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『生活保護から考える』

稲葉 剛 20131120 岩波新書,224p.

last update: 20140809

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■稲葉 剛 20131120 『生活保護から考える』, 岩波新書, 224p. ISBN-10: 4004314593 ISBN-13: 978-4004314592 ¥720 [amazon][kinokuniya]


■内容(「BOOK」データベースより)

 すでに段階的な基準の引き下げが始まっている生活保護制度。社会保障制度の、そして生きるための最後の砦であるこの制度が、重大な岐路に直面している。不正受給の報道やバッシングのなか、どのような事態が起ころうとしているのか。当事者の声を紹介するとともに現場の状況を報告、いま、何が問題なのか、その根源を問う。

■著者紹介(本書より)

稲葉 剛(いなば・つよし)
1969年広島生まれ。東京大学教養学部卒業。94年より、新宿において路上生活者支援の活動に取り組む。2001年、湯浅誠氏らとともに、「もやい」を設立。現在、理事長。生活保護問題対策全国会議幹事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活困窮者の支援を続けるかたわら、各地で人権や貧困問題の講演をおこなっている。著書に、『ハウジングプア』、『貧困待ったなし!』(共著)など。

■目次

はじめに

第1章 崩される社会保障の岩盤 1
 「働いた者がバカを見る制度」なのか/猛暑の夏に起こったこと/夏季加算の新設を求めて/安倍政権による基準引き下げ/基準部会の検証は活かされたか/小泉政権における老齢加算廃止/なぜ2008年と2011年を比較するのか/生活扶助相当CPIの算出方法/脅かされるいのちと暮らし/子どもたちの将来に与える影響/排除されるボーダー層/「補足性の原理」とは/制度から排除によって何が起きるのか/ほかの制度への波及/就学援助の縮小と最低賃金への影響/物価上昇政策がもたらすこと/資産要件の厳しさ/医療費を支払うと……/封印された「ナショナルミニマム」/強行された基準引き下げ

第2章 届かない叫び声 41
 切符を渡されて、たらい回しに/厚労省による是正指導/窓口で行なわれる虚偽の説明/「水際作戦」の背景にあるもの/不正受給キャンペーンから123号通知へ/餓死、路上死の増加/自治体ごとの恣意的な判断基準/「ヤミの北九州方式」/裏と表の使いわけをする厚労省/厚労省の通知が生活保護利用者を増やしたのか/生活保護の捕捉率/生活保護制度の認知度が低い/貧困を直視しない政治/相対的貧困率の発表/スティグマを強化させた生活保護バッシング/生活保護の現物給付化案/国連からの勧告/「裏システム」の「表」化に動き出した政府

第3章 家族の限界 85
 親族間の暴力と支配/「私」を、「親密」と「個」に/生活保護を活用して親子を分離する/芸能人親族の生活保護利用/扶養義務を強化する法改正/生活保護と扶養義務との関係/扶養義務が「優先」に/公的扶助と私的扶養の線引きのわかりにくさ/中途半端に終わった民法改正/諸外国では/貧困の世代間連帯が悪化/生活保護世帯の高校生の声/障がい者の自立生活にも影響/扶養義務強要は家族関係を破壊/DV・虐待の被害者に深刻なダメージ/社会問題を「私的領域」に押し込める/自民党のめざす社会保障ビジョン/「日本型福祉社会」の崩壊/家族の支え合いの限界/「社会保障と税の一体改革」の変質/「絆原理主義」

第4章 当事者の一歩 131
 当事者が声をあげられない/親の介護のために離職/初めての路上生活/路上からの生活保護申請/生活保護利用者への就職差別/当事者の支え合いをつくる/福島からの避難者を支援/「一人ひとり、その人にあった言葉をかけてもらいたい」/精神疾患で働けなくなり/生活保護を利用している自分を肯定できない/二度目の生活保護申請/当事者の声を政策に/生活保護利用者によるデモ/身体障がい者の当事者として/福祉予算削減の動きに懸念/当事者としてロビー活動に参加/数ある制度の一つとして

第5章 問われる日本社会 167
 自民党議員による人権制限論/小野市の福祉制度利用者「監視」条例/1950年の生活保護法の抜本的な改正/利用者バッシングと社会保障費抑制/問題だらけの生活保護法改正案/切り縮められた「自立」概念/生活困窮者自立支援法案の問題点/貧困をなくすための総合的政策を/「生活保障法」へ/ケースワークの質の確保/世帯単位の緩和/生活保護利用者は「徴兵逃れ」か/石原吉郎の語る「弱者の正義」/基準引き下げに対する不服審査請求

あとがき 203
主要引用・参考文献


■書評・紹介

◆小久保哲郎 20140216 「生活保護から考える――貧困問題 著者ならではの臨場感」『しんぶん赤旗』
◆岩間 一雄 201404 「私の本棚 『生活保護から考える』稲葉剛著 『住み続ける権利』井上英夫著」『人権21 : 調査と研究 』 (229): 70-72.
◆東京新聞(朝刊) 2014年2月2日 書評
◆20131128 「稲葉剛(NPOもやい)『生活保護から考える』岩波新書(2013.11.20)」『STOP!生活保護基準引き下げ ブログ』
◆渡辺一史 20140126 「「生活保護から考える」稲葉剛著 「疑問や憤り」解きほぐす」『読売新聞』東京朝刊:15.

