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『末期を超えて――ALSとすべての難病にかかわる人たちへ』
川口 有美子 20141222 青土社,250p.
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last update:20150323
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川口 有美子
20141222 『末期を超えて――ALSとすべての難病にかかわる人たちへ』,青土社,250p. ISBN-10: 4791768388 ISBN-13: 978-4791768387 2000+
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[kinokuniya]
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出版社/著者からの内容紹介
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著者情報
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目次
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序文
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初出
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サンプル
第1章
第2章
第3章
第5章
◆
書評・紹介
■出版社/著者からの内容紹介
大丈夫、生きられます。
「寝たきり」の過酷さや絶望とともに語られてきた難病ALS。
しかしそこには、死やあきらめから遠く離れて、
日々の生を紡ぐローカルなケアの歴史と、人類の未来への叡智がある。
ALSの母親の介護を経て支援者として活動をつづける著者が重ねた、
さまざまな立場で「生」を実践・支援する人びととの対話。
難病を発症してしまった人、その家族や友人へ。
そしてALSや難病をまったく知らない人にも、生き方や人生の選択に役立つ手引きとして。
■著者情報
著者の川口有美子さんは1962年生まれ。日本ALS協会理事、立命館大学大学院先端総合学術研究科在籍中。実母がALSに罹患しのたは1995年。12年の闘病を経て、2007年9月12日に死去。
■目次
はじめに
1 在宅人工呼吸療法の黎明期を生きた男の遺言
長岡紘司(当事者)+川口有美子
挑戦 筆者との関係
死の安楽について――長岡紘司
カニューレバルーンと吸引
褥瘡の痛み
永眠
前略 ALS殿――長岡紘司
2 在宅人工呼吸療法の繁忙期を生きる女たちの証言
橋本みさお(当事者)+川口有美子
究極のロールモデルとして
安楽死に抗して
科学技術を味方につける
自己を極める自由
動けないことに問題はない
苦境を生きる責務
まだ死ぬわけにはいかない
3 支援者になっていく
岡本晃明(支援者)+川口有美子
ALSに出会うまで
報道記者から支援者へ――ベアさんとの出会い
支援プロジェクトの開始――甲谷さんとの出会い
人を惹きつける言葉
場をつくること
運動がもつ、「スター」をつくる暴力性
患者の匿名性、自治体の守秘義務
情報の透明性
グレーゾーン
4 生きのびるための、女子会
大野更紗(当事者)+川口有美子
密着から「蘭の花」へ
「終末期」のイメージとリアル
誰のための尊厳死法か
信頼と生活ベースの医療のために
5 QOLと緩和ケアの奪還
中島孝(医師)+川口有美子
QOL/SOL――測るもの/測れないものについて
緩和ケア――「延命治療か尊厳死か」のリフレームへの道――難病ケアは緩和ケアか
さくらモデル――当事者が雇い、育て、ビジネスする
ドイツ医学――現代医学のパラダイム
尊厳死――反リビング・ウイル/事前指示書への戦略
サイボーグ患者論――ユーフェニクスの誘惑とパリエーションとしての機械
スピリチュアル・ケア――存在への眼差し
6 難病ケアの系譜
川村佐和子(看護師)+川口有美子
無医地区
セツルメント
保健所/保健師
スモンの会
『スモンの広場』
「難病」の誕生 患者の福祉/患者会の連携
保健社会学の創生 ケア・マネージ
「見守り」という看護・介護 効率性の向上
ケアの郷土性
7 「正しい」で世の中が変わらないときに、何が有効か?
