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支援費・ホームヘルプサービス上限問題に関する新聞社説

支援費・ホームヘルプサービス上限問題
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last update: 20131011


◆2003/01/19 「障害者の支援費 福祉サービス後退は許せない」
 『新潟日報』2003年1月19日(日)社説
 http://www.niigata-nippo.co.jp/column/index.asp(→「社説 日付検索」)
◆2003/01/22 「障害者反発 訪問介護補助に一律基準案 利用者の視点で再考を」(解説)
 『読売新聞』2003/01/22東京朝刊 解説 13頁 1244字 05段
◆2003/01/23 「障害者支援費 厚労省は障害者の声を聞け」
 『毎日新聞』2003/01/23社説
◆2003/01/24 「障害者支援――地域福祉の名が泣く」
 『朝日新聞』2003/01/24社説
 http://www.asahi.com/paper/editorial1.html
◆2003/01/24 「障害者支援費/「上限」設定すべきでない」
 『神戸新聞』2003/01/24
 http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/030124ja16990.html

 
 

◆2003/01/19 「障害者の支援費 福祉サービス後退は許せない」
 『新潟日報』2003年1月19日(日)社説
 http://www.niigata-nippo.co.jp/column/index.asp(→「社説 日付検索」)

障害者の支援費 福祉サービス後退は許せない

 四月から始まる障害者福祉の「支援費制度」をめぐり、障害者団体と厚生労働省の議論が紛糾している。
 厚労省がこれまでの方針を突然転換し、ホームヘルプサービスの利用時間に実質的な上限を設けることを明らかにしたためだ。
 障害者団体は「ホームヘルパーの利用が制限されたのでは、地域での自立生活は困難になる。何のための支援費制度か」と反発し、先週は連日、車いすの障害者や支援者が厚労省を訪れて抗議と交渉を重ねた。
 障害者が怒るのはもっともだ。厚労省は一貫して「サービス利用に上限は設けない」と障害者に説明してきた。県や市町村に対しても「上限を設けないように」と指導していたはずだ。
 制度開始を間近に控えての方針転換は関係者を欺くに等しい。支援費制度の理念を損ない、障害者福祉を後退させるものだといっていい。
 障害者の福祉サービスに関して、行政がサービス内容や事業者を決めていた「措置制度」は三月末で廃止される。代わって支援費制度に移行する。
 利用する障害者自身が、受けたいサービスや事業者を選んで、自分の人生を切り開いていけるようにするというのが支援費制度の理念だ。
 介護保険と同じように「利用者本位」の制度に改め、事業者間の競争を促す狙いがある。
 ホームヘルプの上限設定が明らかになったのは年が明けて間もなくのことだ。当初、厚労省は否定していたが、障害者団体の追及を受けて認めた。
 関係者によると、厚労省は一案として(1)身体障害者の日常生活支援で月上限百二十時間(2)重度の知的障害者で月上限五十時間(3)中・軽度の知的障害者で月上限三十時間―を挙げて検討している。
 厚労省は「国庫補助事業なので、上限設定は市町村に補助金を公平に交付するための基準にすぎない。障害者一人ひとりの利用を制限するものではない」と説明する。
 これに対し、障害者団体は「支援費制度の実施が補助金に大きく依存する以上、厚労省の交付基準は市町村への圧力となり、利用時間を制限することにつながる」と反対し、撤回を求めている。
 障害者の不安は的外れではない。厚労省は、障害者団体に追及されて「国の補助金によるヘルパー制度は四時間までで、それ以上のサービスは市町村の責任でやってほしいということだ」との考えを明らかにしている。
 身障者で月上限百二十時間というと、一日にならして四時間だ。これでは重い障害のある人はいままで受けていたサービスを削られることになり、命にかかわる。
 政府は昨年末、四月から十年間の障害者施策の方向を示す「新障害者基本計画」と、前期五年間の重点事項を定めた「新障害者プラン」を発表した。
 その中で、入所施設整備に偏っていた施策を転換し、地域での生活支援を重視する方針を打ち出した。
 支援費制度は、地域で暮らしたいと望む障害者を助ける大きな力になると期待が集まっていた。
 なかでもホームヘルプサービスは、地域生活を支える柱だ。それが十分に利用できないとなれば、障害者は再び、施設か親元へ帰るしかない。
 障害があっても、成人したら地域でアパートなどを借りて自立生活を送りたい。十六日にはそうした生き方を築き上げてきた全国各地の障害者ら約千人が厚労省に詰め掛けた。
 支援費制度への移行も、「施設から地域へ」を掲げた新障害者計画やプランも、結局は障害者施策を縮小・後退させるだけではないのか。
 危機感を抱いた障害者団体は団結し、二十日から再度厚労省と交渉する。支援費制度のスタートを目前にした国の姿勢後退は、あまりにも寒々しく、とても容認できるものではない。