■言及


■引用

「この本では、近年の生活保護をめぐる状況を踏まえて、以下の点を考察していきます。どの章からも読めるような構成になっているので、関心のある章からお読みください。
 第1章では、第二次安倍政権のもとで実施された生活保護基準の引き下げについて、その問題点を検証します。
 第2章では、福祉事務所での窓口で相談者を追い返す「水際作戦」の問題や、その結果生じている生活保護の捕捉率の低さについて考えます。
 第3章では、芸能人親族の生活保護利用をきっかけに議論が沸騰した扶養義務強化の問題点をさまざまなくどから検証します。
 第4章では、あまり社会に伝えられることのない生活保護の利用当事者や経験者の生の声を、それぞれの方の背景とともに記します。
 第5章では、二〇一三年五月に国会に提出された生活保護改正案と生活困窮者自立支援法案の問題点を指摘し、あるべき生活保護制度のあり方について考察します。
 なお、この本では生活保護の「受給」ではなく、「利用」という用語を用いています。厚生労働省は「受給」という用語を用いていますが、「受給する」、「受ける」という言葉には受け身のニュアンスが強いため、主体的に制度を使うという意味を込めて「利用する」という用語を用いています。その点はご了承ください。
 この本を通して、生活保護制度に対する理解が進み、少しでも制度利用者への社会の「まなざし」がよい方向に変わっていくことを願っています。」[稲葉 2013:v-vi]」

「生活保護基準イコール最低生活費は、日本社会における唯一の公式な「貧困ライン」としてさまざまな制度(表1−2)と<0027<連動しています。そのため、生活保護基準が切り下げられてしまえば、表1−2に記したような制度の基準も連動して下げられてしまいかねません。
 政府は二〇一三年一月二九日に生活保護費削減を閣議決定した際、基準の引き下げがどれだけの制度に波及するかを正確に把握していませんでした。
 その後、国会の場で、この「他制度波及問題」に関する野党議員による追求があり、厚労省は二〇一三年二月一九日、「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について」という資料を発表しました。そこでは、基準引き下げにより影響を受ける制度が計三八制度にのぼることを認めています。」[稲葉 2013:27-28]

「生活保護制度では、住まいがない要保護者が相談に来た場合、住民票の設定地でなくとも、現在いる場所で保護を実施することが規定されています。」[稲葉 2013:42]

「福祉事務所が生活に困窮している人に生活保護の申請をさせず、窓口で追い返すという問題は「水際作戦」という名称で知られています。…
 「水際作戦」の手法はさまざまありますが、最も多いのは、窓口を訪れた人に対して面接担当者が「ご相談」という名目で話は聞くものの、申請書は渡さず、相談者があきらめて帰るのを待つ、という手法です。その際、制度に対する虚偽の説明を行うことで、申請を断念させるという手法がたびたび用いられます。」[稲葉 2013:45]

「二〇〇六年に日本弁護士連合会(日弁連)が行った全国一斉電話相談では、福祉事務所に行きながらも保護申請に至らなかった一八〇件のうち、六六%にあたる一一八件において、福祉事務所が違法な対応をしている可能性が高いことが分かりました。
 違法性の高い対応の中では、「親族から援助してもらうように」と要求されたケースが四九件と最も多く、次に多いのは「若いから働ける」と追い返されたケース(四一件)でした。」[稲葉 2013:47]

「「水際作戦」はなぜ起こるのでしょう。その背景には、国と地方自治体の生活保護費負担の問題や福祉事務所の人的体制が不足していることが考えられます。
 生活保護費の国庫負担割合は一九八四年まで一〇分の八でした。その後、一〇分の七まで引き下げられましたが、地方自治体の反発もあり、一九八九年に四分の三に変更されて現在に至っています。
 これは地方自治体にとってみれば、生活保護費の四分の一が自治体負担になってしまうことを意味します。しかし、実際は地方交付税による国からの財源保障により、自治体負担分の大半は、後から補填される仕組みになっています。ただ、この制度では地方税収の多い大都市や生活保護率の高い地域では補填割合が低くなる傾向があるという問題があります。
 生活保護費の国庫負担割合の問題は、二〇一一年五月から十二月まで開催された「生活保護制度に関する国と地方の協議」でも地方自治体側から問題提起がなされました。しかし、厚労省は折にふれ、国庫負担割合を変更するつもりはないと明言しています。」[稲葉 2013:48]

「また、生活保護の利用者が増えるとケースワーカーの負担が増えることも水際作戦の背景にあると考えられます。…インテークの職員が生活保護の申請を一人受け付けると、それはケースワークを担当する職員の負担を増やすことになるため、無言の圧力がかかっていると言うのです。
 二〇一二年のケースワーカー一人あたりの担当世帯数は、全国平均で九三世帯にのぼり、大都市部では一人が一二〇世帯以上担当している例も珍しくありません。厚労省によると、標準数に比べてケースワーカーの「充足率」が特に低い都道府県としては、大阪府(六九・二%)、愛知県(八〇・一%)、沖縄県(八〇・四%)、兵庫県(八三・八%)などがあげられています。」[稲葉 2013:49]

・ 一九八〇年代不正受給騒動[稲葉 2013:50]

「「生活保護制度に対する国民の信頼」という言葉は、二〇一二年以降の生活保護制度「見直し」の議論の中でも頻出しています。国が生活保護費を抑制しようとする際には必ず用いる言<0050<葉だと言えます。」[稲葉 2013:50-51]

「日本国内で「食糧の不足」により亡くなる人は、一九九四年までは年間二〇人前後でした。ところが、一九九五年に一気に三倍近い五八人になり、翌九六年には八一人にまで上昇します。その後も高い数値で推移し、この期間中、最も人数が多かったのは二〇〇三年の九三人でした。」[稲葉 2013:52]

2013年5月17日、「生活保護法の一部を改正する法律案を閣議決定し、国会に提出しました。そこには申請手続きの厳格化と扶養義務の強化という内容が盛り込まれていました。」[稲葉 2013:82]

「改正法案二四条一項は、生活保護の申請にあたり、氏名・住所だけでなく、要保護者の資産・収入状況、さらには「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないと規定しています。これにより従来は認められていた口頭による申請が認められなくおそれがあります。
 また二四条二項では申請書に「要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」と定めています。ここで言う添付書類とは、賃貸住宅の契約書や預金通帳、給与明細、年金関連書類などが想定されます。」[稲葉 2013:82]

「関連書類の添付が法律で義務づけられれば、こうした場合、「添付すべき書類を持参していない」という理由で申請できなくなる恐れがあります。生活の拠点を失うくらい困窮度の高い人[ドメスティックバイオレンスや親族による虐待に遭い、着の身着のままで逃げてきた人や、家賃滞納のため入居していた賃貸住宅からロックアウトされた人、路上生活中に荷物を盗まれた人、給与明細などの書類をださないいわゆる「ブラック企業」に務める人]ほど、申請が困難になるという状況が生まれかねません。
 これまでも、一部の福祉事務所は申請にあたって、資産・収入等の添付書類の提出があたかも要件であるかのように説明してきました。「書類が足りないから」という口実で、申請を受け付けず、何度も窓口に足を運ばせ、そのうちに相談者が申請をあきらめるのを待つ、というのも、伝統的な「水際作戦」の手法の一つです。」[稲葉 2013:83]

