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『精神障害法』

池原 毅和(いけはら・よしかず) 20110720 三省堂,400p.

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池原 毅和 20110720 『精神障害法』,三省堂,400p. ISBN-10:4385323208 ISBN-13:978-4385323206 \3400+税 [amazon][kinokuniya] ※ m, i05

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三省堂ホームページ[外部リンク] より

 精神障害と社会と法の関係を体系的に明らかにした初めての概説書。治療同意、強制入院、個人情報保護、成年後見、自立支援法と総合福祉法、刑事責任と医療観察法など多くの論点を新たな地平から照らし出す。当事者・家族・精神保健医療福祉にかかわるすべての人に最適な画期的なテキスト。

■目次

第1編 総論
 精神障害法の意義
 国際人権規範および憲法上の基本規定
 精神障害のある人に対する差別立法と反差別立法
第2編 医療と精神障害法
 総説
 精神医療における患者の自己情報コントロール権
 強制医療の許否とその限界
第3編 精神障害のある人の経済的、社会的、文化的権利
 障害のある人に関する経済的、社会的、文化的権利
 経済的、社会的、文化的権利を具体化する法制度
第4編 成年後見・保護者制度と権利擁護制度
 成年後見制度と保護者制度
 精神保険福祉法と医療観察法の人権擁護システム
 その他の利権擁護制度
第5編 刑事事件と精神障害法  責任能力
 訴訟能力
 刑事収容施設内処遇と社会内処遇における精神医療福祉

■著者紹介

三省堂ホームページ[外部リンク] より

池原毅和(いけはら・よしかず)
東京アドヴォカシー法律事務所代表弁護士
※多数者支配的民主主義の中で少数派が法律を梃子にして社会改革をする手法をLegal Advocacyといい、米国では障害のある人たちの自立生活運動の一分野として障害のある人たちが法律家と協働してLegal Advocacyを進めてきた。東京アドヴォカシー法律事務所はその理念を込めて創立したもの。

早稲田大学臨床法学教育研究所招聘研究員、内閣府障がい者制度改革推進会議差別禁止部会部会員、日本弁護士連合会人権擁護委員会障がいのある人に対する差別を禁止する法律に関する特別部会委員、日本弁護士連合会高齢者・障害者の権利に関する委員会精神保健福祉プロジェクトチーム委員

主な著書

「法的能力」松井亮輔・川島聡編『概説 障害者権利条約』法律文化社、2010年
「精神障害者の人権擁護 法律の立場から」松下正明総編集『司法精神医学概論 1』中山書店、2006年
「患者・家族から見た触法精神障害者問題」法律時報74巻2号(通巻914号)日本評論社、2002年
『精神障害のある人の人権』関東弁護士連合会編・共著、明石書店、2002年ほか

■詳細目次

目 次
はしがき

第1編 総論

第1章 精神障害法の意義
I 精神障害法の意義および範囲
1 精神障害法を論じる意義
2 精神障害法の概念と実定法
3 「精神障害者」の定義
4 精神障害法制史
II 精神障害法に関する法思想と社会意識
1 ノーマライゼーション、ソーシャル・ロール・ヴァロリゼーション
2 国際生活機能分類(ICF)――障害の医学モデルと社会モデル
3 完全参加と平等、人間の尊厳、自己決定権
4 精神障害法を動かす社会意識
III 治療的法学(Therapeutic Jurisprudence)
第2章 国際人権規範および憲法上の基本規定
I 憲法と障害および国際人権規範の発展
II 精神障害法の基本的な人権規範
1 精神障害法の基本規範1(人間の尊厳原理と自律権)
(1) 人間の尊厳と自律権
(2) 自発的治療の原則
(3) 身体の自由
(4) 情報プライバシー権
2 精神障害法の基本規範2(法の下の平等)
(1) 平等の一般原則
(2) 医療・福祉における平等原則
(3) 雇用における平等原則
(4) その他の生活場面での平等原則
3 精神障害法の基本規範3
  (労働・地域生活の権利、社会参加とインクルージョン)
4 精神障害法の基本規範4(良質な医療・福祉を受ける権利)
5 精神障害法の基本規範5(手続的権利)
III 私人間での適用関係
第3章 精神障害のある人に対する差別立法と反差別立法
I 差別法と反差別法
II 日本の精神障害法の政治過程と司法過程
(1) 政治過程
(2) 司法過程

第2編 医療と精神障害法

第1章 総説
I 医療における権力構造とインフォームド・コンセントの原則
II 精神医療におけるインフォームド・コンセントの原則
1 インフォームド・コンセントの内容と根拠
2 インフォームド・コンセントの例外
3 治療行為の準則とインフォームド・コンセントの関係
4 治療選択課題の判断能力にかかわる要素
5 インフォームド・コンセントと治療拒否権
(1) 両者の関係
(2) 医療観察法における治療受忍義務
6 コミュニケーション過程としてのインフォームド・コンセント
(1) 決定と決定までのプロセス
(2) コミュニケーションの工夫
(3) 不当な影響の回避とTJ(Therapeutic Jurisprudence)
7 インフォームド・コンセントの個別的課題(病名告知、薬物療法、ECT)
(1) 病名の告知とインフォームド・コンセント
(2) 薬物療法におけるインフォームド・コンセント
(3) ECTにおけるインフォームド・コンセント
第2章 精神医療における患者の自己情報コントロール権
I 自己情報コントロール権
II 自己情報コントロール権の保障と限界
III 自己情報コントロール権と個人情報保護法制
1 個人情報保護法制
2 医療・福祉機関と個人情報保護法制
3 通知・公表、明示原則
4 通知・公表、明示、同意原則の例外
5 カルテ等の診療情報の開示
第3章 強制医療の許否とその限界
I 強制入院・強制通院の許否とその限界
1 強制入院
(1) 障害者権利条約成立前
(2) 障害者権利条約と強制入院に関する人権規範
2 強制通院
(1) 強制通院制度の類型
(2) 強制通院の許否
II 現行法上の強制入院・強制通院
1 精神保健福祉法
(1) 措置入院
(2) 医療保護入院
(3) 移送(34条)
(4) 任意入院(22条の3)
2 医療観察法
(1) 鑑定入院
(2) 入院による医療
(3) 入院によらない医療(精神保健観察)
(4) 医療観察法の医療の特殊性
3 行動制限

第3編 精神障害のある人の経済的、社会的、文化的権利

第1章 障害のある人に関する経済的、社会的、文化的権利
I 障害のある人に関する社会権規定の分節化・敷衍化
II 社会権と人間の尊厳原理との関係
III 経済的、社会的、文化的権利の実現
1 生存権(憲法25条)
2 障害者権利条約に基づく社会権規定の直接適用可能性
3 法の支配のグローバル・ダイナミズム
第2章 経済的、社会的、文化的権利を具体化する法制度
I 具体化された福祉的支援の内容
1 所得保障
(1) 就労所得と所得保障の関連性
(2) 障害年金
(3) 生活保護
(4) その他の所得保障に関連する制度
2 非所得的保障
(1) 健康な生活
(2) 文化的な生活
(3) 労働
(4) 費用負担の原則(応能負担と応益負担)
II パラレル・トラック(社会保障法と障害者差別禁止法)

第4編 成年後見・保護者制度と権利擁護制度

第1章 成年後見制度と保護者制度
I 支援を受けた自己決定と自己決定の能力
II 成年後見制度
1 事理弁識能力(民法7条、11条、14条)
2 法的能力の平等性
3 成年後見人の行為準則
4 成年後見制度と日常生活活動
5 成年後見と医療行為
(1) 問題の所在
(2) 患者本人による治療同意と代諾の法的意義
(3) 成年後見人に治療代諾権は認められるか
III 保護者制度
1 保護者制度の概要
2 保護者制度の問題点と改善のあり方
(1) 問題点
(2) 保護者制度改善のあり方
3 保護者、成年後見人、親族の損害賠償責任
(1) 責任弁識能力(民法713条)
(2) 保護者(精神保健福祉法22条)と法定監督義務者(民法714条)
(3) 成年後見人と法定監督義務者
(4) 親族、成年後見人と不法行為責任(民法709条)
(5) 被害者保護
第2章 精神保健福祉法と医療観察法の人権擁護システム
I 精神障害のある人の権利擁護(アドヴォカシー)の必要性
II 精神保健福祉法
III 医療観察法
(1) 処遇改善請求
(2) 入退院および医療終了
第3章 その他の権利擁護制度
I モニタリング、オンブズパーソン
II 法律扶助制度
III 障害のある人の地域人権審査機関

第5編 刑事事件と精神障害法

第1章 責任能力
I 刑事責任と社会意識
II 精神障害法と刑事責任能力
1 精神障害法の基本原理と刑事責任能力
(1) 刑事責任能力の人権法および刑法上の位置づけ
(2) 責任能力判断における恣意性の排除
(3) 最高裁決定の影響
(4) 責任能力の証明の程度と挙証責任
2 障害者権利条約と期待可能性論
3 医療観察法と責任主義
III 鑑定と黙秘権等の告知
第2章 訴訟能力
I 訴訟能力の意義および根拠
II 訴訟能力の基準
III 訴訟能力を欠く場合の対応
1 訴訟係属
2 訴訟能力を欠く被告人の拘禁と治療
第3章 刑事収容施設内処遇と社会内処遇における精神医療福祉
I 刑事収容施設における精神医療福祉
II 社会内処遇と精神保健福祉

