で、「50年間にノーベル賞受賞者30人」との「数値目標」を掲げた。文部科学省の科学技術要覧(11年版)によると、日本の研究機関や企業の研究費総額も米国に次ぐ2位で、投資に見合った受賞実績とも言える。
だが、今後も研究が順調に発展すると言えない不安要素もうかがえる。内閣府が、国立大教員の年齢別推移を調べたところ、00年ごろを境に55歳以上が増え、40歳未満の若手が減り続けていた。定年延長の一方、財政緊縮政策で国から支給される運営費交付金が減り、若手の採用が抑制されているためとみられる。基礎科学を支える理学分野の博士課程の大学院生数は00年以降、5000人台で横ばいだったが、最近は4000人台に落ち込んだ。研究者としての将来を不安視し、企業へ就職する若者が増えたためとの指摘もある。
過去の受賞者が受賞のきっかけとなる業績をあげた年齢は30〜40歳代が中心。若手の減少は、研究力の低下に直結する恐れがある。文科省科学技術政策研究所が研究論文の質や量などを調べたところ、物理を除く化学や生命科学などの分野で、主要国に比べ論文の質や量が低下している傾向が浮かんでいる。【野田武】
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◇国別受賞者数(1901〜2012年)
(医=医学生理学、物=物理学、化=化学、経=経済学、文=文学、平=平和の各賞)
国名 合計 医 物 化 経 文 平
米国 320 94 84 60 47 10 25
英国 108 30 21 26 8 11 12
ドイツ 81 16 24 28 1 8 4
フランス 55 10 12 8 1 15 9
スウェーデン 31 8 4 4 2 8 5
スイス 27 6 3 6 0 2 10
ロシア(旧ソ連) 20 2 11 1 1 3 2
日本 19 2 7 7 0 2 1
オランダ 16 2 9 3 1 0 1
イタリア 14 3 3 1 0 6 1
デンマーク 13 5 3 1 0 3 1
カナダ 12 2 3 4 1 0 2
オーストリア 11 4 3 1 0 1 2
ベルギー 10 4 0 1 0 1 4
イスラエル 10 0 0 4 2 1 3
ノルウェー 9 0 0 1 3 3 2
南アフリカ 7 1 0 0 0 2 4
オーストラリア 7 6 0 0 0 1 0
スペイン 6 1 0 0 0 5 0
アイルランド 5 0 1 0 0 3 1
アルゼンチン 5 2 0 1 0 0 2
インド 4 0 1 0 1 1 1
ポーランド 4 0 0 0 0 3 1
その他 61 3 3 4 1 19 31
文部科学省調べ、受賞者の国名は受賞時の国籍による、08年物理学賞受賞の南部陽一郎氏は米国籍だが日本に計上した。10月8日現在」(全文)
◆2012/10/10 「iPS基金へ善意次々 ノーベル賞決定後 若手研究者支援に活用」
『読売新聞』
「ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった、京都大教授の山中伸弥さん(50)が所長を務める「京都大iPS細胞研究所」へ、受賞決定後の8日夜から寄付の申し出が続々と寄せられている。10日午前に400件、350万円を超えた。同研究所の運営を支える国の研究費の多くは期限付きで、寄付金は研究費が途絶えた場合、若手研究者らの人件費などに使われる予定。担当者は「とてもありがたい。受賞の効果でさらに支援が広がれば」と期待する。
iPS細胞を巡っては国際的な研究競争が激しい。同研究所には文部科学省や内閣府が研究費を助成。昨年度は約40億円が助成されたが、約4割を占める内閣府分は2013年度で期限が切れる。これ以外も多くは今後3?5年で終了するため、同研究所で働く193人の約9割を占める若手研究者や特許管理の担当者らは、身分の不安定な非正規雇用という形を取らざるを得なくなっている。
こうした状況を受け、同研究所は2009年、iPS細胞研究基金を設立、年間5億円を目標に寄付を募ってきた。しかし、今年6月末までの約3年間で集まったのは約2200件、約4億5000万円で、目標を下回っている。
山中さんは今年3月、京都マラソンの出場に合わせ、「完走するので寄付を」と、寄付集めを支援するウェブサイト「ジャスト・ギビング・ジャパン」(http://justgiving.jp/)を通じて呼びかけた。受賞決定後、サイトにはALS(筋萎縮性側索硬化症)など難病患者の家族らから10万円?500円の寄付の申し出が相次ぎ、研究への期待や応援も書き込まれている。
山中さんは9日の報道陣の取材に対し、「iPS細胞の研究は10?20年単位で続ける必要がある。その間、優秀な人材を長期間雇うにはどうすればいいか。国からのお金でも人を長期に雇えない種類もある。マラソンでの資金集めが、長期雇用に少しでも役立てば」と話した。〈関連記事1面〉
◆ALSの妻介護 奇跡を現実に/日本発の技術で世界へ貢献を
寄付を申し出た人のウェブサイトへの主なメッセージ。
「父と友人がALSで亡くなりました。今日(10日)は父の命日です。難病治療の一助になればと寄付させていただきます」
「ALSの妻を介護して20年になります。奇跡を信じて頑張ってきました。奇跡を現実のものにしてください」
「『世界中の難病で苦しんでいる患者に一刻も早く治療薬を提供したい』という山中教授の発言に感動しました」
「私も子供の頃、最先端医療に命を救われました。この研究がより多くの人たちの救いになるように僅かですが寄付します」
「今なお病棟で空を眺めることを願う子どもたちがいます。是非益々の研究発展をお祈りいたします」
「日本発の技術で世界へ貢献、期待しています」
「誰に認められなくても、決して諦めず、挑戦し続けた事、素晴らしいと思います」
「子や孫たちのために小額ですが参加させていただきます」」(全文)
◆2012/10/11 「iPS心筋を移植 初の臨床応用 心不全患者に=訂正あり、続報注意」
『読売新聞』
「◆ハーバード大 日本人研究者 心不全患者に 2月に治療 社会復帰
あらゆる種類の細胞に変化できるiPS細胞(新型万能細胞)から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療を米ハーバード大学の日本人研究者らが6人の患者に実施したことが、10日わかった。iPS細胞を利用した世界初の臨床応用例で、最初の患者は退院し、約8か月たった現在も元気だという。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった京都大の山中伸弥教授がマウスでiPS細胞を作製してから6年、夢の治療として世界がしのぎを削る臨床応用への動きが予想以上に早く進んでいる実態が浮き彫りになった。〈実用化へ加速3面〉
iPS細胞を利用した心筋の細胞移植を行ったのは、ハーバード大の森口尚史(ひさし)客員講師ら。森口講師は、肝臓がん治療や再生医療の研究をしており、東京大学客員研究員も務める。現地時間10、11日に米国で開かれる国際会議で発表するほか、科学誌ネイチャー・プロトコルズ電子版で近く手法を論文発表する。
第1号の患者は米国人の男性(34)。男性は2009年2月に肝臓がん治療のため肝臓移植を受け、肝機能は回復したものの、今年2月に心臓が血液を全身に送り出す力が低下する「虚血性心筋症」を発症。回復が見込めなくなり、治療を受けることを決めたという。
チームは、移植時に摘出し凍結保存してあった男性の肝臓から、肝細胞に変化する手前の「前駆細胞」を採取。山中教授の手法とは異なり、肝臓の前駆細胞を主な材料とし、細胞増殖に関わるたんぱく質や薬剤を加えてiPS細胞を作製した。これを心筋細胞に変化させ、冷却装置を使った環境で大量に増殖させた。
男性は心臓バイパス手術を受けた後、特殊な注射器で心筋細胞を心臓の30か所に注入された。患者自身の組織から作製したので拒絶反応はない。細胞は定着し、心機能が徐々に回復、約10日後からほぼ正常になり、現在は平常の生活を送っているという。
iPS細胞を臨床応用する際には、将来がん化しないかなどの安全性を確認する必要がある。チームはブタの実験で安全性を確かめたうえで、緊急性を考慮したハーバード大の倫理委員会から「暫定承認」を得た。日本も技術的には可能だが、公的指針で動物実験を経た上で研究計画を立てて国に申請することが義務づけられ、今回のように緊急避難的な措置はできない。
森口講師は、「計6人の患者にiPS細胞から作った心筋細胞を注入したが、異常は起きていない。経過を注意深く見守っている」としている。
◆日本でも議論を
岡野栄之(ひでゆき)・慶応大教授の話「他に手だてのない患者とはいえ、安全性が完全に確認されたわけではない状態で細胞移植することは、日本では認められていないことで、驚きだ。こうした米国の動きについて、日本でも真剣に議論しないといけない」
◆安全性の確保課題(解説)
ハーバード大のチームが、iPS細胞から作った心筋細胞を初めて患者に移植したことは、動物実験にとどまっていた研究が、人間を対象とする研究の段階に移ったことを意味し、大きな節目を迎えたことになる。
基礎研究の成果を医療に応用する際、動物実験の成果がそのまま人に当てはまるとは限らない。実際、全身の筋肉が動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」では、動物に効いた化学物質が人間には効果がなく、薬にならなかったこともある。研究の最終ステージでは、人間の体での研究が欠かせない。
日本でも来年にもiPS細胞を用いた臨床研究が始まる。山中伸弥・京都大学教授のノーベル賞受賞決定でiPS細胞の医療応用への期待が高まるが、患者の安全性を確保しつつ、医療としての確立を目指す必要がある。(つくば支局 服部牧夫)
図=iPS細胞を用いた人間への心筋細胞移植
写真=今回の治療に使用された心筋細胞(森口客員講師提供)
[おわび]
11日朝刊1面「iPS心筋を移植」と3面、11日夕刊1面と2面の関連記事に誤りがありました。おわびします。
[続報]
2012年10月13日東京朝刊1面
◆iPS移植は虚偽 森口氏の説明 関係者が否定 誤報と本社判断
iPS細胞から心筋細胞を作り、重症の心臓病患者に移植したという森口尚史(ひさし)氏(48)の研究成果に疑義が生じている問題で、同氏の論文の「共同執筆者」とされる大学講師が論文の執筆に全く関与していなかったことが12日、読売新聞の調べで明らかになった。同氏の研究成果については、米ハーバード大の当局者や複数の専門家も真実性を否定していることから、読売新聞は同日、同氏の説明は虚偽で、それに基づいた一連の記事は誤報と判断した。
大学講師が共同執筆者であることを否定しているのは、森口氏が心筋細胞の移植の研究成果をまとめたとする論文。森口氏は本紙記者に対し、この論文は「ネイチャー・プロトコルズ」誌に掲載予定と話していた。
同論文は森口氏を含む5人による共同執筆となっていたが、大学講師は同日、本紙の取材に対し、「森口氏とは約5年会っておらず、論文に名前が使われることは全く知らなかった」と語った。また、別の共同執筆者の大学教授は、ハーバード大の倫理審査について森口氏に尋ね、「クリアになった」と回答されたという。同大は倫理審査での了承を否定している。
森口氏が先月、同誌に投稿した記事についても、共同執筆者の1人とされた大学助教が「知らなかった。私は研究に関与していない」と大学当局に話した。
一方、森口氏は「東大医学部iPS細胞バンク研究室に所属している」と称していたが、東大によると、こうした研究室は実在しないという。同氏が「東京医科歯科大と行った」としていた共同研究については、同大が同日、「ここで行った事実はない」とのコメントを発表した。
東大病院、東京医科歯科大は同日、森口氏が関係したとして発表された論文や研究の検証を始めることを明らかにした。〈検証8面〉
【他にも、誤りを検証する続報があります】」(全文)
◆2012/10/12 「基礎からわかるiPS細胞の未来=特集」
『読売新聞』
「さまざまな臓器や組織に変化できるiPS細胞(新型万能細胞)を作り出した山中伸弥・京都大教授のノーベル生理学・医学賞受賞が決まった。iPS細胞は、傷ついたり、病気になったりした組織や臓器を修復する夢の再生医療に役立つと期待される。世界が注目するiPS細胞とはどんなものか、その仕組みと、幅広い応用の可能性について解説する。
Q iPS細胞とは
◆体の様々な組織に変化
iPS細胞の特徴は、神経、筋肉、皮膚、消化管など体の様々な組織に変化できる点だ。しかも自分の皮膚などの組織を材料にできるので、自分の体から作った神経や筋肉を自分の体の治療に使うことができる。
様々な細胞に変化できる特徴は、なぜ画期的なのだろう。
我々の身体は約200種類以上、約60兆個の細胞でできているが、もとは一つの受精卵で、これが何度も細胞分裂し、その過程で、皮膚や神経、筋肉などが作られる。この流れは一方通行で、受精卵の細胞からは様々な種類の細胞が生じるが、一度、神経や筋肉になると、いくら細胞分裂しても神経や筋肉のままで、受精卵の方向に逆戻りすることはない。
皮膚などの細胞から作り出されたのに、様々な細胞に変化できる能力を持つiPS細胞は、この一方通行の流れを逆戻りしたと言える。「生命科学の常識を覆した」と評価されるのはこのためだ。
この逆戻りを人工的に行うことを「初期化(リプログラミング)」という。まさに受精卵のような初期の状態に細胞を戻すという意味だ。
山中教授らは、初期化を可能にする4種類の遺伝子「山中4因子」を特定、2006年、マウスの皮膚の細胞にこれらを入れてiPS細胞を作製した。07年には、人間の皮膚細胞からもiPS細胞を作った。
各細胞には、同じ遺伝子が収まっている。逆戻りできないのは、遺伝子の働き方が変わり、一部が休止状態になったためで、4遺伝子はこれを活性化させる効果があった。世界の研究者がiPS細胞研究に名乗りをあげ、「山中4因子」以外の遺伝子を使ったり、化学物質を使ったりする方法などいくつもの作製法を試している。
iPSとは、「誘導された多能性幹細胞」を意味する英名「induced pluripotent stem cell」の頭文字を並べたもので、山中教授の発案。最初のiが小文字なのは人気の携帯音楽プレーヤーiPod(アイポッド)にちなむ。
Q 再生医療の可能性は
◆網膜や神経 臨床準備
けがで傷ついた体や病気になった臓器をiPS細胞などを使って再生させる治療を「再生医療」と呼んでいる。自分の細胞を使った拒絶反応のない臓器移植や様々な難病の克服を可能にする夢の治療法として早期の実用化が期待され、世界で研究競争が繰り広げられている。
来年にも、国内で臨床応用が始まりそうだ。理化学研究所(神戸市)は、老化で網膜の機能が衰え、視野がゆがむなどして見えにくくなる「加齢黄斑変性症」を治療するため、iPS細胞から作り出した網膜細胞を注入する治療を計画している。
これまでのサルを使った実験では、1年以上網膜が定着し、基礎技術は確立している。
慶応大も2017年頃をめどに、iPS細胞で脊髄損傷を治療するための臨床研究に着手する計画を立てており、脊髄損傷のサルで実験するなど準備を進めている。
神経の再生医療は、全身の筋肉が徐々に萎縮する筋萎縮性側索硬化症(ALS)、神経が変性して、ふるえなどが起きるパーキンソン病、アルツハイマー病、脳梗塞など幅広い病気の治療に役立つと期待が高まっている。
政府が作成した再生医療実用化のロードマップによれば、ほかに肝臓、血液、血管、骨、皮膚などの再生医療を2025年頃までに実用化する計画になっている。
再生医療は難病治療への期待が高いが、糖尿病や歯周病などの治療も研究されている。
一方、iPS細胞の作製には数か月かかり、交通事故による脊髄損傷などの緊急時の対応には適さない。そこで、山中教授が所長を務めている京都大学iPS細胞研究所は、すぐに使えるiPS細胞を事前に凍結保存しておく、「iPS細胞ストック(保管・貯蔵施設)」構想を進めている。慶応大もiPS細胞から作り出した治療用の神経細胞バンクを計画している。
国を挙げた支援も進む。文部科学省は、iPS細胞技術の確立や安全性に関する研究に、来年度から、10年程度で200億?300億円規模の助成を行う方針だ。
また国会でも、安全性の確保や技術開発の指針となる「再生医療基本法案」(仮称)の策定に向けた動きが見られる。
Q 克服すべき課題は
◆がん化防止技術 倫理面の議論必要
iPS細胞の最大の課題は安全性の確保だ。特に細胞移植に使う場合、がん化防止が最優先になる。
がん化の理由は三つ。〈1〉山中4因子の一つにがん遺伝子として知られる「c?Myc(ミック)」が含まれる〈2〉不完全なiPS細胞が含まれていると、腫瘍ができる恐れがある〈3〉4遺伝子の組み込みに「レトロウイルス」を使っている??と指摘されている。
山中教授らは、約3年かけて、c?Mycに代わる遺伝子を探し、「Glis(グリス)1」という卵子で活発に働く遺伝子が有効であることを見いだした。この遺伝子は、腫瘍につながる不完全iPS細胞の発生を低減させる効果も持っていた。
さらに、ウイルスではない環状の遺伝物質「プラスミド」の使用や、遺伝子が作るたんぱく質を直接導入するなど、遺伝子組み込みの改良法が国内外で考案されている。
一方、iPS細胞の手法を応用すれば、精子と卵子を作り出して、親がいなくても新たな人間を生み出すことが可能になる。すでに、国内では、精子と卵子のもとになる「始原生殖細胞」を人のiPS細胞から作ることに成功。マウスでは、始原生殖細胞から精子と卵子を作り出している。
文部科学省の指針は、人のiPS細胞から作った精子と卵子の受精を禁じているが、どこかにルールを破る者がいるかもしれない。
iPS細胞は、それまで活発に研究されてきたES細胞(胚性幹細胞)が抱えていた「受精卵を壊して作る」という倫理的な課題を克服する手法として、世界から歓迎されたが、新たな課題が生じたことになる。
Q 他分野での活用は
◆新薬開発や希少種保護
iPS細胞は、新薬の研究開発にも活用されている。
薬の開発で問題となるのは、候補となる化学物質の副作用や毒性だ。人の臓器とは大きさも性質も違うマウスなどの実験では見えにくい副作用も、人のiPS細胞を使えば明らかになる。例えば、iPS細胞から作った心筋に新薬候補の物質を振りかけて、心電計で測り、不整脈などの有無を確認できる。
国内では2009年、人のiPS細胞から作った心筋細胞の販売が始まり、今では神経や肝臓の細胞も市販されている。通常10年以上かかる新薬開発の期間短縮やコスト削減が期待でき、製薬会社などが用いている。
iPS細胞は、難病の原因解明にも使える。京都大iPS細胞研究所の井上治久准教授らは今年8月、ALS患者の皮膚からiPS細胞を作り、神経の細胞に変化させて病気の状態を再現することに成功、治療薬の候補となる物質も見つけた。同研究所は、筋肉が骨に変わる進行性骨化性線維異形成症(FOP)などの患者のiPS細胞も作り、原因解明を進めている。
絶滅危惧種の保護に向けた研究も始まった。サイの一種「キタシロサイ」、アフリカの大型サル「ドリル」、高山などに住む「ユキヒョウ」の皮膚からiPS細胞が作られている。卵子や精子に変化させれば、新たな個体を生み出せる可能性がある。
◇
つくば支局・服部牧夫、科学部・萩原隆史、浜中伸之、森井雄一が担当しました。
図=iPS細胞が様々な細胞に変化する流れ
図=再生医療で期待される主な応用例(国内)
図=山中教授の最初のiPS作製法
写真=山中伸弥教授
写真=中央に丸く見えるのがiPS細胞の塊(山中教授提供)」(全文)
◆2012/10/12 「ノーベル賞:医学生理学賞に山中氏 研究にネット寄付倍増 受賞後3日で1000万円」
『毎日新聞』
「ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授(50)の研究に対し、一般からの寄付が急増している。インターネットを通じた総額は11日午後6時現在で約2230万円に。受賞決定後の3日間で約1000万円を集め、ほぼ倍増した。これとは別に京都大への寄付も1200万円を超え、「夢の再生医療」への期待が高まっている。
山中教授は今年2月、専門サイト「ジャスト・ギビング・ジャパン」で、京都マラソン(同3月)での完走を宣言し研究への寄付を呼びかけ、約1233万円が集まった。一旦は低調になったが、受賞決定直後の8日午後7時過ぎからサイトへのアクセスが集中。病気に苦しむ患者や家族を中心に数千円から1万円程度の寄付の申し出が相次ぎ、「新薬開発に役立てて」と10万円単位の寄付もあった。
コメント欄には「難病に苦しむ人、関係する全ての人の希望の光に!」「先日、父がALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されましたが、希望を捨てずに頑張ります」などと書き込まれている。サイトを運営する財団法人の佐藤大吾代表理事は「患者さんの期待の大きさが伝わってくる」と驚く。
また京都大がiPS細胞研究のため設立した基金には、8日から11日午前までに個人・法人から701件、約1281万円の寄付の申し出があった。【五十嵐和大】」(全文)
◆2012/10/17 「(声)難病ALS、きっと治療可能に」
『朝日新聞』
「(声)難病ALS、きっと治療可能に
司会業 山川めぐみ(埼玉県新座市 49)
私の大切な恋人が筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されたのは、今から2年半前。全身の運動神経が衰える難病中の難病だ。
彼は難病とわかった時から「動けない体で生きているつもりはない。自力呼吸ができなくなった時が自分の最期。人工呼吸器は装着しない」と強く言っていた。その意思を貫き、わずか半年の闘病生活で逝った。
iPS細胞を作り出すことに成功した山中伸弥氏が、ノーベル医学生理学賞を受賞した。この成功でALSの原因究明や治療にも効果が期待できるそうだ。亡くなった彼も人工呼吸器の力を借りてでも生きていてくれれば回復できたかもしれない、と思うと切ない。
絶望の中に一筋の光を見いだし必死で闘っているALSの患者さんと、それを支える周囲の方々に遠くない未来、笑顔が戻ることを願っている。患者の皆さん、どうか生き抜いて下さい。ALSはきっと不治の病ではなくなるはずです。」(全文)
◆2012/11/21 「福井県立大学地域経済研究所所長中沢孝夫氏(目利きが選ぶ今週の3冊)」
『日本経済新聞』
「いつか見たしあわせ 勢古浩爾著
働きびとは、最も幸福?