・修正案に対する評価

「自民・公明両党は民主党の提案をのむ形で、法案の修正を行いました。二四条一項・二項にはそれぞれ、「特別の事情があるときは、この限りではない」とする文言が追加されました。また、二四条一項の主語は「保護の開始の申請は」から「保護の開始を申請する者は」に変更されました。些細な変更ですが、主語の変更により、生活保護申請が要式行為(婚姻届など一定の方式にしたがって行わないと、不成立または無効とされる法律行為のこと)と解釈されてしまう余地はなくなったと言えます。  法案修正により「水際作戦」が全面的に合法化されるという最悪の事態は避けられたと私は考えていますが、現行の法律と比較すると、貧困状態であることの挙証責任を申請者側に課しているのは、国による生存権保障を後退させるものだと言わざるを得ません。
 また、改正法案に盛り込まれた扶養義務強化は、スティグマの強化につながります。」[稲葉 2013:84]

・ 生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会

「生活保護バッシングは、二〇一二年四月から開催されていた厚生労働省社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の議論にも大きな影響を与えました。この部会は当初、その名称通り、生活困窮者を支援する新たな体系を構築することを主目的としていましたが、会を重ねるにつれ、生活保護費を抑制するために生活保護制度を見直すという方向性が事務方である厚労省から示されるようになりました。扶養義務強化も、その一環です。
 同部会では、扶養義務強化に反対する意見も民間の委員から出されました。二〇一三年一月二五日に発表された同部会の報告書では、「本当に生活保護が必要な人が受けることができなくならないように、また、家族関係の悪化につながらないように特段に留意しつつ、福祉事務所が必要と認めた場合には、扶養が困難と回答した扶養義務者に対して、扶養が困難な理由を説明することを求めることが必要である」という記載が盛り込まれ、慎重な言いましながらも、<0094<扶養義務強化を打ち出しました。」[稲葉 2013:94-95]

「親族間の暴力や支配が決して特殊な事例ではないことは、統計が裏づけています。
 全国で摘発される殺人事件に占める親族間殺人の割合は近年、上昇傾向にあり、二〇一二年には五三・三%を占めるまでになりました。
 全国の児童相談所が二〇一一年度に対応した児童虐待の件数は、六万六八〇七件で、統計をとり始めた一九九〇年度以降、二二年連続で過去最多を更新しています。二〇一二年に全国の警察が摘発した児童虐待事件は四七二件、児童ポルノ事件は一五九六年で、いずれも統計をとり始めてから過去最多でした。行政機関が把握する件数が増え続けているのは、児童虐待に関する社会の認知が高まり、近隣住民などからの通報が増えたためだと考えられており、家庭内で隠されていた問題が発覚しやすくなっただけだと言えます。
 配偶者やパートナー間で起こるDVは、どうでしょうか。内閣府が二〇一一年に実施した調査では、結婚を経験した女性のうち、DV被害を受けたことのある人の割合は三二・九%で、三人に一人が被害を受けている実態が明らかになっています。全国の配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は、二〇一二年度に八万九四九件と過去最高になっており、こちらも社会的認知が高まるにつれて件数が増加しています。」[稲葉2013:87]


・芸能人親族の生活保護利用

「二〇一二年五月から六月にかけて、日本中のテレビ局や週刊誌で連日、生活保護の「不正受給」「不適切受給」をめぐる報道が流されました。私たちはこの現象を「生活保護バッシング」と呼んでいます。
 高額所得者のお笑い芸人A氏の母親が生活保護を受給している、という週刊誌報道に端を発したスキャンダルは、自民党の片山さつき参議院議員や世耕弘成参議院議員が「不正受給疑惑を徹底追求する」とブログなどで宣言したことから騒動が拡大。当のA氏が五月二五日に「お<0092<詫び会見」を開く事態に至りました。
 この会見を機に、この問題は国会にも飛び火しました。自民党は、親族に高額所得者がいる者が生活保護を受けるのはモラルハザードであり、制度に対する信頼を失わせると主張。民主党の小宮山洋子厚生労働大臣(当時)も、A氏の記者会見が開かれた同日午後の衆議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会において、自民党の永岡佳子議員の質問に対して、今回のケースは「生活保護制度の信頼を失わせる。扶養義務を果たしてほしい」と言及したうえで、「扶養義務者に必要に応じて生活保護費の返還を求めることを含め、義務者が責任を果たす仕組みを検討していきたい」と制度を見直す考えを示しました。
 また、小宮山大臣は同じ質疑の中で、生活保護の基準についても「国民の中に納得出来ないとの声があることを承知している。検討したい」、「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」とも述べています。本来、扶養義務と生活保護基準はまったく別の問題ですが、生活保護制度に対するマイナスイメージが広がったのをきっかけに基準引き下げに向けた世論の流れを形成したいという意図があったのではないかと疑われます。
 国会ではその後も、他の芸能人の親族の生活保護利用が批判のやり玉にあげられました。
 その後、マスメディアでは、公務員等の親族が生活保護を利用していることにも疑問を呈する報道が相次ぎました。大阪市は大阪市内の全生活保護世帯(約一一万六〇〇〇世帯)に親族の職<0093<業についての聞き取り調査を行ない、二〇一三年三月一五日に「公務員や医師ら一定の収入が見込まれる人が八一一人おり、うち大阪市職員が一六四人いた」と発表しました。大阪市は今後、収入と援助額の目安をつくり、高収入の人に対しては援助の養成を強化するとしています。」(92-94)
・扶養義務を強化する法改正(94-96)

