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『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』

有薗 真代 20170510 世界思想社,213p.

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last update:20180204

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有薗 真代 20170510 『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』,世界思想社,213p.  ISBN-10:4790716996 ISBN-13:978-4790716990 2800+税  [amazon][kinokuniya] ※ lep

『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』表紙

■内容

「俺たちは被害者だけど、敗北者ではない」――ハンセン病を得た人々が、集団になることではじめてできた活動とは何か。動けない「不自由」な者の「自由」とはどのようなものか。障害を越え、隔離壁を越え、人間の魂を耕し続けた人々の記録。「紀伊國屋じんぶん大賞2018」第7位。
http://k-kinoppy.jp/kinokuniya/jinbuntaisho_2018/

■著者略歴

1977年、鹿児島県に生まれ、大分県中津市で育つ。九州大学文学部卒。京都大学大学院文学研究科(社会学専修)博士後期課程修了。博士(文学)。立命館大学専門研究員、カリフォルニア大学ロサンゼルス校客員研究員などを経て、京都大学大学院文学研究科非常勤講師。著書に、『過去を忘れない――語り継ぐ経験の社会学』(共著:桜井厚・山田富秋・藤井泰編,せりか書房,2008年)、『差異の繋争点――現代の差別を読み解く』(共著:天田城介・村上潔・山本崇記編,ハーベスト社,2012年)、『社会的包摂/排除の人類学――開発・難民・福祉』(共著:内藤直樹・山北輝裕編,昭和堂,2014年)、『新修福岡市史 民俗編2 ひとと人々』(共著:福岡市史編集委員会編,2015年)など。論文に、「物語を生きるということ――『性同一性障害』者の生活史から」(『ソシオロジ』49巻1号,2004年)、「福岡市における歓楽街の形成と変容――柳町から中洲へ」(『市史研究ふくおか』3号,2008年)、「国立ハンセン病療養所における仲間集団の諸実践」(『社会学評論』59巻2号,2008年)、「施設で生きるということ――施設生活者の戦後史からみえるもの」(『世界』887号,2016年)など。

■目次

序章 受難の物語を越えて――集団という問い
1 はじめに
2 ハンセン病をめぐる歴史/社会研究の現況
3 本書の課題
4 集団への着目
5 各章の構成と概要

第1章 動けないこと/動かないことの潜勢力
1 収容所化する近代世界
2 動くことを条件とする「自由」の隘路
3 まやかしの「自由」――横領された解放戦略
4 滞留すること――場に根ざした集団性と潜勢力

第2章 留まる人々の「自由」――文化集団の拠点としての療養所
1 はじめに
2 あおいとり楽団の結成――らい予防法闘争の混乱のなかで
3 手探りの挑戦――瞼の裏に描く楽譜
4 「場」をつくる――あおいとり楽団と療養所の若者たち
5 厚い壁を越えて――療養所の内外での活動
  光田健輔の別の顔
  神谷美恵子とあおいとり楽団
  療養所の外へ

6 おわりに――留まる人々の「自由」

第3章 生活者としての経験の力――暮らしのなかの集団的実践
1 はじめに
2 一九六〇年代以降のハンセン病療養所の状況
3 変化から取り残された人々
4 生活実践の諸相
  雇用を生み出す――酒屋の営業と空き瓶売り
  「希望」を分有する――葉書と賭博
  生活の外縁を拡げる――ビニールハウスの製作と販売

5 報酬の再分配と共同性
6 おわりに――生活者としての経験の力

第4章 底辺から革新する運動――療養所を拠点とする政治的実践の動態
1 はじめに――ハンセン病患者運動の多面性に分け入るために
2 草創期のハンセン病患者運動――自治の模索
3 終戦直後の状況――「五療養所患者同盟」から「全患協」結成へ
4 らい予防法闘争
5 らい予防法闘争後の運動の再構築
6 所得と給付金をめぐる運動
  「全国ハンセン病盲人連合協議会」と年金獲得運動
  全盲連の活動が全患協に与えた影響
  在日朝鮮人・韓国人ハンセン氏病患者同盟」の結成と活動
  三つの運動の繋留点