引用・参考文献
資料
精神障害者の保護及びメンタルヘルスケア改善のための原則(抜粋)
障害者権利条約(抜粋)
国連被拘禁者人権原則(抜粋)
事項索引
判例索引

■引用

 「はしがき(抜粋)
 「精神障害法」という言葉を聞いて、そんな名前の法律はあっただろうかと思われる方も少なくないだろう。「精神障害法」という名前の単行法はもちろん存在しない。「精神障害法」というのは、精神障害に関連した事柄を定める各種の法律を個別法を超えて横断的に観察・研究の対象にしようとする法学分野であるとさしあたり規定することができる。しかし、それは単に国内の実定法の領域にとどまるものではなく、とりわけ20世紀後半から世界的に展開してきた人権思想や障害のある人の権利についての規範の発展の系譜をも視野に入れたものでなければならない。1991年に国連で採択された精神障害者の保護及びメンタルヘルスケア改善のための原則や2006年に国連で採択された障害者権利条約は「精神障害法」の展開に大きな影響を与えている。
 それにしても、なぜ「精神障害者法」ではなく「精神障害法」なのか。その答えは本書の中でも論じるが、「障害」という事態は単に個人の心身の内部に生じている出来事ではなく、その人の持っている心身の特性と社会環境の相互作用の中で生じている事態だというのが「障害」についての基本的な理解の仕方となっていることによっている。「精神障害法」は、精神障害という事態の一方の項である個人にも視点を当てなければならないが、もう一つの項である社会環境の側にも視点を当てなければならない。そして、従来の社会や法が社会環境の側の問題にほとんど意識を注いでこなかったことからすると、むしろ、社会環境の側の問題点を吟味していくことが現在の精神障害法にとって重要な課題となっていると言ってよい。その意味で「者」をとって、「精神障害法」と命名することには重要な意味がある。
 「精神障害法」を包摂する法領域として他の障害も含めた「障害法」という領域を観察・研究することも重要である。しかし、とりわけ「精神障害法」における個人と社会環境の関係には社会の固定観念や差別意識が根強く作用しており、センセーショナルな事件とその報道過程を通じて形成される歪んだ社会的認知が法制度に大きな影響を与えてきた。公平で公正な観点から現行の精神障害法の総体を検証する場合、固定観念や差別意識、扇情的に影響された社会意識による法の形成と適用の過程を明らかにしていくことが重要である。△i
 「精神障害法」は、インフォームド・コンセントや強制入院の問題のように、従来から精神保健福祉法の範囲でも論じられてきた問題はもとより、成年後見制度、個人情報保護法、医療観察法、障害者自立支援法など21世紀に入って立法化された新たな法律との関係を重要な論点として取り扱わなければならない。また、障害者権利条約は法的能力の平等性(12条)や障害を理由とする差別的自由剥奪の禁止(14条)、インテグリティの保障(17条)などだけをとりあげても精神障害法に衝撃的ともいえる影響を与えずにはおかないものである。さらに、先進諸国を席巻する新自由主義の思潮や福祉分野におけるワーク フェアやアクティベーションという「福祉から就労へ」という流れを社会権・生存権の規範的観点からどのように評価して対応すべきなのかも将来の精神障害法のあり方に影響していく問題である。
 精神障害法は、性質上、精神医学や精神保健福祉領域の学問・実践との対話が不可欠であり、社会学・社会心理学、政治経済学などの社会科学による知見を基礎とする必要がある。また、法学領域としても精神保健福祉法だけではなく憲法、民事法・刑事法、社会保障法をはじめ諸法の領域さらに法社会学を広く含み、国際人権法をも含めていかなければならない。したがって、精神障害法を確立していくためには、それぞれの分野の専門家の学際的な協働が不可欠であり、本書を一実務家である著者がまとめ上げることには自ずから限界があることは自覚している。むしろ、本書を素材として精神障害をめぐるさまざまな社会的・法的課題を一つの研究・実践領域として多くの関係者の方々の研究と実践が進むことを望む次第である。その意味で、本書について関係各位の忌憚のないご批判、ご意見をいただければ幸甚である。

    2011年5月  池原 毅和」

第1編 総論

第1章 精神障害法の意義
I 精神障害法の意義および範囲
1 精神障害法を論じる意義
2 精神障害法の概念と実定法
3 「精神障害者」の定義

 「精神保健福祉法5条は「精神障害者」の定義規定を置いている。同条の定義によれば、「精神障害者」とは、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定義されている。ここで、統合失調症をはじめとする精神疾患は医学的概念を前提としている。精神保健福祉法以外の実定法においては精神障害または精神障害者の定義はなされていないので、精神保健福祉法における「精神障害者」の定義が、現行法体系における「精神障害者」の基本的な法概念として定められていることになる。
 しかし、ここで第1に問題になるのは、精神保健福祉法5条の定義の構造が精神疾患を有する者=精神障害者ということとしている点である。「精神障害者」の法概念の構造は、医学的な診断をそのまま法概念として取り込む形になっており、そこに規範的、あるいは、法的な評価が加えられる余地のない概念となっている。法的な観点からすると、「精神障害者」であることは、措置入院(29条)や医療保護入院(33条)などの強制入院要件の一つとなっているのであるから、恣意的な強制処分がなされないための診断基準の明確性と客観性が必要である。また、仮に医学的には精神疾患とされる場合であっても、およそ強制入院などの医療強制の対象として適しないと考えられる場合もある。入院治療によってその傷病が何ら改善しないのに入院治療を強制することは制度の矛盾というべきものであり、そうした場合に患者の自己決定権や人身の自△005 由を制限して入院を強行することを正当化する根拠はない。医学的概念である精神疾患に基づく「精神障害者」の法概念については、基準の明確性、客観性、冶療適応性の観点から法的評価を加えることが必要である。
 第2に、精神障害のある人は疾患と障害の両面を持っている。かつては精神障害は専ら疾患としてとらえられてきたが、徐々に障害としての側面を有することに認識が広まり、法律上は1993年に障害者基本法が成立する際に、精神章害も障害者の定義に含められた(障害者基本法2条)。そこで、疾患を有する者としての「精神障害者」と障害を有する者としての「精神障害者」との異同が問題になる。「障害」を有する者としての「精神障害者」は、どのような条件の下で医療を受けるべきかという観点ではなく、どのような条件の下で福祉施策を受けるべきかという観点から限界が画されるべき問題であることから、その者の生活能力に着目し、精神疾患のために「長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」(障害者基本法2条)とされている。こうした「精神障害者」の概念は、精神保健福祉法5条の定義よりは狭いものとなる。一方、障害者権利条約やADA (Americans with Disabilities Act:障害のあるアメ力人法。以下、ADAという)のような障害のある人に対するる差別を禁止する法規範との関係では、さらに「精神障害者」の概念領域は異なることになる。
 障害者権利条約は障害の定義を定めていないが、障害を理由とする差別を禁ずる法の目的から考えると、この領域での精神障害の定義は、精神疾患を有し、あるいは、将来有することになると推測されまたは過去において有していたこと、もしくは、そのように見なされることによって、差別に曝される危険性のある事態であり、そのような事態に置かれる人を精神障害のある人ということになろう。その範囲は、現に精神疾患や障害としての精神障害のある人より広く、また、ごく一部であると考えられるが現に精神疾患等を有していても危険に曝されない人もありうるかもしれない。そうした意味で、その点では精神保健福祉法5条とも障害者基本法2条とも異なることになる。その点では障害者基本法3条3項が「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と規定した際の「障害者」概念は、福祉施策の対象となる障害者酋とは異異なるはずであり、同法2条の定義をそのまま前提として同法3条3項の「障害者」の範囲を定めるべきではないと考えられる(本書50頁注(1)参照))。△006

4 精神障害法制史

 わが国で近代法の形式をもって精神障害についての法が制定されたのは、1900年(明治33年)の精神病者監護法がその始まりであった。しかし、同法はそれ以前の法律に基づかない前近代的な人身の自由の剥奪に対して、法律上の根拠なしに精神障害のある人を拘禁することを禁止し、行政庁の許可の下で監護義務者が拘禁できることを定めた接律であった。1919年(大正8年)に精神病院法が制定され、戦前においては、この二法が精神障害を扱う法であった。精神病院法は、道府県立の公立精神病院の設置を命じうることとしていたが公精神病院の設立は進まず、私宅監置室が精神障害のある人の拘禁の場所として機能し続けた。
 1950年(昭和25年)に上記2法を廃止して精神衛生法が制定された。精神衛生法は、単純化していえば強制入院手続法であり、障害者福祉に関する規定はもとより通院医療や任意入院についての規定も存在していなかった。しかし、さすがに私宅監置は廃止された。
 1952年(昭和27年)のクロルプロマジンの精神科領域での臨床報告を皮切りに、わが国でも1955年(昭和30年)からクロルプロマジンの導入が開始され、20世紀後半はさまざまな向精神薬の開発により向精神薬療法が精神科で治療方法の主流になった。向精神薬療法はそれまでの治療方法に比べて一般には侵襲性が低く治療効果が見込める治療方法として注目され開発されるようになってきた。
 象徴的に表現すれば、精神病者監護法の時代は形式的な法定の根拠が与えられただけの治療なき隔離の時代であったが、精神衛生法の時代に入ると強制入院の実体要件もある程度限定され、また、治療も伴った隔離の時代に入ったととになる。しかし、治療のハード面として[…]△007」

II 精神障害法に関する法思想と社会意識
1 ノーマライゼーション、ソーシャル・ロール・ヴァロリゼーション
2 国際生活機能分類(ICF)――障害の医学モデルと社会モデル
3 完全参加と平等、人間の尊厳、自己決定権
4 精神障害法を動かす社会意識
III 治療的法学(Therapeutic Jurisprudence)
第2章 国際人権規範および憲法上の基本規定
I 憲法と障害および国際人権規範の発展
II 精神障害法の基本的な人権規範
1 精神障害法の基本規範1(人間の尊厳原理と自律権)
(1) 人間の尊厳と自律権
(2) 自発的治療の原則

 「(2)自発的治療の原則
 障害者権利条約は「障害のあるすべての人は、他の者との平等を基礎として、その身体的及ぴ精神的なインテグリティ(不可侵性)を尊重される権利を有する」(17条)と定めている。インテグリティ(integrity)とは、自己決定の前提となる価値観や世界観を醸成する固有の場となる人間の身体と精神に対する不可侵性を意味している。同条は一般的な規定の仕方をしているが、強制医療の廃止に向けた議論の中で策定された規定であるといわれる。また、同条約は保健医療(25条1(d))、ハビリテーション・リハピリテーション(26条1(b))においてインフォームドコンセントを保障し、さらに「その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない」こと(15条1)を定めている。
 91年国連原則は、「すべての患者の治療は、個人の自律性を保持し、増進することに向けられる」(原則9-4)とし、また、患者の同意に基づく医療の原則(原則ll)、自発的入院の原則(原則15)を定めている。△033
(3) 身体の自由
 身体の自由については、障害者権利条約は、差別的自由剥奪の禁止(14条)、地域生活へのインクルージョンを妨げる隔離政策の禁止(19条)、障害のある人の心身のあるがままの状態(インテグリティ)の保障(17条)などの視点から、身体の自由の保障に新たな光を与えている。91年国連原則16は非自発的入院の要件を詳細に定めている。すでに述べたように同原則16は、自由権規約9条1の「恋意的」な自由剥奪の禁止、自由剥奪処分についての「法律で定める理由及び手続」の解釈規定の役割を果たしている点で重要であるが、障害者権利条約の観点から改めて見直す必要がある。