日々の暮らしの楽しさのあり方や「幸福」について語った本である。
著者の紹介によるとカール・ヒルティは次のように言っている。
「我を忘れて自分の仕事に完全に没頭することのできる働きびとは、最も幸福である」と。全く同感だ。
バートランド・ラッセルは「仕事は、何をすべきかを決定する必要なしに一日のかなり多くの時間を満たしてくれる」。そして休日になったとき「それがずっと楽しいものになる」と記しているそうだ。なるほど。
ところで「ラッセルは四度結婚している」とのことだが、あまり羨ましくない。
著者はさまざまな幸福(論)や、暮らしの「楽しさ」を紹介しているが、自らの子供時代を回想し「もしあるとしたら、『しあわせ』は過去のなかにしかない」としている。最後に「顔の筋肉ひとつ動かせない」ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者の「明るい」日々について語る。「人間はこんな所まで行くことができるのか」と驚嘆しつつ。
自己啓発本もよいが、たまにはこのような本も。ちなみに評者の幸福はやはりよい本と出合った時である。
(中沢孝夫)
(草思社・1400円)
男性不況
永濱利廣著
男性が多い職場・建設業、製造業の雇用減。女性の進出によって狭まる男の領域。そして賃金の低下は小遣いの激減や晩婚化・未婚化を生む。専業主夫も難しい。(東洋経済新報社・1500円)
日本型リーダーはなぜ失敗するのか
半藤一利著
これでは戦争に負けるのは当たり前だ。リーダーがどうしようもない。井上成美や阿南陸相など立派な人も紹介されているが、日本の組織のダメ人間製造過程がよくわかる。(文春新書・780円)」(全文)
◆2012/10/22 「第1回日本医学ジャーナリスト協会賞記念シンポジウム」
『読売新聞』
「23日午後6時半?8時半、東京都千代田区の日本記者クラブ会議室。日本医学ジャーナリスト協会の主催。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の生活や高齢社会の実情などを取り上げた作品で、同賞を受賞した報道関係者らが、意見交換を行う。無料。問い合わせは、同協会(03・5561・2911)へ。」(全文)
◆2012/10/22 「ノーベル賞・山中伸弥教授インタビュー 網膜移植「技術は確立」」
『読売新聞』
「今年のノーベル生理学・医学賞を、京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授(50)が受賞することが決まった。同賞の日本人受賞は2人目、25年ぶりとなる快挙だ。読売新聞の単独インタビューで山中教授は、iPS細胞(新型万能細胞)から様々な臓器の細胞を作り出して移植したり、創薬に役立てたりする応用について、「理化学研究所などと国内でのネットワークを作り、進めてきた。これまで作り上げてきたものを順調に伸ばしていきたい」と決意を述べた。(聞き手 科学部長 常松健一)
■臨床研究で最も有望なものは
どれも有望だが、一番早いのは、理研で進められている加齢黄斑変性の患者を対象にした網膜の移植だ。iPS細胞から網膜の細胞を作る技術や移植の技術が確立され、移植する細胞の数も少なくて済む。異常も発見しやすく、異常が生じた部分を除去することもできる。治療に至る各段階の準備はほぼできている。研究開発のレベルとしては「今すぐにでも」という段階だ。
■血小板の作製や、糖尿病の治療への応用については
iPS細胞から血小板を作る場合の安全性は極めて高い。ただ、課題は移植に十分な数を増やせないこと。その1点を突破すれば一気に進むだろう。
血糖値の調整に重要な膵島(すいとう)の移植は京都大病院で行われている。移植技術は出来上がっているが、問題は、移植する膵島がなかなか手に入らないことだ。私たちの研究所で2人の研究者がiPS細胞を膵島細胞に変える研究を進めている。細胞さえ準備できればすぐに応用できる技術で、とても期待している。
■iPS細胞が「がん化」を引き起こすというイメージが強いことは課題では
全ての科学技術で、リスクがゼロということはあり得ない。iPS細胞の移植も、リスクは日進月歩で小さくなるが、ゼロにならない。このリスクと、移植によって患者が得られる利益をてんびんにかけて判断するしかない。
例えば、脊髄を損傷した場合は脊髄の移植を受けられるタイミングは損傷から1週間ぐらいまでと限られてくる。仮に自分がそうなった時に何もせずに待っているより、可能性があるのならば移植してほしいと思うかもしれない。
そうしたバランスは医師と患者だけでなく、社会全体の合意も必要かもしれない。科学的なデータに基づく冷静な議論が必要だ。
◆iPS応用「成果順調に伸ばす」 創薬分野 より大きな可能性
山中教授が「iPS細胞の応用として、再生医療よりも大きな可能性を持っている」と語るのが創薬の分野だ。新薬開発では、動物や人の体で効果や安全性を確かめる必要があるが、開発の最終段階で副作用が見つかると、時間や費用が無駄になってしまう。事前にiPS細胞から変化させた様々な細胞を使えば、化合物を投与して薬の候補物質を見つけられるとともに、初期段階から安全性を見極めることができる。
iPS細胞研究所などの研究グループは8月、全身の筋肉が徐々に萎縮していく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者の皮膚からiPS細胞を作製。それから作った神経細胞は正常なら伸びるはずの独特の突起を伸ばせなかったが、ある化合物を投与すると突起が伸びた。こうした実験を重ねれば細胞を正常に成長させる薬が見つけられると期待される。
また、山中教授が「餅は餅屋。製薬会社の指導をいただくのが近道だ」と言うように、連携も進む。同研究所と大日本住友製薬(大阪市)は2011年4月、iPS細胞を使い、患者数の少ない難病の治療薬を開発しようと、5年間の共同研究契約を結んだ。同社は「iPS細胞を使った創薬技術を習得できれば、様々な応用が利く」とし、16年までに新薬の候補物質を絞り込んでいく計画だ。
10年4月に同研究所が発足した際、iPS細胞による治療薬の開発や臨床試験の実施など4項目が、向こう10年間の目標として掲げられた。山中教授は「あと7年余りだが、必ず目標を達成したい」と意気込む。
図=iPS細胞を利用した治療薬の研究例
写真=iPS細胞研究の見通しについて話す山中伸弥教授(10日、京都市の京都大iPS細胞研究所で)=川崎公太撮影」(全文)
◆2012/10/23 「再生医療実現 国に責務 民自公 臨時国会に推進法案」
『読売新聞』
「様々な臓器の細胞に変化できるiPS細胞(新型万能細胞)などを使う再生医療の実用化に向けた法整備として、民主、自民、公明の3党が検討を進めている「再生医療推進法案」の原案が22日、明らかになった。病気の治療で再生医療を利用する機会を世界に先駆けて国民に提供すると明記し、研究促進から実用化までの国の責務を初めて法律で定めるのが特徴だ。
3党はすでに法案の内容について大筋で合意している。23日に担当者間で詰めの協議を行い、早ければ29日召集予定の臨時国会に議員立法で提出する方針だ。
再生医療実用化にあたっての基本法となる推進法案は、研究開発や提供、普及が進むよう、国に対し「必要な法制上、財政上、または税制上の措置を講じなければならない」と義務づけた。具体的には、〈1〉大学などでの先進的な研究開発への助成金交付〈2〉高度な技術を有する企業などの参入促進〈3〉必要性の高い「再生医療製品」などの早期承認、審査体制の整備〈4〉専門知識を有する人材の育成??などを挙げた。
再生医療を巡っては、病気や事故で傷ついた臓器や組織を作り直す治療として、患者らの期待が高まっている。一方、iPS細胞はがん化する可能性が指摘されるほか、精子や卵子をつくる技術の研究には生命倫理上の課題もある。法案では、安全確保や生命倫理について有識者らの意見を聞き、国民の理解を得ながら推進することも記した。
3党は、再生医療の実用化が近づいたことを踏まえ、民主党の仙谷由人副代表、自民党の鴨下一郎元環境相、公明党の坂口力元厚生労働相を中心に法整備の協議を重ねてきた。
政府は再生医療に関し、7月に閣議決定した日本再生戦略で「実用化が進む仕組みの構築を2012年度から検討し速やかに実施する」とした。来年の通常国会で再生医療製品の定義を明確にするための薬事法改正案提出を予定しており、推進法案はこうした関連法整備に向けた土台となる。
◆安全対策徹底へ法整備速やかに(解説)
民主、自民、公明3党が大筋合意した再生医療推進法案は、世界の最先端を走る研究に対する国の支援強化と、実用化に伴う安全対策の徹底を法制化するものだ。
再生医療を巡っては、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」などの難病の治療法としての期待が高く、国民の75%が再生医療に「期待」しているとの調査もある。一方、iPS細胞などには、遺伝子操作を行う点で「安全面などで無制限の利用は危険」と懸念する声も多かった。再生医療に希望を求める患者らが、安心してその技術の恩恵を受けられるよう、与野党は早期の法整備を図る必要がある。(政治部 豊川禎三)」(全文)
◆2012/10/23 「在宅障害者 震災の爪痕 介護者不足 生活にも支障」
『読売新聞』
「東日本大震災から1年半以上が経過したが、被災地の障害者は、今も様々な困難に直面している。とりわけ、福祉施設を利用せず、自宅や仮設住宅で暮らす障害者ほど、生活上の不安は大きい。(安田武晴、写真も)
「住み慣れた街を離れたくはないが、移住するつもり」。福島市内で一人暮らしをしている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の佐川優子さん(58)は震災後しばらくして、覚悟を決めた。
理由は、介護者不足だ。佐川さんは、自力では手足を動かせず、人工呼吸器も欠かせない。介護保険や障害者支援制度に基づき、専属ヘルパー4人が交代で24時間の介護を行っている。
だが、東京電力福島第一原発の事故後、ヘルパーの1人、渡辺和也さん(42)が、放射能の影響を心配する家族とともに、福島市から福島県会津若松市へ避難。以来、車で片道2時間かけて、佐川さん宅へ通う。
渡辺さんは、「ALS患者の介護は専門的な技術が必要で、代わりを見つけるのは簡単ではない。辞めるつもりはない」と話す。だが佐川さんは、「これ以上、苦労をかけられない。今後、ヘルパー不足がより深刻になる可能性もある」と話す。
渡辺さんが勤める介護事業所では震災後、時給制のヘルパー約80人のうち約20人が辞めた。半数前後が、避難に伴う退職だった。また、介護事業所団体の調査(今年1月)によると、障害者の在宅介護を行っている福島市内の24事業所のうち、半数が「ヘルパー不足が顕著」と回答した。
宮城県と岩手県でも震災後、介護関連職種の有効求人倍率が急上昇しており、人手不足は深刻だ。
◇
津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。被災したJR大船渡線はいまだに復旧せず、路線バスも震災前より本数が減り、車を運転できない障害者の生活に支障が出ている。
市内の仮設住宅に住む全盲の千葉亮子さん(54)は、時々気分が落ち込むことがあり、月1回、隣接する同県大船渡市の病院へ通っている。震災前は、ヘルパーに付き添ってもらい、バスで片道約40分かけて通えた。だが、震災後はバスの本数が減ったうえ、バス停までも遠くなり、体調の悪化もあって、タクシーを使わざるを得ないことが増えた。
料金は往復で約1万円。「マッサージ業を営んでいた自宅が津波で流されてしまった。仕事ができないので経済的な負担が重い」と困っていた。幸い今年4月、ボランティア団体「JDF(日本障害フォーラム)いわて支援センター」が、車による無料送迎を開始。千葉さんも、歯科医院への通院も含め月2回ほど利用できるようになった。
同センターの送迎を利用している障害者や高齢者は、現在約50人。小山貴事務局長は、「予想以上に増えている。交通費が払えない人、家族などの支援が受けられない人を優先的に支援していくしかない」と話す。
障害者や高齢者の通院は、沿岸部の被災各地で課題となっている。このため、岩手県釜石市は今月、仮設住宅の住民らを対象に予約制乗り合いバスの試験運行を始めた。
被災地ではこのほか、仮設住宅がバリアフリー(障壁なし)でないために、車いす利用者などが住みにくいといった問題も指摘されている。
◇
障害者の暮らしにくさを解消するため、障害者団体を中心としたボランティアによる支援が展開されている。だが、地域社会で暮らす障害者のニーズは多様で、十分な支援が行われているとは言い難い。
被災地の障害者の現状に詳しい、NPO法人「ゆめ風基金」(大阪市)の八幡隆司理事は、「今後は、それぞれの地域が支援を引き継ぐことになる。よりきめ細かい支援ができるよう、自治体が中心となって早急に体制を整え、国も財政的な援助をすべきだ」と指摘している。
図=被災3県の介護関連職種の有効求人倍率
写真=ヘルパー不足から「札幌市への移住を考えている」という佐川さん(左)。担当ヘルパーの渡辺さんは避難先から約2時間かけて佐川さん宅へ通う(福島市内で)」(全文)
◆2012/10/24 「難病患者の自宅暮らし 24時間ケア遅れる行政 九州・山口・沖縄実施4%」
『読売新聞』
「難治性の病気、筋ジストロフィーやALS(筋萎縮性側索硬化症)などを患い、24時間の介護や医療ケアを必要としながら、病院ではなく自宅での生活を望む人が増えている。「障害を持つ人も地域で普通に暮らせる社会をつくる」というノーマライゼーションの考え方が広がり、国も制度を整えてきた。だが自治体によって支援内容に差があるなど課題も多い。(手嶋由梨)
「けんじくん、たんを取って」。熊本県菊陽町の民家。若い頃から全身の筋肉が衰える難病「筋ジストロフィー」を患い、寝たきりの松永恵貴(よしたか)さん(35)が唇を動かすと、居宅介護事業所から派遣されたヘルパーの堀之内健二さん(21)が人工呼吸器の蓋を外し、専用チューブでたんを吸い上げて容器に捨てる。
松永さんは呼吸のための筋力も弱まり、のどを切開して呼吸器を装着している。声を出せないため、口の動きで言葉を伝える。
1時間に1回はたんを吸引し、床ずれ防止のため、こまめに体の向きを変えなければならない。常に誰かの付き添いが必要だ。
歩けなくなったのは12歳の時。車いすで大学に通い、アパートでの一人暮らしにも挑戦した。5年前、呼吸器装着のために入院。病院で約1年過ごした後、実家に戻った。
なぜ病院ではなく自宅を選んだのか。「住みたい場所で暮らす。当たり前の願いではないでしょうか」と松永さんの口が動いた。
◇
ノーマライゼーションの理念は北欧で誕生し、1970年代に日本に伝わった。施設で保護する考え方が徐々に見直され、2003年から実施された障害者基本計画で理念重視の方針が打ち出され、06年施行の障害者自立支援法で、現在の公的支援の枠組みが固まった。
松永さんは06年、同法で障害が最も重い区分6と認定された。ただ、最初に認められた在宅介護サービスは1週間で合計9時間だった。
両親は60歳代で腰などに持病があり、祖父母の介護にも追われている。「両親の負担を減らしたい」と、松永さんは町の担当者にかけあった。その結果、昨年11月からは日中は毎日8時間、週に2日は夜の8時間も認められた。
それでも、残りは両親が付き添わなければならない。松永さんは家族に頼らなくても生活できるよう、いずれは1日24時間の在宅支援が必要と考えている。
◇
サービス内容は、市町村が国の指針に沿って障害の程度や患者の希望、家族状況などから判断する。費用は国が半分、県と市町村が各4分の1を負担。国が負担分の上限を設けているため、在宅介護サービスは最も重い区分6で1日最大10時間程度との目安がある。
目安を超えて支援するかどうかは市町村に委ねられている。「財政が厳しく支援には限りがある」との声も多く、地域によって格差が生じている。
全国障害者介護保障協議会(東京)によると、松永さんが望む24時間支援を認めた自治体は全国で10%程度。九州・山口・沖縄では福岡、長崎、大分各市など12市町村で、計293市町村の4%にとどまる。
筋ジストロフィーに関する正確な統計はなく、全国の患者数は1万人前後で、うち2000人程度が病院や施設にいるとみられる。在宅患者が抱える問題の把握も進んでおらず、理念実現への道のりは険しい。
◇
中年以降に発症することが多く、同様に全身の筋力が失われるALSを巡っては、足の不自由な妻と暮らす和歌山市の男性患者が、1日8時間の在宅サービスの延長を求めて提訴。和歌山地裁が4月、「障害の程度や介護者の状況を適切に考慮していない」として市に17・5時間に延長するよう命じ、判決は確定した。今後、他の自治体にどう影響するのか注目される。
ALSの母を12年間介護した川口有美子・日本ALS協会理事は「現状では、在宅患者もその家族も互いに苦しむことになってしまう。患者も家族も自由で自立した生活を送れるよう、実態に即した支援を拡充してほしい」と訴える。
◆在宅支援 公費給付急増
難治性疾患への公的支援は障害者自立支援法や介護保険法、医療費助成や居宅生活支援事業といった難病対策に基づいて行われる。
ただ原因不明で患者数が少ない難治性疾患は5000?7000あるともいわれ、今の制度ですべてを網羅できない。またサービス利用者と公費負担は年々増加し財政を圧迫している。
国は、自立支援法を発展させる形で来年4月に施行する「障害者総合支援法」の対象に、身体障害、知的障害、精神障害のほか、難病患者を加えることを決め、対象疾患を検討中だ。日本難病・疾病団体協議会(東京)は「今は対象が限られており不公平感がある。患者の実情に即して拡充してほしい」と訴えるが、安定的な財源確保の検討も欠かせない。(本部洋介)
図=筋ジストロフィー患者への在宅支援の流れ
図=難病患者が受けられる主な公的支援
図=障害者自立支援法のサービス利用者数と公費給付額
図=介護保険法の特定疾病(ALSなど16種)の認定者数(40?64歳)と公費給付額
写真=熊本県菊陽町の自宅で療養する松永さん(右)。ヘルパーの堀之内さん(左)がたんを吸引する」(全文)
◆2012/10/28 「医療法人徳洲会理事長・徳田氏、徳之島に帰郷 【西部】」
『朝日新聞』
「医療法人徳洲会理事長・徳田氏、徳之島に帰郷 【西部】
医療法人徳洲会理事長で元衆院議員の徳田虎雄氏(74)が27日、鹿児島県徳之島に9年ぶりに帰郷した。奄美各地の病院視察などが目的。全身の運動神経が衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)のため神奈川県で闘病中だが、島人(しまんちゅ)の熱烈歓迎に表情をゆるめた。
伊仙町の町制50周年記念式典では名誉町民の称号記が贈られ、妻の秀子さんが「ALSにかかり話すことも食べることもできないが、頭脳は正常でさえ渡っている」との徳田氏のあいさつを読み上げた。」(全文)
◆2012/10/28 「徳田虎雄氏が徳之島訪問 伊仙町名誉町民に 島民ら熱い歓迎=鹿児島」
『読売新聞』
「元衆院議員で医療法人徳洲会理事長の徳田虎雄氏(74)が27日、約9年ぶりに出身地の徳之島を訪れた。伊仙町の名誉町民授与式などに出席し、島民の熱い歓迎を受けた。
徳田氏は徳之島町出身。1990年に衆院旧奄美群島区で初当選し、当選4回。2002年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、05年に政界を引退した。現在は神奈川県で闘病生活を送っている。
徳田氏は今回、名誉町民授与式に合わせて奄美群島を訪問。26日には与論島、沖永良部島を訪れ、27日午前、ヘリで徳之島入りした。30、31日には喜界島と奄美大島を訪れる。
この日、徳之島空港では大勢の島民らが出迎えた。車いす姿の徳田氏が現れると大きな歓声が上がり、涙ぐむ人も。天城町松原、前田伍一さん(69)は「みんな待ち望んでいた。よく帰ってきてくれた」と話し、徳田氏の手を握って久しぶりの再会を喜んだ。
徳田氏は人工呼吸器を使用しているため声が出せず、文字盤を使って「あと10年は病院をつくり続ける。(あなたたちも)元気でいてくれ」などと出迎えた島民らをねぎらった。
伊仙町の町制施行50周年記念式典では、大久保明町長から名誉町民の称号記が手渡され、妻の秀子さんが「難病にかかり、体を動かすことも呼吸することもできませんが、頭はますますさえわたっています。命のある限り故郷の奄美のため頑張り続けます」との徳田氏のメッセージを代読。会場から大きな拍手が送られた。
写真=徳之島空港で島民らの歓迎を受ける徳田氏(左)」(全文)
◆2012/10/30 「石原都知事にエール 徳田虎雄氏、文字盤使い回答 /鹿児島県」
『朝日新聞』
「石原都知事にエール 徳田虎雄氏、文字盤使い回答 /鹿児島県
元衆院議員で医療法人徳洲会理事長の徳田虎雄氏(74)が28日、滞在中の徳之島で取材に応じ、辞任を表明した東京都の石原慎太郎知事(80)と「新党を作るつもりでいた」と答えた。
2002年から全身の運動神経が衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘病中で、故郷の徳之島に来るのは自身の最後の選挙になった03年秋以来9年ぶり。人工呼吸器を使っていて、話すことはできない。
唯一、意のままに動く眼球で職員が持つ透明な五十音盤を追い、「80歳になって新党を作るのは大変だと思うが、いまの政治に危機感を覚えて決意したはず。本気で動くと政治はいい方向に行くはずだ」と、石原氏にエールを送った。
同じような難病と闘う人たちには、研究が進むヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を挙げて、「再生医療と薬の開発が世界的に広がってきた。あと5、6年するとだいぶ研究が進むはずなので希望を持って」と答えた。
大歓迎を受けた徳之島空港では、涙を流して喜ぶ人もいた。奄美の人たちには「人口減少などの困難にぶつかっているが、医療と福祉をしっかりすれば暮らしやすい島になる」と語った。徳田氏は11月3日まで奄美各島を回り、系列の病院や高齢者施設を訪ねる。
(伊藤宏樹)
【写真説明】
透明な五十音盤を目で追いながら質問に答える徳田虎雄氏=徳之島町」(全文)
◆2012/10/30 「重度障害者:在宅医療の研修会 盛岡で介護職員ら100人参加 /岩手」
『毎日新聞』
