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『図書館サービスの可能性――利用に障害のある人々へのサービス その動向と分析』

小林 卓・野口 武悟 20120125 日外アソシエーツ,217.

last update:20120525

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■小林 卓・野口 武悟 20120125 『図書館サービスの可能性――利用に障害のある人々へのサービス その動向と分析』,日外アソシエーツ,217. ISBN-10: 4816923519 ISBN-13: 978-4816923517 \3990 [amazon][kinokuniya] d03r

■内容

内容説明
近年、重視されている“図書館利用に障害のあるすべての人々へのサービス”の実践・研究動向を一望できるレビュー論文集。最近15年間の研究を中心に850件の参考文献を分析・紹介します。公立図書館を利用する在日外国人のための多文化サービス、来館が困難な高齢者や入院患者や家族へのサービス、特別支援学校などの学校図書館、点字図書館、おもちゃ図書館、矯正施設生活者の読書環境などの研究と取り組みを文献により紹介。
内容(「BOOK」データベースより)
“図書館利用に障害のある人々へのサービス”の実践・研究動向を、参考文献850件のレビューを通して俯瞰。公立、学校、大学、点字の各図書館をはじめ、病院、矯正施設、おもちゃ図書館の幅広い取り組みを総合的に分析・紹介。

■目次

1章 「図書館利用に障害のある人々」へのサービス:公立図書館―総論―
2章 多様な利用者へのサービス:公立図書館―各論―
3章 特別なニーズを持つ子どもの学びと読書を支える:学校図書館
4章 均質な利用者像を超えて:大学図書館
5章 視覚障害者への情報保証の拠点:点字図書館
6章 患者・家族への情報サービス
7章 矯正施設の読書環境と図書館サービス
8章 子どもの発達の可能性を伸ばす:おもちゃ図書館
9章 まとめと展望:すべての人への図書館サービスに向けて
あとがき

■引用

p2 図書館利用に障害のある人々へのサービスについては,シンポジウムや集会の記録が報告書や連載として出版されたり,「図書館利用に障害のある人々」へのサービスが雑誌の特集号として掲載されることが多い。シンポジウムや集会の記録としては,『図書館利用の障害ってなんだろう』★8),をはじめとして,『みんなの図書館』に連載された「連続学習会 障害について考える:国際障害分類(改訂版)を手がかりに」★9)などが,代表的なものである。雑誌の特集号は,各論についてのものはそちらに譲るが,図書館利用に障害のある人々へのサービス全般の特集号としては,『現代の図書館』の「特>>p3>>集:イネーブル・ライブラリー」(1999.9)★10),『みんなの図書館』の「特集:障害者サービスを広めるために」(1997.6)★11),「特集:利用者にとって使いやすい図書館」(2000.8)★12),「特集:障害者サービスは進んでいるか」(2007.1)★13),「特集:みんなに本を:読書に障害のある子どもたちへ」(2009.3)★14),「特集:障害者サービスは今」(2011.8)★15),『図書館雑誌』の「特集:すべての人が知ること,楽しむことをめざして」(2003.4)★16),「特集:2010年『国民読書年』に向けて:多様な読書ニーズに応える」(2009.7)★17),『こどもの図書館』の「特集:すべての子どもたちに読書のサービスを」(2001.1)★18),『情報の科学と技術』の「特集:情報バリアフリーとしてのユニバーサル・サービス」(2009.8)★19)等がある。

p30 「なごや会」は,2002年10 月に「アジア太平洋障害者の十年」の最終年にあたり,全国視覚障害者情報提供施設協会,日本図書館協会とともに,「障害者の情報アクセス権と著作権問題の解決を求める声明」★16)のアピールを行い,2006年には『録音雑誌全国実態調査報告書』★17)を出している。[...]音訳・点訳の多くがボランティアによって行われていることについては,様々な意見があったが,2005年4月に日本図書館協会障害者サービス委員会が「公共図書館の障害者サービスにおける資料の変換に係わる図書館協力者導入のためのガイドライン:図書館と対面朗読者,点訳・音訳等の資料製作者との関係」★19)を打ち出した。ここでは,明確にメディア変換はボランティアではなく「図書館協力者」の手によって行われるべきことが述べられている。

