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『移植と家族――生体肝移植ドナーのその後』

一宮 茂子 20160323 岩波書店,286+xiii p.

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last update:20160614

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一宮 茂子 20160323 『移植と家族――生体肝移植ドナーのその後』,岩波書店,286+xiii p. ISBN-10:4000611178 ISBN-13:978-4000611176 2900+税 [amazon][kinokuniya]
『移植と家族――生体肝移植ドナーのその後』表紙イメージ

■内容

ドナーになって自分はよかったのだろうか? 移植医療の現場で、ドナーは、どのような気持ちでいるのか。ドナーが自分の行為を肯定できるには何が必要なのか。ドナーたちへの長年の聞き取りから見えてきたものは…。これからの医療を考えるうえで知っておきたい、20年以上にわたる稀有な研究の集大成。

■帯の言葉

これでよかったの、わたし?……ドナーになってもレシピエントになっても、臓器移植の当事者はその問いから逃れられない。最終的にドナーが肯定感を持てるための条件は何か? 医者には見えないドナーの語りに分け入り、20年にわたる現場の知と提言を示す労作。――上野千鶴子氏推薦!

■目次

はじめに――ドナーの意味づけに影響をおよぼす要因はなにか?……………………………………………ⅴ
第1章 生体肝移植のあらまし…………………………………………………………………………………… 1
  1 日本の生体肝移植の歩み 1
  2 生体肝移植の医学的特徴 7
  3 移植コーディネーターの重要性 14
第2章 医療の専門知と当事者の経験知――ナラティヴ・アプローチに依拠して…………………………21
  1 医学的枠組からみた知見 21
  2 社会学的視点からみた知見 25
  3 先行研究からみた本研究の分析モデル――ドナーの意味付与の要因関連図 26
  4 ナラティヴ・アプローチによる方法 33
第3章 対象ドナーの特徴と紹介…………………………………………………………………………………41
  1 対象ドナーの類型と分散 41
  2 類型からえられたドナーの属性と特徴 42
  3 対象ドナーの紹介 45
第4章 なぜドナーになったのか?………………………………………………………………………………51
  1 四つのパターンと自発性/強制性による意思決定と意味づけ 52
  2 ドナーの意思決定過程における関係性の変容 62
  3 カモフラージュされた自発性(事例) 80
  4 定位家族か生殖家族か――愛の優先順位(事例) 87
第5章 ドナーのインフォームド・コンセントの受け止め方…………………………………………………91
  1 インフォームド・コンセントの概念と同意書の内容 92
  2 インフォームド・コンセントの実際 94
  3 ドナーの理解の程度と印象に残った説明内容 98
  4 インフォームド・コンセントによる関係性の変容 105
  5 “賭け”としての生体肝移植(事例) 112
  6 専門的なことは“おまかせ”(事例) 114
第6章 移植後の回復状態の意味付け……………………………………………………………………………121
  1 ドナーの回復状態がもたらしたこと 122
  2 レシピエントの回復状態がもたらしたこと 132
  3 すべてやりきった結果としての達成感・満足感(事例) 138
  4 診療所の医師からえたドナーとしての評価(事例) 139
  5 ドナーとレシピエントの回復状態がもたらした関係性の変容 140
第7章 ドナーはどのような支援を必要としているのか?……………………………………………………161
  1 医療的支援 164
  2 心理的支援 165
  3 人的支援 175
  4 経済的支援 182
  5 社会的支援 187
第8章 医療的支援によるフォロー体制の実態と重要性………………………………………………………193
  1 医療的フォロー体制の実態 194
  2 地元の医療機関とA病院の連携体制 203
  3 理想的な連携によるフォロー体制の実態(事例) 204
  4 生体肝移植後、終末期の医療的フォロー体制の重要性(事例) 208
  5 10年にわたる合併症治療と新たな病気――家族の代弁の効果(事例) 211
  6 医療的フォロー体制がもたらした関係性の変容 214
第9章 ドナーと関与者の関係性は、どのように変容したのか?……………………………………………221
  1 ドナーと専門職との関係性の変容 221
  2 ドナーと非専門職との関係性の変容 227
  3 ドナー夫婦の考え方の相違(事例) 235
  4 借財による家族の関係性の変容(事例) 242
  5 インタビュアーとドナーとの関係性の変容 245
第10章 仮説の検証――ドナーの意味づけをわかつ四つのパターン………………………………………249
  1 レシピエントが生きているとき 250
  2 レシピエントが亡くなったとき 252
  3 レシピエントが生きていても問題が残ったとき 253
  4 レシピエントが亡くなっても、自己納得できたとき 255
おわりに………………………………………………………………………………………………………………257
  1 時間軸からみたドナーの意味づけの要因 258
  2 提 言 266
あとがき 271
用語の定義 276
参考文献