「重度障害者の在宅療養を考える研修会が28日盛岡市内で開かれ、介護職員や患者、家族ら約100人が参加した。
筋力が低下する難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者と家族でつくる日本ALS協会(東京都千代田区)が主催。たんの吸引などこれまで医師や看護師らに限られていた医療行為が、今年4月の法改正で研修を受けた介護職員でもできるようになったことから、制度をより広く知ってもらい、在宅療養を充実させようと開かれた。
パネルディスカッションに参加した沿岸被災地の女性(38)は、患者を抱える実情を報告した。夫が5年前にALSを発症し、震災前はデイサービスを利用し母と協力しながら在宅で24時間介護していたが、津波で自宅を流され、母も犠牲になった。このため、現在は実家で避難生活を送り、夫は盛岡市の病院に入院しているという。【金寿英】」(全文)
◆2012/11/01 「山添義隆氏(元長崎女子短大教授)死去=長崎」
『読売新聞』
「山添義隆氏 81歳(やまぞえ・よしたか=元長崎女子短大教授)31日、筋萎縮性側索硬化症で死去。告別式は2日午前11時半、長崎市光町7の1メモリード典礼会館。喪主は長男、賢治氏。
専門は栄養生理・生化学。1981年に同短大の教授となり、96年に定年後も2003年まで特別専任教授を務めた。」(全文)
◆2012/11/01 「徳田虎雄・元衆院議員:9年ぶりの奄美訪問 離島医療への貢献、実感 /鹿児島」
『毎日新聞』
「元衆院議員で医療法人徳洲会の徳田虎雄理事長(74)が31日、筋力が急速に衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症後、9年ぶりに訪問した奄美市で会見し「故郷奄美の医療に貢献できていると実感でき、うれしい。奄美の医療と福祉は世界一に近い」などと述べた。
徳田理事長は先月26日から奄美群島の各島を訪問中で、30日に奄美大島に入った。セレモニーで島民の歓迎を受け「今後も奄美の発展に取り組む。近い将来私の病気も治ると信じている」とメッセージを発表した。
会見では、徳洲会職員が持つ文字盤の平仮名を目で追い応答。混乱する国政について「石原都知事は80歳になって新党をつくるのは大変だと思うが、今の政治に危機感を覚えて決意したはず」と答えた。【神田和明】」(全文)
◆2012/11/08 「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム 次世代へのメッセージ=特集その1」
『読売新聞』
「◎「科学の開国」
◆世界舞台に夢実現
ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「次世代へのメッセージ」が10月12日、東京都目黒区の東京工業大学で開かれた。今回のテーマは「科学の開国」。今年のノーベル生理学・医学賞に決まった山中伸弥・京都大学教授と、野依良治・理化学研究所理事長(2001年ノーベル化学賞)が基調講演を行った。パネルディスカッションでは、横山広美・東京大学准教授をコーディネーターに、夢の実現に必要なこと、世界で活躍する人材に求められる要素などを、それぞれの経験を踏まえて語り合った。
■基調講演
◆長期的ビジョン持って
◇山中伸弥(やまなか・しんや) 京都大学iPS細胞研究所長、教授
私は今年3月にマラソンを走った。なぜ走ったのかというのが今日の主題だ。理由の一つは、走るのが好きだから。もう一つの理由についてお話ししたい。
私は整形外科医を志し、神戸大学医学部を卒業後、一度は臨床医になった。(患者を治す臨床医学に対し)基礎医学は、脊髄損傷や、全身の筋肉が徐々に萎縮するALS(筋萎縮性側索硬化症)など、今は治せないけがや病気を、将来治せるように研究する。
「そんな基礎医学にひかれ、臨床医から転身した」と言えば格好良いが、本当は手術が下手で外科医をあきらめたのが理由の80%を占める。大阪市立大学大学院に入り直して薬理学を学んだ。修了後は、遺伝子を改変したマウスを使う研究を米国でやろうと、米サンフランシスコのグラッドストーン研究所へ留学した。
所長から「研究者で成功するには、VWを忘れるな」と教わった。VWは、ビジョン・アンド・ワーク・ハード(vision and work hard)。しっかりしたビジョンを持ち、一生懸命働けば心配ないという話だった。
ワーク・ハードには自信があった。ビジョンは、短期目標はあったが、長期目標は、はっきりわかっていなかった。自分が研究している間は役に立たないかもしれないが、あとの人が研究を発展させ、応用に結びつく研究をするというのが、その時に考え、今も持っているビジョンだ。
帰国後、奈良先端科学技術大学院大学の助教授になって、自分の研究室を持った。ここで始めたのがiPS細胞(新型万能細胞)の研究で、2006年にマウスで、07年にはヒトで、体細胞に遺伝子を導入して受精卵に近い状態に戻した。山中因子と呼ばれるようになった四つの遺伝子を突き止め、iPS細胞の作製に成功した。成果をあげた立役者は研究室に在籍した若い人たちだ。
iPS細胞は、大きく二つの医療応用を目指している。病気や傷ついた臓器を治療する再生医療と、病気のモデルになる細胞を利用した創薬だ。iPS細胞の可能性は、特に創薬研究で大きな意味を持つ。脊髄損傷の治療を目指し、基礎的な共同研究を進め、4、5年以内に臨床研究を始める準備をしている。創薬研究では、これまで難しかった、人間の病気を細胞で再現できるのが大きい。
私たちのiPS細胞研究所は10年間の達成目標として、iPS細胞技術の特許を確保して企業などに独占させないことと、研究者への細胞の供給を掲げる。
新しい医療をつくる場合、優れた基礎科学者による成果だけではダメで、倫理、特許、規制、資金、産学連携など、ジグソーパズルのようにピースがそろわないと、実用化に至らない。
私たちの研究所に約200人のスタッフがいるが、正規雇用は1割ほど。大半は非正規雇用だ。毎年、国から20億円以上の支援を受けているものの、期限がある競争的資金のため雇用財源としては不安定だ。
正規雇用でより多くの人を雇えるようにと、iPS細胞基金を作り、マラソンを走って寄付を募っている。1回で1000万円集まったが、180人雇用するには、マラソンを年間80回走らなければいけない。「マラソンより研究で頑張って」と言われたこともあるが、雇用安定も研究と同じくらい大切だ。質の高い論文は書くが(医療関連の技術や製品)開発で外国に負けるという状況を危惧している。
大勢で頑張ってパズルの完成を目指している。引き続き支援をお願いしたい。
◇1962年、大阪府生まれ。神戸大学医学部卒。大阪市立大医学部助手、奈良先端科学技術大学院大学助教授、同教授などを経て2004年から京都大学教授、10年から同大学iPS細胞研究所長。iPS細胞を作製した業績で、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞する。
■パネルディスカッション
◇コーディネーター 横山広美(よこやま・ひろみ) 東京大学准教授
◆失敗するほど幸運が来る
横山 お二人は夢をつかみ、切り開いてきた。夢の実現には何が必要か。
野依 大学で基礎研究をしている時に、役に立つ研究をしたいと努力し、産業界の協力も得て社会に貢献できた。人生は多くの偶然と、ごくわずかの必然が織りなす作品だ。運が大事だ。幸運をつかむために、若い人は準備する必要がある。
山中 運をつかむのは本当に大切。ただ、幸運だけをつかもうと思ってもつかめない。平均して9回失敗して1回成功する。振り返ってみると、人生全体でもそうだし、実験もそうだ。高校生は今のうちに、いっぱい失敗してもらいたい。失敗すればするほど幸運が来る。失敗して挫折することは恥ずかしくない。(例えて言うなら)ジャンプしようと思ったら、かがまないといけない。
横山 国際的に活躍する人材になるために、若い人は高校、大学、博士号を取った後など、どのタイミングで海外に行くべきか。
野依 色々な人がいてもいいが、私は日本の文化が大事だと思っているので、大学までは日本でしっかりやって、それから海外に行くのがいい。一度出た人が日本に戻って働ける環境、あるいは外国人を受け入れる環境を作ることも大事だ。外国に行かなくても、日本に外国人が来れば、日本が国際化する。米国はまさに、アジア、欧州、アラブから人が来て、多文化国家が成り立っている。
山中 いつ行くかよりも、何をしに行くかが肝心だ。外国の文化を学ぶということもあるが、人の輪を広げるのが重要。海外に行っても研究室にこもって実験ばかりするのなら、日本にいるのと変わらない。研究者は英ネイチャー誌など有名科学誌に論文発表するのを目標にするが、そのためには、科学誌の編集者と友達になることが大切だ。ファーストネームで呼び合い、ワインを飲むのが何より一番効く。それだけでは載らないが大事なことだ。
野依 今はインターネットがあるが、やっぱり人と人が会って、人柄を知り合うことが大事だ。外国に行けば、家に呼ばれる。逆に外国の先生や学生が来た時には、自分の家に呼んで、料理を出して、一緒に焼酎でもワインでも飲む。
山中 語学を身につけるという一点では、若い時に行ったほうが絶対有利だ。しかし、英語がうまい、下手よりも、何を話すか、心がこもっているかが大事だ。
野依 京都大の大先輩の福井謙一先生(1981年、ノーベル化学賞)は、「自分の英語は下手だけれど、研究成果がいいから、向こうは耳をそばだてて一生懸命に聞く」と言っていた。
写真=山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所長、教授
写真=横山広美 東京大学准教授
写真=パネルディスカッションに臨む山中教授(右)、野依理事長(増田教三撮影)」(全文)
◆2012/11/09 「ALS患者団体、視線入力をデモ 体への負担少なく好評 /富山県」
『朝日新聞』
「ALS患者団体、視線入力をデモ 体への負担少なく好評 /富山
全身の運動神経が衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者団体、日本ALS協会県支部は8日、富山市内で、瞳孔の動きを利用して文字入力ができる装置の体験会をした。体の麻痺などで意思疎通が難しい病気や障害がある患者や家族らが参加。従来よりも体への負担が少なく好評だった。
「重度障がい者用意思伝達装置 マイトビー」で、液晶画面に向けた視線を、瞳孔の動きで感知することで、視線通りに文字入力やパソコン画面の操作ができる。定型句や定型文を設定して簡単に意思を伝えることも可能だ。
県総合福祉会館での体験会に参加した高岡市の近藤佑基さん(21)は脳性麻痺のため車椅子生活を続けている。これまでは自動で画面を動く印を、足を動かすことで希望の場所で止めて選択入力する装置を利用していた。筋肉の緊張が強く、時間をかけると疲れてしまったという。母の智枝さん(48)は「視線で選ぶ方法は時間がかからず、使いやすそうだ」と話した。
マイトビーは国内に約60台あるが、輸入しているクレアクト社(東京都品川区)によると、最新型の価格は約139万円。しかし障害者自立支援法に基づき、一定の条件のもとで補装具費・特例補装具費の適用が認められると、購入時の本人負担額は大幅に減り、3万7千円での購入が可能だという。参加者からは「団体で購入し、レンタルする方法もある」などの提案もあった。(金沢ひかり)
【写真説明】
説明を受けながら体験をする参加者=富山市安住町の県総合福祉会館」(全文)
◆2012/11/13 「東日本大震災:災害医療研究会が被災地の現状説明 県立医大で報告会 /福島」
『毎日新聞』
「災害医療の臨床研究や情報交換を目的に設立した「福島災害医療研究会」の初の報告会が、福島市の県立医大で開かれた。慢性的な医師不足に加え、震災と原発事故で医療従事者の確保が困難な南相馬市などの病院で勤務している医師6人が体験などを語った。
被災地の地域医療向上のため、同市やいわき市に同大が派遣している医師14人が中心となり、9月に研究会を発足させた。
南相馬市立総合病院に勤務する小鷹昌明准教授は震災後、相馬地方で要支援・要介護者が増加する一方、福祉施設が減っている現状を説明した。相馬市にいる四肢の筋肉がまひしていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は、介護サービスを満足に受けられる状況になく、家族が苦労している事例も紹介。「ヘルパー数は圧倒的に足りない。崩壊してしまった社会福祉を再構築しなければいけない」と話した。
世話人の紺野慎一教授は「今後も研究会を重ね、福島の知見を全国に発信していきたい」と話した。【蓬田正志】」(全文)
◆2012/11/15 「(重度訪問介護 格差の現場:上)この街で生きたいのに 【大阪】」
『朝日新聞』
「(重度訪問介護 格差の現場:上)この街で生きたいのに 【大阪】
重い身体障害の人のもとにヘルパーを派遣する「重度訪問介護」は、障害者が住み慣れた家で暮らすうえで欠かせない制度だ。しかし、当事者を訪ねると、地域間格差という大きな問題が横たわっていた。
●ヘルパーのサポート足りず、家族疲弊
「宿題はやったの?」。千葉県鎌ケ谷市に住む女性(39)は、ゲームに熱中する一人娘(9)をいつものように注意した。「声」は、特殊なコンピューターの音声だ。
女性は全身の筋肉がだんだん動かなくなる原因不明の難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)。病気の進行で声が出ない。両手足も動かせず寝たきりだ。難病患者であり、重度の身体障害者でもある。
夫(40)と娘の家族3人の暮らしにはヘルパーが欠かせない。食事、排泄(はいせつ)、入浴。生活全般のサポートを受ける。人工呼吸器を使っていて特に大切なのは、たんの吸引。詰まると窒息する危険がある。夜間も専用の機器で吸い出してもらう。命を保つために、24時間だれかにそばにいてもらう必要がある。
診断は6年前。「娘の成長のために何が必要か」。夫婦は入院ではなく、一つ屋根の下での暮らしを選んだ。
初めは順調ではなかった。ヘルパーの派遣時間は住んでいる市に決定権がある。3年前の派遣は1カ月560時間。平日だけで使い切ってしまう量だった。土日に仕事が休みの夫は、介護と育児を掛け持ちした。
形の上で離婚したら、妻は独り身になり時間数が増えるかも知れない。そこまで考えた夫。「介護がしたくない訳がない。妻なんですから。でも、体がもたなかった」と振り返る。
同じ県内でも、ほかの市では毎日24時間(1カ月744時間)の利用者がいた。「なんでうちの市は?」。時間数に自治体間の格差を感じ、弁護士に頼んで市と交渉した。1年ほど前から土日も含め、毎日24時間の利用が認められた。「理解してくれた市には感謝している」と夫は言う。
同じ制度の利用者でも、十分な派遣を受けられない人もいる。
滋賀県内の女性(59)もALS患者。重度訪問介護を含め障害福祉サービスを月300時間使う。ヘルパーは平日の昼間だけ。平日の夜から翌朝と土日の介護は、6年余り、会社勤めの長女(32)が主にしてきた。
体力的な大変さもあり、長女は今年2月、仕事をやめた。介護職として再就職をめざす娘の将来を思い、女性は利用時間を増やしたいと考える。それにはヘルパーを派遣してくれる事業所が必要だが、県内を探しても見当たらない。「普通の人のように、娘にはまた働いてほしい。そう思うのは親心なの」
●自治体の派遣時間数、差は4倍
朝日新聞は9月、全国の主要都市(政令指定市、中核市、県庁所在市、東京23区)の96自治体に、重度訪問介護でヘルパーを派遣したケースのうち、2011年度の最高時間数を尋ねた(有効回答82)。その結果からも、地域差がうかがえる。
千葉県鎌ケ谷市の母親のように1カ月744時間以上の支給があったのは26・8%。内訳は指定市12、中核市5、県庁所在市2、東京23区3だった。
さらに、派遣時間が最高だったケースについて(1)利用者の障害程度、(2)介護家族の有無を尋ね、条件が重なる自治体ごとに比較した。
もっとも多くの自治体が該当したグループ=図表参照=では、1カ月あたりで304時間(鳥取市)から、複数のヘルパーを派遣する1155時間(千代田区)まで4倍近い開きがあった。鳥取市は「事業所が少なく、ヘルパーの人員も限られる。時間数を増やすのは難しい」と説明する。都市部の方が、支給時間数は長い傾向にあった。
介護事業所の数でも地域差がある。厚生労働省の統計によると、昨年9月時点で重度訪問介護の利用者がいた事業所数は全国で3795。都道府県別にみると、最多の東京は562。最少の富山と石川は2だった。
重度訪問介護に詳しい長岡健太郎弁護士(和歌山弁護士会)は「人間として、住み慣れた地域で生きることは保障されるべきだ」と語る。地域差の背景には、重度障害者のヘルパー派遣に対する国の費用負担のあり方や、介護事業所に支給される報酬の低さがあると指摘する。
◇
次回はこの背景を読み解きます。(久永隆一)
<重度訪問介護> 障害者自立支援法による制度で、障害の程度を示す区分(6段階)のうち、最重度の6〜4の人が対象。難病患者や脳性まひ、事故による脊髄(せきずい)損傷の人らが利用する。利用者の自己負担(所得額に応じて減免)以外の費用は国と都道府県、市町村で賄う。厚生労働省によると、全国で8751人(2012年3月時点)が利用。地域社会での共生は障害者基本法でうたわれるが、自宅療養の環境が整わず利用できない人はもっといるとの指摘もある。
【写真説明】
ベッド暮らしの女性を囲む家族ら。パソコンと首の動きでつづった娘あての手紙には「お母さんは一番のみかた」とあった=千葉県鎌ケ谷市
【図】
ヘルパー派遣時間数の自治体間格差」(全文)
◆2012/11/15 「啓発活動:難病のALSを知って 患者や支援者ら、チラシ配り募金呼びかけ−−宮崎山形屋前 /宮崎」
『毎日新聞』
「◇県内では100人が闘病生活
進行性の難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を知ってもらおうと、患者や支援者らでつくる「日本ALS協会県支部」(宮崎市、108人)が、宮崎市の宮崎山形屋前で啓発活動をした。
支部によると、ALSは原因不明で治療法が確立されていない。運動神経が侵され、徐々に体を動かせなくなり、死に至るという。自発呼吸ができずに人工呼吸器を装着した場合、たんの吸引などで24時間態勢の看護が必要で、家族の負担も大きい。県内では約100人が闘病生活を送っているという。
支部は94年に設立。街頭での活動は10日にあり、メンバー約30人がチラシを配って募金を呼びかけた。22年前に発症した平山真喜男支部長(60)も電動車椅子で参加し「一日も早いALSの原因解明と治療薬の開発を」と訴えた。【中村清雅】」(全文)
◆2012/11/16 「くらしの明日:私の社会保障論 ALSになった記者の「意地」=大熊由紀子」
『毎日新聞』
「◇家族に気兼ねし、死を選ぶ社会とは=国際医療福祉大大学院教授・大熊由紀子
政策に切り込んだ社会派番組から叙情豊かな作品まで、山陰放送記者の谷田人司さんは、その掘り下げた仕事ぶりが高く評価されていました。
その谷田さんに07年、不治の病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)が襲いかかりました。視力、聴力、感覚、知力が保たれているのに、手足や喉、舌を動かす筋肉が痩せ細り、最後には呼吸筋が動かなくなって死に至る恐ろしい病気です。
人工呼吸器をつければ寿命を全うできますが、日本では生きることを諦め、つけない人が7割と推定されています。理由の多くは「介護の負担で家族に迷惑をかけるのがつらい」。
ところが、デンマークの友人たちに聞くと「考えられない」という答えが返ってきました。家族や友人の精神的な支えは大切だとしつつ、介護や看護の公的な支えが当たり前とされているからです。
谷田さんは2年前から人工呼吸器をつけ、障害者自立支援法などを活用し、デンマークに近い24時間対応のサービスを受けています。わずかに動く指でパソコンを打ち、培った人脈を生かして企画を提案。山陰放送は、谷田さんを社員として遇し続けています。
東日本大震災が起きた時、谷田さんは被災したALSの先輩、土屋雅史さんを取材しようと思い立ちました。メールで交通機関の手配や取材交渉を進め、バッテリーを載せた車いすで仙台に向かいました。「記者の意地です」
取材で谷田さんは、震災で停電が5日も続く中、近所の人たちが発電機やガソリンを持ち寄り、交代で手動の呼吸器を動かし、土屋さんの命をつないだことを知ります。「1日を大事に生きれば良い」という土屋夫妻の言葉に、谷田さんは「共に生きる意義を再認識しました」と振り返りました。
ALSが進行すると、体のどこも動かず、全く意思表示できない完全閉じこめ症候群(TLS)になる可能性があります。それでも生きることに意味があるのか――。答えを探しに、谷田さんは東京都小金井市の鴨下雅之さん一家を訪ねました。雅之さんは家族にとって、かけがえのない夫であり、父親であり続けていました。妻の章子さんは「遺影に言うのとは違う。聞いてもらえていると信じているので幸せです」と語りました。
その取材の一部始終を、後輩のディレクター、佐藤泰正さんたちが「生きることを選んで」という番組にまとめ、2月に放送しました。この記者魂に、第1回の日本医学ジャーナリスト協会大賞が贈られました。「家族への気兼ねから死を選ぶことのない社会にするための捨て石になれれば」という谷田さんの言葉が、重く響きました。
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■ことば
◇日本医学ジャーナリスト協会賞
NPO日本医学ジャーナリスト協会が25周年を記念して創設。第1回協会賞が10月に発表された。大賞は、他に下野新聞の「終章を生きる 2025年超高齢社会」。特別賞にタバコ問題情報センターの月刊紙「禁煙ジャーナル」とNPO法人地域精神保健福祉機構・コンボの月刊誌「こころの元気+(plus)」。いずれも社会にインパクトを与え、挑戦精神に富んだ独創的な作品。
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「くらしの明日」は毎週金曜日掲載。次回は湯浅誠さんです」(全文)
◆2012/11/17 「(ニュースのおさらい ジュニア向け)iPS細胞は何がすごいの?」
『朝日新聞』
「(ニュースのおさらい ジュニア向け)iPS細胞は何がすごいの?