(4)情報プライバシー権
 医療・福祉に関する情報プライバシー権として、障害者権利条約22条2は、「障害のある人の個人情報、健康に関連する情報及びリハビリテーションに関する情報についてのプライバシー〔秘密性〕を保護する」と定め、91年国連原則は、プライバシー権の保障原則6、13-1(b)、14-1(a))を定め、さらに、患者の自律権の保障と表裏の関係を有する診療情報へのアクセス権を保障している(原則19)。日本国憲法13条は情報プライバシー権を保障しているという解釈が有力であり、その内実には上記の人権規範の趣旨が解釈上盛り込まれてしかるべきである。」

2 精神障害法の基本規範2(法の下の平等)
(1) 平等の一般原則
(2) 医療・福祉における平等原則
(3) 雇用における平等原則
(4) その他の生活場面での平等原則
3 精神障害法の基本規範3
  (労働・地域生活の権利、社会参加とインクルージョン)
4 精神障害法の基本規範4(良質な医療・福祉を受ける権利)
5 精神障害法の基本規範5(手続的権利)
III 私人間での適用関係

 「V 私人間での適用関係
 […]
 「第2に、民間病院に入院等をしている場合であっても、医療観察法に基づく入院または入院によらない医療の場合は、私的な契約関係ではなく同法に基づく処分として治療が行われるので、憲法規範等の基本規範は直接適用されるべきである。また、精神保健福祉法による措置入院も知事の権限に基づく強制入院であるから基本規範は直接適用が可能である。それ以外の医療・福祉の法律関係についても、提供されるサービスの公的性格や事業者に対する公的財政援助、利用費の公的負担などの関係によっては、いわゆる国家行為同視説によって直接適用することを検討すべきであろう。[…]△046」

第3章 精神障害のある人に対する差別立法と反差別立法
I 差別法と反差別法
II 日本の精神障害法の政治過程と司法過程
(1) 政治過程

「(1) 政治過程
 […]
 第1は国際的影響である。[…]
 第2はセンセーショナルな事件とその報道である。[…]△052[…]
 第3は医療福祉の主務官庁である厚生労働省の役割であるが、治安にかかわって警察庁、法務省の存在と予算を伴う法政策の要となる財務省の存在も大きな作用因子となる。[…]△053[…]
 第4は医療福祉等にかかわる利益集団、利益団体の影響である。精神衛生法の成立に日本精神科病院協会が深くかかわったことはすでに見たとおりである。厳密な意味での利益集団ではないが、精神衛生法制定時の松沢病院院長のかかわり、1965年改正時の松沢病院の医師らを中心とした治安法化反対運動など、この分野での精神科医の集団の影響力も大きい。したがって、精神科医の集団がSanismに汚染されているか、そこから解放されているかは政策の方向性に大きな影響を与えるといえる。精神保健法の制定時には、日本精神科病院協会、全国自治体病院協議会、日本精神神経学会などの医療者の団体のほか日本弁護土連合会、全国の家族会など多くの利益団体が意見、要望を提出している。また、こうした利益団体の一部は精神衛生審議会、その後の、公衆衛生審議会、社会保障審議会などの審議委員として法改正の諮問機関の一員として審議に加わり、団体の意見を法案に反映させるように活動することになる。この分野では精神科病院を実質的に担っている民間病院の団体である日本精神科病院協会の発言権が極めて大きいが☆17、とりわけ精神保健法成立ころからは、同法に基づく福祉系の職能団体が利益集団に加わり、また、家族会や精神障害者の当事者団体も利益団体を形成して発言するようになった☆18。また、利益団体は行政に働きかけるだけでなく、立法府に対するロビーイングも活発に行い法改正に影響を与える。利益集団の活動方向は単純ではなく、職域や経済的基盤の確保・拡大といった自らの利益の側面と職業倫理や精神障害法の基本規範の実現といった理念的要求が鬩ぎあい、時流によって強弱を示しながら展開しているように見える。医療観察法の成立の際には、日本精神科病院協会は法案支持を表明し☆19、日本弁護士連合会は反対を表明し☆20、他の多くの団体も法案反対を表明した☆21。」

「☆10 1949年に日本精神病院協会(現、社団法人日本精神科病院協会)が設立されたが、その初代理事長である植松七九郎と第2代理事長となる金子準二(もと内務省技官)が中心となり同協会内の法令研究委員会で「精神衛生法(案)」を作成し、これに同協会顧問で参議院議員の中山寿彦、松沢病院院長の林□が加わり成案として、中山を中心とする15名の議員連名で「精神衛生法案」として国会に提案した(広田45頁、46頁、あゆみ153〜154頁)。ここではむしろ、医療集団の影響力の大きさと当時における開明性が際立っている。」(池原[2011:57])

「☆12 これに対して岡田靖男(当時松沢病院医師)など88名の精神科勤務医が結集して反対運動を組織し、厚生省はこれを受けて精神衛生審議会(精神衛生法13条により厚生省の付属機関として設置)に法改正を諮問することで短絡的な法改正の動きを一時引き止めて法改正のあり方を検討・審議する時間と場を確保した。1965年改正のエピソードは精神科医や厚生省内の担当官僚が「常識」とSanismからどの程度解放されているかによっても実際の時の政策が左右されることを示している。当時、大谷藤郎が厚生省の担当部局におり、岡田らの反対運動に呼応する形で精神衛生審議会への諮問を取りつけたという(あゆみ160〜164頁)。」(池原[2011:57])

「☆17 大谷藤郎も精神保健法の成立は「日精協に反対されてはできないという観念があった」と述べている(あゆみ195頁)。「利益団体の影響力に関しては、団体指導者と政治家官僚との相互作用を通じて正統的地位を得た団体が、大きな影響力を発揮できるとされており(相互作用正統化仮説)、こうした利益団体は、政治家、官僚との接触や、審議会の委員ポスト獲得、さらには参議院比例代表を中心とする国会への議員の送り込み等を通じて、影響力を行使している」(中島誠102頁)。日本医師会や日本精神科病院協会は国会への議員の送り込みも果たしており、相互作用正当化仮説を例証しているともいえる。」(池原[2011:58])

「☆19 同協会の主な賛成理由は、「現行の措置人院制度だけの対応では限界である。毎年司法から800人の患者を医療側で引き受けている。平成13年9月時点で新法の対象者だけでも措置指定病院441病院で1,093人が入院している。重症者を受け入れる体制ができていない。入退院の判断に病院管理者,精神保健指定医の責任が過大となっている。一般患音と同じ病棟での治療は双方によくなく、公立病院で司法専門病棟を持つことで触法患者の治療の場を確保するべきである。司法から医療に丸投げの現状では以後の責任が全て医療に負わされ,司法側の責任はまったくない。社会防衛までの任をとらされている状態である等の問題がある」(同協会誌2002年11月号仙場恒雄会長巻頭言)とされており、民間病院での処遇の困難感や重責感が背景にあった。」(池原[2011:58])

第2編 医療と精神障害法

第1章 総説
I 医療における権力構造とインフォームド・コンセントの原則
II 精神医療におけるインフォームド・コンセントの原則
1 インフォームド・コンセントの内容と根拠
2 インフォームド・コンセントの例外
3 治療行為の準則とインフォームド・コンセントの関係
4 治療選択課題の判断能力にかかわる要素
5 インフォームド・コンセントと治療拒否権

「5 インフォームド・コンセントと治療拒否冬権
(1)両者の関係
 […]
 一般医療では治療拒否権をとりたてて強調することは見られないが、(精神科医療ではとりわけ強制入院下の患者の薬物療法に関して患者に治療拒否権が認められるかが主として米国判例上議論を呼んできた。
 これに対して障害者権利条約および91年国連原則は治療拒否権という権利を独立の権利として提示してい。しかし、これらの人権規範は、障害のある人の尊厳と自律(障害者権利条約3条(a)、91年国連原則1-2)を基本原理とし、△071 そのインテグリティの保障を定め(障害者権利条約17条)、さらに、インフォームド・コンセントの原則を保障し(障害者権利条約25条(d)、26条(b)、91年国連原則11)、限定された例外的場合を除いては患者が拒否する治療は行えないものとしている。したがって、国際人権規範は治療拒否権を明示していなしないが、治療療を拒否する自由を自己決定権あるいはインフォームド・コンセントの前提として当然に含意していると理解することができる。
 名古屋地方裁判所判決昭和56年3月6日(判タ436号88頁)も、医的侵襲を行う前提として緊急事態など特別な場合を除いては患音の承諾が必要であり、措置入院の患者であっても当然に治療受忍義務を課されるわけではないと判示しており、その前提には患者に治療諾否の自由があることが含意されているとされる。
 インフォームド・コンセントの法理の一つの場面として治療拒否の場面を考えるとすれば、患者の治療拒否に対して例外的に」に治療を行える要件は、結局、インフォームド・コンセントの例外として、患者の同意に基づかない非自発的治療が許される場合と同じことになると考えられる。

