二、個々の集計結果と分析
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J喀痰吸引等(いわゆる医療行為)の実施状況
在宅療養において吸引などが必要な患者さんは介護保険対象回答者の六二%(介護保険ホームヘルプサービス利用者の七一%)おられます。
在宅における吸引等は医師の指導により、ほぼ全てのご家族が担われています。更に五二%の方がヘルパー、全身性等の介護人、私的有料介護人、親族等の無料ボランティアに依頼しています。(図11)
また、看護婦(士)が六二%の患者さんに行っていますが、このことは吸引等等が訪問看護の大切な業務として位置付けられていることを示している半面、患者さんの実際の吸引実施回数に占める割合は低く(前述Iで訪問看護回数が週平均一〜三回)、必ずしも吸引等をカバーできているとは言えません。
今回の調査で一番多かった要望が介護時間の長いホームヘルパーによる吸引の実施でした。
経管で栄養摂取している方や呼吸器を装着している患者さんにとって、吸引は日常的に不可欠な行為であり、個人差はあるものの短い人では約三〇分に一度必要な方もおられます。そのため家族にとっては患者さんにから昼夜離れられず、喀痰吸引は介護負担のなかでも最も大きな比重を占めています。
吸引のできる介護人の派遣がなければご家族の介護負担は軽減されません。
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三、まとめ
今回の調査により介護保険上で明らかになったこと
@ 在宅療養を基本とされているALSの患者さんの九割が申請しており約八四%の方が介護保険を利用されている。
A 要介護度認定は患者さんの八四%が要介護五と四に認定されており、現行制度上では概ね妥当な審査がされている。
B 介護保険サービスはホームヘルプを八〇%、訪問入浴を六三%と多くの患者が利用しているがホームヘルプを利用してもヘルパーが吸引できないことや患者に習熟したヘルパーが少ないため家族の介護負担の軽減は少ない。
また、呼吸器装着患者の短期入所(ショートステイ)の受け入れ先が少ない。
C 介護保険利用負担額は一〜二万円が多く、以前より利用負担額が増えた方が五四%おり、経済的負担が重くなっている。そのためにサービスの利用を抑えている。
D 患者さん、ご家族の介護保険の総合的評価は「良くなった」と「悪くなった」がそれぞれ二割で全体としては経済的負担が増えた割には家族介護の負担は軽減されていないとの評価をしている。
患者さんご家族が切実に改善を求めていること
@ ヘルパーが行っている吸引を公的に認め、家族の介護の負担を軽減する。
A 介護保険利用者負担額の軽減
B 呼吸器装着患者が家族の付添い無しで短期入所(ショートステイ)や入院ができる環境の整備
C 患者の介護に習熟した介護人が選べ、夜間を含めて長時間利用できる介護人制度(全身性障害者介護人派遣事業等)の拡充
D 週一〜三回の利用にとどまっている訪問看護回数を増やせる様、訪問看護婦(士)の増員と併せ複数の訪問看護ステーションの利用を認める。
@ 医療費の抑制が求められる中で、社会的入院を減らし、在宅療養への移行(社会復帰への途)を推進している立場でありながら、その受け皿となる介護保険制度をより良いものに改める熱意、視点に欠ける。―総務庁(現総務省)の勧告や患者団体からの切実な訴えに未だ何ら答えていない。
A 人工呼吸器装着患者が病院から在宅へ移行するに際し、主治医は主たる介護者(家族)に必要な指導を行っているが、医療関係資格を有していない者による介護を前提としているこうした現実をどうみているのか不明。
B 吸引行為は資格があるかどうかが問題なのではなく、"実践的な習練を積む"ことと、"患者を支える熱意"の二点にあることを理解していない。―医師、看護婦であっても、ALS等呼吸器患者に接して経験する機会がなければ、"無資格同然"である一方、「家人の中では小学6年の孫娘の吸引が最も優しく上手で安心」と目を細める患者も居るのが実態。(吸引は特殊技能ではなく、慣れることが肝心な証左)。
C 吸引行為が患者の身体に及ぼす危険性を問題にしているが、かりに気管を傷つけ出血するなどのリスクがあるとしても、痰の吸引が滞り患者が呼吸不全で命を失うことにつながるリスクに比べれば、どちらを優先すべきかは自明であるが、この点を見21<22落とし、ないし無視している。―在宅優先医療機器使用患者は、政策医療の最優先対象と考えるが、医師・看護婦(有資格者)による24時間カバーが非現実的である以上、次善の策を打ち出すべき。また、介護者が負担に耐えかね倒れれば、患者も倒れることを心に刻むべき。
D 吸引を要する患者宅には、家庭医や看護婦が頻度の差はあれ、訪問しており、日頃の症状の変化の把握や、緊急時の対応について体制が整っているので、万が一、吸引によって何らかの問題が発生した場合でも、これらの医療関係資格者による処置が可能である。
E 答弁書のなお書きにおいて「訪問介護員が緊急やむを得ない措置として吸引行為を行うことは…医師法第一七条に違反するものではない」としているが、緊急時に人の命を救うという観点からすれば、刑法第三七条の[緊急避難]の定めが優先する筈で、医師法上の問題たり得ないであろう。
○わが国の構造改革が迫られ、これに伴う規制緩和や各種見直しが求められている今日、役所作成の答弁書が閣議案件としてさしたる詰めや議論のないまま了承されるという事態に危機感を抱くのは杞憂であろうか。
日本ALS協会としては、これらを踏まえ厚生労働省に猛省を促し、難病や障害に苦しむ人々にとってより良い社会が到来するよう邁進してまいります。」(p21-22)
◆2002年11月27日
Dr山本の診察室 Dr Yamamoto's Clinic for ALS patients and families
救命士の気管内挿管と,ヘルパーの吸引行為 http://tenjin.coara.or.jp/~makoty/column/021127column.htm
「11月14日,厚生労働委員会で,ある議員が坂口厚労大臣に,この吸引問題をただした.坂口大臣の答弁は,こころあるものであった.ALS患者の窮状を理解し,問題を解決しようという意思を感じた.公明党は好きではないが,坂口さん,是非頑張ってこの問題を解決してほしい.本当にここに,ALS患者とその家族の窮状が凝縮されているのだから.」