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『精神科医――隠された真実』

斉尾 武郎 20110818 東洋経済新報社,プレミア健康選書,216p.


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■斉尾 武郎 20110818 『精神科医――隠された真実』,東洋経済新報社,プレミア健康選書,216p. ISBN-10: 4492059369 ISBN-13: 978-4492059364 [amazon]/[kinokuniya] ※ m.

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 「外科や内科の病気、たとえば外科なら骨折したとかケガをしたとか、内科なら糖尿病とか胃潰瘍といったものではこの薬を出して、こう経過を見てという、治療法がある程度標準化されていますし、まあ、誰でもそれなりに納得のいく評価基準があります。
 ところが困ったことに精神科だけは事情が異なっていて、基本的な診断方法や治療方法が定まっていないのです。
 (中略)たとえば精神科医3人が同じ患者を診たら、ケースによっては3人とも違う診断・処方をしてしまう。
 そしてそういうことが稀でない。そのぐらいのばらつきがあるのです」(「はじめに」より)

医学界の異端児が精神科医の真実に斬り込んだ1冊

 「なぜこの薬が?」「誤診ではないか」――内科にはありえない「おかしな処方・診断」が多すぎる精神科。
 さらには、患者を苦しめる“名医”の裏技処方、病をこじらす心理療法、治療の見通しを語らずいつまでも投薬し続ける医師がはびこる。
 内科医・精神科医・産業医として他の医師が書いた処方箋・診断書を300通以上見てきた著者が明かす真実。誰も語らなかった「精神科医の選び方」も紹介。

内容(「BOOK」データベースより)
 「なぜこの薬が?」「誤診ではないか」―内科にはありえない「おかしな処方・診断」が多すぎる精神科。内科医・精神科医・産業医として他の医師が書いた処方箋・診断書を300通以上見てきた著者が明かす真実。誰も語らなかった「精神科医の選び方」も紹介。

■目次

第1章 私が見たデタラメな薬漬け医療
第2章 精神科医はうつ病を治せない!
第3章 医療の落とし穴――直すどころか病を悪化させる
第4章 精神医療の病理――なぜ病気は治らないのか
第5章 産業医が見た過酷な現代社会
第6章 精神科医は「壁のない医師」であれ
第7章 誰もいわなかった精神科の選び方
最終章 あとがきに代えて

■引用

 「おかしな治療法を提唱する大先生
 有名な精神科医の中には、時々おかしなことをいい出す先生がいるものです。
心理療法の名土として有名な先生がいらっしやるのですが、この先生は「発達障害を体操で治す」などという趣旨の本を出しておられます。発達障害(心身の発達過程が人生の早い段階で損なわれ、社会生活に何らかの支障をきたす状態)を体操で治すことができるということについては、エビデンスは何もありません。分類するならホメオパシーやアロマテラピーと同じ代替療法の一種なわけで、精神科医がそういうもので発達障害が治るなどと、もっともらしく一般向けの本に書いていいのか、疑問に思わざるをえません。
 それだけならまだしも、この先生は「Oリング(オー・リンク)テスト」で薬が合うかどうかを決めるというのです。「Oリングテスト」というのは、左右の手の親指と人差し指でつくった輪をつなぎ合わせて引っ張り合い、その輪がどこで開くか、あるいは開くかどうかという簡単な方法で、身の回りのものが自分の身体に合うかどうかを調べる方法です。これで、身体のどこの部分が悪いか、とか、薬の合う合わないを央める、ということを学術的に論じている医師が結<0123<構大勢います。これはいわば、偽科学です。科学者であるべき医師がOリングテストで薬を決めるなど、私からすれば噴飯ものですが、大真面目にそれを行なっている有名な先生がいるのです。権威ある先生なので、彼を支持する医師たちは反対もせず真剣な面持ちで話を聞いているのです。
 この先生の信奉者のひとりに某国立大学の元教授(この人も多くの糟神科医の「信仰一を集める大物中の大物教授です)がいますが、彼はエッセイで「薬の飲み心地で効くかどうかを決める」という発表をしています。
 「官能的評価」といって、飲んだときに効く薬と効かない薬とでは「味が違う」というのです。ご自分も患者に出す前にひと通り飲んでみるといいます。
 さらにこれを受けてある先生が、「薬物の官能的評価」をテーマにした本を書いていて、飲んでみて、甘い薬だけを飲みなさいというわけです。つまり飲んでみて、「おいしいな」と思えばその薬は効くし、「まずい」と思ったら効かない。本人が飲んでみて気に入ったのだけを飲めばいい、飲み心地が重要であり、それを自分の感性で見極めましょうというわナです。
 これは申し訳ないが、寝言・たわごとの頬としか思えません。「良薬口に苦し」という言葉もあるし、苦かろうとまずかろうと効くものは効くのです。薬がおいしいとかまずいとかいう話は論外です。もしこの先生たちの主張が正しいのなら、製薬会社は万人がおいしいと感じるようにつくれば、よく効く薬をたくさん売れるということになるので、これまでの薬学や医学の理論を根底から覆すことになるのではないでしょうか。
 一回飲んで効いた気がする、気持ちがよくなったというのはもはや麻薬の世界、ジャンキーの話です。精神科の薬は毎日飲んで、一定期間を経過してはじめて効いたかどうかを判断するものです。それは多くは8週目から12週目でず。飲んですぐ気持ちよくならなくくも、続けて飲んで1カ月後、2力月後に効いていればいいのです。精神科の薬というものはそういうものです。それなのに官能的評価などとうそぶいているのは私にとってはもはやオカルトの世界です。そして誰もそれをたしなめようとしないのです。