佐渡島庸平(編集者)+川口有美子
『宇宙兄弟』とALS
作品と言葉で世の中を動かす
患者会・NPO団体にビジネス視点を取り入れるには
人に助けてと言えること
目的を定めるために
おわりに
■序文
はじめに
難病を患っても何とかなる。自分らしく生きていける。とは言っても、その方法を発病前から知っていたという人は極めて少ない。遺伝性疾患を除けば、ほとんどの人にとって難病とは、見たことも聞いたこともない未知の病の総称である。
たとえば、神経筋疾患のALS(筋委縮性側索硬化症)は、全身が徐々に麻痺していき、数年のうちには呼吸まで止まる。気管切開して呼吸器をつければ長く生きられるが、寝たきりなどイヤ、長生きは家族の重荷になるということで、呼吸器をつけず亡くなる者は全体の七割にもなる。いったい、このような病気を抱えてどうやったら暮らしていけるのか。先が見えないから絶望してしまうのである。
しかし、もし自宅で療養でき、しかも公費で献身的な介護を受けられるので、家族にさほどの負担はかけないということであればどうだろう。患者の中には海外旅行しながら仕事を続けている者、市町村議会に立候補した者、出産し子育て中の者、マンションで単身独居する者もいる。ALSを発症しても何とかなる。しかも自分らしく生きられる、ということを知れば恐怖は半減し、闘病する勇気が湧いてくるかもしれない。
でも、そのようなノウハウは世間一般には知られていない。病院のソーシャルワーカーも退院後は支援しないのが普通であるし、好事例になりそうな患者がいても、例外か守秘義務があるということで気軽には紹介できないことになっている。でも患者にはお手本は必要だ。真似のできそうな同病者は必ずどこかにいるはずだから。
本書は難病をテーマにしたインタビュー・対談集であり、未来の希望につながる内容である(いくつかは『現代思想』誌上に掲載していただいたものの再録)。
ざっと本書の構成を説明しておくと、大きく分けて三部構成ということになろう。 最初の大きな話としては、自立(自立支援)がテーマである。
第1章から第3章にかけて、ALS患者二人と新聞記者が年代順に登場する。最初に登場する長岡紘司(ながおか・こうじ)は人工呼吸器をつけて自宅に戻るという偉業を成し遂げた七〇年代発症の患者で、介護のノウハウも制度もない中、家族ともども手探りで在宅人工呼吸療法を始めて二八年を生きた(第1章)。次に九〇年代に気管切開、人工呼吸器装着となった橋本操が登場するが、橋本は長岡をはじめとする先人の体験に加えて、障害者団体や大学の研究機関にも付き合いを広げ支援者を集めて「できること」を拡大し、呼吸器ユーザーの可能性を飛躍的に向上させた(第2章)。そして、そのような橋本の生き方を知った京都新聞の記者、岡本晃明は不慮の死を遂げた男性患者のリベンジという動機もあって、橋本をロールモデル(手本)とした「さくらモデル」(第2章、第3章、第5章)を京都に紹介し、それが元で京都市内でALS単身独居者、甲谷匡賛(こうたに・まさあき)の支援が始まり、ほかの患者にも自薦ヘルパーの利用が広まっていった(第3章)。
この一連の話の流れで、難病患者にとって有用な情報は、患者から患者へ連綿と渡されていくうちに、その質量は増しブラッシュアップされていく様がわかる。たとえ難病を発症しても豊かな人生を生きていく術があることと支援者が果たすべき役割について、ここで知ることができる。
次のひとまとまりの話(第4章から第6章)では、難病概念と難病医療がテーマになる。原因不明で画期的治療薬もなく、治せないから難病と言うのであるが、健康とは何かを問い直すことから、元気な療養生活が始まるらしい。
難病患者でありながらベストセラー作家であり、しかも大学院生として多忙な日々を送る大野更紗との対談「生きのびるための、女子会」(第4章)と、特定疾患のQOL(生活の質)に関する研究に長年専念してきた新潟病院副院長の中島孝へのインタビュー「QOLと緩和ケアの奪還」(第5章)は、QOLや人間の尊厳について考えるきっかけになるだろう。