今年のノーベル医学生理学賞に京都大学の山中伸弥(やまなかしんや)教授が選ばれました。山中さんは2006年、どんな細胞(さいぼう)にもなれるiPS(アイピーエス)細胞を作りました。生命の常識(じょうしき)をひっくり返す大発見だっただけでなく、いまは治すのが難(むずか)しい病気が治療(ちりょう)できるようになるのではないかと期待されています。
●何にでもなる状態にリセット
イモリは敵(てき)に襲(おそ)われると、しっぽを切って逃(に)げる。切れたしっぽは、しばらくするとまた生(は)えてくる。プラナリアという2センチ前後の生き物は、バラバラにされても復活(ふっかつ)する。
でも、イヌやネコ、そして人間ではそうはいかない。骨(ほね)の細胞は骨に、筋肉(きんにく)の細胞は筋肉にというぐあいに役割がはっきりと決まっている。イモリのように、しっぽの付け根にある細胞が骨や筋肉、皮に変わったりするようなことはない。
でも、人間にもたった一つだけ、どんな細胞にもなれる力をもつ細胞がある。それが、赤ちゃんのもとの受精卵(じゅせいらん)だ。
人間の体にある細胞はぜんぶで約60兆個といわれる。これらはすべて、1個の受精卵が2個、4個、8個……と、どんどん増えていってできる。増えながら筋肉や骨、皮といった、いろんな種類に姿(すがた)を変える。こうしたどんな細胞にもなれる受精卵の力を「万能性(ばんのうせい)」という。
細胞はいったん役割が決まると、ほかの種類の細胞にはなれなくなる。皮膚(ひふ)や筋肉の細胞が、再び受精卵のような何にでもなれる細胞に戻ることはない――と、ずっと思われてきた。
その常識をひっくり返したのが、山中さんと一緒(いっしょ)にノーベル賞を受ける英国のジョン・ガードン博士だ。博士は50年前、オタマジャクシの腸の細胞をカエルの卵に入れ、再びオタマジャクシを生ませた。
どうやら、卵の中に、細胞をまっさらな状態に戻(もど)すリセットボタンがあるらしい。そのボタン探(さが)しが始まった。細胞の働きを示す設計図(せっけいず)が書かれた「遺伝子(いでんし)」は、人間では2万個以上ある。このうちのどれがリセットボタンになるのか、分からないまま半世紀が過ぎた。
山中さんは、それを見つけ出した。2006年、ネズミの皮の細胞に四つの遺伝子を入れると、まるで受精卵のような状態に戻ることを確かめた。翌年には人間の細胞でも成功。それは、世界の人たちが考えていたような難しいやり方ではなく、学生でもできるくらい簡単(かんたん)な方法だった。山中さんは「科学はつくづく非常識」と話す。
山中さんは、この細胞をiPS細胞と名付けた。人の手で作った、いろんな細胞になる力のある細胞という英語の頭文字をとった。iが小文字なのは、iPodなどアップル社の製品のように広く使われるようになって欲しいという願いからだ。
●移植や難病治療に期待
iPS細胞を使って、どんなことができるのか。
一つが移植だ。心臓(しんぞう)や肝臓(かんぞう)の具合が悪くなって薬も効(き)かなくなると、今は、亡(な)くなった人や家族から臓器(ぞうき)をもらわないといけない。でも、違う人から臓器をもらうと、外からきた敵をやっつけて病気を防ぐ体の仕組みが、臓器を攻撃(こうげき)してしまう。それを防ぐため、副作用(ふくさよう)のある薬を飲み続けないといけない。
iPS細胞を使って自分の細胞から心臓や肝臓を作れれば、そんな心配がなくなる。もうすぐ、目の細胞を作って、目が見えにくくなった人に移植する研究が始まろうとしている。
また、今は治すことのできない病気のことを調べられる。運動神経(しんけい)がだんだん弱っていく筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)の人のiPS細胞から神経細胞を作って、どうして病気になるのか確かめようとしている。
薬作りにも使える。病気の人のiPS細胞をもとにして、効きそうな薬の候補(こうほ)を探したり、体に悪さをしないかをみたりできる。いきなり人間で試すより安全に、詳(くわ)しく調べられる。病気をかかえる多くの人たちが、iPS細胞の成果を待ち望んでいる。(東山正宜〈ひがしやままさのぶ〉)
◆来週のテーマは
次回は「スコットランド独立」について学びます。取り上げてほしいテーマをお知らせください。
あて先は news−osarai@asahi.com
◆朝日小学生新聞
今後の主な予定 スカイツリー開業から半年▽学習障害を考える▽柏葉幸子作『竜が呼んだ娘』好評連載中
詳しい紙面などはhttp://www.asagaku.com
◆ジュニアエラ12月号
小中学生向けニュース月刊誌。特集は「生死を分けるのは何? 人体の科学」。ほか、「日本と中国の関係はどうなるの?」など。好評発売中。480円。
【図】
iPS細胞(さいぼう)
<グラフィック・岩見梨絵>」(全文)
◆2012/11/17 「「今を精一杯生きよう」と思います ALS協会富山支部、体験談集発刊 /北陸・共通」
『朝日新聞』
「今を精一杯生きよう」と思います ALS協会富山支部、体験談集発刊 /北陸・共通
全身の筋肉が萎縮する難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の患者団体・日本ALS協会富山県支部が、「ひとりじゃないから〜ALS患者・家族の体験談集〜」を発刊した。同県支部設立5周年を迎えた今年10月に合わせて作った。
ALS患者は病気の特性から、話したり字を書いたりすることが難しく意思の伝達が困難だ。体験談を記した患者は筋力の低下で話すことが難しくなっていても時間をかけて自分の声で語ったり、文字盤で言葉をつづったりしたという。体験談集には家族への感謝の言葉や、新たな治療法を望む声が掲載されている。
ALSの診断を受けて1年未満の50代患者は「自分自身どうしたらいいか判(わか)らなかった。『死にたい』と思った。もう『自分には明日はいらない』とも思った」と記す。しかし、多くの人が見舞ってくれる中で「これからも少しずつ症状は進んでいくと思いますが、多くの人たちとの出合いを楽しみに『今を精一杯生きよう』と思います」と締めくくっている。
50代の男性患者の妻は、思うように食事をとれない夫のために、飲み込みやすいように工夫した料理の写真を紹介。周囲への感謝を記し「最初は夫の世話は皆自分でしなければと気負っていましたが、それは絶対に無理な事。今は無理をせず、我慢をせず、頑張らず、助けてくださる方、手を貸してくださる方があれば喜んで助けてもらっています」と心境の変化をつづっている。
体験談集には、同県内のALS患者とその家族33人と、石川県など県外の3患者、計36人の体験談が掲載されている。日本ALS協会富山県支部によると、ALSの患者は全国に約8700人おり、同県内には99人いるという。体験談集は55ページ、800円。問い合わせは富山市上冨居の同事務局(076・451・5998)。
(金沢ひかり)
【写真説明】
体験談の中には、患者自身の療養生活での工夫などが写真で紹介されている」(全文)
◆2012/11/17 「憂楽帳:希望の光」
『毎日新聞』
「ノーベル賞受賞が決まった山中伸弥京都大教授が会見で話した言葉が、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う友人の心に光を投げかけた。「難病を持っている患者さんは、希望を捨てずにいてほしい」との言葉に、彼女は「10年先を見てみたくなった」という。
ALSは、全身の筋肉が萎縮して最後は呼吸困難に至る進行性の病気。原因も治療法も解明されていない。彼女は「余命3年」と宣告されたが、「10年生きる」を目標に6年が過ぎた。体が動かなくなり、声も出なくなった。外部とのやりとりは、まばたきだけで行っている。ものを飲み込んだり、痰(たん)を吐き出す機能が低下して、今年2月には風邪で生死の境をさまよった。その時、彼女は「与えられた命で、人のために何かしたい」と、私に言った。
24時間介護が必要な彼女が住む地域には、重度訪問介護ヘルパーそのものが足りないが、行政が積極的に動く気配はない。それならば自分で。彼女は、動かない体を車椅子に埋め、夫とともにヘルパー養成講座で実情を伝え始めた。今ふたたび限界への挑戦だ。【竹内啓子】」(全文)
◆2012/11/20 「(重度訪問介護の足元:上)障害者サポート時間、地域で格差」
『朝日新聞』
「(重度訪問介護の足元:上)障害者サポート時間、地域で格差
重い身体障害の人のもとにヘルパーを派遣する「重度訪問介護」=キーワード=は、障害者が住み慣れた家で暮らすうえで欠かせない制度だ。しかし、当事者を訪ねると、地域間格差という大きな問題が横たわっていた。
●公的介護でまかなえず、娘が退職
「宿題はやったの?」。千葉県鎌ケ谷市に住む女性(39)は、ゲームに熱中する一人娘(9)をいつものように注意した。「声」は、特殊なコンピューターの音声だ。
女性は全身の筋肉がだんだん動かなくなる原因不明の難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)。病気の進行で声が出ない。両手足も動かせず寝たきりだ。難病患者であり、重度の身体障害者でもある。
夫(40)と娘の家族3人の暮らしにはヘルパーが欠かせない。食事、排泄(はいせつ)、入浴。生活全般のサポートを受ける。人工呼吸器を使っていて特に大切なのは、たんの吸引。詰まると窒息する危険がある。夜間も専用の機器で吸い出してもらう。命を保つために、24時間だれかにそばにいてもらう必要がある。
診断は6年前。「娘の成長のために何が必要か」。夫婦は入院ではなく、一つ屋根の下での暮らしを選んだ。
初めは順調ではなかった。ヘルパーの派遣時間は住んでいる市に決定権がある。3年前の派遣は1カ月560時間。平日だけで使い切ってしまう量だった。土日に仕事が休みの夫は、介護と育児を掛け持ちした。
形の上で離婚したら、妻は独り身になり、派遣時間数が増えるかも知れない。そこまで考えた夫。「介護がしたくないわけがない。妻なんですから。でも、体がもたなかった」と振り返る。
同じ県内でも、ほかの市では毎日24時間(1カ月744時間)の利用者がいた。「なんでうちの市は?」。時間数に自治体間の格差を感じ、弁護士に頼んで市と交渉した。1年ほど前から土日も含め、毎日24時間の利用が認められた。「理解してくれた市には感謝している」と夫は言う。
同じ制度の利用者でも、十分な派遣を受けられない人もいる。
滋賀県内の女性(59)もALS患者。重度訪問介護を含め障害福祉サービスを月300時間使う。ヘルパーは平日の昼間だけ。平日の夜から翌朝と土日の介護は、6年余り、会社勤めの長女(32)が主にしてきた。
体力的な大変さもあり、長女は今年2月、仕事をやめた。介護職として再就職をめざす娘の将来を思い、女性は利用時間を増やしたいと考える。それにはヘルパーを派遣してくれる事業所が必要だが、県内を探しても見当たらない。「普通の人のように、娘にはまた働いてほしい。そう思うのは親心なの」
●千代田区と鳥取で4倍差 ヘルパー派遣の実態調査
朝日新聞は9月、全国の主要都市(政令指定市、中核市、県庁所在市、東京23区)の96自治体に、重度訪問介護でヘルパーを派遣したケースのうち、2011年度の最高時間数を尋ねた(有効回答82)。その結果からも、地域差がうかがえる。
千葉県鎌ケ谷市の母親のように1カ月744時間以上の支給があったのは26・8%。内訳は指定市12、中核市5、県庁所在市2、東京23区3だった。
さらに、派遣時間が最高だったケースについて(1)利用者の障害程度、(2)介護家族の有無を尋ね、条件が重なる自治体ごとに比較した。
もっとも多くの自治体が該当したグループ=図表参照=では、1カ月あたりで304時間(鳥取市)から、複数のヘルパーを派遣する1155時間(千代田区)まで4倍近い開きがあった。鳥取市は「事業所が少なく、ヘルパーの人員も限られる。時間数を増やすのは難しい」と説明する。都市部の方が、支給時間数は長い傾向にあった。
介護事業所の数でも地域差がある。厚生労働省の統計によると、昨年9月時点で重度訪問介護の利用者がいた事業所数は全国で3795。都道府県別にみると、最多の東京は562。最少の富山と石川は2だった。
重度訪問介護に詳しい長岡健太郎弁護士(和歌山弁護士会)は「人間として、住み慣れた地域で生きることは保障されるべきだ」と語る。
地域差の背景には、重度障害者のヘルパー派遣に対する国の費用負担のあり方や、介護事業所に支給される報酬の低さがあると指摘する。
◇
あすはこの背景を読み解きます。(久永隆一)
◆キーワード
<重度訪問介護> 障害者自立支援法による制度で、障害の程度を示す区分(6段階)のうち、最重度の6〜4の人が対象。難病患者や脳性まひ、事故による脊髄(せきずい)損傷の人らが利用する。利用者の自己負担(所得額に応じて減免)以外の費用は国と都道府県、市町村で賄う。厚生労働省によると、全国で8751人(2012年3月時点)が利用。地域社会での共生は障害者基本法でうたわれるが、自宅療養の環境が整わず利用できない人はもっといるとの指摘もある。
【写真説明】
ベッド暮らしの女性を囲む家族ら。パソコンソフトと首の動きでつづった娘あての手紙には「お母さんは一番のみかた」とあった=千葉県鎌ケ谷市
【図】
ヘルパー派遣時間数の自治体間格差」(全文)
◆2012/11/20 「筋力低下:原因遺伝子を発見」
『毎日新聞』
「運動神経が変化し肩や腰など体の中心に近い部分の筋力が低下していく遺伝性の病気「近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー」の原因遺伝子を見つけたと、東大と徳島大のチームが発表した。この病気は全身の筋力が低下する難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と運動神経の細胞が死んでいく仕組みや症状が似ており、東大の辻省次教授は「ALSをはじめとした運動ニューロン病に対する治療薬開発の基礎になる」と話した。
チームはDNA配列を解析できる機器を使い、家族に発症した人がいる西日本の4家系32人の血液を分析。うち発症した13人全てで「TFG」という遺伝子に変異が起きていた。TFGは細胞内でたんぱく質を運ぶことに関わり、変異して運ぶ機能が低下すると「TDP43」という別のたんぱく質が細胞内に異常に蓄積して運動神経の細胞死につながっていた。
このTDP43はほとんどのALS患者の脊髄(せきずい)でも蓄積することが分かっており、チームは「ALSと共通のメカニズムで運動神経の細胞死が起きている」とみている。今回、原因遺伝子を見つけた病気は10〜15年で呼吸筋の筋力が低下。感覚神経にも障害が出るなど多くのALSとは異なった症状もあるが、ALSの一種と診断されるケースがあるという。」(全文)
◆2012/11/28 「難病ALS患者 宮崎で街頭活動 理解や支援訴え=宮崎」
『読売新聞』
「難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)への理解を深めてもらおうと、日本ALS協会県支部(平山真喜男支部長)は、宮崎市の山形屋前で街頭啓発活動を行った。
ALSは運動神経が徐々に失われ、全身の筋肉が動かなくなる病気。日本ALS協会県支部によると、国内に約8500人、県内に104人の患者がいるが、有効な治療法は見つかっていない。会話や食事、呼吸が困難になり、長時間にわたる介護が家族にとって精神的、経済的な負担となっている。
啓発活動には患者やその家族ら会員約20人が参加。「難病ALSにご支援を」と書かれたのぼりを掲げ、買い物客らに啓発チラシを配布したり、募金を呼びかけたりした。
22年前にALSを発症した平山真喜男支部長(60)は「患者らは大変な生活を強いられている。多くの人にALSの現状を知ってほしい」と話していた。
写真=ALSへの理解を呼びかける平山支部長(右)ら」(全文)
◆2012/11/30 「難病女性、ブログで明るく 絵文字使い発信 ALS患者・下関の大神さん /山口県」
『朝日新聞』
「難病女性、ブログで明るく 絵文字使い発信 ALS患者・下関の大神さん /山口県
体の自由を奪われる難病「筋萎縮性側索硬化症=キーワード=(ALS)」の下関市の女性が、日常をブログでつづっている。声は出ないが、思考や五感は失っていない。そのことを知ってもらいたくて、失った声を文字に代え、明るく発信し続けている。
《未来に向かいスタートします\(^o^)/》
11月5日、大神和子さん(54)は転居後初めてのブログでこう書き出した。下関市にアパートを借りたこと。その部屋で人工呼吸器の電気コードが抜けなくなったこと。知人が好きな俳優の写真を持ってきてくれたこと……。日々の出来事を文字にした。
寝たきりで手足はほぼ動かず、しゃべることはできない。呼吸は人工呼吸器が頼みで、24時間の介助を受けている。言葉はわずかに動く口やまぶたで伝える。パソコンは専用のソフトを使い、わきや足で操作する。
ALSと分かったのは、福岡県内のスーパーで働いていた45歳の時だ。
年末、腕を上げづらくなった。四十肩だと思っていたが、春になると指先を伸ばせなくなり、品物を落とすようになった。検査入院し、医師から「治らない進行性の病気です」と告げられた。一緒にいた心臓の悪い母が心配で、涙は流せなかった。
病気は少しずつ進んだ。駐車場で車の整理券が取れない。ズボンがはけない。転んで口の中を7針縫って、福岡県内の病院に入院を決めた。
病院でも病気は進行し、体の自由や言葉を失った。朝ご飯は毎日4時。おむつや体位交換も決まった時間だけ。たんをとって欲しいと訴えても、何時間も待たされた。看護師は無言で作業し、言葉を聞こうともしてくれなかった。「物体扱いされている」と感じるようになった。
ブログを始めようと思ったのはその頃だ。「ALS患者は声は出ないけど、思考能力はある。意思や五感があることを知って欲しかった」。ブログの題名は「ALS患者のつぶやき日記」にした。
《生かされ、幸せo(^−^)o
ALSとぜんそく共に生きます☆》
病気のことも前向きに言い表し、顔文字や絵文字を多用する。「酷な病気だからこそ、わざと明るく書きます」と言う。
ブログを読み、愛知県のALS患者や、夫が患者の千葉県の女性がわざわざ訪ねて来てくれた。5年間で約5万アクセス。反響の大きさに、同じ病気の人たちに、伝えたいと思うことが増えた。「前向きに生きて欲しい。後を向いても仕方がないから」
「一番残酷な病気」。ALSをそう表す。「私たちは、末期は目を閉じたままです。意識はあるが一切コミュニケーションを取れません。暗闇の世界です」
ブログにそんな不安を吹き飛ばす言葉を並べる。
《宿命は、変えられない。運命は、変えられる。ALSをプラスに、変える》
(高田正幸)
◆キーワード
<筋萎縮性側索硬化症>
筋肉を動かす神経の障害で、全身の筋肉が少しずつ動かなくなる原因不明の難病。症状が進むにつれて呼吸や会話も困難になる一方、知能、聴力、内臓機能などは保たれる。厚生労働省や県によると、全国に約8500人、県内に約120人の患者がいるとされる。
【写真説明】
まばたきや口の形でヘルパーの女性と会話する大神和子さん(右)=下関市」(全文)
◆2012/12/02 「難病患者の体験談発信 サイト開設 治療法研究に役立てて」
『読売新聞』
「様々な難病患者の体験談をインターネット上に登録、発信する「患者情報登録サイト」(http://nambyo.net)の運用が2日、始まる。難病患者の支援を続ける7団体が運営、患者情報を蓄積することで、治療の研究促進を目指すという。
7団体は筋肉が徐々に動かなくなる「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」や、筋肉などが骨へと変化する「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の患者、家族らの組織。症例が少ない難病はデータ収集が難しく、ネットの活用を考えた。
患者はサイトに匿名で病名や性別、年代を登録。症状に気付いたきっかけや発症の経緯、就学や就職への影響などの体験をつづる。日々の服薬の状況も記入。家族や支援者が代わりに登録できる。患者側は自ら公表するデータの範囲を選択。研究者や製薬企業側が、治験条件に適合した患者を探しやすくなるなどのメリットがある。
患者同士の交流や、患者と専門家が知り合うきっかけにしたいといい、来年3月までに100人以上の登録が目標。ALSの支援団体理事の川口有美子さん(49)は「サイトを通じて、患者に一人で悩まなくてもいいと思ってもらえれば」としている。」(全文)
◆2012/12/03 「iPS細胞がALSを救う ノーベル賞を喜ぶ「クイズダービー」の篠沢教授」
『朝日新聞』
「iPS細胞がALSを救う ノーベル賞を喜ぶ「クイズダービー」の篠沢教授
「クイズダービー」の名物解答者として人気を集めた篠沢秀夫・学習院大学名誉教授。難病のALSだと告白してから3年近くたった今、希望が見えてきた。
山中伸弥・京都大学教授がiPS細胞の作製に成功した功績で、ノーベル医学生理学賞の受賞が決まり、日本中が沸いた10月。病床で感慨ひとしおだった人物がいる。篠沢秀夫・学習院大学名誉教授(79)だ。
篠沢さんの本業はフランス文学者だが、視聴率が毎週のように30%を上回った往年のクイズバラエティー番組「クイズダービー」のレギュラー解答者として覚えている人も多いだろう。珍答迷答ぶりや柔和な人柄で一躍、茶の間の人気者になった。
その篠沢さんは現在、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で闘病している。
ALSは進行性の病気で、現時点で有効な治療法はない。進行を止めることもできない。いったん罹患すると、意識や五感は正常なまま、全身の筋肉が衰えていき、最後には呼吸筋がまひして、死に至る。1年間に10万人に1人の確率で発症するといわれ、原因もわかっていない。
そこへ、iPS細胞によって、ALSの治療法が開発される可能性が出てきたのだ。
●往年の声で祝辞を贈る
篠沢さんは人工呼吸器をつけているため、声を出すことができない。今回のインタビューはすべて筆談で行った。篠沢さんは手にペンを握り、しっかりした筆跡で、こう書いた。
「希望があれば闘病できる」
記者が週刊朝日2010年1月15日号で篠沢さんに取材し、ALSで闘病中だと初めて明らかにしてから約3年。病状は目に見えて進行していた。
当時、食事は流動食を口から食べていた。現在は胃ろう(胃に穴をあけて管をつけ、直接栄養剤や食事を注入する方法)をつくっている。3年前は歩いてリビングから寝室に移動していたが、現在は自力歩行ができなくなり、自宅では、ほぼ一日中ベッドに寝た状態で過ごす。
それでも、山中さんのノーベル賞受賞を受け、テレビ番組を通じて、「音声」でお祝いのメッセージを贈った。往年の篠沢さんの声を合成して文章を読み上げるコンピューターソフトを使い、あたかも篠沢さん本人が話しているようだった。
「山中教授の業績については私の病気の協会(ALS協会)の理事から聞いていて、このALS病の治療法も開発してくださるのを期待しています。この病気のことは何も知らず治療法のない難病ということで驚きです。でも熱もないのですから、悲しまずがんばっています。山中先生。痛くない治療法を開発してください」
