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『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』

有馬斉 20190215 春風社,558p.

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last update: 20190919

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『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』表紙イメージ

有馬斉(ありま・ひとし) 20190215 『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』,春風社,558p.  ISBN-10: 4861106249 ISBN-13: 978-4861106248 4300+税 [amazon][kinokuniya] ※ et. be. d01

■内容

人の死期を早めうるふるまいを自身、家族、医療者がとることは許されるか。医療技術が進展するなか、人の死の望ましいありかたとは。死ぬ権利について擁護派と反対派の議論を広く集めて整理するとともに、豊富な事例や、各国・地域の政策的取り組みも参照しながら検討。人の命が持つ価値の大きさと根拠を問い直し、倫理的・政策的な判断の基礎となる考えを提示する。終末期のあり方を巡る問題からその倫理的是非を問い直す。(「BOOK」データベースより)

■著者略歴

横浜市立大学国際総合科学部准教授。1978年生まれ。国際基督教大学教養学部卒。米国ケース・ウェスタン・リザーヴ大学大学院生命倫理学修士課程、米国ニューヨーク州立大学バファロー校大学院哲学博士課程を修了。博士(哲学)。専門は倫理学、生命倫理。立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー、東京大学大学院医学系研究科特任助教を経て、2012年より現職。論文「利益のボーダーライン―大脳機能の不可逆的な喪失と代理決定」で日本生命倫理学会若手論文奨励賞、「自殺幇助は人格の尊厳への冒涜か」で日本倫理学会和辻賞を受賞。主な著書に『生死の語り行い1―尊厳死法案・抵抗・生命倫理』(生活書院、共著)、『生命倫理と医療倫理 第三版』(金芳堂、共著)、The Future of Bioethics: International Dialogues (Oxford University Press、共著)等。(「BOOK著者紹介情報」より)

■目次

まえがき

序論 事例と用語および本書の課題

第I部 死ぬ権利の擁護論
第1章 自己決定
第1節 自己決定に訴える容認論
第2節 死にかたにかんする個人の自己決定と第三者の利益や権利との衝突
第3節 判断力評価とパターナリズム
第4節 健康な人の自殺とパターナリズム
結語

第2章 患者の利益
第5節 患者の利益に訴える容認論
第6節 死を結果するふるまいと人々の利益との関係にかんするいくつかの重要問題
第7節 強制的な安楽死
第8節 判断力を喪失した患者の利益
第9節 家族の利益
結語

第3章 医療費の高騰
第10節 医療費の高騰に訴える容認論
第11節 前提とされている社会状況は日本の現状に当てはまるか
第12節 年齢制限を受けいれることは合理的か
第13節 高齢者差別
結語

第II部 死ぬ権利の限界
第4章 社会的弱者への脅威
第14節 社会的弱者へのリスクに訴える反対論
第15節 滑りやすい坂の議論
第16節 合法化のリスクと利点の比較衡量
第17節 人の命が生きるに値しないことはあるか
結語

第5章 生命の神聖さ
第18節 生命の神聖さに訴える反対論
第19節 生命が神聖であるという見解にたいする批判
結語

第6章 人の尊厳
第20節 人格の尊厳に訴える反対論
第21節 人の死期を早めることは人の尊厳を冒すか
結語
結論
あとがき
文献一覧
索引

■自著紹介

有馬斉「自著紹介『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』(春風社、2019年)」

■合評会

◆有馬斉著『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』合評会
 https://www.ritsumei-arsvi.org/news/news-2842/

■引用


◇第6章 人の尊厳
 第20節 人格の尊厳に訴える反対論
 第21節 人の死期を早めることは人の尊厳を冒すか
 [21-1]
 「まず、蚊取り線香を焚くことは問題にならない。カント主義にあって大きな価値があるとされるのは、合理的本性を備えた人格の存在である。それは、蚊や細菌にいたるすべての生命に破壊してはならないほど大きな価値があるとする思想ではまったくない。
 同じ理由で、人種差別と構造上区別できないとする批判も当たらない。カント主義は、人格が合理的本性を備えた理性的存在であるという点を重視している。別言すれば、カント主義が人格を他の動物とちがうしかたで扱うことには、理由があるのである。
 [21-5]蚊取り線香、人種差別、正当防衛 486