大野とはこれまで幾度も様々な場所と媒体で対談をしている。発症前の大野は難民を支援する側にいて、ミャンマーでフィールドワークをしていた最中に原因不明の高熱に悩まされて発症。自らも「困っ てるひと」となってからは難病のフィールドワーカーとして絶賛生存中(彼女流に言うと)である。三〇代になったばかりの大野の活躍を私は期待と祈りをこめて見つめているのだが、大野は私のことを「冥王星人」と呼び、「ユミコ・カワグチ」と片仮名で記す。たぶん呼吸器をつけている人のそばにいる私も「うちゅうじん」(未知なる生物)ということなのかもしれない。文末に(笑)マークを付けたいところだが、ALSの現実は真に過酷である。
主治医の神経内科医から「人工呼吸器はつけない」と(半ば強制的に)あらかじめ一筆書き置くことが推奨されるような事もあり、苦痛を緩和するという理由で早期からオピオイド等の薬物投与が始まり、緩慢に死に誘われてしまった人もいる(安楽死と紙一重であろう)。そんな過激な事前指示書の作成や誤った緩和ケアが各地で広がっていくことに強い危機感を覚え、当時厚労省の難病QOL研究班班長であった中島孝との緊急対談企画を『現代思想』の栗原一樹編集者(現編集長)に持ち込んだのは二〇〇八年のことだった。
現在(二〇一四年一二月)の中島は山海嘉之率いるサイバーダイン株式会社が開発しHAL(Hybrid AssistiveLimb)身体機能を改善・補助・拡張することができる、世界初のサイボーグ型ロボット)を難病治療に応用する研究班を組織して成果を挙げている。たぶん治療薬が開発されるまでは、サイバニクスが難病患者に多くの希望を与えることだろう。現政権がもっとも力を入れている研究分野のひとつである(注: サイバニクスとは山海が提唱している新しい学問領域で、「人」と「機械(RT:ロボット技術)」と「情報系(IT: 情報技術)」の機能的・有機的・社会的融合複合技術の確立を強力に推進し、サイバネティクス、メカトロニクス、情報技術を中核として、IT技術、ロボット工学、脳・神経科学、生理学、行動科学、心理学、法学、倫理学、感性学を融合複合した新しい研究領域を指す)。
もとより神経疾患の人は必要に応じて胃ろうも人工呼吸器も身体に埋め込んできた。延命治療としばしば混同されてしまうこれらの治療もサイバニクスに似たものと言えるのではないか。胃ろうや呼吸器 をつけてメキメキ回復する患者をたくさん見てきたので、人間は優位に機械と繋がって生きていけるこ とに疑いはない。一指も動かさず、ただイメージするだけで同時にパソコン画面に文字を打ち出す技術などは、まるで魔法かSF映画を見ているようである。
考えようによれば、装着した機械を自在に使いこなせれば、治癒しなくても生きていけるのだから、人類は本格的に機械を身体に取り込む方向に進むと考えてもおかしくない。現に神経疾患の人工呼吸器の選択は、生存本能に従えば当然の流れともいえるのである。だがここでの最大の難問は、機械と一体化したハイブリッドな人間(患者)とフツウの人間社会との関係である。たとえどんなに有能な機械を取り付けたとしても、生活が成り立たなければ機械は取り外されることになる(装着している人も死ぬ)。残念ながらこれは世界的に「治療停止」という名目で行われていて、特にALSなどでは本人の同意で取り外せる(自死できる)という大ざっぱな医療倫理がまかり通る(ただし日本では”とりあえず”違法)。このような事態が生じる医療現場では、身体につけた機械の調整は行われても、機械をつけた身体の心や生活上の問題については、ほとんど考えてもみなかったのだが、これからの医療は患者の評価を取り入れていくと言うことなので、ハイブリッドな人間たちが市民権を得る日もそう遠くはないことと思われる。
話を戻すついでに時代も巻き戻すと、「難病ケアの系譜」(第6章)で話をうかがっている川村佐和子は難病の看護学を率いてきた研究者ではあるものの、アクティビストとしての経歴も持つ。難病対策はスモンの原因究明から始まったが、 このインタビューでは若かりし頃の川村をはじめ、医師らの奮闘が ドラマチックに語られている。