これに山中さんも、「一日も早く薬を作っていきたいです」と応じた。
●治療に効果の物質発見
実は、山中さんと篠沢さんは以前から接点がある。山中さんは、どうしても治したい病気として、ALSに照準を据えている。講演では必ず、「クイズダービーの篠沢教授」の病気としてALSを紹介し、篠沢さんの闘病中の様子をスライドで示しながら、iPS細胞を使ったALS治療の意義を強調する。5月に出演したNHKの国際放送「Science View」でも、篠沢さんの様子を伝えた。知名度抜群の篠沢さんの存在が、研究への理解を広げるのに大いに役立っているのだ。
実際、iPS細胞を使ったALS治療の研究も成果を出しつつある。京大の研究チームが8月、ALS患者のiPS細胞から運動神経細胞を作り、治療効果のある物質を見つけた。iPS細胞の「万能性」を利用して人工的にALSの性質を持った細胞を作り出したことで、可能になった研究だった。
研究の進展は、篠沢さんの闘病生活を支える希望の光だ。とはいえ、山中さんもiPS細胞の実用化には10年程度かかるとしている。
現在79歳の篠沢さんが治療を受けられるかは微妙だ。それでも、達観している。
「運命です。人間は皆死ぬのだから、先のことは、まったく心配していません。もし間に合わないとしても、自分がぶつかる死を受け入れるのみ」
篠沢さんは、同じくALSで闘病中の、元衆院議員で医療法人徳洲会理事長の徳田虎雄さん(74)とも交流がある。
4月には神奈川県のフラワーセンター大船植物園で一緒に花見を楽しんだ。篠沢さんの妻、礼子さん(72)は振り返る。
「主人がALSということを知って声をかけていただいたんです。徳田さんは、自由に動かせるのがもう眼球しかない。だから、徳洲会の職員の方が持つ透明な五十音盤を目で追い、職員の方が活字にするという方法で、筆談のパパとコミュニケーションを取っていました」
●尿意感じてありがたい
篠沢さんと徳田さんはその後も文通を続け、励まし合っているという。
「(徳田さんは)しっかりした人。尿の出が悪いそうで、今、私はオシッコしたくなると、ありがたく思います」(篠沢さん)
山中さんも徳田さんとは浅からぬ縁がある。山中さんは高校時代、進路に迷っていたときに徳田さんの著書『生命だけは平等だ』を読み、医師になることを決意したと公言している。
病状が進んだ現在の心境はいかばかりか。改めて篠沢さんに問うと、テレビでいつも泰然と笑みを絶やさなかった「篠沢教授」らしい、こんな返答が。
「この病気は体内は普通で、発熱することもなく、日光浴にも行けてうれしい」
礼子さんによると、日光浴を兼ねた散歩が最近の篠沢さんの日課だという。
「自分の足では歩けないので、車いすで近くのショッピングセンターに行くようになったんです。初めて連れて行ったときは主人は号泣していました。病気になってからは、電車にも乗れないし、見ず知らずの人に接する機会はなかった。大げさにいえば久々の『社会とのふれあい』がうれしかったんでしょう」
夫婦そろって散歩できる。それは礼子さん自身にとっても「何よりの幸せ」だという。
●衰えない執筆への意欲
執筆意欲もますます盛んだ。今の篠沢さんの一日は、自由に使える時間が意外に少ない。胃ろうのため、1回の食事に1時間半、一日で計4時間半も費やしている。それでも午後5〜8時の3時間は、原稿執筆にあてている。自由がきかなくなった手で、パソコンのキーボードをたたく。著書『命尽くるとも 「古代の心」で難病ALSと闘う』(文藝春秋)、訳書『謎のトマ』(中央公論新社)を病床から上梓した。最近も「懐かしいクイズダービー」という原稿を書き上げたばかり。今も、日比谷高校同級生で文芸評論家の故・江藤淳氏や、学習院大学の同窓で書評家としても知られた俳優の故・児玉清氏との交遊の思い出を毎夜、つづっている。
ノーベル賞の授賞式も間近。山中さんの人となりをどう見ているのか、改めて聞いてみた。山中さんは、「ジャマナカ」と呼ばれるほど手術が苦手で、臨床医をあきらめて研究者となった。一見、遠回りにみえる人生だが……。
「ガリ勉と違い、しっかりしている。天才的な人は不器用ですからね」
傍らで礼子さんが「パパもね」と言うと、教授はうなずくそぶりを見せた。そして、クイズダービーで正答したときのような、満面の笑みを浮かべた。
(編集部 岩田智博)
【写真説明】
ベッドで、妻の礼子さんに支えられながら筆談をする篠沢さん。夫婦のこれまでの歩みを記した『明るいはみ出し』(静山社)も病床で書き上げた
篠沢さんの筆談の様子。ALS公表時と比べると書くスピードも遅くなった。病状の進行具合を感じさせる
<photo 写真部・東川哲也>」(全文)
◆2012/12/08 「徳永装器研究所社長徳永修一氏――技術者魂、介護機器に結実(肖像九州沖縄)」
『日本経済新聞』
「医療福祉ベンチャー企業の徳永装器研究所(大分県宇佐市)は世界初の自動タン吸引器を開発して注目される。「技術者としての人生で何かを残したい」。大手企業を退職し、同社を創業した社長の徳永修一(62)を製品開発に駆り立てるのは、人間の生きざまへの強い思いだ。
寝たきりで人工呼吸器を装着するALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病患者にとって、タンの除去は命に関わる。だが、自力で吐き出せないタンを1〜2時間おきに吸引する作業は患者や介護者にとって大きな負担だ。徳永が大分県内の医師らと共同開発した自動吸引器を使えば、「患者の苦痛と介護者の負担を大幅に軽減できる」。
タン吸引器開発
製品化まで10年
開発着手から製品化まで10年かかった。医師から試作器の製作を依頼され、断りきれずに引き受けたが、「当初は試作器だけのつもりだった」。ところが、厚生労働省の担当者から製品化を要請され、苦難の道が続く。安全性や有効性の確立に苦心し、「何度もやめようと考えた」。医療機器製造業の許可取得や製品の薬事承認など規制のハードルも高く、2010年にようやく販売にこぎ着けた。
徳永の生まれは宇佐市。1971年に大分高専を卒業し、日立製作所に入社した。山口県の柳井工場を経て、新潟県の中条工場でATMや空調機の設計技術者として活躍した。しかし、帰宅して夕食後、再び会社に戻り、深夜まで働く毎日。「この生活をずっと続けるのはどうか」との思いが募っていった。
たまたま立ち寄った書店が徳永の未来を変えた。障害児用道具の工房を立ち上げた佐世保高専OBの本を見つけ、「技術者にはこんな生き方もあるのか」と考えさせられた。将来は地元に戻りたいと思っていた徳永は35歳で退職して宇佐市へ。起業を模索して同工房も訪ねてみたが、福祉で食べていく困難さを痛感。起業はあきらめ、地元の電子部品会社に再就職した。
福祉への関心がよみがえったのはそれから10年後。友人の兄がALSになり、大分県の患者会への技術的支援を頼まれたのがきっかけだ。1年ほど手伝い、「自分の力を福祉分野で生かせそうだ」と確信。再び退職し、福祉機器の開発に乗り出す。
人生で何残すか
自問を続ける
最初の2年間は収入がほとんどなく、「妻がパートで支えてくれた」。当時開発したのは重度の障害者がまばたきや口の動きで身の回りの機器を操作するスイッチ類や、入院患者がベッドから離れるとナースセンターに知らせる離床通報器など。00年に介護保険が始まり、「介護機器のレンタルが増え、ようやく経営が軌道に乗った」。
徳永の人生に影響を与えたのは高専時代の校長講話だ。クリスチャンの校長は毎週の講話にカール・ヒルティの「幸福論」や内村鑑三の「後世への最大遺物」などを取り上げ、「いかに生きるべきか」を考えさせた。卒業後も「何がやりがいのある仕事か」「人生で何を残すか」を自問し続けた徳永は講話の冊子を今も大事に持つ。
当面は経営者の仕事に全力投球する。しかし、「いずれは誰かに任せ、生涯現役で技術者をやりたい」。徳永が追い求める「人生の足跡づくり」はまだ道半ばだ。=敬称略
大分支局長 谷川健三
写真 善家浩二
とくなが・しゅういち 1950年(昭25年)大分県宇佐市生まれ。71年大分高専卒、日立製作所入社。85年日本抵抗器大分製作所(宇佐市)入社。96年に退職して福祉機器の開発に着手。97年徳永装器研究所を設立して現職。」(全文)
◆2012/12/09 「[読者と記者の日曜便]胃ろうの家族 思いやる生活」
『読売新聞』
「日曜便には、長い手紙のほかに、日常の風景を切り取った短い便りも届きます。京都市の3児のお母さん(46)が、10歳の娘さんの文章を送ってくださいました。
〈おかあさんがそばめしを作っていたよ! あいじょうをこめて、いつもいっしょうけんめい作ってたんだなぁ〉
お嬢さん、よく見てますね。家族のほのぼのした場面には往々にして、食事の風景が見え隠れしています。
◇
先月ご紹介した岡山県の前田育代さん(50)と、給食調理員だったお母さん(81)もきっと、そんな思い出をたくさんお持ちだと思います。でも、お母さんはご病気で口からの食事が取れなくなり、胃に管で栄養を送る「胃ろう」の状態になりました。退院を前に、前田さんは、<母の横で、私達家族はどんなふうに食事をしたらいいのか>と悩んでおいででした。
胃ろうのご家族がいるというみなさんから、励ましが届いています。
大阪府箕面市の奥野康子さん(57)のお母さん(91)も、肺炎にかかったことで、胃ろうの生活になりました。家族の食事の時間には、自室におられたようですが、こんな日もありました。
<リビングに来た母は、食事の時間になっても部屋に戻る気配がありません。いつまでも待つ訳にもいかず、家族が食事を始めたところ、「私もごはん食べたい」と。この言葉には、心痛みました>
気分転換に、よく外出したそうです。<婦人服売り場や、お花見。そんな時は、母の目がきらきらとしてました。前田さんも、回復の可能性を胸に、親子の楽しい会話が続きますように>
奥野さんのお母さんはその後、少し口からも食べられるようになったそうです。
◇
一方で、食事の時間も一緒に過ごす家族もあります。
大阪市の榎本紗由理さん(29)のお母さん(55)は8年前、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されました。筋肉が衰え、人工呼吸器と胃ろうを使っています。
<父、私、妹と4人暮らしで、ご飯の時間は、母はベッドで胃ろう用栄養剤を、父は食卓でおかずを、妹は母のベッドのそばに正座してお茶わんを手に。同じテレビを見ながら、それぞれが好きなように食べてます>
お母さんも、「自分に遠慮してほしくない」と、納得しているそうです。
それぞれのご家族が、互いを思い合い、それぞれのスタイルを見つけている、そんな感じでしょうか。
前田さんのお母さんも、先月末にいよいよ退院されました。今は、<家族の食事に合わせて、胃ろうから栄養を取ってもらっています>とのこと。一日も早いご回復を祈ります。(橋本直人)」(全文)
◆2012/12/10 「京大、神経難病・筋萎縮性側索硬化症の疾患再現に成功」
『プレスリリース サービス』
「発表日:2012年12月10日
神経難病・筋萎縮性側索硬化症の原因に蛋白質分解異常が関与する可能性
−遺伝子改変マウスでの知見から−
神経難病の一つである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は未だに多くの謎に包まれ、治療法が確立されていないのが現状です。今回、高橋良輔 医学研究科教授、田代善崇 同教務補佐員、漆谷真 滋賀医科大学分子神経科学研究センター准教授らの研究グループは、蛋白質分解異常に着目した遺伝子改変マウスの作製により、ALSの疾患再現に成功しました。この新たなALSモデルマウスの病巣で蓄積する異常蛋白質の解析や同定により、さらなるALSの機序解明や治療法の開発が期待できます。
この研究成果は、米国科学誌「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」の印刷版に掲載されました。
<背景>
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の筋肉の萎縮と筋力低下を主症状とし、3年から5年程度で呼吸不全によって死に至る最難治性神経変性疾患の一種であり、有効な治療法は存在しません。近年、パーキンソン病など多くの神経難病では病巣に異常蛋白質が蓄積することが知られており、ALSにおいても、TDP−43やFused in Sarcoma(FUS)、オプチニューリンなどの蓄積が徐々に明らかになってきました。異常蛋白質は細胞内の蛋白質分解機構であるユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・リソソーム系で分解されるため、これらの機能障害が病因仮説として挙げられていましたが、ALSでは如何なる分解障害によって病的な蛋白質が蓄積するのかについて一定の見解はなく、動物で証明した研究は過去に存在しませんでした。
<研究手法>
ALSの主要な病巣である脊髄運動ニューロン特異的にプロテアソームとオートファジーに必須な分子を欠損するマウスをそれぞれ作製し、各々の蛋白質分解機構の障害とALS症状や病理学的異常の有無を詳細に調べました。
<成果>
プロテアソーム障害マウスは、8週齢以降に振戦(ふるえ)様症状や尻尾吊り下げ時の下肢伸展反射の低下(写真1)に始まる下肢の麻痺を呈し始め、徐々に歩行不能となるというALSと類似の症候を示しました。病理学解析では、プロテアソーム障害マウスの運動ニューロン数が進行性に減少し(写真2・表1)、ミクログリアやアストログリアの増殖とALSに特徴的なchromatolytic neuronやbasophilic inclusionを認めました。さらに、家族性ALSで遺伝子突然変異が知られているTDP−43、FUS、optineurin、ubiquilin2蛋白質が著明に蓄積していました。これに対して、オートファジー障害マウスの運動ニューロンではいくつかの特徴は見られたものの孤発性ALSとは異なる変化であり、ニューロン数の変化は無く、マウスの寿命に近い2年齢まで運動機能は正常でした。
※以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
・写真1 下肢進展反射の低下
・写真2・表1 運動ニューロン数の低下
・写真3 孤発性ALSと類似の病理所見
<波及効果>
蛋白質分解の2大機構のうち、運動ニューロンにおけるプロテアソームの障害が孤発性ALSの発症に関わることが直接証明されました。蓄積蛋白質の解析によりALSの病態機序の解明と治療法の確立が期待できます。さらに本マウスは孤発性ALSの新たなモデル動物として治療開発研究を促進することが期待できます。
<今後の予定>
今回の遺伝子改変マウスを用いて、病態機序の解明や、治療効果が得られる薬の検索などを行い、ALSの根本治療に向けて研究を行っていきます。
<用語解説>
・ユビキチン・プロテアソーム系
複数のサブユニットから構築される26Sプロテアソームが、ポリユビキチン化された基質を選択的に分解する蛋白質分解機構
・オートファジー・リソソーム系
基質となる細胞内小器官などがオートファゴゾームと呼ばれる二重膜で取り囲まれ、リソソーム融合を経て、主に非特異的に分解される蛋白質分解機構
・家族性
遺伝的な要因によって、家族より引き継がれて発症した例のこと
・孤発性
遺伝的な要因を持たず、突発的に発症した例のこと
<書誌情報>
[DOI]http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M112.417600
Tashiro Yoshitaka,Urushitani Makoto,Inoue Haruhisa,Koike Masato,Uchiyama Yasuo,Komatsu Masaaki,Tanaka Keiji,Yamazaki Maya,Abe Manabu,Misawa Hidemi,Sakimura Kenji,Ito Hidefumi,Takahashi Ryosuke.
Motor Neuron−specific Disruption of Proteasomes,but not Autophagy,
Replicates Amyotrophic Lateral Sclerosis.
Journal of Biological Chemistry.October 24,2012.
関連ホームページ
京都大学 ホームページ(http://www.kyoto-u.ac.jp/)」(全文)
◆2012/12/11 「京都大学など、ALSのマウス、実験用に作製(Science&Techフラッシュ)」
『日本経済新聞』
「■京都大学と滋賀医科大学 難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)のマウスを作った。不要なたんぱく質を分解する機能が不十分で、この病気と似た状態を示す。病気のメカニズム解明や新薬開発に役立つ可能性がある。
ALSは脳からの信号を筋肉などに伝える神経細胞に異常が起こり、体が徐々に動かなくなる。発症の仕組みは不明で有効な治療法もない。
研究チームは患者の9割を占める「孤発性」というタイプのモデルマウスを作った。ALSは特定のたんぱく質がたまる。たんぱく質を分解する機能に問題があるとみて、その工程に不可欠なたんぱく質「Rpt3」に注目した。
マウスの患部にあたる脊髄でRpt3がなくなるよう遺伝子を組み換え、実験した。脊髄の運動に関する神経は生後40週後には通常マウスの約25%に減った。細胞には特定たんぱく質が蓄積していた。」(全文)
◆2012/12/11 「京大、神経難病・筋萎縮性側索硬化症の疾患再現に成功」
『日経速報ニュースアーカイブ』
「発表日:2012年12月10日
神経難病・筋萎縮性側索硬化症の原因に蛋白質分解異常が関与する可能性
−遺伝子改変マウスでの知見から−
神経難病の一つである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は未だに多くの謎に包まれ、治療法が確立されていないのが現状です。今回、高橋良輔 医学研究科教授、田代善崇 同教務補佐員、漆谷真 滋賀医科大学分子神経科学研究センター准教授らの研究グループは、蛋白質分解異常に着目した遺伝子改変マウスの作製により、ALSの疾患再現に成功しました。この新たなALSモデルマウスの病巣で蓄積する異常蛋白質の解析や同定により、さらなるALSの機序解明や治療法の開発が期待できます。
この研究成果は、米国科学誌「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」の印刷版に掲載されました。
<背景>
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の筋肉の萎縮と筋力低下を主症状とし、3年から5年程度で呼吸不全によって死に至る最難治性神経変性疾患の一種であり、有効な治療法は存在しません。近年、パーキンソン病など多くの神経難病では病巣に異常蛋白質が蓄積することが知られており、ALSにおいても、TDP−43やFused in Sarcoma(FUS)、オプチニューリンなどの蓄積が徐々に明らかになってきました。異常蛋白質は細胞内の蛋白質分解機構であるユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー・リソソーム系で分解されるため、これらの機能障害が病因仮説として挙げられていましたが、ALSでは如何なる分解障害によって病的な蛋白質が蓄積するのかについて一定の見解はなく、動物で証明した研究は過去に存在しませんでした。
<研究手法>
ALSの主要な病巣である脊髄運動ニューロン特異的にプロテアソームとオートファジーに必須な分子を欠損するマウスをそれぞれ作製し、各々の蛋白質分解機構の障害とALS症状や病理学的異常の有無を詳細に調べました。
<成果>
プロテアソーム障害マウスは、8週齢以降に振戦(ふるえ)様症状や尻尾吊り下げ時の下肢伸展反射の低下(写真1)に始まる下肢の麻痺を呈し始め、徐々に歩行不能となるというALSと類似の症候を示しました。病理学解析では、プロテアソーム障害マウスの運動ニューロン数が進行性に減少し(写真2・表1)、ミクログリアやアストログリアの増殖とALSに特徴的なchromatolytic neuronやbasophilic inclusionを認めました。さらに、家族性ALSで遺伝子突然変異が知られているTDP−43、FUS、optineurin、ubiquilin2蛋白質が著明に蓄積していました。これに対して、オートファジー障害マウスの運動ニューロンではいくつかの特徴は見られたものの孤発性ALSとは異なる変化であり、ニューロン数の変化は無く、マウスの寿命に近い2年齢まで運動機能は正常でした。
※以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
・写真1 下肢進展反射の低下
・写真2・表1 運動ニューロン数の低下
・写真3 孤発性ALSと類似の病理所見
<波及効果>
蛋白質分解の2大機構のうち、運動ニューロンにおけるプロテアソームの障害が孤発性ALSの発症に関わることが直接証明されました。蓄積蛋白質の解析によりALSの病態機序の解明と治療法の確立が期待できます。さらに本マウスは孤発性ALSの新たなモデル動物として治療開発研究を促進することが期待できます。
<今後の予定>
今回の遺伝子改変マウスを用いて、病態機序の解明や、治療効果が得られる薬の検索などを行い、ALSの根本治療に向けて研究を行っていきます。
<用語解説>
・ユビキチン・プロテアソーム系
複数のサブユニットから構築される26Sプロテアソームが、ポリユビキチン化された基質を選択的に分解する蛋白質分解機構
・オートファジー・リソソーム系
基質となる細胞内小器官などがオートファゴゾームと呼ばれる二重膜で取り囲まれ、リソソーム融合を経て、主に非特異的に分解される蛋白質分解機構
・家族性
遺伝的な要因によって、家族より引き継がれて発症した例のこと
・孤発性
遺伝的な要因を持たず、突発的に発症した例のこと
<書誌情報>
[DOI]http://dx.doi.org/10.1074/jbc.M112.417600
Tashiro Yoshitaka,Urushitani Makoto,Inoue Haruhisa,Koike Masato,Uchiyama Yasuo,Komatsu Masaaki,Tanaka Keiji,Yamazaki Maya,Abe Manabu,Misawa Hidemi,Sakimura Kenji,Ito Hidefumi,Takahashi Ryosuke.
Motor Neuron−specific Disruption of Proteasomes,but not Autophagy,
Replicates Amyotrophic Lateral Sclerosis.
Journal of Biological Chemistry.October 24,2012.
