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『動物倫理の最前線――批判的動物研究とは何か』

井上 太一 20220530 人文書院 ,360p. 

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last update: 20220803

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■井上 太一 20220530 『動物倫理の最前線――批判的動物研究とは何か』,人文書院 ,360p. ISBN-10:4409031155 ISBN-13:978-4409031155 4500+ [amazon][kinokuniya]


動物をめぐる思想はここまで到達した
いまや動物にとどまらず、あらゆる存在の解放をめざす包括的正義の理論へと至った批判的動物研究を始めて本格的に紹介。理論水準を大幅に引き上げるとともに、実践へと誘い、シンガー『動物の解放』以来の衝撃をもたらす力作。
19世紀にはじまり、ピーター・シンガー『動物の解放』をもって本格化した動物擁護、動物解放の理論はその後、多様な社会運動や学問との協力・批判を経て、種を越えたあらゆる抑圧と差別に反対し包括的正義の実現を目指す、強靭な理論=実践へと鍛え上げられた。批判的動物研究と呼ばれ、世界的な隆盛をみせるその潮流は、いまやどんな思想も理論も無視できないものとなっている。本書では批判的動物研究を主に哲学、社会学、ポスト人間主義、フェミニズムの観点から整理、検証し、諸正義を結ぶ領域横断的な解放理論として描き出す。動物をめぐる数々の翻訳を手掛けてきた著者が、渾身の力で放つ初の著書。

■目次

謝辞

序論
批判的動物研究
本書の構成

第一章 動物たちの現状
食用利用
肉用牛/乳用牛/豚/乳用牛/産卵鶏/魚介類
動物実験
行動研究/医学研究/製品試験
動物園と水族館
ペット産業

第二章 道徳哲学
功利主義革命
理論の重要性/功利主義アプローチの問題
動物の権利
内在的価値と生の主体/尊重原則から権利の導出まで/
権利論の実践的帰結/救命ボートの事例
新福祉主義
新福祉主義の実害/新福祉主義の元凶
廃絶主義アプローチ
単一争点の活動/平和的な脱搾取の啓蒙活動

第三章 社会学
抑圧理論
資本主義
商品化/物神崇拝
疎外
構造的暴力
労働者の逆境/環境破壊
動物産業複合体
エコテロリズム

第四章 ポスト人間主義
人間学、人間主義、人間中心主義
人間の名、動物の問い/生贄構造
生政治
生政治と生贄構造/動物生政治
ポスト人間主義の倫理
ポスト人間的状況/差異と応答/未分化と変成
資本・労働・抵抗
動物労働論/接触地帯/紛争地帯

第五章 フェミニズム
父権制と自然
女性・動物・自然/二元論の形成
父権的抑圧
残酷への意志/暴力の正当化/生殖支配/性と肉食…


■書評・紹介・言及

◆立岩 真也 2022/12/20 『人命の特別を言わず/言う』,筑摩書房
◆立岩 真也 2022/12/25- 『人命の特別を言わず/言う 補註』Kyoto Books

 序章★04 「このたび井上[2022]を刊行した井上太一は、Nibert[2013=2016]、Francione[2000=2018]、Wadiwel[2015=2019]、Hawthorne[2016=2019]、Regan[2003=2022]の訳者でもあり、このかんの言論の普及に貢献△023 している。『現代思想』の特集号では、本書でいくつか文章を引用する伊勢田と対談をしている(伊勢田・井上[2022])。」

■引用


第二章 道徳哲学
 「廃絶主義アプローチ
 フランシオンは新福祉主義の問題を踏まえ、動物の権利運動の原点回帰を呼び掛ける。権利獲得の闘は何を置いてもまず、内在的価値を宿す者の手段化に抗う試みでなくてはならない。福祉改革、すなち「人道的」搾取の制度化は、ある者を他者の目的に資する単なる手段として扱う不正を、手付かずのままに温存する。それは権利運動の目指すところではない。権利運動が求めるのは搾取の期制ではなく廃絶である。この点を初めに明確にしたのはトム・レーガンだった。しかしレーガンの権利論にも改良の余△地はある。 「人道的」搾取の制度化は、ある者を他者の目的に資する単なる手段とし一ままに潟ーガンの議論では、内在的価値を有する存在として生の主体が想定された。それに対し,プランシ感があるとい、2)とは、苦しみからの自由がその存在にとりて利益であることを厚味する。さらに苦しを感じる能力は生存とい、つ目的へ向けた手段の位置を占めるため、情感を具える存在は死からの自由利益とする。未来像その他の高度な精神機能がなくとも、苦しみと死からの自由という利益を有する存在は、それだけで主体的意識と経験的福祉状態を持つと考えられる。ある存在の内在的価値を認める存在は、それだけで主体的意識と経験的福祉状態を持つと考えられる。ある存在の内在的価値を認めるには情感が具わっていればよい。 おいて、「仮に哺乳類以外の動物が:ミ生の主体ではないとしても、そうした動物の多くが意識を持ち,において、「仮に哺乳類以外の動物が:::生の主体ではないとしても、そうした動物の多くが意識を持ち,、意識や痛覚が具わっているか否か不明確な場合も予防原則の対象となることを示唆している。ニニ、意識や痛覚が具わっているか否か不明確な場合も予防原則の対蒙となることを示唆している。ニニではまだ生一とは世界の中にあって世界を感じ取り、わが身に起こるニとが生の質や存続を左有する戸で重要な意とは世界の中にあって世界を感じ取り、わが身に起)ることがまの質や存続を左存する戸で重要な葛すなわち生の主体であると理解できるので、レーガンとフランシオンの立場ぱそ卩ほど離れていな、はすなわち生の主体であると理解できるので、レーガンとフランシオンの立場はそれほど離れていなレ ことだろう。一動物の権利擁護論一では、生の主体が具える精神機能として「確信や願望、知覚、記1ぎたことだろう。一動物の権利擁護論一では,生の主体が具える精神機能として「確信や願望、知覚、記1、自信の将来も含めた未来像、快楽や苦痛の感覚と繋がった感情的生」等々を挙げるが、このような式的定義は、逆にここで列挙された諸特徴を全て具えていなければ生の主体ではない、と思わせる含を帯びてしまった。しかし同書の第二章を読めば分かるように、本来この記述は動物が生きる精神世の豊かさを表現したものであり、生の主体を高度な精神機能の持ち主に限定することば、おそらくーガンの意図ではなかった。レーガンは生の主体がどのょうな経験を生きているかに着目したのに対、フランシオンはどのような条件が生の主体を成り立たせるかに着目して、最も基本的な利益を生じせる情感の能力がその条件であると考えた、という見方も可能である。
◇Francione, Gary L. 2000 Introduciton to Animal Rights: Your Child or the Dog ?, Temple University Press=20180430 井上太一訳,『動物の権利入門――わが子を救うか、犬を救うか』,緑風出版,348p. ISBN-10:4846118045 ISBN-13:978-4846118044 [amazon][kinokuniya]


*作成:立岩 真也 
UP: 20220725 REV:20221230
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