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人工透析/人工腎臓/血液透析 1990-

人工透析/人工腎臓/血液透析


 作成:有吉玲子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)*

■新刊

◆有吉 玲子 20131114 『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』,生活書院,336p. 3200+160 ISBN-10: 4865000178 ISBN-13: 978-4865000177 [amazon][kinokuniya] ※ a03. h.

『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』表紙

■年表

◆19900122 厚生省健康政策局 「21世紀をめざした今後の医療供給体制のあり方」を発表
   →医療法改正 病院区分を一般、高次機能、長期療養に類型 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:144])
◆19900401 診療報酬改定 エリスロポエチンが保険適用になる (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:145])
◆19910720 県立宮崎病院で精神障害者の透析が拒否され患者が死亡 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003146])
◆19910912 老人保健法改正成立 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:146])
◆19911091 血液透析患者実態調査実施 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:146])

●19911031 県立宮崎病院での精神障害者透析導入拒否事件で患者の遺族が提訴 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:146])

藤野邦夫、藤野ヤヨイ 「透析治療受け入れ拒否事件 身体合併症患者の受療の権利」,『精神科看護』, 2003.12 vol.30 No.12(通巻135号):pp.70-73
概要―精神科で入院治療を受けていた糖尿病性腎症の患者が、県立宮崎病院に人工透析療法を求めたところ、「人工透析療法のための日常の自己管理能力がない」との 理由で断られ、まもなく死亡。患者の母親と妹らが治療を拒否した病院を相手どり損害賠償請求を行う。
県の主張→(1)・・長期血液透析を実施するか否かは、@改善される病態があり,A患者がそれに耐えられ、Bその結果が有意義である場合、が対象となる。(2)長期血液透析は日常生活に 制約を課し、極限までの忍耐を要求する。患者はそれにたいする理解・了解と苦痛に耐える自制心、自己管理能力、医師らへの協力が絶対必要である。患者は 自己導尿教育拒否、水分摂取指導拒否などの態度があり、透析導入は困難である。(3)・・自分の置かれた状況や何のために病院にきたかを理解しておらず 、精神分裂病を診断された。透析担当医師と協議し、透析に対する必要性を了解する能力と自己管理能力、家族の協力が必要であるため、透析の適応対象でないと判断した。 (4)母親らからどうしても血液透析してほしいとの希望が表明されていなかった。
裁判所の判断→(1)・・日常の自己管理能力がないことを利通として人工透析を断ることは社会通念に照らして著しく相当性を欠く。(2)患者が興奮したり暴れて 透析の施行自体が困難となったり、自己管理能力の欠如により透析をしても死亡する事態が近い将来に予想されるか、透析により腎不全状態が改善されても 退院後日常生活を営みうる可能性がないなどの特段の事情がない限り、透析の適応のある場合には、人工透析を導入すべき義務がある。として地裁、高裁とも原告が勝訴した。

◆19920401 診療報酬改定で透析患者の検査定額化、CAPD紫外線殺菌器と自動腹膜還流装置に保険適用 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:147])
◆19931125 各党協議会が臓器移植法案要綱作成(全国腎臓病患者連絡協議会[2003:149])
◆19940401 診療報酬改定 透析液、生理食塩水、血液凝固阻止剤の薬剤料を「包括化」 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:149])
◆19940801 CAPD熱殺菌器に保険適用 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:149]) 
◆199409 東京の透析施設で劇症肝炎発生 4人死亡  (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:150]) 
◆19950117 阪神・淡路大震災 透析患者24人死亡、多数の透析施設が透析不能 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:150])
◆19950401 腎移植普及会が日本腎臓移植ネットワークの名称変更 (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:151])
◆19950607 US腎移植問題  (全国腎臓病患者連絡協議会[2003:151])

