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『こころの回復を支える――精神障害リハビリテーション』

池淵 恵美 201903 医学書院,286p.

last update: 20210204

このHP経由で購入すると寄付されます

■池淵恵美,2019,『こころの回復を支える――精神障害リハビリテーション』医学書院.ISBN-10:4260038796,ISBN-13: 978-4260038799,[amazon]/[kinokuniya]
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■内容

出版社からのコメント
あなたにしかできないことがある。
統合失調症のこころの回復を支えて40年の著者が送る、
「精神障害リハビリテーション」入門に最適な1冊。
43のCASEからこころの回復する過程がわかる。
個人で支える、チームで支える。
個人を支える、人生を支える。
著者について

■目次

第1章 精神の「障害 disability」とは何か
 1 統合失調症の人の生きづらさから障害 disability を考える
 2 障害・生きづらさはどの程度改善するのか
 3 障害 disability をもたらす基盤としての脳機能
 4 障害の構造──機能・活動・社会参加
 5 環境(文化・社会制度・人とのつながり)は障害を変える
 6 ノーマライゼーションと障害 disability の克服

第2章 リハビリテーションとはどういうものか
 1 リハビリテーションという言葉が示すもの
 2 リカバリー概念の発展
 3 エビデンスに基づく実践とパーソナルリカバリー
 4 精神障害リハビリテーションの基本的な考え方
 5 精神障害リハビリテーションの技術
 6 地域におけるリハビリテーション
 7 希望を育むこと・成長していくこと

第3章 精神障害リハビリテーションのプロセス
 1 精神医学の治療とリハビリテーションの違いを考える
 2 初診のときからリハビリテーションは始まる
 3 苦しい症状に対して,まずは本人が楽になることを見つける
 4 家族や周囲の人たちに,疾患や障害の特徴を知ってもらい,
     どうつきあっていくかを学んでもらう
 5 「楽しいこと」「興味の持てること」を見つけ,
     自信や体力や気力を取り戻していく
 6 本来の自分の力が少しずつ戻ってきたら,社会参加の目標を見つけていく
 7 リアルワールドにチャレンジする
 8 なかなかよくならない症状・障害とつきあっていくやり方を探していく
 9 リハビリテーションから次の一歩が踏み出せない場合がある
 10 再発・再入院への対応
 11 長い目で見て,回復を信じていくことが大切である
 12 人それぞれのリカバリー
 13 早期介入・こころの健康

第4章 精神障害リハビリテーションを計画する
 1 治療・リハビリテーションの計画を立てるときの基本的な考え方
 2 初診察(面接)時の治療・リハビリテーション計画
 3 急性期を乗り切るための計画
 4 うまく急性期が乗り切れないときの治療・リハビリテーション計画の修正
 5 日常生活の再開や退院を準備していくための計画
 6 社会参加に向けた計画
 7 外来中断・引きこもりなどへの計画
 8 社会参加の継続を支援する

第5章 人生を支援するリハビリテーション
 1 ライフステージと精神障害
 2 就労支援
 3 恋愛・結婚・子育て支援
 4 ひとり暮らしや身体的健康の支援

第6章 回復を支える支援者の役割
 1 Personal support specialist
 2 リハビリテーションに携わる personal support specialist の視点
 3 定期的な個人面接
 4 リハビリテーションの専門家として知っておきたい技術
 5 精神障害リハビリテーションについて深く学ぶ
 6 多職種協働チーム

第7章 精神障害リハビリテーションをゆたかにする研究
 1 障害 disability の解明
 2 障害 disability を改善するためのリハビリテーションの開発と効果検証
 3 「主体」の意欲を育て,パーソナルリカバリーを支援するための研究
 4 有用なリハビリテーションの実装・普及研究とサービスの効果研究
 5 どのような社会のあり方が,障害を持つ人の社会参加を促し,
     ノーマライゼーションにつながるか