「生活保護バッシングは、二〇一二年四月から開催されていた厚生労働省社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援に在り方に関する特別部会」の議論にも大きな影響を与えました。この部会は当初、その名称の通り、生活困窮者を支援する新たな体系を構築することを主目的としていましたが、回を重ねるにつれ、生活保護費を抑制するために生活保護制度を見直すという方向性が事務方である厚労省から示されるようになりました。扶養義務強化も、その一環です。
 同部会では、扶養義務強化に反対する意見も民間の委員から出されました。二〇一三年一月二五日に発表された同部会の報告書では、「本当に生活保護が必要な人が受けることができなくならないように、また、家族関係の悪化につながらないように特段に留意しつつ、福祉事務所が必要と認めた場合には、扶養が困難と回答した扶養義務者に対して、扶養が困難な理由を説明することを求めることが必要である」という記載が盛り込まれ、身長な言い回しながらも、<0094<扶養義務強化を打ち出しました。
 その後、二〇一三年の通常国会に提出された生活保護法改正案には、親族の扶養義務を強化する条文がいくつも新設されていました。
 改正法二八条二項は、保護の実施機関が要保護者の扶養義務者その他の同居親族等に対して報告を求めることができると規定しています。また、同二九条一項は、生活保護を申請する「要保護者の扶養義務者」だけでなく過去に生活保護を利用していた「被保護者の扶養義務者」について、官公署、日本年金機構などに必要な書類の閲覧、資料提出を求めたり、銀行や雇い主などに報告を求めることができると規定しています。
 これは生活保護を利用しようとする人や過去に利用していたい人の扶養義務者が自分の収入や資産状況について、直接、福祉事務所から報告を求められたり、官公署、年金機構、銀行等にある個人データを洗いざらい調査され、さらには、勤務先まで照会をかけられたりすることを意味しています。国会での質疑において、厚労省は扶養義務者の収入・資産調査にマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)を活用することを否定しませんでした。
 そして同二四条八項は、「保護の実施機関は、しれたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面をもって厚生<0095<労働省で定める事項を通知しなければならない」と規定しています。保護の開始を決定する前に扶養義務者に通知するという規定は、現行法にはないものです。
 これらの規定は、生活保護を申請しようとする人にとって「自分が申請してしまえば、親族の資産・収入が丸裸にされてしまい、親族が福祉事務所から圧力をかけられる」ことを意味するものです。法案が可決されてしまえば、生活困窮者の間で「親族に迷惑をかけたくない」という意識がさらに広がり、今以上に申請を抑制する人が増えてしまうでしょう。最悪の場合、それは餓死、自死など貧困による死を誘発します。」[稲葉2013:94-96]

「芸能人親族の生活保護利用をきっかけとした扶養義務強化の動きに対して、生活保護問題対策全国会議を中心に各方面から抗議の声が上がりました。[…]
 まず押さえておきたいのは、問題になったA氏のケースは生活保護法上の「不正受給」にあたらない、という点です。
 一九五〇年に制定された現行の生活保護法では、親族による扶養は保護に「優先」するとされており、「要件」とはされていません。これはどういう意味でしょうか。<0096<
 一九四六年に制定された旧生活保護法では、「扶養義務者が扶養をなし得る者」や「勤労の意志のない者」「素行不良な者」等を保護の対象から除外するという欠格条項がありました。生活保護法は一九五〇年に抜本改正され、新生活保護法になりました。新法では旧法にあったすべての欠格条項をなくすとともに、民法に規定されている親族の扶養義務者については、急迫時を除き「すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」(四条二項)と規定しました。
 […]扶養が「要件」になってしまえば、親族からの扶養を受けられない人が公的な支援も得られないまま困窮してしまうという状況が生まれてしまいます。そうした事態を避けるため、新法では扶養を「要件」から外し、「無差別平等」の原則を確立したのです。これは憲法二五条が規定する生存権保障を徹底するために必要な改正でした。」[稲葉2013:96-97]

「「優先」とは、実際に扶養が行われた場合に、額に応じて保護費を減額したり廃止したりするという意味です。<0097<
 生活に困窮する人が福祉事務所に生活保護の申請をした場合、福祉事務所はその人の親族に対して、扶養が可能かどうかを問い合わせる扶養照会を行います。通常、扶養照会は書面で行われます。
 民法では、七五二条で「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されており、八七七条一項で直系血族(親子、孫と祖父母など)と兄弟姉妹も互いに扶養義務があると規定しています。そのため、通常はこの範囲内の親族に扶養照会がなされますが、家庭裁判所が「特別な事情」があると認めた場合に限って、おじ・おば・おい・めいなど三等親の親族にも扶養の履行を求めることができます。
 A氏の場合、福祉事務所からの照会に対して、母親が生活保護を利用し始めた当初は経済的理由により扶養が困難だと回答していましたが、経済的に余裕ができてからは福祉事務所と協議のうえ、母親に対する仕送りを行っていました。保護費はその分、「補足性の原理」に基づき、減額されていたことになります。」[稲葉2013:97-98]

「現行生活保護法の立法作業を担当した当時の厚生省保護課長、小山進次郎氏は扶養義務優先の規定について、以下のように説明しています。
 「「生活保護法による保護と民法上の扶養との関係については、旧法は、これを保護を受ける資格に関連させて規定したが、新法においては、これを避け、単に民法上の扶養が生活保護に優先して行わるべきだという建前を規定するに止めた。一般に公的扶助と私法的扶養との関係については、これを関係づける方法に三つの型がある。第一の型は、私法的扶養によってカバーされる領域を公的扶助の関与外に置き、前者の履行を刑罰によって担保しようとするものである。第二の型は、私法的扶養によって扶養を受け得る筈の条件のある者に公的扶助を受ける資格を与えないものである。第三の型は、公的扶助に優先して私法的扶養が事実上行われることを期待しつゝも、これを成法上の問題とすることなく、単に事実上扶養が行われたときにこれを被扶助者の収入として取り扱うものである。而して、先進国の制度は、概ねこの配列の順序で段階的に発展してきているが、旧法は第二の類型に、新法は第三の類型に属するものと見ることができるであろう。」(小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用』)」[稲葉2013:99]

cf.小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用』119頁
◆小山進次郎 1951 『生活保護の解釈と運用』(復刻版,1994)全国社会福祉協議会

「また、民法に定められている扶養義務も一律ではないことに留意する必要があります。
 民法の定説では、夫婦間や未成熟の子どもに対して親が負う義務と、兄弟姉妹間や成人した子どもが親に対して負う義務は、わけて考えられています。前者は「生活保持義務」と呼ばれ、扶養義務者が可能な範囲で自身と同程度の生活を保障する義務があるとされるのに対し、後者は「生活扶助義務」と呼ばれ、扶養義務者とその同居家族がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえで、なお余裕があれば援助する義務とされています。夫婦間の義務や未成熟の子どもに対して親が負う義務に対して、兄弟姉妹の義務や成人した子どもが親に対して負う義務は相対的に「弱い」扶養義務だと言えるわけです。
 A氏のケースにあてはめると、彼が自分の同居家族とともに芸能人としてふさわしい社会生活を成り立たせたうえで、なお経済的に余裕があれば別居の母親を援助する義務を有する、ということになるわけです。」[稲葉 2013:100]