(2)医療観察法における治療受忍義紘
 医療観察法は、入院または入院によらない医療の決定を受けた対象者は同法による入院または入院によらない「医療を受けなければならない」(43条1項、2)としていることから、指定医療機関は同条項に基づいて対象者に対して医療強制をなしうるのか、対象者は治療拒否権あるいはインフォームド・コンセントの権利を否定されているのかが問題になる。
 医療観察法の対象者として入院等の決定を受けているからといって、一律に判断能力が損なわれているとすることはできないし、また、生存にかかわるる重篤な症状や差し迫った自傷他害の危険性が認められているわけではなない。入院中の対象者でもいわゆる急性期の患者から社会復帰期の患者までさまざまな状態があり、まして、入院によらない医療(通院医療)を受けている患者は地域で社会生活を始めている。こうした者まで含めて一律に「医療を受けなければならない」(43条1項、2項)とすることの意義が、強制医療を行えること意味していると理解されるとすれば、対象となる患者の人格的自律権をあまりにも過大に制約することになってしまう。一方、医療観察法佐は身体に対する直接△072 強制を伴う行動制限については、指定入院医療機関の管理者の権限を別途定めるとともにその基準を厚生労働大臣が定め、さらに、精神保健指定医が行動制限の必要性を判断すべきこと(92条)、違法な行動制限について精神保健指定医に報告義務を課すこと(94条)、患者に処遇改善請求権を認めること(95条)などの精神保健福祉法と類似の比較的詳細な権利擁護的規定を定めている。これに対して43条1項およぴ2項は行動制限に関するような手続的な手当てをしていない。こうしたことからすると43条1項、2項は行動制限に匹敵するような自由の制約を予定していないと解さなければならない。
 したがって、対象者が「医療を受けなければならない」(43条1項、2項)ことの意味は、医療観察法の入院または通院の決定を受けた対象音に対する治療受忍義霧務を定めたものではなく、それらの音は同条3項に基づいて厚生労働大臣が定める「指定入院医療機関」あるいは「指定通院医療機関」以外の医療機関を任意に選ぶことは許されないことを定めたものと解すべきであろう。すなわち43条1項およぴ2項は、対象者の医療機関選択権を制限した規定ではあるが、個別の治療行為について対象者に対するインフォームド・コンセントを無視して治療を強行できることを定めた規定ではないと解すべきである。[…]△073

(26 コミュニケーション過程としてのインフォームド・コンセント
(1) 決定と決定までのプロセス
(2) コミュニケーションの工夫
(3) 不当な影響の回避とTJ(Therapeutic Jurisprudence)
7 インフォームド・コンセントの個別的課題(病名告知、薬物療法、ECT)
(1) 病名の告知とインフォームド・コンセント
(2) 薬物療法におけるインフォームド・コンセント

「(2) 薬物療法におけるインフォームド・コンセント
 […]
 精神障害が疑われる本人を受診に結びつけることが困難なために、家族等が本人に代わって精神科を受診して医師から向精神薬の処方を受けたうえで、本人に隠して薬を飲ませることが行われる場合(診察なき治療・非告知投薬)がある。そのような行為が医師法20条およびインフォームド・コンセントの原則に反するとして争われた事案で千葉地方裁判所判決平成12年8月30日(判タ1034号177頁)は、「ア.病識のない精神病患者が治療を拒んでいる場合に、イ.患者を通院させることができるようになるまでの間の一時的な措置として、ウ.相当の臨床経験のある精神科医が家族等の訴えを十分に聞いて慎重に判断し、エ.保護者的立場にあって信用のおける家族に副作用等について十分△077 説明したうえで行われる場合に限っては、特段の事情がない限り、医師法20条の禁止する行為の範囲には含まれず、不法行為上の違法性を欠く」とした。ぞして「特段の事情」に該当しうる事情としては、「非告知投薬の結果患者に重大な障害(たとえば薬物の副作用による後遺症等)が発生したり、非告知投薬果患音に何らかの間題行動が発生し家族が当該医師の助けを求めたのに医師が適切な措置をとることを怠ったような場合」であるとする。同判決は直接的にインフォームド・コンセントの例外として非告知投薬を認めると明言したのではないが、判決が定立している例外要件には疑問がある。第1に、「病識がない」という状態は一義的に明らかではなく、具体的な投薬治療についての同意能力を欠く状態であるかどうかが明らかではない。また、本人の意思に基づかない介入を行うためには、それに足る必要性・緊急性が必要であると考えられるが、この判決では医療的な介入を行わないと病状の急速な増悪化を招くなどの介入の必要性・緊急性が要件とされてない。さらに、家族に副作用・説明することは、外見上明らかな副作用症状については、その観察の下で医師が報告を受けて適切に対処する余地を残す点で意味がないとはいえないが、専門知識のない家族にそれを委ねるのは危険であるし、また、副作用の説明は患者自身が自らの心身に起こりうる不快や苦痛、生活上の制約を検討考慮するためにあるから、家族への副作用の説明ではこれを満たすことはできない。さらに、判決が非告知投薬を「一時的な措置」としている点は評価できないではないが、薬の隠し飲ませはますます本人に真実を伝えることを困難にしやすく、結果として何年にもわたり非告知投薬を続けるほかなくなることが生じうる点で反治療的な結果をもたらすことも少なくない。
 同判決は病識のない患者に適切な治療を受けさせるための法的、制度的なシステムが十分に整っていない現状において非告知投薬を一切否定すると強制入院しか手段がなくなるが、それは事実上困難な場合が多く、医師と患者の関係を破壊するのでその後の治療に悪影響を及ぼすことが多く、患者・家族にとんて酷な結果になるということを実質的な理由の一つとしている。確かに、自発的な受診に結びつきにくいが、直ちに入院を要するほどの状態でもなく、服薬が継続できれば地域で生活できると思われるような人について、その病状が強制入院を要する状態まで悪化するのを待って入院をさせるほかに手だてがないというのは合理的ではない。しかし、家族や医師は、病状の悪化を待つしかな△078 いのではなく、本人に様々な角度から情報の提供や助言、支持的なかかわりをすることができるのであり、それらを総合的・計画的に行うことで、かなりの場合、本人は自発的に受診するようになる。それが可能になるような本人と家族の支援体制を作り上げることが重要であり、非告知投薬は患者と医師・家族り信頼関係を破壊し、結果的にはかえって治療を困難化する危険性がある。」

(3) ECTにおけるインフォームド・コンセント

「☆14 いわゆる札幌ロボトミー判決(札幌地方裁判所判決昭和53年9月29日、判タ368号132頁)も、「ロボトミーについては、その性格上、精神衛生法第33条による入院の同意手続を経ていてもこれで足りるものではなく、その手術について個別的に患者の承諾を要するものというのが相当である」とし、判示はロポトミー手術について述べたものではあるが、医療保護入院(精神保健福祉法33条)の患者であっても、入院中の治療行為についてインフォームド・コンセントがおよそ不必要であるということにはならないことを明らかにしている。」(池原[2011:83])

「☆38 うつ病に対するECTの有効性については80%〜90%が有効との報告があり(抗うつ剤は70%〜80%が反応)、践病に対してはクロルプロマジンや炭酸リチウムなどの薬物療法との間で入院期間、再入院までの期間に有為の差は認められないという。他方、死亡率は施行回数1回あたり0.004%前後で麻酔単独による死亡事故割合(0.003%〜0.037%)より低いといわれる(一瀬270〜271頁)。」(池原[2011:89])

第2章 精神医療における患者の自己情報コントロール権
I 自己情報コントロール権
II 自己情報コントロール権の保障と限界
III 自己情報コントロール権と個人情報保護法制
1 個人情報保護法制
2 医療・福祉機関と個人情報保護法制
3 通知・公表、明示原則
4 通知・公表、明示、同意原則の例外
5 カルテ等の診療情報の開示
第3章 強制医療の許否とその限界
I 強制入院・強制通院の許否とその限界
1 強制入院

「I 強制入院・強制通院の許否とその限界
 1 強制入院
(1)強制入院
 障害者権利条約成立前自由権規約9条は身体の自由および安全に対する権利ならびに自由剥奪に関△115 する適正手続の保障を定め、10条1は自由を奪われた者は、人道的にかつ人司固有の尊厳を尊重して処遇されるべき旨を定めている。これらの条項は精神障害のある人の強制入院などについて明文で定めた規定ではない。しかし[…]