p71  1.3 テクノロジー関連
 大学図書館の主として視覚障害者に対するサービスのテクノロジー関連については,筑波技術短期大学の村上佳久らの一連の業績★11)が出色である。筑波技術短期大学は,現在筑波技術大学に改組されているが,「聴覚障害者が主にものづくりを学ぶ『産業技術学部』と,視覚障害者が主に健康づくりを学ぶ『保健科学部』の2学部と,各学部の学生やスタッフを支援する『障害者高等教育研究支援センター』から構成されて」いる(大学のホームページより)特色のある大学で,2010年の著作権法改正以前より政令指定を受けていたので,録音図書の制作などにおいて,点字図書館に近い権利をもっていた。
 村上らが,けっして潤沢とはいえない予算の中で,その時点での最善の「障害者のための電子図書館」づくりに取り組み,その成果を発表し続けてきた意義は大きい。

p72 特筆すべきは,2009年の「書籍デジタルコンテンツ流通に関する研究会」の報告書★15)で,これは視覚障害等をもつ学生が書籍を利用しやすくなるための課題を検討し対策を提案したものであり,課題としては,@マンパワーと財源の不足,A複製データの作成・提供に関する実施体制の欠如,B DTP 版下データ活用の困難,があげられておりアクセシブルな書籍デジタルコンテンツの流通促進のため,@複製データ作成の効率化,Aメタデータの共有化,を提案している。

p77 先日,マイクロソフト社がDAISYに取り組み始めたことと考え合わせると,飛躍するようであるが,歴史的なメディアの一大変換期には視覚障害者をはじめとする障害者が大きな役割を果たしていることが多々あるのではないか,という仮説が提唱される。
 昨年2010年はアマゾン社のKindle,アップル社のiPadなどにより,日本における何度目かの「電子書籍元年」になるのではないかといわれていた。その行く末はまだ定かではないが,我々は,こうした新しいデバイスなり文化システムなりが普及するとき,それをテクノロジーの成果としてとらえ,メーカーのいわば「プッシュ」にばかり目が奪われがちである。
 しかし,「技術的に可能である」ということと,「それが社会に受容(レセプト)される」ということは,別のものであって,そこにはユーザ側のいわば「プル」の要因がなければならない。よくインターネットの説明などがされる場合,「ARPAnetが前身であり」「TCP/IP のプロトコルを採用したことにより」という語り方がされるが,そうした技術的なことと同等以上に重要なのは,それを受け入れて育んだ1960年代アメリカ学生運動の流れをくむ,アメリカ西海岸の草の根ネットワーク,ミニコミ文化があったということである★注4)。
 電子書籍が今のように注目をあびる前から,視覚障害者と図書館関係者は,テキスト(および音声)のデジタル化に注目し,そのフォーマットを,試行錯誤しながらつくりあげてきた。今日の電子書籍のユーザビリティについて,視覚障害者コミュニティが,「プル」の文化(下地・準備)をつくり,開発へのフィードバックを行ってきたのである。このことを考えると,塙保己一が,今日までの日本の「文化」のもっとも底のところにある「20字× 20行の400 字詰め原稿用紙」の基礎をつくりあげたことは象徴的であるといえる。
 視覚障害者が「プル」のすべてではないし,もちろん電子書籍の開発にはもっと様々な要因が複雑にからまっている。しかし,「バリアフリー>>p78>>出版」「出版のユニバーサルデザイン」の流れが,これに大きく寄与したことは間違いないだろう。

p83 1.3.1 点字図書館史
 単行書レベルでは,小平千文と山岸周作の共著『長野県上田点字図書館のあゆみ:全国最初の公立点字図書館』★3)が白眉である。[...]この時期に刊行された記念誌としては,『神戸市立点字図書館開設50周年記念誌:利用者やボランティアとともに歩んで50年!』★5),『霊友会法友文庫点字図書館五〇年誌』★6)がある。また,日本点字図書>>p84>>館の点訳奉仕活動の歩みをまとめた『点字とあゆんだ70年:日本点字図書館点訳奉仕活動の記録』★7)も貴重な1 冊である。[...]また,キャラミ・マースメと河内清彦が「昭和初期における日本点字図書館の事業継続要因として失明軍人の果たした役割」★9)を発表している。この論文では,第二次世界大戦中にあって政府から一切の資金援助を受けることなく日本点字図書館の事業が継続できた要因について失明軍人の存在に着目して考究している。このほかにも,金智鉉が1970年代に視覚障害者の読書権運動が起きた要因を「利用者のニーズと図書館の対応」という観点から考察する論文★10)を,野口武悟が1940年に日本盲人図書館(現在の日本点字図書館)が創設される以前の東京地域における点字図書館の歴史の解明を試みた論文★11)を,それぞれ発表している。
 研究論文以外では,ルポルタージュや報告として,陸根海★12)が韓国点字図書館の創設以降30年の歴史を,田中徹二★13)が日本点字図書館の1990年代の10年間の歴史を,阿佐博史★14)が日本点字図書館のテープライブラリー発足以降50年の歴史を,それぞれ振り返っている。また,明治期の視覚障害者が点字図書館創設に寄せた強い期待について当>>p85>>時の点字雑誌『むつぼしの光』掲載記事を通してまとめた大橋由昌の報告★15)や,名古屋ライトハウス・名古屋盲人情報文化センターの理事長兼施設長・岩山光男に焦点を当てて,同センターの40年の歴史を振り返る立花明彦の報告★16),東京のロゴス点字図書館の50年の歴史と現況をまとめた和泉真佐子の報告★17)もある。

