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『近世イギリスの自殺論争――自己・生命・モラルをめぐるディスコースと人道協会』

松永 幸子,20120322,和泉書館,183+ixp.

last update: 20140820

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■松永 幸子,20120322,『近世イギリスの自殺論争――自己・生命・モラルをめぐるディスコースと人道協会』和泉書館,183+ixp. ISBN-10: 4862851290 ISBN-13: 978-4862851291 \3500+税 [amazon][kinokuniya]


■内容(埼玉学園大学HPより)

 自己・生命・モラルをめぐるディスコースと人道協会

 イギリスでは伝統的に自殺はself-killerと言われ文字通り自己殺人として扱われてきた。自殺者にはキリスト教式葬儀と埋葬が禁止され、土地や財産は没収、その家族にも累が及んだ。自殺大国でもあったイギリスで17世紀に入りジョン・ダンによる初の自殺擁護論『ビアタナトス』(1647年刊)が刊行され、それを発端にヒュームをはじめ哲学者や牧師、医師たちにより、擁護派と批判派による激しい自殺論争が展開された。
 本書は17・18世紀の自殺論争を、擁護論、批判論、医学論の三つの系譜から検討し、〈自殺は犯罪なのか〉という問いを軸に「自己保存」についての理解を自殺論争の重要な鍵概念として、「自己」とは何か、その所有と管理権が帰属するのは神か、国家か、個人かなど多様な議論を考察する。自殺者の検視で「心神喪失」とされるケースが増えるに伴い論争は医学的領域に収斂し、さらに自殺を精神衛生の問題とみなし自殺把握、自殺防止団体の源流となる王立人道協会が設立され、その活動の実態が膨大な史料で詳細に解明される。
 自殺観、生命観とモラル観の史的変容を考察し、教育学の視点から生命と教育の関連と意義を明らかにして、現代の自殺問題を考える上でも必読の文献となろう。


■著者紹介(本書より)

松永 幸子(まつなが さちこ)
長崎市出身。立教大学文学部卒業(西ミシガン大学交換留学)。東京大学大学院教育学研究科博士課程終了。稚内北星学園大学講師、東海大学准教授等を経て埼玉学園大学人間学部准教授。博士(教育学)。 〔論文〕「18世紀後半イギリスにおける人命救助と自殺防止」『イギリス哲学研究』2010年、「倉橋惣三の教育者論」『東海大学国際文化学部紀要』2010年 他。

■書評

◆広瀬 裕子,201308,「書評 松永幸子著『近世イギリスの自殺論争』」『日英教育研究フォーラム』日英教育学会編17:111-113
◆志田 絵里子,201309,「書評 松永幸子『近世イギリスの自殺論争 : 自己・生命・モラルをめぐるディスコースと人道協会』」『研究室紀要』東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室39:163-167[PDF
久保田 顕二,2013,「書評 松永幸子『近世イギリスの自殺論争――自己・生命・モラルをめぐるディスコースと人道協会』」『イギリス哲学研究』36:86-87


■目次

序章

はじめに
1 本研究の課題と方法
2 本書の構成

第T部 自殺論争

 第1章 自殺擁護論の系譜
1 17 世紀以前の自殺論―自殺把握のキリスト教的伝統
2 最初の自殺論―ジョン・シム
3 最初の自殺擁護論―ジョン・ダン『ビアタナトス』「自己保存」としての自殺
4 ある文学者の死とその波紋―「私こそが私自身の王」「愛の情念は美しい」
5 ヒュームによる自殺論
6 ヒュームの道徳論・教育論
道徳と理性・自己愛/人為的徳としての「正義」と「教育」/人為的徳の形成にかかわるものとしての「教育」
小括

 第2章 自殺批判論の系譜―自殺批判論の動揺と反撃
1 ジョン・アダムスによる反撃―生命の所有・管理権(Propriety)と人生目的論
2 自殺批判軸としての家族論
3 教育(Education)への注目

 第3章 医学的自殺論の系譜―自殺の医療化
1 『イギリス病』
2 メランコリーと自殺――17 世紀以前
ティモシー・ブライトのメランコリー論/ロバート・バートン『メランコリーの解剖』
3 自殺の医療化――自殺把握の全面的病因論化

第U部 人道協会(Humane Society)の出現とその思想

 第1章 イギリス初の自殺防止・人命救助団体の出現とその活動
1 協会の設立と自殺防止
協会の設立と目的/王立嘆願書・設立趣意書―ホーズの計画「自殺者の救助,人口増大への寄与」/「一般救助施設」の要求/学校と市民の教育
2 活動内容
年次報告書(Annual report)/ジャーナリズムの反応

 第2章 RHS の思想と教育―コーガンとグレゴリーを中心に
1 コーガンによる情念論・人間論
自己愛(Self-Love)と慈愛(Benevolence)/自己愛と教育
2 グレゴリーによる教育論・モラル論・自殺論
教育について―学校教育と幼児教育/モラルについて/自殺について
3 RHS における牧師たちによる自殺防止論と教育論―「同情」・「家族」・「愛国」

 結章―おわりに


■言及



■引用

「人はなぜ生きるのだろうか。また、生き続けようとするのだろうか。幾度と無く繰り返されてきた陳腐な問い。しかし、いまだかつて誰もその明確な答えを提示できていないという意味においては、常に斬新であり続ける問いである。この問いを孕んだまま、人類はその歴史の中で絶えず生と死の営みを繰り返してきた。そしてときに人は、自らの命を放棄するという手段を選ぶ。それはなぜか。また、その行為はこれまでの歴史の中で、どのように受け止められてきたのだろうか。
 自らの命を放棄する行為=自殺のあり方は、時代や国、性、年齢、職業の別などにより異なっており、これは自殺という現象が、その時代その社会の人間のライフサイクルのありようや、それが置かれている社会、教育(人間形成)的環境を浮き彫りにする一つの窓口たり得るということを明示するものである。」[松永 2012:3]



*作成:中村亮太 UP: 20140820 REV:
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