終章 時代の精神を越えて

初出一覧
索引

CASE
 1-1 生きづらさがだんだん大きくなって発症したSさん
 1-2 前節で紹介したSさんのその後
      ――時間がかかったけれど,自分の生きる方向を見つけました
 1-3 Kさんは仕事をきちんとこなしていますが,
      神経認知機能障害の影響を受けています
 1-4 ご主人のサポートを受けて主婦業をこなしているYさん
 1-5 Mさんは社会的認知の偏りが見られることがあり,時々周りの人と
      うまくいかなくなります
 1-6 障害の認識がうまくできないため混乱しているKCさん
 1-7 なぜ自分の調子が悪くなるのか,うまくつかめていなかったUさん
 1-8 Vさんは自分の障害について自覚していなかったのですが,いろいろな体験を
      積み,仲間の話を聞いたり心理教育を受けたりするうちに,少しずつ
      自分がどうしてつまずいてしまうのか,気づくようになりました。
 1-9 Aさんは仕事熱心で生真面目な会社員ですが,その認知パターンと
      ストレスとがからみあって時々調子を崩すことがあります
 1-10 職場が変わったら,無口なことが評価されるようになったNさん
 2-1 リハビリテーションを経験し,リカバリーのプロセスも順調で,
      今は仕事に生きがいを感じているTさん
 2-2 なかなか就労支援がうまくいかなかったXさん
 2-3 家でのお母さんとのやり取りからいらいらして壁を蹴ってしまったUAさん。
      e-SST で症状への対処,自分の認知のゆがみ,お母さんとの
      コミュニケーションを練習しました。
 2-4 自分がやりたいと思っていることを進めていく過程で,
      リカバリーしていったAIさん
 2-5 Bさんのよいところが見えてきたら,支援もうまくいくようになりました
 2-6 現実とつながらない願望から,実際の希望へと1歩踏み出したRさん
 2-7 あきらめと絶望のなかで,仲間の力によって希望が生まれてきたJさん
 3-1 リカバリーしていく過程のなかで少しずつ自分の生き方が変わったPさん,
      支援者との二人三脚でした
 3-2 ずいぶん試行錯誤しましたが,やっとHさんは自分なりの生き方を見つけました
 3-3 長い入院の後のひとり暮らしで,英会話が生きがいになったJBさん
 3-4 50代に入ってパートナーとめぐりあい,あたたかい家庭を築いたDさん
 4-1 苦しい急性期を乗り切ることに難渋したFEさん
 4-2 単一家族心理教育のなかで,退院後の生活について自分の考えを
      周りに伝えられたVさん
 4-3 母親に頼って自宅で生活し,外に出ようとしないWさん
 4-4 デイケアでのリハビリテーションからはじまり,学校生活,仕事経験,
      恋愛などを通して成長していったMさん
 4-5 Zさんは「服薬中断実験」などを経験しながら社会での生き方を
      自分のものにしていきました
 5-1 やりたい仕事が見つかるまで長い道程を重ねたYCさん
 5-2 職場のちょっとした出来事で幻聴がはじまり,
      いつも解雇させられると心配していたEさん
 5-3 病気になったあと,給料は安くなったがゆったり仕事できる職場が見つかり,
      納得して仕事しているCさん
 5-4 恋愛をするたびに大混乱するYKさん
 5-5 周囲の反対にもかかわらず結婚したJMさん
 5-6 Lさんは病気になって周囲に過敏になり悩みましたが,
      パートナーと出会って病気のことも話して結婚し,その後2人の子育てを
      通してふつうのお母さんの苦労をしています
 5-7 グループホームでの生活を通してひとり暮らしの技術と自信をつけたOさん
 5-8 けんかが絶えない家庭から飛び出して,グループホームの世話人の支えで
      仕事もしているNさん
 5-9 親が亡くなってLCさんは急にひとり暮らしになりましたが,母方の叔父さんや
      デイケアの支えを受けて,趣味を楽しみ,さみしさともつきあって
      生活しています
 5-10 Yさんは20年の長期入院のあと,グループホームで生活をはじめましたが,
      いろいろ苦戦しています
 5-11 いらいらから食べ過ぎてしまうことを乗り越える練習をしているGさん
 6-1 REさんは自分で試行錯誤しながらリカバリーの道をたどってきました
 6-2 病院に来たくない,自分は病気と違う,と言い続けていたAGさん
 6-3 病気や薬の説明なんかちゃんと受けていないと,治療中断してしまうZCさん
 6-4 しばしば妄想を訴えるLSさん
 6-5 LFさんのお母さんは娘の妄想に悩んでいましたが,ほかのお母さんから
      素晴らしいヒントをもらいました
 6-6 支援者として力量をつけてきたSKさん