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
添付資料
http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0325984_01.pdf」(全文)
◆2012/12/14 「(乱流 総選挙)論戦テーマ、まだある 【大阪】」
『朝日新聞』
「(乱流 総選挙)論戦テーマ、まだある 【大阪】
多党乱立で争点も拡散した今回の衆院選。障害者差別の対策やシングルマザーの支援、後期高齢者医療や介護の負担配分――。公約などで触れられてはいるものの、正面から語られずに埋もれたテーマがある。
●障害者差別、禁止を 車いす、料理店「後で来て」
兵庫県芦屋市の西村隆さん(52)は15年に及ぶ在宅生活を通じ、「障害者差別」をなくしてほしいと痛感するようになった。
1997年12月、全身の筋肉が徐々に動かなくなる原因不明の難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。全身のマヒが進み声を出せない。わずかに動く足の指でパソコン画面の文字盤を操作し、意思を伝える。
今年の夏、週1回の外食のため正午過ぎに介護人の付き添いで、市内のなじみの料理店へ出かけた。席はあったが、店員に「混んでいるから車いすは入らないで。午後2時過ぎに来てください」と言われた。「差別では」と抗議したが、店員は引かない。2時過ぎに再び店へ行くと、客のいない店内で手前のテーブルに座席を指定するかのように「予約席」の札があった。
政府は国連障害者権利条約の批准に向け、来年には障害者差別禁止法案を国会に提出する方針だった。内閣府作業部会が9月にまとめた意見書では、障害者にだけサービスを提供しない「不均等待遇」などを差別と定義していた。
障害者差別の禁止を訴える声が選挙戦でほとんど聞こえてこない。妻の雅代さん(52)は「難病患者や家族の訴えはかき消されてしまいそう」と嘆いた。
●働く母、育児支援切望 シングルマザー、自立に壁
大阪市住之江区の大谷純さん(40)は6月、同市中央区の空堀商店街に近い空き家を借りて、友人の花岡由起さん(41)と約20平方メートルの雑貨店「おおきな木」を開いた。シングルマザーの自立には生活費の支援だけでなく、働くための育児支援が不可欠だと痛感している。
6年前に離婚。貯金はなく、生活保護を受けた。小学生だった息子2人を育てながら職を探した。「早く働いて」と言い放つ区の担当者に、就労支援を願い出る気になれなかった。
知人の紹介で学童保育などのアルバイトを続けた。開店までの間、民間団体が市の補助を受けて運営する子どもの遊び場に、多忙な時間帯に息子を預けられたのが大きな支えになった。
大谷さんは「生活保護の不正のチェックを厳しくするのは当然だが、国はもっときめ細かな自立支援策を考えてほしい」と訴える。
●介護・医療、難題語って 後期高齢者、負担あり方は
大阪府池田市の森俊江さん(80)は「難題を避け、現場を直視しない政党や候補者が多すぎる」と憤る。
その一つが75歳以上の医療保険を他の年代から切り離した後期高齢者医療制度だ。「現代のうば捨て山」などの批判を浴び、民主党政権は廃止の方針を打ち出したが、主要な争点から議論は消えた。
森さんは49歳から16年間、生活のすべてを自分と夫の両親計4人の介護に捧げた。その後、「高齢社会をよくする女性の会」の大阪事務局長として高齢者を抱える家族の負担を減らそうと在宅介護などの相談や情報提供を続けてきた。
後期高齢者の急増が見込まれるなかで制度の存続は財源上やむを得ないとするが、介護保険まで含めた無駄のない運営が不可欠と考える。「そんな議論が選挙中に聞こえてこないのはおかしい」
認知症の高齢者に対する長引く介護の負担と終末期医療の選択に頭を悩ませる家族の姿に、森さんは数多く接してきた。立場が弱い介護される側の意思を大切にしながら、介護や費用の負担をどう抑えるか。「有権者が自らの問題だと感じられるテーマの議論がいまこそ必要なのに」(永井靖二)
【写真説明】
パソコン画面の文字盤を操作して自分の意思を伝える西村隆さん=兵庫県芦屋市」(全文)
◆2012/12/15 「ノーベル賞・山中氏が強調する「初心」――「患者救う」強い思い(真相深層)」
『日本経済新聞』
「結実へ支援継続欠かせず
マラソンに例えるなら「折り返し点」「これからがむしろ大変」――。ノーベル賞の授賞式があったストックホルムで、生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授(50)から口をついて出たのは達成感よりも、むしろ緊張感に満ちた言葉ばかりだった。「初心に帰る」とも宣言した「世界のヤマナカ」の真意はどこにあるのか。
「僕は便乗受賞」
iPS細胞は誰が見ても山中教授の成果だ。しかし、ストックホルムでの記者会見では共同受賞のジョン・ガードン英ケンブリッジ大学名誉教授(79)の業績の延長線上にあるとして、「僕は便乗受賞」とまで言い切った。医師出身の山中教授には「患者の役に立つ」という明確な目標がある。iPS細胞技術を病気治療に使って初めて研究が完成するとの思いが強い。
iPS細胞を医療応用に生かす方法は大きく2つある。山中教授が筆頭にあげるのが創薬への利用だ。例えば神経系の病気の患者のiPS細胞から神経細胞を作り、いつ、どんな異常が起きるのかを調べて病気のメカニズムを解明し治療薬の開発に生かす。京大のグループはALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者の神経細胞をiPS細胞から作り、健康な人との違いがわかってきた。
もう1つは病気やけがで失われた体の機能を、iPS細胞から作った細胞や組織で補って治療する再生医療だ。日本の理化学研究所のグループが、世界の先頭を切ってこの方法を目の病気の治療に使う臨床試験を始めようとしている。
応用へ競争激化
世界に目を転じれば、医療応用へ向けた競争は激しさを増している。山中教授が博士研究員を兼ねる米グラッドストーン研究所の同僚、ディーパック・スリバスタバ教授は「米国はiPS細胞研究の医療応用へ官民あげて大型投資を始めた」と話す。
米国立衛生研究所(NIH)は複数部門にまたがる再生医療センターを設立した。新薬承認を担う米食品医薬品局(FDA)などで経験を積んだ専門家をトップに据え、基礎研究から患者治療への素早い移行を目指す。30件近いプロジェクトが始動している。カリフォルニア州など、州単位の研究投資も活発だ。
ノーベル生理学・医学賞の選考委員会があるスウェーデンのカロリンスカ研究所はiPS細胞作製の新施設を設けた。安全に移植できる組織や臓器の細胞に成長させる技術の開発も急ぐ。2016年には新カロリンスカ病院を開業し、臨床応用を加速する。英国でもエディンバラ大学周辺で、再生医療の研究機関や病院を集めた拠点の整備計画が進んでいる。
生理学・医学賞は正確には「生理学または医学賞」。山中教授は会見で、「今回は生理学の成果として授賞対象になったのではないか。今後は医学に役立てる段階。その意味で節目だ」と説明。これからが「科学者としての新しい始まり」と自らに言い聞かせるように語った。
ノーベル賞は研究成果の歴史的な意義が、発表から何十年も後に認められ、第一線を退いた研究者が受ける場合も多い。「亡くなりそうな人が受賞候補になる」といったうわさがまことしやかに語られるほどだ。
しかし山中教授は今年の受賞者では最年少で、まだ若い。ノーベル賞関連行事中も、ホテルで夜遅くまで仕事をこなした。「仕上げなければならない論文が5、6本ある」という。京都大学の研究室からも、実験などに関するメールがひっきりなしに届いた。
日本発のiPS細胞技術を、患者を救う手段として真っ先に日本で結実させたい思いが山中教授を突き動かす。民主党も自民党も政権公約で再生医療研究の重視を掲げている。これを一時的なブームに終わらせてはならない。科学技術政策や支援の「継続性が大切」という同教授の訴えは傾聴に値する。
(ストックホルムで編集委員 安藤淳)
【図・写真】授賞式に先立ち共同会見する山中氏(左)とガードン氏(6日、ストックホルム)」(全文)
◆2012/12/17 「憂楽帳:笑顔の力」
『毎日新聞』
「全身の筋肉が次第に萎縮する難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者である友人がA4判の冊子を貸してくれた。同じ病を患う発明家、高井綾子さんの追悼集「綾子さん!!」。
綾子さんは60歳で発病し、3年前に85歳で亡くなった。55歳で全国発明婦人協会主催の「暮らしの発明展」で入選、以来約30年にわたって出品し、商品化された作品も多い。追悼集の表紙は、おしゃれな紫色に髪を染めた満面の笑みだ。
毎日小学生新聞の取材で聞いた瀬戸内寂聴さんの「和顔施(わがんせ)」という言葉と、綾子さんの笑顔が重なる。仏教用語で、人にはニコニコとした表情で接しなさいということ。笑顔でいると相手も幸せな気持ちになって笑顔になり、心が和む。寂聴さんは「幸福はニコニコした顔に来る 不幸はジメジメした顔に来る」とも。
追悼集には、介護をした人たちが「綾子さんの素敵(すてき)な笑顔が好きだった」とつづっている。友人の年賀状は毎年孫との笑顔のツーショット。私も見るたびに力をもらっている。これからの「新しい日本」、笑顔の力で乗り切ろう。【竹内啓子】」(全文)
◆2012/12/18 「理化学研究所、ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見」
『日経速報ニュースアーカイブ』
「TDP−43タンパク質の安定化が神経難病ALSの発症時期のカギ
− 遺伝性ALS患者81人の臨床情報と生化学的特性の相関を解析 −
◇ポイント◇
・ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見
・TDP−43タンパク質の安定化が運動神経細胞の細胞死を誘導
・安定化が及ぼす病態変化の理解が進み、ALS発症メカニズムの解明に期待
理化学研究所(野依良治理事長)は、脳や脊髄の病巣に蓄積するTDP−43タンパク質(※1)の安定化が、全身の筋肉まひを起こす神経変性疾患「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の発症時期を決定する要因であることを明らかにしました。理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)運動ニューロン変性研究チームの山中宏二チームリーダー、渡辺祥司研究員(現 同志社大学高等研究教育機構 助教)らによる成果です。
神経変性疾患の1つで、全身の進行性の筋肉まひを引き起こすALSには、非遺伝性と遺伝性があり、90%が非遺伝性です。ALS発症の原因は不明のままで、発症メカニズムの解明と有効な治療法の開発が望まれています。近年、ALSの病巣にTDP−43タンパク質が異常に蓄積することや、TDP−43遺伝子の変異が30種類以上あることが発見され、病態解明の手がかりを得ました。しかし、これらがどのようにして疾患の発症につながるのかについては未解明でした。
研究チームは、変異TDP−43遺伝子を持つ遺伝性ALS患者81人の臨床情報を解析しました。その結果、ALSの発症年齢が早い患者ほど変異TDP−43タンパク質の半減期(※2)は長くなり、変異TDP−43タンパク質が安定化することを見いだしました。さらに、TDP−43タンパク質を任意に安定化させることが可能な細胞モデルを作り、解析したところ、TDP−43タンパク質の安定化により、ALS患者の病巣で見られるTDP−43タンパク質の生化学的特徴であるタンパク質の切断や不溶化を再現し、細胞毒性を招くことが分かりました。
今回、遺伝性ALSについての知見を得ましたが、ALSの90%を占める非遺伝性ALSにおいても、TDP−43タンパク質の安定化が、ALS発症に関わる重要な要因である可能性が考えられます。今後、この細胞モデルを用いて、TDP−43タンパク質の安定化が引き起こす運動神経変性に至る機序を解明することにより、ALSの発症メカニズムの解明が進むことが期待できます。
この成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療に向けた新技術の創出」における研究課題「孤発性ALSのモデル動物作成を通じた分子標的治療開発」(研究代表者:祖父江元名古屋大学教授)、文部科学省新学術領域研究「脳内環境」の支援を受けて行われました。なお、米国の生化学・分子生物学会誌『The Journal of Biological Chemistry』に2013年2月号に掲載されるに先立ち、12月12日(日本時間12月13日)にオンライン版に掲載されました。
1.背景
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;ALS)は、全身の筋肉を支配する運動神経細胞を侵し、呼吸筋を含む全身の進行性の筋肉まひを引き起こす原因不明の神経変性疾患です。ALSの約90%は非遺伝性、残りの約10%が遺伝性で、わが国では約8,500人のALS患者がいると推定されています(出典:公益財団法人難病情報センター)が、有効な治療法は見つかっていません。患者の苦痛に加え、長期にわたって負担の重い介護を必要とするため、原因の解明と治療法の開発が求められています。
主に細胞内の核に分布するTDP−43タンパク質は、細胞質と核との間を往来して、DNAからmRNAを経てタンパク質を合成する転写・翻訳制御やスプライシング制御など多面的なRNA制御を行うと考えられています。近年、ほぼ全てのALSの病巣から、TDP−43タンパク質が核から細胞質へ脱出して異常に凝集・不溶化し、蓄積することが発見されています。さらに、非遺伝性や遺伝性ALSの一部からTDP−43遺伝子の変異が30種類以上見つかっていることから、遺伝的な背景の有無に関わりなく、TDP−43タンパク質の機能異常がALSの病態に関与していることが示唆されます(図1)。従って、アルツハイマー病におけるアミロイドβタンパク質やパーキンソン病におけるαシヌクレインタンパク質の病的蓄積と同様に、ALSの病巣におけるTDP−43タンパク質の異常蓄積は、非常に重要な要因と考えられます。しかし、TDP−43遺伝子の異常がどのようにALS発症に関わっているのか、その詳細については不明でした。
2.研究手法と成果
研究チームは、変異TDP−43タンパク質の生化学的特徴と、TDP−43遺伝子の変異を持つ遺伝性ALS患者の発症年齢(※3)、罹病期間(疾患の進行)(※3)のいずれが相関するのかを明らかにするため、19種類のTDP−43遺伝子変異を持つ合計81人の遺伝性ALS患者について臨床情報を収集しました。一方で、マウス神経の培養細胞に正常(野生型)と変異TDP−43タンパク質を発現させ、タンパク質の細胞内分布、凝集能、タンパク質の半減期を比較・検討し、これらの生化学的特徴とALSの発症年齢または罹病期間との関連を調べたところ、以下のことが明らかになりました。
1)TDP−43タンパク質の半減期はALSの発症時期を決める要因と判明
変異TDP−43タンパク質は、野生型より細胞質に移行しやすく、高い凝集能を持つ傾向があると分かりましたが、これらと発症年齢や罹病期間との相関はありませんでした。また、比較的患者数の多い7種類の変異TDP−43タンパク質の半減期を、パルス−チェイス法(※4)により測定しました(図2)。その結果、全ての変異TDP−43タンパク質の半減期が顕著に長くなったため、変異TDP−43遺伝子がタンパク質の安定化を引き起こすと分かりました。さらに重要なことは、タンパク質半減期が長くなってタンパク質がより安定化する変異TDP−43遺伝子を持つ患者ほど、早期にALSを発症すると判明しました。
2)TDP−43タンパク質を自在に安定化させる新たな細胞モデルの作製と解析
TDP−43タンパク質の安定化が、ALSの発症時期に関わることに着目し、低分子化合物(Shield1(※5))でタンパク質の安定性を制御できるタグ(DDタグ(※5))を利用して、TDP−43タンパク質の異常蓄積を再現するマウスの神経細胞モデル(DD−TDP−43)を作製しました(図3−A)。Shield1の添加により、TDP−43タンパク質を安定化させると、時間に依存してTDP−43タンパク質の切断が見られ、界面活性剤(Sarkosyl)に溶けない凝集体の増加も見られました(図3−B)。これらの現象は、ALS患者の病巣で見られるTDP−43タンパク質の生化学的特徴を再現しています。TDP−43タンパク質の安定化・蓄積により、顕著に神経細胞の細胞死が誘導されました(図3−C)。
また、安定化したTDP−43タンパク質は、切断されたり、不溶化したりするだけではなく、TDP−43タンパク質自身のmRNAを分解してタンパク質の異常な蓄積を防ぐ機能(mRNAの負の制御能)が低下することが判明しました。さらに、細胞内の主要なタンパク質分解装置であるプロテアソーム(※6)の活性を、安定化したTDP−43タンパク質が顕著に阻害すると分かりました(図4)。
以上から、遺伝性ALS患者の臨床情報とTDP−43タンパク質の生化学的特性の相関を検討し、TDP−43タンパク質の安定化がALSの発症時期を決定する要因であることが分かりました。そして、安定化したTDP−43タンパク質は、半減期の延長、自己mRNAの負の制御能の低下、およびプロテアソーム活性の低下を引き起こすことが判明しました。その結果、慢性的に細胞内で蓄積しやすい環境が誘導され、TDP−43タンパク質が蓄積すると運動神経細胞に対して毒性を発揮し、運動神経細胞に細胞死を誘導すると分かりました(図5)。
3.今後の期待
今回の知見は、遺伝性ALSだけでなく非遺伝性ALSの発症にも極めて重要な要因であることが示唆されます。今後、開発した細胞モデルを利用してTDP−43タンパク質の安定化により運動神経細胞死にいたる詳しい機序を理解し、ALS発症メカニズムの解明や治療薬の開発が進展することが期待できます。
〔原論文情報〕
Shoji Watanabe,Kumi Kaneko,and Koji Yamanaka.
"Accelerated disease onset with stabilized familial Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS)−linked TDP−43 mutations" The Journal of Biological Chemistry,2012,doi:10.1074/jbc.M112.433615
*以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
・補足説明
・図1 TDP−43タンパク質の構造とALS患者における変異
・図2 TDP−43タンパク質の半減期はALSの発症時期と相関する
・図3 TDP−43タンパク質を安定化する細胞モデル
・図4 安定化させたTDP−43タンパク質の蓄積による、細胞内のプロテアソーム活性の低下
・図5 本研究内容のまとめ
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
添付資料
http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0326517_01.pdf」(全文)
◆2012/12/18 「理化学研究所、ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見」
『プレスリリース サービス』
「発表日:2012年12月18日
TDP−43タンパク質の安定化が神経難病ALSの発症時期のカギ
− 遺伝性ALS患者81人の臨床情報と生化学的特性の相関を解析 −
◇ポイント◇
・ALS発症年齢とTDP−43タンパク質の半減期が相関することを発見
・TDP−43タンパク質の安定化が運動神経細胞の細胞死を誘導
・安定化が及ぼす病態変化の理解が進み、ALS発症メカニズムの解明に期待
理化学研究所(野依良治理事長)は、脳や脊髄の病巣に蓄積するTDP−43タンパク質(※1)の安定化が、全身の筋肉まひを起こす神経変性疾患「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の発症時期を決定する要因であることを明らかにしました。理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)運動ニューロン変性研究チームの山中宏二チームリーダー、渡辺祥司研究員(現 同志社大学高等研究教育機構 助教)らによる成果です。
神経変性疾患の1つで、全身の進行性の筋肉まひを引き起こすALSには、非遺伝性と遺伝性があり、90%が非遺伝性です。ALS発症の原因は不明のままで、発症メカニズムの解明と有効な治療法の開発が望まれています。近年、ALSの病巣にTDP−43タンパク質が異常に蓄積することや、TDP−43遺伝子の変異が30種類以上あることが発見され、病態解明の手がかりを得ました。しかし、これらがどのようにして疾患の発症につながるのかについては未解明でした。
研究チームは、変異TDP−43遺伝子を持つ遺伝性ALS患者81人の臨床情報を解析しました。その結果、ALSの発症年齢が早い患者ほど変異TDP−43タンパク質の半減期(※2)は長くなり、変異TDP−43タンパク質が安定化することを見いだしました。さらに、TDP−43タンパク質を任意に安定化させることが可能な細胞モデルを作り、解析したところ、TDP−43タンパク質の安定化により、ALS患者の病巣で見られるTDP−43タンパク質の生化学的特徴であるタンパク質の切断や不溶化を再現し、細胞毒性を招くことが分かりました。
今回、遺伝性ALSについての知見を得ましたが、ALSの90%を占める非遺伝性ALSにおいても、TDP−43タンパク質の安定化が、ALS発症に関わる重要な要因である可能性が考えられます。今後、この細胞モデルを用いて、TDP−43タンパク質の安定化が引き起こす運動神経変性に至る機序を解明することにより、ALSの発症メカニズムの解明が進むことが期待できます。
この成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の研究領域「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療に向けた新技術の創出」における研究課題「孤発性ALSのモデル動物作成を通じた分子標的治療開発」(研究代表者:祖父江元名古屋大学教授)、文部科学省新学術領域研究「脳内環境」の支援を受けて行われました。なお、米国の生化学・分子生物学会誌『The Journal of Biological Chemistry』に2013年2月号に掲載されるに先立ち、12月12日(日本時間12月13日)にオンライン版に掲載されました。
1.背景
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis;ALS)は、全身の筋肉を支配する運動神経細胞を侵し、呼吸筋を含む全身の進行性の筋肉まひを引き起こす原因不明の神経変性疾患です。ALSの約90%は非遺伝性、残りの約10%が遺伝性で、わが国では約8,500人のALS患者がいると推定されています(出典:公益財団法人難病情報センター)が、有効な治療法は見つかっていません。患者の苦痛に加え、長期にわたって負担の重い介護を必要とするため、原因の解明と治療法の開発が求められています。
主に細胞内の核に分布するTDP−43タンパク質は、細胞質と核との間を往来して、DNAからmRNAを経てタンパク質を合成する転写・翻訳制御やスプライシング制御など多面的なRNA制御を行うと考えられています。近年、ほぼ全てのALSの病巣から、TDP−43タンパク質が核から細胞質へ脱出して異常に凝集・不溶化し、蓄積することが発見されています。さらに、非遺伝性や遺伝性ALSの一部からTDP−43遺伝子の変異が30種類以上見つかっていることから、遺伝的な背景の有無に関わりなく、TDP−43タンパク質の機能異常がALSの病態に関与していることが示唆されます(図1)。従って、アルツハイマー病におけるアミロイドβタンパク質やパーキンソン病におけるαシヌクレインタンパク質の病的蓄積と同様に、ALSの病巣におけるTDP−43タンパク質の異常蓄積は、非常に重要な要因と考えられます。しかし、TDP−43遺伝子の異常がどのようにALS発症に関わっているのか、その詳細については不明でした。
2.研究手法と成果
研究チームは、変異TDP−43タンパク質の生化学的特徴と、TDP−43遺伝子の変異を持つ遺伝性ALS患者の発症年齢(※3)、罹病期間(疾患の進行)(※3)のいずれが相関するのかを明らかにするため、19種類のTDP−43遺伝子変異を持つ合計81人の遺伝性ALS患者について臨床情報を収集しました。一方で、マウス神経の培養細胞に正常(野生型)と変異TDP−43タンパク質を発現させ、タンパク質の細胞内分布、凝集能、タンパク質の半減期を比較・検討し、これらの生化学的特徴とALSの発症年齢または罹病期間との関連を調べたところ、以下のことが明らかになりました。
1)TDP−43タンパク質の半減期はALSの発症時期を決める要因と判明
変異TDP−43タンパク質は、野生型より細胞質に移行しやすく、高い凝集能を持つ傾向があると分かりましたが、これらと発症年齢や罹病期間との相関はありませんでした。また、比較的患者数の多い7種類の変異TDP−43タンパク質の半減期を、パルス−チェイス法(※4)により測定しました(図2)。その結果、全ての変異TDP−43タンパク質の半減期が顕著に長くなったため、変異TDP−43遺伝子がタンパク質の安定化を引き起こすと分かりました。さらに重要なことは、タンパク質半減期が長くなってタンパク質がより安定化する変異TDP−43遺伝子を持つ患者ほど、早期にALSを発症すると判明しました。
2)TDP−43タンパク質を自在に安定化させる新たな細胞モデルの作製と解析
TDP−43タンパク質の安定化が、ALSの発症時期に関わることに着目し、低分子化合物(Shield1(※5))でタンパク質の安定性を制御できるタグ(DDタグ(※5))を利用して、TDP−43タンパク質の異常蓄積を再現するマウスの神経細胞モデル(DD−TDP−43)を作製しました(図3−A)。Shield1の添加により、TDP−43タンパク質を安定化させると、時間に依存してTDP−43タンパク質の切断が見られ、界面活性剤(Sarkosyl)に溶けない凝集体の増加も見られました(図3−B)。これらの現象は、ALS患者の病巣で見られるTDP−43タンパク質の生化学的特徴を再現しています。TDP−43タンパク質の安定化・蓄積により、顕著に神経細胞の細胞死が誘導されました(図3−C)。
また、安定化したTDP−43タンパク質は、切断されたり、不溶化したりするだけではなく、TDP−43タンパク質自身のmRNAを分解してタンパク質の異常な蓄積を防ぐ機能(mRNAの負の制御能)が低下することが判明しました。さらに、細胞内の主要なタンパク質分解装置であるプロテアソーム(※6)の活性を、安定化したTDP−43タンパク質が顕著に阻害すると分かりました(図4)。
以上から、遺伝性ALS患者の臨床情報とTDP−43タンパク質の生化学的特性の相関を検討し、TDP−43タンパク質の安定化がALSの発症時期を決定する要因であることが分かりました。そして、安定化したTDP−43タンパク質は、半減期の延長、自己mRNAの負の制御能の低下、およびプロテアソーム活性の低下を引き起こすことが判明しました。その結果、慢性的に細胞内で蓄積しやすい環境が誘導され、TDP−43タンパク質が蓄積すると運動神経細胞に対して毒性を発揮し、運動神経細胞に細胞死を誘導すると分かりました(図5)。
3.今後の期待
今回の知見は、遺伝性ALSだけでなく非遺伝性ALSの発症にも極めて重要な要因であることが示唆されます。今後、開発した細胞モデルを利用してTDP−43タンパク質の安定化により運動神経細胞死にいたる詳しい機序を理解し、ALS発症メカニズムの解明や治療薬の開発が進展することが期待できます。
〔原論文情報〕
Shoji Watanabe,Kumi Kaneko,and Koji Yamanaka.
