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『Black Box』

伊藤 詩織 20171020 文藝春秋,255p.

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last update:20180629

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■伊藤 詩織 20171020 『Black Box』,文藝春秋,255p.  ISBN-10: 4163907823 ISBN-13: 978-4163907826 1400+税  [amazon][kinokuniya]
『Black Box』表紙

■内容

真実は、ここにある。なぜ、司法はこれを裁けないのか? レイプ被害を受けたジャーナリストが世に問う、法と捜査、社会の現状。信頼していた人物からの、思いもよらない行為。しかし、その事実を証明するには――密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。あらゆるところに“ブラックボックス”があった。司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。

■著者略歴

1989年生まれ。ジャーナリスト。フリーランスで、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信する。

■目次

はじめに

第1章 あの日まで
山口氏とニューヨークで出会う
生い立ち
姉という新しい役割
「レールの上の人生」が終わった
「そこに血を残しなさい」
ニューヨークで学ぶと決心する
すべての努力はジャーナリストになるために

第2章 あの日、私は一度殺された
帰国してロイターで働く
履歴書とビザ
四月三日金曜日
激しい痛みで目覚める
「殺される」と思った瞬間
「パンツくらいお土産にさせてよ」

第3章 混乱と衝撃
何事もなかったかのようにかかった電話
検査や相談の窓口がない
会食と膝の痛み
何のためのジャーナリストか
原宿署へ出かける
「よくある話だし、難しいですよ」
怒りに使うエネルギーはない
ホテル入口の映像
「職権を使ってあなたを口説いたり言い寄ったりしましたか?」
「何時何分か言えますか?」
山口氏の左遷で、「行けるかもしれない」
被害届と告訴状の提出

第4章 攻防
山口氏はどこに
聞きたくなかった声
警察は出国の有無も捜査していないのか?
「私はそういう病気なんです」
鮨屋の不可解な証言
タクシー運転手の証言
「再現」の屈辱
「成田空港で逮捕する」
衝撃の電話

第5章 不起訴
捜査一課の要領を得ない説明
警察で示談の弁護士を斡旋される
警察車両で弁護士事務所へ
山口氏と顔を合わせる恐怖
心強い味方の登場
書類送検と不起訴確定

第6章 「準強姦罪」
レイプ発生率世界一はスウェーデン?
「合意の壁」
拒否できなくなる「擬死」状態
デートレイプドラッグを使った事件
日本の報告例
「合意の壁」を崩したケース

第7章 挑戦
清水潔さんの本を読む
マスコミの冷たい対応
メアリー・F・カルバートの写真
検察審査会への申し立て
再びタクシー運転手の証言
「警視庁の捜査報告書」への疑問
会見を思い立つ
「週刊新潮」の取材を受ける
「私が決裁した」

第8章 伝える
「被害者A」ではなく
沈黙は平穏をもたらさない
簡単には運ばなかった会見
シャットダウンはしない
私が誰であろうと事実は変わらない
知らぬ間に支配されていた恐怖
一度しか着なかった水着
「被害者が着る服」なんかない
怒りの感情が湧かない
中村格氏に聞きたいこと

あとがき

■引用

はじめに
[…]私の身に本当の危険が振りかかってきたのは、アジアの中でも安全な国として名高い母国、日本でだった。そして、その後に起こった出来事は、私をさらに打ちのめした。病院も、ホットラインも警察も、私を救ってくれる場所にはならなかった。
 自分がこのような社会で何も知らずに生きてきたことに、私は心底驚いた。

 性暴力は、誰にも経験してほしくない恐怖と痛みを人にもたらす。そしてそれは長い間、その人を苦しめる。>006>

[…]

 繰り返すが、私が本当に話したいのは、「起こったこと」そのものではない。
 「どう起こらないようにするか」
 「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」>007>
 という未来の話である。それを話すだめに、あえて「過去に起こったこと」を話しているだけなのだ。

 この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に振りかかってくるか、誰にも予測はできないのだ。(pp.5-7)

■インタビュー

◆伊藤 詩織 20180701 「「MeToo」が忘れ去られても、語ることができる未来に向けて」,『現代思想』46-11(2018-7) (特集=性暴力=セクハラ),238p. ISBN-10: 4791713672 ISBN-13: 978-4791713677  1400+税 [amazon][kinokuniya]
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3177

■書評・紹介

痛々しいほど切実
 2015年4月3日夜、『Black Box』の著者であるジャーナリストの伊藤詩織は、以前から就職の相談をしていた当時のTBSワシントン支局長と会食した。数時間後、泥酔して記憶をなくした彼女が下腹部に激痛を感じて目を覚ますと、信頼していた人物は全裸の自分の上にいた。そこは、彼が滞在しているホテルの部屋だった。一方的な性行為が終わってベッドから逃げだした彼女が下着を探していると、「パンツくらいお土産にさせてよ」と彼が声をかけてきた。
 当事者しか知りえない密室のやりとり、そして、レイプの被害届と告訴状を提出したからこそ直面した司法やメディアの壁について、伊藤はこの本で詳細に記している。
 本当は書きたくなかったに違いない。しかし、ようやく準強姦罪の逮捕状が出たにもかかわらず、当日になって警視庁刑事部長の判断で逮捕見送りになり、さらには不起訴処分となった以上、伊藤も覚悟を決めたのだろう。今年の5月には「週刊新潮」の取材を受け、検察審査会への申し立てを機に記者会見を開いた。審査会が「不起訴相当」と議決した際には、日本外国特派員協会で会見に臨んでみせた。
 マスコミの反応は今も鈍く、ネットでの誹謗中傷は続いている。そんな状況下で伊藤はこの本を上梓したのだが、通読して強く感じるのは、ジャーナリストとして真実に迫りたいという彼女の心意気だ。それは痛々しいほど切実で、心労で苦しみながら核心へと迫り、権力の傲慢さとともにレイプ被害にまつわる法や社会体制の不備──ブラックボックス──の実相を具体的に伝えてくれるのだった。
評者:長薗 安浩『週刊朝日』掲載

■言及

佐々木 公一 20180202 『週刊/ALS患者のひとりごと』410


*作成:北村 健太郎
UP:20180629 REV:
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