◆山崎正俊(日本人工臓器工業協会常任委員)「欧州主要国における血液透析治療の現状」1999,『日本透析医会雑誌』Vol.14 No.4 :pp.9-14
透析治療の概況→ドイツ:透析患者数 45000人(内CAPD3000人)、透析費用 350DM/回+Dr.fee 25DM、 ハイフラックス使用時+40DM、ダイアライザー価格40〜50DM、 保険システム 病院金庫による公的医療保険制度、職業、地域によって所得の13〜14%の保険料を支払う、自己負担なし、リユース率5%未満
フランス:透析患者数 26645人(内CAPD2454人)、透析費用 公的と私立により差が大きい、大学―2600〜6600フラン 公的病院―2240〜5500フラン 私立病院―1600〜2100フラン  家庭透析―1100〜1400フラン セルフケア―1150〜1400フラン、保険システム 社会保険式出来高払い 治療費抑制のため若く合併症のない患者をauto-dialysis,self-dialysisに送る、患者 一時負担原則20%、後日償還、リユース率0%
イタリア:透析患者数 39000人(内CAPD4000人)、透析費用 透析償還価格30万リラ/回 実際コストは36〜40万リラ、保険システム DRG制導入、疾病別償還額は州によって異なる、 原則として患者負担なし、リユース率5%未満 <0011 <
透析治療費削減について、フランスでは、autodialysis,self-dialysisの実施。人件費抑制のため透析患者16名に対しナース1名で医師は巡回制。イタリアでは患者年齢の上昇や糖尿病患者増の常態から この方式には否定的。イタリアでは医療費削減には移植が一番効果的であるとし積極的に移植を実施しているが、腎提供が少なく十分実施できないのが現状 <0012<

◆國友哲之輔(日本人工臓器工業協会理事)「米国における血液透析治療の現状」1999,『日本透析医会雑誌』Vol.14 No.4:pp.5-8
米国での透析療法は腎移植までのつなぎの治療という位置づけ、血液透析患者数は1997年末で22万人と推定
→透析患者のほとんどがMedicareに依存している。Medicareの外来透析施設への支払いは極度に制限されている。
Medicareの支払いは80%分(US$128〜138/回・患者、州により異なる)で20%分(US$26〜28/回・患者)は2次保険または自己負担である。
患者ひとりあたり、約US$2150/月(内US$150〜200/月は医師技術料である)だがこれにはエリスロポエチン等薬剤費用や、入院治療費は含まれていない
→償還額が低いため、経済的にダイアライザーのリユースを行わざるを得ない状況になっている。また外来コストのみを抑えるあまり、入院や付随する費用が ふくらみ、総透析コストとしては、日本よりも高くなっている。
→1996年度Medicare負担額(US$/患者・年) 血液透析 55000、腹膜透析 48000、腎移植 18000 <0006<

◆池上 直己 19920610 『医療の政策選択』,勁草書房,p.177 ASIN: 4326700416 3360 [amazon][boople] ※ b m/e01 ts2007a

 「明確な資源制約の下に医師に最大の裁量権を与えているのがイギリスの国営医療であり、イギリスではプライマリ・ケアのレベルの開業医が患者が病院を選択できるかどうかを決めており、さらに病院レベルの専門医には予算制約を設けている。たとえば50歳以上で腎不全になった患者には通常透析治療を開始していない(但し、これは新規に開始する場合であり、50歳以前から腎透析を行っている患者についてはもちろん透析を継続している)。このような配給基準はどこにも銘記されておらず、あくまでも50歳以上に開始した場合には予後が悪いという医師の「医学的判断」による裁量権が前面に立っており、医師を守るために医療訴訟やインフォームド・コンセントのあり方について一定の制限を設けている(Aaron & Schwartz, 1984)。」(池上[1992:51])

Aaron, H. J. & Schwartz, W. B. 1984 Painful Prescription: Rationing Hospital Care, Wahshington, D. C.: Brookings Institution [amazon]

◆宮崎精神医療を考える会 19911225 「彼女は生きる権利を剥奪された――「精神障害」が透析拒否の理由だった」
 『季刊福祉労働』53:115-117 1236 ※

山田 富秋 19920625 「精神障害者とノーマライゼーション――精神障害者に対する透析拒否事件について」,『ノーマライゼーション研究』1992年年報:079-089

山田 富秋 「精神障害者に対する透析拒否事件について」
 『あくしょん』22(特集:ただようこころの行方――精神障害者の人権と自立)

◆秋葉 膺右 19920725 『透析から脳死腎移植へ』,はる書房,250p.,ISBN:4938133407, 2000 ※ [amazon] ※ b

◆日本学術会議 死と医療特別委員会 19940526 「尊厳死について」
 町野朔他編[1997:146-152]* *
*町野 朔・西村 秀二・山本 輝之・秋葉 悦子・丸山 雅夫・安村 勉・清水 一成・臼木 豊 編 19970420 『安楽死・尊厳死・末期医療――資料・生命倫理と法II』,信山社,333p. ISBN:4-7972-5506-4 3150 [boople][bk1] ※ b ** *d01
 「延命医療は、人工呼吸器の装着、人工透析、化学療法、輸血などの積極的な治療のほか、静脈注射などによる栄養補給を等を内容とするため、患者はいかなる内容・範囲の延命治療を拒否しうるかが問題となる。」