 ウケ狙いで薬を出す医師

 ところでなぜそんなへンなことを言い出す医師がいるのかというと、「おいしい薬を飲みなさい」といえば患者さんのウケがいいからにほかなりません。
 普通は医師がこの薬を飲めといったら患者さんはいやいやながらも飲むものですが、それを自分が気に入った薬だけを飲めばいいよという話であれば、患者さんにとってもこんないい話はありません。
 さらに驚くべきことに、この先生たちの「流儀」で、とんでもない治療を行なう医師がいるのです。「官能的評価」から派生した考えですが、「この薬とこの薬の飲み合わせがいい」などと堂々<0125<と患者さんに勧めているのです。
 薬には薬理の基本というものがあります。基本は薬は1種類で飲むものです。2種類を掛け合わせて飲むことで効果のある薬もありますが、それはあくまでも例外です。
 薬理の基本は単剤であり、抗うつ薬の多剤投与のところでも述べたとおり、1種類を一定期間飲んではじめて治療効果のあるなしを判断すべきものです。
 それを無視して、飲んですぐ効いた感じがするというならば、現在の薬理の基本となっている「プラセボ試験」が成り立ちません。プラセボ試験というのは、実際に薬を飲んだ人と偽薬を飲んだ人との治療効果を比べるものですが、薬を飲んだ本人にはどちらかわかりません。「飲み心地」などに左右されるというなら、プラセボ試験は何のためにあるのかという話です。
 それを「飲み心地」だとかへンなことをいった挙句、「薬のソムリエ」だと自称している先生がいるのですからめまいがしてきます。
 私は長くEBM(ある治療法が効くかどうかは動物実験の結果だけでは判断できず、しっかウとした研究方法にしたがって多数の人間に実験――これを「臨床試験」と呼びます――してみてはじめてわかるものだということを主張する学問、あるいはそうした主張に基づく医療のあり方)を研究し、根拠に基づく医療というのを志しています。エビデンスに基づかないものは基本的に信じません。<0126<
 とかく精神科の有名な先生はこのようなユニークな個人的見解を発表されますが、それをまともに受けて、本当に治療に応用してしまっている先生がいるのは大変困ったことだと思います。こうしたユニークな先生の中には、一方では迷述信めいた治療法を主張しながら、一方ではおかしな科学的メカニズム論を主張する方がいます。ある学会での発言で、発達障害のある子どもが将来パーソナリテイ障害(昔は性格異常とか、変質者とかいわれていたもので、現在もそれを病気として扱うことの是否が問題となっている)を発症する可能性について議論されていたときに、偉い先生が立ち上がって、「そうした子どもたちに脳の器質的な障害があることをいかにして告知すべきかということをきちんと議論すべきです」と発言したときには驚きました。発達障害のある子どもに脳の器質的な障害があるという仮説も、発達障害のある子どもがパーソナリティ障害を発症するという仮説も、医学的には証明されていません。「告知」という言葉は医諦の見解を断定的に伝えることであり、医師が十分な情報を伝えた上で、患者が十分に理解した上での治療の選択への同意を示す「インフォームド・コンセント」とは違う、とする意見もあります。詳しく議論したわけではないのでこの先生の真意はわかりませんが、一瞬、この皆の信奉を集めている先生の倫理観を疑ってしまいました。」(斉尾[2011:123-127])

■言及

◆立岩 真也 2013/12/10 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社,433p. ISBN-10: 4791767446 ISBN-13: 978-4791767441 2800+ [amazon][kinokuniya] ※ m.


UP:20120102 REV:20130818
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