イギリス、第一回国勢調査
「イギリスにおいて非常時の軍隊規模の把握、移民政策の策定などを目的として国勢調査実施案が初めて下院を通過したのは、実はこれより半世紀も早
い1753年であった。しかしこの時は上院での審議前に議会が終了し、法案は失効してしまった。国勢調査施行に対する反対者も多く、彼らは、人口統計はイ
ギリス国民の自由制限に直結するものであり、新たな課税や徴兵に道を開くことになる、さらに貴重な情報を公表することは、イギリスの敵を利するものである
と論じた。
しかしその後、食料は算術的級数で増加するのに対して、人口は幾何学的級数で増加することを唱えたマルサスの『人口論』が1798年に出版された。この
時期イギリスは1795年以来の凶作で、マルサスの人口論は現実味を帯びていた。こうした状況のもとで人口統計の必要性が再認識されるようになり、法案
「グレートブリテン人口統計とその増加ないしは減少に関する法案(for taking an Account of the Population
of Great Britain, and of the Increase or Diminution
thereof)」が議会に上程され可決されたのは、1800年のことであった(…)。
第1回の国勢調査は、1801年3月10日にイングランドとウエールズにおいて実施され、これ以後10年目ごとに調査を行うことが決定された。1831
年までの4回の国勢調査は、教区民生委員(overseers of the
poor)や教区(parish)の有力者などの手によって行われている。」(青柳真智子編『国勢調査の文化人類学』p.15)