「戦後まもない一九四六年に制定された旧生活保護法には、「扶養義務者が扶養をなし得る者には、急迫した事情がある場合を除いては、この法律による保護は、これをなさない」(三条)という欠格条項が含まれていました。親族に経済力があり、私的な扶養が可能だと認められる者については、実際に援助が行われるかどうかを問わず、公的な扶助の対象からは外すことになっていたわけです。」[稲葉 2013:101]

「民法に扶養義務規定があることの影響は生活保護制度に限らず、社会福祉制度全般に及んでいます。児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法等の法律でも、民法に基づき、国庫等が費用を支弁した場合、費用の全部もしくは一部を扶養義務者から徴収できるという規定が定められています。」[稲葉 2013:104]

独立行政法人労働政策研究・研修機構は、二〇一三年四月に「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2012(第二回子育て世帯全国調査)」[PDF]の結果を発表しました。そこでは生活保護利用をめぐる世代間連鎖について以下の結果が出ています。
・「成人する前に親が生活保護を受けていた」と回答した保護者の生活保護率は一二・二%で、「成人する前に親が生活保護を受給したことがない」と回答した保護者(一・六%)より保護率が一〇・六ポイント高い。
・母子世帯に限定してみると、「親が生活保護受給」と回答した母親と「親が生活保護非受給」と回答した母親を比較すると、前者の生活保護率(二五・〇%)が後者より二一・五ポイントも高い。」[稲葉 2013:107]

「この調査報告書は「親世代が生活保護を受給している場合、その子ども世代は成人後に生活保護を受給する割合が高くなっている」と結論づけています。」[稲葉 2013:108]

「老いた親を扶養する義務は、経済力のある親のもとで育った子どもには自動的に免除されている義務だと言えます。」[稲葉 2013:109]

「障がい者の自立生活運動を進めてきたDPI(障害者インターナショナル)日本会議は、二〇一二年度の総会において「生活保護法扶養義務強化に反対する緊急アピール」を採択しました。アピールでは「所得保障制度がきわめて不十分な中、生活保護制度は障害者の地域自立にとって重要な役割を果たし」てきたと指摘したうえで、扶養義務強化は厚労省の障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会の骨格提言(二〇一一年八月)にも盛り込まれた「家族福祉からの脱却」という理念にも逆行するものであり、「障がい者の地域自立にとって大きな打撃となることは明白」と反対の姿勢を明確にしています。」[稲葉 2013:115]

「二〇一二年八月に民主・自民・公明の三党合意に基づき、消費税増税法案とセットで成立した社会保障制度改革推進法案は、二条一項において社会保障制度改革の方向性を「自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと」と定めています。これは、伝統的な自民党の社会保障観を反映した内容であり、「まずは家族で、そして国民同士で支えあってください。それを国は後ろからバックアップするだけにとどめます」と宣言したものだと言えます。」
 この法案に関して日本弁護士連合会は会長声明を発表し、国の責任を、『家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み』を通じた個人の自立の支援に矮小化するものであり(二条一号)、国<0128<による生存権保障及び社会保障制度の理念そのものを否定するに等しく、日本国憲法二五条一項及び二項に抵触するおそれがある」と厳しく批判しています。」[稲葉 2013:128-129]

「自民党が二〇一二年四月に発表した日本国憲法改正草案では、二四条一項に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」という条文が新設されています。」[稲葉 2013:129]
「ちょうどこの時期、北海道滝川市で発覚した暴力団員による生活保護不正受給事件が世間を騒がしていました。生活保護を利用していた暴力団の男性が通院に介護タクシーを要するという名目で一回当たり約三〇万円の移送費を滝川市に請求し、計約二億円を搾取。二〇〇八年二月にこの男性とその妻、共謀したタクシー会社の役員が詐欺罪で逮捕されたのです。
 厚労省はこの事件をきっかけに、二〇〇八年四月、社会・援護局長通知を出し、同年七月から移送費の支給を原則認めない方針を示しました。」[稲葉 2013:161]

「批判に押されて、厚労省は同年六月に移送費の支給要件を緩和する新たな課長通知を出し、舛添要一厚生労働省大臣(当時)も会見で「局長通知の事実上の撤回」と認めました。その後も元の局長通知は形式上、残り続けましたが、二〇一〇年三月には新たな局長通知が出され、完全に撤回されました。」[稲葉 2013:162]

「二〇一三年三月二日に小野市議会で可決され、四月一日から施行された「小野市福祉給付制度適正化条例」は、生活保護法、児童扶養手当、その他福祉制度に基づく公的な金銭給付の「受給者」が不正な手段で金銭給付を受けたり、給付された金銭を「パチンコ、競輪、競馬その他の遊戯、遊興、賭博等」に費消したりして、その後の生活の維持、安定向上を図ることができなくなるような自体を防ぐため、「市民及び地域社会の構成員」に対して、「市及び関係機関の調査、指導等の業務」に積極的に協力することや、市に情報を提供することを責務として定めています。また、適正化協議会や適正化推進員を設置し、調査活動を行うことも明記しています。」[稲葉 2013:170]

「この条例の問題は多岐にわたりますが、見逃してはならないのは、市民による監視の対象が生活保護利用者のみならず、児童扶養手当を利用するひとり親世帯や「その他福祉制度」により金銭給付を受けている人にまで及んでいることです。この「その他福祉制度」に内容はどこにも明記されていないため、老齢年金や障害年金、児童手当などの含めるとする解釈も可能です。しかも、この条例では「受給者」を「受給しようとする者」まで含むと定義しており、対象者は際限なく広がります。」[稲葉 2013:172]

