HOME > BOOK >

『震災トラウマと復興ストレス』

宮地 尚子 20110810 岩波書店,63p.

last update: 20110909

このHP経由で購入すると寄付されます


宮地 尚子 20110810 『震災トラウマと復興ストレス』(岩波ブックレット),岩波書店,63p. ISBN-10: 4002708152 ISBN-13: 978-4002708157 \525 [amazon][kinokuniya] d10 m t06

■内容

未曽有の災害が刻んだ心の傷(トラウマ)は、時とともに思わぬストレスや人間関係のトラブルとして表れる。なぜ生き延びた被災者が罪の意識に苦しみ、支援者が燃え尽き、遠くにいる人までが無力感にとらわれるのか。震災のトラウマが及ぼす複雑な影響を理解し、向き合い、支え合うための一冊。

■目次

1章 震災とトラウマ――“環状島”を描く
2章 被災者の位置――“内斜面”
3章 支援者の位置――“外斜面”
4章 被災地から遠い人たちの位置
5章 復興とストレス

■引用

環状島は「感情島」でもあります。意識的に二つを重ね合わせたわけではありませんが、トラウマがもたらす感情の強度、切迫度がつくりだす地形が、まさに環状島なのです。p.8

環状島を発想したきっかけは、ジブチの難民キャンプで医療援助をした時に、外からきた者ができることは限られていて、けっして難民全体を救うことはできないし、最も悲惨な状況のところには入っていけないと思ったことです。(宮地尚子「難民を救えるか」『トラウマの医療人類学』みすず書房、二〇〇五年)。その後もトラウマを負った人たちと接する中で、傷が深い人ほど、手を差し伸べることができないと感じ続けました。それでもなお、傷ついた人のかたわらに絶望せずに留まり、支援に関わり続けるにはどうすればいいのかと考えて、思いついたのが「ドーナツ地帯」のイメージです。p.13

支援者どうしには、どのような<風>が吹くのでしょうか。被災者のために役立ちたいという思いが共有され、人間関係もうまくいくのでしょうか。必ずしも、そうではありません。まず誰が(どの団体が)最も支援しているのかという「支援競争」があります。p.28
…次に、「共感競争」です。誰が、一番被災者のことをわかっているのかを、知らず知らずのうちに支援者は競争してしまいます。…<外斜面>からどれほど<内海>に近づいたかが、支援者が言葉を発する際の「資格」や「正統性」に関与するのです。p.29

環状島は常に強い<風>にさらされています。大切なのは、<風>のないことがいいことだと捉えるのではなく、<風>は強いものなのだということや、どんな<風>が吹きうるのかを知っておくことです。そして、自分が人間関係に悩んだり、激しい感情のやり取りに巻き込まれたりしたときに、それはどのような<風>なのか、どういう位置関係で<風>がおきているのかを理解することです。p.35

被災地から遠く離れた人たちにも、震災は大きな心の負担を与えています。直接の被害を受けたわけではないのに、恐怖や不安、罪悪感や無力感、苛立ちや怒りなど、自分の感情に悩まされ、混乱や疲労感に戸惑っている人は少なくないようです。直接被災したわけではないからこそ、自分の精神状態をどう理解し、どう処理すればいいのか戸惑っているともいえます。p.38

運命共同体として、同じ生活レベルで苦楽を共にすることが当然とされがちなのが、家族です。…恋人や親しい友人なども、気持ちを共有することが期待されます。…親しい人との間でも、境界線を自然に引ける人もいれば、一体感に亀裂が入ったようで、どうすればいいかわからなくなる人もいます。ともに喜ぶことは簡単でも、ともに苦しむこと、「共苦の実践」はかなり困難です。p.46
罪悪感をもたないことは、薄情とは限りません。自分の力が及ぶ範囲は限られているという健全な認識や、その人を救うことができるのは究極的にはその人だけ、という冷めた意識があるのかもしれません。罪悪感は、相手との距離を遠ざけてしまうこともしばしばあります。相手は話を聞いてほしいだけなのに、重荷を共に背負うことを強いられたような気持ちになったり、相手の苦痛を取り除くよう求められているように感じると、それができない、したくない自分に罪悪感を感じて、遠ざかってしまうのです。p.47

巨大な一つの島から、二つの大きな島へ、それからたくさんの島へ。いつまでも残る痛みと、薄れてゆく痛み。時間の流れで強まっていく記憶と、弱まっていく記憶。傷つきの内容ごとに島に分かれ、支援者もそれぞれに別れていきます。p.54

おきることが予測されれば、それへの抵抗も可能です。<内斜面>から<内海>に落ちないようにサポートする。<外斜面>の支援者を減らさない。傍観者を<外海>から<外斜面>に誘う。<水位>を上げない。一つの大きな島影を残しつつ、新たな島々を想像/創造していく。p.55

特定の被害について、ここに環状島を想像してみるのも有用です。自分がどこにいるのか、仲間はどこにいるのか、似たような被害がこれまでになかったか、あったとしたらその被害者たちはどのようにその困難を乗り越えていったのか、どこに支援者がいそうかを考えやすくなります。…もっと大きく視野を広げ、復興を自助努力の問題ではなく、再植民地化の問題と捉えてみたり、ディアスポラと捉えること、新たな価値観や行き方の創造の過程と捉えることで、新たな環状島を描くことができます。p.56


■書評・紹介


■言及




*作成:山口 真紀
UP: 20110909 REV:
精神障害/精神医療  ◇トラウマ/PTSD  ◇災害と障害者・病者  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)