(2)障害者権利条約と強制入院に関する人権規範
 […]
 障害者権利条約14条1(b)は「いかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されないこと」と定めている。この規定は精神障害のある人に対する自由の剥奪となる強制入院を否定しているようにみえるが、91年国連原則は例外的にではあるが強制入院を認めている。では障害者権利条約14条は91年国連原則に対してどのような意義を持つのであろうか。障害者権利条約14条は、「他の者との平等を基礎として」障害のある人の身体の自由と安全を保障する旨を定めており、同条項の制定過程で確認されているように同条の本質的な意義は身体の自由と安全に非差別という観点を導入したことにある。20世紀までの身体の自由や安全の保障規定が主として人身の自由という伝統的な人権の観点から保障されていたのに対して、同条項は平等性という新たな規範的視点と地平を障害のある人の身体の自由と安全の保障に与えたのである。
 この視点からすると、第1に、強制入院の要件の一つとして「精神障害」が加えられていることは、一見すると、単なる「自傷他害のおそれ」や「同意能カの欠如」という要件に加えて強制入院の要件を加重して人権保障を手厚くする役割を果たしているように見えるが、実はその機能は主として強制入院という自由剥奪が精神障害のない一般人には拡散しないようにする役割を果たしているだけで、精神障害のある人にとっては自由剥奪の範囲を限定する役割を果たす要件ではないことが再認識される。強制入院の要件としての「精神障害」は、精神障害のない人が自由を奪われないようにする機能を果たす一方で、精神障害のある人にとっては自由を奪われる可能性を基礎づける要件になっているのである。自由剥奪に対するこの法の態度の違いは基本的に差別的であるとするのが障害者権利条約14条の基本的な視点である。第2に、差別と施設へ△0117 収容は社会的排除を生み、「地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加」と地域で生活する権利(19条)を阻害することになる。身体の自由の剥奪は、単なる身体活動やその個人の活動の空間的範囲の制約を意味するだけではなく、その対象となった人の地域社会への統合を妨げ、地域で生活する権利を根こそぎ奪い去ることになる。こうした視点は伝統的な人権論では明確に認識されていなかった。これらの点を明らかにするところに本条条項の意義があったのである。
 91年国連原則16は、「精神障害」という要件のほかに、「その精精神病(のた)に、自己又は他人への即時の又は差し迫った危害の大きな可可能性(serious likelihood)があること」(以下「強制入院類型T」とする)、あるいは、「精神病が重篤でありかつ判断力が阻害されている者にあっては、この者を入院させ又は入院させ続けることができない場合には、状態の重大な悪化に至るか、又は、最も規制の少ない代替方法(the least restrictive alternative)の原則にに従って精神保健施設への入院によってのみ実施し得る治療について、これを与えることが妨げられること」(以下「強制院類型U」とする)などを自由剥奪の要件として加重している。しかし、障害者権利条約の上記の視点からすると、そのような要件を加えても精神障害のある人と精神障害のない人に対する法的に別異な取扱いの不平等性が単純に解消されることにはなりえない。
 もっとも、この観点から障害者権利条約が強制入院制度を完全に否定したものであるのかどうかにはなお疑問が残る。なぜなら、条約の審議過程で同条項の議論の前提となった議長草案には、現行14条1(b)とほぼ同文の同条項を規定したうえで、2として「締約国は、障害のある人が民事上、刑事上、行政上その他の手続を通じて自由を奪われた場合には、障害のある人が少なくとも次のことについての保障を受けることを確保する」との定めがあり、民事収容つまり精神保健福祉法等による強制入院制度の存在を前提にした規定が置かれていたからである。すなわち、議長草案において14条1(b)と民事収容容は必ずしも両立しえないものとして定められていなかった。成案の14条2は「いずれの手続きを通じても自由*董われた場合には1という規定ぶりにされているが、これは自由剥奪を認める民事収容等の可能性を積極的に明示する規定の仕方は権利保障を目的とする権利条約の性格上望ましくないとの配慮から修正されたもので、民事収容を完全に否定する趣旨の修正ではなかったものとおられ△119 る。
 同条項の意義は、障害を理由とする自由の剥奪が歴史的・経験的に差別の疑いが極めて高い類型であるがゆえにその自由剥奪は基本的に正当性がないことを明示する点にあると理解できる。したがって、平等原則上、「精神障害の存在」を理由の全部または一部に含む自由の剥奪は「『差別』につき疑わしい範疇」に属する区別であり、その正当性は「厳格な不可欠性審査」テストによって判定されなければならないと解すべきである。
 この観点から検討すると強制入院類型Tは、そもそも精神障害による自傷他害の結果を回避することがやむにやまれざる政府利益とされるだけの立法事実があると認められるかという問題がある。仮にその目的の正当性が認められたとしても、目的達成の手段として必要不可欠な人を厳密に抽出して対象化できるカかという問題がある。また、対象の抽出ができたとして強制入院よりも制限的でない手段(LRA)がありえないことを証明する責任が自由剥奪者側に負わせられなければならない。さらに問題なのはこの強制入院と入院中の治療との関係である。仮に強制入院が必要不可欠な手段であるとしても、自傷他害行為の回避は強制入院による社会からの隔離あるいは拘束という手段で目的を達成してしまうので、精神障害を強制的に治療することは立法目的に対する手段の必更不可欠性を超え許されないはずである。しかし、拘禁下での強度の権力構造の下で、さらに、治療を受けなければ強制入院がそれだけ長期化する可能性に威迫されたもとでの受診の自発性・任意性を確保することは実質上不可能である。そうすると、この強制入院形態は立法目的に対する手段の必要不可欠性を超えて治療強制を伴う入院となり許されないことになる(国連被拘禁者人権原則〔あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則〕1988年採択)22)。しかし、それを避けるために治療を提供しないということになれば治療なき拘禁となり、これも認めることはできない。したがって、強制入院類型Tは許容されないことになる。
 次に、強制入院類型Uについては、医療的介入が本人の判断に基づくことを貫徹すると、精神障害に限らず、傷病のために自己決定あるいは自律が永続的または長期的に不可能になってしまう場合に自己決定・自律の回復を目的として例外的に非自発的介入をすることは人権規範に論理的に内在する利益として旧的の正当性を有すると考えられる。したがって、自己決定支援を尽くし△119 ても(障害者権利条約12条)判断能力の阻害が補いきれない場合であって、放置すれば自己決定・自律が長期的または永続的に不可能化する場合に、自己己決定能力・自律性の回復に必要不可欠な範囲での介入や別異の取扱いいは許容される。判断能力は個別具体的な解決課題との相関性と自己決定支援のあり方にって判定されなければならないので、必要不可欠な手段は本来的には治療課題ごとに個別的に検討されなければならない。これに対して強制入院院は対象者をいわば包括的に治療関係の中に取り込む方法であるから、強制制入院が正当な手段とされるためには、入院を前提にしなければ行えない治療方法であることなど、個別的な治療行為では自己決定・自律性の回復が図れないことが必要である。手段の必要不可欠性からも入院より制限的でない手段がないこと(LRA)が満たされていることが求められる(91年国連原則16−1(b))。
 障害者権利条約の平等性規範の観点からは、さらに、次の点も加えなけれればならない。第1は、強制入院の対象にされる精神障害のある人は、強制入院(自由剥奪)が行われないようににするための合理的配慮を求めることができる(24条1(a)、19条)という点である。[…]△0121
 第2は、91年国連原則16−1(b)およぴ上記の他の要件を満たしていても、強制入院が間接差別となる場合には、その入院は認められないという点である。[…]
 第3に、91年国連原則16−1(b)の定める「判断力が阻害されている者」のにあたっては、障害者権利条約12条の保障する法的能力の平等性性の観点から合理的的配慮を尽くした自己決定の支援が尽くされていることが前提だが、それは濫用防止の観点から、@本人の権利、意思および選好を尊重すること、A利益相反および不当な影響を生じさせないこと、B本人の状況に対応しおよび適合合すること、C可能な限り最も短い期間に適用すること、D権限のある、独立の、かつ公平な当局または司法機関による定期的な審査に服すること(同条4)の規制の下でのみ許容される。」

 「c まとめ(強制入院についての新たな実体的枠組み)
 以上の検討をまとめると、強制入院の基本的な実体的枠組みは以下のように考えられる。
 @客観的に必要不可欠な入院について自己決定支援を尽くしても判断能力が阻害害されていること
 A傷病が重篤で入院しなければ自己決定・自律性が永続的または長期的に不可能になること
 B自己決定・自律性の回復のための治療が、LRAの原則を前提にして入院による方法でしか行えないこと
 C地域生活を保障し入院を回避するためのあらゆる合理的配慮が尽くされていること
 D入院によってすべての人権およぴ基本的自由の行使等が害されまたは無効になる効果(問接差別)を生じさせないこと
 E可能な限り最も短い期間であること
 F隷属化を防ぐための権利擁護制度、通信面会の自由・モニタリングが有効時される制度的前提が確保されていること
 G入院における治療が冒険的・実験的医療を内容とするものではないこと
 HLRAの原則に従って入院施設が選択されること
 I対象となる者の人格の固有性を改変し個人のアイデンティティを損なう領域への介入を行わないことが制度的前提として保障されていること△0129
 以上である。」

2 強制通院
(1) 強制通院制度の類型
(2) 強制通院の許否

II 現行法上の強制入院・強制通院
1 精神保健福祉法
(1) 措置入院

 「強制入院の立法目的a
 強制入院の立法目的としては、精神障害のある人が引き起こすかもしれない他害行為から社会を守る必要があるというポリスパワーを根拠にするものと、精神障害のある人が自己の生存を自ら守ることのできない状態にあるときに、その健康を後見的立場から保護するというパターナリズム(パレンス・パトリエ)を根拠にするものがある。これについて措置入院は、「精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認め」(精神保健福祉法29項)を要件としている。「他人に害を及ぼすおそれ」が認められる場合にその危険性のある者を拘禁することにこの制度の本質があると考えるとすれば、措置入院は本人以外の他の市民の安全を守ること(ポリスパワー)を△149 法目的とした自由剥奪制度度ということになる。一方、「自身を傷つけ」ることを防ぐことに制度の本質があると考えるとすればパタべーナリズムによるも自由簿制度ということになる。
 91年国連原則の強制入院類型Tについて検討したとおり、自傷他害の結果の防止を目的とする強制入院は障害者権利条約の下では認められない。強制入院制度が許容されるのは、傷病のために自己決定が長期的または永続的に不可能になる場合に自己決定・自律性の回復を目的として入院が必要不可欠な場栓に限られる。こうした視点から措置入院制度の要件を現行法の解釈論としてあえて見直せば、自傷他害のおそれのある状況というのは、いわば適正なセルフコントロールができない類型的状態であるということもでき、その文理の背後には判断能力の喪失という事態が認められると考える余地はある。措置入院が単純に他害行為のみを要件とするのではなく自傷の場合も含めていること、「医療及び保護のため」との文言も適切な医療等により本人の自己決定能力を回復することを目的としていると読むこともできないではないことなどから、措置入院制度の立法目的もパターナリズムにあると解することは不可能ではなであろう。しかし、その立法曰的からすると措置入院の規定は間接的な規定の仕方になっており、立法目的を適切に示すものとはなっていない。また、入始療の客観的必要性・適合性が高度な状況にあるのに、本人が自己決定・自律の維持に必要な判断を行いにくい状態が生じることは精神障害に限らないのに、措置入院は精神障害に限定している点で差別性を払拭できない。したがって、立法論としては一般医療の中で非自発的な医療介入の基準に包技摂することが必要である。仮に現行法を前提とするならば、立法目的をとらえなおしたうえで目的的な限定解釈を行わなければならない。」

6 コミュニケーション過程としてのインフォームド・コンセント
(1) 決定と決定までのプロセス
(2) コミュニケーションの工夫
(3) 不当な影響の回避とTJ(Therapeutic Jurisprudence)
7 インフォームド・コンセントの個別的課題(病名告知、薬物療法、ECT)
(1) 病名の告知とインフォームド・コンセント
(2) 薬物療法におけるインフォームド・コンセント
(3) ECTにおけるインフォームド・コンセント
第2章 精神医療における患者の自己情報コントロール権
I 自己情報コントロール権
II 自己情報コントロール権の保障と限界
III 自己情報コントロール権と個人情報保護法制
1 個人情報保護法制
2 医療・福祉機関と個人情報保護法制
3 通知・公表、明示原則
4 通知・公表、明示、同意原則の例外
5 カルテ等の診療情報の開示
第3章 強制医療の許否とその限界
I 強制入院・強制通院の許否とその限界
1 強制入院
(1) 障害者権利条約成立前
(2) 障害者権利条約と強制入院に関する人権規範
2 強制通院
(1) 強制通院制度の類型
(2) 強制通院の許否
II 現行法上の強制入院・強制通院
1 精神保健福祉法
(1) 措置入院
(2) 医療保護入院
(3) 移送(34条)
(4) 任意入院(22条の3)
2 医療観察法
(1) 鑑定入院
(2) 入院による医療
(3) 入院によらない医療(精神保健観察)
(4) 医療観察法の医療の特殊性
3 行動制限