"Accelerated disease onset with stabilized familial Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS)−linked TDP−43 mutations" The Journal of Biological Chemistry,2012,doi:10.1074/jbc.M112.433615
*以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
・補足説明
・図1 TDP−43タンパク質の構造とALS患者における変異
・図2 TDP−43タンパク質の半減期はALSの発症時期と相関する
・図3 TDP−43タンパク質を安定化する細胞モデル
・図4 安定化させたTDP−43タンパク質の蓄積による、細胞内のプロテアソーム活性の低下
・図5 本研究内容のまとめ
関連ホームページ
(独)理化学研究所 ホームページ(http://www.riken.go.jp/)」(全文)
◆2012/12/19 「点滴切断の病院、別患者が腕骨折 泉佐野、職員らは虐待否定 【大阪】」
『朝日新聞』
「点滴切断の病院、別患者が腕骨折 泉佐野、職員らは虐待否定 【大阪】
入院患者の点滴チューブが切断される事件があった大阪府泉佐野市の泉佐野優人会病院(273床)で昨年10月、別の女性患者(78)が左腕を骨折していたことがわかった。府警は骨折の経緯について病院関係者から事情を聴いている。
府警と病院によると、女性は筋肉が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で、自力で体を動かすことが難しかった。家族が昨年10月21日、「(女性が)腕が痛いと言っている」と病院に伝え、複数の職員が内出血を確認した。同28日に検査し、左上腕の骨が折れていることがわかった。
家族は「(女性は)病院職員に腕を引っ張られたと訴えていた」と府警に説明。病院によると、担当職員らは虐待などを否定したという。
女性は骨折時、療養病棟の2階に入院しており、病状が悪化して今年5月に死亡した。今月7日、別の女性患者(59)の点滴チューブが切られたのも同じ階だった。
加藤寛院長は19日に会見し、「病院内で患者さんが骨折するようなこと自体あってはならず、申し訳ない」と謝罪した。」(全文)
◆2012/12/19 「入院患者の骨折 職員1週間放置 点滴切断の病院」
『読売新聞』
「入院患者の点滴チューブが何者かに切断される事件があった大阪府泉佐野市の泉佐野優人会病院で昨年10月、神経難病で入院中の別の女性患者(当時78歳)が左腕を骨折していたことがわかった。また、複数の職員が女性の腕の異変に気付きながら、1週間放置していたことがわかった。
加藤寛院長(61)が19日、記者会見で明らかにし、「虐待があったとは考えていないが、伝達ミスで治療が遅れたことは申し訳ない」と謝罪した。
同病院によると、昨年10月21日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で入院中の女性の家族が、介護職員に対し「本人が腕に痛みを訴えている」と伝えた。介護職員は報告書に記載したが、医師が見落としたという。」(全文)
◆2012/12/19 「点滴管切断 同病棟で患者骨折も 泉佐野の病院 昨年10月」
『読売新聞』
「入院患者の点滴チューブが何者かに切断される事件があった大阪府泉佐野市の泉佐野優人会病院で、昨年10月、神経難病で身動きできない別の入院患者の女性(当時78歳)が、左腕を骨折していたことがわかった。女性がいたのは点滴チューブ切断事件が起きたのと同じ2階の療養病棟で、府警は、この骨折についても経緯を調べている。
骨折した女性は、全身の筋肉が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)。顔の表情と右手の指2本を除いて、体は全く動かせない状態で、呼吸を確保するため、のどを切開しており、声も出せなかった。
家族によると、女性は昨年10月、見舞いに来た家族に「腕にひびが入っているかもしれない」と、磁気を利用した簡易ボードに指で文字を書いて伝えた。
別の病院の整形外科を受診すると、左上腕骨が折れており、医師は「強い力でねじられたような折れ方だ」と家族に説明した。
優人会病院は骨折の原因を説明せず、家族も、ALS患者を受け入れる病院が少なく、行き場に困ることから追及しなかった。
しかし今年春、家族が改めて尋ねると、女性は、スタッフを特定して「同じ人に嫌がらせをされていた。腕を強く引っ張られた」と答えた。それでも警察へ通報することは「怖い」といやがり、その後、ALSの病状が悪化。本人の意向で人工呼吸器は装着せず、5月に死亡した。
女性は、複数のスタッフから「ナースコールの回数が多い」と、しばしば文句を言われていたという。
読売新聞の取材に、優人会病院は「スタッフに尋ねると暴行を否定した。骨折の原因はわからないが、年をとると骨はもろくなる。虐待があったとは考えていない」としている。
◆担当の4職員「身に覚えない」 点滴管切断で院長会見
入院患者の点滴チューブが何者かに切断された事件を受け、「泉佐野優人会病院」の加藤寛院長(61)は18日、記者会見し、「管理責任は病院にある。事件が起きたことは申し訳ない」と謝罪した。
同病院によると、事件が起きた病室には被害を受けた女性患者ら計3人が入院しているが、当日、見舞いに来た人はいなかった。当時は夜勤の時間帯で、この病棟の担当として看護職員2人と介護職員2人がいたが、いずれも病院の聞き取りに対し、「身に覚えがない」と話したという。
病院はすでに女性の家族にも謝罪。今後、院内に防犯カメラを設置したり、看護師らの巡回を強化したりするなどの再発防止策を検討するという。」(全文)
◆2012/12/19 「骨折の患者 1週間放置 泉佐野の病院 職員、異変に気付くも」
『読売新聞』
「大阪府泉佐野市の泉佐野優人会病院で昨年10月、神経難病で入院中の女性患者(当時78歳)が左腕を骨折していた問題で、複数の職員が女性の腕の異変に気付きながら、1週間放置していたことがわかった。加藤寛院長(61)が19日、記者会見で明らかにし、「虐待があったとは考えていないが、伝達ミスで治療が遅れたことは申し訳ない」と謝罪した。
同病院によると、昨年10月21日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で入院中の女性の家族が、介護職員に対し「本人が腕に痛みを訴えている」と伝えた。介護職員は報告書に記載したが、医師が見落としたという。
また、同24日には別の職員が女性を入浴させる際、腕の内出血を見つけてカルテに記入したが、加藤院長らはそのカルテの記述を見落としていた。
同27日の夜勤中に看護職員が内出血に気付き、翌日加藤院長に口頭で報告。同病院には整形外科がなく、別の病院で左上腕骨折と診断されたという。
同病院では、別の女性患者の点滴チューブが切断されていたことも発覚しており、大阪府警が調べている。」(全文)
◆2012/12/19 「同じ病棟の患者骨折、点滴チューブ切断。」
『日本経済新聞』
「大阪府泉佐野市の泉佐野優人会病院で女性入院患者の点滴チューブが切断された事件で、同じ病棟の別の女性入院患者が昨年10月に左腕を骨折していたことが19日、同病院への取材で分かった。女性は自分で体を動かせない病状だったため、大阪府警は骨折の経緯を調べている。
同病院によると、骨折した女性は神経性難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う当時78歳の患者。
会話ができない状態で、指でボードに文字を書くなどの方法で意思表示していた。
女性は昨年10月に腕の痛みを家族に伝え、1週間後に別の病院で診察したところ、左上腕の骨折と分かった。その後、家族に対して介護士に骨を折られたとの意思表示をしたという。女性は病状が進行し、5月に死亡した。
同病院は「骨がもろくなり、体位変換で折れる可能性もある。誰かが故意に折ったとは考えていない」としている。
同病院では7日、脳障害で入院している女性患者(59)の点滴チューブが何者かに切断され、府警捜査1課が傷害事件とみて捜査している。」(全文)
◆2012/12/19 「東大、筋萎縮性側索硬化症ALSの特異的病理変化のメカニズムを解明」
『プレスリリース サービス』
「発表日:2012年12月19日
筋萎縮性側索硬化症ALSに特異的病理変化の謎解明
−変異AMPA受容体により活性化されたカルパインがTDP−43を切断―
1.発表者:
郭 伸(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 特任教授/
東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門客員研究員)
山下 雄也(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門特任研究員)
2.発表のポイント:
◆成 果:筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)の病理学的指標であるTDP−43病理の形成メカニズムを明らかにし、病因に繋がる分子カスケードを解明した。
◆新規性:TDP−43タンパクを易凝集性断片に切断するプロテアーゼを同定し、それが活性化するメカニズムを明らかにした。
◆社会的意義/将来の展望:治療法のない死に至る神経難病であるALSの病因メカニズムを更に解明し、特異的治療法の標的となる候補分子の可能性を広げた。
3.発表概要:
国際医療福祉大学臨床医学研究センター 郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 山下雄也特任研究員らの研究グループは、科学技術振興機構・戦略的研究推進事業(CREST)研究において、理化学研究所 西道隆臣チームリーダーらとの共同研究で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因メカニズムを、世界に先駆けて明らかにしました。
ALSは筋肉を動かす運動ニューロンの変性・死滅が、呼吸機能も含む進行性の筋力低下を引き起こす主に初老期以降に罹患する難病で、発症から数年のうちに死に至る病です。患者数は日本だけでも8,000人を超え、加齢と共に頻度が増し60歳以降の罹患危険率は300人に一人とも言われている、決して稀な難病ではなく、病因不明のため有効な治療法がありません。
これまでの研究で、病因に関わる遺伝子やALSに特異的に見られる分子異常は特定されてきましたが、未だその因果関係や運動ニューロン死に至るまでのメカニズムが解明されておらず、病因判明には至っていませんでした。
研究グループは、ALSの病因に関わる疾患特異的分子異常として異常なカルシウム透過性AMPA受容体(注3)が発現していることを既に発見しており、今回この異常がカルパイン(注2)の活性化を通じてもう一つの疾患特異的分子異常であるTDP−43病理を引き起こしているという分子連関を解明しました。本成果により、これまで知られていたALSの病因に関わる二つの分子異常のメカニズムと分子関連が初めてわかりました。特にこれは、ALS患者の大多数を占める、遺伝性のない孤発性ALSの病因を説明するメカニズムであり、治療へ向け一歩前進したといえます。
以上の成果は、「Nature Communications」(12月18日オンライン版)に掲載されました。
4.発表内容:
(1)研究の背景・先行研究における問題点
国際医療福祉大学臨床医学研究センター 郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 山下雄也特任研究員らの研究グループは、これまでの研究の積み重ねにより、ALSでは、神経伝達に関わるグルタミン酸受容体のサブタイプであるAMPA受容体に生じている異常にカルシウムを透過する分子変化が運動ニューロン死の原因であることをつきとめてきました。すなわち、AMPA受容体のカルシウム透過性を規定するサブユニットであるGluA2に本来生ずべきRNA編集(転写後の一塩基置換)(注4)が起こらず、未編集型GluA2(注5)が発現するためカルシウム透過性が異常に高いAMPA受容体がALSの運動ニューロンに発現していること、これがRNA編集酵素であるADAR2(注6)の発現低下のためであることを確かめていました(注7)。この分子異常はALSに疾患特異的であるばかりではなく、ADAR2のコンディショナルノックアウトマウス(AR2マウス)(注8)の解析から運動ニューロン死の直接原因であることが判明し、この分子異常がALSに病因的意義を持つことを示してきました。他方、ALSの運動ニューロンではTDP−43タンパクが断片化し、正常な局在である細胞核から喪失するとともに細胞質に異常な封入体を形成することが生化学的・病理学的観察から明らかになりました。しかも、TDP−43の局在異常(TDP−43病理)とADAR2の発現低下はALSの同じ運動ニューロンに共存することが明らかになり、両者の間には分子連関があると想定されました。しかし、両者の間にどのような分子連関があるのか、何故このようなTDP−43病理がALSの運動ニューロンに現れるのかについては不明でした。本発表は、ADAR2 発現低下が引き起こすTDP−43病理の形成メカニズムを明らかにしたもので、多くの研究者が抱いていた疑問を解明し、病因理解を一歩進めるものです。
(2)研究内容(具体的な手法など詳細)
発表者の研究グループでは、ALSの分子病態モデルマウスであるAR2マウスを開発しており、このマウスでTDP−43が正常な局在である細胞核から細胞質に移動し凝集塊を形成する病理変化が見られることを明らかにしました(図1)。それにはカルシウム依存性プロテアーゼであるカルパイン(注8)による易凝集性断片への切断が特異的に関わることを培養細胞系で証明し、その切断点を質量分析計を用いて同定しました。AR2 マウスにみられたTDP−43病理がカルパインによるTDP−43切断に依ることを証明するために、カルパインが活性化していること、カルシウム透過性AMPA受容体の発現阻止やカルパインの内因性阻害物質であるカルパスタチンの過剰発現ではTDP−43病理が起こらないこと、カルパスタチンのノックアウトマウスでは逆に増強することを示しました。さらに、ALS患者の剖検脳脊髄を用いて、患者でもカルパインが活性化し、カルパイン特異的TDP−43断片が発現していることもつきとめました。さらに、TDP−43遺伝子の変異によるALSのTDP−43病理には、変異によりTDP−43がカルパインの切断を受けやすくなることが原因であることを明らかにしました。また、TDP−43病理はALS以外の前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病などにも観察されますが、カルパインが関与している可能性を示しました。
(3)社会的意義・今後の予定 など
未解明であったALSのTDP−43病理形成メカニズム(図2)を明らかにしたことで、ALSの病因の理解が大きく進みました。さらに、ALS以外の前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病などの神経疾患に観察されるTDP−43病理全般に通じることが示され、TDP−43病理を呈する神経変性疾患に共通した病因メカニズムを理解する上に役立つ知見を提供しました。従来の研究で発表者らが見出した、ADAR2発現低下とTDP−43病理とを繋ぐ分子連関が明らかになり、ALSの病因メカニズムの解明が進んだと同時に、ALSの特異的治療の標的がさらに絞られ、ALSの治療法開発の可能性が現実化してきたといえます。今後、明らかになった分子異常を標的とした治療研究を進めるとともに、分子カスケードの上流下流を更に検索していく予定です。
5.発表雑誌:
雑誌名 :「Nature Communications」(12月18日オンライン版)
論文タイトル:A role for calpain−dependent cleavage of TDP−43 in amyotrophic lateral
sclerosis pathology
著者:Takenari Yamashita, Takuto Hideyama, Kosuke Hachiga, Sayaka Teramoto,Jiro Takano, Nobuhisa Iwata, Takaomi C.Saido and Shin Kwak
DOI番号:10.1038/ncomms2303
●用語解説:
(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS):
運動ニューロン(大脳皮質運動野の上位運動ニューロンと脳幹脳神経核や脊髄前角の下位運動ニューロン)が変性脱落することで起こる進行性筋力低下・筋萎縮を特徴とする神経変性疾患で、主に中高年に発症し、有効な治療法はなく数年の内に呼吸筋麻痺により死に至る神経難病で、大多数は遺伝性のない孤発性ALSである。本研究では孤発性ALSを対象としている。
(注2)カルパイン:
細胞に広く発現しているカルシウムにより活性化するタンパク分解酵素で、様々なアイソフォーム(構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質)がある。ニューロンではカルパインI及びカルパインIIが発現している。カルパインの適度な活性化は細胞の生理的機能にとり必須だが、過剰な活性化は細胞死の原因となる。
(注3)AMPA受容体:ヒト・哺乳類の脳・脊髄で興奮性神経伝達を司る神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のサブタイプの一つで、イオンチャネルの開閉を通して神経の興奮を制御している。殆どのニューロンがAMPA受容体を発現し、その大多数はカルシウムイオンを透過しない。孤発性ALSでは異常にカルシウム透過性が亢進したAMPA受容体が発現している。
(注4)RNA編集(転写後の一塩基置換):遺伝子のDNAがRNAに転写されたあと、RNA塩基に変化が起こることを総称してRNA編集と呼び、この場合はアデノシンがイノシンに変換する脱アミノ基の反応(A−I置換)を指す。
(注5)未編集型GluA2:RNA上のイノシンは翻訳時にグアノシンと認識されるので、ゲノム上のグルタミン(Q)コドン(CAG)がRNA上でCIGに置換されアルギニン(R) コドン(CGG)として翻訳されるためにタンパクレベルでアミノ酸置換が起こる。GluA2のQ/R 部位はイオンチャネルポアの内腔に面しており、陽性電荷のRはカルシウムイオンの流入を妨げるが中性電荷のQは妨げないので、GluA2はRNA編集によりカルシウムを制御する特性を獲得する。AMPA受容体は大多数GluA2を含み、GluA2は全て編集型なので、GluA2を含むAMPA受容体はカルシウム非透過性である。
(注6)ADAR2
Adenosine deaminase acting on RNA 2。二重鎖RNAのアデノシンに働く脱アミノ基酵素で、GluA2Q/R 部位のA−I置換を特異的に触媒する。この酵素がないと未編集型GluA2が発現し、AMPA受容体はカルシウム透過性になる。
(注7)ALS患者剖検脊髄を用いた単一運動ニューロンの解析から、GluA2Q/R 部位のRNA編集が不十分で、未編集型GluA2が発現することが疾患特異的病的変化であることを明らかにした(Ann Neurol, 1999; Nature 2004; Neurobiol Dis 2012).
(注8)コンディショナルノックアウトマウス(AR2マウス)
ADAR2遺伝子の活性基部分を二個のFlox配列ではさみ、運動ニューロン特異的に発現させたCreによりADAR2を運動ニューロンでノックアウトした(二個のFloxで挟まれた遺伝子部分は切り取られるため)マウスで、運動ニューロンでは未編集型GluA2が発現し、ゆるやかな運動ニューロン死による進行性運動麻痺を呈する、孤発性ALSの表現型を再現する唯一の分子病態モデルマウスである。Hideyama et al., J Neurosci 2010
関連ホームページ
東京大学 ホームページ(http://www.u-tokyo.ac.jp/)」(全文)
◆2012/12/19 「東大、筋萎縮性側索硬化症ALSの特異的病理変化のメカニズムを解明」
『日経速報ニュースアーカイブ』
「発表日:2012年12月19日
筋萎縮性側索硬化症ALSに特異的病理変化の謎解明
−変異AMPA受容体により活性化されたカルパインがTDP−43を切断―
1.発表者:
郭 伸(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 特任教授/
東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門客員研究員)
山下 雄也(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門特任研究員)
2.発表のポイント:
◆成 果:筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)の病理学的指標であるTDP−43病理の形成メカニズムを明らかにし、病因に繋がる分子カスケードを解明した。
◆新規性:TDP−43タンパクを易凝集性断片に切断するプロテアーゼを同定し、それが活性化するメカニズムを明らかにした。
◆社会的意義/将来の展望:治療法のない死に至る神経難病であるALSの病因メカニズムを更に解明し、特異的治療法の標的となる候補分子の可能性を広げた。
3.発表概要:
国際医療福祉大学臨床医学研究センター 郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 山下雄也特任研究員らの研究グループは、科学技術振興機構・戦略的研究推進事業(CREST)研究において、理化学研究所 西道隆臣チームリーダーらとの共同研究で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因メカニズムを、世界に先駆けて明らかにしました。
ALSは筋肉を動かす運動ニューロンの変性・死滅が、呼吸機能も含む進行性の筋力低下を引き起こす主に初老期以降に罹患する難病で、発症から数年のうちに死に至る病です。患者数は日本だけでも8,000人を超え、加齢と共に頻度が増し60歳以降の罹患危険率は300人に一人とも言われている、決して稀な難病ではなく、病因不明のため有効な治療法がありません。
これまでの研究で、病因に関わる遺伝子やALSに特異的に見られる分子異常は特定されてきましたが、未だその因果関係や運動ニューロン死に至るまでのメカニズムが解明されておらず、病因判明には至っていませんでした。
研究グループは、ALSの病因に関わる疾患特異的分子異常として異常なカルシウム透過性AMPA受容体(注3)が発現していることを既に発見しており、今回この異常がカルパイン(注2)の活性化を通じてもう一つの疾患特異的分子異常であるTDP−43病理を引き起こしているという分子連関を解明しました。本成果により、これまで知られていたALSの病因に関わる二つの分子異常のメカニズムと分子関連が初めてわかりました。特にこれは、ALS患者の大多数を占める、遺伝性のない孤発性ALSの病因を説明するメカニズムであり、治療へ向け一歩前進したといえます。
以上の成果は、「Nature Communications」(12月18日オンライン版)に掲載されました。
4.発表内容:
(1)研究の背景・先行研究における問題点
国際医療福祉大学臨床医学研究センター 郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 山下雄也特任研究員らの研究グループは、これまでの研究の積み重ねにより、ALSでは、神経伝達に関わるグルタミン酸受容体のサブタイプであるAMPA受容体に生じている異常にカルシウムを透過する分子変化が運動ニューロン死の原因であることをつきとめてきました。すなわち、AMPA受容体のカルシウム透過性を規定するサブユニットであるGluA2に本来生ずべきRNA編集(転写後の一塩基置換)(注4)が起こらず、未編集型GluA2(注5)が発現するためカルシウム透過性が異常に高いAMPA受容体がALSの運動ニューロンに発現していること、これがRNA編集酵素であるADAR2(注6)の発現低下のためであることを確かめていました(注7)。この分子異常はALSに疾患特異的であるばかりではなく、ADAR2のコンディショナルノックアウトマウス(AR2マウス)(注8)の解析から運動ニューロン死の直接原因であることが判明し、この分子異常がALSに病因的意義を持つことを示してきました。他方、ALSの運動ニューロンではTDP−43タンパクが断片化し、正常な局在である細胞核から喪失するとともに細胞質に異常な封入体を形成することが生化学的・病理学的観察から明らかになりました。しかも、TDP−43の局在異常(TDP−43病理)とADAR2の発現低下はALSの同じ運動ニューロンに共存することが明らかになり、両者の間には分子連関があると想定されました。しかし、両者の間にどのような分子連関があるのか、何故このようなTDP−43病理がALSの運動ニューロンに現れるのかについては不明でした。本発表は、ADAR2 発現低下が引き起こすTDP−43病理の形成メカニズムを明らかにしたもので、多くの研究者が抱いていた疑問を解明し、病因理解を一歩進めるものです。
(2)研究内容(具体的な手法など詳細)
発表者の研究グループでは、ALSの分子病態モデルマウスであるAR2マウスを開発しており、このマウスでTDP−43が正常な局在である細胞核から細胞質に移動し凝集塊を形成する病理変化が見られることを明らかにしました(図1)。それにはカルシウム依存性プロテアーゼであるカルパイン(注8)による易凝集性断片への切断が特異的に関わることを培養細胞系で証明し、その切断点を質量分析計を用いて同定しました。AR2 マウスにみられたTDP−43病理がカルパインによるTDP−43切断に依ることを証明するために、カルパインが活性化していること、カルシウム透過性AMPA受容体の発現阻止やカルパインの内因性阻害物質であるカルパスタチンの過剰発現ではTDP−43病理が起こらないこと、カルパスタチンのノックアウトマウスでは逆に増強することを示しました。さらに、ALS患者の剖検脳脊髄を用いて、患者でもカルパインが活性化し、カルパイン特異的TDP−43断片が発現していることもつきとめました。さらに、TDP−43遺伝子の変異によるALSのTDP−43病理には、変異によりTDP−43がカルパインの切断を受けやすくなることが原因であることを明らかにしました。また、TDP−43病理はALS以外の前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病などにも観察されますが、カルパインが関与している可能性を示しました。
(3)社会的意義・今後の予定 など
未解明であったALSのTDP−43病理形成メカニズム(図2)を明らかにしたことで、ALSの病因の理解が大きく進みました。さらに、ALS以外の前頭側頭葉変性症、アルツハイマー病などの神経疾患に観察されるTDP−43病理全般に通じることが示され、TDP−43病理を呈する神経変性疾患に共通した病因メカニズムを理解する上に役立つ知見を提供しました。従来の研究で発表者らが見出した、ADAR2発現低下とTDP−43病理とを繋ぐ分子連関が明らかになり、ALSの病因メカニズムの解明が進んだと同時に、ALSの特異的治療の標的がさらに絞られ、ALSの治療法開発の可能性が現実化してきたといえます。今後、明らかになった分子異常を標的とした治療研究を進めるとともに、分子カスケードの上流下流を更に検索していく予定です。
5.発表雑誌:
雑誌名 :「Nature Communications」(12月18日オンライン版)
論文タイトル:A role for calpain−dependent cleavage of TDP−43 in amyotrophic lateral
sclerosis pathology
著者:Takenari Yamashita, Takuto Hideyama, Kosuke Hachiga, Sayaka Teramoto,Jiro Takano, Nobuhisa Iwata, Takaomi C.Saido and Shin Kwak
DOI番号:10.1038/ncomms2303
●用語解説:
(注1)筋萎縮性側索硬化症(ALS):
運動ニューロン(大脳皮質運動野の上位運動ニューロンと脳幹脳神経核や脊髄前角の下位運動ニューロン)が変性脱落することで起こる進行性筋力低下・筋萎縮を特徴とする神経変性疾患で、主に中高年に発症し、有効な治療法はなく数年の内に呼吸筋麻痺により死に至る神経難病で、大多数は遺伝性のない孤発性ALSである。本研究では孤発性ALSを対象としている。
(注2)カルパイン:
細胞に広く発現しているカルシウムにより活性化するタンパク分解酵素で、様々なアイソフォーム(構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質)がある。ニューロンではカルパインI及びカルパインIIが発現している。カルパインの適度な活性化は細胞の生理的機能にとり必須だが、過剰な活性化は細胞死の原因となる。
(注3)AMPA受容体:ヒト・哺乳類の脳・脊髄で興奮性神経伝達を司る神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のサブタイプの一つで、イオンチャネルの開閉を通して神経の興奮を制御している。殆どのニューロンがAMPA受容体を発現し、その大多数はカルシウムイオンを透過しない。孤発性ALSでは異常にカルシウム透過性が亢進したAMPA受容体が発現している。
(注4)RNA編集(転写後の一塩基置換):遺伝子のDNAがRNAに転写されたあと、RNA塩基に変化が起こることを総称してRNA編集と呼び、この場合はアデノシンがイノシンに変換する脱アミノ基の反応(A−I置換)を指す。
(注5)未編集型GluA2:RNA上のイノシンは翻訳時にグアノシンと認識されるので、ゲノム上のグルタミン(Q)コドン(CAG)がRNA上でCIGに置換されアルギニン(R) コドン(CGG)として翻訳されるためにタンパクレベルでアミノ酸置換が起こる。GluA2のQ/R 部位はイオンチャネルポアの内腔に面しており、陽性電荷のRはカルシウムイオンの流入を妨げるが中性電荷のQは妨げないので、GluA2はRNA編集によりカルシウムを制御する特性を獲得する。AMPA受容体は大多数GluA2を含み、GluA2は全て編集型なので、GluA2を含むAMPA受容体はカルシウム非透過性である。
(注6)ADAR2
Adenosine deaminase acting on RNA 2。二重鎖RNAのアデノシンに働く脱アミノ基酵素で、GluA2Q/R 部位のA−I置換を特異的に触媒する。この酵素がないと未編集型GluA2が発現し、AMPA受容体はカルシウム透過性になる。
(注7)ALS患者剖検脊髄を用いた単一運動ニューロンの解析から、GluA2Q/R 部位のRNA編集が不十分で、未編集型GluA2が発現することが疾患特異的病的変化であることを明らかにした(Ann Neurol, 1999; Nature 2004; Neurobiol Dis 2012).
