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『医学者は公害問題で何をしてきたのか』

津田 敏秀 20140516 岩波書店,344p.

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last update:20180516

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■津田 敏秀 20140516 『医学者は公害問題で何をしてきたのか』,岩波書店,344p. ISBN-10:4006003110 ISBN-13:9784006003111 1300+ [amazon][kinokuniya] ※ m34

『医学者は公害問題で何をしてきたのか』表紙

■内容

[amazon]より

内容紹介
「原因物質が究明されないかぎり因果関係があるとは言えない」。水俣病など公害事件や薬害事件において無数の被害者を、学者はデータに基づかない非科学的な論理で切り捨ててきた。多額の研究費の支給を受けた学者の発言や行動とそれを生んだ学界構造と官僚機構を、多数の資料や記録をもとに検証した単行本に、その後の情報も加えた改訂版.

内容(「BOOK」データベースより)
「原因物質が究明されないかぎり因果関係があるとは言えない」。水俣病など公害事件や薬害事件において無数の被害者を、学者はデータに基づかない非科学的な論理で切り捨ててきた。多額の研究費の支給を受けた学者の発言や行動とそれを生んだ学界構造と官僚機構を、多数の資料や記録をもとに検証した単行本に、その後の情報も加えた改訂版。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
津田/敏秀
1958年生まれ。岡山大学医学部医学研究科修了。医師・医学博士。現在、岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学、食品保健、産業保健を専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

1 疫学とはどういう学問か
2 疫学から考える水俣病―なぜ悲劇は拡大したのか(食中毒事件処理をせず;認定問題と昭和五二年判断条件;昭和六〇年医学専門家会議;平成三年中公審答申と和解;国の代弁をする学者による学説を検証する;繰り返される悲劇)
3 必要な制度の見直し(政策と学者;学者製造機構としての医局;学者と官僚;ささやかな対策)

■引用

 「要するに科学的根拠や理屈の話ではないのである。医学者先生たちは、これらのことが判明したあとは沈黙を守り通した。井形昭弘氏は、水俣病問題のおかげで医道審議会会長まで登り詰め、水俣病関西訴訟控訴審での偽証に関して告発され一年で退いたものの、功成り名を遂げ、ニ〇〇九年の六月から七月にかけて、読売新聞の『時代の証言者』に「医の心」と題し、三五回にわたって話っている。しかしそこには井形氏をのし上げてくれ巨額の公的研究費をもたらそてくれた水俣病事件に関する語りは一切ない。
 井形氏が水俣病で用いた医学の話は、基礎的な知識があれば簡単に反論でき、笑い話になるものばかりである。やっていることは残虐でもかわいらしさすら感じる「医学者先生」の滑稽な振る舞いと主張や、学会発表もしない彼らの医学的誤りを分析し指摘してあげる人は誰もいなかったのである。こういう医学者たちによってニ〇世紀後半、日本では被害が拡大し、裁判の山が築かれてきた。彼らは、研究者としての能力に欠ける一方プライドはめっぽう高いので、「私は分かりません」と正直に言うこともできずに都合が悪い二転して沈黙を守る。医師や研究者として自己を発揮できず、このような手段でしか社会でのし上がれない哀れな先生方である。△330
 本書に収録した先生が「津田光生は、あんな本(本書のこと)を書いて私を批判するが、教授の命令であれば助教授は言うことを聞かないといけないというのは、医学者出身の津田教授ならよくご存じのはずだ」と言っておられたとか、あるいは本書には収録していないが国の委員を喜々として務めておられ、論文盗作まがいのことまでされた別の医学者先生からは「津田くんらは、論文書いているから良いが、私がのし上がるには、こうするしかなかった」というやや悲しい告白も伝え聞いている。本来、私たちは「のし上がる」ために論文を書いているのではないし、ある個人が「のし上がるため」に研究者という職業を社会が用意しているのでもない。そもそも衣食住が足りている状態で、収入がさほど増えるわけでもないのに、のし上がることが良いこととも追求する意味のあることとも思えない。しかし、このような手段で国の研究費や補助金を得て、国の後援を得て国際学会の会長にでもなると、彼らにとつては自分の人生に一花咲かせたことになるようなのである。そもそも、国際学会を開くのは、自宅を抵当にして銀行からお金を借りた正直な先生もおられるぐらいお金がかかるらしいのだ。
 この間、放送局、新聞社、日本精神神経学会などを通じて、何度も公開討論会が企画されたが、いつも学者先生たちの拒否にあって一度も開かれなかった。水俣病事件は、熊本県や国によって法律が守られず、その一方、学会やメデイアを通じた公開討論も行われな△331 い中で、裁判を続けるしか水俣病患者には選択肢がなかったのである。恐ろしいほどの科学的・社会的・精神的な後進性を引きずる国に我々は住んでいることを自覚する必要がある。多くの先進国では、科学的根拠に基づいた政策立案という方法論が学問上も実際上も進んでいる。その一方、井戸端会議によって決定した科学的には誤った政策が、無謬性ゆえに公的研究費を用いて医学者先生たちを動員して堂々と維持され、いつまでも変えられずにうやむやにされようとする国に私たちは住んでいるのである。」(津田[2014:330-332])