「改正法案六〇条は、生活保護の利用者に対して「自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握する」という「生活上の義務」を規定しています。利用者の「生活上の義務」については現行法でも六〇条に「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、工場に勤めなければならない」という規定がありますが、健康管理や家計管理は新たに追加されたものです。
 生活保護利用者の健康管理や家計管理ついては、有識者による「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」でも議論になりました。二〇一二年七月一七日に厚労省から部会に提出された「生活支援戦略」中間まとめでは、「家計・生活指導の強化」という文言が使用されていましたが、二〇一三年一月二五日に出された同部会の最終報告書では「健康管理を支援する取組」、「家計管理を支援する取組」といった表現に変更されました。これは上からの指導ではなく、あくまで本人の意志を尊重した「支援」である点を強調したものだと言えます。
 それにもかかわらず、改正法案ではこうした経緯は無視され、健康管理や家計管理が「義務」に追加されました。これは生活保護利用者を上から管理していくという政府の意志の現れであると考えられます。」[稲葉 2013:180]

「健康管理の義務化は前に述べた麻生発言と同様、「病気になって、国費に負担をかけるな」というメッセージを暗にはらむものです。」[稲葉 2013:182]
「医療費の抑制に関しては、さらに改正法案三十四条三項に後発医薬品の使用促進が盛り込まれました。生活保護利用者に対してはすでに二〇一三年度から後発医薬品の使用が原則義務化されています。後発医薬品の効果については専門家の間でも意見がわかれますが、なぜ生活保護利用者にだけ原則義務化されるのか、という点について、政府から明確な説明がなされたことはありません。」[稲葉 2013:182]

「改正法案七十八条の二には、不正受給対策として、保護金品から不正受給徴収金の徴収を可能にする内容が盛り込まれています。生活保護費からの天引きはあくまでも本人の申し出を前提とするもだとしていますが、現場においてはケースワーカーとの関係の中で事実上強制され、最低生活費を大きく下回ることも懸念されます。
 改正法の中で唯一と言っていいほど評価できる点は、保護脱却時における就労自立給付金制度の創設です(五五条の四)。これは就労収入が生活保護基準を上回り、生活保護から抜けた途端、社会保険料などの負担が家計を圧迫するという状況を踏まえ、脱却後の生活支援のために給付金を新設するというものです。」[稲葉 2013:182]


cf.大阪市の公務員に対する扶養義務問題

20130315 大阪市「公務員や医師ら一定収入が見込まれる人が811人おり、うち大阪市職員が164人いた」と発表(新聞では確認されるがソース不明)
→[2013年3月15日民生保健委員会(「職員の親族の生活保護受給について質疑」・「本市独自の基準を作ると市長答弁」)?]

◇大阪市「大阪市扶養義務者調査実施要領」(以下引用)
「(趣旨)
第1条 生活保護法に基づく被保護者の扶養義務者について、存否を確認し、その扶養能力の調査を行うとともに、扶養義務者等に対し扶養の依頼を行い、もって生活保護法に定める要保護者及び被保護者の自立助長の促進を図るために必要な事項を定めるものとする。

(実施主体)
第2条 実施主体は、各実施機関とする。

(対象者)
第3条 調査の対象者は次のとおりとする。

(1) 存否の確認の対象者

@ 絶対的扶養義務者(直系血族と兄弟、配偶者)

A 相対的扶養義務者(三親等内の親族)のうち現に当該要保護者又はその他世帯に属する者を扶養している者、あるいは直前まで扶養していた者

B 相対的扶養義務者のうち過去に当該要保護者又はその世帯に属する者から扶養を受ける等特別の事情があり、かつ、扶養能力があると推測される者

(2) 重点的扶養能力調査対象者

@ 夫婦及び未成熟の子に対する親(生活保持義務関係にある者)

A @以外の親子関係にある者のうち扶養の可能性が期待される者

B @、A以外の、過去に当該要保護者又はその世帯に属する者から扶養を受ける等特別の事情があり、かつ、扶養能力があると推測される者

(3) (2)以外の者

  重点的扶養能力調査対象者以外で、扶養の可能性が期待できる者

(調査の方法)

第4条

@ 第3条の(1)に該当する扶養義務者等について、要保護者又は被保護者の申告及び戸籍の附票などから、存否・居住地を確認する。

A それぞれの生活状況を要保護者又は被保護者から聞き取り、扶養の可能性について確認をする。扶養の可能性の有無とその理由をP7扶養義務調査票の特記事項に記入し、重点的扶養能力調査対象者とするか判断する。重点的扶養能力調査対象者と判断した場合は重点的扶養能力調査対象者と分かるようP7扶養義務調査票やファミリーツリー等に重点と記入しておく。

重点的扶養能力調査対象者あるいは、重点的扶養能力調査対象者以外で扶養の可能性が期待できる者と判断した場合は、調査を実施する。

B 管内(区内)に居住する第3条(2)重点的扶養能力調査対象者の該当者については、原則として、実地調査を行う。実地調査を拒否するなどで実地調査が行えなかった場合は、来庁させて面接を行うが、どちらにも応じない場合には、回答期限を付して照会することとし、期限までに回答がないときには、再度期限を付して照会を行う。それでも回答が無い場合は、回答意思がないものあるいは援助不可として扱う。

C 管外に居住する第3条(2)重点的扶養能力調査対象者の該当者については、回答期限を付して照会することとし、期限までに回答がないときには、再度期限を付して照会を行う。

D 管内、管外を問わず、第3条(3)重点的扶養能力調査対象者以外の扶養が期待される扶養義務者については、回答期限を付して照会することとし、期限までに回答がないときには、再度の照会は不要とする。

E なお、第3条(2)重点的扶養能力調査対象者への扶養能力調査については、原則的に年に1回実施するが、回答において相当の事情があると考えられるものについては、事情の変化が見られた場合に再度調査を行うこととして差し支えない。

(調査にあたっての留意事項)

第5条
 
(1)調査にあたっては、金銭的な扶養の可能性のほか、被保護者に対する定期的な訪問・架電、書簡のやり取り、一時的な子どもの預かり等精神的な支援の可能性についても確認を行う。また個別の要保護者又は被保護者の状況をよく聞き取り、扶養義務者に要保護者、又は被保護者の生活困窮の実情をよく伝え、形式的にならないように留意すること。

(2) 確認された内容、扶養の可能性の判断およびその根拠などについては、ケース記録に記載すること。


附則 この要領は、平成22年4月1日より施行する。
附則 この要領は、平成24年3月16日より施行する。」(以上引用終わり)