第3編 精神障害のある人の経済的、社会的、文化的権利

第1章 障害のある人に関する経済的、社会的、文化的権利
I 障害のある人に関する社会権規定の分節化・敷衍化
II 社会権と人間の尊厳原理との関係
III 経済的、社会的、文化的権利の実現
1 生存権(憲法25条)
2 障害者権利条約に基づく社会権規定の直接適用可能性
3 法の支配のグローバル・ダイナミズム
第2章 経済的、社会的、文化的権利を具体化する法制度
I 具体化された福祉的支援の内容
1 所得保障
(1) 就労所得と所得保障の関連性
(2) 障害年金
(3) 生活保護
(4) その他の所得保障に関連する制度
2 非所得的保障
(1) 健康な生活
(2) 文化的な生活
(3) 労働
(4) 費用負担の原則(応能負担と応益負担)
II パラレル・トラック(社会保障法と障害者差別禁止法)

第4編 成年後見・保護者制度と権利擁護制度

第1章 成年後見制度と保護者制度
I 支援を受けた自己決定と自己決定の能力

 「他からの財産権侵害行為について民法は古くから後見制度を創設して被後見人等(以下「本人」という)に不利な契約についての取消権、本人のための契約の代理権、同意権などを後見人等に付与する制度を設けてきた。判断能カが不十分なために不利な契約を締結させられそうな場合にはその契約に同意をせず、また、すでに契約をしてしまっている場合にはそれを取り消し、あるいは、不法行為を受けた場合などには法定代理人として損害賠償の請求や目的物の返還を求めるなどの方法で後見制度は本人の利益を守る機能を発揮する。また、必要で合理的なサービスについて自ら契約してそれを受領することが困難な場合に、本人に代わって必要な契約をすることで適時に適切なサービスを受領でるようにする面でも後見制度はその役割を果たす。
 しかし、後見制度は本人の決定に対して不同意あるいは取消ができ、また、本人が望まないこと(例えば精神科病院への入院)についても代理人として契約をすることができる制度であるから、後見人と本人の内部関関係においては本人の自己決定を抑圧したり侵害する危険性を孕んでいる。そこで、本人の自己決定権の保障を最大化しながら他からの権利侵害を阻止し、また、適時に適切なサービスを受領する利益を守るための総合的な権利擁護制度のあり方を検討する必要がある。
 障害に関する法思想と人権規範の歴史は、障害法制について「パラダイムシフト」を求めている。人の自己決定能力を考える場合も、医学的な観点から機能障害にのみに注目するのではなく、自己決定を支えている社会的・環境的要△266 素に目を向ける必要がある。人が日々行っている個人の意思決定はさまざまな社会的・環境的要素に支えられ影響されており、完全に孤立し他者や社会との関係をまったく持たない状況で行われる自己決定は通常は存在しない。人の意思決定の基盤には教育や社会経験によって蓄積された知識や経験知があり、個別の意思決定の局面においてもさまざまな媒体から得られる情報やその人をとりまくさまざまな人々との間で織りなされる情報交換や心理面に影響を与える励ましや批判など、さまざまコミュニケーションが存在する。教育や社会経験は、教育制度や社会制度が障害のある人をどれだけ排除してきたかによって規定されており、まさに社会的要因によって構成されるものである。また、他者と織りなすさまざまなコミュニケーションは本人がどのような社会関係を持っているかによっており、それも障害のある人の社会参加の場がどのように保障されているのかによって規定されている。自己決定能力は、教育や社会経験などの背景要因と、当該判断の際に提供される情報の量や質、わかりやすさ、その理解を助ける人的装置とコミュニケーションの技術によって大きく変動する。脳内の神経伝達系に器質的あるいは機能的障害が存在するとしても社会的な条件が相互に作用しながら現実の自己決定のあり方を規定している。
 精神障害のある人の権利擁護制度を構築する場合、その大前提として重要なことは、通常の人が得ている自己決定を支える社会的条件を精神障害のある人にも保障することである。精神障害を持つことによって教育や就職、結婚、地域社会への参加などの機会が与えられなくなる場合が少なくない。精神障害のある人が同年齢の成人と同じ質と量の知識や社会経験を与えられ、同じ質と景)人間関係を持っていることは少なく、彼らは不十分な社会経験や極めて限られた人間関係(例えぽ家族と医療関係音のみ)の中で自己決定をしなければならない状況に追いやられている。
 障害者権利条約は障害のある人の法的能力の平等な保障を定めた(12条2)うえで、自己決定支援策を利用可能なものとし(同条3)、その濫用を防止するセイフガードを定めている(同条4)。障害者権利条約は障害のある人の目己決定能力について医学モデルから統合モデルあるいは、より社会モデルに力点を置いたパラダイムシフトを前提にして、自己決定の支援こそが重要であると考えている。同条約は、自己決定を行う本人の社会的条件の不十分さの程度などに対応して漸増する支援のあり方を考え、適正な支援が最大化されれは成年後△267 見の必要性は極小化されるものと考えている。精神障害のある人の権利擁護制度を考える場合にも、本人から奪われている自己決定を支える社会的支援体制が再構築することに視点を当てることが重要であり、成年後見は社会的支援体制☆06の構築策が尽きたところで初めて認められるものと考えるべきである。」

「☆06 自己決定を支える社会支援体制は、必ずしも自己決定を支えることを直接目的とす人間関係がインフォーマルな形で自己決定を底支えすることなど、精神障害のある人の社会生活を支えるさまざまな社会資源が、本人の自己決定を尊重し支えるように機能することで、孤立化を防ぎ失われた社会関係を補充して本人の本来の自己決定を復活させることが望まれる。」([269])

II 成年後見制度
1 事理弁識能力(民法7条、11条、14条)
2 法的能力の平等性
3 成年後見人の行為準則
4 成年後見制度と日常生活活動

 「現行法の成年後見制度の特徴は、財産管理に関する法律行為に重点を置いた制度であり、また、財産管理も典型的には不動産の処分などの大きな資産の変動を対象としており、日用品の購入などの日常生活に関する事項は成年被後見人の判断に委ねるべきこととしている。しかし、精神障害のある人の生活を考えると日常生活における経済活動をどのように行っていくかという問題がむしろ大半を占め、不動産の処分などの大きな資産にかかわる契約を行わなけれはならないことは生涯に数度あるかないかである。そこで、日常の家計にかかわるような日常的経済活動を支援する制度として福祉サービス利用援助事業(社会福祉法81条)などを組み合わせることが必要になる。
 成年後見制度は、不動産や有価証券、高額の預金などの資産の管理を行いながら、日常生活に必要な生活資金が不足する場合に、定期預金の解約、有価証券の売却、不動産の賃貸や売却などを検討して資産を流動化し、日常生活に必要な生活資金を準備する役割を果たす。しかし、そのようにして形成された日常生活資金をどのように生活に生かしていくかは福祉サービス利用援助事業の日常金銭管理サービスなどを利用して極端にバランスを失した生活とならないように支援していくことが必要である☆22。
 精神障害のある人の生活を考える場合、現実の生活の重点は日常生活にあり、これを中心に資産をどのように有効に活用して日常生活を破綻なく継続していくかが課題となる。こうした点では、むしろ成年後見制度よりも日常的な消費生活のあり方を含めた福祉サービス利用援助事業のような日常生活のあり方の支援、援助体制を充実させることが、精神障害のある人の生活を支援する基盤として前提になる。この基盤が充実していれば成年後見を必要とする場合は少なくなっていく☆23。本人が財産の侵害を受ける可能性が高い状況がある場合や、資産関係が大きくまたは多岐にわたっており、資産管理の必要性が高い場合あるいは本人の病状が極めて重く日常生活のあり方の支援策では対処が困難か不十分になる場合などには成年後見を利用する意義があるが、それ以外の場合は日常生活支援援に重点を置いた支援体制を組むべきである。△276

5 成年後見と医療行為
(1) 問題の所在
(2) 患者本人による治療同意と代諾の法的意義
(3) 成年後見人に治療代諾権は認められるか

「☆22 日常生活においては、毎日平均的に必要とされる食費等の定型的な支出と家賃や水△282 道光熱費のようにほぽ定期、定額の支出があるほかに、米、味噌などの非定期的購入や季節の変動等による被服の購入、家電製品の購入等が必要になる場合などの非定期的支出等がある。特に非定期的支出や特別な支出に備えた数か月から年単位でのある程度の家計支出を予算だてし、ある程度その予算計画に従った支出をしていけるには、相当僅度の社会的経験やスキルが必要である。また、病状や人間関係の変動から、予定外の支出をしてしまう場合や、旅行、習い事やその人ならではの興味関心から、必要な支出を生じる場合もある。日常生活における家計支出に関するかかわりは、精神障害のあるへの社会経験やスキルを補いながら、本人らしい生活のあり方を対話しつつ支援していく必要がある。
☆23 成年後見制度を用いなくとも、不動産に関しては、その処分に通常必要とされる実印や印鑑登録カード等を福祉サーピス利用援助事業などによって保管し、高額の定期預金なども通帳を保管しておくこと(保管機関の監督システムが槻能していることが前提であるが)で、他人から騙されたり、病状に影響されるなどして財産を軽々に処分してしまうことを事実上防ぐことは可能である。孤立化している人に相談できる人を増やし、行動を起こす前に相談し熟慮する機会を持たせることができれば、充実した自己決定ができるのであり、重要な財産についての書類などを第三者が保管しておき、精神障害のある人がそれを必要とする場合(処分しようとする場合)に、その必要な理由を尋ね、相談にのることで、本人が熟慮し自ら行動に出ることの当否を考える機会を持つことで、大部分の問題は解決できると考えられる。」