対談を申し入れるまでもなく、川村からはこれまでも研究のことから非営利活動のことまで、多くのアドバイスをいただいてきた。たとえば厚労省に難病患者の要望を伝えるためには研究して根拠を示すことが重要であるとか、当事者が望むサービスを全国に広めるためには制度化しなければならず、公的機関である保健所保健師を動かすことが重要であると言ったことだ。二〇〇二年頃からヘルパーに吸引等の医療的なケアを求める難病患者の運動が過熱し、法制化には約一〇年かかった。その間、患者会と職能団体が対立する場面もあったが、当時ALS協会会長であった橋本は川村を頼りにして、何度か練馬のマンションに招いて相談したりした。
最後は医療や介護からは離れた話になり、私の憂鬱の種でもある非営利組織の経営と社会的アクションの在り方について佐渡島庸平の意見を聞いた(第7章)。佐渡島は講談社の編集者を経てクリエーターを支援する株式会社コルクを設立、ヒット漫画を次々に誕生させてきたが、出会いは二〇一三年での対談であった。漫画『宇宙兄弟』の主要人物、シャロンがALSを発症したことを知り、私から対談を申し込んだのであった。シャロンを死なせないで!という患者家族の願いを佐渡島に伝えたところ、『宇宙兄弟』原作者で漫画家の小山宙哉とALS当事者の橋本・岡部の座談会が実現した。しばらくすると二人そっくりのALSキャラクターが週刊『モーニング』の連載に登場し、いつもの調子でシャロンを励ましているではないか。以来『宇宙兄弟』から目が離せない。
欧米の患者会はファンドレイジングを第一の仕事として、病気の啓発事業をプロモートするなど、患者会も企業化していく時代である。難病業界にもグローバリズムの波が押し寄せている。日本も後れを取らないよう、患者会も事業部門の設置など再組織化していかなければならない。佐渡島は「正しさ」を主張するだけではダメで、ビジネスセンスが必要という。非営利組織の舵取りに「業界を元気にするのが仕事」と言う佐渡島のアドバイスは厳しくも頼もしい。しかし、ほとんどの患者会運営は古来から当事者やボランティアの手弁当だ。寄付は集めるが積極的ではない。むしろ丁寧で心の籠った戸別訪問や、患者のニーズを捉えた政策提言は当事者だからこそできる活動という自負がある。ビジネスセンスを求められるファンドレイジングとの両立ははっきり言って難しい。さてどうしたものか。
来年二〇一五年一月の難病新法施行に合わせて、患者も患者会も自立を目指し、支援の輪を一般市民に広げていきたい。日本の難病患者にとっては、新しくも厳しい時代が訪れようとしているが、本書は難病の関係者ではない人にもお勧めする。難病を発症する前から知っていて欲しい、極めて重要な事をこの本は網羅している。大野更紗との話を除くほとんどはALSの内容であるから、対談の傾向が一疾患に偏っていると言えばそれはそうだが、身体障害が重度なために身の回りのことが自分だけではできなくなり、働けなくなり、家族の介護負担が重く、コミュニケーション障害も重症で、いわゆる世間的な意味合いでの「自立」がかなり厳しくなってしまう病気には、ここに書かれているのと同じ考え方と同じ制度が使える。また、就労や教育などの分野において悩みを抱える難病患者や、自分でなくても身近に難病の人がいて、何とか助けたいと思っている人にもきっと役立つだろう。もっともここには「都市部」の「優等生」ばかりが登場しているから、条件が厳しい過疎地や離島、老々介護、ALS以外の希少疾患には参考にならないという声も聞こえてきそうだ。確かに現実には厳しいバリエーションがあり、一人が達成したからと言って誰もが真似できるものではないが、まずはできる人が前例となって可能性を示すことが大事なのである。そうすれば、それを下敷きにして、より厳しい条件下でのロールモデルを作っていける。そして、何事においても共通するのであろうが、ロールモデルとは本人の強い意思は当然のこととして、周辺の人たちが本人の要求を無視せず、諦めさせず、自らも傾聴に留まらずに余分な一歩を踏み出したり、あるいは引き下がったりして達成されている。本人と一緒にただ困っているだけでは何も改善しないし、面白いことは始まらない。
そういった意味合いにおいて、本書は難病支援のロールモデルのバリエーションをいくつか紹介したものである。
■初出(本書収録にあたり、大幅に加筆修正を施した)
1 「生きよ。生きよ。 在宅人工呼吸療法の黎明期を生きた男の遺言」『現代思想』二〇一二年六月号、青土社