7 おわりに
  防衛という闘争――合理化に抗して
  底辺からの革新――平等原理を推力とする運動の到達点

終章 隔離壁を砦に
1 病者の生に宿るリズム
2 平等原理と変革
3 隔離壁を砦に――アサイラムからアジールへ


あとがき
文献
写真出所一覧
索引

■関連書籍

 ここでは、社会集団やコミュニティ、生活実践や社会運動という問題意識の一端を共有すると思われる、ハンセン病以外を主題とした書籍を紹介する。

新ヶ江 章友 20130713  『日本の「ゲイ」とエイズ――コミュニティ・国家・アイデンティティ』,青弓社,257p.  ISBN-10: 4787233572 ISBN-13: 978-4787233578 \4000+税  [amazon][kinokuniya] ※
北村 健太郎 20140930 『日本の血友病者の歴史――他者歓待・社会参加・抗議運動』,生活書院,304p.  ISBN-10: 4865000305 ISBN-13: 978-4-86500-030-6 3000+税  [amazon][kinokuniya] ※
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■書評

【書評倶楽部】タレント・麻木久仁子「私たちは何を模索すべきか『ハンセン病療養所を生きる』有薗真代著」『産経新聞』2018年2月3日

■『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』
 国立ハンセン病療養所・長島愛生園(岡山県)には「あおいとり楽団」という楽団があった。結成されたのは1953年。「法という名に値しない」らい予防法の改正をめぐり、壮絶な闘いが繰り広げられた年だった。
 隔離政策の不当性は明らかで、多くの入所者は闘争に参加していた。が、病などで視覚や四肢が不自由なため闘争に思うように参加できない。そんな無力感を抱えた人々が、目が見えなくても、手指が使えなくても演奏できる楽器、ハーモニカで「楽団をやろうじゃないか」と立ち上がったのだ。こうして始まった楽団は、やがて「終生隔離」の療養所の壁を超え、園外での演奏会を実現させる。
 著者はこうした文化的実践活動の他にも、園内で営まれた酒店などの生活実践活動や、当時、年金支給対象から外されていた人々の政治的実践活動に章をたて、「動くこと」「開くこと」のみを自由の原理とせず、「ひとつの場所から動けない(動かない)人々」の営みの中に「生を豊饒化」する実践を見いだし、描いている。
http://www.sankei.com/life/news/180203/lif1802030025-n1.html
 「臨機応変に動き」「自由自在に自己と社会関係を変容させること」を強いられ、あらたな不自由に直面している「21世紀に生きる私たち」は何を模索すべきか。療養所の人々の営みを普遍化することで有効な示唆を与えてくれているのである。
 それにしても実に誠実な本である。先人の研究には深く敬意を持ちつつ、新たな問題意識を丁寧に提示し、十数年にわたり通い続けて聞き取った療養所の人々の言葉を大切に記録している。「社会学という学問はこういうものか」と蒙を啓かれた。人のあり方と社会のあり方を考えるときの「あるべき態度」を学ばせてもらった。多くの人に手に取ってほしい一冊である。(世界思想社・2800円+税)

【プロフィル】麻木久仁子(あさぎ・くにこ)昭和37年、東京都出身。タレントとして幅広く活躍中。書評サイト「HONZ(ホンズ)」メンバー。
http://www.sankei.com/life/news/180203/lif1802030025-n2.html
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■Twitterによる言及

◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959040110963580929
「有薗真代 @masayo_arizono 『教育』(教育科学研究会)2018年2月号で、大東文化大学教授の一盛真先生が、有薗真代『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』を書評してくださいました。ありがとうございます!熱い筆致で拙著について綴ってくださっており、とても嬉しいです。一部を以下に引用します。(続く)」
◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959040715123654657
「有薗真代 @masayo_arizono 1「有薗真代という若い研究者は、谺雄二のような『鬼の顔』で国家を断罪し続けた人々とは異なる人々の生きざまを、その透徹したまなざしで照射することにより、谺雄二と同じ結論に達している。みごとな人間理解である。」
◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959040870291980288
「有薗真代 @masayo_arizono 2『入所者たちは、権力の側から押しつけられた境界線を、自分たちの側から引きなおすこと−隔離壁を砦にすること−を試みたのではないだろうか』『ハンセン病者たちは、近代的な統治権力の極限的形式ともいえる療養所という場のもつ意味を、長い時間をかけて変容させていった。」
◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959041047492882433
「有薗真代 @masayo_arizono 3 かれらは、自分たちの生活状況と身体的状況に根ざしつつ、他者と協働し、平等原理に裏打ちされた多彩な集団的実践を展開することによって、みずからに強いられたきわめて否定的な生存条件を肯定的なものへと転じていった』。」
◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959041287889408002
「有薗真代 @masayo_arizono 4 なぜ、有薗という人はこのような理解にたどりついたのであろうか。社会学者としての確かな分析もさることながら、私は、この人の人間に対する確かな理解が、これまでの『受難の物語』としての研究を乗り越える視座になっていると思う。」
◆2018/02/01 https://twitter.com/masayo_arizono/status/959041549106520064
「有薗真代 @masayo_arizono 5 残念ながら、日本のハンセン病を対象にした教育学研究でこれほどまでに確かな人間観、集団のもつ可能性を語った成果はない。」(『教育』2018年2月号:102-103頁)」

◆2018/01/19 https://twitter.com/masayo_arizono/status/954288206085742592
「有薗真代 @masayo_arizono 『現代思想』1月号(特集:現代思想の総展望2018)の対談「斜めに横断する臨床=思想」で松本卓也さんが、有薗真代『ハンセン病療養所を生きる――隔離壁を砦に』を取り上げてくださいました。中井久夫さんの「世に棲む患者」概念と並べて論じてくださっています。以下に引用します(続く)」
◆2018/01/19 https://twitter.com/masayo_arizono/status/954289042660585472
「有薗真代 @masayo_arizono 1「『現代思想』のエスノグラフィ特集(2017年11月号)にも寄稿されている、ハンセン病の研究をされている有薗真代さんの『ハンセン病療養所を生きる』(世界思想社、2017年)を最近集中的に読んだのですが、非常に啓発的でした。これまでハンセン病の研究というと、」
◆2018/01/19 https://twitter.com/masayo_arizono/status/954289375113756673
「有薗真代 @masayo_arizono 2 ハンセン病文学やハンセン病患者たちの命を懸けた政治闘争、つまり死の臭いのする文学と人生を懸けた革命といった垂直方向のものが注目されてきましたが、有薗さんの研究は、15年間のフィールドワークから、そんな実践ができたのはごく一部の学のあった人たちだけであり、実際にはハンセン病」
◆2018/01/19 https://twitter.com/masayo_arizono/status/954289536246333440
「有薗真代 @masayo_arizono 3 療養所にいた普通の人たちは、自分たちで相撲の賭け事を工夫したり、音楽活動などで楽しみをつくったり仲間と連帯しながら生き抜いていたのだということを示しています。彼らが行っていたのは、生活に直結した、それがないと絶望が支配してしまい生き延びていくことができないような小さな作業です。」
◆2018/01/19 https://twitter.com/masayo_arizono/status/954290037889232896
「有薗真代 @masayo_arizono 4 そして、それこそが「動くこと」を至上命題とする大文字の革命の論理に巻き込まれることのない、「動かない/動けないこと」の潜勢力を担保するのだとされています。ハンセン病の研究においても、このようなコントラストがはっきりと見えるようになってきているのです。」(『現代思想』1月号75頁)」

※随時更新

◆2018/0/0 
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■引用



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*作成:安田 智博 *増補:北村 健太郎
UP:20170525 REV:20180201, 0204
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