◆伊東 昭一 19940625 「透析患者の海外旅行」
 『季刊福祉労働』63:068-071 

◆星川純一「医療経済の課題と効率」19950623 『透析療法の医療経済 』,瀬岡 吉彦 (著), 山上 征二 (著) , 日本メディカルセンター, 206ページ ,ISBN-10: 4888750831 ISBN-13: 978-4888750837

 「日本では透析患者の受け入れ制限はないが、1977年の調査で、全ヨーロッパの透析センターの約30%が65歳以上の患者を排除するという年齢制限を行い、また「選択的受入」 および「受入なし」を行うセンターがそれぞれイギリス57%、33%、スウェーデン68%、18%、西ドイツ24%、0.6%、フランス31%、3%であるという。「年齢制限なし」や 「糖尿病患者無条件受け入れ」のセンターもあるわけであるが・・」(星川[1995:102])

☆19960613「透析中止の死亡多発/患者の意思未確認も/複数の医師調査」『朝日新聞』夕刊、1面

 末期の腎不全患者の人工透析を中止し、患者が死亡している例が多くあることが、東京や北海道の医師の調査で明らかになった。尊厳死を望む末期患者の延命治療の中止について 日本学術会議は2年前、患者の意思確認を前提に容認する見解を出している。今回明らかになった末期患者の中には副作用のため透析継続が困難な場合があるが、 中には継続可能だった例や、患者本人の意思が確認できていない例もあった。調査したのは、北海道・岩見沢市立総合病院の大平整爾・副院長と、東京・国立国際医療センターの斉間恵樹・人工透析室長ら。 大平さんは昨年12月、北海道内の127の透析医療施設を対象にアンケートし、44施設で過去10年間に105例の透析中止があったとの回答を得た。それによると、血管が詰まるなどで 透析継続が極めて困難が39%、困難28%、やや困難11%だったのに対し、通常の透析ができたが22%あった。患者の平均年齢は65歳で、透析中止時の余命の詳細は不明だが、 ほとんどが1年以内とみられている。中止決定は、家族が患者の苦痛を考慮して申し出たのが38例でもっとも多く、患者自身が中止を求めたのは20例。残りは家族と医師らの 相談で決めたなど。ほとんどが透析中止から1週間以内に死亡。中には肺がんだが余命が1何以上見込まれたのに、本人の約半年にわたる強い希望で透析を中止した例もあったという。 斉間さんらは1989年以降、国立国際医療センターや関連施設で人工透析を1年以上受け、死亡した75歳以上の患者31人を調べた。

☆19960614 「「中止」と医師過半数/人工透析、家族容貌あれば/アンケート」『朝日新聞』夕刊、16面

 末期の腎不全患者の人工透析中止をどう考えるか――千葉県の国立佐倉病院の三浦靖彦・内科医長らが透析施設のある37の国立病院、診療所の透析医にアンケートしたところ、 末期患者の意思が不明でも、家族からの透析中止要望があれば中止するとの回答が半数以上を占めた。設問では、重度のアルツハイマー病の透析患者と、末期の脳しゅようで余命 3ヶ月と診断された透析患者を想定し24人の医師から回答を得た。アルツハイマー病で患者の意思が不明の想定では、家族からどうしたらいいか「相談があったとき」は「透析を中止する」 が4人で、20人は「注視しない」だった。家族から「中止の要望があったとき」になると「中止する」が13人と過半数を占めた。脳しゅよう患者の想定でも、ほぼ同様の回答だった。 どちらの想定でも、患者が中止を希望しても家族が継続を希望する場合は、医師の約8割が「継続」すると答えた。

同紙面に「案衆院厚生委に提出/議員・厚生省に賛否の声/移植法修正案」
 議員立法として国会に提出されている臓器移植法案の修正案が14日午前、衆院厚生委員会に提出された。同法案は1994年4月に提出されたが、この2年余り実質的な審議はほとんどされていない。 修正案をまとめた議員たちは「いまのままでは法案成立の見通しがたたない」と修正案提出によって審議を促進したい考えだ。しかし、ほとんど審議されていない段階で浮上した修正の動きに 批判的な意見もある。修正案は「臓器提供者が生前に提供の意思を書面で明確に示し、家族が同意したときに限って医師が臓器を摘出できる」とし、当初の法案で、本人の意思が明らかでない場合に、 家族の意思でも臓器を提供できるとした項目を削除し、本人意思に限定した。…厚生省内にも、脳死状態からの臓器摘出、移植に慎重な意見がある。ある課長クラスの職員は「患者や家族の意向が 本当に尊重されるのか、患者が自分のカルテを見ることさえ難しい医療現場の現状を考えると不安だ」と話し、患者の権利を法律で保障した上で、移植の議論を進めべきだとの見解を示している。 厚生省臓器移植対策室は「移植を待ちながら死んでいく患者さんが目の前にいる。審議もなく修正案が出ることに批判もあるかもしれないが、何もしないよりはずっといい」という。