 
 

◆2003/01/22 「障害者反発 訪問介護補助に一律基準案 利用者の視点で再考を」(解説)
『読売新聞』2003/01/22東京朝刊 解説 13頁 1244字 05段

 障害者福祉の「支援費制度」が四月に始まるのを前に、訪問介護の国庫補助を巡り厚生労働省と障害者団体が激しく対立している。(社会保障部・安田武晴)
 厚労省周辺に今月十六日、全国から車いす利用者ら約千二百人が集まり、抗議行動を行った。障害者の在宅生活を支える訪問介護について、実施主体の市町村へ交付する補助金に、厚労省が上限を設けようとしているためだ。
 支援費制度は、これまで行政が決めていた福祉サービスを、障害者自身が自由に選べる仕組み。施設でなく、地域で自立した生活を送れるようにすることもうたわれ、そのために欠かせないのが、食事や入浴の介助、外出時の付き添いなどをする訪問介護だ。
 訪問介護への補助金は、国が市町村の見積もりに応じて、費用の半分を予算の枠内で無制限に交付している。ところが、この制度で利用者が増えれば、無制限の交付では予算をオーバーする可能性がある。手厚いサービスを実施している市町村と、最小限ですませている市町村とで格差が開く恐れもある。このため厚労省では「利用者にとって公平さに欠ける」として基準を作ることにした。
 検討中の案によると、「全身に障害がある人は、月に百二十時間」など障害の種類ごとに上限を設け、人数と単価をかけた額の半分を支給する。「百二十時間」は、平均的な利用時間に多少上乗せしてはじき出したという。だが、障害者は、障害を類型化して一律の介護時間を当てはめる方法に強く反対している。
 厚労省は「基準はあくまで補助金交付時の目安。配分後は長時間の介護を必要とする人に重点的に使ってもいい」と説明。二十一日には坂口厚労相が衆院本会議で
「サービスの支給量に上限を設ける趣旨ではない」と釈明した。
 とはいえ、補助金頼りの市町村が、財政難を理由にサービス抑制に走る可能性は十分に考えられる。重度障害者が「これでは生きていけない」と主張するのはこのためだ。
 東京都内の自治体の場合、全身に障害のある千七十一人(二〇〇一年度)が、月に一人平均百六十時間の訪問介護を受けている。費用の総額は約四十八億円。国で検討中の配分基準を当てはめれば、一人あたり月に平均四十時間分、合計で約七億円が不足することになる。都福祉局では「市区町村も財政難で、独自の支出は難しい」と漏らし、「一律の基準は、制度の根幹を揺るがす」と反対している。
 障害者インターナショナル日本会議の三沢了事務局長も「必要な介護の量は、障害者によって千差万別。実態を無視している」と憤る。
 厚労省は、配分額が大幅に減る市町村のために激変緩和策も検討中だが、障害者団体や自治体は「激変緩和策がいつまで続くか不透明」と不信感ばかり募らせ、結局、議論がかみ合わない状態だ。
 障害者団体は検討中の基準案を白紙撤回し、改めて協議するよう求めている。限りある国費を使う以上、何らかの基準の設定は必要だが、利用者の視点を第一に考えるのも福祉政策の原点だ。これだけ大勢の障害者が声を上げた例は過去にない。厚労省は、この声を重く受け止めてほしい。

 
 