 もちろん、種差別にたいする批判の趣旨は、ただ考えかたの構造に問題があるということだけではなかった。実際的な点として、たとえば一部の動物実験など、人間以外の動物にたいするきわめて残酷な扱いを正当化してしまう点に問題があるという批判でもあった。批判のこの部分は、合理的本性を重視△468 するカント主義にとっても課題であるといってよい。人間以外の動物は合理的本性を欠くので、残酷に扱ってはならないと考える理由がないように見えるからである。しかし、かりにヴェレマンのいうとおり、犬や猫など、合理的本性を持たない動物についても、別の理由で内在的価値があると考えることができるとすれば、こちらの実際的な課題も克服できるだろう([21-1]項)。」(有馬[2019:-])

Velleman, David, 1992, "Against the Right to Die," Journal of Medicine and Philosophy 17:665-682
―――― 1999,"A Right of Self-Termination?" , Ethics, 109-1:606-628

◇結論 498

 「本書の最後尾に置いたふたつの章では、人の命あるいは存在そのものに価値があるとするアイデアに根拠を与えることができるか、検証した。すなわち、人の命は、たとえ本人が主観的にそこに価値を見いだしておらず、また不幸でも、依然として破壊してはならないと考えるに足りるだけ大きな価値をそれ自体の内側に有している、とするアイデアである。かりにこのアイデアが正しいとすると、人には、からだの痛みがひどくても、将来の見通しがきわめて暗くても、自分の命あるいは自分という存在を惜しんで生き延びるべきときがある、と考えることが可能である。この可能性を検証した。
 さらにまた、命の価値のありようにかんするこれらの理論的な主張の妥当性にかんする検討を踏まえつ、より具体的なレべルの問いにも回答を試みた。たとえば、人の命の価値は本人が高齢になるほど小さくなるか、障害者の命は生きるに値しないとする意見は正しいか、等の問いである。
 以上で列挙した問いにたいする本書の回答は、主として各章の最後に置いた結語の中でまとめたため、△503 ここではくりかえさない。各回答のさらに詳しい内容は、目次と索引を活用しながら本論中の該当箇所を直接に確認していただきたい。」(有馬[2019:502-503])

■書評・言及

◆安部 彰 20200831 「序文」,『立命館生存学研究』4:3-4 [PDF]

◆由井 秀樹 20200831 「患者の生命短縮をめぐる議論において、カント主義は貫徹可能か――有馬斉『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』へのコメント」,『立命館生存学研究』4:5-9 [PDF]

◆堀田 義太郎 20200831 「人間の生命の価値について――有馬斉著『死ぬ権利はあるか』(春風社、2019年)をめぐって」,『立命館生存学研究』4:11-19 [PDF]

 「人間を特別扱いしつつ、しかし同時に動物の利益にも配慮することに矛盾はない。別の言い方をすれば、人間には何らかの重要な価値があると考えることは、人間ではないもの(動物)には何の価値もないと考えることではない。動物にも一定の価値(たとえば利益の担い手としての)があり、その福利等に配慮すべきであると考えつつ、しかし人間には動物とは違ったより大きな価値があると考えることはできる。それは普通の考え方だと思われる。」(堀田[2020])

 苦痛について:「たしかに、人間の生命の神聖さ論にとって、QOL が高いことは当人の命に価値があるというための条件ではない。しかしこの条件はとくに限定されていないが、「必要条件ではない」と理解すれば、それほど直観に反する結論が導かれるわけではない。つまり、QOL が高いことなどは、その人の生命に価値があるというために必ずしも必要はない。そして、QOL の高低は生命の価値の大きさには関係がないが、当人の幸福に配慮すべきだという主張は、神聖性論からでも可能だと思われるからである。」

◆有馬 斉 20200831 「由井秀樹氏、堀田義太郎氏による書評への応答」, 『立命館生存学研究』4:21-30 [PDF]

 「筆者が SOL の主張の欠点とみなしているのは、(1)と(2)を同時に認めることができないという点ではなく、(1)と(2)の価値が互いに対立、衝突する場合をどう理解するかの点にある。より正確にいえば、人の利益やQOL を守ろうとすると、利益や QOL とは独立に価値があるとされるその人の生命を破壊しなければならない場合である。この場合、SOL という表現をつかって人に内在的価値があるとするアイデアを擁護している議論のうち拙著で取り上げた議論のいくつか(それぞれバイタリズム、完全平和主義、キリスト教倫理の原則と呼んだ)は、利益や QOL の価値よりも生命の内在的価値が常に優先されるべきだという主張を含んでいる。この主張が、筆者の理解では、受け入れがたい結論を必然的に導く。」