■引用


■書評・紹介

茶園敏美(京都大学アジア研究教育ユニット研究員)
「まるで群像劇を観ているような学術研究書」20160409(https://wan.or.jp/article/show/6606,20160420確認)

まるで群像劇を観ているような学術研究書にであった。 本書は学術研究書でありながら、著者が国立大学病院の看護師長として働いていたときにかかわった生体肝移植をテーマに、ドナー(臓器提供者)とレシピエント(臓器受容者)、そしてふたりをとりまく家族の物語でもある。
著者は20年にもおよぶ丹念な聞き取り調査をおこなって、徹底的な帰納法分析であらゆる角度から受け取った語りを分析していく。最終的に出版として公表を了承していただけた17家族が本書に登場する。本書が圧巻なのは、レシピエントの方々のみならず、ドナーの方々のドナーとしての葛藤や移植後の回復における心理状態にもアプローチしていることにある。
わたし自身強く印象にのこったドナーがいる。この方は、他から暗黙の圧力を受けたうえで余儀なくドナーになった。その決断には、ドナーとして適合しているかといった医学的条件のみならず、ジェンダー規範、家族規範も複合的に影響していた。著者は、このドナーについて大きな負担を担ってドナー役割を果たしたにもかかわらず、レシピエントや家族から労いや励ましの言葉かけがなかったことに気づく。「医療者や家族の関心はレシピエントに向けられていることが多かったため、ドナーの意味づけが得られない状態であった」と著者は分析している。著者の、このドナーに対する分析はここでおしまいではない。
著者は、あるエピソードを紹介している。風邪気味でこのドナーが地元の診療所にかかったときのことだ。ドナーの既往症があることを話しすると、その診療所では順番まちをしているどの患者よりも先に診療がうけられる状態にしてくれたという。診察室では医師がたちあがって「ご苦労さまでした」と敬意を表す態度とねぎらいのことばをかけてくれた。さらに別の診療所の医師も、このときと同様の対応をしてくれた。このエピソードを読んだとき、わたしは目頭が熱くなった。
だが著者は、冷静に分析することを忘れない。二人の医師による同様の敬意ある態度と労いのことばによってこのドナーは、否定的なドナーの意味づけが時間の経過とともに経験の再定義がおこなわれ、移植とはまったく関係ない医師と出会うことによって肯定的な意味づけがえられたのだと。
本書は、立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出された博士論文「生体肝移植ドナーの意味付与-肯定感と否定感を分かつもの」を加筆修正したもので、生体肝移植についての医学的な側面も網羅している。しかも、わたしのような門外漢でもわかりやすいことばで丁寧に説明されている。医療とは、最終的に患者と家族の幸福のために奉仕するものだ、というメッセージで本書は結ばれている。著者を知る者としては、本書は、著者の人柄(周りに対する心配り、気遣い等)と情熱そのものが活字になった学術研究書である。

■言及



*作成:中倉 智徳
UP:20160329 REV:20160424, 0426, 0614
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