HOME > BOOK >

現代社会政策のフロンティアC
『労働統合型社会的企業の可能性――障害者就労における社会的包摂へのアプローチ』

米澤 旦 20111020 ミネルヴァ書房,p213.

last update:20120525

このHP経由で購入すると寄付されます

■米澤 旦 20111020 『労働統合型社会的企業の可能性――障害者就労における社会的包摂へのアプローチ』,ミネルヴァ書房,p213. ISBN-10: 4623061493 ISBN-13: 978-4623061495 \6300 [amazon][kinokuniya] ※ w0105

■内容

(「BOOK」データベースより)
 本書は、就労困難者の社会的包摂に取り組む労働統合型社会的企業である共同連の事例研究を通じ、その事業活動の実態と特徴を明らかにするとともに、サードセクターを再分配・市場交換・互酬の「媒介の場」として捉えることの有効性を主張する。
 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
 米澤 旦
 1984年広島県生まれ。2009年東京大学大学院人文社会系研究科社会学専門分野修士課程修了。現在、東京大学大学院人文社会系研究科社会学専門分野博士課程、日本学術振興会特別研究員DC2(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

序章 労働統合型社会的企業の問題群
 第一節 問題の背景と本書の主題――生活保障システムの中の労働統合型社会的企業
 第二節 本書のねらい――「媒介の場」としてのサードセクター
 第三節 本書の校正

第一部 社会的企業の概念と理論

第1章 労働統合型社会的企業とは何か
 第一節 社会的企業の登場とその背景
 第二節 労働統合型社会的企業の役割
 第三節 労働市場から排除される障害者
第2章 「媒介の場」としてのサードセクタ
 第一節 社会的企業研究の動向:
 第二節 社会的企業の独立モデル
 第三節 社会的企業の媒介モデル
 第四節 両者の違いと含意

第U部労働統合型社会的企業の事例分析

第3章 共同連といぅ社会的企業
 第一節 共同連の設立経過と現在
 第二節 対象事例の特性
第4章 労働統合型社会的企業における資源の混合
 第一節 分析の枠組み――労働統合型社会的企業における資源の混合
 第二節 共同連における各資源の要素
 第三節 いかに資源が混合されているのか
 第四節 社会的企業の資源の混合を捉える視点

第5章 労働統合型社会的企業による包摂戦略の多元性
 第一節 分析の枠組み――労働統合型社会的企業の類型モデル
 第二節 労働統合型社会的企業と自立支援法
 第三節 なぜ三つの労働統合型社会的企業は異なる反応を示したのか
 第四節 社会的包摂の多元性を捉えるために

第6章 労働統合型社会的企業の目的の複数性と対立
 第一節 分析の枠組み――社会的・経済的・社会政論的目的
 第二節 わっぱの会の歴史と直面する課題
 第三節 分配金制度をめぐる意見の対立
 第四節 対立に注目する意義

終章 労働統合型社会的企業と「媒介の場」という視角の可能性
 第一節 本書の知見
 第二節 本誉の意義と限界
 第三節 社会的企業研究の課題――サードセクターを生活保障システムへと位置づける

あとがき

■引用

p2 雇用保障と社会保障、そして公的組織(制度)と私的組織(制度)の組み合わせ[...]労働統合型社会的企業は、ちょうどそれらの二つの軸の考査に位置するという点で特徴的である。

p17 社会的企業概念が形成されたのは一九九〇年代のアメリカや欧州[...]DTIは社会的企業を、「社会的な目的のために活動し、その収益は、株主や所有者の利潤を最大化するためではなく、主にその事業やコミュニティのために再投資される」事業体として定義する(DTI 2002: 1)。

