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『天、共に在り――アフガニスタン三十年の闘い』

中村 哲 20131025 NHK出版,252p.

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last update:20150923

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中村 哲 20131025 『天、共に在り――アフガニスタン三十年の闘い』,NHK出版,252p.  ISBN-10: 4140816155 ISBN-13: 978-4140816158 1600+税  [amazon][kinokuniya]

■内容

困っている人がいたら手を差し伸べる――それは普通のことです。

1984年よりパキスタン、アフガニスタンで支援活動を続ける医師・中村哲。治療のために現地へ赴いた日本人の医者が、なぜ、1600本もの井戸を掘り、 25.5キロにもおよぶ用水路を拓くに至ったのか? 内戦・空爆・旱魃に見舞われた異国の大地に起きた奇跡。「天」(自然)と「縁」(人間)をキーワードに、 その数奇な半生をつづった著者初の自伝。

■目次

はじめに――「縁」という共通の恵み

序章 アフガニスタン二〇〇九年

第一部 出会いの記憶 1946〜1985
第一章 天、共に在り
第二章 ペシャワールへの道

第二部 命の水を求めて 1986〜2001
第三章 内戦下の診療所開設
第四章 大旱魃と空爆のはざまで

第三部 緑の大地をつくる 2002〜2008
第五章 農村の復活を目指して
第六章 真珠の木
第七章 基地病院撤収と邦人引き揚げ
第八章 カンベリ沙漠を目指せ

第四部 沙漠に訪れた奇跡 2009〜
第九章 大地の恵み――用水路の開通
第十章 天、一切を流す――大洪水の教訓

終章 日本の人々へ
報復戦争の結末
破局と希望
自然からの逃走
注文の多い料理店
戦争と平和
不易と流行――変わらぬもの、変わるもの

アフガニスタン・中村哲 関連年表

■引用

終章 日本の人々へ

破局と希望
 世の流れは相変わらず「経済成長」を語り、それが唯一の解決法であるかのような錯覚をすりこみ続けている。経済力さえつければ被災者が救われ、 それを守るため国是たる平和の理想も見直すのだという。これは戦を図上でしか知らぬ者の危険な思想だ。戦はゲームではない。アフガニスタンの経験から、 自信をもって証言しよう。>240>
 物騒な電力に頼り、不安と動揺が行き交う日本の世情を思うとき、他人事とは思えない。だが、暴力と虚偽で目先の利を守る時代は自滅しようとしている。 今ほど切実に、自然と人間との関係が根底から問い直された時はなかった。決して希望なき時代ではない。大地を離れた人為の業に欺かれず、 与えられた恵みを見出す努力が必要な時なのだ。それは、生存をかけた無限のフロンティアでもある。(pp.239-240)
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戦争と平和
 一九九二年、ダラエヌール診療所が襲撃されたとき、「死んでも撃ち返すな」と、報復の応戦を引き止めたことで信頼の絆を得、後々まで私たちと事業を守った。 戦場に身をさらした兵士なら、発砲しない方が勇気の要ることを知っている。
 現在力を注ぐ農村部の建設現場は、常に「危険地帯」に指定されてきた場所である。しかし、路上を除けば、これほど安全な場所はない。私たちPMSの安全保障は、 地域住民との信頼関係である。こちらが本当の友人だと認識されれば、地元住民が保護を惜しまない。
 そして、「信頼」は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。 それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。私たちにとって、平和とは理念ではなく現実の力なのだ。 私たちは、いとも安易に戦争と平和を語りすぎる。武力行使によって守られるものとは何か、そして本当に守るべきものとは何か、静かに思いをいたすべきかと思われる。 (p.244)
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不易と流行――変わらぬもの、変わるもの
 しかし、変わらぬものは変わらない。江戸時代も、縄文の昔もそうであったろう。いたずら>246>に時流に流されて大切なものを見失い、進歩という名の呪文に束縛され、 生命を粗末にしてはならない。今大人たちが唱える「改革」や「進歩」の実態は、宙に縄をかけてそれをよじ登ろうとする魔術師に似ている。だまされてはいけない。 「王様は裸だ」と叫んだ者は、見栄や先入観、利害関係から自由な子供であった。それを次世代に期待する。
「天、共に在り」
 本書を貫くこの縦糸は、我々を根底から支える不動の事実である。やがて、自然から遊離するバベルの塔は倒れる。人も自然の一部である。 それは人間内部にもあって生命の営みを律する厳然たる節理であり、恵みである。科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人の和解を探る以外、 我々が生き延びる道はないであろう。それがまっとうな文明だと信じている。その声は今小さくとも、やがて現在が裁かれ、大きな潮流とならざるを得ないだろう。
 これが、三十年間の現地活動を通して得た平凡な結論とメッセージである。(pp.245-246)
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■書評・紹介

■言及



*作成:北村 健太郎
UP: 20150809 REV: 20150923
アフガニスタン  ◇医療援助するNGO  ◇環境/環境思想  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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