 「バランス型は、終末期医療の倫理を考えるに当たり、個人の自己決定を尊重できることの良さと、人の利益を守ることの良さというふたつの価値以外に価値がある可能性を考慮しない。筆者は、この立場を批判した。これらふたつの価値の両方に優先するもうひとつの価値があると考えることが可能だと述べ、その価値を尊厳と呼んだ。したがって、筆者の立場にしたがって考えるなら、合理性を損なうほどの強い痛みに苦しむ患者を殺すことが正当化できるのは、そのような患者の死にたいという意向を尊重できることが良いことだからではない。また、そのような患者の痛みを除去できるのが良いことだからでもない。もちろんこれらふたつの価値をバランスした結果の判断によるのでもない。そうではなく、むしろ、そのような患者はすでに尊厳を失っているとみなすことができるからに他ならない 4)。」

 「尚、堀田は、筆者が拙著の中で最終的に擁護した立場(堀田はこれを合理的本性論と呼んでいる)よりも「SOL派の方が説得力がある」という。筆者の立場にしたがえば、「苦痛がある終末期の新生児」と重度認知症患者は、合理的本性を持たないため、ただ苦痛から解放するためという目的のためであってもその存在を破壊してはならないと考えることができない。堀田はこの結論が「反直観的である」という。他方、SOL の主張にしたがえば、同様の結論は導かれないという(堀田、§4)。
 拙著における筆者の目的のひとつは、人の命や存在に価値が内在するという大きいアイデアを擁護することにあった。この目的にそくしていえば、SOL の主張によってこそ当のアイデアに根拠を与えられる見込みがあるという堀田の意見は、是非とも否定しなければならない意見ではない。堀田の考察にはむしろ期待する気持ちが大きい。ただし、堀田の適当とみなす「SOL 派」の主張が具体的にどのような立場になり、またどのような根拠と前提に基づくものなのかは、実のところ堀田の書評を最後まで読んでも十分あきらかではなかった。このため、第一に、その立場には、新生児や認知症患者の扱いにかんして、筆者が最終的に擁護した立場のほうにはない美点があると本当に考えられるのか。この点は判断しがたいといわなければならない。また第二に、今かりに、そうした美点を有する SOL の主張を組み立てることができることを認めるとしよう。それでも、その立場には、個人が耐えなければならない痛みの大きさには限度がないというデメリットもまたつきまとう。すでに述べたとおり、筆者にはこのデメリットはきわめて大きいものと思われた。」

 「尚、種差別批判については、堀田からもコメントがあった。堀田のいうとおり、種差別の妥当性を否定する研究者たちは、痛覚や自己意識のていどが同じ存在は、同様に扱われなくてはならないと主張してきた。堀田の考えではこの主張は受け入れがたい帰結を導く。ここでは、知覚や自己意識が猿と同ていどしかない「重度の心身障害の[人間の]子」がいるとしよう。今の主張にしたがうと、この子と猿が死にかけていて、どちらかしか救えない場合、人間の子のほうを救うべきだと考える積極的な理由がない。そこで「コイントス」しなければならない。堀田の理解では、拙著が支持する立場もこれと同じあきらかにおかしな結論を導くため、擁護しがたい(堀田、§3-2)。
 堀田の懸念はよく分かる。筆者も、種差別を批判する者にとってこれがいつでも容易に払拭できる懸念であるとは考えていない。しかし、堀田がしているのと同様の非難は、種差別批判論にたいして従来からなされてきたものである。(エリザベス・アンダーソン(Elizabeth Anderson)は、種差別批判論者の多くがいうように、個体の能力だけでその個体が持つ権利の内容が決まるとすると、チンパンジーやインコも、言語を習得する能力はある以上、言語を教えなければならないとする、ばかばかしい結論が導かれるという批判を紹介している(アンダーソン、2013年)。)さらにまた、この手の批判にたいしては反論も提出されている(アンダーソンの論文の議論は非常に重要である)。そこで、この主題にかんしては、少なくともこうした既出の意見を踏まえて議論する必要があるだろう。しかし、主に紙幅の都合上、本稿では議論できなかった。」(
◆立岩 真也 2022/12/20 『人命の特別を言わず/言う』,筑摩書房

◆立岩 真也 2022/**/** 『良い死/唯の生』,筑摩書房,ちくま学芸文庫


*頁作成:安田 智博 *増補:北村 健太郎立岩 真也
UP: 20190307 REV:20190919, 20220725, 27, 28, 1225
有馬 斉安楽死・尊厳死  ◇生命倫理  ◇  ◇福生病院での透析中止・人工透析 2019  ◇殺生  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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