(注8)コンディショナルノックアウトマウス(AR2マウス)
ADAR2遺伝子の活性基部分を二個のFlox配列ではさみ、運動ニューロン特異的に発現させたCreによりADAR2を運動ニューロンでノックアウトした(二個のFloxで挟まれた遺伝子部分は切り取られるため)マウスで、運動ニューロンでは未編集型GluA2が発現し、ゆるやかな運動ニューロン死による進行性運動麻痺を呈する、孤発性ALSの表現型を再現する唯一の分子病態モデルマウスである。Hideyama et al., J Neurosci 2010」(全文)
◆2012/12/20 「東大、筋萎縮、仕組み解明、難病のALS、神経内、酵素活発に。」
『日経産業新聞』
「東京大学の郭伸・客員研究員らは、全身の筋力が衰える難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)が発症するメカニズムを解明した。神経細胞にあるTDP―43というたんぱく質を分解する酵素の働きが高まることが、神経細胞の死につながる。病気の進行を防ぐ治療法の開発につながる成果だ。英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表した。
研究チームはTDP―43と、このたんぱく質を分解する酵素に注目し、人為的にALSを発症させたマウスで調べた。ALSの患者では、このたんぱく質が細かく切断されて神経の中で塊になり、シミとして見えることが知られている。
運動神経の表面にあるたんぱく質に異常が起きると、神経細胞に外からカルシウムイオンが過剰に流れ込むようになる。このイオンの働きでTDP―43を分解する酵素が活発になることがわかった。患者の運動神経でも、酵素の働きが高まってシミができていることを確認できた。
ALSは国内に8000人以上の患者がおり、効果的な治療法がない。研究チームは新薬の候補となる化合物質を探す予定だ。」(全文)
◆2012/12/25 「深層・再生医療:/4止 幹細胞、進む臨床研究」
『毎日新聞』
「◇ひざ軟骨復元「再びテニスを」 膨らむ期待、問われる真価
再生医療の実現は、従来の規制や制度が想定してこなかった「未到の挑戦」と呼ばれる。一方、経済産業省が11年、全国の成人男女2900人を対象にインターネット上で実施した調査では、再生医療の普及に75%が「期待する」と答えた。その期待に、現状はどこまで応えているのだろうか。
照明に照らされた夜の屋内テニスコートに、ボールを打ち返す軽快な音が響く。東京都内の会社員、光石(みついし)智子さん(43)は2009年秋、テニスの練習後に左ひざを故障した。検査の結果、関節の軟骨が欠けていた。「軟骨は再生しにくい。今後は運動を控えるように」と医師から告げられた。「スポーツが大好きで、やめるなんて考えられなかった」と話す光石さんが再びコートに立てるようになったのは、幹細胞治療の臨床研究を受けた結果だ。
東京医科歯科大の関矢一郎教授は08年から、国の指針に基づき「軟骨再生」を目指す臨床研究を実施した。ひざの骨をくるむ滑膜(かつまく)の一部を抜き取り、そこに含まれる幹細胞を培養、軟骨の欠けた部分に流し込む。光石さんは10年春、この手術を受けた。磁気共鳴画像化装置(MRI)で経過を確認すると、欠けた部分に新しい組織ができていた。分析の結果、軟骨の再生が確認された。
国の指針に基づく臨床研究の場合、患者への丁寧な説明と、結果を研究機関の責任者に報告することが求められる。
光石さんは「手術の合併症や、何かあった際の対応について一生懸命説明してもらい、安心できた」と振り返る。関矢さんは「従来の治療法では達成できなかった、患者の日常生活の質の向上につながる。早く一般医療にしたい」と話す。関矢さんはこの成果をもとに、半月板損傷の患者の臨床研究を来年始める計画だ。
山中伸弥・京都大教授(50)のノーベル賞受賞を機に、産業界も「光」を感じ始めた。10月8日にノーベル賞が決まると、再生医療関連銘柄の株価が上昇。国内で唯一、再生医療製品を販売するジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(本社・愛知県蒲郡市)も同月16日、年初来最高値の10万2800円をつけた。前の週の終値6万5500円(10月5日)の倍近い。
同社は1999年設立。これまでに、皮膚と軟骨の二つが、再生医療用の製品として承認を受けたが、手続きの厳しさや遅さに苦しみ、何度も経営難に陥った。そんな小沢洋介社長が「設立から14年間で、今が一番明るい」と声を弾ませる。
従来の文部科学省、厚生労働省による研究開発支援に加え、経産省も、再生医療用の細胞培養を医師が民間企業に委託できるよう制度の創設を検討するほか、来年度概算要求で企業の治験支援に15億円を計上した。小沢さんは「国が足並みをそろえて支援を続ければ、産業にも必ず下りてくる」と期待を込める。
◇iPS、新薬開発に現実味
幹細胞の利用をめぐっては、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などで難病を治す再生医療へ注目が集まるが、本格的な実用化に近いのは、病気の解明や新薬開発などの分野かもしれない。
京都大iPS細胞研究所の井上治久・准教授らは今年8月、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のiPS細胞から作った運動神経の細胞を調べ、細胞の異常を抑える物質を見つけたと発表した。iPS細胞が難病の治療薬開発に役立つことを示す初の成果だった。
◇ALS研究者「天からの糸」
ALSは全身の筋肉が徐々に動かなくなる病気で、19世紀に確認されて以来、多くの研究者が治療法開発に挑んできたが、いまだに治療薬がない。井上さんは、研究を進展させるには、生きている患者自身の神経細胞が必要だと考えていたが、脳や脊髄(せきずい)にある神経細胞を取り出すことは、容体の悪化につながるためできない。iPS細胞の登場は、患者の神経細胞を体外で作り出せることを意味し、井上さんにとって「天から下りてきたクモの糸」だった。
井上さんは「患者のありのままの病態を再現できる。難病研究にとって『革命』だったと思う」と話す。
特定の病気の患者の細胞からiPS細胞を作り、患部の細胞に分化させれば、より簡便に薬剤の効果を調べられる。国内の製薬企業も新薬の候補探しにiPS細胞を使い始めた。
再生医学の政府戦略を検討する文科省作業部会のメンバー、門脇孝・東京大病院長は「iPS細胞研究では、日本は間違いなくトップを走る。今後は再生医療の実用化を見据えた品質管理や倫理面でも、世界に先駆けた道を切り開く責務がある」と話す。
ノーベル賞授賞式後の記者会見で、山中さんは言葉を選びながらこう語った。「今後は(iPS細胞が)本当に役に立てるか、というステップに移った。(ノーベル賞は)その節目の出来事と感じている」
iPS細胞の登場と、その後わずか6年でのノーベル賞受賞は、再生医療への高揚感をもたらした。再生医療は、そして幹細胞は本当に役に立つようになるのか。真価が問われるのはこれからだ。=おわり
◇
この連載は八田浩輔、永山悦子、野田武、斎藤広子、須田桃子、澤田克己、金秀蓮が担当しました。
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■ことば
◇幹細胞
組織や臓器の細胞のもとになる細胞。人の体内にある幹細胞「体性幹細胞」と、人工多能性幹細胞(iPS細胞)など人工的に作った「多能性幹細胞」がある。それぞれ失われた機能を取り戻す再生医療への活用が期待される。多くの体性幹細胞は、限られた組織や臓器の細胞にしかならないが、多能性幹細胞はあらゆる細胞になる能力を持つため、治療の可能性を広げるとして注目されている。現在、臨床研究が進むのは体性幹細胞で、iPS細胞を使った臨床研究は、国内では14年以降に計画されている。
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連載へのご意見をお寄せください。〒100―8051(住所不要)毎日新聞科学環境部▽ファクス03・3212・0768▽電子メールtky.science@mainichi.co.jp」(全文)
◆2012/12/27 「(回顧2012:上)1〜4月 「ニタマ駅長」着任、メガソーラー建設 /和歌山県」
『朝日新聞』
「(回顧2012:上)1〜4月 「ニタマ駅長」着任、メガソーラー建設 /和歌山県
■1月
13日 白浜町長の慰謝料請求裁判で第1回口頭弁論 地元自治会とのごみ焼却施設をめぐる協議で恫喝(どうかつ)され精神的苦痛を受けたなどとして、水本雄三町長(当時)らが元町議会議長らに慰謝料計1千万円を求めた。9月には町長側が訴えを取り下げ裁判は終結した。
19日 日高川町の私立国際開洋第二高校休校へ 経営する学校法人「南陵学園」(静岡県菊川市)が約12億7千万円の負債を抱え3月末での休校を決定。
25日 病気で勾留停止中の被告の男が病院から逃走 白浜町でひき逃げ死亡事故を起こし、昨年11月に自動車運転過失致死などの容疑で逮捕、起訴されていた。
■2月
2日 県健診センターの元職員を業務上横領容疑で逮捕 経理業務を担当していた元職員の女が、センターの金を横領した疑い。11月、約1300万円を横領したとして、懲役2年の実刑判決に。
10日 サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)が県内で合宿を開始 13日まで。
18日 三毛猫の「ニタマ駅長」が和歌山電鉄貴志川線の伊太祈曽駅に着任
22日 反捕鯨団体シー・シェパード支援者に無罪判決 昨年12月に太地町の海岸で地元の男性の胸を突いたとして、オランダ人男性が暴行罪に問われていた。3月、地検が控訴を断念し無罪確定。
■3月
18日 那智勝浦町で昨秋の台風12号水害の合同慰霊祭 同町の遺族会が同町井関の慰霊碑に、町内の死者、行方不明者29人の名前を刻んだ。
29日 避難ルートがわかるスマートフォン向けアプリ開発 大地震や津波に備え、県とソフト会社2社で。
31日 国が南海トラフ地震の津波想定発表 内閣府の有識者検討会がマグニチュード9クラスの巨大地震による震度や津波を想定。8月には新たな被害想定が出され、津波や建物の倒壊などで県内の最大死者数は8万人、被害建物の数は19万棟に上るとした。すさみ町では県内最大の津波高20メートルが予測されている。
■4月
3日 県内初の大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設を発表 和歌山市の企業用地「コスモパーク加太」に。約2万8千平方メートルの斜面にソーラーパネル約8300枚を設置。年間発電量は約228万キロワット時。9月に稼働開始。
5日 県警が毎月5日を「災害に備える日」に 「安政南海地震」があった1854年の旧暦の11月5日にちなんだ。広川町には実業家が大津波から多くの命を守った「稲むらの火」の逸話が残る。
25日 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性患者に1日21時間以上の訪問介護義務付けの判決 和歌山市を相手取りヘルパーの24時間訪問介護の義務付けなどを求めた裁判。市は控訴を断念。5月に判決が確定。
◇
今年の県内の出来事を3回に分けて振り返ります。
【写真説明】
和歌山電鉄の社員に抱かれるニタマ駅長=紀の川市貴志川町神戸
コスモパーク加太の斜面に設置された太陽光発電パネル=和歌山市加太」(全文)
◆2012/12/27 「発展途上国などに200病院、徳洲会グループ・徳田理事長に聞く。」
『日経産業新聞』
「後継者、世襲は考えず
国内の病院は高齢者の増加で質の高い医療が求められる一方、国の医療費抑制策で経営環境は厳しい。医療法人徳洲会を中核とする徳洲会グループは国内に66と最も多い病院を抱え、海外でも病院開設を進めている。全身の筋肉が衰える難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらもグループを率いている徳田虎雄理事長に今後の経営方針や後継者問題について聞いた。
――1973年に最初の病院を開業し、現在は海外でも病院を経営する一大グループを形成した。
「ここまで必死になってやってきた結果だが、今でも何か大きなことをなし遂げたとは思っていない。特に発展途上国の医療は不十分だ」
――理想とする医療に「命だけは平等だ」を掲げている。
「小学生のときに幼少の実弟を亡くした。鹿児島県の奄美大島の離島では十分な医療が受けられなかった。夜に容体が急変し、診に来てもらうよう何軒か医師の家に走ったが、取り合わなかった。(この件が契機で)医師を目指そうと決めた。24時間患者を受け入れる医療体制を実現したのも、この理念に基づいてのことだ」
――日本の医療制度をどう見ているか。
「人口が30年後には8千万人に減る。財政赤字を減らすことも必要で、今後ますます医療費を抑制しないと大変になる。公立病院も減るから地域にとって必要な医療を残していくことが必要だ」
「徳洲会グループはこの5年間で30病院を新築・移転する計画で、地域に必要な病院を支え続ける。海外にも200病院を建てる。私の代では10%でも半分でも進めばいい。(日本は)経済力が落ちていくから、その国力に合わせて途上国の支援をしていくべきだ」
――現段階では不治の病とされるALSと闘っている。後継者に経営を託す考えはあるか。
「私よりも理念と使命感と実行力がある人がいないから理事長を続けている。そのうちに体がゆるさなくなる。世襲では組織が持たないはずだ。いい人材に任せていくべきだ」
――理事長のトップダウン経営からの転換が求められているのではないか。
「変えていかないといけない部分は少ないと思う。(次期理事長には)何も望むことはない。世襲は考えていない。組織が持たないはずだからだ。鈴木隆夫副理事長や安富祖久明副理事長など、いい人材がいる」
――ALSの症状を医師でもある自身が診断するとどのような状態か。
「頭はさえているから(経営)判断は正しいはずだ。(死を迎えることについては)たんたんと受け入れるしかないと思っているから、怖いと思ったことはない。(理念を実現するため)やり足りないという気持ちが大きい。まだほんの少し着手したばかりだと思っている。ふるさとの奄美大島が世界一の医療福祉をやっているのは良かったと思う」
――ALSの患者は日本にも多い。
「iPS細胞を使った研究が進んでおり、ぜひ希望を持ってほしい」
記者の目
病の影響未知数
円滑な継承焦点
徳洲会グループは2006年にブルガリアの首都に千床を超える病院を開業し、ブラジルには今年2月に100床の病院を開業。アフリカには透析センターを開設するなど海外展開を積極化し始めている。
離島やへき地の医療の充実を図るために病院を建設することを目標に掲げ、90年には国政に進出した。その目標の実現のために「政界進出するのは行き過ぎ」(ある民間病院経営者)との批判もある。
02年にALSという、筋肉を動かす指令が脳から伝わらずに手足や呼吸に必要な筋肉が萎縮する病気が発症。病院経営に専念した。今は人工呼吸器を付けて言葉も出せない状態にある。本人は経営判断に支障はないとしているものの、今後の病気の影響は未知数。円滑に創業者から引き継げるかどうかは、これからの同グループの鍵を握りそうだ。
(後藤健)
【図・写真】目の動きで一文字ずつ表すことでインタビューに応じる徳田理事長(神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院)」(全文)
◆2012/12/30 「[回顧2012]県立高、PTA費流用 五輪に田中3きょうだい=和歌山」
『読売新聞』
「◆パンダ「優浜」誕生 旅館経営者刺殺される
師走の総選挙で自民が政権復帰を果たすなど、2012年も激動の1年だった。県内でも様々なニュースが駆け巡ったこの1年を振り返る。
◇1月
5日 和歌山電鉄貴志川線のスーパー駅長、三毛猫の「たま」に、部下の三毛猫「ニタマ」が配属される。
25日 死亡ひき逃げ事故を起こしたとして起訴された男が、勾留の執行停止中に入院していた田辺市内の病院から逃走。8月、大阪府守口市内で取り押さえられる。
◇2月
10日 サッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」の合宿が上富田町で始まる。
13日 新宮市出身の田子ノ浦親方(大相撲の元幕内久島海、本名・久嶋啓太=くしま・けいた)が死去。46歳。
◇3月
3日 海南市の特別養護老人ホーム「市立南風園」で複数の職員が入所者を虐待していたことが判明。
21日 県立高の大半で、PTA会費を流用していたことが明るみに。
31日 ごみの中間処理施設問題で白浜町の水本雄三町長が辞職。
◇4月
1日 南海電鉄の新駅「和歌山大学前駅」が開業。
25日 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性が和歌山市に24時間介護を求めた裁判で、地裁は「市は裁量権を逸脱、乱用しており違法」して、介護サービス増を命じる判決。
◇5月
8日 農協支店から住宅ローンの融資金をだまし取ったとして、和歌山東署が和歌山市の建設会社社長ら男2人を詐欺容疑で逮捕。
21日 近畿で282年ぶりとなる金環日食。県内でも各地で観測イベントが開かれる。
◇6月
13日 和歌山市のカーテン販売店で店員の女性が知人の男に包丁で刺され死亡。男は犯行後に自殺。
22日 大雨により、和歌山市の和田川流域で大規模な冠水。
◇7月
1日 2015年の紀の国わかやま国体に向けて改修工事が行われていた紀三井寺球場がオープン。
15日 熊野那智大社のご神体として立ち入りが禁じられている「那智の滝」で、男3人がロッククライミングしていたのが見つかる。
25日 県発注を巡る官製談合・汚職事件で、県が木村良樹前知事らに約6億1000万円の損害賠償を求めていた訴訟が和解。
27日 ロンドン五輪開幕。県からは体操の田中3きょうだいやレスリングの湯元兄弟、アーチェリーの古川高晴選手らが出場し、活躍。
◇8月
10日 白浜町のアドベンチャーワールドで、ジャイアントパンダの良浜(ラウヒン)がメスの赤ちゃんを出産。優浜(ユウヒン)と名付けられる。
16日 県警科学捜査研究所の男性研究員が、証拠の鑑定データを捏造(ねつぞう)するなどの不正を行っていたことが発覚。
29日 国の有識者会議が南海トラフ巨大地震で県内では最大8万人の犠牲者が出るとの想定を発表。
◇9月
12日 災害に備えた全国瞬時警報システム(Jアラート)の一斉作動訓練で15市町がトラブル。
25日 御坊市の旅館で女性経営者(71)が刺殺される。10月24日に殺人容疑で男(59)を逮捕。
◇10月
6日 南海トラフ巨大地震などの津波に備えるため、海南市の和歌山下津港で、浮上式津波防波堤の建設工事が始まる。
◇11月
1日 県立医科大発注の清掃業務を巡り、大阪地検特捜部が和歌山市の清掃会社などを職務強要容疑で家宅捜索。同社の元社長を12月5日に同容疑で逮捕。
◇12月
16日 衆院選で、1区は民主・岸本周平氏、2区は自民・石田真敏氏、3区は自民・二階俊博氏が当選。自民・門博文氏、日本維新の会・阪口直人氏も比例復活で当選。(年齢、肩書は当時のまま)
写真=母の良浜に甘える優浜(10月5日、白浜町のアドベンチャーワールドで)
写真=津波防波堤の建設のため、クレーン船から海底に打ち込まれる鋼管(10月6日、和歌山下津港で、本社ヘリから)」(全文)
*作成:長谷川 唯