2 録り下ろし
3 録り下ろし
4 「生きのびるための、女子会」『現代思想』二〇一二年六月号、青土社
5 「QOLと緩和ケアの奪還 医療カタストロフィ下の知的戦略」『現代思想』二〇〇八年二月号、青土社
6 「難病ケアの系譜 スモンから在宅人工呼吸療法まで」『現代思想』二〇〇八年三月号、青土社
7 録り下ろし
■サンプル
第1章
前略 ALS殿 長岡紘司
…
これからも、この忌まわしい病に罹患する人もいるだろう。補吸機をつけずに亡くなる方々が七割になるという、治療薬ない故の数字としてやむを得ないが、死んだ患者はどんな名医も治せないのだ。しつこいようだが、私が生きているのは、我妻のおかげである。人間と言うものはどのような仕事でも絶対的な愛は不可欠なものではない。そこには義理とか体裁とか人の情けが絡んでくる。だからこそ、新しいALS罹患者に生き続けよとは言えないのだ。だがALSに対しての看護は、医学書に載せられ二〇〇年もするのに間違いばかり。
これまで書いたことは、医学書をかじっただけの患者の声だが、難病に対する真実の声なのだ。
いつの日かわが命尽きるとも必ずや正しい看護を患者が伝えてくれると信じる。一〇万人に三人の発症率は決して低いものではない。
不幸にして罹患した者よ。敢えて言う。
生きなさい そして 周りの者達を正しなさい。愛はなくとも人の心があれば良いのです。そして自分は自分の心を持ちなさい。そして如何に辛くとも治ることを信じて生きなさい。
生きよ。生きよ。
第2章
自己を極める自由
…
川口 みさおさんは難病患者ALSの未来を飛躍的に明るくしました。世界的に、ALSは生きている価値などないように言われてますし、呼吸器なんてつけようものなら、臨終を思い浮かべるのがふつうの人です。でも、橋本さんは二〇年以上機械をつけて平然としている。オランダやベルギーでは安楽死が法制化され、多くのALS患者が自死を選んでいる。司法に訴えて死ぬために法律を作らせた患者もいますが、じゃあ、その人たちがみさおさんみたいに「自由」を謳歌できる療養環境だったならどうだっただろう。
普通に自宅で生活して、旅や買い物やコンサート巡りなんかで死ぬことも忘れてしまうくらい忙しかったとしたら……。介護というか、人手さえあれば最期まで自宅で生きられるし。死を考える暇はないと思うんだけど、どうですか。
橋本 川口の言い方だと私が遊び呆けているような印象を持たれてしまう! 放蕩息子のような感じを受けますけど……すべては否定できませんが自由の軸がずれています。外に向かうことを自由と考える人はいますが、中に向かい自己を極める自由もあります。
現在はSMAPのDVDも見えないほど眼瞼下垂が進んでいますが、見えないものは見なくてもけっこう生活はできます。
日本が重症患者の自由を許していないという点では少し反論が有ります。日本ではなく、日本の患者に問題は無いのでしょうか? 日本の患者は低い税の割に高福祉を受けています。日本では自分に強い意思が有れば自由も保証されています。反対に福祉先進国と言われる国の友人は、生命は保証されていますが、贅沢は厳禁です。日本で国際会議が開かれた時も、彼は国内の協会から海外渡航は贅沢だとみなされて実現できませんでした。…
第3章
支援プロジェクトの開始│甲谷さんとの出会い
…
岡本 その年の秋に、川口さんに京都で「独居モデル」をしたいと相談したと思います。二〇〇六年に横浜でALSの大きな会合があって、その横で「甲谷匡賛作品展 A │ LSD!│ALSの病床におけるHIGHな出来事」(横浜美術館)という展覧会をやっていて、すぐにピンと来て。京都で長期入院中だった甲谷さんに、川口さんたちさくら会が始めた家族介護に依らず友だちを公的ヘルパーにして二十四時間他人介護で暮らす「さくらモデル」を説明し、「独居しようよ」と私が持ちかけました。甲谷さんや周囲の人に初めてお会いしたとき、面白いことが起こる予感にゾクゾクしました。痰やむせかえりもひどくなっていて、人工呼吸器をつけるかつけないかが深刻な時期でしたが、とりあえず「病院を出て町家で暮らそう、川口さん呼ぶから」と盛り上がった(笑)。