p18 サードセクターの組織には、大別すると協同組合的な組織とNPO的な組織という二つの形態

p20 NPOアプローチでも協同組合アプローチでもとらえることが困難な新しい企業組織をとらえるために作り出されたのが「社会的企業」という概念

p22- カーリンは、欧州と米国の社会的企業の概念や実態について比較検討
 (1)社会的企業の定義を巡って違いが存在
 (2)欧州と米国では、社会的企業が注目されるようになった歴史的経緯が異なる…欧州においては「福祉国家の危機」、米国においてはNPOなどボランタリーセクターへの政府援助の抑制
 (3)法的環境…欧州では、[...]一九九〇年代以降、政府とEUが中心となって支援制度が構築。アメリカでは、社会的企業への支援と実態把握において中心的な役割を果たすものは民間の財団
 (4)社会的企業の抱える課題…欧州では、行われるサービスの幅が狭いこと、社会的企業に対するはっきりとした法人格がないこと。アメリカでは、採算に合わない人々にはサービスが提供されない、非営利組織が営利化するために市民団体が弱体化している、政府の関与が欠如
⇒欧州の社会的企業概念はNPOと協同組合の中間領域、アメリカの社会的企業概念は一般企業とNPOの中間領域として考えることができる(藤井, 2007:87)

p53 社会的企業/サードセクターの二つのモデル…@独立モデル、A媒介の場モデル
 @独立モデル:社会的企業は市場や政府から独立した原理を保持するととらえる
 A再分配(政府)、市場交換(市場)、互酬(コミュニティ)の原理の媒介の場ととらえる

p81 忘れてならないのは、さまざまな活動や目的の数および相対的な影響力が対立的となりうる、あるいは時間とともに変化することもある経済的な目的、社会的な目的を例にとれば、最善のコミュニティサービスを立ち上げる問目的が労働市場に統合する問目的よりも優先され、互いに対立することもありうる。企業組織自身の経済的潜在力を持続させ強化するという一方での目的と、他方でのコミュニティの中での弱者であるメンバーのために引き受けられる責任との間には、痛みを伴う対立が起こることが多い(エヴァース 2001=2004:410)

p82 目的の複数性が存在するのであれば、対立が起こることは容易に想像することがd系る。このような成員間の対立は、社会的企業による社会的包摂へのアプローチを理解するうえでは有力な視座となりうる。 ???

p84 サードセクターの諸組織(特に、WISE)の場合、その混合・多元性・対立に注目する視点が必要になる。
@WISEは持続的経営と適切なアウトカムを理解することが求められる
AWISEが取り組む社会的排除とい問題に対しては多様なアプローチが求められる
Bサードセクターの諸組織は、まだ定式化された解決法が見つかっていない問題を扱い、複数の目的を抱えているがゆえに制約が存在する

p89 本書で事例分析を通じて取り組むのは以下の三つの問い
@対象となるWISEが政府、市場、コミュニティの要素を以下に混合しているのか
A対象となるWISEが同種の目的を持った団体の中でいかに位置づけられるのか
B対象となるWISEにおいていかなる意見の対立が見られるか

p162 スワンベーカリーと共同連は、福祉的就労の場が経営ノウハウを持たず、行政からの補助金に依存的であり、障害者に対して最低賃金以下の収入を提供していることを批判する。両者はそろって、福祉的就労における「非市場的側面」に否定的であるということができる。
 しかしながら、両者には、能力差への対応をべぐって一定のスタンスの違いがある。[...]スワンベーカリーの考え方は、能力主義を前提としているといえる。その一方で、共同連は、「反能力主義」という理念を掲げている

p194 複数の目的を同時に追求することが求められる社会的企業では、特定の理念に従うだけでは持続可能的な経営や効果的な社会的目的の達成は難し費と考えられる。

p195 成員間の考え方や合理性の対立を前提としたうえでの「目的の混合」という視点が重要である。複数の目的をバランスさせる性格は、これまでの非営利組織論でも指摘されてきた。[...]ただし、バランスの状態に達する前局面として「異なる合理性」が対立する場面にも注意しなければならない。なぜならば、この対立という局面にこそ、社会的企業の置かれる社会的文脈や直面する問題を理解する手掛かりが存在すると考えられるためである。[...]社会的企業で、どのような点で考え方の対立が存在するかを問うこと、そしてそれがどのようなプロセスの下で解消されるか、もしくは解消されないかを明らかにすることは、今後の社会的企業研究で問われる課題である。

■書評・紹介

■言及



*作成:青木 千帆子
UP: 20120525 REV:
障害者と労働 共同連 身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)