III 保護者制度
1 保護者制度の概要

 「精神保健福祉法は、精神障害のある人についてその病状や障害の程度を区別せずに保護者を付することとしており(20条1項)、また、「後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者」を保護者となるべき者と定めている。保護者の基本的な任務として現行法は、医師の診断に協力するとともにその指示に従って精神障害のある人に治療を受けさせる義務、その財産上の利益を守る義務(22条)、医療保護入院(33条)およぴ移送(34条)を行う場合の同意権限、精神医療審査会に対する退院・処遇改善請求申立権(38条の4)などを定めている。また、医療観察法は、同法の審判手続に関して、保護者の意見陳述権(25条2項)、付添人の選任(30条1項)、退院・医療終了の申立権(50条、55条)、抗告等の不服申立権(64条2項)などを定めている。
 保護者制度は精神病者監護法(1900年)における監護義務者制度にその淵源を有する。同法は現行法と同様に疾病の種類や程度を区別せずに「精神病者」には監護義務者が付けられるものとし、監護義務者になるべき者として「後見人配偶者四親等内ノ親族又ハ戸主」と定めていた(1条)。監護義務著は、精神病者を監置する権限を有し(2条)、行政庁の許可を得て私宅監置を行うことが定められていた(3条)。精神衛生法(1950年)は、監護義務音制度に代えて保護義務者制度を定めたが、保護義務の主体は後見人、配偶者、扶養義務者であり(20条)、客体は一括して「精神神障害者」とされた、また、保護義務のの基本的な内容としては、治療を受けさせる義務、自傷他害防止監督義務、財産上の利益保護義務が定められ(22条1項)、同意入院における(医療保護入院の前身)における同意権限が規定された(33条)。精神病者監護云の廃止に仲って私宅監置制度は廃止されたが、保護義務音に保護拘束権限を定め(43条)、保護拘△285 束を受けている者が行方不明になったときは、すみやかに都道府県知事およ最寄りの警察署長に届け出て探索を求める義務まで定められていた(47条)。保護拘束制度は1965年改正で廃止されたが、その後、1993年改正においいて「保護義務者」の名称が「保護者」と改められただけで長く保護義務の内容に手が加えられなかった。
 しかし、保護者制度には後述するさまざまな問題があり、1999年法改正においては、保護者の自傷他害防止監督義務は削除され、治療を受けさせる義務、財産上の利益保護義務、医師の指示に従う義務については精神障害のある人に自発的治療が成立している場合には、保護の対象から除外されるなどの法改正なされた。保護者制度は社会防衛的色彩の濃い監護義務者制度から出発したが、徐々にその保安的、社会防衛的色彩を払拭して医療的パターナリズムに奉仕する方向にシフトし、さらに、患者本人の権限を補充する権利擁護者的、アドヴォカシー的な役割へと変化してきている(表4-1参照)。」

2 保護者制度の問題点と改善のあり方
(1) 問題点

 「保護者制度の問題点は、第1に患者本人の自己決定権の観点から見ると、本人の能力の状態とは無関係に保護者がつけられる点(精神保健福祉法20条1項)に問題がある。この点は1999年法改正において自発的治療が成立している場合には、保護者の治療を受けさせる義務などが免除されるとしたこと(22条1頁)で一定の進展が見られたが、文理上は「第22条の4第2項に規定する任意入院者及び病院又は診療所に入院しないで行われる精神障害の医療を継続して受けている者を除く」とするもので、現に自発的な治療を継続している場合が県定されており、治療拒絶や代替的治療の選択は文理上は含まれていない。この条項は、患者本人に判断能力が保たれており、自発的治療の対象となる患音の場合には患者本人の自己決定が優先され、保護者の治療を受けさせる義務は発動すぺきではないという趣旨であると理解することはできるので、解釈上は△287 現に治療を継続していなくても判断能力が保たれており、受診すれば通院か任意入院にとどまる場合も含まれると解してよいとは考えられる。しかし、そうすると、判断能力の存否、自発的治療の適応の可否を誰がどのような方法で判定するかが問題になり、結局、このような制度は判断能力の存否に疑問を生じる場合に手続的に極めて不完全な制度といわなければならない。
 第2に、真に支援が必要な状態にある精神障害のある人については、親族共同体を基本的な被選出母体とする保護者制度では必要な支援を与える基盤として不十分であり不適切となることも少なくない。経済状態や居住状態からら、保護音が本人の利益(例:家族のもとへの退院やアパート等での生活)と保護者自身と家族の利益(例:平穏な生活を続けたい、生活支援に限界がある)の間で相反する利益関係に立たされることは稀ではない。また、生活歴の中で家族間に葛藤関係がある場合もあり、本人の意思が親子や兄弟という伝統的な家族関係の中で不当な影響なく表明できるか疑問のある場合もある。こうした状況は保護者と本人との緊張関係を高め、表出感情(Expressed Emotion : EE)を高めて、再発危険要因を作り出してしまう危険性があり、TJの観点からも制度改が必要である。さらに、現実に保護者を担っている人の状態を見ると、65歳以上の者が60%以上で、70歳を超えている者も3割を超えている。すでに定年を過ぎ、家族の年収は300万円以下の者が6割以上である。保護者を担っている者自身の健康状態態は同年齢の一般人に比べて良好ではないと報告されている。現行の保護者制度は不必要に広汎であるが、逆に、極めて病七状が重篤で、本人の権利擁護や医療アクセスを確保する必要性が高い場合には、こうした疲弊した保護者の状態ではその任務を現実には果たすことができない。
 第3に、障害音権利条約12条4によれぼ、「法的能力の行使に関連するすべての措置には濫用を防止するための適切かつ効果的な保護が含まれることを確保」しなければならないとし、そのためそうした措置は「可能な限り最も短い期間に適用する」、「権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関周による定期的な審査に服することを確保する」こととされている。これに対して保護者制度には終期の定めがなく、「精神障害者」でなくなれば保護者は不要になるとは考えちJれるが、慢性疾患の一種である精神障害がなくなるという事態は一般的ではないので、保護者は終身的地位ということになるのが常態となってしまう。現行法の保護音制度は保護者になる親族にとっても、保護者を付さ△288 れる精神障害のある人にとっても、実体面では不必要に広汎であり、手続面では適正を欠いた制度になっている。
 最後に、保護者制度には社会防衛的役割、パターナリズムに基づく役割、本人の権利擁護者としての役割などが混在し(表4-1)、一方の役割は他方の役割の桎梏になることも生じうる(例:医師の指示に従って治療を受けさせる義務と医療保護入院の同意を拒否することなど)。一人の者が両立しにくい複数の目的や役割を同時に担わされることは、それぞれの役割が相互にその効果を減殺したり、恣意的な運用を生む温床になる。こうした点では保護者の役割を複数の制度に分化していく必要がある。

(2) 保護者制度改善のあり方
 以上の諸点からすると保護者制度を廃止したうえで、必要な制度を再構築することが必要である。その要になるのは、患者の権利擁護制度である☆12。もっとも、保護者制度には精神障害のある人に医療アクセスを支援する側面も認められる。しかし、これは地域保健福祉を充実することで対応すべき課題であり、精神医療を特別視するのではなく可能な限り一般医療と同様な受診形態を迫及していくべきである。
 もともと受診に最も困難を生じやすい初診においては、そもそも受診前に精神障害のあることや判断能力が障害されていることは判定できないので、保護音や成年後見人などを付して受診へのアクセスを保障する方法は前後関係が逆する結果になってしまい利用できない。治療中断の場合はそのような問題はないが、当初の受診が支援できる体制ができていれば、治療中断の際の治療継続に向けた支援も行えるはずであり、保護者や成年後見人が一定の役割を果たすとしても、むしろ重要なのは何時でも安心して受診できる地域保健福祉制度墓備されていることである。」

「☆12 弁護士会による精神医療当番弁護士制度、大阪精神医療人権センターのオンブズマン制度などを全国的に制度化すべきであろう。患者の適切な手続的処遇を受ける権利(憲法13)かちすれぼ、法が強制処遇を定める場合に有効に自己の権利を主張できるために権利擁護者の支援を受けることが必須である。刑事手続はその典型である(憲法37条)が、91年国連原則1−6は、「能力が争われている者は、弁護人によって代理される権利がある。能力が争われている者が自らそのような代理人を選任しない場△296 合には、その者が支払うに足る財産がない場合には費用を支払わずに代理人を選任できなければならない」とし、原則18−1は「患者は、いかなる不服申立手続や異議申立手続における代理を含めて患者自身を代理する弁護人を選ぴ指名する権利を有する。もし患者がこのようなサービスを確保できないのなら支払う十分な財産がない限り弁護人を無料で利用できるものとする」としている。現行法では医療観察法が当初審判(その上訴を含む)に必要的付添人を定めるのみ(35条、67条、70条2項)である。精神保建福祉法上の処遇改善・退院請求手続の公費代理人制度、医療観察法上の当初審判以外の審判の公費付添人および処遇改善請求手続(95条、96条)の公費代理人制度が必要である。」

3 保護者、成年後見人、親族の損害賠償責任
(1) 責任弁識能力(民法713条)
(2) 保護者(精神保健福祉法22条)と法定監督義務者(民法714条)
(3) 成年後見人と法定監督義務者
(4) 親族、成年後見人と不法行為責任(民法709条)
(5) 被害者保護

第2章 精神保健福祉法と医療観察法の人権擁護システム
I 精神障害のある人の権利擁護(アドヴォカシー)の必要性

 「精神障害のある人と医療・福祉関係者の間には大きなカの落差があり、そのままでは対等な関係をつくることはできない。そこで、精神障害のある人の希望や主張を支え、対等な立場で希望や主張を交わし、本人の権利が守られ、その意思や希望が医療福祉サーピス供給関係係に反映されるようにするために、精神障害のある人の立場に立ってその権利を擁護し支援する権利擁護者が必要になる。
 また、精神障害のある人々は社会の中で差別や排除を受け脆弱な地位に置かれる傾向が高いため、その権利が無視され踏み□られてしまいがちである。そのため、医療福祉サービス供給関係にとどまらず、さまざまな社会活動の場面で精神障害のある人の立場に立った権利擁護活動が必要になる。
 こうした権利擁護活動としては、個々の精神障害のある人の権利擁護としての活動(個別的アドヴォカシー)と権利侵害を起こしやすい社会構造や法制度そのものの改善を進める制度的な権利擁護活動(システムアドヴォカシー)の両面の活動が必要である☆03。△301」