◇大阪市HP「お寄せいただいた市民の声 福祉 平成25年9月 10月更新分
 件名:大阪市職員の親族における生活保護受給及びケースワーカーの実態について
「本市では、生活保護の適正化に資する観点から、昨年8月以降、ケースワーカーが家庭訪問時に聞き取る手法等により、一定以上の収入が見込まれる扶養義務者の把握を行ってきました。その調査結果については本年3月にすでに公表しておりますが、公務員や医師ら一定の収入が見込まれる扶養義務者は811人で、うち本市職員は164名となっております。」

◇日本経済新聞 20130316 「大阪市の生活保護受給者、扶養義務者に公務員529人。」大阪朝刊 社会面 16ページ
「大阪市は15日、生活保護受給者に親族の詳しい就労状況を聞き取り調査した結果、公務員や医師など一定の収入が見込まれる扶養義務者が計811人いたと発表した。公務員は529人で大阪市職員は164人だった。府以外の近畿圏の地方議員も2人いた。
 橋下徹市長は同日「(扶養の)強制はできないが、基準を作って援助の働きかけをしたい」と述べ、仕送りなどの援助額の目安を、親族の収入などに応じて示す市独自の基準を作る考えを明らかにした。
 昨年6月、大阪府東大阪市の職員30人の親族が生活保護を受けていたことが発覚したのを受け、大阪市が生活保護を受ける11万6千世帯を対象に直系の親族や兄弟など民法上の扶養義務者の勤務先を調査。聞き取り可能な約8万8千世帯の調査を終えた今年2月末時点で、勤務先から一定以上の収入があると推測される扶養義務者が811人いた。
 内訳はほかに著名企業社員206人、会社経営36人、医師23人、弁護士3人で、ほかに大学教員、税理士、司法書士などもいた。親族の年収や実際の就労状況などは確認できていないという。
 市福祉局は「改めて照会文書を送ったり訪問したりして、仕送りなどの援助をする余力がないか確認したい」としている。また164人の大阪市職員については今後、個々に事情を聴くなどして援助を求める方針。
 生活保護法は、保護の前提として、できるだけ扶養義務者から援助を受けるよう規定。ただ扶養義務者に援助を強制することはできず、どの程度の援助を求めるかについての国の基準もないという。」

◇日本経済新聞 20120531 「生活保護、扶養義務厳しく、親族の資産調査、人手不足の壁。」朝刊 39ページ
「自治体が困惑、説得も困難
 生活保護を巡って小宮山洋子厚生労働相が親族の扶養義務を厳格に適用する方針を打ち出したことに対し、実務を担う自治体の現場で波紋が広がっている。限られた人員で申請者本人の調査や受給者の就労支援に追われ、「親族の経済力まで調べる人手はない」と担当者は困惑。親族との関係も一様ではなく、「扶養を説得するのは難しい」との声が漏れる。
 厚労相の発言は、有名タレントの母親が生活保護を受給していた問題がきっかけ。受給者の親族に経済的な余裕があれば保護費の返還を求め、「扶養は困難」という親族には生活保護法を改正して証明の義務を課す考えを示した。
 ただ、自治体側には「親族の資産を詳しく調べたり、扶養するよう交渉したりするのは今の人員ではとても無理」との声が強い。社会福祉法は実務を担う市町村のケースワーカーの配置について「受給者80世帯ごとに1人」と定めるが、実態は基準を大きく上回る世帯を受け持つ例が多い。
 全世帯の4・8%が生活保護を受けており、受給率が東京都内で最も高い台東区では、ケースワーカー約70人で受給者約7800世帯を担当。1人当たり約110世帯と、基準より3割増しの負担となっている。
 新たな申請は年間2千件前後。親、未成年を除く兄弟、子供らに調査票を送って扶養できないか尋ねるが、親族自ら扶養を申し出るケースは年に1、2件にとどまる。親族の状況を調査しようにも、「不正受給の監視や申請者本人の資産調査など、やることは山ほどある。既にパンク状態」と担当者は悲鳴をあげる。
 足立区でもケースワーカー約200人が都内最多の約1万7500世帯を担当し、受給者の就労支援などに追われているのが実情だ。
 36人で3516世帯を見る神奈川県藤沢市では、親族が市内に住んでいる場合は職員が出向いて調査するが「住宅ローンや教育費の負担が重い」などと断られるケースがほとんど。担当者は「核家族化で親子といえどもそれぞれの生活がある。扶養するよう説得するのは難しい」とあきらめ顔だ。
 昨年まで生活保護を受けていた首都圏の40代の女性は、申請した際に別居していた夫や親族に扶養打診の連絡をされ、兄弟から罵倒された。「扶養照会をあちこちかけられるのは苦痛だった」
 首都圏生活保護支援法律家ネットワーク共同代表の釜井英法弁護士は「困窮者の『孤独死』が問題になっているように、生活保護は必要な人に行き渡っていない。身内に迷惑をかけたくないと申請をためらう人が増えるのではないか」と指摘している。
【図・写真】生活保護の申請を受け付ける東京都足立区の中部福祉事務所(29日)」

◇日本経済新聞 20120626 「大阪市職員親族、生活保護調査へ、橋下市長が意向。」大阪夕刊 社会面 19ページ
「大阪府東大阪市の職員の親族が生活保護を受けていた問題を巡り、大阪市の橋下徹市長は26日、市職員に対し親族の生活保護の受給を調査する意向を示した。
 橋下市長は「個別の事情はあるだろうが、『公務員がなんで親族をサポートできないの』というのは世間的には当然」と指摘。
 その上で「担当部局は調査できないと言ってきたが、調べた方がいい」と述べた。」