■引用

p. v
【はじめに】精神障害リハビリテーションに従事していくことは、回復すること=すっかり症状がなくなって「当たり前の生活」ができるようになることだ、という既存の概念を転換していく必要が出てくるということです。働かなくてもその人なりの人生がある、という考え方は、身体疾患や精神疾患などで障害がもたらされることで、生きていく術が制限される人たちが生み出してきた知恵なのです。精神療法では「心的事実」という言葉があります。実際に皆が認識している事実とは違うかもしれないが、ある人のこころのなかで起こっている、感じているもののことです。それはその人にとっては重要な主観的体験です。社会福祉の領域では、「誰でも社会のなかで平等に生きていく権利を持っている」と教えられます。主観的な体験に重きを置きつつ、社会のなかでより望ましいと考えられる生き方や社会のあり方を求めていくことが、精神障害リハビリテーションの専門家には求められます。

p. 30
【浦河べてるの家】セルフスティグマは、障害を持っている人の意欲をそぎ、自己価値を傷つけ、回復を妨げるものです。このようなセルフスティグマを減らす取り組みを長年行ってきたのが、「浦河べてるの家」であると筆者は思っています。べてるの家は北海道浦河町にある、精神の障害を持つ仲間たちと専門家の共同体で、昆布の販売に象徴されるように、地域の力を生かしつつ、医療と連携しつつ、福祉・地域活動を展開しています。〔中略〕認知行動療法などの成果を活用しつつ、自分たちのあった生きた手段へ落とし込んでいく彼らの技にはいつも驚かされます。次章で説明するパーソナルリカバリーの生きた見本ではないでしょうか。

p. 44
専門家は、障害を持つ人たちが社会でよりよく生きていくための権利を守ったり、社会に働きかけていく役割を負っています。権利擁護と書いているのは、そういう役割のことです。回復していくことは、専門家と当事者とがお互いに手を取りあって行う共同創造co-productionです。

p. 46
1990年代に入り、リカバリーが精神障害リハビリテーションの中心的概念として認識されるようになりました。そして、リカバリーという言葉が持つ意味のなかでも、後に述べる「パーソナルリカバリー」の側面が注目されるようになります。パーソナルリカバリーは当事者の体験として語られることが多く、「障害があってもなお、十全な生を主体的に生きていく過程」であるとしてしばしば描写されています。1990年代後半には、先進諸国において精神保健行政の方針としてリカバリーの考え方が採用されるようになり、近年米国でも精神保健福祉施策のなかでの基本的理念として位置づけられるようになっています。

p. 46
わが国でリカバリーの先駆となる思想として、上田敏によるリハビリテーション医学の考え方があります。〔中略〕客観的な障害だけではなく、患者本人の主観の世界に属する「体験としての障害」が重要であるとして、障害を持っていることを本人がどのように受け止めているか、どのような希望を持ってその障害に対していくかが、回復に大きな影響を与えるとしました。

p. 47
【リカバリー概念の多義性】これまで精神医学では精神症状からの回復が大きな目的とされてきました(図2-1の医学的リカバリー)。リハビリテーションの分野では仕事などの社会的回復が重視されてきました(図2-1の社会的リカバリー)。これらは主に専門家の視点から見ているリカバリーですが、身近な人たちから見ると親しい人たちとの対人関係の回復が大きな意味を持ってきます(図2-1の対人関係のリカバリー)。この3つのリカバリーは、外の人に見える者なので、客観的リカバリーと言えます。近年は、当事者本人が体験する、主観的なリカバリーが注目されています。その中でも、本人が感じている「QOL]であるとか、「幸福感」「満足感」などは、自分で記入する評価尺度なども開発されていて、自己評価という形で測定できるものです。それに対して、満足できる自分らしい人生を見つけていく「人生の復権」や回復を主観として体験するリカバリープロセスは、より実存的なものであり、本人にしか体験できないものと考えられます。これらの主観的なリカバリーは、パーソナルリカバリーと呼ばれます。

p. 48
これらの多義的なリカバリーは重層的なもので、それぞれ意味や意義があり、どれがより重要ということではありません。またこの区別は、専門家が整理したものですが、当事者や家族のなかではいろいろな側面がまじりあって、ひとつの体験として生きられているものだと思います。

pp. 52-53
専門家がリハビリテーションで支援するのに対して、本人がリカバリーを体験するのです、医学的リカバリー、社会的リカバリーなど、リカバリーという言葉には異なる意味を含んでいます。パーソナルリカバリーも、客観的リカバリーも、当事者と専門家とが協働し目指すべき大切な目標です.