「☆03 歴史的には精神医療における精神障害のある人の個別的な問題について、調査・解決を行ってきた活動を個別的アドヴォカシー(Individual Advocacy)といい、これにe対して@精神医療施設に対する定期的モニタリング、A精神医療福祉政策の検証と提言、B患者権利擁護団体のための相談や政策立案、C制度改革のための他の権利擁護団体との連携、D法制度の調査・検討、Eセルフアドヴォカシー能力向上のための教育アウトリーチ、F精神障害のある人の立場にたった社会公益活動などをシステムアドヴォカシー(System Advocacy)という(Patient's Rights Advocacy Manual 1994; Office of Patient's Rights Protection and Advocacy, Inc)。」([302])

II 精神保健福祉法

 「精神保健福祉法の権利擁護制度は、医療機関自身による自主的監督機構と、行政による監督機構、患者側の訴えによる救済機構に大別できる。
 自主的監督機構としては精神保健指定医(以下「指定医」という)の制度(4章1節)を設け、指定医に精神医学的診断および精神保健福祉法等の法律知識・研修させ(19条の3)、強制入院などの重要な決定については指定医の診断・前提にすること(19条の4)で、法を遵守した適正な医療が行われることを確保しようとしている。また、指定医は特に入院患者の処遇が法に違反しあるいは著しく適当でないと認めるときは、管理者において改善措置がとられるようにその旨を当該精神科病院の管理者に報告等をすることに努めるべきものとされている(37条の2)。
 行政による監督機構としては、第1は、措置入院者、医療保護入院音、およ△302 び一定の条件の任意入院音に関する定期病状報告による入院の必要性の審査制登である(38条の2)。都道府県知事は定期報告をもとに精神医療審査会に通知して当該入院中の者について入院の必要性についての審査を求め(38条の3第1項)、その審査の結果に基づき、入院が必要でないと認められた者を退祐せなければならない(同条4項)。
 しかし、このような制度は、91年国連原則の求める手続保障と比べると不備が多い(表4-2)。入院制度と審査の構造的な関係では、精神保健福祉法では最初のレヴューは措置入院の場合入院から3か月目になってしまうのに対して、91年国連原則では最初の入院は観察または初期治療のため審査結果が出らまでの短い期間行われるべきものとし、最初の審査は入院等の決定後可及的速やかになされ簡易迅速な手続で行われることを求めている。措置入院の実態においても入院後3か月以内に半数以上の者が退院している現状からみると(本書192頁注(32)参照)、最初の審査が入院から3か月後というのは遅まきにすぎる。また、6か月経過後の定期審査についても審査密度を高める工夫が必要である(本書192頁注(33)参照)。医療保護入院の審査についても同様の問題がある(本書164頁参照)。」

 「第2は、報告徴収・改善命令制度である。厚生労働大臣または都道府県知重は、必要があると認めるときは、精神科病院の管理者に対し、当該精神科病院に入院中の者の症状・処遇に関して報告を求め、あるいは、診療録等の提出・提示を命じ、立入検査を行い、関係者への質問、入院中の者の診察を行うことができる(38条の6第1項)。また、厚生労働大臣または都道府県知事は、必要を認めるときは、精神保健福祉法による入院に必要な手続に関し、精神科病院管理者、入院者またはその保護者等に報告あるいは帳簿書類の提出・提示を命じることができる(同条2項)。必要な場合には改善命令等を発し(38条の7)、指定医や指定病院の取消(19条の2、19条の9)などを行う。また、医療法に茎づく監督とりわけ病院開設許可の取消し(医療法4章3節)なども行政的監虐を実効化する機能を果たすものである。
 患音側の訴えによる救済機構としては、精神保健福祉法に基づく退院請求・処遇改善請求がある。精神科病院に入院中の者またはその保護者は、都道府県事に対し退院請求・処遇改善請求をすることができる(38条の4)。都道府県知事はその請求を受けたときは、当該請求の内容を精神医療審査会に通知して入院の必要があるかどうかについて審査を求めなけれぱならない(38条の5第1項)。精神医療審査会は、特に必要がないと認める場合以外は、請求者および当該審査に係る入院中の者が入院している精神科病院の管理者の意見聴取をし(同条3項)、また、必要があると認めるときは、当該入院者の同意を得て委員に診察させ、またはその精神科病院の管理者等に対して報告を求め、診療記録等の提出を命じ、あるいは、出頭を命じて審問することができる(同条4項)。精神医療番査会は審査結果を都道府県知事に通知し(同条2項)、都道府県知事は審査の結果に基づき入院が必要でないと認められた者を退院、あるいは、処遇の改善のために必要な措置を命じなければならない(同条5項)。また、都道府県知事は申請者に対して精神医療審査会の審査結果およびそれに基△306 づいてとった措置を通知しなければならない(同条6項)。しかし、精神医療審査会における退院、処遇改善の現状では認容率は1%に満たない。これは精神医療審査会の機能が十分に発揮されていないことを示唆するものである。現行法では弁護人を公費で選任できることとはされておらず、審査手続における患者・弁護人の権利保障も不十分で、その立証活動はほとんど審査会の職権を促す程度のものでしかない。これが精神医療審査会の機能不全の重要な要因の一つと考えられる。これは91年国連原則の水準からも許されない。弁護人を代理人として患音の立場から手続を活性化すること、精神医療審査会の委員構成をより非医療委員に傾斜させること、不服申立ての機会を保障するとともに地域的格差が大きいとされる精神医療審査会の判断を統一化していくために上級審査機関を設置することなどの改善が必要とされている。
 なお、精神保健福祉法によるものではないが、行政不服審査法に基づく審査清求および行政事件訴訟法に基づく取消訴訟によって措置入院に対する不服申立てを行うことができ、また、国家賠償請求等の損害賠償請求訴訟を求めることも可能である。しかし、行政不服審査法による不服申立ての事例は実例に乏しく、司法救済については、裁判所は「法29条所定の要件の存否については、。それが専門医学上の判断を前提とするものであることからすると、法に定めた手続が実質的こ履践されている以上、特段の事情のない限り、直接診察した精神衛生鑑定医〔著者注:旧法の名称〕の診断を尊重すべきものと解するのが相当」として消極主義の司法判断を基調としているので、精神医療審査会の判断枠組みのほうがむしろ医療判断に立ち入れることになり、司法権は人権救済の最後の砦の役割として不十分な状態にとどまっている。」

III 医療観察法
(1) 処遇改善請求
(2) 入退院および医療終了
第3章 その他の権利擁護制度
I モニタリング、オンブズパーソン

 「精神障害のある人の権利擁護は、単に権利侵害を受けた本人からの申し出や相談を待っているだけでは不十分である。本人が精神障害のために権利擁護音に対して権利侵害の事実を適切に伝えることが困難であったり、施設内の状況や医療福祉スタッフとの関係で権利侵害の事実を積極的に伝えることが困難な場合も少なくない。そこで、権利擁護団体等が外部から入院患者の状況や福祉サービスの利用の状況をモニターすることが必要である。精神医療審査会の定期報告等の審査(精神保健福祉法38条の3)、厚生労働大臣または都道府具知事の報告聴取(38条の6)などもモニタリングの機能を有するが、権利擁護団体が病院に立ち入り院内の状況を観察し患者の相談を受ける体制を作ったり、さらに進んで中立性のある審沓査体(オンブズパーソン)を設置して具体的な提言や勧告を行うことの有効性も報告されている。オンブズパーソンは、精神医療審査会に対する処遇改善請求などでは掬い上げられない、全体的な病院内の環境の改善や服薬管理や入浴などについての患者に対す全体的な管理方法の病院ならでは特殊性を一般社会の通常の感覚に近づけていく機能を果たしているといえる。また、外部の権利擁護者の立ち入りや患音からの相談を受ける体制づくりは、結果的には医療者と患者の間の信頼関係を高めたり無用な葛藤を軽減する効果も報告されており、それ自体に治療的(Therapeutic)な効果がある点で有身益でもある。△314」

II 法律扶助制度
III 障害のある人の地域人権審査機関

第5編 刑事事件と精神障害法

第1章 責任能力
I 刑事責任と社会意識
II 精神障害法と刑事責任能力
1 精神障害法の基本原理と刑事責任能力
(1) 刑事責任能力の人権法および刑法上の位置づけ
(2) 責任能力判断における恣意性の排除
(3) 最高裁決定の影響
(4) 責任能力の証明の程度と挙証責任
2 障害者権利条約と期待可能性論
3 医療観察法と責任主義
III 鑑定と黙秘権等の告知
第2章 訴訟能力
I 訴訟能力の意義および根拠
II 訴訟能力の基準
III 訴訟能力を欠く場合の対応
1 訴訟係属
2 訴訟能力を欠く被告人の拘禁と治療
第3章 刑事収容施設内処遇と社会内処遇における精神医療福祉
I 刑事収容施設における精神医療福祉
II 社会内処遇と精神保健福祉

引用・参考文献
資料
精神障害者の保護及びメンタルヘルスケア改善のための原則(抜粋)
障害者権利条約(抜粋)
国連被拘禁者人権原則(抜粋)
事項索引
判例索引

■書評・紹介・言及

◆立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ※ m.

◆2015/10/14 https://twitter.com/ShinyaTateiwa/status/65418525756284928
0  「明後日16日、司会する:http://www.arsvi.com/ts/20151016.htm ということで、池原毅和『精神障害法』からの引用はじめ:http://www.arsvi.com/b2010/1107iy.htm まだ「成年後見」のところには行かず。「自己決定支援」結構だとして誰が? 当日販売の拙著では第4章で少し」

◆立岩 真也 201312 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社 ※

■誤字

285下6 精神衛生法は(1950年)は → 精神衛生法(1950年)は


*更新:矢野 亮立岩 真也
UP: 20131008 REV: 20131124, 20151013, 14, 15
池原 毅和  ◇精神障害/精神医療  ◇施設/脱施設  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
 
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