『「問い」としての公害――環境社会学者・飯島伸子の思索』
友澤 悠季 20140220 勁草書房,245+60p.
last update:20151209
■友澤 悠季(ともざわ・ゆうき) 20140220 『「問い」としての公害――環境社会学者・飯島伸子の思索』,勁草書房,245+60p.
ISBN-10: 4326602643 ISBN-13: 978-4326602643 3500+税
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■内容
「公害」像の矮小化に抗う。「公害」はつねに、高度経済成長の「影」と形容されてきた。
しかし、「公害」という得体の知れない脅威を全身で感じてきた人びとが続けた無数の思索は「影」ではない。
その意味で、「公害」は、人間の人間に対する問いかけである――。
苦悩の底から吐き出される声に耳を澄ませてきた飯島伸子(1938‐2001)の軌跡を通じ、「公害」の歴史を生きたものとして再想像する。
■著者略歴
1980年神奈川県生。2013年、京都大学大学院農学研究科博士課程修了、博士(農学) 。現在立教大学社会学部プログラムコーディネーター。
主な論文「広田湾埋め立て開発計画をめぐる人びとの記憶──岩手県陸前高田市を中心として」中央大学文学部『紀要社会学・社会情報学』24(2014.3)。
共著に竹本修三・駒込武編『「偏見・差別・人権を問いなおす:京都大学講義」京都大学学術出版会(2007)。
共編に藤林泰・宮内泰介・友澤悠季編『宇井純セレクション』(全3巻)新泉社(2014)。
■目次
はじめに
序章 「問い」としての公害
一 〈公害から環境へ〉という認識の再検討
二 「問い」としての公害
三 飯島伸子のまなざしから
第一章 「公害」「環境」概念の系譜
一 「潮目」をとらえる
二 「公害」「環境」概念の系譜
三 飯島伸子にとっての「公害」と「環境」
第二章 「社会学」は「公害」を把握しうるのか
一 「オフィス・レディ」の転身―― 一九六〇年代
二 原点としての「災害分科会」
三 二つの足場からの問い
四 問われ続ける「社会学」の有効性
第三章 「社会学」はいかにして「被害」を証すのか
一 「被害」の考察への出発―― 一九七〇年代
二 「被害構造論」とは何か
三 「社会学」はいかにして「被害」を証すのか
四 飯島伸子における「被害構造論」の射程
第四章 「美容の社会学」はなぜ環境問題研究か
一 『髪の社会史』という作品―― 一九八〇年代
二 作品としての『髪の社会史』
三 美理容業研究の全体像
四 被害者としての「労働者」と「消費者」
五 声になる以前のものへ
第五章 「環境社会学」の形成と制度化――「地球環境」の磁場のなかで
一 「地球環境ブーム」の到来―― 一九九〇年代
二 「環境社会学」の自画像
三 「地球環境問題時代」における飯島伸子
終章 問いかける「公害」――人間を基点とした環境論を
一 「同苦」する者として
二 「窓」としてみる飯島の視座の普遍性
三 問いかける「公害」――人間を基点とした環境論を
注
おわりに
飯島伸子著書目録
飯島伸子略歴
参考文献・原資料
人名索引
事項索引
■引用
終章 問いかける「公害」――人間を基点とした環境論を
三 問いかける「公害」――人間を基点とした環境論を
「公害」も「環境問題」も、根本的には、人間が人間をおびやかす問題である。
そこでは、あからさまな拳銃や刃物ではなく、「人類の英知」とされる自然科学が、かろうじて積み上げた現象についての知見をもとに、
未知の物質を実用に結びつける技術をつくりだし、経済活動と結びついたことによって、「被害」が起きる。
しかし、現在でも、さまざまな科学的知見が技術的に応用され、脚光を浴びながらつぎつぎと実用化されて身のまわりに増えていく事態に変化はない。
市場経済のシステムにのってしまえば、生産―流通―消費―廃棄という全過程において、どこでそのような作用がもたらされるのかは、未知なのである。
「公害」はつねに、高度経済成長の「影」と形容されてきた。しかし、「公害」という得体の知れない脅威を全身で感じてきた人びとが続けた無数の思索は「影」ではない。
その意味で、「公害」は、人間の人間に対する問いかけである。生み出された問いの多くは、仮に「公害」という言葉が忘れられたとしても残るだろう。(p.224)
■書評・紹介
■言及
*作成:北村 健太郎