pp. 58-59
【パーソナルリカバリー概念の限界】障害を持つ人たちが最初に臨むのは、まずは症状の改善、もとのふつうの生き方に戻ることであり、必ずしもパーソナルリカバリーではない(表2-4 パーソナルリカバリー概念がぶつかる壁)。専門家が安易にパーソナルリカバリーを謳っていくことに対しては、「専門家のよいと思うことや価値観を(p.58)押しつけないでほしい」といった批判が、当事者たちから生まれてくる可能性があります。たとえば、身体障害リハビリテーションの領域では、自立を目指すなど、なるべく身体機能を高めることがリハビリテーションの目標と考えられてきました。しかし・・・〔中略〕「(機能が回復していなくても、自分なりの生き方を求めていくという)理想的な障害者像を専門家が押しつけないでほしい」という反発が当事者から生まれたのです。「障害受容」の考え方は、筆者は今でも大切な考え方だと思っていますが、大きく脚光を浴びることはなくなっていったのです。(p.59)

pp. 61-62
【パーソナルリカバリー概念の限界】統合失調症におけるパーソナルリカバリーと臨床症状をともに評価している37研究をメタ解析した報告(Van Eck RM et al 2018)では、陽性症状、陰性症状、気分症状、社会機能のいずれも、パーソナルリカバリーと有意な相関関係があることが示されています。つまり、症状が軽く、社会機能が高ければパーソナルリカバリーはより起こりやすくなると考えられます。〔中略〕ですから、症状の改善なしにパーソナルリカバリーが起こることを強調しすぎるのは、多くの障害を持つ人に接してきた筆者の経験からして、必ずしも実態に即していないように思われます。リカバリー重視のサービスを喧伝する際に、従来の医学的治療やリハビリテーションと対比させて、「人間主義的/科学的」「個人的な意味/診断」などの対立軸で提示されることが多いと思います。しかし、これらは(p.61)ほんとうに対立している概念なのでしょうか(p.62 )。

pp. 161-162
【なぜ就労支援が大切なのか】仕事は多くの場合、人間の生活を支える基本となります。仕事によって社会的役割を得られることから、社会的な居場所ができます(p.161)。成人にとって自己価値のかなりの部分が仕事によって規定されるでしょう。もちろん仕事以外にも、リカバリーの基盤となる、社会のなかでの役割や自己価値を支える活動はあります。ただし、リカバリーしていくなかで仕事が大きな影響を与えることは間違いありません(p.162)。

p. 163
精神障害を持つ人ではいったん就職しても離職が多くなっている実態があります。また障害者を雇用する制度のおかげで、障害を明らかにしたうえで職に就くことが広く行われるようになっていますが、若い人のこころのうちには葛藤があります。仕事に就くことを選ぶと「障害者」というラベルを受け入れなくてはなりません。職につきたいという思いと、障害者としてではなく生きたいという思いとの間で葛藤が生じるのです。また、障害者雇用は最低賃金を保障するとはいえ、「今の給料では結婚して奥さんを養えない」悩みがあり、また特例子会社などの環境では「ふつうの人と同じ仕事ではない」不満があります。

p. 163
【重い精神障害の人への就労支援のエビデンス】障害を持つ人のリハビリテーションの歴史のなかで、障害の種類にかかわらず就労支援はずっと重視されてきました。しかし、必ずしも社会のなかで仕事を持つことは成功してきませんでした。なかでも障害のわかりにくさやスティグマから、精神障害の分野は遅れを取ってきました。

p. 165
【まず就職したうえで援助を受けながら仕事を続けていく「援助つき雇用」が一般就労には有用】米国ではそれまでの職業リハビリテーションの反省から、知的障害者等を対象にして訓練機関でトレーニングを長く行うのではなく、実際の職場でサポートを受けながら定着を図る援助つき雇用の手法が生まれて、1990年代には精神障害者に対しても実施されるようになりました。そしてその成果をレビューした論文が出版され、援助付き雇用の優位性が示されました(Bond, G. R. et al 1997)。

p. 165
【援助つき雇用を補完するリハビリテーション】McGurkら(2015)は、援助付き雇用に認知機能リハビリテーションを加えることで、これまで援助付き雇用で就労に至らなかった人たちの就労転帰の改善を報告しています。McGurkらの支援方法はわが国にも導入され、VCAT-J(Vocational Cognitive Ability Training by Jcores)という認知リハビリテーション専用ソフトを利用した就労支援プログラムとして公表されています。