◇日本経済新聞 20120630 「大阪市、親族の状況聞き取りへ、勤務先など、生活保護の全受給世帯。」大阪朝刊 社会面 16ページ
「大阪市は29日、市内で生活保護を受給する全約11万8千世帯に対し、親族など民法上の扶養義務者の勤務先や収入を任意で聞き取り調査すると発表した。収入などが高い扶養義務者がいれば、市が改めて扶養や経済援助の意思を確認し、支給の見直しにつなげる。
 公務員の親族が生活保護を受けていたケースが表面化したことを受け、全国最多の受給者を抱える大阪市でも調査の可否を検討。市職員の親族に受給者がいないかだけでなく、全受給世帯について扶養義務者の実態を調べることにした。
 調査は定期的な家庭訪問などの際に担当ケースワーカーらが約半年かけて実施。親や子、兄弟姉妹らの勤務先や収入などを尋ねる。市福祉局によると、従来は保護申請時に扶養義務者の有無や職業などを確認するだけで、勤務先や収入など詳細は把握していなかった。
 橋下徹市長は同日の記者会見で「(扶養義務者が)援助してくれるか分からない場合もある。すぐさまルールは作れないが、適正化につながる調査をしたい」と述べた。」


cf.生活保護における扶養義務に関する研究

◆西原 道雄 1956 「生活保護法における親族の扶養義務」,『私法』日本史法学会16:85-98
◆小川政亮 195705 「親族扶養をめぐる生活保護行政の実態」,『法律時報』日本評論新社29(5):628-635
◆赤石壽美 197810 「家族法とのかかわり――公的扶助と私的扶養の関連と問題点」,小川政亮編『扶助と福祉の法学』一粒社:
◆籠山京 1978 『公的扶助論』,光生館
◆古賀昭典 1963 「公的扶助と家族――扶養英国扶助制度の発展を中心に」,『清水金二郎教授追悼論文集九州大学産業労働研究所報』28・29合併号:
◆古賀典明 1977 「生活保護法における世帯単位と扶養義務」,『産業労働研究所報』69:49-60
◆岡田千秋 2002 「公的扶助法と親族扶養義務――生活保護法とその運用をめぐって」,『社会関係研究』91(1):109-13
◆中川善之助・青山道夫・玉城肇・福島政夫・兼子一・川島武宜責任編 1958 『家族問題と家族法X扶養』,酒井書店
◆小川政亮 1964 『家族・国家・社会保障』,勁草書房
◆青山道夫・竹田旦・有地享・江守五夫・松原治郎編 1974 『講座家族7. 家族問題と社会保障』,弘文堂
◆明山和夫 1973 『扶養法と社会福祉』,有斐閣
◆利谷信義 1987 『家族と国家ーー家族を動かす法・政策・思想』,筑摩書房

・公的扶助と親族扶養に関する法学的検討の先行研究
「西原道雄「生活保護法における親族の扶養義務」(『私法』第16号有斐閣1956年)は、現行法の解釈論を中心として、親族間の扶養が法的義務として強行される理由を、扶助費の節減についての要請の強弱と、家族制度残存の程度との関連においてとらえ、扶養義務の縮小制限の必要性と、扶養に関する基準の統一の必要性を指摘し、「扶養義務を強調しすぎることは家族の強化ではなく、逆に破壊をもたらす。扶助費の節減にしても一時的な効果しか期待できない。」と結論づけている。
 小川政亮「親族扶養をめぐる生活保護行政の実態」(『法律時報』第29巻第5号日本評論新社1957年)は、保護記録や事例の検討を含めて保護行政上の実態について、その取扱いの問題点を指摘し、「親族扶養優先原則が法的制約を越えてまで、また家制度的法意識と結合しながら、異常に行政権力によって強調されていることの意味は何処に求むべきであろうか。」と生活保護行政における扶養の取扱い方に疑問を呈している。
 赤石壽美「家族法とのかかわり―公的扶助と私的扶養の関連と問題点―」(小川政亮編著『扶助と福祉の法学』一粒社1978年)は、立法論の立場から結論の方向性を示し、「保護に優先すべき扶養の範囲を限定すること、扶養義務者の留保しうべきものを定めること、保護実施機関と家庭裁判所との連携をはかること、世帯単位原則の規定を廃止すべきこと」などを指摘している。
 籠山京『公的扶助論』(光生館1978年)は、小山進次郎著『生活保護法の解釈と運用』(1950年)と、1978年版『生活保護手帳』における「実施要領」とを対比させる形で制度の概要を述べている。生活保護法による保護と民法上の扶養との関係については、旧法はこれを保護を受ける資格に関連させて規定したが、現行法においてはこれを避け、単に民法上の扶養が保護に優先して行われるべきだという建前を規定したにとど まる、という解釈は否定され、「実際の運営では法第4条第1項とならんで、法第2条の要件として機能している。」と指摘し、「したがって法第公的扶助法と親族扶養義務 ― 111―1条と法第2条が連動して対象を限定した結果、生活保護は極貧にならないと、対象となり得ないという結果を来しているといってよい。これが欧米諸国の保護率に比して、日本のそれが桁違いに低い基本原因なのである。」と指摘している。
 家族法研究を一連の流れの中で位置づけるものとしては、『家族問題と家族法X扶養』(中川善之助・青山道夫・玉城肇・福島政夫・兼子一・川島武宜責任編集酒井書店1958年)、『家族・国家・社会保障』(小川政亮著勁草書房1964年)、『講座家族7. 家族問題と社会保障』(青山道夫・竹田旦・有地享・江守五夫・松原治郎編弘文堂1974年)が、さらに政策としての制度の理解としては、明山和夫『扶養法と社会福祉』(有斐閣1973年)、利谷信義『家族と国家―家族を動かす法・政策・思想』(筑摩書房1987年)等がある。」[岡田2002:111-112:第一章の脚注1]


cf.「小野市福祉給付制度適正化条例」

20130304 生活保護問題対策全国会議と生活保護裁判連絡会が共同で、小野市に対し「小野市福祉給付制度適正化条例」に関する要望書を提出
20130308 兵庫県弁護士会「小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明」発表
20130327 「小野市福祉給付制度適正化条例」可決[PDF
20130327 小野市HP「こんにちは市長です(3月27日)」に市長による「小野市福祉給付制度適正化条例」に対するコメント発表
20130401 「小野市福祉給付制度適正化条例」施行[PDF
20130402 小野市HP・「市民サービス課からのお知らせ」に条例への質問・意見に対する回答(「小野市福祉給付制度適正化条例の制定」)が掲載
20130426 「小野市福祉給付制度適正化条例」に関する会長声明(日弁連)


cf.改正法年表生活保護法の改正について 生活保護・宇治市の誓約書問題(2012)




*作成:中村亮太
UP: 20140615 REV: 20140628 0809
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