川口 当時、甲谷さんは看護師を呼んでも滅多に来てくれないような病棟に入院していて、病院だけど友人たちが付き添いでローテーションを組んで見守りをしていました。最初に出会ったご友人、舞台プロデューサーの志賀玲子さんを私は奥さんと間違えました。で、志賀さんに「病院から出してあげたいんですが、介護は家族でなくてもいいんですか?」と聞かれて、「もちろんです」と言ったら、志賀さん目がキラッと輝いて「じゃあ、私たちで介護やります(二十四時間介護)」ときっぱりおっしゃって。
舞踏家の由良部正美さんには数日後にお会いしましたが、甲谷さんを見つめる眼差しがホント優しくて、この方は甲谷さんの本質を見つめていらっしゃるから、関係は変わらないなって。これは行けるって思いました。
岡本 川口さんと甲谷さんの初対面の様子はとても印象深いです。川口さんの言葉は、人工呼吸器を装着する/しないという生死の深刻な二者択一の問題を、軽々と乗り越えた。「生きる/死ぬ」を先送りにしているわけではなくて、議論をずらしてしまうというか。「家族はひとつもケアしないで、患者自身が社長になって、素人をヘルパーに育成するの。東京ではそうやって暮らす人が出てきている。関西では誰もやっていない。一緒に風穴を開けようよ」とおっしゃった。甲谷さんはALSで声を失っていたけれど、瞳で透明文字盤から一文字ずつひらがなを選んで「ぎやらりーがほしいかふえがしたいにしじんがよい」と。
川口 甲谷さんはベアさんとは全然違うタイプの患者さん。ベアさんは自立を目指していたけど、甲谷さんは最初から他人の支援を前提にどう暮らすかを考えていましたし、実際に志賀さんと由良部さんがいましたから、「甲谷さんは独居で暮らせますよ」と太鼓判を押しました。
岡本 私は、あのとき川口さんは本当に無責任やなぁと思ったけど(笑)。「社長モデル」でいけるよ!なんて、無責任の極みやと思った(笑)。
第5章
サイボーグ患者論│ユーフェニクスの誘惑とパリエーションとしての機械
…
中島 ところで、『日本ロボット戦争記』という本にも書かれていますが、昔から、人型ロボットほど軍事的に注目されたものはありません。山海嘉之教授のところには当然ながら海外の軍からオファーが来ていますが、彼はそれを断って、私たちの研究班でも活躍されています。
人工呼吸器という機械と人間が融合して生きるということは、ALSの患者さんたちはみんなずっと前からやっていることです。私たちは以前からロボット研究をしていたということになります。今はALS患者さんには非侵襲換気療法(NPPV)があり、早期から自分に陽圧換気療法が合うかどうかを試し、付けたり外したりする中で、慣らして、生理的効果も実感してもらってから次に進むという方法が確立したのですが、以前は呼吸不全で死ぬ寸前になって呼吸器と「融合」させるというような荒技をしていました。今から思うと大変すみませんでしたと言いたくなります。でもこの話が神話化してしまい、現在一人歩きしている。
川口 現在の日本では呼吸器付けたら外せませんからね。だから、呼吸器開始には相当の覚悟が必要だとすると、今度は「眼鏡」みたいに自由に外せるなら、付けやすくなるだろうと言う人もいます。でも自己決定で外せるアメリカでは、呼吸器装着者のうち三割が後で外してしまうそうですが、その理由はわからない。ケアが悪くて絶望して呼吸器を外す、つまり周囲が自殺に追い込む、なんてことにならないためには、やっぱり人体と機械のハイブリッド、融合しかない。…
■ 書評・紹介
*作成:
橋口 昌治
UP: 20150106 REV: 20150115, 0121, 0203, 0323
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ALS(筋萎縮性側索硬化症)
◇
川口 有美子
◇
病者障害者運動史研究
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身体×世界:関連書籍 2005-
◇
BOOK
TOP
HOME (http://www.arsvi.com)
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