  1.3.2 人物史
 点字図書館に関わる人物史を扱った文献として,まずは,日本点字図書館の創設者である本間一夫の自伝『我が人生「日本点字図書館」』★18)が挙げられよう。同書は,書き下ろしではなく,これまでに発表してきた論文等を1 冊にまとめたものとなっている。本間の生きざま,日本点字図書館への思いを感じ取ることのできる1 冊である。本間については,インタビュー記事「ひとすじの光芒 福祉の源泉:日本点字図書館」★19)や阪田蓉子による講演録「本間一夫と日本点字図書館」★20)も興味深い。
 また,ライトハウスの創設者である岩橋武夫の自伝『光は闇より』★21)も重要である。わが国の点字図書館発展の礎を築いた岩橋と本間。この2人の生涯と思想を知っておくことは,点字図書館の実践と研究に携わる者にとって不可欠といっても過言ではあるまい。

p87 2.1.2 電子化・ネットワーク
 電子化やネットワークに関するものとしては,さらに,情報システムのあり方や提案に関するものと,実際の電子化やネットワークの事例に関するものに分けられる。
 前者としては,まず,全国視覚障害者情報提供施設協会が2008年にまとめた『「視覚障害者に対する新たな情報提供システムに関する研究」報告書』★28)及び『「視覚障害者に対する新たな情報提供システムに関する研究」報告書 資料編』★29)が外せない。この研究は,視覚障害から生じる「情報格差」をICT(情報通信技術)の活用によって解消する新たなシステムを提案し,視覚障害者が利用しやすい情報環境を整備することを目的として進められたものである。当事者へのヒヤリングや座談会,ニーズ調査等を踏まえて,次のような提案を示している。すなわち,@最新のICT を活かした「新ないーぶネット」の構築,Aデジタル録音図書の一層の改善,B視覚障害者用検索サイトの構築,C必要な情報に辿り着くための支援を行うオペレータセンターの構築などである。いずれも,今後の視覚障害者に対する情報提供や情報システム構築のあり方を考える上での重要な提案といえる。
 また,宮崎英一らが,墨字図書として広く一般に流通している漢字かな混じり文の自動点字変換システムを作成し,さらにこのシステムとインターネットを組み合わせた仮想電子点字図書館を提案する論文★30)を発表している。この電子点字図書館システムは,音声インターフェースを提供するとともに,インターネットの持つ双方向性を応用してボランティアが自宅から点字図書入力も可能とするものであるという。一方,後者としては,2001年2月に運用が開始されたインターネット版「ないーぶネット」事業(その前身は,1988 年の「IBMてんやく広場」にまで遡る)のシステムや機能等を紹介する滝沢政晴によるもの★31)と,>>p88>>日本点字図書館の電子化(電子図書館の取り組み)の現状を報告する田中徹二によるもの★32)がある。

p98 震災に関しては,1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を受けて『点字図書館問題』が同年8月発行の第60号で「阪神・淡路大震災から半年」と題する特集を組んでいる。この特集には,神戸市立点字図書館の伊賀かおるによる「その時,点字図書館は」★80),西宮市視覚障害者図書館の中野堅志による「半年が過ぎた被災地から」★81),兵庫県点字図書館の萩原郁夫による「震災雑感」★82)と題する論文が掲載されている。

■書評・紹介

■言及



*作成:青木 千帆子
UP: 20120525 REV:
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