◆2003/01/23 「障害者支援費 厚労省は障害者の声を聞け」
 『毎日新聞』2003/01/23社説

 日本はまだまだ心の貧しい国ではないか。
 4月から始まる障害者の「支援費制度」で、ホームヘルプサービスの補助金をめぐる厚生労働省の主張、対応をみると、そう感じさせられる。
 「支援費制度」は、国や自治体が一方的に施設入居やサービスを決めてきた「措置制度」を、180度転換させるものだ。
 利用者が必要なサービスを選ぶ。所得や利用度に応じ利用料に公費補助(支援費)をする。
 ホームヘルプの補助金は地域のグループホームや自宅などの在宅介護を支える大きな柱だ。
 厚労省は来年度予算で278億円を自治体に配分する。その際の基準を設けようという方針に障害者が反発する。反発は当然だ。
 00年に社会福祉法の成立により、支援費制度が決まってから、厚労省はホームヘルプサービスで「上限は設けるな」と市町村にも指導してきた。障害者は多様だ。脳性まひなどによる全身性障害の場合、長時間の介護が必要で、一律に上限を決められない。
 ところが、厚労省は補助金の配分基準を、例えば1人当たりのサービス量を全身性障害の場合、120時間までと決め、それを超える分は自治体がまかなう、という方針を示す。「基準は上限ではない」というのだ。
 実際は、そうではあるまい。
 ホームヘルプサービスは市町村によって大きな差がある。
 例えば、東京都の場合、全身性障害のヘルパー派遣で、1人月240時間程度まで認めている。今回の基準が適用されれば、残り120時間分は都の負担となる。
 都も「負担を地方にしわ寄せするもので、実質的に障害者に対する利用制限となる」と反対する。都よりも財政が厳しい市町村も少なくない。これまでのサービスを維持するのは難しくなる。
 無制限に金を出せ、とはいわないが、来年度のホームヘルプの補助金額278億円といっても、高速道で5キロ弱、東京の地下鉄だと1キロ足らずの建設費に過ぎない。厚労省は「苦しい中で、前年度より14.5%も上積みさせた」と強調するが、説得力はない。
 施設より地域で普通に障害を持たない人たちと暮らす。ノーマライゼーションと呼ばれる戦後、デンマークから始まった障害者の権利を尊重する考えの広がりが、今回の改革を生んだ。
 施設から在宅、地域へという流れを前提にした改革である以上、在宅サービスの充実は当然だ。
 ところが、現実をみると、その受け皿となる市町村での基盤整備は大きく立ち遅れている。
 さらにコーディネーターの役割を担ってきた障害者地域療育等支援事業も、来年度予算で国の補助が一方的に打ち切られる。
 今回の改革は何より「利用者本位」のはずだ。なのに、障害者や市町村との話し合いが決定的に不足している。「仏作って魂入れず」とは今回の改革のことだ。
 障害者の声に耳を傾けよ。それを抜きに改革はあり得ない。
(毎日新聞 01-23-00:46


 
 

◆2003/01/24 「障害者支援――地域福祉の名が泣く」
 『朝日新聞』2003/01/24社説
 http://www.asahi.com/paper/editorial1.html

