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『詩とことば』
荒川 洋治 20041200 岩波書店. → 20120615 岩波書店(岩波現代文庫B202),210p.
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last update:20160914
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荒川 洋治
20041200 『詩とことば』,岩波書店. → 20120615 『詩とことば』,岩波書店(岩波現代文庫B202),210p. ISBN-10: 4006022026 ISBN-13: 978-4006022020 860+税
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■内容
知らないうちに私たちは、生活のなかで、詩のことばを生きている。しかし、詩とは、なにをするものなのか? その意味を考えることは、あなたと世界とのあたらしい関係をひらくことにつながっている。詩をみつめる。詩を呼吸する。詩から飛ぶ。 現代詩作家、荒川洋治が、詩の生きる時代を照らしつつ、詩という存在について分析する。
■著者略歴
1949年、福井県生まれ。現代詩作家。早稲田大学第一文学部卒業。1975年刊の『水駅』でH氏賞受賞。以後、詩、詩論、文芸時評、放送などの分野で活動。 詩集『渡世』(高見順賞)、『空中の茱萸』(読売文学賞)、『心理』(萩原朔太郎賞)、エッセイ・評論集『忘れられる過去』(講談社エッセイ賞)、 『文芸時評という感想』(小林秀雄賞)など著書多数。
■目次
I 詩のかたち
行分け
その人が決めること
並べる
メモの世界
くりかえし
リズム
詩に、飛躍はない
散文は「異常な」ものである
II 出会い
ひとつの詩
コース
ある一覧表
詩のスピード
抒情小曲
詩のことば
眼と社会
詩の話
山林と農場
大塚甲山
詩と小説の「戦争」
III 詩を生きる
大阪
波
谷川雁
興奮していた
網野善彦を知らなかった
水晶狂い
空隙
作者になること
君あしたに去りぬ
深淵
IV これからのことば
夢
白秋・朔太郎・犀星
詩集をつくる
はじめての人たち
読者がいたら、こまる
詩の被災
歌うことははずかしいことである
銀行の詩
自信のある風景
コラム
詩を知る
歴史
新しい人
独楽
郡山の詩論
最後の四冊
あとがき
岩波現代文庫版のあとがき
参考文献一覧
■引用
IV これからのことば
詩の被災
大きな災害のあとで、大量のたれながしの詩や歌が書かれて、文学「特需」ともいうべき事態が生じた。
とくに詩のほうは、ただのおしゃべりのようなもので、表現の工夫も、その痕跡もない。平明でわかりやすいが、ただの自己主張に近いものだ。 だがこの即席の詩らしきものは、ことがことだけに、誰も何も言えないのをいいことに増長、拡大。人々の求める方向に流されていったのである。 呼応、支持する人は詩を書く人たちのなかにも多数いた。詩の雑誌も同調。翼賛的な空気もあった。
その詩を書く人にとっては、自分が詩人であるという特権的な姿勢をどこかで示したかったのだろう。 口から出てくることばをただ記録し、それを詩であると考えているのだから詩について十分な意識をもたないことは明白である。
そういうものを人びとは受け取った。 「そうか。詩は、この程度のものなのだ」と感じさせることになった。だとしたら、これは「詩の被災」であり、「ことばの被災」>161>である。 詩が、ことばが「被災」したのだ。詩に即すれば、ことばに即すれば、そう思うしかない。そのことにも意識をもちたい。 復興を願う気持ちは誰でも同じだが、敢えて記しておきたいと思う。
戦後に書かれた詩の「意識」に、ひとついいところがあったとしたら、だいじなことは書くが書かないことについては書かないということだ。 誘惑があってもそれをしりぞける。書かないことを、十分にもつ。簡単には同調しない。機に乗じない。そこで品位が保たれるという面があった。 「詩の被災」について詩人たちが意識をもたないことは、戦後の詩の理念が崩壊したことの印であり、戦後の詩のなかに、のちにこうしたことを引き起こす要素があったのに、 その点についての用意と吟味を怠ってきたことの証明だろう。「詩の被災」は、戦後の詩の帰結なのかもしれない。戦後のことばの帰結なのかもしれない。 従って「詩の被災」は、小さな傷であるとは思えない。詩のなかに、これからのことばのなかに影を落とすことになるだろう。少数の、それを感じとる人のもとで。
村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』(新潮社・二〇〇〇)に収められた短編五編(この他に刊行時の書き下ろしが一編)は、阪神淡路大震災から四年後の一九九九年、 文芸誌に「連作・地震のあとで」の副題を付して発表された。 「アイロンのある風景」>162>や「かえるくん、東京を救う」といった震災、および震災後の心の世界をとらえた秀作は、四年という時間をかけて書かれたものである。 それが文学のことばのもつ速度であり、人の通常の感覚に即したものだと思う。だがいまは文学も速報性を求められる。すばやくその場で書く。 そんな対処の姿勢を求められるようになったのだ。文学のことばの自立性は失われる方向にある。大きな変化である。
さらにいえば『神の子どもたちはみな踊る』のような作品が書かれても、その作品がものを書く人たち、ことばをあつかう人たちに十分に伝わっていない、 受けとめられていないということだ。すべての人が特定の作品を読む必要はない。 ただ文学作品がその内部にもつ意識や考えがどのようなものであるかを、遠くからでも感じとっておく必要はある。それが読書の最終的な意義である。 そのことも照らし出される機会となった。(pp.160-162)
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■書評・紹介
■言及
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*作成:
北村 健太郎
UP:20160914 REV:
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