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『長考力――1000手先を読む技術』

佐藤 康光 20151130 幻冬舎(幻冬舎新書399),197p.

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last update:20160311

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■佐藤 康光 20151130 『長考力――1000手先を読む技術』,幻冬舎(幻冬舎新書399),197p.  ISBN-10: 4344984005 ISBN-13: 978-4344984004 780+税  [amazon][kinokuniya] l10

■内容

将棋の名人戦は一局に2日間を要し、最大で7局にわたる、長時間の戦いである。一局当たりのそれぞれの持ち時間は9時間。 その間、「没我」の世界に入り、ひたすら盤面を読み、相手の動きを予測し、無数の選択肢のなかから最善の一手を指し続ける。 一流棋士はなぜ、それほどの長時間にわたって集中力を保ち、深く思考し続けることができるのか。そして、直感力や判断力の源となる「大局観」とは何か。 タイトル獲得通算13期を誇り、「緻密流」とも称される異端の棋士が初めて記す、「深く読む」極意。

■著者略歴

1969年10月1日生まれ、京都府八幡市出身。将棋棋士九段。日本将棋連盟棋士会会長。永世棋聖資格保持者。 深い読みに定評があり、「一秒間に1億と3手読む」と形容され、「緻密流」と評される。 1993年、第六期竜王戦で羽生善治五冠(当時)から初のタイトル獲得を果たす。1998年、第五六期名人戦で谷川浩司名人を破って初の名人位獲得、九段昇段。 2002年、第七三期棋聖戦で郷田真隆棋聖から棋聖を奪取して、初めて二冠(棋聖・王将)となる。2006年、棋聖位通算五期を達成し、永世棋聖の資格を得る。 同年、将棋大賞の最優秀棋士賞と升田幸三賞をダブル受賞。タイトル獲得通算13期、棋戦優勝11回。

■目次

まえがき
第1章 先を読む力
第2章 先入観と大局観
第3章 棋士の人生
第4章 盤外戦術とライバル
第5章 創造派と修正派
第6章 研究会とコンピュータ
あとがき

■引用


あとがき

 できることならその日、その一瞬に戻って人生をやり直したい――誰にでもそんな一日があるだろう。
 意外に思われるかもしれないが、将棋については「やり直したい一局」「指し直したい手」は一つもない。 多少の後悔はあるが負けも実力、悪手も実力と思って、全力で挑んだ結果なのでやむを得ないと考えている。
 私がやり直したい一日は、2011年3月11日だ。(p.191)

 このときのことを思い返すと、本当に恥ずかしくなる。棋士会会長うんぬんではなく一人の人間として、異常を察知して行動を変えられなかったことを恥じ入るばかりだ。 こうした判断の遅れで、命を落とすことだってあるだろうし、誰かを救えないことだってあるだろう。(p.192)

 では、将棋はどうなのか。将棋で飢えをしのぐことはできないし、人の命を救うことはできない。それはわかっている。しかし、まったく無力なものなのだろうか。
 あるとき、NHKさんの企画で福島県二本松市の仮設住宅で将棋イベントを開催した。仮説住宅のイベントは女性のほうが参加率が高く、 中高年の男性は遠慮がちであまり出てこられないということもあって、この将棋イベントは男性の参加率が高く歓迎されたようだ。
 イベント前半の講座が終わり、集まってくださった20人ほどの参加者との指導対局が始まった。 私は普段から指導対局ではあまり手加減はせず、相手が持っている技術を100パーセント出してもらうように心を配ることにしている。
 将棋の場合は「駒落ち」といって、実力差に応じて上位者が飛車と角を外して戦う「二枚落ち」、 飛・角・桂・香を落とす「六枚落ち」などのハンディキャップ(手合い)をつけて指導を行うのだが、 そのときも手合いはさまざまだったが皆さん楽しみながらも真剣に指されていた。>196>
 そのなかで一人、六枚落ちの手合いで指した初老の男性がいた。非常にうまく指されて私は完敗した。 その男性は顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに「これでいつ死んでもいい」とおっしゃった。話を伺うと、数週間後に大きな手術を受けられるのだという。
 一般の方は、将棋で勝っても生活の役には立たない。どんなに強くても、実社会で有利に生きられるわけではない。 それでも、一局の将棋で「死んでもいい」と言ってもらえる。将棋にはこんな力があったのかと、目を開かされた思いがした。(pp.195-196)

 この先、たとえコンピュータがどれほど強くなったとしても、人と人の指す将棋の力が>197>減じることはない。 二本松の仮設住宅で、私はそう信じることができた。(pp.196-197)
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■関連書籍

◆大崎 善生 20000200 『聖の青春』,講談社 = 20020515 『聖の青春』,講談社(講談社文庫),419p.  ISBN-10: 4062734249 ISBN-13: 978-4062734240 \648+税  [amazon][kinokuniya]

■書評・紹介

■言及



*作成:北村 健太郎
UP:20160311 REV:
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