障害者支援――地域福祉の名が泣く

 厚生労働省の周辺に、連日のように車いすの人たちがやってくる。日が暮れても、建物の前から動こうとしない。
 4月から新しく始まる支援費制度を目前にして、厚労省が突然、地域での生活を支えるホームヘルプサービスに実質的な「上限」を設ける方針を打ち出したからだ。
 障害者や支援団体は、危機感をつのらせ、抗議の声をあげている。
 支援費制度は、高齢者の介護保険のように、一定の自己負担とともに、どんなサービスを受けるか、どの事業者を使うかを障害者自身が選べるようにするものだ。ホームヘルパーから食事や入浴などの介助を受けて、地域で暮らすことも夢ではなくなると障害者や家族は期待していた。
 その中心となるのは、自治体が行うホームヘルプサービス事業だ。国は10年ほど前から費用の2分の1の補助金を出して、その育成をはかってきた。
 ところが、厚労省は実績にあわせて出してきた補助金の配分を変える考えだ。
 来年度からは全身に障害のある人で月120時間程度、重い知的障害の人は50時間など、平均利用時間から割り出した障害別の基準にもとづいて人数分の補助金を支給することにしたいというのだ。
 「全国一律のサービスが受けられるよう公平に配分するためだ。上限ではなく基準と受け取ってもらいたい」と厚労省は説明している。
 しかし、これから取り組む自治体では、国の基準がそのままサービスの上限になる可能性が高い。一方、手厚いサービスを行ってきた自治体では補助金が減らされ、サービスが低下する心配がある。
 努力を重ねてきた自治体は、自分たちへの補助金を削って何もしてこなかったところに回すのか、と反発している。
 障害者も支援団体も無制限に補助金を出せと言っているのではない。「限りある大切な補助金だからこそ、今の案をいったん白紙に戻して、有益な配分方法を当事者と一緒に考えてほしい」と訴えているのだ。もっともな提案ではないだろうか。
 熱心な自治体はこの補助金を活用し、障害者の切実な声に応えてサービスの拡充につとめてきた。厚労省も上限を設けることなく、ひとりひとりの障害に応じたサービスを提供するよう指導してきた。
 その結果、1日10時間以上の介護が必要な重度の障害者も施設から出て、アパートやグループホームなどで暮らすことができるようになった。
 厚労省の方針が実施されると、せっかく地域で生活を始めた人たちが、また施設に戻らなければならなくなる恐れも強い。
 来年度からの「新障害者プラン」で厚労省は「施設から地域へ」という基本方針を打ち出したばかりだ。それなのに、「利用者本位」の支援費制度の内実がこんなことになっていいはずはない。

 
 

◆2003/01/24 「障害者支援費/「上限」設定すべきでない」
 『神戸新聞』2003/01/24
 http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/030124ja16990.html

障害者支援費/「上限」設定すべきでない

 障害者が福祉サービスを自由に選べるようにすることで、自立支援や社会参加をすすめる。
 これが、四月から始まる障害者支援費制度の精神だったはずだ。一足先に始まった介護保険制度と同じく、福祉制度を、行政が行う「措置」から、利用者(障害者)とサービス提供事業者とが対等な立場で結ぶ「契約」へ転換しようとするものだ。
 しかし今、支援費制度の国庫補助金をめぐって、大きな反発が起こっている。
 障害者が地域で暮らすための命綱ともいえるホームヘルプサービスについて、厚労省が、全国一律の基準を設ける方針を打ち出したためだ。たとえば、脳性まひなどの全身性障害者の場合で月百二十時間などと、障害別に平均利用時間を算出し、市町村への交付基準を決めるという。
 しかし、障害の程度や、介護が必要な事情はさまざまだ。一律の基準や平均値で、はかれるものではない。全国の障害者や支援者の団体は、身体・知的など障害区分の枠を超え、共同で、基準の白紙撤回を求める抗議行動を続けている。
 厚労省は「交付基準は利用の上限ではない」と説明している。しかし、補助金頼みの現状では、これが即、市町村における利用時間の上限につながる可能性は高い。障害者団体の懸念や反発は当然のことだ。
 現状のホームヘルプサービスは、地域間の格差が大きい。兵庫県の西宮市や東京都といった先進的な自治体では、全身性障害者に対して、月に二百四十時間まで介護人の派遣を認めている。
 今回の基準で国庫補助が行われたなら、基準外のサービス分は全額、自治体の負担になる。これではサービス基準の底上げというより、先進地の足を引っ張ることになる。東京都や大阪府、神戸を含む政令市の連合体、西宮市などは、すでに国に対して上限設定をしないよう要望している。
 なにより問題なのは、方針を決める際に、障害当事者の意見を聞いていないことだ。現在、身体障害者でホームヘルプサービスを受けている人は1%に過ぎない。従来は施設に入るか、在宅で家族が介助するのが当たり前だったからだ。しかし、今後は施設や親元を離れ、公的支援を受けながら地域で生きる人がたくさん現れるだろう。それが福祉制度改革の目的である。
 現行の支援費制度の設計は、残念ながら障害者の選択の幅を広げる方向に進んでいない。今回の上限問題はその象徴だ。制度の開始まであとわずかだが、厚労省は、今一度、基本理念に立ち返る必要がある。


UP:2003 REV: 20131011
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