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『視覚障碍をもって生きる――できることはやる、できないことはたすけあう』

栗川 治 20120720 明石書店,396p.


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栗川 治 20120720 『視覚障碍をもって生きる――できることはやる、できないことはたすけあう』,明石書店,396p. ISBN-10: 4750336327 ISBN-13: 978-4750336329 2850+ [amazon][kinokuniya] ※ v01.dpp.

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中途失明の予感におびえながらも大学生活を謳歌し高校教員になった著者が、やがておとずれた中途失明の困難をどう乗り越えたか。授業や生徒指導での取り組みや趣味の合唱やマラソンなど、できることはやる、できないことは助け合いながらのチャレンジの連続

■著者

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
栗川 治
1959年、新潟市生まれ。早稲田大学第一文学部哲学専攻卒業。20歳代後半で失明。全国視覚障害教師の会事務局長、「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会事務局長などを務める。第45回NHK障害福祉賞などを受賞。現在、新潟県立新潟西高等学校教諭(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

第1編 視覚障碍をもって生きる
 障碍をもって働く
 授業と学級
 生徒との関わり
 読み・書き
 歩行
 合唱
 ランニング
 生活と趣味
第2編 障碍者制度改革と政権交代
 革命的な推進会議の構成と権限
 政権交代の熱気の中で推進会議の議論が始まる
 広範で多種多様な当事者の意見
 官僚の巻き返しで問われる政治主導
 政権激震の中で第一次意見が閣議決定される
 泥まみれの改革
 「障碍者の問題」から「社会の問題」へ

■引用

◇pp.327-335.
第二編 障碍者制度改革と政権交代
6章 泥まみれの改革
1 政権の方向転換と旧勢力の巻き返し  
障害者自立支援法改正案成立
 権利条約とともに、障碍者制度改革のきっかけとなったのが、障害者自立支援法の廃止を求める運動であった。民主党、社会民主党は政権公約でその廃止を訴え政権交代を実現した。しかし、鳩山内閣が普天間基地移設問題で迷走する中で、自民・公明が障害者自立支援法の改正案を提出し、民主党までがそれに乗って2010年5月に衆議院で可決、参議院の厚生労働委員会も通過して参議院本会議で可決寸前のところで、障碍者当事者からの猛反発もあって国会閉幕、改正案廃案となったことは、既述の通りである(本編第5章)。
 これは改正案の内容の良し悪し以前に、「私たち抜きに私たちのことを決めるな」ということで推進会議が障害者自立支援法廃止後の総合福祉法と、新法制定までの間の当面の対応を論議している最中に、全く当事者に相談すらなく、議員立法という形で改正案が出されたことに最大の問題があった。自民・公明両党が、自らの与党時代の政策の手直しによって制度そのものの延命を図ろうとしたことは、賛否は別として一応理解はできる。しかし、民主党が自民・公明のそのような動きに呼応・同調して、しかも事前の説明すらない闇討ち的な手法で改正案提出・賛成していったことは、期待と信頼を「裏切られた」と障碍当事者が激怒したのも当然である。自公政権と同じ沖縄・辺野古に新基地を作る日米合意を結んだのが、ほぼ同時期だったのも単なる偶然ではなかろう。民主党政権は明らかに方向転換したと言わざるを得ない。
 従って、いったん廃案になった障害者自立支援法改正案も再浮上してくる。インクルーシブ教育の問題と同様に、民主党政権はダブルトラック状態に入り、推進会議に対しては障害者自立支援法廃止・新法制定の方針に変更はないと言明する一方で、国会対策の中では、自公両党との間で障害者自立支援法改正案成立をめざす動きも、陰ではしていたのである。
 結局、障害者自立支援法改正案は臨時国会に再提出され、11月18日に衆議院を通過。国会最終日である2010年12月3日に参議院で民主、自民、公明など各党の賛成多数で可決され成立した。改正法の正式名称は「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律」とされ、第一次意見に基づく閣議決定で、2013年8月までに廃止される障害者自立支援法と制定される新法(障害者総合福祉法)の「つなぎ」としての位置づけとされた。
 同法には、利用者の応能負担を原則とすること、発達障碍者が障害者自立支援法の対象になることの明確化、相談支援体制の強化、市町村による成年後見制度利用支援事業の必須事業化、障碍者向けグループホームやケアホームを利用する際の助成制度の創設、障碍児らが利用する「放課後等デイサービス」の創設、視覚障碍者の同行援護(歩行ガイド者が代読・代筆等を行うこと)の新設などが盛り込まれた。これらは、確かに個別の課題としては各障碍者団体から要望があったものであり、日盲連などは同行援護創設を含む障害者自立支援法の早期改正を自民党幹部へ陳情(*80)し続けてきたりもしていた。
 個々の要求は切実かつ一刻も早く実現を望むものであり、個別に見れば、改正されてよかったという障碍当事者がいることは事実である。しかし、政権交代前後までは、障害者自立支援法廃止、権利条約に基づく制度改革という大目標に向かって一致・結束していた障碍者団体が、新政権のもたつきの中で、個別利益によりバラバラにされ、個々の課題が政党間の取引材料に使われ、旧政権時代に出された改正案とほぼ同じものが、政権交代の実が上がる前に通ってしまったことは、得るものに比して失ったものが、あまりにも大きいと言わざるを得ない。しかも、6月の通常国会で廃案になった際にあれだけ強く反発された「私たち抜きで私たちのことを決めるな」が無視され、この臨時国会でも推進会議や総合福祉部会との協議もなく、国会での実質審議もないままの成立であった。
 この一連の動きは、民主党政権自身にとっても、政権交代の意義を自ら破棄する自殺行為であり、障碍当事者の代表としての推進会議もその正当性と権威を弱められ、結局は制度改革を阻もうとする旧勢力がさらに勢いを増長させることとなっていった。

*80 自民党幹部へ陳情:日本盲人会連合の音声版機関誌『日盲連アワー』2010年12月号の巻頭言で、笹川義彦会長(当時)は、「政治の不信と言いますか、与野党のいろいろなしのぎあいというようなことで、こういった法律(障害者自立支援法改正案)が廃案になるということは、私どもからすれば許せないことです。……(11月)30日の日に、自由民主党の石原幹事長に直接会って、なんとか、この国会中に成立をさせてほしいという陳情をいたしました。これに対して幹事長は、この問題は三回目になるので、なんとしても成立させたいということを話しておられました」と、報告している。


UP:20120916 REV:20220713
栗川 治  ◇WHO 
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