pp. 172-173
【多様な働き方】筆者は、精神の障害を持つすべての人が一般企業で働くことを目標にすべきと考えているわけではありません。さまざまな障害者への就労支援制度が整備されてきてはいるものの、実際に一般就労で働けている人はまだ少数派です。〔中略〕エビデンスのある就労支援としてIPSモデルがありますが、このモデルの大きな特徴として、「働くことに興味のあるすべてのクライア(p.172)ントは、除外基準なしに援助付き雇用サービスにアクセスできる」ことを掲げています。これは、あくまでアセスメントや訓練を重視する就労支援へのアンチテーゼであり、就労をあきらめてしまう人をひとりでも減らしたい、という願いが込められていると思います。当事者に希望を与え、私たち専門家を鼓舞する優れた理念です。しかし、この理念は、すなわち誰でも就労できるという事実とは異なることに注意が必要です。実際にIPSモデルで成果を上げている研究報告であっても、一般就労を維持できる人は割合は3割程度です(p.173)。

pp. 173-174
【多様な働き方】雇用保険の被保険者になれるのは基準以上の労働時間が必要です。しかし、障害を持つ人にとっては雇用保険を受けられるだけの質と量の仕事に就くことが困難であるために、一般就労したいという希望に反して、収入の少ない福祉的就労に長くとどまらざるを得ないケースも少なくありません。だからといって就労は困難であると専門家が決めるのではなく、〔中略〕就労は一度で簡単に成功するものではないことを、当事者と共有しておくことが大切だと思います。そして、一般就労と福祉的就労とを本人の希望に沿って行き来しやすいように、医療機関と就労支援専門機関との垣根を低くできたらと思います。利用を言えば、同じ援助者が、本人のニーズに沿って医療と福祉とを適宜提供できる、すなわち利用者からみて統合されたサービスを提供できる組織がほしいです。利用者を中心として混在した形でサービスが提供できないだろうかというのが筆者の願いです(p.173)。リカバリーのプロセスのなかでその人なりに生きられるようになることで、一般就労しない生き方へと、考え方がシフトしていくかもしれません(p.174)。

pp. 173-174
【多様な働き方】雇用保険の被保険者になれるのは基準以上の労働時間が必要です。しかし、障害を持つ人にとっては雇用保険を受けられるだけの質と量の仕事に就くことが困難であるために、一般就労したいという希望に反して、収入の少ない福祉的就労に長くとどまらざるを得ないケースも少なくありません。だからといって就労は困難であると専門家が決めるのではなく、〔中略〕就労は一度で簡単に成功するものではないことを、当事者と共有しておくことが大切だと思います。そして、一般就労と福祉的就労とを本人の希望に沿って行き来しやすいように、医療機関と就労支援専門機関との垣根を低くできたらと思います。利用を言えば、同じ援助者が、本人のニーズに沿って医療と福祉とを適宜提供できる、すなわち利用者からみて統合されたサービスを提供できる組織がほしいです。利用者を中心として混在した形でサービスが提供できないだろうかというのが筆者の願いです(p.173)。リカバリーのプロセスのなかでその人なりに生きられるようになることで、一般就労しない生き方へと、考え方がシフトしていくかもしれません(p.174)。

pp. 262-263
私たちの当面の課題は、脳機能という医学的視座とリカバリーや幸福とを統合する考え方や技術であり、それによって生物・心理・社会的領域に存在する垣根を取り払うことです。自発的な意思や希望を基づいて、人生を生きていくこととはどういうことなのか。こうした過程を損なう精神疾患は、医学的治療・リハビリテーション・環境や社会への介入(p.262)を含む広範な支援が必要です(p.263)

p. 264
イタリアのトリエステでは、仕事にしてもスポーツにしても、障害を持つ人と、一般の人たちがいっしょに活動する仕組みがつくられていました。

p. 264
回復してきた人たちは、しばしば「心理士になりたい」「作業療法士になりたい」などと述べます。それは自分の経験を生かしたい、同じ苦しみを持つ人を助けたい、という素朴な気持ちからなのですが、それに対しての制度のうえでも、専門家の意識のうえでも、今までは大きな壁がありました。ピアサポーターはそこに突破口をつくったのです。

p. 265
他にも、精神障害者の手帳を持った人が就労支援を受けるときに、まだまだ事務補助などの未熟練労務が多く、したがって賃金も安いことが多いです。正社員への壁もあります。なんらかの障害を持ちつつも、その人の持てる力を生かした社会での活動の在り方について、私たちはまだまだ研究し、開発していく必要があります。

■書評・紹介


■言及



*作成:伊東香純
UP: 20210204 REV:
精神障害/精神医療  ◇精神障害者の権利/権利擁護  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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