 あめとむちの厚生労働科学研究費

 一〇年ほど前、私は食品保健や食の安全関連の厚生労働科学研究費を、分担研究者の一人として受給していた。ある年、私の属する研究班の主任研究者(班長)の先生のところに、厚生労働省の道野英司氏が研究班会議中に押しかけてきて、分担研究者の津田は厚生労働科学研究費を受給するにふさわしくなく、従って研究班から外せと主張してきた。なぜ受給するのにふさわしくないのかの理由に関して、道野氏は主任研究者に、津田が水俣病に関する意見書(原告側提出)を書いたからだと主張したというのである。主任研究者の先生は、私を研究班から外すことを拒否したが、そのうち主任研究者の異なる別の研究班に回され、ぞしてその別の研究班を最後に厚生労働省研究費の研究班に入ることはなくなっ△332 た。
 ここで、道野氏が理由に挙げた、私が水俣病に関する意見書を書いたという事実は、実は真の理由ではなく口実と思われる。道野氏が直接関わった国が被告として訴えられた国賠裁判の中でカイワレ裁判がある。その裁判で食品衛生法に義務づけられた調査と分析が十分に行われず、また報告書に書かれた限りでは、被告である国の主張には明確な疫学的根拠が見当たらないと私が意見書を書いたといういきさつがあったからだ。これは道野氏の主張と異なるものであった。結果として国が敗訴することとなったが、道野氏が私と交際に関わりがあつたのはこの件だったのである。
 以上のエピソードから二つのことが言える。一つめは、厚生労働科学研究費は、官僚個人の私怨を晴らす武器として実際に使える可能性があるということである。二つめは、水俣病裁判において原告提出の意見書を書いたということが、裁判の直接担当である環境省たけでなく厚生労働省においても、国(実際は官僚全体)への反逆者であるというイメージ一与えるのに有効であるとして、官僚の間では意識が共有されているということである。
 つまり、国賠訴訟では国とは逆の立場で意見書を書く医学研究者が非常に少ないこと、そして公的研究費である厚生労働科学研究費が、民間企業と医学研究者の利益相反の問題のようになってしまっていることが分かる。また、人間を観察対象とした研究をする医学△333 研究者が、それゆえ厚生労働省や環境省の意向に沿った結果を出す方向で振る舞ってしまう理由も理解できる。実際に、水俣病研究で一番の医学的業績を上げた故原田正純教授に対しては、一切公的研究費は出なかった。厚生労働科学研究費の受給は科学的業績とは別の側面で決まるごとが見えてくる。文部科学研究費とは違い、陰で厚生労働非科学研究費と言われたりするゆえんである。一部の省庁は、まるで国のカンパンを背負い税金を資金源としたやくざ組織の側面をもっているのである。」(津田[2014:332-334])

 

■書評・紹介

■言及

◆立岩 真也 2018 『病者障害者の戦後――生政治史点描』,青土社


*作成:岩ア 弘泰
UP:20180516 REV:20180528
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