●石井 暎禧 19980501- 「みなし末期という現実――広井氏への回答」,『社会保険旬報』1983(1998.5.1):14-19,1984(1998.5.11):36-29,1985(1998.5.21):32-35のうち
 みなし末期という現実(下)――広井氏への回答
 『社会保険旬報』1985(1998.5.21):32-35より

5.人工透析の中止(みなし末期の諸相2)
  「家族の会」の危惧が、危惧にとどまらない実例が、透析患者さんの会である「全国腎臓病協議会」の機関誌で紹介されている。「県立宮崎病院精神疾患患者透析導入拒否事件」の控訴審で「精神病理由の透析拒否は過失」との判決が出たとの記事である。「高齢や障害など透析導入を拒否される選別の動きが伝えられる中、そうした動きに対する厳しい警告になりました」と評価している。同会によれば、「透析中止に関する医療界の動きも、十分警戒していなければならない」と認識しているとのことである。それは新聞にも報道された透析医に対するアンケート調査にみられる、医師の意識である。「透析中止の死亡多発、患者の意志未確認も」『人工透析、家族要望あれば、「中止」と医師過半数』(朝日96.6.13および14)という見出しで報道された平成7年度厚生科学研究による、「透析医に対する、透析患者の終末期医療に関するアンケート調査」である。意図は「慢性腎不全に対する透析医療は、それ自体が延命治療であり、これに関わる医療従事者の意識や体験は、Advance Directive(代理人決定を含む広義のリビングウィル、以下ADと記す)を含む終末期医療の現状と将来性を考える上で、貴重な示唆を与えるものと考えられるため、本研究を企画した」とある。「結論や合議内容を導き出すためのものでなく、考える材料として提起するものである」と一応慎重な姿勢を見せている。だが内容を見ると、「医者は延命至上主義」という通説を一枚はいでみた、現実の医師の意識が明らかになる。
 設問は2つの症例に関するものである。ケースAはアルツハイマーの70歳の透析患者。「彼は自分が誰であるかもわからず、妻や子供さえもわからない状態です」と仮定されている。ADがあり家族が望むならば、84%の医師が中止すると答え、家族が望むだけで、約60%の医師が透析を中止すると答えている。家族に聞かれたら、透析中止を勧めると答える医師も約2割存在する。ただし家族が反対したら、本人の意思に関わらず84%の医師は透析を続行する、と答えているのである。「全ては家族の都合」、これがわが国の死生観の実体であり、国民的コンセンサスの危うさを示している。ほんの一歩で、家族の負担軽減という「功利的判断」が、歯止めなく登場することを示している。「みなし末期」の根底にある意識である。
 さらにこの設問には痴呆患者に対する、ふつうの医師の理解程度が窺える。「彼が自分が誰であるかもわからず」とあるが、これがなにを意味するかが判然としない、尊厳死協会のように痴呆とは「植物状態」とか「非尊厳的存在」であるとの認識のように感じられる。しかし自己認識は他人との関係において始めて成立する、この場合は「妻や子供さえもわからず」ということを意味するにすぎない、このレベルの痴呆でも「兄弟姉妹」は認識しうることが、しばしば見られる。私の母もこの設問のレベルの痴呆であるが、妹だけは認識できる、そして曾孫を見せられ「あなたの曾孫ですよ」といえば、「かわいいわね」と喜んであやそうとする。この私の母が「非尊厳<0032<的存在」で、一刻もはやく死なせることが幸福とだれが言えるのか、「家族の会」が、一般人の認識を嘆くゆえんであるが、医者も変わりはない。
 医師もこのような老人の死を家族が望めば容認する、これがわが国の医療の現実である。横内氏が「医師の責任」を強調するのも当然といえよう、しかし家族介護の現場に接する医師は、家族の要求する「みなし末期」を容認せざるを得ない状況に置かれている、これもまた現実である。設問の回答で、透析中止を家族の負担軽減のためとする医師が多い。  この現状をどう認識するのか、広井氏は、現実を容認する「視点」から「死に場所」に医療を不要と認識し、私は現実を変えようとする「視点」から、「生活」には医療も必要と認識する。



UP:20070319(ファイル分離) REV:0321, 28, 29, 31, 0403, 12, 18, 0516, 1107, 20080401(ファイル分離), 20090916, 20101122 
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